新しい何かを作り出すとき、古いものは壊さなければならない。

・・・だって邪魔だから






Once Again Re-start

第二十一話 〔終戦〕

presented by 睦月様







RUOOOO!!

低く唸るような声が漏れる。
それは血に酔った獣が己を取り戻す儀式の様でもあり、何かを捜し求める旅人のため息の様でもあった。
だがそれはすべて”そいつ”・・・エヴァンゲリオン初号機を見て、声を聞いた者たちの感想だ。

本心を確かめることの出来るものは存在しない。

ズシャ!!

初号機が右の手を離すと、持っていたものが地面に落ちて水っぽい音を立てる。
同時に、飛び散った赤いものが周囲の大地を何度目かに赤く染める。
・・・血の臭いとともに・・・

地面に落ちたものは腕だった。
まだかろうじて残っている白い装甲に残る表示はNo,10・・・量産型エヴァンゲリオン、その9号機。

紫の装甲を持つ一本角の鬼・・・エヴァンゲリオン初号機は、あらためて周囲を見渡した。
そこにあるのは・・・いや、周囲に飛び散っている肉片のかけらはすべて量産型エヴァンゲリオンのもの、しかも肉片の量から一体だけではない。
この支部では、三機の量産型エヴァンゲリオンが建造中だったのだ。

しかし、いかに三機そろえようが中身が伴ってはいなかった。
S2機関もダミープラグも未完成な状態の量産機は中国支部にあったものと大差はなかったのだ。

結果・・・三機あることで多少の時間は持った。
だが、その本当にわずかな時間は、費やした建造費や時間を考えるととてもじゃないがつりあうものではない。
そのかすかな時間を持って量産機は破壊され、周囲に飛び散っている。
一体作るのに国がいくつも傾くといわれるエヴァンゲリオンもこうなってしまうとただの肉の塊だ。
肉屋に並んでいる肉のほうが食べられる分ましだろう。

GUOOOOO!!!!

己の勝利を宣言するかのように・・・初号機が啼いた。

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「本国の軍隊は何をしているんだ!!それと国連軍は!?」

ネルフの制服を着た男がつばを撒き散らしながら叫んだ。
彼の目の前にあるメインモニターには破壊された施設と元量産型エヴァンゲリオン三機分の残骸が散乱している様子が映っている。
男の顔色が悪い理由の大半は量産機が倒される・・・いや、分解される一部始終を見たせいだろう。

まあ、それは男だけでなくこの場にいるオペレーター全員に共通したことだが。

「こ、国連からも軍からも応答ありません!!」
「何故だ!!通信は届いているはずだ!!」

その通信を入れたのは戦闘の・・・正確には惨殺の行われる前だ。
それなのに近くの町に駐留しているはずの国連の軍からも、この国の政府からも救援どころか返答さえ来ない。

「も、もしかして俺達・・・見捨てられた?」

誰かが発した言葉にそれを聞いた全員が硬直する。

確かに、目の前のモニターに映る初号機の戦闘力は圧倒的だ。
ロンギヌスコピーを持たせて出した量産機三機がまったく手も足も出なかった。
もし量産機をダミープラグを使うことを前提にするのではなく、有人機としてチルドレンを探してきて訓練させていたとしてもあの”バケモノ”相手に勝てたとは思えない。

自分達が逆の立場だったらあの紫の鬼の相手なんて絶対にしたくはない。
だから自分達が見捨てられたという事実は頭の中に残った冷静な部分が納得する。
同時に、残りの部分はすぐに恐慌状態に陥った。

「い、いやだ!!」
「死にたくない!!」

命がかかった状況になった人間はこの上なく素直になる。
自殺志願者か人生を達観したレアな人間でない限り、死にたくないと叫びながら逃げ出すのは自然なことだ。

案の定、我先に出口に殺到しようとするが・・・

GUUUUUAAAAAA!!

初号機の咆哮にその足がぴたりと止まる。
恐る恐る背後のモニターを振り返ると、それを見た全員が目に飛び込んできたものに心を奪われた。

RUOOOO!!!

咆哮を上げ続ける初号機の背中から翼が生えていた。
半透明に輝く光の翼だ。
その数は十二枚・・・初号機を中心に周囲に展開しているその姿は、宗教画に描かれる超越者のようだった。

空中に浮かんだ初号機は十二枚の羽を広げて空に飛び去っていく。
やがてその姿は雲に隠れ、見えなくなった。

「・・・助かった・・・のか?」

そんな言葉が漏れたのは初号機が消えてから大分時間が立ってからだった。
全員がはっとし、全身に力を張り詰めていてこわばった体を自覚した。
あの初号機の圧倒的な力と存在感に金縛りにあっていたのだ。

「し、初号機・・・かなりの速度で遠ざかっていきます。・・・レーダーの圏内から外れました。対象ロスト・・・」
「被害状況は?」
「怪我人が数人いますが、死亡した人間はいません。どうやら・・・人のいない場所を狙って破壊活動を行ったようです。」

オペレーターの報告に全員が呆然とする。
それはあの初号機が自分達のことを考えながら支部を破壊したということ。
決して錯乱したり、暴走した結果ではなく、明確な意思・・・量産型エヴァンゲリオンの破壊を目的とした襲撃だったことの証明だ。

「一体なんなんだ・・・」

支部長の言葉はこの場にいる全員の総意だった。
今日一日で長年の努力と時間をかけた量産機は味方のはずの初号機に駆逐され、それが終われば自分達を含めたほかのすべては眼中にないといわんばかりに、さっさと初号機は去っていった。
訳が分からない。

「日本のネルフ本部に回線をつなげ!何がどうなっているのかあのひげ親父にじっくり説明させてやる!!」

ズン!!

「「「「な!!!」」」」

いきなり発令所の出入り口の扉が爆発音と共に吹き飛んだ。
初号機が飛び去って完全に気が抜けていたところにこの爆発、その目の前で発令所に入ってきたのは武装した集団だ。
スタッフ全員が混乱と唖然のコンボを食らって思考が停止している。
次々に起こるとんでもない状況についていけない。

しかし、突入してきた連中はそんなことにお構い無しだ。
支部長を初め、発令所にいた者たちはあっさり拘束されて動きを封じられる。

「だ、誰だ!!テロリストか!?」

関節を極められ、身動きの出来ないオペレーターの一人が怒鳴る。
他に出来ることはない。

「悪いが、俺達はテロリストじゃない。」

オペレーターに答えた中年の男は無精ひげの生えた口元に男臭い笑みを浮かべて皮肉げに笑った。
その背中では男の癖にポニーテールにしている髪が揺れる。

「だったら、お前たちはなんなんだ!!」
「ご同業さ」
「何!?」
「ネルフ本部、諜報部所属の加持リョウジだ。」

それを聞いた全員が驚きの声を上げる。
上げなかったのは加持と一緒に発令所に乗り込んできた連中だけだ。

「ああ、ちなみに彼らはこの国の軍隊の人間、今回はちょっと協力してもらったんだ。」

職員達の混乱が加速した。
味方のはずのエヴァンゲリオン初号機がいきなり襲来したかと思ったら、虎の子の量産機を殲滅。
初号機が飛び去って、理由は分からないが助かったらしいと一息つくまもなく、即座に発令所が占拠された。
しかもやったのは自分達の上位、日本の本部に所属しているエージェント・・・しかもこの国の軍隊付だ。

「さて、君らにいっておくことがある。君らは国家どころか人類に対する背信の嫌疑がかかっている。」

加持の言葉を頭が理解するまで数秒かかった。

一体、自分達に何が起こったのか?
そして何故自分達の国の軍隊がやってきたのか?
何もかもが理解できない。

いつの間に自分達は人類を敵に回したのだろう?
サードインパクトを防ぎ、人類の未来のためにネルフに入ったはずだ。
それなのに・・・人類に対する背信行為?

ゼーレ殲滅は完璧に秘密裏に行われた。
そのため、一般の職員はもちろん幹部級の人間でも老人達の死を知らないのだ。

「悪いとは思っているんだが、これも仕事でね、そんなに硬くなることはない。取調べのときにちゃんと知っていることを話してくれればね。」

いつものように陽気な口調で加持がおどけるが返事はない。
皆、それどころじゃないほどに混乱している。

加持はため息をつくとモニターを見た。
そこにはシンジが飛び去っていった青い空だけが映っている。

「ちっ・・・追いつけなかったか・・・つれないなシンジ君、もう少し待ってくれてもいいだろうに・・・」

軽口を叩く加持だが、その表情は真剣そのものだ。

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「また、シンジの初号機が現われたようだな」

シンの声が司令執務室に響く。
部屋の中には十人を超える人間がいるのだが、誰も何も話さず、身じろぎもしないためにその声は実際より大きく聞こえた。

この部屋にいるのは未来の記憶を持つメンバーの全員、そしてシンともう一人・・・シンの斜め後ろに立っている少年
見た目はシンたちと同じくらいの中学生に見える。
亜麻色の短髪で顔立ちはアジア系、アルビノの赤目という特徴を持つ少年の名前はアル、元アラエルだ。
弓なりになった細い眼がナチュラルに笑っているように見える。

ホワホワとした笑顔で「大変ですね~」とか言っているあたり本当に笑っているようだが・・・天然系かもしれない。

「量産型エヴァンゲリオン10、11、12の三機が破壊された。」
「やはり目的は量産機か?」

シンの言うとおりだった。
ゼルエル戦の途中で飛び去った初号機は中国支部に現れ、その施設を蹂躙し、建造されていた量産型エヴァンゲリオンを完全に破壊した。
それが終わると他のものには目もくれず、さっさと中国支部を後にしてレーダーからロスト。

次に初号機が発見されたのはその数日後、ドイツ支部でだった。
中国支部の次にドイツに行ったのはおそらく地理的に近かったためだ。
そこで初号機・・・いや、あえてシンジというべきだろう。

シンジは中国支部でやったことを再現した。
すなわち、適当に支部の施設を破壊し、支部の人間が痺れを切らして量産機を出させる。
そして、ダミープラグもS2機関も不完全な量産機を完全に破壊した・・・再生不可能なほど完膚なきまで・・・後に残されたのは、量産機の血で真っ赤に染まった支部と、引き裂かれた量産機の残骸のみ、明らかに量産機を目的とした手口だ。
なんとか止めようと、支部の人間が初号機に通信を送ったが、シンジはまったく返事をしなかったらしい。

その後、シンジは近い場所から順に支部を襲撃して量産機を破壊して回っている。
今回襲撃された支部など地球の真裏だ。

「加持君が支部を押さえたときには、初号機はすでに飛び去った後だったらしい。」

ゲンドウとシンの指示でゼーレメンバーの居場所の特定とそれをリークした加持だが、日本に帰る途中に今度はシンジを追いかけるという指令を受けた。
一仕事終えた後だが、海外にいるということと信用できるという点から彼以上の適任もいない。
ミサトに会えなくて寂しがっているかは微妙だ・・・何せあの加持だから。

「・・・こちらからシンジを見つけられないか?」
「認識遮断のフィールドを使っているとしたら我々でも至近に行かなければわからんだろう。」

初号機はアレだけの巨体でありながら、支部を破壊するとき以外では誰にも発見されていない。
おそらくは以前シンが4号機でやったのと同じ方法で移動しているのだろう。
認識阻害のフィールドを展開しながら移動しているのだ。

フィールドの力を理解し、自らの力でフィールドを展開できるシンジならば不可能ではない。

「シンジの目的はなんだ?何故量産機を?」
「それについては予想できる。」
「本当か?」
「ああ、実にあいつらしい。」

シンの顔に苦笑が浮かぶ。
今回のシンジの行動で以前から気になっていた”シンジの願い”というやつが大体見えてきた。

「内罰的で・・・本当に苦労性なガキだな・・・一人でやるつもりか・・・」
「どういうこと?」
「記憶を得た今のシンジが一番恐れるものはなんだ?」

それを聞いた全員が考える。

今のシンジは前の世界の記憶を持っている。
しかも何故か魂の総量が使徒と同格になっていて生身でもフィールドの展開が可能だ。
さらに初号機の中にはリリスのS2機関まである。

はっきり言って量産機が束になってかかってこようが敵ではない。
それほど今の初号機は手がつけられない存在だ。

・・・それなのにシンジが恐れるものがまだ在る?

「あいつは多分、こう考えているはずだ。『あの赤い世界には戻りたくない』と・・・」
「「「「「あ・・・」」」」」」

なんとなく全員が納得した。
今のシンジが恐れるものはあの赤い世界だ。
生きとし生けるものすべてがLCLに溶け込んだ赤い世界に一人残されたシンジ・・・あの孤独を恐れる気持ちはよくわかる。
自分達はシンジの記憶を見たのだから。

「だからシンジは量産機を破壊して・・・」
「ゼーレがいなくなったとしても、サードインパクトが起こせないわけじゃないからな、どこぞのアホが同じ事を考えないとも限らん、それが低かろうとあいつは可能性の芽を摘むつもりだろうよ。」

この世界はシンとシンジの介入によってかなり歴史が変わってしまっている。
これから先に起こることは全員にとって未知だ。
誰かがあの老人達の意思をついでサードインパクトを起こす可能性は皆無ではない。

シンの意見にゲンドウが頷いた。

「私も、量産機をほうっておくつもりはなかった。アレを野放しにしておいて、平和利用されるとは思えんからな」

ゲンドウ達も同じ事を考えたからこそ、各国の手を借りて、加持に各支部の占拠を命じたのだ。
ゼーレの残党に好きにさせないように、最終的には量産機のほうも政治的な取引で処分するつもりだった。

兵器の存在理由は破壊にある。
ふきとばし、壊し、殺すためのものだ。
そしてエヴァンゲリオンのそれは他の兵器とは比べ物にならない。

データなどは消去するなり破壊するなり出来るが、問題はすでに建造されている分の量産機だ。
すでに完成間近な物まであるのだから、ほうっておけば軍事利用されるのは目に見えている。

ダミープラグは使えないだろうが、それなら肉親をコアに取り込ませてチルドレンを作ればいいだけのことだ。
そうなれば、また悲劇が繰り返される。

「だからシンジが量産機を破壊して回るというのならそれはこちらとしても願ったりかなったりだが・・・」

もともと建造費に天文学的な金額が必要な代物なので、今存在してる分を破壊すれば再び作るのは難しいだろう。 
だからこそ、現存している分は絶対に見過ごすことは出来ない。
それこそシンジがやったように徹底的に破壊する必要がある。

「父さん?」
「何だ、アル?」
「それだけでしょうか?」
「・・・何?」

アルの言葉にシンの頭上に?マークが浮かんだ。
相変わらずアルは笑っている・・・いや、案外真剣な顔をしているのかもしれないが、やはり糸目で笑っているように見える。

「それだけなら素直に協力をしてくれと言って来そうなものです。」
「確かにな・・・シンジはなぜか一人でやろうとしている。そこに何か意味があるといいたいのか?」
「はい」

確かにおかしいとシンは思い直す。
考えるまでもなく、シンジがやっていることは必要なことだ。
シンジが助けてくれと一言言えばシンもゲンドウも協力するだろう。
反対意見など出るはずがない・・・シンジが一人でやる必要はどこにもないのだ。

考え込んだシンを見て、アルは相変わらずニコニコ笑って頷いていた。
どうやら副官とか、誰かを補佐する才能があるようだ。
あるいは影の黒幕タイプか?

しかし、今の問題はシンジだ。
シンが予想したシンジの目的は間違っていないと思う。
自信はある・・・だが、同時にアルの言うとおり何か引っかかるものを感じた。

「何か見落としている。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、そういうことか・・・」
「そういうことです。」

しばらく考えていたシンだが得心が行ったのか手をぽんと叩いた。
アルも頷いて肯定している。
どうやら二人は同じ結論に到達したようだ。

「?・・・どうしたの?」
「いやいやいや、喜べ惣流・アスカ・ラングレー、お前の言うとおりシンジは大ばか者だ。」
「あんたが何言っているのかわかんないわよ!!シンジがどうしたって言うのよ!?」

アスカの怒鳴り声も気にならないらしく、シンとアルはくすくす笑っていた。

「安心しろ、シンジはここに帰ってくる。」
「え?」
「ここにはロンギヌスの槍もリリスの体もあるからな、それをシンジが見逃すはずがあるまい?断言してもいいぞ、他の支部の量産機を殲滅したシンジはここに戻ってくるだろう。」

シンジがあの赤い世界を恐れ、量産機を破壊しているとしたら、シンジは量産機を破壊しながら地球を一周して、最後はこのネルフ本部に戻ってくるはずだ。

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「次のアルミサエルですべてか・・・いよいよ全員がそろうな・・・」

ゲンドウの執務室を後にしたシンがポツリとつぶやいた。
その後ろにはアルが付いてきている。

「なあ、アル?」
「なんですか?」
「お前はこの世界をどう思う?」
「この世界ですか?」
「深く考えなくていいぞ」

深く考えなくて良いと言いながら、これは結構まじめな質問だ。
だからアルは少し考えた。

「そこら中にリリンがいて、雑多で混沌としていますね・・・でも嫌いじゃないですよ。興味深いと思います。」

シンは苦笑して頷いた。

アルの言うとおりだ。
この世界はどこにでもリリン、人間がいる。
リリンたちは自分達と違って個体が多く、そしてその意思も統一されていない。
さまざまな場所でさまざまな思いを持って生きている。
単一である自分達にはもてない特性だ。

思えばシンがこの世界に戻ってくるきっかけこそがシンジが見せた己を犠牲にする行為だった。
己の命を削ってまで他人の存在を望んだシンジ・・・シンはその思いが知りたくてこの世界にやってきたのだから。

「・・・我は少しでも答えに近づけたのだろうか?」
「・・・・・・しかし、よろしいんですか?」
「何がだ?」
「もし、予想が正しいとしたら・・・」

アルの顔から笑みが消えた。
糸状の目を見開いてシンを見ている。

「彼が最後に目指すものは・・・お父さん・・・あなただ。」
「だろうな」

二人が予想したシンジの願い。
そのためにはシンの存在は避けて通れない代物だ。

「アル、お前は頭がいい。シンジが何を考えているかも分かっているのだろう?」
「・・・彼はおそらく貴方を殺すつもりです。」
「させんさ・・・それで本当に引き返せなくなるのはあいつだ。他の誰でもない。我があのバカを止める。一応あいつの兄だからな・・・」
「はい・・・」

アルが頷いているのを見たシンは満足げに笑った。

「このことは他の誰にも言うなよ。」
「分かっています。・・・でも、大丈夫なのですか?」
「なーに」

シンの顔に別種の笑みが浮かんだ。

「ガキの躾は昔から大人の仕事と決まっている。」
「・・・その姿で大人ですか?」

シンの見た目年齢は現役中学生のものだ。
説得力がない。
しかしそれが曲者なのだ。

見た目は子供、頭脳は大人、性格は大胆不敵、行動は問答無用・・・外見年齢15歳のお父様で使徒は素敵に無敵だ。
この実年齢不詳人物の辞書に遠慮や容赦の文字はない。
侮って接すれば相応以上の報いを受ける(世間一般では過剰防衛だ)大人気ないグランプリ(そんなものがあれば)優勝候補筆頭の彼・・・・・・果たして心配しなければならないのは・・・誰だ?

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「使徒出現!!」

発令所のメインモニターに光る輪の姿のアルミサエルが映った。
17番目のタブリスのカヲルはすでにネルフにいるため、この世界では最後の使者となった第16使徒・・・アルミサエル

「準備はいい!?」
『いつでもいいぞ』

ミサトの言葉に答えたのはモニターの中から見返してくるシンだ。
すでに4号機のエントリープラグの中に入っている。
今回発進するのはシンの乗った4号機のみ、他のエヴァを発進させてアルミサエルの目標が他に移ると面倒なのが理由だ。

「本当に一人で大丈夫?」
『問題ない、必要なものはすでに用意してある。』

そう言ってシンは親指でエントリープラグの背後を指差した。
そこにあるのは最後のレイのクローン体、アルミサエルのために用意したものだ。

「わかったわ、エヴァンゲリオン4号機、発進!!」

ゼーレがいなくなった以上、実力を隠す必要もない。
ミサトの号令と共に、シンとレイのクローン体を乗せた4号機がリニアカタパルトで射出された。

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「待たせたな、アルミサエル?」

4号機の射出された場所は、アルミサイエルの真正面だった。
障害物もないのでお互いがお見合い状態になる。

即座にアルミサエルが円環状の体を解いてひも状の戦闘形態になる。
蛇のように鎌首をもたげたアルミサイエルが一気に襲い掛かってきた。

ズン!!
「ぐ!!」

アルミサエルが4号機の鳩尾に突き刺さる。
痛みにシンがうめいたがそれだけだ。
シンの顔には笑みさえ浮かんでいる。

「ま、こいつの特性上、今までより簡単だったな」

4号機の鳩尾に開いた穴からアルミサエルの全身が4号機の中に吸い込まれていく。
同時に変化が起こった。

外から見えるものじゃない。
エントリープラグ内のレイのクローン体の変化だ。
いったん細胞単位にまで分解され、再び集まるように再構築されていく。

4号機の中に入ってきたアルミサエルの魂を、シンがレイのクローンの体に誘導しているのだ。
劇的ともいえる変化は徐々に収まっていった。
後に残ったのは一人の少女だ。

見た目年齢は中学生くらいだろう。
ちょうどシンと同じくらいに見える。

「アルミサエル、起きろ」

シンの言葉に少女、アルミサエルが目を開く。

「フォフォフォ、ワーターシーハー、バールーターンセージーン」
「・・・てい!!」ズビシ!!
「はう!!」

いきなり懐かしいバルタン星人の物まねを始めたアルミサエルに、シンは思わずチョップで応えた。
おばあちゃんの知恵袋、右斜め45度から打ち下ろす感じで、電化製品がへそを曲げたらこれに限るという感じの一発・・・案の定、アルミサエルの少女の顔に正気が入った。

「・・・次のコーナーは三分クッキング♥」

・・・訂正、別のチャンネルに繋がったようだ。
シンはさらにチョップを入れる。

「あーるーはれたーひーるーさがり」
「次!!」ズビシ!!

「あえて言おう!カスであると!!」
「次!!」ズビシ!!

「ガソリン高すぎっぞコラ!!」
「次!!」ズビシ!!

どうやらチョップ一発でチャンネルが変わっていくらしい。
リモコンがあれば一発なのだが。

「おっす、おらゴ・・・」
「次!!」ズビシ!!

「ここはどこ?私は誰!?」
「次!!」ズビシ!!

「・・・あ」

どうもさっきのはチャンネルが合ったっぽい。
でも後の祭り、行き過ぎたのでもう一周・・・

「はっ!お父さん!?」
「そうだ、パパ、ファーザー、父という意味のお父さんだ。ちなみに体は15歳なので親父とは呼ばないように」
「うん、わかったよお父さん。」
「あと、どこから流れてくるか知らんが妙な電波を受信しないように」
「えーー」
「・・・なぜそこで膨れる?」

目の前で頬をハムスターのように膨らませている少女はかわいい・・・かわいいのだが・・・どうやら電波少女だったらしい。
放っておくとどこまでも進んでいきそうだ・・・走れ電波少女
そのうち歌を作りながら旅して大ヒットしたり、究極の麺ロードを通ってラーメンを作ったり、出来ないことに何日もかけて挑戦したりしそうだ。
ある意味サキよりも手のかかる子かもしれない。

「・・・アルミサエル、お前の名前は今日からルミだ。」
「ルミ?」
「ああ、リリンとしての名前だ。」
「分かりました。」

頷くアルミサエル改め、ルミに満足したシンは発令所に通信をつなぐ。

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『終わったぞ』

メインモニターに映るシンの言葉にゲンドウが頷いた。
その斜め後ろにいる冬月がゲンドウに話しかける。

「終わったな」
「いや・・・ここから始まるのだ。」
「・・・そうだな」

ゲンドウはイスから立ち上がった。
発令所にいる全員がゲンドウに注目する。

「皆・・・今までご苦労だった。」

誰も言葉を発しない。
黙ってゲンドウの言葉を待っている。

「人類は救われた。人類には未来が与えられたのだ。ここまでこれたのは諸君を初め、ネルフスタッフ全員の尽力と援助してくれた各国の支援のおかげだ。ありがとう。」

気がつけばゲンドウだけでなく冬月とユイも頭を下げている。
発令所のスタッフは敬礼でそれに答えた。
頭を上げたゲンドウは皆に向けて口を開く。

「・・・・・・・・・・ネルフ総司令、碇ゲンドウの名において・・・」

一呼吸入れたゲンドウは高らかに宣言した。

「国連非公開組織、ネルフの活動終了と解散を宣言する!!」

ここに、使徒と人の戦いは終わりを告げたのだ。

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数日後・・・

セカンドインパクトによってほぼ更地となった旧東京に人影があった。
それは確かに人影だった。
ただその大きさは人間のものじゃない。

頭部に一本の角を持つ鬼
崩れかけたビルと同じくらいの巨人
太陽の光が銀の装甲に反射する。

その名はエヴァンゲリオン4号機改

「・・・・・・」

エントリープラグの中でシンはじっと待っていた。
待ち人は必ずここに来るはずだ。
先日、最後の量産機が破壊されたという報告があった。

残るは日本・・・

「・・・来たか」

顔を上げるシンと同じように4号機が顔を上げる。

・・・・・・・・いた。

見上げる太陽の中、12枚の羽をその背に生やした紫の鬼が・・・天空から地上を見下ろす神のように・・・ジッと4号機を見下ろしていた。










To be continued...

(2008.08.02 初版)
(2008.08.09 改訂一版)


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