Die Endwelt...

Rel. 1.0(HTML) : 10/7/2005
A.S.G. (Project-N)
原案 : 斎藤 和哉
文章 : 茂州 一宇


 

──── 翼有る者よ、何故、汝は翼を欲す

 我、空を飛ばんとす

 故に、欲す

 

──── 翼有る者よ、何故にその翼を有する

 我、あまねく者達を導かんと

 故に、翼を有す

 

──── 翼有る者よ、汝の翼は何故白い

 我の翼は、光の象徴

 人々に福を与えるための色

 

──── 翼有る者よ、汝の翼は何故漆黒か

 我の翼は、罪の象徴

 我の翼は、不幸の象徴

 故に黒く、我はそれ故に……

 

──── それ故に……?

 

 

 そこで目が覚めた……。

(僕は漆黒の翼を持つ者なのだろうか…?)

 

 そして、ふと思い出した事が有った。

 

 遙かなる宇宙 (そら) へ去って行った初号機の背に見えた翼。

 巨大化して世界を抱える様にして、最期には……その身を崩壊させてしまった綾波の背に見えた翼。

 

(あの翼は……、紅かった……。AT フィールドや LCL の色に似ていた……。あの色は何を意味しているのだろう……?)

 

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 僕は目覚める直前に見ていた夢の事を考えていた。何故あんな夢を今見たのか。既に、サードインパクトが起きて一年は経っているのだ。

 

 僕達は、陸続きや、船ですぐ渡れる範囲の日本中は既に回り尽していた。

 韓国ならば船で渡れない距離ではないが、北海道にも渡っていない現状を考えると、わざわざ渡ってどうするのかと言うのが有った。

 日本国内や、ドイツ近辺の欧州諸国ならば僕かアスカがそれなりに慣れ親しんだ街並に近いから、生活をする上で大きく戸惑う事は無いだろう。だが、大陸に渡り欧州に辿り着く迄の道のりは長い。その長い長い道中、日本程簡単に、車の補修部品や食料が手に入る訳ではないのだ。また、太陽電池による充電に頼っているため、荷物を増やすと一日に進める距離が極端に短くなってしまう。何年も掛けて苦労しながら欧州迄行く意味が有るのかと考えると、“無い”と言う結論になってしまう。

 

 飛行機が使えたら……と言うのを考えた事は有る。小型機であれば訓練すれば僕でも操縦出来るだろう。だが、金属の翼を空に浮べるには、大量の燃料が必要だ。

 そして、その燃料を燃やすためには大量の“酸素”を消費してしまう。

 

 今の世界に酸素を作り出す植物は存在していない。

 例え、酸素濃度が低くなっても僕は死なないだろう。だが、アスカは生きて行けない。

 

 この世界で酸素を作り出すには、水を電気分解する以外、現実的な方法が無くなってしまっている。だが、これはこれで、問題が多い。電力の方は、現在はただ回ってるだけで無駄なものと化している風力発電用の風車や、各地の太陽光発電所を利用すれば良いだろう。だが、電気分解時に発生する水素の可燃性を考えると、気軽に実行出来る事ではない。

 

 それ故に、酸素を使わない太陽光発電を主なエネルギー源として利用している。小型発電機はいざと言う時の補助用。バッテリがローになってしまったら、その地に留まって充電すると言うのを繰返している。これは、それなりに物資が手に入り、穏やかに生活出来る地域しか回っていないからこそ出来る事なのだ。

 

 世界が終ってしまったが故に、車両用リチウムイオンバッテリはいくらでも転がっている。充放電の回数に限界が有るとは言え、今のバッテリチャージャは 100%迄充電させる事は無く、バッテリの寿命を長持させ、高容量を両立出来る 80%充電が基本となっているから、それなりに持たせる事は出来る。

 

 一応、バッテリで飛ぶタイプの飛行機も数少ないながら在るものの、非常に高価かつ個人用の小型機しか存在せず、補修部品の入手が厄介だ。そもそも、日本にはまだ十数機しか無い筈。世界中から集めてきても百数十機しか存在していない。とても気軽に扱えるものではないのだ。

 

 そして、強引な推進力で浮力を作る飛行機と言う物は、きちんと整備しないと、とても危険な物なのだ。僕がそれを習得するだけでも何年も掛かってしまいそうだ。知識を持ってはいても、技術を持っていない。一から習得しなければならないのだが、教えてくれる者はもういない。独学で扱うには余りにも危険を伴う。

 

──── 僕達は、ある意味退屈な日々を過し始めていた

 

 書物を読んだり、映画を見たりするのも良いだろう。だが、僕達は、そんな生活を延々続ける事が出来る様な性格ではなかった。

 アスカは、気弱にはなったものの、やはり外である程度身体を動かす生活が好きな様だ。

 僕は、自分の殻に閉じこもる癖は有ったが、それも今となっては昔の話。サードインパクトで、強引に心の隙間をある程度埋められてしまい、ある意味完成体と言える身体になってしまった今となっては、昔程、自分の殻に閉じこもる事が出来なくなっていた。

 

 そして、僕達二人とも、必要な程度の読書はするものの、活字と言う物と睨めっこするのが好きな訳ではなかった。ずっと映像を眺めているのも長く続くと苦痛だった。

 

(そう考えると、綾波や山岸さんは、こう言う世界でも比較的退屈せずに済むんだろうか……? いや……、彼女達も孤独を求めていた訳じゃ……無い……)

 

 人は、刺激が無い生活を送り続けるのは基本的に辛い……。故に色々な刺激を求めて、活動を行う。その究極の形が、戦争だろうか……。もっとも、戦争の根本は刺激を求めるためのものではなく、生存本能、自己保存本能が知恵と結びつき歪んで、膨張と暴走をした形で現れているものなのだが。

 

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──── 僕達は第二新東京市へやってきていた

 

 人工物に溢れているが故、余り過しやすい街ではないが、首都だった事もあり、この街の政府や軍関連の施設には物資が豊富だ。車の本格的な整備はまだ一度もしていないから、この街で一度徹底的にしておく方が良いだろうし、定期的な整備も必要だろう。新しい車はもう作られていないし、旅をし易い様、今の車の内装にはかなり手を入れているので、この車をベースにパーツを交換すると言うのが現実的だろう。

 

 僕達は山に近い民家をここでの滞在地として使う事にした。

 

『第二新東京市……か……。余り来た事無いんだよなぁ……。三鷹にずっといたから……』

『私は、初めて……よね……』

 そう、僕達にとって、この街は馴染の薄い街なのだ。

 

『でも、ほっとしたよ……』

『えっ?』

 アスカが不思議そうな顔で聞返す。でもきっと彼女も無意識には理解している事だと思う。

『ここって、第三新東京市に比べると、人工物が少ないじゃないか』

『あ……、そう言えば……』

 

 いかに僕達が住んでいた第三新東京市が異常な街だったかも良く分る。あんなに狭い地域に密集する背の高い建造物。郊外以外には並木くらいしか緑が無かった息苦しい街。ジオフロントには多くの植物が生えていたが、一般人には無縁な場所だった。

 もう植物は無いとは言え、中心部から外れると、やや迷走気味の道や、背の低い建造物が多くなる辺りに、ほっとするものを覚える。それは、古い街の名残…。

 

 もっとも、今の第三新東京市には、ある意味すっきりしたものを感じる事が出来るのだが……。

 

── 辺り一面に広がる瓦礫の山

── n2 爆雷で無茶苦茶に破壊され、何も無くなっている更地

── 破壊され、嫌な感じのモニュメントとなっている元ネルフ本部

── そして、巨大な落し穴になってしまったジオフロント

 

 あの忌々しい街がすっきりと無くなってしまったのだ。誰もいないし、壊れた街を悲しむ人も残っていないのだから、僕達がそう言う感想を持っても、全く問題は無い。

 

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──── 一週間が経った

 

 やはりまともに整備していなかった車には、あちこちに細かなダメージが蓄積していた。

 多くの悪路を走った割に車軸や内部構造は平気だったが、外装やバンパーなどに細かいひびや傷みが幾つも見付かる。今の一般車は強化プラスティック外装が中心になっているが故に、金属外装と異なり傷みが見え辛いと言う問題が有る。モータや電気系統、そして制御チップに特に異常は見付からなかったから、同型の車を探して外装を交換した方が良さそうだ。これは人気の車種だった筈だから、交換パーツには困らないだろう。

 

『ねぇ、シンジ。お昼、用意出来たわよ』

 アスカが僕を呼びに来たので作業を中断してハンドソープで機械油を落す。合成油で性能を高めたものだからか、中々綺麗に落ちないのが困ったものだと思う。問題は、この世界にはもう微生物すらいないから、これらの汚れた水などが浄化されないと言う事だろうか。

 

『色々と困ったものだね……』

 僕は小声でぼやきながら彼女の待つ民家の居間へと向って行った。

 

 アスカは決して、家事無能力者ではない。そう言う事に関する教育を殆ど受けていなかったから不得意だっただけ。だから、本気でやる気になればそれなりに伸びる。今では、僕が忙しい時限定ではあるものの、彼女が食事の支度をしている。

 ただ、材料が保存食と傷まない調味料だけなので、どうしても作れる物の幅は減ってしまう。それに彼女が育ったのはドイツ。日本とは根本的に食生活が異なり、材料にも大きな差が有るから、彼女が得意な調理方法は使えない。

 そう考えると、ここ数ヶ月でここ迄出来る様になったと言うのは、凄い事だと思う。

 

『この街って、息苦しさは感じるけれど、食材の選択肢は多くて助かるわ』

『そうだねぇ……。どうしても田舎の方じゃ、食材が偏っちゃうからね……』

 僕はインスタントのスープを飲みながら、何となく遠くを見ていた。雲はまだ白に近いからましだが、真っ昼間から何となく赤掛った空……。もう慣れてきたとは言え、不気味な色だ。平和ではあるけれど……。

 

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 比較的豊富な食材でも、どうしても賄い切れないのが、食物繊維とビタミン類。僕には必要無いだろうけれど、アスカが体調を保つには必須の物。何となく嫌な感じがするけれど、これだけはサプリメントに頼り切っているし、それ以外に十分摂取する方法が無い。

 

『何か、この錠剤を見てると……』

 恐らくネルフにいた頃を思い出すのだろう。あの頃には、色んな薬のお世話になっていたから…。

 

『でもね……』

『何……?』

 僕が少し重苦しい口調で語り掛けたのに引っ掛かるものを覚えたのだろう。彼女が何となく不安そうな声で問返してくる。

『綾波はね……、カロリーバーと、ビタミン錠剤と、水だけを食べて生活してたんだ……』

『ファ、ファーストが……?』

『そう……』

 

 彼女は知らなかったらしい。食べる楽しみを放棄するどころか栄養価自体が不十分だった、綾波の食生活の事を。

 

『あれは、生かされてる……。そう言う感じだったよ。全然疑問すら抱いてなかったみたいだけどね……』

『……そ、そんな。いくらサードインパクトのキーとして育てられたからって……』

 アスカは余りの事に今にも泣出してしまいそうな顔をしていた。

 

『でもね……、それが真実。父さんは綾波に母さんの姿を重ねていただけ。それ以外にはリリスの能力にしか価値を認めていなかった……』

『だからって……。そんな生活で死んだら元も子もないじゃないのよ……』

 既に彼女は涙目だった。でも、綾波の事は知っておいた方がいいだろう。綾波の行動は全て何も知らないと言う所から来ていたのだから。

 

『綾波には……、身体のスペアが有ったんだ……』

!!

『零号機が自爆した時、あの綾波は死んだんだ……。でも、綾波の魂はスペアボディが有る限り、新しい身体に移る。その後の綾波はスペアボディだったんだよ……。助かってなんかいなかったんだ……。勿論僕達に関する記憶も、殆ど失っていたよ……。記憶は必要な部分だけを、強引に書込むなんて事をしてたみたいだ……。元々無口だったし、サードインパクト迄の僅かな期間だけだったから誤魔化せてたみたいだね…』

 アスカは到頭泣出してしまった。やはりリツコさんに真実を見せられる迄の僕と同じで、彼女が優遇されていたと思っていたのだろう。アスカは綾波の心には触れていないから、何も知らなかったのだ。

 

『でも……、ある意味、彼女は幸せかも知れない……』

 アスカは、“突然何を?”と言う顔をしている。

 

『利用された挙句死んでしまった事は不幸だと思う。でも、あの紅い海に混ざる事も無く、こんな何も無い世界に放り出された訳でもない……』

『でも……、でも……。この世界にいれば、シンジ……、貴方と一緒に生きる事は出来たのよ……?』

 アスカは素直になった分、綾波がどんな状態で生かされていたのか、その聡明な頭脳ですぐに理解出来たのだろう。そして、彼女よりどれだけ自分が恵まれていたかも。

 

『そうだね……。でもね……、僕はこの世界は僕のための流刑地みたいなものじゃないかな……って、思うんだ』

『どうして? シンジは悪く無いじゃないの』

 僕は目を伏せると頭 (かぶり) を振った。

 

『僕は……、知ろうともせず、ただ逃げ続けた罪深い者なんだよ……。逃げてもいい事は有ると思う。でも、僕は逃げちゃ駄目な所からは逃げてしまったんだ……』

『良く分らないわ……』

 

 僕は悲しい気分で一つ溜息をつく。僕は意図的に心弱く育てられた。それに関しては僕の責任ではないだろう。だけど、僕は何故こんな状況になっているかだけは知っておかなければならなかったのだ。少なくとも、父さんの事はもっと知っておく必要が有っただろう。知っていれば、もう少しましな結末を迎えていた可能性は有る。

 少なくとも、僕は、思い出したくないあの女性の言う事など聞かすに、死んでいた方が良かったのだろう。そうすれば、もう何処にも依代はいなかったのだから。リリスの代りになるのは、零号機と初号機だけ。父さんが行おうとしていたのは、アダムとリリスの禁断の融合。リリスとして目覚めた時、僕が死んでいれば綾波は違った行動に出た可能性が高い。アダムの魂の正体がカヲル君だった事を考え合わせると、恐らく父さんの計画もゼーレの計画も失敗した筈だから……。

 

『これは……、きっと、分らない方がいいと思う。アスカは、最後に気付いて逃げなかった……。でも、僕は最後迄逃げてしまったんだ……。僕達の周りにいた人も殆どの人は何処か逃げてたんだよ……。だから、紅い海から還って来れなかった……』

 

 そう。サードインパクト直前に死んだ人達の多くは、魂が完全には抜けきっていなかったのだろう。みんな紅い海に溶け込んでいた。だが、誰一人として還ってきていない。あれほど大口を叩いて、勝手な自己欺瞞に浸っていた女性ですら……。

 

『アスカは逃げなかった。だから、ここにいる……。それが幸福なのかどうかは僕には分らないけれど……』

 

 アスカはただ驚いていた。彼女はごく一部の者としか心を触合う事無く還ってきた。全ての者と心を触合った僕とは違って、識っている事は少ない。そして、あの時識った事も、人間の脳でまともに蓄積出来る容量以外は、忘れてしまっている筈だ。

 

『じゃあ、どうしてシンジはここにいるの? 逃げたのなら……』

 

 それは余りにも単純な理由だった。ただ、僕が望んでしまったから還りたいと願った者は還る事が出来たのだ。結果としては、アスカただ一人だけではあったけれど…。

 

『僕は、依代だったから。世界の中心にされてしまったから。だから、望んだ通りに戻って来ただけなんだ……。戻って来れたのも、世界の中心になった時に気付いたからに過ぎない……。あの世界は、違うって……』

 そう……、僕は、あんな最後の間際になる迄気付く事が出来なかったのだ。それだけではなく、みんなが溶けて一つになってしまったのも僕が望んだ事なのだ。この世界を滅ぼしたのは、間違い無く僕の心が決めてしまった事……。誘導されていたからと言うのは、言訳にしかならない……。

 

『僕は、単に、僕の我儘でここにいるんだ……。だから、ここは僕にとっての流刑地……』

 僕は何処か遠くを見る様な目で、そう呟いた。アスカは、もう何も言わなかった。でも、とても淋しそうな目をしていた。僕の心に触れた時の事を思い出しているのだろうか。

 

『アスカは……、気にしなくてもいいんだよ……。アスカには何も責任は無いし、自分の意志で戻って来たんだから……。でも、こんな世界になってしまうなんて、予想出来なかったよね……』

 

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 それから数日、アスカは何か考え込んでいた。知っておいて欲しい事ではあったけれど、やはり衝撃 (ショック) は大きかった様だ。

 

 僕は、その間にも、街で色々な補修部品や、新しいパーツを調達してきていた。コスト度外視設計が故に、中々手に入らない、高変換率太陽光発電パネルの完全品が何十枚も入手出来たのは有難かった。第三東京市で見付かったのは二枚だけで、それも一部が破損していたのだから。

 全てを車に積込む事は無理だけれど、予備を纏めて一ヶ所にストックしておけば後々便利だ。

 

 そして、この街に滞在して一ヶ月も経つ頃には、今迄積上げていた処理しなければならない課題を、ほぼ片付ける事が出来ていた。これで、今後暫くの生活を送る準備も出来たと言える。

 

『後は……』

 

 後は……。

 

『行動範囲の拡大か……』

 

 僕は、一月程前に見た夢の事を思い出していた。

 

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『もう一通りの用事は済ませたんでしょう? どうして移動せずに、何かしてるの? ……私、この街を好きにはなれないのよ』

『ごめん……。でも、この街だからこそ……って言う最後の用事を思い出したんだ』

 

 それは……。

 

『何を?』

『初号機が宇宙 (そら) に飛んで行った時の事……。それと、綾波に最後に会った時の事……』

 僕の言葉を聞くと彼女は顔を少ししかめる。一番思い出したくない日の事だろうから。

 

『余り思い出したくない話ね……。私は、その時気絶してたから、良く分らないんだけど……』

 気絶していたと言うよりも、アスカは溶け合う事を拒絶して自分を覆う殻の中に閉じこもっていた状態に近かったのだと思う。

 

『確かね、翼が……』

『翼?』

『もしかしたら飛べるんじゃないかな……って……』

 彼女はそれを聞くと、少しの間呆れた様な顔をしていた。

 確かに馬鹿げた発想かも知れない。だが、今の僕は……。

 

『ねぇ、どうして、そんな事を…?』

『翼が有れば……、飛べれば……、ドイツにも行けるかな……って』

 ドイツと言うのは単に彼女のいた国だから上げただけ。実際には、僕達の行動範囲が広がると言うのが最大の利点だ。代り映えの無い世界だから、何か変った事が有った方が気も晴れるだろう。

『…………』

『ど、どうしたの?』

『無理に……、行く所じゃないのに……』

 彼女は複雑な表情をしていた。やはり生れ育った街に戻りたいという気は有るのだろう。だが、宛の無い事で、この街に留まるのにも抵抗が有るのだろう。

 

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『それで、翼とここがどう関係有るの?』

 僕は、10階建てのビルの屋上に立っていた。

 

『いや、そのね…。どうやればいいか思い付かなくて』

『えっ?』

 そ、そんな呆れた顔で見なくても…。

 

『飛降りれば、本能的に飛ぼうとするんじゃないかな……って……』

『な……。何考えてるの?!』

『いや、だから、これしか思い付かなかったって……』

 

 僕は、少し困った様な顔をしつつも、屋上の柵を乗越えていた。

 

『や、やっぱり、シンジ……、駄目よ、危ないわ!

 見ない方がいいからと言って、付いて来ない様に説得したものの、結局は付いて来てしまっているアスカが、後方から心配そうに叫ぶ。

 

『大丈夫だよ。僕は、全身骨折しても、内蔵に問題が出ても、すぐに治るから……』

 これは本当の事。今迄も何度か間抜けにも山の斜面を転げ落ちたり、崖から落ちたりして、人間なら即死の大怪我を負っても、数時間後には元通りに修復されていたのだから。

 

『で、でも……』

『他に思い付かなかったんだ。もしかしたら落ちるって言う恐怖を覚えれば、飛べるかも知れないって事くらいしか』

 


..
§04. Fl gel

 

 僕は意を決して飛降りたが……、「駄目」だった。

 

 思いっきり体中にダメージを受けているのが分る。暫くすれば修復されるとは言え、“痛い”。

 僕が無惨な姿になっているのを見て、アスカは気を失ってしまった様だ。だから見ない方がいいって言ったんだけどな……。

 彼女を介抱したくても身体が動かない……。身体の修復には、まだ時間が掛りそうだ。最初からこんな結果になってしまい、“これでいいのかな”とは思う。

 かと言って他に方法を思い付かない。次は、あの 20階建てのビルの屋上からかな……?

 

 

 僕はそれから毎日の様に高いビルから飛降りては、とんでもない事になると言う事を繰返していた。

 死にはしないし、アスカにはもう見ない様に言ってあるからその辺りは問題無いとは思うけれど、とにかく“痛い”のが難点だ。

 

 大怪我が数時間で治ると言うのも何となく嫌な感じがするが、それ以上に嫌なのが、日増しに治る速度が速くなっている事だろうか。

(多分、自己進化してるんだよなぁ……。使徒戦の頃は、厄介だなって思ってたけど、いざ自分が、その能力を持ってしまうと、これって、結構不気味だよ……)

 

 それに、こんな投身自殺に見えなくも無い様な事で力を使える様になるかどうか、それは怪しいものが有る。

(とは言え、他の方法が思い付かないんだよなぁ……)

 

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 さすがにこんな日々が二週間近くも続くと、このままでは駄目な気がしてくる。

 僕は根本から考え直してみる事にした。

(あの翼とかも、AT フィールドなんだよな……結局は。AT フィールド……。うーん、互いを分つ壁……。他の者との境界線……?)

 

 良く考えれば、生身の身体では扱えないが、エヴァに乗っていた頃は、当り前の様に防壁として使っていた。あの時何をしていたか……。

(えーと……、感覚は何となく思い出せるけど、あれって……、うーん……??)

 

 余りに当り前の様に使っていたので、どうも根本的な事が思い出せない。しかし、この身体でも一度だけ扱った事は有る。そう、力が暴走してしまった時……。あの時は……。

(落着いて、心を穏やかにしたら止ったんだっけ……? でも、それだけじゃない様な……)

 あの時、何が起きていたか。僕が何をしたか……。

 

(あぁ、そうか……。あの時は、アスカが近寄る事を受入れようとしたから……)

 

 ……?

 

 受入れる?

 

 拒否……。

 

(あ……あぁぁぁ……。忘れてた……。AT フィールドは心の壁……。だから、あれは、相手を拒否する時に発生するもの……)

 

 何となく答が見付かった僕は、試しに目の前の空間を拒否し隔絶するつもりで、力を込めてみるが、どうも上手く行かない。

 

(うーん……、後、何が足りないんだ……?)

 

 どう考えても、器用に扱おうとしない限り、条件はそれだけしか無い筈だ。

 

(エヴァは……、何で拒絶するイメージだけで AT フィールドを張れたんだろう?)

 

 エヴァに乗っている時は、少しの“こつ”は必要だったが、基本的に拒絶のイメージを思い浮べれば良かった。でも、今はそれだけでは駄目らしい。

 

(……電源かな? 電源が切れると、AT フィールドも消滅した……)

 

 強力な AT フィールドの展開を行うと電源の消費速度が上がっていたのを考えると、エヴァで AT フィールドを作り出すには多くの電力が必要だったのだろう。

 

(僕には電源なんて……無いよなぁ……。でも、エヴァって電源が無くても動けるよね……。S2 機関が動けば……)

 

 そう。S2 機関が作動しているエヴァなら電源など関係無く、無限に行動する事が可能だった。だからあの忌々しい最後の闘いでも、終り迄初号機は動き続け、宇宙 (そら) へと去って行ったのだ。

 

(って……、もしかして、僕がフィールドを張れないのって、S2 機関を自分の意志で上手く働かせる事が出来ないからだけなのか?!)

 

 そう考えると、一応理屈は通る。僕が持っていると思われる S2 機関は、僕が生きるのに必要なだけ動いていると言うのが現状だ。

 

(でも、勝手に動いてる分にはいいけど……、どうやって S2 機関を活性化させるんだ……?)

 

 多くの力を使うには、活性化させなければならないのだろうが、その方法は分らない。一度だけ活性化した、力の暴走が起きた時には、何故活性化したのか僕自身分っていないのだから、再現のしようがない。活性化させる感覚がまるで分らないから…。

 

(結局は、あれしか思い付かないか……)

 

 僕は、70階建てのビルの屋上に立っていた。

『さすがにこの高さなら、力を試す時間はそれなりに有るだろう……』

 これでも駄目なら、次は、新東京タワーだ。あの特別展望台なら、300メートルくらい有る。

 

 僕は、もう慣れてしまったからか、大して躊躇する事無く、飛降りていた。やはり、これだけ高いとそれなりに落下時間がある。

 

 迫ってくる地面に向って拒否する。とにかく拒否だ。地面なんかあっちへ行けと言うイメージ。

 

 もう地面はすぐそこ、中々上手く行かないものだ。これだけやってもどうにもならない自分への腹立たしさに、少し怒りを覚えた時、胸の辺りに何か熱いものを感じた。

『あ゛ぁぁぁぁぁぁーーっっ!!』

 

 気が付くと僕は声を張上げて叫んでいた。そして、それに呼応する様に胸の奥が更に熱くなる。

 

 

ズム……”

 

 

 重い音が辺りに広がる……。気が付くと僕は地面から 2m 程の地点で宙に浮いていた。

『ぐあ゛あ゛ぁぁぁぁっ!』

 僕が、力を込めると、僕を中心とした球状に AT フィールドが展開され、拡がって行く。そして、それは地面や辺りのビルを破壊し始めていた。

 

『や、やば……。止めなきゃ……』

 僕が、力を収めると、AT フィールドはあっさりと消え去ったが、辺りのビルに致命的な損傷を与えてしまったらしく、崩れたり倒れたりと大変な事になっている。

 

『うぁぁぁぁぁっ!!』

 僕は、さっき覚えた感覚を反芻する様に力を解放していた。僕を中心としたはっきりと目視出来る AT フィールドが降注いでくるビルの欠片を全てはじき飛ばすのを、紅い壁越しに眺める……。

 

ははは……。やっぱり、僕は……、化物……』

 何となく自虐的な気分が襲ってくる。

 人間でない事は理解していた。でも人間でありたいと思っていた。それを完全に否定出来るこの力……。僕の乾いた笑い声は、淋しくビルの谷間に消えて行った。

 

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 考えていた通り、自由に AT フィールドを張る事は出来た……。今迄使えなかったのは、使う方法を知らなかったから。教えてくれるヒトもいなかったから。あの時の力の暴走を、あの時だけの偶然と思い込みたがっている自分がいた。お腹が空かない事も幻想だと思い込みたい自分がいた。でも……。

 

(やっぱり、間違い無く……僕は……、使徒として覚醒していたんだね……)

 

 僕は心の中に何となく引っ掛かるものを感じていた。それは、僕が人間の心を持っているからだろうか……。人間でなくて、人間の心を持った者。それは一体何なのだろう……。

 

(カヲル君は自分が使徒だとはっきり認識してたから悩まなかっただろう……。でも、綾波は……。綾波は、自分の力を……)

 そう考えると、彼女がいかに孤独だったかも少しは理解出来る。今僕が感じている様に、“やはり人間じゃない”って、感じてたんだろう……。それに、こんな世界ならともかく、あの頃、そんな力を見せられて、平然としていられる者はいやし無かっただろうし……。

(綾波の事、ちっとも分ってあげられなかったんだ…………。なのに、彼女は僕の願いを叶えるために……)

 僕は胸の奥に鋭い痛みを感じていた。僕も彼女を追詰めていた一因だったのだろうと言う事を知って……。彼女が純粋すぎるが故に、彼女の心を覗いた時にも、それは分らなかったのだろう……。

 

(……そっか。綾波って、感情を表現するのが苦手なだけじゃなくて、自分自身でも良く分ってなかったんだね……)

 

 僕は、一応、目的を果せたので、少し離れた所に停めてあった自転車に乗ると、郊外への帰路を走って行った。

 

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 滞在している民家に戻ると、庭に設置した太陽光発電パネルの側で、アスカが夕飯の準備をしていた。

 僕が戻ったのに気付くと、彼女は少し嬉しそうな顔をしてこちらを向く。

 

『シンジ、お帰りなさ……い? ……ど、どうしたのよ、その埃……』

 アスカは僕の服が白っぽい灰色の粉で汚れているのに気付いた様だった。これは、僕が壊してしまったビルが砕けた埃。そして、僕が初めて自分の意志で力を操った事の証……。

 僕は、彼女の前に手をかざすと、力を軽く解放する。そして、掌の前だけに AT フィールドを展開した。

 

『そ……それって……』

 僕は黙って頷く。

『AT ……フィールド……』

 アスカの目が驚きの色に染まって行くのが分る。

 

『展開……出来る様になったんだ……』

 

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 それからの日々は、AT フィールドを自在に操ったり、応用した利用法を探ったりする事に費やされていた。危険なので、拠点からかなり離れた第二新東京市ではない山裾の何も無い広場で訓練をしている。僕が昼間出掛けたままなので、アスカが淋しそうにしていたが、ゆっくりと時間を掛けて……とは中々行かない事、故に、心苦しく思いながらも彼女には我慢して貰う事にした。

 これは、広く何も無い所でしか訓練出来ないし、辺りを破壊してしまう恐れが多分にある訓練だから、壊れても困らない所でしか出来ない事なのだ。第三東京市が最適という気もしたが、あそこは瓦礫だらけで何も無く、生活に困ってしまうのが難点だ。

 

 一度使える様になると、応用方法を研究するのはそれ程難しい事ではなかった。

 予想通りに、力の使い過ぎで辺りを吹飛ばしたり、コントロールに失敗してばかでかい穴を開けたりと、訓練に使っていた辺りは無茶苦茶になってしまった。

 

 だがその甲斐も有って、なんとか、飛ぶ事と、守る事は確実に出来る様になった。

 

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『ドイツに帰れる日が来るなんて、思ってなかったわ……』

 アスカは二月近く第二新東京市に滞在した間の、不満や、淋しさを忘れようとするかのように、嬉しそうにしていた。

 この街にいる間、アスカは昼間一人でいる時間が多かった。それは彼女の不安な心に深手を負わせてしまった様で、朝夕、僕に依存する度合がひどくなっていた。夜は僕を抱き枕の様に抱えて眠っていたのだから。ただ、そんな状態でも疚しい気分にならなくなっていたのを僕は気付いていた。恐らく、僕にはもう……。

 

『えーと、持ってく物は、少しの衣服だけでいい筈……。あっちは涼しいみたいだけど、日本には春物すら無いからなぁ……』

 向うの気象は、気象衛星のデータを参考にした。ヨーロッパは写っていないけれど、緯度を考えると、昔はかなり寒かった筈だ。だが、電波を拾える範囲の衛星で出来るだけ近い位置で、同じ緯度の地域の気温を調べてみても、極端に低い温度ではなかった。

『私が住んでた頃は寒かったのよ。服は……何とかなると思うわ。日本みたいに、よりどりみどりの店が在る……なんて処じゃないけど……』

 

 車等の移動手段や、食べ物等の生活用品は向うで調達すればいい。それに、力を使える様になった今の僕ならば、必要な時には日本に戻る事も出来るのだから。

 

『じゃぁ、行くよ。掴まって』

 僕はそう言うとアスカをいわゆるお姫様だっこで抱え上げ、彼女を特に厳重に AT フィールドで包込む。あれだけ長い間共に暮していても、僕達は、昼間からこれ程密着した事はそんなに多くはなかった。夜は、彼女が一方的に僕を枕代りにしているに過ぎない。彼女の頬が恥ずかしさからか赤くなっている……。

 

 僕は背に、二対四枚の力の翼を広げると、ゆっくりと宙に舞上がり、地上から 200m 程の地点迄上昇すると、一気に加速した。衝撃波が襲ってくるが、そんな物は全て無視して強引に突っ切る。あっと言う間に、音速を突破し、一体どれ程の速度が出ているのか自分でも良く分らない速度に達していた。余り高度を上げると空気が薄くなってしまうので、程々の高度に迄ゆっくりと上昇するが、今、何処を飛んでいるのかどうも分り辛い。

 高度を上げれば簡単に分る事だが、その為には、アスカの身体に負担が掛らない方法を考えなければならない。それは中々難しい事だろう。仕方ないから、僕は海岸線を頼りに飛んでいた。これならば少々遠回りになっても、サウジアラビア辺り迄ならば、それ程問題無く飛んで行けるだろうから。

 

 速度はかなり出ているのだろう。その速度を知る術は無いが、地上の色がめまぐるしく塗り変って行く。地域によって、土の色が異なっているのが良く分る。そして遂に、淡い黄色が広がる大地に辿り着いた。恐らくこの辺りが中東なのだろう。

 

(と言う事は……ドイツはあっちかな……)

 僕は方角を補正しながら少し速度を落し飛び続けた。暫くすると、徐々に古風な街並と新しい街並が混在した欧州特有の風景が見えてくる。そして、山を越えた辺りで赤い屋根の多い街並が見えてきた。

 

『えーと……、この辺り……?』

『た、多分……。私も、上空からだと良く分らないのよ……』

 僕は速度を落し高度を下げて行った。そして、携帯用 GPS を広域モードで立ち上げ、西欧が少しはみ出す程度の縮尺で表示させる。

 

『あれ……、もうドイツに入ってたんだ……。と言うか……、もうすぐオランダに入っちゃう……』

 僕は、GPS を頼りに位置を調整しながら、アスカが住んでいた街へと向って行った。

 

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『ここが、アスカの家?』

 こちらで過すのに適した服を入手した後、街を少し見てから、彼女に案内されて歩いてきたのは、少し郊外寄りの落着いた住宅地。

 建てられてそれなりに時間の経っている事を感じさせる、とても大きな家。

 

『えぇ……。この辺りも暖かくなったせいか、雪が全然無くなっちゃったわ……』

 あの日以来、世界の気候は妙になってしまった。暑かった日本は生暖かい春の様な気温になっている。ここ、ドイツは、日本よりは寒いのだが、凍える様な寒さではなく、肌寒いといった程度。

 

…?』

『そう、雪。日本には降らないものよ。ドイツは、殆ど一年中冬の国だったの』

 この辺りも雪に覆われていたのだろうか。僕はドイツという国の事を殆ど知らないが故に、知識を探ってみる。

 

──── そうか……、毎日道の雪掻きが必要なほど雪が降り積る土地だったんだね……

 

 僕は、この寒い国で育ったアスカが、あの暑い国の日本で、比較的平然と過していた事に、少し違和感を覚えた。

『寒かった……って事だよね? 日本は暑くなかった?』

『暑かったわよ……。でも、ネルフで色んな訓練を受けてたから、暑さにもある程度は耐えられたの。でも、私、学校以外はずっとエアコンが効いてる所で過してたのよ』

『そっか……』

 多分アスカは、暑さも我慢してたんだろう。とは言え、良く我慢出来たものだ。国土が国土故に、緯度が動いても多湿傾向はよりひどくなり、サードインパクト後に生れた日本人でも、あの暑さには悩まされていたのに…。

 

 まぁ、そんな事は今となってはどうでも良い事。今を生きて行く事の方が、ずっと重要だ。

 

 僕はドアノブに手を掛けてみる。

『やっぱり、鍵が掛ってるか……。僕はまだ細かく力は使えないから無理矢理開けたらドア毎壊しちゃうよ……。どうやって入ろうか?』

『そうね……、裏口の鍵なら立付けが悪かったから、こじ開けられるかも……』

 

 裏口に回ると、かなり広い庭が在る。建物も立派なところを見ると……。

『そっか……。アスカって本当に、お嬢様だったんだね……。半信半疑だったんだけど…』

『止めてよ……、シンジ……。恥ずかしいわ……。私、そう言う教育は全然受けてないの……』

 彼女は顔を真っ赤にしながら裏口のドアノブをがたがたと揺らせ始めた。

 

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 裏口のドアの鍵は交換しなければならないほどに傷んでいた様で、程なく開いてしまった。

『こんなに脆くなってたのね……。何も起らなくて良かったわ……』

 彼女は溜息をつきながら、中へ入って行く。僕はその後を追った。

 

 もう一年程放置されている家の中には、微妙に残る生活臭と、廃屋っぽい雰囲気の両方が感じられた。

『ママは、掃除をしていたのね……』

『綺麗に片付いてる……。アスカの部屋には大事なもの、残ってるんじゃないの? 重くないものなら持って帰れるよ』

『いい。ここに置いてあるから、何となく安心出来るの……。もう、誰に盗まれる訳でもないから……』

『……そう。ところで、これからどうする?』

 

 そう。僕達は、アスカの暮していた街と家を見に来ただけ。それ以外の事は何も考えていなかったのだ。

 

『ここで暫く暮さない? 幸い、勝手知った家が在るから、住む処には困らないし。確か、ファティ (Vati) の車も電気自動車だから、発電パネルさえ用意すれば移動には困らないわ。ドイツは環境に配慮した国だったから、パネルはいくらでも手に入ると思う。いざとなったら、ネルフのドイツ支部から持って来てもいいし……』

『ファティ (Vati) ……? えと…………、あぁ、お父さんの事か……』

『あ、ご免なさい。シンジは、ドイツ語、知らないんだっけ……』

 アスカは少しばつが悪そうな顔をしている。気にする事は無いのに……。

『ううん、いいよ。今は、探せば理解出来るから』

 

 僕は、辺りを見回す。落着いた感じの屋内。

 僕はこちらの事情には詳しくない。知識を整理しても、どうしても、ただの知識であって、住んでいた彼女とは感じ方が異なる。

 

『そうだね。じゃぁ、そうしようか』

 僕は、アスカに微笑みかけると、取り敢ず用意しなければならないものを頭の中でリストアップしていた。

 

 

 

 

To be continued...


(著者より哀を込めて) 

 どうも、和哉です。いやはや、何か、“無意味に”長いですねぇ……。内容の方は凄く (えらく) “薄い”のに (^^;; 。

 多分、“Die Endwelt...”では、この話が一番平穏でしょう。途中に表現は抑えたものの、絵にしたら恐らく凄くグロテスクなシーンが有りますけど…… (^^;; 。

 次の話は、テーマしか決っていなくて、殆ど書いていないので、少し遅れてしまうかも……。さっさと完結させてしまいたいので、出来るだけ早く書き上げたいとは思っていますが…。

# 今回のサブタイトル、ウムラウトを強引に表示してるから、何か不格好になってますが、フォント切替え無しだとこんな方法しか思い付きませんでした (CSS を使うと言う方法も有るのですけど (^^;; )


 茂州です。何故に今回はこんなに長いのやら……。普段の倍近い長さ……。そして、非常に薄い内容……。何だかなぁ……。


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