新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第六話 知らない天井

presented by Red Destiny様


「……知らない天井だ。」
シンジは、見慣れぬ天井を見つめる。何故か頭がガンガンする。
「そうか、昨日はお酒を飲まされたんだっけ。それで頭が痛いんだ。」
シンジは昨夜のことを少しずつ思い出していった。20歳のアサギが酒を飲んだのはやむを得ないとして、17歳のミリアリアまでが酒を飲みだして、それからマユミやレイにも二人が酒を飲ませて、最後には4人で束になってシンジに酒を飲ませたのだ。

「そういや、昨日は凄いエッチな夢を見たなあ。」
そう、シンジは女性陣と一緒にお風呂に入り、体中を念入りに洗ってもらった夢を見た。そうだ、夢なんだ。そうに違いない。シンジはそう自分に言い聞かせた。
「だから、これも夢だよね。誰か、そう言ってよ。僕を助けてよ。」
なんとシンジは、素っ裸。だが、それだけならまだいい。シンジの左右には、同じく素っ裸のマユミとレイが、シンジの腕を枕にしてすやすやと眠っている。それも、シンジの体に巻きつくようにして。本来は凄く喜んでいいはずなのだが、相手が二人ということで、むしろ不安の方が大きい。

「僕、責任取らなきゃいけないのかなあ。」
シンジは今にも泣き出しそうになる。だが、身体は正直だ。元気であるべき所は、やはり元気。布団が何故か、テントのようになっている。これは、シンジに胸を押しつけて寝ているレイのせいなのだろうか?
「あれえ、レイちゃんはどこなの〜。」
そこに、運悪くレイを探しに来ていたマヤが入ってきた。マヤは、シンジ達を見るなり固まる。
「あは、伊吹さん。おはようございます。」
シンジがあいさつすると、マヤは邸全体が揺れるほど思いっきり叫ぶ。
「きゃああああああああああああああああああああああああああーっ!」
シンジは、自分のキャラクターが音を立てて崩れていくような気がした。そして、思わず涙がちょちょぎれた。



「あっはっはっ!シンジ、良かったな。良い思いをしたじゃないか。」
朝食の席で、事の顛末を聞いたシンは、大笑いした。
「シンさん。笑い事じゃあないですよ。昨日は大変な目に遭いましたよ。」
シンジは、本当にもうっ、とプリプリしながら言う。だが、目は笑っている。裸の美少女二人と一緒に寝たのだから、やっぱり本音は嬉しいに決まっている。まあ、年頃の少年なのだから当たり前か。
「すみません。私のせいで。」
そこでマユミが、頭をかきかきみんなの前で事情−実は、殆ど嘘だが−を話す。

マユミが裸で寝ることが多いこと。
時たま寝惚けて他人のベッドに潜り込んでしまうこと。
レイとは仲が良く、何度か一緒に裸で寝たことがあること。
おそらく昨日はレイと一緒に寝惚けてシンジのベッドで寝たらしいこと。
だから、シンジに罪は無いこと。

「だから、碇君は悪くないんです。」
それを聞いて、マヤはシンジに謝る。
「ごめんなさい、シンジ君。私、早とちりしちゃったみたいね。」
「いえ、いいんです。気にしないで下さい。」
「でも……。」
続けて何か言おうとしたマヤだったが、シンは手を叩いて遮った。
「まあ、いいじゃないですか。それよりも早く食べましょうよ。あんまりゆっくりしていると、遅刻しちゃいますよ。」

シンの言葉に皆時計を見て、急に慌てて食べ始めた。

その後、ミサトはリツコ、マヤ、ナタルを乗せて車でネルフへ。
マリューはシンジ、レイ、マユミを乗せて車で学校へ。
そして、アサギはシンを乗せて車でいずこかへ向かった。
ミリアリアは留守番である。



学校に着いたシンジは、転校のあいさつを無事に済まして、レイの隣の席をあてがわれた。その後ろにはマユミが座っている。
授業が始まると、担任の先生は何故か脱線してセカンドインパクトの話をし始めた。もっとも、シンが逆行した影響で、本来の歴史とは大きく異なっているが。

「……数千種の生物と共に、『2億近い人命』が永遠に失われたのであります。これが世に言うセカンドインパクトであります。経済への打撃、民族紛争など、生き残った人々にも想像を絶する苦しみが待っていました。最初に世界を襲ったのは食料危機です。これは、ドイツの企業グループなどが備蓄食料を放出したおかげで、最小限の被害に留まりました。ですが、大量の失業者が発生して治安が不安定となり、反政府ゲリラの増加や国連軍の大幅な増強という結果を招いてしまいました。そして、今日の世界となったわけであります……。」

担任が言った通り、セカンドインパクトで失われた人命は、エヴァ本編の『人類の半数』(数十億)ではなく約2億人である。それは、サードインパクト後の世界からセカンドインパクトの数年前に、シン(=赤井駿)が逆行した結果。
シンは、未来のシンジからある願い(今は秘密)を託されて、過去へと逆行した。そして飛鳥シンと名乗り、本来の歴史をことごとく変えていった。手始めに、セカンドインパクトで失われるはずだった多くの人命を救う。次に幼い頃のアスカやシンジと出会い、二人との交流を深めて、陰に日なたに二人を外敵から守ってきた。だが、シンが大きく歴史を変えてしまったため、ネルフの敵も増え、結果としてアスカやシンジの危険も大きくなっていた。
それを防ぐために、シンはあらゆる手段を講じていた。各国政府の有力政治家や軍人を自分の陣営に引き入れたり、戦自に部下を大勢送り込んだり、自前の傭兵部隊を創ったり、国連軍に入って自分の手足のように動く部隊を持ったり、裏の世界にも多くのコネクションをつくったりした。ネルフにも、スパイを送り込んだりしている。

もちろん、今のシンジはそんなことは知らない。シンジにとってシンは、優しくて頼もしい兄貴分であった。



学校では、マユミはヒカリ、トウジ、ケンスケらと仲が良く、シンジはマユミの後押しで、たちまち仲良しグループに溶け込んでいけた。だが、お昼時にマユミから爆弾発言があり、一時騒然となる。

「私、碇君と一緒に住むことになったんです。」
「不潔よーっ!」
それを聞いたヒカリは、飛び上がって大声を出した。ケンスケはこのヤローと言ってシンジに殴りかかろうとし、シンジは止めてよと言って逃げようとし、ケンスケをトウジが止めようとするなど、大混乱となりかけた。

「私も碇君と住むの。」
だが、レイのこの一言で、ケンスケは落ち着きを取り戻した。おかげでシンジは、ほっと一息つく。
「あれ、飛鳥って一人暮らしじゃなかったっけ。」
そう、ケンスケはマユミがシンジと同棲すると早トチリしていたのだ。ちなみに、ケンスケはマユミを狙っていたりするのだが、マユミはそれには気付かないフリをして答える。
「ええ、それに近い状態でしたけど、今度お兄様と一緒に住むことになったんです。碇君はお兄様の大切な友人ですので、一緒に暮らすことになりました。他にもお兄様の友人が一緒にお住まいになるとか。そのついでにお兄様にレイさんと一緒に住みたいとお願いしましたら、認めてくださったんです。」
まあ、これは真っ赤な嘘。実際はシンの意を受けたマリューが、ミサトを騙してレイの転居を認めさせたのだが、ケンスケ達にはこれで十分。

「な、なんだよ。俺はてっきり飛鳥と碇が付き合うのかなって思ったぜ。」
これを聞いたシンジは頬を膨らませたのだが、マユミはあえて無視した。
「いいえ、違います。どちらかと言うと、レイさんの方がそれに近いかもしれませんね。ねっ、レイさん。」
だが、レイは『付き合う』という意味が分からない。別の意味にとってしまう。
「私は、碇君を突いたりしていない。碇君も、私を突いていないわ……。」
「「「へっ。」」」
ケンスケ達は、レイが何を言ってるのか分からずに、目が点になる。シンジも、どうやらレイが普通の少女と違うことに気付き、冷や汗を流すのだった。



「あのー、遅れてすみません。」
一方シンは、野暮用でネルフの会議に1時間遅れてしまい、頭を低くしながら会議室へと入って行く。
「あら、シン君。事故に巻き込まれたんですって?大変だったわねえ。」
ミサトが優しく声をかける。
「ええ、そうなんです。それで、少し腰を痛めてしまって。」
遠目に、旧知のマユラがウインクするのが見えたため、とっさにシンは話を合わせた。どうやら、今まで一緒にいたアサギかジュリが気を利かしてマユラに連絡したようだ。
辺りを見渡すと、ゲンドウや冬月の姿は見えない。ミサトの他にはリツコ、マヤ、ナタル、そして国連軍にいた時にずっとシンの部下で副官だったマユラなど、知った顔が見える。このメンバーならもう少し遅れても大丈夫だったかもしれない。

「まあ、いいわ。シン君、早く座ってちょうだい。」
ミサトに言われて、シンは手近な席に着いて深呼吸した。今日の会議は週に1回開かれるネルフ最高意思決定会議といい、重要案件は原則としてここで決定されるという、非常に重要な会議だったのだ。シンは、少しだけ緊張した。
「えっと、やっと飛鳥顧問が来たから、チルドレンの警護体制についての議題に移ります。昨日付けでネルフの顧問となった飛鳥顧問から提案があって、チルドレンの警備に同年代の少年兵を採用することにしました。最初は試行ということになりますが、上手く機能すれば正式な組織として発足することも考えています。この件について、何か意見・質問はありますか。」
すると、当のシンがはいっと手を挙げた。
「えっと、飛鳥顧問。どうぞ。」
「あの、飛鳥顧問って言うのは止めてくれませんか。何か言われ慣れていなくて。俺はシン顧問と言われる方がまだいいんですけど。」
本当は、もうすぐやって来るアスカのことを気遣ってのことだったが、それは黙っていた。
「分かったわ。では、シン顧問。今からそうします。で、他に質問は?」
今度は、マコトが手を挙げた。そして、それを皮切りにして質問が相次いだ。

「少年兵は、どこから募集するんですか。」
 「戦自から派遣してもらいます。」
「そ、それはちょっとまずいのでは。」
 「いえ、大丈夫です。碇司令の許可も得ています。」
「でも、戦自が果たしてウンと言うんですか。」
 「ええ、もう話はつけています。」
「でも、使い物にならないような落ちこぼれを送って来ないですかね。」
 「俺が責任をもって鍛えるから平気です。」
「でも、戦自のことだから、もしかしたらスパイを送って来るかも。」
 「大丈夫です。俺が責任をもって指導します。心配ご無用です。」
「人数はどれ位ですか。」
 「当面は20人ほどの予定です。場合によっては、増員することもあり得ます。」
「少年兵の年齢は?」
 「13歳から15歳を考えています。」
「男女比は?」
 「1対1から1対2の間で考えています。」
「それは何故ですか。」
 「パイロットの男女比が1対2なので、女性の方を多くしようと考えています。」
「いつから発足する考えですか。」
 「概ね1週間後です。」
「訓練や研修期間は考えていないんですか。」
 「いえ、1週間後までに訓練や研修を終える予定です。」
「隊の名前は決まっていますか。」
 「GOSP、ゴスプという名前にしようと思っています。」
Guard of Special Personの略らしい。
「どこの組織に組み込むんですか。作戦部ですか。」
 「独立組織とし、俺の直轄部隊とします。」
などと、シンは次々と質問に答えていった。

「はい、議論は出尽くしたようですね。今までの話を聞く限りでは、特に問題は無さそうですので、正式に承認したいと思います。」
ミサトの言葉で締めくくり、この案件はネルフとして正式に承認された。こうして、シンはネルフ内に子飼いの部隊を作ることに、まんまと成功したのである。
チルドレンの護衛という大義名分があること、あまり警戒されない少年兵を採用したこと、この二つが主な成功原因であったようだ。

「では、承認されたところで、新部隊GOSPの隊長予定者を紹介します。えっと、後は日向君、お願いね。」
ミサトは、マコトにバトンタッチした。
「はい、先程入った情報によりますと、派遣される部隊は約20名で、彼らを束ねるのはステラ・ルーシェ少尉、15歳です。戦自の情報部に所属しています。」
「へえっ、若いわね。でもなによ、15歳で少尉って凄いじゃない。」
ミサトは驚いた。だが、さらに驚いた人物がいた。シゲルである。シゲルは通信、情報分析を担当しているため、この中では戦自の情報に最も詳しかった。
「それ、ほんとっスか。彼女、本当に凄い子ですよ。戦自の、あのライトニング・タリアの秘蔵っ子とまで言われてる子ですからね。」
「へえ、どんな子なんですか。」
マヤがのんびりとした調子で聞いたが、シゲルは首をすくめた。
「なんでも、ジェノサイド・ステラって呼ばれるくらい敵を殺しまくる、殺人快楽者っていう噂なんだ。」
少し震えていたシゲルの言葉に、その場の全員が沈黙した。



同じ頃、暗い部屋の中で初号機とサキエルの戦いの記録を目を食い入る様に見ている人物がいた。数年前まで日本重化学工業という会社に勤めていた時田シロウという男である。
「これがエヴァンゲリオンですか。確かに動きは素早いし、パワーもあるようですねえ。これでは、ジェットアローンでは足元にも及ばなかったでしょうね。」
ジェットアローンというのは、時田が前の会社で開発していた人型巨大ロボットのことである。
「だが、今の我々にはタランチュラもあるんですよ。それに、ATフィールドの謎もほぼ解明しました。ネルフが大きい顔をしていられるのも、後僅かですね。くくっ、赤木博士。もうじき、あなたの自信に満ちた顔が崩れさるのを見られそうですよ。」
時田は、そう独り言を呟いた後、大きな声で笑い続けた。



To be continued...


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