新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第九話 格闘技

presented by Red Destiny様


ミリアリアの話は、うやむやのうちに終わった。誰もが口をそろえてよく分からないと言うので、シンジは聞くのを諦めたのだ。だが、シンジにはまだ言いたいことがあった。目のやり場に困るので、皆の服装を何とかして欲しいというものだ。
今、この場にいる中で、ヘソが見えない服装をしているのはマリューとミサトだけ。マリューがスーツ姿で、ミサトがタンクトップにホットパンツ姿という具合だ。
レイとマユミは、ヘソが見える位に丈の短いタンクトップにホットパンツ。
アサギ、マユラ、ジュリは、上は水着のブラらしきものにホットパンツ。
ステラも上は水着のブラらしきものにミニスカート。

シンジも年頃の男の子。どうしても胸やヘソに目がいってしまい、なんだか落ち着かない。だが、結局シンジのお願いはうやむやにされてしまう。
「ねえ、シンジ君。目のやり場に困るなんて言ってないでさ、そんなことより健康的に一汗流しましょうよ。」
アサギの言葉にシンジがあっけにとられている間に、アサギはシンジの手を掴んで格闘技場へと引っ張って行く。もちろん、皆も面白がってそれに続く。

格闘技場は、屋敷とは別棟だ。屋敷から渡り廊下で向かう時、シンジはその天井の高さに驚く。
「うわあ、これって3階建て位の高さがありますよね。」
格闘技場の天井は、10メートル近くある。中も広く、優に50メートル四方の広さ。広くて天井が高いのには理由があるのだが、シンジが理由を知るのはもう少し後になる。

格闘技場の中は4分割されていた。畳の区画、ビニールマットの区画、板張り床の区画、木目調の床の区画だ。

畳の区画では、おそらく柔道や空手などの格闘技を行うのだろう。
ビニールマットの区画では、おそらくレスリングなどを行うのだろう。
板張り床の区画では、おそらく剣道などを行うのだろう。
木目調の床の区画もあるが、これは多目的に使うのだろう。
壁には緩衝材が使われているようだ。

「あれ?これって柔らかい。」
シンジは木目調の床を触って驚いた。あまり固くなかったのだ。
「ああ、これね。何でも、衝撃を吸収する素材を使っているみたいよ。」
マユミが得意気に言う。

「さあて、最初は腕試しということで、うちのメイドさんと戦ってもらいます。葛城さん。レイちゃんと葛城さんとでは、どちらが強いですか。」
アサギに聞かれて、ミサトは即答した。
「もちろん、私よん。」
まあ、そうだろうなとシンジは心の中で頷く。レイはどちらかというと、か弱い清楚なお嬢さんというイメージ−あくまでもシンジのイメージで実際とは違うのだが−があるからだ。

「では、シンジ君と葛城さんではどうでしょうか。」
「う〜ん、それは分からないわね。ねえ、シンちゃん。シンちゃんは強いの?それとも弱いの?」
そんなことを聞かれても、シンジにはよく分からない。なにしろ、ミサトの強さなど全然分からないのだから。だから、正直に言うしかない。
「そう言われても、僕はシンさんとしか稽古をしたことがありませんから。まあ、全然敵わないんですけどね。」
「そうなの。では、最初にレイちゃん。最後にシンジ君にします。ルールは特に無し。但し、急所攻撃は禁止。先に参ったと言った方が負けとします。気絶しても負けです。では、始めて下さい。」

最初は畳の上で、レイと屋敷のメイドの一人が相対した。レイの服装はさきほどと変わらずタンクトップにホットパンツ。メイドはメイド服であったため、なんとも締まらない対決に見える。シンジはお遊戯に近い戦いを想像したのだが、現実は全く違った。
「はっ!」
メイドの目にも止まらぬ速さの左手チョップを、レイは見事に左手で受け止めたが、そのまま手を掴まれて引き寄せられ、体勢を崩してしまう。
「ああっ。」
レイが小さく悲鳴をあげた時には、メイドの右手チョップがレイの首筋に決まっていた。レイは脳震盪を起こしたらしく、ガックリと崩れ落ちる。なんと、僅か5秒でケリがついた。倒れたレイは、あらかじめスタンバイしていた別のメイドが、場外へと担いでいく。
「レイさん!」
シンジが慌てて駆け寄っていくが、レイが単に気絶しているだけと知るとほっと胸をなで下ろす。一方、ミサトの顔が一気に真っ青になる。
「げっ。マジ?」
レイとて何年も訓練を積んできており、保安部の中堅どころと良い勝負をするところまできているとミサトは聞いていた。それが、僅か5秒で倒されるとは、このメイドはただ者ではない。

「では、次。葛城さん、お願いします。」
「はい、お願いします。」
ミサトは、すっくと立ち上がる。身につけているのは、愛用の柔道着。
「二人ともいいですか。では、始めて下さい。」
アサギの合図と共に、メイドは凄まじい速さの連続技を仕掛けてきた。
「くうっ。」
ミサトは防戦一方となる。そして、僅かな隙をついてメイドのパンチが腹に決まり、一瞬、ミサトの体が床から浮いてしまう。
「げぼっ。」
熊に殴られたのかと思われるほど、凄い衝撃のパンチを食らう。ミサトは思わず吐きそうになるが、懸命に堪える。
「ミサトさん、頑張って。」
レイの敵を討ってと言うシンジの応援に、刈り取られかけた意識が元に戻る。シンジ君、ありがとう。おかげで助かったわ。ミサトは心の中で礼を言う。
「ふうっ、楽に勝たせてはもらえないようね。」
ミサトは、本気を出しても勝てるかしらと心配になった。



ミサトとメイドの戦いは、10分近く続いた。手痛いパンチを食らったミサトだったが、シンジの応援によって気を持ち直し、相手の攻撃を紙一重でかわしていく。その後は慎重に相手のことを観察しながら、相手の弱点を突く作戦に切り替えた。
その甲斐があってか、相手の僅かな隙をついて手痛いダメージを与えることができた。それをきっかけにして徐々に優勢に戦いを進めていき、敵の隙をついて後ろから首を絞めることに成功した。
「さあて、いつまで耐えられるかしら。」
ミサトの腕が、万力のように相手メイドの首を絞める。
「くうっ。ま、参りました……。」
しばらく堪えた後、メイドはようやく降参した。

「はははっ、あなた結構強いわね。あなた、メイドさんの中でどれ位の強さなのかしら。」
ミサトは、あなたが一番強いのかしらと聞こうとしたが、違ったら恥ずかしいので止めた。だが、それは正解。メイドの答えに、ミサトは愕然とする。
「私は、メイドの中では一番弱いんですが……。」
ミサトは、一瞬だが目の前が真っ暗になる。この格闘技場に来る途中では、噂の『ジェノサイド・ステラ』と是非お相手してもらおうと意気込んでいたのだが、たかがメイドにこれほど苦戦するようでは、全く勝負にならないだろう。
「それじゃあ、聞くけど。シン君やミリアリアさんは、あなたよりも強いの?」
「はい、そうです。ミリアリアさんは、メイド全員でかかっても勝てません。シン様は、ミリアリアさんよりも更に強いです。」
それを聞いて頭が痛くなったミサトだが、なんとか堪えてアサギに尋ねた。
「ねえ、アサギさん。ミリアリアさんて、あなた達よりもずっと強いの?」
だが、アサギは大笑いした。
「葛城さん、冗談は止めて下さいよ。ミリアリアが私達よりも強い訳がないですよ。戦えるメンバーの中で強い順に言うとですね、シン、ステラ、私、ジュリ、マユラ、ミリアリア、シホ、フレイの順ですね。シンジ君は分かりませんが、ミリアリアよりも弱くて、シホよりも強いってとこじゃないかと思いますよ。」
「げえっ。ホント?みんな、ミリアリアさんよりも強いの?」
ミサトは、真っ青になる。だが、横から口を出す者がいた。マリューである。
「アサギ、それは違うわよ。ステラの次はフレイとシホ。その次がミリアリアよ。葛城さんはアサギと同じ位なはず。シンジ君は、おそらくマユラ以上に強いんじゃないかしら。」
これには、アサギは少し口を尖らしてそれはないんじゃないと反論する。
「何言ってるんですか、マリューさん。私がミリアリア達に負ける訳がないですよ。それに、葛城さんの強さは今見たでしょ。メイドにやっと勝った程度じゃないですか。」
だが、マリューはにっこり笑う。
「フレイとシホはね、大切な日に備えて動きを抑えていたのよ。特に足の動きをね。数日後には、強さが倍近くになってるわ。ミリアリアは、猫を被っているだけよ。本気になれば、あなたよりも強いわ。葛城さんはね、体重を半分にすれば動きが見違えるわよ。ねえ、そうでしょ。」
マリューは再びミサトを見る。
「あちゃあっ。分かっちゃいましたか。」
ミサトは苦笑いした。
「えっ、どういうことなの。」
首を捻るアサギだったが、次のマリューの言葉に納得した。
「葛城さんはね、柔道着を着ると体重が倍以上になるのよ。」
そう、ミサトの特製柔道着は、物凄く重かったのだ。



ミサトの戦いの後、今度はシンジが戦う番がきた。
「さあて、シンジ君。頑張ってね。」
「はい、頑張ります。」
ミサトの応援を受けて、シンジは気を引き締める。だが、シン以外の人と戦うのは初めてだから、緊張してしまう。最初に戦う相手は、マユラだった。相手がお姉さんということで、同世代の女の子よりは幾分戦いやすいかもしれない。
「はーい、シンジ君。頑張ってね。シンジ君が勝ったら、私も裸になって一緒に寝てあげるわよ。」
「いえ、結構です。」
思いがけない口撃に、シンジは真っ赤になる。前言撤回、結構やりにくい。マユラの裸を想像してしまって少し前かがみになってしまったシンジを、マユラは面白がって、さらにからかう。
「なあに。もう間に合っているのかしら。それとも、もっと凄いことをしてほしいの。」
「違いますっ!」
さらにシンジは真っ赤になり、マユラは大笑いである。シンジはレイの方をチラリと見るが、レイは無表情だ。特に怒っている様子はない。シンジは少し安心する。
「はいはい、マユラもそれ位にしてよね。じゃあ用意はいいかしら。では、始めて下さい。」
アサギの合図と共に、マユラはシンジに飛び掛かった。そして、右手チョップを食らわそうとした。だが、マユラの動きを見切っていたシンジは、右手でマユラの手を上手く掴んで引き寄せる。
「しまったっ!」
マユラが叫ぶと同時に、シンジの左手刀がマユラの首筋に決まる。マユラは、無言でガックリと崩れ落ちていく。僅か5秒でケリがついた。

「なっ!」
「マジ?」
「そ、そんな……。」
「碇君、凄いわ。」
「嘘……。」

周りの者は、驚きの声を発して固まってしまう。特に、マユラの強さを良く知っている、アサギ達やメイド達の驚きは大きい。
「あははっ、なんだか上手くいっちゃいましたね。僕も驚きました。」
そう。シンジは、自分がどれほどの強さのか、全く理解していなかった。



お昼時になると、シンジ達は戦いを一時中断し、皆で一緒に食事をする。
席順は、朝と一緒だ。最初は疲れていたためか、皆黙々と食事をしていたが、ミサトが最初に口を開いた。
「いやあ、参ったわ。シンちゃんて凄く強いのね。シン君がさあ、シンちゃんは格闘技の訓練は必要ないって言っていたんだけど、本当だったのね。」
ミサトは、ビール片手に既にほろ酔い加減だ。誰だ、ミサトにビールなんか飲ませたのは。

「いえ、そんなことないですよ。だって、ステラさんにはコテンパンにやられたじゃないですか。ミサトさんやアサギさん達にだって、勝てたのは紙一重の差でしたし。」
シンジは、先程の戦いを思い出した。ステラには全然歯が立たなかったし、ミサトやアサギに勝てたのだって、フェイクが運良く通じたから。次に戦えば負けるかもしれない。だから本気で言ったのだが、ミサトは冗談じゃないと切り返した。
「あのねえ、私だって口では言えないほどの修羅場をくぐり抜けて来たのよ。その私に勝つなんて、シンちゃんの強さは半端じゃないわよ。シン君の愛弟子っていうのは、伊達じゃないわね。」
そう、シンジはミサトと戦って勝っただけでなく、ステラ以外の全員に勝っていたりする。
「はあ、そうなんですか。」
シンジは、良く分からないので生返事をする。いくら年上とはいえ、女の人に勝っても強いとは思えなかったから。そんなシンジを見て、今度はアサギが声をかけた。
「シンジ君は、本当に分かっていないようね。ねえ、シンジ君。シン以外の人と戦ったのは初めてでしょ?」
「は、はい。なんで分かるんですか。」
シンジは驚いて顔をアサギに向ける。
「そりゃあ、分かるわよ。同年代の子供と戦ったら、シンジ君は無敵と言ってもいいくらいよ。例え戦自や他の軍隊の少年兵でも、シンジ君に勝てる子はそうはいないでしょうよ。それが分からないということは、すなわち戦ったことが無いっていうことでしょ。」
「は、はあっ。」
シンジは、まだ首を捻っている。ちなみに、戦いの結果は全勝がステラ。それから強い順にシンジ、ミサト、アサギ、ジュリ、マユラ、レイである。但し、マユラとレイではとてつもない差があったが。

「あのね、シンジ君。いずれ分かると思うから言っておくけど、私もマユラもジュリも、傭兵部隊や国連軍の中ではかなりの猛者で知られているの。もちろん、少年兵になんか負けたことは無かったわ。それどころか、プロの兵隊達相手でも滅多に負けない。私達は、それぐらい強いのよ。その私達に勝ったっていうことは、シンジ君はとんでもなく強いっていうことなの。」
「えっ、ええっ!」
ようやく事態を飲み込めたシンジは、今度は驚きで目を丸くする。
「ようやく理解したようね、シンジ君。」
アサギはようやく満足げな顔をする。だが、直ぐに首を傾げた。
「ねえ、ステラ……さん。どうしてこんなに強いシンジ君に、護衛なんて必要なの?」
急に話を振られたステラも、少し首を傾げた。だが、直ぐに答えが頭に浮かんだ。
「う〜ん、弾除けじゃないかしら〜っ。」
それを聞いて、その場の全員の体が硬直した。



その頃、ウルクのエージェントであるキヨコとタツヤは、レドリーの指示に従って訓練を行っていた。キヨコがギルガメッシュを操り、タツヤがエンキドゥを操ることになっていたが、どのように操るのかはまだ分からない。

「てえーーーーーーーーーーーーっ!」
キヨコの叫び声と同時に、ギルガメッシュの左手から光る槍が飛び出した。仮想敵であるサキエルは、槍にコアを貫かれて動きを止めた。これで、20戦して18勝である。
「良く出来たわね、キヨコ。」
レドリーが声をかけると、ホログラムは消えた。
「いえ、まだまだです。これから、どのような強敵と戦うのか分かりませんから。」
キヨコはそう言って笑い、更なる訓練に明け暮れた。



エヴァよりも強いと言うギルガメッシュだが、本来のシンジよりも遥かに格闘能力が高い今のシンジが操るエヴァと比べて、果たしてどちらが強いのか、それはまだ誰にも分からない。

また、本来ならばネルフVSゼーレ(+戦自)の戦いであったのだが、シンの歴史改変の影響によって、この世界ではネルフ、ゼーレ、戦自、ウルク、タロンのそれぞれが対使徒兵器を擁して対立しようとしている。

いまなお正体不明の存在であり、人類の脅威である使徒。
エヴァンゲリオン零号機、初号機、弐号機を擁するネルフ。
着々と量産型エヴァンゲリオンの開発を進めているはずのゼーレ。
対使徒用の秘密兵器を保有しているらしい戦自。
ギルガメッシュとエンキドゥの開発に成功し、タブリスXXを開発中のウルク。
タランチュラという得体の知れない秘密兵器を保有しているタロン。
ネルフ・戦自双方と関係が深く、謎に包まれた組織である飛鳥財団。

最後に勝ち残る者が果たして誰なのか、まだ知る者はいない。



To be continued...


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