新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十二話 タロンとウルク

presented by Red Destiny様


「あのお、レイさん。なんだかくっつき過ぎているんじゃ。」
登校中、レイはずっとシンジの腕を掴んで、同世代の女の子よりもかなり豊かな自分の胸に押しつけていた。アスカが転校して来るまであと僅か。その間、邪魔の入らないうちにシンジとの仲を進展させるためにと、マユミにあることないこと入れ知恵されたレイは、色々な方法でシンジの気を引く行動に出ていた。
「嫌なの?」
小首を傾げて可愛らしく聞くと、シンジはそれ以上は拒まない。悲しい男の性である。男はだれしも、美人の笑顔と豊かなバストには弱いのだ。
「いや、別にいいんだけどね。」
シンジは、今日はなんて良い日なんだろうと喜んでデレデレしていたが、もちろん後悔する日が来るのは近い。
その日、レイはずっとシンジの側に付きまとい、シンジと仲の良い恋人を演じた。無論、これで学校中にシンジとレイが恋人であるという噂が広まり、それは確定事項となっていく。



一方、家に残ったアスカは、シンジのことを色々と調べていた。恋人になると宣言した以上、シンジをレイに取られる訳にはいかない。そのためには、シンジのことをもっと良く知る必要があると考えたのだ。
引っ越しの荷物整理などはメイドに全部任せて、アスカはシンジを調べることに全力を傾けた。
その結果、シンジが幼い頃に母親と死別していること、それと前後して父親とは別に暮らすようになったこと、あまり明るい性格ではないことなどが判明した。
「実の親とは暮らせずに、見知らぬ他人と暮らすようになったのか。なんだか可哀相ね。でも、なんだか資料と実物とは少し違うようね。」
アスカから見て、シンジはさほど暗い性格には見えなかったのだ。
「でも、それはアタシも同じか。アタシが、会って間もない男とキスするなんて、誰も信じないわよね。」
当の本人でさえ信じられないのだから無理も無い。
「シンジって、笑顔がとってもいいのよね。それに、悔しいけど3年前のシンに瓜二つっていうのも大きいかもね。あ〜あ、シンが女たらしじゃなかったら良かったのになあ。いくらなんでも、女の子との噂が多すぎよねえ。」
そう、アスカの耳にもシンの噂話は良く入ってきていたのである。もちろん、その多くは良くない噂である。
「でも、シンジはどうかなあ。シンジはシンとは違うわよね。ううん、アタシが教育してやればいいのよ。」
アスカはそう決心すると、拳を強く握りしめた。



アスカとレイがシンジの争奪戦を始めようとしていた頃、国連では大変な事態が起こっていた。突然、2つの組織がネルフと同じ特務権限を得ることを主張したためである。それらの組織の名は、タロンとウルク。双方の組織共に、使徒と戦えるだけの戦力があると主張し、ネルフと同等の特務権限を主張したのだ。

タロンは、アメリカを中心に日米欧に勢力を持つ組織で、対使徒兵器『タランチュラ』を所有しているという。詳細は不明だが、タロン曰く、エヴァンゲリオンよりも数段強いという。

ウルクは、アジア全域に勢力を持つ組織で、対使徒兵器『ギルガメッシュ』を所有しているという。詳細は不明だが、ウルク曰く、これまたエヴァンゲリオンよりも数段強いという。

無論、ネルフは両組織の主張に反対したが、『セカンドインパクトの再来を防ぐためには戦力は多い方が良い。人類が生き残る手段を、選ぶ余裕はない。』という両組織の主張には説得力があり、次第に賛同する国が増えていった。

これに対して、ネルフは次の様な反論をした。

指揮命令系統が混乱するのは好ましくない。
使徒は進化する可能性があるので、下手な攻撃はしない方が良い場合もある。
他の組織の兵器が、使徒に対抗しうるかどうか、現段階では不明である。
『対使徒兵器』をネルフに提供するならば検討しても良い。
少なくとも、使徒に対する指揮権はネルフ以外には認められない。

要は、対使徒兵器をネルフに提供すること。それが出来ない場合は、ネルフの指揮下で戦うこと。つまり、特務権限はネルフ以外には認めないというものだ。
もちろん、タロンもウルクもこのような主張を認めるはずがない。結局、ネルフが使徒を倒せないと判断された場合、又はネルフから指揮権が移譲された場合に限って、両組織の特務権限が限定的に発動されるという折衷案に落ち着いた。
仮に、どちらかの組織の対使徒兵器が使徒を倒した場合は、その段階でネルフと同等の特務権限を与えることを検討することも決定した。

そして、この情報は直ちにゲンドウの元に寄せられた。



ゲンドウは、すぐさま加持を呼び出した。
「君は、こんな動きがあるのを掴んでいなかったのかね。」
最初は、冬月が加持を詰問した。だが、加持は少しも悪びれた様子を見せなかった。
「すみませんねえ。正直言って、全く情報はありませんでしたよ。ですが、ネルフとゼーレの情報網をすり抜けるなんて、大した奴らですよ。」
「そうは言ってもだな。これだけの大がかりな仕掛けだ。何の前触れも無かったというのは信じ難いのだがね。」
冬月は、苦虫を噛み潰したような顔をした。暗に、情報収集にミスがあったと言っている。遠回しに加持を責めているのだ。
「確かにそうですな。」
加持は、あっさりと自分の非を認めた。どのような理由があるにせよ、これだけの大きな陰謀を事前に察知出来なかったのは、加持や諜報部に責任があるのは明白だからだ。ネルフは学校ではない。頑張ったからそれでいいということにはならないのだ。結果が全てであるし、言い訳は許されない。
「まあいい。君を責めても事態が良くなるわけでもない。今後は、どんな些細なことでもいい。彼らの情報を集めるんだ。」
冬月は、加持への責任追及については言及しなかった。おそらく、今後の働き次第ということなのだろう。加持は、皮一枚で首が繋がった状態であることを瞬時に理解した。
「ええ、分かってます。既に、手は打ってあります。」
そう言うと、一転して加持は真剣な表情になる。すると、そこにミサトとリツコがやって来た。

「司令、急用とのことでしたが、どのようなご用件なのでしょうか。」
ミサトが凛々しい顔で問いかけ、これに冬月が応えた。
「実は、ネルフと同じ特務権限を与えよと言う組織が、2つも名乗りをあげたのだよ。」
「な、なんですって!」
ミサトは身を乗りだし、驚きの表情を浮かべた。だが、冬月はミサトに落ち着く様に言って、話を続けた。
「もちろん、我々が承服出来るわけがない。だがね、我々が使徒を倒せなかった場合は、彼らに指揮権が移ることになった。それを肝に銘じていてほしい。」
「はい、承知しました。」
ミサトは、間髪入れずに答えた。だが、リツコは首を傾げた。
「ですが、副司令。彼らは使徒に対して、効果的な攻撃が行えるのでしょうか。甚だ疑問なのですが。」
これに対して、冬月は何度も頷く。
「その通りだよ、赤木君。だから、彼らが使徒を倒さぬ限り、彼らに特務権限を得ることはない。」
「その組織は、そんなことも分からないような愚かな組織なのかしら。それとも本当に使徒を倒せる兵器を所有しているのかしら。どっちなんでしょうか?」
ミサトがふと口に出した言葉に加持が応える。
「俺は、後者だと思うぜ。ネルフや委員会を出し抜いてこんなことが出来る組織だ。少なくとも、愚かな組織ではないと思うがな。」
だが、これにはリツコが黙っていない。
「加持君。使徒に対抗出来る兵器はエヴァンゲリオンだけよ。だから、ネルフの優位は動かないわ。」
リツコが少々怒気を込めてきたので、加持はリツコにこれくらいで怒らないでくれよと言いつつ、ミサトの方を向いた。

「実は、葛城に頼みたいことがあるんだが、聞いてくれないか。」
「えっ、なによ。」
ゲンドウや冬月の前なので、ミサトは無難に応えた。すると、加持はニヤリと笑った。
「明日でいいんだが、飛鳥シン君をここに呼んで欲しいんだ。」
「へっ。な、なんでよ。用があるなら、アンタが呼べばいいでしょ。」
ミサトは、なんで私がと露骨に嫌な顔をした。これには冬月も疑問に思い、加持に問いかけた。
「加持君。一体、なんで彼をここに呼ぶのかね。それも、葛城君が呼ぶとはどういうことかね。」
「理由は簡単です。彼は、少なくとも我々よりもタロンとウルクの情報に詳しいはずです。ですから、明日にでも彼を呼んで話を聞こうと思います。葛城が呼ぶのは、その方が彼が来る可能性が高いからです。」
加持の考えでは、司令に呼ばれたとなるとシンは身構えてしまって来ない可能性があるが、ミサトが一緒に行って欲しいと言えば、シンは断らないというのだ。
「ふうむ、なるほどな。だがね、加持君。彼が我々よりも情報を持っているというのは本当かね。」
「ええ、確かです。タロンは、その母体が複合企業体であることまでは分かっています。その企業体と飛鳥財団とは、比較的良好な関係を保っています。ですから、ある程度の情報があると思われます。ウルクについても、飛鳥財団の傭兵部隊との関係が深いことが分かっています。ですから、同様に情報を持っているものと思われます。」
「う〜む。すると、彼は敵側の人間かもしれないのか。」
冬月は唸ったが、加持はそれはないと否定した。
「飛鳥シンが敵ならば、彼はネルフになどは来ないでしょう。しかも、私の調べた限りでは、シンジ君やアスカに相当信用され、懐かれている。私の勘では、彼がネルフに来た最大の理由は、シンジ君やアスカを守ること。おそらく、シンジ君達がネルフに居る限り、彼はネルフの味方となるでしょう。」
「ふうむ、何故そう思うのかね。」
それは、冬月以外の者も持った疑問だった。加持は、少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと答えた。

「そうですね。例えば、ステラ・ルーシェ。彼女は、エヴァンゲリオンのパイロットを暗殺する密命を受けていました。」
「「「えっ!!!」」」
ミサト、リツコ、冬月の3人が、驚いて大声を出した。
「ですが、暗殺を実行する気配がない。それどころか、守る側になっている。それは、何故だと思います?」
「ほ、本当かね、今の話は。」
「ええ、事実です。戦自は、対使徒兵器を秘密裏に完成させていました。それで、ネルフとエヴァが邪魔になったのです。」
「そうか。パイロットを亡き者にしてしまえば、エヴァンゲリオンは無力だ。しかも、ネルフを攻撃するよりも、パイロットの暗殺の方がたやすい。ん、待てよ。まさか……。」
「ええ、そのまさかです。おそらく、タロンやウルクも同じことを考えているでしょうよ。今頃は、この第3新東京市に無数の暗殺者が集まっていてもおかしくありません。」
「そ、それはまずい。チルドレンの警護を強化せねば。」
冬月の顔が青くなったが、加持は今は平気でしょうと言う。
「おそらくは、飛鳥財団の傭兵部隊の者だと思いますが、既にチルドレンに対して万全の警備が行われています。さらには、次の土曜日からはGOSPが正式に発足します。たかが子供と侮っていましたが、彼らの存在は思った以上に大きいですよ。」
「なぜだね。たかが20人程度の子供達だろうに。大した戦力にはならんだろう。」
冬月の言葉に、確かにそうですがと加持は頷いた。
「ええ、戦力としてはそうです。ですが、あの子達は戦自からいったん飛鳥財団に出向し、それからネルフに出向という形をとっていました。つまり、あの子達はネルフ、戦自、飛鳥財団の3者に所属しています。すなわち、あの子達を攻撃することは、この3者を敵に回すことになるのです。」
そこで、冬月の代わりにミサトが口を出した。
「そうか、分かったわ。GOSPを攻撃すれば、戦自のジェノサイド・ステラとライトニング・タリアを敵に回す。飛鳥財団という組織や、その傭兵部隊も敵に回す。ネルフ単体を攻撃するだけじゃ済まないってことね。」
加持は、ミサトの言葉に頷くと、再び冬月やゲンドウを見た。

「ああ、その通り。世界中で、既に動きが出ているんですよ。

裏の世界では、GOSPを攻撃した者は、デス・スマイルのマリューの名に於いて殲滅する。
傭兵の世界では、GOSPを攻撃した者は、サンダー・ウエーブのアサギの名に於いて殲滅する。
戦自では、ステラを攻撃した者は、ライトニング・タリアの名に於いて殲滅する。
日本では、GOSPを攻撃した者は、ジェノサイド・ステラの名に於いて殲滅する。
ヨーロッパでは、アスカを攻撃した者は、アイスハートのナタルの名に於いて殲滅する。

そんな話が凄い勢いで広まっていました。これに対して、幾つかの組織がレイちゃんの暗殺を公言したところ、翌日にはそれらの組織は全滅しました。数百人規模の死傷者も出ています。それ以降、冗談でもチルドレン暗殺を公言する組織は無くなりました。」

「「「なっ!」」」
またもや、ミサト達は驚いた。だが、加持は話がそれたので元に戻しましょうと言った。

「ステラが飛鳥シンの仲間になったのは、間違いありません。私の調べたところによると、ステラはチルドレンに会った瞬間に暗殺を実行するような暗示もかけられていました。ですが、その暗示はもう解かれているようです。それを実行したのは、飛鳥シン、彼に間違いありません。戦自のかけた殺人暗示を解くなんて芸当が出来る組織はそう多くありませんからね。彼は、アスカやシンジ君を本気で守ろうとしています。そのために、暗殺の実行者になるはずだったステラを仲間に引き入れたのです。」
加持の話によると、ステラは現在戦自で最も優秀な暗殺者らしい。そのステラを味方にすれば、少なくとも戦自の暗殺者からチルドレンを守るのに有利であるし、心強い。ステラの悪名は裏の世界でも知れ渡っていることから、他の組織にも牽制がきく。
ステラの殺人暗示を解けたのも、大勢の戦自関係者とつながりがあるシンならば、暗示を解く情報の入手が可能だったからだという。そこまでするシンが、ネルフの敵だとは考えられないというのが、加持の意見なのだ。

「でも、よくそんな凄い子が仲間になったわね。加持、理由は分かる?」
ミサトの問いに、加持は困った顔をした。
「ああ、あくまでも推測だがな。ステラが初めて好きになった男は、どうやら飛鳥シンらしいんだ。血に飢えた狼だとか、殺人鬼だと言われているが、根は年頃の女の子っていうわけだ。」
これには、その場の全員が呆気にとられた。



同時刻、とあるビルの一室で、時田シロウは、部下から提出された書類を読んでいた。
「ふうむ、GOSPですか。厄介ですね。」
それを聞いた秘書の女性は、首を傾げた。
「たかが20人の子供達の、どこが厄介なんでしょうか。」
すると、時田はふっと深いため息をついた。
「GOSPの隊長は、あの、戦自のジェノサイド・ステラですよ。一筋縄ではいかないでしょう。それ以上に悩ましいのは、責任者があの、飛鳥シンであることです。彼の企業グループと我々は、極めて友好的な関係にあります。その関係を壊してまで、ネルフのチルドレンに手を出す訳にはいかないでしょう。」
だが、秘書はまだ納得しない様子。
「ですが、彼はどこまで本気なのか分かりません。何か、裏付けがあるのでしょうか。」
時田は、秘書に報告書を差し出した。
そこには、時田の持つ情報網の総力をもって探し当てた事実が載っていた。

・シンが、既に2007年には、惣流アスカの護衛専任部隊を結成していたこと。
・シンが、2008年に碇シンジと知り合い、その後兄弟のように仲が良いこと。
・シンの妹カガリが、アスカの親友であること。
・シンの妹マユミが、レイと親友であること。
・シンが、傭兵部隊の精鋭を集めて、親衛隊と呼ばれる部隊を組織していること。
・その親衛隊のメンバーが、アスカ達と一緒に暮らしていること。
・親衛隊のメンバーが数人、GOSPに加わっているらしいこと。
・飛鳥財団の傭兵部隊のうち、2個中隊が派遣され、チルドレンを護衛していること。

「それを見れば分かるでしょう。彼は、自分の持つ最精鋭部隊を、チルドレンの護衛に就かせるようです。それだけ見ても、本気であることが分かりますよ。でも、かなり常軌を逸しているような感じですね。どうしてここまでして守ろうとするのか、是非知りたいものです。」
「では、彼女達を潜り込ませますか。」
彼女達とは、もちろんタロンの優秀なエージェント達のことである。
「ええ、そうして下さい。そうですね、チルドレンの通う学校にでも潜り込ませて下さい。ですが、これだけは気をつけて下さい。チルドレンには、命令が無い限り絶対に危害を与えないこと。いいですね。」
「はい、仰せのままに……。」
秘書は、一礼すると部屋を出た。そしてしばらくすると、時田は急に笑いだした。
「ふふふっ、なかなか思う様にはいかないようですね。ですが、最後に笑うのは私ですよ。ネルフも、ウルクも、戦自も、飛鳥財団も、ゼーレも、私の前にひれ伏すでしょう。」
そう言って、時田はなおも笑い続けた。



To be continued...


(あとがき)

加持の情報は、やや精度が低いようです。7話のステラとシンの会話と比べると、加持の情報の誤りがわかるでしょう。

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