新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十三話 レイ、シメイ

presented by Red Destiny様


ミサトは最後まで嫌がったが、最終的にゲンドウの命令でシンを呼び出す役目を引き受けることになった。

「あ〜あ、参ったわね。なんだか、シン君には言いづらいわね。」
ゲンドウの部屋を出てから、ミサトはリツコの部屋に寄ってコーヒーを飲んでいた。
「しょうがないじゃない。仕事なんだから。あんまり深く考えないで、『シンく〜ん、ちょっち来てちょ〜だい。』って言えば済む話じゃない。別に、シン君を詰問する訳じゃなし。少々事情を聞くだけでしょう。」
リツコの慰めにも、ミサトの心は晴れない。
「そうよねえ。まあ、それはいいとして、驚いたのはステラのことよ。あの子が戦自随一の暗殺者だなんて今でも信じられないし、シン君が初めて好きになった男だから言いなりになっているなんて、どうしても信じられないのよね。あんなことを聞いちゃうと、二人に会いにくいわ。」
ミサトの意見に、リツコも相槌を打つ。
「確かにそうね。私も、まさかシン君がそんなジゴロみたいな子だとは思えないけど、かといって私達が考えていたようなヤワな子じゃないのも事実のようね。加持君ですら、シン君の尻尾をなかなか捕まえられないっていうし。今も所在が掴めないんでしょ。MAGIの目をかいくぐるなんて、ただ者じゃないわね。でも、ミサト。連絡が取れないんなら、明日呼ぶなんて無理じゃないかしら。」
リツコは眉をひそめたが、ミサトはそれはなんとかなるだろうと請け負った。
「ううん、連絡は取れるのよ。シン君の所在は、マリューさんなら完全に把握してるはずなの。ただ、所在は教えてくれないのよね。連絡も、マリューさんに頼んでも確実じゃないのよ。断られる可能性があるわ。」
実際に、今朝シンの所在を聞いたところ、マリューからはやんわり断られている。
「じゃあ、断られたらどうするの?」
リツコの問いかけに、ミサトは苦笑い。
「加持や碇司令達には秘密だけど、確実に連絡が取れる手段があるのよ。」
「えっ、どうするの?」
ミサトは、それには直接答えず、黙って見ててと言って携帯端末を取り出した。そして、幾つかのボタンを押して耳にあてた。

「ああ、アスカ?ごめーん、ちょっち頼みがあるんだけど。」
ミサトは、シンと緊急に連絡が取りたいので協力するようにアスカに頼んだ。確実な手段とは、アスカを通じてシンに連絡することである。
「ええ、いいわよ。お安いご用よ。」
アスカは二つ返事で承諾し、メールでもいいか、直接話したいのか聞いてきた。ミサトは少し迷った末に、メールでもいいと答えた。直接話さない方が、少しだけだが気が楽だからだ。
それから待つこと数分。シンからメールが届いた。『現在多忙につき、用件をメールで送られたし。』
ケータイを覗き込んだリツコは、目を見開く。
「まあ、凄いじゃない。アスカ、様々ね。私もこの手を使おうかしら。」
驚くリツコに、ミサトはまたもや苦笑い。
「でもね、アスカに頼みごとをすると、後でまとめて何か借りを返さないといけなくなるのよ。それもね、大抵は凄く面倒なことなのよね。だからこの手は使いたくはなかったんだけど。」
そう言いながら、ミサトは用件をメールで送る。数分後、シンから『了解。』と短い返答があり、ミサトはほっと一息ついた。

「ふうっ。どうやらシン君は来てくれそうよ。」
ミサトは、肩をなで下ろす。
「よかったじゃない、ミサト。でも、加持君の話ってどう思う?」
リツコは、加持の話を額面通りには受け取っていないようだ。
「そうねえ。いくらあいつでも、碇司令の前でデタラメなことを言うはずがないし、何らかの裏付けがあってのことでしょうね。でもね、思い当たる節もあるのよね。」
「それは、どの話なの?」
リツコは、その話しに食いついた。
「シン君はね、シンちゃんを弟のように可愛がっているのよ。アスカもそう。実の妹みたいな感じなのよね。だから、シン君が二人を守ろうとしているのは本当だと思うのよ。」
「あら、そっちの方なのね。」
リツコは、ちょっぴりがっかりしたようだった。まったく、リツコは一体どんなスケベな想像をしていたのか、1時間ほど問い詰めたいとミサトは考えたが、後が怖いのでそれはやめておいた。ミサトは、一息ついてコーヒーをすすると話を続ける。
「ううん、それだけじゃないの。一緒に住んでいるから分かるんだけど、ステラさんはもちろんのこと、一緒に住んでいる女の子は全員シン君のことが好きみたいなのよ。ステラさんも、好きな男だから言うことを聞いているという感じが確かにするわね。」
まあ、確かにそれは事実なのだが。
「そう言えば、ステラさんと初めて会った時に言っていたわよね。『シン・アスカ殿やナタル殿のことを大変尊敬しておりました。』って。あの後、シン君が上手いことステラさんを口説き落としたとみるのが自然だけど、どうかしらね。」
残念!ステラがシンに一目惚れしたのは、もう何年も前の事。
「あらあ、良く覚えているわね。実はシン君は、ステラさんが自分のことを憧れているのを知っていて、それで味方に取り込むことにしたのかもね。加持の話が本当だったら、ステラさんなんか、真っ先に抹殺されそうだもの。」
リツコはそうねと言って頷いたが、少し考える素振りをした後で聞いてきた。
「ねえ、ミサト。ちょっと聞きたいんだけれど、あなたはシン君のことをどう思っているの?やっぱりいい子だって思っているの?」
リツコの問いに、ミサトは当然でしょと答える。
「まあね。あの子が小さい頃から知っているし。少なくても、私の前ではいい子にしてるわね。こういう言い方は嫌なんだけど、シン君の周りの大人達がシン君に隠し事をしているんじゃないかしら。例えばよ、悪者をやっつけるなんて言っておいて、実際は殺していたりとかね。」
ミサトは、あくまでもシンを信じるつもりのようだ。
「そうねえ、あり得るわね。というか、そうあって欲しいわね。実はね、加持君が以前言っていたんだけれど、シン君達はとんでもない連中だって。良いのか悪いのかは別にして、確かにとんでもない力を持っていると思わない?」
リツコはそう口にしたが、まさか使徒の力まで持っているとは、想像だにしていない。
「ええ、そうかもね。シン君の家のメイドさんは、全員レイよりも遥かに強いし。あの家の人達は、並の人間はいないのよ。シン君自身も大金持ちだし、お父さんもそうだから、凄い権力を持っていそうね。でもね、味方だったら心強いわ。私は、シン君は私達の味方になってくれるって信じているわ。」
「確かにそうね。今後も味方であってほしいわね。」
二人は顔を見合わせて深く頷いた。

リツコは、加持が先日と違って、シンのことを敵視していないことに気付いていた。シンがアスカやシンジを本気で守ろうとしているからだろうが、それ以外にも何かを探り出したのかもしれない。
いずれにせよ、貴重なチルドレンを守ってくれるのなら、少なくとも今は味方であるし、アスカやシンジがネルフにいる限りは、味方であり続ける可能性が高い。
「大丈夫よ。私に任せなさいって。シン君は、私の言うことなら大抵きいてくれるわよ。」
だが、ミサトが言うとリツコは少し不安になるのであった。



その日の晩、夕食後にアスカとレイは対峙した。
席順は、下記の通りである。当然ながら、シンジは逃げたくても逃げられない。


      アスカ カガリ ラクス マリュー アサギ ジュリ
    ┌−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┐
シンジ|                                      |ミサト 
    └−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┘
      レイ  マユミ マユラ ミリアリア ステラ


「だ〜か〜ら〜、シンジはアタシのものだってさっきから言ってるでしょ!何度言えば分かるのよっ!」
アスカが怒り狂って机を叩くが、レイは素知らぬ顔で答えた。
「碇君は、モノじゃないわ。人間よ。だから、あなたのモノじゃない。」
「そうじゃないでしょ!シンジはアタシの恋人だって言ってるのよっ!」
そう言いながら、アスカはまたもや机を叩く。
「碇君は、私の恋人。あなたよりも、私の方が先に付き合うことになったわ。」
だが、あくまでもレイは冷静に答える。だが、アスカの怒りは収まらない。
「アタシはねえ、シンジと寝たのよっ!」
「私も一緒に寝たわ。」
「意味が違うわよっ!アタシのお腹の中にはねえ、シンジの子種が3発分も詰まってるのよっ!」
アスカはそう言いながら、お腹をポンポン叩く。それが真っ赤な嘘だと知らない皆は、一斉にシンジを見る。

何でそんな嘘を言うのさと思いながら、シンジは真っ青になって首を横に振ったが、誰にも信じてもらえなかったようだ。シンジは、心の中で滝の様な涙を流す。レイはというと、いち早くアスカの方を向いた。
「じゃあ、それが無くなれば、あなたは恋人ではなくなるのね。」
「そういうことじゃないでしょっ!」
「私のお腹の中にも、20発以上入っているわ。」
もちろん、これも真っ赤な嘘である。マユミに、こう言うように仕込まれたのだが、そんなこととは露知らず、皆はシンジをキツイ目で見る。何で二人とも、そんな嘘ばかり言うの。僕のことが嫌いになったのと、シンジはいたたまれない気持ちになった。やはりシンジは、女心が全く分かっていない。

「アンタは、どうせ口から飲んだんでしょ!そんなの無効よっ!」
「あなた、何が言いたいの。支離滅裂ね。」
アスカとレイの言い合いは、ややレイに有利に運んでいった。やはり、日本語に慣れないアスカでは、マユミに鍛えられ、入れ知恵されているレイ相手では分が悪かったようだ。

結局、どちらが恋人なのか、シンジに選んでもらおうという話しになったが、こんな修羅場で答えられる男は滅多にいない。普通の男よりは明るく陽気な性格になったシンジではあったが、さすがにアスカの烈火のような剣幕と、レイの氷の様に冷たい視線の前では、一言もしゃべることが出来なかったのである。
そこで、最後にはマリューの提案で、結論を出すのはもう少し先にすることにして、それまでは、暫定的に二人とも恋人ということにした。
シンジと一緒のお風呂に入るのは、アスカとレイが一日交代で、一緒に寝るのもの同様にした。また、お風呂に入る日と一緒に寝る日は同じ日とした。
そのうえ、優先的に側にいられる日も交代とし、一緒に寝る日と合わせることにした。要は、片方が一日中シンジを独占した翌日は、もう片方がシンジを独占するのである。
もちろん、この取り決めがされた時も、シンジは一言も声を発していない。最後に、今日はどちらと一緒にお風呂に入るのかと聞かれた時だけ声を発したのである。

シンジはこの時、明日の夜にアスカと一緒に寝る約束をしていることを思い出して、レイを相手に指名した。だが、これは大きな失敗であった。アスカは物凄い形相でシンジを睨み、レイは勝ち誇った顔をアスカに向けたからである。こういう場合は、ジャンケンやコイントスなど、シンジの意思を示さないやり方の方が良かったのだ。どちらを選ぶにせよ、もう片方が怒り狂うからである。
「それじゃあ、碇君。風呂に入るわ。」
レイは、シンジの手を掴んで風呂に向かう。シンジは、アスカの睨み付ける様な視線に自らの失敗を悟ったのだが、後の祭である。
「あっ、私も。」
レイの後にマユミも続く。
「「じゃあ、私達も。」」
ラクスとカガリが立ち上がったが、レイが振り返った。
「あなた達は、駄目。」
レイの刺す様な視線に、ラクスとカガリは諦めざるを得なかった。



翌日、シンはネルフへと出向いた。シンは、最初にミサトの所に向かったが、ミサトに会うと何かいつもと様子がおかしい。そこで何かあったのか聞いてみると、とにかく来て欲しいと言われ、ミサトの後を着いて行った。そして、ゲンドウのところに連れて行かれたのである。

ゲンドウの所には、冬月、リツコ、加持の3人が待ち構えていた。
「おや、これは珍しいですね。ネルフの幹部が勢揃いとは。余程、重要な用件なんでしょうね。」
シンが苦笑いすると、最初に冬月が口を開いた。
「ああ、そうなのだよ。実は、ネルフと同じ特務権限を要求する組織が2つも現れてね。ところが、彼らについての情報が不足しているのだよ。君なら何か知っているのではないか、そう思ってね。」
冬月は、本当に困った様な顔をした。
「ああ、そういうことですか。で、ミサトさんも知りたいと。」
シンがそう言うと、ミサトは大きく頷いた。
「分かりました。僕が知っていることは、そう多くはないですが。出来る限り教えましょう。その前に、ネルフ以外に対使徒兵器を所有又は開発している組織ですが、8つほどあります。ウルク、戦自、タロン、日本重工、米軍、露軍、中国軍、EC軍です。そのうち、本当に使徒に通用しそうな兵器は、ウルク、戦自、タロンの所有兵器です。」
「なんですって!」
使徒に通用しそうという言葉を聞いて、リツコは怒って真っ赤になった。それを、ゲンドウが目で制する。リツコが大人しくなった頃合いを見て、シンは話を続ける。

「ウルクというのは、中東に勢力を持つ組織ですが、そのトップは日本人又は日系人らしいということまでは分かっています。ギルガメッシュという対使徒兵器を持っていますが、これについて分かっているのは、巨大なサイボーグらしいとういうことだけです。
また、特殊能力を持つ人間を集めた傭兵部隊を有しているという噂がありますが、その真偽は分かりません。確かなのは、数百人以上の傭兵部隊を有していることです。

戦自については、自走式陽電子砲を開発しており、これは運用次第では十分使徒に通用するものと考えられています。また、それ以外にも対使徒兵器を開発中という噂があります。
震電や雷電と呼ばれる兵器ですが、戦闘ヘリの武装と機動力を大幅に強化したものらしいです。ですが、陸上軽巡洋艦という名で呼ばれているという情報もあり、想像を絶する兵器である可能性もあります。陽電子砲の搭載も検討しているとか。

タロンというのは、日米欧の企業連合が母体の組織であると思われます。そのトップはヨーロッパ系の白人らしいのですが、素性は分かりません。その代わり、ナンバー2の正体は判明しています。数年前まで日本重工にいた、時田シロウという男です。
タロンはタランチュラという対使徒兵器を持っていますが、これは純粋に機械で構成される兵器のようです。変形が可能という情報や、海中を移動出来るという情報もあります。どうやら、人間が操縦したり遠隔操作で動くのではなくて、人工知能搭載型のようです。
この組織も傭兵部隊を有していますし、特殊部隊もあるようですが、詳細は分かりません。宗教団体とつながりがあるという噂もあります。

とまあ、僕が知っているのは概ねこんなところですが、いかがでしょうか。」

シンが話し終えると、主に冬月が色々と聞いてきた。それに対して、シンは可能な限り答えたが、それでも多くの事柄が謎のままだった。

次に、加持がシンに問いかけた。
「シン君。君は、奴らが今後どう出るのか想像がつくか?」
シンは、それを聞いて苦笑した。
「そんなこと、決まってるじゃないですか。ネルフや他の組織の戦力を削ぐために、あらゆる手段を用いてきますよ。例えば戦自の一部勢力は、ネルフ幹部やシンジ達パイロットの暗殺を狙って、少なからぬ暗殺者を送ろうと企んでいますよ。ウルクやタロンの工作員も、多数この第3新東京市に潜入しています。今のところは偵察が主な任務でしょうが、そのうちにテロ行為を始めるかもしれませんよ。」
それを聞いたミサトの目の色が変わった。
「ちょ、ちょっと、シン君。そこまで分かっていて、何で教えてくれないのよ。」
対するシンは、涼しい顔だった。
「だって、ミサトさんに言ってもしょうがないでしょ。何の証拠も無いのに、ミサトさんが動く訳にもいかないでしょ。だから、僕がここに来たんですよ。シンジやミサトさんが狙われないようにね。」
「ど、どういうことよ。」
「僕は、結構戦自に知り合いが多いんですよ。その線から、僕がネルフにいる間はネルフに敵対行動を取らないようにお願いしてあるんです。また、戦自に睨みが利く人物の派遣をお願いしたら、ステラが来たという訳です。ステラって、戦自では結構有名人らしくって。ステラがいる限り、滅多なことでは戦自はネルフに敵対行動をとらないそうですよ。

ウルクについては、彼らの傭兵部隊と飛鳥財団の傭兵部隊とが表面上は友好関係にあります。そこで、先日傭兵部隊の司令を通じて、僕がネルフに留まる限り敵対行動をとらないように頼んでいます。ですから、表立ってネルフに敵対するようなことはないでしょう。

タロンについては、母体である企業連合が飛鳥財団の企業の多くと友好関係にあります。そこで、マリューさんを通じて同じことを頼んでいます。

という訳で、僕がネルフにいる限り、シンジやミサトさんは比較的安全です。安心して使徒と戦えるっていう訳です。」
そこまで言うと、シンはにっこりと笑った。

「なっ……。」
驚くミサトとは対照的に、加持は冷静な口調で呟いた。
「なるほどな。シン君がいなければ、今のネルフでは彼らとの争いで疲弊してしまうだろう。当然、使徒との戦いに影響が出るな。」
加持は、ミサトの前だったので、かなり穏当な表現を使った。だが、本当は分かっていた。シンがいなければ、この場の誰かが他の組織の攻撃で死んでいてもおかしくない状況であることを。

「何故だ……。」
そこで唐突にゲンドウが口を開いた。
「何故って?どういう意味ですか。」
シンが首を傾げると、ゲンドウは再び聞いた。
「何故、ネルフの味方をする?狙いは何だ?」
それを聞いて、シンは苦笑した。
「何か、勘違いしていませんか。僕は、ネルフの味方なんてする気はありませんよ。」
「なんだと……。」
ゲンドウの眉が動く。
「僕は、どっちかっていうと反ネルフ陣営の方と仲が良いんですよ。だから、いつネルフを見限るかもしれませんよ。シンジがネルフを出れば、僕も一緒に出ますよ。まあ、せいぜいシンジに見放されないようにしてくださいよ。」

だが、これにはミサトが黙っていなかった。
「ちょっと、シン君。私を見捨てて行くつもりなの。そりゃあ、あんまりじゃない。お姉さんは悲しいわ。」
ミサトはそう言いつつ、オヨヨと泣きまねをした。リツコが『お姉さんて誰よ。』と突っ込みを入れたが、加持が吹き出しただけで、シンは再び苦笑した。
「大丈夫ですよ、ミサトさん。その時はミサトさんも一緒に出てもらいますから。」
「そんなの、却下するわよ。」
直ぐにミサトは反対した。だが、シンは続けて言った。
「ミサトさんのために、ウルクやタロンみたいな組織を創ってあげますよ。ミサトさんはそこの司令で、戦自や国連の一部、そうですねえ数千人ほどですかねえ、それらの部隊と戦自の対使徒兵器も併せて指揮する。武器弾薬の制限は無制限で、予算は潤沢。それならいかがですか。」
「えっ!」
ミサトは唖然とした。だが、シンの財力ならば可能かもと思い、でもゲンドウが目の前にいるのでウンとも言えずに固まってしまった。
「そんなことが可能なのかね。」
ミサトの代わりに冬月が驚いて聞く。
「ええ、もちろんですよ。準備は全て整っていましたし、ウルクやタロンの対使徒兵器もあわよくば頂こうと思っていましたから。正直言って、ネルフなんて目じゃないですよ。シンジさえ反対しなければ、葛城司令が誕生していたはずです。もっとも、シンジが心変わりさえすれば、1カ月以内に新たな特務機関を組織することは、十分実現可能ですよ。」
ウルクやタロンの対使徒兵器をせしめることなど、誰がどう考えても不可能なのだが、シンがあまりに自信満々なことから、その場の誰もが半ば信じかけた。そして、シンに底知れぬ力を感じて、その場の皆が黙ってしまった。



同時刻、某国の砂漠では、ウルクの対使徒兵器『ギルガメッシュ』(サキエルXX)と『エンキドゥ』(ゼルエルXX)が模擬戦闘を行っていた。
「行くわよ、タツヤ。今日からはシミュレーションではなくて、より実戦に近い訓練になるわよ。気を抜かないで。」
「うん、分かっているよ姉さん。でもね、姉さんこそしっかりやってよね。」
「なによーっ、ナマ言うんじゃないの!」
その言葉を皮切りに、ギルガメッシュがエンキドゥに襲いかかる。

その様子を、遠くから見つめる目があった。ウルクの盟主、レドリーである。
「ふっ。やったわね。ようやく実戦に投入出来るところまでこぎつけたわ。これで、我らの勝利は約束されたようなもの。ゲンドウも、時田も、飛鳥シンも、キールも、皆私の前にひれ伏すのよ。」
レドリーは、そう言って冷酷な笑みを浮かべた。



渚カヲル  いまなお正体不明の存在であり、人類の脅威である使徒の最後の使者。
ゲンドウ  エヴァンゲリオン零号機、初号機、弐号機を擁するネルフの司令。
キール   着々と量産型エヴァンゲリオンの開発を進めているはずのゼーレの議長。
レドリー  ギルガメッシュとエンキドゥの開発に成功し、タブリスXXを開発中のウルクの盟主。
?と時田  タランチュラという得体の知れない秘密兵器を保有しているタロンの謎のトップとナンバー2。
飛鳥シン  謎に包まれた組織である飛鳥財団代表であり国連軍中将。
碇シンジ  エヴァンゲリオン初号機パイロットにして、主人公。


最後に笑うのは、果たして誰なのか……。



To be continued...


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