新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十四話 アスカ、暴発

presented by Red Destiny様


シンがミサトやリツコと共に去った後、冬月はため息をついた。
「加持君。君は彼の話をどう思うかね。」
それに対して、加持もため息をつきそうだったが、何とか堪えた。
「おそらく、全部本当でしょう。少なくとも、それで全ての辻褄が合います。彼は、最初は反ネルフの組織を創ろうとした。その過程で他の組織の動きも掴んだ。だが、シンジ君が反対したために断念した。その後は、シンジ君を守るために全力を尽くしている。そのために、ネルフに来ることにもなった。そんなところですかね。嘘みたいな、本当の話でしょう。碇司令も、父親想いの良い息子さんを持ちましたね。」
だが、加持の皮肉をゲンドウは黙殺した。
「君は、引き続きウルクとタロンを調べてくれ。私は戦自にあたる。まさか、陽電子砲以外の対使徒兵器を持っていようとはな。」
そう言って、ゲンドウは眉をひそめた。
「ああ、一杯食わされたな。だが、戦自ならば兵器の徴発も出来るだろう。思わぬ拾い物になるかもしれんな。」
冬月の言葉に続いて、加持は念のためですがと前置きして聞いた。
「飛鳥財団は調べなくてもいいんですかねえ。」
「ふむ。出来ればそうしたいが、後回しでも良かろう。差し当たっての敵は、ウルクとタロンなのだからな。当面は、その2つの組織の調査に全力を注いでくれたまえ。」
冬月は、現実的な判断をした。優先順位をつけないと、二兎を追う兎になってしまからだ。
「分かりました。そういうことなら。ただし、お耳に入れたいことがあります。」
「ふむ、なんだね。」
「彼は、おそらく嘘は言っていないでしょうが、全て正直に言っていないのも事実です。」
「ほう、どういうことかね。」
冬月は、少し興味を引かれたようだった。
「彼はセカンドチルドレンを妹同然に可愛がっています。彼はあえて言いませんでしたが、セカンドの意思も尊重するはずです。」
「どうしてそう思うのかね。」
「調べているうちに、妙なことに気付いたんですよ。シンジ君とセカンドは、彼の悪行を全く知らないらしいんです。どうやら、彼が周りの人間に堅く口止めをしているようなんです。シンジ君とセカンドだけは、彼にとって特別な存在のようです。それに、先日話題になった彼に腕を折られた女の子ですが、新たな事実が判明しました。その子はセカンドの護衛任務でミスを犯して、彼の怒りを買ったようなんですよ。」
「だが、それは何故なのかね。エヴァのパイロットだからという理由だけではなかろう。その点についても、いずれ調べておいてくれたまえ。」
「ええ、分かりました。ですが、当面はウルクとタロンを最優先で調査します。」
加持はそう言うと、一礼してその場を去った。

すると、冬月はゲンドウに近寄った。
「おい、碇。お前の息子は大丈夫なんだろうな。」
「ええ、あいつなら大丈夫でしょう。」
ゲンドウは強がった。内心では、かなりの不安を抱えていたのだが。
「では、葛城君はどうかね。」
「彼女も、余程のことが無い限り我々を裏切る様な真似をしないでしょう。彼女には、少なからぬ貸しがありますからね。」
「ああ、大学推薦と学費その他の援助のことかね。確かに、義理堅い彼女のことだから、そうそう裏切る心配は無いだろう。やはり、当面はウルクとタロンか。」
「ええ、そうなるでしょう。いまいましい奴らですよ。」
ゲンドウは、そう言いながら顔を歪めた。



一方、ネルフ内をアスカが頬を膨らませながら歩いていた。
「まったくもうっ!腹が立つわね。なんで、あの女がシンジと一緒なのよ。」
そう。今日は、本来ならばアスカがシンジを独占出来る日なのだが、まだ中学に行く手続きをしていないアスカは一緒に登校出来ない。結局、中学ではレイがシンジを独り占めにしているのだ。
だが、ちゃんと前を見ないで歩いていたため、誰かにぶつかってしまった。
「おっと、スマン!」
「いたいっ!」
アスカは尻餅を着き、相手は持っていた書類を落としてしまった。
「わっ、ごめんなさい。」
アスカは慌てて書類を拾ったが、とある書類を見て顔色を変えた。



そして、ミサトはというと、リツコの部屋にいた。
「ねえ、ミサト。さっきの話、どう思う?」
もちろん、リツコが聞いているのはミサトが新組織に行くかどうかである。
「あのねえ、あんな与太話、本気にしてんの?」
ミサトはおちゃらけたが、リツコの顔は真剣だった。
「アナタ、かなり心が動いていたでしょ。そんなの、丸分かりよ。」
親友なのは、伊達ではない。ミサトの心が激しく揺れ動いていたことを見抜いていた。
「へへへっ、やっぱ分かる?でもさあ、リツコも司令にしてやる、研究費に予算の上限は無いって言われたら、少しは心が動くでしょ?」
「そりゃあ、まあねえ。でも、ほんの少しよ。」
そう言ってから、リツコは内心ではそれも良いかもしれないと思ったりする。
「でもさあ、他の組織の対使徒兵器っていうの、何とか頂けないかしら。シン君の口ぶりだと、結構使えそうじゃない。」
「冗談じゃないわ。エヴァ以外に使徒に対抗出来る兵器なんてないわよ。」
だが、ミサトの言葉に激しく反発する。リツコにとっては、少なくとも対使徒兵器としては、エヴァ以上のものはあり得ないのだ。使えると思われる兵器なら、とにかく試してみようというミサトをリツコは牽制した。
「や、やあねえ、リツコ。私もそう思うけどさあ、戦車隊よりは使えるかなあって、そう思っただけよ。使い捨てにしてやれば、ウルクやらタロンとやらの勢力も衰えるしね。」
リツコの剣幕に押されて、ミサトは脂汗を流しながら言い訳する。
「そう……。分かればいいのよ。」
途端にリツコの機嫌が直る。それから二人は、今後のことについて色々と打ち合わせた。



一方、シンは色々と寄り道をした後で、GOSPのメンバーとの待ち合わせ場所である発令所に着くところだった。遠目にステラ達の姿が見えたため、シンが声をかけようとしたその時、シンは後ろから呼び止められた。
「ハロー、シン!」
声で誰なのか分かったシンが笑顔で振り向くと、そこには思った通りアスカが立っていた。
「おっ、アスカ。いつの間に来ていたんだ?」
「そうねえ、3日前かしら。シンはとっても忙しそうね。最近家に帰っていないじゃない。一体何をしているの?」
アスカも、シンと同じく笑顔だった。
「まあ、色々とね。でも、アスカが来ているなら、今日はアスカの歓迎会だな。」
「まあ、嬉しいわ。シン、会いたかったわ。」
アスカは、両手を広げて近寄ってきた。
「俺もだよ、アスカ。」
シンも両手を広げる。ドイツでよくやっていたように、抱きついて来ると思ったからだ。
だが、今回は違った。アスカは急にシンの視界から消え、次の瞬間、シンの腹を凄まじい衝撃が襲った。アスカは一瞬屈んだ後、渾身の右パンチをシンの腹に打ち込んだのだ。
(げぼっ!)
シンは、あまりの痛さに声も出せなかった。シンの身体が一瞬で数メートルほど宙を舞い、落ちてきたところを凄まじい破壊力のキックが襲った。シンは10メートル以上も吹っ飛んで、壁に思いっきり頭を打って気を失った。だが、それでもアスカは止まらない。鬼の様な顔をして、ゆっくりとシンに近付いて行った。

「この、女の敵め。よくもアタシを騙していたわね。許さない、絶対に許さないから。」
アスカは、ゆっくりとシンに近付いて行った。
どうやら、アスカはシンにトドメを刺すつもりのようだ。それに気付いたステラが、急いで駆け寄ってアスカの前に立ちはだかる。
「はあっ?アンタ、邪魔よ。さっさと退きなさいよ。」
血走った目でアスカが睨むが、ステラは引き下がらない。
「ステラ、シン……守る……。」
ステラは、呟きながら戦闘態勢をとった。
「どうしても引かないの?」
アスカの問いに、ステラはコクンと頷いた。
「それじゃあ、しょうがないわねえ。」
アスカは、さっとステラに背を向けた。それを見て、ステラの顔が一瞬緩む。だが、次の瞬間、ステラの視界からアスカが消えた。

(ぐえっ!)
消えたのとほぼ同時に、ステラの側頭部にアスカの右キックが打ち込まれる。体勢を崩したステラの後頭部に、続けて左キックが叩き込まれる。ステラは、ゆっくりと崩れ落ちた。
「な、なにあの子……。あのステラを一瞬で……。」
「冗談だろ。ジェノサイド・ステラを倒すなんて。」
「お、おい。保安部を呼べ。」
そこでようやく、周囲の者達は何が起きたのか分かったようだ。ステラの噂はネルフ内で広まっていたため、ステラを一瞬で倒したアスカに立ち向かおうなどという気概のある者はいなかった。だが、残ったGOSPのメンバーは必死になってシンを守ろうとした。



「お前達、一体何をしてるかっ!」
アスカがGOSP隊員の最後の一人と戦っている時、肩を怒らせて、ナタル准将が向かってきた。そして、その後ろからやって来たマユラと看護士達が、アスカの横をすり抜けてシンに向かった。
「あっ!」
アスカは目を吊り上げるが、既に後の祭り。マユラ達はさっさと担架にシンを乗せて、足早に去って行った。
「おい、何をしてるかと聞いたはずだっ!」
ナタルは、なおもアスカを睨み付けた。すると、アスカは急に大人しくなった。
「ナタルさん、実は……。」
アスカは、理由を話し始めた。

さきほど加持にぶつかった際、シンに関する報告書を見てしまったこと。
その報告書を見たら、シンが大勢の女の子に酷いことをしていることが分かったこと。
シンに裏切られたと思って、激情に駆られてシンに制裁を加えたわけではなく、これ以上女の子の被害者が増えない様にと思って、止むなく制裁を加えたこと。
制裁を邪魔する者達を排除しようとしたこと。

それらのことを、アスカは熱心にナタルに語った。

「だがな、気持ちは分かるが、それは事実か?」
ナタルの問いに、アスカは自分は正しいと言い張った。
「そ、そうだ。証人がいるわよ。ここにいるバカ女も、証人がいれば思い知るんじゃないかしら。シンがどんなに酷い奴かをね。ねえ、ナタルさん。最近、GOSP所属の霧島マナっていう女の子が被害に遭っているの。その子は、シンのことを殺したいほど憎んでいるはずよ。今すぐにその子を呼んでちょうだい。それで白黒がつくはずよ。」
勝ち誇るアスカを横目に、ナタルは残った隊員の方を向いた。
「そう言えば、お前の名前を聞いていなかったな。私は国連西ヨーロッパ方面軍第7機甲師団所属のナタル准将だ。お前の所属と名前を言え。」
准将と聞いて、その隊員は直立不動になった。
「はっ。私は、ネルフのGOSP所属、霧島マナでありますっ!」
それを聞いたナタルはアスカを睨み、アスカは口を大きく開けて呆然とした。



さて、シンはその後医務室に運ばれ、全治3カ月の重傷と診断された。早急な手術が必要であり、最低1カ月の入院が必要と医師は判断したのだ。
だが、目を覚ましたシンは強硬に反対した。そして医師の目の前で応急措置を施し、絶対に動けないだろうと言う医師の診断に反して、シンは軽々と立ち上がった。
「し、信じられない。私は、夢を見ているのか……。」
呆気にとられる医師に、シンはこう言った。
「俺は、普通の人と鍛え方が違うんでね。これくらいの怪我なんて、かすり傷さ。」
もちろん、これは嘘である。未来のシンジから受け継いだ力を使って、身体中の怪我を治療したのだ。



一方、その日のシンジはあまり元気が無かった。そのため、ケンスケが心配してシンジに声をかけてきた。
「どうしたんだよ、シンジ。何か悩み事か。俺で良かったら話してくれよ。」
屈託の無い笑顔を向けて来るケンスケに対し、シンジはケンスケに言うかどうか大いに悩んだ。恋人のいないケンスケに話しても、どうにかなるものではないかと思ったからだ。だが、そうは言っても、友達に悩み事を話せば、悩みが少しは軽くなるという話しも聞いたことがあった。このため、シンジは思い切って悩みをケンスケに話すことにした。
レイと付き合うかどうか迷っていたこと。そこにアスカという、美しさではレイよりは僅かに劣るが明るく陽気な性格で、トータルで見るとレイと甲乙つけがたい美少女が現れたこと。何故か二人が自分を巡って争っていること。どちらかを選べば、もう片方が傷つくので、自分はどうしたら良いのか分からないこと。それらの事をかいつまんで話したのだ。
出来れば、二人とも上手く付き合いたい−要は二股をかけたい−という本音は、ケンスケとの付き合いが短いことから、言う事は出来なかった。もちろん、どっちが早くエッチなことが出来るか知りたいなんて思っていることは、男同士でも秘密である。

「う〜ん、なるほどなあ。でも、シンジ。俺は、そんなに悩まなくてもいいと思うけどな。」
話を聞き終えたケンスケは、そう言って頷いた。
「ええっ、どうしてさ。」
シンジは、自分がこんなに悩んでいるのにと、ちょっぴり怒った。そこでケンスケは、指を二本立てて横に振った。
「シンジ、良く考えろ。どうして相手を一人に絞らなければならないんだ。お前は、二人とも恋人にすればいいんだよ。」
「でも、でも、二人とも僕を独占したがるんだよ。そんなこと、無理だよ。」
シンジは真っ赤になって言ったが、ケンスケはそこが間違っていると言う。
「シンジ、お前は相手に主導権を握られているんだよ。それじゃあ、駄目だ。もうちょっと、頭を使えよ。」
ケンスケは、辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、シンジの耳元で何事かを囁いた。
「ええっ、それでいいのかなあ。」
シンジは、大きな疑問を持ちつつも、ケンスケの言うことにも一理あると考えるようになった。



To be continued...


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