新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十五話 アスカの歓迎会

presented by Red Destiny様


「えーと、これから惣流アスカさんの歓迎会を始めまーす。では皆さん!乾杯して下さ〜い!」
「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」
その日の晩、既に酔っぱらったミサトの号令で、アスカの歓迎会が始まった。

席順だが、アスカは主役なので、当然の如くシンジの隣に座る。アスカのテーブルには、アスカと仲のよいラクスとカガリ、それに加えてカガリと連絡を取り合うことが多いジュリが座る。
シンは、ミサトにリツコにマヤとネルフの面々に囲まれ、ミサト達に年齢の近いマリューとナタルがそれに加わる。
レイは、アスカの希望もあり、アスカやシンジと離れた席だ。レイと仲の良いマユミが横に座り、その他余った者−ステラ、アサギ、マユラ、ミリアリア−が同じテーブルに座る。

 カガリ アスカ シンジ
┌−−−−−−−−−−−−┐
└−−−−−−−−−−−−┘
 ジュリ ラクス

 ミサト シン マリュー
┌−−−−−−−−−−−−┐
└−−−−−−−−−−−−┘
 ナタル リツコ マヤ 
 
 マユミ レイ ミリアリア
┌−−−−−−−−−−−−┐
└−−−−−−−−−−−−┘
 マユラ アサギ ステラ

宴が始まって少し経った頃、アスカは急に立ち上がってテーブルを移り、ステラの隣に座った。
「ステラ、さっきはごめんなさい。アタシ、頭に血が昇っていて、アンタに悪いことをしちゃったわね。」
そう言って、アスカは頭を下げた。ステラはこれに対し、気にしなくてもいいと笑う。シンから笑って許すようにと言われていたためだが、シンがアスカを妹のように大事にしていることが分かっているので、実際にもそれほど怒っていなかったからだ。シンに酷い暴行を加えたことについては、アスカやカガリ以外の者が行ったならば決して許さないのではあるが、アスカならばしょうがないと諦めていた。

「そう、良かったあ。」
ステラの心中に気付かずほっとするアスカだったが、ステラは続けてシンにもう酷いことをしないでと頼んできた。
実はステラからすると、ラクス、カガリ、マユミ、アスカの4人に対しては、シンに何かしても指を銜えて見ているしかなく、そんな時は少々胃が痛くなるのだ。シンに精神攻撃を加えることがあるラクスとマユミ。それに加えて物理的攻撃まで加えることのあるアスカとカガリ。この4人は、ステラやその仲間にとって何とも扱いが難しい存在である。しかも、この4人に対して少しでも眉をひそめると、急にシンの態度が冷たくなるので、この4人のすることに対しては、何事も笑って見ているしかないのだ。

「う、うん。分かった。努力するわ。」
アスカは苦笑いしながら答えた。アスカからすると、シンは手加減せずに暴力を振るえる数少ない相手であるため、これからも多少の憂さ晴らしの相手にはなってもらうつもりだったからだ。
実際、今回シンに加えた攻撃は、普通の人間ならば即死するほどのものだ。だが、シンは余程頑丈な身体をしているのか、平気な顔をしている。少なくとも数日間の病院送り程度にはしたつもりのアスカにとって、これは大きな驚きだ。
また、何をしても許してくれるという点で、シンに代わる者はいない。今まで何をしても笑って許してくれたし、今回も同じだった。アスカは、シンに謝ってすらいないのだ。

『誤解を受ける様なことをするシンが悪い。でも、心の広いアタシだから許してあげる。』
一見傲慢に聞こえるアスカの言葉に、シンは笑って応えた。
『そうか、許してくれるのか。ありがとう、アスカ。』
それで一件落着である。かえって、その場にいた周りの者が驚いたくらいだ。但し、シンは自分以外の者にはちゃんと謝るように言ってきた。もちろん、アスカは頷いた。アスカのわがままを笑って許してくれるのは、シン以外は滅多にいないことを知っているからだ。

そんな事情があったため、アスカはステラに謝ったのだ。アスカも、プライドが飛び抜けて高かったり感情の起伏が激しかったりはするが、性格は悪くない。どちらかというと、良い方だろう。



「ねえ、アスカ。ステラさんと何を話していたの。」
アスカが席に戻ると、シンジは何気なく聞いてみた。
「べ、べつに。ちょっとした、女の子同士の挨拶よ。」
そう言われると、シンジも踏み込んで聞くことは難しい。でも、ちょっと気になることがあるので、続けて聞いてみることにした。
「そ、そうなの。なんだか、アスカが謝っていたように見えたから。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
アスカは、なんとなく気のない返事。このため、女の子の機嫌を損ねないようにと、シンジは話題を変えることにした。ちょっと小耳に挟んだ、気になることがあったからだ。

「あのさあ、アスカ。今日はどこに行っていたの。」
「アタシ?ああ、ネルフに行っていたわ。」
「じゃあ、知ってるかなあ?今日、ネルフでなんだか凄いことがあったらしいんだけど、知ってる?」
「ううん、知らないわ。」
アスカは首を横に振ったが、何となくそわそわしている様子。シンジは、何となくおかしいなと思ったが、話を続けることにした。シンジは、ネルフの人から仕入れた話題を振ってみた。
「そうかあ。いやね、ネルフにゴリラみたいな凶暴な奴が押し入って、大暴れしたらしいんだよ。何人か病院送りにされたって聞いて、アスカのことが心配だったんだけど。知らないならいいや。」
「ふ、ふうん。そ、そうなの。そんなことがあったんだ。」
何故か、アスカの声が少しおかしいし、目が泳いでいる気がする。しかも、冷房が効いているはずなのに、アスカの顔には汗が浮かんでいた。そこでシンジは、先日の酔ったアスカを思い出し、どうせ酒でも飲んだのだろうと考えた。でも事件のことは気になるので、アスカには一応注意することにした。
「ネルフの中って、安全かと思ったけどそうでもないんだね。お互い気をつけようね。」
「ええ、そうね。」

そこで、シンジはふっと思い立った。彼ならば、或いは……。と考えたのだ。
「あっ、そうだ。シンさんなら、何か知ってるかなあ。聞いてみようっと。」
シンジは立ち上がろうとしたが、何故かアスカが慌てだした。
「シ、シンジ。そんなことどうでもいいじゃない。それよりさあ、もっとシンジの話を聞かせてよ。ねっ、いいでしょ。」
「う、うん。いいよ。」
アスカが自分に興味を持ってくれるようになったと、シンジは単純に喜んだ。シンジは頷き、自分の幼い頃の事を得意気に話し始めた。むろん、ラクスやカガリもアスカと一緒になって話を聞いていた。



一方、シンの席では早くもミサトが酔っぱらっていた。
「シンく〜ん。あなた、アスカにノックアウトされたんですって?だらしないわねえ。」
そう言いながら、シンの頭を拳でぐりぐりする。正直言って、結構痛い。
「ち、違いますよ、ミサトさん。あれはねえ、GOSP隊員をテストするためにやったんですよ。」
もちろん、これは大嘘。今回アスカが倒した相手が、全員GOSP隊員であったことから、シンが考えついた嘘である。なお偶然とは恐ろしいもので、アスカが倒した相手は、全員がシンのことが大好きな女の子であった。

「へ〜っ、そうなの〜っ?てっきり、二股男にむかついたアスカが、シン君に八つ当たりしたんだと思ってたわ〜っ。」
「はははっ、何を言ってるんですか。と、ミサトさん。二股男って誰ですか?」
二股と聞いて、シンは急に真顔になった。アスカが、変な男に騙されていると思ったからだ。
「あれえっ、知らないの〜っ。シンジ君よ〜っ。アスカとレイに、二股かけてるのよ。」
「えっ。嘘でしょ?」
シンは、呆然とした。まさか、幼い頃から知っているシンジが、二股をするような男だなんて、にわかには信じられなかったからだ。股がいくつ或るのか分からないようなシンが、そんなことを言う資格があるかどうかは別問題ではあるが。

「本当よ〜ん。皆に聞いてみなさいよ。アスカなんて、会ったその日にシンジ君とキスしたわよ。誰かさんが冷たくしたからじゃないかしらね。それからねえ、他にも色々あるのよねえっ。」
ミサトは、ここ数日の出来事を洗いざらいぶちまけた。まさかと思ってシンがマリューを見ると、マリューは首を縦に振った。
「信じられないな。あのシンジが……。それに、アスカも……。」
シンが呟くと、ミサトは再びシンの頭をぐりぐりしだした。
「誰かさんに、顔だけじゃなくって中身も似たんじゃないかしら。女たらしなところを特にね。で、シンジ君に不満を持ったアスカが、シンジ君によく似たシン君に発作的に当たったんでしょ。そうでしょ、素直にゲロしなさいよね。」
しつこく攻めるミサトに、シンは苦笑するしかなかった。



アスカの歓迎会は、12時前には終わっていた。途中でアスカがシンジを引きずる様にして、お風呂へと連れて行き、そのまま戻らずに寝てしまったからだった。
ちなみに、シンジと二人きりで風呂に入ろうとしたアスカを、ラクスとカガリは半ば脅して、結局4人でお風呂に入ることになったが。
もしも断るなら、自分達はレイの味方をすると言われて、アスカは悩んだ末にお風呂は一緒に入ることを認めた。寝るのはシンジと二人きりというのは、譲らなかったが。
お風呂では、シンジはいいようにあしらわれて、少々恥ずかしい思いをした。だが、その後はアスカと二人きりで、甘い一時を過ごしたのである。下手な嫉妬は、かえってマイナスになると判断したアスカが、始終にこやかにしていたからである。
アスカの打算に基づいた表面的な態度に気付かず、シンジはアスカが怒っていないと単純に喜んだ。それに、笑っていると凄く綺麗なアスカを前にして、シンジはやっぱりアスカは捨てがたいと思う様になった。
だが、シンジはまだ気付いていなかった。来週、アスカが登校した後に、どんな事態が起こるのかを。



朝シンジが目覚めると、左腕がやけに重かった。目を凝らすと、紅茶色の髪の毛が見える。そして、何とも言い難い良い匂いがする。そこで、シンジは昨夜アスカと寝たことを思い出した。何回かキスしたことも。シンジは思わず笑みをもらし、慈しむような優しい声を発した。
「アスカ、おはよう。」
シンジが声をかけたが、アスカはまだ寝惚けているようだった。そして、僅かに寝言が聞こえてきた。
「う〜ん、シンジの浮気者〜。アタシの方だけ見なさいよね〜。」
それを聞いて、シンジはギクリとした。
「ごめんね、アスカ。でも、レイさんとの約束もあるし、どうしたらいいんだろう。本当に弱ったなあ。」

この場合、どちらかときっぱり手を切るのが正解なのだが、分かっていてもシンジには出来なかった。アスカもレイも、別れるには惜しい超絶美少女だからだ。一度別れを告げたら、自分なんかおそらく二度と相手にしてもらえないだろう、そう考えたのだ。
だから、昨日ケンスケに言われた通りにすることにした。ずるいようだがしばらくはこのままの状態でいて、アスカとレイのどちらが自分と長続きするのか見極めるのだ。片方を選んで、もう片方に捨てられたら目もあてられない。だから、この状態が出来るだけ長く続けられれば、そういう考えなのだ。
もちろん、それだけが理由ではない。初めてシンジに好意を寄せてくれた女の子であるレイには感謝しているし、普通の女の子ならば見ただけで気持ち悪くなるほど汚いモノを、嫌な顔一つせずに洗ってくれたことに対しては、特別な想いもある。
アスカも初めてキスをした相手であるうえ、アスカも自分を初めてのキスの相手に選んでくれたということで、特別な想いがある。要は、シンジは二人とも大好きになってしまったのである。だから、どちらかと縁を切るようなことはしたくなかったし、哀しい想いをさせたくはなかったのだ。
幸い、アスカもレイも現状維持を受け入れてくれた。ならば、自分からこの幸せな状態を壊すことはない、シンジはそう結論を出したのだった。これが、結果としてどう出るのかは今は分からない。



食事の時間は、人数が前より増えたにもかかわらず、何故かお葬式のような雰囲気だった。特に、アサギ達に元気が無かった。

「おい、どうしたんだよ。今日は元気ねえな。」
シンがアサギに声をかけると、アサギは青い顔をゆっくりと上げた。
「ううん、別に。それよりも、シンはこれからもラクスさん達と一緒に寝るの。」
「そうだなあ、どうしようか。」
シンがそう呟くと、アサギ達の動きが一瞬止まる。そして、何かを訴えるような目でシンを見つめた。だが、そんなことは無視してラクスとカガリが口を挟んだ。
「もちろん、これからも一緒に寝ますわよね、シン。」
「そうそう、異国で寂しい思いをしている妹達のためなんだ。当然だろ。」
その言葉を聞いて、アサギも、マユラも、ジュリも、ミリアリアも、ステラでさえも俯いた。そして、上目使いにシンを見つめる。その異様な雰囲気に、シンジはアスカに小声で聞いてみた。
「ねえ、アスカ。一体どうしたの?なんだか、変な雰囲気なんだけど。」
だが、アスカは少し膨れて答えた。
「アタシだって、一体なんでか分からないわよ。」
シンジは、一体何がどうなっているのか考えた。だが、いくら考えても分からない。しかも、考えているうちにいつの間にか話が進んでいたらしい。いきなりシンジに話が振られて驚いた。

「おい、シンジ。お前、ラクスやカガリと一緒に寝る気は無いか?」
シンの問いかけに、シンジは慌てて首を横に振った。本当は嬉しいのだが、そんなことしたらアスカやレイが黙っていないこと位は分かるからだ。
「な、何を言うんですか。そんなこと、出来ませんよ。」
シンジの答えを聞いたラクスは、笑って頷いた。
「シンジさんはそういうことですから、私達はシンと寝るしかないですわ。」
「そうだ、そうだ。シンは、俺達がかわいくないのか。」
畳みかける二人に、シンは困った顔をした。
「だがなあ。俺も色々と都合もあるし、悪いがシンジ。俺の妹達と一緒に寝てやってくれないか。」
そこまで言われると、シンジも断りにくい。それに、シンジ自体は嫌なことではないので、思いなおすことにした。
「シンさんがそこまで言うなら「駄目よっ!」」
シンジがウンと言いそうになったため、アスカが怒って立ち上がる。
「寂しいなら、アタシが一緒に寝てあげるわ。アタシが一緒に寝れない時は、マユミが寝ればいいでしょ。それでいいわね、シンジ!」
アスカに物凄い目で睨まれて、シンジは怖くなり、反射的に首をカクカクと縦に振ってしまう。もちろん、マユミも同様だ。
「シンもっ!余計なことは言わないっ!」
アスカは、シンも睨み付ける。アスカの剣幕に、シンも首をすくめた。

「ああ、分かったよ。じゃあ、そういうことだ。今日と明日は一緒に寝てあげるが、それ以降はアスカかマユミと一緒に寝ること。ラクスとカガリも、それでいいな。」
シンの言葉に何か反論しようとしたラクスとカガリだったが、アスカの炎の様な熱い視線と、レイの氷点下を思わせる冷たい視線を受けて、渋々承諾した。
それを見て、アサギ達に明るい笑顔が戻っていった。
「え〜っ、一体何が起きているのよおっ。」
ミサトは、訳が分からずにしきりと首を振っていた。



To be continued...


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