新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十七話 シンジ、あ〜んして

presented by Red Destiny様


土曜日のGOSP隊員との初顔合わせの後、フレイとシホが新たにシンの家に住むと聞いたので、シンジはムサシも一緒に住まわせて欲しいとシンに頼んでみた。特に、シンがいない時は男一人になって、露出度の高い服を着た女性陣を前にしたシンジは、とっても落ち着かない気分になるからだ。それに、他に男がいれば、みんなの服装ももう少しは落ち着くだろうと考えたからでもある。だが、シンに上手く丸め込まれて断られてしまった。ムサシは他のGOSP隊員と一緒に、ネルフの官舎に住まわせるというのだ。

「でも、シンさん。何とか考え直してくれませんか。こう女所帯じゃ、落ち着かなくて。」
なおも食い下がるシンジに、シンは首を横に振った。
「あのなあ、シンジ。ここには、俺の妹達が住んでいるんだぞ。何か間違いが起きたらどうするんだ。絶対に駄目だ。」
シンは、頑として首を縦に振らなかった。
「でも、シンさん。僕も男なんですよ。間違いが起きるかもしれないじゃないですか。」
シンジは口を尖らせ、頬を盛大に膨らませてみせたが、シンは笑ってこう言った。
「お前なら、間違いを起こしても全然構わないぞ。誰と間違いを起こしそうなんだ。ラクスか?カガリか?それともマユミか?」
「…………………。」
シンジは、唖然としてしまい、それ以上何も言うことが出来なかった。そしてその晩のフレイとシホの歓迎会において、シンジはやけ酒を飲んで酔っぱらってしまい、アスカを激怒させた。さらに翌日まで尾を引いて、起き上がれなくなったため、シンジとのデートをもくろんでいたレイとマユミを不機嫌にさせてしまったのである。



明けて月曜日、シンジ達の学校には、殆どのGOSP隊員が転入した。隊長のステラと連絡係のマナを除く、総勢19人がである。特にシンジのクラスは、大勢転入した。ムサシやイサムなど男子3人と、フレイやシホなど女子7人のGOSP隊員、計10人が一挙に増えたのである。これに加えて、アスカとカガリも同じクラスになったため、転校の挨拶が賑やかになりそうだなと、シンジはのんびりと構えていた。
だが、初っぱなにアスカが爆弾発言をしたため、そんな気分は吹き飛んでしまう。

「私は、惣流・アスカ・ラングレーです。このクラスの、碇シンジの婚約者です。よろしくお願いします。」

「「「「「「ぬあんだって!!!!!!」」」」」」
「「「「「「うっそ〜っ!!!!!!」」」」」」
いきなり教室は騒然となり、皆がアスカを見つめる。だが次の瞬間、男子は怒りに燃えた目でシンジを睨み、女子は軽蔑の目を向けてきた。皆は、シンジの恋人がレイだと認識している。しかも、レイは男子生徒の憧れの的である。それなのに、レイ以外に婚約者がいるなんて、絶対に許せない事だからだ。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。アスカ、へ、変なこと言わないでよ。」
シンジは、もう真っ青である。立ち上がって口をパクパクさせるが、何を言っていいのか分からない。もう、パニック状態であった。
「そ、そんな……。初めて二人で寝た晩の、あの優しい言葉は嘘だったの?」
アスカはアスカで、肩をがっくり落とし、俯いて目から涙を流す………訳がなく、泣きまねであるが、マユミ以外に誰も気付く者はいない。
「ちょっと、アスカさん。嘘を言わないで下さいっ!」
マユミが立ち上がって抗議するが、少し遅かったようだ。
「う、嘘じゃないよ。で、でもさ……。」
シンジが、大きな墓穴を掘ってしまったからである。

このため、クラス中は更に騒然としてしまい、ヒカリが収拾に乗り出したが何の効果も無かった。結局、騒動は30分ほど続いてしまい、他の転校生の挨拶は大幅に遅れてしまう。
さらに、転校生のあいさつがやっと終わった後、再び大きな問題が起きてしまう。
「アタシは、シンジの隣に座るのよっ!婚約者なんだもの、当たり前でしょ!」
席を決める段になって、アスカが騒いだものだから、当然ながらレイも張り合う訳で。
「私こそが、碇君の隣にふさわしいわ。」
マユミもそれに加勢する。
「そうですよ。碇君の隣は、レイさんがふさわしいですよ。」
そこに、カガリも加わる。
「いや、俺もシンジの隣に座るぞ。」
でも、シンジは何も出来なくて。
「ねえ、みんな。仲良くしてよ。」
オロオロするばかり。

争いは段々ヒートアップしていき、レイとアスカは取っ組み合いの喧嘩をする寸前までいったのだが、レイはシホが抑え、アスカはフレイが後ろから羽交い締めにし、カガリはルナマリアが後ろから腕をねじ上げて止め、GOSP隊員の連携によって何とか事なきを得た。そうして、結局シンジの左右にレイとアスカが座り、前にカガリが座ることで決着したのだが、そこに行き着くまでに更に30分ほど時間を要した。その後、GOSP隊員がシンジ達の周りを取り囲むこととなり、席順はなんとか次の通り決着したのである。

レイの右には、親友のマユミ。マユミの右にはヒカリが座る。
ヒカリの前にはトウジ。マユミの前にはケンスケが座る。
レイの後ろには、レイ担当副隊長のシホが座る。
シホの右には、シホ小隊のフウコとイサムが座る。
レイの前には、シホ小隊のルナマリアが座る。

アスカの左には、アスカ担当副隊長のフレイが座る。
アスカの前には、フレイ小隊のカナエが座る。
カナエの左には、同じくフレイ小隊のコウキが座る。

シンジの後ろには、シンジ担当副隊長のムサシが座る。
ムサシの左には、ムサシ小隊のミナコとマリが座る。

なお、前3列はその他の生徒達が座る。

という具合である。

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 コウキ カナエ カガリ  ルナマリア ケンスケ トウジ
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 フレイ  アスカ シンジ レイ  マユミ  ヒカリ
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 マリ  ミナコ  ムサシ  シホ  フウコ イサム

一難去ってまた一難。シンジには、昼休みにも受難?が待っていた。
「シ〜ンジ。お昼、一緒に食べようよ。」
そう言いながら、怪しい笑みを浮かべたアスカとそれに続いてカガリがやって来たからである。
「あの、お昼はいつも決まったメンバーと食べているんだけど……。」
シンジが小声で言うと、アスカは問題無いわよと言って胸を張った。
「アタシとカガリが、そこに入ればいいじゃない。ぜ〜んぜん、問題無いわよ。」
「うん、そうかなあ。でも、一応みんなに聞いてみるよ。」
シンジは、恐る恐るマユミやヒカリに聞いてみた。すると、マユミはあからさまに眉をひそめたが、ヒカリが取りなして結局頷いた。どうやら、マユミとカガリが姉妹であるのが大きな理由らしい。

「そや。今日はどないするんや?ワイとケンスケは、パンを買わんといかんしのう。」
そこにトウジが声をかけたが、アスカはにっこりと笑う。
「えっと、鈴原君と相田君よね。あなた達の分のお弁当は用意してあるから、今日は買わなくてもいいわよ。」
「おうっ、こら、ラッキーやな。」
「えっ、本当かよ。助かるなあ。」
トウジとケンスケは、にっこりである。
「シンジも、良い彼女を持って幸せやんか。」
「シンジ、羨ましいぜ。」
「あ、あのねえ……。」
簡単に食べ物で買収されてしまう友人達であった。



その後、天気がいいから外で食べようということになり、校庭の脇の芝生で食べることになったのだが、そこでシンジは、とても恥ずかしくて、でもちょっぴり嬉しい思いをすることになった。
「はい、シンジ。あ〜んして。」
アスカが、いきなりあ〜んして攻撃を仕掛けてきたからである。
「ちょ、ちょっと待ってよ、アスカ。こんなところで、そんな恥ずかしいことしないでよ。」
シンジは慌てて断ろうとするが、またもやアスカは泣きそうな顔をした。その時、友人2名がいきなり裏切った。
「なんや、シンジ。おなごを泣かすなんて。」
「そうだぞ、シンジ。食べてやれよ。」
シンジはレイの方を見るが、やっぱり目を吊り上げている。シンジが断ろうかと思い悩んだが、悩みは唐突に終わりを告げた。
「あら、レイ。明日はあなたも同じことが出来るのよ。」
そう言ってアスカがニヤリと笑うと、レイとマユミが簡単に寝返ったからだ。
「碇君。明日は私の番。」
レイが肯定すると、損得勘定の後、マユミも追随する。
「碇君。レイさんもこう言ってることだし、諦めて下さいよ。」
もう、四面楚歌である。
「はい、分かりました……。」
こうして、シンジはアスカのあ〜んして攻撃を受けることになってしまったのである。そのため、シンジは全然食べた気がしなかった。



「は〜っ、参ったなあっ。」
シンジは、大きなため息をついた。昼食後、シンジは長い方のトイレと言って、アスカから逃れることに成功していたのだ。ここで20分ほど粘り、精神的な疲れを癒すつもりだ。
「なんだか、凄いことになってるな。お前も、大人しい顔して結構やるじゃないか。」
そう言って、ムサシは笑う。ムサシは、副隊長であるため、基本的にシンジの側は離れない。昼食の時も、少し離れた所で食べていたくらいである。だから、シンジがトイレの時も一緒なのである。とはいえ、一応シンジに嫌われない様に気を遣う必要があるため、冗談は言ってもシンジのことは責めない。そのため、シンジにとっては数少ない味方となっている。それでも、今回の件はムサシの許容範囲からはかなり外れているらしく、少し嫌味が入っていたりする。ムサシに彼女がいなかったならば、嫌味も半端ではなかったろうが、シンジにとって運が良いことに、ムサシは可愛らしい彼女が出来て間もない。それゆえ、シンジは嫌味に気付かずに答える。
「そんなことないよ。でも、なんでこんなことになっちゃったんだろう。」
シンジが再びため息をつくが、ムサシは当たり前だと言って頭を抱えるゼスチャーをする。
「シンジ、お前は綾波と寝たんだろ?」
「うん、まあ、そうだけど。でも、エッチなことはしてないよ。」
確かにそうだ。でも、寝ている時にはエッチなことをする雰囲気ではなく、ちょっぴり不満だがシンジは何もしていない。
「で、惣流とも寝たと。」
それも事実だ。
「うん、そうなるかな。でも、キスまでしかしてないんだけどな。」
「それが答えだ。いくらエッチなことをしていないとはいえ、女と一緒に寝たら相手が勘違いするのは当たり前だろ。こんな事態になるのが嫌なら、どっちかときっぱり縁を切れよ。切らないと、いつまでもこのままの状態が続くぞ。」
まあ、俺としては強制はしないけどねと、ムサシは付け加えた。
「そうだよね。それは分かるんだけど、どうしてもどちらかを選べなくて。」
優柔不断な性格は、変わっていないシンジである。シンジは、まだレイとアスカのどちらかを選ぶことも出来ないのだ。



さて放課後、シンジはレイやアスカと共にネルフへと向かう。その前後をムサシ、シホ、フレイ達が数人ずつ固まって、さりげなく歩く。傍から見ると、中学生のグループが幾つか連なっているだけのように見える。
ちなみに、ステラはいつも遠くから見守っていたりする。アサギ・マユラ・ジュリの3人も、交代で遠くから警戒している。これにネルフ保安部が加わって、かなり厚い警護が行われているのだ。

カガリはというと、ヒカリを自分の家に連れ込もうとして誘い、なんとか成功しそうな雰囲気だ。トウジはケンスケを探したが、先に帰って欲しいというメールを受けて一人帰ろうとしたが、そこをカガリに見つかって引きずられるようにシンの家に連行された。

マユミはいつの間にか姿を消していたが、帰った訳ではなかった。ケンスケを体育館の裏に呼び出していたのである。
「相田君、随分なことしてくれますね。碇君とレイさんが仲良くなるように協力してくれる約束でしたよね。」
マユミは、そう言いながらケンスケのことを睨む。これには、ケンスケも大慌てである。ケンスケとしては、マユミに怒られる様なことはしていないつもりだからだ。ケンスケは慌てて弁解を始める。
「で、でもさ。こないだ飛鳥のお姉さんから頼まれたんだ。ラクスさんだっけ。そうじゃなければ、あんなことしないよ。」
ケンスケは、マユミを密かに想っているので、マユミの姉の頼みもなかなか断れないのである。だが、それを聞いてマユミはピンと来るものがあった。
「他にも何か頼まれていませんか。特に、碇君のことで。」
マユミが問い詰めると、ケンスケはあっさり白状する。
「ああ、他にも色々頼まれてさ。シンジから恋の相談があったら、惣流さんと付き合うように勧めるようにとか、惣流さんのことをさりげなく褒めるようにとか……。」
それを聞いて、マユミは心の中で舌打ちした。ラクスがそこまで手回しが良いとは、思ってもみなかったからだ。
「それで、言われた通りにしたんですか。」
マユミが一層強く睨むと、ケンスケは首を横に振った。
「い、いや。飛鳥からも頼まれていたから、迷ったけど両方と付き合うようにって、シンジには言っておいたけど……。」
やられた、とマユミは思った。もう少し早く手を打っていれば、もう少しレイに有利になっていたかもしれなかったのだ。もう遅いかもしれないが、まだ挽回が可能だとマユミは思いなおした。
「分かりました。そういう事情ならしょうがないですね。でも、もう二度と約束は違えないで下さいね。それから、姉に何か言われたら、必ず私に言って下さい。いいですね。」
マユミの声は、無機質で感情がこもっていない。ケンスケは、嫌われたかなと思い青くなる。
「ああ、分かったよ。約束するよ。でも、俺は飛鳥のお姉さんの言うことだから、飛鳥も承知しているもんだとばかり思っていたんだ。それだけは分かって欲しいんだ。」
マユミは、ほんの少しだけ考える素振りを見せたが、直ぐに笑顔を浮かべる。
「そうですよね。相田君が私を裏切る訳がないですよね。分かりました。これから、気をつけてくれればいいですよ。」
「う、うん。分かったよ。これからは、気を付けるよ。」
ケンスケは、マユミに笑顔が戻ったため安堵した。だが、マユミは既に、ラクスが他にどんな手を打っているのかと考えてあぐねていた。



To be continued...


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