新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十八話 休戦

presented by Red Destiny様


夕食は、本来は楽しいひとときになるはずであるが、最近のシンジにとっては針のむしろになっている。というのも、シンジの左右にレイとアスカが陣取っていて、目には見えない火花を散らしているからだ。それだけでも気が重いのに、アスカの前にはカガリ、レイの前にはマユミが座っていて、これまた睨みをきかせている。
シンジにとっての救いは、いつもニコニコ笑っているラクスが目の前に座っていること。それに加えて、レイの隣は副隊長のシホ、アスカの隣は同じく副隊長のフレイであるが、この二人がシンジには優しいことだ。
シンの方を見ると、シンの右にはマリューがにこやかな顔をして座り、左にはミサトがべらべらしゃべりながら座っている。シンの目の前にはアサギが座り、アサギの左にはマユラ、その横にはミリアリアが座る。アサギの右にはジュリが、その横はステラである。

  シホ レイ シンジ アスカ フレイ
┌−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┐
└−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┘
    マユミ ラクス カガリ

 ステラ ジュリ アサギ マユラ ミリアリア
┌−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┐
└−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−┘
     ミサト  シン  マリュー 

シンの方は、みんながそれなりに楽しく話しているようだ。ミサトの笑い声が一際目立つが、アサギやマユラやミリアリア、それにシンの笑い声も時折聞こえて来る。なんだかとっても良い雰囲気で、羨ましいかぎりだ。
「はあっ……。」
シンジは、深いため息をついた。いかに自分が蒔いた種とはいえ、雰囲気があまりにも違いすぎる。これでは悲しすぎる。そこで、シンジは一か八か、みんなが仲良くするよう提案することにした。
「ねえ、みんな。もっと仲良くしようよ。なんかさあ、こんなギスギスした感じだと、ご飯も美味しく感じないと思わない?」
だが、シンジの提案は逆効果だったようだ。
「そうよ、シンジの言う通りよ。さあ、シンジ。この冷血女から離れなさいよ。」
アスカは、シンジの腕を掴んで引っ張る。だが、レイも負けていない。
「碇君は、あなたのものではないわ。」
凍てつく様な視線で、アスカを睨む。
「そうですよ、約束が違いますよ。」
当然、レイの味方のマユミが応援する訳で。
「おい、そんなことを言うなよなっ!」
すると、今度はアスカ寄りのカガリが噛みつく訳で。
一見天然系に見えるラクスは、ただニコニコするだけで。
フレイとシホは、とばっちりを恐れて黙るしかないらしく、チラチラとシンの方を見たりする。
シンジは、ただただオロオロするだけで……終わらなかった。
「いいよ、もうっ!そんなに僕の言うことが聞けないなら、絶交だよっ!」
逆ギレして、立ち上がった。



−レイの場合−

マユミに小声で話しかける。
「ぜっこうって、どういうことなの?」
「碇君の心を掴む、絶好のチャンスですよ。ここは、碇君に可愛く謝った方が良いですよ。」
「ええ、分かったわ。」
「レイさん。首を傾げながら、パターン・プリティーですよ。いいですね?」
「ええ、了解したわ。」



−アスカの場合−

(ちっ!なんて生意気な奴なんだろう、こいつはっ!いつか、絶対にコロス!でも、今はレイには負けたくないし、しょうがないわねっ!ここは我慢よっ!)

アスカは、今シンジを怒らせたら、自分が不利になると考えた。そうなると、レイにシンジを取られてしまうのだ。それは、すなわちレイに負けることになり、負けず嫌いのアスカにとっては絶対に許し難い。アスカは、戦略的撤退を選択した。



「てへっ。シンジ、調子に乗ってごめんね。分かったわ、仲良くするわよ。レイ、ごめんね。」
最初にアスカが折れ、ぺろりと舌を出した後でレイに頭を下げた。笑ったアスカの顔は、とても可愛くて憎めない。

「私も悪かったわ。碇君ごめんなさい。」
レイもそう言って、可愛らしく小首を傾げた。そして、アスカの方を向いて頭を下げる。
「アスカさん、私も謝るわ。ごめんなさいね。」
レイの無邪気な笑顔も、とっても可愛い。

すると、シンジも急速に怒りが収まって来た。てっきり二人とも反発すると思っていたのと、二人の謝る仕草が思った以上に可愛かったことが重なったからなのだが。
「う、うん。分かってくれればいいよ。でも、約束してね。僕の前でも、それ以外でも、僕のことで喧嘩はしないこと。僕は、そういうのはとっても嫌だから。」
「うん。分かったわ、シンジ。」
満面の笑顔で頷くアスカ。
「はい、了解しました。」
レイも、負けずに笑顔で答える。
「これで、一件落着ですね。」
「ああ、良かった。」
マユミとカガリもほっとする。
「ふふふっ、良かったですわね、皆さん。では、仲直りの記念に、今日は皆で一緒にお風呂に入って、一緒に寝ましょうね。いいですわね、シンジさん。」
最後に、ラクスが美味しいところを持っていった。
「ええ、いいですけど。」
と笑顔で言いつつも、内心、昨日シンに相談しておいて良かったと、ほっと胸をなで下ろすシンジである。



「ねえ、シンさん。僕の悩みを聞いてくれませんか。」
昨日の晩、宿酔いが収まったシンジは、こっそりとシンに悩みを聞いてもらうことにした。シンジは、レイとアスカに挟まれて苦労している話をして、なんとかならないのか聞いてみたのだ。シンは、恋愛関係のことには経験が豊富だと思ったからだ。
「ふ〜ん、なるほどな。で、単刀直入に聞こう。お前は、レイとアスカのどっちが好きなんだ?」
「そ、それは……。」
シンジは、答えられなかった。実際に、自分でも分からないからなのだが。その様子を見て、シンはまあいいさと言って苦笑した。
「まあいい。決めかねているんだな。だがな、レイとアスカがお前を取り合っているなら話は簡単だ。シンジ、お前が強気に出て、仲良くしない方とは付き合わないと強い調子で言えばいい。」
「えっ、でも……。そんなことを言って、二人に嫌われたらどうするんですか?」
シンの答えは意外だったので、シンジは戸惑った。だが、構わずシンは続ける。
「その時は、別の可愛い子を紹介してやる。それにな、いつも言っているだろ。ウジウジした男は、結局は女の子に捨てられるって。男なら、たまには強気にバーンと言ってみろよ。その方が女の子に好かれるって。」
シンは、自信満々に言う。でも、いくらシンに憧れているシンジであっても、そう簡単には信じられない。
「でも、シンさんはそれを実行したことがあるんですか。」
シンジは、不安そうな顔でシンを見た。そこで、シンは当たり前だろと言わんばかりに胸を張る。
「ああ、もちろんだ。自慢じゃないが、俺は大勢の女の子にしょっちゅう言い寄られている。でもな、女同士で争うような子は嫌いだと普段から言っている。どうだ、シンジ。俺の周りの女の子で、レイやアスカみたいに争っている子がいるか?」
そう言われると、確かにいない。シンジは、渋々答える。
「いえ、いません。」
鈍いシンジでも、薄々は分かってきた。同居している女性陣のうち、半数以上がシンのことが好きであることを。だが、不思議なことに女性陣の仲は良い。それが、シンジには理解出来なかったのだが、シンの話でなんとなく分かるような気がしてきた。
「まっ、そういうことだ。女の子は、好きな男の言うことはきくもんだ。だから、皆と仲良くするように、男がちゃんと言わなくちゃな。みんなで楽しく過ごすことが出来ない女の子なんて、こっちから願い下げにすればいい。分かるな、シンジ?男次第で、女の子も変わるんだ。」
「はい、分かったような気がします。」
シンジは、シンに相談して迷いが消えた。シンに自信満々に言われると、不思議と納得してしまう。シンジはこの時、たとえ嫌われてもいいから、二人に争うのはやめてもらおうと決心したのだ。



さて、風呂上がりの一時、さっさと部屋に戻ったシンジに対し、レイやアスカは脱衣室で目には見えない炎を燃やして対峙していた。
「レイ、ここは一時休戦にしない?どうやらシンジは本気みたいだし、ここで二人が争っても、何の利益も無いわよ。」
そう、シンジを狙っているのは、この二人だけではないかもしれないのだ。アスカも薄々ではあるが、ラクスとカガリに加えて、マユミもシンジを狙っていることに気付いていた。アスカの申し出に、レイはマユミの方を見た。すると、マユミが横から口を出してきた。
「私は賛成です。一緒に住む二人の仲が悪いと、周りの人も嫌な思いをしますから。それに、ここはしっかりと二人が組んで、第三者からシンジさんを守る方が良いと思います。」
それを聞いたレイは頷いた。
「ええ、分かったわ。今から私達は戦友。碇君を他の女の子から守るために戦いましょう。」
「うん、そうだな。俺も、それには賛成だ。」
自分がその第三者だと気付かないカガリは、何度も頷いた。カガリも結構鈍い。
「そうですわ。皆さん、仲良くした方が良いと思いますわ。」
ラクスは、自分も第三者に含まれていると気付いていたが、あえて気付かないフリをして笑った。だが、その笑いは表面上のもので、心の中では色々と考えを巡らしてした。今のところ、ラクスの本性に気付いているのはマユミだけである。
「そこで、提案なんですけど……。」
そして、マユミの提案を元に、細かい詰めの話が一気に進んで行った。



もちろん、レイとアスカの休戦のしわ寄せを受ける者もいた。タロンのエージェント、シンシアとソネットである。
翌日、何も知らないシンシアがシンジに近付いたが、レイとアスカに両脇を固められたため、近寄ることすら出来なかった。シンジを虜にするどころか、話すら出来なかったのだ。
シンジ達が去っていくのを呆然と見送るしかなかったシンシアに、仲間のはずであるソネットが嫌味を言う。
「あら、サードを色仕掛けで虜にするんじゃなかったかしら。自信満々だったけど、あなたの色気なんて大したことないじゃない。」
だが、これにはシンシアも返す言葉も無かった。
「はいはい、私の負けを認めるわ。でも、気がついた?チルドレンの周りにいた奴ら、ただ者じゃないわよ。あいつらがいなければ、また違ったと思うんだけど。」
「ええ、そうね。戦自の少年兵だから、大した奴らじゃないって思っていたけど、とんでもないわ。特に、あの3人。シホ、フレイ、ルナマリアは、要注意のようね。殆ど隙が無かったし、かなりの実力者と見てよさそうね。」
「そっか。こりゃあ、前途多難なようね。」
そうして、二人は深いため息をついた。



その後、シンシアから報告を受けた時田は、顔をしかめた。エヴァンゲリオンのパイロット達の調査が思ったように進んでいないからだ。
「あの二人だけでは、やはり荷が重かったようですね。」
時田が呟くと、傍らに立っていた長身のフランス系金髪美人の秘書が提案する。
「ならば、特殊部隊を派遣しましょうか。」
確かに、それがいいかもしれない。そう思った時田だが、なんだか嫌な予感がしたので他の手段を用いることにした。
「それもいいですが、今回はやめておきましょう。我々とは関係のない、フリーの傭兵部隊を雇うことにして下さい。手配はお任せします。」
「はい、わかりました。」
その秘書は、一礼すると時田のいる部屋を出た。その秘書が部屋を出るのを見届けてから、時田はどこかへと電話をかける。電話は直ぐに繋がった。
「ああ、私ですよ。アレは、もう使用できますか?ふむ、なるほど。分かりました。また連絡しますので、よろしくお願いします。」
電話が終わると、時田は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。



To be continued...


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