新世紀エヴァンゲリオン Enemies of Female

第十九話 知らない、ステラ

presented by Red Destiny様


サキエルの来襲から3週間ほど経ったある日のこと、昼休みの食事中にシンジは非常召集を受けた。レイやアスカも、同時に招集を受けたが、『あ〜んして』を邪魔されたレイは少々頬を膨らませる。そんなレイに、シンジはなだめるように話しかける。
「レイさん、今は戦う時だよ。少しでも早く出撃して、ここから離れた場所で敵を倒そうよ。ねっ?」
「了解。」
レイは即座に答え、真剣な表情になる。
「そうと決まったら、さっさと行きましょうよっ!」
アスカの声に皆頷き、素早く行動に移った。
その後直ぐに非常警戒宣言が発令され、市民はシェルターへと避難することになる。



ネルフでは、ミサトが発令所の正面モニターに映っている巨大なイカ……ではなくて、巨大なチ○コ……でもなくて、第4使徒シャムシエルの姿を腕組みをしながら睨みつけていた。その姿が凛々しく見えるのか、それとも単にミサトのことが好きなのかは分からないが、日向はチラチラとミサトの方を盗み見る。そのうち、意を決したように口を開いた。
「前は15年のブランク。今回はたったの3週間ですからね。」
日向が不自然なほどに明るく声をかけると、ミサトは腕組みをした姿勢のまま不敵に笑う。
「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね。」
続けて何かを言おうとしていた日向だったが、ミサトに言葉を遮られてガックリと肩を落とす。今は、ミサトに何を言っても無駄であることが分かったようだ。でも使徒が来ているのに、そんなことでいいのか、日向?そこに、E-767 早期警戒管制機SWACSのナタル准将から報告が入る。ナタルは本来は発令所にいても良いのだが、最前線に少しでも近い場所で指揮を採りたいという本人のたっての希望で、機上の人となっている。
「ミサト!準備は整った。指示を乞う。」
ミサトは、待ってましたとばかりに舌なめずりをする。今のミサトは上機嫌だ。ナタルの5千人規模の国連軍精鋭部隊が加わったうえに、ナタルから物的被害は気にせずとも良いと言われているため、予算を気にせずに思い切った作戦行動が取れるようになったからだ。
「さあてと、ヨーロッパ最強と言われる第7機甲師団の実力、とくと見せてもらいましょうか。ナタル、Ω30でお願い。細かい事は任せるから、とにかく敵の情報を少しでも多く集めてちょうだい。」
ミサトは、あらかじめ策定していた千を超える作戦案のうち、最適と思われるものをナタルに伝える。最初は、とにかくあらゆる情報を集める。正体不明の敵を相手にする時のセオリーだ。
「了解した。」
ナタルは早速部隊に細かい命令を次々と下し、日頃の訓練の賜物か、その命令を部隊は素早く忠実に実行する。シャムシェルの周囲を多数のラジコン飛行機が旋回し、あらゆる角度から映像その他のデータを集めていく。そのデータはリアルタイムに発令所の正面モニターに映されると同時に、リツコの所へ送られて解析されるのだ。

「どう、リツコ?何か分かったかしら?」
目は正面モニターを見つめたまま、ミサトはリツコに問いかける。だが、そんなに早く解析が出来る訳もない。
「まだよ、ミサト。急かさないで。」
リツコは、少しイライラした口調になる。一瞬、その場の雰囲気が刺々しいものになる。
「はははっ、ごみん、ごみん。」
さすがに悪いと思ったのか、ミサトは直ぐにあっけらかんと右手パタパタと振って謝る。と同時に、刺々しい雰囲気は雲散霧消する。ミサトは大物なのか、それとも単なるお調子者なのか、場の雰囲気を和らげることにかけては、右に出る者はいない。
「ふっ、しょうがないわねえ。」
リツコが呆れて言うが、今度は先程と違い穏やかな口調である。リツコのイライラが収まったのを見て、ミサトはシンに話を振る。
「ねえ、シン君。レイ達はあとどれ位でここに到着するかしら。」
シンは、少しだけ考える素振りを見せた。
「そうだなあ。あと、30分ていうとこかな。」
ミサトは、シンの返答を聞いて、にっこりと笑って礼を言う。
「ありがと、シン君。助かるわあ。」
ミサトからすると、本来ミサトがやるべきチルドレンの管理を実質シンが行っているので、多少楽になっているのだ。
「いいえ、どういたしまして。」
シンは、ミサトにパイロットのことは任せてよと言ったのだが、後にそれが失言だったと気付く。シンジ達はその頃、正体不明の傭兵部隊の襲撃を受けていたのだ。



学校を車に乗って出て5分もしないうちに、シンジの乗る車が急ブレーキをかけて停止した。
「な、何があったの?」
シンジは、驚いて前を見た。すると、シンジの前を走っていたレイの乗る車を、見慣れないトラックが遮っていた。
「おい、頭を下げろ!」
その時突然、隣に座っていたムサシが、シンジの頭を掴んで無理やり押さえた。膝の間にシンジの頭が入る格好になり、シンジの視界が急に暗くなる。それに、ちょっと苦しい体勢である。
「ちょ、ちょっと。一体何をするの?酷いよ。」
シンジは口を尖らせて抗議したが、ムサシはシンジの方を見ようとしない。頭を低くして、周りを伺っている。
「いいから、ちょっと黙ってろ。」
そう言いながら、ムサシはケータイ−と言っても電話以外の機能も盛り沢山の優れモノだが−を取り出した。
「こちら、ムサシ。何者かの襲撃を受けた。援軍を乞う。」
襲撃という言葉を聞いたシンジは、慌てだす。
「ど、どうしたの?襲撃って、一体誰が?」
だが、ムサシが答えられるはずもない。
「俺だって、分からないんだ。でもよ、頼むから黙っててくれないか。気が散ってしょうがないんだ。」
ムサシのいつになく真剣な口調に、シンジは黙ってしまう。
「ねえ、シンジ君。慌てるのは分かるけどさ、もっと落ち着こうよ。」
今度は、ケイタが柔らかな口調で語りかける。そこで、やっとシンジは自分が軽いパニックに陥っていたことに気が付く。
「ああ、ごめんね。こういう時は、いや、こういう時こそ落ち着かなきゃいけないんだよね。」
シンジは、以前何度もシンに教わったことを思い出す。いついかなる時でも、頭は冷静にすべし。パニックに陥った時は、まずは落ち着くべし。シンジは、大きく息を吸い、そしてゆっくりと吐き出した。その動作を繰り返すうちに、心も段々と落ち着いてきた。
「ようし、落ち着け。クールになるんだ。いついかなる時でも慌てない。それが、本当のヒーローっていうもんだ。」
シンジは、シンに教わったセリフをそのまま声に出してみる。不思議なもので、頭で思うだけの場合よりも、口に出して言った時の方がより一層心が落ち着くのだ。何度かその言葉を繰り返した後、シンジは目を瞑って思考する。すると、ほどなく現在の状況がほぼ理解出来た。
「僕達、チルドレンを狙ったテロか。まだ攻撃して来ないところをみると、目的は誘拐か足止めか。」
シンジの呟きに、ムサシが答える。
「そうだ、シンジ。それ、恐らくビンゴだぜ。足止めの可能性の方が、若干高いかな。恐らく、俺達を足止めして使徒の侵攻を招き、ネルフに大きなダメージを与えるつもりなんだろう。人類の未来が懸かっている戦いってことが、全く分かってねえ。それとも……。」
そこまで言って、ムサシは口をつぐんだ。エヴァンゲリオン以外にも、使徒に対抗出来る超兵器があるという噂を聞いたことがあるからだ。謎の組織や、ムサシの古巣である戦自にもあるという。
「エヴァに代わる兵器が現れて、使徒を倒すっていうことだね。そう上手くいけばいいけど、まあ、良くもないか。勝てる保証なんて無いんだし。」
ムサシが黙ってしまったので、シンジが言葉を続ける。もしも、エヴァ以外の兵器が使徒に対して通用しなかったら、ネルフが壊滅的な打撃を被る可能性もある。今回はなんとかなっても、次に使徒が攻めてきたらアウトなのだ。シンジにしてみれば、人類の未来を危うくさせるような賭けをする連中がいるなんて信じられなかった。
「まあ、それならまだいいけどな。下手をすると、人類滅ぶべしと主張する狂信者かもしれねえしな。」
そう言いながらも、ムサシは注意深く辺りを見回す。と、その時、ムサシのケータイが振動した。ムサシはケータイを耳に当てる。
「はい、こちらムサシ。ええ、分かりました。では、急ぎ出発します。」
通話が終わると、ムサシは笑顔になった。
「喜べ、シンジ。敵の傭兵部隊は、全て排除されたそうだ。周囲の安全が確認されるのに、あと数分かかる。そうしたら出発するぞ。」
「えっ……。」
シンジは、あっけに取られる。何が起きたのか、全く理解出来なかったからだ。それを察したムサシは、手短に説明する。
「援軍が来たんだよ。隊長と凄腕の傭兵がな。敵は50人いたそうだが、もう殲滅されたそうだ。」
なんと、10分も経たないうちに敵を全滅させるとは。シンジは、あまりの早業に驚く。
「ねえ、味方は一体何人来たの?みんな無事だったかなあ。」
頭に浮かんだ疑問を、そのままムサシにぶつけてみる。これには、ムサシも苦笑する。
「味方はな、たった4人だそうだ。」
「ええっ!」
予想外の答えに、シンジは飛び上がんばかりに驚いた。シンジの驚く顔を見たムサシは、さらに苦笑い。
「そうか。シンジは知らなかったんだよな。うちの隊長な、一人で1個中隊を倒したこともある位強いという噂なんだ。ジェノサイド・ステラって言えば、戦自で知らない者はいないほどの有名人さ。俺も最初に隊長があの人だって知って、小便チビった位なんだぜ。そのステラにサンダー・ウエーブ、シャイニング・ニードル、ファントム・サークルも加わったんじゃ、相手の方が可哀相な位さ。」
「あはははっ……。」
シンジは、もう笑うしかなかった。まさか、ステラがそれほど強いとは思いもしなかった。以前戦った時、確かにコテンパンにやられはしたのだが、それでも 信じられない気持ちだった。

そうしてシンジがしばし呆然としている内に、車はゆっくりと走り始めた。そしてトラックを回り込んで越えたのだが、そこでは、まさに地獄絵図といえる状況が広がっていた。道路の脇に、血まみれになった無数の人間−恐らくは死体−が転がっていたのだ。鋭利な刃物で切られた者、首に絞められた跡が残っている者、体に細長い針が突き刺さっている者、様々である。
「こ、こんな……。」
シンジは普段の天然ボケしたステラを知っているだけに、ステラがこんな光景を生み出すなんて信じられなかった。だが、前方にステラの姿を見つけると、信じない訳にはいかなかった。シンジは、すれ違いざまにステラの顔を見たのだが、そのステラは普段のステラの面影は無く、目を吊り上げてニッと薄笑いを浮かべ、一際大きな血染めのアーミーナイフの刃を舐めていた。ステラの顔は麻薬中毒者にも似た恍惚とした表情であり、完全にイッているように見えた。
「僕の知らない、ステラさんだ……。」
シンジは、背筋が寒くなった。



一方、シェルターに逃げ込んだトウジとケンスケは、暇を持て余して体育座りをしていた。大きなスクリーンはあるのだが、大した情報は映し出されない。厳重な報道管制が敷かれているためで、地上の出来事は何一つ伝わらないのだ。もう、30分以上も同じ映像が映っている。
「まったく、つまらんわい。」
スクリーンに背を向けて愚痴るトウジに、ケンスケが小声で囁く。
「そうだよな。おい、トウジ。こっそりここを抜け出してみないか。」
ウインクするケンスケに、トウジはそれはまずいと反論する。だが、ケンスケはあきらめない。委員長に後で
自慢話が出来ると言われて、トウジの心はかなりぐらついた。
「よし、分かったわい。」
そう言おうとして、周囲の大歓声にかき消される。二人は何事と思って振り向くと、スクリーンにはヨーロッパ では歌姫と称えられるほど人気のある、超美少女のアイドル歌手が映っていた。
「おおっ!ラクス・クラインやっ!」
「おいおい、本物かよ。信じられないぜ。」
実は、二人ともラクス・クラインというアイドル歌手の大ファンだった。
「はーい、みなさーん!元気にしてますかーっ?」
「「「「はーい!」」」
ラクスの問いかけに、大勢の人間が返事をする。もちろん、トウジとケンスケも。
「今日は、私の臨時コンサートを、シェルターでつまらない思いをしている皆さんにお見せしたいと思いまーす。精一杯頑張りますので、よろしくお願いしまーす。では、最初の曲は……。」
ラクスの言葉を聞いて、トウジとケンスケは立ち上がり、力の限りシャウトする。
「「うおおおおおおおおーーーーーっ!エル・オー・ブイ・イー・ラクスーーーーーっ!」」
二人は知らない。このコンサートが、シェルターを抜け出そうとするはずの二人の愚かな少年を引き止めるためだけに開かれることを。



To be continued...


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