福音の錬金術師

第三章

presented by 流浪人様


「碇君、初号機のあの力は何だね?」
 ネルフの司令室ではゲンドウが会議に出席していた。会議のメンバーは皆さんご存知の『サードインパクト起こしてLCLになっちゃおうクラブ』の爺さんどものである。
 別名『人類巻き込んでの集団自殺愛好会』とも言う。

「左様……これは由々しき事態だよ」

「初号機の力に加え、ロストしたサードが突然、現れた。我々のシナリオとは大きく外れている」

「問題ありません……誤差の範囲内です」

「本当にそうかね? 君のその傷もサードにやられたのではないのか?」

 老人の一人が言うように、ゲンドウは鼻に絆創膏を張り、口許も赤く滲んでいる。(サングラスは新しいの付けたらしい)

「息子一人の監視・躾も出来んとはな……」

「更にはネルフに取り込むことも出来ぬ不始末……どうする気だ?

「問題ありません。所詮は子供……幾らでも取り込む方法はあります。それに心を壊すのも容易い事です」

「その言葉、信用できるのか?」

 今まで口を閉ざしていた議長の【キール・ローレンツ】が初めて口を開いた。それに対し、ゲンドウは沈黙を保ったままだ。

「碇……貴様の最大の役目は人類補完計画の遂行だ。分かっているな?」

「その通りだ。人類補完計画こそが絶望的世界を救う唯一の希望なのだよ」

「分かっております。進行状況は1%程度しか遅れていません」

「なるほど………では、ご苦労だったな碇。後は委員会の仕事だ」

 キールが言うと老人達のホログラフィーが消えていく。

「碇……後戻りは出来んぞ」

 そう言い残し、キールの映像も消えた。残されたゲンドウはポツリと呟いた。

「分かっている……人類には時間が無いのだ」

 すると今まで黙って会議の様子を見守っていた冬月が話しかけてきた。

「計画の遅延が1%? 本当にそうなのか?」

「問題ない」

「ほう? ではシンジ君をネルフに取り込む術はあるのだな?」

「葛城一尉は?」

「既に目覚めたよ。まぁ使徒が倒されて随分と不機嫌なようだが……」

「シンジの所在が分かり次第、葛城一尉と保安部を引き連れて連行しろ」

「力尽くか……」

 リツコの報告だと、シンジはあの焔を自在に操る手袋を処分したそうだ。故にゲンドウも今のシンジは多少、腕の立つ子供としか見ていない。それは冬月も同じであった。





「この辺で良いかな……」

 シンジは第三新東京市が見渡せる山中の開けた場所にやって来た。傍には小さな湖もあり、ハイキングなどには良い場所だ。

 シンジは担いでいた大きな布袋を引っ繰り返すと、ゴミ捨て場にあるようなソファやスタンドなどが置いてあった。

「次は〜……」

 キョロキョロと辺りを見回してポケットからナイフを取り出す。ナイフには練成陣が刻まれており、手頃な木に近付いて一振りする。

 すると木はまるで紙のようにスパッと切れた。このナイフは一見するとただのナイフだが、実際は普通のナイフである。だが、シンジが練成陣を刻んだ事により、対象物を思った形に切る事が出来る。

 だが、硬度は普通のナイフと同じである為、余りに硬い物は切れないが、その辺はシンジの錬金術で硬度を調節すればダイヤモンドすら切る事が可能である。

 木は一回切られただけで材木店に並ばれてるような木材になった。

「よっ」

 それを先程のガラクタの所へと運ぶ。そして、両手を合わせると材木とガラクタを練成した。すると、あっという間にログハウスが完成した。

 フゥと息を吐くと、ログハウスの中に入る。中は絨毯で敷き詰められた床にソファ、テーブル、冷蔵庫と家具一式が揃っている。

 ――土地の買収に関しては……金塊でも積めば大丈夫かな――

 石探しに行かないとと思い苦笑すると、それより先にするべき事があるので腕輪の賢者の石を外した。

 ――魂は石の中にあるけど肉体は……お! 良いの、あるじゃん!――

 ゴソゴソと布袋の中を漁り、あるモノを見つけてニヤッと笑みを浮かべた。シンジはあるモノを賢者の石の傍に置くと、それ等を中心に特殊な練成陣を描いた。

 ――賢者の石を使えば少量の代価で肉体は練成できる……――

 フッフッフと笑いながら両手を合わせて地面に手を置く。すると賢者の石と、あるモノが光り出し、あるモノが段々と人の形を成していった。

 やがて二人の少女が裸で姿を現す。片方はセミロングの金髪のシンジより少し年上ぐらいの少女で、もう片方は紫の髪を腰まで伸ばした十歳ぐらいの少女だった。

「ん? ……此処は?」

 金髪の少女はゆっくりと赤い瞳を開き、周りを見渡す。

「きゃ!?」

 すると急にタオルケットが投げ付けられて驚く。

「いや、悪い悪い。服まで練成できなかったよ」

 シンジはボーっと突っ立ってる紫の髪の少女にタオルケットを巻きながら謝って来た。

「シ、シンジ?」

「やぁリンネ。どうだい? 外の世界は?」

 恐る恐る尋ねて来る金髪の少女を無視し、シンジは紫の髪の少女――リンネに微笑を向ける。リンネはジ〜ッとシンジの顔を見つめながらキョロキョロと部屋中を見る。

 すると、おもむろに窓に向かって走り出し、背伸びをして外を見る。

「…………おおきい」

「こういうのは広いって言うんだよ」

「ひろい? …………ひろい」

 首をコクッと傾けるが、リンネは外を見て『ひろい、ひろい』と連呼した。

 ――ま、今まで初号機の視点だったから『大きい』っていうのも分かるかな……――

 クスッと微笑を浮かべると、後ろから『シンジ〜』と情けない声が届いたので溜め息を吐いて振り返った。

「何さ?」

「何で私の体、こんなんなの〜?」

 顔の作りは似ているが髪が金髪なのは何故なのかとシンジに少女――碇 ユイは質問する。シンジは乾いた笑いを浮かべ、

「ゴメ〜ン。何かリンネの事ばかり考えてたら貴女の顔とかどんなのか思い出せなくて……あ! 金髪なのは、今日、眉毛は黒いのに髪が金色だった人が印象強かったからだと思う」

「目は?」

「う〜ん……多分、あの綾波って子かな。モニター越しだったけど印象深い瞳だったよ」

「そうなの?」

「うん。あ、ちなみに肉体の材料は鶏肉だから」

 ピシッとユイは体を硬直させた。鶏肉? ソテーとか手羽とか焼き鳥にする、あの鶏肉? ユイはフルフルと体を震わせながら自分の体をツンと突いてみた。特に変わりは無い。人間と全く同じだ。

 ――内臓はそこらで捕まえたカエルのものを使ってるって言ったらショック死するだろうな〜――

 錬金術の法則に『自然摂理の法則』というものがある。水なら水属性のものしか練成できないように、肉体なら人間の肉じゃなくて鶏肉でもいけるかな〜と試してみたら本当に出来たのだ。

 実際だったら水やら炭素やらアンモニアやら石灰などを準備しなくてはいけないのだが、賢者の石の力で鶏肉を代用したから上手く行ったのだろう。

 ちなみに鶏肉を選んだのは………骨付きで便利だったからである。まぁ材料はともかく、性質的には人間と同じなのでオールオッケーだろう。

「ま、まぁなってしまったのは仕方が無いわ」

 流石は腐っても科学者。飲み込みが早くて助かる。

「何で若いかって事には質問しないの?」

「あらあら。女の子だったら若い方が良いじゃない」

「女の……?」

「………何か言いたそうね?」

「そう見えるなら、そう思われる事を言ったのでは?」

 バチバチと二人の間で火花が散る。だが、シンジはフッとユイを鼻で笑うと、いつの間にやら服の裾を掴んでいるリンネを膝の上に乗せてソファに座った。

「それで? コレからどうするんです? ゲンドウの所にでも行きますか?
 僕は別に引き止めませんよ。ただし、その時は貴女もゲンドウ諸共殺します」

 パンと両手を合わせると賢者の石をはめ込んでいる腕輪の形が変化して、刃のように伸びた。切っ先をユイに向けると、彼女は一瞬、言葉を詰まらせるが真正面からシンジを見据えた。

「いいえ」

「へぇ……じゃあ僕に付くと?」

 その言葉にもユイは首を横に振った。

「人類を滅ぼす基盤を作った私に選択する権利は無いわ。だから……ただ流れに身を任せるわ。時代の、世界の流れに……あの人が死んでも、世界が滅ぶような事になっても受け入れるわ」

 ――ま、それが生き方の基本ではあるんだけど……――

 刃を元に戻し、シンジは苦笑した。

 “一”は“全”、“全”は“一”である。人も物も世界という大きな流れ(全)の中の一つにしか過ぎない。だが、世界は、その一つ一つが集まって構成されているのだ。人の死も流れであり、それに逆らう事は決して出来ない。

 流れに逆らう事は己の破滅を意味しているのだ。

 かつてのシンジの体験した流れはサードインパクトによる世界の終わりである。だが、今のシンジの体験しようとする流れはゲンドウ・ゼーレ・それに準ずる者達の死である。

 その流れに逆らえば、きっと手痛いしっぺ返しを喰らう。歴史の修正力など関係ないほど、今の世界は十年前、シンジが失踪した事により流れが変わっている。

 即ち、サードインパクトを起こそうとする者は目的を達成する事も出来ず、破滅を迎える事となるのだ。

 シンジはユイがソレを理解しているかどうかは分からないが、少なくとも流れに身を任せようとする考えは正しい。

「あ、でも碇 ユイのままじゃ流石にマズイかしら……」

「適当に名乗ったら?」

「そうね〜………」

「チキンとか?」

「嫌よ、絶対!!」

 っていうか洒落にならないのでユイは力一杯拒絶した。

「う〜ん……」

「ま、適当に考えてなよ。僕は、ちょっと出かけるから」

「え? 何処に?」

「あんた等の服の調達。ついでに野暮用を済ませようと思ってね」

 そう言って出て行こうとすると、リンネが離すまいとシンジの腕に絡みつく。シンジは苦笑いを浮かべて頭を掻くと、ポンと彼女の頭に手を置いた。

「リンネ、最初のお願い。イイ子でお留守番しててね」

「おるすばん?」

「僕が帰って来るまで、この家を守っておいてね」

「…………」

 リンネは無言で頷いた。シンジはニコッと微笑むと、彼女の頭を撫でて出て行った。

「………………」

「う〜ん……」

 残ったのはジッと扉を見つめてシンジの帰りを待つ元初号機と、どんな名前にするか頭を悩ませる元初号機のコアであった。





 とある病室の前にシンジは立っていた。シンジは大きく息を吸い込んでノックする。

「コンコン」

「………誰?」

 ――口でノック音言ったのは無視ですか……――

 ボケをサラッと流されてしまい、シンジはちょびっと悲しい気持ちになった。そんな気持ちを隠しつつ、病室に入ると包帯を巻いた蒼銀髪の少女――綾波 レイがいた。

 彼女はベッドで上半身を起こしながらシンジの方を見つめている。シンジは微笑を浮かべると、軽く手を上げて挨拶した。

「や。綾波さん」

「………貴方、誰?」

「僕は碇 シンジ。認めたくないけど、髭の息子らしい」

「碇………碇司令の息子?」

「まぁね」

 肯定するシンジをレイは複雑な表情で見る。それは何処か嫉妬に近いものがあり、大抵の人間は、こういう視線を向けられると良い気はしない。だが、シンジは特に意に介した様子も無く、彼女のベッドの脇の椅子に腰掛けた。

「羨ましい? 君が持ってない絆を持ってる僕が」

「!!?」

 レイの赤い瞳が開かれる。まるで心を読み取られたかのように言うシンジにレイは大きく目を見開いた。シンジは微笑むと、スーパーの袋を取り出した。中はリンゴが入っている。

「リンゴ食べる?」

「…………リンゴ、食べた事ない」

 ――やっぱりビタミン剤とかが主食だったのか……――

 シンジは憤りを感じるが、部屋の中をキョロキョロと見た。すると丁度、自分の真後ろの天井に監視カメラを発見した。袋からリンゴをわざと一個落とす。

「おっと……」

 そして拾う際、両手を合わせて床に手を置いた。すると床に一本の亀裂が入り、ベッドの下から壁を通り、天井に達すると監視カメラを破壊した。

 恐らく自分が彼女の病室に来ているのはバレてるだろうが、此処に来るまで時間はある。シンジはリンゴを拾うと、袋に戻した。

「僕、これから君の素体を破壊して来るけど構わないかい?」

「!! 何で……知ってるの?」

「色々知ってるよ。君がリリスと碇 ユイのクローンである事も」

 感情表現に乏しいレイだが、シンジの口からポンポンと自分の秘密が出てきて呆然としている。

「君のコンプレックスは自分が人間じゃないと思ってる事かな」

「何で……」

「知ってるかって? それは〜………企業秘密♪」

 シンジはウインクすると、ナイフを取り出してリンゴを軽く縦に切る。するとリンゴはあっという間に食べ易い形に切れた。

 レイはその所業にビックリするが、爪楊枝を刺したリンゴを差し出された。恐る恐る一口食べると、甘い味が口一杯に広がった。

「どう?」

「美味しい……」

「そりゃ良かった。でも、こういう食べ方もあるんだよ」

 そう言ってシンジは袋からリンゴを取り出すと、切らずにそのまま齧り付いた。

「で? 君の素体………破壊……っていうか、救っても良いかい?」

「救う?」

「うん。あんなカプセルの中に浮かべられて自分が目覚めるまで待つってのは半端じゃない苦しみだからね」

「でも……替わりがいる事は良い事だと碇司令が……」

「替わりなんて無いさ。人生なんて一人一つずつしか無いんだから」

「でも私は……人間じゃ……」

「しっ!」

 レイが何かを言いかけた所でシンジは彼女の口を塞いだ。そして入り口の方を睨み付けると、ノックも無しで黒服達が入って来る。

「サードチルドレンだな」

「そんなのになった覚えはありませんよ」

「いいえ。碇 シンジ君、貴方をネルフ所属のサードチルドレンに強制徴兵します」

 黒服達の間を通ってミサトが現れた。どうやら無事、脱水症状から復活したようだ。

「強制徴兵ね〜……僕が素直に応じるとでも?」

「碇司令が多少の怪我も目を瞑るそうよ」

 そう言ってミサトが手を上げると、黒服達が懐に手を入れた。が、当のシンジは冷めた目で彼等を見つめる。

「やれるもんなら……やってみるんだねっ!!!」

 座っていた椅子を投げ付け、怯んだ隙に黒服達の合間を縫って飛び出して行った。

「ちっ! 追いなさい!!

 ミサトが指示を飛ばすと黒服達は一斉にシンジを追いかけた。手には、しっかりと拳銃が握られている。

 ――玄関より屋上の方が近いな……けど、流石に病院内での発砲は控えてるか――

 幾らネルフの保安部が雑魚でも、その辺は弁えてると思い、シンジは安堵するが、その常識すら覆す奴がいた。

「止まりなさい、クソガキ!!!」

 パンッ! パンッ!!

 ミサトは周りを無視して容赦なくシンジを撃って来る。

「あんた達! 何してんのよ!? 早く銃でサードを止めなさい!!」

「は? で、ですが此処では……」

「早くしろっつってんのよ!!」

「は、はい!!」

 ミサトに怒鳴られ、黒服達は一斉に銃を撃って来た。すると患者や医師達も慌てて身を低くしたり避難したりした。

 ――……………死人が出たら殺すか――

 本気でそう考えるシンジだった。黒服達を牽制して屋上に向かうシンジだったが、前方不注意で誰かとぶつかってしまった。

 ドンッ!

「うわ!?」

 ぶつかった相手は踏ん張りが利かず、尻餅を突いてしまう。

「な、何すんねん!?」

「ゴメン! そこにいたら危ないよ! 早く逃げてね〜!」

 走り去りながら謝って忠告するシンジに、ぶつかった相手――関西弁でジャージを着た少年は何だろうと言う顔になる。

「は?」

 ズドドドドドドド!!!!!! パンッ! パンッ!

 が、突然、沢山の銃を乱射する黒服達が目の前を通り過ぎていった。どうやら危ないというのは、こういう事だったらしい。

「な、何やねん一体……」

 少年を追いかけていく黒服達を見ながらジャージの少年は呆然となった。




「ふぅ……」

 屋上に辿り着いたシンジは扉を閉めると、隣にある梯子を見る。すると手を合わせて梯子に触れると、梯子は青龍刀になった。

 ヒュンヒュンと青龍刀を器用に操ると、扉から離れて構えを取る。やがて扉を突き破って黒服達が流れ込んで来た。ミサトも同様である。

「ふふ……観念しなさい、シンジく……って、何でそんなの持ってんのよ!」

 シンジの持ってる青龍刀を見て、ミサトが叫ぶ。

「企業秘密♪」

「こ……の……クソガキ……」

 ミサトは青筋を浮かべ、シンジを憎しみの篭った目で睨み付ける。

 ――エヴァに乗らないとダダを捏ねて、私の指示なしで勝手に使徒を倒した挙句、サードチルドレンになりたくないですって〜……ちょっち大人に逆らえないよう教育する必要があるわね――

 青龍刀なんてものを持ってる事には驚いたが、所詮は子供だ。刀が銃に負ける筈が無い。しかも、この人数。どう考えても負ける要素は無かった。

「撃てぇ!!」

 ミサトは自分の勝利を確認すると叫んだ。

「「「「「「ぎゃああああああああああ!!!!!!!」」」」」」

 だが屋上に響いたのは銃声ではなく悲鳴だった。それは自分の周りにいる黒服達のモノで、何人かの足が膝からバッサリと切られていた。

 ヒュンヒュンヒュン!

 それと同時にシンジは回転して飛んで来た青龍刀を受け止めた。

「何も真正面から戦う必要なんて無いでしょ? 首と胴が切り離されなかっただけでも、ありがたく思うんだね」

 青龍刀にこびり付いた血を振り払い、シンジは笑みを浮かべた。そう……シンジは青龍刀を投げ付け、黒服達の足を切り裂いたのだ。青龍刀はブーメランのようにシンジの所へ戻って来るという寸法だ。

 まぁ死にはしないが、神経までズダズダにやられてるから義足、または車椅子生活は免れないだろう。

「くっ! う、撃ちなさい!!」

 何とか無事な黒服達とミサトはシンジに向かって一斉に銃を乱射した。飛んで来る銃弾をシンジは、青龍刀の腹で防ぐ。多少の衝撃もあるが、踏ん張って耐えた。

「ちっ! アレ、貸しなさい!!」

 銃では意味が無いと思ったミサトは近くの黒服から大型の銃みたいなのを受け取る。バズーカにしては小さい。

 ゴォッ!!

「!!」

 突如、銃口から焔が放出した。

 ――火炎放射器……僕を殺したら何にもならないのに………よっぽど頭に血が昇ってるな――

 っていうか、そんなのまで持って来るか普通、と思いつつ、シンジは溜め息を吐くと、青龍刀で自分の足下の先に素早く練成陣を刻んだ。その練成陣を軽く踏むと、シンジに向かって行こうとした焔はパッと消えた。

「え!? ど、どうなってるの!?」

 ミサトや黒服達は急に焔が消えて驚愕した。

「さて此処で問題です。二酸化炭素の中じゃ火はどうなるでしょう?」

 青龍刀を肩に置いて、シンジは問題を出した。ミサトは彼の真意が分からず首を傾げる。

 実はシンジは、練成陣上だけの酸素を二酸化炭素濃度を上げたのだ。二酸化炭素中なら火は燃えない。故にどれだけ火力を強めたとしても、シンジの前の練成陣に達した時点で消えてしまうのだ。

「じゃ、今度はこっちの番ですよ」

 そう言うとシンジは軽くステップを踏んでミサト達に突っ込んで行く。そのスピードは驚異的で、彼女達の目には正に『消えた』と言うべきスピードだ。すると彼女の周りで次々と黒服達が切り裂かれていく。

 急所は避けている為、致命傷にはならないが意識がある分、痛みが全身を襲う。既に足を切られた者達は唇が紫に変色して震えている。

 やがて屋上に無事な状態でいるのはガタガタと震えるミサトと、青龍刀を肩に置くシンジだけだった。黒服達は皆、彼女の周りで血の海を作り、悶え苦しんでいる。

「良かったですね、此処が病院で。とっとと治療すれば死にはしませんよ」

「くっ! こ、この化け物がぁ!!!!!!!!

 ミサトは落っこちていたマシンガンを拾うとシンジに向かって乱射し始めた。

「ちっ!」

 シンジは舌打ちして回避するが、ミサトは執拗に追いかけてくる。シンジは今、常人には見えない程のスピードで走っている為、彼女も殆ど見えていない。故に勘と僅かな影で撃っているのだ。

 カチャ……。

 その時、屋上の扉が開いた音がしてミサトが敏感に反応した。

「!! そこかぁ!!」

 だが、そこにいたのはレイだった。ミサトの銃口がレイを狙う。

「危ない、綾波!!」

 シンジは叫んで両手を合わせると地面に叩き付けた。すると地面が大きく光り、ミサトの足下がガラガラと音を立てて崩れて行った。

「きゃああああああああああ!!!!!! …………んぎゃ!」

 ミサトはそのまま黒服達と共に病院内に落っこちて行った。シンジは、ソロッと穴の中を覗く。病院内では突然、変な女や重傷の黒服達が落っこちて来て大騒ぎになっていた。ミサトは何かにぶつかったのはピヨピヨと目を回している。

「ふぅ………危なかったね、綾波。どうして追って来たんだい?」

「分からない……」

 シンジの質問に首を左右に振るレイにシンジは苦笑した。

「貴方の今の力……何?」

「ん?」

 スッとレイは屋上に空いた巨大な穴を指す。

「貴方は………人間じゃないの?」

 その質問にシンジは一瞬、目をパチクリさせるがクスッと微笑んだ。

「不思議な力があれば人間じゃないの?」

「…………」

「力や生まれなんて関係ないよ。大切なのは心………自分が人間だと思うなら人間だよ」

 ポンと幼子をあやす様にレイの頭を撫でるとシンジは言った。

「それでも君のリリスの力が嫌なら僕の所においで。その力を取り除いてあげるから……それと、騒ぎになる前に部屋に戻った方が良いよ」

 そう言ってシンジは駆け足で階段を降りて行った。




 セントラルドグマ………そこにはカプセルの中でLCLに浮かぶレイの素体があった。突如、部屋の一角が光り、扉が出現した。扉は重い音を立てて開かれ、シンジが部屋に入って来た。

「入れなきゃ新しく扉を作れば良し」

 ネルフ本部から行くのは無理なので、地上から別な道を作ってやって来たのだ。コレなら監視に引っ掛かる事も無い。

 シンジは改めて部屋の中を見回し、眉を顰めた。

 ――魂の無い人形か……いや、魂はある。僅かだけど一体ずつにリリスの魂の欠片が……なるほど――

 人間は、魂と精神と肉体の三つで構成されている。コレが不十分だと形を保てない。どうやらレイの素体にはリリスの魂が僅かに存在しており、ソレが精神の代わりもしているようだ。

 使徒は本能のままアダムの元へと帰る為、精神――即ち心は余り必要ではない。

「やるか」

 時間を無駄にしたくないので、シンジは両手を合わせて地面に手を置く。すると変成反応が起こり、カプセルの中のレイの素体から魂が切り離され、一つに集まった。

 弱々しいその魂は賢者の石の中へと吸い込まれて行く。やがて魂を失ったレイの素体は形を保てずに崩れていった。

「後は……」

 シンジはチョークを取り出し、部屋全体に練成陣を描く。そしてポケットからマッチを取り出して箱ごと燃やした。

 後は扉まで戻って、両手を陣に添えると部屋が激しく燃え広がった。先程、病院の屋上でやったように今度は酸素濃度を上げた。コレで火は完全に部屋を焼き尽くすだろう。

 シンジはサッサと避難すると、ユイとリンネの服を調達しないとな〜と思いつつ、地上へと急いだ。




「ルイ?」

 家に戻るなり、シンジはユイの考えた名前を聞き返した。

「そ。ルイ・アンカーって名乗らせて貰うわ」

 まぁ容姿はバリバリの外人だから良いとしても、アンカーとはまた安直なとシンジは思う。溜め息を吐きつつも、シンジはリンネに服を着させてあげる。彼女は、まだ服の着方すら知らないのだ。

「ねぇシンジ〜。私も長い間、エヴァの中にいたから服の着方が分からない〜」

「腕通してボタン留めろ」

 わざとらしい猫撫で声に、シンジはリンネに服を着せながらサラッと答える。

「何よ〜! ちょっとした親子のスキンシップじゃない!」

「普通は子が親に着せて貰うのであって、その逆なんか聞いた事ありません。ちなみに今は肉体的に全くの赤の他人ですので、ルイさん」

 有無を言わさぬシンジの言葉にユイ――否、ルイは嗚咽を上げて部屋の隅で『の』の字を書く。

「私……シンジに嫌われてるのかしら……」

「貴女がした嫌われるような事を克明に述べてあげましょうか?」

「………良いです」

 チッとシンジは軽く舌打ちした。折角、人類補完計画を考えた事やら、勝手な理由付けて息子放り出してエヴァん中に入った事を言おうとしたのに……。

 まぁ息子の為だと思って彼女自身、悪気が無かったのは認めているので、一応、こうして置いているのではあるが。

「じゃ、リンネ。ご飯にしようね」

「ごはん?」

 白いワンピースを着せられたリンネが首を傾げる。

「うん。食べるととっても美味しいよ」

「………あれよりも?」

 リンネはビシッと凹んでるルイを指差した。そういや初号機に取り込まれる=食われるって事なんだと思い、シンジは一瞬、返答に困ったが、

「えっと……食べてみたら分かるよ」

「………わかった」

「それでご飯は何なの?」

 いつの間にやら立ち直ってるルイが訊いて来た。復活早いなとツッコミを入れようと思ったが、シンジはVサインをして答えた。

「焼き鳥」

 ピシッとルイが固まった。シンジは石化した彼女を放って、リンネをテーブルに促す。

「……やきとり?」

「ううん。タコヤキ」

 時間が無かった為、街のタコヤキ屋で買って来たのだ。まぁ焼き鳥も売ってるちゃあ売ってるのだが……。

 リンネはタコヤキを一口食べてホフホフと頬を膨らませる。やがてゴクッと飲み込み、味を確かめる。

「…………おいしい。あれより」

 いちいちルイを引き合いに出すのもどうかと思うが、口の周りにソースを付けてるルイに微笑を浮かべ、ナプキンで拭ってやる。

「明日は僕の手料理を作ったげるね」






To be continued...


(あとがき)

牛、暴走中です。シンジ、ルイ(ユイ)、リンネ(初号機)の奇妙な同居生活が始まりました。ちなみに気体の練成は手を合わせるのでは何だかイメージが湧かないので、練成陣ありでやってみました。まぁ人体練成で鶏肉を使うのはお遊びって事で(笑)。ルイには色々とさり気なくシンジにおちょくられながらも、親子のスキンシップをしつこく図ろうとするキャラにしようかな〜と思ってたりします。では、掲示板やメールで感想を下さった皆様、この場でお礼申し上げます。作品を書く際に非常に心付けられます。ありがとうございます。



(ながちゃん@管理人のコメント)

流浪人様より「福音の錬金術師」の第三章を頂きました。は、早い・・・(汗)。
いや〜、面白すぎますよ〜♪管理人のツボを突き捲くっていますよ〜♪
ミサト、最高です(笑)。期待通りの活躍(?)です。
よもや病院内で拳銃をぶっ放すなんて・・・。果ては、火炎放射器やマシンガンまで使うとは・・・一体何を考えているんでしょうかねぇ〜?(考えていないんでしょうねぇ〜、きっと)
いくら頭に血が上っていたとは言え、そんなものを病院内に持ち込んだ時点で神経を疑いますよ。
・・・まあ、アレだしね(笑)。
馬鹿は体にわからせないと学習しないでしょうから、これからも肉体的に苦痛を与えちゃって下さい♪
早速、ルイ(ユイ)とリンネ(初号機)が復活しましたね。しかも少女とは・・・作者、恐るべし!(何がだ?)
ルイなんかすでにゲンドウを見放しているっぽいし、レイの素体たちも早々と無に還されちゃうし・・・、これからの展開が面白くなりそうで期待が膨らみますな〜。
特に、ゲンドウとミサトの道化ぶり、実に楽しみです。
あと、適度に散りばめられたギャグもいい味出していますね。リンネの天然ツッコミ(ボケも)・・・最高です♪
さあ、皆さん!作者様に熱い感想メールを送って、次作を催促しちゃいましょう〜♪
作者(流浪人様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで