福音の錬金術師

第四章

presented by 流浪人様


「……セントラルドグマは事実上壊滅。調査する事も不可能です。ターミナルドグマに影響が無かった事は不幸中の幸いです……」

 司令室でリツコはセントラルドグマで突如、起こった火災の報告を行っていた。ゲンドウはいつものポーズで表情を隠してはいるが、内心では憤怒・焦燥・怨恨が渦巻いていた。

「またその際にダミープラグのデータも消去されていました……バックアップも同様です」

「シンジ君の線は無しか?」

 冷静に報告を聞いている冬月がリツコに問う。シンジは現在、ロストして未だ調査中である。リツコは眉を顰めながら頷いた。

「はい。シンジ君はMAGIへのアクセス権を持っていないのでダミープラグのデータは見る事すら出来ません」

 ダミープラグのデータはネルフ内でもゲンドウ、冬月、リツコの三人しか見る事が出来ない。逆に言えば消去できるのもこの三人だけなのだが、ゲンドウ・冬月にとってダミープラグは計画の重要な要素であり、リツコもゲンドウに捨てられる事を恐れ、そんな事できる筈がない。

「何としてでも犯人を見つけ出せ」

 自分の計画に害為す者は如何なる者も始末する。自分と妻以外の人間を人間とも思っていないゲンドウにとって、己の計画を邪魔す者など言語道断であった。

 ゲンドウの命令にリツコは小さく「はい」と答えた。

「しかし、シンジ君を力尽くでというのは無理だったようだな、碇」

 冬月の台詞にリツコが付け足した。

「連行に向かった保安部は全員が再起不能の重傷。葛城一尉も頭を強打していて、前後の記憶が飛んでいるそうです」

「聞いた話によると病院の屋上に巨大な穴が空いたそうだが……」

「はい。またレイと接触があったようですが……何故か監視カメラが壊れて会話などが聞き取れませんでした」

 ピクッとゲンドウがソレに反応した。妻と瓜二つのレイとシンジが接触するだけで、この男は我慢ならない。それ以上に、レイは自分を拒絶しない貴重な存在なのだ。

 それは彼女が“個”の意志を持たない人形であるから……。

 愛した女性と同じ顔をしていて、自分の言う事だけを聞く人形……ソレはゲンドウにとって何よりの宝なのだ。それが息子とはいえ自分以外の男と話すなどゲンドウには我慢ならなかった。

「レイのダミープラグの実験回数を増やせ」

「………はい」

 それは即ちより多く、レイの裸体をゲンドウの前に晒すという事。憎悪にも似た嫉妬が彼女の心を埋め尽くすが従うしか彼女に道は無かった。

「それと……コード707について二つ、ある事を発見しました」

「何かね?」

「一つは碇 シンジ君が転入手続きを済ませている事です」

「本当かね?」

 冬月が驚いた様子を見せるが、ゲンドウはニヤリと笑みを浮かべた。

「では住所はハッキリしている訳だな」

「え? そ、それはまぁ……隣の山を丸ごと買ったようですね」

「ま、丸ごと……何処からそんな金を?」

 リツコは冬月が驚くのも無理は無いと思った。彼女もその土地の元の持ち主を調べた所、五千億円で売り払ったのだ。そんな金、とても十四歳の少年が持っているとは思えなかった。

「金はどうでも良い。それで住居は?」

「はぁ……住民票を調べました所、ルイ・アンカー、リンネ・アンカーと二人の人物と暮らしているようです」

「ふむ……シンジ君は『企業秘密』と口に出していたが、案外、彼は別の組織に従属しているのかもしれんな」

 効率の良い嘘を吐くには少し真実を含ませる事だ。その企業秘密というのも冗談、惚けているように見せて、実際は何かの組織と言う後ろ盾がある可能性が出てくる。

 ゲンドウは笑みを浮かべ、頭の中に再びロクでもない計画を練り上げた。

 ――城を攻めるには外堀から……か――

「それで? コード707でもう一つの発見とは?」

「あ、はい。もう一つは……」





「学校?」

「そ」

 一方、こちらは山中の碇 シンジ宅。和食で決めた朝食を取っている時、シンジが唐突に言った。

「昨日の内にパパッと手続きは済ましたから」

 学校の手続きなんて金さえ積めばどうにでもなる。ちょっと山積みの金塊やダイヤ――五千億円分ぐらい――を見せただけで、この山を買う事も出来たし、簡単に転入の手続きをしてくれた。

 世の中金だという言葉は本当である。

「私は?」

「は? 学校、行くの? その歳で?」

「心は二十代でも体はピチピチの十代よ」

 鶏肉の癖にとシンジは心の中でツッコミを入れつつ、白い目でルイを見る。

「何? その憐れむような目は?」

「いや、学校に行ったらジェネレーションギャップに苦しんで話題に付いて行けない可哀相な姿が目に浮かんで」

 目頭に浮かんだ熱い雫を拭きつつ言うシンジの発言に、ルイはウッと引いてしまう。確かにこの十年の間に世間は目まぐるしく変化している。

「大体、ルイさんには他の仕事があるんですよ」

「他の仕事?」

「リンネの教育」

 そう言ってシンジは、焼き魚をどうやって食べるのか苦戦しているリンネを指した。シンジは苦笑して、焼き魚の骨の取って身をほぐして上げる。

「教育?」

「うん。世間一般の常識って奴を教えて上げて欲しいんだ」

「私が?」

「良いじゃないの、それぐらい。どうせ、元々、一心同体みたいなモンだったんだし」

 そう言われちゃそうなのだが。リンネはルイの事を何とも思ってないようだが、ルイは若干、抵抗があって躊躇う。シンジは溜め息を吐くと、瞳を潤ませて手を胸の前で組んだ。

「お願い、ママ

 ピシャァァァァァン!!!!!!!

 その瞬間、ルイの体中に電撃が走り、母親としての本能が大きく揺れた。

「任せなさい! ママがみっちりと一般常識を教えてあげるわ!」

 ――扱いやす……――

 こんなのが本当に東方の三賢者なのかどうか疑わしくなってきたシンジ。まぁルイにしてみれば初めてママと呼んで貰えた事で舞い上がってるようだ。微妙に鼻を押さえているのを見ると、鼻血を我慢してるみたいだった。

「……おいしい」

 一方、リンネは味噌汁を美味しそうに啜っていたりするのだった。





 第三新東京市立第壱中学校。シンジの住む山の隣の小高い丘に造られたそこに生徒達の登校する姿が見える。

 その中で一際、異彩を放っている少年がいた。常夏の日本だと言うのに、黒い長袖のカッターシャツを着て、金髪を靡かせるその容姿は明らかに日本人ではない。青く澄んだ瞳は空を映し出したように何処までも深い。

「おはよう、ロード君」

「…………ああ」

 少年――ロードというらしい――は下足箱で同クラスの委員長である【洞木 ヒカリ】に挨拶されて返した。

「この前の騒ぎ凄かったね」

「みたいだな」

 二人の教室である二年A組に向かう途中、ロードの目に職員室の前で一人の少年が立っていたのが入った。少年も視線に気付き、ロードの方を見返した。

 ――アレは……――

 その際、ロードは少年のしている腕輪に赤い石が埋め込まれている事に気が付いた。ロードはフッと笑い、教室へと向かうのだった。





「碇 シンジです。転校してきた理由は企業秘密です。どうぞ、よろしく」

 企業秘密?

 二年A組の生徒達は今までにない斬新な転校生の挨拶に困惑した。担任の老教師は空いてる席を探すと、

「ああ、ジャスティス君の隣が空いてるね」

 ――ジャスティス?――

 はて、そんな名前のクラスメイトがいたかなと未来の自分に与えられた記憶を探ってみる。が、見つからない。シンジは席の方を見ると、確かに外人っぽい少年が座っていた。しかも指定外の黒いカッターシャツを着ている。

 このクラスはコード707と呼ばれ、エヴァのパイロット候補が集められている。だとすれば、あの外人の少年も候補なのかと考え、黒板の方を見て携帯を開いた。そして、映った画面を見てその考えは否定される。

 実はシンジ、既にMAGIをその手中に収めているのである。昨夜、セントラルドグマでレイの素体を破壊した後、コッソリとMAGI本体に素体から集めた魂を定着させたのだ。

 故にMAGIはシンジの思うがままなのである。いつでも携帯から情報を引き出せるのだ。そして、リツコも昨夜、コード707をたまたま見て、あのジャスティスとか言う少年に気付いた。

 母親を失った子供を集めた二年A組の中で、レイ同様、経歴不明の少年なのだ。シンジは携帯を戻すと、振り返った。

「あそこの金髪の子の隣に座りなさい」

「あ、はい」

 老教師に言われ、シンジは頷くと、その少年の隣の席に座った。シンジの席は窓から前から五番前、窓から二列目の席だった。もう片方の隣も空いているが、そこはレイの席だなと思った。

 シンジが席に座ると、老教師はそのまま授業を始めた。

「碇 シンジです」

「ロード……ロード・ジャスティスだ」

 ロードは名乗ると、フッと笑みを浮かべ、静かに口を動かした。

「(その腕輪の石……賢者の石だな)」

 声は出ていないが唇の動きでシンジはハッと目を見開いた。その反応でロードは充分だったようだ。シンジはサッと賢者の石を隠す。

「(読唇術は出来るみたいだな)」

「(少しぐらいならね)」

 シンジも同じように不敵な笑みを浮かべて唇の動きだけで会話する。

「(この前のN2を到達前に破壊したアレ……お前の錬金術か)」

「(錬金術の存在まで知ってるとはね………何者だ? ゼーレの回し者か?)」

「(…………そうだと言ったら?)」

「(潰す)」

 キッとシンジに睨み付けられ、ロードは両肩を竦めた。

「(良いだろう。何なら屋上で話の続きをしようか)」

「(今から?)」

「(アレなら大丈夫だろう)」

 そう言ってロードは授業をしている筈の老教師を指差した。

「その頃、私は根府川に住んでましてね〜……」

 二年A組担任名物『セカンドインパクト語り』である。クラスの人間でまともに聞いてる奴なんかいない。(生真面目な委員長以外)

 コレなら教室から抜け出してもバレないだろう。シンジは溜め息を吐くと、ロードと共に屋上に行った。





「悪いが、錬金術で扉を開かないようにしてくれるか? 邪魔されたくないだろう、お互いに」

 屋上に出てロードは後から来たシンジに言った。シンジは両手を合わせるとドアノブに触れる。するとドアノブは壁とくっ付いて、ドアは開かないようになった。

「ふむ……両手を合わせる事で円を表し、自身が構築式となっている訳か」

「そこまでお見通しか……」

 ヤレヤレと肩を竦めると、シンジは再び両手を合わせて地面に手を置く。そして槍を練成すると身構えた。

「君、何者?」

「さて……力尽くで吐かせてみたらどうだ?」

「ならっ!!」

 言われてシンジはロードに向かって駆け出した。ロードは軽くステップを踏み、真横から突き出されたシンジの槍を避けた。

 が、槍はそのまま横薙ぎに振られ、ロードの顔面を狙う。だが、ロードは身を低くして避けると、シンジに足払いをかけた。

「とっ!」

 バランスを崩したシンジに向かって肘鉄が繰り出されるが、そのままシンジは地面に倒れて避けると槍を突き上げた。ロードは寸前で避けるが、ハラッと髪の毛が幾つか飛んだ。

 シンジはバッとロードとの距離を取り、槍を構え直した。

「体術は中々だな」

「そりゃ、こっちの台詞だよ。今のだったらネルフの保安部は二十人は瞬殺できるんだけど……」

「なるほど……錬金術だけでなく体術も鍛えていたという訳か。どうやら十年、無駄に過ごしていなかったようだな」

 そう言われ、シンジは槍を引こうかどうか迷っていた。少し戦ってみたが殺気らしい殺気も感じられない。どうやら殺すつもりは無いようだ。

 だが油断は出来ない。アレほどの体術の使い手ならば、ゼーレで特殊訓練を受けた者だとも考えられる。やはり気は抜けないと判断したシンジは槍を持つ手に力を込めた。

「では今度はこちらの番だな……」

 笑みを浮かべたままロードはシンジに突っ込んで行く。真正面から突っ込んで来るロードに対してシンジは槍を突き出した。

 ドシュッ!!

「!!?」

 槍は確かにロードの脇腹を貫いた。だが、彼は何とも無い様子でシンジに手刀を繰り出す。シンジは紙一重でソレを避けるが、触れていない筈の首がヒュッと切れた。

「ちっ!」

 再び距離を空けられてロードは舌打ちする。脇腹からは血がポタポタと流れている。

「おいおい、痛くないの?」

「いや、痛みはある。だが……」

「!!?」

 シンジは大きく目を見開いた。何と貫かれた筈のロードの脇腹が修復されていった。筋肉、欠陥、神経、皮膚と元通りに戻って行くのだ。

「その再生力………ホムンクルス(人造人間)か」

 冷や汗を垂らし、シンジはロードを睨み付けた。

「そう……錬金術によって生み出された造られた生命体、ホムンクルス……ソレが俺だ」

「僕以外に錬金術師がいる……のか?」

「さぁな。お前の好きに想像すれば良い。俺がネルフの者か、ゼーレの者か、あるいは別の何かか……」

 そう言うとロードは目を手で隠した。そして、手を離すと青く澄んでいたロードの瞳が赤く変色していた。シンジは、その瞳を見てハッと自分の腕輪と見比べた。

「その目……賢者の石……」

 賢者の石と言うが、呼び名は様々である。大エリクシル、哲学者の石、赤きティンクトゥラ等……故に石の形をしているとも限らないのである。

 ――しかも二つもかい……――

「賢者の石を持ってるって事は……それの材料も知ってるって事だろ?」

「ああ。生きた人間………だろ」

 ドスッ!!

 冷笑を浮かべながら答えるロードの胸にシンジは槍を突き刺した。それこそ心臓にピンポイントでだ。ロードは一瞬、表情を歪ませるが口許を歪ませて刺さっている槍を突き出して来た。

「どうやらお前は、ただの快楽殺人者では無さそうだ。他人の死に怒りを感じる事の出来る人間のようだな」

 手刀で槍を切り裂いてバラバラにし、引っこ抜く。貫通したロードの胸は、あっという間に修復された。

「俺を殺そうと思うなら目を狙う事だな。ホムンクルスは賢者の石を核にして造られた存在だからな」

 そう言う様にルイやリンネにも極僅かではあるが、体内に賢者の石の欠片を埋め込んである。もっとも本当に小さな欠片である為、ロードほどの再生力は無い。

「まぁ、お前の事は大体、分かった。ホレ」

 ロードはおもむろにポケットから紙切れを取り出して放り投げる。シンジは受け取って広げると、それには地図と住所が書かれていた。どうやらセカンドインパクトによって大半が水没した小笠原諸島辺りの様だ。

「何コレ?」

「その住所の所に行ってみろ。色々と面白いものが見れるぞ」

 ――面白いものね〜……――

 今度の日曜辺り行ってみようかと思いつつ、地図をポケットに入れると踵を返した。

「殺さないのか?」

「いきなりクラスメートが死んでたりしたら気持ち悪いだろ? それにまだ色々と訊きたいしね……『俺達』って事は他にもいるんでしょ?」

「察しが良いな」

 敢えて否定せず、ククッと笑って肯定するロードに溜め息を吐き、シンジは扉を戻すと「一限目終わるよ」と言い残して校内へと戻って行った。

 ロードはフッと瞳の色を青に戻すと、携帯を取り出して耳に当てた。

『ロードか?』

 すると電話の向こうから少し低めの男性の声がした。

「イカリ シンジに会った」

『ほう? それで?』

「中々、面白い奴だ。もうしばらく様子を見ようと思う」

『それは構わんが………当初の目的を忘れるな』

「ああ、分かっているさ。それより老人達の方はどうしている?」

『さぁな〜。プリスとメイアーに任せっ切りだしな』

「そうか……また何かあれば連絡する」

『了解』

 通話を終え、ロードは電源を切った。すると一限目を終了するチャイムが鳴り響く。ふと自分の服を見てみる。脇腹と胸の部分がしっかりと破れており、肌が露出してしまっている。いや、それぐらいなら良いのだが、背中の方も破れているので、何かに刺されたのかと思われてしまう。実際、刺されたのだが。

 では、どうするかと考えてると、ナイスなアイディアが閃いた。

「寝よ」





 ――ホムンクルスか……――

 転校初日の授業も終わり、帰路に着いているシンジは学校での事を思い出していた。ホムンクルスを造るには賢者の石が必要不可欠である。故に幾つもの生きた人間が必要になる。

 そんな非人道的な行為を行うのはゼーレかネルフぐらいなのだが、ネルフは既に除外していた。

 ――髭は鬼畜だけど錬金術の事なんか全く知らないだろうし――

 だとするとロードは、やはりゼーレの回し者だろうかと考えるが、やはり結論を出すには尚早だった。

 ――ロード・ジャスティス………――

 彼と戦った時、殺気は感じられなかった。試していたつもりなのだろうか? 一体、何の為に? 分からない事だらけではあるが、分かった事もある。

 ――ジャスティス……正義か。だとすればプロデンス(分別)、テンペランス(節制)、フォーチュード(堅忍)、フェイス(信仰)、ホープ(希望)、チャーティー(慈悲)の美徳が存在する筈だ――

 七つの美徳とは随分と安直な名前だとシンジは苦笑する。

 ――ゼーレならどっちかって〜と、ラスト(色欲)、エンヴィー(嫉妬)、スロウス(怠惰)、グラトニー(暴食)、プライド(傲慢)、ラース(憤怒)、グリード(強欲)の大罪の方がピッタリなんだろうけど……――

 よっぽど自分達が悪くないとでも思っているのだろうかと考える。まぁ名前は何にしろ、かなりの強敵である事には間違いない。ある意味、使徒よりも厄介な相手なので悩みの種が増えてしまった。

 やがてシンジは家に続く山道を歩いていた。普通だったら車なども走っていてもおかしくないのだが、山一個がシンジの私有地である為、通行禁止なのだ。

「普通ならね……」

 そう。自分やルイやリンネ以外がいる筈ないのに、目の前には幾つもの黒い車が立ち並んでいた。そして自分の道を塞ぐように黒服達が並んでいた。

「サードチルドレンだな」

「いえ。違います」

「碇司令の命令だ。我々と共に来て貰おう」

 聞く耳持たず。どうもネルフの強権さえあれば私有地だろうが何だろうが関係ないようだ。シンジは無視して歩を進めるが、ピタッと立ち止まった。そして、目を細めて黒服達を睨み付ける。

 すると黒服の中の一人が、体に傷を作っているルイと手を後ろで縛られているリンネを車から引っ張り出して来た。

「う……シンジ……」

「…………どういう事?」

 ――呼吸がおかしい……内臓をやられたか――

 ルイの傷を見て明らかに黒服がやったのだろうと確信するが事情が飲み込めなかったので尋ねる。

「碇司令に手段は選ぶなと命令されている」

「ルイ……わたしをかばった」

 黒服の言葉にリンネが付け加えた。それだけで充分だ。シンジは額に手を当てた。あの男、知らず知らずの内に自分の最も大切な妻に暴行を加えていたのだ。余りの喜劇振りにシンジはククッと笑った。

「逆らえばこの二人の命は無い」

 別に殺したとしても魂が無事であるなら肉体は再び練成できるから何の問題も無い。だが、それでは非常に後味が悪い。何よりも人の死も流れである為、無闇に生き返らせるような真似はしたくないのだ。

 シンジは両手を合わせると腕輪に触れた。すると腕輪から奇妙な模様が伸びて、シンジの右腕を取り巻いた。その不思議な現象に黒服達は呆然となった。

「コレは余り使いたくなかったんだけど………今日はムシャクシャしてるんだ。恨むんなら髭か自分達の運命を恨むんだな」

 言ってシンジは右手を地面に叩き付けた。

 グシャアアアアアアア!!!

 すると地面がヒビ割れ、黒服達は足元のバランスを崩した。その間、シンジは黒服達の下へ詰め寄り一人の顔に触れた。するとその黒服は内側から破壊されたように血を噴出して、物言わぬ肉塊と化した。

「う、うわあああああああああああああ!!!!!!!」

 それを見て、別の黒服が悲鳴を上げると銃を取り出して乱射して来た。が、シンジはすかさず地面を練成して壁を作り、銃弾を防いだ。

「全員、殺す」

 ゴキッと右手の指を鳴らし、シンジは黒服達を破壊していくのだった。






To be continued...


(あとがき)

オリキャラ登場です。ハガレンでは七つの大罪をモチーフにしたホムンクルスが登場したので、それに対して七つの美徳って事で。何で、そっちを出さないかというと漫画じゃ全部出てないし、正体とかイマイチ判らないからです。アニメじゃ全員出てるし、目的とかもハッキリしてるけれど、どっちかって言うと漫画派なので。いや、アニメも面白いんですけど。ちなみに今回の錬金術はスカーのアレですね。ロード達の目的や正体なども後々、明らかにしていきます。今回はヤケにシリアスでした。



(ながちゃん@管理人のコメント)

流浪人様より「福音の錬金術師」の第四章を頂きました。相変わらず執筆が早いですな(汗)。
今回は一転してシリアス・ムードです。
ココに来てオリキャラ出現・・・しかもかなり強敵!どうやらシンジ君の素性も知っているっぽいし。
果たしてシンジ君の敵か味方か?待て次号!(おいおい)
ただ、彼らホムンクルスたちの存在がシンジ君の優位性を崩しそうで、絶対無敵スパシン派の管理人としては、少しばかりハラハラドキドキものです。続きが気になるところですなー。
最後に・・・シンジ君、黒服に容赦ないですなぁ〜(笑)。いえいえ、良いですよ〜。管理人的には大満足ですから〜♪
次作を期待しましょう〜♪(次くらいには牛さんも復活するかな?)
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