第五章
presented by 流浪人様
「おにぃ」
「………何ですか、ソレは?」
朝、シンジは目を覚ますと目の前のリンネに何気なく尋ね返した。確か昨夜は遅くまで錬金術の書物を読み耽っていた筈だ。
枕元の時計を見ると、時刻は8:00。確か今日はロードに渡された住所へ行く予定だった筈だ。その前に寄り道をしようと思った。
「おにぃ、起きた」
「おにぃ?」
シンジは首を傾げ、リンネに尋ね返した。
「ルイにおしえてもらった。そうよべって」
「ああ…なるほどね」
まぁシンジって呼ばれようが何と呼ばれようが構わないし、リンネの知識が豊かになっていくのは良い事だ。
シンジは寝ぼけ頭で着替えつつ、リビングへと向かう。
「あの……どうかしら?」
「豆腐を切るのは普通の包丁よりも竹包丁がベター」
「……………」
シンジは無言で両手を合わせ、腕輪を刃に練成する。そして余裕綽々で味噌汁を啜る某ホムンクルスに向かって突っ込んで行った。
ドスッ!!
無言で刃は彼の額に突き刺さり、血が噴出した。
「きゃああああああああ!!! シ、シンジ! お客様に何するの!?」
ルイはいきなり愛息子が殺人を犯し、悲鳴を上げた。
「全くだ……ソレが客に対する態度か、貴様? 一回、死んでしまっただろうが」
彼――ロードは額から刃を引っこ抜いてハンカチで拭く。ルイが「ひっ!?」とその光景を見て引くが、シンジは彼に詰め寄った。
「何、人ん家で飯食ってんだよ?」
「俺の家の電気釜が壊れたんだ。だから貴様の家に飯をたかりに来た」
「ほっほ〜? それが三日前に命の遣り取りをした相手でも?」
「仕方ないだろう。友人がいないんだから」
言ってテーブルに付いた血も丁寧に拭き取り、お茶を啜る。その際、血が混じってたのか微妙にLCL風味だったとか。
「シンジ、この変わった方はお友達?」
「むしろ敵です」
アレ見て驚いてたくせに変わった方と言い切るルイにある種の感動にも似た心境を覚える。
「ともかく、コイツはホムンクルスで三日前、学校で戦ったの。説明したでしょ?」
そう言われてルイは「あ〜」という顔になる。
「で? 何しに来たのさ? まさか本気で朝ご飯食べに来た訳じゃないよね?」
「本気だ」
マジな目をするロードに無言で手袋を着け――幾らでも量産可能――シンジは指を擦って思いっきり焔をぶちかました。それはもう容赦ないほどに。家が焼け焦げようがお構い無しだ。
が、やはりその辺はホムンクルスのロード。真っ黒焦げになろうが死ぬ訳なく、焼け爛れた皮膚を再生した。
――食欲失くすわね……――
サッと用意した――シンジは寝ていた為、ルイが用意した――朝食とリンネを避難させ、ルイは冷や汗を垂らした。
「まぁ……」
ドスッ!
「話を……」
ザシュッ!
「聞……」
ブシュッ!
「け……」
腹、頭、両手足を槍で突き刺すがやはり死なない。シンジは額を押さえて呻くと、ロードは「もう終わりか?」と言って体を再生すると、首をゴキゴキと鳴らす。
「一応、痛みはあるんだぞ?」
「あ〜……朝っぱらから嫌な運動してもうた」
何だか無性に髭か牛をぶっ飛ばしたくなったシンジ。人ソレを腹いせと言う。
「まぁ俺が来たのは、そこの二人のボディーガードの為だ」
「ボディーガード?」
「うむ。三日前、二人がネルフの保安部に襲われただろ?」
「何で知ってたんだよ?」
確か死体は全て燃やし尽くして始末した筈だった。
「上から見てたし」
「あ、そう」
もう突っ込む気力も失せたシンジは溜め息を吐いた。
「でだ、そのような事が無いように俺がそいつ等のボディーガードをしてやろうと言うのだ」
「そんな事をして君に得があるの?」
「ああ、あるとも」
フッと笑みを浮かべて答えるロード。本気で何を考えているか分からない。が、かと言ってまたネルフの連中が二人――ルイはともかくリンネは『大切』な家族だ――に何かをして来る可能性は充分にある。
が、そこでシンジはふとある疑問を抱いた。
「ちょっと……君だって学校あるでしょうが?」
「そんな事ぐらい分かってる。既に俺の仲間の一人が日本に向かっている。今日着くから今後、お前の留守中はソイツに任せれば良い。それに俺より幾分か俺達の情報を得易いぞ」
そう言われ、シンジは考える。今までシンジの中でロードがゼーレの手先である可能性は60%ぐらいだった。だが、今の提案で30%ぐらいまで可能性は減った。
「………分かった。君の提案を呑むよ」
「ふ……利口な判断……」
「ルイさん、リンネ。もしアイツが怪しい真似とかしたら容赦なく燃やしちゃって良いからね。ある程度、痛め付けたら再生も時間がかかるから」
非常に危ない事を言いつつ、発火布をルイとリンネに渡すシンジにロードは肩を竦めた。が、当のシンジは至って真面目な様子でリンネの両肩に手を置いた。
「良いかい、リンネ? 万が一、いやマジで危ない時はルイさんを囮にして逃げるんだよ」
――うう……シンジ、貴方いつから母親を見捨てるような子になったの……――
「(コクン)」
――しかも頷いちゃってるし……――
「じゃ、行って来るね。ロード、言っとくけど信用した訳じゃないからね」
母親の気持ちなど綺麗サッパリ無視して、シンジはロードを一睨みすると出て行った。
「さて………」
シンジが出て行った後、ロードは息を吐いて、
「洗濯でもするか」
微妙に所帯じみていた。
ネルフ本部の入り口で、シンジはガードマンと対峙していた。
「一体、何かね? 此処は一般人立ち入り禁止ぶっ!!」
ドゴッ!!
ガードマンに問答無用で裏拳をぶちかまして気絶させると、両手を合わせて扉に触れて強度を極限まで脆くした。
すると扉は軽く押すだけで吹き飛んだ。
ビーッ! ビーッ!
まぁ当然であるが、シンジが扉を壊した事により警報装置が発動した。シンジは無言で壁から刀を二本練成する。
やがて幾つもの保安部員が流れ込んで来た。シンジはニヤッと笑い、刀を振るった。
「サードチルドレンが攻め込んで来たぁ!?」
司令室ではシンジ襲来の報告を聞いて、ミサトが入って来た。司令室では既に冬月とリツコが苦い顔をしている。
ゲンドウにしても全くの予想外であった。シンジの家の住人を盾にして迫ったが、保安部は全て帰って来なかった。この事から全滅したのだろうと予想は出来たが、まさか攻め込んで来るまでとは思ってなかった。
「司令! 私にサードチルドレンの捕獲へ向かわせてください!」
手駒がむざむざ向こうから来てくれたのだ、コレを逃す手は無い。ミサトはそう考えた。
「駄目よ」
「何でよ!?」
「三日前、サードの捕獲に向かった保安部全員、帰って来てないのよ。恐らく、全員、殺されたんでしょうね」
「な……何でアタシに言わなかったのよ!?」
「貴女、入院してたでしょう?」
しかし、良くもまぁ、あの傷を二日やそこらで回復させたものだ。本当に人間だろうかと親友であるリツコも不思議に思った。
「それに幾らシンジ君が強くてもネルフの警備を掻い潜って………」
ドゴォッ!!!
リツコがフッと笑って言った途端、司令室の扉が蹴破られた。
「「「「な………!」」」」
「どうも」
驚く四人を他所に、シンジは二本の刀を持って司令室に入って来た。
「ほ、保安部は何をやってるのよ!?」
「保安部? ああ、あの雑魚ですか? 彼等なら皆で仲良くお昼寝中です。あ、峰打ちですから安心してください」
ヒュッヒュッと刀を振ってニコリと笑うシンジに四人はゾクッと身を震えさせた。
「さて………幾つか質問があるんだけど、おい髭」
声のトーンを下げてシンジはゲンドウを睨み付ける。
「どういうつもりだ? 人ん家の家族を盾にして脅迫するとは……」
「貴様のせいだ……」
「あ?」
お決まりのポーズで表情を隠しながら言うゲンドウにシンジはピクッと眉を吊り上げさせる。
「貴様が俺の言う事に従わないからだ……」
「ほ〜……」
傲慢極まりないゲンドウの言葉にヒクヒクとこめかみを引き攣らせるシンジ。が、それにミサトが乗ってきた。
「そうよ、シンジ君!! 貴方のお父さんは貴方が必要だから此処に来て貰ったのよ!」
「必要ね〜……自分と自分の妻以外の人間を人間とも見ていない男ですよ、コイツは。きっと僕も手駒として見てるんじゃないでしょうかね〜」
その言葉に科学者の女性がギリッと歯を噛み締めたが、ソレに気付いたのはシンジだけだった。シンジはククッと笑うと、二本の刀を地面に突き立てた。
「ソレに葛城さん……僕は貴方の復讐の手駒になるつもりはありませんよ」
「な……!」
冷たい目でシンジに睨まれ、ミサトは呻いた。
「貴方のお父上の葛城博士はある筋じゃ有名ですからね。彼の経歴に2000年9月に南極調査に赴いたってのがありましてね〜。どうやらセカンドインパクトに……いや、使徒の起こしたセカンドインパクトに巻き込まれたんでしょう? その事から察するに貴女が私怨の為、自分の指揮で使徒を倒そうとしているのは少し考えれば分かります」
「……それの……何処が悪いのよ……」
「悪いなんて言ってません。ただ子供を復讐の手駒にするなと言って………」
パァンッ!!
シンジが話している途中で銃声が鳴った。ミサトもリツコも冬月も硝煙を昇らせる銃口の方を向いた。そこにはゲンドウが銃口をシンジに向けたまま立っていた。
シンジは貫かれた肩を押さえて膝を押さえた。
――ちっ! 油断した……!――
「葛城一尉……」
「は、はいっ!」
サングラスを押し上げるゲンドウに名前を呼ばれ、ハッとミサトは正気に戻った。
「サードを拘束しろ」
――サードじゃねぇっての! ってヤバイ……髭達の前じゃ錬金術も使えない……――
心の中でゲンドウを睨み付けつつも、シンジはどうすべきか必死で考えていた。ミサトは復讐の手駒が手に入る喜びを隠し切れず、笑みを浮かべてシンジを拘束しようとする。
怪我を負わされている事も考えずに。
「好ましくない行為で御座います」
「「「「「!!?」」」」」
その時、司令室に五人とは別の声が響いた。五人が振り向くと、いつの間にかそこには一人の女性が立っていた。何故か女性はメイド服を着ており、ウェーブのかかった黒髪を腰まで伸ばしている。
「シンジ様、油断なさいましたね。この様な下賎な輩の不意打ちを喰らうとは……」
フッと女性は笑い、髪を掻き揚げた。その際、耳に赤いピアスをしている事に気が付く。
――アレは……!――
「何だ貴さ……」
「醜き者が私に話しかけないで下さいまし」
ゲンドウが銃口を突きつけるが、その瞬間、ゴキッという音が鳴った。ゲンドウは何の音かと思ったが、足に力が入らずソッと顔を足下に向ける。
見ると、ゲンドウの足があり得ない方向に曲がっていた。
「ぐ、ぎゃあああああああああああああ!!!!!!!!!」
「い、碇!?」
「司令!」
足を押さえて転がり回るゲンドウに冬月とリツコが駆け寄って行く。女性はその間にシンジを担いで出て行こうとするが、ミサトに入り口を遮られた。
「おっと! サードは逃がさぶっ!」
「邪魔で御座いますわ」
ドゲシッ!
女性はシンジを担いだまま、ミサトの顔面を蹴り飛ばし女性はそのままネルフ本部から脱出するのだった。
自然公園の木陰でシンジは自分の肩を治療した。
「ふぅ………一応、助けてくれたお礼はするよ。ありがとう」
「いえいえ」
シンジの隣に座る女性はニコッと微笑んで、首を横に振った。
「君もホムンクルスかい?」
「はい。名はレナ……レナ・チャーリーと申します。証拠は……」
女性――レナはニッコリと笑って自分の手を伸ばした。すると彼女の手がビキビキと音を立て、刃のように変化した。見た目は美少女なのに、余りにもグロテスクなのでシンジは額に指を当てて、こめかみを引き攣らせた。
「ちなみに先程は……」
レナはスカートを捲って足首を晒すと、足首の一部がハンマー状に変化した。
「コレで足の骨をボキッと……」
「もう良いです。それよりレナ……さん」
「はい?」
「何で僕を助けたんだ? 君達ホムンクルスからすれば僕は敵だろう?」
そう言われレナはキョトンとなった。そしてウ〜ンと額に指を当てて、唸る。
「あのシンジ様、ロードは私達が貴方様の敵だと言われましたか?」
「へ?」
「はぁ……やっぱり何も言われなかったのですね。正義の名を持つくせに相変わらず人を小馬鹿にしてますね」
「あ、あの、どういう……?」
「詳しい事情は話す事が出来ませんが、私達は貴方の敵ではありません」
そう言われてもいまいち信用は出来ないが、見た感じレナと言う女性は信用できそうだ。
「まぁ味方とも言い切れませんが」
「はぁ?」
ますます困惑するシンジに苦笑し、レナは立ち上がるとスカートの裾を持ってペコリと頭を下げた。
「ではシンジ様、私は貴方様の家に行きますので、また後ほど……」
そう言ってレナはスタタタと走り去って行った。途中、転んでしまったのはご愛嬌である。
あんな人もホムンクルスなのか信じられなかった。だが、あの能力は間違いなくホムンクルスのソレである。ロードはあらゆるモノを『切る』能力、レナは肉体を『造り変える』能力のようだ。
「う〜ん………僕ももっと強くならないとな〜」
ネルフならともかくホムンクルス達も敵ではないと言ったが油断ならない存在だ。事実、味方でもないと言っている。
「近い内に………師匠に会いに行こうかな」
かつての日本の首都東京はセカンドインパクトによって水没した。眼前に広がる海の向こうには同じく水没した小笠原諸島がある。
既に日が沈み、東の空が暗く染まり始めている。早いトコ帰らないと明日も学校があるので大変だと微妙にズレた事を考えてたりする。
「さて……何が待ってるのやら」
両手を合わせてソッと水面に触れた。すると海面が島まで一直線に凍った。シンジはスタスタと凍った海面を歩き、ポケットからロードに貰ったメモを取り出した。
――ホムンクルスの製造工場……かな――
んなワケ無いかと思い苦笑しつつ、シンジは目的の場所へと向かうのだった。
「おいおい、マジッすか……」
水没した小笠原諸島は小さな無人島状態だったのだが、そこでシンジはとんでもないモノを発見した。森の中にヒッソリと建つ研究施設。
そして入り口に立つガードマンには七つの目の入ったエンブレムが付けられている。そのエンブレムはゼーレの証である。
――ゼーレの施設がこんな所にあるとはね………――
此処まで来たら中を見ない訳にはいかないだろうと思い、入れそうな所を探した。別に壁に扉を練成しても良かったのだが、それでは練成反応の光で見つかってしまうので、反対側に回って外壁を跳び越えた。外壁には有刺鉄線が張り巡らされていたが、シンジの跳躍力の前には無意味である。
「さ〜て……レッツ探索と行きますか」
ポキポキと拳を鳴らし、シンジは中へと入って行った。
「ホムンクルスの製造工場なんて考えたけど……似たようなモンじゃん」
研究施設に潜入したシンジはそこにあったモノを見て目を細めた。施設内には幾つものカプセルがあり、中には二種類以上の生物を組み合わせた兵器――キメラ(合成獣)が浮かんでいた。
キメラは人体練成の応用で錬金術でも造る事が可能だ。だが、これ等はどうやら遺伝子を主体となる生物に別の生物の遺伝子を組み込んでいるようだ。
そんな中でも特に注目したのは人間であった。人間をそのままカプセルに入れ、キメラにしている。倫理観も何もあったものではない。正に悪魔の研究であった。
――コレが人間のする事か……――
シンジは自分の足下に転がる研究者達の死体を見ながら思った。こんな施設、破壊するに限ると即断し、両手を合わせる。
『ほう……碇の息子か』
「!!?」
その時、奥の暗闇から老人の声が聞こえた。シンジはハッとなって振り向いた。するとバイザーを付けた老人の姿が浮かび上がった。
「キール……ローレンツ」
その老人を見てシンジが呟く。老人の名はキール。人類補完委員会の議長にしてゼーレの長でもある。早い話が裏社会のトップだという事だ。
『ワシを知っておるのか?』
「ああ、知ってるさ。人類補完計画なんて言う下らない計画を企んでる馬鹿だろ?」
『貴様!』
『何故、ソレを!?』
『いや! それ以上に何で此処が分かった!?』
するとシンジを取り囲むようにキールとは別の老人達が現れた。
「へぇ……委員会じゃなくてゼーレ直々のお出ましか……」
自分の周りに現れた老人達を見てククッと笑う。
『どうやら我等の事を知っているようだな。碇の息子』
「五月蝿いよ。ホログラフィーでしか現れることの出来ない臆病者が偉そうにするんじゃないよ」
そう言ってシンジはキールを睨み付ける。
『碇の息子よ、どうして此処が分かったのだ?』
「貴様等に教えてやる義理も義務も無いね」
『何だと!? 貴様、我々を何だ思っている!?』
シンジの態度に腹を立てた老人の一人が怒鳴る。シンジは手袋をはめると、その老人に向かって指を擦った。すると焔が発生し、老人のホログラフィーを襲った。その際、発生装置が壊れて老人の姿が消えた。
「サードインパクトを起こそうとするロクデナシだろう?」
『ロクデナシか……碇の息子よ、君は勘違いをしている』
「へぇ……」
あの焔を見せられて冷静でいるキールをシンジは冷ややかな目で見る。
『我らがサードインパクトを起こすのは全て人類の為なのだ』
『左様。人類は原初の時より罪を重ね過ぎた』
『故に我等は原初の生命へと戻り、新たに生まれ変わる必要がある』
キールに続いて老人達が高説を言う。シンジは溜め息を吐いて、肩を竦めた。
「サードインパクトで意志も何も持たなくなった人間がどうやって罪を償うと?」
『それしか人類に道は無い』
『そして新生した人類には指導者が必要なのだ』
『それが我々なのだよ』
「…………傲慢も此処まで来たら芸術だね」
あくまでも自分達が世界の頂点であり、人類を生かすも殺すも自分達次第なのである。シンジはシナリオ通りに進んだら、こんな連中の良い様に操られるかと思うと、情けなくなった。
『碇の息子よ。我々に従うのだ。我等には……否、人類には君が必要なのだ』
「黙れよ」
そう言うとシンジは指を強く擦った。すると先程よりも強力な焔が発生し、キール以外のホログラフィーとカプセルを巻き込んで焼き尽くしていった。
「コレが返事だ」
『あくまでも我等に逆らうか……』
「人類が罪を犯したと言うなら……それは貴様等みたいな人間が……いや、悪魔が生きてる事が罪だ」
僅かに怒気を孕ませたキールに向かってシンジが彼を指差して返した。
『分かっているのか? 我等を敵に回す事の恐ろしさが……』
「元から貴様等は殺すつもりだ。それにどうせ、僕の心が脆弱に育たなかった時点で役立たずって切り捨てるつもりだったんだろう?」
キールは肯定するように口許を歪めた。シンジはソレを見て、人差し指を立てた。
「一つだけ………貴様等は他人の人生を玩具みたいに操れるほど偉いのか?」
『………その通りだ』
「あっそ」
淡白に返すとシンジは指を擦ってキールのホログラフィーの発生装置を破壊した。キールのホログラフィーは波打って消えた。
燃え広がる豪火の中、シンジは燃えていくキメラ達を一瞥した。そして、強く唇を噛み締めて、拳を握ったのだった。
シンジが家に帰って来たのは夜の十時過ぎだった。そこでは、
「ロン……こくしむそう」
「げ……」
ルイ、リンネ、ロード、レナが雀卓を囲んでいた。国士無双で上がったリンネに、ロードが渋い顔をした。
「………何やってんの?」
微妙に服が焼け焦げてるシンジが無表情で尋ねた。
「麻雀」
「麻雀です」
「麻雀よ」
「おしえてもらった」
洗牌しながらサラッと答えるルイ、ロード、レナ。リンネは『楽しい麻雀ルールブック』なる本を取り出してVサインをした。
そして再び始める四人にシンジはこめかみを引き攣らせる。
「あのねぇ! こっちとら命懸けの仕事して来たのに何してんのさ!?」
「そう言うな。こっちだって不法侵入して来かけたネルフの連中を追い返すの大変だったんだぞ。一応、死体が転がったら気分悪いだろうから半殺しで済ましたが……」
「あ、ロード、それロンです。トイトイ・ドラ2」
「げ……」
ちゃっかりと上がってるレナにロードは顔を青くする。
「ロード君、弱いわね〜」
「…………はこてん」
苦笑しながら洗牌するルイに言われ、ロードはフッと笑みを浮かべる。
「生憎と俺はイギリス紳士で麻雀には精通していない」
「ホムンクルスだろ」
素でボケるロードにシンジが光速とも思えるスピードでツッコミを入れた。
ふとシンジはリンネが欠伸をしているのに気付き、彼女の肩に手を置いた。
「全く……ほら、リンネ。良い子は寝る時間だから歯ぁ磨いて寝なさい」
「うぃ〜」
しょぼしょぼと目を擦ってリンネは洗面所に向かう。するとシンジが彼女の代わりに席に座った。
そして牌を並べながら真面目な顔でルイに言った。
「……ルイさん、僕……キール・ローレンツに会ったから」
「知ってるわ。おおよその事情と予測はロード君とレナさんから聞いたもの」
そう言われ、シンジは横目で牌を捨てるロードを見る。
「何でゼーレがあんな研究を?」
「俺も詳しい事は知らない………が、ある程度の予想が付く。レナ、それポンだ」
「その予想は?」
「ゼーレの支配が及んでいないアジア・アフリカ地区は未だに戦争が続いてる地域だ。そこにキメラみたいな兵器を高額で売りつけれるだろう」
「なるほどねぇ……リーチ」
「ソレを……ネルフの資金にしてるのね。チー」
「私達はシンジ様の敵ではありません。ですが、味方でもありません。けどゼーレとネルフは敵です。ですから私達も幾らからシンジ様に協力致しますわ」
「そういう事だ」
微笑んで言うレナにロードも笑みを浮かべた。シンジは半眼で二人を見ると、溜め息を吐いて牌を取る。
「ほい、ツモ。四暗刻・単騎・一発でダブル役満ね」
「む? もう、こんな時間か。では俺は帰る」
「待たんかい」
滅茶苦茶ナチュラルに去って行こうとするロードの腕を掴んで引き止めるシンジ。
「負けたまま逃げるのは許さないよ?」
「負けも何も俺は既にハコテンだ」
「じゃ、脱げ♪」
「ふざけるな」
バッとロードはシンジの腕を振り切り、家から飛び出して行った。
「あ! 待て、この!!」
「ちょ、ちょっとシンジ! ………行っちゃった」
ロードを追いかけて行ったシンジを見て、ルイはハァと溜め息を吐いた。
「ホムンクルスも人間と変わらないのね〜。あの二人なんて見てるだけで傍から見てたら良い友達なのに……」
「ま、友達のようで兄弟のようでそんな感じですね〜」
「は?」
「いえいえ、こっちの話です」
オホホと笑って、レナは傍に置いてあった緑茶を飲む。その時、リビングの扉を開けてピンクのパジャマを着たリンネが顔を出した。
「……………おにぃは?」
「ロードと鬼ごっこしてますよ」
「そう………おやすみなさい」
「ええ、お休みなさい」
「風邪などを引かれぬよう」
「ふぁい」
可愛く欠伸をしてリンネは自室へと行った。レナはクスッと微笑むと、立ち上がった。
「さて……シンジ様の晩御飯でも作りますか」
「私も手伝うわ。可愛い息子に料理を作ってあげる母の喜び……ほぅ」
「だったら最初からエヴァの中に入らなきゃ良かったのに……」
グサッ!
キツイ一言を言われ、悦に浸っていたルイの胸に矢が突き刺さった。
その後、シンジはロードと命懸けの死闘を繰り広げ、ロードを三回殺して家に帰って来たのは午前三時であった。
To be continued...
(あとがき)
第二のホムンクルス、レナ登場です。メイドのホムンクルスです。ホムンクルスはシンジの敵ではありませんが、味方でもありません。微妙な立場の存在です。シンジはゼーレと早くも対立。髭は息子を銃で撃ち抜くし、牛はソレを見て拘束する事を厭わない。さて、こっからシンジがどう動くかは作者にも分からなかったりして(超爆)。前回は格好よく登場したロードも幾分かボケキャラになってたりします。やっぱシリアスの中にギャグを混ぜるのは良いですな〜。リンネはこの小説の癒しキャラになる事を切に願います。作者が願ってどうすんでしょうね♪
(ながちゃん@管理人のコメント)
流浪人様より「福音の錬金術師」の第五章を頂きました。
シンジ君、完全にネルフ(鬚と牛)&ゼーレと敵対しちゃいましたねぇ・・・。これからどうなるんでしょう?
ホムンクルスたちは、今のところは心強い味方のようですね。安心しました。
ゲンドウは痛い目にあって、実に良い気味ですな。もっとギタンギタンにしちゃって下さい♪
次は再びミサトの番かな?(笑)
リンネは妹萌えでグッドです♪ナイスな天然ボケも一服の清涼剤となっていますね。
このお話、とても面白いです。これからも執筆頑張って下さいね。
さあ、次作を心待ちにしましょう♪
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