第六章
presented by 流浪人様
――ゼーレと敵対したけど未だに何のアプローチも無し……か――
第三使徒襲来から二週間が経った日、シンジは登校しながらゼーレ、ネルフが自分に対して何も仕掛けて来ない事に疑念を抱いていた。
当初は侵入して情報を得ようとしたようだが、全てレナに返り討ちにあった。恐らく、その時点で家族を人質にするのは諦めたようだ。
「ま、何も無いに越した事は無いんだけどね……」
このまま何事も起こらないワケにはいかないだろうと思い、靴を穿き替える。
教室へ行くと、真っ先にシンジの目に飛び込んで来たのはレイが来ている事だった。彼女はボーっと窓の外を眺めている。
――まだ包帯は取れてないけど退院したのか……――
素体は全て破壊したからゲンドウはきっと彼女を大事に扱うだろう。現に携帯でMAGIを調べたら彼女のダミープラグの実験回数が増えている。
見かけに寄らず、かなり焦っている様子だった。どうも彼女を未だに自分だけのお人形としか見ていないゲンドウに憤りを覚える。
「おはよ、綾波」
「……………」
そんな自分の心情など感じさせない微笑を浮かべ、挨拶すると彼女はチラッと見返して来た。
「素体……壊したの」
「まぁね」
極自然に会話しながら鞄を置いて席に座る。そしてレイとは別のもう片方の隣の席を見る。そこではロードが机に突っ伏して寝ていた。
レナから聞いた話では彼の部屋――マンション暮らしらしい――の冷房が壊れて、夜、寝れないそうだ。此処の所、冷房の効いた学校で惰眠を貪ってる。
「ゲンドウに言った?」
シンジの質問に彼女は首を左右に振った。
「そ……」
「貴方は……」
「ん?」
「貴方は何を知ってるの? 何故、私の素体を破壊したの? 何故、私を人間にしてくれると言うの?」
一気に質問を捲くし立てられ、シンジは目をパチクリとした。が、すぐに苦笑すると、
「知ってるとすれば真実の大半。素体を破壊したのは君を救いたかったから。そして別に君が人間になりたくなければ強要しない。ただ、そういう可能性があると提示しただけだ」
「可能性……」
「そ。だから君の好きな道を選べば良いさ」
クスッと笑ってシンジは鞄から文庫本を取り出して読み始めた。
今日も滞りなく授業が進んでいたある日、シンジはパソコンに一通もメールが届いている事に気が付いた。何気なく開いてみると、その内容に目を細めた。
『碇君が、あのロボットのパイロットって本当? Y/N』
――情報ダダ漏れだね……――
フゥと溜め息を吐くと、隣で寝息を立ててるロードにゲンコツをかます。ロードは何事かと思って頭を押さえてキョロキョロと周りを見回す。
するとシンジが無言でPCを指差しているので、ロードも自分のを見る。すると何故か自分のPCにシンジに送られたメールの内容が映っていた。
――………相田か。奴め、シンジがエヴァのパイロットだと知れば、ソレをコネにパイロットになるつもりだな……――
ロードは前の方の席に座るクラスメイト、【相田 ケンスケ】を冷ややかな目で見つめる。ミリタリーマニアの彼はネルフの職員である父親のIDを使い、シンジの情報を引き出したのだろう。
肩を竦め、ロードはシンジにケンスケを指差した。
――なるほど……――
シンジはクスッと笑うと、Nと答えた。
『え〜!? 嘘ばっかり〜! 知ってるんだから〜! 碇君が、あのロボットのパイロットだって!』
ガタ〜ンッ!!
女言葉を使うケンスケにロードは思わず椅子ごと引っ繰り返った。急にコケたロードにクラス中が注目する。先程まで根府川の話をしていた老教師も話を中断した。
「………スマン」
ロードは謝って座り直すと、隣のシンジを見た。シンジも、まさかこう来ると予想できず額を押さえていた。
『だから違うって。ロボットって何?』
『誤魔化してもダ・メ・♪私、知ってるんだから♪』
『本気で知らないんだけど……』
『もう! ちゃんと答えてよ〜!』
――何か気持ち悪くなって来た……――
傍から見ててロードは口許を押さえた。恐らく他のクラスメイトはケンスケの仕業だと知らないだろう。ふと、隣のシンジを見ると彼もキーを叩く手を止めて、体を震わせている。
――ふ……イイ度胸してるじゃん――
ちょびっと目を逝かせたシンジは素早くキーを叩いた。
――ん?――
質問の答えを待っていたケンスケは返されたメールを見て眉を顰めた。すると彼のPCの画面にドクロマークの描かれた爆弾が出て来た。
『下らない事してねぇで勉強しろよ、バカヤロー! 下らない質問された仕返しに貴様の家のPCのデータも消してやるからな!! この変態ヤロー!! ワハハハハハハ!!!』
「うげぇ!?」
まさか相手が強力なコンピューターウイルスを使えるとも知らなかったケンスケは、爆弾が爆発するPCの画面を見て、思わず声を張り上げた。
ケンスケはハッとなり、クラス中が注目してるのに気付き、顔を真っ赤にして席に座り直した。チラッと後ろを振り返ると、シンジがクスクスと笑っているのが目に入った。
――クッソ〜……パパのIDを見た限りじゃアイツがパイロットに間違いないのに〜……――
この男、機密とかそういうのには全く気にせず、ただ己の好奇心と欲求を満たす為にシンジの正体を何としても暴きたかった。
その時、ボーっと頬杖を突いているジャージの親友を見て、眼鏡を押し上げた。
昼休み、シンジは突然、ジャージの少年に呼びかけられた。
「おい! 転校生! ちょお面貸せや!」
「ほい」
ポンとシンジは机の中からヒョットコのお面を取り出して渡す。
「何やねん、コレ?」
「いや、お面貸して欲しいんじゃないの?」
「ちゃうわボケェ!!」
素でボケやがる――仕込んでたのだろうか?――シンジにジャージの少年、【鈴原 トウジ】はお面を床に叩き付ける。
「あれ? 君、この前、病院で……」
ふと、シンジはトウジの顔を見て以前、レイの見舞いの時――ミサト病院内発砲事件――に廊下でぶつかった少年だと思い、首を傾げた。
「あぁ! この前、変な黒服に追われとった奴やんか!」
「あ〜、やっぱね。何だ、同じクラスだったんだ」
――黒服? やっぱり、こいつネルフの……!――
シンジとトウジが知り合いだったのは予想外だったが、二人の会話からシンジがやはりネルフの関係者であるとケンスケは確信した。
「そんなんはどうでもエエ! ちょっと屋上まで来い!」
「はぁ? まぁ良いけど……」
何か悪い事でもしたのかと思い、シンジは席を立った。
「ちょっと鈴原! 碇君に何インネンつけてんのよ!?」
だが、そこへ委員長のヒカリがトウジを制しに来る。
「じゃかあしい! 女は黙っとれ!!」
が、いつものチャラけた様子の無いトウジにヒカリはビクッと身を竦ませる。トウジとケンスケは、そのままシンジを連れて教室から出て行った。
「ロ、ロード君! お願い! 鈴原を止めて!」
「は?」
ずっと三人の様子を傍で見ていたロードにヒカリが頼み込んで来た。
「ロード君、碇君の友達なんでしょう?」
「いや別に……友人と言う訳では無いが………止める必要があるのか?」
「あるわよ! さっきの鈴原、いつもと違うもの!」
「そう言われてもな………」
きっと彼女はトウジがシンジを殴るようなシーンを想像しているのだろう。だが、シンジがトウジなどに簡単に殴られる筈が無い。心配するだけ野暮というものだ。
Prrrr!
その時、不意に窓際の席に座るレイの携帯が鳴り出した。レイは通話ボタンを押すと、「はい、分かりました」とだけ言うと、おもむろに席を立った。
「あ、綾波さん、何処か行くの?」
「非常召集……」
「まともにシンクロも出来ずにか?」
何気に呟いたロードの言葉にレイはピタッと立ち止まって、彼の方に振り向いた。
「それともシンジを乗せるシナリオでも作られているのか?」
「貴方……知ってるの?」
「さて……な」
ヒカリは何だか訳の分からない会話――と、いうか普段から口数の少ない二人が会話する事に一種の驚きを持った。
Prrrr!!
すると今度はロードの携帯が鳴った。
「俺だ………そうか、分かった。じゃあな」
簡単に会話して携帯を切った。
「誰から?」
「ただの知り合いだ。それはそうとアヤナミ レイ……」
「何?」
「余り難しく考えない事だ」
フッとロードは笑みを浮かべて、立ち上り、教室から出て行くのだった。
その頃、屋上ではトウジがシンジに向かって殴りかかった。
が、シンジは軽く横にヒョイッと避ける。
「一体、何?」
「スマンのぉ、転校生……ワシはお前をどつかなアカンのや!」
そう言って、トウジは再び殴りかかろうとするがシンジは簡単に避けた。
「大人しゅうどつかれんかい!!」
「んな事、言われても………何で殴られなきゃいけないのさ?」
まさか病院でぶつかった仕返しだろうか? それにしては随分と大袈裟だ。が、シンジはふと思い当たった。
確か『門』の向こうで見た記憶の中でアメリカから運ばれて来た参号機のパイロットに選ばれたのがトウジだった。それでトウジは片足を失い、自分の心は深く傷付く。
何故か? それは親友だったから。親友になった切っ掛けは? トウジは何で病院にいたのか? シンジは合点がいった。
「悪いね。こいつ、この前の戦闘で妹が怪我しちゃってさ……そういう訳だから」
シンジの確信を強めるようにトウジの後ろからケンスケが言って来た。
「戦闘ね〜……僕はロボットのパイロットじゃないって言ったのに? それともコレはデータを消された恨みかい? ネットオカマ君?」
「な……! ち、違う! お前、本当にあのロボット……エヴァンゲリオンって言うんだろう! そのパイロットなんだろ! パパのIDを見て知ってるんだからな!」
ケンスケは顔を真っ赤にしてシンジを指差しながら叫んで来た。きっとトウジに『あの転校生がロボットのパイロットかもしれないぜ?』とでも言って焚きつけたのだろう。そうすれば妹に怪我をさせたと思い込んでるトウジが絡んで来るのは必至。
ついでにデータを消された鬱憤を晴らすつもりでいるのだろう。あわよくばコネを作ってエヴァのパイロットにでもなろうという算段だ。
「やれやれ……しょうがない。僕はエヴァのパイロットじゃないけど、この前の戦闘の時にエヴァに乗ったのは僕だよ」
「やっぱりそうか……エエか! お前が下手な操縦したせいでワシの妹が大怪我したんじゃい!! もっと足下見て戦え!!」
「あの……僕、エヴァで一歩も動いてないんだけど」
「は?」
「え?」
頬を掻きながら言うシンジの言葉にトウジとケンスケは唖然となった。
「いや……君の妹さん、火傷とかしてた?」
「火傷? そんなんしとらへんわ。手足の骨折に内臓も損傷しとる」
「あ〜……じゃあ違うや。僕、言っとくけど何の戦闘訓練も受けてない素人だよ? それなのに初めて乗ったエヴァを動かせれる訳ないじゃないか」
「そ、そうなんか……」
トウジは自分の勘違いに気付き、ガクッと肩の力が抜けた様子で言う。だが、シンジはニコッと微笑むと、
「まぁ勘違いとは言え、アレだけ怒るなんて、よっぽど妹さんが大事なんだね」
「あ、当たり前じゃい! オカンが死んで、オトンはネルフの研究所勤務やからはワシが妹の……ナツミの親代わりや!
………せやけど、じゃあナツミは何であないな怪我したんやろ?」
「…………」
――まさか……とは思うけど――
ウ〜ンと考え込むトウジを横目で見ながらシンジは、ある予想を立てていた。
「ま、それはそれとして………おい、眼鏡!」
「(ビクゥッ!)な、何だよ……」
いつの間にかカメラをパシャパシャと勝手に写真を取ってるケンスケをシンジは睨み付ける。
「お前まさか………エヴァのパイロットになりたいとか言うんじゃないだろうな?」
「え? そ、そうだけど……まさかネルフにアピールしてくれんのか!?」
「するか! そんなアホらしいこと……」
目を輝かせるケンスケをシンジが一喝する。
「お前みたいなテレビのヒーローみたいな事しか想像できない奴なんかパイロットになったって足手まといだっちゅ〜に」
「そ、そんなのやってみなくちゃ……」
「分かるって」
「何でだよ!?」
「目先の幸せ、格好しか考えてない奴に限って不規則の事態になると対応できないんだよ。死ぬ事が分からないと戦えない」
ケンスケは何も言い返せず、ギュッと拳を強く握って震わせた。それを見て、シンジは息を吐くと、やがて避難警報のサイレンが鳴り響いたのだった。
「で………やっぱり、こうなる訳ですか」
ネルフ発令所でシンジは保安部に取り囲まれながらガクッと肩を落とした。学校も休校になったので自宅へ戻ろうとしたら、ネルフに連行されたのだ。
返り討ちに遭うのが分かっておきながら、良くもまぁ懲りずにと半ば感心しつつ、今回は素直に連れて来られた。
「シンジ君、見て。新しい使徒よ」
「ですね〜」
ミサトがスクリーンを示すと、イカみたいな触手を持った怪物が映っていた。
「レイじゃ初号機を起動できなかったわ。だから貴方が……」
「こんな無理やり連れて来るような組織に協力しろと?」
「ふ……そんな口が利けるのかしら?」
何やらいつもと違うミサトにシンジは首を傾げる。するとミサトはポケットから発火布を取り出した。どうやらシンジの荷物から取り上げたらしい。
発火布をはめ、指を擦るようにシンジの方に手を向ける。
「シンジ君、火傷するのと素直に命令を聞くならどちらを選ぶ?」
「なるほど……銃が効かなければ今度は人の発明品を使う訳ですか」
一応、手錠はされているが手を合わせる事は出来るから錬金術は使える。もし、コレが枷だったら少し厳しいかもしれないが。
「使い方も分かってるのよ………ソレ!」
パチンとミサトは指を擦った。誰もが皆、焔が出るかと思ったが、シ〜ンと何も起こらなかった。
「あ、あれ?」
何度もパチンパチンと指を擦るが、焔は全く発生しない。
――練成陣があるだけで使えりゃ世話ないよ……――
焔を使うには周りの酸素濃度を調節し、可燃物に着火させる必要がある。発火布が起こせるのは、せいぜい小さな火花だけだ。
錬金術の種類は多々あれど、基本は物質の流れを『理解』し、『分解』して、『再構築』するのである。理解すら出来てない人間が使える筈ないのだ。
「な、何で使えないのよ!?」
「んな脅迫する暇があったら使徒を何とかしようと思わんのですか?」
発火布を外して地団太を踏む、ミサトに呆れ返ると彼女はギロッと睨み付けてきた。
「シンジ君……」
――いたんだ……――
司令塔から出張中のゲンドウに代わり、指揮を取っている冬月が声をかけて来た。
「無理やり連れて来た事には謝罪しよう。だが、今はどうしても君の協力が必要なのだよ」
――てっきりゼーレから僕の抹殺命令が出てると思ったけど……いや、どっちもしたくても出来ないのか――
ゲンドウは未だに初号機に眠っている――と思い込んでいる――ユイを目覚めさせるのにシンジが必要だし、レイも零号機、初号機とも機動できていないから使徒を倒す為、ゼーレも今はシンジが必要なのだ。
となると、裏死海文書に記されている第六使徒が来る時に輸送されるエヴァ弐号機のパイロットが来た後、ゼーレはシンジを抹殺しようとする筈だ。
それはシンジにとっても好都合ではあった。ニヤッと笑みを浮かべると、冬月に向かって切り出した。
「冬月副司令。父さんと通信できますか?」
「……可能だが、何かね?」
「話次第では協力してやらん事もありません」
「何、生意気言って―――」
「黙りたまえ、葛城一尉!」
ミサトが口を挟んだ所を冬月が一喝した。冬月は手元のコンソールを叩き、ゲンドウと通信を開いた。するとスクリーンにゲンドウの顔が映る。
『冬月、何だ? 私は今、忙しい……』
「スマンな。だが、シンジ君が条件次第で協力してくれると言ってるのでな」
そう言われ、ゲンドウは発令所にいるシンジに目を向けた。
『………言ってみろ』
「じゃ、遠慮なく。まず僕はネルフの誰の命令も受けない事。後、私生活にちょっかい出さない事。人の家族に関わらない事。コレを認めたらネルフに入ってあげる」
「ちょっと! そんな条件―――」
『………構わん』
ミサトが掴み掛かりそうになったが、ゲンドウが遮った。シンジは笑みを浮かべると、胸のポケットからチップを取り出した。
「伊吹さん。すいませんが、今の条件をプリントアウトして下さい」
「え? あ、わ、分かったわ」
マヤは頷いて即座に先程言ったシンジの条件をプリントアウトして渡した。シンジはニコッと微笑むと、「エヴァに乗ります」と言った。
シェルター内では、ケンスケが液晶テレビを見ながらボヤいていた。
「あ〜あ、何で民間人には見せてくれないんだろう………折角のビッグイベントだって言うのに………」
「機密だろう。お前みたいな口が軽そうで、上手くいけばネルフに取り入ろうとする輩がいるだろうから報道管制を引くんだ」
そんなケンスケのボヤきに返したのは予想外にロードだった。彼は壁を背に預けて本を読んでいる。タイトルは『脱・ハコテン!』と、中学生が読むにはかなり微妙なタイトルだ。
ケンスケはムスッとなって、ボーっとしてるトウジにコッソリと話しかけた。
「なあ、トウジ」
「何や?」
「内緒で外に出てみないか?」
「はぁ?」
急にとんでもない事を言い出すケンスケにトウジは唖然となった。
「お前、何、言っとるのか分かっとんのか?」
「頼む! 一度、生で見てみたいんだよ! それに、トウジだって碇の戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」
「ぐ……」
一度、殴りかかろうとした手前、トウジは全く意味の無いケンスケの説得に怯む。トウジは唇を震わせ、立ち上がった。
「ったく! お前、ホンマに自分の欲望に素直な奴やな!」
「へへ……悪いね」
パァンッ!!
『ひっ!?』
その時、トウジとケンスケの間に一発の銃弾が過ぎった。二人は何事かと思い、尻餅を突いた。銃弾の飛んで来た方を見ると、銃を撃ったのは本を読みながら銃を向けているロードだった。
クラスメイト達も銃声に気付いてロードの方を呆然と見ている。
「シェルターを抜け出して上のドンパチを見に行く? そんな事が許されると思ってるのか?」
「げ!?」
しっかりと聞かれていたケンスケは、思わず声を荒げた。
「貴様、シェルターから出たら扉はどうするつもりだ?」
「へ? そ、そりゃ開けとくに……」
一度、閉めたら外からは開かない仕組みになっている為、また戻って来れるよう開けっ放しにしておくつもりなのだ。
「馬鹿か、貴様は? 扉を開けっ放しにしておけば、戦闘の衝撃で入って来る熱や突風が中に入って来るだろうが? 此処にいる奴、全員の命を犠牲にしてでも上のドンパチが見たいのか?」
そう言われ、ケンスケはハッとなった。見るとトウジ共々、周りからかなり冷たい目で見られている。
「それにスズハラ。シンジは貴様を咎めていない。故に貴様がシンジの戦いを見る義務など一つも無い」
「え? な、何でその事、知っとるんや!?」
「シンジがネルフに連れて行かれる前に聞いた」
そう言うとロードは本を閉じ、二人を正面から睨み付けた。
「アイダ……貴様が此処にいる連中の命よりも自分の欲望が大事なら見に行くが良い。ただし、シェルターは閉じさせて貰う。外に出て死んでも自業自得だ」
「う……」
ケンスケは何も言い返せず、キョロキョロと周りを見た。周りからは『最低』やら『あんな奴と同じシェルターだと思うと命が幾つあっても足りない』などというヒソヒソ話が耳に入って来た。
「わ、分かったよ……外には行かない………」
「今の銃声は何だ!?」
ケンスケが言うと同時に警備の黒服が入って来た。
「あ! こ、こいつです! こいつが僕達を撃って来たんです!」
するとケンスケが銃を持ってるロードを指差して来た。
――なぁ!?――
どうやら、せめて一矢報いる為にロードを糾弾しているようだ。トウジを含め、周囲のクラスメイト達が驚く。
――救えん奴……――
ロードは溜め息を吐くと、黒服に銃を放り渡した。黒服が銃を受け取る時に出来た隙を狙って、ロードが詰め寄り思いっ切り鳩尾に正拳突きを喰らわせた。
「かはっ!」
「はぁっ!!」
すかさず顔面を殴り、地面に両手をついて爪先蹴りを顎に喰らわせる。更に顔面を掴み、壁に叩き付けた。黒服は血を引き摺って地面に倒れ伏した。
「ロ、ロード君……?」
物凄く異様な光景を見て呆然としていた中、ヒカリが恐る恐る声をかけた。
「心配するな。死んではいない。まぁ目が覚めたら前後の記憶が無くなってるだろうがな」
執拗に頭を攻撃していたのは、それだったのかとクラスメイトは顔を引き攣らせる。
「さて、アイダ……」
「ひぃっ!?」
ケンスケは再びロードに睨まれ、腰を抜かした。ロードは黒服から拳銃を取り返すと、銃口をケンスケに向けた。
「どうやら貴様には道徳観念が無いようだ。貴様の様な人間は排除しなければならなん」
「ひっ! や、やめ……」
「死ね」
冷たい声で言って引鉄を引いた。ケンスケは「ひっ!」と涙や鼻水を垂らし、放心して座り込んだ。ズボンからはアンモニア臭の液体が流れ出る。
が、ロードの銃は銃声が鳴らず、弾も出なかった。ロードは笑みを浮かべると、撃鉄の間に挟んでいた十円玉を取り出した。
「コレで少しは反省したか………悪かったな、お前等。怖い思いをさせて」
そう言ってフッと笑ったロードにクラスの女子の何名かの顔が赤くなった。普段、無口で無表情な分、今の彼のギャップに驚きと憧れを抱いたようだ。
――ロード君……格好良い……――
その中に、ジャージ少年に惚れてる筈の某委員長もいたそうな……。
一方、地上では初号機と第四使徒・シャムシエルが対峙していた。
『良い、シンジ君? まずはパレットガンで一斉掃射……』
「僕に命令する権利は無い筈ですが?」
『ガキがナマ言ってんじゃ無いわよ!! アタシの命令通り動いてりゃ使徒は倒せるんだから大人しく……』
「現場にいないババァがゴチャゴチャ言わないで下さい」
『な、何ですって!?』
「あ、つい本音が……」
わざとらしく口を手で塞ぐシンジにミサトの額の青筋から血が噴出した。
『こ、このクソガキ……!』
ミサトが何か喚いているが、シンジは回線を切った。その直後、シャムシエルが音速並みの速さの光の鞭を繰り出して来た。
「甘い!!」
が、初号機は指を弾かせるとサキエルの時とは比較にならない焔が発生した。サキエルとの戦闘で、攻撃とATフィールドは同時に使えない事が分かっている。焔は光の鞭ごとシャムシエルの体を飲み込んでいった。
――む……灰にならない。どうやら強度は前よりかなり高いみたいだな――
見ると体は焼け焦げているが、コアはまだ残っている。初号機は両手を合わせると、右手が剣のようになった。そのままシャムシエルに突っ込んで行き、コアに突き出した。
そして、シャムシエルは完全に活動を停止してしまうのだった。
発令所では、初号機のその強さに驚愕が渦巻いていた。
「リツコ……何なのよ、アレ? 初号機の手が剣みたいになったのは……」
「分からない……けど、シンジ君。良く両手を合わせていたわ。単なる癖だと思っていたけど、何か秘密があるようね」
こうなったら解剖してとか、何やら不気味な事をほざくリツコに冷や汗を浮かべながらも、ミサトは自分の言う事を聞かず、アッサリと使徒を倒してしまったシンジを厳しい目で睨み付けていた。
To be continued...
(ながちゃん@管理人のコメント)
流浪人様より「福音の錬金術師」の第六章を頂きました。
ケンスケ・・・最低野郎ですな(笑)。いい気味です。
多分、いやきっと懲りてないでしょうから、また痛い目に遭わせちゃって下さい♪
シャムシエルを簡単に倒したことで、ネルフはシンジ君に更なる疑念を抱いていますね。
シンジ君は条件付でネルフに入ったけど、素直に彼らの言うことを聞くとは思えないですよね。
となると、ネルフはシンジ君と交わした条件を無視して、裏で何かをしてくるのかな?そんな予感がします。
ということで、今後のネルフ(+ゼーレ)の悪足掻きが楽しみです。
リツコはシンジ君を解剖したくて(?)ウズウズしているようだし、次に酷い目に遭うのは彼女か?(期待♪)
今回はロード君の活躍が目立ちましたね。まあ、ケンスケ絡みではありますが・・・。
それにしても、某委員長を落とすとは(笑)・・・ロード君、やりますな♪(憐れ、ジャージ!)
いやー、すごく面白いし、続きが気になりますねぇ〜。
次は、牛が命令を無視したシンジ君に突っ掛かって来そうな予感、ビンビンです♪(返り討ちを期待♪)
さあ、次作を心待ちにしましょう♪
作者(流浪人様)へのご意見、ご感想は、または
まで