福音の錬金術師

第十二章

presented by 流浪人様


 十年前……。

「ふぅ……人里に降りて来るのも久し振りだな」

 セカンドインパクトによって人類の三分の一が滅んだが、人々の元の生活に戻りつつあった。それでも、セツナが住む山の麓にある農村は、そういった事とは関係ないような生活を送っている。

 どんっ!

「おっと……」

 ふと足に衝撃を感じ、セツナは手に持っていた酒瓶を落としそうになった。

「悪いね……」

 セツナの足にぶつかったのは幼い子供で、服の所々が泥だらけだった。その少年はセツナを見上げて一言だけ言った。

 強くなりたい………と。





「ああ言われて鍛えたつもりだったけど………」

 セツナは煙草を吹かして地べたに這い蹲るシンジとパラケルススを見下ろした。

「お前ら、情けないにも程があるぞ……」

 シンジとパラケルススは半日以上、セツナに攻撃を繰り出しているが一向に彼女の膝を突かせる事が出来なかった。

「おいシンジよぉ……」

「何さ……?」

 ゼェゼェと息を切らせながらもパラケルススがシンジに声をかける。

「俺ぁ、あの人に膝を突かせる方法って、もう一つしかねぇと思うんだがよ……」

「いや、流石は僕だね。多分、同じこと考えてるよ」

 二人(一人と一匹)は笑みを浮かべ、立ち上がると再びセツナに向かって構えた。そして、まずパラケルススが突っ込んで行くが、当然の如く受け流されて背負い投げを喰らう……筈だっだ。パラケルススは掴まれた前足に力を込めると思いっ切り引き千切った。

 ――何!?――

「シンジ!!」

「!!?」

 パラケルススの行動に驚いたセツナはハッとなってシンジの方を見る。するとシンジは指を擦り、強烈な焔を発生させた。

 焔の波は木々に燃え移り、彼女を取り囲んで行く。

 ――シンジの野郎……――

 セツナは煙草を吐き捨てると、構えを取った。チラッとパラケルススに視線を移すと、彼は前足が千切れているので戦えない。だとすれば、シンジが焔に紛れて攻撃して来るに違いなかった。

「はぁっ!」

「そこかっ!」

 背後から掛け声がし、セツナは裏拳を放った。

 バゴォッ!!

「!!?」

 だが彼女が裏拳を叩き込んだのは、シンジの姿に練成された岩だった。

「ちっ! 何処……」

「此処です♪」

「!?」

「ていっ!」

 こつっ!

 シンジは気配を絶ってセツナの背後に回り込むと、思いっ切り膝カックンをした。

「へ?」

 余りに予想外の手口にセツナはガクッと膝を落とした。それを見て、シンジはニヤッと笑う。

「僕の勝ちですね」

「こ……の……バカ弟子……」

「師匠は普通の攻撃だったら体が反射して対応しちゃいますからね。不意討ちも意味が無いですから、こういった方が有効なんですよ」

 表情を引き攣らせるセツナにシンジは微笑みながら言った。セツナは溜め息を吐くと、汚れを払って咳払いした。

「まぁ良い……膝を突かせたから修行はつけてやる。今日は疲れただろうから休め……」

「はぁ〜い」

 ペタンと腰を落として座り込むシンジに苦笑しながらも、煙草を取り出して咥えた。

「ああ、そうそう。ちゃんと森は戻しとけよ。自然は大切にだ」

 焼け焦げ、針だらけの周りを見て言われると、シンジは力なく頷いた。セツナはフ〜と煙を吐くと、小屋の中へと戻って行った。

「お〜い、シンジ〜。まずは俺様を治してくんねぇかい?」

「はいはい」

 前足が千切れちゃってるパラケルススの呼び掛けに答えると、シンジは両手を合わせた。





「碇君……」

 学校からの帰り道、レイはシンジが修行に出て五日経つが、ずっと上の空だった。そんな彼女の背後にある電柱の後ろにプリスが光と共に現れた。

 ――全く……何で僕が尾行紛いの事を……――

 シンジがいない為、登下校中にレイが襲われる可能性がある為、プリスが護衛に付いているのだ。まぁネルフはシンジの報復が怖いのか、一週間、レイに手を出していない。

 ――ロードはロードで野暮用とか言って行方を晦ましますし……――

 同じホムンクルスでもロードだけは何を考えているのか理解できず、プリスは人知れず溜め息を吐いた。

「こりゃ今度、イチゴパフェを奢って貰わないといけませんね……」





 ターミナルドグマに描かれている賢者の石の練成陣。それは不完全ながらも間違いなく賢者の石を精製するものだった。

「………おいおい、ネルフって何考えてんだ?」

「さぁな……」

 白髪を逆立てた十歳ぐらいの少年が練成陣を見て言うと、ジッとリリスを見上げていたロードが肩を竦めながら答えた。白髪の少年はオレンジのパーカーに青い半ズボンと偉く活動的な服装だったが、かけているサングラスが年不相応だった。

「ったく……呼ばれて来てみりゃあ、こんなもん見せやがって……」

「文句を言うな……っていうか、とっとと……」

「ロード?」

 言葉を遮ったロードに少年は首を傾げた。すると少年も扉の方を見て眉を顰めた。

「隠れるぞ」

「ああ」

 少年が頷くと、二人は周りのLCLに飛び込んだ。気持ち良いものではないが他に隠れれそうな所が無いので仕方が無い。

 やがて扉が開き、ゲンドウが入って来た。

「ゆ、許してください! 御主人様!」

 ――げ!?――

 そしてゲンドウはある少女の髪の毛を掴んで引っ張って来た。その少女は裸で、体の所々には鞭で叩かれた痕や、火傷などがあった。

 ロードは珍しく表情を引き攣らせると、『何だ何だ?』と見ようとした少年の目を隠した。

「お、おいロード!?」

「子供は見るな!」

 小声で少年を取り押さえると、そのままLCLの中に押さえ込んだ。まぁ呼吸が出来るから大丈夫だろう。

「御主人様、やめて下さい! もっと……もっとご奉仕致します!」

 少女はゲンドウの腰に抱きつき、泣き縋る。

「ふん……シンジめ……俺に『賢者の石の精製は無理だ』だと………奴め、何処でその情報を得たかは知らんが、所詮は子供か」

 ドカッ!

「きゃぁっ!」

 ズボンのファスナーを下ろそうとしていた少女を練成陣に向かって蹴っ飛ばした。

 ――ん? あの女、確か………コミヤ ハルカだったか?――

 ふとロードは少女を見て目を細めた。

 ――随分、前に疎開した筈だが………――

 何でこんな所で娼婦みたいな事をしてるのか分からなかった。

「お願いです、御主人様! 私……死にたくありません!」

「死ぬ? 違うな……貴様は私の夢の礎となるのだ」

 そう言ってゲンドウは手袋を外し、火傷を負った手が露になる。そして彼の指には赤い石の嵌め込まれた指輪があった。

 ――アレは……不完全だが賢者の石!?――

 ロードはソレを見て目を見開くと、合点がいった。不完全な賢者の石でも、素人でも練成陣なしの錬金術を使う事が可能になる。だとすれば、賢者の石の練成陣が不完全でも、未完成の賢者の石の力で補えば、賢者の石の精製は可能になるかもしれない。

 シンジの力を見て錬金術と気付かないのは、恐らくゲンドウの知る錬金術が中世ヨーロッパのもので、石を金に変える方の錬金術だと思っているからだろう。

「貴様も先に材料となった奴らと共に永遠に生きるが良い……」

「い、嫌! 御主人様、助けて! 何でもしますから!」

 陣に触れようとゲンドウがしゃがむと少女――【小宮 ハルカ】は彼の足を掴んで、靴を舐めた。

「ふん……雌犬としては合格だが、既に貴様はぶっ!!」

 突如、ゲンドウは後ろから蹴り飛ばされ地面とキスした。

「はぁ……何だか悲しくなって来た」

 ロードは気絶したゲンドウの頭を更に踏みつけると、溜め息を吐いて額に指を当てた。

「あぁ……御主人様ぁ……」

「ん?」

 するとハルカは虚ろな瞳でゲンドウを仰向けにするとズボンのベルトをカチャカチャと弄った。

「おい、コミヤ?」

 ロードは彼女の手を止めると軽く頬を叩いた。が、それでも彼女の目に生気は戻らない。

 ――薬か? ……いや、死に対する恐怖と今までの仕様か……――

 彼女の体に残る傷痕を見てロードは目を閉じると、どうすべきか考える。

「しょうがない……」

 ロードはキッと目を鋭くすると、先程よりも強くパァンッと頬を叩いた。

「え?」

 するとハルカはハッと目を見開き、赤く腫れた頬を押さえた。

「あ……私……」

「無事か、コミヤ?」

「え? あ? ロ、ロード君?」

「どうでも良いが、とりあえずホレ」

 ロードは自分の黒いカッターシャツを脱ぐと彼女に渡した。LCLで湿っているが、そんな事は言ってられない。ハルカも自分が素っ裸――しかも傷だらけ――なのを見られて顔を赤くすると慌ててロードのシャツを着た。

 そしてハルカは肩を震わせながら顔を俯かせている。

「色々とあるだろうが此処から出るぞ」

 コクッとハルカが頷くと、ロードは彼女を背負った。

「ライハート!」

「あ〜ん?」

 ザブッとLCLから少年――ライハートと言うらしい――が顔を上げると不機嫌そうに睨んでいる。どうやらLCLに押さえ込まれていた事を根に持ってるようだ。

「俺は帰るが、後始末と調査の方は頼んだぞ」

「へいへい」

 唇を尖らせて答える彼に苦笑しながらロードはターミナルドグマを後にした。




 人目につかないようネルフを出て、裏道を通りながら自宅に戻ったロードはハルカにシャワーを浴びるよう促した。ハルカがシャワーを浴びてる間にロードは近くの商店街で女物の下着(四枚五百円)を買った。

 周囲から妙な視線を感じたが、鈍感で、そういう事に無頓着なロードは気にしない。むしろ、必要な行為なので堂々としている。で、マンションに戻るとタンスから自分の半ズボンを出して洗面所に置いた。

「服、此処に置いておくぞ」

 そう言って、彼女が上がって来るまで、ゲンドウの指にあった不完全な賢者の石の指輪を思い出していた。

 不完全とはいえ必要な材料は生きた人間だ。アレをゲンドウが作ったとは到底、思えない。だとすると作ったのはゼーレで、ソレをゲンドウに渡して賢者の石の精製を命令しているのが妥当な線なのだが、やはり納得いかない点がある。それが分からず、ロードは考え込んだ。

「あの……ロード君……」

「ん? ああ、上がったのか」

 ふと風呂から上がって来たハルカに声をかけられ、ロードは冷蔵庫に向かう。

「オレンジとアップル………どっちが良い?」

「………オレンジ」

「分かった」

 ちなみにオレンジはプリス専用で、アップルはロード専用だったりするのだが問答無用でグラスに注ぐ。ロードも専用のアップルジュースを自分用に注いだ。ロード曰く『そんなLCLみたいなもん飲めるか』なのだが、プリスは『それが美味しいんです』とエセ聖職者ぶりを発揮して答えたりしている。

 クッキーを戸棚から出し、トレイに載せてオレンジジュースをハルカの前に置く。が、ハルカはジュースに手を付けようとせず、黙ったまま俯く。これでは話が進まないので、ロードから切り出した。

「疎開したんじゃなかったのか?」

「え? 疎開?」

「……………クラスじゃそういう風に連絡されたと思うが……」

 意外そうな顔をするハルカにロードは眉を顰めた。

「ううん。何か……知らない黒い服の人達が家に乗り込んで来て……そのまま目隠しされて連れて行かれちゃった……」

「ちょっとストップ」

「へ?」

「ちょっと待ってろ」

 ロードは携帯を取り出すと、リビングから離れて電話をかける。

【もしもし、ロード?】

 電話をかけた先は現在、行方不明中のシンジだった。

「ああ。少し訊きたい事が……」

【あ、ちょ、ちょっと待って! 師匠! 今、電話中……って! パラケルススも少しの間くらい食い止めててよ!! し、師匠! タンマです! とととととと!!!】

 バシッ! ビシッ!

 シンジの悲鳴と何やら攻撃を捌く音が聞こえたが、ロードは敢えて無視した。

【ご、ごめん! 後でかけ直す!】

「いや、良い………別にどうしても必要な事じゃないし」

 どうやら電話しながら師匠とやらの攻撃を捌いているのだろう。どうやら、この五日で随分と強くなったようである。自分達、ホムンクルスに対抗する為だろうが、その成果は出ているようである。

 フッと苦笑すると通話を切った。





 その頃、シンジは。

「何で目隠ししながらやらにゃならんのですか!? しかも手械までつけて!!」

 ズダボロのシンジが怒声を上げた。遥か頭上の木の枝にはパラケルススがグデ〜と気を失っている。

 シンジはこの五日、目隠しをし、更には両手に鉄球つきの枷までつけていた。その状態でずっと実戦紛いの修行を積んでいた。どうやら先程の携帯でロードと分かったのは着信音のようだ。

「一週間で……後、二日で強くなりたいんだろ? ああ、二日後に帰らなくちゃいけないから明日で終わりか」

 プハ〜と煙草を吹かしてセツナが他人事みたい――事実、他人事なのだが――にボヤいた。

 ちなみに彼女もそれなりの手加減はしている……のだが、手にはトンファーなどが握られていた。

「じゃ、休み無し。睡眠時間十分のフルマラソン修行……ラストスパートかけるぞ」

 師匠にする人物を間違えただろうかと、シンジは今更ながらに思った。




「それで? 連れて行かれた先は?」

 ロードはハルカから話の続きを聞いていた。

「暗い部屋で……大きなベッドにミホやアケミ達も……」

 それは確かハルカと同じ時期に疎開した女生徒達だった。彼女達が連れて行かれた部屋は恐らくロードとプリスが拷問を受けた部屋とは別なのだろう。ゲンドウは、『そういった部屋』をネルフの所々に隠し持っているに違いない。

 やはり、とロードは内心で舌打ちした。あの外道、賢者の石の材料の為に彼女達を強引に誘拐し、そのまま愉しんだ後は材料行きだそうだ。

「最初はいきなり服を剥がされて……悲鳴を上げたら、ビデオを見せられた……」

「ビデオ?」

「あのオジサンが………何かの絵の上に裸の女の人を乗せて……消したの……女の人は最後まで……その人に縋って……その……えっと……」

「あ〜……」

 そりゃきっと賢者の石の材料にされたのだろう。ロードは軽い頭痛を覚えて額を押さえた。そして彼女が口篭っているのは、材料にされた女性が今日の彼女みたいな行動を取っていたのだろう。

「で?」

「それで……『もし、同じ目に遭いたくなければ俺を満足させろ。飽きた奴から……ああなる』って……」

 こんな話、シンジが聞いたりしたら確実にゲンドウを殺しにかかるだろう。アレの血が半分でも流れていると自分の存在すら汚らわしく感じてしまう。

 ロードはシンジには秘密にしておこうと誓った。

「私……自分が生き残りたいから……他の人達や親友を………」

 肩を震わせて強く握った拳にポタポタと涙を落とす。

「他の女の人達も……ミホやアケミもリサも……消されちゃって……」

 完全な賢者の石を一つ作るには千単位の人間が必要になってくる。恐らくソレも氷山の一角に過ぎない。

 ――しかし材料を女限定にするか……――

 溜め息を吐いてリュークはアップルジュースを口に含む。

「私もね……妊娠してるって分かったから……」

「(ブッ!!!)」

 ボソッと呟いたハルカの言葉にロードは彼らしからぬリアクション――ぶっちゃけ噴出した。

「ごほっ! ごほっ! ……………妊娠?」

「うん……」

 そう言ってハルカは自分の腹部を摩った。

「避妊なんか考えてなかった………だから妊娠と発覚したら即座に消されちゃうんだ……アケミも……そうだった……」

 この場合、どうなるだろう? ロードはナプキンで噴出したジュースを拭きながら考えていた。胎内に新しい命があるなら、それも材料として考えられるのだろうか? だとすれば二人分でお得だ。ひょっとして、あの外道は、そういう事も計算に入れていたのかもしれない。

「嫌だよね………あんな人の子供なんてさ……」

「いや……それは何とも……」

 もしルイに言えば、不動明王の如き怒りでゲンドウを嬲り殺しにするかもしれない。

「そういえば、お前の家族は?」

「お母さんは小さい頃に死んじゃったし、お父さんは……私が連れて行かれた時に銃で撃たれた……」

 そういえば二年A組はチルドレン候補が集められているから、ほぼ片親だ。しかし、そこから賢者の石の材料にしようとは……自分の好みに合えばOKなのだろう。

「堕ろさないと……駄目だよね」

「あ〜……何もそこまでする必要は……」

 それだとシンジを否定する事になる。それは自分の『立場上』、余り好ましい事では無かった。

「だって……望んでもいないんだよ……」

「別に生まれてくる子に罪は無いだろう……」

「まだ中学生だし……」

「そ、その辺は将来、若いお母さんって参観日で子供が自慢できるかと……」

 何で、こんな説得をするのか非常に疑問なのだが、ロードは更に続けた。

「それに……もし、病院なんかに行ってみろ。そこから、お前を誘拐した連中に見つかって今度こそ消されるのがオチだ」

「でも……」

「まぁ産むんだったら病院じゃなくて産婆辺りに……」

「ロード君、お父さんになってくれる?」

 ピタッとロードの口が止まり、長い沈黙が降りる。そしてチラッと玄関の方を見ると、おもむろに歩き出して思いっ切り開いた。

「あ……」

 そこにはコップを当てて中の会話を探っていたプリスが非常にバツの悪そうな顔をしていた。

 ロードは彼を思いっ切り自分の方に引き寄せ、

「いつから聞いてた?」

「えっと〜……彼女がシャワーを浴び終えた辺りから」

「今、此処で聞いた事は全て忘れろ。そして他言するな。したら貴様、死ぬまで殺すぞ?」

「イエッサ〜」

 プリスは笑顔を引き攣らせながら手を上げて答えた。

「あ、そ、それよりも僕、お邪魔みたいですので此処から出て行きましょうか?」

「変な気を遣うな」

「違いますよ〜、お父さん♪」

「…………」

 もしハルカが見てなかったら、首切ってゴミ袋に突っ込んで海に捨ててやるのだが、出来ずに葛藤する。

「それに……ネルフの監視の無いのは此処かシンジ君の家だけでしょう? 彼女を放り出す訳にもいきませんし」

「く……」

「と、いう訳でアデューです! 荷物は今度、送ってくださ〜い!」

「ちょ、ちょっと待……て……」

 プリスは爽やかにそこから走り去って行った。フルフルと拳を震わせながらロードは溜め息を吐いて部屋に入る。

「まぁお父さん云々は置いといて、此処には置いてやる」

「本当?」

「ああ。ただし、外では何があるか分からないから、なるべく外出は控えろ」

「はい」

「後……」

「何?」

「今日の晩飯は何が良い?」




 一方、家から追い出されたプリスはというと……。

「何で俺がロードの後始末なんかせにゃならんのだ!?」

 たまたま道端で会ったライハートと喫茶店にいた。

「ライも大変ですね〜……で? 何か分かったんですか?」

 クリームソーダを飲みながら怒るライハートに苦笑しながらプリスが尋ねる。

「おう。あの練成陣……裏死海文書に描かれていたものだ」

 ピクッとその言葉にプリスは反応した。

「実はな〜……」

 非常に気だるそうにライハートは話した。

「は? ちょ、ちょっと待ってください、ライ!」

 そして、それを聞いたプリスは声を上げた。

「それってヤバくないですか?」

「まぁな……一応、メイアーに連絡入れて調査は頼んでるが……」

「ふ〜む……」

「あら? プリスに………ライですか?」

 ふと背後から声がして二人は声の方を向いた。そこには買い物袋を持ったレナとルイとリンネがいた。

「よっ、レナ。久し振り」

「日本に来てたんですね」

「レナさん、この子は?」

 初対面であるルイはライハートを指して尋ねた。

「俺は………!!?」

 ライハートは自己紹介しようとルイの方を見ると、隣で突っ立っているリンネを見て硬直した。

「あの……ライ?」

「どうしました〜?」

 完璧に固まっているライハートにプリスとレナが話し掛けると、彼は立ち上がって、おもむろにリンネの手を握った。

「お、俺、ライハート・ホープ! 君、名前は?」

「………リンネ」

「リンネか! うん! 良い名前だな!」

「ちょ、ちょっとライ……」

 顔を赤くして興奮気味なライハートに表情を引き攣らせながらレナが話しかけようとすると、プリスが引き止めた。

「まぁレナ……若いという事は良いじゃないですか」

「でも、あの子も………ホムンクルスなんでしょ?」

 ルイが頬に手を当てながら尋ねると、プリスがコクッと頷いた。

「ですが愛に種別性別は関係ありません。僕のロードに対する愛も決して不潔ではないのです」

 ポッと頬を染めるプリスにルイとレナは顔を青くして引いてしまった。

 ――あのポッと出の女にロードが寝取られるかどうか心配ですが……まずは新居をどうにかしないと。メイアーに頼んでおきましょうか――

 などと考えながら初々しい姿のライハートの苦笑するのだった。



「ふむ……妊婦の食事も色々あるのだな」

 本屋でロードは妊婦用の食事が書かれた本が並んでいる棚を模索していた。

「この薄っぺらいので九百八十円か………仕方あるまい」

 大変なものを引き取ったと、少し後悔の溜め息を吐きながらレジに向かった。

「ちょっと奥さん、あの外国人の男の子……」

「まだ中学生くらいでしょ? 若いのに大変ね〜」

 などという奥様方の会話など耳に入らなかったロードであった。






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

流浪人様より「福音の錬金術師」の第十二章を頂きました。
・・・鬚、とんでもない下衆ですな(怒)。
何人もの女子中学生を誘拐し(家族は殺し)、毒牙にかけ、しかも孕ませて、殺すとは―――筆舌に尽くしがたいほどの怒りが湧き上がりました。
シンジ君、早く帰ってきて、鬚の野郎をブチ殺してください!!
でもハルカさん、畜生の子供を産むって・・・貴女それ本気で言っているんですか?(汗)
いくら自分の子供とはいえ、自分の父親を殺し、自分を犯した男のガキなんですよ?人間の子供じゃないんですよ?罪の象徴そのものですよ?(汗)
第一、その子供が畜生の形質をそのまま受け継いでいたら、どうするのですか?(二次被害の連鎖・拡大)
ふう・・・少し熱くなりましたね。反省反省。ゴメンなさい。どうか忘れて下さい(汗)。
それに・・・もし、生まれたのが母親似のマトモな人間の子供だとしたら、・・・その子はなおさら、一生重い十字架を背負うことになるかと思います。
それに実父のことが後日露見すれば、被害者の立場とはいえ、全世界から迫害を受ける可能性もあります。
それ程のことを、鬚は今までやってきたのですから・・・。世界は理性的には動かないでしょう。
だから・・・相当な覚悟が必要だと思います。
その上でハルカさん、出産と育児を頑張って下さい。今はそれしか言えません。今は生活力のない中学生の身で、色々と大変でしょうが、応援しております。
(鬚に認知を迫ってみるのも面白い展開かも♪当然、ルイにはデフォルトでバラして欲しいですね♪)
・・・でもハルカさんって、あんなに酷い目に遭ったというのに、見たところあまり(?)ショックを受けてはいませんよね?(笑)
・・・生き残るためとはいえ、自らゲンドウに股を開き、親友たちを裏切ったせいでしょうか?(チョットしたたか?)
はあ・・・今回は新たなホムクルたちも登場したのですが、すっかり霞んでしまいましたね(汗)。
次は、鬚の惨殺シーンが見られるかな?(笑)
さあ、次作を心待ちにしましょう♪
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