福音の錬金術師

第十三章

presented by 流浪人様


「はぁ〜! 久し振りの我が家は良いねぇ〜!」

「テメェ、レナ!! リンネ相手に本気なんか出すんじゃねぇ!!」

「人生ゲームに本気もクソもないでしょう……」

「うう……しゃっきん……」

「はい、不渡手形」

「………子供できた……お祝い頂戴……」

 修行を終えて帰って来たシンジを誰も――レイですら――快く出迎えてくれず、ボード版の人生ゲームで楽しんでいた。その中には何故かライハートの姿もある。

 笑顔のまま固まったシンジは無言で両手を合わせる。

「ちょっとは、こっち見ろおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 叫んで、シンジは人生ゲームの真下から大きな針を出して破壊した。

「あ、碇君……」

 レイはシンジの存在に――ようやく――気づき、トテトテと駆けて行く。

「大丈夫か?」

「(こっくり)」

 ライハートは、ちゃっかりとリンネを避難させていたりする。

「あら? 帰られたのですか?」

「まぁね〜。で? このガキは?」

 シンジは首に頬擦りしてくるレイの頭を撫でながら、リンネを抱きかかえているライハートを指差す。

「私達と同類です。名前はライハート・ホープ」

 ――またかい……――

 自分がいない間にまた一人増えて、シンジは溜め息を吐いた。

「あ、猫さん……」

 ――げ!?――

 ボ〜ッと、シンジに身を委ねていたレイは、彼の頭に乗っていたパラケルススを発見した。パラケルススはバッとシンジの頭から離れると、逃げ出した。

「猫さん……」

 レイは一目散にパラケルススの後を追いかけた。

「けどシンジ、修行とか言って出て行ったけどどうだったの?」

 何気なくルイが尋ねると、シンジはフッと笑って額に手を添えて、外に目をやった。

「平穏って良いよね〜」

 目頭に光るものを浮かべ、ポツリと呟くシンジに、皆は一体、何をしてきたのか非常に気になったが、それ以上、聞いてはいけないような気がした。

「あ、そうだシンジよ」

「ん?」

 ふと思い出したようにライハートが話しかけて来た。

「俺ぁロードに呼ばれて日本に来たんだがな……」

「ロードに?」

「ああ。ターミナルドグマにある賢者の石の練成陣を調べにな……」

「…………どういう事?」

 シンジは僅かに表情を引き締め、ライハートに先を促した。ライハートはチラッとレナの方を見ると、彼女はコクッと頷いた。

「ルイさん、どうやら私達はお邪魔みたいですから向こうの部屋に行きましょう。リンネちゃんも」

 そう言ってレナはリンネと共に別の部屋に移動した。ルイは少し興味があるようだったが、シンジに頷かれ渋々ながらレナに付いて行った。

「で?」

「俺の能力は『サイコメトリー』。対象物に触れる事で記憶を読み取る能力だ」

 ニヤッと笑ってライハートは自分の手を差し出した。シンジは『へぇ』と興味深そうに彼の手を見る。

「って事は練成陣の記憶も読み取ったと……」

「まぁな。あんたには口で説明するより見た方が早いだろ」

 そう言うとライハートはシンジに指を突き出して、額に当てた。

「!!?」

 するとシンジの頭の中にある映像が流れ込んで来た。そして、それは十年前、『門』の向こうで知識を与えられた時の感じと酷似していた。

「…………何、これ?」

 シンジは唖然と俯きながらポツリと呟いた。ライハートはポリポリと頭を掻きながら、曖昧に答えた。

「あ〜……真実? まぁ俺らが知ってるのとは大きく違うみたいだが……」

 プチ。

「ん?」

 その時、使徒襲来を告げるサイレンの音と何かが切れる音が重なった。





「髭ぇ!!!」

 ネルフ発令所の扉をシンジは蹴破って入って来た。

「シンジ君………貴方、来襲以外の入り方を知らないの?」

 リツコはこれだけの修繕費に金をかけるかと思うと頭が痛くなった。が、シンジはリツコの言葉など無視して司令塔のゲンドウを睨み付ける。

 ゲンドウは二日前、ロードに思いっ切り背後から地面に叩き付けられ、鼻に絆創膏を張っている。ちなみに自分の愉しみを邪魔した犯人(ロード)を探そうとしたが、あの時、ターミナルドグマの監視カメラをOFFにしていた為、見つけれなかった。

「ちょっとシンジ君! あんた、一週間も何処、放っつき歩いて……」

「やかましい」

 詰め寄って来るミサトの額に指でトンと突くと彼女はガクッと尻餅を突いた。

「へ? え? あ、あれ?」

 まるで腰が抜けたかのようにミサトは上手く立てなかった。指で軽く小突かれただけなのに、何が何だか誰もが分からなかった。

「シンジ……何をしている? 使徒が来たのだ。早くエヴァに乗れ」

「その前に話がある。テメェ、若い女集めて材料にしてやがったな」

 ピクッとゲンドウの眉が吊り上がった。冬月やリツコは何の話か分からず、首を傾げる。

「しかも孕ませるとは考えたじゃないか………材料が二倍だからな」

「………何の事だ」

「ふ〜ん……シラを切るつもりか? 良くもまぁ、そんな鬼畜な真似をしてくれるね。僕の弟か妹か分からない内に材料にしやがって……流石にプッツンしたよ」

 別にゲンドウが誰と性行為をしようが子供を設けようがシンジは一向に構わなかった。だが、それが石の材料にするという事は許せない。

 『生まれてくる』という流れを断ち切る行為はシンジに大きな怒りを買った。自分だって賢者の石がなければ人体練成は不可能だ。だが、人間は一回の行為で新しい命を作る事ができる。

 新しい命の誕生。それが、どういう過程であろうとシンジは素晴らしい事だと思っている。過程や血縁など関係ない。この世界に生まれ、どう生きるかという事が生命に与えられた責務というのが持論だ。

 と、いうより、そうでも考えないとゲンドウの血を引いてる事に堪えれないというのもあるのだが。

 シンジは両手を合わせると司令塔に触れた。

『ぬおおおおおおおおおおお!!!!!?』


 すると司令塔は音を立てて崩れ、ゲンドウと冬月が落っこちて来る。ドシャッと落っこちたゲンドウ――冬月も――をシンジは冷たい目で見下ろすと、言い捨てた。

「これから、ちょこっと使徒をぶっ倒して来るけど……その前に制裁を与えないとな」

 ニヤッと笑みを浮かべると、シンジは床に触れた。するとゲンドウの周りに練成陣が浮かび上がる。

「な!? シ、シンジ! 貴様、まさか……」

 その陣を見て、ゲンドウは自分が賢者の石の材料にされるかと思って慌てた。

「面白いもの見せてあげる♪」

 そう言ってシンジは陣を発動させた。陣は激しく光り、ゲンドウは恐怖で目を閉じた。

 ゲンドウは恐る恐る目を開けると、そこは発令所ではなく真っ白な空間だった。

「な、何だ此処は……?」

 ゲンドウはキョロキョロと辺りを見回すと、目の前に巨大な門がある事に気が付いた。

「何の門だ……?」

 ゲンドウは門に近付くと、途端に門が重い音を立てて開いた。

「な、何!?」

 すると門の中から幾つもの黒い手が伸びて来て彼を引き摺り込んだ。

「な、何なんだコレは……!!!?」

 いきなり門の中に引き摺り込まれたゲンドウはハッと自分の手を見た。すると黒い手が彼の左腕に絡み付き、指先から消して行った。

「な……! や、やめろっ! 離せ! 離せぇぇぇぇぇぇ!!!

 カエセ

「何!?」

 カエセ……ボクノ……ワタシノ……カラダヲ………カエセ……。

 頭の中に幼い声が響く。何度も何度も響く、その声にゲンドウはガタガタと震えた。

「ぐ……ぐあああああああ!!!」




「ぎゃああああああああああああ!!!!!」

 発令所にはゲンドウの絶叫が響いていた。彼の右腕は肩からゴッソリと突然、消滅し、それを見た者達は何が何だか分からなかった。

「左腕一本か……代価にしては安いな……」

「シ、シンジ君、一体何を……」

 リツコはシンジに震えながら尋ねるが、彼は冷たい目で彼女を見返した。

「良く言うでしょ? 悪い事をすれば、その分だけ自分に帰って来るって………それだけの事ですよ」

 そう答えて再び笑顔に戻ると、『エヴァに乗る準備をします』と言って発令所から出て行った。その後、呆然としていた発令所だったがリツコは慌ててゲンドウを医務室に運ぶよう指示を飛ばした。





「う……!」

 その頃、避難せずにマンションにいたハルカは突然、お腹を押さえた。それを見て、洗い物をしていたロードは彼女の下に駆け寄った。

「どうした?」

「く、苦しい……」

「何?」

 陣痛? そんな訳ない。だとすると……ロードは嫌な予感がして、ソッと彼女の腹部に触れた。

 するとロードの目の前が光に包まれ、景色が一変した。そこは先程、ゲンドウがいた真っ白な空間で門もあった。

「やはり……」

 ロードは周りを見回すと、目の前に光の粒子が集まった。すると、それは人の形を成してロードに話しかけた。

『よぉ』

「………イカリ ゲンドウが来たのか?」

 ロードは驚いた様子を見せず、堂々とした態度で質問した。

『おお、来たぜ』

「真理は?」

『は? 何の代価も払ってねぇ奴に見せるわけねぇだろ。タダ見は駄目だぜ?』

 ニヤッと笑うソレにロードは肩を竦めた。

「コミヤの胎内に影響があった……今、アイツと此処が繋がっているのは何故だ?」

『そりゃお前……あのゲンドウとかいう野郎が生まれる前に石の材料にされた命どもが門の中に引き摺り込んだのさ。その胎内のガキも精神が此処とリンクしたんだろ』

「なるほど……あの門の向こうは、あの世か?」

『いいや。知っての通り、門の向こうは真理だ。全てが、あの向こうにある。お前らのマスターだって、向こうに行ったんだぜ?』

「…………」

 ソレの言葉にロードは沈黙する。

『ちなみに消されたガキどもの魂はゲンドウの左腕一本持ってったぜ。シンジの野郎は、安いって思ってるみたいだが……』

「シンジ? ひょっとしてシンジがゲンドウを此処に繋いだのか?」

『おお! そういえばライハートが、ゲンドウが何人もの女を孕ませたって事をシンジに教えたぜ?』

 しまった……ロードはガクッと肩を落とした。口の軽いプリスに注意したせいで、ライハートの事をすっかりと忘れていた。そもそもターミナルドグマの練成陣の記憶を読み取って貰おうと呼び寄せて、そのままだった。

 まぁシンジがゲンドウを殺さず、左腕一本で済ましたのが、せめてもの幸いだった。

「…………帰る」

『おう。じゃあ、またな〜』

 そして再びロードの視界が光に包まれた。




「ふぅ……」

 ロードは気を失っているハルカをベッドに寝かせると溜め息を吐いた。

「左腕一本か……」

 呟いてソッとハルカの腹部を撫でると、ベランダに出た。

「父さん……か」

 そう言って目を細める彼の視線の先には、クリスタルのような使徒が佇んでいた。






To be continued...


(ながちゃん@管理人のコメント)

流浪人様より「福音の錬金術師」の第十三章を頂きました。執筆、早いですねぇ〜。昨日の今日ですよ?(汗)
早速、鬚はシンジ君に痛い目に遭わされましたねぇ♪大変グッドですよ。
でも、左腕一本のみ・・・確かに安いですな。
まあ、小出しにしないと、そのうち品切れになっちゃいますからねぇ〜。今後のお楽しみということですか。
あと残るは、腕一本と足一本でしたっけ?
あ!まだ内臓が無傷で残っているじゃないですか♪うんうん、遠慮なく代価として持っていって下さい(笑)。
でも、ルイや発令所の皆に、洗いざらい暴露して欲しかったですね。
しかしロードよ、本気で赤ん坊の父親になる気か?・・・レナはどうするのだ?(笑)
ロードがゲンドウの身を心配するのも、解しかねますね。無論、何らかの理由があるとは思いますが・・・。
色々と伏線があって、続きが気になりますな。
さあ、次作を心待ちにしましょう♪
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