神の児は天使

第二章

presented by 流浪人様


 今より少し前。ネルフの第一発令所では、作戦部長の葛城 ミサトに代わり、技術部部長の赤木 リツコが指示を飛ばしていた。

「主電源接続」

「全回路動力伝達」

「第二次コンタクトに入ります。A10神経接続異常無し」

「思考形態は日本語を基礎原則としてフィックス」

「初期コンタクト全て問題無し。双方向回線開きます。シンクロ率15%」

 起動指数ギリギリのシンクロ率にリツコは舌打ちした。

 シミュレーションでは、サードチルドレンを乗せた場合、40%近くのシンクロ率が出る計算だったが、それも全て、親友の女の所為で粉々に砕け散ってしまった。

「おっまたせぇ〜♪」

「…………」

 その親友の女が軽快な声を上げて入ってきて、リツコは額に青筋を浮かべた。

「お! ちゃんと発進準備進めてるじゃない。パイロットはレイ? あの重傷で良く出られたもんね」

「あのね、ミサト!! 貴女がサードチルドレンを、ちゃんと迎えに行ってれば、こんな事しないで済んだのよ! 分かってるの!?」

 ミサトは怒鳴られると、笑顔を引き攣らせてリツコを宥めた。

「ま、まぁまぁリツコ。済んじゃったものは仕方ないじゃないの。此処は前向きに使徒を倒す事を考えましょ」

「(この女……)」

 サードチルドレンの事は置いといて、使徒の事に目を向けさせてうやむやにするつもりだとリツコは悟った。

 ミサトはリツコに代わると、発進準備の指示を飛ばした。

「第一ロックボルト外せ」

「解除確認」

「アンビリカルブリッジ移動開始」

「第二ロックボルト外せ」

「第一拘束具を除去、同じく第2拘束具を除去」

「一番から十五番までの安全装置を解除」

「内部電源充電完了」

「内部用電源用コンセント異常無し」

「了解。エヴァ初号機射出口へ」

「進路クリア。オールグリーン」

「発進準備完了」

「了解」

 そこで、ミサトは頷くと、一度、司令塔に座るゲンドウに振り返った。

「構いませんね?」

「……………」

「司令?」

「葛城一尉、職務怠慢で三ヶ月の減俸」

「しょ、しょんなぁ〜!?」

 いきなりの発言に、ミサトは頭を抱えて悲鳴を上げるが、こんな初っ端から、シナリオの修正を余儀なくされたゲンドウにとって、この程度の処罰は生易しいどころか、連続殺人犯が、お年寄りに座席を譲るようなものだった。(例えが分かりにくい!)

「早く発進させたまえ」

 が、この鉄面皮は、そんな怒りなど感じさせず、さっさと命令する。

 ミサトはガクッと肩を落とし、エヴァを発進させた。

 


「な、何で初号機が出てるの!?」

「そりゃサキエルを倒す為でしょ?」

 サキエルと対峙する初号機を見て、驚きの声を上げるシンジ(♀)に、シンジ(♂)が聖書を読みながら答える。

「パイロットはまさか……綾波!?」

「多分ね」

 いつの間にかシンジ(♂)は、自販機で買ったオレンジジュースを飲んで、完全にくつろぎ状態だった。

「な、何とかならないの!?」

「さぁ?」

「あの怪我で乗せられたら、綾波が死んじゃうよ!」

「でも、その綾波って子、魂が他の肉体に移行するんでしょ?」

 リリスの知識を得ているシンジ(♀)の情報から、そう聞いたシンジ(♂)は、冷静に言うが、彼女はソレは分かっていても感情が許せなかった。

「そ、そんなのダメだよ! 何とかならないの!?」

「僕は天使だけど、ドラ○もんじゃないからね〜」

「ふざけてる場合じゃないよ!」

 あくまでも真面目に言い張るシンジ(♀)に、シンジ(♂)は溜息を吐いた。

 シンジ(♀)の話を聞いて、そのゲンドウとかいう自分達の父親が息子を利用しようとしているのは目に見えている。

 なら、無理して助けなくても、とっとと神界へ帰れば良いと思った。

「でも、流石に此処でもサードインパクト起こすと、霊界が大変になるだろうしな〜……」

「霊界?」

「そ。人間界に各一つずつある、天国と地獄への通行所。多分、君の世界を担当していた霊界は今頃、大変だと思うよ」

 そう言ってシンジ(♂)は携帯を取り出し、ボタンを押して電話をかける。

「あ、もしもし〜。僕、シンジ。うん、そう。今、人間界から電話してるんだけどさ〜……そっちはどうよ? え? 地球の殆どの生命体が来て大混乱? あはは。やっぱりね〜。でも長い歴史の内、一惑星の全生命が滅びるなんて珍しくないっしょ? へ? 閻魔帳にも載ってないから処理が大変? ふ〜ん……人間の分際で、神族の予想を超えたのか……OK。じゃ、今度、暇が出来たら遊びに行くね。鬼や死神の皆さんによろしく〜。あ、閻魔はどうでも良いから♪」

 まるで何処かの友達に電話するようなノリのシンジ(♂)に、シンジ(♀)は唖然としていた。

「……閻魔?」

「そ。君のいた世界の霊界責任者。ちなみに、天使は神様の次に格の高い存在だから、閻魔より偉いんだよね〜」

 そう言われ、シンジ(♀)は、自分の認識できない世界に、頭痛がした。

「それより、アレ、助けたいの?」

「あ、当たり前だよ!」

「やれやれ、しょうがない」

 シンジ(♂)は面倒そうにボヤくと、聖書をポイッと放り捨てた。

「……天使がそんな事して良いの?」

「良いの、良いの。あの聖書に書かれてる物語、殆ど嘘だから」

「へ?」

 そう言うと、シンジ(♂)は目を閉じ、精神を集中させた。

 すると、地面に六芒星が浮かび上がり、シンジ自身の背中に青く輝く翼が出現した。

「神の御名において命ずる。全能なる神の創造物……面倒だから以下省略!」

「しょ、省略!?」

「出でよ、ルシフェル!!」

 ブァッと六芒星が激しく輝き出し、広がっていくと、その中からエヴァや使徒並のサイズの全身が黒い、六対十二枚の翼を持った人型兵器が現れた。

「な、何コレ!?」

「ルシフェル」

「! ル、ルシフェルって、神に叛乱を起こして、魔王になった堕天使!?」

「あ、人間界じゃそうなってるんだっけ。いや、ルシフェルってのは、神様が暇つぶしに造った天使兵器なんだけど、暴走してミカエルが半死半生になって止めたんだよね。あ、ちなみにモデルもミカエルで、後で肖像権の侵害って事で訴えたらしいよ。だから、魔王なんて全く関係なし」

「…………」

 シンジ(♀)は言葉が出なかった。

 自分達の間では、ルシフェルは神に最も寵愛を受けていた天使だったが、人間に嫉妬し、神に叛乱を起こして地に堕とされた天使だという物語だ。

 それが今、根底からこれでもかっていうぐらい粉々になって砕け散った。

 そういえば、先程も聖書の物語の殆どが嘘だと言っていたが、もし、シンジ(♂)がソレらを言えば、今まで謎とされていた聖書の物語が解明され、更には学者達の意見から、斜め――かなり垂直に近い形で――に向かって明かされるだろう。

「じゃ、とっとと行こうか」

 ギュッとシンジ(♀)の手を掴んで言うと、二人は光に包まれて、その場から消えた。

 次の瞬間、二人はエヴァのエントリープラグとは違う、不思議な空間に出た。

 そこは上下が真っ暗な空間で、周りは外の景色が映っている。

 そして、中央には水晶が浮かんでおり、シンジ(♂)がソレに手を当てると、ポゥッと淡く輝いた。

 


「何……アレ……?」

 突如、現れた黒い人型兵器。

 ミサトはスクリーンを見て、呆然と呟いた。

 呆然となっているのは彼女だけでなく、発令所全ての人間だった。

「MAGIは何て言ってるの!?」

 真っ先に正気に戻ったリツコの声で目が覚め、慌てて答えるのは、彼女の右腕である伊吹 マヤだった。

「MAGIは回答を保留しています!」

「黒い人型兵器! 動き出しました!」

 彼女に続いてマコトが言うと、皆がスクリーンに注目する。

 黒い機体は翼を大きく広げて飛び上がると、サキエルとエヴァの間に入り、サキエルと対峙する。

 すると、サキエルはビクッと身を竦ませ、後ずさった。

 ――使徒が……怯えている?――

 あり得ないと思いながらも、リツコは使徒が、あの黒い機体に怯えていると、そう考えた。

 サキエルは後ろに下がりながら、パイルを放つ。

 が、パイルは黒い機体に届く前にかき消された。

「ATフィールド!?」

 ミサトが思わず叫ぶ。

「いえ、違います! もっと別の……高出力のエネルギーを展開しています!」

 そして、次の瞬間、黒い機体は拳を突き出し、サキエルのコアを貫くと、そのまま上空へと飛んで行った。

 空で爆発するサキエル。

 黒煙の中から、黒い機体が何事も無かったかのように現れる。

「パターン青、消滅しました……」

「青葉君! あの機体とコンタクトは……!」

 使徒殲滅の報告を聞くと、通信系を担当している青葉 シゲルにミサトが言う。

 が、黒い機体は、足下から光を放ち、その姿を消した。

 発令所の人間は、ただ呆然と見送るだけだった。

 

「さて、こんなモンで良いか」

 一方、シンジ(♂)とシンジ(♀)は、ルシフェルから降りて兵装ビルの屋上で回収されていくエヴァを見つめていた。

「これから、どうしよう?」

 シンジ(♀)が不安げに呟く。

「ま、同一人物のよしみで、面倒は見たげるよ。住まいとかは、後にして……とりあえず名前だね。シンジじゃ同じだし、作者もいい加減、面倒だろうしさ、♂・♀付けるの」

「余計な事は言わなくて良いよ……」

 全く、その通りである。

「ん〜……キリアにすれば? キリア・アンカー」

「何で?」

「IKARIのアナグラム」

「………」

「女の名前だし、丁度良いでしょ?」

 有無を言わせぬシンジ(♂)の笑顔。シンジ(♀)は、この世界は自分の世界の過去じゃないし、女だし、何より向こうと言い合いになっても勝てないと判断し、シンジ(♀)はガクッと肩を落とした。

「いいよ、キリアで」

「じゃ、これからよろしくね、キリア」

 ニコッと笑って手を差し出すシンジ(♂)に、シンジ(♀)――キリアは恐る恐る握り返すのだった。







To be continued...


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