殺人鬼と天才と魔術師と

第四話 子を捨てた母親、親を捨てた殺人鬼+戯言遣いの喜劇

presented by sara様


さて、この度の戯言物語を開始しよう、定型文と化したお決まりの言い回しだがそのままに、そのままに始めよう、どうしようもない物語を、どうすることもないつまらない物語を、ただただ物語を、御伽噺を、戯言を。

始めよう。

再び拙い定められた物語を読み解こう、定められたお話を読み進めよう、遊戯のように。

“運命に流して頂いている”私達には定められた物語を読み進めることぐらいにしか出来ることは無い“定められた物語を読まして頂いている”読者には物語に介入する資格などはない、そもそも読者とは傍観者なのだから、“物語”という“世界”に何の縁も無い読者は“物語の世界”から隔絶された存在、枠から外れた存在、物語に干渉する余地は無い、それに読者も筆者も関係ない。

物語は干渉も受けずに続いていく、流れのままに、運命のままに、変わることなく、そんな物語に干渉は・・・・・・・・・・・出来るわけがない。

物語からの追放すらも生温い、完全に隔絶された傍観者。

いや、物語の登場人物でさえも物語の流れのままに、それは多少の紆余曲折はあるだろうが物語の流れのままに、大筋は定められた流れのままに流して頂くしかない、誰に、もしくは何に流されているのかは知らないが、知ることは出来ないが、そして知ってもどうすることも出来ないことだが。

いや、それでもある程度“それ”が何かと問われれば答えよう“概念”、“意志”、“宇宙意志”“宇宙の自浄能力”そのどれでもいい、そのどれでも幾分かは当て嵌まるだろうが、そのどれでも不十全、理解の助けにはなるだろうが、理解をさせてはくれないだろう。

正解を指している訳ではないのだから、解答に至るには少々困難。

そう言った“何か”が、決めて、定めてしまった物語の流れに逆らうことは出来ない、その出来ないということが“概念”、先程例に挙げた言葉の一つ、まぁ概念と言う言葉自体が曖昧の極みのようなものなのだろう、曖昧を規定するために存在するような言葉なのだから、曖昧を規定する以上は概念そのものが曖昧になるのは致し方ない。

物理法則にしてみてもそうだ、どれほどの研究が重ねられているかは知らないが物理法則は“概念的なものが多い”、これは既定の事実である、覆らない事実、事実科学が発達しても判然としていない物理法則は事の他に多い、特に法則の根源に近づけば近づくほどに。

例えば重力、g=9.8m/s2と定められているつまりは一秒間に9.8m/sまで加速されますという公式である(高校物理程度解説しますので大学レベルでの突っ込みは容赦してください)しこの数字はある程度の重力の影響力というのを判らせてくれる物理の初歩の公式ではあるが、では重力とは何だろう。

重力に関する数字は実験により観測され定義された、だからどうだと言う、それは只の実験結果であり解答とは程遠い、原理的な重力としての理論、重力は何故発生する、何故その数字が定義づけられる、何故それが成り立つ、どういう理屈で、原理で、力が働いて、その根源を問われて答えられる、明確な解答を答えられる人間は恐らく地球上にはいない、つまりは重力の定義は曖昧に定義付けられ、実験により“そういうモノ”と定義されてしまったもの、正確にはそう定義するしかなかったものである、それを“概念”とされる、では物語が“そうなるようになる”と“概念”で決められてしまっていれば“そうなる”しかない、登場人物がどれだけあがこうと、どれだけ物語の脱却を図ろうと、どれだけ物語の変革を望もうと、“物語に流して頂く”、それ以外に登場人物に出来ることなど無い、これが“物語”の概念、物語の登場人物が逆らえない概念、総ての存在が重力から逃れることが出来ないのと同じように物語が定められているという概念からは逃げられない。

物語は既に規定され定められ定義付けられ確立されている、それを破壊することは不可能。

そうである以上登場人物が、読者が物語を書き換えることは出来ないように、それと同様に流れは変わらない、ならば抵抗しようと抵抗するまいと決められた流れのままに流して頂くしかないだろう、どちらにしても流されてしまうのだから。

それでも書物のような書き記された物語ではない以上、それなりに物語に干渉する余地はある、その干渉にしても飽くまで小さな干渉しか出来ないが、大きな干渉は別の膨大な小さな干渉によって“物語”から“修正”されてしまう、物語が本来の流れに戻る為に、これが“自浄能力”、物語が本来の流れに戻ろうとする動き、故に大きな干渉は出来ない。

出来る干渉など物語を停滞させるか、緩慢にさせるか、加速させる、精々その程度だろうし本当に精々がその程度だ、物語に傷をつけるのではなく起きるべきことを遅くさせる、起きるべき事を加速させる、そして止める、だがいずれも、物語に記された事は起こる。

その程度にしか矮小な登場人物に出来るようなことはない、これ以上に出来ることはない。

だから出来ることを登場人物がするしか、いや登場人物に出来るのは物語を加速させること、時計の針を進めてやることだ、遅らせることには今は余り意味が無い、今登場人物が望んでいるのは物語の加速だ、加速、停滞でも緩慢でも停止でも逆行でも無い、物語の加速、あるべきことを早送りで送ること、早送りで進めること、物語に干渉し、物語に影響を与えて加速させる、記述を早くに速く進ませる、それが出来るのは誰だろう、そしてそれを望むのは誰だろう。

彼の“人類最悪”か、それとも“人類最強”、“戯言遣い”、“零崎一賊”、“死線の蒼”、“SEELE”誰だ、誰が物語を加速させる、加速させることを望む、加速させなければならないと望む、敵が望むのか、魑魅魍魎が望むのか、人間が望むのか、それはこれから戯言を弄して、戯言を用いて、戯言で語ろう、この下らない戯言物語にお付き合い願えるならば、物語を小さな干渉を受けた物語を語ろう。

この時この度この際に拙作での戯言で再び再度物語を戯けた物語を今一度繰り返さして頂こう、既に定められ規定され終末が用意された物語をお付き合い願おう。

では、拙い戯言物語にお付き合い願えるならば、ここからがこの度の始まりだ。

ここからが今回の惨劇喜劇殺戮劇の舞台の開演だ。




物語に加速を、起こるべき事象に対しての前倒しを。




京都、城咲、玖渚友が居を構える京都の高級住宅街、その中にも飛び切り目を引く三十四階建ての超高層マンション、京都という町を破壊的なまでに調和していない超高層新鋭マンション、この町全体から見れば完全に目立ちまくっている建物。

そのマンションの三十階からの五階層分を玖渚友は所有している、正確には最近までは最上部の二階層部分しか占有していなかったのだが、この度の余興の為に人を集める為、居住区として使用するに購入したのだが、これは買い過ぎではないだろうか。

友が独断で自分の私財を用いて買い占めた、勿論自分の金を使うのだから誰にも否はないのだがその使いようが凄まじいところである、使用した金額は五十億に近いかもしれないし、それを遥かに凌駕しているのかもしれない。

何せそのマンションの一部屋が軽く一億はするのだ、その三階層分と為ると如何程か。

因みにちらつかせた金額が金額だったのでかなりすんなりと手に入ったらしいが、そもそも買い占める必要があったのかはかなり疑問でもある、普通に友が以前から居住していた最上階の部分だけでもそれなりに人間を詰め込めるというか三十人は楽に詰め込める、というか余裕があるぐらいだ、何しろ高級マンションの一階層丸々、トンでもなく広い、やろうと思えば鬼ごっこが室内で出来てしまう、それを新たに三階層も買い足すとは。

恐るべき金持ち、しかも金銭感覚無し。

因みに友の買った時の台詞は。

「うにー。いっぱいここで住むんだったらこの部屋じゃあちょっと狭いかな。狭い思いをさせるのはちょっと申し訳ないね。じゃ買っちゃお。お客様は大切だしね」

一応客に対する気遣いから生じたのだろうが、経済感覚とかその他諸々が崩壊していると疑う時なのかもしれない、つーか疑うしかない、いや常人の経済感覚は期待の欠片もしていないが、買い方がどれだけの人数が来ることを想定しているのだろう、五階層分の部屋を合わせて優に百部屋は到達している、三十三階がフロアーぶち抜きで一階層丸々を玖渚謹製のスパコンに占有されているので一階層分では足りないと思ったのかもしれないが何故に三階層なのだろうか、蒼の少女にその手の常識を期待するのも少々、いや多分に無謀な考えなのかもしれないのだけど、常識と言う言葉からはかなりかけ離れた存在が彼女だから、金銭感覚に関しては人類最強よりも常識外れであるだろうし、と言うか金に関して彼女以上に常識はずれを探すのも少々に、少々に難しいだろう。

なお、流石の戯言遣いもこの暴挙と言える金の使い方に関しては呆れを通り越したらしいが、呆れはしたが苦言を呈することも無かったりする、呆れても忠告することが無意味だと判り切っていたということだろう、因みに彼はその中でも一番狭い部屋を選んで居住している、それでも彼が住んでいたアパートの部屋からしてみれば数倍の空間体積を保有しており、かなり心地のいい寝具が設えられていたのだがそのベッドのサイズがキングサイズが用意されていたのを部屋に入った時彼は何も考えなかったが。

そのことについて彼は後日かなり悩まされることになる、色々と。

ついでに三十三階はマッドの館として科学者達の居城になっているらしいのだが、誰がマッドなのかは論及せずとも判りそうなものである、彼女とか、彼女とか、彼女である。

因みにいーちゃんのお仕置き、または再調教とやらはこの階で行われたりしたのだが、内容はいーちゃんはマゾではないので最初はかなり苦痛だったりする。

最後のほうはどうなったか知らないが彼と彼に仕置きをなした二人のマッド科学者がその日徹夜をして運動行為、暴力行為を含むをしていたのはたしかである。

なお、調教の成果が出て戯言遣いが従順になったかというとそうでもないので、その辺はいーちゃんは変わらないってことなのだろう、いい意味でも悪い意味でも。

で、何やら面倒だからここに現在のところ居住している面子を、居候とも言うが書き出すと(一々出していたらその度に紹介をしなければならないので面倒なので)かなりの数に上る、無論友の言葉の通り数に関しては最近急増したのではあるが。

先ずは零崎一賊、この場の筆頭戦力集団でもある零崎双識、神識、舞織、人識の四名、他の零崎一賊は所在不明の為集められてはいない、唯一軋識は友が連絡をすれば収集できるが、友は軋識が零崎であることを知らないし、軋識も友が他の零崎と関係を持っていることを知らない。

友が知っている軋識は「街」、バッドカインド、式岸軋騎、友と同じく情報の天才、否、化け物“チーム”の一員、彼が既に物語に介入しているのか介入していないのかそれはまた後のお話。

無論双識辺りは数人の所在は知っているのだが今はまだ集合を掛けるほどでもないと判断している、零崎全員が揃うなど前代未聞を通り越して天外魔境な事態、そして現在は荒唐無稽な事態なれ“零崎”が殺されたわけではない、全員が動くほどでもない、全員が動く動機とは成り得ない、勿論、少しでも零崎を見縊るような、見誤るような事態が起これば他の零崎の介入も有り得ない訳でもないのだけれど、今はこの四人が居座っている。

ただ零崎が四人も揃うこと自体が驚天動地の異常事態なのだが。

次には伽藍の洞面子、蒼崎橙子、両儀式、黒桐幹也、鮮花、鮮花は後から橙子の判断で連れられて来た、正確には「お前の兄貴がここで式と一つ屋根の下で生活するようだがお前はどうする」と聞いただけらしいが、本音のところでは“SEELE”の連中との戦いが決まった辺りで身近なものは手元に置いておいたほうが安全だと判断したのだろう、考えて橙子の身内で一番危険度が高いのが鮮花だということだった、両儀式の実家はそういう心配から無縁な武術集団であるし、橙子の家族は妹、蒼崎青子こと“ミス・ブルー”しか存在していないし、橙子ならば彼女に関しては攫われようと人質になろうと見せしめに殺されようと殺した相手に感謝するだろうから青子がどうなろうと心底どうでもいい、“破壊に特化した魔法使い”この世で数少ない本当の魔法使い“ミス・ブルー”に何らかの危害を加えられるとも思ってはいないが何らかの迷惑ぐらいが妹に被っても気が晴れるから完全に放置の方向で置いている、殺してくれたら殺した相手にキスしに行くかもしれない、黒桐の実家のほうには結界をしつらえて伽藍の洞同様の到達が困難な状況にしているし感知結界をしつらえている、何かがあれば玖渚の部隊を即時派遣で事足りる、その他にも色々と手を売っている中々に準備万端、用意周到、敵の手段を想定し、最悪、最低、最劣を考える。

それを考えて鮮花は女子寮という環境が守りづらさを作っていたから呼び出したのだろう、彼女は魔術師の言葉に即座に応じた理由はわかり易過ぎるに過ぎるだろうが。

結界、術者本人が近くに居ない現状にしては結界の範囲が広すぎ、礼園女学院と言う彼女が通っている学校の特殊性もそれに拍車を掛けている、排他的過ぎる学校ではとっさの部隊派遣にも手間取りかねない。

因みに殺人鬼の連中には警戒せよとも連絡を出してはいないが、出す必要もない、刃を見せればそれより凶悪な斧を持って反撃するような連中だ、心配に足らない、そもそも零崎が何処にいるかなど調べるのも困難の極みなのだろうが、零崎を殺そうと思えば長距離から砲撃でもかますのが一番なのだが社会に溶け込んでいる殺人鬼のそれをやるわけにもいかないだろう。

無論他の最悪も想定している、このマンションに知人が集められているのも橙子がこのマンションに来た時に同様に辿り着けない、認知できない結界を張っている、このマンションに居る限りはどれだけこの建物が目立とうと人間の意識から削除される、不到達の城砦と化しているマンション、これにてこちらから攻めることは出来ても攻められることは無い、魔術師でないものから見ればまるで反則のような結界、無論逆説的に見れば魔術師、それなりのレベルの魔術師には到達されてしまうと言うことなのだが。

勿論偶然、いやこの世界には偶然と言う事象ではなく起こり得るべき必然は起こる、偶然のように誰かが、物語の主要な登場人物は何の労もなくこの場に辿り着けてしまうだろう、それでも物語に影響も落とせない有象無象の雑音は防げるといったものだ。

それだけでも結界の価値はある、煩わしい妨害に気を裂くことも無い、無論他の防衛措置を取っていないわけではないがこれは後ほど更に説明しよう。

そして更に他の登場人物は戯言遣い関連、これがやたらと多かったりするのだが、先ずは家主の玖渚友、そして友が関われば彼が関わる戯言遣いこといーちゃん、殆ど根無し草だが好奇心の具現春日井春日、何故か関わっている三好心視、戯言遣いが動けば彼女も動く紫木一姫、登場しないはずがない哀川潤、仕事を請け負った匂宮兄妹、そしてここから戯言遣いのアパート関連、戯言遣いの殺戮奴隷闇口崩子、元死神石凪萌太、剣術家浅野みいこ、謎の女七々見奈波、ハッスル爺さん隼荒唐丸、みいこさんの親友繋がりで鈴無音々、戯言遣いの大学関連で葵井巫女子、貴宮むいみ、傍迷惑な赤神のお嬢様の使い千賀ひかり、何故か最近戯言遣いに付き纏う絵本園木、そして特別参加、哀川潤により話に乗せられた石丸小唄に檻神からの萩原子荻、西条玉藻、物語の縁を持とうとした木賀峰約、本当に雑多に数多に種類の関係なく能力の関係なく力に関係なく、精一杯に大盤振る舞いに集めるだけ集めた数、集えるだけ集えた数、無論が無論安全を考慮されたものも居る、安全が確保できないから“誰かの痛みが嫌い”ないーちゃんが、自分が関わったことに誰かが傷つくのが大嫌いないーちゃんが傷ついてしまいそうな、敵の手に渡って材料にされそうな人間を集めたものも居る、それが誰かだとは各々が判断してくれて構いはしない、それでも雑多な顔触れだ、本来係わり合いが無いはずの面子の結集だ、本当に、本当に多種多様に集まった。

だがこの面子、人類最強や青いサヴァン、零崎人識と同じように暇つぶしで参加したものが少ないわけでもない、だって近年稀に見るビッグイベント、このイベントに関わらないで何に関わろうというのか、これほどの余興が行われるのに傍観者と成り果てて物語からの、イベントという名の物語から隔絶されるのを由としない面子などもはいて捨てるほど居るに決まっている、例えば石丸小唄、萩原子荻、木賀峰約、そして雇い主の興味を充足させるために派遣された千賀ひかり(彼女に関しては三姉妹の誰かが入れ替わっているかどうかの判別はつかないので彼女がひかりだとしているのは自分でひかりだと名乗っているからなのだが、ただ彼女達三姉妹はかなりの嘘吐き。因みに雇い主のほうはある無人島から出ようとしない為に本人は来ていない)。

それに自分が見ているところ見ていないところ関わっているところ関わっていないところで誰かが傷つくのが、自分が知っている誰かが傷つくのが嫌でたまらないものも関わっている、そういう種類の人間は関わるしかない、巻き込まれるしかない、だが巻き込まれた以上はそういう人間は更に関わってくる、自分が知っている誰かが傷つかない為に。

それが誰かが傷つくなら自分が傷つく浅野みいこ、自分が傷つくことで誰かが悲しむならば絶対に傷つかない闇口崩子、身内には甘すぎる哀川潤、友人と同じ気性を持つ説教好きの鈴無音々、そして安全の為に巻き込んでしまった張本人、誰かの痛みが判らないから、判らないものが怖いから自分が傷つく戯言遣い(アパート関連を巻き込んだのは完全にいーちゃんの意思、いーちゃん自身もどちらかと言うとこの度の余興には巻き込まれたと言う形が正しい)、そう言った誰かの為の人間もいる、無論これは誰かが傷つくことで自分が傷つくことが怖いのかもしれないが、それがどうしたというものである。

誰もが彼もが特定の誰かを傷つくのを厭うのは当たり前、誰かを心配するのは当たり前、そして誰かが傷つくくらいなら自分が傷ついたほうがマシ、そう考える人間だった、そういう考えしかもてない人間だっていてもいいだろう、それが賢くない生き方だったとしても、愚かな生き方なのかもしれないけれど、そういう生き方も悪くはないだろう。

まぁ、そういう人間が総勢にして二十と九名、盛大にして荘厳なる二十と九名、では二番煎じだがやらせて貰おうか、本当に二番煎じに過ぎないが、それでもやらせて貰おう。

零崎双識、殺人鬼一賊零崎一賊、二十人目の地獄、殺人鬼。
零崎人識、殺人鬼一賊零崎一賊、人間失格、殺人鬼。
零崎舞織、殺人鬼一賊零崎一賊、求愛者、殺人鬼。
零崎神識、殺人鬼一賊零崎一賊、殺戮貴、殺人鬼。
蒼崎橙子、伽藍の洞、人形師、魔術師。
両儀式、両儀家、魔眼使い、祓い屋。
黒桐幹也、伽藍の洞、ストーカー、伽藍の洞従業員。
黒桐鮮花、礼園女学院、不義者、魔術師。
玖渚友、玖渚機関、死線の蒼、天才。
春日井春日、動物学、常笑者、天才学者。
三好心視、生物解剖学、青田刈り、天才学者。
哀川潤、人類最強、人類最強の赤色、他多数、請負人。
匂宮兄妹、殺戮奇術匂宮雑技団、人喰い、殺し屋。
闇口崩子、殺戮奴隷闇口一族、献身者、暗殺者。
石凪萌太、死の運搬者石凪一族、離脱者、死神。
浅野みいこ、剣客、いーちゃんの恋人、フリーター。
隼荒唐丸、不明、不明、不明。
鈴無音々、高野山、バイオレンス鈴無、不明。
戯言遣い、鹿鳴館大学、欠陥製品、戯言遣い。
葵井巫女子、鹿鳴館大学、表裏一体、女子大生。
貴宮むいみ、鹿鳴館大学、友情至上、女子大生。
七々見奈波、浪士社大学、魔女のお姉さん、女子大生。
木賀峰約、高都大学、人類最悪の弟子、人類生物学助教授。
千賀ひかり、赤神財閥、嘘吐き、メイド。
絵本園木、医学、死にたがり、医者。
石丸小唄、無し、大泥棒、泥棒。
紫木一姫、澄百合学園、ジグザグ、女子高生。
萩原子荻、澄百合学園、策師、女子高生。
西条玉藻、澄百合学園、闇突、女子高生。

こういう端的な経歴を持った二十九人、これで異常も異常、異端も異端だ、どう集めればこういう二十九人が集まることやらチグハグバラバラにも事欠かない、余りの余りに種類が違いすぎる、人類最強から普通の女子大生に魔術師、殺人鬼、幅が広い、節操が無い、どう考えたらこれだけの種類が集まる、理解が不能と言われても無茶苦茶でもなんでもない、速く言えばこの面子の集合は理解不能の域に達している、それでも集まった二十と九人、これからも増えるかもしれないが現状は二十と九人。

そしてゲスト、この度のお話のゲスト、この節のお話のゲスト、お客様、余分登場人物、主力登場人物、さて果てどちらか、そのゲスト『達』はどちらか、まぁ『達』なのだから、主力も余分もどちらも居てもさほどの問題は幾許も無い、複数ならばそれぞれにそれぞれにどちらに転ぶ可能性を秘めている。

ゲストは三名、赤木リツコ、綾波レイ、碇ユイ。

この化け物の巣窟のようなマンションに普遍から外れてしまっているのか普遍の中に納まっているのかどちらかの判別のつけようなど欠片もないが、先ずはこうなった成り行きから語るとしよう、どうにも稚拙でありきたりな物語に過ぎないのだろうけど。





暗闇の空間で、漆黒の空間で、黒しかない空間で、零崎と顔合わせをした老人は驚きを顔に貼り付けていた、無論それはしょうがない、どれほどの人物だろう驚きを隠すことなどできようはずもない、死人が目の前に立っていたほうがまだましかもしれない、死神が目の前で鎌を振り上げているほうが心理的には楽なのかもしれない、人類最強が宣戦布告を自分に下したことのほうが遥かにましかもしれない、未だ彼女は宣戦布告を告げては居ないが彼女は判っている、本来戦線布告を出すのは自分ではないと、肝心要のところで自分はタイトルロールに相応しくないと判っている、人類最強をもってそれが判っている、誰が宣戦布告を行うべきということを、請負人である自分ではなく誰が宣戦布告を行うかを。

「と、言うわけだ。ご老体。あんたが招いた最悪ではないが、あんたが関わろうと思った最悪ではないだろうが関わっちまったぜ、最悪と。あんたは敵対しちまった、最悪と」

ホログラフでありながら如実に老人が狼狽しているのを見て取ったのか潤が老人に語りかける、その表情は勿論皮肉を張り付かせた笑みを浮かべていたのだが、楽しくて堪らないとも受け取れる笑みを。

そして潤の言葉を継ぐのは喧嘩を売られた当人、零崎神識、宣戦布告を執り行うには十全すぎる当事者、外道の、駄人間の息子、零崎の末弟、殺人鬼、家族を愛する殺人鬼、喧嘩を売られた殺人鬼、この度、この時、この折に機会を辞して戦線を布告する計画実行者。

その少年が、若き幼き殺人鬼が言葉を紡ぐ、敵だと宣告した時の頭を垂れた頭は既に戻され、その顔に浮かべる表情は・・・・・・・・・・・・何もなかった、何も写っていなかった、これから殺し合いの宣告を、零崎としての末路を布告しようというのに何も映し出してはいない表情に瞳、幼き殺人鬼にとって殺戮は当たり前、自分に牙剥く存在を存在ごと殺し尽くすのは当然、ならば表情を変える必要などはないということだろうか、それが世界を相手にするということが判っていても、それが己よりも強大な存在だと判っていても、それでも揺るぎはしない。

今まで数百回に分けていた殺戮を一度に行うだけですよ、とでも言いたげな無表情、何でもないことを何の意気込みなく語るような無表情、無感動、無情動で言葉を吐き出す。

「SEELEのご老体。この度の彼方の意思の有無に関わらないご招待痛み入ります。我々零崎、零崎を含めた魑魅魍魎、敵となって彼方方のご招待を受け入れましょう、私達の敵となる彼方方の敵となりましょう。零崎としてこれ以後敵として接することを誓いましょう。
今日この時、今この時間において彼方方は零崎の敵、我々の敵それ以上でもそれ以下でもない敵として扱います。これからは貴方方の誰かを何時如何なる時殺戮するやも知れないことを誓います。ただ、今この場において、今この時においては彼方の兵隊に対してのこれ以上の殺戮は約定により止めさせて頂きますが、次の時には彼方方が対象です。ここの有象無象とは違いすぎる彼方方に対して我々は一片の容赦なく、博愛なく、感情なく殺戮させていただきます。ご老体。あなた自身の首にも十分にご注意を。油断すれば私の刃で彼方の首を落として差し上げます、無論注意されても零崎の敵になった以上は殺させていただきます。どれほど不可能でも零崎は殺すと決めた以上は殺します」

その言葉を聴いた老人の顔はどういうものだったろうか、無論普通の老人であったら零崎の存在そのものを知らないのだろうが、仮定として普通の老人だったら、比喩としては当てにならないし幾分普通の老人という枠からは外れているが電柱だったら失禁でもしてしまうのかもしれない、そしてその後は何の考えもなく逃げ惑うか、それとも他の愚作をもってあたるか、まぁ、まともな対処は期待できないのは確実だろう。

だが相手は老獪なる老人、世界の一柱と為れるほどの強大な老人、驚いてばかりも狼狽してばかりもいない、いや出来ない、その程度の老人であるならば誰もこの老人の支配など受け付けない、誰もこの老人を恐れない、零崎は老人会よりもこの老人個人を恐れて人類最強に仕事を依頼した、この程度で恐れおののくような可愛らしい老人であるわけが無い、これも確定事項確定未来。

実質的に老人会を仕切り運営し欧州に君臨する覇者キール・ローレンツ、その老人だけを畏怖の対象と指定してこの場に招き、殺し合いの宣言を下したのだから。

零崎が、人類最強が、その他諸々がこの老人は老獪で妖怪だと認定した上で。

そんな存在がそれ程可愛く、彼らの期待を下回るような存在なのだろうか、人類最強が敵にするに相応しいと思えるような相手が、敵が零崎だとわかった、“たったそれだけ”のことで狼狽し恐怖し逃げ惑い、命乞いの台詞を吐くような期待はずれの存在であっていいはずが無い。

無論それは人類最強達の目が節穴だったならその限りではないが、その懸念は必要ないだろうよ、そんな懸念が必要なほどこの老爺は甘くはないだろうよ。

「最悪か」

老人は呟く様にその言葉を吐き出しバイザーに隠れた眼光を神識に向ける、先程の狼狽は既に其処には無く、目の前にいる最悪に目を逸らさずに正面から迎え撃つように、威風堂々と、最悪と口にし、最悪になれない最悪の具現存在、零崎一賊の真正面から視線を交わす。

「久方振りに直面する事態で少々狼狽したが、最悪。その宣言を此方から発せさせて貰おう。我ら、いや、この場に我しかいないことを鑑みるに我を相手にしておるのだろう。では我から戦いの宣言を出させて貰おう。そしてこれ以後、最悪。我の力を持って貴様らを殺戮すると宣言しよう。我は貴様のような最悪等は踏破して進む覚悟など当に出来ておる、その障害の一つになるならば我の総てをもって是にあたろう。確かに予想はしていない障害ではあるが、退けられないほどの最悪とも我は思うてはおらん。貴様らにとって我が最悪になるように。最悪のそのまた上の最悪となり我の望む未来を作り上げよう。障害など踏み潰して。我の大願成就させてみせようぞ」

やはりこうなる。

脅されて震えているような臆病者ではないだろう、欲望に塗れた醜悪な存在でもないだろう、まして死を恐れるだけの生き汚いものでもないだろう、それでは世界の頂点には付けはしない、経済力を持っているだけでは何も出来ない、そもそもその経済を維持し蓄える力が必要とされる、政治力もそれしかり、まして世界を手中に収めようとしかけている老人、まさかそれだけの筈が無い、たったそれだけで世界が平伏すほど世界は甘くない、そのような矮小な登場人物など物語が赦さない、老人は期待通りに老獪、老人は最悪に対する宣戦布告に対して宣戦布告、正に二人の臆病者と比べて器が違う。

比べるだけこの傲慢にして偉大なる老人には失礼の極みだろうが、そもそも素材からして違うものを同列に並べることなど出来るはずも無いのだから、構成要素の違いはかなりあるだろう、質、量、その他諸々において、差が無いほうがおかしい。

高々町のチンピラ同然の悪党と、大学助教授、比べるほうが間違っている、他人の力による成り上がりと、数十年に渡る欧州支配とそれを継続させた手腕、他の世界と暗闘してなを領地を侵食させなかった烈腕、矮小な悪党はこの老人に対して何を考えていたか知りはしないが、存在の次元からして違う、例えこの老人は零崎が目の前にその目の前にいようとも同じ言葉を吐いたに違いない、最悪を前にしても狼狽はして見せても醜態までは決して見せまい、その最後の瞬間が迫ろうとも、その最後の瞬間まで戦う意思は捨てないだろう、その最後の一瞬まで何かを仕掛けてくるだろう。

この老人が今の今まで歩いた道は決して甘くない、決して楽ではない、決してその椅子に胡坐をかいていたわけではない、胡坐をかいていてはその場所に居続けるのは無理なのだから、無能ならば即座に引き摺り下ろされる。

無論お飾りでその場所にいるわけでもない、そもそもそんな存在は敵としては不十全。

敵として存在しているならば、駄人間が敵としては相手にすらならないならば。

零崎達が敵として考えた存在、仮想敵なれ、零崎としてはこの仮想敵の実態はどういう評価を頂けるのか、無論他の面子、人類最強や、戯言遣い、人喰い、死線の蒼、彼等は彼等で評価を下しているには違いないが、仮想においてはこの老人はかなりの評価を頂いていた、故にこれだけの面子が必要と判断されたのだ。

そして評価は下される、哄笑として、是が評価と判断するには付き合いの長さが要求されるが、前にも出たように狂ったような笑い声、何処までも続くような笑い声。

先程の無表情を今までの無情動のその一切を金繰り捨てての感情表現という名の返答。

それは敵として認めるという笑い声、自分達に対する宣戦布告に対する答え、それを哂うという行為にあらわして体現している。

「フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ。フフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ。フフフフフフフフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!!!!!!!!!!」

笑い、哂い、わらい、ワライだした神識、先程までの沈着冷静は其処には無い、ただ声を張り上げて哄笑する、まるで、まるで、まるで狂ったように、零崎とは別の意味で狂ったように、精一杯、全身全霊、乾坤一擲、正に今の行動総てを笑いに集中させているように。

この笑い声に身内は慣れているのか、それとも何が起ころうとそれを受け流す器量があるのか、まぁ、その両方を兼ね揃えていると見たほうが確実なのだろう、まったくの動揺を見せず、唯一双識のみが、またか、と言う感じに視線を向けただけであったりする表情は哂っているような気がしないでもない、他の連中は一人を残して笑っていたりするし、残りの一人は呆れていた。

臆病者二人においては、突然の笑いに電柱は畏怖を貼り付けて自分が生贄にするはずだった少年に恐々と視線を向け、外道のほうはデフォルトの表情、サングラスの奥にはやはり生贄にしようといていた息子の姿に恐れを抱いたようだが。

まぁ、この場で突然笑い出したら怖いかもしれないがそれを露にしない努力も出来ないほどにこの二人は矮小、矮小すぎる、ここにいるのが不自然なぐらいに矮小、ここにいるのが罪悪なくらいに矮小、虚勢も張れないほどに矮小。

ここにいて不純物、不要物、ここにいるに余りに相応しくない、相応しい存在となりたいならば・・・・・・・・・・・いやそれは有り得ない、この二人の臆病者がこの先未来、この場に相応しくなるような事態など、考えるまでも無い、この戦い、この殺し合い、その最中でこの二人の臆病者が、高いところで怯えを隠しながら、他者の力を借りてのみしか戦うことも出来ない臆病者には此度の戦いの舞台に立とうとは、物語が許しはしない。

無論、自分の器の大きさになど気付くことも無く、二人の臆病者は、この先も愚かに、愚かに、加えて愚かに何かをやらかしてはくれるかもしれないが、それはまた後日のお話だ。

そして老人、この場で一番動じなかった老人、身内の臆病者は比べるに値せず、最悪の身内よりも動じない老人、少年を見据えて。

「ふむ。中々に面白い小僧だ。我の言葉がそれなりに愉快か、最悪の小僧。何が愉快なのか幾つか思いは付くが。その理解が及ぼうと及ぶまいと変わりあるまい。相互の理解などは必要あるまい。これは戦争ではなくただの殺し合いなのだから、相互の理解など邪魔なだけだろう。それでは我の敵、其方と此方の宣戦布告。終わったのならばこれにて我は退場させてもらう。貴様等という障害の為に我も安穏と構えていくわけにもいかなくなったのでな。次に見える時どちらがどうなっておるかを楽しみに、我の計画を推し進めさせてもらおう。最悪の零崎、我を殺せるものなら殺してもらおう。首を洗って待っておる。殺せるものなら殺してみよ。殺し名三位零崎一賊」

それだけを言って、退場した。

零崎に対して己の首を洗って待っているという自殺志願のような言葉を吐いて、口元に笑みさえ浮かべ、大胆不敵に老獪な妖怪は、此方の敵対を受け入れた、殺せるものなら殺してみよというリップサービスまで付け加えて、まったく面白い限りの老人。





そして次の哄笑が湧き上がる、今度は先程より激しく愉快に独特に自身の感情を表すように、表す為に、哂いに、言葉に、行動にあらわす黒の虐殺者、殺しの達人、殺戮請負人。

「ギャハハハハハハハハハッッ!!!!!!!!中々に愉快な寸劇じゃねぇか。僕の人生でもこれ程気の満ちた寸劇はちょっとねぇ、見ているだけでこれだけ昂ぶる寸劇も稀にもねぇ。しかも、しかもだぜ僕自身が狐さん風に言うとまだ登場してねぇ。関わっている、縁があるけど廻りが来ない。つまりはだ、まだ僕の番じゃねぇってことかい、この僕が。ギャハハハハハハハ!!!!それなのに楽しめる寸劇に出会えるとは。しかものしかもだ人類最強、あの爺、零崎を相手にして最悪の零崎を相手にして掛かって来いかよ。あれは僕でも言い辛いぜ、あんたも言い辛いだろう人類最強。あんたは僕には掛かって来いと言えても零崎には掛かって来いなんて言えやしねぇ。あの爺その最悪に掛かって来いなんて言いやがった。馬鹿と傲慢と自信が総動員ってやつだ。あれが僕等の敵か、成る程、成る程、僕を呼び出したのは零崎がこの僕を呼び出したのは何も酔狂でもなんでもなく必要だから呼び出したってのがよくわかったぜぇ!!あの老人は確かに零崎のみじゃあ手が余る。殺戮しか出来ねえ零崎にはちっと難解な相手に違いない。そして零崎だけに独占させるのも勿体無い。こりゃ俄然としてやる気が出てきたぜぇ」

出夢の言葉、正しくその通り、誰が誰であろうと、何が何であろうと、老人は零崎に零崎に掛かって来いと言ってのけた、戦いを、殺し合いを、殺戮を示し合わせた上で更に掛かって来い、殺せるものなら殺してみろ、それだけは馬鹿と傲慢と自信を総動員するとしても中々に言えるものでもないだろう。

全身を掻き抱くように腕を回して、笑いと言葉を総動員、本当に愉快、神識の愉快と同一かは知りようも無いが、知るまでも無いだろうが、その表情が物語るのは簡単に過ぎる。

その興奮に、その激情に、その喜悦に、その総てが表情に表れている。

恐らくは嬉しいのだろう、自分の敵が自分の標的が、自分と対するものが。

その行動を示してくれたこと、戦う意志をこれ以上無いぐらいに示されたこと、それは人類最強にしても同じことだろう、退屈を癒す、自身の力を試す機会、絶好の機会を示されたということだ、これにその表情に表れるがない交ぜの歓喜。

自身の力を使えない二人の共通の喜悦、相手はそれなりを用意してくれる、此方が是から何もせずとも自分たちに劣るか匹敵するか判りはしないが用意してくれる。

戦いの舞台を。

戦いの相手を。

競り合いの、殺し合いの、何から何まで戯言の戦いを用意してくれる、それだけで十分。





そして場所は移り、時間は移り、今は帰りのヘリの中、そのヘリの中には十四人に非ず。

十と六人、最初に愚者の楽園に進撃した数とは明らかに違う、因みに車はヘリに積み込んである、大型ヘリなので問題ないのだが、このヘリを何処で調達したかは疑問の限りだ、ついでに言うと行きのパイロットは理澄、何気に運転関連はかなりこなす天真爛漫な女の子、なお彼女が運転すると判った時戯言使いは全力で逃げ出そうとしたという逸話もあるが、是は姫ちゃんにより捕縛されて連行されている。

そのときの会話を抜粋すると。

「師匠に対して何をするんだい、姫ちゃん」

因みにいーちゃんは緊縛されています、こう書くと卑猥ですが、単純に糸という糸で体を雁字搦めに絡められ拘束されているだけ。

「師匠は諦めて乗っちゃってください、逃げ出す気持ちが判らないでも無い様な気もするですが、諦めて下さいです、師匠。人間なんとかなります、なるようになるですよ。危険に飛び込んでこそ価値があるです。多分落ちないですし。それに姫ちゃんも乗るですから師匠も覚悟を決めてください」

「必要ない危険にわざわざ飛び込むような必要は無いと僕は思うんだけど。ねぇ。それになんで多分」

「理澄ちゃんパイロットの免許もってないそうです。でも虎穴に入らずは虎児を得ず。乗っちゃえば何とかなるもんですよ」

明らかに何かが間違っている、特に乗り物に乗るに関しては、そんな戯言遣いの心の言葉など誰も聞くものが無く、まぁ、他に誰かが運転出来る訳でもないので任せるしかなかったのだが、中々に爽快な空の旅だったりする、落ちたりそんな危険は無く、大型ヘリだから着陸の時に警備をしていた連中の持っていた豆鉄砲程度ではなんら影響も無かったのだし。

で、帰りのパイロットは哀川潤だった、彼女は彼女でパイロットの免許など持ってもいなかったが彼女が操縦するならばいーちゃんも否は無い、彼女は本当に万能家なのだから、彼女は本当に何でもこなす請負人、ペンタゴンから機密文書と盗み出すことから、名探偵、果ては犬の散歩まで彼女と折り合いがつけば仕事として請け負う、それ故に何でもこなす、何でも出来る、でも出来なさそうなものもありそうな気もするが・・・・・・・請負業ではないだろうけど、妻とか・・・・・・・・・・・・・・・・・想像がつかん。

無理矢理想像を廻らしてみると、因みに相手はつまりは旦那だがをいーちゃんでやってみる、かなり無理があるような気がしないでもないがやってみよう。

因みに何でいーちゃんかというと零崎ではやりようが無いし、他の男達も引っ張ってくると無理矢理過ぎる、消去法でいーちゃんしか居ないのだ。

≪想像≫

「いーたん。朝飯プリーズ。あたし好みに作ってくれるなら何でもいい。因みに今日あたしはお休みだ。久々のフリーだぜ。ふふふふっ、一日中いーちゃんとラブラブしてあげちゃうよ、えっちぃこともお望みならたっぷりしてあげちゃうよー、ブイブイ(玖渚調)。と言うわけで朝飯プリーズ」

無意味に大文字。

半裸、つーか下着姿同然、勿論赤を身につけベッドで上半身を起こした女性が此方はちゃんと寝巻きを着ているいーたんに抱き付きつつ朝餉を所望している、絵にはなる美貌の寝姿、しかも起き抜けの姿、しかもそれを相手に晒す、晒されているいーたんはうらやましい限り、その姿で甘えられるいーたんは果報者だが、いーたんの表情は芳しくない。

まぁ、夫婦ならばその姿を見て毎朝クルものがあるというのもそれはそれで異常だし、そもそもにおいて稀有である、それにいーたん淡白だし(多分)。

で、いーたんの不機嫌、朝っぱらから完璧な声帯模写を駆使してモノマネかまされたのが原因か、それ以外の要因があるのか、因みに二人の苗字は哀川というのがデフォルトでどうぞ、だっていーたん苗字も本名も不明なのだもの。

「潤」

一応女房の名前を呟くいーたん、因みにかなりの姉さん女房のはずではあるが夫婦なので当然のごとく呼び捨てである、まぁ夫婦になってまでさん付けしていたらおかしいが、声の調子にかなりの不満が詰め込まれている、何の不満が詰め込まれているのかは知らないが、その声の変化に気付かない奥さんでもない、何気に読心術まで使える人類最強、声から推測することなど容易過ぎる。

まぁ、彼女においては余程深刻でなければ気付いても真面目な方向に行くとは限らないものだが、因みに飽くまでこのシーンはこの二人が夫婦になったと仮定しての空論。

勿論彼女は真面目な方向には走ることは無かった、というか走ったら彼女じゃないような気がする、それ程いーたんもシリアスな表情をしているわけでもないし。

故に潤はいーたんに頬擦りしつつ、まるで猫がじゃれるような仕草で体をこすり付けている、これが甘えなのだったらかなり可愛いんじゃないか、人類最強。

「うん、何だ。いーたん、あたしとえっちぃことしたくないってか。それはかなりあたしに対しての無礼極まりない非礼だぞ。こんな美人妻を捕まえておいてしたくないだなんて罪悪の極み、それにセックスレスは不和の要因の一つだぞいーたん。お姉さん悲しい、あたしに飽きたなんて。それともまさか他でしていると。そんな甲斐性があるとは全くこれっぽっちも思わないが。・・・・・・・・そんな、不倫、あのいっくんに限って≪不倫、でもお相手は友人(宿敵)。しかも泥棒、石丸小唄。苛まれる私、そこから繰り広げられる愛憎劇。その果てには手を血で濡らした私≫み・た・い・な!!!!・・・・・・・因みに不倫相手がいるとして誰かな、いーたん。候補でもいいぞ、いるんだろ候補ぐらい。本当に小唄か、まぁ小唄ならば今から殺しに行って来る感じだな。ん、不倫じゃない。なら犯罪か快楽優先に走ったのなら少々問題があるとあたしは思うぞ、妻としては存在自体少し問題があるような気がしないでもない崩子に奴隷奉仕プレイ、それとも一姫と緊縛プレイ、奇をてらって子萩と言葉責めプレイ。違うか、その辺はたまにあたしが楽しませてやっているし。今更いーたんがそっちに走るともねぇ、あたし以上にその辺りの小娘が快楽を与えられるとも思えねぇし。それじゃ春日井春日と痴女プレイ、それとも三好心視との教師プレイ、絵本園木との女医プレイ、それとも女子大生友達との3P、理澄とのSMプレイ、出夢とのもう何つーか表現できないプレイか?」

また、モノマネを間に挟む人妻人類最強、今度は葵井巫女子ちゃんだし、それに何が何でも自分の旦那を不貞の輩にしたいようだ、妻としてどうだろう人類最強、そして何でネタを挟みたがる声帯模写の達人、因みに一応石丸小唄は友人ですか。

「自分の旦那をどうしても浮気魔か性犯罪者にしたいのか」

黄昏たように潤に突っ込むいーたん、実際この夫婦が成立したら主導権がいーたんに移ることは絶対なさそうな気がする、いーたんの戯言次第ではそれなりに潤でも丸め込めるかもしれないが、やはり人類最強を戯言で謀り続けるのは無理があるだろう、夫婦間で、戯言で謀るというのもかなり問題があるが、因みに男はある程度は女に縛られていたほうがいいそうです、特に女が年上の良い女の場合は。

潤もいーたんの突っ込みに応じたのか、体を伸ばすように、豊満な乳が晒されるがそれに構うような女でもない、見ているのは旦那のいーたんだけだし、夫婦になって構うものでもない、その辺は人それぞれだろうが。

大体その半裸で抱きついているのである、思いっきりセックスアピールをしえいるとも言える、いーたんがこのままナニをしようとしても文句は言わないだろうし。

「うんにゃ、いーたんはあたしにぞっこんだろー。それに浮気の一つや二つを認められないほど狭い了見をあたしはしていないよっと。でだ、なんで朝から気分悪そうな顔してんだよ、つい苛めたくなっちまうじゃないか。あたしの可愛いいーたん。悩みがあるなら話せよ、夫婦だし。おっ、こう言うとあたしも奥さんみたいだな。つーことで話せ、マイダーリン。それとも朝から体で慰めてほしいか」

みたいではなく、この仮定の中では奥さんだ人類最強、ついでにその回答はいーたんの突っ込みに対しての返答にはなっていない、変態疑惑をまるで払拭していない、ついでに激しくダーリンと言う言葉が似合わない気がする、その点に関しては正にどうでもいいことなのだけれど、なんとなく指摘してみたかったと言うことで。

「現状に対する不満を表情と声に表して訴えてみようかと。話すのはここまで。僕の不満はそっと心に秘めて波風立てることなく夫婦生活を送ろうと思っているので。気にしないで潤」

さり気に毒を吐いていないか、いーたん、因みに不満って何?

ついでにその言い回しは気にしろと言っている、勿論そのつもりで言っているのだろうが、そのつもりが無いのならば最初から言葉にしなくても同じ事なのだから、言葉にして言い表した時点で気にしろと声高に叫んでいる、無論そんなことを相手が悟るのはわかっていっているのが戯言遣いだろうけど。

でも、人類最強に対する不満、その傍若無人な性格、それとも苛めっ子気質、その辺は結婚以前からわかっていそうなものだから不満には成り得ないと思うのだし、他には本日一晩中抱き枕とされたことか、この点に関しては不満を漏らすのならば殺したい気分になりそうだがそれも違うだろう、他人に愛されたいいーたんが愛妻の甘えを拒むことはないだろう。

他にありそうな、考えると彼女と夫婦生活を送るとなると、そこはかしこに不満が表れそうな気がしないでもないが。

「んー、んー、んーんーんー。いーたんはあたしとの結婚生活に不満を感じているからそれを表情に表して抗議してみようと言うわけだ。回りくどいし判りにくい、もっとストレートに不満を表現できないもんか。そこんとこはっきり言わないと何も解決しないぜ。あたしの読心術は本当に心が読めるわけじゃねーって前に言ったろ。それにしてもいーたんが不満を感じているだなんて。いーたんとの生活に不満を覚えていないのが私なの。でも覚えているのが、いーたんなの。気付けなかったのが私。問題がこの状態なの、不満がある状態はいけないの。いーたんの不満を聞いて解消するのがこの問題の解決なの。で、解決に努力するのが私なの。解決すれば万事が良い事なの。そうなれば幸せになれるのが私達なの(水倉りすか風、詳細は戯言シリーズの作者の別シリーズ魔法少女りすかより)。何が不満だ、是だけの美貌の美人の器量良しを娶って不満を言う男はそれだけで世界にとって万死に値する喧嘩を売っているたぁ思うが話は聞いてやんよ。ほら、だーりん」

また、ネタかよ、しかもクロスしてない作品から。

まぁ、いい加減に長くなってきたから話を進めるが、つまりはいーたんの不満。

「結婚してから家事は等分にするとか言っていたとこの拙い戯言遣いは記憶していたんですが、まぁこのつたない戯言遣いの記憶力なんてカケラも当てになりませんよ。人類最強の請負人にて僕の奥さん。何でそれなのに毎日毎日、加えてもう一つ毎日。朝の家事は総て僕がやっているんだろうか。というか潤、昼と夕飯の用意以外何もしないし。僕は主夫になったつもりはないよ。そりゃ収入は完全に負けてるけど」

つまりは結婚前の約束が反故されて、殆どの家の家事を自分で賄っていると、それに対しての不満があると、でもそれは朝のベッドの上で言うものでもないと思うのだが。

そこのところはどうなのだろう、戯言遣い、聞いてもしょうがないことなのだろうけど。

「つまり、あたしにもっと家事をしろと」

潤が目をパチクリさせて、どうやら自覚症状が無かったらしい、こまごまと家事にいそしむ彼女というのもまるで想像がつかないが。

「ご飯は美味しいから文句は言わないけれど、もう少し洗濯とか、潤の下着を洗うのは流石にまだ照れるし」

やけに生活感が滲み出た愚痴であるなぁ、前振りが何だったかと言いたいぐらいに。

「うーん、やってなかったなぁ。そう言えば。そっか、いーたんがやってたんだなぁ。あたしが仕事で家にいないことが多いから忘れてた。まぁ、思い出すと居ててもやってなかったなぁ。一箇所にこれほど定住したこともついぞ無かった事だし」

あんたは女房が家事してくれている恩恵を忘れている何もしない駄目亭主ですか、誰がやっていたのか指摘されないと気付かないですか。

「でもさ、いーたん。あたしが洗濯したり、それ取り込んで畳んだりとそんな行動が、ほんの一つまみでも似合うと思うかい、そりゃやって出来ないわけじゃないだろうけど。あたしに出来ないことなんて無いんだし。なんでも万全にこなすのがあたしだが。キャラってもんがある。それを超えるのはどうかと思うんだが。それに、いーたんだと主夫はまり役だし」

家事をさせようといういーたんの考え自体が無謀なのかもしれない。

≪想像終了≫

微妙に結婚生活が成立しそうになってしまった、但し彼女が主婦ではなく彼が主夫という状態ではあるが、まぁそれが悪いとは言わない。

大体においていーたん(彼もそれなりに天才の部類なのだろうけど)が働くよりは人類最強が働いたほうが実入りが多いのは絶対のことだろう、彼女の報酬はとんでもない金額に上ることが間々ある、勿論彼女しかその依頼を達成出来ない上でのその報酬となるわけなのだが。

(因みに作者は武闘派(道場系)のくせにインドアの生活を愛するし、昔のバイトと実生活(家の家事を担っているのは作者です、ちなみに四人家族)で家事能力があるので最近自分は外で働かないで嫁さんに稼いでもらったらいいかなぁとか思い出している駄目人間です、社会性低いし、体力有る割りに病気には弱いし、それに在宅でも収入ある仕事(?)は幾らでもあることだし、それなら主夫でもいいかなっと(バイト先の会社のお姉さん方に何故か褒められました、特に既婚者、しかも高所得者っぽい人には特に。)。)





で、話は戻って帰りのヘリの中、人類最強はパイロットシートに座り操縦している、やはりと言うか、流石と言うかその操縦に危なげなんてものは欠片も無い、因みにネルフの連中は彼等を追おうとはせず、追尾くらいは掛けようとしているのかもしれないが目立った追跡は掛けられていない、掛けてすらいないと考えるべきかもしれないが。

無論追撃も掛けられてはいない、完全に悠々自適に敵地を後にして帰りの途についている。

これに関しては特に何かしたわけでもない、何かを為したわけでもない、互いの宣戦布告が終わり、この愚者の楽園の王様に本日この時この際にはどんな言うことでも聞かせるという言葉のままに彼等は好き勝手にやって帰りの途に着いていた。

実際、他のエヴァケージで何かをしていた連中の“悪戯”についても、それをしていいと彼等は馬鹿に伺ったわけでも命じたわけでもない、どんな言うことでも聞かせるとしているのだからそもそも伺いを立てる必要など欠片も無い、事後承諾でも未承諾でもまるで問題がないだろう。

そして様々な悪戯、つまりは嫌がらせを残して帰路についている。

“嫌がらせ”などは後から気がついてもらったほうがいいだろう“嫌がらせ”なんてものは気づかないくらいの事をして、後で気付かしてこその醍醐味だ、跡で地団駄を踏んでいるのをほくそえむのが醍醐味、性質の悪い喜びかもしれないがそういうものだ。

無論、“嫌がらせ”は一つや二つではなく、数多に用意し、それこそすぐさま気付くものから後々まで気付きそうに無いものから様々だ、無論被害も大なり小なりと様々の異種模様。

実際MAGI支配でさえも嫌がらせから派生した手段に過ぎないのだから、彼等のネルフに対する対応は適当の適当だ、無論その適当にも色々あるのだろうが。

彼らの場合は選択が適当、趣向を凝らして、趣向を凝らさずに、思いつくまま適当に実行する、それでもその適当には最悪を想定している、愚者の楽園相手に最悪想定というのもそもそも難しいが、それでも最低想定をした上での“嫌がらせ”の数、その数十をくだらない、大から小まで本当に数えると百に至るかもしれない。

で、現在同乗している二人も嫌がらせ、これは判り易過ぎる嫌がらせのほうだが、この二人がいなくなればアチラさんは相当に困り果てるだろうという観点から、神識が使えない現状での唯一戦力であるファーストチルドレンとネルフのシンクタンクの一、赤城リツコ、いなくなれば困るだろう、老人がではなく臆病者の二人が、因みにこの嫌がらせは考えていたものではなく思いついただけである、その時、その場所で。

無論、嫌がらせである以上は臆病者二人はその事実を知ってはいない。

命は永らえさせてやったのだ、命以外の全てを奪われても文句は言えない、本日一日は命と引き換えに何でも言うことを聞くといった言質はとってある、無論その言質を無視するようならば、命という対価を払って貰うだけの事、老人との対決が決まった以上、臆病者二人の生死などどうでもいい、軽いスパイスの一つが駄目になろうとどうでもいい。

それが彼等の偽らざるところ、故に傍若無人に傲岸不遜に元々がそういう連中だけど、更にそういう風に、そういう感じに場を後にしたものだ。

既に敵対対象としてではなく虐殺対象にしか成り得ない連中にそれ程の注意を振り撒くほどに彼等の意識は無限ではない、戦う相手ではなく踏み躙る相手にしか成り得ない連中には、牙を剥いた時に対応すればいい。

但し何れは滅びて貰うのだけど、今日本日の殺戮を止めただけ、零崎に一度でも敵対を見せた以上は・・・・・・・・・・・・・未来は明らかだ。





立ち去る前の司令室、神識はこう言って後にした、それは何の変哲も無い、最後に言い残していることがあるから適当に口にしたとでも言いたげな、それこそサラリと口を滑らすような感じで出た言葉、だが臆病者二人にとってはどういう風に受け止められてしまう言葉だろう、どのような感情を沸き起こしてしまう言葉だろう。

「遺伝子提供者にご老体。此度の無礼は彼女が貴方達と交わした約定において不問にしましょう。今日本日をおいては。約定に従い貴方達は私達をあの場に連れて行ったのだから。こちらも約定を守りましょう。今日本日は。ですからそちらも今日本日はこちらのすることに一切の手出しをすることを自重することをお勧めいたしますよ。約定が破られたならば私達は何の迷いも躊躇いも無く、殺戮を再開させましょう。次はこの場の命のすべてが無くなるまで。零崎を尽くしましょう。それでは再び見える時まで命あるように」

ほんの僅か、息を吐くほども無いほどの間が空き。

「零崎に牙剥いたあなた方を殺して差し上げる日まで」

そう言われて、この臆病者が何かを出来るわけが無かったのだ、少なくとも彼等が己の居城を後にするまでは、自分達が仮初でも安全だと信じられるようになるまでは。

彼等に手出しするような度胸など欠片も無かった。

あれほどの殺戮を見せられて、あれ程の虐殺を示されて、次に自分の命が残っているなどの夢想を抱けるほどには非現実主義な考えを持つことが出来る人間はそうはいない、彼等は己の居城で殺人鬼が己の牙城を出て行くのを震えて待つまでは何も出来なかった。

故に彼等が残していった様々な悪戯について察知したのは全てが総て、彼等が立ち去った後ではあったのだが、種類によって気付くのに時間差などはかなりの幅においてあったのだが、気付いてその表情を憤怒と怨嗟、そして恐怖に染め上げたのはいうまでも無い。

なお、彼等が飛び立った瞬間に行き先を調べようとした(命令は何とか冬月出し一応調べようとした)がMAGIは未だに友の手中にあり追跡出来ず、支配権を取り戻そうと担当者のリツコを呼び出そうとしたところで、向こう側の認識でリツコが拉致されたのに気付き。

支配権を他の職員達だけで取り返すのに、専門のオペレーターは全員死亡している為、他の場にいた技術スタッフ等を集めて行って一日以上が必要だった。

なおファーストチルドレンがいなくなっていることに気付いたのも半日以上経ってからのことで、レイを担当していた医者が意識を取り戻して報告するまでレイが本部から姿を消した、正確には連れ去られたことに感知できていなかったりする、かなりの人間が物言わぬ肉に変えられたとは言え反応が鈍いというか。





で、ヘリの内部で未だ意識を取り戻していないレイを抱き締めて座っている、拉致被害者赤木リツコ、対外的には完全に無断で殺戮者が連れ出したのだから、拉致被害者で間違いは無い、それが本人の要望であろうとも、本人が自分の意志を示して同乗したのであっても、ネルフからの視点では極悪非道の殺戮者の一行と時を同じくして姿を消したのなら、それは拉致されたか何処かで物言わぬ肉に変わっていると考えるべきで拉致被害者で認識は間違ってはいない。

死体が見つからない以上は拉致されたということだ、因みに警察などが判断する場合、これらの拉致、行方不明者(犯罪に巻き込まれた場合、特定行方不明者とか確かそういう分類をされる人達)の死がある程度判っていても扱いは拉致被害者か行方不明者であるらしい。

死体があがらない以上は、つまり戸籍上、鬼籍に入らなければ死者が生者であるという扱いである、まぁ、もし生きていたら鬼籍に入れると後で面倒であるからの措置であるのだろうが、その辺の雑学的知識はどうであれ、リツコはある程度は自分の意志で乗ったのである、言い出したのはリツコではないが、言い出された誘いに乗ったのはリツコ、紛れもなく自分の意思で乗ることを示している。

因みにレイはついで、リツコが連れて行きたいというから連れて行っただけ。

リツコとしては自分が脅迫されている材料がレイなのだから彼女ごと逃げ出すことが出来れば何の問題も無いのである、嫌々協力されていた研究ともおさらば出来、かなり好都合な展開ともいえる、母の遺作とも言えるMAGIを置いていくのは彼女としても気分のいいものではないが所詮は物である、母親と共に妹として認識していた少女を煉獄から連れ出せるならばそれが殺人鬼であろうと構いはしない。

それが“愚者の中の賢者”、“獄中の賢人”赤木リツコが選択した処世術だった。

その要望に答えた方は無礼を働いた連中に対する嫌がらせが一つ増えた程度で連れ去った。

担当医師が死んでいないのはレイを連れ去るのに力を貸したのが零崎ではなく紫木一姫だったからである、零崎ならば躊躇いなく殺している、拘束する労力に比べれば彼等にとっては殺人のほうが遥かに容易い。

彼女は戯言遣いとの約定で人殺しを禁じられている、非殺害能力、それこそが曲弦糸の実態、人を殺さずに無力化する技術の極み、無論人殺しにも適しているが本来は拘束することを最大目的とした技術を彼女は継承している、不殺を頭に入れても彼女は零崎人識とさえ渡り合えるぐらいの力を持っている、過去では殺戮狂戦士≪病蜘蛛≫、現在は不殺の傀儡師≪ジグザグ≫、普段はノーテンキ女子高生姫ちゃんである。





話を戻すと、そのリツコ、現在立場上拉致被害者赤木リツコ、肩書きは国連非公開組織対使徒殲滅研究機関NERV技術局技術開発部部長兼E計画担当博士赤木リツコ技術三佐、中々に長ったらしい肩書きである。

リツコはレイを抱きしめたまま困惑の表情を貼り付けて、目に映る人間に視線を這わしていた、まるで現在の状況に戸惑っているように。

これも無理も無い、本人の意思をもってここに居るとはいえかなり強引ではあったし、状況に流された節がかなりある、それでも流されることを選択したのはリツコなのだが、因みに彼女の考えは半ば本能的なものだったので現在の当惑がある。

当惑があるが、彼女はここにいるという選択をしている、こうなる事態を選択している。

いや、この事態すらも確定していたのかもしれない、彼女が拒否していたとしても、そして拒否して連れて行かれることがなくなっても彼女は彼等の元に向かうことになったのだろう、そうなるべきなのだ。

彼女がこれから出会う人間と物語での係わり合いがあるのならば、彼女は遅いか早いかの違いでこの愚者の楽園を出ることが出来る、それが物語が定めた流れ。

それが遅いか早いかの違い、物語の進み方の違い、進みが違うだけならば終末は同じになるのは道理、物語に流されて、物語の中において最後には同じ場所にいる。

文字通り物語に流していただいて。

なお、彼女がこの場に来る経緯としてはエヴァ初号機に施された悪戯。

これは見事に成功した、ただこの悪戯が何であるかを知ったリツコが科学者としての興味を発露したのである、今まで自分達が出来なかった事を容易くやってのけた人物に、無論それは三好心視達なのだが。

彼女達にあろうことか教えてくれと言い出した、この連中にこういうことを言えるだけリツコもある程度は科学に魂を売り渡した連中である、まだまだ常識的な範疇としてはだが、それ以上に売り渡した連中は元ER3に所属していた連中など心視がいるのだし、知的好奇心に全身全霊を売り渡した春日井春日などもいる、彼女らに比べればリツコの知的好奇心というのは可愛いものだろう、ER3の連中は完全にぶっ壊れた学者ぞろいだ、正確には科学者ではなく研究者だろうが、何せ科学に納まらず心理学から言語学、学問とつけば何でも研究する連中、科学者で一括りに出来ない。

で、その心視の返事。

「ええよ。でもそろそろ時間やから着いてくるんやったら講義したる。我が生徒」

直ぐに生徒にするなよと突っ込みたいがヘリにリツコが乗っている以上リツコもそれに同意したということになる、言うほうも言うほうだが、同意するほうも同意するほうである。

因みに心視、外見十代、中身三十を超えたとこ、リツコより年上なのであしからず、戯言遣いに続いての二人目の生徒である。

彼女の渾名“青田刈り”は彼女が作る試験が難しすぎて、生徒が進級出来ずにERプログラムを去ることになる生徒が大勢いたことから付いた異名である、つまりは教師としてはかなり厳しいというかサディスティックといってもいいほどに。

つまりはこの時、いーちゃんについで彼女の哀れな生徒が二人になったというわけである。

真実天才、三好心視の生徒、口語訳すると下僕とか奴隷とかになるかもしれないが、少なくとも今夜の戯言遣いは彼女の調教が確定している、逃れることは恐らく不可能であろう。

これが物語に定められたことなのかどうかは、知らん。

もし定められているとなるといーちゃんは人類最悪に替わって物語をぶっ壊そうとするかもしれないが。





この辺りが愚者の楽園にて起こった顛末なのであるがゲストに碇ユイがいるのは簡単に率直に判りやすくコンパクトにご都合主義的に説明すると。

サルベージしたからだ。

簡潔すぎるか。

もう少し長く説明すると、女科学者(マッド系)二人が何やら妖しげなことをして(この辺の詳細は省く)、橙子がエヴァンゲリオン初号機からユイの魂を持っていた水晶玉に移し込み、その後、橙子が作り出した人形、橙子の予備の体の流用、そして復活。

橙子は自分の体に人形を使い魂だけを定着させているので実質的に本人が死を望まない限りにおいては不死なのである、判りにくければレイの二人目、三人目と同じように解釈してもかまわない、余りに大差は無いのだから。

体のオリジナルがあるのか既にスペアしか残っていないのかは本人である彼女しか判らないだろうが、この辺の非常識な能力は魔術師としての頂点、三原色の階位“赤”を冠する魔術師であるだけはある、魂の抽出、保管、注入、それをやってのけた、無論彼女の妹のように戦闘特化していない。

どちらかというと研究者といい立場をとる彼女には軽いことなのかもしれないが、追記するとエヴァとユイの魂を繋いでいた繋がり“縁”とでも呼べそうなものは両儀式の直死の魔眼により殺されて分離されている。

本当に真実、式の魔眼は総てを殺す“それが何であれ”殺し尽くす、それがたとえ魔術的な現象、概念に直接的に干渉する術の類であろうとも彼女は殺戮する、彼女に殺せないものはない、“殺す”ことが彼女の概念能力、彼女の攻撃=死、これはこの世界の物語が定めたものなのだから、その概念が成立してしまっている以上は物語がどんな手段を使っても彼女の能力による殺戮を妨害することは無い、物語が彼女の振り撒く、彼女の周りで溢れる死を認めてしまっているのだから、“彼女の目に留まる存在ならば神すら殺す”、それが両儀式の保有する直死の魔眼。

彼女に殺せないのは物語がまだ死ぬべきではないと定めたものだけだ。

そして切り離された魂を新たの肉体に定着させた、この辺りに本人の意思を伺っていないので本人主観で見ればさせられたと見て間違いは無い、本人がサルベージを望んでいたかどうかなど誰も考慮にいれていなかったのだから、もし本人がエヴァに戻せと言い出してもその時は知ったことではない、用件が済めば戻りたければ戻ればいいといった感じだ、そこに手を貸す気は無いだろう、自殺願望者に自殺を幇助するような趣味を持ち合わせているものはいない。

なお彼女の外見はリツコの記憶より(ユイの姿を知っているのは過去直接的な面識を持っているリツコしか知らなかった、リツコは橙子の精巧過ぎる人形に興味を駆られたらしいが。この人形に関しては説明されても魔術的過ぎるので理解には及ばないだろう)作られたが、基本的にはモデルはレイ、レイとの違いをリツコが指示して作り上げた人形、体のサイズは橙子の完全流用、そこまで細かく作り直す気は更々無かったらしい。

橙子の体もそれなりのものなので文句は出ないだろうが、いいところ二十代後半ぐらいの肉体年齢だろうし、文句をつけたら魔術師が身の程知らずに何をやらかすのか判らないのが怖いところである。





さて説明にもなっていない説明が終わった辺りで現状説明、つまりは再び説明。

何処かの説明オバサンを召喚しそうだが(撫子から)、現れないので悪しからず。

愚者の楽園への進撃から数日後、碇ユイの魂を人形に定着させ仮初の生を与えた当日、つまり襲撃から数日が経過している、そしてこの数日は平穏そのものであった。

一応今日この日まで臆病者のほうから何かを仕掛けてきているようなことは無い、勿論探らせているだろう、臆病者の心理ゆえに相手が何処にいるかどうかも判らなければ心理的に安心できないからかなり捜索に関しては厳命を出しているだろうが、基本的に不到達の結界が敷かれている場所には物語の主要登場人物しか、もしくはこの場に縁があるものでしか近寄れない、たかが末端の諜報部員程度にこの場所に到達するのは不可能だろう。

この結界は視界にその建物が入っていても、地図にその場所が記されていてもその建物に近づこうとすると、その建物が認識出来なくなってしまう、完全に消えるのではなく、意志あるものの脳から其処に存在するという認識を阻害する結界、其処に何かがあるのはあるが辿り着けない、ある意味溶け込んでいるともいえる、故に違和感と言う一般人でも感じられる物さえ生じさせていない。

つまり目には入っているけど結界が敷かれている地域を集中することが出来ない。

派手に覆うよりも地味に隠す、そちらのほうが目立たず違和感を与えない注目を集めない関心を集めない、誰の目も集めなければそれは害意を加えられない、この種の結界こそが最大の防御と為る、攻撃を加えられなければ最初から防御など必要ないのだから。

追記すると京都という町も攻撃を行うことを困難にしている。

京都は世界的に見ても文化的遺産が残っている都市である、国連にて保護指定がされている建築物などもセカンドインパクトを耐え切ったものが多数残されている、因みに天皇なども過去のミレニアムキャピタルたるこの地に移されているし宮内庁には特務権限が通用しないことになっている、付け加えれば各国王室や核保有国の軍事施設などもだが。

更に付け加えると各国領事館も首都である第二新東京でなく京都にある、本来の首都東京が滅んだ跡、臨時的な首都機能を果たしたのは海から離れた京都となり、その際臨時で立てられた各国領事館は今も京都で使用されているものも多い。

これはセカンドインパクトの世界的大被害を受け困窮をしている現在、そうあちこちに領事館を再建するような予算が下りなかったというのもあるが、日本のほうも第二でやるよりも被害の少なかった京都の施設を使って国際会議等を開くのに都合がよかったというのもある、なお設定として第二は奈良にある(この辺は少し話に関係あるのだが後の話である)ので距離的に首都に近いというのもあるのでまるで問題なかった。

この場合、臆病者が直接的な攻撃ではなく何かをでっち上げて特務権限により京都を焦土に変えるような手段は取れない、警告を出せばネルフのMAGIを操作する情報関係のエキスパートがいることは判っているので警告を発することは出来ないし。

警告なしに京都を焦土と化すような攻撃を仕掛ければ各国領事館、特務権限が通用しない宮内庁に攻撃を仕掛けることになり、世界を相手に、それも表の世界、四神一鏡、玖渚機関に対して喧嘩を売ることになる、そうなれば途端に日本政府からA801、特務権限剥奪の上、人的戦力による施設制圧を受け、軍事組織としての扱いを受けるネルフは国連軍軍事法廷に立たされることになり、上級幹部は一生檻の中か銃殺刑が待っていることになる、つまりは零崎が唯一対抗できない手段、超長距離による立体制圧兵器、大量破壊兵器による攻撃は封じられている。

後はライフルによる超長距離射撃くらいだが、零崎は最初の一発さえ避ければ後はどうとでもなる、それに人識や双識のレベルならば狙撃すらも肌に感じる感覚で避けてしまえる化け物ぶり、実質長距離攻撃を行おうとした場合不可能と断じるしかない。

そしてこちらのほうが厄介なのかもしれない。

京都という町は警察の力が強い町でもある、正確には各国領事館や首都奈良に近いことも手伝い、テロ対策としての配備されている警察の対戦能力は前世紀とは比較にならず、警察の対応も“自分が撃たれても絶対に撃つな”という警官の殆ど自殺根性かと言いたいような発砲に対する上層部の厳令などもしかれていない、ある程度は本人の裁量による発砲が許可されている、つまり警察権力が増大し犯罪者に対する摘発が強化されている。

物騒になった昨今、犯罪者に対する射殺処分など当たり前となっているのである、これは武力による犯罪の摘発であり、確かに以前の日本の裁判を重視している制度から考えるとかなりの変革といってもいいのだろうが、それでも一般でも受け入れられている。

犯罪被害に遭う市民としては、犯罪者の人権等よりも早急な対応が望まれた為それほどの非難は無いのだ、この法整備がされる際人権擁団体が反対したがその人権擁護団体は一般市民の反感を買い潰される事になった、犯罪被害者のことも碌に考えず犯罪者の人権を擁護するような発言など、実際の荒れた世相の晒された市民にしてみれば聞くに値しない妄言だったからである、対岸の火事が目の前に迫れば人間は火を消そうとする、その火を煽ろうとするような種類の人間に発言する権利など赦されるものではない。

大体、その人権擁護者は自分や自分の家族が犯罪被害にあってその翌日に同じことが言えるのであれば本物だろうが、大体そういう輩は犯罪被害に等あったことはなかったり、裏で犯罪に手を染め、自身をクリーンな印象に見せる為のポーズに過ぎない。

よってこの京都、特に京都市内において特殊装備の部隊派遣等を関係省庁に事前連絡なしに行われればテロと認識されて警察の対テロ部隊が出動することになる、そしてこの時代、日本も戦争をする時代になっている警察の部隊は世界から見ても弱くはない、よって対人戦闘能力の乏しいネルフには彼等に察知されないという条件まで付きまとう。

しかも日本政府ははっきり言うと自分の領地で好き勝手している馬鹿のことが嫌いである。

もし警察の目に留まるようなことがあれば止めるどころか邪魔立てするような行動に走るだろう、市街で直接的な攻撃を臆病者が命じたら魑魅魍魎と人間の警察を相手取ってやらなければならない、しかも高級住宅地であるので警察の出動は早い、特に相手の武装が確認されれば即時に対テロ部隊投入がされるのは楽観ではないだろう。

そして何より、これはまた警察の中でも特殊なのだが京都県警本部にはこの世の悪人という悪人を苛め倒して悦に入る、対象が悪人である以上余り問題は無いが、かなり破天荒で容赦の無いバイオレンスな女性キャリアがいる。

彼女の目に留まればほぼ確実にネルフは彼女のタノシミの為に彼女に付け狙われる事になるだろう、もしかしたら現在既に目を付けられているのかもしれないが、彼女は警察権力を自分のタノシミの為に使いまくるのをまるで躊躇わないのだから。

しかも犯罪者や悪人が自分よりも立場の高い者ならば俄然として張り切りだす、彼女は基本的に自分よりも格上の存在が自分の力に平伏すのが楽しくて溜まらないのだから、ただ付け加えると彼女は正義の味方とはとてもいえないような人格を所有しているが。

こういう様々事情が絡まり人的、魔術的、政治的に京都という町にいる以上は守られているのである、臆病者二号である電柱が、一味が京都にいると判っても外道が何かをする前に進言して止めるしかない、京都で武力抗争などを起こせば嫌でも目立つからだ。

そして京都警察が動いた時、テロ同然の装備で急襲した場合楽しい事態には決してならないのだから、しかも人的に襲い掛かるのはリスクが高すぎる、襲い掛かれば自分達が防衛の為に差し向けた黒服同様死体に変えられる、幾らなんでも無限に兵隊がいるわけでもない、零崎達は真正面からの攻撃に関してはどれだけの数を使っても殺戮してしまうのだろうから、その辺を臆病者達が理解しているかどうかは判らないが。

それに最低立地的、政治的な考えは浮かぶだろうから京都急襲のような行動に出ない筈である、まともに物事を考えられる人間ならば、つまりはマトモに物事を考えられない人間がいれば考えられない暴挙にでることもあるのだが、それはまた後のお話。

まぁ、マトモな考えが思い浮かばない輩がいるのだから後の話の展開は予想がついてしまうのかもしれないが、意外性が取れないのは残念な限りだ。





そしていい加減話をゲストに向けよう、どのゲストが主賓となるのかはまだまだ判らないが、まだまだ判らないがお話を進めよう。

“愚者の中の賢者”赤木リツコ、“盲目の賢者”碇ユイ、“女神の贄”綾波レイ。

三人のうち誰もがそれなりの器だが、その誰がこの度の物語で主に語られることになるのか、どのような物語を作り上げるのか、それはこれからだ。





まぁ、ある程度は物語の主軸となる人物は確定している、ただ“それ”がどちらに傾くかということだ、どちらに傾くのかどちらにも傾かないのか、それが主題。

玖渚のマンション、その三十二階、つまりは科学者達が居城としている研究施設として利用されている階、そこに零崎神識、双識、舞織、赤城リツコ、哀川潤、蒼崎橙子、そして目覚めたばかりの碇ユイ、正確には人形として生まれ変わった碇ユイと表現するべきだろうか、そして彼女は零崎神識の母親、碇ユイでもある。

目覚めたばかりの彼女に、本当に目覚めたばかりの彼女に彼等はまみえた、意識を取り戻して数時間は経過しているのでそれなりの状況の説明、たいした話はしていないが行っている、その時から彼女は呆然とした表情で目覚めてからの数時間を過ごしていた。

自分の身に何が起こっているのか理解出来ず現状認識が遅れているのか、新たに魂を入れられた肉体との不一致で意識が明確にならないのか、そのどちらも、そしてそれ以外にも色々見当はつくが、彼女は彼等が来るまでの数時間を特に騒ぐでもなく、何をするでもなく呆然と過ごしていた、本当に呆然と痴呆になったかのように何も口にせず行動もしなかった、そしてそんな彼女に誰も何もしなかった、医学的な診断は人形である以上意味がなく、魂の定着に関しては赤の魔術師がチェックを入れたがそれだけだ、誰も彼女に干渉しようとはしなかった。

今の今まで。

理由としては干渉する必要が無かった、そして始めに干渉するのは誰かは決まっている。

そうして実の母子が会うことになったのだ、会う目的が親子の情愛という点から来ているかどうかはかなりの点で疑わしい限りだが、そもそも当の少年が彼女に対して抱いている感情は何なのだろうか、それは次の彼の台詞から語られ明かされることだろう。

「さて。お目覚めになられて数時間が経過したと伺っていますが、お加減はいかがでしょうか。私の遺伝子提供者。ご気分などは」

外道と同じ呼称、どうやら彼に母親と父親の間で、最低でも呼称のレベルで差をつける気は無さそうである、そしてこれは少年の彼女に対する心理的な位置づけを表しているのだろう。

そして言葉を紡ぐ少年はこの病室紛いに誂えられている部屋にある椅子に座り、その母親、少年の遺伝子提供者はベッドに横すわりの状態で少年と向かい合っている。

ただこの部屋に彼等が入ってからずっと彼女はそのような体制だったが、他の面々は空いている椅子に座ったり、壁に寄りかかったり、適当に立っていたりと様々だ。

だが、少年の言葉が聞こえないのかそれとも聞こえていて認識する能力がないのかユイは反応を返さない、これでは痴呆でなければ難聴者か精神異常者、もしくは薬物中毒者だろうか、どれにしたってまともな身体状態をしている人間に見えない、人形師の見解では精神以外に問題が見当たらないらしいが、それは言い換えると精神には問題があるかもしれないとさしているということになる、無論有るとは言ってはいないのだが。

そこでユイの代わりに言葉を紡ぐのは一応主治医(?)の橙子、今のユイの体に人間の医者では役に立たないだろうから、人形といっても人間と然程違いはないが人形は人形だ。

「目覚めた時は多少まともだったのだが。こちらの内情を話した辺りからこの通りだ。身体のほうに何の問題もないのは私が保証するが。問いかけても余り反応しない状態が続いている。そう強く呼びかけたわけではないけどね、そうした所で私が話すこともあるまい」

確かに橙子が彼女に話し掛ける内容など無いだろう、実際魂の抽出はやってのけたがそれは頼まれたからであって、本人に何か用件があるわけでもない。

ただ、ここで誤解がないようにしておくと神識においても自分の母親に何か用があったわけでもない、彼女を取り出すという悪戯を思いついたのも彼ではないし、元々が実験程度の試みで行われたのだ、そして彼の母親が現世に再び復活したのは学術的興味に駆られた二人の女性生物科学者がエヴァの内部というところを知りたいが為で。

本質的に彼女に用があるのはこの生物マッド二人である、リツコや橙子、それに約がこの件に関して興味をいだいていないわけでもないのだが、彼女の抽出を提案したのはこの二人である、そして前述したがエヴァの中にいた本人の意思は完全に無視している。

そして未だに焦点の合わない目で虚空を眺めているユイに対して、神識は近寄り。

軽く頬を張った、それだけで今まで焦点の合わなかった目が自分を叩いた相手に定まる、まぁ、用は思考に耽っていた相手が注意を向ける切っ掛けを与えればいいだけで、怒鳴りつけても目覚めたのだろうが、ただ軽く声を掛ける程度では届いてはいなかったようだ。

「何・・・・・・・・」

どうやら自分が叩かれたことに対する抗議を口にしようとしているのだろうが、その言葉が吐き出される前に、言葉を紡ぎだす神識。

「聞いておられなかったようなのでもう一度言いますが。お加減はいかがでしょうか。私の遺伝子提供者、体調などは。貴女の意志に断りなく此処に連れてきたのは貴女の了解を取れる状態ではなかったという点でご留意して頂きたいのですが。おっと、一応ご確認しておきますが貴女が今おかれている状況に対しては理解されていますか。忘れられているようならもう一度説明させてもらってもよろしいのですが」

言いたい事を先に言っているという感がある、その慇懃無礼な態度に反論を防がれた形になっている。

淡々と事務的に言葉を繰り出す息子、久方ぶり十一年振りに声を交わす親子の情愛のようなものは感じられない、十一年も離れていれば子供のほうに親に対する記憶など残ってもいないだろうし、神識の性格を考えるとそれ程情愛たっぷりとなることはないだろうが。

そして当の母親のほうはというと神識の顔を見つつ。

「状況は判っています。私はエヴァの中からサルベージされて。ここは京都。私がエヴァに取り込まれて十一年が経過している。そして貴方達はゲヒルン、いやネルフと敵対している。そして私の体調にも問題はありません」

はっきりと受け答えは出来ているようだ、元々が聡明な女性であるから認識能力は高いのだろうが、それでも答え方が端的なのはまだ整理し切れていない部分があるからか?

それとも今おかれている立場が判断がつかないからか。

「それはよかった。こちらとしても二度手間は省きたいので、一度目の説明は私がした訳じゃありませんが。それで現状に対してどのように認識しているのでしょうが此処に連れて来られた事にご不満でもあるでしょうか。私の遺伝子提供者殿」

本当に冷たさを感じる声で自分の母親に話し掛けている、表情もデフォルトで貼り付けているような笑みだが、それは無表情と何の変わりもないだろう、貼り付けているだけならば仮面と変わらない、動かない表情など無表情と同じ。

ただ、そんな態度で接する神識に対してユイ、少年の母親は少年の口調から何かを悟ったのか。

まぁ、こう振ってはいるがあからさまであったのでここまで気付かなかったほうが鈍いのかもしれないが、普通自分を遺伝子提供者などと呼ばれないから遅れただけなのかもしれない、まして彼女は自分の息子からそういう風に呼ばれるなど考えてもいなかっただろう。

「その。さっきから私のことを遺伝子提供者って貴方は呼んでいるけれど。貴方は?」

どうやら確信が持てないのか疑問系で聞かれている、確かにその呼ばれ方や少年の対応は彼女が頭に思い描いていた自分の息子とは違うのかもしれないが。

だが十一年も離れていたのだ、子供が自分の想像通りに育つほうが少ない、彼女が思い描いていた息子の偶像とは掛け離れた神識を同一に見るのは難しい、ただでさえ普段の物腰で大人びて外見年齢を引き上げて見られるのだから、はっきり言うと外見的には神識も人識もそれほど変わらないようにしか見えないのだから。

しかも現在は双識とペアルック同然のスーツを着ていることだし、少し年上に見えてもおかしくはない。

「零崎神識」

名前だけを答え、そして一拍の間を空けて言葉を続ける。

「貴女に判り易く答えるならば、貴女が十五年前に六文儀ゲンドウとの間に性交渉を持ち。貴女の卵子と貴女のご主人の精子が受精し誕生した生物。つまりは貴方の遺伝子を提供して十四年前に生まれたのが私となります、一応は。これで私が貴女の何なのかお分かりに成られたでしょうか」

ただ息子と言えばいいだけのことを長ったらしく答えているのは少年本人がその事実を苦々しく思っていることの現われなのだろうか、少なくとも母親の存在を歓迎はしていない、だがあえて非難するような言葉も紡いでもいない。

そして、その言葉の意味が判ったのかユイが目を見張り神識の顔を凝視する。

だが、そんなユイが何かを自分の息子に言葉を掛ける前に、彼女がどのような言葉を掛けようとしたのかはこの為定かではなくなるが、まぁ、大体お決まりの定型文だろう。

「今の貴女の様子から貴女がご理解されているとこちらは受け取らせて頂きます。一応は判りやすく言わせてもらうと貴女は私の母親に当たるのですが。ここで言っておきます。私は貴女を母親とは思いません。まして家族とも思いません。只の他人、只の知り合いとして扱いますので。貴女もそのつもりでおられることを願います、付け加えると貴女が認識している私の名前を呼ぶのもお断りします」

そこまでの言葉、拒絶の言葉を述べた零崎神識、自分の母親に向けて母親ではないと、自分の家族ではないと、何の関係もない一人の人間であると、それを述べた。

確かに零崎である以上既に碇ユイは母親ではないだろう、家族ではないだろう、零崎にとって家族とは零崎のみ、それ以外の人間は家族足り得ない、友人、知己にはなれるのかもしれないが家族には絶対になれない。

そういう意味を含めて彼は彼女に赤の他人だと言っているのだろうか、他の感情が混じっていなかったのかどうかは判らないが、だが何の感情も抱いていないとは言い切れないだろう、彼が彼女に対して何かの感情を抱いていても何の不思議もない。

そしてそれが悪意であろうとも何の不思議もない。

そしてその言葉に対するユイの反応は、一応は子供達の未来の為と述べ本人から望んでエヴァの被験者となった天才科学者“生きていれば何処でも天国になる”等という戯言のような世迷いごと、地獄を知らないであろう甘すぎる人間の理想の言葉を吐いて一時はこの世を去った女はどのように反応するのだろう。

そしてそんな彼女の思考、そんな言葉が思いつくであろう彼女の思考では地獄の悪鬼よりも最悪な零崎に通用するだろうか、そんな甘きに甘すぎる思考で貴女の息子を理解することが出来るのか。

まぁ、それはこれから拝見出来そうなものなのだろうけど。

いきなり現世に強引に戻され、そして現れた成長した息子には親でも子でもないと告げられた女、十一年前幼い子供がいながら命の危険がある実験に望んだ女、その女が息子に口にされた言葉に対する反応は。

「・・・・・・貴方、シンジなのでしょう。何で、私の事をそんな風に・・・・・・・私は貴方の母親なのよ・・・・・・・・・・・・・・それとも貴方は私を恨んでいるの。幼いころにいなくなった私を。でも、それは・・・・・・・・・・・・・・・」

中々にお決まりの反応、恨まれているかもしれないと自覚している辺りはまだ救いがあるのかもしれないが、自分が拒絶される客観性を有している証左となるのだし。

だが、またもやその言葉を最後まで言わすことなく言葉を挟む、まるで最後まで聞いていいてもしょうがないとばかりに、最後まで聞いても聞かなくてもそんなことは同じことだとばかりに、言葉を挟む。

「その、シンジという名前で呼ぶのは止めて頂けないでしょうかと先程も申しましたが。名乗りを上げたと思いますが私は零崎、零崎神識。今はそう名乗っていますし、これからも私が死ぬまで。まぁ、何処で野垂れ死ぬかは知りませんが、零崎を名乗って生きていくつもりですのでね。故に私は貴女と母子でなければ。家族でもない。今の私の家族は零崎一賊を置いて他になく、未来永劫を見て零崎以外に私は家族を持ちません。正確を期するなら零崎以外の家族を持つことが出来ないというべきなのでしょうが、その辺は同じこと。・・・・・・・・・ああ、後貴女の事は恨んではいませんよ。幼いころは憎んでいたのかもしれませんが。今の私には貴女のことなどどうでもいいことです。恨んでもいないし。貴女に何も感じない故に貴女は私にとって顔を知っている他人にしか成りえない、ご理解しましたでしょうか。・・・・・・・・・・・・・・まぁ、貴女が理解しようとしまいと私としては同じことです。貴女との会話も今日はこれまでとしておきます、病床でしょうし、安静が必要でしょう。貴女が私の家族として私に会おうとしない限りにおいて私は貴女と会うことを拒否することは致しません。ただ、貴女の安全は保証の限りではありませんが」

そう言って、殆ど一方的に言いたいことだけを言って神識はユイの病室となっている部屋を退室した、彼についていくように彼の姉、舞織も続いて退室していくが、彼女は彼がいない以上この場にいる必要を感じなかったからだろう、恐らく彼女が懸念していたのは彼が、彼女の弟が嘗ての家族を殺してしまうことだったのだろうから。

幾ら零崎といえど、零崎といえどだ、まだ零崎となって一年を経過していない舞織に自分が溺愛する弟、神識が実母殺しをさせたくはないと考えたのだろう。

だが、だが恐らく殺しても、殺しても何も感じなかったと考える、零崎は本当に、本当に殺人鬼だ、そして、そして、神識は能力としてどうかは判らないが、殺人鬼としては零崎の中の零崎、零崎人識を上回っている、技能ではなく、殺人鬼として。

殺人をする行為に関する意識、そして異常なまでの零崎に対する家族意識について、彼は誰よりも零崎らしい、故に誰よりも殺人鬼、徹頭徹尾に殺人鬼“殺戮貴”零崎神識。





そして、“殺戮貴”とその姉が欠けた場所に戻る、魔術師も欠けているのだが彼女はそれ程の問題はない、今のところは、今この時は大した役割を持っていない登場人物なのだから。

故に残るのは息子に絶縁状を叩きつけられた母親、碇ユイ、そして零崎双識、赤木リツコ、哀川潤。

当の息子に言われるままに言われて呆けているユイ、と言ってもそれほど長い時間を呆然としていたわけでもない、退出者が出て数秒間凝固していた、その程度のものだ。

この時呆けていたのは思考に耽っていたのではなく、言葉が受け入れられずに硬直していたのだろう、そして凝固が解けた後の反応は、端的に簡潔なものだった、わかり易いと言えばそうなのだろうが、陳腐とも言える。

「そう・・・・・・・・でも、何故?あの子に何が・・・私が、何で」

こう、呟いただけ。

つまりは諦観だろう、その諦観が実の息子にいきなり言われたことに対する一時的に湧き上がったものか、恐らくはそうだろう、そうでなければ後者の疑問は沸き起こらない、一方的に言われただけで納得を出来るのならば疑問もなく受け入れてしまうだろうから。

そしてその目元に拒絶された悲しみの証が浮き出していた。

だが、何故と問うのも無自覚なのかもしれない、いや恨まれていると判っていたのだからそこまで無自覚なのではないのかもしれないが、決定的に気付いていないことがある。

確かに恨んではいない、だが必要ともしていない、そして彼女は恨まれていることに気付いてはいても必要とされていないとは気付いてはいない、言葉を受けても、語られても、他者から完全に、息子から完膚無きに貴女は私にとって必要ないと言われた事に気付いていない、気付きたくないのかもしれないが。

そして自分の内なる思考に落ちようとしている女に言葉を浴びせる、そんな言葉を放つ女が一人、まぁ、この場で言葉をつむぐ女は独りしかいないだろう。





「あんた。・・・・・・たくっ、あんただよ、あんた。碇ユイ。言葉が聞こえてんなら返事ぐらいしろっつーの。おい、悲劇のヒロイン見たく耽ってんなよ。あんたは悲劇のヒロインなんかじゃねーんだから。大体そんなのは漫画の中の世界にしかいないもんだぞ」

傍目には悲しみに耽る母親に見えないこともないユイに対して、彼女、人類最強はイラついたように、実際表情からその通りなのだろうが

彼女は怒っている。

「あん、聞いているか。聞いているなら答えやがれ!!」

そう言って、罵声のような声音で彼女は言葉を機関銃のようにまくし立てる、その言葉には本当に怒りや苛つき等の彼女の激情を表す感情が多分に込められていた。

「大体、大体だ。手前が悲しむほうがおかしいんじゃねーか。手前に悲しむ権利なんて十一年も前に失ってんだよ。それすら頭に入ってなかったか、十一年前に判ってなかったのか。その時から何もかも手遅れだっての。それが判らないってか、それすら判らないってか。おいボケ、頭大丈夫か。真面目に物事考えてるか、それとも論理っつー意味もないものに縛られた科学者ってのは物事を幼稚な論理や理論でしか考えられないってか。そんなものじゃ判りゃしないのは当たり前だろうが。論理や理論なんてものはそれこそ糞の役にも立たねぇってなんで理解しない。そこまで間抜けだってか、マトモに物事考えてるか。いや、間抜けだったんだろうな。だからあんたの思うようにならないんじゃねーのか!!!!大体手前は早々に、早々に考えるのを放棄しただろうがっ!!!!十一年も前に、十一年も時間があって考えるのを放棄したんだろ!!諦めちまった。怠けることを選んじまった。だったらそれでいいじゃねーか、それからの全て諦めて、諦めて、諦めちまえばいいーじゃねーか。それが何だ、何故。お笑い種もいい所だ。だが喜劇をここでやるのはやめろっつーんだ。手前の喜劇は虫唾が走るんだよ。あたしは早々に諦めちまう人間も考えない人間も高みに上ってこようとしない人間も大嫌いなんだ!!!」

余りにも身勝手な罵声だろう、浴びせかけられるほうとしては溜まったものじゃない。

しかも悲しみにふける相手にそれをぶつけるのは鞭打つ行為に等しいだろう、それが余りに手前勝手な悲しみだろうと自業自得から生じた悲しみだろうと。

だが彼女は容赦しない本当に大嫌いな女が目の前にいる、殺人鬼の母親、彼女は知っている資料としてデータとして十一年前にこの女が何をしたかを知っている、この女が殆ど望んでエヴァという欠陥製品に飲み込まれたのを知っている。

そして、それは彼女には最高に気に入らない。

十一年も前に諦めた、十一年も前に可能性を一つに絞った、それ以上にあがろうとしなかった、努力を放棄した、考えることを放棄した、怠けることを選択した、それが気に入らない、まったく気に入らない、心の底から気に入らない。

やるべきことをやらず、考えることを考えず、そして何もせずに放棄する。

そんな人間が大嫌いなのだ、そしてそれを今更後悔し自分の愚かさを理解しようともしない人間が大嫌いだ、だが、そんな彼女に対して恐らくこの会談が始まって初めて碇ユイは反論した。

言われ続けたことに怒りが募ったのかもしれないが、恐らく彼女が言ったことの中に聞き逃せないものでもあったのだろう、彼女の中に許せないものがあったのだろう。

それが何なのかは知りようがないが。

「先程から言いたいことを言ってくれますが。では他に何が出来たというんです。エヴァ無しに使徒を倒せるとでも。エヴァでなければ使徒に抗し得ないから私は。子供達の未来が続くことを選択したのです、あの子のシンジの未来が続くように。それを諦めた、諦めた、あれ以上の選択があったとでもあるというんですか。エヴァ以外に倒せる手段でも。使徒を倒せなければシンジはもとよりサードインパクトで世界がどうなるか」

その彼女が許せないものが何か走らないが、彼女が言いたいのは自分があの中、エヴァの中に入らず、エヴァを用いなければ使徒は倒せない、倒せなければサードインパクトで人類は滅んでしまう、そう言いたいのだろう。

だが、その言葉は人類最強には通用しない、使徒を独力では無いにせよ倒してしまった人類最強には通用しない。

そしてその言葉は、まるで美談のような言葉は逆鱗に触れる言葉だ。

「あん。あの化け物のことか。あの化け物程度でそれしかないって。それしか思いつかないってか。そりゃとんだ笑い種だ。それしかない・・・・・・・・そんな何の努力も何もないことを良く吐けるもんだ、イライラすらぁ!!!そういう台詞はやることやって、やるだけやって、その後に言うことなんだよ。それが手前等、何もしてねぇじゃねえか。あの人形を作ってしまいか!!手前はもう少し真面目に生きろってんだ。やるべきこと考えることから根こそぎ目をそらして時間を無駄遣いして考えるのをサボりやがって!!あの程度の化け物なんて人形なしでも勝てるんだよ!!自分の方法しが考えねぇからそうなるんじゃねぇか。ああん、それともそれ以外の考えはまるで受け入れなかったって、それ程あんたは大層なのかよ。未来を見通せる占い師様か。それなら大外れの期待はずれの占い師様だ、周りも見えない愚者の筆頭だ。それに世界は手前が何かしようとしまいとどうなるほどに安くかぁない!!何勘違いしてんだ、反吐が出るんだよ、そういう自己犠牲に入っちまうロクデナシは。何もしてねぇくせに自分を飾り立てる大馬鹿は。つまんねーこと考えてんじゃねぇよ。マジになって考えるって能力ないのか!!!!!!!ああ!!」

正に機関銃、一を言えば十を吐く、しかも理不尽ながら正論、十一年も前に結論を出すべきではなかった、その点においては彼女、人類最強の弁は正しい。

十一年もあったのだ、他の方法を考えるにも他の手段を講じるにも十全過ぎる時間があった、他の可能性を模索する時間はあったのだ。

その当時、十一年前には人類補完計画など骨子程度にしか出来上がっていなかったのだから、あの人類自殺計画は確かに碇ユイにより形作られたのだが、提唱したのは彼女がいなくなったその後だ、老人会かもしくは外道が提唱した計画。

子供の未来を願った彼女がその未来自体を消し飛ばすような計画は立てるはずが無い。

つまりはその当時のネルフは確かに、少なくとも本来の役割は使徒撃退組織。

当時の外道が何を考えていたのかは知らないが、ゲヒルンは使徒を研究する組織、そして未来に襲来すると思われるサード・インパクトを阻止する組織、その組織にいる人間が何故エヴァという人形一つに可能性を結集させなければいけない、時間はあるのに、何故たった一つの選択しか考えない、それを怠慢といわずとして何という。

可能性の放棄は思考の怠慢、命が掛かっているならば生命の放棄。

その後、ユイは使徒がエヴァを使わずに倒されたことを猛然とした勢いで聞いてきたが、それをライフルその狙撃で倒されたと聞いて殆ど信用せず、それを映像と、一応は顔見知りのリツコに保証されて事実として受け入れるしかなく。

再び思考の中に入っていってしまった。

因みにその後人類最強は相手をするのも馬鹿馬鹿しいとばかりに退室してしまうのだが。





ネルフ。

殺人鬼達に急襲されて数日後、日付的にはユイが目覚めた前日。

メインオペレーターを含む発令所職員、伊吹マヤを除いて虐殺され、その他保安部等を含む人的戦力を100名近く殺戮されかなりマンパワーが減衰している愚者の楽園。

殆どが二流止まりの人的戦力のほうは幾らでもと言わないが代替が利くだろうが、この場合致命的な被害を受けたのは発令所職員、つまりはMAGIの操作に携わるオペレーター達が一人を残して皆殺しにされ、MAGIの専門家たる赤木リツコも拉致されている現状ではMAGIを用いた世界レベルで見て最新鋭の情報収集機器がマトモに使用できず。

正確には使用出来る人材がおらず、かなりの人手不足に陥っていた。

まぁ、ワンセクション丸々殺されたのだから数日程度で補充が出来るはずがないのだ。

外道のほうは老人会に対して人的補充を依頼したが、というか依頼する以外に人を補充する手段がない、判り易く言うと老人会から命令を通して支部からMAGIコピーのオペレーターを本部に移籍して貰わなければ、戦時の戦闘力は致命的なまでに減少するからである、正確には情報収集能力となるが、戦いなど知ることに始まり知ることに終わる。

目と耳、そしてそれを伝える口、三つを潰されて戦闘能力など皆無に等しい。

これはMAGIにかなりの部分を頼り切った弊害なのだが、弊害としてはまずエヴァの射出、現在パイロットが一人もいないからどうでもいいが、次いで兵装ビルの使用、命令系統の維持、各種設備の使用と例を挙げればきりがない。

他にもネルフ内の各種施設、主に防諜、対テロ、その他の警備施設に対する命令系統、完全に丸裸の状態、つまりは現在実質戦闘能力がかなり低い、最低限のレベルでMAGIの使用できているのだが慣れたメインオペレーターがマヤ一人、殺戮のあった日にいなかったサブオペレーター数人という状態では十全と言えるような、運用環境であるとはいえない、今この時にネルフが敵対組織の何処かから攻撃を受けたならかなりあっさり制圧されたのではないだろうか。

なんせ対人戦闘能力は低く、守備力も低下している、そして第三に敷き詰めている情報網も機能しない、例えるとヒットポイントがかなり危険な値を指し、マホトーンを喰らい、更にルカニ、ボミオス、しかも属性異常で暗闇状態。

この状態が今のネルフだろう。





で、外道が老人会に要請をしようとした日、襲撃された翌日となっているのだが。

手短に言うとかなりあっさり終わった、というか殆ど老人側の一人から通告されただけで終わった、件の老獪なる老人キール・ローレンツによって。

ある程度の言い訳を考えていた外道としては拍子抜けの内容とも言えるが、彼にとっては苦々しい通告のほうが多かった、無論愉快な展開になるなどは本人も思ってはいなかっただろうが、それ以上に最悪。

人的補充は認められた、各支部から熟練のオペレーターそして三号機、四号機の移管命令、フォース・フィフスチルドレンの選出の許可、因みに使徒がかなりあっさり倒されたので特別予算は降りなかったが、降りたのは増加する二機のエヴァの維持費としての予算だけ。

そして異常なまでの対人戦闘能力を持った部隊、但しこの部隊は老人会の直轄部隊として本部に置かれることになり、外道が命令を下すには老人会のメンバーの三人以上の承認、詰まるところ人類補完委員会の多数決承認が必要という、加えて命令を下しても現場指揮官の権限が外道以上という外道の駒にならない部隊。

つまりは老人会の私兵を自分の内部に置かれることになったのである、これに対して外道は抗議をしようとしたが、本部にいた老人会のスパイからの報告で零崎達が進入した際の外道の戦力の逐次投入、愚策の極みを突かれ、そのようなものに部隊を任せられないと突っぱねられ、外道は沈黙することしか出来なかった。

なお外道には伝えられなかったがこのネルフ内の独立愚連隊となる存在、外道よりもハイクラスのMAGIのパスを持っており有事には完全にネルフの施設を掌握する能力を保有している、言い換えると状況においてはネルフ制圧部隊とも言える存在。

結果としては、外道の楽園に人員は補充されることになったのだがその殆どが老人会の息のかかった人材が入り、以前よりも自分の好き勝手が出来るような状態ではなくなってしまったということだろう、逆に言えば老人会の管理下に置かれたとも言える。

その命まで。

これでも零崎に喧嘩を売ったのが外道だということに対しては甘い温情処分だとは思う、いや殆ど処分などされていないと考えてもいい、自分の息子の現状をまったく調べず結果としては老人会が世界最悪の殺人集団に狙われる立場になってしまった状況の張本人に対しての処分としては。

まぁ、老人会は外道を糾弾することはなかったが、何も罪を許したというわけではなく、暫くは、つまりは老人会が零崎達に対抗しうる策を整える間は外道に矢面にたってもらおうという魂胆である、何もせずとも自分から矢面に立つのだろうし。

勿論、相手をするには十分な役者とは考えてはいないが時間稼ぎ程度にはなるだろうと思ってはいるようだ、少なくともこの外道が易々とサードチルドレンとファーストチルドレン(拉致されたことは知っているし、執着していることも知っている)を諦めるとは思っていない。

そして老人会は自分達が零崎達を叩き潰す為ならば人類補完計画を一時停止させることも考慮に入れている。

これは計画を優先する余り、老人会“SEELE”そのものが壊滅することを恐れたためである、人為的サード・インパクトを行うことによる計画、結果としてどうなるか、彼等の願望どおりになる保証は無いが、その発動を固執し過ぎて零崎を筆頭にする連中に遥か昔から欧州に君臨する老人会そのものを潰すのを厭ったのである。

彼らが計画の趣旨は玖渚機関や四神一鏡等を凌駕し己達が世界の覇者となる為だが、それは彼らが成るのではなく“SEELE”がその位置に付くことに執着している、つまり選民主義である老人会は自分達と同じ段階にアジアで構成されている二つの世界が気に入らないが、失敗したら更に惨めになるのは目に見えている。

二兎を追うもの一兎も得ず、それぐらいの理は弁えている老人達、己が死して次代の“SEELE”がそれを成せばよい、滅びか繁栄か、その賭けをするにはリスクが高過ぎる、それが老人達の結論。

つまりは最悪、目標を一つに絞り、零崎との戦争に絞る考えすらあるのだ、この時点で外道は老人会から見て捨て駒どころか露払いの扱いを受けることになっているのだが勿論そんなことは知らない外道、そして老人会の外道に対する最終処分はその名の通り処分。

処分するまでは精々、愚かに踊っていてもらおうといった具合だ。

早く言えば、零崎からはただの障害として見られ、老人会からは道化師として扱われ、完全に脇役に退けられた形になっている、本人の知らないところで、そして本人は自分が道化師と化していることを知らずおどけるように暴走する、己の執念の為に。





で、そんなことは知らない外道、ファースト、サードの所在を調べようとしたが、まずは実際の戦力確保として、フォース、フィフスの選抜、次の使徒は来るのだし、建前上は使徒殲滅機関(ついでに第三使徒の死亡は不明とされ、今の所功績無し。幾ら何でも人間がライフルで倒しましたは現実離れし過ぎて国連に報告も出来ないし、公表も出来ない)、戦力の補充は急務となる。

そして何よりエヴァという戦力は外道に力というものを与える象徴、エヴァを自在に扱うことが出来れば自分の生贄に対する安心感となる、実際はエヴァのような巨大兵器は対人戦闘にまるで向かないのだから零崎達への対策には成り辛いのだが。

大体零崎が第三に攻め込んだ時にしか使えない。

戦いのイロハも判っていない外道には大きな力自体が安心感を与えるようだった。

「碇。フォース、フィフスの選出が決まったぞ」

そう告げる初老の男、電柱だが、資料と思われる書類を二部携え、それを示すようにしながら言葉を続ける。

「此方に来るのは四日後。三号機が同時期に到着するようだが、どちらかを三号機に搭乗させねばならんな。その辺は私達が決めることではないがな。早々に決めて次に備えて最低限の訓練ぐらいは施しておかねば」

確かに、そしてその決定を下すのは彼等が使っている手駒の一つ、作戦部長なのだろうが。

その作戦部長本当に信任できると考えているのであろうかこの二人は、今の所遅刻以外の目立った失態は出ていないが、遅刻の時点で有能とは程遠いのだが、そして彼女を補助するスタッフの殆ども死に絶えているのだし。

そして、電柱が携えている資料、二人の少女の写真が添付された資料に書かれている名前は、病院坂黒猫、櫃内夜月、十七歳に十六歳、共に第三新東京市内の高校に属する、女子高生、彼女達がどういう運命を辿るかは明確ではろくでもないことではないだろう。

ただ、この少女達も二人が二人とも人の指図で動くと言われれば頷ける様な存在ではないが、少なくとも一人は悪辣だ、しかも飛びっきりの。

これがこの砂上の楼閣に更なる劇物を投入するような行為になるかもしれないことをこの二人は知らない、まぁ、予知できたらこの外道は世界の覇者になっているのかもしれない。





「そして、どうするのだ、碇」

次に切り出した電柱の声には明らかに怯え、恐怖の色が強く現れている声、この老人がそれをあらわにする声を出す話題の対象は。

「何がだ」

「何。ではない。サードとレイのことだ。このままではどうしようもならんぞ。それに赤木博士が抜けた穴は殊の外大きい。何らかの対策が必要なのは貴様も判っているだろう」

言いたいことは判る、自分達の立てた計画の主幹となっている存在が二人もいない、この事実は外道達が立てた計画を根底から揺さぶるものだ、早急な解決が望まれるが。

どうやって解決する、あの殺人鬼を代表する魑魅魍魎相手に。

当面のところは殺人鬼相手にやられた組織内の建て直しが急務となる、だがこの二人組織運営の才能は然程無い、電柱は多少あるのかもしれないが、外道のほうは仮初の威圧感と他人の褌で相撲を取るような行為をしてこの立場に上がってきているのだ。

マトモな組織運営のほうの能力はない、並から見ても低いほうだろう、確かに何らかの能力がなければ今の立場まで上がることが出来なかっただろうが、その能力の大半は謀略、姦計、脅迫に費やされている、そして組織の人間も自分の使いやすい命令に従わない人間は自分の手元に置かない方針でいたから今の今までこの組織の運営が出来ていたのである。

この男は基本的に自分に逆らう人間は自分の手元には置かない、操れない人間は恐怖の対象にすらなりかねない、故に上の地位にいる人間ほど外道に逆らわない人間が就いている。

つまりはこの組織は一部を除いてはマニュアル人間の巣窟、命令されたことはこなすし、能力的には優秀、いや並のエキスパート並の人間も多くいるのだが、いかんせん命令されていないことに対する能力が極端なまでに低い、しかも管理職の人間にその傾向が強い。

柔軟性がないとも言えるが、つまりは命令がないと動けない人間の巣窟。

まぁ、そういう人間が多かったからこの二人でも組織運営が出来るのだが、つまりは命令が降らなければ何も出来ないということは命令に逆らうようなことも余りないのである、それが表の使徒殲滅組織としても、裏の外道の私兵集団としても。

故にこの二人は、少なくとも電柱は理解しているかもしれないが、今現在の組織の建て直しが必要である。

今までの裏と表の代表のようなスタッフの殆どが先の襲撃で殺戮されてしまっている。

無論全てが全て殺されてしまったわけではないが、発令所メインスタッフは総取替え、保安部等の数割は他の支部から送り込まれてくる、それに加えて老人会の私兵集団の常駐。

今までのマニュアル人間が寄越されるとは考えづらい、ある程度の自己裁量の出来る人間が寄越されてくるだろうからそのまま命令に従うかどうかは未知数と為る、その辺りは軍事組織の階級による権力でどうにかなるにしても、その命令が老人会のほうに殆ど筒抜けになってしまう、その点を考慮すると今までどおりの組織運営等をするわけには絶対にいかない状況に置かれている。

その自分の足元を固める作業を考える前に自分達の欲望を優先させる辺りがこの二人の底の浅さだろう、この組織が砂上の楼閣と呼べるのも間違いではない、その名の通り砂の上に立った外道の城なのだから、いつ崩落してもおかしくはない。

「暫く静観する。場所は判っているのだ。いざというときはどうとでもなる」

デフォルトの表情でそう呟いた、その声には何の感情も乗せられてはいなかったがこの男の心情としてはどんなものを考えて吐き出した言葉であろうか。

従うべき隷従するべき生贄が自分に逆らい牙を向き、恐怖を感じさせ、精神の根底に怯えを植えつけられる、この男のちっぽけな自尊心の中では許容できるようなことではないだろう、それを押さえつけて吐き出している言葉に違いない、本心ならば今すぐにでも八つ裂きにしたいところだろう。

ついでに場所は調べさせたが判ってはいた、というか調べる必要すらなかった、何せ外道は手紙を送りつけている、つまり住所などは把握していた、その把握していた住所から彼らは移動していない、勿論手紙送付後と送付前では条件は違うが住所だけは確認していたし、現在のところハッキングして上空にある衛星からの画像で零崎達が移動していないのも確認済み、つまり場所は割れている。

確かに現在位置を把握しているので多少の安心感を生じるかもしれないが、静観に立つというのは関わるのが恐ろしいのか、それとも余計な手を出してしっぺ返しを食らうのが恐ろしいのか、まぁ怖いというのは正しいのだろう。

因みに外道達は遅かれ早かれ殺戮される運命にはある、人類最強との約定は今日本日だ、つまりは翌日に零崎が再度来襲して殺戮を行っても約定に反したことにはならない、今殺されていないのはいつでも殺せるから、殺さないでおいている、ただそれだけ。

その辺りの自覚はないのだろうが、どちらにしても係わり合いになりたくないというのが本音だろう。

「それでいいのか。貴様の息子は、それにレイはどうするのだ」

「所詮は予備、それにレイはあいつ等に殺されても三番目に移行するだけ。問題はない。最悪周囲諸共焼き払ってしまえばいいだけだ」

やっぱり大量虐殺は考えているようだ。

まぁ、この考えは上記の理由で無理だというのが判るのだが、この外道本当に追い詰められるとやりかねない気もする。

ついでに予備を口にする時、若干口元が忌々しそうに歪み顔の前で組まれた手に力が込められたのは内情の憤怒の表れか、だが幾ら憤ろうとその激情が届くことは余りないのであろう。

既に捨て駒に位置づけられたこの男には何も出来ない、だが今の今まで、そして短い間ではあろうがこれからも他人を省みず捨て駒にしてきた男がその立場に立っていることを知らないのは中々の喜劇だろう、喜劇の俳優としては十全過ぎるほどに。





同日、京都市内。

「あーあ。むしゃくしゃする。気分が悪い。あのクソ女。もうこれしかないとか、この手段しかないとか諦めの言葉ばかり連ねやがって。気持ち悪いんだよ。ほんっとにあたしが嫌いな人間の五本の指に入る、あいつに比べたら烏の濡場島の占い師のほうがマシだ」

珍しく他人に対する悪罵を掃きながら京都市内を闊歩するのは赤いスーツの美女、つまりは人類最強、かなりご機嫌が悪そうだ、それ程ユイが嫌いだったのだろう。

この様子では絶対に神識よりも彼女のほうが嫌っている、大体神識のほうは嫌っているのかどうか自体が曖昧だし。

只、嫌われるよりも無関心になられるほうが母親としては救いが無いが、無関心は何の感情も抱かれていないこと、憎悪は感情の発露の結果、良くも悪くもその人間を意識している、気にかけて欲しい人間からの無関心ほど堪えるものはないだろう。

愛という情動に対する最悪の返礼は無関心、負の感情すら抱かれない無関心。

「姫菜真姫さんですか」

それはともかくとして会話を続けるのはいーちゃん。

「そう、あの占い師の百倍腹が立つ」

「・・・・それは。判りやすいというか何と言うか」

因みに京都市内を人類最強のお供として連れ出された戯言遣いが相槌を打つように会話に応じている、ただ彼には彼女のムカつき具合がなんとなく判っているようだが、他の面子には判っていなさそうだ。

この二者間にしか通用しない人物の会話なのだから仕方ないといえば仕方ないだろうが。

「それはそうと。いーたん、華に囲まれてうらやましぃ。ひゅー、ひゅー。で、人が不機嫌だってのに喧嘩売ってんのか。このあたしに対する挑戦かその状態は!!笑えねぇぞ」

どうやら今のいーたんの状態が彼女のお気に触るらしい。

因みにいーたんの状態。

彼の左腕側、戯言遣いに仕える殺戮奴隷、殺戮奴隷一族闇口の外れ、闇口崩子、十三歳の肌の白い美少女が彼と腕を絡ませている。

髪の毛をおかっぱにした可愛らしい華奢な女の子、それでも彼女は“暗殺者”。

未だに人殺しをしたことのない殺戮奴隷ではあるが殺し名第二位“闇口”の名を冠する少女“誰かの為に殺す”、その為に技術を身につけてしまっているその為にしか技術を使えない少女、その強さは比類ない、いまだ人殺しの経験は無いとはいえ“闇口”の名に恥じることはない。

殺し名“最悪”第二位“闇口”、ある意味零崎より恐ろしい殺戮集団、ある意味零崎よりも始末の悪い機械的殺戮集団。

頼まれれば、主と認めた人間に命じられれば何の迷いも躊躇いも、零崎以上に何も無く、唯一命令の遂行という意志を持って殺戮する殺戮機械、事務的な殺戮は零崎を凌ぐ戦闘力を保有する。

で、首にぶら下がるようにしているのが、殺し名第一位“匂宮”現在は理澄ちゃん。

“頼まれれば殺す”の殺戮奇術集団の最高の欠陥品、“弱さ”の少女。

あらゆる方面で強さを突き詰めようとした集団の一人、いや一人で二人。

そして右腕側、其処に一番視線が集中している気がする、因みに視線の主は二人ほど、今の戯言遣いの状態に不満を唱えた人類最強と、その状態を忌々しげに睨んでいる女性。

睨んでいるというよりは拗ねている視線というほうが適切なのかもしれないけど、まぁ、それはどちらでもいいことだろう、大差ない。

で、その腕の繋がりをかなり意志の篭った視線をぶつけてくれる女性、いーたん、彼女曰くいっくん、つまりはいーちゃんの同じ大学鹿鳴館大学のクラスメート(大学生でこの用語が適切かは知らないがこの元と為った大学では通用する)葵井巫女子。

大学生にしては童顔、普段は明るいであろう表情を少し暗めに歪めているがそれを抜いても可愛らしい美人さん、身長はいっくんと同じくらい、スタイルはまぁまぁ。

ファッションは今風、というかこの女性でマトモといえるファッションを誇っているのは彼女だけだったりする、他の四人の女性は崩子ちゃんを除いて独特すぎる、そして崩子ちゃんも地味っぽくてファッションといえるほどでもない。

どうやら出遅れたのか、腕にも首にも彼女の場所は残っていなかった。

そして特に右腕の繋がりを執念の篭った眼光で見据えてくれている、その執念は女の執念だろうか、それとも敵に対する敵愾心。

で、やっと当の右腕を絡めている人間、いや女性、彼女を女の子として扱うのは少々に無理がある、女性として扱うのが相応しい、女性としてはかなり奇抜な部類に入るとしても。

彼女は浅野みいこ、彼女曰くのいの字のアパートの隣人、二十二歳で戯言遣いの年上のおねいさん、長い髪を高い位置でのポニーテールにしているハンサム系の美人さん。

和風趣味で現在男性と腕を絡めながらも甚平を着用、何処かの誰かさんのように赤い生地の背中部分には白抜きで鎧袖一触の文字、微妙に物騒な文字ではある、なおそのような服装をしているので人格的にも奇抜なのだがこの六人の中では比較的に常識人だと思われる。

追記すると一番戯言遣いに密着しているのも彼女、そのクールな容貌に微妙な朱がさしているのが可愛らしい、そして彼女の行動に一番嬉しそうにしているのもいの字。

まぁ、現状で嫌そうな顔をしているならばガゼルパンチを喰らわせてくれる。

だが、現在不機嫌な赤い請負人、幸せそうな傍目には幸せそうで実際に嬉しそうなのが気に入らない、人間である以上自分が不機嫌な時に見るからに幸せ一杯の人間は気に入らない、これを責めることは出来ないだろう。

「大体なんだ。いーたん。いーたんを苛めて憂さでも晴らそうかと外に繰り出してみりゃ。なんかゾロゾロついてくる。あたしらなんか奇抜な一行か?」

「いや、そんな理不尽な」

確かに彼女の言うことは理不尽だろうが、誰が好き好んで苛められについてこさせられにゃならんのか、それを真っ当にいうほうも言うほうだが。

因みに奇抜な一行の中のエッセンスに自分が入っているのは自覚しているのだろうか最強。

それはともかくとして、周囲の嫉妬とかを集めて、更に十三歳の美少女というのが犯罪チックな幸せ者、彼の周囲でも幸せではなくなりつつある。

このまま幸せなのは誰もが許さないだろうから、この展開は必然なのだろうけど。

というか、ここ暫く、少なくとも同居が始まってからはこの展開に陥ることがしばしばある、つまりは珍しいことではないが当人、特に男性にとっては楽しくないだろう。

因みに赤い人以外の面子は一応は外に食事に出かけているのだが、赤い人の奢りで、でも赤い人はいーたんしか連れてこようとしなかったから他の四人は完全に彼女にとって付属品だろう。

「それで。戯言遣いのお兄ちゃん。みい姉様はともかくとしまして。何故このお二人が連れ添っているのです。人類最強のお姉ちゃんとのお出掛けとしてついて来たはずですが。浮気はいけません。そんな度胸は戯言遣いのお兄ちゃんにはないと思っていたのですが」

中々辛辣だね、でもねいーちゃんは結構八方美人だよ、それに表情を変えずに淡々と言われたら怖いよ、崩子ちゃん。

それ以前に主人である戯言遣いのお兄ちゃんには反論も反抗も出来ないのが闇口、殺戮奴隷闇口としての絶対則なんじゃないのかい、戯言遣いのお兄ちゃん自身がそういう権利を許したのかもしれないけど。

「私としてはみい姉様なら構わないのですが。教育上好ましくない関係は道徳上控えるようにお願いします・・・・・・・・・・・・・・戯言遣いのお兄ちゃんには関係のないことでしょうか、関係があっても少々困りますし。最近猶予がありませんし」

何が少々困るんだろう、いーちゃんに道徳観念が備わっていると。

「何が困るの、崩子ちゃん」

その瞬間ものすごい勢いで、因みに予備動作無しで崩子ちゃんの足が振り下ろされたけど、間一髪でよけるいーちゃん。

威力的には足の甲の骨が折れてもおかしくない勢いではあった、容赦が無い。

「何で避けるんです。戯言遣いのお兄ちゃん」

さらっと言ってくれる。

「避けないと、かなり痛いよ、今のは。それに何で攻撃を?」

「当然です、そうなるようにやっています。それと理由は自分で考えてください。戯言遣いのお兄ちゃん。悩んで考えて答えを見つけて下さい。そうしないと私が浮かばれません」

美少女と青年の朗らかな会話が展開されていた、無論これだけで済むわけでもないが。

人類最強を除いたとしても後三人も女性に囲まれているのだから。

「それにしても。モテモテだね、お兄さん!!!久しぶりに会ったときには一杯いるからビックリしたよ。お兄さんって女たらしだったんだね。こういうのを女の敵って言うんだね!!!!!」

「大声で言わないでくれる、理澄ちゃん。それに僕は女たらしじゃない」

彼女曰くのお兄さんの首筋にしがみ付いてとんでもないことを大声で口走る女の子、戯言遣いにしては体裁が悪いどころの話ではない、完全に周囲の視線に敵意が混ざり始めている、彼にも世間体という認識ぐらいは持ち合わせている。

「白々しくも、言い訳だね!!」

完全に戯言遣い世間の敵になった。

「なーんか、少しだけ気分がマシになってきたかなぁ。あたしが苛めない分少し不満だが」

そんなことを呟いている人類最強。

そして喧騒は続く。

「それにしてもいの字。お前がかなりの過度の抑制の効かない浮気者だというのは以前から理解していたと私は承知していたのだが。最近酷過ぎる気がするのは私の気のせいか。むしろ加速している」

基本的に直情的な性格を保有する彼女にしては遠回しな皮肉である、それだけ不機嫌なのだろうか、その割にはかなりぴったり引っ付いて幸せそうなのだけど。

言っていることが背反矛盾だ、言葉が一本調子なのも彼女の特徴の一つなのだろうけど。

「お前の恋人は私の筈だな。いの字」

因みにいの字は微妙に表情が引き攣りつつだ、どうやら彼にとって一番恐ろしいのが右腕にいる彼女のようだ。

「そうです。みい姉様。戯言遣いのお兄ちゃんは節操がありません、男として最低ランクです。だから面倒は私が見ましょう。ですね、戯言遣いのお兄ちゃん」

サラッとトンでも発言をかましてくれてないか闇口のお嬢さん、しかも大好きなお姉さんを睨みつけますか。

で、今まで何の発言も無いがこのお嬢さんがここまでおとなしいほうが奇跡に等しい、誰かというと右腕の繋がりを執念の眼光で見つめていたお嬢さんなのだが、今の今まで会話に耳立てていたのだ。

因みに彼女はいーちゃん、いっくんの学校外での人間関係に疎い、彼女がいっくんと一つ屋根の下に生活してきてからも二人きりで話すような機会が無い。

その辺は現在のところ当事者の二者間で恋人同士が成立している二人がかなり一緒にいたり蒼い天才と充電中であったり何かと独りでいないことが多いからなのだが、因みに蒼い天才はいーちゃんが誰とらぶしていてもいいらしい、心の広いことだ。

まぁ、収穫としては彼女がいっくんに関する人間関係、主に女性関係の外形がみえたと言うところだろうか、見えた所で敵の多さを確認するだけの作業でしかないのだろうが。

ただ見ているだけでは判らないことも多い、判らないことは聞けばいい、そういう選択は素直な女の子だった、巫女子ちゃんは。

「ねぇ、いっくん。みいこさんは私知ってるけど。他の人達はどんな関係なのかな。来たばっかりで知らないし。みんなとお話したいし。教えてくれないかなっ!!!」

それに対する答えは。

「性奴隷です」崩子ちゃん。

「愛玩ペットなんだね!!!!」理澄ちゃん。

「恋人だ」みいこさん。

「僕」人類最強。

色々問題がありそうな発言ではあるが、一人だけまともだけど。

そんな質問の返答を返された巫女子ちゃん、リアクションは、なんとも愉快だった、彼女らしいハイテンションとも言えないことも無いが、この場合完全な暴走ではないだろうか、確かに自分の思い人についている女の子がアレな発言をしたら動転するのも判らんでもないが、この程度で動転していたらこれ以後やっていけないと思う。

「いっくん、いっくん、いっくん、いっくん、いっくん、いっくん、どういうこと、どういうこと、どういうこと。こんないたいけそうな少女二人が性奴隷、愛玩ペット。そんなの鬼畜だよ、人非人だよっ!?うそウソ嘘!!いっくん、変質者。変わっているし変人だし、奇人変人大集合な人格保持しているけど犯罪者じゃあ無いと思ってたのに。うん、これは夢。悪夢、はい決定!!!!≪探偵は真実を見た!!でも探偵の性癖は覗き趣味、しかも幼女専門≫みたいな!!で、悪い夢から清らかな現実へと・・・・・ぶつぶつ

うん、完璧に動転している、両腕をなんか不可思議な動きをして、現実否定をして、拒否して最後にはなんか別の世界に旅立ってしまった、せわしないお嬢さんだ。

「あたしらの発言は無視か」

「だな。だが、いの字は私の恋人で、誰かの僕ではないぞ」

「そだな、いーたんはあたしの友達だし。おっと、セックスフレンドでもないぞ、予め」

忙しい発言を無視して何やら話している大人の女性二人だった。

で、引きつった表情をしているいーちゃん、現実を放棄している巫女子ちゃんを少し無視しつつ、トンでも発言をかましてくれたお嬢さん方に質問する。

「ねぇ、二人とも。その僕の社会的立場において最強の武器になりそうなアイテムは何処の誰に貰ったのかな。お兄さんに教えてみよう」

判り辛い言い回しだが意味は通る。

「春日井さんです」

「魔女のお姉ちゃんなんだね。こう答えると、お兄ちゃんが可愛がってくれるって。教えてくれたんだね。あのお姉さん親切だから大好き!!」

「あの二人、殺してやる」

何やら物騒なことを呟いている、因みに魔女のお姉ちゃんというのは、蒼崎橙子ではなく七々見奈波、いーちゃんのアパートの人間なのだが何故かいーちゃんに意地悪する謎多き女性である、この時、戯言遣いがこの女性二人に報復を誓ったそうだがどうなることやら、この二人は中々に厄介だから。

「つまりは。そう言うように言われたんだね」

「ええ、お兄ちゃんとの関係を聞かれたらそう答えるようにと。特に相手が女性の時有効だとおっしゃってらっしゃいました。確かに有効なようですね」

「僕は夜、お兄さんの部屋に忍び込んでから言うように言われたんだね!!!そうしたら手を出すからって。変体趣味があるはずだからともとも言ってたんだね!!!色々教えてくれる親切なお姉さんなんだね」

色々って所をかなり追求したい今日この頃である、精神的に疲れるだけだろうけど。

「本当に殺してやる」

更に物騒なことを呟きつつ。

「えーっと、その台詞は僕に対してかなり。・・・・・・・・・・まずい。僕の人生上、僕の社会生活に関して・・・・・・・・・とっても。二人ともあの二人から聞いたことは言わない様に。これお兄ちゃんのお願い」

かなり疲労している、言葉で人間これ程疲労するのかってぐらい疲労している戯言遣い、まぁ、彼には疲労という疲労を味わってもらいましょう、これまでも、これからも。

「と言う訳で。巫女子ちゃん、この二人は性質の悪い性悪に質の悪い事を吹き込まれただけだから。僕の性癖、趣味に対して問題ないと・・・・・・・・思う」

何だ、その間は、微妙に何か心当たりでもあるのか戯言遣い、心当たりあるのか、もしかしてみいこさんとのプレイあたり、それとも恩師の調教か。

それはともかくとして、一応の無罪が証明されたいっくんに対して巫女子ちゃんの反応。

「そうだね。いっくん少女趣味じゃないよね。どちらかというと年増趣味だもんね(みいこさんの額に青筋が)。もう少しで警察の人に救助を頼むところだったよ。何の救助かって言うと私も判らなかったりしたり?」

と、反応を返すが、すかさず、そういう表現が適切なタイミングで、言い換えれば空隙を縫って放たれた一言。

「まぁ、私が戯言遣いのお兄ちゃんの奴隷というのは間違いではないのですが。それにいずれ性奴隷にもなることでしょう。私としては七年程お待ちして欲しい所ですが。因みに私、性奴隷の意味判ってますから、少女ですし」

確かに彼女はいーちゃんに忠誠を誓った闇口の奴隷なわけなのだけど。

この瞬間空気が凍った。

そして、次の瞬間いーちゃんは神に感謝した、別に普段から信じちゃいない癖に、一応は感謝した。





同時刻、ネルフ作戦部長執務室。

誰もいない執務室、つまりは部屋の主がいないということになるのだが、この部屋凄惨という言葉がものの見事に的中している。

未読、未処理の書類の山+こういう職場には絶対にあってはならないアルコール飲料の缶多数、加えてつまみと思われる食品の包装の残骸無数、そしてインスタント食品の残骸、しかもカップ麺の汁が毀れているのか部屋の隅っこのほうでは褐色の水溜りが異臭を放っている、極めつけにこちらは読まれているのだろう漫画、女性誌、車雑誌の山。

本当にここは仕事場かと疑いたいほどの惨状、大体ここまで部屋を汚せるのは小学生でも難しいんじゃないだろうかってぐらいの凄惨たる有様、仕事場というよりはゴミ屋敷ならぬゴミ部屋。

今この部屋の主が何処にいるかというと。

京都にいた、因みに髭はその手の命令は下していない。

なお、現在まだ補充されていないが生き残ったネルフ陸戦隊を率いて(前回出撃していなかった)、そして彼女の机の上では雪崩を打ったような惨状だったが一番上にはサードチルドレンに関する報告書、多分適当に書類を崩したら調度出てきてしまったのだろう。





で、京都に放たれた野獣こと畜産動物ウシ、別名ネルフ飼育、自己願望&妄想肥大化生物靡娑刀ミサト(完全に当て字です)。

彼女、現在サードチルドレンが命令無視をして、因みに所属をしていないから命令を聞く必要が無いのだがその辺に脳が回る可能性は絶対にない、あったらその時が物語の崩壊の時、故に絶対に気付かない、命令を無視している餓鬼を自分の手元で服従させようと京都まで来ていたのだが。

なお、一応ネルフを滅茶苦茶にした連中の一味ということでネルフ陸戦隊を無理矢理率いて京都に来ている、ついでに言うと虐殺風景などはMAGIのログにも残っていないので彼女はどのような手段で誰が殺戮をなしたのかは知らないが。

知らないが、何故あれだけのことをやってのける連中に関わりを持とうとするのだろうか、仮にも作戦部長だろう、本当に仮にもだろうが彼我の戦力分析フライできないでどうすると突っ込みたい。

だが、そんな突っ込みは無意味の局地なのだろうが。

ただ、彼女のような有象無象が不到達の結界を踏破してたどり着けるわけが無かった。

つまりは延々と探し回ることになるのだが城咲周辺を、高級住宅地の中をネルフの陸戦隊を乗せた十台にも及ぶ黒塗りのバンを従えて。

で、常識的に考えて高級住宅地に、まぁ怪しんでくださいとばかりに同じ車種の車がゾロゾロと長時間ウロウロしていると通報されるわけだが。

で、この時この害獣にとって不運だったのは何故かこの通報を聞いて駆けつけたのが、京都府警本部が誇る、最悪の警察キャリア官僚。

キャリア官僚など自分の出世コースだけを考えて切磋琢磨してくれればいいのに、そのキャリアに身を置きながら犯罪者に対して遠慮も容赦も呵責もない女性キャリア。

京都府警刑事部参事官、薬師寺涼子警視。

別名ドラ避けお涼(ドラキュラも避けて通る)。

犯罪者という犯罪者を己の職分のままに、または己のタノシミの為に摘発するある意味警察官の鏡である、ある意味という時点で彼女が善良な警察官でも、義憤に燃える正義の警察キャリアでないことも伺わせる。

はっきり言えば彼女は合法非合法を問わず犯罪者を陥れその醜態を眺めて悦に入るというかなり世間的には被害が出ない(税金の無駄遣いしか能のない腐敗官僚に比べて)ヨロコビの為に警察官をしているのだ、しかも彼女はその己のタノシミの為に警察内部のヨワミをそれこそグロスの単位で握っている。

そんな彼女が対テロ部隊を率いて(その関係キャリアを脅して出動させた)ミサト率いる良子視点の不審者に職務質問という名の挑発行為を行う。

その騒動が凍った空気と為ったいーちゃんの一行、特にいーちゃんを助けるのだが。










To be continued...

(あとがき)

今回も対談タイプで行きますが、その前に今回は少し軽い、文章的に軽い感じの内容で収まりました。

誰も死んでないし。

それに新キャラの出ること出ること、新たにクロスした作品もありますし。

新しくクロスしたのは、『君と僕の壊れた世界』西尾維新、『薬師寺涼子の怪奇事件簿シリーズ』田中芳樹、でどちらも講談社ノベルスです。

次回は薬師寺涼子が大暴れ、そしてネルフではフォースチルドレン病院坂黒猫の毒舌が蔓延します。

では対談。

黒猫「ふむ、始めましてだ。私は病院坂黒猫。この度この場所に参ずる事を許されたことは僕にとって実に嬉しいことだ作者君。今回僕は名前だけしか登場していないのだが、その辺に寂しさを感じないでもないがそれについては詰るつもりなんて僕は欠片も持ち合わせていないよ。僕はこの場に立てることが嬉しくてしょうがないのだからね」

作者「長い挨拶をどうもありがとう黒猫さん」

黒猫「それにしてもどうしたことだい。僕がこの場所に立つことが出来るのは嬉しい限りなのだが。今回は、今回ばかりは少々常軌を逸した新しい登場人物の登場数じゃないかと僕のささやかな計画性という言葉を認識する脳細胞が告げているのだけど。どうなのだい?これは流石に多すぎるのではないのかい。いやいや僕は作者君の能力を疑っているわけじゃないんだ、それに僕は計画性のある人間よりもある程度は無計画な人間のほうが好きなくらいなんだよ、だから君をそのことについて邪険に扱おうなんて心の片隅にも思い浮かべてなどいやしない。だがね常識的に見れば少しばかり登場数が多いとは思わないかい。この第四話だけで僕を含めて十九人だよ。それに様刻君も出るのだろうから二十人、それに薬師寺君、彼女の従者も登場するとなれば今回だけで二十一人。これはそうそうたる数だと僕は考えるわけだよ。この数字を見る限りは、僕の悪意の介在する余地無く、君は無計画で無節操に出していると断じるしかないだろう。この僕の見解に間違いがあるなら指摘してもらおうか」

作者「善処します」

狐さん「『善処します』。ふん、誰にでも言える言葉だな−だが、どうでもいい、同じことだ。−物語は流れるままに流れるだろうよ」

作者「おいででしたか、狐さん」

狐さん「『おいででしたか』。おいでだ、最初からな」

作者「それはそれは」

狐さん「『それはそれは』。何だ」

作者「何でもありません」

これ以後黒猫VS狐さん毒舌大合戦が展開される予定です。





いーちゃん「作者。もしくは二号」

作者「なんだい、いーちゃん。ちゃんとみいこさんといちゃいちゃさせて上げたじゃないか。それ何になんだいその手にあるアンロックドブレードは。そんな小さなナイフでもちょっと怖いよ」

いーちゃん「やっぱり僕はギャグ担当の汚れ」

作者「うぃ。でもいいじゃん今回赤い人ともえっちぃ雰囲気になれたからさ。モテモテ。うらやましー」

いーちゃん「変わる」

作者「断固として拒否する」

これ以後再び追いかけっこ勃発。



崩子ちゃん「では、作者に成り代らせて頂きまして。息災と、友愛と、再会を」



(またまた個別のリクエストにお応えして、ながちゃん@管理人のコメント)

な、長い……今回も相変わらずの凄まじいほどの量ですねぇ。
まぁ、私も人のことは言えませんが…(汗)。
ここにきて、またまたいっぱいクロスしてきましたな〜。
登場人物も後から後から目白押し!
小説知らないので、整理するのに大変です(笑)。
京都の街は、愉快な仲間たちでいっぱいですね。
しかし碇ユイ、憐れですなぁー。
11年ぶりの感動の再会も、実の息子から絶縁状(?)を叩きつけられ、しかもそれを受け入れられない。
だいぶ頭固すぎですな。ちょっと独善傾向過多かも?
これについては、まだまだこれから一悶着ありそうな雰囲気ですね。
ホント、どうなるんでしょうか?個人的には、彼女も「殺人鬼」の素養たっぷりと思うんですがね…(笑)。
しかし何ですな〜、鬚…もうだめぽ、と思いきや、これまたしぶとい!
正直、もう退場かなと思っていましたが、まだ甚振り尽くすなり、使い道があるようですね(笑)。
ネルフはもはやゼーレの傀儡でしょうか?
そして洛中お笑い軍団と対決(単なる噛ませ犬か?)…実に楽しみです。大いに笑わせて下さい♪
しかし肝心の使徒戦はどうなるんだろう?片手間に殲滅とか?
今回、牛さんの活躍(?)が薄かったですね。ちょうどいいところで切れるし(笑)。
ま、次話持ち越しということで、期待しておりますよ♪
(次話は冒頭から牛さん大暴れ…ですよね?)

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