第二話 家族+少女+涙
presented by sara様
第三使徒殲滅。
目の前に起こった認めがたい現実。
赤木リツコは呆けていた、受け入れられなかったから、科学者として目の前の現象に。
何も使徒が倒されたのが受け入れられないわけではない。
目の前の現象を自分が受け入れられず、受け入れることを拒絶する。
受け入れられるわけが無い、今まで自分が信じてきた科学では目の前の現象は説明できない。
空間に突然大質量が顕現することなど有り得ず、またN2を超える爆発を起こすエネルギー系、その反動に耐える装甲、そして生じたヘキサグラムどれもが不可解で、彼女の中の知識は答えを与えなかった。
故に、混乱していた。
その在るはずのない現象から答えを探す為に。
それが科学者の性だろう、知らないもの判らないものを知ろうとする判ろうとする、それが科学者の資質であり。
そして彼女は優秀な科学者だった。
だが、後に気づくことになる、そしてさらに驚愕するだろう。
このとき使徒のATフィールドがどうなっていたのかという疑問を。
そしてさらに彼女を疑問の渦に落とすだろう。
その疑問が彼女の転機となるかもしれない。
葛城ミサトは、その撃たれた足の痛みに顔を顰めながら、当初モニターをほくそえみながら眺めていた。
エヴァでなければ、使徒を倒すことが出来ないという定理を信じ切っていた、事実波状攻撃では傷一つつかず、その歩みを緩ませるだけしかしていない。
しかし気付いていなかった。
彼女の主観で何の意味もない攻撃を繰り返した国連の切り札などたいしたことがないと高を括っていた、そしてそのときこそ逆襲の時だと、だがその意味に気付かないのが無能の由縁だ。
そのあからさまな波状攻撃が何を狙ったものか、瑠璃が何を最も憂慮していたか。
彼女が露ほども考えない事象故に見抜けなかった,あまりに単純な、軍人として何のために戦っているかを考えれば自明の理、それさえもわからない復讐ににごった女。
だがその笑みも、いきなり現れた巨人に呑まれ、一瞬で自分の復讐の対象が消し飛ばされる。
この女が真っ先に抱いたのは怒り、理不尽な怒りだった、自分が倒すはず、予定では自分の駒になる子供を乗せ自分の指揮で倒す筈であったものが、いとも簡単に倒される。
だから憎悪する、目の前の自分の権限を奪った女を、仇を奪った巨人を、自分に従わぬ少年を。
それがどれだけ理不尽で傲慢なことか知らず、それを正当な怒りだと信じて。
その怒りを際限なく燃え上がらせる。
もう舞台からは降りられない。
舞台の主演女優はこの喜劇で悲劇の舞台で優雅に醜態を演じるだろう。
六文儀ゲンドウ、もっとも理不尽な怒りを抱いていたのはこの男だった。
道具になるはずの息子は従わず、傀儡であったはずの国連は牙を向く。
奴隷と変わらぬと思っていた部下は反旗を翻し、子供のような小娘にいいように罵られる。
そして、初号機を使わぬ使徒殲滅、シナリオは狂い、初号機は覚醒せず、自分には両脇に立つかつての奴隷に銃で脅される始末。
傲慢な、プライドの塊のような不遜な男には耐えられる侮蔑ではなかった。
ついでに普段から不満が積もり積もっているのだろう、両脇に居る陸戦隊からの扱いも悪い。
だがどうすることも出来ない、手持ちの最強の戦力(ネルフ陸戦隊)は憎しみの対称に奪われ、虎の子の特務権限も意味を成さない。
本来小心者のこの男が、何か出来ようはずもない、だが、これで引き下がることなど出来ようはずもない、愚かな男は、それに相応しい愚かな考えを巡らす。
すでに自分のシナリオは大幅な修正を余儀なくされていることにも気づかず。
そして始まる、ここからが第一幕のフィナーレだ。
モニターの中で、使徒を一撃で吹き飛ばした巨人が出現と同様に姿を消す。
そして金縛りにあっていたように硬直していたネルフメンバーが行動を再開する契機となった。
その表情に張り付くのは、殆どのものが驚愕と畏怖。
あまりの力、あまりの不可思議に。
理解を超える、それが人間という知的動物にある根源的恐怖、理解できない、だから怖い、未知なる者に対する恐怖。
その目に映るものは、未知に対する恐怖。
恐怖こそが人の動きを縛る最大の呪縛となる。
特に未知に対するものは格別に。
さぁさぁ、再び僕が語り部を勤めよう。
困惑に歪むネルフ一同、砂上の楼閣、仮初の権威が崩れた瞬間だ、あぁ見ものだ、その表情、その思念。
恐怖。
なんて美味しいスープだろう、なんて美味な感情だろう、いいよ、いいよその思念僕の糧に相応しい。
ああコースはメインディシュに移る、僕の胃を満たしくれる、僕の舌を楽しませてくれる、ああ僕はお肉がいいなぁ、さぁ食べさしておくれ、お姫様。
その愚者たちの醜態というお肉を。
始まるよ。
女が、男が、怒り狂っているよ、君を睨みつけている、両手を捕らわれた、何も出来ない愚者がその口で醜態を語るんだ。
自分で自分の醜態を、おぞましい声で歌っているよ。
僕の食を進ませるなんとも心躍るメロディーだ。
でも自分が上位者じゃないとなんで解らないんだろう、そんなことすれば怒れるお姫様はもっと上手に肉を焼いてくれるじゃないか、なんて君たちは良質のお肉だろう。
自らより美味しくなろうとしてくれる最高のお肉だよ。
姫様はそれに敬意を払って最高の調理をしてくれる。
僕の舌を楽しませる。
勿論肉となった愚者はさらに愉快になってくれるんだ。
さぁ、出て来た上質のステーキだよ。
理不尽な怒りをもった愚者達はすでに我慢など出来ようはずも無かった。
己が傲慢な欲望は悉く邪魔され、望みは潰えつつある。
だが牙の抜かれたハイエナに何が出来るという。
ハイエナに獅子の群れに敵うことは無い。
そこに更なる追い討ち。
瑠璃がその麗しい唇から紡ぎだす、冷徹な命令。
情けも容赦も無い無慈悲な言葉。
「現時刻をもって、特務機関ネルフの交戦権の凍結を解除、施設を返還いたします。
但し、以後特務権限を制限、また関係者に対する事情聴取を行い、この度の失態を追求します。
問題を明白とするまで現ネルフ総司令、および副司令の権限を凍結、こちらの監視下に起きます、また権限回復までの司令代行は私が行いますのでご了解を」
了解を執っているがこれは絶対命令、拒否は許さない。
とても受け入れるものではない、そんなことをされれば、企んでいたおぞましい計画が露見する可能性があった、そうなれば男のシナリオは瓦解する、それでも周りにいる陸戦隊は屈強であり、男の力の象徴たる権力は現在意味が無い。
「拒否する」
それでも傲慢なこの男は拒絶する、自分の傲慢望みのままに、己の我が侭のために。
「拒否は認められません、何らかの抵抗を致すようでしたら物理的にあなたを拘束することになりますが」
淡々と冷静に紡がれる言葉。
対照的にゲンドウが見て判るほどに歯を噛み締め、その組んだ両手に力が篭る。
「拒否すると言っている」
再び繰り返される言葉。
「六文儀二将、私はあなたの上官です、言葉を慎みなさい、意見はそれから聞きます」
しかしプライドの塊の男が小生意気な小娘に敬語など使えるはずも無い。
何より他者を威圧することで今の地位についた男だ、傲慢さなら類を見ない。
「拒否する」
「どうやら言葉が通じないようですね、やはりウエストのいう通りかしら、では、冬月副司令,ご了解を」
あからさまに侮辱され、無視された男がさらに怒りを募らせる。
「貴様」
瑠璃はそれを無視し。
「では、関係者一同、我等が部隊到着まで現状維持、反旗を翻したと見られる人物には懲罰をもって接します」
「拒否すると言っている!!」
ゲンドウが吼える。
だが。
「その根拠を、拒否するだけの材料を提示してください、国連事務総長の委任状を携えた私の命を撤回するものを、でなければ拒否は認めません、それとも貴方の後ろ盾の老人会を期待しているのなら無駄です、貴方には今この設備を使う権限が無い、連絡の取りようが無いでしょう、老人会が気づく頃にはこちらの仕事は終わっています」
ゲンドウの後ろ盾など当に見抜いている、ネルフ本部に対する国連の介入など当の老人会にとっても認められるものではないが、連絡が行くのは暫く後だろう。
ここの関連施設は完全に押さえている、もしゼーレが知っても、それを恐れる瑠璃ではない。
ゲンドウの切り札は意味を成さない。
ゲンドウはそれを言及され。
「何故、貴様がゼーレを知っている。」
「覇道ですよ私は、それで十分でしょう」
そう、それで十分だ、覇道その名はゼーレに匹敵する、彼女がその存在を知っていても不思議は無い。
この男は自分こそが最大であるがために瑠璃を見縊っている、このような小娘に何が出来ると。
「何、ご安心ください、今回は事情聴取のみ、本部施設の検閲は行う予定はございません。
ですが、問題がある場合お覚悟を」
瑠璃は見透かした目でゲンドウを一瞥する、嘲笑に満ちた目で。
ゲンドウはさらに怒りを募らせ、狂わんばかりに頭の中で瑠璃を数百回は犯し,殺し、嬲っているだろう。
それでも何も出来ないのだ。
目の前にいる人間が自分の上位者であることを頭では認めようとせずとも、小心者で臆病者なこの男は本能で逆らえなかった。
所詮威を借る狐、本物の獅子の前に立つ度胸などない。
この男に比べればゼーレの老人のほうがよほど肝が据わっているのかもしれない。
そしてもう一人噛み付いてくる女。
この女はネルフの暗部など知りはしない、自分の領土が侵されるのを嫌っただけだ。
だが、そのため愚かでもあった。
いやもしかしたらゲンドウのほうがある意味マシかもしれない、あの男は自分が悪であると自覚程度はしている、只それに罪の意識などかけらも持ち合わせていないだけだ。
だが、この女自分の行動を正義と信じきっている、自分の言は正しく、行動は正当であると信じきっていたのだ、ゆえに自分の思い通りに行かないことはすべて相手が悪い、自分は正しいと思っていた。
はっきり言ってゲンドウより性質が悪い。
つまり。
自分の正義=我が侭を適える場所を土足で踏みにじられるのが気に入らない。
「ふざけてんじゃないわよ、あんた何様、こっちは命掛けて戦ってんのよ。
犯罪者のような扱いうける謂れは無いわよ!!」
前話に書いたが、瑠璃は元帥、ミサトは一尉、8階級の差がある、この差は一階級でさえ敬意を払うべき差である軍隊において、反逆と執られても文句の言えない態度だった。
たとえ所属が違うといえどだ。
というかこの女、軍事訓練ちゃんと受けたのだろうか、真っ先に叩き込まれるのが軍隊の序列、上官に対する敬意のはずなんだが。
「いいえ、貴方達にその犯罪の容疑が掛けられています」
「どういうことよ」
「時間的猶予があったにも拘らずパイロットを当日に招集、しかも訓練を課していない。
さらにファーストチルドレンは怪我,セカンドチルドレンは召集していない、これは多くの権限を与えられているにも拘らず明らかな怠慢であり、それに対する嫌疑。
さらに使途不明金、組織だった横領の嫌疑が掛けられています、これに関しては後ほどさらに国連より監査団が入りMAGIのログを調査することになっております、これだけの嫌疑があれば十分に犯罪集団と認知されてもいたし方ありませんね」
「そんなこと知ったこっちゃ無いわ、こっちは必死になってやってんのよ。
大体サードはあんたたちが隠してたんでしょうが、そっちのほうがこっちの邪魔してんじゃない」
「それは違います、シンジさんは約十年前、私たち覇道が保証人となり、孤児として保護され、ある適性によりこちらに協力を進み出てくれています。
既に親権もこちらにあり、それについての当時の裁判記録も残っておりますので、ですが六文儀ゲンドウ氏は召喚に応じず、出廷されていませんでしたが」
なおも叫ぶミサとであるが瑠璃はそれを無視しそれに腹を立てたミサトが掴み掛かろうとするが。
「この餓鬼がぁっ!!!!」
一瞬で割り込んだウィンフィールドによって、ボディーブローを受けて昏倒した。
「ご苦労様、ウィンフィールド」
「つまらぬものを殴りました」
ハンカチで手をぬぐいながらそうコメントするウィンさんでした
ああ、騒乱が始まったね、出て来たステーキもなかなかの味わいだったよ、怒りと屈辱というステーキはそれはそれはジューシーだった。
さぁ、暴かれる恐怖に怯えるか、それとも踏みつけ荒れたプライドに対して怒りを募らせるか。
ああ、終幕は近い、もうすぐフィナーレだ、第一幕は終わってしまう。
でも。
最高の喜劇が残っている。
ああ、もう始まっているようだ、だけどみな黙して語らない、有力な情報など手にはいらない。
でもそんなこと判っているっだろう、お姫様、そんなことで僕の喜劇は傷つきはしない。
だってこの喜劇は愚者たちの演劇なんだから、その狂った感性を僕に見せてくれるためのものなんだから。
ああ、始まったデザートの準備が。
ある少女への聞き取りが。
ああ、なんて内容だろう。
なんて可哀想な子だろう,いいよ、いいよ,お姫様いい感じに怒っているじゃないか、その怒り最高のクリームになる、それをやつらに注いでやるんだ、それを掛けて食べるフルーツはとてもとても甘いに違いない、僕を満足させてくれるに違いないよ。
ああ。
悲劇だこの少女は悲劇の象徴だ、少年の顔がゆがみ、狂歌学者は怒りに震え執事は不快そうに顔をゆがめているよ。
ああ、君たちも怒ったんだね、トッピングも十分のようだ、これは期待以上に美味しい美味しいデザートが出来上がる。
ああ、その怒り、その激情,この喜劇で悲劇を彩る最後のエッセンスだ、不可欠なものだ。
ああ、甘美だ、今から舌を入れるデザートの期待に僕の体が火照っているよ、誰か静めてくれないかい。
もう堪らない触れないでもイッテしまいそうだ、ああ今入れられたら、狂ったようによがってしまう、淫靡な嬌声をあげてしまうよ。
孕んでしまうのは間違い無しだ。
ああ九郎君、僕を抱いて鎮めてくれないかい、幾ら注いでもいいんだよ、望む限り僕を貪っておくれ、そのさなかに食べるデザートは何者にも勝るだろうから。
特に重要と見られた人間は瑠璃たち自らが尋問に当たっていたが、有用な情報は掴めず、それでもサードチルドレン、および他のエヴァパイロットに対する不備は浮き彫りになった。
あまりにずさん、あまりに稚拙な迎撃準備は隠しようが無く、なまじ黙して語らないことが苛烈な追求となり露になった。
無論ゲンドウたちも受けたのだが彼らは黙して語らずそれでも目の前に突きつけられた証拠に臍を噛んでいた。
これはどう言い訳をしても、言いつくろえるはずは無い。
事実たとえ数日でもサードチルドレンを事前に召集できたにも拘らず召集したのは当日でありファーストチルドレンは負傷しており,セカンドチルドレンは本部に居らず、いまだドイツ。
この状況証拠はどうにもならず、金銭的な不明な流用に対しても、僅かながら情報が流出されていた。
事実ゲンドウに忠誠を誓う職員など皆無であるネルフにおいて、自身への司法的罰則があると言うだけで、些細ながら自白する始末。
ゲンドウの人徳がわかるというものだ
なまじ正義感の高い職員は、提示された証拠に呆然とするものもいた。
始めから無かった,上層部への信頼が地下へ潜ったらしい、もともと無いのはゲンドウとミサトのせいだが。
そして最後に、瑠璃達が自ら訪れた病室にて、綾波レイ、ファーストチルドレンに対する事情聴取を行うこととなった。
「あなたがファーストチルドレン綾波レイですね、いくらか質問よろしいですか。」
瑠璃が出来るだけ丁寧にやわらかい口調でレイに質問の許可を求める。
対する少女は、全身に負傷の痕が見受けられるが、その傷に瑠璃が眉を顰めたが。
少女はそれを意に介した様子も無く淡々と感情の抜け落ちた声で。
「問題ないわ」
といい、質問に答えることを許可する。
このような負傷の少女に質問を強いるのは瑠璃としても心地いいものであるはずも無く。
心苦しいほどだが。
それでも、今行われたのは、この少女が重要であると判断されたためだった。
後ほどでは、この少女がゲンドウ達に何らかの処置がされるのを恐れたためであった。
過去の経歴は一切抹消、また普通の人間ではありえない容姿。
また彼女に関しては、以上といえる不審さが臭っていた為、見過ごすことも出来なかった。
まさに怪しんでくださいと言わんばかりに怪しいのだこの少女は。
「まず貴女がエヴァンゲリオン零号機のパイロット、ファーストチルドレンであるということに差異は有りませんね」
「ええ」
「今現在の負傷の理由を尋ねます、原因は」
「零号機起動実験時の暴走、それによる負傷」
それを淡々と事務的に返答するレイ。
そしていくらかの当たり障り無い質問を続け。
「病状に関して、現在の負傷の程度をこちらの医師に見せても構いませんか」
「ええ」
自分自身にさえ無関心、そんな様子で彼女は瑠璃の質問に答える。
瑠璃はその返事を聞き、背後に待機していたウエストに首肯する。
何より世間の基準を超えた容姿はそれだけで調査の対象になる。
彼女の肉体的な点は調査対象としては十分有益だろう。
ウエストも最低限の場は弁えているのか、神妙に頷き、医者の診察道具やなにやら怪しげな検査器具、何故か看護士にコスプレをしたエルザを伴って診察を始める。
何故にコスプレしているのかは謎だが、只ウエストの趣味ではない。
案外ウィンさんあたりかな?
なかなかにお茶目な方だし。
ついでに追記すると、ウエスト医学部中退でそれが最終学歴であったりする。
マッドサイエンティストとしては優秀だが医者としてはどうなんだろうか?
マッドサイエンティストとして優秀ってどんなだとも思うが。
基本の医療的な診察を行い、次にエルザが怪しげな装置を操作しウエストがレイの血液を一滴だけ入れ、表示されたものに眉を顰める。
不快そうに、次々と装置を操作し、さまざまな検査と思われることを行い、ますますウエストの表情が不快げに歪む。
最後の検査を終えたときには拳は震え、普段のふざけた調子は一切無い怒りに染まっていた。
この男が真面目になるのはそれこそろくでもないことがあったときだけだ。
唾棄するような調子で瑠璃にシンジに、エルザに、ウィンフィールドに告げる。
「この娘はかなり酷い状態である、怪我もそうであるが、少しこの娘に問い質したい事があるのである,少し席を外して欲しいのである」
それは真剣な目で、その瞳に、瑠璃は呑まれた、この純粋な怒りに、正しき怒りを抱いているであろう男に否を告げる言葉を見つけられなかった。
言われるままに瑠璃達は退出し、ウエストとレイが二人っきりになる。
ウエストは問う。
「一つだけ聞きたいのである、よいか」
「ええ」
少女は先ほどと同じように返す、質問者が変わっただけのことで彼女にはそれ以上の差異はないのだろう。
ウエストは頷き口を開こうとするが。
ウエストはいまだ何かを語るのを躊躇っている様に、病室を落ち着き無く歩き回り、苛立たしげに,語る言葉を見つけられない自分にもどかしさを感じるように頭を掻き毟る。
そんな様子をレイは不思議そうに眺めていた。
やがて、意を決したのかレイの近くの椅子に座り、それでもレイの顔を見つめるだけで、いまだ躊躇っている。
不意に。
「何でそんな悲しそうな目をしているの」
レイがウエストに問うた。
レイにしてみれば僅かに生じた疑問かもしれない、それとも些細な好奇心。
それでも、それがウエストに意を決しさせた。
この娘の為に聞くべきだと。
「なんでもないのである。
ではさっきの質問である・・・・・・・・・・少女よ、人間ではないであるな・・・・・・
いや、正確には何か混ざっておるであるな」
吐き出すようにウエストがレイに問う。
少女はその問いに雷鳴を受けたようにびくっと跳ね、震えるような声で、怯える様な目でウエストに問う。
「私は・・・・・・・人間」
だがウエストには判ってしまった、この少女の様子がそして自分の推測がそれを裏付けた。
だからその怯えた目が、たまらなく我慢できなかった。
その震える様が、その様子が、その目が、表情が、全てが、その目をさせた理不尽が。
我慢ならなかった。
それを受け入れることなど、出来なかった。
この男にとって、確かに○○○○っぽいが、最低限の倫理、人としての道、というのはそれなりに遵守している。
特に忌避するのは命への冒涜、かつて自分がした過ちに対する贖罪を込め、命への冒涜は嫌悪の対象でさえあった。
ウエストが親友とする九郎の言では。
「あいつは、○○○○だし、悪党だが、悪人ではない、ましてや悪ではない。
だから付き合ってんだよ、あの馬鹿と」
ということを言っているぐらいだ。
普段は争いの耐えない二人ではあるが。
「もういいのである」
そう言って抱きしめた、優しく包み込むように。
「人間である、我輩が認めるのである、人間であるぞ、さっき我輩を気遣ってくれたのである、そんなことが出来るのは人間である、だから人間である」
それでも、その少女の目は恐怖で彩られた目をしていた。
我輩では駄目であるか、ウエストはそう思った。
「あなたは何でそんなこと言うの」
唐突にレイが問うた。
それはレイの心の叫びかもしれなかった、未成熟な子供が必死にあげる戸惑いの叫び。
「私は人間じゃないのに、何でそんなことを言うの、私は化け物なのに」
それは彼女をさいなんだ苦しみだったのだろう、化け物、その言葉が。
それを自分で口にするレイがウエストには我慢ならず。
「そんなことは関係ないである、それとも化け物がいいであるか、人間がいいのであろう」
「私は化け物じゃない、人間がいい」
小さな小さな声でレイが答える。
「それでいいである、我輩も人間であると思うのである、心を持つことが人間の証である」
我輩はエルザを心のない化け物にしたのである。
それも我輩の傲慢のせいである。
そう心の中に呟いた。
それはウエストを苛む永劫の鎖、ウエストの足枷となった永劫の慙愧だった。
人間であるエルザを化け物に変え、人造人間たるエルザを人間に近づけた。
未練であるな。
レイの小さな肩が震え、嗚咽が漏れ出す。
「あり・・がとう」
「泣けばいいのである,それも人間の証であるぞ」
さらにレイは涙をこぼした、初めて彼女が流した情念に染まった涙かもしれなかった。
自分を受け入れられるというゲンドウの自分を通して何かを見るのではなく真っ直ぐと自分を見る目に,彼女の中の氷が解かされた瞬間だった。
「エルザ、入って来るのである」
外に待っているエルザに声を掛けるウエスト。
エルザはやっぱり看護士コスプレのままで元気いっぱいに入ってくる。
「博士、何ロボ」
少し落ち着いたのであろうレイが不思議そうにエルザを眺めている。
「これはエルザ我輩の娘である、友達になってくれるのである」
「友達?」
「ロボ?」
二人が不思議そうに互いを見る、方や蒼銀の髪を持つ赤眼の少女、方や緑色の髪を持つ蒼眼の少女、人ならざる容貌を持つ二人の少女。
今は何故かあっけに取られたような、きょとんとした表情が妙に可愛らしい。
それをしてやったりという目でウエストが眺めながら。
「エルザは我輩が作った人造人間である、人間ではないのであるぞ、でもエルザは人間として我輩達に受け入れられているのである、そうであるなエルザ」
「ロボ?
博士に瑠璃にダーリンはいい人ロボ、シンジはいい友達ロボ。
それがどうしたロボか?」
エルザは何でもないという感じで言うが、そこには眩しいほどの笑顔がある。
少なくとも虐げられた者が絶対に浮かべることの出来ない微笑を浮かべて。
それが彼女が今どれだけ幸せかを表現する。
「エルザ、この娘と仲良くしてやって欲しいのである、エルザの妹である」
「妹」という単語にレイが跳ね上がるようにウエストを見上げ、それにウエストは不敵に笑って返した。
それはレイが願ってやまないものだったから。
「この子、エルザの妹ロボか?
嬉しいロボ、エルザの新しい家族ロボ」
心底嬉しそうにはしゃぐエルザ、単純に嬉しいのだろう。
「そうである、新しい家族であるぞ、エルザはお姉ちゃんであるからしてちゃんと面倒を見るのである」
「わかったロボ」
それを見て、その言葉を聴いてレイは泣き出した先ほどの悲しみの叫びではなく、微笑みの産声となるそんな涙だった。
「どうしたロボ、どこかいたいの、見せるロボ、お姉ちゃんが直してあげるロボ」
慌てて、レイに構うエルザが微笑ましい。
「違うの、嬉しいの・・・・・・・・・私なんかを・・・・・・・・・」
涙にぬれながら浮かべる微笑はとても自然で人間らしかった。
レイにとって家族とは“姉”とは特別な意味を持つから。
以前のお人形とは絶対に相反する微笑を。
それを見て。
これでいいであるな、エルザ。
我輩の娘は人間となったである、エルザも喜んでくれるであるか、今もどこかで見ていてくれるであるか。
そう、心に呟くウエストの表情は晴れやかで、父親のものかもしれない。
それから暫くレイは泣き続け、エルザは大慌てでレイをあやして、何事かと瑠璃達が部屋に入室し、いい笑顔で泣いているレイを見て、ウエストの様子を見て。
瑠璃はウエストに問い。
ウエストはレイの体のことを瑠璃達に話した。
勿論激怒した、瑠璃もシンジもエルザもウィンフィールドも。
ウエストの診断では、人間ではないほかに、栄養面での問題、態と免疫系を弱らせ定期的な投薬をしないと日常生活さえ困難な状態に追い込まれていること、さらに精神誘導が掛けられコミュニケーション能力の、つまり情緒面での未成熟、挙げればきりがない問題が多く、これを語り終えたときは穏やかになっていたウエストの怒りでさえ再燃していたのだから,瑠璃たちの怒りはいかほどのものか。
最も激発していたのはエルザだったが。
なまじ、機械である分、彼女も家族に飢えていたのかもしれない。
それこそ今ゲンドウがこの場にいれば撲殺確実だったろう、誰も止めないだろうし。
やっぱりウエスト謹製の人造人間であるその戦闘能力は洒落どころか特殊部隊兵士100名など朝飯前に伸してしまう。
それの突っ込みに耐えるウエストもウエストだが。
追記、抑えたのはウィンフィールドだった。
そしてレイ本人から語られる言葉。
曰く、食事はカロリーカプセルに水、栄養剤のみ、住居は廃墟同然のマンションに一人住まい、虐待ともいえる実験スケジュールに閉鎖的な環境。
医療行為と称した精神誘導。
直接的な暴力こそ振るわれていないが文句なしで虐待である。
勿論国際法違反。
只でさえ、少年兵として参加していることになっているレイに対する非人間的な扱い。
これでは綾波レイというファーストチルドレンを飼育しているといわれてもネルフは文句が言えない。
しかも、何より瑠璃の怒りを増大させたのは、レイがそれをつらいことだと認識していないことだった。
悲しそうな顔でそれを聞く瑠璃に。
「それがどうしたの」
とばかりの顔のレイが。
それを当たり前、当然として受け入れるしかない教育(洗脳か?)を受け、それ以外を知らない生活を送っていることの証左だから。
瑠璃の中の怒りは際限なく膨らんでいた。
「あなたは私が、私達が守ります、只一つだけ聞きます、ここに残りますか。
それともウエスト達と家族になりますか」
それだけは譲れなかった、幾らひどい扱いを受けているとはいえ無理矢理連れて行くことは出来ない、それが瑠璃が自分にレイに課した条件だった。
何も瑠璃は慈善家でも、独善者でもない、瑠璃にも最低限の条件があった、救いを求めるならば。
声を上げろ、どれだけか細くてもいい、自分を救うという声を挙げろ、その声に私たちは救いの手を差し伸べる。
だから選択を迫る。
「あなたはどうしたいの」
只その声はどこまでも優しかった。
「私は、お姉ちゃんのところがいい」
エルザの手を掴んで、小さな声だが、ハッキリと言った。
ゲンドウの仮初の絆など、正体を知っても自分のために怒りを燃やしてくれる激情に比べれば糸くずのようなものだった。
さぁ再び、僕が語ろう。
ふぅ、美しい感動劇だ、いいソースが熟成され、彩るトッピング、アイスクリームにチョコレート、シャーベット,ハーブ、どれも頃合だ。
ああ、盛り付けが始まった、フルーツたちが集められ、綺麗に彩られていく。
美しく美味しそうに、醜悪に美麗に甘美に、ああ最後を飾るに相応しい。
ヒロインを助け出したヒーローはヒールに剣を持って立ち向かうのさ。
だけどこれは喜劇で悲劇、相反する矛盾劇、酷い酷いストーリー。
愚者達にはもう少し,もう少し頑張って貰わないと、もっと僕に快楽を与えてくれないと。
フィナーレに出来ないじゃないか。
ああ、断罪だ、糾弾だ、お姫様の口からこぼれる辛辣な言葉が、それに対して歪む愚者の顔が、なんて心地いいメロディか、なんて美しい絵画だろう。
終幕に相応しい、舌を、乳房を、首筋を、膣を、全てを愛しい人に蹂躙されるようだよ。
ああ、吼える吼える負け犬か、囀る囀る愚者たちが、自分をつわものと信じる臆病者たちが、ああ慌てているよ、何も出来ないのに、何も出来ないのに只吼えているよ。
もう少し続けておくれ、最後まで食べるまで、最後の一掬いまで僕の舌を耳を目を楽しませておくれ。
甘美なときは出来るだけ長くがいいのさ、僕は欲張りだからねぇ。
ねぇ、お姫様。
最後のトッピングは念入りにお願いするよ。
僕は美しい愚者たちの、愚かな叫びが好みかな。
それともお姫様は違うものがお好みなのだろうか。
発令所。
ネルフの主な顔触れと,瑠璃達のみが発令所に集い。
ある程度の事情聴取が終わったので、それに対する宣告を告げていた。
「調査の結果、この度の迎撃においての怠慢は明白、これは後ほど国連議会によって議論されるでしょう、これに対しての現行の処罰は、六文儀総司令および冬月副司令の現行での権限を制限、監視団を置き以後監視の下に所定の業務を行って頂きます。
また、使途不明金については不正流用の嫌疑は濃厚,以後監査団をおき予算の使用に対して定期的な検閲が行われます」
瑠璃の宣言を歯を食い縛って聞いているゲンドウ、顔を青くして聞く冬月。
だがさらに続く。
「また、ほかにも疑問がありますね。
ある所員の中には、この不当を訴えるものがいまして。
葛城一尉、あなたの勤務状況です、勤務態度は不真面目で、部下に書類仕事を押し付けているようですね、あなたが処理しなければならない書類にまで、何故このような報告があがるのでしょう」
ついでにこの訴え、ここぞとばかりに作戦部のある順従なミサトの僕の眼鏡君以外の全員が一致団結してそれぞれ述べた苦情だったりする。
どうも誰もがこの怠慢な上司には嫌気がさしているようだ、ミサト自身は好意でやってもらっていると思って気付いていなかったが、実際はかなり強引に押し付けている。
勿論怒鳴り散らす。
「誰よ、そんなこと言ってんのは!!」
「発言者に対しては私達は秘匿義務がありますので、お答えできませんが。
どうやら事実のようですから以後国連上層部より処罰が下されるものとしてください」
ついでにこの処罰は2階級降格減俸30ヶ月、これを通知されたときは、国連の連絡者に殴りかかったという、それでさらに減俸15ヶ月、独房5日を喰らう事になる。
冬月は恥をかかせおってと、もうすでに恥じにまみれているにも拘らず呟いていたが。
この程度で済んだのは、ある目的でミサトが必要な、ゲンドウと、ゼーレの介入があったからである、でなければ十分首が飛んでいる。
それでも懲りずに部下に書類を押し付けようとはしていたが。
懲りない女である。
勿論監視団に見つかり、部下がチクった。
さらに罰則を喰らう事になった、悪循環である。
まぁ自分が悪いんだし。
ついでにこの悪循環は、さらに数回続き、かなりの年数の減俸を喰らう事になったそうだ。
ついでにミサトの給料はそこらのペーペーと同額、幹部なのに。
ピエロの典型のような女である。
まぁそんなことはどうでもいい、この自業自得女の給料がどうなろうと知ったこっちゃないし。
どうせビールに変わるだけだろう。
ちょっとアルコールの摂取数が減って、マシになるだろう。
いや禁断症状がでて悪くなるかも。
まぁ、いい加減本題にと。
瑠璃が続いて紡ぐ言葉も現在のネルフがいかにずさんで稚拙な運用をしていたかを示すもので。
何故か、当然か司令のゲンドウを非難するのが多数、ミサトよりは少なかったらしいが。
中には在ること無いこと完全に誹謗中傷も混じっていたらしい。
どれだけ部下に慕われているか判るものだ。
これも人徳のなせる業だろう。
そして次に瑠璃の語りだした言葉。
「先程,ファーストチルドレン綾波レイに対し事情聴取を行ったところ、こちらの医師の診察及び、彼女の証言において、虐待の嫌疑があります。
いえ、彼女の言が正しければ紛れも無く、虐待であり、幾ら特務権限により少年兵を認められているとはいえ、これは看過しがたい。
よって、綾波レイを国際法に則り、国連にて保護、以下ネルフは彼女への接触を国連上層部への許可を持って以外の接触を禁じます」
綾波レイの保護、ネルフにとっては、いやゲンドウにとっては到底認める事の出来ない事。
ゲンドウにしてみればミスなのだ、レイにはある程度の秘密は喋るなと普段から言っていたが自分の生活や、扱いについては何も言ってなかった。
特に、レイをどのように扱おうと問題が無かったからだ。
レイが逆らうはずが無いと思い込んでいたし、このような自体もシナリオ外。
故にレイは聞かれたことを素直に答えたのだ。
しかし瑠璃は続ける。
「彼女の診断した医師によると、不当な治療を受け、栄養状態は劣悪、おそらく生活環境も劣悪ということです、それだけでも度し難いのですが、あなた方が投薬していた薬は何なのですか、こちらでも判断がつきかねますがどうやら治療目的の投薬ではないということです、これは以後成分、効能を解明すれば判明するでしょう。
あなた方は、彼女を道具として扱っているのは明白、これは別途証言集めたのですが、どうやら六文儀総司令、貴方との不愉快な噂も出て来ました。
勿論うわさでしょうが、そのようなうわさが出るだけでも、一組織の長としては問題があります」
ついでに噂はゲンドウがレイを飼っているという、鬼畜な噂である。
ゲンドウは最早顔面を憤怒で彩り、今すぐにでも瑠璃に殴りかかりそうな形相で睨み続けている。
「断る、レイの保護者は私だ、そのような事実は無い」
実際は心たたりがあり捲くるくせに、それはおくびにも出さない。
どうせもうばれているんだが。
それに続く女。
「そうよ、レイをかっ去ろうとして何企んでいるのよ!!!
レイはネルフのチルドレン、使徒を倒すためのエヴァパイロットなのよ!!!」
だが、ゲンドウにしろミサトにしろそれを吼える権利など無い。
ゲンドウは、レイを意のままに操りためにそのように教育し、ミサトはいのままに命令を聞くレイを都合のいい駒程度にしか考えていない。
大体ミサトが吼えているのは従順な自分の駒が目の前で掻っ攫われるのを我慢できないからだ。
レイの生活状況など知りもせず、自分の都合で吼えているだけ。
自分の我が侭を叶える道具の損失を惜しんでいるだけだ。
だからそんな声は瑠璃の怒りを増大させるだけで、届きはしない。
「それは以後、国連上層部に提示してください、審議後、我々が不当となり、綾波レイ本人が帰還を望めばお返しします」
ゲンドウにとって、そんなことはどうでもいい、妻の面影を残すレイを他人に渡すなど出来ようはずも無い。
それでも手を拱いてみているしか手段が無い。
「六文儀、拙いぞ、実際レイの扱いは良いとはいえん、あちらの言うことが正当だ」
「・・証人は黙らせればよい、証拠もたいしたことは無い」
冬月の問いかけにもゲンドウは不遜にかえす。
いまだに覆せると思っているのだろうか、おめでたいことだ。
しかしその顔は怒りに彩られている。
「よって、本日我等が撤収後、綾波レイを保護しますので、ご了承を
また証拠は証人ともこちらが押さえております、改竄など行った場合、その時点でこの事実は有効と機能いたしますので」
あっさり潰えた。
所詮行き当たりばったり、ゼーレにおんぶに抱っこ、この男姦計や後ろ暗いことならお手の物だが、自分を畏怖しない、それどころか見下している人間に対峙することが出来ないのだ。
臆病者ゆえ、そのような相手からは搦め手で、対峙することなく陥れてきたが、対峙したらこんなもんである。
所詮は小物なのだ。
それでも見苦しく、囀る。
「しかし、レイはエヴァのパイロット、これから待遇を改善するとして、ひとまずここにおいていてくれんかね、次の使徒がいつ現れるかわからんのだ」
何も言わないゲンドウに変わって冬月が当たり障り無い、表向きの言い訳を放つ。
実際はレイ無しではこの馬鹿達が計画しているシナリオに対して問題だからである。
「そうよ、私たちには使徒を倒す使命があるのよ。
それを、妨害するっつーの、よっぽど問題じゃない!!!」
自分に都合のいいことは出る出る。
だが。
瑠璃は一つため息をつき。
「現在、あなた方が必ずしも必要というわけではないということをご理解していないようですね、もしや今までどおりどれだけの勝手も許されるとお思いですか」
瑠璃が鋭い眼光で睨みつける。
「どういうことよ!!!」
再び吼えるミサト、大声で態々叫ぶ必要があるのだろうか。
というか考えて判らないんだろうか。
「はぁ、まず貴方たちの特務権限は以後規制されます、使徒戦への優先権は勿論、他組織に対する上位権の喪失、予算の削減、監査団を置きますので不正流用や使途不明金には追求されます、また監視団も派遣されますので其方に不手際があった場合即座に国連本部に連絡が行くでしょう。
そしてこれが最大の要因ですが、最早貴方たちだけが、使徒に対しての有効な戦力ではないということです、私たちの兵器であっても倒すことは出来ましたので」
とつらつらと並べ立てていく。
ミサトにとっては甚だ都合の悪いことを。
ついでにこの女、ネルフの権限といって、犯罪をかなりもみ消しているのだ、駐車違反、スピード違反、人身事故、衝突事故、公共物破損に、傷害、もしかしたら殺人すら犯しているかもしれない、ついでに事故のことをもみ消している割には保険金を強引に受給、よって保険金詐欺。
それをネルフの権限とやらで黙らしてきたのだ、それも傍若無人な理由で。
やれ、非常事態だ、命令遂行中だ、私はネルフのお偉いさんだと、対応に出た警官や、係員を脅し身分証をちらつかせて黙らしてきたのである。
ここ数年は罰金など払ったことも無い、総額すると大都市にそこそこの高級マンションを楽に買えるくらいであるらしい。
だがそれも監視団がいれば叶わないだろうし。
遅刻、早退も誤魔化して勤務時間に入れていたのも監査団が居れば不可能だろう。
つまり自分の権利(彼女の中では、使徒に対して人類を守護する優秀な指揮官である自分が受けるべき正当な権利らしいが)を達成する素晴らしい力を掠めとられるようなもんである。
ついでにこの女、後に勤務時間に飲酒していることが、監視にばれ罰金として給料を天引きされたらしい、月に数度も。
この時点で減俸と合わせて本来の給料の半分以下になっていた。
追記、この女の月の収入の約半分は特定のアルコール飲料に化ける。
これらも勿論惜しいのだが、最大の要因は使徒に対する優先権の喪失。
これでは彼女の待望の使徒への復讐が出来ないのである。
まぁそんなこと瑠璃が知ったことではないし。
ミサトが行っている犯罪など自業自得の極みだ。
それでも。
「人類守るために戦ってるのに何でそんな扱い受けないといけないのよ!!!
この腐れ女!!!」
この女、人の話を聞いているのだろうか。
「人類のために必死になって私は働いてんのよ、それを。
大体あんたいきなりシャシャリ出て来てあんた何様よ!!!」
あんたの上官様だ、ついでに最終監察官、さらにお前は働いていない、まぁネルフ内にはちゃんと働いているのも居るだろうけど。
絶対にお前は違う。
瑠璃は疲れたようにため息をついて。
どうやら目の前に居る野獣に日本語による会話を諦めたらしい。
あっさりと無視してゲンドウのほうを向き最後通牒を出す。
勿論ミサトは無視されたことに怒り暴れたが流石に冬月が保安部を使って止めた、どうやら目障りだったらしい。
それでもまだ居たが。
「ファーストチルドレンに対しての変更は認められません、
抗議に関しては後ほど国連上層部にて具申していただきます。
何か言うことがありましたらお聞きしますが」
「一つ質問が」
「何でしょう赤木博士」
今まで黙して、ミサトの醜態には胸のうちで嘆きつつ、何も言わなかったリツコが進み出て、瑠璃に問う。
「あのロボットは何なのですか?
あのようなものがあるのは初耳ですし、原理は、突然現れたようですし」
「あれは覇道が独自に開発したデウス・マキナ、デモンベイン、原理はこの場で説明するのは少々困難ですわね、それについては後日お答えするとします、私も専門家というわけではないですし」
リツコはそれで追求をやめ、しかし連絡する期日を決め内心知識欲を刺激されまくっていた。
どうやら混乱するのはやめて、理解しようと歩き出したらしい。
ついでに説明しようとウエストが、ギターを何故か弾きながら叫ぼうとしたところを瑠璃の一睨みで指示したウィンさんによって止められていたが。
ネルフ司令室。
瑠璃達が立ち去った後、このなんとも無駄に広く悪趣味な部屋でネルフトップスリー、ゲンドウ、冬月、リツコの三人が、特にゲンドウが不機嫌の極みで、密談していた。
「どうする六文儀、拙いぞ」
最早お決まりの台詞かもしれない冬月の言にゲンドウは。
「レイは取り戻す」
しかし何か方策は考えているんだろうか。
「・・・・・・・・・・レイは自分から戻って来る筈だ」
どうやら何も考えていないらしい、しかし一度人の温かさを知ったレイが自分から薄ら寒い牢獄であるネルフに戻ってくるのは考えられない。
「国連が素直に返すと思っているのか、あの娘はそういったかもしれんが、国連上層部はネルフに不審を抱いているのも多いのだぞ」
でなければ瑠璃達はきていまい。
「くっ、では三人目に」
「どうやってだ、国連の保護下で暗殺でもしろというのか」
思いつきで言ってないかこの髭、冬月がこんなのとつきあわされるのが哀れに見える、髭についてきている自分が悪いんだろうけど。
「それに今本部にチルドレンはいないのだぞ、次の使徒が三週間後それまでにドイツ支部のセカンドチルドレンか、レイもしくはシンジ君をこちらに取り戻さなければ、二度も出撃もしないとあっては国連からの非難は相当なものになるぞ」
というかそんな役立たずの組織つぶすだろう普通、只でさえ金食い虫なんだから。
「セカンドチルドレンは召集する、シンジは交渉すればいい、交渉には応じるといっている、所詮子供どうとでもなる」
只の子供ではないというのが判っているのに、見縊りすぎである。
もしくは所詮自分の子供と、言うことを聞くとでも思っているのだろうか、自分が交渉するわけでもないからどうでもいいのかもしれないが。
傍らで聞いていたリツコは、あの子が司令の言うこと聞くかしらね、とゲンドウを父親と言ってしまったときのシンジの目を思い出して考えていた。
アレは嫌悪なんて甘いものじゃないわ、アレは憎悪の目か、でもどうして私今こんなに冷静なのかしらね。
リツコはシンジの目を思い出し、ふと自分の状態を見返した。
ふふっ、私の常識なんて壊されたのにね、幾ら考えても検証しても理解できない、わからないあんなこと。
自嘲気味に考えを巡らせる。
いつしか思考はここを離れるレイに向かっていた。
レイか、あの子はあっちにいったほうが幸せになれるわね、ここでは不幸しかないもの。
向こうなら、もしかしたら幸せになれるかもしれない。
ここのリツコそれほどレイを嫌っているわけではない、それこそレイに対する実験や、ダミープラグ、その他の実験など吐き気がするほどおぞましかった、時には影でレイを庇い,今までレイがゲンドウに貪られていないのはリツコのためといってもよかった。
罪悪感により冷たい態度になっているに過ぎない。
レイに対する申し訳なさから来た行動だが、リツコ自身は偽善と自らを嘲笑していた、それならば実験自体を断ればいいと。
リツコがそれをしなかったのは。
只、目の前の男が恐ろしかった、自分を蹂躙して陵辱した男が、しかし今はそれが無い。
今まで感じていた恐怖を感じない。
司令も所詮は小物か、あれほど恐ろしかったのに。
目の前で瑠璃に良いように言われ、銃に怯えている男を見ているうちにリツコの中のゲンドウに対する恐怖心が薄れたといってもいい、所詮ゲンドウは張子の虎なのだから。
その本性は人の権威にすがりつく寄生虫に過ぎず、強者には面と向かって言葉も出せない小心者。
それを目の当たりにしたリツコに言動に対する恐怖心を持続させろというほうが無茶だった、リツコは本来冷静で自立心の高い女だ、弱者に媚を諂うほど堕ちてはいない。
そんなことを考えつつ、目の前で愚にもつかない話を進める男たちを眺めて。
どこか諦観めいた思考に移る。
でももう一度レイに呼ばれたかったわね“お姉ちゃん”って、もうだいぶ前、いつからだったのかしらあの子があんな風になったのは、昔はもっと明るかった、もっと笑っていたのに。
ついでにそれはゲンドウの指示した精神誘導のせいであり、そのため歪んだ人格形成を成されたせいだ。
助ることが出来たのに何もしなかった、レイにあんなことをした私が言っていいことじゃないわね。
向こうか、そうね向こうに行くのも悪くないかもね、母さん。
どうやらリツコの心は開放に向かっているらしい。
で、当の男達はというと。
「誰が交渉に行くのだ、向こうはアメリカなのだぞ、早々本部を開けるわけにはいかん、誰が行くというのだ」
「葛城一尉だ」
「彼女か、問題ないのか、アレは完全に向こうに敵対意識を持っているぞ」
ミサト冬月にアレ扱い。
「問題ない、赤木博士にも行ってもらう」
いやリツコだけで十分だろ、何で付けるゲンドウ。
「ふむ、赤木君がいるならば、しかし幹部二人支障はないか?」
「問題ない、どうせ葛城一尉がいないほうが仕事が速いようだ」
知ってんなら何とかしろよ髭。
「それもそうだが、赤木君、行ってくれるかね」
所詮断ることなんて出来ないんだが一応確認に聞く冬月。
勿論リツコはイエスだったが、デモンベインのことを聞くにも良いと思ったんだが。
ミサトを連れて行く苦労に頭を悩ませていた。
さらに本気でやめようかどうか考え出した。
御免なさい、母さん、置いていきそう。
とMAGIに心の中で謝っていたという。
To be continued...
(あとがき)
saraです、今回どうも説明的です、例のところとかネルフの扱いとかでしょうがないといえばしょうがないんですが、で、レイはネルフを離れます、リツコも怪しいです。
次回か次々回くらいでアスカ到来(早っ)第四使徒には間に合うことでしょう。
ついでにこの小説現在のところLRSとは決まっていません。
今のところシンジのヒロイン候補はエセルドレーダ、レイ、アスカ、アリスン、ソ―ニャ、エンネアといったところでしょうか。
ついでに九郎は決まっています、古本娘+?の?股野郎です、考え中はウィンさんの相手、ウエストは決まっている。
では次回はギャグタッチで、またのお目見えを期待しています。
(ながちゃん@管理人のコメント)
sara様から「無垢なる刃金を纏う者」の第二話を頂きました。は、早っ!・・・しかも量あるし。
今回も、とても面白かったです。
相変わらず、ここのミサトの無能と傍若無人ぶりには呆れますが。
そんな中、レイはあっさりゲンドウの許を去りました。彼女には幸せになって欲しいものです。
これからの展開が楽しみですね。話の進み具合も早そうですし・・・。
管理人からのリクエストといえばただ一つです。───ゲンドウとミサトを扱き下ろしてください。それはもう徹底的に。その人間性を完膚無きまでに否定してください。これに尽きますね。
まあ、管理人などがお願いしなくても、そうなりそうですが・・・(笑)。
またまた次作が楽しみです♪
皆さん、作者様に応援・感想メールを送って、どしどし次作を催促しましょう〜♪
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