無垢なる刃金を纏う者

第五話 紅鬼神+黒神+少女の怯え

presented by sara様


突然現れた目標は既に第三新東京市の至近に迫り、その異形を迎撃に当たる戦略自衛隊に晒していた。

本当に神の御使いかと疑問に思うその醜悪な姿を晒し、空を這いゆっくりとかつ真っ直ぐに第三新東京を目指す、望むものが其処にあるように、本能に従うように、迷い無く。

目標はその退避で爆撃を受け止め前進する。

戦自は以前と同じ苛烈に攻撃を加えるが効果の程は見られない。

只無策に持てる火力をぶつけるのみ。

何の効果も与えていない、それが明らかであるのに。

闇雲に苛烈な攻撃を加える。

只不幸なのは、原作より苛烈な攻撃は目標に防衛行動に移らせ反撃を受けているということだ。

苛烈の攻撃を加えた事情は前回の国連軍の勝利に終わった戦いはゼーレが戦略自衛隊に国連軍の指揮権譲渡を厳禁させられ、第三新東京への誘導が命じられていた。

第三新東京に入れば完全に交戦権はネルフに移るためだ、老人たちの傲慢な考えにつき合わされる戦場の兵士としてみれば溜まったものではないが。

ついでにこの世界では戦略自衛隊はゼーレの影響が強く、国連軍はアメリカの影響が強いため覇道の影響が強い。

再三国連軍からの指揮権の譲渡要請をも無視し、無駄な命を散らせている。

意味のある死ではなく、只の傲慢から死んでいく兵士の命が哀れでならない。

指揮権の委譲が無ければ国連軍は簡単に介入できず、未だ強引に介入する状態ではない、少なくとも戦局が拙くならなくては、不当な権力の介入は望ましくない。

故にブラック・ロッジは出撃出来ず、未だアーカムの地にて座し、周辺海域に待機した国連艦隊からも沈黙を守っている。

愚かな欲望、自己の願望を最優先した指示に従う兵士達の屍の群れ。

それを見抜いているもの。

はるかアメリカの地でモニターに写る戦況を眺める女将軍は己の拳を血が出るほど握り締めていた。

己が傲慢のために他者の命を紙切れのように扱う老人達に苛烈な憎悪を向けて。

その内なる怒りを押さえ込むその表情は冷徹な修羅の瞳をたたえていた。

目の前の理不尽に対する冷たい怒り、抵抗を現す羅刹。

理不尽に対する魔物の目を。





ネルフ本部、発令所。

数日前に独房から出され、まるでそんなことが無かったかのように威風堂々と赤いジャケットを纏った女指揮官、葛城ミサト作戦部長がモニターに写る目標、彼女の復讐の対象である使徒を睨み付けている。

見た目だけなら、容姿と相成ってそこそこ凛々しい。

その目は長年求めた恋人を見るように熱く、情熱に満ちていた。

その姿だけならまだ見れたものなのだが、微妙に香るアルコール臭がこの女がつい先ほどまで飲酒していたことを伺わせるのでぶち壊しだ。

緊急事態にまで飲酒する神経、もしかしたら既に酒は精神安定剤がわりなのかもしれないが、そうなったら人間いろんな意味でおしまいだろう。

別名アルコール依存症患者。

専門病院への入院を推薦する、自分の意志ではどうも無理らしいから、もしくは檻のある病院、それとも其処から病院を抜いたところ、別名牢屋。

隣にいるリツコはあえてもう突っ込まないが、微妙に香る臭いに嫌そうに顔を顰め。

地の底まで潜っていた評価がついにマントルにまで達していた、ついでに今更ながら隣の元友人の正気も疑っていたが、もう疑いようがないと思っていたがまだ在るらしい。

あと、事情は知っているが髭と電柱が彼女を作戦部長にしているのを今更ながら呆れている。

客観的立場に立つと、幾ら周辺に対しての客寄せパンダとはいえ彼女を使う道理が判らない。

確かに、能力的なことを期待されず客寄せパンダとその他諸々でここに居るミサトの実力など以前から知れたものではあったが、再確認して眩暈がしそうだった。

勝つ気があるのだろうか、負けたら死ぬのだからもう少し必死になってもいいだろうにと、視野が広がった技術部長はその杜撰な対応にゲンドウの正気すら疑い始めていたりする。

只、もう私は関係ないわねと、微妙に他人事ではあったが。

で、隣の未だ親友と思っている技術部長からそんなことを思われているとは露とも知らず、アル中作戦部長、通称牛はというと、本人曰く不敵に。

「司令のいぬ間に、使徒襲来か・・・意外に早かったわね」

その呟きに反応するのは、牛の前に座っている眼鏡君こと日向マコト。

どういう趣味をしているのか、この作戦部長に惚れている奇特な趣味を持つ牛の部下である。

この作戦部長を駄目にしている要因一でもあるのだが、甘やかして彼女の仕事を率先して請け負うから、最近は仕事を押し付けるのが当たり前となり、彼女から感謝なぞされていない。

しかも、監視団は肩代わりするなと何度か警告した(彼女しか出来ない仕事も有ったので)のだが、押し付けられるとやっているというかそれでも率先して残業を引き受けているので、最近罰則として残業手当ゼロにされている。

それでもめげずに仕事の肩代わりをしているのだが、恐らく働けば働くほど給料が減るだろう。

ついでに牛の給料も減るので結果的には逆恨みで嫌われるだろうし。

「前は十五年のブランク、今回は、たったの三週間ですからね」

ついでに微妙に嬉しそうだ、状況わかっているのかね、この眼鏡。

「こっちの都合はお構いなしか・・・・女に嫌われるタイプね」

何も使徒も好かれようと思って来てはいまい、特にお前に。

そのまま牛はモニターを睨み付け続け、一応作戦考えているんだろうか?

この戦略自衛隊の攻撃でも分析することなど出来るのだから、必要と思われる情報の収集を指示して、それを元に作戦を立てるものだろう、普通。

特に今回、あの鞭が既に出ているんだから。

その攻撃の速度など目を見張ることなど多々ある筈だ、軽くマッハ4くらい出ているんだからさ。

加えて少なくとも未だATフィールドすら張られていないのに、戦車や戦闘機の大口径砲弾やミサイルが無効という結果が出ていたら原作通りの命令は出ないはずである。

パレットガンはメインバトルタンクの主砲よりも単発の威力は劣るのだから。





で、もう一人の馬鹿が無闇に敵を増やしていた。

確かにモニターでは次々とミサイルやら迫撃砲が目標に叩き込まれているが成果は挙げていないように見える。

またその進行にも影響が無い、確かに無策、確かに無謀だろう。

無駄に税金、命、装備どれだけ失われたかわからない、どれだけの損失を招いたのかもしれない。

だが、さげすむような口調で呟かれた言葉。

「税金の無駄遣いだな」

冬月が洩らしたこの言葉断じて口に出していいものではない。

それも組織の上層部に関わる人間が幾ら身内の前といえど公然と吐く言葉ではない、其処に戦う兵士は死んでいる、無茶な無謀な無策な命令であろうと散っていく命がある以上、対面は敬意を払うべきだ。

しかも部外者である監視団、及び監査団がいる面前で。

事実、この言葉を耳に入れた作戦部の監視を行う国連軍の仕官は不快げに冬月を睨み付けていた。

確かにこの男も心の中では同様のことを思っていたかもしれない、だが戦場に立つ兵士を冒涜する言い草は現場上がりの彼には聞き逃すことは出来ない内容だった。

そんなことを思われていることも知らず。

学者あがりの幹部が戦争をマネーゲームか、それとも画面の先にある非現実を捉えているかのような台詞、どれだけの不快を与えているかも察していない。

今まで傲慢の限りを尽くし他者を省みぬことから付いた絶対者としての悪癖だろうか。

無意識に息を吸うように敵を作る、普段温和で通っている冬月でさえこれである、ゲンドウがどれほどの敵を作っているか、考えるのも面倒な数であるのは確実だろう。

ついでにその監視が不愉快そうにしているのに気付いたのはリツコだけだったが。

結局、うちって自分の首を自分で絞めているのよね、と考えていたのは余談だが。





そうこうしているうちモニターではさらに戦闘機が一機撃墜されていた。

その時、件の指揮官様は落ちる戦闘機を眺め卑しそうに笑っていたりする。

私の獲物に手出すんじゃないわよ、と。

傲慢の限りだ。

一人で戦争をしているつもりか。





ついでにこの女、結局出動要請が掛かるまでずっとモニターを睨み続けていた、部下に対する目標の調査などの指示は一切出さずに、只じっと。

時たま近くにいる仕事中の部下に愚にも付かないことを喋っていたりはするが、日向以外の部下は極めて迷惑そうだった。

完全に部下の仕事の邪魔をしている。

結果、調べたら判るはずの特性がまるでわからずに挑むことになる。

ちなみに部下はちゃんと目標の特性をある程度調べていたりする、何もせずに給料を受け取っているわけではないのだから、指示が無くても自主的に行ったらしい。

だが文書化や電子化されて出された報告は小難しいことが書いてあると眺めただけで読みもせず(眺めたのも読んでいるというポーズ)、口頭で伝えられるのも、普段書類を読まないので判らない単語が多く聞き流していた。

基本的な軍事用語や、この場にいる者は全員知りえている基本的なことも含まれていたが、それも判らないらしい。

お人好しの頭に妖精を飼っているという疑いも有る某眼鏡君あたりは、そのポーズを凛々しい姿と受け取ったようだが。

大抵の作戦部員(彼女の部下)は仕事をしろと冷たい視線を向けられていた、ついでにここ最近の失態や悪評(主に監視団関連)は噂になりなんで作戦部長のような大役をこの女がやっているんだという疑問の声が挙がり始めていたりする。

初戦では何も失態をやらかしていないのに、普段の態度でここまで評価が下がるのも才能だろうか。

まぁ、すぐに疑問の声は嘆願にかわるかもしれないが。

そんな冷たい周囲の評価にも気付かず、只睨み続けていた。

牛さん本当に戦う気があるんだろうか甚だ疑問である、と言うか勝つ気が無いのかもしれないが、普通勝つ気が在るなら、それなりに行動するだろうし。

やる気だけはあるんだろうがそれに対応する努力をしない輩である。

口だけなら、妄想過多などこぞの眼鏡中学生が嬉々として指揮を執ってくれるだろう。

彼女としては長年待ち望んだ復讐に焦がれて憎しみを叩き付けるのが今最優先される仕事なんだろうが。





「委員会より、エヴァンゲリオン出撃要請入りました」

オペレーター席に座った分析官、青葉シゲルが指揮権の譲渡を告げる、どうもこの小説でも影が薄い。

「ええ、言われなくても出撃させるわ、あいつらに出番なんてないのよ」

悦びに満ち、敵意にあふれた言葉だった、怖気が出るほど。

あいつ等とは瑠璃達のことであるが。

と言うか彼女にとっての敵は使徒よりも覇道瑠璃だった、機会さえあればなぶり殺しにしたいくらいに、彼女の主観により自分の復讐の駒を奪い去り、前の復讐の標的を掠め取った自分の正義に対する反逆者となっている。

実際は自分でその機会をぶっ潰して、自分の所属する組織の失態なのだが、勿論そんな都合の悪いことは彼女の目や耳には入らない、便利な感覚器官である。

憎悪の念に固まった復讐鬼、愚かな愚かな憎悪の申し子。

今は目の前にある復讐の喜びに震えていた。





余談だが、この馬鹿女数日前に独房から出てまず大量のビールを勤務中であるにも拘らず飲み干し(勿論重点的にマークされている彼女は監視団に見つかり、既に警告なしというか本人に通告無しで罰金を給料から天引きされている。

結果既に給料は万単位で限りなく一桁に近い、と言うかこの女のビール代、月に軽くその倍ぐらいは飲むので借金が凄いことになりつつある、勿論善良な消費者金融は貸してくれないので闇金であるが、本人はある程度額が溜まったら権力で踏み倒そうと思っているが、どうせ使えないだろうし、怖い借金取りに追い立てられるのは必至だろう、それに闇金はそれほど甘くない、それこそ犯罪すれすれどころか、犯罪紛いのことをして取り立ててくる、近い未来取立てに怯える作戦部長が本部内に居住するかもしれない)。

その後、酔っ払いモードで、クソ生意気な餓鬼を庇い立てした親友、赤木リツコのところに怒鳴り込んだが、鎮静剤(一般人100人分の致死量)でどうせ暴れるだけの酔っ払いをリツコが沈黙させ、目が覚めたところに、自分が何をしたかどれだけネルフに損害を与えたか切々と説教され(事実、覇道から抗議として国連に提訴され立場がさらに悪くなった+ミサト准尉に降格)、ぼろ糞に言われた、勿論反省せずにその恨みは瑠璃に転化しさらに敵意を燃え上がらせていた。

どうも反省という言葉は彼女の脳内の国語辞典には載っていないようだ。

で、出動要請が出た以上は指揮権が移ったのだから、ネルフの虎の子のエヴァの出撃と相成る、本来はその前に自分達でしなければならないことは山程あるんだろうが。

どうして初っ端にエヴァを目標にぶつけるんだろうこいつら。

最後の最後で使うべき最終兵器みたいなもんでしょ、しかも現在一機だけしかなく、あとがないんだから。

どうせこの女のやることなんてぶっつけ本番、出たとこ任せ、思いつきのオンパレードに決まっているんだから、事前の調査などするわけが無いのだが。

回りも進言しないあたり、この女が怖いのか、其処まで頭が回らないかのどっちかである。





「アスカ、準備はいい」

既にエントリープラグ内に待機していたアスカに声を掛けるミサト。

真紅のプラグスーツに包まれた美少女は答える。

「はん、大丈夫よ、それより作戦は!!」

いつもの自信を漲らせて答える、其処の戦いに対する恐怖やおびえは無い。

それはそれで問題なんだが。

「目標が範囲に入り次第、パレットガン一斉射、いいわねアスカ」

どうやら戦略自衛隊の攻撃が無駄だったことは何も学習していないようだ。

と言うか弾は劣化ウラン弾なのだからその武器を使うときは市街戦は止めろと言いたい。

目標は既に間近に接近している。





少し場面と時間は変わり、アーカム。

大体、使徒発見から一時間後ぐらいである。

覇道邸地下にある、国連軍特務部隊“ブラック・ロッジ”基地、作戦司令室。

使徒発見の報により、国連軍士官であるシンジ達が収集を掛けられていた。

勿論本業の国連軍士官(殆どが元米軍兵)は屋敷内にいるのだがここにいるのはアンチクロスやそれに近い者達だ。

先程まで、瑠璃は指揮権の譲渡が行われないことに憤激に燃やしていたのだが。

身を焦がす憎悪が心の中で暴れまわっていた精神状態をそのまま冷徹な意志に切り替え、熱い感情を冷たい殺意へと切り替える。

既に感情に振り回される娘ではない、激情を切り替え冷静な指揮官の顔になって言葉を紡ぐ。

「先程、使徒と思しき存在が突如顕現、第三新東京に向けて進行しています」

シンジ達にとっては予想通りの言葉、それでなければ収集などされまい、九郎は何かにつけて呼び出されるが。

それは九郎の撒いた種なので自業自得。

ちなみに訓練等は瑠璃ではなくアルが指揮を執っている、ほかの用件も部下がある程度行っている、基本的に瑠璃は仕事は部下に割り振りそれ程口は出さない、元々が経済人である瑠璃は人材運用はピカ一なのである、適材適所といえばいいのだが。

人の使い方がうまいのだ。

能力は問題ないのだが人格には問題ある登用を良くするのが問題といえば問題だが。

魔術師の教官に古本娘とか、執事さんとか、マコトとか。

その瑠璃に登用された訓練教官アル・アジフ(給料有り、結果最近美食と服飾にはまっている、俗っぽい精霊である)に対する周囲の評価は。

教え子一同のコメント。

「鬼だ」九郎。

「義姉さん、妙に生き生きとした含み笑いしながら、ビルから突き落とすのはやめてくれませんか」シンジ。

精霊のいないシンジにである、勿論いきなり魔道書からの身体強化など出来ないので、流石に誰かがギリギリで助けには入ったのだが、十数回は死に掛けた(つまり十数回目に飛べた)。

「(ガタガタブルブル)」アリスンちゃん。

二回目で飛んだので九郎以上に才能は有るんだろうが、幾らなんでもアルはライカにやり過ぎとどやされ、暫くお菓子抜きが宣告されたそうな。

ついでに前回出なかったがアリスンの魔道書は「ルルイエ異本」、精霊兼ライカ孤児院五人目の子供である。

前回は持ち主様により邪魔され出られなかった幸薄い精霊。

アリスンにとっては仲の言いお友達兼滅すべきライヴァルである精霊ルルイエである、作者が影が薄いので忘れていた訳では断じてない、本当だってば。

基本的に無口(一応喋れます)なので存在感が薄いのは確かだが。

でもアリスン、何気にマギウス・モードになれる来恐ろしい娘さんなのだ、素でも暴走するととんでもないし。

アリスンが切れるとエンネアと互角、この二人の大喧嘩、以前アリスンがタゴンを召喚し(己の魔力のみで)、エンネアがネームレス・ワンを駆るという壮絶なものとなった。

止めるのに、デモンベインとリベル・レギスの二機が死ぬ気で取り押さえたそうだが。

何気に苦労している大十字九郎と、マスターテリオン、白き王と黒き王で似たような運命を背負っているのだろう。

ある意味阿鼻叫喚の地獄絵図の喧嘩風景を見た(覇道家の敷地内でやられた)瑠璃は見ないことにして館に戻って紅茶を飲んでいたらしいが、現実逃避か。

現世に回帰したときはそれはもう前例が無いほど激怒したが。

美少女二名、瑠璃直々に折檻された、ルルイエは無罪放免(これほど無垢な存在はほかにいないので)。

そんな地獄を体験しつつ教官がいいのか、術者が優秀なのか成長は早かったそうな。

特にアリスンちゃん。





それはさておき。

瑠璃の指示が続く。

「現在において、指揮権はこちらの手にはありません、恐らく暫くしたら特務機関ネルフに移るでしょう、こちらが出るのはネルフのエヴァが敗退したあとなりますが、いつでも出れるように、今回は大十字さん、シンジさん、お二人にお願いします」

瑠璃は戦力の逐次投入などの愚の骨頂を犯さない、持てる全戦力とまでは行かないが過剰な戦力を叩き込み、有無を言わさず殲滅する、スマートではないが確実性に高い方法。

ついでに本部の守りは、といってもアメリカなので対ゼーレへの警戒にエンネアは待機任務兼予備兵力だが。

マスターテリオンは最近どこかにふらりと行って、未だ帰ってきていない。

只マスターテリオンが出なければならない場面になるというのは“ブラック・ロッジ”が追い詰められているということなので、出来るならば出ないほうがいいのだが。

理由としては敵で遊ぶので被害が増す為。

「わかりました瑠璃さん」

「応よっ、姫さん」

一応敬礼をつけて答える、シンジと九郎。

建前上軍人なので、まあ瑠璃はしろと言ってないのだが、二人とも男の子なので妙にやりたいらしい、敬礼、思いっ切り様になっているし、どうも二人で練習したらしい。

「小娘、妾には言葉も無しか」

「エルザにはー、ロボ」

上記の男二人の相棒の美少女二人である、両方人間でないのがここの凄いところだ。

「はいはい頑張ってくださいな、古本娘、機械人形」

手をひらひら振りながら、九郎と大層な態度の違いである。

「ふんっ、もう少し労わらんか」

「素直じゃないと、ダーリンに嫌われるロボよ」

これでも仲はいいんだがね、九郎ハーレムのメンバーは、ナイア除く。

まぁ、口では文句を言いながら格納庫に向かう四名である。

口の裏側にある親愛の情は伝わっているのだから、瑠璃もアルもエルザも口元には微笑を浮かべていた。





再び、ネルフ本部。

一応、ミサトからさらに細かい説明、それでも十分大雑把な説明を受けアスカが出撃体制に入る。

初の実戦、既に各種試験を済ませたエヴァ二号機とはいえ否応なく発令所内の緊張は高まる、確実に勝てる保証は無いし、しかも前回の失態により失敗は許されないプレッシャーは凄いものであろう。

モニターに写るケージ内の様子と、二号機パイロットの姿、その少女に頼らざるをえない大人達。

只、少女を二号機を見つめる目は様々だったが。

復讐に濁った女の目。

己が傲慢な望みを叶え様と画策する老人の目。

少女に戦わせることに罪悪を感じている者の目。

少女を実験動物のように見据える目。

少女の帰還を望む科学者の目。

様々に、本当に様々に。

少女の命の危険を憂いていたのが極少数だったというのがこの組織のメンバーの意識を良くあらわしている。

勿論モラルの高さも。





さぁ、語り部が舞台の席に着かしてもらったよ。

第二幕は最初の佳境を迎え始めている、少女の叫びに彩られた苦悶の声が上がる官能の舞台が。

愚かしい、腐った性根を持ちし自称賢人達の手によって。

今、おぞましき天使の模造品に命が吹き込まれていくよ。

惨たらしいお人形に、血を通わせようとしている。

君たちの信じる神に背く行為でね。

最近誰も僕を崇めてくれないんだ、ちょっと寂しいんだけどね。

作業は進んでいく、決戦と称する喜劇を盛り上げる手順を踏むように、定められた振り付けを踊るバックダンサーのように、愚かな舞台に刺激を加えるために、本人たちは意図しなくても。

舞台を盛り上げる、凄惨な血みどろの舞台を。

さぁ、さぁ、さぁ。

愚者の書き記したシナリオは、著者がおらずとも進行する。

狂おしく、愚かしく、笑いを誘う、愉快な愉快な、惨たらしく悲惨で残酷な救いのない結末を描いたシナリオに沿って。

既に瓦解したシナリオをではなく、喜劇で悲劇な舞台の見せ場、神の御使いと紅蓮の鬼との殺陣、死の舞踏を。

さらに、さらに、さらに瓦解したシナリオは僕を愉快にするように既に書き変わっている。

僕の大好きなお姫様によって。

僕の大好きな喜劇の出演者を踊り狂わせる、彼らが自分の望むままに踊っている。

なんて美しいんだ。

さぁ読み進めよう、さぁ眺めよう、既に幕は上がっているよ、第四の神の使い、それを称する怪異によって引かれた幕が。

ワイン片手に楽しもうじゃないか、血のように赤い、赤い、ワインで。

狂気により醸造されたアルコールはこれ異常なく甘露だ。

狂える、狂える、悲惨で悲惨な、愉快で愉快なこの舞台を肴にね。

人の醜態ほど甘美な酒の肴はないんだからねぇ。

こんな愉快な舞台なら何回何千何億回でも楽しめる。

そして第二幕最初の見せ場、使徒という怪異とエヴァと呼ばれる人形、双方ともおぞましき異形。

まずは主演女優のダンスを眺めよう。

きれいに歌って、きれいに踊ってくれるはずさ。

僕の期待通りに。

僕の目を耳を脳髄を楽しませてくれる。

豚のような声で歌い、陸に揚げられた魚のように躍ってくれる。

己が首を絞めるように。

自分で死刑台に上がるように。

赤き少女のあげる苦しみを苦悶の声を伴奏に、紅の鬼神に破壊の旋律を与えるだろう。

その様を眺めよう、何よりも目に麗しい、愉快なコメディになるはずだ。

過ちというコントで周囲を破壊し、傲慢という余興で死を振り撒く、なんとも優秀で勇敢で有能なコメディアンだろう。

嗚呼、嗚呼、嗚呼、笑える笑えるよ、君は僕を笑い殺す気かい、ああそれはいい死にかただろうけど。

こんな愉快な気分なんだから。

これほどの美酒を味わえるのだから。

全てが逆目に、全てが誰かの死に繋がる、それを見ても何も感じない、女優は何も感じない、誰もが注目する喜劇女優は気にしない、只喚くだけだ。

純粋だよ。

君は、純粋だ。

おぞましく、残酷で、利己的で、激情家だ。

嗚呼、それでいい、君のその囀る豚の声が、君ののたうつその様が。

彼らを呼び寄せる。

来るよ。

無垢なる刃。

黒き刃金の戦神。

二体の神の降臨だ、君の踊りが彼等を召喚する。

驚愕だよ、ビックリだよ、魔術師でもない君が鬼械神を召喚するんだ。

まぁきみは望まないだろうけど。

僕には愉快だ。

では最初のクライマックス幕開けだよ。






葛城ミサトの号令により射出されたエヴァ二号機。

殺し合いの野に今降り立った、殺し殺される為に。

鬼の操縦者はその意味を知らないのだろうけど、其処に立つという意味を。

だがすぐに知る、殺し合いの意味を。

血で血を洗う闘争の意味を狂える戦いの中で。

己が生命を掛けて、知ることとなる。

この皆殺しの野(キリングフィールド)で。

殺し合いの意味を教育される。

他ならぬ使徒の手によって。





ここは遊技場でも、試合場でもない、殺し殺される為だけの戦場なのだから。

それを知らぬ少女は思い知ることになる死の恐怖、戦いの恐怖、殺される恐怖、戦場の恐怖、自分を蹂躙される恐怖を。

蹂躙される中で気付くだろう。

自分を指揮する女の愚かさを。

自分の考えの甘さを。

戦うという恐怖を。

その身をもって理解する。

自分がどこにいるのか、何をしているのか、理解する。

それでも少女は立っていられるのか?

再び鬼を駆ることが出来るのか?





ネルフ本部発令所。

前方の巨大モニターにエヴァ二号機と目標が対峙しているのが映る、無策にも目標の正面にだされ、さほど効果がないと思われる武器を構えて対峙している。

目標の面前に出されたエヴァは腰だめにした銃を目標に向け。

引かれるトリガーにより烈火のごとく排出される劣化ウラン弾が目標を滅多打ちにする、しつこいが市街戦である、普通使うか劣化ウラン(汗)。

「いいわよ、アスカ、もっと撃ち続けなさい」

効いているかどうかは判らないはずなのに、指揮官は狂喜し、嬉々とした表情で戦果を確認せずさらに続行を命じる。

未知の敵に対して。

単に効いてそうという予測で思慮無く命令を下す。

と言うか、高精度の分析機器があるんだから部下に聞けよ、効いているかどうかぐらい。

実際、ミサトの前に座るオペレーター達は忙しげに分析中である。

モニターに写る二号機が命令に従い銃撃を続ける。

が、劣化ウランがより硬度の高い物質と衝突することによって灰燼となって砕け散り、目標の姿を隠す。

ついでにこれ効いてない証明である、使徒体内にまで弾が打ち込まれていればそれほど灰燼は出るはずがなく、表面を貫通せずに爆散している証拠であるからだ

目標が煙に包まれ残弾も無くなった二号機が撃ち方をやめるが、響く女の声。

自分が命令を下したにも拘らずこの馬鹿女。

「それじゃ敵が見えない、何やってんのよアスカ!!!」

自身の課した命令を遵守したパイロットを詰る指揮官。

自分の思い通りにならないことからの不満の表れ、さらに自分のミスを無意識に他人に擦り付ける。

まず灰燼が上がったのが何でか理解していない、それでもアスカのやり方が悪かったに違いないと女の中では決定している。

大体この台詞、客観的に判断すると自分で自分の作戦批判しているのと同じことなのだが、自分でやれって言った事をアスカは完璧にこなしているんだから。

それに文句をつけるのはねぇ。

「何言ってんのよ、そう命令したのあんたじゃない、私はちゃんとやったじゃないのよ!!!」

勿論、その激しい少女が理不尽な憤激に黙っているほど大人しくは無い、さらに激しい怒声をもって反撃する。

理不尽に対する正当な怒りだが。

タイミングがまずい+相手が、怒鳴り返した相手が自分の駒にそんな反論を許すはずがないのだ。

やはり、当然の如く自分の順従な筈の駒の彼女主観の反抗に一瞬で頭に血を上らせる。

「何よ、私が悪いってーの、それ位アドリブでなんとかしなさいよ」

命令を無視すると激怒するくせに我が侭だな、それに無茶。

軍隊は命令に絶対服従だから、アスカはそれを幼少より叩き込まれているぐらい知っているだろうに、つまり命令すればそれに従うのだからこの場合完全に、一部の漏れもなく牛の責任なのだ。

それにどうアドリブしろと。

只単に反論されたからそれより大きい声で怒鳴り返したんだろうがね、と言うか判っているんだろうか君たちここ戦場なんだけどね。

この場合、確かに戦闘中に気をそらしたアスカが悪いのだろうが、戦っているものの気を乱すようなことを言う指揮官が悪い。

指揮官が後ろの安全なところで命令を下すのは興奮する前線の兵士を冷静にさせ、効率のいい命令を下すことなのだから。

まかり間違っても、その前線の兵士に不満をぶちまけるなんてことはしてはならない、と言うか普通考えもしないだろうが。

で、何のタイミングが悪いというと、今戦闘中ということである、しかも相手の姿が見えない。

結果、灰燼に包まれた目標が出た反撃にとっさの対応が出来ず、初撃を喰らうことを許してしまったのだ。

目標が放った光る鞭のようなものにパレットガンごと胸部装甲の一部を切り刻まれる。

「きやあああああぁぁぁぁっっっっっ!!!」

アスカの苦痛の悲鳴ごと吹き飛ばされる二号機。

胴体真っ二つにならないだけマシなんだが、本人にとっては凄まじい痛みだろう、一撃で傷はエヴァの素体にまで達している。

「アスカ、何やってんのよ、私はやられろなんて命令してないわよ!!
さっさと起きて、戦いなさい!!!
次のパレットガン出すから受け取んのよ!!」


とんでもないことのたまう女である。

既に完全にヒートアップして、本来とっても薄いオブラートに包まれている本音がバシバシ出ている。

これは部下に対する命令ではなく、奴隷か何かにするものだ。

既に周囲の視線の温度が凄いことになっていた、上司を見るというよりは、彼女の親友の科学者同様キチガ○を見る目で。

「(何であの人がここにいるんすか)」

「(アスカちゃんが吹き飛ばされたの、葛城さんのせいなのに、酷いです)」

「(六文儀、本当に彼女で問題ないのかね)」

三人をピックアップした心の声でした、別名ネルフの統一見解。

老人はマジに彼女の解任を考えていたが、それとも完全なお飾り化。

それでも若干二名ほど評価を変えていないのがいたが。

某眼鏡君、酷いとは思いつつ執着しているようだ、眼鏡屋に行くことを勧める。

某科学者、既に堕ちるところまで堕ちているのでちょっとやそっとでは既に評価は変わらないようだ。

それでもかなりムカついてはいたが。

アスカはあまりの痛みに、そりゃ胸を切り裂かれるのを2割引で味わっているんだから痛くないはずがなく、牛の暴言にも反論する余裕がない(アスカのシンクロ率は80%前後)。

暴言のほうはしっかり聞こえて、アスカの評価はリツコクラス一歩手前まで落ち、帰ったら殴り飛ばしてやると混乱する思考の傍らで考えていた。

何とか暴れ来る激痛に立ち向かい二号機を立ち上がらせようと奮闘していたのは流石だが。

だがこんな科白を耳元でがなられたらやる気など銀河のかなたに行きそうだ。

「たくっ、いつまで寝てんのよ、ほらとっとと起きて、もう一度目標に向かって、パレットガン一斉射よ、トロくさいわね使徒は待ってくれないのよさっさとやりなさいよ!! 
聞こえてんの!! アスカ!!」


と言うかやる気以外の殺意が沸いてきそうだ、相手は違うが。

なんとなく提案したら賛成過半数で可決されそうだし、多分確実に。

金髪の科学者が懐から麻酔銃で目の前の元親友をアスカのために撃つかどうかを真剣に悩んでいたのは余談である。

冬月も責めないだろうが、その当人が保安部を呼んでここから放り出そうか悩みだしていたから。





そんな発令所のいざこざなんぞ、目標が気にしてくれる筈も無く、既に倒れた二号機に近づき追撃を振り上げようとしていた。

何とかそれを横に転がってかわす二号機、少女の信条の戦いの美学などに拘っている場合ではなくなっている。

実際そんなもの、戦場では役に立たないのでとっとと捨てたほうが身の為なんだが。

反動で起き上がり、そのままプログレッシブナイフを装備する。

だが相手の武器が鞭なのと音速を超えるその攻撃速度に踏み込むことが出来ない。

と言うかこの使徒はっきり言って原作であっさり倒していたがそれなりに強い。

長距離攻撃はATフィールドで効かず、中距離はその硬い外皮で防ぐ、至近距離では音速の数倍の鞭、少なくとも現時点、装備の貧弱なネルフの装備ではきつい相手だろう。

暫く膠着状態が続き、その状況に苛ついている牛さんが愚に持つかんことを色々叫んでいたりするが無視。





で、同時刻。

ある山の中腹、中学生と思しき少年が二名、場所も状況も弁えず、特に一方がはしゃぎ回っていた。

正確には奇声を発しながらカメラのファインダーを覗き込み狂喜乱舞して戦闘を観戦していたと言うべきか。

もう一方のジャージ姿の少年は、目の前の化け物の異形に気持ち悪さを覚えていたようだが、カメラを持った少年はそんなこと気にもならないらしい。

ちなみに名前は眼鏡のほうを相田ケンスケ、ジャージは鈴原トウジ、第三新東京市きっての正真正銘の馬鹿である阿呆もしくはキチ○イでもいいが。

只単に、好奇心で戦場に顔を出す人間をほかにどう表現しろというのか、あえて言うならあとは自殺志願者くらいか。

ちなみに鈴原トウジの妹は無事である、デモンベインが市内に入る大分前に倒したため怪我一つしていないのである。

追記すると、ケンスケはエヴァを見に来たのでブラック・ロッジの存在は知りもしない。

前の化け物もエヴァが倒したと思っている。

覇道としては公表しても良いし別段隠してもいないが、広言することでも無しと世間には何も言っていいないだけだ。

ネルフとしてもそのことがバレたら拙いので必死に隠しているので、ネルフ職員の父親のパソコンとパスを勝手に使って、機密度の低い情報を眺めて悦に入っている少年には知りようが無いが。

勿論幾らネルフが隠しても国家クラスや企業に上のほうには完全にバレているので、ネルフも隠すだけ無駄なんだが。

当の現実と非現実が混在している疑いのあるキチガ○少年はというと。

今でさえ、エヴァが目標に対して苦戦しているというのに、その状況を喜んでさえいたのだ。

時折、戦いぶりの批評なんかを口にしながら。

内容はアスカが聞いたら100回くらい殺されそうな内容と言っておく。

しかし、この眼鏡二号、目の前で見てもそれがあたかもスクリーンに映る非現実を眺める感性の持ち主のようだ、所詮命の危険などあるはずが無いと高を括っているのか、ゲーム感覚での戦争を楽しんでいるのか楽天的思考である。

流石にジャージ少年、鈴原トウジは目の前の状況を憂いてはいたが。





目標と対峙している二号機はというと。

何度か牽制行動のようなものをとって目標の隙を窺って踏み込もうとするが、人間相手を想定した牽制では目標は反応せず踏み込むことが出来ずにいた。

そもそも音速の鞭の結界にナイフ一本で飛び込めというほうが無茶なんだが。

さらに相手が視覚によって情報収集しているとも限らないのでフェイントのような行動が効くかどうかは疑問だ。

さらに鞭という武器は熟練を要するがこと対人武器としては銃器を抜けば最強の部類に入る、玄人が使うと鞭の攻撃範囲は既に結界といっていいほどの絶対領域となる。

回避も防御も予測も出来ない変幻自在の武器として。

それを理解しない某指揮官は。

「踏み込んでナイフをコアに突き立てなさい、私がやれって言ってんのよ、さっさとやりなさいよ!!
貴女には私の命令を聞く義務があんのよ、判ってんの!?」


何も具体的なことを言わず願望だけを押し付けていた、パイロットはあんたの我が侭を聞く義務は持ち合わせて無いが。

流石に聞き苦しかったのか、不快そうな声でリツコが抗議する。

「ミサト、あの鞭は音速を超えているのよ、踏み込んだらまっぷたつにされるわ、無茶よ!!!」

どう踏み込めと言うのだ、結界といえるような目標の間合いに。

具体的な指示を出さない罵声など聞いていられない。

リツコは、只吼えるだけの女に明確な殺意を持ち始めていた。

もう目の前で子供が苦しむのは嫌なのよ。

紛れも無い本心から感じる衝動によって生じた殺意。

だがそんな声も届かない、五月蝿そうにリツコを睨むと、罵声と大差ない命令とやらを叫び続ける。

因みにアスカは既にミサトの声を雑音とみなしていた、信頼し命を預けるに足る人間の言葉ではないと断じていたのだ。





だが完全に戦局は膠着状態に陥っている。

踏み込むことが出来ず、目標の周囲で牽制行動を繰り返すだけだ。

何も動きが無いのだ、攻撃しようにもこちらの飛び道具は効かず、手にあるナイフを投げつければ質量的に効果はあるだろうが、一発限り、そうおいそれと投げれるものでもない。

だが、その逡巡が過ぎるうちに。

膠着も長くは続かず、急に接近してきた目標の攻撃をかわしたところでもう一本の鞭で脚を取られ、そのまま足に絡められ投げ飛ばされる。

奇しくも、キチガ○少年のいる山の中腹に。

轟音を立てて大地に叩き付けられる二号機、上がる苦悶の声。

そしてその墜落地点にまさにいた馬鹿二人。

死んでも自業自得だから同情の余地は無いが、と言うか悪いのこの馬鹿達だし。

避難命令破ってここに居る訳だから、見捨てられてもエヴァに殺されても文句は言えないし、言いようも無い。

結果、ネルフもアスカも二号機の落下地点のすぐ傍らに吹き飛ばされた土砂に塗れ血塗れの少年二人をアスカが見つけることとなった。

それを見捨てても問題は無い。

だがアスカは其処まで残酷になれない。

中学校に通っていない彼女に直接に少年たちに面識は無い。

しかし、仕方が無い一言で目の前の命を踏み潰すには彼女は幼すぎた。

そして、曲がりなりにも彼女は人類を救うヒーローになる積もりだったのだから、幾ら馬鹿で邪魔な存在といえど目の前に命がある。

人間を殺すことに躊躇った。

結果動けない。

二号機のモニターに写る震えた少年二人の為に。





勿論発令所でも少年達がいるのは察知しているが。

「近所の中学生!! 何であんなとこに子供がいんのよ、避難命令は出てるはずでしょ」

一々喧しい、怒鳴るな。

(何よ、このガキ共、私の戦いを邪魔する気、あんた等の命なんてゴミ屑以下の癖して、私の邪魔なんてしていいと思ってんの、誰が助けてやるもんですか、そのまま死んじゃいなさいよ、いい気味だわ)

叫びつつ、そんなこと考えている牛がいたが。

確かに、其処にいる馬鹿達が悪いんだが、それでも。

「いいわ、アスカ、非常時よ、今はそのガキ共になんてかまっている暇は無いわ、見捨てて使徒と戦いなさい!!! いいわね、これは命令よ!!」

もう少し本音隠して伝えろよ。

確かに間違いではないんだがね、この場合、言い方ってもんが。

今更、この程度で評価は揺るがないだろうが。

ついでに眼鏡君は助けるのが難しいと理解していたので、好意的に解釈してやっぱり惚れたままであった。

この眼鏡は多分救われない、好きでやってるんだからいいけどね、被害受けるのは自分が主だろうし。

リツコとしても救助が不可能なのは理解していたし、こんなところに出てくる、危機感の欠片も無い人間に怒りは感じていた。

アスカの邪魔になることに、そして彼女の心理を見抜き繰るべき未来を想像して殺意すら感じていたが。

その言い方は無いでしょう。

その命令に反論する余裕はアスカに無かった。

追撃して来た目標が迫り、傍らにいる馬鹿達は未だ震えて動こうとしない。

既に動ける状況ではないのだ、エヴァサイズが急速機動を取れば確実に余波で少年達が死ぬのはわかりきっていた。

この場合、見捨てるのは兵士として正しい、理性が感情が何を言おうとそれが正しい。

だがアスカがネルフに仕込まれた訓練は英雄としての自分、それは兵士というよりは競技者として仕込まれていることを、英雄など戦場にはいないのだから。

そんな少女が見捨てるという選択に入るのに躊躇った。

致命的な程。

その結果。

「其処のあんた等、死にたくなかったら、さっさと逃げなさい、こっちはあんた達気にして戦えないの、そこにいると踏み潰すわよ!!!」

外部スピーカーで馬鹿達が逃げることを促すことを叫んだ。

その躊躇いの為、アスカは逃げる時間を失った。





目標の鞭が襲った、未だ動けずに地に臥していた二号機目掛けて。

奇跡だったのだろう、音速をはるかに超える一撃を咄嗟に跳ね上げた手に持っていたナイフで切り裂いたのは。

攻撃が横薙ぎで範囲ギリギリの攻撃であったのも運が良いと言えるだろう。

だが追撃の一撃、防御されたのを学習したのか突きを放ってきた。

それを防ぐすべは無く二号機は刺し貫かれた。

「あああああああああっっっ!!!!」

先程を上回る絶叫を上げて、刺し貫かれる痛みを存分に味わされて。

痛みのあまり思考が停止する。

それからは一方的だった。

片方の鞭に固定された二号機は何もすることが出来ず、胴部の各所を何度も刺し貫かれる。

エントリープラグやエヴァのコアに直撃しなかったのが奇跡といえるくらい。

其の度に上がる絶叫、苦悶の声。

どれほどの苦痛か。

リツコが二度目に貫かれたときにエヴァとのシンクロを解除しようと命令を下したが。

某作戦部長はそれを聞き、邪魔する気と、攻撃を受けたことを詰っているのを中断し妨害した為、余計な時間が掛かり十に近い回数を刺されたのだ。

シンクロが切れても続き、アスカはそれを痛みの残る体で眺めることになる、このとき痛みのあまり気絶することが出来なかったのが不幸だ。

嬲られる恐怖を味わうことと為ったのだから。

エヴァの右腕が切り飛ばされ、首が切断される事を、どれほどの恐怖か。

何も抵抗することも出来ず一方的に来る、死に近づく恐怖。

目標が二号機を離した時、既に二号機は頭部、右腕、左足が無く、胴体に数十箇所の貫通創、既に大破していた、と言うかスクラップ一歩手前。

中にいるアスカが発狂しないことが奇跡といえる、今始めて味わう殺し殺される恐怖を味わっているのに。

存分に、その恐怖に接していたのに。





今はもう少しも動かない二号機に興味を失ったのか目標が二号機を離し再び漂いだす。

ネルフ側のエヴァンゲリオンの完全な敗北。

だがアスカの失態ではない。

目標に対する調査不足、作戦指揮官の未熟、無能、迎撃都市としての管理の甘さ、戦いに対する見通しの悪さ。

数え上げればきりが無い。

唯一の失態は、アスカが少年達を見捨てなかった、それに躊躇ったということだけだ、だがそれを13の少女に求めるのは酷に過ぎる、人も殺したことの無い子供に。

それを除けば目立ったミスはしていないのだから。

だが紛れも無くネルフの第二戦に於いて第一の敗退、また国連に対する問題の提起だった。

冬月の執務室の胃薬の空き箱が近いうちに山になりそうだ。





二号機から離れた目標が上空を暫く彷徨っている時、恐らく入り口でも探しているのだろう。

発令所では、自分の指示ではなく勝手にシンクロを切ろうとした、と言うかもう切ったリツコに対して文句を言っている牛さんがいた。

周りの作戦部員がリツコに迫ろうとする目の血走らせたミサトを数人掛りで羽交い絞めにしていたが、それでも前進は止まらないのは凄いものである(10人がかりなのだが)。

ちなみに聞くに堪えない暴言なので割愛する、ページが幾らあっても足りんので。

リツコは完全に無視してアスカの生存確認やら、諸々の作業の指揮を執っていた。

内心、喚いている女を今にも殺しそうな殺意を抑えて。

「マヤ、アスカの救助を最優先に、青葉君、迎撃設備の稼動状況を、少しでも時間を稼ぎなさい」

その状態で理性的な命令を下せるのは流石だ。

時間を稼ぐのはアスカを再搭乗させる時間ではなく、まもなく移るであろう指揮権を期待してだ。

現在のネルフは座して滅びを待つくらいしか選択肢が無い。

他人任せだが、アンチクロスに期待するしか選択の余地が無いのだ。

考えを巡らしているとき、オペレーターが叫ぶように告げる、本日三回目青葉君だったりするが。

「国連軍参謀本部より入電、さ、参謀総長からです」

最高指揮官たる国連事務総長を抜けば国連軍最高のお偉いさんである。

そしてモニターに写る初老の男、だがその顔は強張り、目はとても冷めていた。

人間、冷静に切れている人が一番怖い。

「国連は現時点での特務機関ネルフの戦闘能力の対使徒戦における戦闘能力を失したとみなし、指揮権を国連軍独立特務部隊“ブラック・ロッジ”及び第三師団に委譲することを宣言する、冬月特務准将返答は」

無感情に只述べる、絶対の威圧感を込めて。

ゲンドウのような仮初ではない、本物のカリスマを有した人物の威圧感を浴び、返答を求められた冬月は。

「・・・・・・・了解いたしました参謀総長閣下」

只了承する以外に選択は無い、どれだけ思惑から外れようと、どれだけ不都合だろうと。

化け物と呼べる軍部の超大物を相手取って語る能力などありはしないのだ。

只一人を除いて、まぁこいつはキチガ○だし。

「このクソ爺、何言ってんのよ、あんた何様なわけよ、突然しゃしゃり出てきて、この私から指揮奪うなんていい度胸じゃないのよ、使徒は私の指揮じゃないと倒せないのよ、わかってんの!!!!」

流石にこの場にいた全員が顔面蒼白になった。

冬月あたりは顔面から脂汗をダラダラ流していたりもする、幾らなんでも拙過ぎる。

気分的にはゼーレメンバーの一人に同じことを言うのと変わりないのだ。

只の作戦部長が聞いていい口ではない。

このときの周囲の心の声は、誰かこの女を殴り飛ばして黙らせろだった。

最も渇望したのは冬月だったが。

参謀総長はミサトを一瞥して嘲る様に軽く一瞥するとそのまま通信を途絶したが。

付き合うのも馬鹿らしいだろう。

ちなみにここの戦闘指揮の様子は監視団によってリアルタイムで国連本部に垂れ流しである。

勿論、事前通告はあったのだが、正式な文書で。

そんなこと知りもしないだろうが、後日晴れて牛の給料(別名酒代)は5桁となったという。

コンビニのバイトより安い月給だろう。





指揮権の委譲をされる少し前。

既に準備段階に入っていたアンチクロスの4名が何故か生身で虚数展開カタパルト内で待機していたりする。

態々機体に乗らずそんなことをしたのは、そっちのほうが目立っていいじゃないかという九郎の発案なんだが。

どうせ前回やっているんだからと空間転移に対しては瑠璃も隠し立てはする気は無いようだ。

ついでに九郎、アルコンビは前回も同じことをしていました。





来るよ、来るよ、僕の愛しい人、九郎君。

そしてその愛妾、アル・アジフ、エルザ、弟君たるシンジ君。

おぞましき怪異を祓う二体の神を召喚し、死地に舞い踊る。

来たれ、魔を断つ剣。

来たれ、永劫の闘争者。

第二幕に華を添えるために、二つのネクロノミコンで弔辞を述べようじゃないか。

一つはオリジナル、“魔物の咆哮”(キダフ・アル・アジフ)


そしてもう一つのオリジナル、マスター オブ ネクロノミコンにより写された完全なる写本、もう一つの“魔物の咆哮”(キダフ・アル・アジフ)


それはオリジナルにも劣らない。

エルザにアル・アジフによる魔道処理を施し、精霊としての代替を任せ機能するアイオーンはデモンベインやリベル・レギスに劣らない。

真なる鬼械神、偽りの鬼械神。

今偽神が舞い降りる、鋼を鎧い刃金を纏い、神の使いを滅ぼさんと。






指揮権の委譲が示された直後、以前のように響く声。

何処までも透き通るような力ある声。

重なり合う二対の声、神を呼び出す召喚祝詞。

憎悪の空より来たりて     永劫(アイオーン)!!

正しき怒りを胸に       時の歯車 断罪(裁き)の刃

我等魔をたつ剣を執る     久遠の果てより来る虚無

汝、無垢なる刃 デモンベイン 永劫(アイオーン)!!

               (なれ)より逃れ得る者はなく

               汝が触れし者は死すらも死せん!!


以前と同じく空間に描かれる五芒星、召喚の魔法陣(ヘキサグラム)、光り輝く、偽りの神の降臨。

空間が爆砕し、無であるはずの場所に存在が再構成され降り立つ二体の鋼の塊。

大十字九郎、アル・アジフの乗機、魔を断つ剣(デモンベイン)


大十字シンジ、エルザの乗機、永劫の闘争者(アイオーン)

二機が左右に別れ目標を挟むあたかも舞を踊るように。

二機から聞こえる二対の声が今度は唱和する。

我に傅き

我に仕え

我が秘術に力を与え

火の秘文字の刻まれし刃が霊験(あらた)かに

我が命に背く諸々の霊を悉く恐怖せしめると共に

魔術の実践に必要な円、図、記号を描く助けとなれ

ヴーアの無敵の印に於いて

力を与えよ!!

力を与えよ!!

力を与えよ!!


バルザイの偃月刀、召喚祝詞。

紡がれし言葉に応じてそれぞれの右手に現れる三日月状の刃、魔術武器。

刻まれた不可思議な文字が紅い光を放つ。

その二機に目標が鞭を振るう、音速を遥かに超える攻撃を仕掛けてくる。

その攻撃を偃月刀で切り裂く。

目標は切り裂かれた鞭をたちどころに再生させ、続けて攻撃を仕掛ける、あたかも目の前の二機に神の模造品に怯えるように。

二号機が受けた攻撃とは比べ物にならない連続攻撃。

だが二機は対応する、音速を知覚する。

あたかも決められた剣舞を踊るように、一部の乱れなく。

それぞれが異なる動きをしている筈なのに、連続し繋がっている。

片方が引けば片方が押し、その逆も然り、翻弄するような攻撃が続く。

目標は次第に胴体を切り裂かれるが苦痛を感じないのか、徐々に傷口を再生させながら迫る。

だが既に決着はついていた。

圧倒的なまでに。





ネルフ発令所。

二体の神の降臨、無論目の前にある二体が神を模した鋼であるということは知りはしない、以前出てきて一撃で第三使徒を消滅させた一体が再び表れたことが分かっただけだ。

彼らに理解し得ない空間転移という方法で顕現して。

それも前回と同じなので取り立てて騒ぎ立てするもんではないが。

技術部の人間が血相を変えてデータを見比べていたりはするが、確かに科学では解明不可能だろう、リツコは説明を受けて知っているし。

原理は理解できないが、魔術を解すれば理解できるだろうとも思っているので、別段驚いてはいない。

そんなことよりいい加減、白衣のポケットにある麻酔銃をぶっ放すか、それとも近くにいる保安部から拳銃を借りて目の前で無様に喚いているクソ女を後ろから射殺するか真剣に悩んでいた、人類の為に。

当のクソ女は、指揮権が奪われた瞬間から、過去最高に憤激し、思いつく限りの暴言を既に通信が繋がっていない参謀総長に叩きつけ(監視団が上官侮辱罪であとで独房に放り込ましたこの時点で10日)。

デモンベインとアイオーンが現れてからは、其方に標的を変えさらに苛烈に罵詈雑言をマシンガンのように連発していた。

リツコとしては、あれと出身大学が同じと言うか同じ組織に属しているというか、同じ性別であるという時点に、同じ人間であるかどうかを疑いだしていたが。

サルのほうが知性があるわ、科学者の談である。

周囲からの冷たさや、さらに哀れみの混じった視線などの一種特有の視線をものともせず。

追加で、何でこんなのの部下なんかやっているんだろうと自己批判をするものもいたが、その疑問や不満は上層部に向かっている、只でさえない上の信用、この女一人のせいで連日大暴落である。

そろそろストップ安だろう、ネルフ内の信用の株式市場は大恐慌だ。

「何なのよ、何なのよ、何なのよ!!
あいつ等は、私の人類の存亡を懸けた戦いの邪魔をする気!!!!!
使徒はね私の指揮じゃないと倒せないって決まっているのよ!!!!
アスカ、何時まで寝ているのよ、早く起き上がってあの邪魔な奴等を殲滅しなさい!!! これは命令よ!!!
とっとと起きて目障りなあの敵のロボット、いやテロリストを殲滅しろって言っているのよ、早くやりなさい」


無茶苦茶を言う。

と言うか正式に指揮権を譲渡されている現在、もしテロリストだとしてもそれはブラック・ロッジか国連軍が対処すべき問題である、既に傍観者と化しているネルフの面々に出来ることなど、情報収集くらいと、スクラップ一歩手前の二号機の回収作業くらいである。

二号機の回収は戦闘が終わらないと手が出さないが。

勿論どれだけ罵声を飛ばそうと、動きもしない二号機が動くはずが無く、当のアスカからも返事が無い。

雑音に返事する必要も無いが。

因みにアスカは特務二尉、牛は特務准尉で、アスカは紛れも無く牛の上官である、暫くしてアスカがそのことに気付いたりするんだが、それはまた後で、あまり話しに噛まないけど。

今は返事をする余裕が無いのが現状だろう。





で、当の罵声を一身に浴びているアスカは、そのような雑音など最早耳に入らず。

発狂こそしないもののエントリープラグの中でひざを抱えて震えていた。

初めて体験させられた死の恐怖、殺される恐怖、嬲られる恐怖。

絶え間なく続く痛みの中ではっきり知覚した、恐怖を。

既にプラグ内に流れる発令所の声など届いていなかった、只怖かった。

戦うことが恐い事だなんて知らなかったのだ、この少女は、戦うことがここまで陰惨なものだなんて知らなかった。

だから怯えていた、痛む体を丸め込んで幼子のように震えていた





だが今は、魅せられていた、目の前に繰り広げられる戦いを。

圧倒的神性を神威を持って自分を嬲った相手を追い詰めていく仮初の神に見惚れている、あまりに美しかったから。

それは本当に今の状態が欲も思惑も何も無い怯えた無垢な心に戻ったからこそ感じた思いかもしれない。

あたかも舞うように動く二体の機械の神は美しかった、そう少女は怯えた心を恐怖に苛んだ心が、機械の神が拭っていく、破壊の神が蹂躙された心を癒していく。

二体の神の存在に崇拝にも似た感情が沸き起こる。

負けるはずが無いという頼もしさが、守られているという感情が、怯えた心を包んでいく。

白い巨人と、黒い巨人はまさに崇拝の対象となるに相応しい神威を放っていた。

この感情が後々厄介になるんだが。





で、再びネルフ発令所。

動こうとしない、動けない、返事も返してこないアスカと、徐々に追い詰めていく牛曰くテロリストに苛立ちの暴言のガトリングガンを半々にぶっ放し。

それでも飽き足らず夜叉のような表情でモニターを睨み。

その表情を見た某女性童顔オペレーターが半泣きになりました。

後日彼女は語った。

「使徒がここにいたんですぅ〜」

と、牛、自分を殺せば復讐できるぞ、大体人類は第十八使徒だし。

というか使徒より害悪な存在だと思うのは作者だけか。

「倒せって言ってんのに役に立たないわね!!!
日向君、あのテロリストに向けて全兵装ビルの照準を合わして一斉攻撃よ、使徒諸共吹き飛ばすわよ」


ついでにマジである。

本気と書いてマジ、悪鬼のような瞳で主にデモンベインを睨みつつ狂気の表情で断言している。

ここまで言い切れるのが立派ってぐらい。

流石に日向君も躊躇っているが。

日向がミサトに進言する前に。

「ミサトやめなさい、あれは国連軍の機体なのよ、そんなことしたらネルフは反逆者になるのよ」

いい加減我慢の限界の科学者が切れたが。

ちなみに冬月は余りの事に胃痛が凄まじい痛みと共にやってきて司令席で胃を抑えて蹲っていた。

六文儀、葛城君の解任、本気でせねばネルフが滅びるぞ、と完全無欠に本気で考えていた。

「何でよ!!!」

あかん、もう人語が通用しない。

リツコは相手をする気も無いという様子で。

「日向君、今の命令は撤回よ、現時点において葛城作戦部長の作戦指揮権を技術部長の権限により凍結、以降の指揮は私が取ります、よろしいですね冬月副司令」

この権限は戦時中では使えない、普通なら指揮系統の混乱を招くためであるが。

だが、指揮権すら保持していない現時点ならばミサトよりも遥かに高位の階級、技術二佐の階級を持つリツコは与えられている命令権剥奪を実行する。

勿論、冬月に否は無い、このまま攻撃などしたら文句なしで国連議会で吊るし上げられる。

流石に今度こそ愉快でない事態に陥るだろう。

勿論既に愉快でない事態は決定しているのだが。

それはもう諦めてもらうよりほかが無いだろう。

「ああ、葛城君は少し錯乱しているようだ、拘束し、待機室に連れて行け」

うわっ、返事もせずに、待機室=檻の無い独房(中から開けられない、この時点で独房15日)に収監ですか。

勿論騒がないはずが無い。

「リツコ、覚えてなさいよ!!!!
私を誰だと思っているか分かってんの、ネルフの作戦部長なのよ。
あんたなんか友達じゃないわよこの裏切り者、スパイ!!!!」


言いたいことを言っている。

主に今度の憎悪の対象は、自分の絶対的権力を奪った彼女の視点から反逆者の元親友だろう。

ネルフの損失という観点から見ると反逆者はこの牛だろうが。

いなかったらネルフの立場はもう少しマシなものになっていただろうから。

ちなみに既に保安部も連行されている、プロレスラーのような体重100kgは軽く有りそうな男五人でもかなり抵抗しているが。

「私も友達とは思っていないわよ」

冷静な瞳で牛の罵声を聞き流しながら、リツコはせいせいしたように呟いた。

マジで鬱陶しかった。

それからはネルフ本部はやることも無く情報収集のみを行って傍観することになる。





で、戦場のほうはというと、佳境に達していた。

最早、目標は目立った攻撃能力は無く怯えるように全力でATフィールドを展開し、只守りに徹していた。

全力の防御はその硬い外皮も強固にさせ偃月刀の刃を防ぐことには成功していたが。

既にあがなう術は無い。

シンジが偃月刀を消しコクピット内のシンジの前にバイクのシートのような席に座ったエルザに。

「エルザ、あれを」

「判ったロボ、博士転送よろしく」

通信機越しに来る返事は。

『わかったである、ではいくであるぞ、ポチっとさ』

九郎も偃月刀を消しデモンベインの両腕を突き出し叫ぶ。

「イタクァ!!!」

そして新たに顕現する。

アイオーンの上空に高速で降り来る棺がちに突き刺さる、何でアメリカなのにここまで早く来るとか聞いてはいけない、ウエストなんだから。

それを両手で腰だめにかめるアイオーン。

デモンベインの右手に現れる、白銀の回転式拳銃。

防御を固める使徒という名の怪異に向けて。

二機が吼える。

『イタクァ、神獣形態』

「術式魔砲『我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)』」


デモンベインの銃より迸る、青白い閃光は白い獣となり進路を凍結させ目標に迫り。

アイオーンの砲より野太いレーザーが目標に迫る。

そしてすさまじい爆音の後、使徒と呼ばれる目標は消え去った。

前と同じく。

跡形も無く。

第四使徒殲滅。










To be continued...


(あとがき)

やっと、第四使徒殲滅です、今まで伏せていたシンジの機体はアイオーン、但しかなりウエストに弄られています、エルザが搭乗しても魔術回路が使えるようにだとか、ウエスト謹製装備だとか、アルがかつての相棒が弄繰り回されて泣いていることでしょう。
次回は少し話が動きます、多分。
ではお読みくださった皆様有難う御座います。



(ながちゃん@管理人のコメント)

sara様から「無垢なる刃金を纏う者」の第五話を頂きました。
いやー、ホント面白いですね。
特にミサトのキチ○イ加減なんて身も蓋もなく、最高に笑わせてくれました。
しかしもはや孤立無援ですな、この女・・・。メガネ君以外に庇ってくれる人間って存在するのでしょうか?
普通ならとっくに退場(クビ)してもおかしくないほどの失態を犯しているし・・・減俸、降格くらいで追いつくのか?(笑)
今回、アスカと二号機は、あの狂牛のせいで悲惨な目に遭いました。
二号機なんて、もはやスクラップ一歩手前だし、これからどうなるのでしょう。
アスカもリツコみたいにネルフ(というよりミサト?)に見切りをつけるのでしょうかね。
だとしたら、アスカはシンジ争奪戦に参入するのかな?(少し端折りすぎか?)
シンジの機体もようやく出てきたし、これから色々と楽しみです。
皆さん、作者様に応援・感想メールを送って、どしどし次作を催促しましょう〜♪

作者(sara様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで