無垢なる刃金を纏う者

第七話 再会+酒宴+女装+策謀(但し自爆系)、または大十字九郎の苦難

presented by sara様


今回はコメディタッチが8割を越えています。
あまり話が進まないですが怒らないで下さい。




アーカム国際空港に降り立った黒髪の美女と、車椅子に乗った金髪の美少女、勿論リツコとアスカなのだが、其れなりに似合っている、元々アジア人のリツコには黒髪のほうが似合うし、アスカは欧米系の顔立ちなので赤い髪でも金髪でもそれなりに似合う。

これはせめて外見的特徴だけでも変えていこうと機内でリツコ特性の毛染め薬で染めたのである、リツコは元の色に戻しただけなのだが。

リツコ本人の警戒心の表れなのだが、其処は素人と言うか機内で髪の色を変えなさんなよ、
フライトアテンダントが戸惑っているぞ。

それでも、それなりに効果はあったらしいが。

日本から連絡を受けたアメリカ支部の人間が空港内にいたようだが(逃亡先の一つにアーカムは当然考えられていた)、本気で気付かなかったようだ、資料写真にあるのは金髪の赤木リツコだったので、どうも金髪黒眉毛の印象は強かったらしい。

まぁ、もしアメリカ支部の人間が気付いたら気付いたらで、サンダルフォンに撃退されるので(疲労が溜まりまくっても一般人に遅れはとらないだろうし)あまり危険は無いだろうし。

支部の人間も気付かないだけ上司の叱責で済むのでましだろうが、サンダルフォン疲労で苛々しているから手加減無いだろうから、並の人間なんてパンチ一発で昇天できる、並みの化け物や魔術師と素手で喧嘩できる人なのだ。

何で髪を染めたかというと、逃亡などの知識を映画やテレビでしか得ていない科学者というかその辺は一般人と変わらない、それでも何とか逃げやすくしようと思って髪を染めたらしいが。

アスカもノッて染めていたが、どちらにしろ車椅子なので目立つんだがね。





因みに瑠璃は既にリツコがどこにいるか完全に把握していたりする、リツコは盗聴などを恐れてアメリカに到着してから連絡しようとしていたのだが、そこはそれである(情報源は基本的にサンダルフォン、どうも瑠璃、ライカにいいように使われているらしい)。

故に空港を出たところでサンダルフォンが離れ、空港前にいたのは、ピシッとしたスーツ姿の長髪の男。

空港から出てきたリツコに歩みより。

「御待ち致しておりました、ドクター赤木、ミス惣流、ようこそいらっしゃいましたアーカムへ、覇道は貴方様方を歓迎いたします。
私お嬢様の執事ウィンフィールドと申しますので以後お見知りおきを」

出たよ、執事さん、何気に出番が殆ど無いけど、優雅な仕草でお辞儀をし柔らかく微笑んだ、この日と普段からアルカイックスマイルだけど。

リツコはウィンさんと面識あるから問題ないだろうが、それはともかく普通の空港で執事姿のウィンさんと超高級車はこの上なく浮いていた。

「有難う御座います、ウィンフィールド様でしたか、どうして私たちが来たことを」

リツコも覇道のお膝元に入ったことが分かったのだろう、安堵した声で、何気なく疑問をたずねる。

「ここはアーカムです、我等覇道の知り得ぬことはございません、それに貴方様の乗られた航空機は覇道系列のものですし」

リツコその辺は知らなかったようだ、計画性が在るんだかないんだか、サンダルフォン(ちなみに会社関係はこいつも知らなかった)から連絡が入った時点で各航空会社にこの二人の行方の黙秘を覇道から依頼していたので、他の会社のものに乗っていても全く問題なかったのだが。

知名度の低い何をやってるんだかわからない不透明な国連組織より、世界経済の支配層の一席に座る覇道の依頼を無碍に断る航空会社も無い。

明日に自分の会社の株価が崩落させたくないのなら、覇道の姫君の怒りを買わないほうが得策だろう。

友好関係を築ければ儲けものだろうし。

微妙に自分のポカに頬を染めるリツコが居たり居なかったり、少し調べれば覇道財閥が航空会社を持っていることはすぐにわかるのだ。

一通りの挨拶を終えた後、ウィンフィールドが迎え用であろう黒い高級車に乗ることを促し、アスカが車に乗る手伝いをして車椅子を積み込み、その値段に見合った静粛性で音も無く一行を乗せた車は空港を後にした。





その頃覇道邸。

「はい、メイドの皆さん日本からお客様です、覇道家としても無碍な歓待は出来ません、お料理の準備、お酒の準備はいいですか、ほら、其処、急ぎなさい。
マコト、稲田、早く大十字さんたちを拉致、いや連れてきなさい、私も手を回しますから」

何をしているかというと宴会の準備である、何故かある和風の座敷で。

名目はリツコとアスカの歓迎会。

何で宴会で拉致、やら手を回すという単語の必要があるのかは後ほど。

それはともかく大きな広間で覇道のメイドさんが忙しそうに準備に追われている、何故に姫さんが陣頭指揮を執っているのか、何故かメイドとその場にいる人間の中には微妙に悲壮感を漂わしているのも居る、悲壮感だけでもないが。

その悲壮感の発生源、其の一。

「九朗ちゃん、耐えたってなぁー、毎度のことやけどやっぱりお嬢様宴会好きやねん、うちは無力や、レイちゃんとエルザだけでもお嬢様の魔手から逃さんとあかんねん」

それが保護者の務めやねん、と呟く背の高いメイド服の日本人女性。

魔手とは宴会中に起きる惨劇(笑)である。

作者としてはなんとしてもレイだけは守ってあげて欲しいと思う、エルザは多分大丈夫だろう、うん多分。

チアキ、何気に保護者の努力を実行しようとしている、このお話の中ではかなりまともな保護者だろう、シンジの保護者の九郎よりはマシ。

其の二。

「大十字様のあれ、やっぱり私がやるの、男の人の裸、固いし、おおきいし、可愛くないから嫌、でも仕事だから、でもアルたん、エセルたんがいい」

マコト、悲壮感の意味が違う、あとあれってなんでしょうねぇ(ニヤソ)。

其の三。

「ぬぬぬぅ、我輩の芸をとくとみよぉ、である、ぬぅ、うまくいかないのである」

なにやら会場の隅で手品の道具を持って試行錯誤するマッドサイエンティスト。

なにやら芸の練習のようだが、上手くいっていないようだ。

こいつもまた違う悲壮感である、悲壮感とは違う気もするが。

手先は器用なはずなのだが。

其の他、これから起こるであろう自分の苦労を嘆く覇道の使用人一同、只苦労を感じているものだけではないようだが。





で、場面は変わって。

ライカの教会、最近変人の集会場と化している気もするが、其処は気にせず続けよう、協会の責任者のシスターが一番変わっている気もするし、別に問題ないだろう。

近所には色々不名誉な噂も流れているそうだが、実害は無い。

ここにいるのはライカ、マスターテリオン(仮)、エンネア、アリスン、ルルイエ、コリン、ジョージ、エセルは何故か居ない(シンジ邸で怪しげな行為にふけって、今は食事の用意をしていたりする)。

ついでに他のシンジ争奪戦参加者は今エセルが何をしているか知らない、というか知っていたらここで大人しくしている筈が無い、マスターテリオン(仮)は知っているけど口止めされている。

で、ライカ一人が先程掛かってきた電話の対応に出ていた。

まぁ、ライカに瑠璃自ら電話を掛けてきただけなんだが、内容は推して知るべし。

「はい、瑠璃さん、それでは後ほど迎えが来るのですか、では後でお会いいたしましょう」

勿論宴会の誘いである、ライカは快く了承している。

一応言っておくが、この宴会というのはある種の罰ゲームであり、特定人物にとっては其の単語と主催者の名前を聞いた時点において全力で逃亡する類の催しである。

特定人物以外もそれ程率先して参加したいものではないが。

一部マニアックな趣味の人は除くが。

主催者+極一部にとっては愉快極まりない催しなのだが、主催者はある悪癖の為、宴会の最中の記憶は殆ど欠落している、しかも楽しかったと漠然と覚えているのが始末に置けない、大体翌日には二日酔いになっている癖にである。

それでも楽しいと漠然に覚えているので、酒宴を度々に開くのだ、参加者の意思を無視して。

この宴会に誘われた教会のシスター、一応聖職者、孤児院も運営している人格者ライカはというと、この宴会をそれはもう楽しみにしている人種側だった、困ったことに。

楽しみにしているのは宴会自体ではなくそれに付き纏うある男性の本人にとっての悲劇だが。

結果。

あることを期待して。

壊れていた、先程冷静に受け答えをしていたのは表層だけで彼女の精神世界かなりきわどいレベルにまで行き着いている、というか誰か止めろ、この女を。

かなりヤヴァイ、色々と、後止められる人は多分勇者と呼べる。

「(九朗ちゃん、背徳なの、インモラルなの、倒錯なの、素敵過ぎなの、神様有難うございます、嗚呼、この世に生を受けたことを感謝します生きているって素晴らしいです、ライカは今生の素晴らしさに感動に震えています。
お酒は堕落の飲み物ではありませんでしたあれは聖水です、神の御心です・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・(一通り感謝の言葉)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
嗚呼、やっぱりお姉さん男装がいいかしら、九朗ちゃんに合わせて、そして今夜は楽しみなの、淫靡なの、燃え上がるの、お姉さんが九朗ちゃんを手篭めにするの、嗚呼、神様ライカは死んでしまいますぅ )」


既に今となっては自分で自分の体を抱きしめてクネクネと体を身悶えさせている一応聖職者。

脳内ピンク色の聖職者というのがいるのも困りものだ、しかも重度の妄想癖。

顔をだらしなく歪ませてめくるめく甘美な瞬間を今かと待ちわびているような表情、情欲に浸りきった女の表情、時たま何かをぶつぶつと呟いている。

はっきり言って怖い、なまじシスターだからさらに怖い。

一人で悶えるのはいいが問題なのはこの精神崩壊を起こしかけているお姉さんを見る人間がいるということだ、しかも子供が。

ジョージ「またライカ姉ちゃんが壊れたぁ」

またというのが彼女の周囲の評価を表している。

コリン「あわわわわわっっっ」

混乱している、いい加減に君たちはここが人外魔境だということを学習するべきだろう。

その筆頭が君たちの保護者だということにも。

アリスン、ルルイエ「・・・・・・お姉ちゃん・・・・(オロオロオロ)」

動揺している、シンジが絡まなければこの二人はおとなしいもんです、基本的にはアリスンちゃん臆病ですし、ルルイエは何考えているかわからん。

エンネア「ほっといたらいいよ、関わっちゃ汚染されるから、まっとうな大人になりたかったら関わったら駄目にゃ」

汚染って伝染病ですか。

マスターテリオン(仮)「母様、年長者としてお止めください、子供の教育に・・・・・・・・」

ゴスッ。

マスターテリオンはテーブルに顔面をぶつけている、返事は無い気絶しているようだ。

「誰が年長者だって、この馬鹿娘」

禁句を語った娘に頭部にショートフックというお仕置きをくれているエンネア、年齢関係は駄目らしい、大体晴らし先は娘なのだが。

実際この二人どっちが年上なんでしょうね、常識は通用しそうに無い親子だし。

ついでにマスターテリオン(仮)はこの状態のライカを現世復帰させるのが困難だと分かっているので、母親にまる投げしたんだが、その母親が子供の教育出来るのかと言うか教育されたのかアンタ、多分育てられていないと思うのだが。

突っ込みどころは満載だが。

まぁ、人間って聞かれると少し返事に困る親子は置いておいて。

ちなみにライカは迎えが来る少し前まで悶えていた、覇道からの迎えが来るとき何故かマスターテリオン(仮)とライカは男装している、といってもマスターテリオン(仮)は普段から男装だが。

因みに、ライカの男装は黒いスーツに赤いワイシャツ、髪は後ろに撫で付けているようだが、巨乳が目立つので格好のいいお姉さんにしか見えない。

真面目な顔をしてたらやり手の女弁護士みたいな(根拠は無い)。

「九朗ちゃん、貴方のライカさんが行きますからねぇ

子供たち4人は震えていた、だから慣れよう君たち、慣れたら慣れたで何かが終わるのかもしれないが。





次いでシンジ邸、因みに九朗の家の隣、間取りは九朗の事務所と変わらないのだが内装は整っているのでかなりマシである、家主の性格だろう。

先程まではエセルの作ったブランチ、簡単なメニューであったがそこそこ上手、を食べ。

現在は食事を終え、ベッドに横になって本を読んでいた。

エセルは自分のマスターのことなんて知りませんという風にエセルがシンジに縋り付いていたが、まるで子犬のように。

それなりに優雅にゴロゴロと怠惰に過ごしていた(これを優雅とは言わない)。

ちなみにシンジは服を着ているがエセルは半裸、所々が見えている、シンジは真っ赤になって嗜めようとするが、その度に泣きそうな目で見られるので既に諦めて抱きつかれている、今更シンジも照れんでもいいだろうに。

シンジとしても嫌なわけではなし。

どうもエセルにしろアルにしろ特定の思い人に対する執着心が並ではない、魔道書として永劫を生きていたせいかもしれないが。

つまりは寂しがり屋で、甘えんぼうなのだ。

ルルイエにもこの傾向はある、彼女の場合は誰彼構わずだ、大体アリスンかライカが相手しているし、基本的にお子様だ。

どうやら久方ぶりに会って以来、シンジへの依存度が高まっているエセル、最近では自分のマスターを亡き者にしてマスターの変更をしようか考えたり考えなかったり(因みに前回登場するまでマスターテリオンの謎の旅路に予定より長期間引っ張りまわされたのがエンネアの依頼と知ったときは、本気で其の考えを実行したようです、腐ってもマスターテリオンは中々やられなかったし、殺せなかったが)。

今では満面の笑みでシンジに抱きついている自称恋人のエセルだった。

因みに彼女はマスターテリオンを疎んじているわけではなく時たま謎の行動をするので辟易しているだけ、基本的には好きな人に分類されるのだし、嫌いな人間をマスターにするほど奇特な趣味は持ち合わせていない。

そんなこんなで、何気に平和である、今この瞬間においては、いや本当に。

因みに昨夜は散々いたしている、この二人。

で、やっぱり電話が掛かってきて、騒動を運ぶ電話が、エセルはシンジが起き上がって電話を取りに行くので、ちょっとムッとしていたが。

会話内容はというと(作者の脳内処理バージョンシンジ主観)。

瑠璃が宴会、赤木博士がこちらに来た歓迎パーティをするので出席するようにと。

もし拒否すれば、同じベッドにエセルがいることをあの子達にバラしますよと。

シンジに電話で脅しをかけ、シンジが汗をたらりと流しチラッとエセルを見て(何で知ってるんだろうとか考えています)。

了承するしかないというか断ったら本気でバラされる、宴会が絡むとこの姫さんはとんでもないことをする、そんなことシンジ君は付き合い長いから周知なのだ。

バレたら人生の鎖が確実に4本になるかそれとも人生自体が消えかねない。

瑠璃としては何故断られるか判らないが何故か自分が宴会を開くと拒否するものが多いので最近強引にメンバーを集める、しかも姫さん宴会に関すると手段を選ばない傾向があるのだ、現に今も脅迫紛いでシンジを誘っているし。

電話の向こうで瑠璃がニヤリと笑っていることだろう。

なお完全に完璧に断固として絶対確実に宴会を拒否するのは九郎なのだが、九郎が瑠璃の最大の標的でもある。

大十字さんには直前まで内密に、そうですね適当にでっち上げてつれてきてください、裏切ればわかっていますわね。

姫さん、あんた壊れたのかい、まだ酒飲んでないだろう。

だって大十字さん教えると以前マギウスになってロスまで逃げるんですよ、私は楽しくお酒を飲みたいだけですのに、との瑠璃談。

いや、可愛く言っても怖いから、自覚が無いのはさらに怖いです。

因みにアーカムはアメリカ東海岸側、ロスは西海岸側で殆どアメリカ横断、何が其処まで嫌なんだろうね九朗。

まぁ、お気づきの方も多いだろうけど九朗が何を嫌がっているか。

で、シンジに逆らう術など一つも無く、隣で未だ惰眠を貪っているであろう兄の数時間後の未来を憂い、心の中で祈りを捧げ、姫さんの申し出を了承するしかなかった、というか躊躇いもなく頷いた。

誰もが我が身が可愛いのだ、シンジに罪は無いはず、多分。

たとえ九朗の行く末を完璧に予測しそれを助ける気が無いというか既に見捨てる気満々な状態であってもだ。

昔の人は言いました「長いものに巻かれろ」と。

本気になった姫さんには逆らうなと、犠牲は一人で収まるのなら家族であろうと差し出すと、死ぬわけじゃなし、少し(多大に)心の傷を背負う程度だ。

心に決めていてもシンジに罪は無いだろう。

何を述べようと九朗が報われるわけでもないが。

その後、シンジは九朗に覇道邸に出向く理由を適当にでっち上げた。

「前の交渉の時の女の人、赤木博士が此方に寝返ったから挨拶するから瑠璃さんが来てくれとのことです」

ばれにくい嘘というのは真実と嘘を混ぜることである、ちなみに今回シンジは嘘は言っていない、只言葉が足りないだけ。

疑うこともなく九朗は信じ込み、シンジの心が痛みました、痛んだところで助けるわけではないし、何の救いにもならないのだが。

その後九朗、エセル、アル、レイ、エルザを連れて覇道の車、運転手は稲田さんに乗せられて、九朗にとっての地獄の饗宴会場へと向かっていった。





ちなみにリューガは眠りこけていたため、幸福にも(?)この宴会には出席しておりません。

もしかしたら重労働のおかげで地獄から抜けられたある意味幸福な人でしょう、この人の役回りから参加したらろくなことにならないだろうから。





で、覇道邸宴会会場。

勿論この場に入った瞬間九朗にバレ、バレ無いわけが無いが、九朗は宴会ということを知って必死に逃げ出そうとしたが。

あっさり捕まった。

現在鎖で縛られ迎えから帰ってきていたウィンさんに見張られていた、雁字搦めの鎖の端はウィンさんが握って絶対に逃がしませんと気迫を湛えているし。

その程度で諦めるはずも無いが。

「執事さん、後生だ、この鎖、鎖をといてくれ、アル、シンジ、エルザ頼む、このままじゃ、俺が、俺がぁぁぁぁぁぁっ、もう嫌なんだよ、あれはぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

それはもう必死に。

鎖を引き千切ろうとするが、ビクともしない、人間用じゃないだろというくらいに太いのだこれが。

「大十字様、それは出来ません、私はお嬢様のためにお仕えする執事、お嬢様の意向に逆らうわけには御座いません、お諦めください」

丁寧であるが、完璧に拒否しているよ執事さん。

だからと言ってそれで諦める九朗ではなかろう、というか諦めたら九郎のアイデンティティに関わる。

「いや間違ってる、間違ってんだろ、あんた姫さんの為にいるんだろ、だったら今すぐ俺を解放しろ、姫さんを止めろ、執事さんあんた絶対面白がってるだろ、そうだろ、絶対にそうだ、違う、だったら何で其処で笑う、執事さん」

まぁ、何を叫んだところで執事さんが助けるわけが無い、この人姫さんに被害及ばなけりゃ面白ければ何でもいいと思っている節があるし、確実にこの催しを楽しんでいる側の人間だし。

「大十字様、往生際が悪う御座います、何それほどのことでもご座いませんでしょう。
一つの芸術を完成させる至高の営みです、それに残念なことに毎回あれになるわけでもございませんし。
それに誇りに思いなさいお嬢様に大十字様が愛されている証拠です、お嬢様がお酒の席であれあそこまで楽しげでいらっしゃるのは大十字様の前だけです、ですからお嬢様のお酒の相手のお覚悟だけをして、後は諦めてください」

言ってることが矛盾してないか執事さん。

「諦めきれるかっ!!!!
それに芸術って何だ、あれがそうなのか、芸術なのか執事さんやっぱりあんた脳が腐ってるよ。
それに残念、やっぱ面白がってんだろ、そうだろ、俺の人権は、これって逆セクハラ」


確かに瑠璃は雇用主だからこれから起こる九朗の惨劇(既にあれが起こるのは決定事項)はセクハラにはなるだろうが。

「何をおっしゃる、芸術のためには小事など踏み潰されるものです。
それにこの度写真集でも覇道から販売しようとするプランが」

「するなよ、販売!!!」

もう駄目だと九朗がアルたちのほうに振り向くが。

いっせいに目線を逸らす一同、其処に助け出そうという意思は無い。

「シンジ、アル、エルザ、何で目を逸らす、何で哀れみの目で見る、特にアル、何だ其の微妙に期待に満ちた目は覚えていろ、マスターを助けようって気が無いのか。
ああっ、ライカさんいい所に今度デートしよう、ほら前に言っていた映画一緒に、夜景見ながらホテルの食事も、だからこの鎖を」


一番助けを求めてはいけない人に、既に九朗なりふり構っていないな。

因みにライカにデートの誘いをしたためアルが膨れていた。

それはもういつもとは違う男装で期待に満ちた目で穴が開くほどさっきから九朗を見ている人である。

満面の笑みを浮かべて。

「九朗ちゃん、神様はおっしゃいました、何事も諦めて野となれ山となれ、万事は流れるままに進むのですよ」

つまりは諦めろと、このまま姫さんに流されろと。

この宴会であることを一番期待しているのはライカさんだろうし。

本日壊れているし。

以後も宴会が始まるまで九朗の半泣きの必至の嘆願が響き渡るが、誰も助けるものがいなかった。

宴会が始まった辺りからは諦めたのか不貞腐れたように飯を食べていたが。

追記、覇道家のメイドの中には何かを期待して、殆どのものが小型カメラ、デジカメを本日携帯していましたとさ。

この酒宴にはメイドさんの苦労と喜びが混在しているらしい。





その時応接間では、瑠璃とリツコ、アスカが対面していたりする。

瑠璃への挨拶と、これからの彼女の身の振り方、後レイ関連の話し合いのためだが、酒宴のことは告げていない、こっちは悪意無く驚かそうとしているだけだが。

アスカは覇道邸についてからは車椅子無しで杖で歩いていたが今はソファに座っている、ちなみに覇道邸には流石に驚いた、だって門から来るまで何分も必要なんだから。

「けじめはつけましたか」

瑠璃が微笑んでリツコに問う。

リツコも自嘲げに微笑んで応じる。

「ええ、終わりました」

今彼女の胸に飛来している思いは何だろうか、そう簡単に振り切れるものではないだろう。

レイの量産体を破壊するのも、たとえそれが自分の罪の象徴であろうと、量産体を破壊することがレイの安全に繋がることだと分かっていても気分がいいものではあるまい。

例え意思の無い肉の人形であろうと、紛れも無く赤い目の少女と同じ肉体を持った罪業の象徴であろうとだ。

彼女は最後にレイの量産体に爆弾をどんな思いで仕掛けたのだろうか。

只、どれだけ悔やんでも仕方が無い、彼女たちに出番が無いというのがレイにとって彼女の出来る最良なのだから。

それでもどんな形でも今リツコは微笑むことが出来るのだから、それで十分かもしれないが。

「何も聞きませんが、いい顔をしていますよ今の貴女は」





「それで、其方が惣流・アスカ・ラングレー、元セカンドチルドレンですね、貴女と彼女は非公式ですが米国政府への亡命という形になりますがよろしいでしょうか。
実際の扱いは米国の客賓ということになりますが、色々面倒が起こりそうですので」

ちなみに面倒というのはネルフのちょっかいではない、疑わしいだけで覇道に国連軍部に圧力を掛けて彼女たちのことを詮索する力は今のネルフには無いのだ、それを確認する諜報力も、そして奪還する武力もない、今現在に於いて瑠璃はそれほどネルフを仮想敵と認識していない。

するまでも無いといったほうが正しいかもしれないが。

瑠璃が警戒しているのはゼーレ、アメリカはゼーレの支配は受けていないので彼女たちの保護のためにも話を通しておく必要がある。

勿論気休め程度の処置なのだが、やらないよりはやったほうがマシだ。

今なお世界最強軍事力、経済力を保有する米国に表立って叛旗を翻す組織は少ない、米国の客賓として扱われる亡命者に手を出せばどうなるか。

それが分からないわけではないだろう。

少なくともゼーレの支配国から介入の牽制にはなる。

ゼーレも米国と覇道と全面戦争のリスクを犯して彼女達をどうにかしようと思ってはいないだろうし。

覇道に渡った時点で機密などの情報が伝わっているのはどうしようもないし、セカンドチルドレンは無理をしないでも幾らでも予備を作れるからだ。

近親者をエヴァのコアに取り込ませて、その子供をチルドレンに仕立て上げればいい、そのチルドレンは洗脳でもして使いやすくすればいいのだから。

自分たちの首を絞めかねないリスクを負う必要は無い。

リスクと利益が釣り合わない、少なくともそう思わせる必要がある。

ゼーレとて馬鹿の集団ではなくヨーロッパ経済を牛耳っているもは紛れも無く彼らなのだから、早々危険な橋は渡るまい。

ビジネス的な計算も出来る連中だろうし。

実際に問題なのは既に暴走しかけているネルフの方なのだろうが、自分の家畜に裏切られたと思い込んでいる醜悪なる欲望の具現が何をしでかすか分かったものではない。

実際くだらないことを考えているようだし。

暴走しかけているから手段は選ばないだろうから。

その辺は神ならぬ瑠璃には分かりようが無い、リツコももう少し分別はあるだろうと踏んでいるし。





閑話休題(それはさておき)


「アスカさん、こうお呼びしてよろしいでしょうか」

瑠璃がアスカのほうを向いて話す、どうやら話題の焦点がアスカに移ったようだ。

「ええ、よろしいです」

多少緊張しているのか、まぁ瑠璃は見た目20歳前後だが、覇道家の総帥というのは聞かされているし、自分の立場もよく理解しているので緊張するなというほうが無茶なんだが。

完全な敗北を喫し、ある程度性格を操作されていたと聞いて少し思慮深くなっている。

これでも瑠璃の外見で多少緊張がほぐれているのだ。

一応突っ込むが、能力的にはまともだが、瑠璃は人格面では少し問題あるが(特に特定人物にとって)。

十分に尊敬には値するだろうがね、能力と普段の行動は。

「普通になさって結構ですアスカさん。
それよりもこれから如何なさいますか、先ずは怪我を治すのが先決ですが」

アスカの身の振り方のようだ。

既に戦いに身を置けない体になっている、まぁ瑠璃が聞いているのはそれほど将来的なことではなく当面の生活のことなんだが。

アスカは将来的なことを聞かれたと思い、その考えは纏まっていないのだろう口籠って答えられない。

「アスカさん、これからどこで生活するかということですから考え込まないでください。
赤木博士と同居しますか、希望するなら一人暮らしのほうも用意できますが、その体ですので、将来的なことは急いで決めなくてもいいのでは」

アスカの勘違いに気付いて瑠璃が訂正する。

その後、話が進み。

アスカとしてはアメリカで気を許せる知人となると共にアメリカに来たリツコだけなので自分の体も考えてリツコとの同居となった。

妥当な選択ではあるが、それからのことは怪我が治ってから決めるとのことだ。

アスカのポテンシャルは普通から見れば高いので将来的な心配はあまり無いだろうが。





ちなみにその頃宴会会場では九朗が呼ばれないでもいるナイアに泣いて縋っていたとかいないとか。

ナイアは愉快そうに九朗をおちょくっていたが、微妙に九朗の出した逃避行、自分を連れてどこかに逃げてくれ、に心を動かされかけたらしいが。

薄いといっても独占欲が無いわけではないし、九朗を手篭めにするのも魅力的だったのだろう。

結局はこれからの九朗の惨劇への期待が強く見捨てたのだった。

何より快楽主義な女(?)なのだナイアは。





で再び応接室。

瑠璃との話し合いも一通り終わり。

瑠璃が一言「会いますか」と会話の中突然切り出した。

何の前触れも無く唐突に。

その言葉だけで意味は通じるのだが。

リツコはそれだけで見て分かるほどに反応した、何かに怯えるように、何かを恐れるような目に変えて、いやそれはこのアメリカの地に立ってからリツコの瞳に合った色なのだろうが。

けじめを付けても、それでも会うことが怖いのだろう。

レイに。

ことレイに関してはリツコは過敏なほど臆病になっている、今でも会うことが怖くても堪らない。

それでも、会わないわけにはいかない、これ以上レイを待たせるわけにはいかない。

「会えますか」

故にそう答えた。

会うことが出来る事には紛れも無く喜びもあるのだから。

会わないことも恐怖なのだから。

「ええ、もう其処にいます」

瑠璃が促すのは入り口とは異なるもう一つの扉。

其処にかなり前から待機していたりする、待機しているのはレイ一人ではないが、まあ誰かは分かりそうなものだ。

因みに隣に待機させたのは瑠璃だ。

また複雑な表情をするリツコを眺めるもう一対の視線、アスカ嬢である。

前回と飛行機に乗っている間にレイに付いては聞いていた、レイに施された色々汚いこともリツコの心情も。

ネルフ(ドイツ支部)にいるときにファーストチルドレンとして伝聞に聞いていて、それでも同じチルドレンとして敵視に近い感情を持っていたが、今は敵視する理由も無い。

アスカの観点から見たら、自分より悲惨にネルフに利用されていた少女、そういう認識をしている。

因みに流石にリツコもリリスの細胞を保有していることは言っていない、他人に話すときは本人の許可を得るべきことだからだ、リツコに他人に話す権利は無い。

そのことを知っているのは極小数のみ。

もしアスカがそれ知っていたら、悲惨などというレベルでは形容出来ないのだレイの境遇は。

アスカから見ればアメリカに近づくにつれ、レイのことを自分の観点から話すリツコの姿は情緒不安定に陥っているようだった。

アスカ自身も未だ精神の平衡を保っているとは言いづらいのだが。

アスカとしては、リツコに聞いた話で解釈するとレイはリツコを慕っているような感じだし、リツコはレイに対しかなり自虐的になってはいるが、ポツリと「あの娘まだ、私のこと昔のように姉さんって呼んでくれたのよ」と嬉しげに語っていたのはアスカの印象に残っているので、それほど心配はしていないのだが。

リツコがその罪悪感に怯えているいうこともはっきり判らないが感覚的には理解している。

アスカにしてみればリツコは恩人なのだし、その彼女が望むレイとの再会は喜ばしい、まぁリツコの不安が分かるというほど人生経験をつんではいないのだが、喜ばしい結果になることは望んでいた。

ついでにアスカの中のネルフの現在の認識は。

彼女の中では既にネルフは自分をいい様に洗脳するか、殺そうとしている組織となっていたりする。

因みにリツコの説得で一番説得力があったのは、あの無能作戦妨害部長があの実力で作戦部長の職についており、未だにその位置に居続けているということである。

普通の組織ならとっくに首もしくはそれ以上だというのに。

リツコの説得が無くてもそのうち自主的に脱走してたんじゃないかしら、と考えてしまうアスカだった。

まぁ、完全に信用するようになった決め手はセントラルドグマの綾波レイの量産体だったが、単純にクローン体とリツコは説明していたが、あまりに非人道的で、同じチルドレンたるアスカの危機感は凄いことになった。

リツコは見せるつもりは無かったんだが、アスカの希望である、そこに何があるかぐらいには話していたので、アスカとしても自分の心に決着する何かが欲しかったのだろう。

逃げるときにセントラルドグマの非常脱出口を使うのでどうせ近くまでは連れて行くことになっていたし、リツコが折れて見せたのだ。

因みに脱出経路に使ったのはあの辺りは人間のよる警備網がまるで無く、MAGIによる警備だけなのでリツコの逃亡経路で都合が良かったのである。





ドアの向こう。

「リツコお姉さん、向こうにいるのね」

「そう、でも瑠璃が呼ぶまで待っていて欲しいって言っていたロボ、ここはいい子になって待つロボ」

「いい子に、待つ」

エルザが本当にお姉さんをしている。

白いワンピースを着たレイと、お揃いなのだろうか黒いワンピースを着たエルザ、アルとエセルのコンビにかぶっているが気にしないでいこう。

手を繋いで待っているのだが最近マジに姉妹に見えてくる二人である。

これを見ているのが。

「うむ、美しい姉妹愛である、我輩は我輩は感動であるぞ、エルザはやっぱり我輩の最高傑作、最高の愛娘である、レイも可愛いであるし、このまま芸能界に殴りこみ姉妹ユニットで大人気間違い無し、全米ツアー確定である、バックミュージックは我輩のギター、コネも覇道財閥問題無しである」

訳の判らん賞賛を浴びせる○○○○(この小説ではかなりまともだが)、親馬鹿の素養はかなり有りそうだ。

ウエストのギターの腕は雑音というレベルだが。

「アー、可愛ええわぁ、ホンマの姉妹みたい、うちの選んだワンピースもエルザもレイもようにおとるし、これで感動の再会の準備はバッチリや、録画の準備も整うとる、いいシーンは逃さず保存や!!!」

何をしているチアキ、このメカオタクメイド、アンタは別方面の親馬鹿ですか。

この馬鹿夫婦(結婚してません)は。

そんなこんなで、それなりに賑やかだった、完全防音なので隣には聞こえていないが。

再会の緊迫感なんて欠片も無い。





で、瑠璃側。

リツコの戸惑いと言うか、期待というか、不安と言うか、まぁ色々あるんだろうが、困惑を持ちながら。

瑠璃はどうせ心が平定するなど一日待っても無駄だろうと見切りをつけ。

「では、赤木博士、いいですね」

と促す、案外にせっかちである。

リツコは促されるままに「は、はい」と答える、やっぱりまだ思い切りがついていなかったようだ、そう簡単につくものでもないだろうが。

因みにきょろきょろそわそわと落ち着きが無い、普段の冷静さが欠片も無い。

しきりに自分の服装を気にしたり、髪を撫で付けたりしている、恋人に会うんじゃないんだから。

瑠璃自らが立って、といってもこの場にいて客以外で動けるのが瑠璃だけなのだが、扉の前に立って。

開けた、何の迷いも無く、勿体もつけず。

やっぱりせっかちなのだろう。

で、その先には突然開けられて驚いているレイとエルザ、といってもレイは表情的には軽く驚いたという感じなのだが。

保護者ズは驚いていないし。

そのキョトンと驚いた表情から視線がリツコに向かうと。

僅かに微笑み、立ち上がり、歩き出した。

感情表現が未だ薄いのでこれでもかなりの表情の変化なのだが。

リツコのほうへまっすぐと、笑顔のままで。

リツコはそんなレイを怯えるように愛しむような目で見て、近寄るたびにその瞳が不安に揺らいでいく。

レイが赦してくれているとわかっても考えてしまう、罵倒されないか、怨まれないか、殆ど自虐といってもいい考えだが致し方ない。

それでもリツコは決して目を逸らさなかった、レイがリツコの前に来るまで。

そして、目の前に来たとき。

「リツコお姉さん」

レイはそう口を開き、それは最後にリツコが聞いたレイの声に比べてとても柔らかく、親愛の情にあふれていた。

過去の無機質な声ではなく女の子の声で。

そこまでで、そこまででリツコの涙腺は持たなかった。

リツコの瞳から零れる様に流れ落ちる涙、ボロボロととめどなく流れる感情の本流。

それを見たレイは不思議そうにそして悲しそうに。

「何で泣いているの、何が悲しいの」

その他者を気遣う言葉、リツコの知るレイなら出すはずの無い言葉。

それを向けられているのが自分だとわかって。

次の瞬間にはリツコはレイを抱きしめていた、キツクキツク。

「嬉しいから泣いているの、ありがとうレイ、そして御免なさい」

そう言って暫くリツコはレイを胸に押し付けて涙を流し続けた。

まるでその涙が慟哭のように、そして懺悔のように。

心のそこから流れ出る涙。

抱き締められたレイは、最初と惑っていたが、直ぐに幸せそうに笑った、リツコの胸の中で。

リツコはしばらくそのままありがとうと繰り返していた。





外野陣はというと。

「うううううううっ、我輩、こういうのには弱いのである、涙が止まらないのである、だからお涙頂戴は苦手である」

目の幅と同じ幅の涙を流すドクターウエスト、感受性は高いようだ。

「良かったロボ、良かったはずロボ、なのになんでエルザは泣いているロボ、判らないロボ、でも不思議と悲しくないロボ、」

こっちは可愛らしく泣くエルザ、感動の涙初体験のようだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

あまりに感動して言葉が出ないチアキ、目尻に涙が光っている、それでもカメラを回しているのは職人魂と言うか何と言うか。

どうもこの家族、かなり似た感性を持っているようだ。

アスカも嬉しそうな顔で二人を眺めていた、初めてするであろう優しい顔で。

因みに瑠璃はというと感動こそしていたが涙は流さず、微妙にウエスト一家の様子に呆れていたりする。

特にチアキの構えているカメラに。





で、宴会会場。

既に必死と言うかそんな状態遥かに超えてだれかれ構わず救いを求める男、最早逃れるためにプライドを売り渡す時は近そうだ。

因みにウィンさんはどこかに行ってしまい今は柱に括り付けられていたりする。

勿論誰も助けてくれない、ウィンさんいないといってもこの部屋にいるわけだし、これからの九朗の惨劇を楽しみにする輩もいるのだから。

大十字九郎、もうその抵抗の時間も消えかかっている、それを承知しているのか、今は逃げることだけを考えてリスクを考えずに思いつく限りを叫んでいたりする。

一際切羽詰った声で、それでも一応相手は選んだようで一度断られた最愛の人、アル・アジフ。

彼女に向かって救いの叫びを上げていた。

「アル、お前だけが頼りだ、鎖をといてくれたら何でもする、助けてくれたら何でも買ってやる。
そうだ前欲しがっていたシャ○ルの新作、それともあれかロマ○コンティの年代物一緒に飲みたいとか言ってたよな、ああ、助けてくれたらこの後すぐに買い物にも付き合うレストランにも行こう」


物で釣るようになったら、何かが終わりのような気もするが、もうそこまで切羽詰っているのだろう。

因みにアル個人に覇道から給料がかなりの額が出ているので、今のアルの目下の趣味は美食と服飾が趣味になっている、俗に塗れた精霊だ。

ついでに上に挙げた品目はアルが一度九朗にねだった物だったりする。

あまりの金額に拒否したのだが、一万ドルを超えるのがちらほらとあるし。

アルにしてみればこれらは自分で買うものではなく買ってもらうことのほうが価値のあるものだそうだ。

その叫びにアルが興味を引かれたのか、九朗の拘束されている近くにアルが寄り耳元で小さな声で。

「何でも良いのか?」

確認してきた、勿論救いの手と思って千切れそうなぐらいに激しく首を前後に振って肯定を示す九朗。

「助けてくれるのか、アル、信じてたぞ、お前が俺を見捨てるはずが無いもんな、愛しているぞ、で、何が欲しいんだ言ってみろ」

さらにアルが近寄って、周囲に聞こえないような声音で。

「指輪じゃ、婚約指輪が欲しい」

微妙に頬を染めているのが可愛らしい、声も少し恥ずかしがっているような感じだ。

瞬間九朗が固まった、目の前にいるアルを凝視して。

因みに、その原因は殆ど驚いているだけで、そのものを買うこと自体は嫌がっているわけではない、確かに周囲にばれるととんでもないことになるが。

ライカとか瑠璃とか、エルザは理解しているかどうかが微妙に怪しい、ナイアは問題外、マスターテリオン(仮)はその手の願望があるか不明。

只単に、目の前の少女、確かに独占欲の強い小生意気で我が侭な自分の恋人(他に何人もいるが)がその手のことを言ってくるのが珍しくて驚いただけだ。

人生の牢獄の完全に一歩手前に来たことを憂慮しないでもなかったが。

まぁ男なんてそんなもので。

「嫌なのか」

その反応を拒否ととったかアルが不機嫌そうに、そして縋るような目で見上げてくる。

(あ〜、こんちくしょう、可愛いじゃねえか、何でそんな目で見る)

なお過去この目で見られて九朗がアルの頼みを断れた例は無い、そして今は頼みを断れる状況ではないし、ちゃんと答えないわけにも行かない。

色々手を出してはいるが、九朗にとってのナンバーワンは紛れも無く目の前にいる人外のロリペタ少女だろうから。

「・・・・・判った、逃げたらすぐに買いに行こう」

瞬間、太陽のようにアルが微笑み、ご機嫌が天井知らずに上がったようだ。

一瞬チラッと、左手の薬指を見たりしていた。

幸せそうな顔で。

「主、約束であるからな」

「判ったから、早く、姫さんが戻ってくる前に」

「うむ」

といっても小柄なアルの力で雁字搦めの鎖を解くことなど出来ないわけで、とく前にウィンさんに妨害されるだろうし。

やることといったら一つしかない。

アルの体が発光し九朗を包む。

本SS初公開、こんなときに使っていいのかマギウスモード。

光が晴れた時には銀色の長髪、黒いボディスーツ、オッドアイ、アルのように白い肌、そして背中にある羽のようなもの通称マギウス・ウイング。

大十字九郎の魔術師としての姿、使用理由が情けない。

近くにフヨフヨ浮いているミニマムサイズのアルがいたりするが。

「マギウス・ウイング!!!!」

背中の羽が内部から太い鎖を断ち切る。

そのままアルを肩に乗せ。

「行くぞ、主」

「応よっ」

気分的には戦闘中か九朗。

そのまま背中の羽を羽ばたかせて低空飛行する九朗、本気で逃げる気だ、最も外に近いところに真っ直ぐ突き進む。

半ばまで飛んだところで。

「大十字様、お戻りください、さもなくば不肖ウィンフィールド、エレガントでない手段に出なければなりませんぞ」

「九朗ちゃん、諦めなさい、この宴会最大の余興が逃げていいと思っているんですか、神様が赦しても私が赦しません、普段社会に奉仕できない人間として最下層の部類なんですから、こんなときぐらい周囲に還元すべきです、主に九朗ちゃんの餌を作っているお姉さんの為に」

立ちふさがる二人の姿、かなりの速度で飛行していた九朗に易々追いつく運動能力人外ども。

手前勝手な事を言っているし。

因みにナイアが九朗を拘束しようと思ったが見物に回ったらしい、自分が手を下すよりも面白いことになると踏んだのだろう。

「執事さん、ライカさん、あんたらやっぱり面白がってんだろ、特にライカさん最高の余興って、それが本音か本音なんだな、こんちくしょう!!!!!」

「何を言うの九朗ちゃん、宴会であの九朗ちゃんが見れないで何の価値がるの、あれは九朗ちゃんの存在価値の一部なんですよ」

「そうです、お嬢様を楽しませる要因の最大要因です、これも勤め人の役目、お諦めください」

マジな目で言っているよこの人達。

「困ったものじゃ」

アル、お前もさっき期待していなかったか。

九朗はあまりの言われように半泣きになって。

「あんたらは敵だ、俺の人格を否定する敵だ、そう自分の手で自分の存在価値を築いてみせる、立ち塞がるならあんた等の屍を越えて行ってやる」

九朗も本気と書いてマジである。

と言いつつ、ライカ方面に飛び掛る九朗、変身前なら組し易しと判断したか。

「愛の狩人たるライカお姉さんを舐めては困りますって、九朗ちゃん」

直前に急上昇、そのまま別の出入り口に全力で飛行、正面きって戦う気は無いようだ。

逃げるが勝ちである争いでもあるし。

因みにウィンさんは追撃していたが、なんで時たま天井走って追いかけて来るんだこの人は。

で、出入り口まで数メートルといったところで、突然その扉、襖なのだが、が開いた。

急制動を掛ける九朗、反動でアルが落ちそうになっていたが、肩にしがみ付くさまはそれはそれで可愛い。

でそのふすまから出てきたのは。

「姫さん」

再会劇の終わった、瑠璃が戻ってきたようだ、後ろにウエストやら未だ目が赤いリツコがいる。

「あら、大十字さん、どちらに、まさか逃げようなどと、覇道財閥を敵に回すようなことはなさいませんでしょうね」

目が据わっているよ姫さん、何がそこまで宴会に駆り立てる。

九朗はダラダラと脂汗を流し、背後を振り返り。

いつものアルカイックスマイルの執事さん。

なんか逝った笑みを浮かべる男装のシスター。

そして再び正面を見据え、目だけが笑っていない姫さん。

この三者を見て。

膝をついた、諦めたように。

幾らなんでも逃げるのは不可能と悟ったようだ。

ぶつぶつとこの世の不条理と理不尽を呪っているようだ。

「つくづく哀れだな、汝も、ああ、鎖を解くのは手伝ったのじゃから、指輪は買ってもらうぞ、九朗」

案外ちゃっかりしているアル・アジフ。





「ああ、アスカさん。彼が先程お聞きになったデモンベインのパイロット、大十字九郎さんです」

どうやらアスカは気になっている事項をしっかり瑠璃に聞いておいたらしい。

デモンベインに特定の対象としてみているならば勿論その操縦者に興味は行くだろう。

さて、彼女のイメージと現在の様子がドレほどかけ離れているものか。

今は魔術師の姿でもあるし。

まぁ、素顔も美男子の部類であるから彼女の好みに外れることは無いだろうが。

今の九朗は少し情けない。

これからもっと情けなくなるし。





で、リツコとアスカの紹介をする姫さん。

リツコとアスカは宴会の様子にかなり驚いていたが、当たり前だ何でアメリカに来て日本式の畳敷きの部屋で宴会を体験せねばならんのか。

紹介が終わった後は思い思いの場所でそれぞれ飲み食いしている。

何故か周囲の視線がチラチラと大十字九郎に集中するのだが、それはもう少し後に判明する。

未だ序の口なので大人しいものだ、多分。





あちらこちらで和やかな食事風景が流れているが。

何かが澱んでいる空間が二箇所。

言うまでも無いだろうが。

最近幸せな不幸という運命に彩られている大十字兄弟。





大十字シンジの場合。

極力恨みがましそうな視線を送ってくる義兄の視線を無視しつつ、相変わらずシンジにべったりなエセルと食事を取っていた。

勿論平穏無事という四文字熟語からは対極の状態で。

お約束と言うかなんというか、もしくは世界の真理と言うか、作者が単純に幸せを感じさせるのがムカつくとか色々あるが。

判りやすく言うとシンジの右手側にエセル。

左手側にアリスン、正面にルルイエ、エンネア、互いに互いを牽制しあう神経戦が繰り広げられていた。

みな顔だけは笑顔である。

因みに隣の席をゲットした二人は単純に早い者勝ちなのだが。

先程からエセルがシンジに甘えそれを止めようとする三人というパターンがついている。

基本的にシンジは女性には甘いのだが(傍若無人で自分勝手な某作戦部長などはまず女性と認識していないが)、特にエセルには甘い、年下のアリスン、ルルイエ(ルルイエは年下ではないが精神的に幼い)にも甘いのだが。

その甘さが今の状態を形成したことには気付いていない。

微妙に妖しいエンネアは苦手だったりする。

嫌いというわけではなく、色々策を打ってくるので、その被害をかぶるのが大体シンジである率が高いからなのだが。

策とはエセルからシンジ奪取計画(やっちゃってることは知らない)。

先程からはシンジがエセルに甘くすると、三人がジト目で視線を送り、他の娘の甘くすると見上げるようなエセルの視線が来る、勿論残りの二人のも。

故にシンジからは何も出来ない膠着状態に陥っていた、何かすると被害が自分に帰ってくることは学習しているようだ。

結果、シンジに甘えようとすると邪魔され、またシンジに構ってもらえないエセルが不機嫌になり、目の前で甘えようとするエセルを止めるたびにストレスを溜めている美少女達も不機嫌になるという悪循環に陥っている。

そんな状態で物理的な抗争に入っていないだけマシなのだが、シンジが絡むと彼女達の暴走のトリガーは羽毛のように軽いのだから。

何か彼女たちを刺激するものがあれば何が起こるやら。

で、不幸を呼び込む神様(作者)が刺激を与えないわけが無く、どこからか魔術師の少年の恨み言が聞こえるが気にせず参りましょう。

「アンタが元サードチルドレン、大十字シンジ」

杖をひょっこり突いてやってきた、元セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー、先程まで、この近くの席でレイやリツコと食事を取っていたのだが、どうもシンジに用があるようだ。

但し、アスカにシンジに対する恋愛感情はナッシング、只単にある興味で話しかけただけ。

自分のいたほうで九朗の事を聞こうとしたらチアキとウエストがシンジに押し付けただけである。

ウエストが変なことを言いそうだったのでチアキがシンジに任したのが真相だが。

ウエストの説明は慣れた人間でも理解しがたいのだから。

勿論、そんなアスカの意図とシンジに話しかけた事情など周りの少女の知ったことではない、一瞬全員がシンジを睨み、アスカを睨む。

シンジとしては最悪のタイミングで声を掛けてきたアスカだが、彼女を恨んでも仕方が無い。

「確か、惣流さんだったよね、何か用?」

「ああ、惣流じゃなくて、アスカで良いわ、その呼び方慣れてないのよ、私もファーストネームで呼ぶから、用事は少し話しを聞きたかったから」

この時点で周囲の瘴気が膨らんだ、その心の声は「「「「何、この小娘」」」」であったが、アリスンちゃんは年下でしょうに、いつからそんなに気が強くなったのやら。

「話し?」

背中に膨大な圧力を受けつつ、それを自覚しているのだがどうしようもないシンジ君、さらに隣にいる二人の視線がいたい。

「あんたさ、あそこにいる人の義理の弟なんでしょ、ちょっと聞きたいのよ」

九朗のほうを指している、今は拘束されずに何か諦めた感じで食事を取っていた、貪る勢いで(自棄食い?)。

隣のアルはやっぱり幸せそうだったが。

「九朗兄さん?」

ついでにシンジは判っていない、何でアスカがそんなこと聞いてくるのか。

そんなもの微妙に頬を染めて恥ずかしげに聞いてくるアスカの様子を見れば判りそうなものだが、自分が対象のときはあからさまだからわかっているが他人の色事を悟るような能力は無いらしい。

只単に彼の近くの恋愛がストレートかつゴーイングマイウェイな連中が繰り広げているから、普通の人間のそれが判らないのかもしれないが。

かなり特殊な人達に囲まれて生活しているからシンジ君。

特にシスターとかライカとか、メタトロンとか(同一人物です)。

この時点で、他の四人は何を聞こうとしているか気付き、その胸の内は。

(シンジお兄ちゃんに興味を持つ前に九朗お兄ちゃんに、悪くない)

(敵、じゃない?)

(九朗フラグ、面白そうだから煽っとくほうがいいかも)

(シンジ様ではないのなら、どうでもいいです)

上からアリスン、ルルイエ、エンネア、エセル、だからアリスンちゃん純粋な君は何処に。

何、そんなもの役に立たない、シンジお兄ちゃんを手に入れるんなら夜叉にでもなる。

さいですか。

「九朗のことならエンネアが教えてあげる」

「アリスンも」

妙に積極的な二名と、無関心な二名、シンジとしては波乱が起きないので万事OK、案外薄情だ、保身を優先しているともいえるが。

只暫くすると結構仲良く話していたりする、敵でなければ人当たりはいい連中だ。

共通の娯楽が手に入りここの澱みは少しマシになったようだ。





大十字九朗の場合。

宴会開始一時間、そろそろ姫さんの悪癖が出始める頃。

姫さんの悪癖は酒乱、しかもかなりからみ方にバリエーションがある器用な酒乱。

既に生贄の羊よろしく姫さんの隣は指定席とばかりに九朗が座っている逆隣には嬉しそうなアルがいたりするが。

九朗のアルへのお願いが鎖を解くことだったと主張し指輪を買うことは確約させたらしい、半泣きで「一度言ったことを違える気か」と言われて、九朗が折れただけだが。

時たま未だ何も無い左手の薬指をにへらぁと相好を崩しながら眺めていたりする。

本当にあんた外道の集大成たる最強の魔道書“魔物の咆哮”か。

当の九朗は、姫さんの被害に合い始めていた。

「大十字さん、注ぎなさい」

頬を真っ赤にして、普段と声の調子が異なり目元も怪しい、口走ってる言葉も所々理性が欠けつつある、まさしく典型的な酔っ払い。

杯を突き出して九朗に酌を要求する。

「早く注ぎなさい、主人が杯を出したら、さっさと注ぐ」

そして注いだ酒を一気に飲み干してまた杯を突き出す。

豪快な飲みっぷりだ、翌日には二日酔いでのたうつことになるんだろうが。

なお、九朗の回りにいるアル、執事さん、ライカ、ナイア、マスターテリオン、コリン、ジョージ、マコト、ソーニャ、稲田は我関せずと宴会を楽しんでいた。

覚えてろ、と心の中で恨みのリストに名前を書く加えつつお酌を続ける情けない限りだ、アスカにはどう写っているんだろうか。

そんなこと考えていると、突然九朗の体に柔らかい何かが圧し掛かり

突然姫さんが九朗に抱きついていた。

「大十字さん、瑠璃のこと好きですかぁ、どうなんですか、瑠璃は大好きですよぉ」

姫さんが九朗と関係を持ってから出た酒癖パターン、甘え癖。

頬を染めた美女にこれを言われると男としては本望だろうが。

「どうなんです、大十字さん、前は好きって言ってくれたじゃないですかぁ」

どうも前に酔ったときの記憶はあるらしい、素面に戻ると記憶なんか殆ど無いくせに。

「ほら、大十字さん、これ食べさせてください」

と指差す何故かある刺身、言いなりになって食べさせる九朗、「アーん」といってそれを食べる幸せそうな酔っ払い。

何気に九朗も嫌がっていたわりには満更でもなさそうだ。

ここまで来るとアル辺りが怒鳴り込んできそうなものだが、今現在機嫌がいいのと、この状態の瑠璃に下手に接触を持たないほうがいいと教訓を持っているからほっといている。

態々生贄の羊まで用意しているんだから、瑠璃の矛先が自分に向くことはアルでも嫌だった(被害経験あり)。

多少自分の伴侶が一時獲られ様とだ、今は覇道が贅を凝らして作った宴会料理に舌鼓を打っていた。

「大十字さん、あ〜ん」

今度は瑠璃が煮付けを突き出している、無論拒否するととたんに不機嫌になるので恥を忍んで食べる九朗。

二人の周囲に恋人空間出来上がっている、他人には不快なだけの空間が。





で、このまま幸せな空間が維持されるんなら九朗もプライドも何もかもなげうって逃亡しようとするわけが無く。

さらに酔いの回った姫さん。

唐突に、何故かそれほど大きくないのに部屋中に響き渡る声で。

「退屈ですわ、誰か芸をなさい」

来た。

権力を持った理不尽、我が侭な酔っ払い、九朗の天敵。

一斉に、みなが九朗を見て、九朗本人は脂汗をダラダラ流し、ライカは期待に満ちた目をする。

「宴会なんですもの、誰か芸をなさい、大十字さん」

ビクッと、九朗が跳ねる。

「大十字さんは、ここで瑠璃と一緒にお酒を飲みましょう、ほらお飲みになって」

当面の九朗の危機回避、九朗のコップに瑠璃がビールを注いでいた。

「ほら、誰か芸をする人は、宴の席なのです、私を楽しませなさい、誰か芸の一つぐらい出来るでしょ」

で、周囲を見渡す姫さんがいた。

勿論目をあわそうとする勇者はいなかった。

ウィンさんあんたまで。





で、瑠璃の言葉が響いたときの外野陣。

ウエスト方面。

「あの、なんなんですか、芸って」

この場で瑠璃の酒癖を知らない人物、リツコ。

いままで瑠璃のほうに注意を払わずレイやチアキ、エルザと談笑していたので、突然の台詞にちょっと戸惑っているようだ。

「あかん、赤木さん、今のお嬢様に目合わしたら、お嬢様、酒癖悪いねん、今日は九朗ちゃんからやなかったからうちらに標的むいとるで」

瑠璃のほうは向かず、極力目立とうとせずにリツコに忠告を飛ばすチアキ。

「瑠璃は酔うと誰かに芸させようとするロボ、しかも採点は辛口、生半可な芸じゃ怒り出すロボ、ダーリンなら満足させられるロボけど」

レイ共々やっぱり瑠璃に視線を向けようとしないエルザ、レイはエルザが伏せさせているのだが。

因みに過去エルザ、挑戦しあえなく敗北の前歴を持つ。

未だリツコは納得しては居ないようだったが。

だが居るもんである、不屈のチャレンジャーというものは。

ノリノリで叫ぶ白衣の緑髪。

「この酔いどれ金持ち覇道瑠璃、今度こそ我輩の芸を認めるである、この世紀の大天才ド・ク・ター・ウ・エ・ス・トに敗北の二文字は無いのである、今までは軽い小手調べ、勝利のための布石である、今真実の芸を今ここに披露するのである、It's a show time!!!!!」

つまりは毎回挑戦し、毎回瑠璃に芸をけなされているようだ。

瑠璃と言う名の酔っ払い、やけに宴会芸に煩い。

なんでだろう。

「ああ、あのトンチキ、目立つな言うに」

チアキが旦那(予定)に嘆いていた。

「却下」

見もしないで、切り捨てる姫さん。

「Why,何故であるか、何故見もしないうちに却下するであるか、理不尽である、圧制である、暴力であるぞ、この天才の放つ脅威のマジックを見ずにそんなことが赦されるであるか、否、否、否、否である赦されるはずがないのである、説明を要求するである」

「だって、いつも下らないですし、見るだけ不快ですもの」

言いやがったよ姫さん、容赦の欠片も無い。

これでもウエスト偶に練習していたんだが、いやくだらないのは確かなんだが。

「何を言うであるか、この傍若無人酔いどれ娘、真の芸を真の手品を見につけた我輩のステージを下らないとな、我輩に対する宣戦布告であるか、挑戦であるか、ではこれを見てからまだそのような不当な弾圧を加えることが出来るであるかぁぁぁぁっ」

開き直って、カードを取り出すウエスト。

と。そこに。

「喧しい」

瑠璃の投じた徳利がウエストの頭に命中、ノックダウン。

「はい、引き下がりなさい、○○○○科学者、ほらチアキ、邪魔ですどかしなさい」

理不尽で我が侭酔っ払い。

命じられた通り、チアキが足首を掴んでウエストを部屋の隅に引き摺っていった。

ウエスト退場。





「シンジ、あの瑠璃さんどうしたの」

アスカが戸惑ったように聞く、殆ど豹変といって良いほど人格がはちゃけている。

「酒乱なんだよ、その癖呑みたがるし、目を合わせないほうがいいよ、犠牲者になるから」

的確なコメントである。

「いつもは九朗が生贄になるんだけどね、今日はご機嫌みたいだね、困ったことにゃ」

機嫌が良いとはちゃけ度が高いらしい。

「嵐が過ぎ去るのを待ったほうがいいよ、どうせ兄さんが生贄になって終わるから」

やっぱり訳のわからないアスカだった。

でもシンジ、後が怖いよ君のお兄さん。





それから、何人かが宴会の犠牲になり、結果は完膚なきまでに駄目だしされたのが殆どだったが。

あえて被害者は語らないが這い寄る混沌が部屋の隅で暗い顔をしてノの字を書いていた。

酔っ払いは邪神に勝てるという証明になるかもしれない。

今回乗り切ったのは多才なウィンさんだけだった、この人なんでも出来るわな。

勿論酔っ払いの我が侭大王、その程度で満足するわけが無い。

楽しませてくれる人間が少なくてご立腹である。

「退屈ですわ、退屈ですわ、退屈ですわ、つまらないですわ、皆さん宴の席をなんと心得ているんですの、宴会芸の一つも出来ずにこの世知辛い社会を生きていけると思っているんですの。
少なくともこの覇道に仕えるものとして、芸の一つくらい身に着けなさい」

既にグデングデンに酔っ払った理不尽が叫んでいる。

九朗の膝の上で、どうやら甘え癖は抜けていないようだ、アルはその九朗の背中側に隠れて瑠璃の視界からは脱しているが。

要領のいい精霊である。

「誰も私を満足させては下さらないんですの、打ち首ものですわ、解雇ですわ、晒し首ですわ、誰か瑠璃を楽しませなさい、そこの邪神、鬱陶しい、余所でやりなさい、酒が不味くなります」

最早理性など一片もあるまい。

ひとしきり罵詈雑言を言い気が済んだのか、九朗の胸にしな垂れかかり。

九朗にとっての最後通牒をのたまった。

「大十字さん、芸をしなさい、貴方の愛しい瑠璃を楽しませなさい」

固まる九朗、好色に満ちた目を向けるライカ、周囲にも気体に満ちた目が多数、主にメイド。

この宴会の瑠璃の我が侭の中で唯一にした最大の娯楽。

大十字九朗の惨劇(本人主観)。

「ほら、大十字さん、いつも通り綺麗な大十字さんになって下さいな、瑠璃は楽しみです、ほらこんなに綺麗な肌なんですもの」

因みにこの時点で、マコト、チアキ、ソーニャ、ウィン、ライカ、その他メイド。

ゆっくりと九朗の包囲網を完成させていた、アルは既に逃げ去っている。

「ウィンフィールド、マコト、チアキ、いつも通り綺麗にして差し上げなさい、今日はあれで」

「御意に、お嬢様、あれで御座いますね」

この人達代名詞で理解しているよ。

唐突に突然に九朗が跳ね起き、周囲を掻い潜って走り出す、最後の足掻きを。

「自由への逃走!!!!!」

本人はそう主張している、無駄だろう。

勿論、ライカ、ウィンの二人に止められたけ、首筋に手刀と拳で。

「九朗ちゃ〜ん、綺麗綺麗になろうなぁ、腕振るったるでぇ〜」

「チアキさん、あんたさっき、止められへんて、同情してくれたじゃないか、無力やとか言ってた筈だろ、見逃してくれ、何でそんな楽しそうなんだ」

「あれはあれ、これはこれや、それに九朗ちゃんなんでそんなん知ってんの」

九朗のいないときのひとり言の筈である。

「大十字さん、社会の最底辺の覇道の偉大さから見たら矮小な存在価値も無い人間ですけど、一芸あれば人間なんとでもなれます、お嬢様に捨てられたら、特定の趣味の方の店で働けばソーニャ通ってもいいですよぅ」

相変わらずきっついね、このロリメイド。

「後生だ、執事さん、ライカさん。
アル〜ッ、ヘルプ・ミー、さもなくばマスターの尊厳があるうちに殺してくれ、シンジ、エルザ、ナイア、マスターテリオン誰でもいい、俺を助けてくれ、さもなくば殺せ」


最後の救済嘆願、誰も聞くものはいなかった。

先程まで大人しかったので諦めたかと思えばちっとも諦めていないようだ。

そしてそのまま引き摺られいつの間にか作られたのか四方をカーテンの下ろされた空間に収容され。

因みにその空間の周りには覇道のメイド達がスタンバトンを構えて包囲していた、逃がす気などこれっぽっちもないようだ。

時折。

もう嫌だ、とか、俺の人権は、とか、殺してくれ、とか断末魔の悲鳴とかすすり泣く声とか色々聞こえてくるが。

それに交えて、動いたらあかん口紅がずれる、ほらパット入れんと、この衣装にはこのウイッグやな、とか何をしているのか連想させる単語が聞こえてきたりする。





「なんなの、この騒ぎ」

「さぁ」

アスカとリツコ、これでアスカの大十字九朗の見方がかわるだろうが、いや間違いなく。





なにやら奇怪な叫び声や、鳴き声なんかを響かせて、数十分後。

カーテンの向こうから何かを達成した満足した顔のメイドさんズに連れられて出てきたのは端的に言えば美人。

紛れも無く美人、豪奢な和服を纏い、どうもこれがアレらしい、艶やかな黒の髪を下ろし、美の名を欲しいままにする美貌。

百人いたら百人が美人と答える美しさ。

デモンベインのゲーム中、恐らく彼以上に美しい存在皆無(断言)。

彼というのが問題だが。

そう大十字九郎、魔道探偵兼国連軍仕官。

斬魔大聖デモンベインで、アル・アジフ(正ヒロイン)でもなく、覇道瑠璃、ライカ・クルセイド、エルザ、エセル、メイドさん、アリスン、ナイアなどの女性キャラを置いておいてある意味最強の美。

男性キャラ大十字九郎の女装が美貌ではナンバーワン、不条理ながらそう感じる作者、どこか腐っているのかもしれない。

(デモンベインをプレイしたことのある人しか分からないネタで御免なさい)

「大十字様、やはりお美しい」

執事さん、いきなり九朗に塩を塗り込まんでも(この状態の禁句、美しい、綺麗)。

「九郎ちゃん、やっぱり別嬪さんやなぁ、化粧のしがいがあるでほんま、おっと撮影撮影」

カメラを構えるチアキ、あんた最初と言っている事と完全に行動が違うぞ。

「やっぱり、綺麗だな、九郎兄ちゃん」

「ライカ姉ちゃんより綺麗だよ」

ジョージ&コリン、子供は感想を素直にもらすので余計に心にくるだろうに。

他にも、それぞれギャラリーから本人としてはいたく不名誉な評価を賜っている大十字九郎だった。





で傍若無人酒乱お嬢様+今回登場からぶっ壊れっぱなしの聖職者はというと。

暴走しないわけが無い、と言うか今回かなり序盤から暴走しているし。

「九、九郎ちゃん、もう九郎ちゃん九郎ちゃん九郎ちゃん九郎ちゃんったら九郎ちゃん!!!!
ああん、ああん、あああん、今回も素敵なの素敵なの素敵過ぎなの素敵過ぎるの、想像以上なの、ライカ死んでしまいそうなの、死んでも本望なの、ヘブンに行ってしまいそうなの。
ああん、九郎ちゃん、今夜は寝かさないの、燃え上がるの、ベッドインなの、この為にライカ今日はスーツなの、配役交代なの、責めはライカなの、あああああああああああああああああんんんんっ。」


地獄に行ってしまえ、腐れ聖職者。

「ああ、ライカ姉ちゃん、帰ってきて」

「駄目だよ、明日の朝まで帰ってこないよ」

ライカ孤児院男の子コンビ、既に諦めの境地に達したようだ。

「ほとほとコヤツも色狂いに磨きが掛かりおったな、保存保存と」

超高性能(ウエスト作)デジカメを構えたアル・アジフ、自分の旦那の艶姿の記録を保存しているらしい、微妙に顔が恍惚としている。

お前もか、アル・アジフ。

「今日は、指輪の約束も得たし、コレクションも増えた、夜も普段の仕返しが出来そうじゃ」

確定だ。

「九郎君、嗚呼、なんて綺麗なんだ傷ついた僕の心を癒しておくれ、めくるめく快楽で僕に癒し「「グシャッ」」「大十字さん、今回もお綺麗ですわ、私の見立て通り良くお似合いで、嗚呼、大和撫子という言葉がピッタリですわよ、瑠璃妬けてしまいますわ、だって瑠璃より綺麗なんですもの。
ほら、もっと近くで見させてください、嗚呼、今夜は離しませんわ、泊まっていってくださいまし。
ああん、鳴かせて差し上げます、我慢できませんわ」


酔っ払ってんだか、本能で喋っているんだか、ライカと共に地獄に行ってしまえ。

と言うかアンタ記憶無いんだろうが、何で事前に着る九郎の服決めてる(突っ込まないでくださいウィンさんは何か交信できるんです、きっと)。

ついでに先程のグシャッは瑠璃とライカがナイアを潰した音。

それはもう、いい具合にはいったのか邪神がピクピクと痙攣している。

何気に今回扱いが悪いナイア。





「き、綺麗ね、大十字さん」

一応何度か面識のあるリツコ、あまりの事態に、ライカと瑠璃の壊れっぷり、もしかしたら九郎の美貌に少しどもっている。

「そ、そうね、確かに綺麗よね」

引き攣っているアスカ、憧れが粉砕されている、戦闘シーンではそれなりに格好のいい人なんですが九郎君は、日常ではこうなんだがね。

「宴会開くと毎回こんなもんです」

既に達観しているシンジ君。

エンネア達は九郎を鑑賞しに、子供の率直な感想で九郎を苛めに(彼女たちに悪気は無い、エンネア以外)、エセルはこの隙にとシンジの膝を枕に寝ていた。





殆ど半強制で女装させられ、逃亡を悉く阻止され、人権を無視されている九郎。

散々、綺麗、別嬪、その他それに類する言葉を言われまくり、人気アイドルのように写真撮影を受ける九郎。

かなり困った人間も二名ほどいるが。

その心情は。

「(ド畜生!!!! みんなして俺を陥れて楽しみやがって。 そんなに楽しいか、そんなに嬉しいか、俺の苦しみがお前らの快楽か。
アル、なんで写真を嬉々とした顔で撮る、姫さん、ライカさん、あんた理性はどこに行った(ライカに関してそんなものは元から無い)、普段人を獣扱いしてあんた等はなんだ。
ああああああっ、綺麗じゃない、綺麗じゃない、何で自分の顔で顔が赤らむ、俺はまともだ、ノーマルだ、だから綺麗だなんて思うなぁぁぁぁっ!!!)」


女装させられるたびに来る新たな世界の喜びに必死に否定する九郎。

これが彼が、この惨劇を嫌う最大の要因である。

因みに暴走しっぱなしの二名は現在九郎君に引っ付いていた。





追記、再会以来一度も出てこないレイはご馳走を食べて現在リツコの膝でお休み中。

安らいだ笑顔が幸せそのものである、その表情が長く続くことを切に願う。





その後九郎君は覇道邸の瑠璃の寝室で、魔道書、シスター、酔っ払いの三人に散々玩具にされ、枕を涙で濡らしましたとさ。





相も変わらず陰気くさい部屋で密談を繰り返す男二人、髭と電柱、生きた生ゴミ、バイオマスの価値も無い(バイオマス、生ゴミなどの使えるゴミを肥料化したりする資源再生の手法)。無価値の公害物質の塊。

時間的には宴会の開かれた日の数日後となる。

前回彼等の主観で、手駒一号赤木リツコと捨て駒一号惣流・アスカ・ラングレーに裏切られた、碌でもない人間の屑二匹、どうせ外道なことでも企んでいるのだろう。

と言うか同じ人類に数えたくない気もする。

前回のラストでも悪巧みをしていたが、今はその続きというか途中経過といったところだろう。

取引とかぬかしていたがまともな取引ではあるまい、というかこの髭は対等な取引を行える身分でもなく、先ずそんな発想も無い。

自分より年下で、目下と認識している(この臆病者は自分が上の立場に立っていないとまともに相手の前にも立てない為、相手を見縊る傾向がある、そうしないと怖くて仕方が無いから)小娘に頭を下げて交渉の席に着く発想など欠片も無いのだ。

故に姑息な手を使って、自分が圧倒的上位に立てるお膳立てを先ず行おうとする。

その結果というか成果というか、少なくとも髭は奸智に掛けては侮らないほうがいい手腕を持っている、それだけで現在の立場に立っているといっても過言ではない。

勿論褒めるわけではないが、と言うか姑息なのを褒めてもそれは先ず褒め言葉にならない。

只現在、予想外のことで思惑が外れまくって暴走気味というか止めを刺されて完全にこの髭形振り構わずに暴走する可能性が非常に高い。

「六文儀、以前に話していたことは進んでいるのか」

「ああ、順調だ、裏切り者共がいたのかは確認できなかったがな」

どうやら計画を進めているようだ。

「そうか、しかし、私達の存在がバレていないだろうな」

「金で雇った連中にやらせている、金さえ払えば何でもする連中だ、問題ない」

ばれた時、国連に突っ込まれないような対策だろう、只単に監視がきついので手持ちの部下を怪しい行動に使えないというのもあるんだろうが。

因みに、この費用ゲンドウの自腹である、リツコがいなくなったせいでMAGIを誤魔化して予算を不正流用するのがさらに困難になり、鬱陶しい監査のせいで、使途不明金を捻出出来なかったらしい。

かなりの額が必要だったようだが。

「ふむ、それでいつ実行させるのだ」

「もうやらせている、報告待ちだ、失敗してもバレはしない、何も問題はない」

どうやら、髭自ら何やら計画しているらしい、電柱はノータッチか。

不安要素が一つ増えた、まだ慎重な冬月がやったほうが確実性は高いほうに思える。

大体、この男の問題ない、本当に問題ないのか些か疑問だ、何が問題ないのかまるでわからん。

「だが、誰を狙うのだ、覇道の関係者は難しいのではないか」

「ちょうどいいのがいるのですよ、人質としてはちょうどいいのがね、所詮は小娘と子供、どうとでもなります」

つまりは髭の計画は、シンジや覇道の関係者誰かを誘拐して、人質にしてレイやシンジを得ようとしているらしい。

金でその手のことを請け負う連中に委託する念の入れようだ、どうやら本気になったらしい。

失敗しても懐が前金分痛むだけだと高を括っているようだし。

前回のシンジの拉致やレイの暗殺とは比べ物にならないほど真剣に取り組んでいるようだ、シンジの周辺を調査もさせて関係者も調べ上げている。

現に髭の机の上には、報告書形式の書類が写真添付であり。

その写真には黒いゴスロリドレスの美少女、白いゴスロリドレスの少女、教会の子供達、シスターや覇道のメイド達のものがあり、完全に盗撮であろうアングルから撮られたものばかりだ。

何故か女の子達ばかり(一応教会の子供は全員あるようだが)。

髭、攫ってきてどうするつもりだ。

恐らく外道というか鬼畜な事だろう。

煮え湯を飲まされたシンジ(未だ特に何もしていない、只思い通り動いていないだけ)、瑠璃(こっちは自分の持つ特権を奪い去っていった憎い女)の関係者を犯して、意趣返しと趣味の充実の為かもしれない。

多分この髭、女なら誰でも欲望のまま犯すことは大の得意だろうから。

それがたとえ10歳前後の子供でさえ。

冬月のほうも、それを止めようとはせずに、この老人も年甲斐もなく写真に写っている少女達の顔を好色そうな目で眺めていた。

どうやらお零れに預かろうとしているようだ。

似非紳士ここに極まれりだ。

なまじ外面がいい分髭より性質が悪いのかもしれない。

この計画が上手くいくのかはどうかは置いておいて。

この病原菌以下の存在価値のない人間としては最劣等の卑小個体の未来は決まっている。

この計画で覇道は完全にネルフに牙を剥く。

この愚者達は今まで覇道が自分たちを相手にすらしていないことを知らない。

覇道に敵を認識され、容赦という言葉が外れた覇道を相手にどれだけ立っていられることか。





同時刻、何故か独房に放り込まれているはずのミサトが独房から出され、と言っても昼間だけで、一日の殆どは牢屋に収容されるのだが。

因みに今日までは昼間はたまりに溜まった書類を牢屋でやらされていた、暴れると暴徒鎮圧銃で実力行使にでられるが(流石に書類があるので昼間は放水無し)。

牢屋番をしている女性保安部(男性だと無駄に乳だけある体で誘惑してビールを得ようとするので女性が彼女の監視についている)の顔を覚えて後日報復を受けないように全員顔を隠して懲罰を加えていた。

で、本日から何故数時間だけとはいえこの作戦妨害部長が出されたというある意味利敵行為を行われているかというと。

生贄の子羊、使い捨ての駒二号、三号である、新参チルドレンとの顔合わせである。

独房にいる人間が上司だと言うわけにもいかず、いつまでも直属の上司を紹介しないわけにもいかず、条件付での仮出所(?)である、あと一週間は一歩も出れない予定だったのだが。

勿論、出された瞬間、自分の執務室にダッシュ、何故かある大量の缶ビール(500ml缶)を3ダースほど飲み干し(総量18リットル)、主食を補給してほろ酔いで自分の忠実である筈の新しい部下と面会に赴いた。

部下の妄想巨乳大好き眼鏡を引き連れて。

部下といってもかなり部下のほうが階級が高いのだが。

何で、未だに作戦部長を解雇されないのだか、自分より階級の低い上司に対して約一名の馬鹿を除いて周囲より妨害作戦部などという不名誉な渾名で給料泥棒扱いされる作戦部員が真剣に議論されるネルフ最大の謎葛城ミサトがそれを自覚しているかどうかはかなり怪しい。

もう描写するのも面倒臭いが。

ミサトの外見に騙された、ジャージと変態カメラオタク、妙に陽気な優しいお姉さんと誤解し一目で気に入り。

牛は牛で、生来の外面を取り繕う才能で(すぐメッキが剥がれるが)愛想を振り撒き自分の復讐の駒を得ようと、選ばれたチルドレンとしての自覚を持ってとか、自分の命令には逆らうなとか、英雄としてエヴァに乗ることに誇りを持って人類のために戦うということは素晴らしいとか。

本人が実践しているとは思えないおべんちゃらを並べ立てて、人を見る目など全く無い中学生の信用を勝ち取っていた。

部下眼鏡はそんな牛の様子を、やっぱり誇りを持ったいい上司なんだなとか子供好きな人何だなとか、その欲望に染まった眼鏡の奥の目で自分の理想の葛城ミサトを作り上げていた。

こいつ等は救いようが無い。





追記、牛がリツコが既にネルフにいないことに気付いたのはそれからかなり経ってからだった。

気付いたときには耳が腐るような内容の罵詈雑言を喚き散らし、前回指揮権を強奪されたので既に親友ではなく憎悪の対象になっていたのでそれはもう凄まじかった。

懐かせたと本人はそう思い込んでいた自分の最強の駒たるアスカは、前回の使徒戦で自分の命令に叛意を示したことを思い出し、引っ叩いて、エヴァを降ろすとでも脅しつけて更なる忠誠を得ようとしたところでやっぱり裏切ったことを知り。

それはもう描写に出来ないくらい暴れ狂ったようだ。

その結果、馬鹿二人には顔を合わせたときはにこやかに媚を売るような感じで懐かせ。

顔を合わせないときは殺人的といえる訓練を課したようだ。

ジャージのほうは契約上まだマシだったが、眼鏡のほうはそれはもう悲惨であった。

寝る、訓練の繰り返しで、一日15時間を越える訓練を連日で積まされたらしい、少しでもサボると虐待に近い暴力が振るわれ、食事も悪く睡眠時間も短い、その中で優しくしてくれるのが顔をあわせるときのミサトだけ。

完璧に洗脳の手段だ、思考力を奪ってから、鞭だらけの中の唯一の飴、崇拝にも近い信用を牛は変態から勝ち取ったようだ。

逆に、ジャージからは段々信用をなくしたらしいが。

ジャージのみはまだ救いようがあるのかもしれない。





追記2

リツコのネルフの離反時にまるで描写されなかったリツコの片腕たる伊吹マヤだが。

彼女リツコに見捨てられたわけでもなく、作者に忘れられたわけでもない。

ある用事を言付けられて未だネルフにいたりする。

リツコから事情は聞かされ、その時今までのリツコの扱いを聞かされた彼女はリツコの頼みを聞くことを承知した。

彼女とて、潔癖症の役立たずではない、セカンドインパクトを体験し、サードインパクトを回避しようと義憤をもってネルフに入ったかなりまともなエリート。

ネルフに嫌悪感を抱かないでもなかったが、出発前リツコの組んだあるプログラムがMAGIにあり。

また監視団が犯罪者(アスカのこと、リツコはセカンドチルドレンの誘拐犯としてネルフ内で扱われている)を出した技術部の監視を強化しており、これが逆に片腕であったマヤを監視させる結果になっていた。

つまり監視され続けているマヤをゲンドウは手が出せない状態に陥っていたのである。

監視という名の体のいい護衛であった。

案外安全な状態でネルフに留まっていた。










To be continued...


(あとがき)

今回はお遊びがかなり多いですが、次回もギャグが大目です、髭の計画が上手くいくわけがないですから、
どこまで髭のシナリオ通りになるかは決めかねていますが結果は一緒。
失敗して覇道と完全に敵対するという構図ですね。
でもライカ、瑠璃壊れすぎかな、とも思いますが、ライカは次は結構格好いいキャラで出ると思いますよ。
最後に、今回ナイアの語りが無い・・・・・・・・・・・・・・・・。
後過去最高に長いのが今回ってどういうことよ。
ではお読みくださった皆さん有難うございました。
前回お願いしましたリベル・レギス召喚祝詞をお考え下さった方々にこの場を借りて感謝申し上げます。



(ながちゃん@管理人のコメント)

sara様から「無垢なる刃金を纏う者」の第七話を頂きました。
今回はお笑いネタ中心でしたね。こういうのも偶には良いかと。
九郎は女装しちゃう(させられちゃう)し、色んなキャラは壊れちゃってるし、笑い転げました。
アスカはシンジではなく九郎の争奪戦に参入か〜!?
・・・と思ったら、九郎の女装を見て、アッサリと憧憬崩壊。目も当てられません(笑)。
この後どうなるのか見当もつきませんな(笑)。
ゲンドウの悪巧みなんて、きっと失敗するんでしょうねぇ〜。
ま、作者様ご本人もそう仰っていることだし、確定でしょうが。
とすると、逆に覇道の逆鱗に触れ、ネルフは決定的な窮地に陥ることになりますな。実に楽しみです。
形としては、表立って覇道がネルフに宣戦布告・・・となるのかな?それとも、裏での報復となるのか?うーむ・・・。
どっちにしろ、徹底的にネルフをコテンパンにして下さい。
(まあ鬚のことだから、ピンチになったら適当な理由をつけて、お達者倶楽部に助けを求めるのが関の山でしょう)
あ、マヤさんは助けて下さいね♪
残りは全部潰しちゃって結構ですので(笑)。
管理人としては、対使徒戦だけではなく、対ネルフ(エヴァ)戦も見てみたいものです。
・・・エヴァの胴体ちょん切られたら、乗ってるケンスケ、かなり痛いだろうな〜(超妄想)。見てみたいな〜(笑)。
続きが楽しみです。
皆さん、作者様に応援・感想メールを送って、どしどし次作を催促しましょう〜♪

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