暁の堕天使

聖杯戦争前夜編

第一話

presented by 紫雲様


ザザ〜ン・・・ザザ〜ン・・・
 窓の外から聞こえてくる波の音に、少年は視線を外へ向けた。そこに広がるのは、赤い海と白い大地。生き物のいない、死の世界。ある意味、浄化された世界と表現できるかもしれない。
 少年がいるのは、少年が引き起こした大災害にも耐え抜いた、堅牢な建物の一室。そこに少年は集められる限りの物資を集めていた。
 少年の傍には、粗末なパイプベッドと、白いシーツに包まれた布団がある。そこに寝ているのは、一人の少女。
 片目・片腕・上半身を包帯で覆った姿は、重傷患者そのものである。
 「・・・ねえ、何か欲しい物はある?喉は乾いてない?」
 「うるさいわね!アタシが欲しいのは、アンタがいない世界よ!」
 憎悪の籠った視線を向けられる事にも、少年はすっかり慣れてしまった。少し前まで、淡い感情を抱いていた少女に憎まれる事は、少年にとって何よりも辛いことだった。
 だからこそ、少年は耐えた。
 罵詈雑言を浴びせられ、無事な方の手で物を投げつけられ、少年が怪我をした回数は、もはや数えるのも馬鹿馬鹿しいほどである。
 それでも少年が少女の傍にいるのは、それが少年にとっての贖罪だったから。
 サード・インパクトが起きてから、はや半年。満足な医療知識もなく、医薬品もない現状では、少女の治療など行える訳もなく、自然治癒に頼るしかなかった。
 少年に対する、少女の苛烈なまでの拒絶の意思。
 かつては少年の手料理を天の邪鬼な態度で褒めていた。そんな手料理を、今の少女は嫌悪感とともに全て捨ててしまう。彼女が口にするのは、缶詰などの保存食ばかりである。
 だが、それもあと僅か。
 缶詰が無くなれば、少女は食事もやめてしまうだろう。その事を、少年ははっきりと理解していた。
 少女を救うにはどうしたら良いのか?
 毎日、少年は海へ向かった。その遥か先には、真っ白な少女の崩れた顔が、海面からその姿を覗かせている。
 「・・・綾波・・・僕は決めたよ・・・」
 (・・・何を決めたというの?)
 自分の独り言に返る返事。それがどこから聞こえてくるのか、少年にはさっぱり分らない。だが自分の言葉を理解してくれている事だけは分かった。
 「僕はアスカを救いたい。その為にずっと考えていた事を実行するつもりだ。綾波、もう僕の事はいいから」
(ダメ。貴方が考えている事を実行すれば、貴方にかかる負担は大きくなりすぎるもの。下手をすれば、計画が途中で頓挫してしまう)
 「でも、僕は・・・」
 (安心して、私が力を貸してあげるから。私の持つ第2使徒リリスとしての力も利用すれば、貴方の負担は軽くなる。だから・・・)
 「・・・ありがとう、綾波。それから、ごめんね、綾波」
 遠くに浮かぶ少女の顔に一瞬だけ視線を向けると、少年は決意した。

 病室の窓から、少女は嫌悪と憎悪をこめて少年を見下ろしていた。少女は考える。所詮少年にとって、自分は代用品でしかない。少年の想いは、蒼銀の髪の人形へと向けられ、自分にそれが向く事はない。称賛の言葉も視線も、自分に向けられる事はない。
 『自分が孤独であり無価値であるのは、全てアイツのせい』
 少年が病室へ入ってきても、少女は歓迎する事無く、憎悪の視線と嫌味の言葉で出迎える。
 「あら、今日はもう、デートは良いのかしら?」
 無言を貫く少年。だが少女は止まらない。
 「ああ、そうか。ファーストは綺麗なお人形さんだから、汚す訳にはいかないものね。汚れ役はアタシで十分という訳か」
 赤い海の中で知ってしまった事実―かつて、少年が意識を失っていた自分にした行為をあげつらう少女。わざとらしく寝間着をはだけ、醜い傷痕の残る、痩せ衰えた体をさらけ出す。
 「好きにしたら?ファーストを汚す訳にはいかないものね」
 無言のまま近づいた少年は、はだけた寝間着を元通りに直す。その行為に、少女は更なる怒りを覚える。
 手近にあった本を掴み、少年の頭部へと振り下ろす。筋力が衰えたものの、遠心力が働いた本の装丁具が、少年の頭部から鮮血を滴らせる。
 「安心していいよ、その苦しみは、もう終わるから」
 少年の言葉に、少女は心のどこかで安堵を覚えた。
 こんな居たくもない世界から、やっと解放される、と。
 「君は第18使徒リリンとして覚醒した存在。だから、その使徒としての力は、僕と同格。だから、僕は君に干渉したくても干渉できない」
 「何を訳の分らない事を・・・」
 「僕では君の記憶を改ざんできない、と言う事だよ。だから、僕はずっと考えていたんだ。どうやったら、君が僕という存在を気にしなくてすむようになるか、をね」
 やはり自分を殺すつもりか、そう少女は考えた。
 「でも力の格は同じでも、今の君は弱っている。記憶の改ざんという繊細な作業は不可能でも、力技で君の体に移植を行うことならできる」
 何を?そう言いかけて、少女は凍りついた。
 自分の体に降り注ぐ、温かい液体。口に僅かに飛び込んできた液体の味は、彼女が慣れ親しんだ液体―LCL―に酷似していた。
 少年は、自らの右目に指を突っ込み、視神経ごと引き千切っていたのである。少年の右目からは止めどなく鮮血が流れ落ち、空虚な穴を晒していた。
 「これは餞別だよ。今から、僕の右目を君の眼窩に移植する。拒絶反応とかは、一切気にしなくて良いよ。そういうものだから」
 少女に馬乗りになり、目の包帯をはぎ取る少年。衰弱している少女が、それに抗える訳もない。
 空虚な穴を晒された少女が、残された片方の目に、憎悪と屈辱の光を宿す。
 それも一瞬。
 即座に少年は、自分から抉りだした右目を少女の眼窩に押し込んだ。
 暴れだす少女。何より憎悪と嫌悪の対象である、少年の体の一部と、一つになる事が嫌で仕方なかった。
 「ATフィールド展開」
 少年がボソッと呟く。少年の背中から、2対4枚の翼が姿を現す。
 少女の右目に押し込まれた少年の眼球。そこに含まれた遺伝子情報や血液の型が、少女の物へと書き換えられ、視神経や血管が少女の肉体と繋がる。
 暴れ疲れた少女は、憎々しげに移植された右目で少年を睨みつけた。
 「・・・右目はちゃんと機能している筈だよ」
 ふらつきながら立ちあがった少年に少女が怒りの矛先を向ける。
 「アンタ、何様のつもりよ!こんな事されて、アタシが喜ぶとでも思ってんの!」
 「そう思ったから実行したんだよ。これからの君には、健康な体が必要だから。そして僕には、そんな物は必要ないから」
 いつになくハッキリと言葉を紡いだ少年に、少女が驚きで両目を見開く。
 「さよなら、アスカ。次に目を覚ました時には、もう僕は存在しない。だから安心して幸せになってね」
 慌てて止めようとした少女の意識に襲いかかる猛烈な睡魔。
 「さよなら」
 消えていく意識の片隅で、少女は少年の泣き顔をはっきりと捉えていた。

 少女が眠りについたのを確認すると、少年は少女に手を伸ばした。
 同時に、少年の体に激痛が走る。
 「痛いな・・・こんな痛みを君は抱えていたんだね・・・僕を憎むのも、当然だよ」
 少年が行ったのは、少女の体に刻まれた傷を、自分に移し替える行為。そのおかげで、少年が傷を負う代わりに、少女は元の綺麗な体を取り戻していた。
 少年の服が、内側から赤く染まりだす。手近にあったガーゼと包帯で止血だけすると、少年は虚空に視線を向けた。
 「待たせてしまって、ごめん、綾波。これで準備はできたよ」
 (・・・本当にやるのね)
 「うん。僕の持つ因果律への干渉という能力を使い、世界を上書きする。そこには僕という存在はいなかった事にする。先生に引き取られたあと、4歳で交通事故にあって死んだ事にするんだ。それと・・・」
 少年の視線が、少女へと向けられる。
 「本当ならお母さんも生き返らせてあげたいけど、いくら僕でも消滅してしまったアスカのお母さんの魂は創れない。だから、代わりに君を支えてくれる人を君の周りに集めるよ。ミサトさんやリツコさん、加持さんに父さん、NERVのみんなの中にある悪意を少しずつ僕の中へ移す。代わりに僕の中にある、君への好意をみんなに移す。全て分け与える訳にはいかないけど、それでもみんな、君に優しくしてくれるよ」
 (・・・やはり、やめましょう。このままでは、碇君が・・・)
 「いいんだ、これで。アスカに与えられる世界は、人類救済の英雄としての立場。それがアスカが望んだ物。だからアスカには、サキエル戦から量産型まで、弐号機で戦い抜いた事にする。その為の総仕上げをおこなう」
 少年の視線が、全人類が溶け込んだLCLの海へと向けられる。
 「世界の上書きと同時に、未覚醒のリリンである全人類の記憶も改ざんする。確かに僕はアスカの記憶に干渉できない。でも例えアスカが碇シンジという存在を覚えていたとしても、他の人間全てが碇シンジの事を知らなければ、アスカは碇シンジと言う存在を確認できなくなる」
 人間が自己という存在を認識するのに必要なのは他人という存在である。自分と違う他人を認識する事で、人間は初めて他人と違う自分を認識できる。
 少年が思いついたのは、自分と言う存在に対する認識の抹殺であった。それはある意味、自殺につながっている。
 「これから5年間、僕が生きのび、世界を上書きし続けることができれば、世界は完全に上書きされ、世界が僕を思い出す可能性は0になる。そうすれば、アスカは二度と苦しまなくて済む」
 因果律への干渉を始める少年に、優しい言葉がかけられる。
 (せめて私は覚えていてあげる。あなたの中で、眠りにつかせて。あなたが抱え込んだ悪意を、私が眠らせてあげるから)
 「ありがとう、綾波。いつか全てが終わったら、必ず君を自由にしてあげる。だからそれまでの間、僕の中で眠っていてね」

 そして、世界は書き換えられた。

 真っ白な病院。その建物を、少年は外から眺めていた。
 「成功したか・・・さよなら、アスカ。幸せになってね」
 そう呟くと、かつて碇シンジと呼ばれた少年は、あてもなく歩き出した。

それから半年―
 少女は人類を救った英雄として祭り上げられていた。
 サード・インパクトを目論んだSEELEを倒したNERV。その中でも、常に体を張って最前線で戦い続けた2人の英雄の1人として。救世の女神として。
 1人は綾波レイ。第16使徒アルミサエル戦において、融合されそうになった弐号機を助けるべく、自爆した悲劇の少女。
 1人は惣流=アスカ=ラングレー。幼くして母を亡くし、ただひたすらにエヴァのパイロットに相応しく自分を鍛え続けてきた天才少女。
 世界中に、2人の名前を知らない者などいない。誰もが2人を讃える。
 連日連夜、テレビで流れる少女の特集。似たような内容の番組ばかり流れるが、誰も飽きもせずに食い入るように見つめている。
 幼い子供達は、大きくなったらエヴァのパイロットになるんだ、と親にせがむ。
 学校に行けば、世界を救った英雄として、現代史の教科書にその名を見る事ができる。
 大人達は少女を褒めそやし、少女を一人前のレディーとして扱い、パーティーにおいては常に主賓の席に座る。
 羨望の視線。称賛の言葉。名誉勲章の数々。
 全て、少女が望んだ物だった。
 当然のようにそれを享受し続ける彼女の脳裏から、いつしか少年の事は消えていた。
 それも仕方ないのかもしれない。
 世界中捜しても、誰も少年の事など知らないのだから。
 彼女の名誉を奪いかねない2人は、この世に存在しない。
 だから、彼女は安心する事が出来た。

 彼女は気付かなかった。少年の不在が、彼女の心をゆっくり蝕んでいた事に。

冬木市―
 黒い雲が空を隙間なく敷き詰める日。天から降り注ぐ、真っ白な結晶を、シンジは小さな公園の椅子に座って見上げていた。
 世界を上書きした後、彼はすぐに第3新東京市を離れた。
 半年に及ぶ放浪生活の間に、彼は海を越えた。
 そして辿り着いたのが、北海道にある冬木という街だった。
 使徒である彼の肉体は、常人とは比較にならないほど頑丈であり、体内で稼働しているS2機関は、彼に無限のエネルギーを供給する。そのおかげで、彼は雪が降っているのに寒さをほとんど感じることなく、薄着のままで生活していた。
 何をする訳でもなく、ただボンヤリとシンジは空を見上げていた。
 だから、気付くのが遅れた。
 「そこの少年。一体、何をしているのだね?」
 それが自分の事を指しているのだと気づくまでに、彼は少しの時間を要した。
 「・・・ひょっとして、僕ですか?」
 「勿論、そうだ。それとも、君の眼には君以外の人間が映っているのかね?」
 シンジに声をかけたのは、神父服を着込んだ、40代ぐらいに見える男だった。手にはスーパーで買ってきたらしい食料品を入れたビニール袋を持っている。その脇には、小学生ぐらいに見える金髪の男の子が立っていた。
 「・・・僕は空を見ているんです。もしかしたら、何か救いがあるかもしれないと思ったから」
 「ふむ、救いか。天に救いを求める。それは神に救いを求めるというのと同義だな」
 「・・・考えてみれば、そうですよね。それじゃあ、僕に救いがある訳がないか・・・ありがとうございます、教えて下さって」
 半年に及ぶ放浪生活は、シンジからかつての容貌を奪い去っていた。
 ただでさえ痩せ気味だった体は、さらに細くなっていた。
 右目は空虚な穴を晒し、周囲には血糊が黒く固まっている。
 髪の毛は伸びたい放題。櫛などとおす訳もなく、カットした形跡もない。
 服は大量生産品の夏服。見ている方が寒さを感じる。
 手荷物は何もない。
 どこからどう見ても、浮浪者と間違われかねない外見であった。
 だが一番目を引いたのは、その両手に刻みこまれた円形の痣である。
 「それでは失礼します」
 「まあ、待ちたまえ。これでも神に仕える身だ。職業柄、今の君をこのまま放っていく訳にもいかん。風呂と食事、手当と衣服を提供してあげよう。ついてきたまえ」
 「ですが、そこまでしていただくのは・・・」
 目の前の人物の善意に困惑するシンジ。そんなシンジの手を、男の脇いた子供が強く引っ張る。
 「お兄さん、一緒においでよ」
 「で、でも・・・」
 「少年。私とて善意で言っている訳ではないのだ。君のように、人でない存在が何の制約もなしに歩いていると、色々不都合があるのだよ」
 その言葉に、シンジが男を凝視する。
 「分かったならついてきたまえ」
 「・・・分かりました。お言葉に甘えさせていただきます。僕はシンジと言いますが、あなた達は・・・」
 「私は冬木の教会を預かる司祭で、言峰綺礼。この子供はギルという名だ」
 それが言峰綺礼とシンジの出会いだった。

冬木教会―
 半年ぶりの風呂と、温かい食事を済ませ、質素だが清潔な衣服に着替えたシンジは、綺礼に右目を診せていた。
 「酷い傷だな。一体、何があったのだね?」
 「自分の意思で右目を引きちぎりました」
 「ふむ。無茶な事をする・・・」
 右目に手をあてる綺礼。その右腕が、うっすらと輝きに包まれる。
 「・・・どういう事だ、私の心霊治療が効かないだと?君は何かしたのかね?」
 「右目を知り合いにあげたんです。彼女には右目が必要だった。僕には不必要だった。だからあげました」
 「生贄・・・等価交換・・・君が力ある存在故に、それが悪い意味で影響しているようだな。すこし待っていたまえ」
 席を立つと、綺礼は机の引き出しから赤い布を取り出し、それにハサミをいれた。
 そのまま赤い布を持ってくると、慣れた手つきでシンジの右目に巻いていく。
 「それは聖骸布という。今の君には必要な代物だ。いずれ専用の眼帯が出来上がるまでは、それをつけていたまえ」
 「聖骸布?眼帯?」
 「君の右目は空洞。すなわち害意ある存在にとっては、君に害意を届ける絶好のポイントなのだ。故に、徹底的に守らねばならん。万が一、君が操られるような事があっては、その被害は想像を超えるだろうからな」
 聖堂教会の元・代行者であり、魔術師でもある綺礼ならではの判断であったが、魔術どころかオカルト系の知識すら満足にないシンジにとっては、チンプンカンプンである。
 「右目が君の弱点であるという事さえ理解していればいい」
 「分かりました、本当にありがとうございます」
 「何、この街の霊的治安を維持するのも私の務めだ。これも仕事の一環にすぎん」
 傍らにおいてあったポットから、2人分のコーヒーを注ぐ。
 「ところで、君の事について訊いても良いかね?何故、幻想種である君が、浮浪者同然の姿であのような場所にいたのだ」
 「幻想種・・・って何ですか?初めて聞いたんですけど」
 「まずはそこから説明せねばならんか。幻想種とは、一言で言うなら人間以外の知的生命体の事。いわゆる天使・悪魔・精霊・妖精等のような存在の事だ」
 改めて自分自身の事を思い返すシンジ。確かに今の彼は、人間ではない。
 「仰る通りです。僕は人間じゃない、正確には人間ではなくなりました」
 「ふむ。見たところ外見的には人間と然程変わらんな。正体を聞いてもいいかね?」
 「使徒と呼ばれる存在です。もっとも僕は天使なんかじゃない。僕は自分の事を堕天使だと思っていますから」
 「実に興味深い。これも神の思し召しかもしれんな」
 コーヒーを啜りながら、興味深そうにシンジを見つめる。
 「それに、その両手だ。私の予想が正しければ、聖痕のように思うのだが」
 「・・・多分、そうです。別に出血はしないので、特に問題はありませんけど」
 「なるほど、ますます興味深い」
 聖痕をジッと見つめた後、綺礼は顔を上げた。
 「話は変わるが、これから行く宛はあるのかね?」
 「ありません。僕はその時が来るまで、生き延びなければならないだけです。だから行く宛なんて、ありません」
 「では、その時が来たらどうするつもりかね?」
 「命を絶ちます。それが僕の生きる目的です」
 コーヒーカップを置いた綺礼が、ふむ、と頷く。
 「怒らないんですか?キリスト教では、自殺はもっとも罪深い行為なのでしょう?」
 「君の言う通りだが、君は人間ではないのだろう?神の教えは迷える子羊、即ち、人間の為の物。人ではない君に、その教えを押し付けるのは間違いではないかね?」
 首を傾げるシンジ。綺礼の言葉は正論ではあるのだが、シンジに何も救いをもたらす訳ではない。ただ単に、混乱だけをシンジに与えていた。
 この辺りに、言峰綺礼という人物の壊れ具合が如実に表れていた。
 「君は自分の事を堕天使だと言ったな。それは、君が何らかの罪を犯し、それを悔いている。そう判断していいのかね?」
 黙って頷くシンジ。彼の脳裏に浮かぶ様々な光景。サード・インパクトによって変わり果ててしまった赤い海。自分に向かって敵意を向けるアスカ。赤い世界で自分の為に、悪意ごと眠りについてくれたレイ。それら全ての原因となった、自身の心の弱さこそが罪だと考えていた。
 「その通りです。全ては僕の弱い心が原因でした」
 「だからこそ悔いているか・・・よろしい。ならば、私が君に一つの道を示してあげよう」
 その言葉に、シンジがハッと顔を上げる。
 「この冬木市には大きな秘密がある。一定の期間毎に行われるそれは、裏の世界で『聖杯戦争』と呼ばれているのだ」
 「聖杯戦争?」
 「そうだ。7人の魔術師―マスターと呼ばれる者達が、7騎の使い魔―サーヴァントとともに殺し合いを行うのだ。それに勝ち抜いた者には、ありとあらゆる願いを叶える願望機―聖杯を手に入れる権利を有するのだ」
 綺礼の言葉に、シンジはいつしか静かに聞き入っていた。
 「だが問題がある。聖杯という欲に惹かれ、中には非道な行いをする者もいるのだ。それは過去の聖杯戦争において繰り返されてきた実例である。事実、前回の聖杯戦争においては、殺人鬼にマスター権が与えられ、そのマスターはサーヴァントともに連続殺人を引き起こしたのだ」
 「そんな!」
 「事実なのだよ。マスター権が誰に与えられるのか?それは聖杯が決める事ゆえ、私には分らん。だが力に溺れた者がマスターとなれば、災厄を招くのは必須だ。それは分かるだろう?」
 コクンと頷くシンジ。
 「次の聖杯戦争まで、およそ2年。そのタイミングで君のような幻想種が現れたのは、私には偶然とは思えんのだ。君にその気があるのなら、罪もない犠牲者を生み出さぬ為、聖杯戦争に関わる事もできるだろう」
 「僕が?でも、僕に何ができるというんですか?」
 「その辺りは私がサポートしよう。さしあたっては、これから2年という時間を使い、君を新米魔術師程度にまで鍛え上げる。君の幻想種としての力と組み合わせれば、それなりに力を発揮できるだろう」
 考え込むシンジ。だがすぐに顔をあげた。
 「分りました。僕に何ができるかは分りませんが、聖杯戦争に参加したいです。その為に、僕に色々教えて下さい」
 「良いだろう。あとで部屋に案内するから、これからはそこで寝起きしたまえ。それとここに住む以上、君には昼間は学生として、夜は魔術師見習いとして生活して貰うぞ」
 「学校ですか?」
 キョトンとするシンジ。そんなシンジに、呆れたように綺礼が声をかける。
 「君は非常に目立つ存在だ。下手に隠そうとしたところで、すぐに目についてしまう。特に私の妹弟子や間桐の御老体が相手ではな・・・だからこそ、君には敢えて普通の生活を送ってもらう。無理に隠そうとして、余分なトラブルを引き寄せたくないのでね」
 「分りました。それなら納得できます」
 「よし、ならば中学3年生に編入できるように取り計らっておこう。それから、建前上は私が君の保護者―養父となり、君を養子として迎え入れる立場にする。何か問題はあるかね?」
 「いえ、ありません。それじゃあ、僕は言峰シンジ、そう名乗れば良いんですね?」
 「そうだ。私の事は好きに呼びたまえ・・・だいぶ長話をしてしまったな。とりあえず、今日は体を休めたまえ。この廊下の先に客間がある。今夜はそこで寝るといい。明日、改めて君の部屋を用意しておこう」
 「色々と、ありがとうございます。神父さん」
 「うむ、では良い夢を」
 言峰に見送られ、席を外すシンジ。その背中がドアの向こうに消えかけたところで、言峰が咄嗟に声をかけた。
 「そういえば、シンジというのは君の人間としての名前だろう?幻想種としての名前はあるのかね?」
ふと考え込むシンジ。彼は第18使徒リリンとして覚醒した、2人の内の片割れ。だがリリンを名乗るのは、最愛の少女に対して失礼な感情を感じた。
だから、彼は自分で名前をつける事にした。
「・・・ルシフェル。それが僕に必要な名前だと思います」
その時が来るまで、決して死んではならない。決して力に溺れ、少女を忘れてはならない。それを自覚したからこそ、彼は堕天する前の天使の名を名乗った。
 「必要な名前か・・・分かった、良いだろう。では、おやすみ」
シンジがドアを閉める。すると、別の出入り口から人影が現れた。
 「言峰、貴様、何を考えている?」
 「その姿を見るのも久しぶりだな、英雄王。やはり神の側につく存在、気に食わんか?」
 「否定はせん。だがあれは例外だ。実に面白い。まさか我以外で、罪の泥に塗れながらも、理性を失わぬ存在がいたとは、正直、想像していなかったぞ」
 クックックと笑う英雄王。
 「それで、言峰よ。お前はあれをどう育てるつもりだ?」
 「魔術師としての基本的な心構えと魔術回路の作成。それから心霊治療の手段だな。私が習得している魔術など、それだけにすぎん」
 「相変わらず意地が悪い。攻撃手段は教えず、攻撃を防ぐ術だけ教え、無力感に苛まれる姿を楽しみたい、そういうことか」
 「あれが幻想種として攻撃手段を持っていれば話は変わるがな・・・これは勘だが、恐らくあれは攻撃手段を持っていない。持っていたとしても、対人戦で使えるような代物ではないのだろう。なぜなら、あれは他人への攻撃衝動が限りなく零に近い。ストレスをため込んでため込んで、ついには爆発させるタイプだ。通常、攻撃手段―攻撃しようとする意思を持っていれば、人や幻想種に関係なく、それなりに攻撃衝動を持っているものだ。にも拘らず、あれは私が刺激しても、それなりの反応が無かった」
 「フン、まあいい。我は楽しめれば、それで十分よ。では、我も失礼するぞ」
 「ああ、良い夢を。英雄王」
 1人になった綺礼は、満足気に冷めたコーヒーを飲みほした。

3日後―
 外よりはマシだが、それでも寒い校内を、眼鏡をかけた真面目そうな少年が歩いていた。左手には鞄を持ち、右手には英単語の単語帳を持っている。
 そんな少年の背後に、赤毛の少年が走り寄った。
 「おはよう、一成」
 「うむ、おはよう衛宮。今日も寒いな」
 「そうだな。早く春になれば良いのにな」
 2人は柳洞一成と衛宮士郎。彼らの通う学校においては、知らぬ者等いない、親友コンビである。
 談笑しながら教室へと入る2人。一成はそのまま自分の席へ向かおうとしたのだが、士郎が自分の席とは違う方へ足を向けた事に気づき、足を止める。
 当の士郎はと言えば、もう1人の親友に歩み寄っていた。
 「慎二、おはよう」
 「なんだ、衛宮か。相変わらず朝から元気な奴だな」
 士郎の挨拶に応えたのは、間桐慎二。冬木市の名家の1つであり、資産家でもある間桐家の長男。異性には人気があるのだが、性格に難がある為、同性の友人は皆無。例外として士郎とは親友と言う間柄であるが、一成は心持ち距離を置いて友人付き合いをしている間柄であった。
 「それより、聞いたか?転校生の話」
 「転校生?おいおい、もうすぐ卒業の時期じゃないか、なんでこんな時期に」
 「さあな、でも御爺様経由の情報によると、このクラスに編入するのは間違いないそうだ」
 ちなみに慎二の祖父、間桐蔵硯は学校関係者にもかなり顔が利く有力者である。
 「お、先生が来たな。続きはまた後でな」
 ざわつきながら席につく生徒達。教師が出欠席を取り、連絡事項を伝えていく。
 「それから、今日は転校生を紹介する。入ってきなさい」
 廊下から入ってきた人影に、生徒達は言葉もない。
 中学3年でありながら180を超える長身は、それだけで強い印象を与えた。印象強いのは、それだけではない。両手にある円形の痣。加えて背中の中ほどまで届く髪の毛を無造作に1つに束ね、おまけに標準以上の整った容貌とくれば尚更である。
 だが生徒達を絶句させたのは、その右目を覆っている、真紅の眼帯であった。
 「言峰シンジと言います。趣味はクラシックと料理です。今は新都にある冬木教会に住んでいます。よろしくお願いします」
 頭を下げるシンジに、遠慮のない質問が飛ぶ。
 「どこから来たんですか?」
 「第3新東京市からです」
 「ひょっとして、あの人と知り合いなんですか?」
 あの人。その言葉がシンジの心を締め付ける。だが顔には微塵も出さずに、当たり障りのない返事を返す。
 「残念ながら、僕は知り合いじゃないんです。テレビで見た程度ですよ」
 興味が無くなったのか、その質問はそれ以上追及されなかった。代わりに女子生徒から『彼女はいるんですか?』などと言う際どい質問が飛び出す。
 それに対して無難な返答を返すシンジ、周囲から『可愛いー!』という歓声が上がり、シンジが顔を赤らめた。
 「なあ、その右目はどうしたんだ?」
 無遠慮な質問は、クラスの後ろに座っていた慎二である。その肘を士郎が引っ張り制止しようとしているが、その程度で止まるような性格ではない。
 「見たいなら見せてあげるよ。でも、後で文句を言わないでね」
 躊躇いなく眼帯を取るシンジに、クラス中が呆気にとられる。次の瞬間、文字通りの悲鳴が轟いた。
 「こんな顔、見たくはないでしょ?だから、二度とそんな質問はしないで下さいね」
 ポッカリと空いた空虚な眼窩。まるで底の見えない穴のような元・右目を直視した慎二には、頷く事しかできなかった。

 通常、転校生と言う存在は、初日は生徒達の好奇心の対象として囲まれるものである。
 だが、ここに例外がいた。
 眼帯の下にある空間を披露したシンジである。
 彼は遠巻きに囲まれながら、だが誰一人として話しかけてこない状況に、過去の自分を思い出して苦笑していた。
 エヴァへ乗るために、第3新東京市へやってきて、市立第壱中学校2年A組へ転校したばかりの日の事を。
 (あの頃は、僕が暗かったのが原因だった。今度は気味が悪いのが原因。原因は違うのに、結果は同じだなんて、皮肉だね)
 「なあ、ちょっといいか?」
 突然、かけられた声に、シンジが思索の淵から浮かび上がる。
 「俺は衛宮士郎、隣は柳洞一成っていうんだ」
 「衛宮君に、柳洞君?」
 「名字では堅苦しいだろう。名前を呼び捨ててくれて構わんぞ」
 一成の言葉に、シンジが笑みを浮かべる。
 「ありがとう。士郎、一成。僕の事も呼び捨てでいいよ。それで、僕に話しかけてきたのは?」
 「ああ、慎二のフォローだよ。さっき、眼帯の下を質問した奴。本当は悪い奴じゃないんだけど・・・」
 「何、転校生故に注目が集まる事に嫉妬したのだろう。何分、注目されなければ気が済まない性質なのでな。笑って受け流してくれれば幸いだ」
 「いいよ、別に気にしていないから。それに、その手の人間には慣れているからね」
 シンジの言葉に、安堵する2人。
 「それで、だ。今のは口実、これからが本命だ。俺達はいつも一緒に昼食を摂っているんだが、良かったら一緒にどうだ?」
 「いいね、お言葉に甘えさせてもらうよ」
 「そうか!それなら決定だ!」
 シンジの脳裏に浮かぶ、2人の友。それを懐かしく思いながら、2人とはまた違ったタイプの友を得られた事に、シンジはささやかな幸福感を感じた。

それから3日後、冬木教会―
 「ちょっと、綺礼、いないの?」
 日曜日の午後。穏やかな昼下がりの時間に、ツインテールの少女―遠坂凛はやってきた。
 勝手知ったるなんとやら。凛はズカズカと大股で礼拝所を突っ切っていく。その時、礼拝所のドアがギーッという音を立てて開いた。
 「なんだ、いるなら返事ぐらい」
 凛の前に現れたのは、神父服に身を包んだシンジであった。
 「あれ?お客様ですか?懺悔でしたら、ただいま神父をお呼びいたしますので、そちらにかけてお待ちいただけますか?」
 「違うわよ。ここの言峰って神父に用事があるの。ところで貴方、誰?」
 「僕は言峰シンジと言います、よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げるシンジ。シンジは礼拝所の掃除でもするつもりだったのか、モップとバケツを手に持っていた。
 「・・・そういえば、小さい頃、綺礼に子供がいるって話を聞いた事があったけど、貴方がそうなの?」
 「いえ、僕は養子です。先週、正式に言峰綺礼の養子として、養子縁組したんです。ですから、神父が僕の父親です」
 「うそでしょ!あの人格破綻者に養子いりしたですって!悪い事は言わないわ、すぐに取り消しの手続きをしなさい!」
 「・・・随分と酷い言われようだな、凛」
 凛の怒声を遮ったのは、当の綺礼である。
 「でたわね、この似非神父」
 「相変わらずだな、これでも私はお前の兄弟子なのだぞ?不肖の弟子ではあるが、最低限の礼義ぐらいは弁えるべきではないかね?」
 「アンタにだけは言われたくないわよ」
 ムスッと黙りこむ凛。そこへシンジが口を挟む。
 「あの・・・」
 「ああ、そうだな。紹介しておこう。この娘は遠坂凛。彼女の父が、私の魔術師としての師匠にあたる。さらに言うなら、遠坂家はこの冬木の地の魔術師を管理する家なのだ」
 「ちょっと!何ばらしてんのよ!」
 「問題ない。シンジは私の息子であると同時に、魔術師としての弟子でもある。来るべき2年後の聖杯戦争において、万が一にでも、冬木に住まう一般人に被害を出させる訳にはいかん」
 突如始まった言峰の言葉に、凛が怒声を飲み込む。
 「凛よ、いくらお前が魔術師として優秀であろうとも、お前一人ではいささか荷が勝ちすぎる。シンジはお前が聖杯戦争を勝ち抜くための、貴重な同盟者となりうる存在だ。その為に、私はシンジを聖杯戦争に参加できるよう、魔術師として育てる事にしたのだ」
 「あのねえ、だからといって、そいつが信用できるかどうか、分からないでしょうが!もし裏切るような奴だったらどうするのよ!」
 「問題はあるまい。シンジは裏切りをするような男ではない。だが私が何を言ったところで、お前が信じるとは思えん。ならば、時間をかけてお前自身が、シンジという魔術師が信用に値するかどうか見極めればよかろう」
 「あの、ちょっといいですか?」
 シンジに集まる視線。
 「ここって、結構、声が響きますから、そういう事は奥で話しませんか?」
 「む、そうだな。凛、応接間へ行くぞ」
 「そ、そうね・・・」
 額を押さえる凛とともに、礼拝所の奥へ向かう綺礼。その背中にシンジが声をかける。
 「ここの掃除が終わったら、買い物に行ってきますから、留守番だけお願いします。それと遠坂さんでしたっけ?夕飯はこちらで食べていかれますか?」
 「・・・いいの?」
 「別に構いませんよ。それじゃあ、遠坂さんの分も用意しておきますね」
 慣れた手つきで床掃除を始めたシンジを物珍しそうに眺めた後、凛は綺礼の後を追いかける事にした。

冬木教会、応接間―
 「私の紅茶だが、まあ我慢してくれ。シンジは色々忙しいのでな」
 「なに、さっきの紅茶淹れるの得意な訳?」
 「少なくとも、家事全般は得意だな。おかげで私も仕事に集中できる」
 自ら淹れた紅茶をすする綺礼。だが凛は紅茶に手をつけよともしない。
 「ここに来たのは私用だったけど・・・要件が増えたわ」
 「何だ?」
 「アイツの事よ。私が気付かないとでも思ってるの!アイツ・・・人じゃないわ!幻想種じゃない!」
 凛の怒声などどこ吹く風。柳に風といった感じで、綺礼は妹弟子を受け流す。
 「確かにその通りだ。だが問題あるまい。あの通り、シンジは落ち着いた性格、それも極めて温厚だ。私も先週から同居しているが、問題が起きた事は一度もない」
 「本当でしょうね・・・両手の聖痕に、顔には聖骸布。あとで問題が起きましたじゃ、すまないわよ?」
 「聖痕については問題無い。どうやら霊的な力は消えてしまっているようだからな。恐らく、名残として残っているだけだろう。聖骸布についてだが、あれはシンジの守りの要だ。あれは右目を喪失―生贄として等価交換しているのだ。聖骸布で守ってやらねば、それこそ何が起こるか分からんぞ」
 「右目を生贄?まるでオーディンね」
 凛の言葉に、綺礼が顔を上げる。
 「北欧神話の主神、魔術と戦争の神オーディン。片目と引き換えにルーン魔術の秘儀を習得した神だったな」
 「そうね。で、正体は何なの?」
 「さすがにそこまでは教えられんよ。シンジに聞けば教えてくれるだろうが、凛よ、お前はそれで良いのか?一方的に相手の秘密を探るだけ探って、何も与えんとは・・・魔術師の等価交換の原則はどこへ行った?遠坂の名が泣くぞ」
 む、と呻く凛。
 「まあ、慌てる事もあるまい。対価として何か思いついたら、あれに尋ねれば良いだろう。それにな、あれと仲良くしておいて損はない。私があれに教えるのは、私の心霊治療だからな。お前は心霊治療は不得手だったはず」
 「そうだけど?」
 「まだ分からんか?私は聖杯戦争においては監督者として絶対中立を貫かねばならない。万が一、お前が死にかけたとしても、お前がリタイヤを表明しない限りは、私はお前を治療できんのだ。だがお前とあれが同盟を組んでいれば、その心配はなくなる」
 渋々と納得する凛。確かに回復手段をもって戦闘にはいるのは、絶対に有利な要素となるのだから。
 「まあ、ゆっくり考えておけ。仮にあれがマスターとして選ばれなかったとしても、問題はない。お前が個人的に仲の良い、心霊治療を得意とする魔術師に助けを求めるという形を取れば良いだけだからな」
 「・・・そうね。ま、あと2年あるし、その辺はゆっくり考えさせてもらうわ。それより本題に入りたいんだけど」
 
 要件を終えた後、凛はシンジが作った夕食を食べる事になるのだが、その出来栄えに驚く事になる。

Interlude
第3新東京市、葛城ミサト邸―
 全ての戦いが終わった後も、アスカはミサトとの同居を続けていた。
 NERVサイドからすれば、アスカには24時間護衛をつけておきたいのが本音。その為には、白兵・射撃を得意とし、かつ女性であるミサトはとても都合が良かったのである。
 アスカは学校から帰ってくると、冷蔵庫のドアを開けて、冷えたオレンジジュースに手を伸ばした。
 飲み干すと、使ったコップをシンクへ持っていく。
 そこには朝食で使った食器が、水に浸かったまま放置されていた。
 「ミサトのやつ、少しは片づけぐらいしなさいよね」
 お昼は総菜パンで済ませるアスカなので、弁当箱は無い。
 朝食はいつもトーストと、ベーコンエッグかスクランブルエッグとソーセージ。
 夕食はNERVから派遣されている家政婦が作りに来る。
 栄養のバランスを考えられた献立は、体に優しい。英雄として多忙な日々を送る少女を影から支える存在である。
 その出来栄えに、彼女はいつも満足している。
 夕食の献立は何だろうか、と想像した瞬間、脳裏をよぎった顔。
 それを振り払うかのように、壁に拳を叩きつける。
 その音に、ペンペンが驚いて冷蔵庫から飛び出してきた。
 「キュ?」
 「・・・何をしてるのよ、アタシは・・・怪我なんてしちゃったら、仕事に悪影響がでるじゃない・・・」
 救急箱を取りに行く少女の背中は、拒絶の意思に彩られていた。

言峰シンジ・ステータス(Fate風に表現。本編開始時、高2の冬時点での能力)
性格:混沌・中庸
身長:191cm 体重68kg(聖杯戦争前夜編である中3の冬の頃は180cm、62kg。放浪生活の間に、成長期を迎えました・・・って成長しすぎですねw)
特技:家事全般、チェロ
好きな物:魔術師としての修行(修行に没頭している間は、過去の事を思い出さずに済むから)
苦手な物:生きる事、誰かを傷つける事
天敵:アスカとレイ(頭が上がらない、的な意味合い)、右目への魔術的な干渉(弱点)
筋力:E 魔力:B 耐久力:D 幸運:D 敏捷:E 宝具:EX
 ※外見はANIMAのシンジ。加持みたいに後ろで髪の毛を束ねてます。

保有スキル
機能増幅:C 瀕死、もしくはそれに近い状態から復帰すると、能力が上昇する。具体的には魔力、耐久力が1ランク上昇。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
自己治癒:A コアを潰されない限り、どんな状態からでも再生する。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
心霊治療:B 綺礼直伝の魔術。具体的には外傷(重傷レベルまで)と、一部のステータス異常、軽度の病気を治療。石化、死亡の治療は不可能。
神性:D 自身を堕天使と蔑んでいる為、ランクが低下。本来は創造神に相応しく、A+相当。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
耐魔力:B 生命の実と知恵の実の両方を手にした事による、副次的な恩恵。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
狂気:D 破壊衝動が強くなると、一定の確率で発動。筋力、敏捷が1ランク上昇する代わりに、理性が無くなり、破壊衝動のままに行動を開始する。バーサーカー固有のクラススキル『狂化』とは違い、永続的ではない代りに『狂化』ほど強くない。

宝具
S2機関:B 常時発動型対人宝具。無限のエネルギーを供給する永久機関。今作においては、魔力という形でシンジに力を供給する。
世界を上書きする力光あれ:EX 対界宝具。世界を思うがままに書き換える力。1度使用すると、書き換えた世界を安定させる為に、約5年に渡って力を供給し続ける必要がある。5年以内に再書き換えを行った場合、更に大きな力を必要とする。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
ATフィールド:C〜A 結界宝具。使徒だけが持つ究極の盾。同ランク以下の攻撃を、物理・魔術に関係なく止めてしまう。ランクを超える攻撃は、防ぎきれずに貫通してしまう。攻撃に使用した場合、面と言う形であらゆる物を潰したり(旧・劇場版の弐号機の使い方)、ATフィールドの側面をぶつける事で、刃のように押し切る事も可能。しかし発動できるのは、1枚のみ。また形状を変化させる事もできない。発動しようという意思に従って顕現する。ただしS2機関が働いている事が前提条件。
神殺しの槍ロンギヌス:A+ 対神宝具。スキル『神性』を対象が持っていた場合、その相手が持つあらゆる防御を無視する神殺しの宝具。ただし相手に命中させるには、担い手であるシンジが自身の技量で命中させなければならない。



To be continued...
(2011.01.01 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。新作『暁の堕天使』ともども、改めて、宜しくお願い致します。
 エヴァ×FateというSSを書こうと思った切っ掛けですが、シンジがマスターとして参加するSSが無かったから、というのが理由です(単純に、探せれなかっただけかもしれませんが)。
 ただ難点なのはシンジの強さ。AEOEなのでシンジは使徒として覚醒済み。そうなるとポテンシャルというか基本スペックはサーヴァントクラスでも不思議は無いんですよね。仮にも世界を再構成した使徒、表現を換えれば創造神クラスです。でもそれをやってしまうと、話のバランスが最悪になります。
 そこで色々考えた結果、シンジは温厚な性格故に攻撃しない、という基本スタンスにしました。そのせいか、戦闘に直接関わってくる筋力や敏捷はEランク。通常の人間と同じ程度の力しかありません。魔力はBランクで魔力容量もS2機関のおかげで無尽蔵なのですが、使うのは心霊治療とATフィールドのみw攻撃魔術は綺礼の趣味で習得していない為、魔術面も攻撃とは縁がありません。
 ただ攻撃衝動や破壊衝動が無い訳ではありません。テレビ版のゼルエル戦を見る限り、シンジには狂気という側面があるように感じたので、一度スイッチが入ると、狂戦士化します。まあ温厚なキャラにはお約束ですね。Fateにも桜という例がいますしw
 シンジの設定については以上です。
 できれば、最後までお付き合い戴ければ、作者としても嬉しい限りです。是非とも、宜しくお願い致します。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで