暁の堕天使

聖杯戦争編

第一話

presented by 紫雲様


1月31日の早朝、言峰教会―
 「ふむ。まだ令呪は現れぬか」
 「はい。僕の魔術師としての力量が足りないのでしょうか?」
 「安心するがいい。そういう場合の対策は考えてある。任せておけ」
 部屋から出ていくシンジ。そこへ入ってくる人影。
 「どうした英雄王?」
 「なに。シンジにマスターたる証が現れぬと聞いたのでな」
 「ああ。もしかしたら、あれが幻想種である事が原因かもしれん。まあ他に手はあるから心配はいらんがな」
 「ふん。我を退屈させるなよ、言峰?」
 電話を手に取る綺礼。すでに聖杯戦争の監督者である彼のもとには、もう参加の決まった者達から連絡が入っていた。
 その内の1人、顔馴染みの執行者に目をつける。
 「英雄王よ。私は出掛けてくる。悪いが留守番を頼む」
 「我に命令するな。久しぶりに代行者たる貴様の力を、我に見せよ。少しは退屈をしのげるだろう」
 「良いだろう。ただし気配は完全に消しておけ。まだお前の存在をばらすには、早すぎるからな」
 
その日の深夜―
 シンジは綺礼の部屋に呼び出されていた。
 「シンジです、入ります」
 「ああ、入れ」
 中に入るシンジ。椅子に座っているのは、養父・綺礼である。そしてその横に、険しい形相をした、長身・蒼髪の青年が立っていた。
 「お客様ですか、それじゃあお茶を淹れてきます」
 「お茶はいいから、まずはそこに座れ」
 「は、はい」
 素直に座るシンジ。青年は自分ほどではないが、それなりに長身の部類に入るシンジの登場に、不審な視線を向けていた。
 「シンジ、右手を出せ」
 「はい」
 素直に手を出すシンジ。その手を綺礼が掴み、何か呟く。
 次の瞬間、シンジの右腕に痛みが走った。
 「いったああ・・・今、何したんですか?」
 「令呪の移譲だ。シンジよ、これよりお前は、そこにいるランサーのマスターとして聖杯戦争を勝ち抜くのだ」
 言峰の言葉に驚いたのは、ランサーの方であった。血相を変えて、綺礼に詰め寄る。
 「てめえ!どういう事だ!」
 「なに、お前のマスターは、そこのシンジが務める。ただそれだけの事だが・・・お前は私がマスターの方が良いのか?」
 「俺が言いたいのはそんな事じゃねえ!この坊主、幻想種だろうが!それも並みの幻想種じゃねえ、さっきからとんでもない力が、俺の中に流れてきているぞ!」
 ランサーは知らなかったが、使徒であるシンジの体内には、無限の力を生み出すS2機関が存在する。その余剰エネルギーが、魔力という形でランサーに流れてきていた。
 「待って下さい。まず僕がマスターとなる前に確認したい事があります。僕は聖杯戦争で関係ない人達が巻き込まれるのを防ぎたくて戦おうと思いました。でも、このランサーさんは、その考えに賛同してくれるんでしょうか?それが出来ないのであれば、僕は1人で参加します」
 「何だ、坊主、俺様が相手じゃ不服だとでもいうつもりかよ」
 「当然です。僕はあなたがどんな性格なのか。どんな理由で聖杯を求めるのか、それすらも知らないんです。それなのに、いきなり無条件で信用するなんてできません」
 はっきりと宣言するシンジに、ランサーがニヤッと笑う。
 「良いだろう、それなら教えてやる。まず俺は聖杯なんぞに興味はない。俺が望むのは俺が全力で戦うに相応しい、強敵との戦闘だけだ。それさえ満たされるのであれば、俺はどんな事にでも従おう」
 「強敵との戦闘?」
 「そうだ。それが俺の目的だ。この槍『ゲイボルグ』を振るうに相応しい強敵こそが俺の望みだ」
 考え込むシンジ。だがすぐに顔をあげる。
 「ランサーさん、僕は言峰シンジ。あなたの隣にいる、言峰綺礼の息子です」
 「はあ!?てめえらが親子だと!?」
 「何を驚いている、ランサー」
 「これに驚かないで、何に驚けと言うんだ!どこの世界に幻想種を子供に持つ人間がいると言うんだ!」
 ランサーの驚きなど、どこ吹く風。綺礼はシンジに視線を向ける。
 「シンジよ。もしお前が一般人に被害を出さない事を望むのであれば必要な事がある。お前一人では、絶対に守り切る事など不可能だ。お前と同じ考えを持つ、同盟者が必要となる」
 「同盟者・・・」
 「それだけではない。他の6騎のサーヴァントと、6人の魔術師の情報も必要だ。手を組んで良い相手か?背中を任せられる相手か?そういった事を判断するには、相手の情報が必要不可欠となる。それは分かるな?」
 黙って頷くシンジ。確かに綺礼の言う通りなのだから、シンジには全く異論がない。
 「そこでだ。まずお前は参加者の情報収集から始めるべきなのだ。具体的には、そこのランサーに偵察させて、できる限りの情報を集めさせ、その中から同盟者を見つけるのだ」
 「おいおい、このクソ神父!俺様にスパイごっこをさせるつもりかよ」
 「そのつもりだ。お前には嫌でも従ってもらう。シンジ、私の言葉を復唱しろ。令呪をもって命じる」
 「令呪をもって命じる」
 シンジの右手に刻み込まれた令呪が、ボンヤリと光を放つ。
 「こ、この野郎!」
 「ランサーよ、全てのサーヴァントと戦い、最初は倒さずに引き上げてこい」
 「ランサーよ、全てのサーヴァントと戦い、最初は倒さずに引き上げてこい」
 令呪の一画が、一際強い光を放ち、やがて静かに消えた。
 ランサーが歯ぎしりしながら綺礼を睨みつける。だが綺礼は一顧だにしない。
 「これで良い。シンジ、あとはお前の思うがままに戦うが良い」
 「は、はい」
 綺礼が部屋を立ち去る。その姿が消えたところで、シンジが頭を下げた。
 「ごめんなさい、ランサーさん。迷惑をかけてしまって」
 「あーあー、もう良いぜ、ったくよ・・・こうなっちまった以上、坊主に、いやマスターにつき合ってやるさ。その代り、俺の方も満足させろよ?」
 「はい、約束します」
 綺礼には悪印象しかないランサーだが、シンジは別らしく『仕方ねえなあ』という感じである。
 「それじゃあ遅くなったけど、夕飯にしましょう。ランサーさんも食べるでしょう?」
 「お、飯があるのか。それは有難いな」
 この後、見事にシンジに餌付けされたランサーの姿があった。

Interlude―
 冬木の新都にある、一番豪奢なホテル。その最上階に存在するロイヤルスウィートを、1人の少女が借り切っていた。
 少女の名前はルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト。
 時計塔から聖杯戦争を制する為の戦力として送り込まれた彼女は、自らのサーヴァントを召喚するべく儀式に取り掛かっていた。
 床に描かれた魔法陣が輝き出す。だが
 「・・・おかしいですわね、手順は正しい筈なのですけど・・・これは、邪魔されているような感じね・・・良いですわ、そちらがその気なら、こちらも正々堂々、勝負させていただきます」
 湧き起こる烈風。思わず目を閉じたルヴィアだったが、目の前に立つ人影に気がついた。
 「あなたは・・・」
 
2月1日―
 「それで、マスター。今日はどうする?」
 「まずは学校へ行ってくるよ。ランサーさんは霊体化してついてきてくれるかな?」
 「いいぜ。何かあったら、すぐに出るからな」
 幸い、学校の方は、何のトラブルもなく放課後を迎えた。
 そして暗くなりつつある、無人の音楽室の片隅で、楽器を片づけながらシンジが呟いた。
 「ランサーさん、ちょっといいかな」
 「なあ、そのさんづけはやめてくれ。背中が痒くなる」
 「そうなんだ。じゃあ、ランサー、サーヴァントなんだけど、今は気配は感じる?」
 「いや、気配はねえな」
 「そっか。ありがとう。それじゃあ今晩から行動を開始しようと思うんだけど、いいかな?」
 スッと姿を現すランサー。
 「待ちくたびれたぜ」
 「ごめんね、本当なら思う存分、戦わせてあげたいんだけど、僕にもどうしても譲れない事情があるんだ。それで、もう一つ、お願いしたいことがあるんだけど」
 黙って続きを促すランサーに、シンジが『ありがとう』と言いながら続ける。
 「僕は同盟者を捜している。聖杯戦争を勝ち抜くためではなく、一般人に被害を出さない目的で、共闘できるマスターが必要なんだ。だから、偵察の際に、ランサーにはマスターの人物評価もお願いしたいんだよ」
 「俺に?マスターを品定めしてこいってのか?」
 呆気にとられるランサー。対するシンジは笑っている。
 「ランサーは僕なんか、足もとにも及ばない戦士なんでしょ?当然、戦闘経験も人生経験も、豊富だよね?」
 「そりゃあ、まあそうだがよ」
 「だったら、ランサーという戦士の目から見た感想を教えてほしいんだ。こいつは冷酷だとか、こいつは裏切りそうだとか、こいつは甘いとか、どんな評価でも良い。僕に信頼できる同盟者を得られるチャンスを与えてほしいんだ」
 「ふうん・・・まあ、その程度で良いのならお安いご用だがよ。そこまで俺を信用していいのか?俺が不本意な理由で、あのクソ神父に強制連行されたのは、理解してるんだろう?もしかしたら、後ろからこいつで刺すかもしれないぜ?」
 わざとらしくゲイボルグを見せつけるランサー。だがシンジは恐怖する事は無かった。その時に浮かんでいたのは―
 「殺されるのは困るから、右手を切り落としてマスター権を剥奪する程度で済ませてくれると嬉しいな。僕は20までは生きなければいけないから」
 「どういう意味だ?」
 「僕は贖罪の為に生きているからだよ。20歳になれば、贖罪の仕上げとして自分で命を絶つつもりだ。でもそれまでは、何があっても生きなければいけないんだよ」
 シンジの顔に浮かんでいたのは笑顔。だがその左目に浮かび上がったのは虚無だった。
 「おい、坊主。あえてマスターじゃなくて、坊主と言わせて貰うぜ。たかが17年程度の人生を生きただけで、もう人生諦め状態かよ。ふざけんじゃねえぞ」
 「やっぱり怒るよね。ランサーって人が良さそうだから、きっと怒ると思ったよ」
 「おい、何をふざけた事」
 「僕は目的があって死ぬんだ。確かに僕は贖罪の為に生きている。それは事実だよ。でも、ぼくは好きな子の為に死ななければいけないんだ。僕が生きていれば、彼女は生きていられなくなる。例え、彼女に憎まれていたとしてもね」
 己の主をマジマジと見つめるランサー。無人の音楽室に、耐えがたい沈黙が降り立つ。
 「僕はもともと、生きていてはいけない命。生まれてきてはいけなかった存在。生まれてきた事自体が罪。存在そのものが絶対悪なんだ。だからこれで良いんだよ。こんな僕の無価値な命1つで、好きな子が幸せに生きていけるんだよ?これ以上の幸せが、どこにあるというのさ」
 「坊主!それは違う!」
 「ありがとう、僕の為に怒ってくれて。なんか、ランサーって僕が兄みたいに思っていた人を思い出させるよ」
 バタンと音を立ててチェロケースをシンジが閉じる。
 「ランサー、僕の我儘を聞いてほしい。こんな僕だけど、生きている間に少しでも罪を償いたい。その為には、ランサーの力が必要なんだ。だから、力を貸して」
 視線の高さこそ、ほとんど変わらない。だが目の前に立つマスターの抱えた心の闇に、ランサーは決断した。
 
穂群原高校深夜―
 シンジから離れたランサーは、単独行動をとっていた。目的は他サーヴァントの調査である。
 マスターであるシンジはと言えば、言峰から得た情報―冬木に存在する霊地の場所、過去の聖杯戦争の戦闘場所―の整理で忙しく、同行は不可能な状況であった。
 霊体化した状態の今のランサーには見る事はできないが、教会を出る際、ランサーはシンジから魔法瓶を渡されていた。
 曰く『寒かったら、これ飲んで温まってね』
 サーヴァントにとって寒さ等関係ない事を知っているのに、シンジはランサーを気遣っていた。ランサーも最初は呆れたものの、それほど悪い気はしていなかった。
 (・・・ま、頑張って偵察しますか。夜食も作っておいてくれるそうだからな)
 僅か1日で餌付けされた事に気付かないランサー。もしその真相とランサーの素姓を知る者がいれば、間違いなく飼い犬呼ばわりするだろう。
 (・・・ん?こいつは・・・)
 学校の屋上に現れた、ツインテールの女生徒。その隣に立つのは、赤い外套を纏った白髪の青年である。
 戦術上の理由で、地理の確認をしている事は、ランサーにもすぐに分かった。話の流れから、地理の把握はサーヴァントの提案であり、マスターはそれを受け入れた事を確認する。
 (サーヴァントの方は戦慣れしてそうだな。情報の重要性を理解している点から判断すると、冷静沈着なタイプ。前線に突撃する猪武者ではなく、指揮官やスナイパーといっていいかもしれんな。マスターの方は有用な意見であれば、プライドに拘らず、素直に受け入れる度量を持っているか。身に秘めた魔力の強さも上々。魔術師としては間違いなく一級品だな)
 とりあえず品定めを終えると、ランサーは霊体化を解いた。そして正々堂々とした戦いを重んじる彼は、不意を打たずに声をかけた。
 「よお、お前、マスターだな?」
 慌てて振り向く2人。
 「俺はランサーだ。悪いが、その命、貰いうける」
 「凛!」
 「フォローお願い!」
 屋上から飛び降りる凛。それを追いかける赤いサーヴァント。
 (ほう。息も合ってるようだな。あとは実力を拝ませて貰うか)
 追いかけるランサー。そこには凛を背後に庇い、陰陽剣―干将・莫耶を構えたサーヴァントが待ち構えていた。
 「ふん、お前、セイバーか?」
 「いや、私はアーチャーだ」
 「2刀使いのアーチャーだと?聞いたこともねえな、まあいい。楽しませて貰おうか」
 両手で槍を構えるランサー。対するアーチャーも剣を構え―途中で声を上げた。
 「ランサー。一つ尋ねる。その首から下げた魔法瓶は何だ?」
 「俺のマスターの差し入れだ。寒かったら、これを飲んで体を温めろと言われたんでな」
 「・・・君のマスターは正気か?サーヴァントに、そんな物は必要ないだろうに」
 呆れたようなアーチャーの声を聞いた瞬間、ランサーの脳裏を怒りが駆け巡る。
 「俺を馬鹿にするのはまだ良いだろう。だが、マスターを侮辱するのは俺が許さん!」
 即座に神速の突きを放つランサー。マスターであるシンジの過剰な魔力供給のおかげで、ランサーの能力は通常よりも高くなっている。だがその能力に蓋をするかのように、令呪による縛りがランサーの動きを妨げる。
 (ちっ、あのクソ神父!)
 雨あられと降り注ぐ神速の突きを、アーチャーが陰陽剣を使って防御に徹して、全て受け流す。だがアーチャーの表情に、余裕は全くない。
 敢えて手を止め、様子を伺うランサー。対するアーチャーはと言えば、ランサーが突然下がった事に、不信を抱いて慎重になっていた。
 (マスターは坊主と同い年ぐらいか。いつでも支援に入れるように、隙を窺っている。アーチャーも接近戦の技量は相当な物があるな。もしかしたら弓を使う剣士だったのかもしれん)
 「ランサー、何故、手を止めた?」
 「何、こちらにも事情があってな。まあ、気にするな。すぐに再開する」
 言うなり再び攻撃に転じるランサー。敢えてアーチャーの逃げ場を、凛の居る方向へと誘導させる。
 アーチャーもすぐに気付いたのか、明らかに顔色を変えた。
 「凛!下がれ!」
 「くっ!」
 飛び退る凛。アーチャーも今まで以上に、その目に殺気を込め、反撃の時を静かに狙う。
 (いいねえ、状況判断も的確だ。こいつら、実力だけなら文句なしだな・・・ん?)
 「誰だ!」
 ランサーの叫びに、アーチャーと凛が一瞬だけ固まる。
 その間に、ランサーは戦場を離脱。視界の隅に捉えた人影を追った。
 人影は校舎の上へと逃げていく。
 (失敗したな・・・戦闘に夢中になりすぎたか)
 人影は廊下の途中で捕捉できた。
 「坊主。鬼ごっこは終わりだ」
 振り返る少年。赤い髪の少年は、明らかに困惑していた。
 「せめてもの情けだ。苦しませはしねえ」
 聖杯戦争に関わる者としての非情の判断が、赤い髪の少年―衛宮士郎の命を奪った。

 アーチャーへの偵察を終えたランサーは、霊体化して屋上へ潜んでいた。すでにアーチャーと戦う気が失せてしまったからである。
 (マスターにも報告しなきゃならんだろうが・・・あのマスターの事だ。気にするだろうなあ)
 校舎から凛とアーチャーが立ち去るのを確認すると、ランサーは実体化して、魔法瓶から湯気を立てる紅茶を注いだ。ブランデーが垂らしてあるのか、微かにアルコールの香りが鼻を擽る。
 「ほお、マスターも気がきくねえ。これは夜食にも期待できそうだな」
 一杯の紅茶をランサーが楽しんでいると、校舎から人影が出てきた。その人影を見たランサーは、思わず声を上げそうになった。
 (馬鹿な!あの坊主は俺が殺したはずだぞ!一体、どういう事だ?)
 しばらく考えた末、ランサーは士郎の後をつける事にした。

衛宮邸―
 (ここがあの坊主の家か・・・結界があるな、これは警報の類か・・・よし、速攻だ。気付かれても構わねえ、一気にかたをつける!)
 最速のスピードで突撃するランサー。結界が警報を鳴らすが、気にも止めずに家の中を捜して回る。
 やがて居間で士郎を見つけたランサーは、士郎が強化の魔術で戦闘態勢に入っていた事を知ると、立場を忘れて、思わず褒めそうになってしまった。
 (自分を殺した相手に、気後れしないか。心の方は強いな)
 手加減した攻撃で様子を見るランサー。本来なら手加減なしで突きを放つべきなのだが、士郎の見せた心の強さに、つい仏心を出してしまっていた。
 必死で後退しながら後ずさる士郎。
 「あと10年もすれば、良い戦士になっただろうにな・・・」
 ランサーの放った蹴りが、士郎を土蔵の中へと吹き飛ばす。
 (勿体ないが、終わらせるか・・・見つけちまった以上は、仕方ねえよな)
 もしマスターがこの場にいれば、間違いなく戦闘を停止させるだろうな、と思いつつ土蔵へ歩み寄るランサー。だが土蔵から迸る、甚大な魔力の奔流に、思わず目を見開いていた。

 土蔵の中へ蹴り飛ばされた士郎は、必死になって武器になりそうな物を探していた。
 (俺はここで死ぬのか?冗談じゃない!俺はまだ、誰一人として救えていない!俺はまだ正義の味方になれていない!俺はまだ、死ぬわけにはいかないんだ!)
 伸ばされた指先の先―土蔵の床がボンヤリと輝きだす。次の瞬間、閃光が土蔵を埋め尽くした。
 「何だ?」
 反射的に両目を庇っていた士郎が、恐る恐る目を開く。そこには1人の少女が、月光に照らしだされて立っていた。
 年の頃は15歳前後。金色の髪の毛に、白銀の甲冑。その物々しい出で立ちとは裏腹に顔立ちは可愛らしい。
 少女は、吸い込まれそうな蒼い瞳で、士郎をジッと見つめた。
 「問おう、貴方が私のマスターか?」
 「・・・マスター?」
 「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」
 何が起きているのか分からない士郎は、ただただ目の前に立っている少女を見つめていた。いや、少女に見惚れてしまい、何が起きているのか?自分がどんな状況にいるのかという事すら、すっかり忘れてしまっていた。
 「貴方の左手に刻まれた令呪がマスターである何よりの証。これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私とともにある。ここに契約は完了した」
 セイバーはニコリと笑うと、打って変わって真剣な表情になる。
 「外にいる敵を掃討してきます。マスターはここで待っていてください」
 「ま、待て!何をする気だ!」
 「敵を討つのです、マスター。この聖杯戦争、私が勝利に導きます」
 セイバーは踵を返すと、ランサーが待ち受ける外へと歩みだした。

 「何者だ?」
 土蔵から出てきたのは、金色の髪の毛に、白銀の鎧をまとった少女だった。年の頃は15歳前後、だがその身から放たれる気迫は、立派な戦士のそれであった。
 「我が名はセイバー。これよりマスターの剣となり、盾となりて戦う。御身はランサーで間違いないな?」
 「いいねえ、最優と誉れ高いセイバーの実力。ぜひとも、拝ませて貰おうじゃねえか!」
 アーチャー戦と同じ速度で突きを放つランサー。それをセイバーが、すべて受け流していく。
 「てめえ、それは不可視の剣か!」
 「その通りだ。今度は、こちらから行くぞ!」
 攻防入れ替えての戦闘再開。ランサーは攻撃を断念し、カウンター狙いの防御に徹しつつ、敵の戦力把握を行っていく。
 (セイバーの不可視の剣は厄介だな。それに基本的な身体能力も高い。さすが最優と誉れ高いだけの事はある。特にこの剣の技量の高さと、一撃の重さは破格だ。間違いなく、俺が全力で戦うに相応しい相手だ!格好からして欧州系の騎士だろうが、女の騎士となると誰だろうな・・・あとはマスターの方だが、実力的には正直、大した事は無いな。恐らく、見習いか何かだろう。あとは性格だな・・・)
 セイバーの攻撃を受け流しつつ、距離をとるランサー。その身に纏った魔力を、愛用の魔槍に注ぎ込む。
 「正直、様子見だったんだが・・・セイバー、お前は別だ。俺の一撃、受けてみろ」
 ランサーの槍に、尋常ではない魔力が集まっていく。
 (・・・何という禍々しい殺気だ・・・)
警戒したセイバーの構えが整ったのを見て取ると、ランサーは動いた。
「その心臓、貰い受ける」
目にも止まらぬ速さで突き込まれる槍。だがその穂先は、せいぜいが膝の高さ。どう見ても、致命の一撃には程遠い。単に速いだけの一撃である。
だからこそ、セイバーは足捌きで回避しつつ、上段からの一撃でランサーを倒そうと狙っていた。
その瞬間、ランサーが静かに呟く。 
 「刺し穿つ死棘の槍ゲイボルグ
 膝の高さで突き込まれていた穂先が、空間を捻じ曲げたかのように、一瞬でセイバーの心臓に狙いを変えていた。まさに致命の一撃。セイバーの甲冑を、ゲイボルグは貫いていた。
 (終わったな・・・)
魔槍ゲイボルグ―それは『心臓を穿つ』という結果を『槍を放つ』という原因より先に生じさせる、因果の理を捻じ曲げる槍。故に、放てば必ず敵の心臓を捉え、避けることは不可能。
勝利を確信していたランサー。だがセイバーは倒れなかった。
左胸を手で押さえながらも、自分の足で大地を踏みしめて立っていたのである。 
 「馬鹿な!躱わしたというのか!我が必殺のゲイボルグを!」
 セイバーはかろうじて回避していた。穿たれたのは左胸ではなく左脇。人ではないサーヴァントにしてみれば、致命傷と言えない傷である。
 「ゲイボルグだと?御身は、アイルランドの光の御子か!」
 「やれやれ、やっちまったか。まあいい、セイバー。この場は引かせて貰うぜ。後日、改めて再戦に来る」
 ランサーは踵を返すと、屋根の上へと飛び上がった。
 「ランサー!」
 「焦るな。セイバー、お前とは必ずもう一度戦う。だからそれまで、負けるんじゃねえぞ」
 そう言い残すと、ランサーは目にも止まらぬ速さで、衛宮邸から姿を消した。

 離脱したランサーを追撃しようとしたセイバーであったが、左胸の一撃は致命傷ではなかったにせよ、重い傷には違いなかった。
 思わず膝を着いてしまったセイバーに、士郎が慌てて駆け寄る。
 「大丈夫か!」
 「ええ、問題ありません」
 士郎が駆け寄った時には、セイバーはすでに立ちあがっていた。その左胸には、傷痕はどこにも見られない。貫かれた筈の甲冑すらも、元通りの光沢を取り戻していた。
 「いったい、何なんだよ。お前らは何者なんだ!」
 「この聖杯戦争を戦う為に、召喚されたサーヴァントです」
 「だから!聖杯戦争とか、サーヴァントとかってのは何なんだよ!」
 「そうか、貴方は本当に何も知らないのですね」
 セイバーの真剣な表情に、士郎が唾を飲み込んで背筋を伸ばす。
 「聖杯戦争とは、聖杯を求める7人のマスターと呼ばれる魔術師達による殺し合いの事です。聖杯とは、所有者の願いを叶える、万能の願望器。そしてサーヴァントとは、マスターの手足となって戦う僕の事です」
 唖然とする士郎。だがセイバーは構わずに畳みかける。
 「貴方は選ばれたのです。この儀式に参加する、マスターの1人として」
 「聖杯?殺し合い?」
 未だ状況を飲み込めない士郎の顔の前に、セイバーがスッと手を出す。
 「新手の気配がします。話はあとで」
 言うなり屋敷の外へと飛び出していくセイバー。その後を、士郎が慌てて追いかける。
 セイバーのように壁を跳び越えられない士郎は、遠回りになるが、門から外へと飛び出した。
 そこへ飛び込んできたのは、セイバーと名乗った少女が、赤い外套の男を袈裟がけに斬りつけていた光景であった。
 男が姿を消していく。その後ろから、別の人影が姿を見せた。
 『キャッ』と叫んだ人影めがけて、セイバーが斬り込んでいく。
 (女の子?ちょっとまて、敵だからって殺しても良いのか?俺が正義の味方を目指すなら、訳の分からないまま見殺しにして良いはずがないだろう!)
 「やめろ!セイバー!」
 士郎の左手に刻まれた令呪の一画が、スッと消えていく。
 同時に、セイバーが強制的に行動を止められていた。
 「何故ですか!何故、止めるのですか!彼女は敵です!」
 「・・・俺はまだ納得してない!本当に殺さないといけないのか!」
 「何を今更!サーヴァントを連れていた以上、彼女はマスター。倒すべき相手であることは間違いありません!」
 「駄目だ。まず説明が先だ。俺がマスターだというのなら、納得のいく説明をしてくれ」
 歯がゆさに顔を歪めるセイバー。そこへ声が掛けられた。
 「敵を前にして言い争いなんて、随分と余裕なのね」
 尻もちを着いていた少女が、汚れを叩きながら立ち上がる。
 「・・・こんばんは、衛宮君。とりあえずお礼を言っておくわね」
 「・・・遠坂?」
 驚いている士郎に、静かに近寄る凛。そのまま令呪を刻まれた左手をとる。
 「1つ忠告しておくわ。令呪は切り札なのよ?こんな事で使っていたら、あとで苦労するわよ?まあそこまでして助けてくれたんだから、感謝しないといけないんでしょうけどね」
 「切り札?」
 「・・・まさか、何も知らないって訳?」
 素直に頷く士郎。それを見て、凛がハアッとため息を吐く。
 「いいわ、説明してあげる。とりあえず家の中に入りましょう」

衛宮邸、居間―
 湯気の立つ湯呑を前に、凛は早速口を開いた。
 「まず、私は聖杯戦争の正式なマスターなの。それから貴方と同じ魔術師でもあるの。衛宮君は知らなかったみたいだけどね?」
 「・・・だってお前学校じゃあ、誰から見ても優等生で、男子にとっちゃアイドルみたいなもんで・・・」
 「あら、衛宮君もそういう風に思ってくれていた訳?」
 クスッと笑いながら凛は続ける。
 「魔術師というのは、正体を隠すものなの。衛宮君だって、自分が魔術師だという事を隠しているでしょう?」
 「知ってたのか?俺が魔術師だって事」
 「マスターっていうのはね、魔術師しかなれないのよ。まあ、衛宮君の場合は何かの事故だったんだろうけどね。だって、衛宮君、私が魔術師だという事を知らなかったんでしょう?」
 「・・・どういう意味だ?」
 「遠坂家はね、冬木の地を管理する、魔術師の当主なの。つまり冬木においては、魔術師の責任者、トップって訳。もし余所から魔術師がくれば、礼儀として顔を出しに来る。だから遠坂家は、冬木にいる魔術師の情報は全て知っているの。でも貴方はその責任者の事を知らなかった。私も衛宮という名字の魔術師が、冬木にいるなんて知らなかった。以上の点から、衛宮君がまっとうな魔術師じゃない事は、簡単に推測できたの。潜在的に魔術師としての素質を持っているか、もしくはモグリの魔術師か、そのどちらかだろう、ってね」
 緑茶に口をつける凛。緑茶の香りが鼻腔をくすぐる。
 「マスターは魔術師にしかなれない。それは魔力が求められるというのも理由だけど、もっと現実的な理由があるの。サーヴァントを召喚するには、召喚に関する知識が必要なの。でも衛宮君は聖杯戦争自体を知らないようだった。それは聖杯戦争は勿論、召喚に関する知識すら無い事を意味するわ。多分、貴方がマスターになったのは何かの事故だったんでしょうね」
 「そ、そうか。とりあえず遠坂が魔術師でマスターだというのは理解できたよ」
 「そう、それじゃあ本題に入るわね」
 士郎の左手に、凛が指先を向ける。
 「それは令呪。マスターの証であり、サーヴァントへの絶対命令権でもあるの」
 「絶対命令権?」
 「・・・令呪とはサーヴァントに対する3度限りの絶対命令権。それを使われれば、どんな不本意な命令であっても、私達サーヴァントは従わなければならないのです」
 セイバーの言葉に、士郎がハッと顔を上げる。
 「じゃあ、さっきセイバーを止めたのは・・・」
 「はい、その令呪によるものです。更に言うなら、令呪は奇跡に近い命令ですら可能とします。例えば貴方の身に危機が迫った時、瞬時に空間を移転させ、私を呼び出すような事すら可能とします」
 「それで切り札、って訳か」
 改めて感心したように令呪を見直す士郎。
 「それともう一つ。令呪を無くしたら、最悪、死ぬという事を覚えておきなさい。サーヴァントっていうのはね、誇り高いのよ。本来なら、私達みたいな人間の下につくような存在じゃないの。サーヴァントはね英霊―実在した英雄達の魂なのよ」
 「英雄?それって、神話や伝説に出てくる英雄?」
 「そうよ。生前の偉業により英雄と認められた人物は、死後に『英霊の座』へと迎えられる。そして聖杯は、その英霊達を7つのクラスに当てはめることで、召喚を可能としたのよ。剣使いセイバー槍使いランサー弓使いアーチャー騎乗兵ライダー狂戦士バーサーカー暗殺者アサシン魔法使いキャスターの7つね」
 凛の説明に、何の知識もなかった士郎は、必死になって説明を聞いていた。
 「聖杯は召喚された英霊に相応しいクラスを当てはめ、マスターに与えるの。そしてマスター同士を戦わせて、最後に生き残った者を主として認める訳。これが聖杯戦争のあらましよ」
 「・・・ちょっとまて!そんな人の命をゲームみたいにやりとりするなんて、幾らなんでもおかしいだろう!」
 「そうね。それについては私も同意するわ。だからこそ、貴方は決めなければならない。貴方の言うゲームを続けていくかどうかをね。その為に会わせたい奴がいるわ。ついてきてちょうだい」
 スッと立ち上がった凛に、士郎は黙って頷いていた。

冬木教会―
 夜の街を、不審な3人組が歩いていた。前を行く制服の少女と、同じく制服の少年は問題ない。問題なのは最後尾を歩く、レインコート姿の少女―セイバーだった。
 本来、サーヴァントは霊体化して姿を隠す事ができるのが当たり前である。事実、凛のサーヴァントであるアーチャーは、霊体化して凛に同行している。だがセイバーは、何故か霊体化ができなかった。
 そんなセイバーに『未熟なマスターと契約したばかりに・・・』と同情しながら、凛は2人を目的地へと連れてきていた。
 「ここよ。中にいる監督役は、古い知り合いだから安心して」
 「・・・ちょっとまて、ここってシンジの家じゃないか!」
 「そうよ。言峰君のお父さんが監督役なのよ。さ、行くわよ」
 扉に手をかけようとした凛。その後ろに続こうとした士郎を、セイバーが止めた。
 「マスター、私はここに残って外敵に備えます。どうも嫌な感じがするので」
 「分かった。じゃあ頼むな」
 「ええ、マスターも油断だけはしないように」
 ギーッと音を立てて礼拝堂の扉が開かれる。
 「綺礼!いるんでしょ?7人目を連れてきたわよ!」
 「おお、そうか・・・おや、君は確か、シンジの同級生ではなかったかな?改めて自己紹介しよう、私は言峰綺礼。この教会の神父であり、聖杯戦争の監督役を務める者だ」
 「・・・俺は衛宮士郎。まさかシンジの親父さんが聖杯戦争の監督役だとは思わなかったよ」
 「衛宮?・・・クッ、なるほどなるほど」
 皮肉な笑みを浮かべる綺礼に、士郎がどことなく不満気な表情を見せる。
 「まあいい、とりあえず君を最後のマスターとして登録しよう」
 「待ってくれ!俺はまだ、マスターをやるとは言っていないぞ!」
 「ほう?凛、どういう事だ?」
 水を向けられた凛が、肩を竦めながら応じる。
 「そいつ、状況が全く分かってないの。だから危なっかしくて、連れてきたって訳」
 「そういう事か。ならば問おう、衛宮士郎。何故君は、聖杯を拒むのだね?」
 「当たり前だろう!殺し合いなんておかしいだろうが!」
 激昂する士郎。そんな士郎の言葉を、綺礼は鼻で笑ってみせた。
 「魔術師たるもの、死を覚悟するのは当然の事ではないか。どうやら、君はただの腰ぬけのようだな」
 「違う!俺は逃げたい訳じゃない!聖杯を手に入れる理由がないだけだ!」
 「だから、参加したくないと?」
 黙って頷く士郎。だが綺礼はわざとらしいほどに、重々しい口調で応じた。
 「聖杯はどんな願いも叶えるのだぞ?私利私欲に目を眩ませるマスターが出てきたところで、何ら不思議はない。そんな連中が聖杯を好き勝手に使ったら、どうなると思う?」
 「そ、それは・・・」
 「魔術師というのは目的の為には手段を選ばぬ連中だ。そこまで言えば、さすがの君でも理解できただろう?」
 悔しさと怒りで顔を歪めてみせた士郎に、綺礼は心の底から楽しそうに声をかける。
 「もう1つ教えておこう。前回の聖杯戦争は、10年前に行われた。あの時、愚かなマスターの手によって、無関係の市民に大量の被害を出す大惨事が引き起こされたのだよ。君も良く知っている筈だ」
 「・・・まさか・・・」
 「そう、あの死者数百人を数えた、未曾有の大惨事。当事者である君は、良く知っているだろう?」
 士郎の脳裏に過去の光景がフラッシュバックする。
 天に位置するのは『黒い太陽』。
 地を埋め尽くすのは瓦礫の山と、燃え盛る業火。
 助けを求める人の声、苦悶の呻き声、怨嗟に満ちた声、無数の声が鼓膜を殴打する。
 ふと気がつくと、士郎は床に膝をついていた。息は荒々しく、全身から冷や汗が流れおちる。
 「衛宮士郎。君はどうする?勿論、戦いを拒む権利が君にはある」
 「ふ、ふざけるな!俺は切継の後を継いで正義の味方になると決めたんだ!10年前の悲劇を繰り返させる訳にはいかない!その為ならマスターでもなんでもなってやる!」
 「それでは、衛宮士郎を最後のマスターとして認めよう」
 静かな礼拝堂に、綺礼の重々しい声が響く。
 「ここに聖杯戦争の開幕を宣言する。各自が己の信念に従い、思う存分競い合え」
 「・・・それじゃあ、ここにはもう用はないわね。行くわよ、衛宮君」
 「待てよ、遠坂」
 慌てて追いかけようと駆け出す士郎。その顔に影が差した。思わず視線を向けた先、そこには綺礼が姿があった。
 「喜べ少年。君の願いはようやく叶う。君の望む正義の味方とは、明確の悪の存在なくしては成立しえない。だからこそ、君は望んでいたはずだ。人々の平和な生活を脅かす、悪の登場を」
 「な!俺は!」
 「皮肉なものだ、誰かを救いたいという思いは同時に、その誰かの危機を望む事でもあるのだからな」
 その言葉に、士郎は背を向けると、まるで夢遊病者のように頼りない足取りで、礼拝堂を後にした。

 外へ出てきた士郎の、あまりにもおかしな様子に、セイバーが駆け寄った。凛もまた、訝しげに士郎に視線を向ける。
 「マスター、何かあったのですか?」
 「いや、大丈夫だ。ちょっと気分が悪くなっただけだからさ」
 士郎は思う。正義の味方になりたいという願い。それは自分のエゴなのだろうか?と。
 だが、聖杯戦争によって平和を脅かされる人がいるのも、間違いのない事実。ならば、その人達を救おうとする事が間違いだとは、士郎には思えなかった。
 「セイバー。俺はこの戦いを見過ごせない。俺には、この戦いに巻き込まれる人を見捨てる事はできないんだ」
 「では!」
 「ああ、頼りないマスターだけど、よろしく頼む」
 「はい、マスター!」
 戦いに参加を誓った1組の主従。その眼には、強い決意が光となって宿っている。
 だが、その光を消し去ろうとする者達がいた事に、彼らは気づいていなかった。
 
時は少し遡って、言峰教会内部―
 ランサーから自室で報告を受けたシンジは、驚きで声も出せないでいた。その最たる理由が、士郎がセイバーのマスターになったという事実である。
 「遠坂さんがアーチャーのマスター、士郎がセイバーのマスターか・・・はあ・・・できれば戦いたくないなあ・・・」
 「何だ、知り合いか?」
 「そうだよ。遠坂さんは最近疎遠気味だけど、決して悪い人じゃない。とくにこの冬木の地を管理してきた、魔術師の家系の跡取りだよ。士郎は僕にとって、一番仲の良い友達なんだ」
 大きなため息をつくシンジ。
 「なるほどな。まあ戦なんてものは、親子兄弟同士で殺し合うのも珍しくないもんだからな。それが嫌なら、何とかするしかねえな・・・そういえばマスター。そっちの調査はどうなっているんだ?」
 「簡単に説明しておくよ。まず冬木市郊外の森。そこに張られた結界の中に、聖杯戦争御三家の1つであるアインツベルン家の城がある。そこにアインツベルンのマスターがいるのは間違いないよ。あとは時計塔からもマスターが参戦しているんだって」
 「時計塔だと?」
 「なんでもエーデルフェルト家という有名な魔術師一門の当主で、僕と同い年なんだってさ」
 その説明に、内心で『あのクソ神父』と唸り声をあげるランサーである。その理由はただ一つ、ランサーを呼びだしたバゼットを裏切った事実を、シンジに隠しているという点である。
 だからと言って説明する訳にもいかない。そんな事をすれば、シンジは確実に罪悪感にかられてしまう。面倒見の良いランサーにしてみれば、これ以上、シンジを追いつめたくないという思いもあった。
 その時、部屋の電話が鳴った。
 「はい、シンジです・・・ええ、分かりました」
 チンと音を立てて受話器を置く。
 「どうした、マスター?」
 「士郎達が父さんを訪ねて来ていたんだ。士郎は聖杯戦争について何も知らないから、その説明を受けにきたそうだよ」
 「それじゃあ、あの坊主も正式に参戦するという事か」
 「そうだね・・・ねえ、ランサー。士郎達は見かけても、しばらくは見なかった振りをしてあげて」
 「・・・まあ、いきなり覚悟を決めろというのも酷な話か。分かった、マスターの言うとおりにしよう」
 「ありがとう、ランサー」
 そういうと、シンジは再び机に向かった。だがすぐに思い出したかのように、顔を上げる。
 「そうだ。ランサー、良かったら僕の分も食べる?」
 「お、良いのか?それじゃあ遠慮なく」
 シンジ謹製の夜食用サンドイッチを頬張るランサー。だがその瞬間、ランサーの表情に緊張が走った。
 「どうしたの?」
 「とてつもない魔力を秘めた存在が、近くにいやがる。おい、まずいぞ。どうもマスターの友達と遭遇戦を始めたっぽいぞ」
 「ランサー!お願いだから、士郎達を助けて!」
 「いいぜ、連中が逃げる時間ぐらいなら稼いできてやる。ついでに、魔力の持ち主についても調べてきてやるぜ」

墓地―
 「無駄よ!バーサーカーはギリシャの英雄ヘラクレス!その程度で殺せはしないわ!」
 そこは地獄と化していた。
 木っ端微塵に砕け散った墓石。墓地全体を包み込む炎の海。その中央に君臨する、鉛色の肌をした巨人と、その傍に立つ幼い少女。そんな2人に対し、セイバーは巨人を抑え、凛と士郎は後方で見守る事しかできないでいた。
 「やっちゃえ!バーサーカー!」
 竜巻の如きバーサーカーの斧剣の一撃を、セイバーが必死になって防ぐ。すでに凛の指示によるアーチャーの遠距離狙撃で致命傷は負ったものの、すぐに回復。まさに手のつけられない怪物であった。
 「2人とも、逃げてください!」
 「駄目よ。セイバーを倒したら、次はあの2人なんだから。特にシロウは念入りに殺してあげるんだからね」
 アーチャーの狙撃に、セイバーが望みを託して時間を稼ぐが、いつまで経っても2発目は飛んで来ない。徐々に悪化していく戦況に、セイバーが顔を顰めた時だった。
 「よお、面白そうじゃねえか。俺も混ざらせてもらうぜ」
 飛び込んできたのはランサーである。神速の突きを無数に放ち、バーサーカーの注意をセイバーから逸らす。
 「ランサー!?」
 「てめえら!俺のマスターに感謝しとけよ!」
 突きから一転、突然攻撃方法を変更。穂先で薙ぐような、最小範囲かつ、鋭い一撃を、喉笛目がけて放つ。
 惜しくもその一撃は斧剣で防がれたが、ランサーは気落ちする様子もなかった。
 「ランサー?私の邪魔をするというの?」
 「ああ、そうだ。俺のマスターは、そこのマスター2人を死なせたくないそうでね。悪いが、横槍を入れさせてもらったという訳だ。ところで嬢ちゃんの名前は何と言うんだ?」
 「私はイリヤ。イリヤスフィール=フォン=アインツベルンよ」
 (バーサーカーは破格だな。セイバーですらサシでは一歩譲るか。せめて枷が無ければ何とかなりそうだが。マスターはガキだが、魔術師としては最上級だな。魔力の強さが半端じゃねえ)
 士郎の前にセイバー、凛の前にランサーが立ちはだかる。
 「嬢ちゃん、アーチャーが来るまで俺で勘弁してくれよ」
 「誰もアンタに助けてほしいなんて頼んでないでしょ!」
 「おうおう、気が強いねえ」
 楽しげな口調のまま、槍を突き出すランサー。同時にセイバーが切りかかる。
 雄叫びをあげつつ、バーサーカーが迎撃する。
 火花を散らす斧剣と魔槍、斧剣と不可視の剣。
 「凛、待たせた」
 「遅いわよ、アーチャー!ランサーに美味しいとこ持ってかれるわよ!」
 「そういう指示はどうかと思うのだがな・・・」
 陰陽剣を構えつつ、前線へと躍り出るアーチャー。
 「アーチャー!てめえは後ろから援護してろ!」
 「できればそうしたいのだが、そうもいかない理由があってな」
 3体1という状況にも関わらず、バーサーカーという名前の竜巻は、止まるところを知らない。だが戦いに飽きてきたのか、イリヤが叫んだ。
 「バーサーカー、もういいわ。悔しいけど、シロウ達を殺すのは今日は止めましょう」
 その声を聞いたバーサーカーが、その巨体に見合わぬ身のこなしを見せて、イリヤの元へと飛び退く。そしてイリヤを大事そうに抱えると、踵を返した。
 「シロウ、リン、今日は私達が引いてあげる。でも死にたくなったら、いつでもアインツベルンの森へ来るといいわ」
 圧倒的な実力差に、凛が悔しげに歯を噛みしめる。
 「それとランサー。あなたのマスターにも伝えて。私の邪魔をするなら、命の保証はしないわよ?」
 「分かった、伝えておこう」
 闇の中へと立ち去っていくバーサーカー。やがてその姿が完全に消えた所で、セイバーが緊張を解いた。
 「ランサー、御助勢、感謝します」
 「俺もマスターの命令でやっただけだ。あとでマスターに伝えておこう」
 そのままランサーが士郎に視線を向ける。対する士郎はと言えば、殺された時の事を思い出したのか、明らかな警戒を浮かべていた。
 「あの時は、俺はお前の事を聖杯戦争に偶然巻き込まれた不幸な一般人だと思っていた。だから口封じさせてもらったが、しばらくは狙わねえよ。マスターから坊主と嬢ちゃんは狙わないように頼まれたからな」
 「頼まれた?」
 「ああ、俺のマスターは変わり者でね。最終的には戦う事になるだろうが、今は手を出さない」
 ランサーの言い分を、露骨に疑う凛。その冷たい視線に苦笑するしかないランサーである。
 「まあいいさ。近いうちに、俺のマスターが挨拶に来るはずだから、その時に自分で判断すればいい」
 愛用の魔槍をクルッと回して肩に担ぐ。そのまま立ち去ろうとした時だった。
 「あら、せっかくやってきたのに、もう終わってしまったんですの?」
 夜闇の中から現れたのは、青いドレスを身にまとった、金髪碧眼の少女だった。
 「お久しぶりね、ミス・トオサカ」
 「アンタ・・・ルヴィア!?」
 「ええ、そうですわよ。昨年の8月に、時計塔でお会いして以来ですわね」
 ルヴィアの突然の登場に、呆気にとられる凛。
 「他の方々も初めまして。私はルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト。時計塔に所属する魔術師です。どうか、お見知りおき下さいませ」
 「ルヴィア!何した来たのよ!」
 「何しにって、御挨拶ですわ。私、不意打ちなどという姑息な手段は好みませんの。正々堂々、正面から倒すのが、私の流儀ですから」
 その言葉に、3騎のサーヴァントが構えを取る。
 「ふむ。主を守る為、戦おうとするその姿勢は見るべきものがある。だが少女1人に対して、サーヴァント3騎がかりというのは、いささか雅に欠けるのではないかな?」
 ルヴィアの隣に現れる、整った容貌の青年。ルヴィアと同じ色である、青の陣羽織がとても涼やかな印象を与える。
 「ルヴィア!アンタ、まさか!」
 「ええ、御名答。私はマスター、聖杯を求める魔術師として、この場にいますの」
 その場に緊張が走る。
 「でも今日は御挨拶だけ。貴方も自己紹介してさし上げて」
 「ふむ。よかろう。私はアサシン。真名は佐々木小次郎と申す。我が主、ルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト嬢に仕える一介の侍よ」
 いきなり真名を暴露するアサシンの行動に、凛は呆気にとられて何も言えない。
 「ほお。アサシンの割には堂々としてやがんな。それが武士道って奴か?」
 「その通りだ。主が私に望むのは、誇り高い勝利。私が望むは、生死を賭けた至高の戦い」
 「気に入ったぜ、アサシン。帰る前に俺と遊んで行けや。俺はランサー、真名はクー・フーリン。てめえとは気が合いそうだぜ!」
 突如始まるサーヴァントの決闘。ランサーの神速の突きを、アサシンが精妙を極めた剣技で全ていなしていく。
 (おもしれえ!俺の突きを全て見切った上で捌いてやがる!こんな奴、会ったこともねえ!)
 無数の青い閃光を、煌く光が全て迎撃する。その光景に、周囲の者達は手出しもできずに、手に汗握りながら見守る事しかできない。
 (アサシンの実力もそうだが、マスターもなかなかだな。神話の住人でもない一介の侍に、全幅の信頼を置くなんて、並の度胸じゃできねえ。魔術師としては嬢ちゃんと互角、マスターとしては一歩、こちらが上か?)
 仕切り直しとばかりに、後ろへ飛びのくランサー。対するアサシンはといえば、愛刀・物干竿を無形の位に構えたまま、ランサーの攻撃を待っている。
 「おもしれえなあ・・・聖杯戦争ってのは、こんな美味しい連中ばかりいるのかよ・・・最高だなあ」
 「それについては同感だ、ランサー。一介のしがない侍でしかない私が、名だたる英霊と刃を交えられるのだ。これ以上の至福の時は存在しない」
 「全くだぜ、アサシン。こうしていつまでも戦っていたいが、今日はお開きだ。名残惜しいが、またこちらから出向かせて貰うぜ」
 構えを解いたランサーは、足の力だけで後方に生えていた樹木の枝に飛び乗った。
 「ランサー?」
 「安心しろよ。夜は長い、まだ幾らでも戦うチャンスはある。じゃあな」
 霊体化し、姿を消すランサー。ランサーが本当に撤退した事を悟ると、ルヴィアが満足そうにアサシンを見つめる。
 「まさか、あのクー・フーリン相手に互角の戦いをするなんて・・・やはり貴方は、私のパートナーに相応しいですわね」
 「恐悦至極」
 「頼りにさせて貰いますわ。それでは私達もここで失礼させて頂きます。ランサーの言葉ではありませんが、夜は長い。いずれ雌雄を決しましょう」
 踵を返すルヴィアの後ろに、アサシンが静かに続く。
 その姿が夜闇に消えた所で、凛が全身の緊張を解いた。
 「・・・初日から、随分とぶっ飛んだ日になったわね」
 彼女の感想に、誰も異論を口にしなかった。
 
 ランサーが立ち去ったのを見届けた凛は、はっきりと宣言した。
 「それじゃあ、ここで別れましょう」
 「遠坂?」
 「これで借りは返した筈よ。明日から、私達は敵同士。もう今日のような慣れ合いはしないわ」
 凛の言葉に、戸惑う士郎。
 「いい、衛宮君。聖杯は1つしかない。でもそれを手に入れられるのは、この世に1組だけなの。結局、いつか私達はぶつかり合う事になる」
 「それは分るけど・・・」
 「精々、寝首を掻かれないように注意しなさい」
 士郎とセイバーを置いて、自宅への帰路につく凛。その隣にアーチャーが現界する。
 「随分と疲れる夜だったな。まさか召喚されたその日から、こうもドンパチやらかすとは思わなかったぞ」
 「何言ってるのよ。ランサーなんて、アンタ以外にセイバー・バーサーカー・アサシンと4回も戦っているのよ?」
 「む。それを言われると辛いところだな」
 顎に指をあてながら、凛が自分の考えをまとめるように呟く。
 「今、分っているのはランサーがクー・フーリン、アサシンが佐々木小次郎、バーサーカーがヘラクレス、ってとこね。あと気になるのはランサーのマスターよ」
 「ふむ。確かに気になるな。凛、正体に心当たりはあるのか?」
 「・・・ランサーは偶然、私達を見かけた訳じゃないわ。ランサーのマスターは私達が窮地に陥っている事を知ったからこそ、ランサーを助けに向かわせた。私と衛宮君を死なせたくない。そうランサーが言っていたけど、その言葉がヒントなのよ」
 足を止めた凛が、アーチャーに射抜くような視線を向ける。
 「間違いなく、ランサーのマスターはあの辺りにいた筈なの。だから私達が窮地に陥った事に気づいた訳」
 「その通りだな。筋は通る」
 「そしてあの辺りに人家は存在しない。人がいられるのは、教会だけよ」
 アーチャーが納得したように頷く。
 「あの神父か」
 「いえ、違うわ。綺礼は監督役だもの、聖杯戦争には参加していない。そして貴方は知らないだろうけど、教会には、もう1人魔術師が住んでいるの」
 「では、そいつが?」
 「ええ、可能性は高いわ。私や衛宮君と戦いたくない、私や衛宮君を死なせたくない、彼ならそう言うでしょうね。間違いなく」
 足を止めた凛は、はっきりと告げた。
 「ランサーのマスターは言峰シンジよ。明日、調査しましょう」

Interlude―
第3新東京市葛城宅―
 「ただいま」
 久しぶりの休養日。外出から帰ってきたアスカは、台所へ入るなり、目を剥いた。
 テーブルの上に散乱する、大量のビールの空き缶。そして顔を伏せているミサトと、その隣で痛ましげにミサトをみているリツコがいたからである。
 「ちょっと、何があったのよ!」
 「おかえりなさい、アスカ。あなた、加持君の事、知らないのかしら?」
 「加持さん?そんなの電話すれば」
 携帯電話のアドレス帳から検索し、電話をかける。帰ってくるのは電話の不通をアナウンスだけである。
 「実はね。加持君、ミサトへのプロポーズを取り消したのよ」
 「はあ!?」
 「それどころか、加持君、NERVすら辞めてしまったのよ。司令も副司令も強く引きとめたみたいなんだけど、全く駄目でね。以来、足取りは不明なのよ」
 ミサトは泣き疲れたのか、今は静かである。
 「ミサトね、加持君の事、好きなくせに、プロポーズを断っていたでしょ?だから愛想を尽かされたんじゃないか?って思いこんじゃったのよ」
 「で、でも、そうだとしてもNERVを辞める理由にはならないでしょ!」
 「アスカの言う通りよ。だから困っている訳」
 アスカの心に、はっきりと自覚できる痛みが走った。

サーヴァント・ステータス
クラス:ランサー
マスター:言峰シンジ(第19使徒ルシフェル)
真名:クー・フーリン
性格:秩序・中庸
身長:185cm 体重70kg
特技:魚釣り、素潜り、山登り
好きな物:気が強い女、無茶な約束
苦手な物:回りくどい方針、裏切り
天敵:ギルガメッシュ、アーチャー
筋力:A  魔力:B 耐久力:B 幸運:D 敏捷:A++ 宝具:A
 ※シンジは使徒としてS2機関を所持。そこから生み出される力が、契約しているランサーに流れ込み、基本的な力を底上げしている。

クラススキル
対魔力:C 第二節以下の魔術無効化。大魔術や儀式呪法は防げない

保有スキル
戦闘続行:A 瀕死の状態でも戦闘続行
仕切り直し:C 戦闘からの離脱
ルーン魔術:B 原初の18のルーン魔術を習得
矢除けの加護:B 視界内からの飛び道具への対処能力。超遠距離や広範囲攻撃には無効
神性:B ケルト神話の主神ルーグの息子。半神半人。

宝具
刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ):A 対人宝具
突き穿つ飛翔の槍(ゲイボルグ):A 対軍宝具
 ※ゲイボルグもシンジとの契約による恩恵を受けて、ランクが上昇中。本来はB。



To be continued...
(2011.02.05 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 遂に今回から聖杯戦争本編開始となりました。まずはランサーを筆頭に、セイバー、アーチャー、バーサーカー、アサシンがお目見えです。キャスターとライダーについては、もうしばらくお待ち下さい。
 しかしランサーですが、初日からかっ飛ばしてます。早死にしたのも納得できるぐらいの戦闘民族です。もしかしたら満月を見ると大猿になる宇宙人の血を引いているのかもしれませんw
 あとシンジの令呪ですが、現在は二画です。バゼットから綺礼が奪った際、綺礼は令呪を使って、自分に従うよう強制しました。その後、シンジに令呪を渡す際に、綺礼は第四次聖杯戦争で父・璃正から受け継いだ無数の令呪の中から、一画を補填。シンジに三画の状態で渡した後で、シンジに令呪を使わせた、という流れです。
 実質、シンジが自由に使える令呪は一画です。シンジがどこで使うか、色々と想像してみるのも楽しいかもしれません。ちなみにプロット案では既に決まっていますが。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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