暁の堕天使

hollow編

第二話

presented by 紫雲様


3月10日―
 小鳥の囀りと、朝日に刺激され、アスカは目を覚ました。だがその目覚めは決して気分の良いものでは無い。
 「化け物に殺されるなんて、気分が悪いわねえ」
 その化け物は、敢えて表現するなら直立歩行する狼。鋭い鉤爪と耳まで裂けた口が印象的な、本能だけで動く化け物。
 「まあ、いいわ。とりあえず身支度整えないと・・・」
 髪の毛に櫛を通そうとして、アスカは違和感に気付いた。
 「・・・髪の毛が・・・」
 アスカは聖杯戦争の為に、髪の毛を自分で切断している。その記憶が彼女の中にはちゃんとある。にも拘らず、彼女の髪の毛は第3にいた頃と同じ長さだったのである。
 ジッと自分の髪の毛を凝視するアスカ。確かにその髪の毛は、枝毛一つない、自慢の髪の毛であった。
 「・・・あとで相談した方がよさそうね」
 そう呟くと、彼女は着替えを手に浴室へと向かった。

 全員揃っての朝食。だがそこに奇妙な空気が存在していた。
 原因はアスカ。黙々と食べながら、全員を順番に凝視しているのである。
 これでは見られる方も居心地が悪い。やがて耐えきれなくなったのか、ミサトが声をかけた。
 「アスカ、貴女何かあったの?」
 「ミサト、アンタこそ本当に気付いていないの?一応、まだ三十路でしょ?老眼には早いんじゃないの?」
 「・・・アスカ、こっち来なさい。躾けてあげるから」
 指をバキバキと鳴らし始めるミサト。その顔は笑っているのだが、こめかみには血管が浮かび上がっている。
 「あのねえ、アタシの髪の毛見て、何とも思わない訳?アンタそれでも作戦部長なの?」
 「何、言ってるのよ。アスカの髪の毛の、どこがおかしいのよ?」
 「だから、この前、アタシは髪の毛切ったでしょうが!それが元の長さにまで伸びているのよ?おかしいとは思わない訳?」
 「はあ?夢でも見たの?アスカはずっとその長さじゃない。だいたい、いつ切ったって言うのよ」
 「聖杯戦争が始まった日よ!3月の10日!」
 ざわめく周囲。その気配に振り向いたアスカに、桜が声をかけた。
 「あの、アスカさん。3月10日って、今日ですよ?夢でも見たんですか?」
 「今日!?そんな筈ないわよ!アタシはちゃんと覚えてるもの!」
 アスカが覚えている4日間の記憶。その記憶の内容を伝えるが、誰も信用しない。
 「時間遡行かしら?そうなると魔法の領域になっちゃうけど・・・」
 「コトミネが第6法を使っていたのです。決してあり得ない、とは断言できませんが」 
 「まあねえ。でもそれなら、予知夢を見たと言う方が信憑性はあるけど・・・」
 2人の魔術師の視線がアスカに向く。
 「アスカ、もし貴女が未来の事を知っているというのなら、私達の知らない事実を、教えて貰う事は出来ないかしら?」
 「・・・教会よ。今の教会には、臨時で責任者が赴任してきているわ。名前はカレン=オルテンシア。銀色の髪の毛に、金色の瞳。全盲ではないけど、かなり視力が悪い人。年齢は私達と同じぐらいで、シスター服の袖から包帯が見えたわ。どこか怪我でもしていたのかもしれないわね。私が行った時、シンジが手入れしていた花壇に、水をあげていたのが彼女だと教えて貰ったわ」
 「おいおい、マスター。どうして花壇の事を知っているんだよ」
 「アンタが教えてくれたのよ。アンタも不思議そうにしてたわよ。金ぴか大王が水をやる訳は無いし、とか・・・あと、ギルという名前の小さな男の子もいたわね。小学生ぐらいの金髪の男の子。ギルガメッシュとかって、アンタは呼んでたけど。若返りの薬がどうとかとも言ってたわ」
 凄まじく具体的なアスカの言葉に、全員が呆気にとられる。
 「まだあるわよ。聖杯戦争の7組目の情報も少しだけね。マスターは女性で、ボクシング主体の人。キャスターのマスターの葛木という人が、総合的な実力なら自分より上だと評価していたわ。それとサーヴァントの方は、クラスはアヴェンジャー。2本のソードブレイカーを使っていたと聞いたわよ。でも2人とも13日の未明に間桐という家に襲撃を仕掛けて、アサシンに返り討ちにされていたけどね」
 「・・・確かに、アスカが未来の知識を持っているのは間違いなさそうね。幾らなんでも、情報が具体的すぎるわ」
 「確かに予知夢はもっと漠然としたものだと聞きます。彼女の情報は、あまりにも具体的すぎる。まるで実際に体験してきたかのようですわ。やはり時間遡行ではないでしょうか?正直、信じられませんが」
 ざわめき出す一同。そこへアスカが決定的な一言を告げる。
 「もう一つあるわよ。アタシはランサーの真名も知っているわ」
 「何だと?」
 「アンタが教えてくれたのよ。クー・フーリン、それがアンタの本当の名前なんでしょう?」
 その場にいた者達が、一斉に凍りついた。アスカがランサーの真名を知っている筈が無い事を、誰もが理解していたからである。それは自ら真名を教えた記憶の無いランサーにとっても、驚愕に値する出来事であった。
 凛とルヴィアが意見を交換しあう。そこへミサトが口を挟んだ。
 「ちょっち良いかしら?時間遡行って、ようはタイムスリップの事よね?」
 「ええ、そうですが」
 「じゃあ、仮にアスカがタイムスリップして、戻ってきたとするわね?それなら、もともといたアスカはどうなってるの?」
 ミサトの当然の疑問に、思考の迷路に陥る凛とルヴィア。2人がアスカが切ったという髪の毛へと視線を向ける。
 「体を間借りしているのかしら?魂だけ時間遡行したとか?」
 「確かにそれなら髪の毛が元の長さのままである説明はつくけど・・・」
 「・・・待って!アタシ、タイムスリップした訳じゃないかもしれない」
 突然のアスカの言葉に、再度視線が集まる。
 「ランサー。1つだけ教えて。アンタ、いつからアタシの事を『マスター』と認めたの?アンタのマスターはシンジじゃなかったの?」
 アスカの記憶によれば、ランサーがアスカをマスターと認めたのは、11日にセイバーに道場で稽古をつけて貰っていた時である。
 「・・・そういえば、どうしてだ?俺は何で嬢ちゃんをマスターと・・・」
 「アンタがアタシをマスターとして認めてくれたのは、明日なのよ。分かる?今日の時点で、アンタがアタシをマスターとして受け入れる筈がないの。なのにアンタは何の疑いも無く受け入れている。つまりアタシだけじゃなくて、アンタも影響を受けているのよ」
 「・・・分からん。俺は何の抵抗も無く、嬢ちゃんをマスターとして受け入れちまってた。一体、どういう事だ?」
 明らかな違和感に、ランサーが愕然とする。そんなランサーとアスカに、凛が声をかけた。
 「その件はアタシとルヴィアで調べておくわ。キャスターの知恵も借りれば、仮説ぐらいは立てられるかもしれない。それで、アスカに頼みたい事があるんだけど」
 「何?」
 「他にも貴女の記憶と違っている事が無いかどうか、調べて欲しいのよ。今は少しでも情報が欲しい。必ず答えを見つけるわ」
 凛の言葉に、アスカが頷いた。

午後―
 午前中、ランサー相手に稽古をつけて貰ったアスカは、午後になると新都へと足を延ばしていた。
 ランサーは用事がある、という事で、今日はアスカに同行していない。すでに、この時点で自分の記憶と大きな違いが生じている事を、アスカは改めて脳裏に刻み込んだ。
 向かう先は冬木教会である。
 同じように花壇に挟まれた通路を抜けて、礼拝堂へと歩み入る。
 その視線の先には、記憶にあるのと同じ姿で、カレンがパイプオルガンを弾いていた。
 記憶にあるのと同じように、静かに演奏が終わるのを待つアスカ。やがてカレンが弾き終えた所で、彼女は声をかけた。
 「こんにちは、シスター・カレン。貴女、目が悪いのによくオルガンを弾けるわね」
 「小さい頃から弾いていますから、体が覚えているんですよ。それで、今日はどのような御用件でしょうか?」
 「そうね。貴女が知っている事、全てを教えて欲しいの。貴女、気付いている筈よね?」
 ニヤリと笑うアスカ。そんなアスカに、カレンもまた肩を竦めてみせる。
 「どうして分かったのかしら?」
 「貴女とアタシは、今日、初めて会った筈よ?なのに、何でアタシがアンタの名前を知っている事に疑問を持たない訳?」
 「なるほど。私の失策でしたね、これは」
 納得したように、頷くカレン。
 「でも悪いわね。貴女の問いかけには答えられないわ」
 「どうしてよ!」
 「私が聖杯戦争の監督役だから。中立の立場を貫かないといけない私が、特定のマスターにだけ力を貸すのはフェアではないもの」
 ムッと押し黙るアスカ。本来の彼女であれば、間違いなく殴りつけてでも真相を訊き出そうとしたかもしれないが、さすがに視覚に障害を持つ相手を殴りつけると言う発想は彼女にも無かった。
 「まあ、いいわ。それでも収穫0という訳じゃなかったからね」
 「あら、帰られるのですか?」
 「そうよ。また何かあったらくるからね」
 教会に通じる坂道をゆっくりと下っていくアスカ。アスカは先程気付いた事の検証に入り始めた。
 (この不思議な事態と、聖杯戦争。一見、関係なさそうだけど、カレンは聖杯戦争の監督役である事を理由に、返答を拒否した。つまり、今、私に起きている事と聖杯戦争には関係がある、という事ね)
 
Interlude−
 「・・・ここは・・・」
 頭を左右に振りながら、バゼットは身を起こした。そんなバゼットへ、能天気なほど明るい声がかけられる。
 「よお、マスター。また見事にやられたもんだな」
 「アヴェンジャー?貴方は何を言って」
 「だから、マスターがアサシンに殺された時の事だよ。後ろから忍び寄られて、心臓一撃だったじゃないかよ」
 その言葉に、バゼットは慌てて自分の左胸を見つめる。だがそこには心臓を貫かれたような形跡は、一切、見受けられなかった。
 「・・・どういう事ですか?アヴェンジャー?」
 「ああ、それが俺と契約した能力だ。何度死んでもやり直せる。それが俺の能力なんだよ」
 「それはまた・・・反則としか言えない能力ですね」
 戦いに慣れているバゼットは、すぐにその力の意味する所に気がついた。例えどれだけ強大な敵であろうとも、何度も挑戦できるのであれば、幾らでも打倒する方法はあるからだ。
 「やり合った記憶も、集めた情報も全て脳裏にある。これなら確実に勝てます」
 「頼もしいお言葉で。で、マスター、すぐに行くのか?」
 「いえ、まずはアサシンの気配遮断への対抗策を準備します。アサシンにリターンマッチを挑むのはその後です」
  バゼットは自信有り気に笑みを浮かべた。

3月11日―
 「柳洞、大きなお世話かもしれないけど、もう少しお洒落しても良いんじゃない?」
 「何を言うか。俺は修行中の身。そのような贅沢は、する気など無い。この作務衣で十分だ」
 聖杯戦争の余波で休校となっている穂群原学園。だが使えないのは一部の校舎だけなので、クラブ活動はまた別である。
 弓道部の主将である綾子は、今日も練習に励むべく、弓道場へと練習に来ていた。その帰り道に、宗一郎へ用事があって来校していた一成に偶然、出会ったのである。
 「だったら、制服で来れば良かっただろう?なんで作務衣なのさ?」
 「確かに美綴の言う通りではあるが、ごく僅かな時間で済む用事。それぐらいなら良かろうと思っただけにすぎん」
 校庭を抜け、正門が見えてきた所で2人は気付いた。
 正門の所に所在なさげに佇む少女。紅茶色の髪の毛は、遠目に見ても随分と目立つ。
 「おや、あれは外国の方か?」
 「とりあえず声かけてみるか。中に用事があるなら、職員室まで案内してあげれば良いだろ」
 気軽に近づいて行く2人。だが少女の顔が判別できる所まで近づいた所で、2人は足を止めてしまった。
 「・・・惣流=アスカ=ラングレー、だと?」
 「おいおい、マジかよ」
 そのぼやきが聞こえたのか、アスカは2人に向かって歩き出した。
 何故、ここにアスカがいるのか?
 それは凛に昨日のカレンとのやり取りを報告した際『以前と違う行動も採ってみて欲しい。それもまた情報になるから』と頼まれたからである。
 その為、アスカは試しにとばかりに、本来とは違う行動としてランサーとの稽古を手頃な時間で切り上げて、1人で穂群原学園へと向かったのである。
 案の定、アスカの予想通り、学校の前に以前会った陸上部3人娘はいなかった。
 人影の無い正門は工事業者が出入りするので開け放たれている。『折角だから、シンジが通っていた学校の見学でもさせて貰おう』そう考えたアスカの耳に、自分の名前が飛び込んできたのである。
 アスカの顔と名を知らない者は、この世界にはいないと言っても過言ではない。だから彼女は、今度もそうだろうと思いこんで2人に近寄った。
 「ここ、穂群原学園で合ってるわよね?」
 「・・・部外者は入って貰っちゃ困るんだ。悪いけど、帰って貰えないか?」
 険の籠った綾子の言葉に、一成も同意する。アスカは知らなかったが、2人は聖杯戦争が終わった直後に、使徒戦役の真相を聞いていた。その中にはアスカとシンジの関わりも含まれていたからこそ、2人はアスカを歓迎する気になれなかったのである。
 「・・・部外者なのは分かってるわ。それでも行かなきゃならないの、ここの教室に用事があるから」
 「何故だ?はっきり言っておく。他人がどう考えているかは知らないが、俺は貴女を歓迎するつもりはない」
 「ああ、私も同感だね。言峰を傷つけたアンタを歓迎できるほど、私達は優しくないんだ。すぐに帰ってほしい」
 綾子と一成は、アスカの目的も、アスカの想いも知らない。もし知っていれば態度は変わっただろうが、それは望むべくもない事である。
 だからこそ、2人の口調は自然ときつくなる。言葉のナイフが、アスカの心を抉るとは知らずに。
 シンジを取り返す為に、ウジウジする自分を髪の毛とともに切り捨てたアスカだったが、この言葉には打ちのめされた。
 自分がシンジに対してした行動が、次から次へと脳裏に浮かぶ。
 「分かったわ、迷惑かけてごめん!」
 思わず涙が浮かびそうになるのを、アスカは勢いよくお辞儀をして、すぐに走り去る事で誤魔化した。
 その背中が坂道の向こうへと消えていくのを見届けると、一成と綾子は大きくため息をついた。
 「・・・俺達も、人の事は言えないな、美綴」
 「・・・ああ、そうだな」
 どこか気まずそうに、2人は家路を急ぎ始めた。

 帰宅するなり、自室に閉じこもったアスカの行動に、衛宮邸の面々は面食らっていた。いつもなら帰宅すれば必ずシンジの所へ『ただいま』と挨拶に来るのに、今日はそれすらもしないのである。
 夕食の時間になっても、音沙汰なし。呼びに行っても返事は無い。ただドアの向こう側からすすり泣く小さな嗚咽が漏れてくるだけである。
 さて、どうしようか?と悩み始めた士郎達だったが、救いの手が彼らに伸びた。
 「私が様子を見てくるわ。先に食べていてちょうだい」
 そう言うと、ミサトはアスカの部屋へと入った。電気もつけずに、真っ暗な部屋の中で布団を被って泣き続ける妹分の姿に、ミサトの表情に痛ましさが浮かぶ。
 「アスカ、一体、何があったの?私に話してみなさい」
 布団を被っていても、ミサトの声は聞こえたのだろう。アスカの嗚咽が若干、小さくなる。
 「アスカ、私にとって貴女は家族なの。大切な妹なの。辛い事があったのなら、私が一緒に背負ってあげる。一体、何があったの?」
 その言葉に、アスカが布団から顔を出す。そのまま彼女は、ミサトに縋りついて、恥も外聞も無く泣きだした。
 そんな妹をミサトが優しく抱きしめる。
 やがて落ち着いてきたのか、アスカがポツリポツリと小さく、途切れ途切れに学校での出来事を伝える。
 「そう、そんな事があったの。きっと、その2人はシンちゃんの友達なのね。でもねアスカ、その2人を恨んじゃダメよ?」
 「・・・うん、分かってる。全部、アタシが悪いんだから・・・」
 その内、泣き疲れたのか、アスカはそのまま寝息を立てた。
 そんなアスカに布団をかけて部屋を出たミサトだったが、士郎達にどう説明すれば良いのだろうかと、ミサトは頭を悩ませていた。

Interlude―
 深夜、間桐邸に近づく人影があった。2本のソードブレイカー―タルウィとザリチェを手にしたアヴェンジャーである。
 彼はまるで夜の散歩でも楽しむかのように、気楽に間桐邸へと近づいていた。
 その傍に、マスターであるバゼットの姿は無い。
 どこからどう見ても、アヴェンジャーの単独行。当然、その姿は間桐邸にいた真アサシンの目に止まった。
 「マスター、サーヴァントと思しき人影が屋敷へ近付いております。特に問題なければ抹殺してまいりますが、よろしいですか?」
 「ああ、任せるよ」
 真アサシンの現マスターである慎二は、意外な事に再開された聖杯戦争に興味を持っていない。聖杯を手に入れて魔術師となる。それがかつての慎二の望みであったというのに。
 勿論、それなりの理由がある。はっきり言ってしまえば、魔術師となる事に恐怖を抱いてしまったのだ。
新都でのセイバーとの戦いにおいて、ライダー敗北後(実際には桜の令呪による強制召喚で避難していたのだが)に、慎二は逃走している所をイリヤに捕捉され、バーサーカーに有無を言わさずに殺されている。
その後、シンジのおかげで蘇ることこそできたが、今度は聖杯によって人間より強靭な筈の、幻想種であるシンジが魂を失い、仮死状態となる事件が起きた。
確かに慎二には『自分こそが間桐の正当な魔術師である』という歪んだ自負があり、それが彼を支えていたのは事実である。ところが先の2つの出来事を経験した事により、魔術師の世界の厳しさの一端に触れ、魔術師となる事を断念したのである。
我が身可愛さ、と言ってしまえば元も子もないが、賢い判断であるのは間違いない。世界の裏側には魔術師はたくさんいるが、魔術を誤って使用し、命を落とす愚か者もたくさんいる事を考えれば、身の程を弁えるという事は大切な事なのである。
だが皮肉な事に、今の慎二は魔術師であった。
慎二の傍にはサーヴァントたる真アサシンが常に控えている。真アサシンが何を考えて慎二をマスターと仰いでいるのかは、慎二自身も知らない。だがサーヴァントと契約しているという事だけで、事情を知らない魔術師は慎二を『超一級の魔術師』として扱うだろう。それだけの価値がサーヴァントにはある。
望んでいた時には魔術師になれず、断念した後で魔術師として扱われる。
そんな皮肉な現状に、慎二は自嘲の日々を送っていた。
「やれやれ、アサシンも僕なんかより、仕え甲斐のあるマスターを探せば良いのに。時計塔に行けば、契約相手に困る事はないのに、物好きな奴だ」
 慎二がそう呟いた頃、真アサシンはすでにアヴェンジャーの至近距離にまで迫っていた。気配遮断スキルのおかげで、アヴェンジャーは真アサシンの接近には全く気付いていないのである。どう考えても、真アサシンにとって必勝の状況であった。
 アヴェンジャーの背後に現れる、白い仮面。その長い腕の指先は、アヴェンジャーの左胸へと向けられている。
 ドズン!
 鈍い音が夜闇に響く。大地に膝を着く真アサシン。その頭部は綺麗に消し飛び、首から上が存在していなかった。
 「・・・ふう。どうやら上手くいったみたいだな、マスター」
 「当然です。その為の作戦だったのですから」
 バゼットの立てた作戦は単純である。予め右拳に強化と破壊のルーンを刻んだナックルを装備して一撃必殺の威力を創り上げる。その上で、魔術を用いて自分の姿と、自分が立てる音を完全に消し去り、アヴェンジャーの肩に座って、真アサシンがアヴェンジャーの背後を取るのを待っていただけであった。
 そしてまんまと引っかかった真アサシンは、アヴェンジャーの背後に出現。だがその位置は、バゼットにとっては真っ正面。それも不意打ちという必勝の立ち位置であった。
 アサシンというクラスは、気配遮断が最大の武器であり、もっとも恐るべきスキルである。だがアサシンに選ばれたサーヴァントが、索敵能力に優れているとは限らない。
 確かに歴代のハサン・サッバーハは全て恐るべき暗殺者である。それなりに索敵能力にも優れているだろう。
 しかしその索敵能力は魔術師ではなく、人間を相手に磨いてきた索敵能力である。基本は視覚や聴覚といった五感を使用するものであり、魔術を用いて索敵する訳ではない。何よりハサン・サッバーハは魔術師ではないのである。
 結果、真アサシンはバゼットの不意打ちによる一撃で、自分を攻撃した者の正体すら知る事無く、脱落した。
 「ところで、マスター。アサシンのマスターはどうする?ついでに殺っていくか?」
 「放っておけば良いでしょう。聖杯戦争はマスターではなく、サーヴァントを滅ぼす事が肝要ですから」
 「了解。そんじゃまあ、帰るとしますか」

3月12日―
 アスカの記憶によれば、この日、テレビでキャスターの住んでいるアパーでガス爆発が起きたというニュースが流れる筈であった。
 しかし、テレビのニュースは『動物園で白熊が子供を産みました』とか『交通安全週間キャンペーンです』と言ったありふれたニュースしか流さない。
 その差異に首を傾げるアスカであったが、電話の呼び出し音に思考の淵から意識をサルベージさせる。
 電話に出たのは士郎らしく、食事の場から彼の姿だけが消えていた。だがすぐに、士郎が戻ってくる。
 「士郎、朝から何だったの?」
 凛の言葉に、士郎が口を開く。
 「慎二からだ。深夜に敵サーヴァントの接近に気付いたアサシンが迎撃に出たそうなんだが、その後でアサシンとのパスが切れたそうだ。多分、敵に敗れたんだろう、という連絡だったよ」
 士郎の言葉に、居間に緊張が走る。だがアスカだけは、緊張の意味合いが少々違っていた。
 「アスカ、貴女の教えてくれた事と、少し違う展開ね?」
 「・・・そうね。アタシの記憶なら、間桐邸への襲撃は今夜だった。本当なら、キャスターのアパートで戦闘があった筈なのよ」
 「なるほどね、それは大きな違いだわ」
 アスカの言葉に考え込む凛。
 「アスカ、今日の予定は決まってるの?」
 「特には無いわね。午前中はランサーに稽古つけて貰って、午後はフリー。教会はなんとなく行く気になれないし、今日はシンジの傍にいるつもり」
 「それも良いかもね」
 
 午後に入り、アスカはレイとミサトとともに、シンジの傍にいた。衛宮邸にいる時はシンジの傍に良くいるのだが、基本的にはシンジを目覚めさせるために、外を動き回っているアスカである。だからその時間を潰して、シンジの傍にいようとするのは、衛宮邸に来てから初めての事であった。
 シンジの枕元で、2人と3年前の事を懐かしそうに話すアスカ。特にレイは外見が14歳の頃のままなので、なおさら当時の事を強く思い出させるのである。
 3人は凛から譲り受けたアッサムティーと、少々の菓子を肴に雑談に興じていた。全く目を覚ます気配の無いシンジは、アスカの記憶と違って大きく成長してる。自分の知らない、シンジが過ごしてきた時間。その事に、寂しさを覚えるアスカ。
 そんな時だった。
 玄関のインターホンが鳴る。家主の士郎が対応に出ると、やがて複数の足音が聞こえてきた。
 「お客さんだよ、開けていいかな?」
 「良いわよ。こっちはお喋りしてただけだから」
 ガラッと開く衾。士郎の後ろにいた人物の顔に、アスカの表情が強張る。
 「アタシ、席外すわね」
 慌てて立ち上がろうとするアスカを、一成が制した。
 「待ってくれ。惣流さんに言いたい事があってきたんだ」
 そう言いながら入ってくる一成。その後ろには綾子もいる。加えて、鐘に楓、由紀香の姿もあった。
 「昨日は失礼な事を言ってしまい、すまなかった。あれは俺の言いすぎだった」
 「アタシも悪かった。ごめんなさい」
 突如、頭を下げた一成と綾子に、目を丸くするアスカ。一体、どういう事なのかと周囲を見回し、ミサトの前で視線を止める。
 「・・・アンタの仕業ね、ミサト」
 「アタシは何もしてないわよ。ちょっち、口を滑らせただけよん♪」
 その口を滑らせた結果がこれである。ミサトは間違いなく、士郎経由で一成達に自分の事が伝わるように仕向けたのだろうと、アスカは推測した。
 「惣流さん。貴女の事は衛宮から聞かせてもらった。本当に申し訳ない事をしてしまった」
 「正直言って、私はアンタの事を良く思っていなかった。けど衛宮から話を聞かせて貰って、考え直したんだ。言峰を助ける為に動いているんだってな、悪かったよ」
 何も言えないアスカ。そんなアスカに、鐘が声をかける。
 「寺の子は真面目過ぎる所が問題でな。決して悪い人間ではないし、他人を傷つけて喜ぶような趣味も持ち合わせてはおらん。今回だけは許してやってもらいたい」
 「美綴っちも悪い奴じゃないぜ?正義感が強い性格だからな」
 「そうそう2人とも、良い人なんだよ」
 3人娘の援護射撃を受けて、再度、一成と綾子が頭を下げる。その姿に、アスカがクスッと笑った。
 「・・・それじゃあ1つだけ、条件があるの」
 「何だ?」
 「貴方達から見たシンジの事を教えてほしい。シンジとどんな時間を過ごしてきたのか、アタシの知らないシンジの事を教えてほしいの」
 その小さな頼みに2人は揃って頷いた。

Interlude―
 夜の街を歩く人影があった。3月とはいえ深夜となればまだ寒い。にも拘らず、その人影は普段と同じ姿であった。
 黒い髪の毛をツインテールに纏めた少女―遠坂凛。
 赤い聖骸布を纏った、浅黒い肌の青年―アーチャー。
 2人は聖杯戦争が再開して以来、日課となっていた夜の見回りを行っていたのである。
 ちなみに見回りに出ているのは、彼女達だけではない。
 士郎とセイバー、ルヴィアとコジロウも同じように、毎日見回りを行っている。
 だから、彼女達が遭遇したのは、全くの偶然であった。
 スーツ姿の美女と、人間の形をした黒い影。
 「・・・ひょっとして貴女かしら?アヴェンジャーのマスターというのは」
 「お初にお目にかかる。この地を管理するセカンドオーナー、遠坂家当主殿。挨拶が遅れてしまったのは許していただきたい。何分、ここは戦場であるが故」
 「ふざけた事を言わないで貰いたいわね。アンタが何者かなんて知らないけど、これ以上騒いでほしくないのよ。聖杯戦争はもう終わっているんだから!」
 「何を言う。聖杯は現に存在している。だからこそ、私には令呪という繋がりがある」
 右手に刻み込まれた3画の令呪を見せつけられ、凛が押し黙る。
 「ちょうどいい。この場で戦うとしましょうか、行きますよ、アヴェンジャー」
 「はいはい、人使いの荒いマスターだぜ」
 2組の主従が、深夜の路地で激突した。

3月13日―
 朝食を終えた後、凛は全員を居間に集めていた。
 「アスカ、貴女の周辺で起きている不可解な出来事。仮説ができたわ」
 「・・・一体、何が起きているの?」
 「閉鎖空間よ。貴女は3月10日から13日という4日間を繰り返しているの。普通なら13日の次は14日だけど、繰り返しているから10日に戻ってしまう訳」
 理解しがたい凛の説明ではあったが、アスカは納得したように頷いていた。
 「それなら筋は通るわね。付け加えるなら、閉鎖空間自体も不変ではないんじゃないかしら?」
 「よく気付いたわね、その通りよ」
 「まあね。空間自体が不変であると仮定するならば、変化は決して起こらない。だけど現実に変化は起きている。ランサーがいつの間にかアタシをマスターとして認めていたようにね」
 「そう言う事よ。閉鎖空間の変化を、私達は当然の物として受け入れてしまっているのよ。でもね、そのおかげでもう1つ、仮説が立ったの」
 凛がいつになく、上機嫌な笑顔を見せる。
 「言峰君は、恐らく無事よ」
 「どういう事!詳しく教えて!」
 「言峰君の能力は、根源―因果律への干渉による世界の上書きだったわ。閉鎖空間なんてものを作り出せる魔術師や魔法使いは、この冬木にはいない。いるとすれば、それは言峰君だけよ。無限ループする4日間。そういう世界を創り出した、それしか考えられないわ」
 安堵し、その場に膝をつくレイとアスカ。他のメンバーも、多かれ少なかれ、好意的に凛の仮説を受け入れていた。
 「ただね、言峰君は自分の意思で力を使っている訳じゃないと思うの。言峰君の魂は他の何者かと融合し、言峰シンジという存在の意識は心の奥底に沈んでいる。この無限ループする4日間は、言峰君と融合した何者かが、言峰君の力を流用しているのだと思う。以上が私の仮説よ」
 「十分よ。アイツが生きている。それだけ分かれば十分よ!レイ、聞いたでしょ。絶対にシンジを取り返すわよ!」
 「ええ、勿論よ」
 決意も新たに、全身に気力を満ち溢れさせるアスカ。そんなアスカに、凛が声をかける。
 「もう1つ、伝えておく事があるの」
 「何?」
 「昨日、私とアーチャーが見回りに出たのは知っているでしょう?会ったわよ、7組目のマスターとサーヴァントにね」
 凛の言葉に、アーチャーが頷きながら前に出る。
 「I am the bone on my sword」
 アーチャーの手に出現する2本のソードブレイカー。アヴェンジャーのタルウィとザリチェである。
 「これはアヴェンジャーが使っていた双剣だ。銘はタルウィとザリチェ。こう言っては何だが、正直大した物ではない。アサシンの備中青江のように、普通の人間が作った、何の神秘も含まぬ剣だ」
 アーチャーの能力は、すでにこの場にいる全員が理解している。アーチャーがそう断言するからには間違いないと、全員が悟る。
 「重要なのは剣の銘だ。タルウィとザリチェ。この名はゾロアスター教における、悪魔の名前だ」
 「悪魔の名前?」
 「そうだ。そしてタルウィとザリチェが仕える悪魔の王。その名はアンリマユ」
 体を強張らせる桜。その桜をライダーがそっと支える。
 「恐らく、アヴェンジャーは聖杯に深い関わりがあるのだろう。聖杯を満たしていた呪い、その名がアンリマユだったからな」
 「偶然とは思えませんね」
 セイバーの言葉に、ルヴィアも頷く。
 「アヴェンジャーとそのマスターは、私と凛で退けた。向うも不利を悟って無理はせずに撤退してくれたが、また戦わねばならん」
 
Interlude―
 人気のない新都の街並み。その中でも特に人の気配の無い公園に、士郎とセイバーは立っていた。
 そんな2人の前に、静かに2人組が現れる。
 「・・・あんた達か?」
 「なるほど、どうやらセイバーのマスターのようですね」
 バゼットの隣で、人の形をした黒い塊―アヴェンジャーがタルウィとザリチェをこれ見よがしに構える。対するセイバーも、すでに愛剣を手にして戦意に満ち満ちている。
 「ほう、やはりセイバーと呼ばれるだけの事はありますね。その構えを見ただけでも、先ほどの弓兵とは実力が段違いである事が分る」
 「弓兵?まさか、お前!」
 「はい。この地のセカンド・オーナー遠坂凛は倒させて頂きました。弓兵の鷹の目と宝具を使い捨てにした遠距離射撃、遠坂の魔術師としての実力の高さは、昨夜の戦いで理解できました。だが、所詮はそれだけだ。魔術を使わない純粋な隠密技術を用いて、こちらの戦場に引きずりこめば、あの2人は実力を発揮できなくなる」
 バゼットの採った策は単純な物であった。バゼットは自らを囮とした奇襲攻撃で凛を破ったのである。挨拶すらせずに、物陰に隠れた隠密状態から不意打ちを仕掛けたバゼット。当然の如く、凛の盾となるべく割って入るアーチャー。息を合わせて後ろへ下がる凛。そこへ霊体化していたアヴェンジャーが、音もなく現界化して背後から凛にタルウィとザリチェを突き刺したのである。
 この攻撃で凛は即死。更に前からバゼット、後ろからアベンジャーに挟み打ちされたアーチャーも、奮戦空しく消滅させられた。
 前日、矛を交えたアーチャーと凛にしてみれば、アヴェンジャーとバゼットの襲来には特に用心していた。アーチャーの鷹の目と、凛の魔力感知能力を併用した探索能力の高さは、聖杯戦争参加者の中でも1・2を争うほどである。だがこの探索には純粋に欠点があった。
 鷹の眼とは、極論すれば純粋に遠くを見るだけの能力である。その有効距離はkm単位ではあるが、どれだけ遠くまで見る事が出来ても、目の前にある障害物の向こうを見通すような真似はできない。
 凛の魔力感知能力は、対象が魔力を帯びていなければ感知できない。魔力を感知できない対象―霊体化したサーヴァントや、純粋な隠密技術―が相手だと、例え至近距離にいても、全く分らないのである。
 バゼットはこの点を的確についてきた。
 もし凛とアーチャーの2人が衛宮邸での迎撃を選択していれば、こうはならなかった。どれだけ隠密技術に優れていても、衛宮邸に張られた警報の結界は誤魔化せない。万が一アヴェンジャーが霊体化して結界を誤魔化せたとしても、彼1人では返り討ちが関の山である。
 そういう意味では、この2人が外に出てきてくれていた事が、バゼット達にとっての幸運と言えた。
「遠坂の当主と、弓兵はもういません。次は貴方達です」
「ふざけるな!」
拳を構えるバゼットと双剣を手にした黒い影―アヴェンジャーを前に、セイバーが愛剣を構え、士郎が干将・莫耶を造りだす。
「・・・まさか、宝具?」
バゼットが呻くような声を上げる。
「シロウ、下がっていてください。ここは私が」
セイバーの放つプレッシャーに、後ずさるバゼットとアヴェンジャー。一見、冷静に見えるセイバーだったが、凛を殺したと言ったも同然のバゼットに激怒していた。
「少々、腹に据えかねています。覚悟しなさい!」
真っ向正面からセイバーが剣を振り下ろす。紙一重で避けてみせたバゼットだったが、おいそれと反撃はできない。
それほどに風王結界で刀身が見えないセイバーの攻撃は厄介極まりなかった。
バゼットは冷静に彼我の実力差を計算する。
「・・・さすが剣の英霊たるセイバー。このままでは不利なようですね」
「降参するか、メイガス?」
「何を馬鹿な・・・アベンジャー!」
バゼットの叫びと同時に、セイバーの前に飛び込むアヴェンジャー。邪魔だとばかりに振り下ろされた一撃は、狙い過たずにアヴェンジャーを袈裟掛けに切り裂く。
「いってええええ!」
黒い影だったアヴェンジャーが、一瞬だけ姿を現す。全身に入れ墨を施された、黒い肌を持った少年。
偽り写し示す万象ヴェルグ・アヴェスター!」
その瞬間、その場に崩れ落ちるセイバー。思わず駆け寄った士郎の目に、無残に切り裂かれたセイバーの姿が飛び込んでくる。
「セイバー!」
「これは・・・呪いの宝具か!」
「御名答だぜ、セイバー。俺の持つ欠陥宝具。俺が死んだら使えないし、軽傷で使っても意味がない。致死寸前の重傷でこそ、最大限に効果を発揮するのさ」
ニヤリと笑ってのけるアヴェンジャー。その顔が、月光の下に晒される。
「・・・アヴェンジャー!貴方は!」
「そんな!どうしてお前が!」
「もらった!」
アヴェンジャーの陰から飛び出したバゼットが、セイバーに襲いかかる。不利と判断したセイバーは、士郎を抱き寄せると全力で飛び退った。
「セイバー!」
「シロウ、私にも詳しい事は分りません。ですが、倒さなければこちらがやられます!」
セイバーの手の中に現れる黄金の剣。とっさにバゼットも迎撃態勢に入る。
切り裂き抉るアンサラー・・・」
バゼットの背後に浮かぶ、銀色の球体。
それを目撃した瞬間、士郎の脳裏に莫大な情報が流れ込んできた。
球体ではあるが、間違いなくあれは『剣』であると士郎は理解した。そして、その恐るべき能力も。
「やめろ!セイバー!」
約束された勝利の剣エクスカリバー!」
戦神の剣フラガラック!」
 勝利を約束する聖剣。その黄金の光は、闇夜を切り裂く事はなかった。
静かに崩れ落ちるよりも早く、姿を消していくセイバー。その左胸には小さな穴が開いていた。
逆光剣フラガラック。それは後の先を超えた、時間を遡って先に攻撃を当てた事にする究極の迎撃兵装にして、バゼットの家に伝わる現存する宝具である。
「セイバー!」
「終わりです。セイバーのマスター」
アベンジャーの双剣が士郎の意識を寸断する。
「どう・・・して・・・ンジ・・・」

その夜、アスカはランサーとともに深夜の街へと向かった。
 繰り返される4日間。もしそれが事実であると仮定すれば、これから何か起こるかもしれないと思ったからである。
 士郎や凛、ルヴィア達も思い思いに行動し、桜とライダーは衛宮邸に残ってシンジ達の護衛に残っている。
 「それで、どうするつもりなんだ?マスター」
 「どうしても確かめたい事があるの。私の予想通りなら、間違いなく戦闘になるわよ。準備はいいわね?」
 「・・・いいだろう。だが事情ぐらいは聞かせろよな」
 アスカは前回の最後の日の夜、自分が訳の分からない化け物に殺された事を伝えた。その内容に、ランサーがほう?と興味深そうに声を上げる。
 「いいぜ、そう言う事なら、喜んで力を貸そう」
 「頼りにしてるわよ、ランサー」
 間もなく日付が変わる。アスカは士郎に投影して貰った薙刀を、ランサーは愛槍を手に戦闘準備に入った。
 2人がいるのは穂群原学園の校庭。
 そして2人はその時が来るのを待った。

 闇の中から、無数の音が響いてくる。そして、その集団の中にいたのは、銀の髪の毛に金の瞳の少女であった。



To be continued...
(2011.05.29 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 繰り返される4日間2回目にして、早くも脱落組に3組追加。うち2つは主役級ペアです。バゼット・アヴェンジャーコンビ強すぎますwもう少し弱めにした方がよかったもかもしれませんが、これも話数の都合という事で、多めに見てやってくださいw
 しかし、今回のアスカはまだ見せ場が少なく物足りないと思われた方もいるでしょうが、もうしばらくお待ちください。レイともども、必ず大暴れさせますのでw
 それではまた次回も宜しくお願い致します。



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