暁の堕天使

hollow編

第九話

presented by 紫雲様


 ゼルエル目がけて走りだした弐号機の後ろ姿に、誰も言葉を発し得なかった。
 この場にいる者達は、アスカが冬木に来て以来、どんな想いを抱えて生きてきたのかを目の当たりにしてきた。そして今の彼女は、1人の人間として信用に値するだけのも物を築き上げている。
 だからこそ、英霊アスカの悪い意味でプライド高い言動に驚いていた。その筆頭が、アスカを主と認めたランサーである。
 「今のアレが、マスターの可能性?坊主がアーチャーだというのも驚いたが、あれはアーチャーの時の衝撃を上回る酷さだぞ?」
 「ランサー。あの少女にかこつけて、私を非難するのは止めて貰いたい。そもそも私と坊主は、もはや違う存在なのだからな」
 「ああ、そうだな。確かに坊主の方が好感が持てる」
 赤と青の騎士の間に火花が散る。
 「言ってくれるな、ランサー」
 「我が身を振り返ってみるんだな、アーチャー。百や二百は心当たりがあるだろう」
 背後で頷く凛とセイバー、更にはイリヤの気配まで察したのか、アーチャーが口籠る。確かにアーチャーにはランサーの指摘に対して、自覚できる部分があった。
 「まあ、それよりこれからの事だ。あの英霊が残りの使徒を皆殺しにしてくれるようだが、その後が問題だ」
 ランサーの言葉は正しい。使徒を倒したら、後で皆殺し宣言をされている以上、いつまでもここに留まるのは愚策である。
 「そうね。確かにランサーの言う通りよ。アタシ達はゼルエルを何とかする方法を考えないといけないわ」
 「アスカ、気付いたみたいね。恐らく、貴女の予想で正解よ」
 「まあね。あのアタシは、ゼルエルには勝てない。断言できるわ」
 アスカとレイだけが、お互いの顔を見て頷きあう。当然の如く、他のメンバーから理由を問われるが、2人にはそれに応じる余裕は無かった。
 「見ていれば分かるわ。それよりレイ。時間が無いわ。協力してちょうだい」
 「分かったわ。貴女は想いを届ける事だけに専念して。後は私がサポートするから。きっとアスカの声は届く。だから、貴女の素直な想いを伝えてあげて」
 「ありがとう、レイ。それじゃあ、後は宜しく」
 アスカは両目を見開くと、満天の星空へ視線を向けた。
 まるでそこに何かを見つけようとするかのように。

 「いっくわよ!」
 真紅の巨人は走る速度を殺す事無く、逆に破壊力に転嫁できるようなドロップキックをゼルエル目がけて放っていた。
 ゼルエルの眼前に、赤い障壁が現れ、渾身の蹴りを食い止める。
 「やっぱ、中和しなきゃ駄目みたいね!」
 肩部からプログレッシブナイフを取り出しながら、ゼルエルのATフィールドの中和に取りかかる弐号機。その間に、ゼルエルは加粒子砲で弐号機の迎撃に入る。
 ピカッと光った後、弐号機がいた場所で大爆発が生じた。
 大地を穿つ巨大なクレーター。だが、そこに破壊された弐号機の姿は無い。
 直感に従って弐号機を操っていた英霊アスカは、一瞬だけ早く、その場を跳び退いていたのである。
 「大人しく倒されなさいよ!」
 ATフィールドを中和するには、至近距離に至る必要がある。だからこそ接近戦を仕掛けようとするのだが、ゼルエルに加粒子砲を撃たれては、近付くどころの騒ぎではない。
 何よりゼルエルの加粒子砲の破壊力は、かつてNERV本部の特殊装甲板を、ただの一撃で18枚も貫いたほどである。
 それほどの火力を食い止めるという発想は、英霊アスカには無い。
 彼女にとって戦闘とは、己の才を世に知らしめる為の舞台であり、勝って当然の物だからである。何より、被弾する等彼女にとって耐え難い屈辱である。
 なぜならば、彼女は天才であるから。英雄であるから。例えどんな敵であれ、自分の実力で勝てない相手ではない。世界に冠たる英雄である以上、泥臭い闘争など許されない。闘牛士のように、華麗な戦いを魅せてこそ、惣流=アスカ=ラングレーの名誉と栄光は約束されるのだ。
 故に、英霊アスカは行動する。
 高度な操縦技術を駆使し、多数のフェイントを織り交ぜ、時には加粒子砲の真下を掻い潜るように直進し、ゼルエルとの距離を詰めていく。
 「そうよ、もっと攻撃してきなさい!アンタが強ければ強いほど、アタシの強さが光るんだから!」
 英霊となったアスカの操縦技術は、使徒戦役の時よりも遥かに洗練されていた。
 フェイントの巧みさといい、紙一重で攻撃を避ける技量といい、文句のつける所は無い。全て満点と言って良いほどである。
 だが、彼女は完全に忘れていた。
 目の前にいるゼルエルが、かつての彼女に、完全なる敗北を与えた存在であった事を。
 レリエルやバルディエル、アラエルは言い訳が出来る。レリエルは存在その物が非常識であるし、バルディエルはトウジと言う人質があった。アラエルに関しては、衛星軌道上の存在に、致命傷を与えるだけの武器が用意されていなかった。
 しかし、ゼルエルだけは違う。
 数多くの射撃兵器、射撃武器を活かすだけの距離という地の利の確保、侵入のタイミングをMAGIに教えて貰えるという、時間まで味方につけていた。更には本部からのバックアップという協力すらもあった。
 天の時、地の利、人の和。全てが揃っていた。にも拘らず、弐号機は敗北した。
 その理由を、英霊アスカは自らに都合の悪い過去であったが為に、そこから目を背けたままだったのである。
 そして、ゼルエルとの再戦を迎えた現在に至ってなお、彼女は答えに気付かず、自らの名誉の為に弐号機を操る。
 「これで・・・終わり!」
 苦労して至近距離まで近づいた英霊アスカは、ゼルエルの背後に回り込みながらATフィールドを展開。完全に背後まで向き直れていないゼルエル目がけてナイフを突き出す。
 両手で全力を込めた一撃。だが―
 ピシャン!
 「そんな、馬鹿な!」
 ATフィールドは中和されていなかった。切っ先は赤い障壁に阻まれ、そこから前に進まなかった。
 アスカとレイが気づいていた、英霊アスカの致命的な弱点。それはシンクロ率の低さにあった。
 英霊となったアスカは、他者に心を開く事が出来ない。しかしエヴァンゲリオンという存在は、エヴァンゲリオンに対して心を開かなければ、その実力を発揮できないのも事実である。それは宝具となっても、いや宝具となったからこそ、より顕著に表れていた。
 一般大衆は、エヴァに操縦者の母親の魂が眠っているという事実を知らない。シンクロシステムという物が、母子愛を基本理念としている事も知らない。
 彼らが知っているのは『シンクロ率が高くなければエヴァンゲリオンは実力を発揮できない』という事実だけである。
 その思い込みにより、弐号機は宝具として昇華された際に変質していた。
 弐号機の中に、母キョウコの魂は眠っていない。それによりコアも変質し、敢えて表現するなら汎用コアと言うべき物に変わっていたのである。
 これについては、NERVにも非はあるかもしれない。
 NERV首脳部にしてみれば、コアに操縦者の魂が眠っている事実を公表する訳にはいかなかったからである。理由は2つ。
 1つは世界中からの非難を防ぐ、自己保身の為。例えどんな理由があっても、母親を犠牲にしていた事実が分かれば、NERVは世界中から弾劾されてしまう。
 もう1つはエヴァンゲリオンを悪用されるのを防ぐ為。エヴァの戦闘力の高さの要が、シンクロシステムにある事は、否定できない事実。しかし、シンクロシステムの真実が暴露されたらどうなるか?
 間違いなく悪用される。そして多くの悲劇が、世界中に吹き荒れるだろう。世界中に存在する全ての母子を守る事など不可能。下手をすれば、守るべき国家その物が悪用する側に走ってもおかしくないほどである。
 素体その物の再現は、使徒の遺伝子が無い為に再現は不可能。だがコアだけでも再現できれば、話は変わってくる。
 素体が無ければ、機械辺りで代用となる体を用意すればいい。それが成功するかどうかはともかく、そう考えた者たちによって間違いなく人体実験は行われるだろう。
 だからこそ、NERVは真実を表に出せなかった。結果として一般人は、コアとは科学技術の産物であると思い込んでいる。
 故に、宝具となった弐号機にキョウコはいない。
 ただでさえ他者に心を開かないアスカが、キョウコのいない弐号機にのって、シンクロ率を維持できるか?答えはNO。維持できる訳が無い。
 そしてATフィールドは、シンクロ率によってその強度が変化する。シンクロ率を維持できない英霊アスカが駆る弐号機のATフィールドが、最強と言われるゼルエルのATフィールドに追い付く事もまた、決してありえない。
 だから、弐号機はATフィールドを中和しきれなかったのである。
 攻撃が通じなかったショックで、英霊アスカは弐号機の足を止めてしまった。
 そこへ煌めく閃光。
 ATフィールドを張り直す間もなく、加粒子砲の洗礼を浴びた弐号機は、轟音とともに地面に倒れ伏す。
 弐号機の中で悲鳴を上げた彼女は、最後まで認める事が出来なかった。自身が再び、敗北したという事実を。
 「認めない!認めない!認めない!アタシが、アタシの弐号機が最強なのよ!アタシこそが英雄なのよ!馬鹿シンジなんかに負ける訳にはいかないのよ!」
 ゼルエルの折り畳まれた腕が伸びていく。その剃刀の如き切れ味を持つ両腕が、エントリープラグとコアを直撃する。
最後まで、英霊アスカは事実を認める事ができず、英霊の座へと帰還した。

 ゼルエルの圧倒的な戦闘力に、サーヴァントもマスターも言葉が無かった。
 確かにレイやアスカの予言通り、英霊アスカは敗北した。だが、こうも実力差があるとは思わなかったのである。
 「最強の使徒、っていうのは伊達じゃねえな・・・おい、アーチャー。お前なら、どうやって攻略する?」
 「・・・逃げの一手だな。私の戦術論で何とかできる相手ではない。エクスカリバーを投影すれば攻撃は通じるだろうが、一撃で倒せる保証は無いし、その後が続かん」
 「なるほどな。Aランクの攻撃を止められる時点で、俺にも手は出せん」
 英霊達にとっても、手を出せない最悪の敵。使徒は天使の名を冠しているが、使徒自体が神ではないかと思うほどに、強烈なインパクトがあった。
 弐号機を倒したゼルエルは、一行のいる方へ向きを変える。そしてゆっくりと移動を開始した。
 サーヴァント達、全員が無理やり立ち上がる。魔力が無い今、勝ち目など無い。
 士郎もまた、玉砕覚悟で投影に入る。創り出すのは騎士王の選定の剣。
 「お前達は逃げろ」
 「士郎!」
 「良いから逃げろ!俺にはまだできる事がある!でもお前達は無理だろう!魔力は尽きているし、宝石も無い。桜は使徒に通じる攻撃を持っていない。葛城さん達と一緒に逃げるんだ!」
 士郎の両手に、黄金に輝く剣が出現する。夢で見た選定の剣―勝利すべき黄金剣カリバーン
 「いいな、逃げろよ?」
 「嫌よ!絶対に嫌!」
 「シェロだけ置いてくなんてできませんわ!」
 「私も先輩の側にいます!」
 「お兄ちゃん!」
 撤退を拒否する少女達は、逆に士郎の側へと歩み寄る。同時にセイバーもまた、士郎の側へと歩み寄った。
 「シロウ、誰もこの場から離れるつもりはありません」
 「セイバー」
 「士郎君、何を言っても無駄ですよ」
 バゼットもまた、逃走の意思など欠片も無かった。切り札たる迎撃宝具を起動させ、その時を狙いに入る。
 「この場にいる者達は、みな最後まで戦う意思を持っている。逃げろと言われても、受け入れる事などできる訳がない」
 「・・・奇遇ではありますが、全くもって同感です。ほら、駄犬。とっとと立ち上がって、あの牛みたいなのをさっさと潰してきなさい。神に仕える者としては不遜極まりありませんが、牛だと思えば倒すのも気楽でしょう」
 「牛とは面白い。天の牡牛は捕縛したが、殺して良いなら簡単そうだな」
 カレンにも逃げる意思は無い。拘束から解放されたギルガメッシュもまた、彼だけに与えられた宝具『天地乖離す開闢の星エヌマ・エリシュ』を取り出し攻撃態勢に入る。勿論、真名解放できる程の魔力など残っていない。
 だが、それは他のサーヴァント全ても同じであった。
 彼らは魔力が尽きた今、己の存在全てを宝具の発動に費やす覚悟を決めたのである。
 「サクラ、幸せになって下さい」
 ライダーの側に、天馬が出現する。
 「・・・」
 無言のまま、バーサーカーはイリヤの頭を撫でると、斧剣を構える。
 「最後まで楽しめそうだな。一番槍はバーサーカーと私が赴かせてもらう」
 備中青江を構えるコジロウ。
 「せめて弾よけにはなれよう。援護に入る」
 タイミングを合わせて、飛び込む体勢に入るハサン。
 「凛。私を頼んだぞ」
 神殺しの逸話を持つ、魔剣ミストルティンを投影し、弓につがえるアーチャー。
 「・・・まあ、悪くは無い最後だな。思う存分戦えたしな」
 愛槍を肩に担ぐランサー。
 「シロウ、最後ですから言っておきます。貴方を愛している」
 選定の剣を握った士郎の手に、セイバーが上から手を置き真名解放の体勢に入る。
 悲壮な覚悟で、最後の一撃に賭ける一同。
 その行動が驚愕で止まった。
 近寄ってきていたゼルエルが、轟音とともに土埃に包まれたのである。
 「何だ!何が起こった!」
 更に土埃から、飛び出してくる巨大な影。影は一同の、いや、影を呼んだ者の傍に膝を着いていた。
 影の正体は、紫の装甲にその身を包んだ鬼神。
 
 汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン初号機が、再びその雄姿を見せていた。

時は少し遡る―
 アスカはレイのサポートを受け、全身全霊をもって呼び掛けていた。
 使徒を倒すには、エヴァしかない。そして現存するエヴァは、初号機しかない。
 その初号機は、現在、宇宙空間を漂っていた。
 (・・・お願い、返事をして!シンジのママ、アタシの声に応えて!シンジを助けたいの!お願いだから力を貸して!)
 今更、シンジの母に顔向けなどできる立場では無い事だけは、アスカも十分に承知していた。
 だが、今のアスカには守りたい者、助けたい者がいた。
 だから、自分の心に素直になった。
 (お願い、助けて!シンジさえ助かるのなら、使徒になっても良い!命をよこせというのなら、殺されても良い!だから、お願い!アタシに力を貸して!)
 アスカの想いは、レイのサポートを受けて遥か天高くまで達する。
 (名誉も栄光もいらない!シンジさえ助かるなら、全部いらない!)
 その必死の想いは、大気圏を越え、更に遠くまで届く。
 (お願い!シンジを助けたい!力を貸して!シンジのママ!)
 想う事に没頭するアスカ。その耳に届く声。
 「・・・その言葉に偽りは無いわね?シンジを助ける為なら、命もいらないのね?」
 「アタシの命でいいのなら、あげる。だから力を貸して!」
 「・・・本当に良いのね?貴女が死ぬという事は、シンジを悲しませるという事なのよ?それでシンジが喜ぶとでも思ってるの?」
 アスカの頬を、一筋の滴が落ちていく。堰を切ったように、溢れ出す想いとともに。
 「嫌・・・本当は死ぬのは嫌・・・だって、シンジと一緒に生きたい・・・シンジに好きだって伝えてない・・・だから、本当は嫌。でも・・・でも、それしかないなら!」
 「貴女はどうしたいの?本当の想いを教えて」
 初めて背後を振りかえるアスカ。そこにいるのはレイ。だが何故かレイとは断言できなかった。
 「シンジと・・・シンジと一緒に生きたい!」
 「それが、貴女の想いなのね?」
 「・・・はい。碇シンジが好きだから、一緒に生きたい!」
 レイの顔に笑顔が浮かぶ。
 「アスカちゃん、素直なのが一番よ。だから息子の事、頼むわね」
 同時にレイが崩れ落ちる。
 慌てて抱きとめるアスカ。
 「レイ!レイ!しっかりして!レイ!」
 「・・・アスカ?私は一体・・・」
 頭を振りながら立ち上がるレイ。その顔には?マークが浮かんでいる。
 「ありがとう、レイ!届いたわ、アタシ達の想いが!」
 アスカの言葉に、レイが喜びのあまり笑顔を見せる。
 同時に接近していたゼルエルが、大気圏外から突撃してきた初号機によって大地に押し倒された。
 轟音とともに巻き起る土埃。その中から初号機が飛び出してくる。
 「行くわよ!レイ!シンジを助けにね!」
 「ええ、私達2人で碇君を助けましょう!」
すぐ傍にまで移動してきた初号機に、2人は駆け寄った。

同時刻、NERV本部―
 初号機の出現は、本部に大きな衝撃を与えていた。
 「碇司令!」
 「慌てるな、まずはパイロットとの連絡を取れ。それからシンクロ率の報告を」
 「は、はい!」
 声色に全く動揺の見られないゲンドウの言葉に、発令所に冷静さが取り戻されていく。
 「初号機、通信回路、開きます!」
 青葉の声と同時に、正面モニターに映像が映る。そこにいたのはアスカとレイ。
 当然の如く、発令所にざわめきが広がる。アスカは問題ない。だがレイはアルミサエル戦で自爆し死んだ事になっている。レイが生きている事を知っているのは、極一部の職員だけなのだから。
 だからこそ、動揺を抑えるべくゲンドウが行動した。
 「レイ、2年ぶりの実戦だ。ずっと眠っていたが、体は問題ないな?」
 『はい、問題ありません』
 言外に『2年間眠っていた事にしろ』というゲンドウの思惑に気付いたレイが、素直に対応する。
 「よろしい。立場上、無茶をするなとは言えんが、生きて帰ってこい。必ずな」
 『分かりました。必ず帰ってきます』
 レイの言葉に、ゲンドウが満足そうに頷く。
 「アスカ君、初号機だが機体に問題は無いか?」
 『問題無いわ!とっととゼルエルを倒してきます!アイツが待ってるんだから!』
 「・・・良い返事だ。シンジの事を頼むぞ」
 レイとは対照的に、アスカは力強く頷いて見せる。
 「しかし、碇司令!初号機のコアでは2人にシンクロは!」
 「問題無い。伊吹一尉、初号機のシンクロ率の報告を」
 「は、はい!信じられません、シンクロ率122.5%です!S2機関も稼働しています!」
 「何ですって!初号機とシンクロできるだけでも予想外、おまけにタンデムシンクロなのよ・・・」
 呆然とするリツコ達に、ゲンドウは当然の如く応えてみせる。
 「初号機はアスカ君とレイの呼びかけに応じて出現した。それは2人が初号機―ひいてはユイに心を開いたという事。同時にユイもまた、2人に心を開いたのだ。ならば、例え血縁でなくても、シンクロできるのは当然の事だ。何の不思議もない」
 本来、エヴァが特定のパイロット専用機である理由は、コアの中に眠る母親と搭乗者が母子関係であるから。搭乗者である我が子を守ろうとする母親の意思こそが、シンクロシステムの重要な一因を担っている。
 だが例え血縁で無くても、コアの中の女性―ユイと、搭乗者であるアスカとレイが、お互いに心を開き合っていたらどうなるか?
 その答えが、目の前に姿を見せていた。
 「・・・碇、勝ったな」
 「無論だ。最早、何の心配もない。我々は避難民の誘導に全力を注ぐ。使徒は2人に任せておけば問題は無い」
 ゲンドウの見つめる正面モニターには、立ち上がったゼルエルに襲いかかる初号機の姿が映し出されていた。

 「基本言語は日本語をベーシックに・・・エヴァ初号機、起動!」
 初号機の両目に光が灯る。
 「行くわよ!レイ!」
 「アスカ、戦闘は任せるわ。サポートは任せて!」
 「頼んだわよ!」
 目の前には、身を起こしたゼルエルが立ちあがっている。そこへ挨拶代わりにとばかりに、初号機が急襲する。
 対するゼルエルは、加粒子砲で応戦。その両目に一瞬だけ光が灯る。
 爆炎に包まれる初号機。だが炎の中から飛び出してきた初号機には、小さな傷すらない。一瞬早く張ったATフィールドにより、全くの無傷である。
 「吹き飛べえ!」
 初号機の渾身の回し蹴りが、ゼルエルに放たれる。ゼルエルはATフィールドで防ごうとするが、瞬時に中和されてしまい防御できない。それはゼルエルの思惑を読み切っていたレイのサポートであった。
 左肩に命中した回し蹴りによって、文字通り吹き飛ぶゼルエル。だがアスカ達は、攻撃の手を緩めたりはしない。
 肩部からプログナイフを抜きつつ、疾走する初号機。倒れ込んだままのゼルエルは、再度、加粒子砲で応戦する。
 だがそれよりも一瞬早く、初号機の前に赤い障壁―ATフィールドが展開されていた。加粒子砲はATフィールドを貫く事すらできずに、その場で大爆発を引き起こす。
 「無駄よ!アタシ達のATフィールドをなめるな!」
 怒号とともに、アスカは初号機を駆る。加粒子砲では火力不足と判断したのか、ゼルエルは両腕を初号機目がけて放った。
 疾走する初号機にしてみれば、至近距離でいきなりのカウンターである。例え操縦技術と反射神経においてはチルドレン随一のアスカであっても、咄嗟に避ける事など不可能。   
しかし、今の初号機はアスカだけが搭乗している訳ではない。
 「ATフィールド展開。アスカ、足を止めないで」
 沈着冷静な判断力に優れたレイが、アスカのサポートとして乗り込んでいる。レイは操縦に集中しなくて済む分を、常に戦場の把握に向けていた。だからこそ、ゼルエルの能力を念頭に置いた上で、自分がゼルエルだったらどうやって初号機を迎撃するか?という事を考える事で、ゼルエルの思惑を読む事ができたのである。
 個人戦闘技術と操縦技術に優れたアスカ。どんなアクシデントであっても冷静に判断して思惑を読み切るレイ。2人の組み合わせは、積み重ねてきた努力の結晶―理性による戦いである。
 それはシンジの戦い方とは対極に位置する物。
 シンジは高いシンクロ率と、狂気と呼べるほどの激情をもってゼルエルを追い詰めた。それは本能による戦いである。
 全くの正反対と言える戦闘方法でありながら、2人の少女は最強の使徒相手に、優勢に戦闘を進めていた。

 「おいおい、何だよアレは。あの化け物が、全く相手になってねえ」
 ランサーの呆れたような独り言に、誰もが頷いていた。目の前では抑止の守護者や弐号機すらも一蹴してのけたゼルエルが、初号機を相手にした途端、逆に一方的に攻められ始めたからである。
 加粒子砲も両腕の一撃も、ATフィールドを突破できない。
 ゼルエルに残された手段は、最早、ATフィールドを中和した状態での零距離戦闘しか残されていなかった。
 「これは、初号機の勝ちだな。ゼルエルに対抗手段は残されていない」
 「アーチャー?どうして断言できるの?」
 「簡単な事だ。私の見る限り、ATフィールドの強さは互角。攻撃力と防御力も互角、いや若干だがゼルエルの方が上かもしれん。とはいえ、致命的な差とは言えん。しかし大きな違いが2点ある。1つは初号機には、2人のパイロットがいる事。2人が戦闘役とサポート役というように役割分担をしていれば、勝率は間違いなく上がる」
 アーチャーの説明に頷いたのはバゼットである。
 「確かに。役割に専念できるというのは、それだけで強力ですから」
 「その通りだ。もう1つの要因はスペックの差だ」
 「スペック・・・ですか?」
 問いかけたのは桜。かつての妹分の問いかけに、アーチャーは普段よりも柔らかい口調で応じる。
 「実際に見ていれば分かるが、瞬発力と機動力に差がありすぎるのだよ。ゼルエルは例えるならバーサーカー。重装甲と大火力に物を言わせて攻め込むタイプだな。対する初号機はセイバーやランサーのようなタイプだが、もしも2人にバーサーカーと同じ防御力が備わっていたとしたら、どうなると思う?」
 「それは・・・2人の勝ちだと思います」
 「そういう事だ。あれほどの性能差があっては、ゼルエルが哀れに思えてならんよ。葛城、よくもまあ、あれほどの機体を作り上げたものだな」
 褒めてはいるのだが、アーチャーの言葉には、どこか呆れたような感じがあった。
 「違うわ。正直な話、エヴァにはそれほど個体性能に差は無いの。零号機だけは若干性能は落ちていたけど、初号機と弐号機にそれほどスペック差は無かったわ。いえ、基本武装の多さと汎用性を考慮すれば、弐号機の方が若干上だったでしょうね」
 「そうなのか?ならば、先ほどとの差は、どうして生まれたのだ?」
 「シンクロ率の差よ。エヴァは搭乗者と一体になるほど、より高い性能を発揮する。その一体化の割合を、私達はシンクロ率と呼んでいるの。でも、あの2人には驚いたわ。初号機はシンジ君しかシンクロしない筈なのに、まさか2人同時にシンクロするなんてね。それにあの動きをみれば、シンクロ率が高い事も予想できるわ」
 ほう、と感心したように呟くアーチャー。その側にいたセイバーもまた、納得したように頷く。
 「つまりパイロットの実力ですか。どのような名剣であれ、使い手が悪ければ、真価を発揮できないような物なのですね」
 「ま、そんな感じかな」
 「参考までに聞きたいのですが、かつての初号機の搭乗者―ランサーのマスターであったシンジは、どれほどの実力だったのですか?」
 セイバーの問いかけは、その場にいた者全ての気持ちを代弁していた。
 「シンジ君は、まるでエヴァに乗る為に生れてきたような子だったわ。初めて初号機に乗った時のシンクロ率は41.3%。それから僅か半年余りで、平均90%台まで上昇させた。アスカが初めて乗った時は10%以下、そこから10年かけて平均が80%台だった事を考えれば、シンジ君がどれだけ才能を持っていたか、分かるでしょ?」
 ミサトの言葉に、シンジの言葉を思い出す士郎と凛。
 『彼女が血の滲むような思いをしてまで続けてきた努力を、僕は努力すらせずに、才能に物を言わせて追い越してしまったんだから』
 「シンジが言っていた事って、この事だったんだな」
 「そうね。それでも言峰君は戦うしかなかった。アスカもそうだけど、彼も辛かったでしょうね」
 初号機から降りる事を許されなかったシンジの苦悩。努力が無意味だったと思ってしまったアスカの苦悩。そのどちらもが、2人には哀れに思えて仕方なかった。
 そして視線の先では、ゼルエルと初号機の戦いに幕が下ろされようとしていた。

 ATフィールドを中和した状態での接近戦は、凄惨極まりなかった。
 ゼルエルは両腕の攻撃と、零距離での加粒子砲で初号機を破壊しようと試みる。だが左腕はすでに初号機のプログナイフで切り落とされ、何の役にも立っていない。
 対する初号機は、加粒子砲が偶然にもプログナイフに命中してしまい、手元から失ってしまっていた。だが戦闘の最中に、加粒子砲がゼルエルの目と思しき個所から発射されている事に気付いたレイの指摘で、それ以上の被弾は避けている。
 左腕でゼルエルの右腕を力任せに引き千切ろうとしつつ、右腕で顔のような部分を力任せに引っ張りつつ仰け反らせる。
 「しつっこいわねえ!いい加減にしなさいよ!」
 顔を引っ張られている為に、今のゼルエルは肉のような部分が引っ張り上げられ、露出していた。そこへアスカは膝蹴りを連続して叩き込む。
 ゼルエルから悲鳴のような声が上がる。だがアスカに手を止める理由は無い。
 「ナイフさえあれば、トドメを刺してやれるのに!」
 「アスカ、左腕でゼルエルの腕を掴んだまま、喉元まで引っ張る事はできる?」
 「できるわよ!やればいいのね!」
 初号機の左腕が、ゼルエルの喉元にまで移動。そのすぐ先には、ゼルエルの肉が露出している。
 「右腕の代りに、右足でゼルエルの顔を抑えて。そしたら空いた右手で、ゼルエルの腕を首に巻きつけるようにしてから縛ってあげるのよ。そうすれば、攻撃手段は加粒子砲だけになるわ!」
 「なるほどね、オーケイ、任せなさい!」
 まるで包帯を巻き付けたような格好になるゼルエル。見た目は間抜けだが、ゼルエルにしてみれば、ほぼ死に体と言って良い。
 腕を封じられた以上、攻撃に仕えるのは加粒子砲のみ。コアを守る為、すでにカバーは下ろしているが、どう考えても逆転の目は存在していない。
 「WOOOOOOOO!」
 咆哮を上げるゼルエル。次の瞬間、ゼルエルは思い切った行動に出た。
 コアのカバーを解放するゼルエル。当然の如く、チャンスとばかりにコアへ攻撃を仕掛けるアスカ。
 だが、それはゼルエルの仕掛けた罠。
 レイが『おかしい』と疑念を抱いた時には遅かった。
 「アスカ、避けて!」
 攻撃の為に、注意力が欠けていた初号機の右足。その右足で押さえていたゼルエルの顔が、初号機を正面から捉えていたからである。
 避けようにも時間が無い。ATフィールドは中和に使っている。
 「しまっ」
 煌めくゼルエルの眼窩。同時に初号機を爆炎が包み込む。
 ゼルエルの攻撃は、そこで終わらなかった。
 コアが不気味に脈動を開始する。だがそれに注意を払う者は、どこにもいない。
 「やられた!レイ、大丈夫!」
 フィードバックで痛みが走る左目を押さえながら、アスカはレイの安否を問う。ゼルエルの加粒子砲は、初号機の顔面を捉えていた。幸い、頭部が吹き飛ぶような事は無かったが、左目を中心とした顔部装甲が木っ端微塵に砕け落ち、初号機の眼球も破壊されていたのである。
 「私は大丈夫!それより油断しないで!」
 レイの叫びに、アスカがモニターへ向き直る。
しかしゼルエルのコアは死角に入り、アスカもレイも不気味に脈動している事に全く気付いていない。
その時だった。
(マスター!コアに気をつけろ!)
アスカの脳裏に響くランサーの声。同時に左手に刻みこまれた令呪に熱さが生じる。
咄嗟にコアへ注意を向けるアスカ。モニターに映ったのは、脈動するコア。
「自爆か!」
ゼルエルを持ち上げるなり、全力で蹴り飛ばす初号機。ゼルエルはコアを脈動させたまま、柳洞寺の付近へと落下する。
「アスカ!」
「分かってる!」
同時にゼルエル目がけて走りだす初号機。そして直感に従って、ATフィールドを展開させる。
続いて網膜を焼くような閃光と爆音が轟く。
やがて徐々に収まっていく爆煙。そこにあった光景は、アスカやレイですら絶句させるものがあった。
柳同寺があった山は、根こそぎ吹き飛ばされていた。更には周辺の山々も、数個道連れにするというおまけつきである。
「危なかったわね。初号機を盾にしなかったら、冬木市が吹き飛んでたかもね」
爆発のクレーターは、初号機より後ろには全く及んでいなかった。しかし初号機がいなければ、確実に冬木市は消し飛んでいたと思わせるだけの規模のクレーターである。
「強かったわね、アスカ、左目は大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。痛みはまだ残っているけど、潰れた訳じゃない。それより、次のアラエルを何とかするわよ!」
アスカは気勢を上げながら、仲間達の待つ場所へと初号機を帰還させた。

最強の使徒ゼルエルの撃破に、喜びに沸きたつ一同。そんな彼らに冷水を浴びせかけるような声が響いた。
「うひゃあ、まさか初号機が来るとはね。これは全くの予想外だったな」
いつの間にか背後に現れていたのはアンリマユである。
「アヴェンジャー!」
「おいおい、元マスターさん。そんな体調で俺様に喧嘩売ってどうすんだよ。荒事は専門家だったんじゃねえの?」
相も変わらず、人を食ったような態度のアンリマユに、全員が警戒を崩さない。
「アンリマユ、最強の使徒は倒されました。まだ続けるつもりか!」
「当然。まだまだパーティーは終わってねえぜ?」
セイバーの叱責もどこ吹く風。暖簾に腕押し、柳に風。全く気にしていないアンリマユの態度に、一同の中に疑念がわき起こる。
「それでも、次はどうかね?今の初号機に、何とかできる使徒じゃねえぜ?アラエルはよ」
アンリマユが思わせぶり空を見上げる。そこには光り輝く鳥が姿を見せていた。

アラエルの出現に、アスカはやり返す機会とばかりに舌舐めずりしていた。かつての敗北を引きずる様子は全く無く、だからと言って虚勢を張っている訳でもない。アスカらしい、普段の強気な態度のままであった。
「アスカ、随分強気だけど、何か考えがあるの?ロンギヌスは無いのよ?」
「副司令が教えてくれた事を実践するつもり。それより、レイ。もう一度、力を貸してちょうだい。また声を届けないといけないのよ」
「分かったわ」
アスカの背後から、まるで彼女を抱きしめるようにレイが両手を伸ばす。
「・・・力を貸して、シンジのママ・・・初号機はロンギヌスの主・・・貴女が呼びかければロンギヌスは現れる筈・・・お願い、力を貸して!」
その時、外では異変が生じていた。

「な?グ・・・アアアアアアアアアッ!」
突如、苦しみだしたアンリマユ。胸を押さえながら、その場に崩れ落ちる。
「アヴェンジャー!」
アンリマユの胸から、真紅の物体がゆっくりと姿を見せる。それはゆっくりとだが、確実にその全貌を現そうとしていた。
「・・・ロンギヌスの槍・・・」
アンリマユの中から出てきたのは、巨大な二股の槍―ロンギヌスだった。シンジがアンリマユを封じる為に、自らの魂ごと楔として打ち込んだ現世に伝わる宝具。
「やべえ、このままじゃ・・・」
苦々しく槍を睨みつけるアンリマユ。彼は理解していた。自分がシンジの力を使えるのは、彼がシンジの魂を取りこんでいるからである事を。そしてロンギヌスの主は、シンジと初号機である。シンジはアンリマユが取りこんでいるが、アンリマユがロンギヌスの主になった訳ではない。せいぜいが仮初の主という所である。そんな状態の所へ、もう1人の主である初号機が呼びかければ、ロンギヌスが応じてしまうのは当然である。更にロンギヌスが無くなれば、シンジはどうなるか?
答えはシンジの開放。即座に解放されるという事こそ無いが、シンジが解放されるのが時間の問題であるのは間違いない。それは彼にとってのパーティーが、終わりを告げるのと同義である。
「ふざけるなああ!こんな所で、終わってたまるかああああ!」
咆哮を上げるアンリマユ。その視線の先では、ロンギヌスを手に入れた初号機が、早くも投擲体勢に入っていた。
轟音とともに放たれる真紅の槍は、一撃で機動衛星上にいたアラエルを木っ端微塵に砕いていた。
「まだだ、まだだ!行け、アルミサエル!」
初号機の眼前に、今度はアルミサエルが出現する。だが更に異変が生じた。
アルミサエルの姿が、徐々に消えていくのである。これには、さすがのアンリマユも言葉が無い。事実を受け止める事が出来ず、無意識の内に絶叫する。
「馬鹿な!どうしてだ、どうして消えちまうんだ!」
「そんな事も分からないのかい?18番目の使徒リリン―つまりシンジ君の封印が解除されたからさ。僕達使徒は、死ぬと次の代へと情報を渡して世界から消える。しかしゴール地点である僕がここに現れてしまった為に、アルミサエルの存在に矛盾が発生したのさ」
その声に、ミサトだけは聞き覚えがあった。僅か数日間だけ、接した事のある少年。
銀色の髪の毛に赤い瞳。真っ白な肌に美少年と言っていい容貌。白いYシャツに黒いズボンを履いた少年。
『アンタ、まさか!』
『・・・間違いないわ、本物ね、貴方』
「2人とも、シンジ君に感謝すべきだよ?さすがの初号機も、融合されては手の打ちようがないからね。彼は君達を助ける為に、切り札として僕を送り出したんだから」
外部音声でアスカとレイの声が響く中、少年は笑顔を全く崩そうとしない。
「アンリマユ、君はシンジ君が聖杯を取り込んだ事があるのを忘れたのかい?マスターとサーヴァントを蘇らせ、令呪を復活させた事を忘れたのかい?アスカ君にランサーとの契約が移った事を忘れたのかい?」
「まさか!」
「そうだ。確かにシンジ君は封じられていた。だけど全く力を使えなかった訳じゃないんだよ。シンジ君の肉体か、もしくは魂がある場所でのみ、力を振るう事ができたんだ。アスカ君にはシンジ君の体の一部が譲られている。だから契約を譲渡できた。そしてシンジ君の心の中に眠っていた僕と、主従の契約を交わし、封が解けるタイミングをずっと待ち続けていたんだよ」
銀髪の少年の背中から、2対4枚の翼が現れる。
「僕は渚カヲル。仕組まれた子供フィフスチルドレンにして、歴史から抹消された17番目の使徒。同時に、シンジ君に敵として殺される事で世界を救った反英雄。そしてシンジ君と契約を交わしたサーヴァント・アヴェンジャー。僕はシンジ君の大切な人達を傷つけようとする君に対して復讐を開始する」
カヲルの両目に輝く赤い光に、アンリマユが後ずさる。だがカヲルは一瞬で間合いを詰めると、無造作にアンリマユの胸に貫手を放つ。
体内に沈むカヲルの右手。だが肩まで沈んだにも関わらず、貫手はアンリマユの背後へ突きぬけなかった。
「アンリマユ、僕のたった1人の友達を返してもらうよ」
抜かれる右手。その右手に引きずられるように姿を現す半透明の人影。その人影は、加持が背負っていた少年の中へ吸い込まれるように姿を消していく。
同時に、少年の手に3画の令呪が姿を現した。
『シンジ!』
『碇君!』
「馬鹿な!こんな、こんな事があってたまるか!俺様は絶対悪の存在!全ての悪性の代弁者だぞ!それが、それがこんなところで!」
吠えるアンリマユを、カヲルは笑顔で、だが目だけは冷たいままで応じた。
「さあ、終わりだ。再び、リリンを宿主に還り給え」
 カヲルの放った光の弾丸が、アンリマユに無数の穴を穿つ。更にトドメとばかりに初号機の拳が振り下ろされた。



To be continued...
(2011.07.16 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 ついに冬木市使徒戦役も終わりました。カヲルをサーヴァントにして出す事については、最初から考えていたネタでした。ちなみに8話の英霊アスカの出現自体が、この伏線だったりしますw
 少し突っ込んだ話になりますが、この作品の世界設定においてカヲルの存在を知る者はごく少数です。と言うのも、ゲンドウによってその存在が抹消されている為です。
 ですがカヲルは反英雄として現れています。この理由は2つ。1つはFate世界における並行世界の設定により、並行世界のカヲルが反英雄として英霊の座に着いていた事。もう1つは作中通り、シンジが聖杯による召喚システムを利用した事。ただしシンジの中のS2機関から生み出されるエネルギーはアンリマユに横取りされていて、自由に使えない状況でした。その為、ロンギヌスから解放された一瞬の隙を狙って、S2機関のエネルギーを確保。カヲルをアヴェンジャーとして召喚した、という設定です。
 それとシンジからアスカへランサーの令呪が移ったのも、作中通りの理由です。旧・劇場版において、赤い世界でアスカは顔や腕等、体中に包帯を巻いています。この傷を癒す為に、シンジはアスカの眼球以外にも、傷を移し換えています(前夜編第1話)。この結果、アスカの腕にはシンジの皮膚や体組織が移植された状況になっています。その部分はアスカの体でありながら、シンジの体でもあります。結果、シンジはランサーの令呪を譲渡(正確には令呪を移動した)できた、という設定でしたが・・・見直したら、前夜編で片手としか書いていませんでしたw何で左手じゃなくて片手?というか、アスカが包帯巻いてたのって左手だっけっか?と今更ながらに首を傾げておりますw・・・でもまあ折角なので、そのままミスは残しておきますw違っていたら、笑って流してやって下さい。
 話は変わって今後の予定ですが、まず23(土)に次回更新分のエピローグを。
 30(土)に番外編である後日談第1話を。
 来月6(土)に後日談第2話を掲載して、暁の堕天使を終了させる予定です。

 それでは、もうしばらくの間だけお付き合い下さい。



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