正反対の兄弟

第十二話

presented by 紫雲様


春休み編:CASE@長谷川千雨の場合
修了式―
 一年度の締めとなるこの日、講堂において近右衛門の口から飛び出て来た言葉に、千雨は目を剥いた。
 「来年度から正式に英語科教師となるネギ=スプリングフィールド君じゃ。ネギ君には来年度は3−Aを担当して貰う予定じゃ」
 パチパチと拍手が鳴る中、千雨はただ1人、無言のまま心の中で突っ込んでいた。
 (だから、何で子供を先生にするんだよ!)

2−A教室―
 「と言う訳で、3年になってからも宜しくお願いします!」
 ワーッと沸き起こる歓声。
 「よろしくねー!ネギ先生!」
 「こっち向いて!ネギ先生!」
 「ほらほら!学年トップのトロフィー!」
 桜子が右拳を突き上げてアピールすれば、和美はカメラを構えてネギに突撃、まき絵は両手でトロフィーを突き上げる。
 「ネギ先生がいれば、来年の中間テストもトップ確実だねー!」
 風香の言葉に、頷く裕奈。だが千雨にとっては聞き逃せない一言である。
 (ちょっと待て、てめーら!そこのガキが何やったというんだ!)
 グルッと周囲を見回す千雨。彼女にしてみれば、鞭と飴を使い分けてみせたシンジの方が、よっぽどネギよりも真面目にテストの事を考えていたと思っていた。実際、臨時コーチの段取りをつけたり、彼女達の為に食事を用意したりと裏で色々と動いている。そんなシンジが、今日に限っては姿を見せていなかった。
 (どこ行ったんだ?修了式の時にはいたんだが・・・)
 もう一度確認するが、やはりどこにもいない。首を傾げる千雨の前で、風香がスッと立ち上がった。
 「先生!この後は寮へ帰るだけですから、今からみんなで学年トップおめでとうパーティーをやりませんか!」
 「おー、いいねー!」
 「やろうやろう!」
 ガゴンッと頭を打ち付ける千雨。
 (たかだかテスト程度でパーティーなんぞやってんじゃねえよ!)
 もう耐えられん、とばかりにスクッと立ち上がる千雨。そのまま廊下へと姿を消した彼女を、ネギは不思議そうに眺めていた。

 怒りで打ち震えながら、千雨は大股でズカズカと寮への道を歩いていた。
 (そもそも、あのクラスはおかしすぎるんだよ!異様に留学生は多いし、でかすぎるのもいれば、幼稚園児みたいなのもいる!何よりあのロボットはなんだよ!何で誰も突っ込まねえんだ!頭のアンテナみたいのと言い、関節の溝と言い、どうみても人間じゃねえだろうが!)
 茶々丸の姿を思い浮かべて、ウガーッと頭を抱える千雨。
 (担任補佐の寮監はとんでもなく不気味だし、極めつけはあの子供教師だ!そもそも10歳ってありえねえだろうーが!)
 「アタシの普通の学園生活を返せーーーー!」
 咆哮した事で少しはストレスを解消できたのか、幾分、楽になった表情で寮へと向かう。すると寮の前にある芝生の前に、会議室にあるような長机がいくつか出ていた。
 (・・・何だ?)
 「お帰り、長谷川さん。早いね」
 長机をセッティングしていた、麻帆良で一番怪しい(千雨視点)男が彼女を出迎える。
 「ああ、アンタか。一体、何をしてるんだ?」
 「この前のテストのパーティーをやると言うんでね、会場のセッティングだよ。青空の下で騒ぐのも気持ちが良いからね」
 「・・・アンタもよくやるよな・・・」
 額に汗しながら机を並べる寮監を、千雨は不思議そうに眺めていた。
 「良く分からねえんだけどさ、どうしてそこまでするんだ?別に全員、集まってからでも良いじゃねえか。その方が楽だろ」
 「それはそうだけどね。今日はテストを頑張った、あの子達が主役なんだ。勿論、長谷川さんも含めているけど、そんな主役に裏方仕事を任せる訳にはいかないよ」
 「アンタ馬鹿か!?そんな事、誰も気にしねえよ!手伝ってくれと言えば、みんな喜んで手伝うだろうが!早乙女なんぞ、その筆頭だろうが!」
 思わず声を張り上げる千雨。だがシンジは静かに答えた。
 「あの子達が喜んで、楽しんでくれる。それじゃ理由にならないかな?」
 「な!?」
 「僕にしてみれば、この寮に住んでいる子達は妹みたいなもんだ。ネギ君は弟みたいなもんだ。だから兄としては、弟妹が喜ぶ事をしてあげたい。それがそんなに不思議な事なのかな?」
 額に浮き出た汗をタオルで拭い、一息つくシンジ。3月にしては暖かい日差しと、無風のおかげで、動かずにいてもジンワリと汗が浮かんでくる。
 「長谷川さんは、兄弟っている?」
 「・・・それが何だと言うのさ」
 「僕には物心ついた頃から、兄弟はいなかった。それどころか、家族すらいなかった」
 馬鹿馬鹿しそうにフンと鼻を鳴らす千雨。だがその後に続いた言葉は、彼女にとって理解の範疇外だった。
 「初恋の女の子が死んだ時、後からその子が妹だと知らされたよ。しかもその子が実験の副産物として、この世に産まれてきたという事実を教えられた時、僕はその子に嫌悪感を抱いてしまった。今にしてみれば、あの頃の自分を殴り飛ばしたくなるけどね」
 「な、なんだよそれ・・・実験の副産物って狂ってるぜ・・・」
 「僕もそう思うよ。だからかな、あの子―レイに家族として、接する事ができなかった事を、代償行為として君達にしているのかもしれない。君達にとっては迷惑かもしれないけどね」
 ヨッという掛け声とともに立ち上がるシンジ。即席のテーブルの上に、白いテーブルクロスをかけて行く。
 「ただね、そんな僕にしてみれば、ネギ君は非常に危うい」
 「ど、どういう事だよ」
 「大人の都合で振りまわされていると言う事さ。長谷川さん、君はおかしいと思った事は無いの?何で10歳の子供が、教師として認められるのか?って」
 無言で頷く千雨。確かに彼女は、大きな違和感を持っていた。
 「僕はネギ君を守ってあげたいんだよ。大人の勝手な都合で振り回されないようにね。あの子が自分の意思で、人生の選択肢を選ぶ事が出来るように。それまでの間、あの子を兄として守ってあげられるように。僕のような目に遭わない為にね」
 麻帆良に来て以来、初めて理解できるまともな考え方に、千雨は驚愕していた。共感はできないが、一般常識としては十分理解できる考え。それがこの麻帆良に来て以来、ダントツ1位の怪人物の口から飛び出て来たのである。
 「ここへ来て以来、初めて理解できる一般常識的な考えだが、それがここで一番怪しいアンタの口から出てきたのが、一番驚きだ」
 「・・・そんなに僕って怪しく見えるの?」
 「自覚ねえのかよ!そもそも目元隠しておいて、何を言ってやがんだ!」
 「それを言ったら、宮崎さんだって」
 「あの恥ずかしがり屋と一緒にすんじゃねえ!」
 初めての驚きは、すでに遥か彼方に吹き飛んでいた。確かに目の前の男については、考え方を変える必要はあるかもしれない。見た目や能力は怪しいが、それでも根っこの所では、善人なのかもしれない。
 だが―
 「良く分かった!アンタは天然なんだ!あれだけ策略家のくせして、芯はとんでもない天然キャラなんだよ、アンタは!」
そう断言すると、首を傾げるシンジを残して、千雨は自室へと帰還した。

 その後、ネットアイドル・チウとしてHPの更新中に、怪人物の弟が乱入。血の繋がりなど無い筈のその弟は、何故か兄に匹敵しかねない天然振りを発揮して、バニーのコスプレをしていた彼女を、パーティー会場へと強制連行してのけた。
 そこで彼女の正体がクラス中にバレてしまうというアクシデントを経て、長谷川千雨はますます常識に拘るようになったそうである。

春休み編:CASEA鳴滝姉妹の場合
 「こんにちは、シンジさん」
 「ネギ君か、今日も元気だね」
 シンジにクシャクシャと頭を撫でまわされ、無邪気に喜ぶネギ。そんなネギにシンジは当然の質問をした。
 「ネギ君は今日は何しに学校へ来たの?」
 「実はアスナさん達に学園内を案内して貰っていたんですが、はぐれてしまって」
 そこでピンポンパンポーンとなる音。
 『迷子のご案内です。中等部英語科のネギ・スプリングフィールド君。保護者の方が展望台近くでお待ちです』
 聞き覚えのある和美のアナウンスに、前のめりに倒れ込むネギ。そんなネギに、シンジは苦笑しながら手を差し出す。
 「ぼ、僕、教師なのにいいいい!」
 「はいはい、一緒に行こうね、坊や」
 「シンジさんまで!?」
 周囲の失笑の中、展望台へと向かう2人。そこに待っていたのはアスナと木乃香である。
 「アスナさん、酷いです!」
 「アハハ、ゴメンゴメン。でも何でシンジさんが?」
 「途中で会ったんだよ。迷子の坊やをご案内と言う事で」
 笑い崩れるアスナ。木乃香もクスクスと笑っている。
 「それで本題なんやけどな、お爺ちゃんから用事が入って、案内できなくなってもうたんや」
 「そうなんですか?それじゃあ、僕1人で」
 「あー!ネギ先生だー!」
 振り返るネギ。そこにいたのは私服姿の鳴滝姉妹である。
 「ちょうど良い所にきたわね、アンタ達。頼みたい事があるんだけどさ」
 アスナの頼みに、アッサリと頷く双子姉妹。
 「良いですよ、そう言う事なら我等散歩部にお任せあれ」
 「どうせなら、シンジさんも一緒にいかがですか?」
 「うーん、そうだな。それじゃあお願いするよ」
 「了解です!それじゃあ、行きましょうか!」
 元気よく歩きだした鳴滝姉妹を先頭に、ネギ、シンジの順番で続く。最初に双子が向かったのは、体育館である。
 ちょうどバスケ部が練習中で、4人の来訪に裕奈がすぐに気付いた。
 「あれ?珍しい組み合わせだね」
 「そう言われてみればそうだよな・・・小学生の子供を引率中のお父さんです」
 「「ヒドッ!」」
 一斉にツッコム双子姉妹に、裕奈がお腹を押さえて笑いだす。
 「それはともかく、鳴滝さん達に学園の案内をお願いしていてね。ネギ君と一緒に回ってるんだよ」
 「ああ、そうだったんだ」
 「そうです。まず最初に関東最弱として名高いバスケ部をと思って」
 「ほっとけ!」
 風香に図星を刺されながらも、ツッコミは忘れない裕奈。やがて騒ぎを聞きつけたのか、バスケ部メンバーが集まりだした。
 「なあ、ネギ君。どうせならバスケを教えて貰ったらどうだい?」
 「はい!明石さん、お願いできますか?」
 「OKOK!じゃあシュートを教えてあげようか」
 裕奈と共に、ゴール前のフリースローラインに立つネギ。小学生には重いバスケットボールを手に、教えられたとおりシュートを打つ。
 残念ながらボールはリングまで届く事も無かったが、その光景に周囲から『子供先生、可愛いー!』と歓声が上がり、更に別のコートで練習中だった、バレー部や体操部のメンバーまでもが興味を引かれて集まりだす。
 一気に注目の的となったネギは、気が気でない。
 「し、シンジさ〜ん・・・」
 「ほら、頑張って1本決めておいで。ボール拾いはしてあげるから」
 「シュート決めるまで帰さないつもりですか!」
 ガーンとショックを受けるネギ。裕奈は無言でシンジにサムズアップする。
 仕方なく挑戦するが、やはりボールはリングにまで届かない。
 「明石さん、腕力が足りなさそうだし、バレーボールで挑戦させて貰えないかな?」
 「お、そうだね。誰か、バレーボール貸して!」
 ちょうど見物していたバレー部の部員が、手にしていたバレーボールをネギに渡す。
 「あ、これならいけるかも」
 裕奈に教わった通りに、シュートするネギ。今度はリングに届き、だが残念ながらリングに嫌われ落ちてしまった。
 周囲が落胆のため息を吐く中、シンジがボールをネギに返球。そこへ鳴滝姉妹が声をかけた。
 「ネギ先生、頑張れー」
 「あともうちょっとだよ!」
 コクンと頷くと、再びシュートするネギ。今度はリングを2・3回弾みながらもネットを揺さぶる事に成功した。
 「おお!入ったじゃんネギ先生!」
 ビックリしている裕奈の周囲から、一斉に歓声が沸き起こる。特に『可愛いー』という歓声が上がるたびに、ネギは顔を赤らめた。
 「でも、綺麗なシュートだったね。ネギ君、ひょっとして才能あるんじゃないか?」
 「あ!シンジさんもそう思った?実は私もそう思ったんだよね」
 我が意を得たりとばかりに頷く裕奈。周囲のバスケ部部員も、裕奈に賛同して頷いてみせる。
 「ねえ、ネギ君達をご案内って言ってたけどさ、次はどこへ案内するつもりだったの?」
 裕奈がふと思い出したように問いかけると、風香がニヤリと笑みを浮かべた。
 「もちろん、次は女の園へ。魅惑の新体操部更衣室へ連行しようかと」
 「「「「「「オイオイ」」」」」」
 一斉にツッコム少女達。特に見物客の中にいたまき絵が、真面目に抗議した。
 「さすがシンジさんに見られるのはちょっと」
 その言葉に頷く少女達。だがシンジは否定しないでわざとらしいほど残念そうな声を出した。
 「いやあ、残念だなあ。でもネギ君は渡しとくから、見学させてあげて」
 「「「「「「イエッサー!」」」」」」
 ガシッと両脇を掴まれるネギ。『え?え?』と周りを見るが、少女達はニヤニヤ笑っているだけだし、シンジは『いってらっしゃい』と手を振っている。
 「僕達はここで待ってるから、ついでにシャワー室まで連行しても良いよ」
 「ちょ!シンジさん!?」
 「「「「「「よっしゃあ!」」」」」」
 20分後、全身から湯気を立てながら戻ってきたネギは、何故か涙を流していた。

屋内プール―
 「次は水泳部だよー!」
 4人がやってきたのは水泳部である。ちょうど近くにいたアキラが、4人に気付いて近寄って来た。
 顔を赤らめるネギ。ニヤニヤ笑う風香。クスクス笑う史伽。そして―
 「私が言うのもなんだけどさ、ネギ君が顔を赤らめるのは良いとして、シンジさんが全く動揺してないのは、違う意味で問題がない?」
 「いや、悪戯好きの鳴滝さん達だから、こういう場所を狙って案内するだろうと思っていたからね。覚悟だけは決めておいたんだ」
 「ヒドッ!純粋無垢な私達を、そんな目で見ていたなんて!」
 わざとらしく驚く風香だが、周囲の視線は氷点下である。
 「僕は席を外そうか?その方が良さそうだし」
 「いや、問題無いよ」
 わらわらと集まってくる水泳部部員達。恥ずかしさで硬直するネギを、ベタベタトと触りまくる。
 「シンジさんはある意味、有名人だからね。この前のテストの一件で、どういう人なのかは知れ渡ってるし」
 「そうそう、トンカチで妖怪ぬらりひょんを倒した人として有名」
 「「「「「「そっちじゃない!」」」」」」
 滅多に見られない史伽のボケに、一斉にツッコム水泳部部員達。
 「ネギ先生の為にあそこまでやったんだからね。見た目はともかく、中身が信用できるから、そんなに拒否感無いんだよ」
 「そうだよねえ。あの一件以来、ハルナが神経質になっちゃって」
 ケラケラと笑う風香。アキラと史伽も、もっともらしくウンウンと頷く。
 「・・・それでか?最近、妙に挨拶されたり声をかけられたりするなあとは思っていたんだが・・・」
 「気づいてなかったの!?」
 「いや、不審者と誤解されて、こちらがどう出るか偵察されているんだとばかり・・・」
 ズルッと転ぶアキラ達。
 「自覚あるなら直しなよ!特にその前髪!」
 「いや、別に不審者でも良いし。警察に捕まったら、その時はその時だ」
 「そんな開き直り方するなあああ!」
 風香がツッコムが、柳に風と受け流すシンジである。
 「さて、と。ネギ君。水泳部はまた今度来ようか?」
 「今度ですか?」
 「僕も鬼じゃないからね。さすがにネギ君を裸に剥いて水泳部に引き渡すのは気が咎める。せめて水着ぐらいは着させてあげようかと」
 「また体験入部ですか!?」
 体育館での悪夢が蘇ってきたのか、両目から滝のように涙を流すネギ。その後ろで風香から体育館での一件を聞かされた水泳部メンバーの目の色が変わる。
 「ネギ先生!別に水着無くても体験入部は」
 「さ、さようならーーーー!」
 脱兎の如く逃げ出したネギを、全員が笑って見送った。

屋外―
 「次はチアリーディング部だよ!」
 4人が来たのは、チア部の練習場所であった。その中にいた見覚えのある3人―美砂、桜子、円が声をかける。
 「あら?ネギ先生にシンジさん、双子ちゃんと一緒なんて珍しいね」
 顔を赤くして俯くネギ。
 「あわわ、黙っちゃった・・・」
 「お色気ムンムンだもんね」
 ニヤッと笑う双子。だがシンジはここでも予想外の対応をとった。
 「柿崎さん。うちの小学生3人がチアリーディングを体験したいそうなんで、一番小さいユニフォームを貸してあげて」
 「ええ!僕、男ですよ!」
 「「今度は私達まで!?」」
 ビシッと固まる美砂。やがて『ふっふっふ』という笑い声が漏れてくる。
 グワシッとネギの腕を掴む美砂は、目の色が変わっていた。更に、いつの間にか近づいていた桜子は、双子を捕獲済みである。
 「みんな!体験入部希望者よ!部室へ強制連行せよ!」
 「やめ、止めて下さいいい!」
 泣きながら引きずられていくネギ。周囲は笑うばかりで止めようとする気配すら無い。
 同じように引きずられていく双子は、せめてもの意趣返しとばかりに、声を上げた。
 「だったらシンジさんも体験入部を!」
 「ああ、僕は女装趣味無いから」
 「あっさり断った!?」
 ガーンとなる双子。そんな双子に『いってらっしゃい』と手を振るシンジ。
 「全く、僕を嵌めようなんて10年早い」
 「・・・双子ちゃん、何やったの?」
 「学校案内として、新体操部更衣室や水泳部に案内された」
 げ、と呻く円達チアリーディング部部員。
 「そしてその度に、ネギ君をスケープゴートに仕立てました」
 「「「「「「悪党」」」」」」
 一斉に突っ込むチアリーディング部部員達であった。

麻帆良学園中等部女子寮―
 「た、ただいま〜」
 気力を使い果たして帰って来たネギ。徹底的にもてあそばれた為、フラフラしている。
 そんなネギを、アスナと木乃香が笑いながら出迎えた。
 「おかえり、ネギ坊主」
 「あー、もう、ホンマかわえーなー、ネギ君は」
 『は?』と顔を上げるネギ。頭の上には?マークが付いている。
 「これよこれ」
 アスナが突き出してきたのは、携帯電話に転送されてきたデータを、千雨に頼んでプリントアウトして貰った一品であった。
 「な、何でこれが!?」
 そこには更衣室やシャワー室で逃げ惑うネギ、チア姿の双子とネギがA4サイズで写し出されていたのである。
 「こっちはまき絵や裕奈から、こっちは釘宮さんから」
 「ネギ君ってば、可愛すぎや」
 「もう学校案内はコリゴリだよー!」
 女子寮中に響き渡ったネギの声に、少女達が笑ったかどうかは不明である。

春休み編:CASEB相坂さよの場合
 2−A出席簿に、出席番号1番で登録されている少女、相坂さよ。だが彼女の存在を知る者はいない。
 なぜなら、彼女は60年に渡って、2−Aの教室の隅に居続ける幽霊だからである。
 「ああ・・・長期休暇となると、誰も来ないんですね・・・」
 誰かが置き忘れたシャーペンを、クルクルと回すさよ。存在感の無い彼女は、誰の目にも止まらない。話しかけても、誰も返事をしてくれない。
 何故、自分は成仏もせずにここにいるのか?何故、自分は幽霊なのか?その答えすら持たない彼女は、孤独に苦しみながら時を過ごしてきた。
 だから、最初は自分に声をかけているのだと気付かなかった。
 「こんにちは」
 誰が来たんだろうと視線を向けるさよ。そこにいたのは子供先生の補佐をしている、前髪で目元を隠した少年であった。
 「珍しいなあ。子供先生と一緒じゃないなんて」
 「別にいつも一緒にいる訳じゃないんだけどね」
 「ああ、そうだったんだあ。てっきりいつも一緒だと・・・え?」
 ふよふよとシンジに近付いてくるさよ。その顔は『まさか?』と半信半疑状態である。
 「あの・・・ちょっと宜しいですか?ひょっとして、私の事が見えているんですか?」
 「ん?見えてるよ。以前から、妙に無口な子だなあ、とは思っていたけどね」
 シンジは基本的にネギの補佐である。なのでネギが英語の授業に来るか、SHRをする時以外は、教室へ来ないのである。と言うのも、用も無いのに教室へ顔を出すのは、あまり好ましくないだろうと考えていたからである。
 だが今日は所用で教室の横を通りがかり、偶然にもふよふよと浮いているさよを発見し、気になって声をかけたのだった。
 「あ、あの。私幽霊なんですよ?怖くないんですか?」
 「別に怖くないよ。前に妹の幽霊に会った事あるし」
 「そ、それはお悔やみ申し上げます」
 「いや、貴女がお悔やみされる方だと思うんだけど」
 シンジに突っ込ませるほどの天然ボケを炸裂させるさよである。
 「あの、もし良かったらお話相手になって貰えませんか?」
 「別に良いけど、そこから移動はできる?」
 「はい!学園内ならどこでも移動できます!」
 「そっか、それじゃあついておいで。僕の用事を済ませながらで良ければ、話し相手を務めるよ。そうそう、それと僕は近衛シンジというんだ、宜しくね」
 さよが喜んで応じ、今日に至るまでの経緯をつぶさに説明したのは言うまでも無い。

職員室―
 「・・・と、ネギ君が言っています。これには、こちらの計画書のように対応させるべきだと思うんですが、高畑先生はどう思われますか?」
 「そ、そうだね・・・問題無いんじゃないかな、うん」
 チラチラとシンジの後ろに視線を向けるタカミチ。そこには『春休みなのにお仕事しないといけないなんて、先生も大変ですね〜』と呑気に感想を口にしながら、計画書を覗きこんでくるさよがいた。
 タカミチは相坂さよの存在について、学園長から聞いた事はあっても、直に見た事は無かった。そのさよが、今はハッキリと目視できるのである。
 (・・・シンジ君。今度は何をやらかしたんだ?)
 そうは思っても、怖くて聞けないタカミチである。
 「では来年度の授業計画については、こちらの要領で進めるように伝えておきます。それでは失礼します」
 「失礼します〜御髭の高畑先生〜」
 退室するシンジ。その頭上をふよふよと浮かびながら、後を追いかけるさよ。シンジはちゃんとさよに気づいている事を証明するかのように、さよが廊下に出てから、職員室のドアを閉めた。
 「あの、高畑先生」
 「ど、どうかしましたか?源先生」
 「私、疲れているんでしょうか。近衛君の頭上に、セーラー服の大人しそうな長髪の子が浮かんでいるように見えたんです。それに足が無かった気がするんですが」
 ゆっくりと周囲を見回すタカミチ。しずなの話をみんなが聞いていたらしく、ハッキリと頷いてみせた。
 今更ながらに危険性に気がつくタカミチ。どうにかして誤魔化そうと必死に知恵を巡らす。
 「きっと大学部のサークルの発明品ですよ。彼は超さんと仲が良いみたいですから」
 「そ、そうですよね!ああ、びっくりして損しましたわ」
 「彼も本来なら15歳ですから、たまには悪戯の1つもしたくなるんですよ!そういえば僕は学園長に用事があるので、ちょっと失礼しますね」
 タカミチは席を立つと、慌てて学園長室へと向かった。

超包子―
 時間は午後1時。ちょうどお客がはけた時間を狙って、シンジは超包子へ昼食を食べに来た。
 「お!近衛さん、いらっしゃいネ」
 「注文だけど、エビチリと肉まんとシュウマイで」
 「任せるネ!」
 セルフサービスの御冷を手にしながら、席に着くシンジ。ちゃんとコップは2つ分である。
 「相坂さんも、座りなよ」
 「はい、ありがとうございます」
 高さを調節して、まるで席に座っているようにみえるさよ。そこへ注文の商品を持ってきたのは、ウェイトレス役の茶々丸である。
 「茶々丸さんもここで働いていたんだ」
 「はい。超包子はマスターを筆頭に、ハカセ、古菲さん、五月さんと私の5名で運営しています」
 コトッと音を立てて商品をテーブルに置く茶々丸。湯気の立つ料理が、食欲をそそる。
 「それじゃあ戴くね」
 「はい、どうぞごゆっくり」
 「相坂さんは食べられる?」
 首を傾げるさよ。
 「どうでしょうか、私、食べ物を食べた事が無いんです」
 「そうなんだ、だったらちょうどいいや、試してみよう」
 シンジが差し出した肉まんを、ポルターガイストの応用で空中に持ち上げるさよ。そのまま口の中に運ぶ。
 「美味しい!」
 幽霊となって以来、初めての食事の美味しさに、感無量のさよである。
 「ああ、美味しいです!」
 「そうなんだ、それは良かった。じゃあこっちのエビチリも試してみようか。ほら、口開けて」
 「はい!」
 アーンと口を開けたさよの口内に、レンゲですくったエビチリを持っていくシンジ。素直に頬張ったさよは、初めて体験するエビチリの美味しさに、目を白黒させた。

 「それじゃあ、御馳走さま」
 茶々丸相手に料金の清算を済ませたシンジは、厨房へ挨拶すると超包子から立ち去った。
するとタイミングを見計らったかのように、厨房から超・五月・葉加瀬・古が顔を出してきたのである。
 「近衛さんが『アーン』って、やっぱり相手はハルナだったアルか?」
 古の言葉に、茶々丸はフルフルと首を横に振った。
 「いえ、違います」
 「むむむむむ、それは由々しき事態ですよ!」
 「はい、ここは早乙女さんに知らせるべきかと」
 「待つネ。敵を知れば百戦危うからずと言うヨ。まずは敵戦力の情報を調べるネ。茶々丸、該当人物の情報、できれば映像で見せて欲しいネ」
 「分かりました。ではこちらをご覧ください」
 ノートパソコンのディスプレイに現れるさよ。その可愛らしさに『これは強敵ネ!』と超が驚きを露わにする。だが本番は食べ終わってからだった。
 料金精算の間、件の少女はシンジの頭上をふよふよと浮いていたのである。
 これには超達も言葉が無い。
 「・・・茶々丸。この映像に間違いはないアルか?」
 「はい。間違いはありません」
 「葉加瀬さん!この人、足がありません!幽霊ですよ!」
 「五月さん!この世に科学で解明できぬ物等ありません!幽霊なんてナンセンスです!」
 「と、とにかくこの2人を止めるネ!」

図書館島へ続く道にて―
 さよと連れだって歩いていたシンジは、遠くから聞こえてくる掛け声に気がついた。袴姿で走っている姿から、剣道部だろうと当たりをつけて横へ避ける。当然の如く、さよもシンジに倣って、その背中へ移動した。
 ランニングを続ける剣道部。その中に顔見知りを見つけたシンジは、思わず声をかけた。
 「桜咲さん、頑張ってるね」
 「シンジさん、今日は学校へ用事ですか?」
 「そうだよ。桜咲さんが馬鹿レンジャーを返上できるように、ネギ君と来年度の授業計画を練っているんだよ」
 「それを言わないで下さい!折角忘れていられたのに!」
 目尻から涙を噴き出す刹那。なかなか見られない姿に、シンジが必死で笑いを堪える。
 その時、シンジの肩越しに覗いてくる可愛らしい少女に気付いた刹那は、ますます機嫌を悪くした。
 (全く・・・早乙女さんを断っておきながら、こんなに親しい女の子がいたなんて・・・)
 「練習の邪魔をするなら、早々に立ち去って下さい!」
 「はいはい、それじゃあね」
 立ち去るシンジ。その頭上にふよふよと漂いながら後をついていくさよ。そんな2人を苦々しげに見送った刹那は、100mほど走った後で、ギョッとした顔で振り向いた。
 既に視界内にシンジの姿は無い。だが彼女の脳裏には決定的な光景が刻み込まれていた。
 「シンジさん!?幽霊なんて引き連れてどうする気ですか!」
 慌てて駆けだす刹那であった。

図書館島―
 「うわあ、大きな建物ですねえ・・・」
 「ここは図書館島というんだけど、初めてかな?」
 「はい!」
 元気よく返事をしたさよを連れて、シンジは図書館島へと入った。
 「シンジさん、こちらにはどのような御用件で来たんですか?」
 「ここにね、木乃香っていう名前の僕の妹がいるんだよ。その木乃香から、部活動を見に来て欲しい、って前々から言われててね」
 「へえ、そうだったんですかあ」
 中へ入っていくシンジ。木乃香から聞いていた話通りに、地下3階の中等部のベースキャンプ地点へと向かう。
 しばらくすると、そのキャンプ地点が見えてきた。人数は4人である。
 「ちょうどみんないるみたいだな、おーい!」
 その声に気付いたのか、4人が顔を上げる。4人とも手を振り返してきたが、シンジが近づいてくるに連れて、見る見る怒りで顔を赤く染めて行く。
 「ど、どうしたのさ?」
 「お兄ちゃん!後ろにいる子は誰や!ハルナを断っておきながら、どういう事や!ちゃんと説明しいや!」
 「ちょ、ちょっと待って。木乃香、相坂さんが見えるの?」
 「何を訳の分からない事言うとんや!」
 頭に血が上っている木乃香は、シンジの言う事をしっかり把握できないらしく、全く聞く耳を持たない。
 そして木乃香の迫力に怯えたさよは、咄嗟にシンジの後ろに隠れてしまった為、ますます4人は怒りを増長させていく。
 「あの・・・1つだけ教えて欲しい。ひょっとして、早乙女さんも、おでこちゃんも、宮崎さんも、相坂さんが見えていたりする訳?」
 「「「何、訳の分からない事言ってるんですか!」」」
 愕然としたシンジは、思わずさよへと振り返った。
 「・・・あのさあ、君、誰にも気づかれていないんじゃなかったの?」
 「・・・その筈なんですけど、こちらの方々には見えているみたいです」
 訳の分からないシンジとさよ。
 「と、とりあえず自己紹介してみてくれないか?できれば、僕の前に立って」
 「は、はい!分かりました!」
 ふよふよと宙を漂いながらシンジの前にでてきたさよ。その足が無く、空中に浮いているという事実に、硬直する4人。
 「私、相坂さよと言います。60年ほど幽霊やってます」
 その瞬間、図書館島に悲鳴が響いた。

 「・・・と、言う訳なんです」
 さよの60年に及ぶ説明を終えた時、4人の反応は様々だった。
 『今まで気づいてあげられなくてゴメンな』と謝る木乃香。
 『うおおおおお!マジで幽霊!?』と興奮するハルナ。
 『・・・何でお爺ちゃんは幽霊になってくれなかったんでしょうか?』と呟く夕映。
 『はううう・・・』と絶賛パニック中ののどか。
 実に、らしい反応を見せた4人である。
 「そういう訳なんで、今日は相坂さんも一緒に見学させて貰って良いかな?」
 「待つネ、ちょっと待つネ!」
 後ろから聞こえてきた声に振り向くシンジ達。そこにいたのは超包子メンバーである。ちなみに更にその後ろを駆けていた刹那は木乃香に気付いた瞬間、反射的に物陰に隠れている。
 「超さんか、どうしたの?」
 「どうしたのじゃ無いネ!シンジサンが幽霊連れて歩いていたから、驚いて追いかけてきたヨ!しかも霊感の無い人間にまで見えているネ!」
 思わず顔を見合わせるシンジとさよ。一体、何が起こっているのかサッパリ不明である。
 「これを見るネ!」
 そこに映っていたのは、料金を精算中のシンジである。その頭上にハッキリとさよが映っている。
 「これはもう、限りなく実体に近いネ!」
 唖然として声も無い一同。
 「これは、マズイな・・・」
 「だから追いかけてきたネ!少し、調べるヨ!」
 葉加瀬とともに、データを集め出す超。やがて答えが出たのか、超が顔を上げた。
 「これはシンジサンに原因があるネ。シンジサンは他人より、多くの生命エネルギーに溢れているヨ。その影響を受けて、この幽霊ちゃんが実体に近い状態となっていると推測出来るネ」
 「つまり、僕が生命エネルギーを、外へ漏れないようにコントロールすればいいの?」
 「単純に考えれば、そう言う事ネ」
 陰陽師にとって、生命エネルギーは『気』である。シンジは莫大な『気』を持つので、効率的な運用方法―細かい制御方法には目を向けてこなかった。ところが、それが今回の原因となっていたのである。
 「まいったなあ、何か良い方法無いかな?」
 「ふむ、少し待つネ」
 手持ちの小道具の中から、1つの指輪を取り出す超。
 「そこの幽霊ちゃん。名前は何と言うネ?」
 「相坂さよ、です」
 「分かったネ。じゃあさよ、これを着けるネ」
 言われた通りに指輪を填めるさよ。何の考えも無しに左の薬指に填めるのだから、天然もここに極まれり、である。
 「それを着けていれば、一般人の目には映らないネ。もっとも2−Aは例外ネ」
 「そうなんですか?」
 「うむ。そういう人が集まっているヨ。とりあえず問題は解決したネ」

 本棚の陰から様子を見ていた刹那は、とりあえず問題は解決したらしい、と胸を撫で下ろした。そこへ大きな足音が聞こえてくる。
 「高畑先生、それに学園長先生!」
 「おお、桜咲君か!シンジ君を見なかったかい?」
 「ひょっとして、女の子の幽霊の事ですか?」
 一斉に頷くタカミチと近右衛門。無言で示されたベースキャンプを覗き込む。
 「原因はシンジさんの巨大な気の影響を受けた事。それを制限する為の指輪を超さんが持っていたようで、それを身につける事で当面の問題は解決したようです」
 「そうか、それなら良かった。さすがに幽霊を堂々と引連れて歩かれるのはなあ」
 ふう、と安堵の溜息を吐くタカミチ。その場で刹那の肩をポンと叩く。
 「桜咲君、君も部活があるだろう。戻ろうか」
 スッと歩きだすタカミチ。刹那はその場から動こうとしない学園長から視線を外すと、慌てて後を追いかけた。
 「学園長先生は良いのですか?」
 「しばらく1人にしてあげよう。あの子はね、学園長がまだ中等部に生徒として通っていた頃の恋人なんだそうだ」
 目を丸くする刹那。顔だけ振り向かせると、近右衛門の体が僅かに震えていた。
 「あの子は不治の病で倒れ、そのまま命を落とした。学校へ通っていたのは、僅かに半年。何よりも学校に通いたがっていたあの子の願いを叶えようと、当時はまだ見習い魔法使いだった学園長は、世界樹の魔力を利用して、反魂の呪をかけたそうだ」
 「で、でも反魂の呪は!」
 「君の思っている通りだよ。反魂は中途半端に失敗した。あの子、相坂さよは全ての記憶を失った。世界樹の魔力を利用している為に、世界樹の魔力が届く、この麻帆良の地から離れられなくなった。だが一番の問題は、世界樹の魔力を利用した事だった」
 刹那がもう一度振り向くと、そこには床に膝を突き、小声で謝罪の言葉を紡ぐ老人の姿があった。
 「この地には、世界樹の魔力を利用した学園結界と認識阻害結界が張られている。力の大半はこの結界の為に使われているから、あの子に注ぎ込まれる魔力は、当然の如く減少してしまう。その為に、あの子は他人に気づいて貰えるだけの存在感を獲得できなかったんだ。そこへ認識阻害の影響を生徒達が受けた事で、彼女はますます気づいて貰えなくなった」
 「そんな事が・・・」
 「学園長は何度も彼女を救おうとしたそうだが、結果として全て失敗に終わってしまった。だから学園長は、責任を取って自分の命が果てるその時まで、この地で彼女を見守ろうと決めて、腰を落ちつけたんだよ。ただ、近衛家という家に生まれたからには、血を遺さなければならない義務があった。それさえなければ、きっと独身を貫いたんじゃないかな」
 図書館島を出たタカミチは、煙草に手を伸ばした。青い空に、ゆっくりと紫煙が上がっていく。
 「考えてみると、学園長も可哀そうな人だよ。恋人を失い、遠縁の碇家から嫁いできた奥さんも、娘さんの出産に耐えきれずに他界。そして娘さんは、木乃香ちゃんを産んで、2年後には他界してしまったんだからね」
 「そんな事があったんですか・・・」
 「でも、少しは救われたんじゃないかな。シンジ君のおかげで、あの子はみんなに気付いて貰えるようになった。この先、どうなるかはまだ分からないけど、少なくとも孤独に苦しむ事は無くなる筈だから」

麻帆良学園中等部女子寮―
 シンジからの連絡を受け、ネギと2−Aの生徒達は食堂に集合していた。時間は夜7時。そろそろお風呂に入る時間帯である。
 そこへ姿を見せるシンジ。その後ろに図書館探検部と超包子組が続く。
 「みんな、集まってくれてありがとうね」
 「シ、シンジさん?」
 「ネ、ネギ。落ち着くのよ、きっと疲れているだけだから」
 落ち着くのに必死になるアスナとネギ。近くにいた裕奈やまき絵も激しく頷く。鳴滝姉妹と亜子は恐怖で涙を浮かべる。千雨は眼鏡をかけ直した後、テーブルに無言で突っ伏す。夏美は『あらあら』と声をだした千鶴の影に隠れ、チア部3人娘は揃って一歩後ずさった。   
なぜなら、シンジの頭上に見た事もない少女がふよふよと浮かんでいたからである。しかも彼女には足が無い。
 「えっと。実は今日付けで、僕に取り憑いた幽霊の相坂さんです。お爺ちゃんの許可は取ってあるので、来年度から正式に3−Aの生徒となる事が決定しました」
 「あの、相坂さよと言います。60年ほど幽霊やってました。みなさん、よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げるさよ。
 次の瞬間、少女達の口から絶叫が迸ったそうである。



To be continued...
(2011.12.03 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は春休みを舞台とした、ショートストーリー3本仕立てとなりました。それぞれ千雨、双子、さよをヒロイン役とした話だった訳ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
 ですが、ストーリー的にも今回は重要な話だったりします。伏線については、今後、大きな意味を持つ事になりますので、楽しみに待って頂ければ幸いです。
 話は変わって次回ですが、エヴァンジェリン戦前編となります。エヴァンジェリン戦は3話構成となります。シンジが転機を迎える中、周囲のメンバーもまた、シンジの隠された素生へと徐々に触れて行く事になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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