第十三話
presented by 紫雲様
始業式当日、3年A組教室―
新年度初日。始業式を終えた一同は、SHRを行っていた。春休みの間に、約1名増えたクラスメートについては、色々ゴタゴタがあったものの、終わってみればスンナリと溶け込んでいる辺り、3−Aの環境適応能力は図抜けた物があるのかもしれない。
そんな事を考えながら、シンジは教室の片隅からネギを眺めつつ考えていた。
ネギが来てからまだ2カ月。それでも少しずつ成長してきていると、シンジは評価していた。過去の自分が恥ずかしく思えるほどに、ネギは前向きに頑張っていたから。
そこへ背中を預けていた戸がノックされ、シンジは慌てて背中を離した。
「源先生、どうかされたんですか?」
「今日は身体測定なんですよ。場所はここですからね」
「分かりました!それじゃあ、皆さん、すぐ脱いで下さい!」
ざわめきだした少女達を前に『はあ』と溜息を吐くシンジ。無言で廊下に出ようとするシンジだったが、一番近くにいた風香が机から身を乗り出してハシッと捕まえる。
「駄目だよ、シンジさん。ネギ君残して逃げちゃあ」
「僕はネギ君の補佐だけど、そこまで付き合わないといけないの?」
「頭が切れるって不幸だよねえ」
風香に同調するかのように、数人の少女がシンジに向かってニヤニヤと笑う。分かっていないのは、ネギ1人である。
「パル!責任取って貰うチャンスだ!ここまで来い!」
立ち上がったハルナに歓声が上がる。
「こらこら、冗談はそこまでにしておきなさい。本気だったら、近衛君が大変な事になるからね」
見かねたしずなが仲裁に乗り出し、事無きを得るシンジ。
「それじゃあ、僕は外に出てます。源先生、後はお願いします」
「はいはい、ネギ先生も廊下に出てね。可愛い女の子の裸を見たいと言うなら中に居てもいいけど」
一斉に起こった少女達の歓声に、ネギは顔を赤らめながら外へと飛び出した。
廊下―
「ネギ君。発言はもうちょっとだけ気をつけようね」
「はは、日本語って難しいです」
今更ながらに、自分の発言の危険性に気付いたネギである。
「まあ、慣れて行けば問題無いよ」
「はい!」
廊下の窓ガラスに背中を預けながら、教室から聞こえてくる歓声を、聞き流す2人。そこへ体操服姿の亜子が走ってきた。
「先生、大変や!まき絵が!」
思わず身を起こすシンジとネギ。そんな2人の前で、一斉に教室の窓と戸が開く。
「まき絵がどうかしたの!?」
「窓を開けるな!」
教室の中にいたのは、色彩豊かな下着姿の少女達である。シンジの声に、ハッと気付いた時には遅かった。
「「「「「「キャアアアアアア!」」」」」」
乙女の悲鳴が、学校中に響いた。
保健室―
静かに寝息を立てているまき絵に、様子を見に来たネギ達は一斉に安堵のため息をついた。
「しずな先生。まき絵さんに何があったんですか?」
「桜通りで寝ている所を見つかったそうなの。貧血らしいけど、症状は幸い軽いそうよ」
「桜通り?」
首を傾げるネギ。だがどうしても拭いきれない違和感を、ネギは感じていた。
(・・・そうか!まき絵さんから魔力を感じるんだ!)
一度気がついてしまえば、ネギにはハッキリと感じ取る事が出来た。
(シンジさんの意見も訊いてみよう)
少し離れた場所にいるシンジに目を向けるネギ。そのシンジはと言えば、いつになくピリピリした雰囲気を纏っている。
「あの、ちょっと良いですか?シンジさん」
「・・・うん、言いたい事は分かってるよ。後で相談しようか」
「はい」
その言葉にネギは頷くと、シンジとともに廊下へ出る。そのまま生徒達から距離を取った。
「魔力、ですよね?」
「うん、間違いない。今回の一件、魔法使いが絡んでるね」
「僕、桜通りが怪しいと思うんです。実は教室に来た時、みんなが『桜通りの吸血鬼』という噂話をしてたんです。もしかしたら何か、関係があるのかもしれません」
ピンと閃くシンジ。ネギは知らないが、この麻帆良には吸血鬼が実在する事を、シンジは知っていた。
(探りぐらい入れておくか・・・)
「それじゃあ、今晩、一緒に桜通りを張ってみようか。厨房の仕事があるから、少し遅れるかもしれないけど」
「はい、分かりました!」
「じゃあ、また後でね」
シンジは踵を返すと、祖父のいる学園長室へと足を向けた。
学園長室―
「お爺ちゃん、少し時間を割いてくれないかな?」
「ふぉ?何かあったのか、シンジ」
珍しく真剣な雰囲気のシンジに、近右衛門も居住まいを正す。
「今日、桜通りで発見された佐々木まき絵さんの件だよ。軽い貧血、まき絵さんに残っていた魔力香、そして『桜通りの吸血鬼』の噂。僕の想像と、お爺ちゃんの心当たりは同じだと思うんだけど、どうかな?」
「・・・ふむ。まあ、お主には隠した所で無駄じゃな。その気になれば、魔力香から追跡してしまいそうじゃしのう」
顎鬚を撫でながら、近右衛門は口を開いた。
「動いておるのはエヴァンジェリンじゃよ。まあ、あれは女子供を殺さぬのがポリシーじゃ。ここは手を出さずに静観してくれんかの?」
「静観・・・ネギ君を関わらせる気?」
「そうじゃ。この件は、ネギ君に解決させたいのじゃよ」
考え込むシンジ。だがすぐに顔を上げた。
「でも命に関わりそうだと判断したら、僕は動くよ?」
「分かっておる。そこまで制限するつもりは、こちらにも無いからの」
コクンと頷くと、シンジは素直に学園長室から引き揚げた。
(ネギ君に期待をかけるのは良いけど、かけすぎるのは問題だ。ちゃんとフォローしてあげないとな)
その日の夜、桜通り―
「シンジさん、中々現れませんね」
「現れないに越した事は無いよ。被害者が出ない事、それが一番だと思うからね」
ネギの肩に座っている、2頭身サイズの小さなシンジが応じる。厨房仕事が忙しく、どうしても合流が遅れてしまうので、シンジは代わりに式神―チビシンジ―を送ったのである。
「ネギ君は、立派な魔法使い を目指してるんだよね?」
「はい、父さんみたいになりたいんです。誰からも尊敬されるような、偉大な魔法使いになりたいんです」
「・・・今はそれでも良いかもしれないね」
言葉を濁したチビシンジに、ネギが『どういう事ですか?』と首を傾げる。
「ネギ君はまだ子供だからね。今は憧れでも良いと思う。でも余裕ができたら、考えて欲しいんだ。ネギ君がその目標を達したら、何をするのかって事をね」
「それは・・・勿論、人助けです!」
「そうだね、人助けという考えは良い事だと思うよ。それは僕も賛成だ」
夜空に輝く満月を眺めながら、チビシンジは小さな手でネギの頭をポンポンと叩いた。
「誰かが救われる影で、救われない者もいる。分かり易く言えば、犠牲と呼ばれる存在だ。確かに多くの人を救うのは、素晴らしい事だと思う。でも、僕はネギ君に『人助け』とか『正義』とかいう美酒に酔って欲しくないんだよ」
「シンジさん?」
「ネギ君。僕はね、正義と言う名の下に、親友を殺したんだよ。この手で、彼の命を終わらせたんだ」
それが意味する所を理解し言葉を失ったネギは、目を丸くしてチビシンジを凝視する。そんなネギを、チビシンジが悲しそうに見つめ返した。
「ネギ君には、僕と同じ悲しい思いを味わって欲しくない。だから、良く考えて欲しいんだ。人助け、という言葉の持つ意味を。正義、という言葉の持つ意味を。万が一、そういう事態に出会ってしまったら、僕に相談してほしい。犠牲になる少数を、僕が助けてあげるからね」
「・・・どうして、そこまで僕を気にかけてくれるんですか?僕はシンジさんと会ったのは、来日してからなのに・・・」
「ネギ君は、僕から見れば弟みたいなものだからね。お兄ちゃんとしては、弟に幸せになってほしいだけだよ」
その時、肩に座っていたチビシンジが、スッと立ち上がった。
「シンジさん?」
「静かに。誰かが来る」
植え込みの陰から様子を窺う2人。やがて月光に照らされ、その姿がハッキリと確認できるようになった。
「こ、怖くなーい、怖くなーい・・・うう、やっぱり神楽坂さんについてきて貰えば良かったかな・・・」
「宮崎さん、ですね」
「・・・怖いなら、遠回りすれば良いのに・・・」
頭を抱えるチビシンジに、ネギが『そうですね』と乾いた笑いを浮かべる。そんな時だった。
一陣の風とともに、街灯の上に立つ影。その姿に、のどかが『ヒッ!』と小さな悲鳴を上げる。
「宮崎のどか、か・・・悪いが、少しだけその血を分けて貰う」
バサアッと音を立てて襲いかかる影。パニックに陥ったのどかは、抵抗すらせずに気を失う。
そこへネギが飛び出した。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
始動キーの詠唱に、振り向く影。そこには杖に跨り、肩にチビシンジを乗せたネギが、猛スピードで接近していた。
「風の精霊11人 縛鎖となりて 敵を捕まえろ !魔法の射手 ・戒めの風矢 !」
敵を捕縛する11本の風の矢が、影に襲いかかる。だが影は、全く慌てようともしない。
「氷楯 」
声と共にフラスコを投じる影。風の矢は、全て空中に現れた氷の壁に『バキキキキッ!』という轟音とともに阻まれてしまった。
「そんな!僕の呪文を全部防いだ!?」
(やっぱり、犯人は魔法使い)
「一体、どういうつもりなのか、せめて理由ぐらいは教えて欲しい物ですが」
チビシンジの声に、のどかを確保したネギがハッと振り向く。
「何だ?あのジジイの事だから、お前の介入を邪魔すると思っていたんだがな」
「ええ、確かに言われましたよ。だから僕じゃなくて、式神に介入させてるんですよ」
「屁理屈だな。だが考えてみれば、いかにも面倒見の良いお前らしいな」
天から降り注ぐ月光が、襲撃者の顔をゆっくりと照らし出す。古式ゆかしい魔女の格好をしていた影の顔に、ネギは愕然とした。
「貴女は、エヴァンジェリンさん!?」
「そうだな、新学期に入った事だし、改めて歓迎のご挨拶と行こうか、先生。いや、ネギ・スプリングフィールド。10歳にしてこの力、やはり奴の息子というところか」
「何故ですか!貴女は僕と同じ魔法使いでしょう!?どうしてこんな事を!」
エヴァンジェリンはニヤリと笑いながら、魔法薬のはいったフラスコと試験管を取り出し、自身の顔の前で構えてみせた。
「この世には、良い魔法使いと悪い魔法使いがいるんだよ、ネギ先生」
言い終えると同時に、シュッと魔法薬を投げつける。
「氷結武装解除 !」
ネギの上着の左袖が、のどかが身に着けていた制服が、一瞬で凍りつき、木っ端微塵に砕け散る。
「チッ!」
「シンジさん!?」
ネギの肩に乗っていたチビシンジにも影響は表れていた。ピシピシと音を立てて、ゆっくりと凍りついていく。
「ふん。やはり抵抗 したか。だが近衛シンジ、たかが式神に気を込めすぎではないか?以前の力勝負でも感じたが、お前は性格の割に、気の制御に関しては大雑把にすぎるぞ」
「・・・気の容量が大きすぎてね、細かい芸当は苦手なんですよ。だから攻撃の術を習得しなかったんです。他人を巻き込んでしまうのが目に見えていましたから」
「たわけ、だったら真面目に修行すればいいのだ」
エヴァンジェリンの言葉を聞き終えたかのように、チビシンジが砕け散る。後に残ったのは、引き千切られた無数の紙片である。
「さて、ネギ先生。頼りになるお兄ちゃんには御退場頂いた。では・・・む?」
何かに気づいたのか、エヴァンジェリンはスッと夜闇の中へ溶け込むように姿を消してしまった。
「い、一体、何が?」
「何や!今の音!」
「あ、ネギ!」
その声に振り向くネギ。彼の眼が捉えたのは、走り寄ってくるアスナと木乃香であった。2人とも急いで走ってきたのか、少々、息が荒かった。
「・・・ネギ、アンタ本屋ちゃんに何をしてんのよ!」
ネギが改めてのどかに視線を向ける。そこにいるのは、一糸まとわぬ裸体を晒すのどかである。
「なあなあ、ネギ君が噂の吸血鬼やったん?」
「ちちち、違います!僕は犯人を追うので、宮崎さんをお願いします!」
「ちょっと待ちなさいよ!ネギ!」
アスナの呼びとめる声を振り切り、エヴァンジェリンを追って闇の中を走りだす。風の精霊の助力を受けて疾走するネギの速さは、人類の限界を超えており、瞬く間にエヴァンジェリンを捕捉した。
「待って下さい!」
「そういえば、坊やは風が得意だったな」
歩道橋から飛び降りるエヴァンジェリン。そのままマントを翻して、夜空を飛翔する。対するネギも逃がしてなるものかとばかりに、杖に跨り追跡を続行した。
「どういうことですか!どうして貴方が僕の父さんの事を知っているんですか!」
「奴の事を知りたいのか?ならば私を捕まえてみるんだな!」
「・・・本当ですね?ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
ネギの周囲に風が集まりだす。その光景に、エヴァンジェリンはニヤリと笑みを浮かべた。
「風精召喚 !剣を執る戦友 !捕まえて !」
ネギの形を模した風の精霊が顕現する。
「風の中位精霊による複製、それを8体同時召喚か。なるほど、10歳の見習いとは言えん魔力だよ」
魔法薬の入ったフラスコで、追手を撃墜しつつ、なおも逃走を続けるエヴァンジェリン。だが迎撃に時間を取られ、ネギに距離を詰められる。
「これで終わりです!風花武装解除 !」
ネギの魔法により、身に着けていた服を消し飛ばされ、下着だけになるエヴァンジェリン。服はコウモリと化して、ギャアギャアと鳴きながら夜空に消えていく。
「僕の勝ちです!約束通り、教えて貰いますよ!何でこんな事をしたのか、それに父さんの事も!」
「ふん、サウザンドマスターの事か」
(何故、それを!)
顔を赤らめながらも、ネギは勝利を確信していた。だがエヴァンジェリンも、自身が敗北したとは微塵にも思っていない。
「坊や、この程度で勝ったつもりか?」
ズシャアッという音とともに、エヴァンジェリンの傍に、影が飛び降りてくる。
「さあ、お前の得意な呪文を唱えてみるがいい」
(まだ仲間がいたのか!)
「風の精霊11人 縛鎖となりて 敵を捕まえろ !サギ・・・あたっ!」
一瞬で間合いを詰められ、額にデコピンを食らってのけぞるネギ。
「君は!ウチのクラスの・・・」
「紹介しておこう。私のパートナーである『魔法使いの従者 』絡繰茶々丸だ」
ペコリと一礼する茶々丸。
「ちゃ、茶々丸さんが貴女のパートナー!?」
「そうだ。パートナーのいないお前に勝ち目はない、茶々丸」
「はい。失礼します」
いとも簡単にネギをねじ伏せる茶々丸。ネギとの腕力差は大きく、片腕しか使っていないのに、ネギは束縛から逃げ出す事すら叶わない。
「やっとだ、やっと私の呪いを解く事が出来る!これまで危険を冒して、少しずつ血を集めた甲斐があったよ!」
「の、呪い?」
「そうだ。吸血鬼の真祖にして、最強の魔法使いたる私が舐めた苦汁だよ!」
ギンッと凶眼でネギを睨みつける。
「お前の親父に敗れて以来、私は魔力を極限まで封じられた!その上、もう15年間も能天気な女子中学生と一緒にお勉強させられているんだよ!その上、この麻帆良から離れる事ができないのだ!この苦しみ、お前如きにはわかるまい!」
「マスター。式神を消滅させられた近衛さんが、いつ現れるか分かりません」
「む、そうだな。奴はお前を気に入っているからな。せめて殺さない程度に留めておいてやるよ。本当は死ぬまで吸うつもりだったが、感謝するんだな」
ネギの首筋に、エヴァンジェリンが牙を突き立てる。同時に口の中に溢れ出した血潮をゴクゴクと嚥下する。
そんな時だった。
「うちの居候に何すんのよ!この変質者ども!」
「はぶう!」
飛び込んできたアスナの蹴りをまともに食らい、顔面スライディングを強制されるエヴァンジェリンと茶々丸。
「か、神楽坂明日菜!?」
「アンタ達、ウチのクラスの!ちょっと、どういう事!説明しなさいよ!」
「チッ。退くぞ、茶々丸!」
戦場となっていた8階の屋根から飛び降りるエヴァンジェリンと茶々丸。慌ててアスナが下を覗き込むが、既に主従の姿は消えていた。
「それより、ネギ!アンタ大丈夫なの!?」
「う、うわーん!こ、怖、怖かったです!」
恐怖で泣きだしたネギに抱きつかれ、アスナは困惑するしかなかった。
翌朝、3−A教室―
昨夜の一件以来、エヴァンジェリン恐怖症の為に登校拒否となったネギを、アスナは腕力に物を言わせて教室まで強制連行していた。
これがおんぶとかなら絵になるのだが、アスナの場合は肩に担ぐ古式ゆかしい原始人のお持帰りスタイルである。この辺りに、アスナがお猿呼ばわりされる原因の1つがあるのかもしれなかった。
教室まで連れて来られ、恐る恐る目を開くネギ。だが教室の最後列にある、エヴァンジェリンの席には誰もいない。
「あ、あれ?」
「マスターでしたらサボタージュです」
「うわああ!」
後ろから茶々丸に声を掛けられて、驚いたネギが飛び上がる。
「お呼びしますか?先生」
「い、いえ!いいです!」
茶々丸の言葉を慌てて断ると、ネギは気持ちを切り替えて朝のSHRに取りかかる。だがどれだけ気持ちを切り替えても、すぐに脳裏は昨夜の一件に塗りつぶされてしまう。
(うう・・・やっぱり魔法使いにパートナーは必須なのかなあ・・・)
ネギとて馬鹿ではない。敵の前で悠長に呪文を詠唱していれば、敵にやられる事ぐらいは知っている。だが本格的な戦いを経験した事がないネギにしてみれば、今までパートナーを作らずにいたのも仕方ない事であった。
(・・・この中に、僕の運命的なパートナーがいたらなあ・・・)
小さくため息を吐くネギに、少女達が敏感に反応する。
やがて到る所で、コソコソと内緒話が始まりだした。
「センセー。そういえば今日はシンジさんはいないんですか?」
亜子の問いかけに、ハッと横を向くネギ。隣にはいつもいる筈のシンジの姿がどこにも無かった。
「あ、あれ!?」
「こら、ネギ。アンタねえ、朝に本人から用事で授業に出られない、って言われたでしょうが」
「え?そうでしたっけ?」
はあ、とため息を吐くアスナ。いかにも『こいつ、何やってんだ』と言った感じである。
やがてSHRの終わりを告げる鐘が鳴り、1時間目の授業の為の準備時間が始まる。
「ああ、どうしよう・・・パートナー見つからないと、大変な事になっちゃうよ・・・」
「「「「「「パートナー!?」」」」」」
少女達が一斉に訊き返すが、ネギはガックリと肩を落として、それどころではない。そのままフラフラと廊下へ姿を消していく。
「ちょっと、アスナさん!ネギ先生に何があったんですの!?」
「わ、私が知る訳ないでしょう!」
相変わらず騒がしい、3−Aであった。
同時刻、屋上―
「ここにいたんですか」
「・・・何だ、お前か。昨日は御苦労だったな」
エヴァンジェリンは屋上に座り込みながら、気だるそうにシンジへ目を向けた。
「帰ってきたネギ君から、一通りの事情は聞きましたよ」
「ふん。それで、私に何の用だ?悪い事は止めろとでもいうつもりか?」
「言う訳ないでしょう。そういう事を言う奴は、一度、牢屋に閉じ込められてみれば良いんですよ。そうすれば、少しは貴女の気持ちが理解できるでしょうからね」
シンジの返答に、驚いたように見返すエヴァンジェリン。その目の前に、シンジは魔法瓶に注いできた紅茶を差し出した。
「口に合うか分りませんが」
「ふん。貰ってやるよ」
紅茶に口をつけるエヴァンジェリン。その顔が、少々歪む。
「・・・40点だな」
「やっぱり駄目ですか」
「当たり前だ。美味いのを飲みたいなら、この場で淹れろ」
王様発言なエヴァンジェリンに、シンジは文句を言う事も無く苦笑するばかりである。
「それで、近衛シンジ。お前はどうするつもりだ?」
「分かっていて訊くんですね。勿論、ネギ君につきますよ。エコ贔屓ぐらいはしたいですから」
「ククッ、エコ贔屓ときたか!確かにこれ以上ない理由だな。大義名分に拘る連中に比べれば、お前はよっぽど理解できる奴だよ!」
膝を叩きながら心底面白そうに笑いだすエヴァンジェリン。そんな彼女に、シンジが真剣な顔で詰め寄った。
「とは言え、貴女が僕の出す条件を守ってくれるなら手は出しません。ネギ君から直接頼まれない限りはね」
「ふん、言ってみろ。今の私は、気分が良いからな」
「ネギ君を殺さない事。僕の条件はそれだけです」
ワザとらしく考え込むエヴァンジェリン。彼女としても女子供を殺すのは彼女の誇りに反するし、下手に殺して近衛シンジを敵に回すのも気が咎めた。特にシンジは、久しぶりに見つけた、極上の玩具なのである。できれば間近で見続けたいという欲求があった。
「代償として、お前は何を差し出すのだ?」
「差し出してしまって良いんですか?エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。闇の福音と名高い、最強の悪の魔法使いが、自らの誇りを忘れたと自ら認めるのですか?」
「・・・チッ。分かっているなら、イチイチ確認なんぞに来るな。ああ、お前の言う通りだ。私は女子供は殺さんよ。あの先生も、当然、その例外ではない」
「確かに、言質は戴きました」
シンジも自分用に紅茶を注ぎ、口をつける。そんな少年を、エヴァンジェリンは忌々しそうに睨みつけた。
「全く、お前はあの生真面目一辺倒な詠春の養子とは思えんよ。どこをどうしたら、そこまで捻くれるのだ」
「育った環境が悪かったんです」
「そうハッキリ言われると、つい納得しそうになるな」
40点と評価した紅茶を口に入れていたエヴァンジェリンが、眉を顰めながら静かに立ち上がる。
「・・・チッ、侵入者か」
「こんな朝から侵入してくる奴がいるんですね」
「いや、これは人間じゃないな。恐らく妖精か何かだろう。私は排除に行ってくる」
そう呟くと、エヴァンジェリンはさも面倒臭そうに屋上から姿を消した。
麻帆良学園中等部女子寮大浴場『涼風』
気がつくと、ネギはお風呂場にいた。完全に裸で何も着ていない。
(・・・何で?)
記憶を遡るネギ。放課後、アスナとともに学校の廊下を歩いていた所までは覚えていた。昨日の一件で、元気のないネギをアスナは気遣い、色々と励ましてくれたのである。
それから―
(そうだ、急に視界が暗くなって。多分、袋か何かを被らされたんだ。そしたら誰かに持ち上げられて・・・)
「ようこそ、ネギ先生♥」
「うわあああああああ!」
そこには水着姿の3−Aメンバーが集結していた。鳴滝姉妹が『ネギ先生を元気づける会』と書かれた横断幕を掲げている。
呆気に取られて硬直するネギに、水玉ビキニの桜子が元気よく宣言する。
「ネギ君、元気ないみたいだったからね。みんなでネギ君を元気づける会を開いてみたよー」
「ホラホラ、お菓子あるよー」
「甘酒もあるからねー」
少女達の気遣いに、嬉しさのあまりホロリと涙するネギ。そんなネギに、白ビキニのあやかが近づいていく。
「ところで、ネギ先生。パートナーの件ですが、頭脳明晰、容姿端麗、財力豊富な私などが適任かと思うのですが、いかがでしょうか?」
「・・・え?」
「いいんちょ、抜け駆けずるいー!」
風香にパカーンと飛び蹴りを食らい『へぶう』と叫びながら吹き飛ぶあやか。だが一度抜け駆けが出た以上、自重する者などいない。
「私、頭洗ってあげるー」
「私、背中洗ってあげるー」
「じゃあ、私は前ー」
「「「「「「それ、やっちゃえー!」」」」」」
一斉にネギへ群がる少女達。
「あはは、ネギ君ちっさくて可愛いー」
「おっきくしてみよっか♪」
「まだ10歳やし、おっきくならんやろ」
阿鼻叫喚の地獄絵図。ネギの悲鳴と、少女達の歓声が大浴場を支配し、逆セクハラ会場と化していた。
この事態に、純粋にネギを元気づけるつもりだったのどかと夕映は、離れて見守る事しかできない。というか、あまりにも他のメンバーがパワフルすぎて、近付く事が出来ないでいる。
そして冷静に事態を観察していた千雨は、すでに自分は関わりになるまいと決めて、早々に距離を取っている。
そんな時だった。
「ひゃあ!」
「いやん!」
少女達の中から、悲鳴を上げる者がチラホラと出始める。当然の如く、疑惑の目はネギへと向かったが、ネギには全く心当たりが無くキョトンとするばかりである。
「もー、ネギ君ったら!捕まえた!」
「ええ?僕、何もしてませんよ!」
「じゃあ、この太くて長い毛むくじゃらなこれは?」
湯けむりの中に、キラーンッと何かが光る。
「キャーー!ネズミーーーー!」
「イタチだよ!」
「ネズミが出たーーーー!」
パニックに陥る少女達。だがそんな少女達を、更なる混乱が襲う。
「このネズミ!水着を脱がすよ!」
まき絵が、木乃香が、のどかが一瞬で水着を脱がされる。ネギは目を隠すのに必死で、犯人を捉えるどころの騒ぎではない。
「ネギ!どうしたのよ!」
「アスナさん!」
制服姿のまま、浴場に飛び込んできたアスナ。そんな彼女に向かって何かが飛びかかる。
反射的に風呂桶でスパコーンと叩き落とすアスナ。
「な、何よ、今のは」
アスナの一瞬の早技に『オー』と拍手する少女達であった。
アスナ、木乃香、ネギの部屋―
浴場での騒動から戻ってきたアスナは、目の前にいる正体不明の喋るナマ物に、目を点にしていた。
外見は尻尾の先端だけが黒いオコジョである。だがアスナには理解できない事に、目の前のオコジョは流暢な日本語を喋っていた。
「俺っちはオコジョ妖精のアルベール・カモミール!よろしくな、姉さん!」
アルベール・カモミールことカモは、自身とネギとの関わりについて語りだした。それによると事の始まりは5年前。罠にかかっていたカモを、幼いネギが助け出した事から始まり、カモはネギを追いかけて日本へやってきたのだという。
昔話に花が咲いていたカモとネギであったが、ふと思い出したようにカモが口を開いた。
「ところで兄貴。どうやら、まだパートナーが決まってないみたいじゃないっすか!良いパートナー探さないと、立派な魔法使い になるにもカッコがつかないんでしょー!」
「じ、実はこれから探そうと思ってて・・・」
「そうっスか。でも俺っちが来たからには大丈夫!俺っちは兄貴の姉さんに頼まれて、やってきたんすよ!」
フーッと煙草をふかすカモ。即座に『ここは禁煙』とアスナに取り上げられる。
「実は、さっき風呂場で調べたんスけど、良い素材ばっかりで!」
「どうしてアンタにそんなこと分かるのよ!」
「俺っちには、そういう能力があるんスよ!」
必死になって説明するカモ。アスナはカモを疑っているが、ネギは昔からの知り合いと言う事もあって、簡単に信じてしまう。
「これでパートナー探しが楽になるよ。あとでお姉ちゃんに御礼のメール送らないと」
「あー!兄貴!いい、いい!別にそんなの書かんでも!」
「カモ君?」
激しい反応を見せたカモに、当然の如くネギが問いかける。
「実は、さっき『これは!』という女の子を見つけたんスよ!」
「本当!?」
テーブルの上に置かれていた、写真入りのクラス名簿を広げるカモ。その短い前足で、1人の少女を指す。
「この人っス!もう、俺っちのセンサーにビンビンス!」
「・・・本屋ちゃん?」
「み、宮崎さんが僕の運命的なパートナー候補?」
顔を赤らめるネギ。すかさずカモが畳みかける。
「兄貴だって満更じゃないじゃないスか!横に『すごくカワイイ』って書いてあるし」
「か、カモ君!」
耐えられなくなったのか、ネギが廊下へと飛び出していく。そんなネギを見ながら『なんか呑気ねー』と思っていたアスナの目が、郵便受けに入っていた封筒を見つけた。
「これ・・・ネギのお姉さんからのエアメールじゃない」
ビクン!と反応するカモ。今までにないほどの緊張を、全身から発している。
「姐さん!それ、俺っちが渡しておきますよ!」
「誰が姐さんよ。ま、良いわ。それじゃあ頼むわね」
アスナの姿が消えた所で、カモはエアメールをクシャクシャにすると、ゴミ箱へポイッと投げ捨てた。
(やばい・・・早いとこ、行動おこさにゃ)
その後、部屋へ戻ってきた木乃香がカモを発見。カモはネギのペットとして女子寮に登録された。その際、初めてオコジョを見たシンジが『ペンペンとどっちが可愛いかなあ?』と悩んだのは、本人だけの秘密である。
翌日の放課後―
エヴァンジェリンのいない授業を終えたネギは、シンジと分かれてトボトボと校庭を歩いていた。
授業に出てくれないエヴァンジェリン。露骨に自分が嘗められている事に、ますます自信を喪失するネギである。
はあ、と溜息を吐いていると、カモが駆け寄ってきた。
「兄貴!例の宮崎さんが寮の裏手で不良にカツアゲされてるっス!」
「いけない!すぐに行かないと!」
杖にまたがり、寮の裏手へ急行するネギ。すぐにのどかを発見した。
「大丈夫ですか!宮崎さん!」
「あ、先生!」
顔を赤らめて喜ぶのどか。ネギは周囲を見回したが、どこにも不良の姿は無い。
「あれ?僕、宮崎さんが襲われていると聞いたんですけど・・・」
「私がですか?そんな事ありませんけど。それよりネギ先生、私なんかが先生のパートナーになっても良いのでしょうか?」
そう言いながら、のどかが手に持っていた手紙を見せる。そこには下手な字で『宮崎のどかさま 放課後、りょーの裏でまてます。ぼくのパートナーになてください。ねぎ』と書かれていた。
(カモ君!どういう事!?)
(すまねえ、兄貴。一芝居打たせて貰いましたぜ)
カモの一言で、やっと事態を飲みこんだネギである。
「先生。この前の吸血鬼騒ぎの時、助けてくれてありがとうございました。私、先生に迷惑かけてばかりですけど、それでもネギ先生のお役に立てる事なら何でも頑張ります。だから、何でも言って下さいね」
ニコッと笑うのどかに、ネギの顔が自然と赤く染まる。それを見越したかのように、カモが言葉を発した。
「契約 !」
ネギとのどかの足元に、仮契約の為の魔法陣が浮かび上がる。
「せ、先生・・・なんだかドキドキします・・・」
(ぼ、僕もなんだかドキドキしてきちゃった・・・)
のどかを直視できないネギ。その後ろでは、カモが旗を振りつつネギを応援している。
(兄貴、仮契約はお試し期間なんスよ。何人とでも契約できますから、軽い気持ちでブチューッと!)
(う、うん。ブチューッと・・・?)
「ってええええ!?キスするのおおおおお!?」
驚くネギ。だがのどかはネギを更に硬直させた。
「わ、私も初めてですけど、ネギ先生がそう言うなら」
「え?」
目を閉じ、顔を赤らめたのどかが顔を近づけてきた。
時は少し遡る―
アスナはネギを探して学園中を走り回っていた。と言うのも、ネギが携帯電話を部屋へ置き忘れていたので、連絡が取れなかったからである。
そうこうする内に、時間だけが経っていく。そんな時に、アスナは見覚えのある人影を見つけた。
「シンジさん!ちょっと手伝って!」
「ん?神楽坂さんか、どうしたの?」
「実は・・・」
アスナが手にしていた物を見せながら、事情を説明する。
「ふうん、そう言う事か。分かったよ、行こうか」
「ネギの場所が分かるの?」
「いや、さっきから妙な魔力を感じていたんだ。これが偶然とは思えないんだよ」
走り出すアスナとシンジ。2人の向かう先は、女子寮の裏。
「いた!」
2人が発見した時には、ネギとのどかはすでにキスする寸前であった。そして近くにいたカモは、2人に気付いて危険を感じ取ったのか『兄貴、早く!』とせかし始める。
階段を駆け降りる2人。だがどう考えても間に合わないと判断し、シンジはポケットから常に持ち歩いている符を取り出し、投擲しようとした。ところが、この場には直情径行、思い立ったが即実行な人物がいた。
「やめんかあ!このエロオコジョ!」
シンジよりも早く、アスナが行動を起こしていた。全身のバネを活かして、シンジの臀部を魔法陣目がけて蹴り飛ばす!
「お、おおおおお!」
「あ、姐さん!?」
あまりにも予想外の出来事に、カモもシンジも何もできない。特にシンジは飛ばされるばかりである。
人間砲弾と化したシンジ。カモの悲鳴に気付いたネギが、のどかだけでも守ろうと突き飛ばした、その直後だった。
アスナが、カモが、ネギが、シンジが、のどかが、5人の時が一斉に止まった。
そしてのどかが、目の前の光景にショックを受けて気を失う。
「・・・パ・・・仮契約 ・・・成立・・・しちゃったッス・・・」
カモの手元に、キラキラと綺麗な光を放ちながら、カードが出現する。
絵柄は目元を前髪で隠した少年。
ツツーッとカモとアスナの頬を冷や汗が滴り落ちた。
食堂―
ズーンと落ち込んでいるシンジという珍しい光景に、女子寮の住人達は目を剥いていた。
「な、何があったん、お兄ちゃん」
「ふふ・・・ふふ・・・」
「お兄ちゃん、壊れてないで戻ってきてな!」
近くにいるアスナは、露骨に視線をずらしている。ネギはショックが大きかったのか、気絶していたのどかを部屋へ送り届けると、布団に潜って寝込んでしまった。そして今回の元凶となったカモミールは、怒り狂ったシンジによって、両足をタコ紐で結ばれてベランダに吊るされ、鳥の餌になりかけていた。
「ま、まあまあ、木乃香。誰だって、人には言いたくない事があるわよ」
ガタンという音。全員の視線が音の発生源へと注がれる。そこには全身からどす黒いオーラを放つシンジが、前髪を透かして真紅の瞳でアスナを睨みつける姿があった。
「ほほう?そういう事を言いますか、神楽坂明日菜さんは」
「ちょ、なんでフルネーム!?滅茶苦茶怖いんですけど!」
逃げ腰のアスナは、目尻から噴水のように涙を噴き出している。
「僕もこんな経験は初めてだったよ。是非とも、御礼をさせて戴きたいね」
「ごめん!本当にごめんなさい!」
平謝りするアスナ。それを見ていた一同は、ますます困惑を深めていく。
そこへ、目を覚ましたのどかが食堂へ降りてきた。
「ねえ、ゆえゆえ、何かあった・・・の?」
シンジを見るなり、硬直するのどか。だが彼女は勇気を振り絞って歩き出した。
「あ、あの!私、負けませんから!」
両目に光る物を浮かべながら、それでも全身に力をこめて、のどかは立っていた。
「ちょっと待て!それは明らかに誤解だ!」
「ウソです!だったら、どうしてネギ先生とキスしてたんですか!」
一瞬の沈黙。その直後に驚愕の叫び声が上がった。
「どどど、どういう事!私を断ったのは、シンジさんが同性愛者だったから!?」
「落ちつけ早乙女さん!少なくとも僕の性的志向はノーマルだ!」
「ええい!だったら私も!」
「待てえええええ!」
事態の混乱ぶりに、仲裁役が必要だと判断した和美が、ドウドウと仲裁に乗り出した。
「それで、何があったのさ?」
「つまりだな、事の発端は神楽坂さんが、階段を駆け下りていた僕のお尻を蹴り飛ばした事だったんだ」
「「「「「「はあ?」」」」」」
こっそり逃げ出そうとしていたアスナを、あやかが気付いて『逃がしませんわよ』と襟元を掴む。
「まるでミサイルのように吹き飛んだ僕は、宮崎さんの目の前で、ネギ君と顔面接触しました。と言うか、もろにキスしました」
言葉も無い一同。あやかが、怒りを込めた視線をアスナに向ける。そのアスナはと言えば、もうどうにでもなれとばかりに『アハハハ』と小さく笑うばかりである。
「・・・ひょっとして、ネギ君がお籠りしちゃってるのって、それが原因?」
「いや、その後だな。事故とは言え、ファーストキスを男である僕に奪われただけなら何とか立ち直れたんだろうけど・・・」
ゴクッと唾を飲み込む少女達。全員が耳をダンボにする。
「その・・・舌まで入っちゃったんだよね」
少女達の反応は様々であった。
飲んでいたジュースを鼻から噴き出しそうになり、慌ててハンカチで押さえる者。無言のまま愛用の武器に手をかける者。壁にガスンと頭部を打ち付け、ゆっくりと崩れ落ちていく者。アスナの首を絞めて折檻に及ぼうとする者。顔を真っ赤にしてシンジに感想を求めてくる者。車座になってネギとシンジ、どちらが『攻』なのかを話し合い始める者。実に様々である。
麻帆良学園中等部女子寮。この日は夜遅くまで食堂に電気が点いていたそうである。
To be continued...
(2011.12.10 初版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
今回ですが裏タイトルは『ネギ、初めての時』ですw何が初めてなのかは、読んで頂いた方には誤解される事無く、御理解頂けたと想像します。
シンジを魔法使いの従者 にするタイミングですが、プロットの段階でかなり悩みました。別案では麻帆良祭の時だったのですが、悩んだ末にエヴァンジェリン編での契約となりました。ネギの従者となる事は基本設定で明らかにしていましたが、作中の通りに正統派な仮契約(?)を予想されていた方、素直に手を挙げましょう。私から『腐』の称号を差し上げますw
話は変わって次回ですが、エヴァンジェリン編・中編となります。
シンジを従者としたものの、シンジはエヴァンジェリンや近右衛門との約束の為に、距離を置く事を選択。そんな状況に、ネギはカモの提案を受け入れて茶々丸を各個撃破しようとする。その結果、明らかになるシンジと近右衛門の関係・・・そんな感じの話になります。
それではまた次回も宜しくお願い致します。
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