正反対の兄弟

第十七話

presented by 紫雲様


埼玉県大宮駅―
 「おはようございますー!」
 遂にやってきた修学旅行初日。ネギは準備万端整えて、カモとともに駅へと集合していた。
 教職員は早めに集合と言う事で、瀬流彦・新田・しずな達教員が既に姿を見せている。だが集まっていたのは教職員だけではない。
 「ネギ君、おはよー!」
 ネギ同様、修学旅行を待ち切れなかった生徒達も、既に集合していた。とは言え、その待ちきれなかった面々は大半が3−Aの生徒である。如何にもお祭り好きな、3−Aらしい光景であった。
 「おはよーございまーす!」
 「ネギ君、京都楽しみだねー!」
 「はい!」
 年相応の笑顔のネギに、周囲も笑顔で返す。ネギに年相応の笑顔をされた少女達にしてみれば、ちょっとしたお姉さん気分であった。
 「そうだ、新田先生!」
 「ん?どうしました?ネギ先生」
 「シンジさんですが、到着が遅れるそうです。厨房仕事をある程度終わらせてから、こちらへ向かうと言っていました」
 「なるほど、それは仕方ありませんな。分かりました」
 シンジは寮を出るのが一番最後になる。修学旅行に参加する、他の寮生達が遅刻をしないように、敢えて一番最後のメンバーと来る事にしていた。
 「まあ彼の事です。問題は起こさないでしょう」
 
新幹線発車15分前―
 「おはようございます」
 「シンジさん、間に合って良かった!」
 「大丈夫だって。ちゃんと時間は確認してるから」
 留守の間の寮の管理の引き継ぎ、遅刻者の有無の確認等、シンジには山ほどやる事があったのだから、多少は仕方がない。
 「シンジさん、スーツ似あうじゃないですか!」
 「どうもネクタイが好きになれないんだよね・・・」
 苦笑するシンジ。そのネクタイは、几帳面な彼らしくなく、わざと緩めてある。それはシンジにとっての兄代わりだった加持を意識した着こなしだったのだが、周囲はその理由を知らない。
 当然の如く、周囲からは『だらしないよ〜』という声が上がったが、シンジはどこ吹く風とばかりに『これで良いんだよ』と受け流してしまう。
そんなシンジの肩越しに、女の子が顔を出した。
 「ネギ先生、宜しくお願いします〜」
 「わあ、さよさんも参加出来るんですね!良かった!」
 「はい!シンジさんに取り憑いていれば、遠出もできるみたいなんですよ〜」
 ふわふわと空を漂っているのは相川さよである。さすがに60年間孤独だったさよを置き去りに修学旅行というのは気が咎めたシンジが、シンジ自身を憑代として実験してみた所、さよは麻帆良の外にまで足を伸ばす事ができたのである。
 その為、急遽、修学旅行への参加が決定したのであった。
 ちなみに、憑代となる事が出来るのは、シンジ以外にも数名存在している。
 「いずれは相川さん専用の憑代を手に入れたい所なんだけどね」
 「夢は膨らみます〜」
 そう言いながら、さよは珍しそうに新幹線を眺めていた。

 ガヤガヤ騒ぎながら新幹線に乗る麻帆良中等部御一行。待望の修学旅行とあって、すでにスタートから暴走気味である。
 いきなり自分の席ではなく、よその車両へ偵察に向かおうとする双子。
 車内で肉まんを販売し始める超包子メンバー。
 ネギを予約しておいたグリーン車へ連れ込もうとする委員長。
 騒ぎ立てるクラスメートにカメラを構える麻帆良のパパラッチ。
 自由行動の日に、ネギに一緒に回ろうと誘いをかける馬鹿ピンク。
 対抗して、恥ずかしがりやな友人にハッパをかける図書館探検部。
 もはや車内は混沌と化している。誰一人として乗り遅れなかった事は、奇跡であった。
 「・・・ん?今ので5班だよな。あと1班足りないぞ?」
 「ネギ先生」
 ネギが振り向くと、そこには刹那とザジが立っていた。
 「6班ですが、エヴァンジェリンさん達が欠席なのです。人数が少ないのですが、どうすれば宜しいでしょうか?」
 「そ、そうですね。ではザジさんは雪広さんの班に、桜咲さんはアスナさんの班でお願いします」
 その言葉に、木乃香が小さく『え?』と声を上げる。
 「せっちゃん・・・一緒の班やな・・・」
 「あ・・・」
 刹那は頭を下げると、無言のまま木乃香に背を向けた。

新幹線車内―
 「何やってるんですか?」
 「カードゲームだよ。ネギ君達もやってみる?」
 車内の一画で、対戦型カードゲームが繰り広げられていた。プレイヤーはまき絵・夕映・裕奈・風香・桜子・ハルナである。
 「ほらほら、教えてあげるからやってみなよ!」
 「うわわわわ」
 まき絵の膝の上にチョコンと座らせられるネギに、周囲から歓声が上がる。遠くから見ていたあやかは、鼻を押さえながら『何て羨ましい・・・』と呻き声を上げていた。
 「シンジさんもどう?私のデッキ使ってもいいから!」
 「そうだね、ちょっと弄っても良いかな?」
 「それは良いけど、遊んだ事あるの?」
 「ルールブックは読んだよ」
 パッパッパとカードを数枚入れ替えるシンジである。その出されたカードに、目を剥いたのはハルナである。
 「シンジさん!?それ切り札だよ!?」
 「ちょっと面白い事思いついてね。まあ見てて」
 当然の如く、後ろからカードを見ていた少女達から、悲鳴が上がった。ネギを含むプレイヤー達は、何をするつもりなのかと興味深々である。
 「お待たせ、じゃあ始めようか」
 「今日、初めて遊ぶばかりの人には負けないですよ!」
 意気揚々とゲームを開始する夕映。彼女は偵察がてら、低コストのモンスターでシンジを攻撃。シンジは壁モンスターでそれを防ぎつつ、罠を配置していく。他のメンバーも守りや罠を固めたり、あるいは牽制攻撃を仕掛けるなど、堅実に進めて行く。
 数ターン経過した後、夕映がまるで挑発でもするかのようにニヤリと笑った。
 「どうしたです?攻めないと終わりですよ?」
 「そうだね・・・じゃあ僕はこれを」
 前のターンに呼び出したモンスターに、火属性攻撃無効の防御付与をかけるシンジ。だが他にも雷・氷・闇もかける。
 「4属性無効ですが、その程度」
 「じゃあ、これで攻撃するよ。魔法食らいのネズミの特殊能力で、付与1つにつき攻撃防御+2くるから」
 「「「「「は!?」」」」」
 「元が2だから攻撃10だよ。対象はおでこちゃん」
 調子に乗って攻撃していた為、夕映が壁として使用できるモンスターは行動済み。そのまま被弾するしかなかった。
 「い、一撃でHP半減!?」
 「後はカード伏せて終了」
 グッと呻き声を上げる夕映。いざカウンターと行きたいところだが、シンジの前には壁役のモンスターが4体と罠カードが3枚待ち構えている。
 観客達は固唾を飲みこんで戦況を見守る。
 「な、ならば魔法食らいのネズミに解呪魔法を使うですよ!」
 「じゃあそれに罠カード発動。魔法封じの矢でカウンター宣言。魔法を打ち消しつつ、1点ダメージプレゼント」
 「グッ!」
 これで残りHP9。一撃決まれば確実にアウトである。
 「おお!?鉄壁の夕映、陥落か!?」
 「な、嘗めるなです!まだこちらにはモンスターが!」
 攻撃宣言をしようとして、諦める夕映。この戦いはバトルロイヤルである。下手に隙を晒す訳にはいかない。
 他のメンバーも互いにちょこちょこと削りながら、再びシンジに手番が回る。
 「えーと、今回は戦車を設置。これで壁への攻撃オーバーキル分、本体にダメージ行くからね」
 「「「「「ゲー!」」」」」
 「あとは罠2枚設置。ネズミは一番HP高い明石さんへプレゼント」
 「うそおおお!うう・・・鉄の騎士を犠牲に・・・ダメージ6点痛すぎる・・・」
 シクシクと涙を流す裕奈。だが夕映はチャンス到来とばかりに舌舐めずりする。
 「ならば今度こそ!モンスター2枚犠牲に、攻撃力10のキマイラを即時召喚!シンジさんに攻撃です!」
 「はいはい、罠カード発動。攻撃力8以上という条件を満たしたので竜巻発動。こちらのHPは半減して残り5。代わりに場に出ている召喚コスト3以上のモンスターは、敵味方無差別に強制退場だよ。ちなみに僕のモンスターはネズミも含めて全て2以下だから残る」
 「「「「「ぎゃー!」」」」」
 阿鼻叫喚の地獄絵図である。慌てて風香が罠打ち消しを飛ばすが―
 「はい、切り札発動。対抗魔法タイダルウェイブ使用。僕も含めた全員に3点ダメージ。代わりに鳴滝さんのは打ち消しね」
 「じ、自爆デッキですか!?」
 「自爆とは失礼な。道連れにしているだけだよ」
 「そんなデッキ作るなです!」
 慌てて守りを固め直す参加者達。だがシンジの悪辣さは、既に用意されていた。
 「僕の番か。じゃあコスト全部使って巨大化の魔法使用。ネズミの攻撃対象は、このターンだけ全員。戦車でオーバーキルダメージが本体に行くからね」
 「「「「「死んだー!」」」」」
 周囲から『おー』と拍手が飛ぶ。
 「ネズミに、ネズミに食われたです」
 「一回しか通用しない奇襲デッキだからね。手の内読まれてたら終わりだよ」
 『ありがとう』と言いながらデッキをハルナに返すシンジ。
 「シンジさん、本当に遊んだ経験、無いの?」
 「ないよ。一点集中が上手く通ってくれただけだよ。あとはおでこちゃんの暴走が勝因かな」
 思わず納得するプレイヤー達。夕映は鉄壁の二つ名通り、守りを優先したデッキ構成である。ところが今回はそのデッキで、シンジに一矢報いてやろうと攻撃メインの戦術を行ったのであった。
 「もう1回勝負ですよ!」
 「だめだめ、次は勝てる自信ないからね。ここらへんで勝ち逃げしとくよ」
 「卑怯者ーーー!」
 風香の言葉に、爆笑する少女達。とは言え、シンジやネギには教員として仕事があるのも事実である。
 「ネギ君、そろそろ行こうか」
 「あ、はい!」
 「えー!ネギ君も行っちゃうのお?」
 残念そうなまき絵だが、仕事である以上は仕方が無い。
 席を立ったネギとともに、車両の隅で予定表を見ながら打ち合わせを始めるシンジ。そこへ『キャーッ!』という悲鳴が響いた。
 「どうした!?」
 顔を上げる2人。そこには、車両を所狭しと跳び回る、無数の蛙がいた。
 (ネギ君!これは式神だ!)
 (ええ!?本当だ、言われてみれば普通の蛙じゃない!)
 (とりあえず捕まえるよ!)
 ビニール袋を手に、蛙を次々に放り込んでいく。蛙が平気な古、アスナも手伝い、短時間で捕獲していく。一方で、蛙が苦手な楓やしずならは呆気なくノックダウンしていた。
 「ふー、何とか収まりましたね」
 「全くだね。とりあえず縛ってダストボックスに入れておこう」
 袋を両手に持って捨てに行くシンジ。そんなシンジを見ていたネギの肩で、カモが囁いた。
 (兄貴、間違いなく、関西呪術協会の仕業だぜ)
 (で、でもどうして蛙なんだろう)
 (そればかりは、俺っちにも・・・でもこの騒ぎに乗じて、何かやらかす気かも)
 その言葉に、慌てて自分の体を調べ出すネギ。
 「し、親書がない!」
 「なに!?」
 「あ、下のポケットにあった」
 「び、びっくりさせんなよ、兄貴」
 ホッとするネギとカモ。だがスッと目の前を通り過ぎた何かが、親書を奪い去った。
 「あー!」
 慌てて追いかけるネギ。だが親書を口に咥えた燕は、車内を一直線に翔んでいく。
 「待てーーー!」
 「間違いねえ。あれは旦那の言ってた式神。ペーパーゴーレムだ!」
 しかし通路を走る人間と、空中を翔ぶ燕とでは勝負になる訳が無い。
 途中、社内販売の売り子さんと正面衝突しかけながらも、ネギは必死に後を追う。
 だが何両か走った所で、追いかけっこは終了した。
 「貴女は・・・桜咲さん?」
 そこには夕凪を手にした刹那が、親書を手に立っていたのである。足元には、2つに切り裂かれた、鳥の形をした紙が落ちている。
 「ネギ先生、落し物です」
 「あー!ありがとうございます!」
 「気をつけた方が良いですよ、特に向こうへ着いてからはね。では」
 踵を返す刹那。そこへカモが囁く。
 (兄貴、足元見ろよ!)
 (・・・これは!?)
 (間違いねえ。あの女、西のスパイだぜ!)

清水寺―
 「「「京都おおおお!」」」
 「これが噂の飛び降りるアレ!」
 「誰か飛び降りれ!」
 「では拙者が」
 のっけからハイテンションな3−A御一行様である。
 「こらこら、飛び降りるなんて馬鹿な真似はしない様に」
 「拙者なら、この程度平気でござるよ?」
 「連帯責任で全員、麻帆良へ強制送還させるよ?」
 さすがに飛び降りるのを思いとどまる楓。風香も麻帆良へ強制送還は嫌なのか、素直に口を閉ざした。
 「本来は本尊の観音様に能や踊りを楽しんでもらうための装置であり、国宝に指定されています。有名な『清水の舞台から飛び降りたつもりで・・・』の言葉通り、江戸時代実際に243件もの飛び降り事件が記録されていますが、生存率は85%と意外に高く・・・」
 「うわっ!変な人がいるよ!」
 「夕映は神社仏閣仏像マニアだからなあ」
 しかし日本人ではない超やネギにしてみれば、思わず聴き込んでしまう知識量である。
 「けど、本当に見晴らし良い所だね」
 「うんうん」
 「そういえばさ、シンジさんも中学の時に修学旅行は行ったんでしょ?どこ行ったの?」
 アスナの問いに、シンジは苦笑いしかできない。
 「僕は参加できなかったんだよ。課外活動が忙しくてね、クラスメートはみんなして沖縄行ったんだけど」
 「それは・・・何とも言えないわね」
 「代わりに浅間山の温泉宿に止まったぐらいかな。溶岩の中へダイビングしたなあ」
 「ウソつくなです!」
 咄嗟に突っ込む夕映。シンジにしてみればサンダルフォン戦の時の事実なのだが、まさか口にする訳にもいかない。
 「まあ、そう言う意味では、遅まきながらの修学旅行ってとこかな」
 そこでポンと手を叩くシンジ。
 「朝倉さん、ちょっとカメラ貸して」
 「ん?良いけど」
 「おーい、みんな並んで。全員集合写真撮っとくよ。京都の町を背景にね」
 『おー!』と掛け声をあげて集まる3−A。さよもしっかりポジションをキープしている。
 「ネギ君は中央に行くように。そんな隅っこにいちゃだめだよ」
 「あ、はい!」
 「それじゃあ、写すよ!」
 シャッター音が2回鳴る。
 「よし、撮れた。カメラありがとね」
 「あれ?シンジさんは写らないの?」
 「カメラ写りの良い被写体じゃないから止めとくよ」
 「それはだめですよ!シンジさん、こっち来て下さい!」
 いつになく強気なネギに、目を白黒させながら引っ張られるシンジ。今度はしずなが撮影者を務め、無事に写真を撮り終える。
 「・・・ネギ君、何かあった?」
 「シンジさんだって、3−Aメンバーの1人なんです!」
 一斉に『おー!』と感嘆の声が上がる。シンジも最初は呆気に取られていたものの、口元が嬉しそうに歪んだ。
 「ありがとう、みんな」
 ネギの頭をクシャクシャ撫でるシンジ。ネギはと言えば、嬉しそうに破顔する。
 「そういえば、ここから先に進むと恋占いで女性に大人気の地主神社があるです」
 「「「「「え♥」」」」」
 ネギに集まる複数の視線。
 「ちなみに、そこの石段を下ると有名な『音羽の滝』に出ます。あの水を飲むと、それぞれ健康・学業・縁結びが成就するとか・・・」
 「それだ!」
 たちまち連行されるネギ。主犯は鳴滝姉妹とまき絵である。その後ろをあやかとのどかが慌てて追いかけ、千鶴や夏美、アスナ達が呆れて見送っている。
 「何と言うか、どこ行っても騒がしいなあ」
 「何を他人事のように言ってるの?ほら、一緒に!」
 「さ、早乙女さん!?」
 ハルナに強制連行されるシンジに、周囲の笑い声が大きくなる。
 一同が向かった先は、まずは地主神社であった。
 「これが恋占いの石ですか」
 「そうなんです。目を瞑ってこの石からあの石まで辿り着けば、恋が成就すると言います!僭越ながら、クラス委員長の私が!」
 早速スタートするあやか・まき絵・のどかである。
 「パル。挑戦しないですか?」
 「あの3人と同時にやって、ぶつかって失敗なんてしたくないからね。あの3人が終わったら挑戦するよ」
 そう言っている間にも、ネギを巡る3人の挑戦は続く。だが突如として、あやかがゴール目がけて猛ダッシュを開始した。
 「雪広あやか流恋の心眼術!ターゲット確認!行きますわよ!」
 一直線に向かい始めるあやか。その後ろを『委員長、ずるーい!』と言いながら、薄眼を開けてまき絵が追いかける。
 だが―
 「「キャアアア!」」
 ゴール地点の石の前に隠されていた落とし穴に、見事にはまる2人。中からはゲコゲコという蛙の鳴き声が聞こえてくる。
 慌ててあやかとまき絵を引き上げようとする3−Aメンバーだが、被害者である2人は半泣き状態である。
 「これは質の悪い悪戯だな。ちょっとこの辺りの責任者へ連絡してくるよ」
 「はい、分かりました!」
 手近なお店に店員に事情を説明し、責任者へ連絡を取り付けるシンジ。その間に、ネギは自分へ注がれる視線に気づいた。
 (・・・桜咲さん?またこっちを見てるなあ・・・)
 (やっぱり怪しいぜ、兄貴)
 落とし穴騒動の間に、ちゃっかりとゴールしたのどかを祝福しながら、音羽の滝へ向かう一同。
 「「「「「縁結びーーー!」」」」」
 一斉に群がる少女達。
 ところが―
 「・・・なんか、みんな酔い潰れてしまったようですが・・・」
 「ええーっ!?」
 慌てるネギ。目の前にはクラスの1/3が酔い潰れてノックアウトしていた。他のメンバーは介抱するか、もしくは遠巻きに眺める事しかできない。
 そこへ責任者に連絡を取り終えたシンジが戻ってきて、目を剥いた。
 「またトラブルか?でもこの匂いは・・・」
 柄杓に残っていた水を、鼻に近づけるシンジ。指先に少しつけて、嘗めてみる。
 「これは清酒だな」
 「お酒ですか!?」
 咄嗟に屋根の上を確認するネギ。そこには酒樽が設置され、音羽の滝に流れこむように据え付けられていた。
 「だ、誰がこんな事を!?」
 「ネギ君。とりあえず降りてきてくれないかな?」
 シンジに呼ばれ、素直に下りてくるネギである。
 「ネギ君。こういう場合は、どうするのが正しいと思う?」
 「その・・・隠すとか?」
 「こらこら、別に隠す必要はないって。素直に言えば良いんだよ。それと、あとでお金を払うから、人数分のスポーツドリンクを誰か買ってきて、全員に飲ませてあげて」
 手早く指示を出したシンジが携帯電話を取り出して、新田に緊急連絡を入れて事情を説明する。すると5分もしない内に、新田と瀬流彦がやってきた。
 「近衛君!連絡を受けてきたんだが」
 「ええ、念の為、スポーツドリンクで水分補給をさせています。ですが、幸いな事に水で薄められていたようなので、急性アルコール中毒は考えなくて良いと思います。今夜一晩、夢も見ないでグッスリ、と言う程度ではないでしょうか」
 「そうか、それなら良いんだ。しかし質の悪い悪戯だ」
 「ええ、全くです。それで申し訳ないんですが、この子達をバスに運びたいので、手伝って戴けないでしょうか?」
 「ああ、勿論だとも。手分けして運ぼう」
 3−Aの生徒達も協力して、バスへ運ばれていく少女達。その最中に、シンジが瀬流彦に近付いた。
 (瀬流彦先生。先生のクラスでは、何らかの被害や悪戯はありましたか?)
 (いや、それは無いね。他のクラスも同じだよ)
 (そうですか、どうも3−Aが狙い撃ちされているようですね。僕は3−Aを重点的に守りたいのですが、宜しいですか?)
 (ああ、分かったよ。他のクラスは任せて)
 
ホテル嵐山―
 酔い潰れた少女達を部屋へ寝かしたネギ達は、ホテルの片隅で、早速今回のアクシデントへの対抗策を練っていた。参加者はネギ・シンジ・アスナである。
 と言うのも、今回の修学旅行においては、なるべくネギに解決させるように、シンジは近右衛門から釘を刺されていたからである。その為、基本的には少女達の護衛兼、アドバイザーという立場に甘んじていた。
 シンジにしてみれば、近右衛門と詠春の繋がりは知っているし、強硬派が以前の一件で勢力を削られた事も知っている。ならば、それほど大事にはならないだろうと読んだからであり、ネギが成長できるように立ち回るのも良いだろうと考えたのである。
 しかし、そんな裏事情を知らないアスナにしてみれば、厄介事以外の何物でもない。事実、ネギの口から関西呪術協会という名前が出た瞬間、アスナは『また魔法の厄介事かあ』と呆れたように溜息を吐いた。
 「そういえばシンジさん。関西呪術協会ってどんな組織なんですか?」
 「ネギ、何でシンジさんに訊く訳?」
 「だって、シンジさんが麻帆良に来る前まで、在籍していた組織なんですよ。何でも向こうの長が、シンジさんの師匠だったそうで」
 これには驚いたのか、アスナも言葉を失った。敵としか思えない組織に在籍していたどころか、敵のリーダーが師匠と言われれば、絶句するのも当然である。
 「関西呪術協会って言うのはね、古くは奈良時代―1200年以上前まで遡る事が出来る組織なんだよ。元は陰陽寮という、天皇家・貴族・国家を守った陰陽師の集団が始まりなんだ」
 「1200年って・・・とんでもなく古いじゃない!」
 「そうだよ。もっとも今では、関西方面の霊的トラブルを解決するのが役目って感じになってるけどね。分かりやすく言えば、妖怪退治の専門家、ってとこだよ」
 『へえ』と感心したように呟くアスナである。
 「ちなみに本部はこの京都にあるんだ。つまり僕達は、関西呪術協会のお膝元にいるって訳」
 「それって、無茶苦茶危険じゃない!」
 「まあねえ、でも今は警告ってとこだろうね。問題を起こしている派閥―強硬派は、弱体化しているから」
 首を傾げるアスナ。ネギやカモも意味が理解できずに、頭に?マークを浮かべている。
 「以前、強硬派に喧嘩を売られた事があってね。その犯人を生け捕りにして突き出してあげたんだよ。おかげで向こうでは粛清の嵐が起きちゃってね。強硬派の大部分は、処罰されちゃった訳」
 「旦那、それは笑って言う事なのか?」
 「別に良いんじゃない?火薬の傍で火遊びするような馬鹿には、良い薬だよ」
 自動販売機でお茶を買って手渡すシンジ。
 「でもね、関西呪術協会自体は、嘗めてかかって良い相手じゃないよ。はっきり言ってしまえば、向こうの長はエヴァンジェリンさんクラスじゃないと勝てない程の実力者だからね」
 「うえええええ!」
 「まあ、あの人は穏健派だから喧嘩売らなければ問題無いよ」
 その言葉に、ホッと一息つくネギ達3人。アスナに至っては『エヴァちゃんじゃなきゃ勝てないような人と喧嘩なんてしたくないわよ』と呟いている。
 「そうそう旦那。兄貴のクラスに桜咲刹那って奴がいるだろ?」
 「ああ、桜咲さんね。知ってるけど、どうかしたの?」
 「奴の事、何か知らないっスか?アイツは怪しい。きっと西のスパイに間違いない!」
 断言するカモに『あの子がスパイねえ・・・』と首を傾げるアスナ。アスナにしてみれば、刹那は寡黙で3−A武道四天王に数えられる少女である。正直な話、アスナ同様、勉強よりも体を動かす方が得意なタイプなのだから、スパイとは言い難く見えていた。
 「それなら心配ないよ。桜咲さんは木乃香の専属護衛だから」
 「・・・へ?」
 「あの子は剣士として木乃香の護衛についているんだよ。だから今回の件については、味方についてくれる事はあっても、敵につく事は無いよ」
 お茶をグイッと飲みこむシンジ。ネギはチビチビと口をつけている。
 「僕がいない所で困った事があったら、桜咲さんに相談するといいよ。桜咲さんは僕が陰陽師としてチームを組んでる子だからね」
 「チーム?」
 「関西呪術協会が西日本の霊的トラブルを解決する組織なら、関東魔法協会は東日本の霊的トラブルを解決するのが役目なんだ。僕と桜咲さんはチームを組んで、トラブル解決に当たっているんだよ。他に龍宮さんと長瀬さんも参加しているな」
 目を丸くするネギとカモ。アスナの場合はやや違い『あの2人だったら、確かにありそうだわ』と呟いていた。
 「でもあまり期待はしないようにね。龍宮さんは基本的にビジネスとしてチームを組むプロフェッショナルだから、そこら辺はシビアだよ。実力は間違いなく、随一だけど。長瀬さんは修行の一環って所かな。でもできれば長瀬さんは、このままにしておきたい所だね。3−Aにも防衛戦力は必要だから」

その後、浴場―
 打ち合わせを終えたネギとシンジとカモは、ホテル自慢の露天風呂へと足を伸ばしていた。
 「イギリスだと、こういう設備はなかなか無いでしょう?」
 「そうですね、僕、初めてですよ。外でお風呂に入るなんて・・・」
 カモはどこからか調達してきたおちょこで、すでに一杯楽しんでいたりする。
 「木乃香から聞いたけど、ネギ君はお風呂嫌いなんだって?」
 「はい。ウェールズにいた頃も、シャワーぐらいで・・・」
 「そっか。向こうは水の質が硬水だもんね。下手に浸かると皮膚がボロボロになるんだって?」
 とは言え、風呂嫌いのネギが満喫できる程に、ここの露天風呂は素晴らしかった。見上げれば満天の星空。岩肌には湯の花がついている。
 「でも日本では、ちゃんとお風呂に入った方が良いよ。汗をたくさんかく国だからね。みんなに『先生、汗臭い』って言われたくないだろ?」
 「う・・・」
 「それにちゃんと垢を落とした方が、体も大きく成長してくれるんだ。そう思えば、お風呂に入るのだって、そう悪い事じゃないと思わない?」
 むむ、と考え込むネギ。ネギはこれから成長期を迎える訳だが、それなりに背が大きくなって欲しいと言う願望は持っている。だからシンジの言い分には、心を動かされた。
 そこへカラカラカラという音がして、戸が開いた。
 「あれ?新田先生か瀬流彦先生かな?」
 お湯を体に掛け始めた人影に目を向ける一同。ところがそこにいたのは刹那であった。
 (何で!?ここは男湯じゃないんですか!?)
 (・・・どうも混浴だったみたいだね)
 (何でノンビリしてるんですか!)
 目尻から涙を噴水のように噴き出しながら抗議するネギ。シンジは落ちついているように見えるが、彼の場合は諦めに近い。
 (こうなったら、手は1つか)
 「聞こえる?桜咲さん?」
 「シンジさん!?」
 「良く聞いて。左手に大きな岩があるでしょ?そこからこっちへは来ないようにね。ここは混浴みたいだから」
 岩の向こうでは、刹那が混浴と聞いて顔を赤らめている。
 「風邪引いちゃうから、入った方が良いよ。こっちはもうすぐ出るから、気にしないで」
 「そ、そう言われましても・・・」
 「ちょっと相談しておきたい事もあってね」
 そう言われてしまうと、刹那としてもこの場を離れる事は出来ない。渋々とお湯の中に身を沈める。
 その一方で、シンジはネギの口に指をあてて、静かにするようにジェスチャーをした。
 「木乃香の護衛の件だよ。僕はネギ君のサポートもやらないといけないから、さすがに四六時中、張り付いている訳にもいかないんだ。女の子同士で行動するような時には、あの子の事お願いしたいんだよ」
 「ええ、それは言われるまでもありません。さすがに女湯までシンジさんに護衛をお願いする訳にはいきませんから」
 「ありがとう。あと詠春さんから、何か連絡は来てる?」
 「いえ、特には・・・」
 『ふーん』と考え込むシンジ。急に黙ってしまった事に疑問を持ったのか、刹那が口を開いた。
 「何か、気になる事でも?」
 「昼間の件だよ。あの式紙の主だけど、僕の知っている人かもしれない」
 思わず声を上げそうになるネギとカモである。だが慌てて自分の手で口を押さえた。
 「・・・詳しい事を教えて貰えますか?」
 「僕の陰陽術の師匠は2人いるんだよ。1人は長である詠春さん。ただ詠春さんは術よりも、気の制御方法が中心だったんだ。もう1人の人が破術や式神を教えてくれたんだけど、昼間の式神、どうも師匠と力の気配が似ているんだよ」
 「では、シンジさんの師匠が敵に回っていると?」
 「可能性はあるよ。あの人は西洋魔法使いを毛嫌いしていたからね。まだ20代半ばだけど、若手の中では有数の実力者だから油断はできないよ」
 ザバザバと音を立てて、顔を洗うシンジ。
 「得意な術の傾向とかは分かりますか?」
 「攻撃も防御も1人でこなす万能タイプ。戦闘方法は式神で時間を稼ぎつつ、術で遠距離攻撃。そういう意味では、良くも悪くも標準的な陰陽師だよ。外見は背中まで届く黒髪に丸い眼鏡をかけた、釣り目の女性。気性はかなり荒い方だね」
 「なるほど、参考になります」
 「十分気をつけてね。僕の知る限り、あの人は自分の気だけで、式紙を同時に複数扱う事が出来る。小型の低級な奴なら、10体ぐらいは余裕な人だからね」
 ザバーッと音を立ててシンジが立ちあがる。指でネギに『そろそろ出ようか』と合図を送ると、ネギもコクンと頷いた。
 「僕はそろそろ出るよ。それじゃあ、お先に」
 「はい、分かりました」
 そのまま更衣室に向かおうとしたシンジとネギだったが、そこで『ひゃあああ!』という悲鳴が聞こえてきた。
 「御嬢様!」
 「符を取ってくる!先に行ってて!」
 更衣室へ飛び込むシンジとネギ。脱衣所へ持ち込んでいた符と予備の杖を手にすると、すぐに露天風呂経由で女子更衣室へと向かおうとする。
 『御嬢様に何をするかああああ!』
 『さ、桜咲さん!?』
 『せっちゃん、助けて〜!』
 『待て!』
 更衣室から聞こえてくる騒ぎに、すかさず飛び込もうとするネギだったが、その肩をシンジが掴んで制止する。
 「早く行かないと!」
 「ネギ君。無暗に突撃しちゃだめだよ。中は乱戦中だからね。戸を開けて出てきた所を迎撃するんだ。捕縛は使える?」
 「は、はい!ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
 詠唱を始めるネギ。符を構えるシンジ。2人の前で、戸が勢いよく開け放たれた。
 「魔法の射手サギタマギカ戒めの風矢アエール・カプトゥーラエ!」
 「急々如律令!」
 更衣室から飛び出してきた無数の影は、ネギの捕縛とシンジの破術で纏めて無力化されてしまう。
 符へと戻る猿の群れ。同時に、木乃香が『キャッ』という可愛らしい悲鳴を上げながら、尻餅を着く様に地面へと落ちる。
 「御嬢様!」
 「木乃香、大丈夫!?」
 中から走り出てくる刹那とアスナ。『大丈夫やえ〜』と返す木乃香には、傷一つ無かった。
 「シンジさん!」
 刹那の鋭い叫びに、ハッと振り返るシンジ。だがガサガサという木の葉の揺れる音だけが残っていた。
 「・・・いや、追うだけ無駄だよ」
 ザバザバとお湯の中を歩きながら、シンジが湯船に落ちていた人形を摘みあげる。そこに残っていた、良く知る気配にシンジは眉を顰めた。
 「・・・確定か・・・やりにくいなあ・・・」
 舌打ちしながら、シンジが顔を上げる。『大丈夫か?』と声をかけようとしたシンジだったが、目の前の少女達が硬直している事に気がついた。
 アスナも木乃香も刹那も、顔が耳まで真っ赤である。
 「どうしたの?」
 「お、お兄ちゃん。あのな・・・下、見てな・・・」
 言われた通り下を見るシンジ。そこには、腰に巻かれていた筈のタオルがどこかに消えていた。
 非常に気まずい時間。シンジは後ろを向くと、無言でネギとともに露天風呂を経由して男湯へ戻っていく。
 さすがにアスナも刹那も、呼びとめようとはしない。結果として裸を見られた怒りよりも、色々と目撃してしまった衝撃の方が大きかったのである。
 「桜咲さん、あと宜しく」
 岩の向こうから聞こえてきたシンジの声に、ハッと正気に戻る刹那。
 「あと宜しく、って、私にどうしろと言うんですか!」
 刹那の腕の中では、嬉しそうに微笑む木乃香がいた。

入浴後―
 シンジとネギは、アスナやカモとともに木乃香から刹那との過去について話を聞いていた。
 場所は夕方に作戦会議を練った、ホテルの休憩所である。
 「お兄ちゃん、ウチ、何か悪い事したんかなあ。ウチは小さい頃みたいに、せっちゃんと仲良くしたいだけなんよ・・・」
 目尻に涙を浮かべて訴える妹に、シンジは黙って頭を撫でてあげる事しかできない。刹那は木乃香を本当に大切に思っているからこそ、護衛をしているのだが、それを言う訳にはいかなかった。
 護衛の目的。それは木乃香に秘められた、膨大な魔力を悪用されない為なのだから。
 それを話すと言う事は、木乃香を魔法の世界に関わらせると言う事である。
 「木乃香さん、桜咲さんは木乃香さんの事を嫌ったりなんてしてませんよ。もし嫌ってるなら、木乃香さんの悲鳴を聞いて、助ける為に飛び込んだりなんてしません!」
 「ネギの言う通りよ!私だって桜咲さんとは、あまり仲が良いとは言えない。でも桜咲さんは、本当に木乃香の事を心配してるわよ」
 「そうなんかなあ・・・ウチ、嫌われとるんやないかと不安で・・・」
 ショボンと肩を落とす木乃香。アスナやネギも慰めようと必死である。だが木乃香の傷心を癒やすまでには至らない。
 「木乃香。桜咲さんは不器用なんだよ」
 「・・・お兄ちゃん?」
 「たまにいるだろ?他人から褒められたり、良い人だと思われるのが苦手な人って」
 コクンと頷く木乃香。
 「桜咲さんも、そういう性格なんじゃないかな?相手が極度の恥ずかしがり屋だと思えば、打つ手はあるよ」
 「ホンマ?」
 「ああ、あるよ。あとで作戦を練ろうか」
 『うん!』と頷く木乃香に、とりあえずは持ち直したかと、安堵するネギとアスナである。
 「じゃあ、先に僕の部屋で待っててくれるかな?桜咲さん攻略の為に、必要な情報集めてくるから」
 「分かったえ!早く来てな!」
 タッタッタッと走っていく木乃香。
 「さて、桜咲さんに話を聞きに行きますか」

 ホテル内の至る所に式神返しの符を張っていた刹那は、シンジ達に強制連行されて、木乃香との事情について説明をしていた。
 「・・・と、そういう訳なんです」
 刹那の過去。それはたった1人の友達だった木乃香が川に落ちた時に、助ける事が出来なかった事であった。その時のような思いをしない為に、刹那は必死で神鳴流を身につけてきたのである。
 「私は御嬢様さえ無事なら、他には何もいらないんです。例え周りから裏切り者呼ばわりされても構いません」
 「・・・まあ、いいわ。桜咲さんが木乃香の事を嫌っていない事が分かっただけでも十分よ!私も協力するわ!」
 刹那を元気づけるように、背中を叩くアスナ。刹那も恥ずかしそうに笑う。
 「まあ桜咲さんにも理由があるとは思ってたけど・・・」
 「シンジさんにもご迷惑をおかけしました」
 「それは別に良いよ。僕は木乃香の兄として動くだけだから」
 その物言いに『また何か企んでるな?』と疑念を持つアスナと刹那である。
 「それはそうと、桜咲さん。木乃香の式神は作れるかな?」
 「それぐらいは可能ですが」
 「じゃあ木乃香が僕の部屋にいる事を確認したら、式神を5班の部屋に送っておいて欲しいんだ」
 ネギとアスナは『どういう事?』と互いに顔を見合わせるばかりである。だが刹那はシンジと付き合いが長い分、その思惑に気付く事が出来た。
 「・・・今夜、襲撃があると?」
 「考えてみたんだけど、昼間、音羽の滝でお酒を飲まされただろう?」
 「ええ、かなりの人数がダウンしましたね」
 酔い潰れたのは3−Aの3割以上にも上る。更に言うなら、5班ではのどかとハルナが犠牲となって眠りこんでいる。
 「いくら飲んだのが女子中学生とは言っても、水で薄めた日本酒であそこまで眠る事は無いよ。これは勘だけど、睡眠薬が混じっていた可能性がある」
 「何の為に!?」
 「夜中に忍び込んで、攫い易くする為じゃないかな?陰陽師だから術は使えても、誘拐のプロじゃないんだ。そう考えれば、納得できるだろう?」
 普通に眠っている所に忍び込めば、勘の良いメンバーなら起きてしまう。だが薬で眠っているとなれば、話は別である。
 「時間的な面からも裏付けは取れる。清水寺の見学時間は14時から16時。15時に睡眠薬入りのお酒を飲んだとして、薬の効果時間を8時間とみても23時までは薬が効いている事になる。中学生はまだ体がしっかり成長しきっていない分、アルコールとの相乗効果もあって、薬は強く効く筈だ」
 「で、ですがシンジさん。それならお風呂場での襲撃は?」
 「本命は泥酔して眠りこんでいる生徒がどれぐらいいるのか?それから魔法関係者がどれだけいるのかという偵察だったんだと思う。運良く木乃香を攫う事が出来ればラッキー、そんなつもりだったんじゃないかな。それなら、強気な師匠がさっさと撤退したのも納得できるよ」
 静まり返る一同。強硬派がどれだけ本気で木乃香を狙っているのか、今更ながらに思い知らされていた。
 「今晩の防衛作戦を説明するよ。まず5班の部屋に、囮となる木乃香の式神を設置。神楽坂さんは、僕と一緒に本物の木乃香を護衛してもらう。ネギ君と桜咲さんは、向こうの思惑に気付いていない振りをして、予定通りパトロールをして欲しい。5班の部屋に異常があったら、お互いに連絡をいれて、ある程度距離が離れた所で、攫われた式神を本気で取り返すつもりで攻撃を仕掛ける」
 「・・・何ですぐに反撃しないんですか?」
 「師匠の性格なら、近場で失敗すれば確実にもう一度来るからだよ。だからバレるならできるだけ遠くで、バレるようにしたいんだ。今日はもう止めとこうって思うぐらいにはね」
 シンジの言葉に、ネギ達は一斉に頷いた。



To be continued...
(2012.01.07 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回から修学旅行編の開始となります。まだ序盤ですのでスロースタートではありますが、序盤故という事でご容赦下さい。
 話は変わって私事ではありますが、大晦日の日にPCが永眠してしまいました。年末年始は仕事で休めないので、予備として確保しておいたVistaを使っていたのですが、とことん使いにくかったです。celeron処理、遅すぎやねんw
 そして4日に待望の新PCを購入。Avast入れてOffice入れて準備万全!と思いきや、いきなりPCフリーズw何度やっても、ソフトリセットは効かず、強制終了の嵐w初期不良じゃあ〜と翌日にコールセンターへ連絡して、OSの再インストールで直りますよ?と言われて、買ったばかりのPCを一から全てやり直しw色々な意味で、デンジャラスなお買い物でした。義理でPCの保険入っておいたんですが、正解だったかもしれませんwまたぶっ壊れそうだしw
 それでは、雑談はこの辺りで。また次回も宜しくお願いいたします。



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