第十八話
presented by 紫雲様
シンジ・ネギの部屋―
木乃香の相談に乗るという名目で、シンジはアスナや夕映とともに『真剣に』刹那攻略の作戦を練っていた。
何故、夕映がいるかと言うと、5班メンバーのうち、のどかとハルナは爆睡中。木乃香はアスナとともにシンジの部屋。刹那はホテル内巡回中で、部屋に1人きりになってしまうからである。
修学旅行の夜に、1人で起きている等、これほど寂しい物は無い。
そこで木乃香に誘われた夕映もまた、刹那攻略アドバイザーとして参加する事にしたのであった。
そんな難攻不落(?)な攻略対象である刹那はホテル内を巡回しつつ、15分に1度ぐらいの割合で5班の前を通るように警護ルートを組んで実行している。ネギはホテル外の巡回の為に、20分ほど前に席を外していた。
「お兄ちゃん、ホンマに上手く行くかな?」
「大丈夫だよ。騙されたと思ってやってみれば良いさ。何なら神楽坂さんを練習相手にしてみる?」
「ちょ、ちょっと!何でアタシ!?」
慌てるアスナに、『それもええな〜』と乗り気な木乃香である。
「さあ、行ってみよう!素直になれない桜咲さんで」
「シンジさん!私を玩具にしないでよ!第一、素直になれないというなら夕映ちゃんの方が適任じゃない!」
「何故、そこで私ですか!?」
いきなり矛先を向けられて、慌てだす夕映である。ホテル内で販売されていた『宇治抹茶クリームソーダ・濃縮還元』味と言う珍妙なジュースを手にしながら、必死で抗議する。
「こういうのは、常に言いだしっぺが責任を取ると相場は決まっているのですよ!」
ビシッとシンジを指差す夕映。対するシンジはと言えば、口元をニヤッと歪ませる。
「ほほう。僕に素直になれない桜咲さんを演じろと?間違いなく爆笑の渦に飲み込まれて練習にならないと思うんだけどな」
思わず刹那の真似ごとをするシンジを想像する3人。次の瞬間、揃ってお腹を押さえて苦しそうに笑いだした。
「まあ、御希望とあれば・・・『御嬢様!木乃香御嬢様!』」
「や、止めるです!あまりにも不気味すぎるですよ!」
「シンジさん!無理に裏声ださないで!」
「あはははは!」
ノックダウンする少女達。どう贔屓目に見ても、シンジでは練習台にならない事を、嫌と言うほど実感した3人である。
その時、シンジが持っていた携帯電話に空メールが入った。送り主は刹那である。それに僅かに遅れて、アスナにも同じく空メールが送られてきた。
それは、木乃香に似せた式神が移動中である事を示す符徴である。
「もうそろそろ寝た方が良さそうだね。時間も時間だし、何より僕も巡回に出ないとね」
「あ〜ん、そんなあ〜!」
「大丈夫だよ。とりあえずさっき教えた通りにすれば、問題無いから」
スッと立ち上がるシンジに、残念そうな木乃香である。刹那攻略も大切だが、よほどこの時間が気にいっていたようだった。
「神楽坂さん、悪いけどネギ君を探してくれる?どうも電源、切っちゃってるみたいでね」
「良いわよ、それじゃあ行ってくるね」
「ありがとう。それじゃあ、今日はお開きにしようか。木乃香もおでこちゃんも、そろそろ寝ないと大きくなれないぞ?」
木乃香と夕映を5班の寝室にまで送り届けると、シンジは先行しているアスナとの合流ポイントである屋上へと向かった。
「シンジさん!」
「お待たせ。すぐにネギ君へ追い付くよ。準備は良い?」
コクンと頷くアスナの前で、仮契約カードを取りだすシンジ。
「来れ 」
2人の前に姿を現す『空翔ける者 』に、アスナは驚いて声も出ない。
「神楽坂さん、乗って。ネギ君のところまで飛ぶよ」
「う、うん!」
アスナが乗り込んだのを確認すると、シンジは『空翔ける者 』に指示を出す。
「目的ポイントはマイ・マスター。すぐに向かえ」
フワッと浮き上がる『空翔ける者 』。そのまま高速でホテルを後にした。
その頃、ネギと刹那組―
『お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす』という言葉で術を展開し、足止めをしながら逃走を続ける女性の素生に、2人はすぐに気がついた。なぜなら、シンジから聞いていた外見に、合致していたからである。特に下級とは言え、複数の式神を操る敵の技量に、刹那は内心で舌を巻いていた。
だが何よりも驚いたのは、敵の創意工夫である。陰陽師は気を操るので、身体能力も気を利用すれば、常人を超える事は可能である。だが基本となる身体能力は常人と対して変わらないので、強化するにも限度がある。
例えば、基本的な身体能力はシンジは常人と変わらない。そんなシンジが真帆良で茶々丸の手加減抜きの一撃に耐え抜く事が出来たのは、シンジの気の容量が規格外だったからに他ならない。
並みの陰陽師の身体能力を1と仮定した時、気によって陰陽師は1.5倍、2倍という様に身体能力を強化する。その倍率が、シンジの場合は桁外れなのである。莫大な気の容量に物を言わせて、力技で10倍、15倍という様に異常な身体強化を成し得ていた。
ところが目の前の敵は、自分自身に巨大な猿の式神を纏わせる事で、刹那達の追撃から逃げ切れるほどの身体能力を手に入れていたのである。
身体能力の強化倍率は他の陰陽師と同等かもしれない。
だが基本となる身体能力を、式神を纏う事によって1ではなく3や5としてしまえば話は大きく変わってくる。
「まさか、式神にそんな使い方があったとは・・・さすが、シンジさんの師匠だけはありますね」
「はい、とんでもない速さですよ。僕の杖でも追いつくのがやっとだなんて」
人払いの結界が張られた駅へ飛び込む逃走者と追撃者。電車に飛び乗るなり、女は札を放った。
「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす」
ゴバアッという音とともに、車内が瞬時に水で埋め尽くされていく。その術の展開速度と水量は、何よりも雄弁に術者の力量の高さを物語っている。
「逃がすかあ!斬空閃!」
夕凪を振るい、連結部分の戸を破壊する刹那。逃げ場を求めていた大量の水が、今度は術者目がけて襲いかかった。
そこへタイミング良く、電車がホームへと滑りこむ。同時に開いたドアから、大量の水とともに3人はホームへ流された。
「み、見たか!そこのデカザル女!」
「ハアハア、なかなかやりますなあ。シンジさえいなければ、何とかなると思ってたんやけど、意外な伏兵やったわ」
その言葉に、ネギも刹那も覚悟を決めた。間違いなく、目の前にいるのはシンジの師匠であると確信したからである。
「やはり、貴女がシンジさんの師匠なんですね」
「その通りや。うちが一番恐れているのは、あの子の知略やったからな。けど木乃香御嬢様さえ手に入れてしまえば、こっちのもんや!」
そう言うなり、駅の外へと飛び出してく敵を、刹那とネギは必死で追いかける。だがこのままでは逃走しきれないと判断したのか、女は纏っていた式神を分離して、階段の上で2人を待ち伏せていた。
「・・・貴女は!新幹線の売り子さん!」
燕の式神を追っていた最中に、ぶつかりそうになった売り子を思い出したネギである。
「よう、ここまで追ってこれましたな。でもそれもここまでですえ。お札さんお札さんウチを逃がしておくれやす」
「させるか!」
瞬時に間合いを詰めようとする刹那。だがそれよりも術の展開の方が早かった。
「食らいなはれ!三枚符術京都大文字焼き!」
ボウンッという爆音とともに、階段を『大』の字に炎が包み込む。その火力の凄まじさに、さすがの刹那も二の足を踏んでしまった。
「ホホホ、並みの術者ではその炎は越えられまへんえ。ほなさいなら」
「急々如律令!」
バフンッという音とともに、鎮火する炎。その後に残っていたのは、大の字の焼け焦げた跡である。
「この術は!」
「千草師匠。西洋魔法使いを毛嫌いするのは御自由ですが、少々、やりすぎじゃありませんか?」
そう言いながら『空翔ける者 』で降り立つシンジとアスナ。『去れ 』という声とともに仮契約カードへと姿を戻す。
「久しぶりやなあ、シンジ。元気そうで何よりや」
「ええ、元気ですよ。こうして夜中に鬼ごっこを楽しめるぐらいには元気です。これも全て、師匠のおかげですよ」
「フン、それは皮肉か?」
「何で僕が師匠に皮肉を言わないといけないんです?第一、師匠が教えてくれたんじゃないですか。別れ際に『年相応の対応をするんや』ってね」
ネギや刹那達には、シンジが何を言っているのか全く理解できない。だが千草だけは違った。千草は、ある事を危惧したが故に、最後にアドバイスをしたのである。
「・・・お前は何も変わっとらんのやな。うちは表面だけ取り繕わせようと思って、お前にアドバイスをした訳やない!」
「まあ、0に何をかけても0ですからね。それが現実です」
「シンジ・・・何でや・・・何でお前は救われないんや・・・」
初めて千草が、悲しそうに顔を歪ませた。弟子を救えなかった、そして今もなお、弟子が救いを手に入れていない現実に、千草は改めて自らの無力さを感じたのである。
悲しみに歪んだ顔に、ネギ達は絶好の隙を突く事も出来ず、困惑した様に動きを止める。
だが千草は、顔を左右に振ると、悲しみを振り払って毅然とした表情を作った。
「シンジ。西へ戻ってくるんや。お前の居場所は、師匠であるウチが作ってやる。他の連中には文句は言わせへん!」
「ダメですよ。そんな事になったら、木乃香が犠牲になりますからね。木乃香も含めて、3−Aメンバーは全員、僕にとっての弟妹なんですよ」
その言葉に、千草が思わず体を強張らせた。
「・・・弟妹、やって?」
「はい、そうです。だから僕は、師匠と敵対するつもりでここにいるんです」
「クク・・・そうか、そうやったか!」
面白そうに笑い声を上げる千草に、ネギ達がギョッとして身構えた。
「訂正や、シンジ。お前は確かに0やった。せやけど、お前は足す事が出来たんやな」
「師匠、何を言っているんですか?」
「気づいていないなら、それでもええわ。だがここからは師匠と弟子やない。互いに争う敵同士や!」
その声とともに千草は式神に命令を下した。
「行け!」
可愛らしい外見の大猿の式神が、刹那とネギ目がけて襲いかかる。シンジ相手だと、式神では相性が悪い事を見越した上での判断である。
猿を迎え撃つ刹那。だがそれよりも早く、ネギが動いた。左手にはアスナの仮契約カードを持っている。
「契約執行 180秒間 !ネギの従者 『神楽坂明日菜 』!」
契約執行の援護を受けたアスナが、咄嗟にネギへ接近を試みようとしていた大猿に飛び蹴りを放って接近を封じる。
「アスナさん!アスナさんだけが使える『ハマノツルギ 』という専用アイテム を出します!多分、武器ですから使って下さい!」
「武器!?よし、ちょうだい!」
「能力発動 !神楽坂明日菜 !」
魔力が風と共にアスナの手の中に凝縮していく。その力の凄まじさに『これはとんでもない武器かも!』と期待するアスナ。
だが現れたのは―
「ネギ!私にハリセンでどうしろって言うのよ!」
「あ、あれ?」
「えーい!もうどうにでもなれえええ!」
とりあえず契約執行は発動しているのだから、いざとなれば素手でぶん殴ってやれ、と開き直ったアスナは、猿鬼目がけてハリセンを振り下ろす。同時に刹那は熊鬼目がけて夕凪を振るった。
刹那の夕凪は熊鬼の爪に絡め取られて、式神を撃破するまでに至っていない。しかし猿鬼の額に、アスナのハリセンは命中していた。
「間抜けなのは外見だけです!気をつけて下さい!神楽坂さん!」
警告を発する刹那。しかし刹那とアスナの目の前で、猿鬼はその姿を消滅させてしまった。
「う、ウチの猿鬼が!」
「分かった!姐さん、そのハリセンは旦那と同じなんだ!魔法を無効化できるんだよ!」
カモの叫びに、ギョッとする千草。一方のアスナはと言えば、自分が千草の天敵となりうる事を理解して、士気が上がる。
「よっしゃあ!良く分からないけど、その熊は私に任せて!」
「は、はい!」
刹那もアスナの力を理解し、その場を任せて離脱する。目標は千草である。
「もらった!」
「え〜い」
飛びかかった刹那だったが、頭上からの襲撃を受けて咄嗟に剣筋を変える。その衝撃で刹那は後ろへ飛び退き、襲撃者は千草の方へ『きゃあああ』と声を上げながらゴロゴロと転がった。
「この剣筋!神鳴流か!」
「あいたた・・・どうも〜神鳴流です〜おはつに〜」
刹那に襲撃を仕掛けたのは、刹那よりも幼く見える少女だった。良家の御嬢様風の装いに、楕円の眼鏡。両手に持つ小太刀と短刀さえ無ければ、十分に箱入り娘で通る容貌である。
「月詠いいます〜神鳴流の先輩さんみたいですけど、護衛に雇われたからには本気で行かせていただきます〜」
相手の気合いを削ぐような、間延びした喋り方に刹那の気が殺がれる。
「こ、こんなのが神鳴流とは・・・」
「甘く見ると怪我しますえ?ほなよろしゅう、月詠さん」
「では行きます。ひとつ、お手柔らかに〜」
そう言うなり、月詠は一瞬で刹那の懐へ飛び込んでいた。自分が見た目に誤魔化された事に気付いた刹那が慌てて迎撃に移るが、一度機先を制されては、戦いの流れを変えるのは難しい。
「クッ!」
「神鳴流は化け物退治の為に、バカでかい野太刀を使てるさかい、いきなり小回りの効く二刀の相手をするのは骨やろ?」
千草の言葉に歯噛みする刹那。その一方で月詠は、相変わらず間延びした声で『ざーんがーんけーん』と言いながらコンクリートの階段を一撃で砕いてしまう。
一方のアスナも、戦いのプロではない素人ゆえに、低級の式神による人海戦術に飲みこまれて、思うように戦えないでいた。
「所詮は素人中学生と見習い剣士や。シンジ、お前の知略も駒が悪ければ役に立たんようやな」
「まあ否定はしませんよ。確かに駒が悪ければ、策は使えない。でもそれならそれに応じた策を用意すれば良いだけの事です」
「何やて?」
勝ち誇っていた千草が、思わずシンジに目を向けた。
「兵法の基本は、強兵を基準とした策を練る事ではありません。弱兵を基準とした策を練る事が一番大事なんです。それに言わせていただきますが、僕はこの場にいる3人が、弱兵等とは欠片も思っていません。ネギ君!」
「はい!ラス・テル・マ・スキル・マギステル!風の精霊11人 !
ネギの肩でカモが『やっちまえ!兄貴!』と叫ぶ。
「縛鎖となりて 敵を捕まえろ !」
「ああ!ガキを忘れてた!」
「遅いです!魔法の射手 !戒めの風矢 !」
11本の風の鎖が千草目がけて飛ぶ。
「あひいっ!お助けえ!」
思わず抱いていた木乃香を盾にする千草。木乃香に11本の風の鎖が巻きついていく。そして―
ボンッ!
「な、何や!式神やと!」
今まで捉えていた木乃香が、式神だったと知って唖然とする千草。その叫びに、今まで刹那を一方的に攻めていた月詠も、思わず攻撃の手を緩めてしまう。
「千草はん〜どうします〜?」
「ど、道理で気を纏っていた筈や!生まれながらに膨大な気を持つ御嬢様やから、眠っていても気を放っているんやとばかり思い込んどったら!・・・シンジ!ようウチを謀ったもんや!月詠はん!今日は引き上げるで!」
「はい〜了解です〜ほなな、先輩〜」
迷わず撤退を選ぶ千草。月詠に殿を任せつつ、闇の中へと姿を消していく。月詠も、刹那に追撃の意思が無い事を察したのか、背中を向けると即座に千草を追いかけた。
それを見送りながら、刹那は夕凪を鞘へと納めつつシンジに視線を向ける。
その視線の意味を察したシンジは、クスッと笑いながら種明かしをした。
「木乃香が京都を離れて、麻帆良に来たのは小学校に上がった頃。つまり今から8年前だ。その頃の師匠は、復讐の為に厳しい修業に明け暮れていて、木乃香に接触する程、心の余裕は無かった筈だよ。仮に木乃香に接触していたとしても、桜咲さんと木乃香の気の波長を識別出来る程、親しくしていた筈がないからね」
「それで、私の式神を利用したんですか?ですが、もしバレたら、どうするつもりだったんですか?式神が術者の気を纏うのは、陰陽師なら誰もが知る常識ですが」
「確率的にそれは低かったと思うよ。師匠にしてみれば、木乃香は生まれながらにして規格外の気を持つ、近衛の血統の申し子であり、全く修業をしてない素人なんだ。もし式神が僕の気を纏っていればバレただろうけど、桜咲さんの気なら話は別だ。だから寝ていても気をダダ漏れにするほどとなれば、逆に利用するには絶好の鴨!と納得してしまっただろうからね」
完全に千草の心理を読み切ったシンジの罠に、刹那は肩を竦めながら、ネギは『すごいなあ』と感嘆の溜息を吐く。
「とりあえず、問題解決、という所でしょうか?」
「まだ解決してないわよ!」
「ああ!アスナさん!」
両目の端から涙を噴水の様に吹き出しつつ、ハリセンを振い続けるアスナが猛抗議する。
千草に取り残された子猿の式神を消滅させるのに、もうしばらく時間が必要だった。
翌朝、修学旅行2日目。朝食前の出来事―
1班:班長柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子、鳴滝風香、鳴滝史伽の場合
シンジの訪問を受けた美砂は、シンジが口にした頼み事に、寸分の躊躇いも無く頷いていた。
「面白そうじゃない、クギミーは?」
「別に良いよ・・・うう、気持ち悪い・・・」
「うああ・・・何でこんなに・・・」
昨日の一件による後遺症なのか、円と桜子は軽い二日酔いのような症状を示していた。
「お姉ちゃん・・・頭が痛いよ〜」
「史伽、お願いだから静かにして〜」
いつもは元気な鳴滝姉妹も、同じ症状で苦しんでいる。そんな4人に、シンジは笑いながら手土産のスポーツドリンクを手渡した。
「これ飲みなよ。少し経てば楽になるから」
「「「「ちょうだい!」」」」
よほど二日酔いが辛いのか、群がる4人である。
「それじゃあ、柿崎さん。さっきの件は頼んだよ」
「任せてちょうだい!たっぷり楽しませて貰うから!」
2班:班長古菲、春日美空、超鈴音、長瀬楓、葉加瀬聡美、四葉五月の場合
シンジの訪問に対応したのは、楓であった。
「シンジ殿。どうされたでござるか?」
「ちょっと3−A全体の協力が必要でね。2班のメンバーに説明したいんだ。時間を割いて貰えないかな?」
「それなら構わぬでござるよ」
昨日の一件で酔い潰れたのは古菲1人である。症状は軽いようだったが、それでも違和感があるのか、どことなく調子が悪そうであった。
「おはよう。古菲さん、これどうぞ。二日酔いの特効薬」
「二日酔い?」
「昨日の音羽の滝。あの水にお酒が混じっていたんだよ。そのせいで古菲さんは二日酔いと言う訳。二日酔いによる頭痛の原因は発汗による水分不足だから、スポーツドリンクは特効薬なんだよ」
へえ、と感心する五月と美空。古菲はスポーツドリンクを手にすると、ゴクゴクと飲みほしていく。
「それで、ちょっと相談があるんだ。実は・・・」
シンジの頼みに、一番強い反応を示したのは超である。
「面白そうネ。私は一肌脱ぐヨ。みんなはどうネ?」
「拙者は構わぬでござるよ。にんにん」
「私も良いかな、面白そうだしね」
アッサリと首を縦に振る楓と美空。
「まあ、みなさんが納得されているのであれば・・・」
「・・・悪い事ではないですしねえ・・・」
『まあ付き合いますか』と言った感じの聡美と五月。少なくとも、シンジがやろうとしている事は、犯罪でも無ければ、道徳的に責められる事でもなかった。
「ふう、何となく楽になった気がするアルよ」
「早いな、おい」
「恩は返す物ネ。私は協力するアルよ」
3班:班長雪広あやか、朝倉和美、那波千鶴、長谷川千雨、村上夏美、ザジ=レイニーデイ、相坂さよの場合
シンジから二日酔いの特効薬として手渡されたスポーツドリンクを飲みほしたあやかは、困ったように考え込んでしまった。
「確かに、問題はありませんが・・・」
「木乃香の為にも協力してほしいんだ。頼むよ」
決断しきれずに、周囲に助けを求めるあやか。最初に目を向けたのは、千鶴である。
「私は構わないと思うわよ」
「ちづ姉がそう言うなら、私も・・・」
「面白そうじゃん!私は乗るよ、シンジさん!」
「私も協力しますね〜でも、出来る事あるかなあ?」
千鶴、夏美、和美、さよが立て続けに参加を表明する。さよが3班にいるのは和美とさよの波長がピッタリあい、和美でもさよの基点になれた為である。
ちなみに基点となるだけなら刹那やアスナ、真名や楓でも可能だと言う事が、実験の結果判明している。
気の使い手である事が条件なら、どうして和美も基点になれたのか?シンジは首を捻っていたが、今の所、その答えは出ていない。
「面倒臭いなあ・・・でもまあ、座っているだけで良いんだろ?」
「そう言う事。あとはこっちで動くからね」
「それならいいぜ」
消極的賛成という立場で参加を表明する千雨。あやかの視線は、最後に残ったザジへと向かう。
「ええ!ザジさんも参加するのですか!?」
「・・・」
「ザジさん、助かったよ。ありがとう」
「・・・」
「ザジさん、やっぱり優しい方なんですねえ」
「・・・」
「仕方ありませんわね。私も参加しますわ」
((((どうやって会話してるんですか?ザジさんと))))
4人の質問は胸の内に止められていた為、彼女達がその答えを手にする事は無かったと言う。
4班:班長明石裕奈、和泉亜子、大河内アキラ、佐々木まき絵、龍宮真名の場合
応対に出たのは真名であった。
「寝起きの女の子を見に来たのかい?近衛さん」
「違うって。ちょっと4班全員に頼みたい事があるんだ。それと佐々木さんと和泉さんと明石さんは二日酔いの筈だから、これを飲ませてあげて」
ズイッと手渡されたスポーツドリンクを手に、真名が一度室内へ戻る。だがすぐに戻ってきて、シンジに入室の許可を出した。
「ありがとう。追い返されなくて良かったよ」
「心当たりがあるのなら、もう少し悪巧みを減らして欲しいものだ。それより、用件を聞こうか」
単刀直入に入った真名に、シンジもストレートに答えを返した。
「・・・と、いう事なんだよ」
「ほ、本気かい?近衛さん」
「うん本気。責任は僕が取るよ。ちなみに3班までは全員参加決定済み。5班も彼女以外は参加するだろうね」
むう、と考え込む真名。その後ろからアキラが声をかけてきた。
「私は協力するよ。近衛さん」
「ありがとう。あとは二日酔い組だけど」
「そ、そんな通称は嫌だよ〜」
二日酔いと戦いながら、裕奈が必死で抗議する。
「昨日の夜は騒げなかったから・・・その分、朝ご飯で楽しませて貰うよ」
「そうだよねえ・・・」
「私も良いかな。誰か困る訳じゃないんだし」
あっという間に真名以外の参加が表明された。慌てたのは真名である。
「ちょ、本気か!?」
「さあ、あとは龍宮さんだけだよ?それとも龍宮さんは、彼女の事が怖いのかな?」
ピクンと反応する真名。その反応に、裕奈が『おお!武道四天王のタツミーを挑発するなんて!』と感嘆の声を上げる。
「ふふ。その程度の安い挑発に乗ると思ったか?残念だが近衛さんの提案は」
「そっか。じゃあ新しく考えついたフルーツ餡蜜の試食は、龍宮さん以外全員に頼むとするか」
「待て!それは明らかな嫌がらせだろう!」
猛抗議する真名。その姿に今度はアキラが『弱点を突いた兵糧攻めで来たか・・・』と感心したように頷いている。
「美味しいだろうなあ。今度、業者さんからマンゴーを格安で仕入れさせて貰える事になったんだよね」
「「「「おおおおおお!」」」」
歓声を上げる4班メンバー。1人取り残された真名は、悔しそうに敗北を認めた。
5班:班長神楽坂明日菜、綾瀬夕映、近衛木乃香、早乙女ハルナ、桜咲刹那、宮崎のどかの場合
刹那が朝の稽古と称して、ホテルの屋上で夕凪を振っている間に、シンジは5班の部屋を訪れていた。
「来たわね、シンジさん」
「おはよう。ネギ君はもう来てるかな?」
「いるですよ、さあ、入って下さい」
中に入るシンジ。そこには刹那以外の全員がいた。
「おはようございます、シンジさん」
「おはよう、ネギ君」
とは言え、すでに昨夜のうちに、アスナ、夕映、木乃香は打ち合わせ済み。あとは二日酔い状態ののどかとハルナだけである。
とは言え、この2人が反対する事など絶対にあり得ない。のどかの場合はネギと夕映が参加を表明しているし、ハルナの場合はシンジが発起人だからである。何より木乃香の為のショック療法である以上、躊躇う理由はどこにも無かった。
「木乃香。下拵えは済ませておいたからね。思う存分、甘えてきなさい。これは兄としての命令だよ。責任は全部、僕が取るから」
「分かったえ〜おおきに、お兄ちゃん」
ニコニコ笑う木乃香である。
「そうそう、宮崎さんと早乙女さんもこれ、飲んでおいてね。二日酔いが楽になるから」
「あ、ありがとうございます・・・」
素直にスポーツドリンクを飲み始めるのどか。ハルナはしばらく考えていたようだが、ニヤッと笑みを浮かべた。
「シンジさん、私、飲ませて欲しいなあ・・・そうじゃないと、ここから動けないかもしれないよ?」
ブッとジュースを噴き出す夕映。のどかは『あわわわ』と意味不明の声を上げる。アスナ、ネギ、木乃香は顔を赤らめてシンジの出方を窺った。
「ん?別に良いよ」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げるハルナ。その前で、部屋に置かれていた湯呑茶碗に、スポーツドリンクをトクトクと注いでいく。
「はい、口開けて」
「え?ちょ、ちょっと!?マジ!?」
「自分で言っておいて何言ってるのさ。はい、口開けて」
挑発したのは良いが、この切り返しを予想していなかったハルナはワタワタと慌てだした。慌てて周囲に視線で助けを求めるが、誰も手助けはしない。無言で唾を飲み込むばかりである。
「しょうがないなあ」
ハルナの右横に移動するシンジ。そのままハルナの顔を抱え込むように左手を頭の後ろへ回して、ハルナの顔を左胸に押し当ててしっかりとホールドする。
シンジの胸から聞こえてくる心音に、顔を真っ赤にして混乱状態に陥るハルナ。そこへスポーツドリンクの入った湯呑茶碗が口に近づけられる。
「&●$〒*☆g@!」
「「「「「うわあ・・・」」」」」
その後、二日酔い以外の原因で歩けなくなったハルナは、シンジに背負われたまま朝食の会場へ向かった。何でそうなったのか3−Aメンバーは口々に問いかけたが、アスナ達は顔を赤らめたまま、決して口を開こうとはしなかった。
3−A朝食会場―
刹那はお盆を手にしたまま困り果てていた。何故かと言うと、彼女がゆっくりと座る席が無いからである。
座るだけなら木乃香の席の両隣が空いていた。だがそこに座る訳にはいかない刹那である。
「た、龍宮。頼む」
「・・・すまない。今回ばかりは、お前の力になってやれないんだ・・・」
刹那が助けを求めたのは、戦場で背中を預け合う真名であった。だが真名は、意識して刹那と視線を合わせようとしない。
「か、神楽坂さん!」
「ごめんね、私まだ眠くて・・・」
欠伸を噛み殺すのに必死なアスナでは無理と判断し、他の候補者を探す刹那。
「クッ・・・ならば、長瀬さん」
「申し訳ないでござる。風香殿と史伽殿の傍にいないといけないでござるよ。にんにん」
修行の一環として、世界樹防衛戦に顔を出すようになった楓に助けを求めたが、楓は双子の世話を理由にして笑いながら断る。
「な、ならば!雪広さん、頼みます」
「申し訳ありません。私は・・・」
そこでクイクイとザジがあやかの袖を引く。
「そうです!私はザジさんのお世話をしないといけないんですの!」
((((((ナイス、ザジさん!))))))
ザジのファインプレイに、3−Aメンバー全体が心の中でサムズアップする。
「な、ならば恥を忍んで!古菲さん、同じ馬鹿レンジャーとして席を代って下さい!」
刹那の必死さに、ついに周囲から失笑が漏れる。だが古菲は首を左右に振った。
「申し訳ないアルね。私、日本語、分からないアルよ」
「「「「「「オイオイ」」」」」」
古菲の言い訳に、一斉にツッコム3−Aメンバー。そこへ刹那の背後から声がかかった。
「分かった分かった。僕の席に座りなよ。木乃香の隣には僕が座るから」
「い、良いんですか!?」
「良いよ。こっちおいで」
朝食の載ったお盆をもって、シンジの後についていく刹那だが―
「・・・あの・・・シンジさん?」
「僕の席はここだよ。はい、どうぞ」
わざわざ椅子を引いて座るように促すシンジ。そう、シンジの席は木乃香の両隣の内の1つであった。
硬直する刹那。そんな刹那の手からお盆を取ってテーブルに載せると、シンジは力任せに刹那を椅子に座らせる。
「シ、シンジさん!?」
「木乃香。桜咲さんは調子悪そうだから、面倒見て貰っても良いかな?できれば明日ぐらいまで」
「ええよ〜せっちゃん、一緒に朝ご飯食べような。ウチ、せっちゃん来るの、待ってたんえ」
上機嫌で応える木乃香に、とうとう3−Aメンバー達が笑い声を洩らし始める。その時になって、やっと刹那は事の真相に気付いた。
「シンジさん!私をハメましたね!?」
「僕はみんなと取引しただけだよ」
シンジの言葉に、3−Aメンバーが一斉にポケットから紙を取り出す。
ちなみに紙には『フルーツ餡蜜試食引換券』と記されていた。
「ま、まさか・・・」
「御名答。買収させて戴きました」
爆笑の渦に包まれる3−A。一方のシンジはと言えば、さっさと席に座ると朝食を摂り始める。
「ま、そう言う事。木乃香と仲良くね」
「ひ、卑怯者おおお!」
「それは僕にとって褒め言葉だね」
「悪党がいるです」
夕映の冷静な指摘に、更なる爆笑が起こった。
奈良へ向かうバスの中―
朝食を済ませた3−Aは、刹那以外は全て1つの意思の元に統率されていた。
バスの席も、木乃香と刹那を隣にするほどの徹底ぶりである。上機嫌になる木乃香と、顔を赤くしてオロオロする刹那の組み合わせに、周囲は笑いを堪え切れない。
そんな中、刹那は恨めしげにシンジを睨みつけていた。せめて一矢報いてやろうと、必死で知恵を巡らす。
そこでピンと閃く物があった。
「そういえばシンジさん。今朝は露天風呂へは行かれたんですか?」
「今朝?いや、行ってないよ。普通に男湯で済ませたから」
「そうなんですか。折角なんですから、早乙女さんと混浴に入ってくれば良かったのに」
ピシッと固まる一同。
「なあ、せっちゃん。混浴って昨日の?」
「そうです。あそこの露天風呂は男湯と女湯が繋がっていましたからね」
「何いいい!」
激しすぎるほどの反応を示したのはハルナである。他にもあやかやまき絵は『しまった』とネギを見て臍を噛んでいる。
「・・・そういえば、ウチ見ちゃったんや」
木乃香の何気ない一言に、シーンと静まり返る車内。そんな木乃香に、咳払いをした和美が近づいていく。
「一体、何を見たのかな?」
「お兄ちゃんの裸。タオルが落ちたんや」
大爆発を引き起こす車内。一緒にその場にいたアスナは、ネギの隣の席で『あーあ』と溜息を吐いている。
「シンジさん!ホテル戻ってお風呂に入り直してよ!」
「無茶を言わないの。ほら、席に戻った戻った」
「あーん、折角のチャンスだったのにいいい!」
奈良公園―
朝食の後、のどかと一緒に回る事を約束していたネギは、5班と行動を共にしていた。普段は大人しいのどかの積極的な行動力に、全員が目を見張っていたのは言うまでも無い。
そうなると、ネギやのどかの周囲にも、それとなくバックアップをしてあげようと気を回す者達もでてくる。その筆頭は、意外な事にシンジであった。
と言うのも、のどかの積極的な行動に、シンジは少しお節介を焼いてあげようと考えたのである。
『ネギ君。奈良は京都よりも古い歴史を持つ古都なんだよ。今日の見回りは僕が請け負うから、思う存分、好奇心を満たしておいで』
『シンジさん?でも・・・』
『大丈夫だよ。師匠もわざわざ奈良まで来る事はしないだろうし、木乃香には桜咲さんがついている。ゆっくり楽しんでおいで』
言い包められたネギは、すっかり古都・奈良の観光を満喫していた。教員としての巡回と言う仕事が無ければ、ネギは丸一日フリーである。そうなれば、のどかがネギと一緒にいる時間も増える。
このチャンスに、夕映とハルナはのどかを支援するべく動き出した。2人とも、のどかをネギに告白させようと、ネギが鹿に手ごと餌を食べられている間に全力で煽り始める。
「告るのよ、のどか!麻帆良恋愛研究会の調査によれば、修学旅行中の告白成功率は87%を超えるのよ!」
「ははは、はちじゅうなな?」
(・・・またてきとーなこと言ってるです)
夕映の後頭部に、大粒の汗が浮かぶ。
「しかも!ここで恋人になれば・・・」
「な、なれば?」
「明日の完全自由行動日には、私服で2人っきりのラブラブデートが!」
ピシャアンッとのどかに落ちる稲妻。その顔は瞬く間に赤く染まっていく。
「良い?のどか。絶対に成功させるわよ!」
「ハ、ハルナ?どうしちゃったの?」
「ハルナはのどかに告白させて、早くシンジさんに合流したいのですよ。手伝いと言う名目で」
途中で買っておいた『鹿せんべい味ジュース』なる怪しい代物を飲みながら、夕映が説明した。
「今日はシンジさんがセッティングしてくれたんです。ネギ先生の仕事を、シンジさんが全部引き受けてくれたのです」
「ええ!?」
「折角のチャンスなのです。神楽坂さんは私とハルナが、桜咲さんは木乃香が引き離します。頑張るですよ」
そして、その日の夕方―
ホテルのロビーで、ネギは放心状態に陥っていた。
「ネギ先生どうされたのですか?」
「奈良公園で何かあったの?ネギ君」
「い、いえ!誰も僕に告ったりなんか!」
爆弾発言に、ネギを心配していたあやかやまき絵はおろか、近くで話をこっそり盗み聞きしていた裕奈や風香達までもが過剰反応を起こす。
「「「「「「こ、告った!?」」」」」」
「い、いえ!・・・そうだ!僕、しずな先生達と打ち合わせがあるので、失礼します!」
ピューッと走り去るネギ。そんなネギを、のどかの告白シーンを偶然にも目撃してしまったアスナと刹那が苦笑いしながら眺めている事に気付かずに。
「ネギ君逃げ足速すぎだよ!どうするの、いいんちょ!?」
「ここは・・・彼女の出番ですわね」
ピッピッピッと携帯電話で連絡を取るあやか。やがてカメラを手にした和美が姿を現した。
「委員長、教師と教え子が淫行疑惑ってマジ?」
「そ、そうなんだよ!」
「そりゃ大スクープだね!それで相手は近衛さんとパル?」
一斉に転ぶあやか達。確かに麻帆良広しと言えども、現在、京都方面に来ていて、中学生と教職員で恋愛疑惑があるのは、このペアしかいないのだから当然の発想ではある。
「え?違うの?」
「ち、違います!それにあくまでも疑惑なのです!まずは貴女に調査をお願いしたいのです」
「なるほどなるほど・・・で、今日の班行動の奈良公園で・・・」
あやか達の説明を、取材手帳にメモしていく和美。
「ネギ先生が誰かに告白された、と・・・って、全然淫行じゃないっつの!」
「何を仰いますか!充分、許されざる行為ですわ!」
「まあ、ひょんな事から大事件に繋がる事もあるし、一般市民の期待に応えるのも、報道記者の勤めか」
その後、のどかへの直接取材で告白者をのどかと確定した和美は、のどかの恋を見守ろうと、証言記録となるテープを消しながら廊下を歩いていた。
その時、ふと視界の片隅をよぎった人影に気づく。
「あれ?ネギ先生じゃん。そうだ、一応本人にも話を聞いとくか。しかしフラフラしちゃって、やっぱ10歳の子供に、告白はきつかったかな?」
走って追いかける和美。だが彼女が目撃したのは、車に轢かれようとした子猫を救おうと、車の前へ飛び出したネギであった。
(ネギ先生!?)
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!風花風障壁 !」
見事に空中一回転する車。運転手は呆然としている。
(な、何!?今のは!あれが合気道って奴!?)
ぶろろろーと走り去る車。その姿が遠ざかった所で、今度はカモが口を開いた。
「さすが兄貴、やる時はやるな。でもあんまり派手な魔法は使っちゃダメだぜ」
「うん。ゴメンね」
(オ、オコジョが喋ったあああ!?)
物陰で驚愕する和美。だが彼女の存在に気付かないネギとカモは、無自覚に状況を悪化させていく。
「とにかく、誰も見てなかったから助かったよ」
「そうだな、さっさとずらかろうぜ」
杖に乗って舞い上がるネギ。例え認識阻害が掛っていても、最初から気付いているなら話は別である。
(そ、空、飛んだーーーー!?)
「き、来たーーーー!超特大スクープ!」
その後、温泉で携帯電話に撮ったネギの飛行中の写真をネタに、真相に迫った和美であったが。その目論見は敢え無く崩れてしまった。
のどかの告白で頭が一杯一杯になっていたネギは、魔法がバレたという事実に、パニックを起こして号泣。さらに魔力が暴走した事による衝撃波で、携帯電話は破壊。その上、ネギの泣き声を聞きつけたあやか達に温泉へ踏み込まれて、あろうことかネギと和美の淫行疑惑に発展したのだが、それはまた別の話である。
To be continued...
(2012.01.14 初版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
今回は前哨戦となるバトルと、いつものドタバタ日常風景in京都という感じで纏めてみました。
今回、玩具になったのは刹那と真名。2人とも、久しぶりにイヂラレました。クール系を玩具にすると、普段のギャップもあり書いていて楽しかったです。刹那は出番の多さもあって、意識しなくても玩具になるのは確定ですので、真名にも出番を増やしてあげたい所ですw
話は変わって次回ですが、夜の修学旅行・枕投げ編となります。原作ではネギの唇争奪戦でしたが、それに準拠しつつシンジとハルナを投入します。
一般人を魔法の世界へ巻き込む事に嫌悪感を抱くシンジが枕投げの真実を知った時、夜の京都はどうなるのか?
それでは、また次回も宜しくお願いいたします。
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