第二十一話
presented by 紫雲様
炫毘古社―
シネマ村での襲撃を凌いだ後、5班メンバーと和美、シンジとネギは、目的地である関西呪術協会総本山にいた。
みんなで横一列になって、わいわいと騒ぎながら歩いている事に、遂に耐えられなくなったアスナが、刹那に問いかけた。
（どうしてみんながいるのよ？）
「その、御嬢様を抱えてシンジさんとここまで走ってきたのですが、すぐそこで朝倉さん達に捕まってしまいまして」
「甘いのよ。こんな事もあろうかとGPS携帯放り込んでおいたのよ！」
「朝倉ーーー！」
抗議するアスナだが、背中にグロッキー状態のネギを背負った姿では、迫力も何も合った物ではない。当然の如く、和美はどこ吹く風である。
「シンジさんも、何か言って下さいよ」
「朝倉さん。この中での写真の撮影、記録は全て厳禁だよ」
「う・・・分かったよ。どうせそっち方面の理由ってことでしょ？約束は守るわよ」
渋々と承諾する和美だが、夕映達には何のことやらサッパリである。
「さてと、じゃあネギ君。僕はホテルに戻るからね」
「「「えええええ？」」」
木乃香・ネギ・ハルナが不満そうに声を上げる。
「あのねえ、正担任と副担任。両方とも留守にする訳にはいかないんだよ。ネギ君にはやらなきゃならない事があるんだから、僕がホテルに戻るのは当然なんだ」
そう言われてしまうと、誰一人として反論できない。
「それじゃあ、僕は戻るよ。詠春さんに宜しく伝えておいてね」
シンジが立ち去った後、ネギ達は幾分気落ちしながら境内へと足を進めた。するとそこで待っていたのは、左右にズラーッと並んだ巫女の集団である。彼女達は一斉に頭を下げた。
『お帰りなさいませ、木乃香御嬢様』
唖然とするネギとアスナ。その間にも、彼女達はネギの手当てを始め出す。一方で和美は『いいんちょ並みの御嬢様だったんだねえ』と納得し、ハルナは巫女の集団を見て『この人達、みんな木乃香の家の人！？』と驚いている。その間に、アスナは当然の疑問を口にした。
「桜咲さん、これってどういう事？」
「その、つまりここは関西呪術協会総本山であると同時に、木乃香御嬢様の御実家でもあるのです」
「「ええーーーっ！？」」
アスナとネギの叫びが境内に響く。
「じゃ、じゃあ！シンジさんの実家もここと言う事じゃないですか！」
ネギの叫びに、巫女達が一斉に沈黙した。その代りように、首を傾げたのはネギ達である。
「あれ？僕、何かおかしな事を言いましたか？」
しかし、誰一人として返事を返そうとしない。意識的にネギから眼を逸らしているのは間違いないと、全員が気付いた。それはつまり、その質問には答えたくないという意思表示であると言う事に。
「な、なあ、何かあったん？お兄ちゃんが、何かしたん？」
不安そうに側にいた巫女に問いかける木乃香。だがその巫女は、無理に笑い顔を作ると口を開いた。
「御嬢様、奥でお父様がお待ちになっておられます。まずは御挨拶を」
「誤魔化さんで！ウチの質問に答えてや！」
「・・・御嬢様には兄弟等おられません。私達が言えるのはこれだけです」
そう言うと、巫女達はアスナ達の先導がてら、社の奥へと歩き出した。
「・・・せっちゃん・・・ウチ、変な事言うたん？」
「いえ、御嬢様は何もおかしな事は言っておられません。シンジさんは詠春様と近右衛門様が認められた養子なのですから」
「そ、そうやな」
重苦しい空気に戸惑いながら、ネギ達は詠春に会う為、奥へと歩き出した。
一行が通されたのは、板張りの広い部屋であった。左右には雅楽を奏でる巫女達が、正面左右には弓矢を手にした巫女達が立っている。
そして正面の階段から、1人の壮年の男性が下りてきた。
「お待たせしました。木乃香のクラスメートの皆さん、そして担任のネギ先生」
「お父様♥久しぶりや！」
「これこれ、木乃香」
久しぶりの愛娘との再会に、詠春の顔が綻ぶ。娘を抱擁するその姿は、優しい父親その物である。
「木乃香さんのお父さんが、西の長だったなんて・・・」
「見た目は普通の人だよね」
「てゆーか、ちょっと顔色悪い感じだけど」
ハルナと和美がコソコソと囁き合う。だが詠春に対するアスナの感想は違っていた。
「渋くてステキかも」
「えー！？」
「あんたの趣味は分からんわ！」
和美の突っ込みは、残念ながらアスナの耳には届かなかったらしく、詠春の姿に衝撃を受けたまま硬直していた。
「あ、あの。これは東の長、近衛近右衛門からの親書です。どうかお受け取り下さい」
「確かに承りました、ネギ君。東の長にも、東西の仲違いの解消に尽力するとお伝え下さい。任務、御苦労さまでした。ネギ・スプリングフィールド君」
「は、はい！」
少女達から歓声が上がり、ネギが嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「歓迎の宴を用意します。今から帰るのでは遅くなりますから、今日はこちらに泊まっていくといいでしょう」
その言葉にハルナと和美が『よっしゃー！』と声を上げる。隣ではアスナが呆れたように溜息を吐いていた。
「なあ、お父様。食事の前に、時間を作って欲しいんや」
「どうしたんですか？木乃香」
「お兄ちゃんの事や。お兄ちゃん、何かあったん？お兄ちゃんが社の前で帰っちゃったのは、何でなん？仕事なんてウソなんやろ？」
両目に涙を浮かべた木乃香に、詠春もまた辛そうに口を開いた。
「お客人以外は、全て退室して下さい。宴は1時間後ということで準備をお願いします」
詠春の指示に、巫女達が頭を下げて部屋から出て行く。そして室内には、詠春とネギ達だけとなった。
「木乃香。最初に断言しておきますが、シンジは何も悪い事はしていません。あの子は自ら『追放』という名目で身を退いたのです。私にこれ以上迷惑をかけたくないから、という理由で」
「ど、どういう事なん？」
「それについての詳しい事情は口にできません。なぜなら、シンジがそれを貴女達に知られる事を望んでいないからです」
木乃香も辛そうだが、詠春もまた辛そうに口を開いていた。
「あの子がここで毛嫌いされている理由。それを知ってしまえば、貴女達もそうなりかねないのです。例えシンジに何の落ち度も無かったとしてもね」
「・・・どうしても教えて貰えないんですか？僕にとってシンジさんは、お兄ちゃんみたいな存在です。シンジさんに会えたから、僕は大切な事を学ぶ事が出来ました。そのシンジさんを苦しめるような人達を、僕は許せません！」
「ネギの言う通りよ！シンジさんがいたから、私とネギは道を誤らずに済んだんです！なのに、なんで！？」
どこまでも真っ直ぐなネギとアスナの言葉に、詠春が眼を丸くする。だが詠春を驚かせたのは、それだけではなかった。
「私も許せない。シンジさんは私が好きになった人です。シンジさんは何も悪い事をしていないんでしょう！だったら、何で嫌われないといけないんですか！」
「・・・失礼。君はシンジの事を？」
「はい。2度告白して、両方とも断られました。でも諦めるつもりはありません」
覚悟を秘めたハルナの両目に、詠春が笑みを浮かべながら頷く。
「シンジさんは、正直言って意地が悪い人だと思っていたです。でも今は違います。意地が悪く見えるのは上辺だけで、本当はいつも3－Aの事を良く見ているです。何かあればすぐに手助けできるように」
「そ、そうです。私とハルナが問題を起こして相談したときも、シンジさんは嫌な顔1つしないで解決してくれました！」
「シンジさんは、本当に超えてはいけないラインを超えそうになった時、ちゃんと止めてくれる人なんだよ。私はそう思う」
夕映、のどか、和美の言い分に、詠春は満足そうに頷いた。
「お兄ちゃんは優しい人や。お父様は知らへんやろうけど、ずっと独りぼっちだったさよちゃん、って幽霊を孤独から救ったんや。みんなが気付かへんかったのに、お兄ちゃんだけはちゃんと気付いたんや」
「私もシンジさんにはお世話になりました。正直、シンジさんが橋渡しをして下さらなければ、御嬢様の隣には居られなかったと思います」
「・・・君達のような子がここにいてくれれば、あの子も苦しまずに済んだのでしょうね。ここを出て行かずに済んだのでしょうね」
どこか遠くを、懐かしむように眺める詠春である。
「ここでシンジを庇ったのは、2人しかいませんでした。それ以外は、全てシンジの敵に回ってしまったのです。不安、猜疑心、恐怖心に負けてしまったのですよ」
「そんな！ここにはたくさん人がいるのに、たった2人しかいなかったんですか！？」
「そうです。1人は私。そしてもう1人は天ヶ崎千草という人物です」
その言葉に、初日に千草と交戦した者達は、千草の言葉を思い出していた。彼女はシンジの居場所を作ってやると言っていた事を。
「そんなシンジを、私は救えなかった。ですが、君達は違うんですね」
「お父様・・・」
「君達のような子がシンジを支えてくれるのであれば、あの子のお母さんも、きっと安心できるでしょうね」
詠春が懐かしそうに呟く。だがネギ達にとって聞き逃せない言葉でもあった。
「お父様。お父様はお兄ちゃんのお母さんを知っとるん？碇ユイさんって人の事」
「ええ、良く知ってますとも。それより木乃香。誰からその名前を聞いたんですか？」
「新田先生や。新田先生が大学生だった頃、家庭教師で教えていた子供が碇ユイさんって子だったって聞いたんや。お兄ちゃんと、碇ユイさんが似ているみたいやったし」
フーッと一息吐く詠春。教えるべきか否かで迷っているようだったが、結局は口を閉ざしたままであった。
「お父様！」
「この件は、色々と裏事情が複雑に絡み合っているのです。ただ言える事は、貴女のお母さんと、碇ユイさんは古い知り合いだと言う事です。それも乳飲み子の頃からのね。いずれは話す日が来るでしょうが、今の私に言える事はこれだけです」
客間―
お風呂に入った後、アスナと刹那以外のメンバーは、カードゲームに興じていた。というのもゲームセンターで手に入れたばかりの関西限定カードを使ったデッキで遊んでみたい、というのが理由である。
ただ途中で木乃香は部屋を退室し、今はハルナ、のどか、夕映、和美の4人だけとなっていた。
現在の対戦相手は、ハルナと夕映の1対1。お互いに互角の勝負を展開中である。
白熱する勝負の中、部屋の戸がスッと開いた。
「ちょっとええか？」
「ん？どうかしたの？」
「手伝って欲しい事があるんや。お兄ちゃんの事で」
その言葉に、ハルナ達もゲームの手を止めた。木乃香は部屋の戸を閉めると、抱えていた物をドサドサと置いていく。
「これは？」
「ウチのお母さんの部屋にある日記とアルバムや。お兄ちゃんの家、碇家っていうのがどんなとこなのか、知りたくてな」
これには全員が賛同した。夕映とのどかが日記を、他のメンバーがアルバムを中心に探していく。
「木乃香。シンジさんのお母さん、随分、可愛がられていたみたいだね」
それはアルバムを見てすぐに判明した。可愛らしい着物姿の少女が2人、並んで立っている写真。その後ろには、木乃香の母親の名とユイの名が記されていた。
特に学校の行事関連の写真は、大量に存在し、そのほとんどに2人は一緒に写っているのである。それだけ仲が良かったのだろうと言う事は、即座に理解できた。
「・・・ねえ、シンジさんのお母さんて、凄い美人じゃない？」
和美の言葉に、アルバム組が一斉に頷く。興味を惹かれた日記組もそちらへ顔を向け、ユイの容貌に眼を見開いた。
「写真によれば、これは高校の卒業式の時らしいね」
「・・・これはシンジさん二枚目説に信憑が出てきたです。お母さんの口元は、シンジさんにそっくりですよ」
ゴク、と唾を飲み込む音が聞こえる。しかし、夕映の目はあまり驚いていないハルナをしっかりと捉えていた。
「パル。貴女、知っていたですね？」
「な、何をさ！」
「シンジさんの素顔です。本当はかなり以前から知っていたのではないですか？多分、昨年の龍宮さんとシンジさんがデート騒ぎを起こした時の追跡劇。あの日からパルは行動がおかしくなっていたです」
夕映の指摘に、言葉も無いハルナである。
「・・・恋人へのプレゼントの話をしていて、偶然、シンジさんの素顔が見えちゃったんだよ。今にも泣き出しそうなぐらい、悲しい目をしていてさ」
「そう言う事だったですか。まあ発端はどうあれ、今は本気なのですから、協力は惜しみませんが」
「ああ！」
のどかの叫びに、一斉に注目が集まる。そこにはアルバムを抑えつけたのどかの姿があった。さらにその顔は、真っ赤に染まっている。
「ど、どうしたですか！？」
「こ、このアルバムは危険すぎます！木乃香さん、すぐに仕舞ってきて下さい」
「本屋ちゃん、落ち着きなよ。一体、何があったのさ」
和美がアルバムをパラパラと捲っていく。
「へえ、こっちはシンジさんが産まれてからみたいだね。シンジさんの名前が入ってるよ」
「マジ！？ちょっと見せて！」
のどかが必死で止めようとするが、誰も聞く耳を持たない。その内、のどかが見せたくなかったページへと、和美達はドンドン近づいていく。
「おや？これは・・・」
その写真は集合写真であった。写っているのは10人ほど。
「これはお父様や！多分隣はお母様やな。するとお母様の足元にいるがウチかな？」
「多分、そうだろうね。中央にいるのがユイさんという事は、足元にいるのがシンジさんかな？何と言うか見ていてホノボノしてくるね。シンジさん、女の子に頬っぺたにキスされてるじゃん」
「・・・ちょっと待つです！」
行動を起こしたのは夕映であった。のどかは『あわわわ』と慌てるばかりで、まともに行動も取れない。
「ど、どうしたのさ！ゆえ吉！」
「何でお爺様が写っているですか！」
写真の片隅。そこには夕映の祖父、綾瀬泰造が写っていたのである。写真をひっくり返すと、驚愕の事実が記載されていた。
『大切な従姉妹、桜・詠春御夫妻と愛娘の木乃香ちゃん。恩師、綾瀬泰造教授と、孫娘の夕映ちゃん。友人、長瀬紅葉・剣御夫妻と愛娘の楓ちゃん。ゲヒルンでの実験が成功し、再び出会える日を願って。2003年5月。碇ユイ・シンジ』
「「「「「ええええええええ！？」」」」」
絶句する一同。木乃香とシンジの母が従姉妹だと判明した事もそうだが、夕映や楓までもがシンジと繋がりがあると判明したからである。
「ど、どういう事ですか！？まさかこのシンジさんにキスしてる2人の女の子は！」
「・・・間違いなくこっちはゆえ吉だよ。隣は長瀬だろうね、目元がそっくりだし、何より名前が同じだよ」
「ちょ、ちょっと！お父様に聞いてくるえ！」
写真を手に、パタパタと駆けて行く木乃香。よほど慌てているのか、戸を閉め忘れたままである。代りに和美が戸を閉めに立ち上がりながら、口を開いた。
「ちょっと、これって私達が知って良い物だった訳！？」
「そういえば、覚えてる？旅行の前に会った、シンジさんの昔の女―山岸マユミさんの事」
「あ、はい。覚えています」
ハルナの言葉に、のどかが相槌を打つ。
「あの時、長瀬が妙な反応をしていたんだよ。『碇』『第3新東京市』という2つの言葉に反応していたんだ」
「ひょっとして、長瀬さんが何か知っている、と言う事ですか？」
「多分ね。これはちょっと調べてみる価値はありそうだよ」
そこへコンコンとなるノックの音。すぐ側にいた和美が反射的に戸を開く。
「あれ？坊やはこのお屋敷の子かな？」
次の瞬間、ボウンッと煙が立ち込める。煙が晴れると、そこには石へと変わった和美の姿があった。
「朝倉さん！？」
咄嗟に仮契約カードに手を伸ばすのどか。
「君のそのアーティファクトは危険だね。眠っていて貰うよ」
（ゆえ吉だけでも逃げて！）
お尻で夕映を、窓から外へ突き飛ばすハルナ。だが夕映が咄嗟にハルナの裾を掴んだために、ハルナは夕映もろとも窓の外へと落下した。
ちょうどそのタイミングで、のどかを石にしたフェイトは、窓の外へと視線を向けた。
「まあ、逃げてくれるなら面倒は無いか。もともと死人を出さない事が目的だからね」
そう言うと、フェイトは客間から姿を消した。
1分後―
のどかの悲鳴を耳にしたネギは、カモとともに客間へ駆けつけていた。
「朝倉さん！宮崎さん！」
「兄貴！こいつは高等魔術『石化 』だ！」
「そんな！？すぐに長さんに・・・そういえばアスナさん達は！」
「兄貴、カードだ！念話 で連絡するんだ！」
仮契約カードで連絡を取るネギ。
「アスナさん！大丈夫ですか！？」
≪ネギ？一体、何があったの！？お屋敷の人達、みんな石になっちゃってるのよ！≫
「狙われているのは木乃香さんです！お風呂場で合流しましょう！」
≪分かったわ！≫
杖を手に、走り出すネギ。途中で異変を感じ取った刹那と合流し、さらに廊下を走り抜ける。
その途中で見覚えのある姿に、2人は足を止めた。
「詠春様！」
「申し訳ない、守護結界を過信していました」
柱に寄りかかっていた詠春は、既に下半身が石と化して、歩く事もできない状態だったのである。
「白い髪の毛の少年に気をつけて下さい。あの少年の術を無効化出来るのは、シンジぐらいです。決して正面から相対してはいけません」
「長・・・」
「学園長に連絡を・・・それから、木乃香を・・・」
完全に石となる詠春。悔しげに歯ぎしりすると、2人は木乃香を守るべく、走り出した。
お風呂場―
「いやあ！助けてえ！」
「ルビカンテ。その子を届けて」
フェイトが呼び出した使い魔ルビカンテに捕まった木乃香は、必死で逃げようと抗っていた。アスナは『魔法無効化能力』によって石化の被弾だけは受けずに済んでいたが、服を破壊されて、羞恥心から不自然な体勢での戦闘を余儀なくされていた。
そこへフェイトが使用した『水妖陣』という術によって現れた無数の手によって、全身を擽られたアスナは、悶絶しながら、木乃香が連れ去られるのを見送る事しかできない。
そこへ飛び込んでくるネギと刹那。その瞬間、刹那が正面から夕凪を使い居合を仕掛けた。
「御嬢様を返せ！」
夕凪はフェイトの胴体は、アッサリと切断。パシャンッという音ともに、水溜りへと変わってしまう。
「な！？」
「隙あり」
真横に現れたフェイトが、鋭い拳打を刹那に放つ。脇腹に喰らった刹那は、10mほど離れた浴室の壁に激突。壁に大きなひび割れを作りながら、床に崩れ落ちた。
「よくも、よくもみんなを！」
「それでどうすると言うんだい？今の君では僕には勝てないよ」
それだけ言うと、フェイトは水溜りの中へと沈んだ。その光景にカモが『これは扉 か！瞬間移動なんて、かなりの高等魔術だぜ！』と顔色を変える。
ネギは小さく頷くと、風を起こしてバスタオルをアスナの肩に飛ばす。同時に刹那の傷を癒す為に魔法を使い始めた。
「木乃香さんを取り返します！」
同時刻、裏山―
月明かりだけを頼りに、夕映とハルナは逃走していた。
「これは、これはどういう事ですか！？のどかや朝倉さんが石になるなんて、現実ではありえない事です！」
「落ちついてゆえ吉！今は逃げて、何とか助けを呼ぶんだよ！」
「助け！？警察にでも駆けこめと言うんですか！？」
勿論、人間を石に変えてしまう様な訳の分からない相手に、警察が役に立つ訳がない。助けを求めたくても、求められない現実に歯噛みする2人とであったが、その瞬間、助けを求める事の出来る相手を閃いた。
同時に携帯電話を取り出し、連絡を取る。
「もしもし、長瀬さんですか！？」
「シンジさん！助けて！」
同時刻、麻帆良学園理事長室―
暇を持て余したエヴァンジェリンと碁を打っていた近右衛門は、ネギから飛び込んできた急報に顔色を変えた。
「西の長までもがやられたと言うのか！それは一大事じゃぞ！」
『はい！それですぐに救援をお願いします！こちらも朝倉さんと宮崎さんが石にされているんです！』
「ふうむ、しかしタカミチ君は今は海外じゃしのう・・・そちらへ急行できる人材となると・・・」
「ん？」
近右衛門の目が、エヴァンジェリンに止まっていた。
同時刻、ホテルロビー―
「ただいまー」
「何がただいまだよ。予定時間を30分も遅れているじゃないか」
「ごめん、シンジさん！ついUSJが楽しすぎて・・・」
「そういう時は、電話をいれるようにね。こちらは警察へ相談すべきかどうか、考えていた所だったんだから」
シンジの言う事も尤もなので、裕奈達にしてみれば謝る事しかできない。ただシンジにしてみれば、楽しすぎて連絡を忘れているのだろうという読みはあった。何せ遅刻した4班には、プロフェッショナルである真名がいるのである。事件に巻き込まれた所で、最善の判断を下すだろうと考えていたからであった。
そこへシンジの携帯電話が鳴った。
「もしもし、早乙女さん？・・・うん。それは間違いないんだね？」
シンジの雰囲気が変わった事を察したのか、周囲の注目が集まる。
「うん、分かった。とりあえず適当な所で休憩しているんだ・・・大丈夫、僕の予想が当たっていれば、君達に危険は無い・・・すぐに保護に向かうから。うん。じゃあ切るよ」
ピッと電話を切るシンジ。シネマ村での虚無僧姿の時と同じ雰囲気に、3班メンバーが目を丸くしていた。
「龍宮さん！長瀬さん！ちょっと力を貸してくれ！」
その言葉に、夕映から携帯で助けを求められていた楓が、サムズアップでシンジに応える。
「ふむ。どうやらトラブルのようだな」
「そう言う事。僕は準備をしてくる。15分後に屋上へ来て」
「分かったよ。楓にも伝えておこう」
小声で打ち合わせを済ませると、シンジは踵を返す。そんなシンジに、あやかが声をかけた。
「近衛さん！何があったんですか！」
「早乙女さん達が道に迷って帰れなくなったそうだ。迎えに行ってくるから、みんなは新田先生の指示に従うんだよ。良いね？」
そう言うと、シンジはホテルの守りを瀬流彦に委ねるべく、連絡を取りながら自室へと姿を消した。
屋上―
戦闘用装備を手にしたシンジは、瀬流彦と慌ただしく打ち合わせを済ませると、屋上へと現れた。
「来たか」
「お待たせ・・・って、何で古菲さんが？」
「実は夕映殿から連絡があったでござるよ。状況を聞く限り、拙者や真名殿だけでは戦力不足と考えたでござる」
「私に任せるアルね」
確かに古菲は達人級の技量である。だが一般人であるのも事実なので、シンジには躊躇いがあった。
「大丈夫だよ、近衛さん。古菲の実力は、楓と互角なんだ。足手まといにはならないだろうさ」
「・・・分かったよ。ただし今晩の件は、口外禁止だよ」
コクコクと頷く古菲。時間が無い事もあり、シンジは仮契約カードを取り出した。
「それは」
「みんな、下がって。『来れ 』！」
光とともに姿を現す『空翔ける者 』。その光景に、古菲が『おお！』と感嘆の声を上げる。
「早く乗って。一気に飛ぶよ！」
「と、飛ぶのでござるか！？」
「そうだよ。さあ、早く！」
慌てて乗り込む楓達。アーティファクトの存在を知っている真名は悠々と。古菲は好奇心丸出しで。楓は緊張しながら乗り込む。
「目的地点は早乙女ハルナだ。行け！」
夜空に浮かび上がった『空翔ける者 』は、山中を逃げ惑う少女目指して夜空を走った。
夕映・ハルナside―
連絡を取り終えた2人は、その場に腰を下ろしていた。履きなれない足袋で、夜の山道を全力疾走したのだから、疲れたのも当然であった。
「しかし、本当に休んでいても大丈夫なのですか？」
「少なくとも、シンジさんは、そう断言していたよ」
とは言え、2人にはすでに走れるほどの体力など残ってはいなかった。
「のどかや朝倉さん達が石になった理由、分かるですか？」
「さあね。少なくとも、私にはあんな真似できないよ」
空を見上げて山の空気を吸い込みながら、『水が欲しいなあ』と考えるハルナである。
「・・・それにしても気になるのは、写真の裏に書かれていた言葉ですよ。『ゲヒルン』『実験』これは何を意味しているのでしょうか・・・」
「確かユイさんは、シンジさんが3歳の時に事故で亡くなった、と言ってたね。と言う事は、この写真を撮った後で、その事故に遭った可能性が高い訳だ」
そこへガサガサガサという大きな音が鳴った。思わず体を寄せ合う2人。
「2人とも、無事なようで何よりでござる」
「「長瀬さん！」」
そこにはチャイナドレスに身を包んだ、長瀬楓が立っていた。
ネギside―
ネギ達は攫われてしまった木乃香を追って、夜の山道を走っていた。しかし、途中で千草が木乃香の膨大な魔力を利用して呼び出した、千草配下の集団に行く手を阻まれていたのである。
烏族、鬼族、狐族、妖怪、式神等、総計100体を超える包囲網に、3人はジリジリと後ずさる。
「せ、刹那さん。さすがにこんなの、私・・・」
「落ちついて下さい、アスナさん！」
そこで、カモに何かを耳打ちされたネギが、小声で魔法を詠唱。竜巻を起こして3人を内側に取りこむ。
「これは！？」
「風の障壁です！ただし、2・3分しか持ちません！」
「よし、作戦を立てるぜ！」
カモの言葉に、刹那がギリッと歯を噛みしめる。
「二手に別れましょう。私がここに残ります！」
「ダメよ！それなら私も残る！」
「「ええ！？」」
驚いたのは刹那とネギである。なぜなら、100体を超える敵のプレッシャーに呑まれていたのは、当のアスナだからである。
「いや、まてよ？良い手かもしれねえ！姐さんのハリセンは、叩くだけで召喚された化け物を還しちまうんだからな！」
「し、しかし」
「兄貴！姐さんへの魔力供給を防御とかの最低限にして、何分まで伸ばせる？」
「10、いや15分！」
むむむ、とカモが頭の中で策を組み立てて行く。
「鬼どもは2人で引きつけ、その間に兄貴は一撃離脱で木乃香姉さんを奪取。あとは本山へ戻って籠城戦だ！白髪の小僧は、できるだけ無視するんだ！」
そこへ、ネギに念話が飛んできた。
「シンジさん！？・・・はい・・・はい・・・こちらは二手に・・・はい、僕が単独で先行します・・・はい、お願いします！」
明るくなったネギの顔に、3人の視線が集まる。
「朗報です。こちらへシンジさんが、援軍を連れて向かっているそうです。援軍は龍宮さんと古菲さんと長瀬さん。綾瀬さんと早乙女さんの無事を確認しているそうです！」
「マジか！？ナイスだ、旦那！」
「龍宮と楓が来ていると！？」
真名と楓の実力を知る刹那にしてみれば、これほど有難い援軍は無かった。古菲にしても、気さえ使わなければ自分と互角の実力を持つ事は知っている。だからこそ、刹那は援軍を頼りにする事が出来た。
「刹那さん？」
「大丈夫です。3人とも、実力は折り紙つきです！」
「よし！じゃあこっちも保険をかけておこうぜ！」
カモの言葉に3人が『え？』と首を傾げる。
「兄貴と刹那の姉さんで仮契約するんだよ！手札は大いに越した事はないだろう！？」
叫びながら魔法陣を描き上げるカモ。こうなってしまっては、最早、躊躇う事もできない。覚悟を決めた刹那とネギが1つになる。そして魔法陣が輝きだす。
現れた仮契約カードを手に、刹那が口を開く。
「木乃香御嬢様を、頼みます」
「・・・はい」
「ちょっと！？そこ、何良い雰囲気で見つめあってんのよ！？」
目尻から涙を噴き出しながら、抗議するアスナ。当事者である2人も、ハッと正気に戻る。
やがて、竜巻が徐々に弱まり切れ目が現れ出す。外で待ち受けていた鬼族の1人が『よっこらせ』とばかりに六角棒を構えようとし―
「雷の暴風 ！」
轟音とともに、全軍の2割近い魔物が、雷の暴風に呑まれて消し飛んだ。更にその後を追いかけるかのように、ネギが飛び出していく。
「西洋魔術師がいたか！？」
「オヤビン、逃がしちまっただ！」
だが鬼達の敵は、逃走した訳ではない。
「さあ、始めましょうか。私達は彼らの天敵です。せいぜい、街でチンピラ100人に囲まれた程度だと考えて下さい」
「それって安心していーんだか、悪いんだか」
ハマノツルギと夕凪を構えた2人の少女に、鬼達の注目が集まった。
封印解放の儀式場―
四方を湖に囲まれた祭壇の上で、千草は儀式に取りかかっていた。祭壇には儀式の中核となる木乃香が据えられている。
「18年前、長とサウザンドマスターが共同で封じたという鬼神・リョウメンスクナノカミ。だが御嬢様の力があれば、制御は十分に可能や」
儀式の開始を告げる祝詞を唱え始める千草。やがて木乃香から天に向けて光の柱が勢いよく立ち上った。
同時刻、ネギside―
高速飛行しながら儀式場を目指していたネギからも、光の柱は目視できた。そこから発される濃密な魔力に、儀式が開始された事を嫌でも悟るしかないネギとカモである。
「兄貴！」
「うん、急ごう！」
だがそんなネギの背後に、迫ってくる物がいた。
思わず振り返るネギ。それは昼間に見覚えのある影だった。
「狗神！？風楯 ！」
間一髪で障壁は張ったものの、吹き飛ばされるネギ。杖のコントロールを取り戻しつつ、風の精霊の支援も受けて、何とか不時着に成功する。
そんなネギの前に、影が現れた。
「ここは通行止めやで、ネギ！」
「小太郎君！？」
アスナ・刹那side―
敵戦力は順調に減らしてはいたものの、徐々に2人は追い詰められていた。というのも敵戦力も雑魚では倒せぬと判断して、鬼族と狐族の手練れが刹那を、烏族の手練れがアスナに狙いを定めてきたからである。
烏族は一族独自の剣技を使う。そしてここにいる烏族の手練れは、有数の剣の使い手であった。例えアスナが一撃必殺のハリセンを有していても、当てる事が出来なければ意味は無い。それどころか技量の差で、烏族の剣士はアスナを追い詰めていた。
刹那もフォローに回りたいのは山々だが、刹那は鬼族と狐族のコンビを凌ぐだけで精一杯である。力と耐久力に優れた鬼族の戦士相手に、一撃必殺の剣を叩き込みたい刹那であったが、狐族の術師はそれを巧みに邪魔し、それどころか刹那の隙を作ろうと、色々と術を放ってくるのである。
アスナは全身に切り傷を負い、刹那は神鳴流剣技の多用で気の消耗が激しい。どちらも状況的に追い詰められている。
そんな時だった。刹那の目が、はるか先に立ち上る光の柱を捉えたのは。
「あれは！」
「あの可愛い魔法使い君は間に合わへんかったんやろか～まあ、ウチには関係ありまへんけどな～刹那センパイ♥」
「月詠！？」
最悪の敵の登場に、刹那の顔の焦燥が浮かぶ。アスナはハリセンをもつ右腕を掴みあげられて死に体。完全に手詰まりである。だが―
ドパン！ゴキン！ガン！
立て続けに撃ち込まれた攻撃が、アスナを捉えていた烏族の頭部を、刹那の相手をしていた鬼族の六角棒を、狐族の術具を的確に捉える。
「どうした、刹那？苦戦しているなんてらしくないぞ？」
姿を現したのは、レミントンを手にした真名と、チャイナドレス姿の古菲である。2人の脇には『空翔ける者 』をカードに戻したシンジも立っていた。
「桜咲さん、随分、ずたぼろだけど・・・やり返すつもりはあるかい？」
「と、当然です！」
「分かった。援護を頼むよ、アレを使うから」
その言葉に、シンジが何をやるか察した真名が、即座に動いた。レミントンで刹那の周囲の妖怪を一掃しつつ、走り寄る。そして真名とシンジを迎撃しようと近づいてきた者達を、古菲が叩きのめしていく。
「あら～昼間のお兄さんやありまへんか～」
「少し待ってなよ。全快した桜咲さんとやらせてあげるからさ」
「ホンマどすか？それならウチ、待ちますわ～」
大人しく待ちの体勢に入る月詠。その眼前で、シンジは短刀で切り裂いた手首を、刹那の口に押しつけた。
溢れ出る血潮を、刹那が嚥下する。血の契約を初めて見たアスナと古菲は、何を思ったのか顔を赤らめていた。
「ボケっとしているな、神楽坂、古菲！」
「いや、だってあれ・・・」
「あれがシンジさんの能力なんだよ。30分間、気と魔力を回復させ続けるんだ」
「我、藤原之朝臣近衛家之従者、シンジ也。是より桜咲刹那と、血乃契約を結ぶ物也」
ゴウッと音を立てて、刹那の体に気が充填されていく。一瞬にして気を全回復させた刹那に、月詠が待ちきれなくなったように刀を抜いた。
「ホンマ美味しいわあ～センパイもそうやけど、お兄さんも最高やわ～ウチ、我慢した甲斐がありましたえ～」
「その余裕、後悔させてみせる！」
飛び出す刹那、迎撃する月詠。気の残存量を心配する必要のない刹那は、次々に大技を繰り出していく。
「最高やわ～これや、これがウチが求めたものや～」
「黙れ！神鳴流奥義！百烈桜華斬！」
月詠を押さえに回る刹那。その刹那が抜けた穴を、真名と古菲が埋める。
「間合いを詰めろ！」
真名の武器はスナイパーライフル。故に間合いを詰めれば無力化できると判断した烏族の対応は、褒められる物であった。問題だったのは、真名の実力がその予想を上回っていた事である。
間合いを詰められると悟るや、真名は即座にレミントンを捨て、オートマチックの2丁拳銃へと切り替える。零距離で放たれる弾幕の嵐に、瞬く間に数を減らしていく烏族。唯一、生き残っていた烏族が剣を振り下ろしたが、真名は銃底で剣の腹を叩いて斬撃をいなすと、トドメとばかりに弾丸を叩き込んだ。
5秒に満たない僅かな攻防。だが烏族は4体が姿を消していた。
「龍宮さん、強！」
「言った筈だよ？龍宮さんは、うちのチームで随一の実力だって」
朱に染まったハンカチで、手首を縛りながらシンジがアスナの横に立つ。
「神楽坂さん。前衛を頼めるかい？僕は接近戦が苦手なんだ。僕が討ち洩らしたのを、迎撃して欲しい」
「・・・良いわよ！ここまで巻き込まれてんだから、最後まで付き合ってあげるわよ！」
真名と背中合わせになるように、陣取るシンジとアスナ。真名もシンジの意図を察して、背後を任せつつ、火力を前面に集中させる。
「それにしても、真名は強いアルね」
「古菲、お前は人間大の弱そうな奴だけ相手をしてくれればいい」
「む、馬鹿にしているアルね。中国四千年の技、嘗めたらアカンアルよ～」
そう言っている古菲の背後から、4体ほど纏めて襲いかかる。しかし、古菲は慌てることなく、左手で初撃を凌いで、右手で拳打を放った。
「馬蹄崩拳 ！」
カウンターの一撃をくらい、先頭にいた1体が消滅。残り3体は派手に吹き飛んだ。
弾丸と符が遠距離の敵を消し飛ばし、拳とハリセンが近距離の敵を屠っていく。千草が呼び出した敵は、その数を瞬く間に減らしていた。
ネギside―
木乃香を助けに行きたいネギは、小太郎の出現と言う計算外の事態に打つ手を見いだせずにいた。空を飛んで逃げようにも、狗神を放たれてしまえば、追いつかれてしまうのは先ほど受けた奇襲で判明している。だからと言って迎撃に時間をかければ、儀式は終わってしまう。
迷うネギ。だが小太郎を排除しない限り、先へ進めないのは確定していた。
「・・・1分で終わらせるよ」
「兄貴！？」
「どの道、狗神を使われたら逃げ切れないんだ」
歯噛みするカモ。今更ながらに気付いた事実に、頭を抱え込む。その時だった。
ドン！
ネギ目がけて飛びかかろうとしていた小太郎の前に、2m近い大きさの巨大手裏剣が突き刺さったのである。
思わず硬直する小太郎。その胸に、静かに触れる手。次の瞬間、小太郎は『ドカ！』という音とともに、少し離れた所に生えていた大木に叩きつけられていた。
「い、今のは残像、いや分身攻撃！？何者や！」
小太郎の誰何に応えるように、姿を現す楓。その腕には御姫様抱っこされている夕映と、背中にしがみ付いているハルナがいた。
「夕映さん！長瀬さん！早乙女さん！」
「ネギ坊主。ここは拙者に任せて行くでござるよ」
躊躇い無く杖に跨り、飛び出すネギ。慌てて小太郎が狗神を放とうとするが、その足元へ立て続けにクナイが突き刺さる。
「邪魔すんなや！俺は女を殴る趣味は」
「安心するでござる。今はまだ、拙者の方がネギ坊主よりも強いでござるよ」
その言葉を証明するかのように、楓が一瞬で16人に増える。これには小太郎も驚いたのか、声が出ない。
「甲賀中忍、長瀬楓。参る」
目の前で繰り広げられる戦いに、夕映もハルナも言葉が無かった。クラスメートである楓が夕映とハルナという荷物を持ったうえで、木の枝をジャンプしてここまで来ただけでも驚いたのに、挙句の果てがこの光景である。
どこからか自分の背丈よりも大きな手裏剣を取り出すわ、16体に分身するわ、更に小太郎も狗神を呼び出して攻撃するわとやりたい放題である。
「・・・これが、これが現実なの？」
「・・・間違いなく現実です」
ハルナが目を向けると、夕映が拳を堅く握りしめたまま、目の前の光景を見つめていた。
目の前では、楓と小太郎の壮絶な争いが続いている。
「・・・明らかに人間離れした運動能力。既存の物理法則を超越した現象。これが楓さんの言う『気』であり『魔力』。つまり魔法と言う訳ですね。そして恐らく、ネギ先生やシンジさんは魔法使い・・・」
コクンと頷くハルナ。
「パル。貴女はこれからどうするですか？」
「え？」
「目を背けて行くですか？それともこの世界に関わり続けるですか？」
思わず夕映を見つめるハルナ。そんなハルナに、夕映が告げる。
「時間は巻き戻す事はできません。できるのはこれから、どうしていくのか？と言う事だけです」
「ゆえ吉・・・」
「私は関わるですよ。私に何ができるかなんて分かりません。でも私はみんなを守りたいです。こちらに関わってしまった木乃香やのどか、それにハルナも守りたいですよ」
To be continued...
（2012.02.04 初版）
（あとがき）
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
今回は総本山襲撃編となります。ただし、シンジの過去がニアミスしているというイベント付きです。シンジがどうして嫌われているのか？これについては次の話で答えが明らかになります。
またユイが近衛家と関係があるという設定は、ユイが京都大学に通っていたという設定からイメージを膨らませています。ユイほど頭が良ければどこの大学だろうと進学出来たでしょうが、何で京都大学だったのか？私としては『実家の近くだから』という答えではないだろうかと思っておりますがw
話は変わって次回です。
次回は京都編クライマックスであるリョウメンスクナ戦となります。ついに封印から解放されたリョウメンスクナ。鬼神を前にシンジはネギ達とともに戦いを挑みます。その最中に明らかになるシンジの異能『人形制作者 』の能力。エヴァンジェリンですらも驚愕する、忌むべき力の正体を知ったネギ達は・・・そんな感じの話になります。
京都編終了まで、残り2話。
それでは、また次回も宜しくお願い致します。
作者（紫雲様）へのご意見、ご感想は、または
まで
