正反対の兄弟

第二十二話

presented by 紫雲様


封印解放の儀式場―
 儀式場の存在する池の縁に、ついにネギは辿り着いた。
 「兄貴、策はあるのか?」
 「今、思いついたよ。練習中の遅延呪文ディレイスペルを使ってみる!」
 一気に接近を図るネギ。水柱を上げながらの突撃に、フェイトと千草もさすがに気付く。
 「ちっ、しぶといガキやな」
 「貴女は儀式を続けて」
 フェイトが再びルビカンテを呼び出す。翼を持つ悪魔は、剣を振りかぶりながらネギ目がけて突撃した。
 「あいつは、刹那の姉さんを射った奴じゃねえか!」
 「契約執行シム・イプセ・パルス1秒間ペル・ウナム・セクンダムネギ・スプリングフィールドネギウス・スプリングフィエルデース!」
 ネギの全身を魔力の光が包み込む。
 「最大加速マークシマ・アクケレラテイオー!」
 その瞬間、ネギの飛行速度が瞬間的に跳ね上がり、一際大きな水飛沫が上がる。次の瞬間、正面からネギが真っ直ぐに突き出した拳を受けたルビカンテは、胴体を粉砕されて静かに還った。
 「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!吹けフレット一陣の風ウヌス・ウエンテ風花フランス風塵乱舞サルタテイオー・プルウエレア!」
 ズバアッ!という音とともに、ネギが水面に叩きつけた風の塊が、激しく水をまき散らす。細かい水滴となった水は、一瞬にして儀式場を水煙で包み込んだ。
 「契約続行シム・イプセ・パルス・ドウーレム追加3秒アデイテイオナーレ・ペル・トレース・セクンダースネギ・スプリングフィールドネギウス・スプリングフィエルデース!」
 「そこか」
 声を頼りに、魔法攻撃を仕掛けるフェイト。だがそれを読んでいたネギは、既に杖から飛び退いていた。
 フェイトの頭上を越えながら、背後にあった大きな石灯籠を足場に、フェイトの背後から殴りかかる。だが、完全に不意を突いた筈の一撃は、フェイトが展開していた魔法障壁を破るまでには至らなかった。
 「馬鹿な!あれだけの威力のパンチを、障壁だけで!?」
 驚くカモ。しかしフェイトは平然と行動する。ネギの右手首を、左手でガッチリと捕まえて、純粋な膂力でネギの動きを封じてみせた。
 「実力差があると分かっていて接近戦を選択。サウザンドマスターの息子とは言え、所詮は子供か。期待はずれだよ」
 「引っかかったね?」
 ネギが空いていた左手を、フェイトの腹部に押し付ける。
 「解放エーミッタム魔法の射手サギタ・マギカ戒めの風矢アエール・カプトウーラエ!」
 水煙の中で準備しておいた、遅延呪文ディレイスペルによる戒めの風矢零距離発動。それこそがネギの思いついた作戦だった。フェイトはネギを上回る実力者。まともにやって勝てる相手ではない。そしてネギの目的は木乃香の奪還。ならば、無理にフェイトを倒す必要などない。拘束できれば、充分すぎる成果と言えた。
 「・・・なるほど。僅かな実戦経験で、驚くほど成長したものだ。認識を改めるよ、ネギ・スプリングフィールド」
 「兄貴、今のうちだぜ!」
 「うん!」
 木乃香がいる筈の祭壇目がけて走りだすネギ。だが祭壇に木乃香の姿は無い。代わりにネギとカモは、信じられない物を目撃した。
 目の前にいたのは、全長60mはありそうな、光の鬼だった。二面四手の伝承通り、後頭部にもう1つの顔が、腕は2対4本である。
 その顔の真横に、千草と木乃香が浮いていた。
 「一足遅かったようどすなあ、儀式はたった今、終わりましたえ」
 リョウメンスクナの威圧感に、ネギもカモも言葉が無い。
 「1600年前に討ち倒された飛騨の大鬼神。リョウメンスクナノカミ。しかし伝承を遥かに超える大きさやなあ」
 「兄貴、どうする?」
 「・・・完全に出ちゃう前に、やっつける!ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」
 荒い息をつきながら、ネギが詠唱を開始する。
 「来れ雷精ウエニアント・スピーリトウス風の精アエリアーレス・フルグリエンテース雷を纏いてクム・フルグラテイオーニ吹きすさべフレット・テンペスタース南洋の嵐アウストリーナ!」
 「兄貴!そんな大技使っちまったら、倒れちまうよ!」
 「雷の暴風ヨウイス・テンペスタース・フルグリエンス!」
 ネギが扱える魔法の中で、最強の術がリョウメンスクナに正面から激突する。だがリョウメンスクナの表面に、毛ほどの傷すらもつける事は出来なかった。
 「アハハハハ!それが精一杯か!?まるで効かへんなあ!このリョウメンスクナがあれば、東に巣食う西洋魔術師に一泡吹かせてやれますわ!」
 勝利を確信し、高笑いする千草。一方のネギはと言えば、魔力が枯渇寸前にまで消耗してしまい、力なく崩れ落ちる。
 同時に、戒めの風矢によって束縛されていたフェイトも、自由を取り戻した。
 「残念だったね、ネギ君」

同時刻、シンジside―
 当初は100体を数えた、千草の配下達はその数を10体以下にまで減らしていた。残る敵も、もはや首領格と月詠だけである。
 というのも、当たれば一撃で消し飛ぶアスナのハリセンと、シンジの破術が、あまりにも相性が良すぎたのである。これがアスナ1人であれば、技量の差で覆す事は十分に可能だった。だがシンジの破術が組み合わさった瞬間、技量の差等意味が無くなった。
 なにせ遠距離で飛んでくる符を躱わした所を狙って、アスナがハリセンを叩きつけて一撃KOなのである。だからと言ってシンジの破術を受ければ、やはりこちらも一撃KO。となると、下手に捨て身の攻撃もできず、回避に力を注ぐしかない。
 その一方で達人古菲と、銃火器で攻め立てる真名が、凄まじい勢いで敵を削っていく。2人はシンジ・アスナ組と互い背中を守り合うように動いているので、持てる力の全てを攻撃に注げる分、普段以上の攻撃力を発揮していた。
 だがその快進撃も、リョウメンスクナの登場によって、急停止せざるをえなかった。
 「ネギの奴、失敗したの!?」
 「分かりません!でも助けに行かなければ!」
 「ああん、ダメですえ、センパイ」
 ネギの救援へ赴くべく、間合いを取ろうとする刹那。行かせてなるものかと、間合いを詰める月詠。だがその月詠を、弾丸が立て続けに襲う。
 「行け!ここは私と古菲で引き受ける!」
 「ここは私達に任せるアルね!」
 「任せろ!ただし、あとで仕事料ははずんで貰うがな!」
 どこか冗談めかした真名の叫びに、シンジが応じた。
 「ボーナスははずませて貰うよ。龍宮さん!」
 「楽しみにしてるさ!行け!」
 月詠に立て続けに弾丸を叩き込む真名。その弾丸の嵐を、月詠は全て弾いてみせる。
 「邪魔しはってえ〜神鳴流に飛び道具は効きまへんえ〜」
 「知ってるよ」
 オートマチックを構えなおすと、真名は月詠相手の戦闘に入った。

 ネギに合流するべく、戦場を離れた3人に念話が届いた。
 ≪聞こえるか?姐さん?旦那≫
 「カモ!」
 「カモさん」
 「聞こえるよ」
 三者三様の返事を返す。
 ≪兄貴がピンチなんだ!今すぐ喚ばせてもらうぜ!≫
 
同時刻、ネギside―
 ゆっくりと歩み寄るフェイトを、ネギは悔しそうに睨みつけていた。
 「もう限界だろう。殺しはしないから、安心しなよネギ君」
 だがそこで、カモがネギに合図を送った。
 「召喚エウオケム・ウオースネギの従者ミニストラ・ネギ神楽坂明日菜カグラザカアスナ桜咲刹那サクラザキセツナ近衛シンジコノエシンジ!」
 宙に放り出されたカードが魔法陣を展開。3人をこの場へ呼び寄せる。
 「す、すいません。僕、木乃香さんを・・・」
 「分かってるわよ!・・・って、何あれえ!」
 アスナと刹那が反射的に武器を構える。シンジも符を取り出した。
 「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト!」
 フェイトの全身を、魔力が包み込む。
 「小さき王パーシリスケ・ガレオーテ八つ足の蜥蜴メタ・コークトー・ボドーン・カイ邪眼の主よカコイン・オンマトイン
 「マズイ!石化だ!詠唱を止め」
 「ダメです、間に合いません!」
 カモが警告を発するが、発動を止めるには、時間も足りず、距離も開き過ぎていた。
 「時を奪うプノエーン・トウー・イウー毒の吐息をトン・クロノン・パライルーサン石の息吹プノエー・ペトラス!」
 「急々如律令!」
 しかし符を使う故に、西洋魔術のように長い詠唱を必要としないシンジの破術が飛ぶ。あらゆる術を無効化する符は、フェイトの指先から放たれた石化のガスと正面から激突して、その大半をかき消した。
 「まさか、僕の魔法を防いだ?いや、これは無効化の術式か」
 「神楽坂さん!桜咲さん!10秒稼いでくれ!ネギ君を回復させる!」
 短刀を抜き放ちながら叫んだシンジに従い、2人がフェイトに攻撃を仕掛ける。驚いていた隙を突かれた為、先手を取られたフェイトが攻め込まれる。
 「フェイトはん!シンジを止めるんや!血の契約を発動させてはあきまへん!」
 戦況を見据えていた千草から指示が飛ぶ。フェイトもシンジを牽制しようとするが、刹那とアスナがそれをさせない。特に刹那は、未だに血の契約の有効時間内である為、全く遠慮のない攻撃を放つ。
 「神鳴流奥義!百烈桜華斬!続いて雷鳴剣!」
 「しもうた!すでに血の契約を使った後やったか!フェイトはん、気いつけや!その見習い剣士、気が無限に回復し続けてるで!」
 「それは厄介だね。恐るべき力だよ」
 視線の先では、手首を切ってネギに血を飲ませるシンジがいた。だがその顔は決して明るくない。なぜなら無効化を免れた石化のガスを浴びたせいか、ネギの右手の指先が、石へと変わりつつあったからである。
「我、藤原之朝臣近衛家之従者、シンジ也。是よりネギ・スプリングフィールドと、血之契約を結ぶ物也」
 ゴウッと音を立てて、ネギの全身が魔力に包まれる。
 「ウソだろ!?兄貴の魔力が!」
 「・・・凄い・・・力が漲ってくる!」
 ガス欠同然だった魔力が、瞬く間に回復したという事実に驚きを隠せない2人。そんな2人から視線を外しつつ、シンジはリョウメンスクナへと目を向けた。
 「さて、これから、どうするかな。せめてネギ君以外に、もう1人空を飛べる人が欲しい所なんだけど」
 「シンジさん?」
 「大したことじゃないよ。リョウメンスクナはどうとでもなるからね。木乃香を誰に助けて貰おうかと考えていただけだよ、桜咲さん」
 その言葉に、フェイトと刃を交えていた刹那がピクンと身を震わせた。
 「そこの白髪の少年は、神楽坂さんとネギ君に押さえて貰う。リョウメンスクナは僕が押さえる。そうなると、桜咲さんに木乃香を頼みたいんだよ、あの子の兄としてね」
 「まさか、知っていたんですか?」
 「以前、詠春さんから聞いた事はあってね。過去を振りきれていない僕が言うのもおかしな話だけれど、木乃香の為に動いてくれないか?」
 シンジが何を言っているのか分からず、その場にいた者達全てが動きを止めていた。それはフェイトも例外ではない。もっともフェイトの場合は、シンジの思惑を読み取ろうと半ば意識的に攻撃の手を緩めていた。
 「最初の日に、言ったよね。木乃香の兄として、出来る事をするって。大丈夫だよ、木乃香は決して、君を嫌ったりしないから。あの子は『せっちゃん』が好きだからね」
 その言葉に、刹那が後ろへ飛び退いて間合いを取った。同時に、刹那の背中から、純白の翼が姿を見せる。
 その光景に、束の間だがアスナもネギも、フェイトすらも目を奪われた。
 「・・・綺麗・・・」
 ネギの素直な言葉に、刹那の顔が赤く染まる。
 「木乃香を頼むよ」
 「はい!」
 空高く舞い上がる刹那。それを迎撃しようとフェイトが行動するが、アスナに間合いを詰められ、更には魔力を回復させたネギに魔法の矢で追撃をかけられ、思うように動く事も出来ない。
 そんな時だった。4人の心に、念話が届いたのは。
 ≪お前たちの戦い、見せて貰ったぞ。1分半。あと1分半だけ持たせろ。そうすれば、私が全てを終わらせてやる≫
 「この声、これってまさか!」
 ≪おい、近衛シンジ。折角の坊や達の成長の機会だ。その為の作戦を練り上げろ。勿論やれるな?≫
 問われたシンジはと言えば、ヤレヤレと肩を竦めるばかりである。
 「平気で無理難題を押し付けないで欲しい物ですが、後で見返りは貰いますよ?」
 ≪ククッ、良いだろう≫
 途切れる念話。同時にシンジが指示を飛ばす。
 「神楽坂さんは前衛を担当!相手の障壁を破る事を最優先に!大ぶりじゃなくて、隙の少ない小技で攻めるんだ!当たれば障壁は消し飛ぶんだから!」
 「う、うん!」
 「君の特性は武器にも盾にもなる!君は魔法使い殺しなんだ!それを忘れるな!」
 アスナが言われた通り、障壁を破る事を最優先に攻撃を仕掛け出す。それまでの隙の大きい大振りの攻撃とは一転した、隙の少ない小振りの攻撃は、問答無用でフェイトの障壁を砕いていく。
 大振りの一撃だったからこそ、フェイトは余裕をもってアスナの一撃を躱す事が出来ていた。だが小振りの攻撃を手数で攻められると、さすがのフェイトと言えども全てを躱すのは至難の技である。
 小さく舌打ちするフェイト。
 そこへシンジの声が響く。
 「ネギ君は契約執行を!魔力の残量は気にしなくていい!それから常に神楽坂さんを活かす事を考えるんだ!後衛の役目は攻撃じゃない!戦場のコントロールだ!」
 「は、はい!」
 ネギの契約執行により、アスナの全身に魔力が満ちる。契約執行の支援を受けたアスナは、今までに倍する速度でフェイトへと襲い掛かる。フェイトも対抗しようとし、そして驚愕に眼を見開いた。
 アスナの肩越しに見えたのは、魔法の矢である。
 「馬鹿な!巻き込むつもりか!?」
 だが魔法の矢は、アスナに触れた物だけが消滅。触れなかった物については、そのままフェイトへと襲い掛かった。
 普段のフェイトならば障壁で凌げる程度の威力。だが今のフェイトは、障壁破壊だけに専念しているアスナの攻撃により、無防備の状態である。
 5本の雷の矢がフェイトに命中。そこにチャンスとばかりに、アスナが得意の蹴り技を叩き込んだ。とは言え、フェイトも黙ってやられる性格ではない。アスナの蹴りを受け止めつつ、石化の魔法で攻撃を試みるが、常にアスナがネギとフェイトの直線上に陣取るように位置するので、ネギまで届かせる事が出来ない。
 「全く、やってくれる!」
 魔法を諦めたフェイトは、白兵戦に持ち込んだ。その技量と魔力による身体強化でアスナを逆に追い詰めて行く。
 必死で持ちこたえようとするアスナ。だが救いの手は意外な所から現れた。
 「アスナさんはやらせない!」
 自分自身に契約執行をかけたネギが、アスナとフェイトの間に割って入ったのである。なおかつフェイトの拳を掴んで止めただけではなく、空いているもう片方の手で、全力を込めて殴りつけた。
 「この体に直接拳を入れられたのは初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド!」
 殴り返そうとするフェイト。だがその拳を押さえる者がいた。
 (影を使った転移魔法!?)
 「うちのぼーやが世話になったようだな、若造」
 その言葉とともに吹き飛ぶフェイト。
 闇の福音、エヴァンジェリンが参戦した瞬間だった。

千草side―
 「全く、手を焼かせる奴や。どれだけウチに迷惑かければ気が済むんや」
 リョウメンスクナの顔の横で、千草が小さく呟く。だがその言葉に負の感情は無い。あるのは仕方ない奴だ、という目に入れても痛くない程に可愛がってきた弟子に対する呆れたような思いであった。
 詠春によって初めてシンジに引き合わされた時、彼女は言葉が無かった。何せ、全身を拘束されていたのである。更には死んだ魚のような目に、彼女は目の前の少年に何があったのかと疑念を抱いた。だが師弟関係になると、そのような思いはすぐに消え去った。あらゆる知識を瞬く間に吸収し、人間の範疇を超えた気を持つシンジに、大きな期待を寄せるようになったのである。
 シンジも師となった千草や詠春に、少しだけ心を開くようになり、僅かずつだが言葉も交わすようになった。弟子となって以来、初めてシンジが厨房に立ち、日頃のお礼と言う事で食事を作って来た時には、目を背けて強がりを言いながらも、シンジがそこまで立ち直った事に嬉しさを覚えたものである。
 「あれさえ、あれさえ無ければ!」
 歯噛みする千草。シンジが毛嫌いされる事になった一件。それ以来、少年は再び心を閉ざした。話しかければ反応する。だが笑顔だけは二度と表に出さなかった。
 関西呪術協会にも居場所を無くし、詠春の判断で麻帆良に託すと打ち明けられた時、彼女は必死で抗議した。かつての大戦において、両親を魔法使いのせいで失った彼女にしてみれば、麻帆良は親の仇の巣窟である。何より彼女にとって、シンジは実の弟のようにすら思えていたからであった。
 だから、彼女はシンジを救いたかった。今回の計画で関西呪術協会に確固たる基盤を築き上げ、シンジを呼び戻そうと画策した。それはシンジの策によって強硬派上層部が粛清され、事実上の強硬派トップとなった彼女にしてみれば、絶好の機会だったのである。
 「なのに、お前は敵に回るんやな」
 弟妹を守る。シンジは千草に宣言していた。
木乃香を含めた少女達を妹と、サウザンドマスターの息子を弟と呼ぶ。それこそシンジが麻帆良で得た物。間違いなく、シンジにとっての心の拠り所。
だから、彼女は欠片ほどにも想像しなかった。
シンジが大事な心の拠り所を、捨て去る覚悟をしていた事に。
ネギやフェイトを置き去りに、シンジがリョウメンスクナ目がけて走り寄り、刹那が空中から奇襲を仕掛ける。
当然の如く、千草は木乃香を奪われまいと刹那目がけて式神に指示を下そうとして、凍りついた。シンジの叫びに。
人形制作者ドールメイカー!」

刹那side―
 「御嬢様を返してもらうぞ!」
 頭上から刹那は奇襲を仕掛けた。千草と木乃香の他にも、猿の式神が3体ほど護衛についているが、そんな物を彼女は全く気に留めていなかった。
 狙いは1つ。ただ木乃香を奪還する事だけである。
 「御嬢様ああああ!」
 千草も気付き、式神に迎撃の指示を出そうとする。しかし、その顔が地面へと向けられ、体を強張らせて絶叫していた。
 (今だ!)
 千草とすれ違い、掠め取るように木乃香を奪い返し、再び上空へと舞い上がる刹那。その衝撃に、木乃香が薄らと眼を開いた。
 「御嬢様、御無事ですか!」
 「せっちゃん。やっぱり助けに来てくれたんやね。ウチ、信じてたよ」
 木乃香の言葉に、刹那の瞳に熱い物が浮かんでくる。
 「なあ、せっちゃん。背中の羽、何?」
 「これは・・・」
 「せっちゃん、きれーな羽やなあ。まるで天使みたいや・・・」
 その言葉に喜びを覚える刹那。戦場ではフェイトが突然現れたエヴァンジェリンに吹き飛ばされ、リョウメンスクナも動きを止めていた。
 だから、千草とすれ違った時に彼女が叫んだ『悲鳴』を思い出す事ができた。

 『シンジ、止めるんや!お前はまた化け物と呼ばれてもええんか!』

シンジside―
 刹那に若干遅れるようなタイミングで走っていたシンジは、千草の注意が刹那に向きかけた瞬間に、気で足の筋力を強化して瞬間的に速度を上げた。
 確かにシンジに戦闘の才能はない。面倒見の良い詠春も、匙を投げるほどに才能が無かったのである。刀を振るえば足を斬る、という冗談が、シンジの場合は事実となってしまうほどだった。
 だがそれは、あくまでも戦闘技術のみ。単純に気で体を強化するだけなら、全く問題はないのである。
 そして今、シンジは決定的なタイミングを捉えて、リョウメンスクナの肌に触れる事に成功していた。
 「人形制作者ドールメイカー!」
 シンジの手から、膨大な気がリョウメンスクナへと伝わっていく。その瞬間、リョウメンスクナは、千草からシンジへと支配権を移行していた。
 「シンジ、止めるんや!お前はまた化け物と呼ばれてもええんか!」
 はるか頭上から、師である千草の悲鳴が聞こえてきた。
 「師匠。その程度は覚悟の上ですよ」
 千草の顔色が、誰が見ても分かるほどに変化した。千草はシンジの異能『人形制作者ドールメイカー』の特性を良く理解していたのだから。
 敗北を悟った千草が、式神に命じて自身を離れた所へ移動させていく。その姿を眺めながら、シンジは呟いた。
 「リョウメンスクナ。お前の肉片を、僕に分けるんだ」
 指示に従い、リョウメンスクナが自らの脇腹に爪を突きさす。ハンドボールほどの大きさの肉片が、シンジの前に運ばれてきた。
 その肉片の一部を、シンジは持ち歩いていた試験管に入れ、自分の血を注ぐと、蓋をした。
 「おい、近衛シンジ。貴様、何を考えている?」
 「ちょっとした悪巧みです。それより、これの破壊をお願いできませんか?さすがに麻帆良まで持って帰る気にはなれないので」
 「ふん、良いだろう。ただし、後で悪巧みの内容を聞かせて貰うからな。茶々丸、やれ!」
 エヴァンジェリンとシンジが退避したのを見計らって、上空に待機していた茶々丸が結界弾をリョウメンスクナ目がけて発射する。
 半球体状の結界に包まれた事で、リョウメンスクナを支配していたシンジの気が断ち切られ、リョウメンスクナは荒ぶる神としての意識を取り戻した。
 「この質量では10秒程度しか拘束できません。お急ぎを」
 「ぼーや!最強の魔法使いの実力を見せてやる!よーく見ておけ!」
 離れた場所にいるネギへ命令すると、エヴァンジェリンは詠唱を始めた。
 「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!契約に互いト・シュンポライオン我に従えディアーコネートー・モイ・ヘー氷の女王クリュスタリネー・パシレイア!」
 エヴァンジェリンの右手に、強大な魔力が集まっていく。
 「来れエピネゲーテートーとこしえのやみタイオーニオン・エレボスえいえんのひょうがハイオーニエ・クリユスタレ!」
 ビキビキと音を立てて池が凍結していく。そしてリョウメンスクナは巨大な氷の柱の中に、その下半身を埋没させていた。更に上半身すらも、凄まじい速度で凍りついていく。
 「全ての命ある者に等しき死をパーサイス・ゾーアイス・トン・イソン・タナトン其は安らぎ也ホス・アタラクシア!『おわるせかいコズミケー・カタストロフェー』」
 パチンと指を弾くエヴァンジェリン。同時に、リョウメンスクナは木っ端微塵に砕け散った。
 「ハーハッハッハ!伝説の鬼神だか何だか知らぬが、私の敵ではないわ!」
 砕け散っていくリョウメンスクナを背後に、ネギの元へと降り立つエヴァンジェリンと茶々丸。そこへシンジやアスナ、刹那も合流する。
 「す、凄かったです、エヴァンジェリンさん!」
 「そーかそーか、よしよし♥」
 すっかり上機嫌のエヴァンジェリンである。ここまで上機嫌なのは、ナギ生存を知った時ぐらいしかない。
 「でも、登校地獄の呪いは?」
 「そうよ!学園の外に出られないんじゃなかったの!?」
 「それなのですが・・・」
 心底不思議そうなネギ達に、メイド姿のまま転移してきた茶々丸が説明に入る。
 「学園長が呪いの精霊を騙す為に『エヴァンジェリンの京都行きは学業の一環である』という書類にハンコを押し続けています。約5秒に1枚の割合ですが」
 「この際だ。ジジイには私の京都観光が終わるまで、ハンコを押し続けて貰うさ」
 その言葉に、アスナが『学園長、死んじゃうんじゃない?』と当然の疑問を投げかけるが、上機嫌のエヴァンジェリンにしてみれば、どこ吹く風である。何より15年ぶりの遠出なのだから、機嫌が良くなるのも当たり前だった。
 そこへ比較的近場で戦っていた楓が、夕映やハルナ、小太郎とともに駆け寄ってきた。
 「無事でござったか」
 「長瀬さん!夕映さんや朝倉さんを守ってくれてありがとうございます!」
 「いやいや、シンジ殿が移動手段をもっていなければ、間に合わなかったかもしれぬでござるよ」
 和気藹々とした雰囲気。ハルナはシンジの無事を確認して、抱きついて喜んでいる。ただ、居心地が悪そうなのは小太郎である。ネギやアスナも小太郎に気付くと『アーッ!』と声を上げたのだが、楓が『小太郎殿は素直に負けを認めているでござるよ』とフォローを入れると、素直に引き下がった。
 そんなホノボノとした一時が流れる中、エヴァンジェリンは真面目な顔でシンジへ目を向けた。
 「そういえば、近衛シンジ。お前に訊きたい事がある。お前、あのデカブツを支配下に置いただろう?一体、何をやった?」
 エヴァンジェリンの言葉に、シンジへ視線が集まる。
 「以前にも、貴様は同じ事をしただろう。茶々丸を操って、私にけしかけたな。私はあの時、お前の力は私と同じ人形遣いだと思いこんでいた。だが、あのデカブツは違った。糸を用いる必要のある人形遣いに、あれほどのデカブツを操る術など無い」
 「仰る通りですよ。僕は糸を用いる人形遣いじゃありません。僕が用いるのは、気による支配です。『人形制作者ドールメイカー』と名付けましたけどね」
 「気による支配だと?」
 素直に頷くシンジ。エヴァンジェリンに看破された以上、シンジには隠すつもりは無かった。
 「それが僕の持つ異能です。支配力に強弱をつければ、相手の意思を残したまま支配下に置く事も出来るし、自我を無くした操り人形にもできる。本人の自覚できない暗示を埋め込む事だってできる。それどころか僕の思うが儘に操る事も出来る。やった事はありませんが、強制的に自殺させる事だって可能でしょうね。だから人形制作者なんですよ」
 「貴様、馬鹿か!?そんな事をバラしたら!」
 「だからどうしたと言うんですか?エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。僕は嫌われる事には慣れているんです」
 その言葉に、ネギ達はシンジが毛嫌いされている理由を悟った。もし本人が自覚できないまま操られているとしたら?もし気づかない内に暗示を埋め込まれていたとしたら?その不安、猜疑心、恐怖心から関西呪術協会はシンジを迫害したのだと言う事に。
 誰もが言葉を無くしたまま、呆然としていた時だった。
 エヴァンジェリンの背後。ちょうど死角になっていた位置にあった水溜り。そこが不自然に揺らめいたのである。
 それに気付いたネギとシンジが、反射的に動いた。
 ネギはエヴァンジェリンを庇うように、シンジは盾になるように飛び込む。
 「な、何を!」
 水溜りから姿を現したのはフェイトである。完全に準備を整えた上での奇襲攻撃だった。
 「障壁突破ト・ティコス・デイエルクサストー石の槍ドリュ・ペトラス』!」
 「急々如り」
 シンジの破術よりも早く、フェイトの魔法が展開していた。数本の石の槍がシンジの体を串刺しにし、特に巨大な1本は背骨ごと胴体を貫通していた。
 吹き出る血潮が、ネギとエヴァンジェリンに血飛沫となってかかる。
 ゴハアッと吐き出した大量の血を、避ける素振りも見せずに黙って浴びるフェイト。
 「貴様あ!どけ、坊や!」
 魔力を込めた一撃で、フェイトに襲いかかるエヴァンジェリン。だがその一撃を浴びたフェイトは、水飛沫を上げた。
 「今日の所は引き上げるよ。彼の命を奪えただけで十分だ」
 その言葉に、ハッと正気に戻った少女達が、シンジに駆け寄った。フェイトの撤退と同時に、石の槍は消滅。シンジは串刺しの状態から、地面へ落下するように崩れ落ちた。
 「シンジさん!」
 駆けよるハルナ。遅れて刹那が続く。胴体中央部、左太もも、右の脛、左肩、右の上腕と5か所に穴が開き、口からは派手に血を吐き続けていた。
 その凄惨極まりない姿に、修羅場になれていない夕映やアスナが体を強張らせる。
 せめて止血をと、楓が駆け寄る。だがその後ろでネギが崩れ落ちた。
 「ネギ!アンタ、何で石になってるのよ!」
 ネギの石化は、右半身に及んでいた。これまで動けたのが、不思議なほどの重症である。
 そこへ足止めの役目を済ませた真名と古菲が駆け寄ってきた。だが2人もシンジとネギの姿に言葉を失う。
 特にシンジに関して言うなら、確実に致命傷だった。
 「・・・おい、近衛木乃香!」
 「な、なんや?」
 「今すぐ、坊やと仮契約するんだ。そうすれば坊やは助かる」
 「そうだな。私も賛成だ。シンジさんは・・・もう間に合わない」
 「龍宮!」
 食って掛かったのは刹那である。だが真名は冷たく返した。
 「どちらにしろ出血が酷過ぎる。傷を塞いでも手遅れだよ」
 「龍宮!お前!」
 「刹那!だったらどうしろと言うんだ!ネギ先生だけでも助けるか、それとも両方とも死なせるか!」
 いつになく感情的な真名の怒声に、刹那は歯軋りしながらその場に崩れ落ちた。そこへ声がかかった。
 「・・・木乃香・・・いるかい?」
 「お兄ちゃん!」
 「・・・ネギ君を・・・助けてあげて・・・こっちは良いからさ・・・」
 無理矢理肘を支えに体を起こしたシンジに、ハルナが『動かないで!』と声を張り上げる。だがシンジは動くのを止めようとしない。
 「・・・木乃香・・・ネギ君を・・・」
 「早くしろ、近衛木乃香!本当に坊やが死んでしまうぞ!」
 「・・・分かったえ、お兄ちゃん・・・」
 泣きながらネギと仮契約を行う木乃香。ネギの石化は解除され、荒かった息も徐々に落ち着きを取り戻していく。
 だが喜びの声は上がらなかった。
 ハルナのすすり泣く声に、誰もが辛そうに目を背ける事しかできない。
 「茶々丸。近衛シンジを連れてこい。詠春の所へ撤退するぞ」
 「了解しました、マスター。早乙女さん、シンジさんを運びます」
 「いや!シンジさんは死んでない!死んでないんだから!」
 全身を朱に染めながら、ハルナが必死で叫ぶ。その姿に、エヴァンジェリンがヤレヤレと振りむいた。
 「おい、早乙女ハルナ。私がいつ、近衛シンジが死ぬと断言した?」
 「・・・え?」
 思わず顔を上げる少女達。戦場で数え切れないほど死というものを経験してきた真名も、エヴァンジェリンの言葉に反応していた。
 「そいつの体を見てみろ。恐らく、損傷した内臓が修復中の筈だ」
 ハルナが恐る恐るシンジの傷に視線を向ける。そこには、骨が剥き出しになった傷があった。
 「骨が・・・治ってる?」
 「全く信じられない話だがな。その男は私並みの自己治癒能力を持っているんだよ。おかげで以前も命拾いをしているんだ。覚えがあるだろう?坊や、神楽坂明日菜?」
 ハッと顔を見合わせるネギとアスナ。茶々丸を庇い、大怪我をしたシンジの姿を思い出す。
 「とは言え、何かあってから対応するのでは遅い。ならば何が起きても良いように、万全の態勢を整えておくんだ。分かったら、早く茶々丸に渡せ」
 オズオズとシンジを茶々丸に渡すハルナ。茶々丸は『お預かり致します』と告げると、軽々とシンジを抱き上げる。
 「だがな、これだけは言っておくぞ、早乙女ハルナ。今のお前では、この男を支える事などできん。ハッキリ言っておくが不可能だ」
 「な、なんでよ!」
 「それはな、この男が私と同じで、人間ではないからだ。以前、近衛シンジはこう言ったよ。自分は『人間を辞めさせられた』とな。こいつが抱える心の闇に、今の弱いお前では耐えられんよ。こいつを守る事も、支える事も出来ず、ただ泣く事しか出来ないお前ではな」
 その言葉に、全員の視線が茶々丸に抱かれたシンジに注がれた。

翌朝―
 シンジは胸に違和感を感じながら、目を覚ました。
 「ここは・・・」
 「良かった!眼を覚ましたんだ!」
 泣きながら抱きついてくるハルナに目を丸くしながら、室内を見回す。シンジが寝かされていたのは、詠春が彼に用意した個室だった。
 「みんなを呼んでくるね!」
 部屋から飛び出していくハルナ。だがシンジはハルナを待つことなく、身支度を整えていた。
 幸い、部屋のタンスには、彼が持っていかなかった衣服が、数点、残されたままだった。それに手早く着替えて、枕元に置かれた短刀をベルトに挟む。
 そこへハルナが全員を引き連れて戻ってきた。
 「ちょ、ちょっとシンジさん!何やってるのさ!」
 「僕はここにいる訳にはいかないからね。ホテルへ戻るよ」
 「な、何を馬鹿な事を言っているんですか!貴方がどれだけ大怪我をしていたのか、分かってないんですか!」
 刹那の怒声が部屋中に響く。
 「せっちゃんの言う通りや。お兄ちゃん、無茶はせんといて」
 「無茶はしてないよ。本当に治っているんだからね」
 「そういう意味やない!ウチらが・・・ウチらがどれだけ心配したと思ってるんや・・・」
 俯いてしまう木乃香。さすがに良心が咎めたのか、シンジがその理由を口にした。
 「僕は追放されている立場なんだ。怪我が治った以上、用も無いのに居座る訳にはいかないんだよ」
 「何言っとるんや!ここはお兄ちゃんの家や!」
 「・・・さすがにそう言う訳にもいかないんだよ。追放って言うのは、そういう物なんだからね。それにね、僕はみんなの傍にいない方が良いんだよ。みんなも気付いた筈だからね、僕の危険性に」
 重苦しい空気が、部屋を支配した。
 「・・・違うよ」
 小さいが、しっかりとした声がハルナの口から洩れた。
 「私が好きになったシンジさんは人間だよ!ちゃんと人の心を持ってるよ!」
 「そうですよ!シンジさんは身をもって、命の大切さと魔法の恐ろしさを僕に教えてくれたじゃないですか!」
 「ネギの言う通りよ!シンジさんのおかげで、私とネギは間違えずに済んだのよ!」
 「お兄ちゃん!みんなの言う通りや!お兄ちゃんは辛い事が有れば、傷付く心を持ってるやんか!」
 「その通りです。私達は綾波さんの話を覚えているです。貴方が苦しんでいるのは、何よりも貴方が人間だからだという証明だと思うです」
 「拙者も皆と同じ気持ちでござるよ。シンジ殿は他人を気遣う事ができるでござる。それはシンジ殿が人間である証ではござらぬか?」
 「私も同感です。シンジさん、貴方の行動で、私を含めた多くの人達が、救われているんです。その事実を忘れないで下さい!」
 「そうです!図書館島でみんなが遭難した時、助けてくれたじゃないですか!」
 一斉に詰め寄るハルナ達に、シンジが戸惑いを見せる。なぜなら、少女達の想いを素直に受け止められるほど、シンジの闇は小さくはないから。
 そこへ柔らかい声が響いた。
 「シンジ。貴方が1人で苦しむ必要はないんですよ」
 「詠春さん・・・」
 「もう貴方が追放される必要はありません。追放は今朝、完全に取り消させました」
 その言葉に驚いたのは当の本人である。
 「反対者は、みんな黙らせました。体を動かすのも、たまには良い物ですね」
 何故か抜身の太刀を手にしている詠春の後ろでは、全身に魔力を纏わせたエヴァンジェリンがクックックッと笑っている。その後ろでは、茶々丸が硝煙をあげるライフルを手に、直立不動の姿勢で立っていた。
 シンジが周囲を見回すと、他にも不自然な所はあった。真名、楓、刹那、古菲は、朝だと言うのに、埃まみれなのである。ネギやアスナ達は、どことなく気まずそうに顔を背けていた。
 それが意味する所に、シンジのコメカミに大きな青筋が浮かび上がる。
 「詠春さん!何をやってるんですか!それでも一組織のトップなんですか!?自分の部下を力づくで黙らせてどうするんですか!」
 「確かに私はここの長です。ですが、その前に1人の父親でもあります。そもそも貴方には何の非もありません。違いますか?」
 押し黙るシンジ。確かにその通りなので、何も言えない。
 「シンジ。貴方は恐れられるに足るだけの力を持っている。それは事実です。ですが、貴方はその力を手当たり次第に使うような人間ではありません。だからこそ、貴方は自らの追放という選択肢を選んだのでしょう?」
 「それは・・・」
 「何より、今回の一件の解決に当たり、大きな力となって下さった関東魔法協会の特使ネギ・スプリングフィールド君を代表とした嘆願書が提出されました。こちらとしても、突っぱねる訳にはいかなかったんですよ。東西友好の為にね」
 これにはシンジも驚いたのか、思わずネギを振り返った。そしてネギはと言えば、真っ直ぐにシンジを見返してきた。
 「シンジさんだけが、家に帰る事が出来ないなんて、おかしいじゃないですか!シンジさんは何も悪い事はしてないんですから!」
 幼い子供特有の真っ直ぐな主張に、アスナや夕映、のどか達がクスクスと笑いだす。
 「ですから、シンジ。貴方の追放は解かれました。義父とも相談しましたが、貴方の籍を、一度こちらに戻します。その上で貴方には、東西友好の一環として、麻帆良へ出向と言う形で出向いていただきます。受けて戴けますね?」



To be continued...
(2012.02.11 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は京都編のクライマックスであるリョウメンスクナ・フェイト戦でした。その最中に明らかになるシンジの異能『人形制作者ドールメイカー』。そして人ではない事が明らかになったシンジの抱える心の闇。そんな感じの話に仕立ててみました。
 ちなみに『人形制作者ドールメイカー』ですが、能力には制限があります。詳細については、今後の展開の中で明らかにしていきます。
 話は変わって次回です。
 次回は京都編最終話になります。
 ネギの父、ナギ・スプリングフィールドの消息を求めてナギの隠れ家へと足を向けるシンジ。そこでシンジは紅の翼アラルブラの存在を知る。ところが紅の翼アラルブラを裏から支えた最後の2人ラストメンバーの名前は、シンジにとって全く予想もしなかった人物だった。
 そして詠春の計らいにより、自首した千草と面会するシンジ。そこで千草の心の傷を知ったシンジは、かつてバルディエル戦で犠牲となった友人トウジを思い出す。
 自分は何の為に生まれてきたのか?
 その答えを見出したシンジは、碇シンジとして成すべき事を成す覚悟を決める。しかしその覚悟は、シンジを更なる闇へと誘う物だった。
 それではまた次回も宜しくお願い致します。



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