正反対の兄弟

第三十二話

presented by 紫雲様


学園祭2日前―
 かつての教え子の忘れ形見の訪問に、新田は上機嫌だった。新田の知る限り、シンジは性格面において多少の問題はあるものの、十分に優等生といえる性格だからである。そんなシンジから相談を受けた事に喜びを覚えたのだが、その内容には首を傾げていた。
 「学園祭までの見回りを、自分にやらせて欲しい、と?」
 「はい、あの子達は頑張っていますが、正直な話、キツイ部分があります。明らかに計画に対して時間が足りていないんです。ですが、これまでの努力を、僕は捨てさせるような事はしたくありません」
 「ふむ、なるほど。近衛君の言いたい事は、何となく理解できるよ」
 新田とて鬼ではない。生徒から鬼の新田と言われてはいるが、それはあくまでも教育者として厳格さを追求するが故の姿勢からついた異名なのである。
 「僕は事情があって、幸せな中学生活を送れたとは言えません。それでも文化祭は、僕にとって数少ない楽しい時間でした。その達成感と喜びを、あの子達にも味わせてあげたいんです。責任は僕が取ります。だから、お願いします」
 「気持ちは分かるよ。だがそれを認める事は、教師として認められないのだ。確かに君はネギ君の補佐役ではあるが、社会的に責任を取れる立場ではない。それは君も理解しているだろう」
 「はい、それを承知した上で、ここに来ています」
 真剣に頼みこんでくるシンジの態度に、新田は喜びすら覚えた。ルールを曲げると言う行為自体は褒められた物ではないが、シンジが生徒の事を真剣に考える気持ちが、心に伝わってきたからである。
 「近衛君。君は責任を取れないのだから、さすがにその頼みは聞けないのだ。だが、ここで私がトイレに行く為に席を立つ間、校内パトロールの資料が多少散らかっても、誰がやったかは証拠がないだろうな」
 「あ、ありがとうございます!」
 「では、私は5分ほど席を外します」
 そういうと、新田はトイレへ向かう為に、生徒指導室から静かに出て行った。

昼休み3-A教室―
 授業やSHRが無ければ、まず教室へ来ないシンジが単独で来た事に、3-Aメンバーは『珍しい事もあるなあ』と考えた。中にはハルナに用事か?と邪推した者もいたのだが、話し相手があやかであった事に、誰もが首を傾げた。
 「準備の方ですか?正直、時間的に厳しい所ですわ」
 「他のクラスも似たような物かな?」
 「はい。どこも同じ状況だと聞いていますわ」
 あやかの答えに、シンジは小さく声を顰めた。
 「・・・各クラスの委員長に連絡は取れる?」
 「それは問題ありませんわ。それより、何を考えているんですの?」
 「何とか製作時間を伸ばす事が出来そうなんだけど、チャンスは全員に平等であるべきだろう?その為の打ち合わせの時間が欲しいんだよ。先生には内緒でね」
 「そう言う事ですか、分かりましたわ。今から連絡を回して、放課後に時間を作らせます。それで宜しいでしょうか?」
 「ありがとう、それで頼むよ」

その日の放課後―
 シンジと、3年の各クラス委員長による『見回り対策委員会』の打ち合わせを済ませたあやかは、教室へ戻ってお化け屋敷の最後の追い込みに取りかかっていた。
 「まき絵さん、内装はどうですか?桜子さん達は被り物の進捗状況を教えて下さい。ハカセさん達はメカのチェックを・・・ちょっとハルナさん、何をそんなに落ち着いているのですか!」
 「大丈夫だって、絶対に上がるから。締め切り間際の修羅場は落ち着く事が大切なんだよねえ~」
 「落ちつき過ぎですわ!」
 そんな2人を横目に『パルは毎月修羅場をやっているです』『私達も手伝ってるからね』とのどかと夕映が呑気に会話する。
 そこへ放課後の職員会議を済ませたネギが、途中で合流したシンジと一緒にやってきた。
 「こんにちはー。皆さん、準備はどうですか?」
 「ヤバイよ、ネギくーん!」
 「間に合わへん」
 「ネギ君、てつだってよお!」
 裕奈・亜子・まき絵の悲鳴に、ネギの後頭部に大粒の汗が浮かぶ。だが人間という物は切羽詰まると、逃げ道を探し始める生き物である。
 桜子が『ライブイベントのチケットあげるから見に来てねー』という一言が発端となった。
 仕事の手を止め、瞬く間にネギに集まる少女の集団。本来なら、これを止めるべき委員長のあやかまでも参加している辺り、救いようが無い。
 「こらこら、一遍に言われても、ネギ君が自分のスケジュールを把握しきれないだろう。それにお化け屋敷の準備を止めるのもマズイ。ここは順番にネギ君をお誘いした方が良いよ」
 それには一理あると考えたのか、少女達の動きが止まる。そこへ肩にカモミールを乗せた和美が颯爽と躍り出た。
 「それじゃあ、私がネギ君の専属マネージャー代理として、予約を受け付けるよ!」
 「な、何で朝倉さんがマネージャーなんですの!?」
 「いや、ちょうど良いんじゃない?幸い、朝倉さんは誰に対しても中立だからね」
 シンジの発言に『そうそう』と頷く和美である。
 「ネギ君。どこか用事があるなら、今の内に言っておいた方がいいよ?」
 「いえ、元々みんなの出し物を見て回るつもりでしたから」
 「そうなの?折角だから小太郎君と回っても良いと思うんだけどなあ」
 とは言え、本人が良いと言うのであればとやかく言う必要はないかと考え直すシンジであった。なぜなら、シンジにもお誘いが来ていたからである。
 ハルナは漫画研究会の似顔絵描きとデートの申し込み、夕映は図書館探検部と哲学研究会、楓と双子姉妹は散歩部、と立て続けに誘いが来たのである。更に運動部組の出店として、刹那の剣道部と真名のバイアスロン部、美空の陸上部にも顔を出すよう誘いが来ていた。だがクラス中を驚かせたのは、超のロボット工学研究会であった。
 これには、クラス中から驚きの声が上がった。
 「他のメンバーは分かるよ。でも何で超さんが?」
 「ふっふっふ。最近、シンジサンが気になるネ。だからお誘いする事にしたヨ」
 「「「「「「何いいいいいい!?」」」」」」
 一斉に沸き起こった驚愕の悲鳴。穏やかでいられないのは、シンジとの仲がクラス公認であったハルナである。
 「ちょ、ちょっと!?」
 「ハルナ。モタモタしていたら、私が貰うネ」
 「ダ、ダメエエエエエ!」
 シンジの腕にしがみつくハルナ。そんなハルナを挑発するかのように、反対側の腕を超が絡め取る。その行動に、クラス中から『おおおおおお!?』とどよめきが上がった。
 「超さん、冗談はそれぐらいにして欲しいんだけど」
 「私は本気ネ。何なら証拠を見せてあげるヨ」
 シンジが『証拠?』と問い返そうとした時には遅かった。
 目を丸くするシンジ。
 ショックで硬直するハルナ。
 言葉もない少女達。
 とっさに背後から、木乃香によって両目を隠されるネギ。
 唇を離すと、超はハルナにニヤッと笑いかける。
 「勝負ヨ、ハルナ」
 「・・・絶対に負けるもんかあああああ!」
 学園祭を前に勃発した恋の争いに、3-Aは歓声に包まれた。

その日の夜―
 学園祭の準備は20時まで。この規則を守るように通達されてはいたが、そうもいかないのが現実である。
 その為、学年全体が規則を破って居残り作業をしていた。それは3-Aも同じである。更に3-Aは担任教師であるネギすらも労働力として巻き込んでいた。
 「みなさん、今から10分だけ物影に隠れて下さい。携帯電話も電源を切って、声も出さないで、静かにするようにして下さい」
 「どうしたのさ?委員長」
 「新田先生が見回りに来ます。バレたら強制的に帰らされますわよ?」
 その言葉に、慌てて隠れる少女達。やがて聞こえてくる足音に、全員が体を強張らせる。やがてガラッという音とともに、懐中電灯の灯りが教室を照らし出した。
 ((((((マジで来た!?))))))
 しばらくして、立ち去る足音。それから数分経ち、足音が階段を下りて行く音を確認した上で、あやかは作業開始の指示を出した。
 (いいんちょ、何で新田が来るって分かったの?)
 (近衛さんが校内パトロールの予定表を調べて下さったんですよ。それを基に、3年の学級委員長全員で手を組んだんです。でもあまり騒ぐと、新田先生が戻ってきてしまいますから、作業は静かに進めて下さい)
 (・・・マジかよ。あの寮監、手際が良すぎるぜ)
 ペンシルライトを口で咥えながら、釘を打ち始めた千雨の台詞に、周囲が一斉に頷きだす。
 (ただ、近衛さんから最低3時間は交代制で仮眠を取るように言われています。毛布は用意してありますから、それだけは守るようにして下さい)
 (で、でも仮眠したら間に合わないんじゃあ?)
 (こういう場合は、無理に徹夜をすると失敗のフォローで余分に時間をかけてしまうのが当然だと言われましたわ。それよりは脳を少しでも休めた方が、ミスは少なくなって、結果的に仕事は早く終わるそうです)
 そう言われてしまうと、少女達は何も言えない。
 (そういえばさ、シンジさんはどこ行ったの?ネギ君はここにいるけど)
 (あの人は、徹夜で学年全体の朝食の準備だそうです。オニギリぐらいしかできないと言ってましたが、充分すぎるほど頑張って下さってますわよ)
 その返事に、全員が『マジ?』と呻き声を上げる。いくら料理が得意でも、その負担が尋常な物でない事ぐらい、彼女達にも理解できた。
 (だから、私達も約束は守らないといけないんです。分かりましたね?)

 翌朝、各クラスに1人1つのオニギリと缶コーヒー、お味噌汁の宅配をしたシンジの行動力に、少女達は感謝したという。

 シンジの用意した朝食を済ませた後、生徒達はバラバラに行動を始めた。というのもクラブの出し物の準備をしないといけない者達もいるからである。
 残った者達で作業を進める中、シンジが教室へ顔を出した。
 「ネギ君、それから桜咲さん、ちょっと来て」
 「何かあったんですか?」
 「学園長が呼んでいるんだよ、ついてきてくれるかな?」
 互いに顔を見合わせるネギと刹那。全く心当たりが無いのだから、仕方が無いのだが。
 「分かりました、では少し離れます、御嬢様」
 「すいません、あとお願いします」
 シンジが向かった先は、世界樹広場である。だが学園祭前日にも関わらず、どこにも生徒達の姿は見られない。というより、完全に無人である。
 「これは、結界ですか?」
 「そうだよ、もうみんな待ってるから」
 その言葉通り、広場には複数の人影が立っていた。
 「おお、来たか。待っとったぞ」
 「あの・・・この方達は?」
 「うむ。麻帆良学園に在籍している魔法先生と魔法生徒じゃよ。まあ全員ではないがの。今日はネギ君との正式な顔合わせも兼ねて、ここに集まって貰ったのじゃ」
 今までただの教師や生徒だと思っていた者達までいたので、ネギは困惑するばかりである。
 「瀬流彦先生に明石教授にシャークティー先生もそうだったんですか!?」
 「実はそうなんだよ。裕奈が世話になってるね、ネギ君」
 「黙っててごめんね。修学旅行の時も手伝ってあげたかったんだけど、他の生徒達の護衛をしなくちゃいけなくてね」
 「これからも挫けずに頑張るんですよ」
 三人らしい挨拶に、目を丸くするネギである。その肩越しに、手を振っている人影にネギが反応した。
 「あー!小太郎君!」
 「ようネギ!昨日は大変だったみたいやな?」
 「・・・そうだ!小太郎君、昨日はどうしてたの?那波さん達、部屋にいなかったんじゃあ」
 その言葉に、小太郎がシンジを指差した。
 「この兄ちゃんに泊めて貰ったわ。ついでに宿賃代わりに、朝飯作りも手伝ったけどな。それにしてもオニギリ1学年分作るのは大変やったで。この兄ちゃん、ようあんなに作れるわ」
 「小太郎君のおかげで助かったよ。ありがとう」
 「ええって!朝も夜も飯を食わせて貰えたしな!」
 生活力のある2人の会話に、目を丸くするネギであった。

和美・さよside―
 麻帆良新聞に載せる記事を捜す為、和美はさよとともに学園内を歩いていた。
 「ふーん、それじゃあ昔の記憶がないんだ」
 「はい。気が付いたら、教室にいたって感じで・・・名前しか覚えていなかったんですよ~」
 「アンタの事、記事にしたいけど、やったら近衛さんが怒るだろうなあ。何でこう記事にできない事件ばかり集まるのかなあ」
 ヤレヤレと肩を竦める和美。そんな和美の横では、さよがニコニコと笑顔のまま、フヨフヨと浮いていた。
 「でも不思議ですね~本当なら私、お婆ちゃんの筈なのに、こうしてみんなと一緒なんですから~」
 「そっか、言われてみればそうだよね。60年前に15歳で亡くなったと仮定すると、本来なら75歳だもんね。確かに不思議な気分だわ」
 そんな事をお喋りしながら歩いていた和美の足が、急にピタッと止まる。
 「どうしたんですか~?」
 「広場へ取材に行くつもりだったのに、急にそちらへ行きたくなくなって・・・」
 「・・・あれ?ネギ先生がいますよ。それに近衛さんと桜咲さんまでいますね~」
 さよの言葉に、好奇心を刺激される和美。だが足はこの場から立ち去ろうとでも言うかのように、前へ進もうとしてくれない。
 「くっそお、ネタの匂いがプンプンするのに・・・」
 「あの・・・私が聞いてきましょうか?シンジさん以外なら気付かれない自信はありますから~」
 「お、マジ?それじゃあ頼むよ、さよちゃん」
 『は~い』と返事をしながら、さよが広場に近付いて行く。だがシンジの視界に入れば問答無用で見つかってしまう事は分かっていたので、さよはシンジの後ろ、それも上の方へと移動した。
 (この辺りなら大丈夫だと思います~)
 そう考えると、さよは耳を澄ませた。

「今日、わざわざ集まって貰ったのは他でもない。少々、困った問題が起きておるのでな、その問題解決の為に皆の力を貸して貰いたいのじゃ」
「問題?」
「うむ。この中で『世界樹伝説』を知らない者はおるかの?」
「・・・あの噂話の事?願いが叶うとか、告白が成功するとかいう、アレ?どうせ単なる噂でしょ?」
シンジの言葉に、大半のメンバーが頷く。頷かないのは、魔法教師達だけである。
「実はのう、それが事実なんじゃ」
「「「「「「へ?」」」」」」
魔法生徒世代が同時に素っ頓狂な返事を返した。
「困った事にの、マジで願いが叶ってしまうのじゃよ。22年に1度だけな」
「・・・本当に?」
「まあ信じられないのも無理はないがの。まあ諸君達には学祭期間中、特に最終日の日没以降の、生徒による世界樹伝説の実行―つまり告白行為を阻止して貰いたいのじゃ」
シンジ達が目を丸くして唖然とする。さすがにこれは、誰も予想できなかった。
「この世界樹じゃがの正式名称は『神樹・蟠桃』と言っての、強力な魔力をその内に秘めておる。つまり魔法の樹なのじゃ。シンジ、お主は知っておるじゃろ。龍脈を通じて、自分で調べたんじゃからの?」
「・・・それはそうだけど、願いが叶うってのは予想外だよ。僕はせいぜい、魔力を横取りする為に、侵入者が来るんだと思っていたからね」
 「世界樹の魔力に気付いた者は比較的多いが、その源泉にまで気付いたのは、儂が知る限りお主ぐらいじゃったわ。まあ、それは置いておくとしてじゃな」
 コホンと咳払いすると、近右衛門は説明を再開した。
 「その魔力が問題なのじゃ。22年に1度の割合で魔力は極大に達して樹の外へと溢れ出す。そして溢れた魔力は世界中を中心とした、六ヶ所の地点に魔力溜りを形成する。その1つがこの世界樹前広場である訳じゃ。ここまでは良いかの?」
 一斉に頷く魔法生徒達。全員が理解している事を確認すると、近右衛門は説明を続けた。
 「その膨大な魔力が人の心に作用するのじゃよ。大金が欲しいというような即物的な願いは叶わぬが、こと告白に関する限り、その成就率は120%!まさに呪い級の威力を発揮するんじゃよ!」
 「・・・お爺ちゃん、今すぐこの樹を焼き払おう。それが一番効果的だよ」
 「「「「「「ちょっと待て!」」」」」」
 一斉にシンジへツッコミを入れる魔法生徒達。普段は真面目な高音すらもがツッコミを入れている事態に、シスター・シャークティーが言葉を失う。
 「さすがにそれはできんのじゃよ。何せ、この樹は麻帆良の要じゃからの。それに本当なら今回の一件は来年起きる筈じゃった。理由は分からんが、恐らくは異常気象のせいじゃろうな。セカンド・インパクトによる季節の異常が、去年の3月に急に戻った事は、お主らも知っておるじゃろう?その影響が今回になって出てきたとしても不思議はないわい」
 シンジの顔に、僅かに陰りが落ちる。その事に近右衛門は気付いたが、敢えて気付かぬフリをする。そこへネギが言葉を挟んだ。
 「でも、どうして恋人になっちゃいけないんですか?」
 「そもそも、人の心を魔法で操る事その物が、魔法使いの本義に反するんじゃよ。好きでも無い者と、恋人になってしもたらイヤじゃろ?」
 (・・・僕、惚れ薬作っちゃったけど・・・)
 (兄貴、一応言っておくけど、惚れ薬って違法だからな)
 カモの指摘にショックを受けるネギ。その顔が一気に青褪めていく。
 「ど、どうかしたかの?」
 「何でもねえぜ!続けてくれ、続けて!」
 前足をブンブン振りながら力説するカモに、首を傾げる近右衛門。だがその事を追求するよりも早く、ファイルを手にした刀子が口を開いていた。
 「学園七不思議研究会、学園史編纂室、オカルト研究会、世界樹をこよなく愛する会、以上のサークルの研究活動により、かなり真実へ近づかれている事が確認されています。
更に麻帆良スポーツ、ネットの掲示板、口コミ等を媒体に噂は広がっています。その浸透率は男子34%、女子79%に上ります。さすがに本気で信じている子は少ないでしょうが」
 「だが占いや迷信が好きな子、恋愛に悩む子達の中には実行に移す子が出てくるでしょうね」
 「そういうことですか。でしたら、ここに特A級の危険人物がおりますが?」
 高音がジトッとシンジを睨む。その意味に気付いた愛衣、萌、刹那が乾いた笑い声をあげた。
 「・・・何で僕が告白しなきゃいけないの?」
 「貴方はされる方でしょうが!聞いた所によると、早乙女さんの告白を断り続けているそうですし、昨日は超さんにも告白されたともっぱらの噂ですわよ!しかも2人だけじゃないそうですわね。特に仲が良いと言う意味では、長瀬さん、双子姉妹、綾瀬さん、龍宮さん、桜咲さん、春日さんの名前を聞いておりますが?」
 「違います!」
 顔を朱に染めながら、咄嗟に反論する刹那。その一方、シスター・シャークティーの陰に隠れていた小柄なシスターが、シャークティーに軽く睨まれて必死で首を左右に振っている。
 「それを言うなら、高音先輩こそアヤシイと噂ですよ!?シンジさんに頼まれると、2つ返事で引き受けているじゃないですか!」
 「それこそ違います!私は借りを返しているだけです!」
 奇妙な方向へ話がずれ、魔法先生達が困ったようにお互いに顔を見合わせる。だが年齢詐称薬で20代のシンジを見た者達は、どこか諦めたように笑っていた。
 「まあ、シンジが違う意味で危険なのは分かったわい。シンジ、後で教える六ヶ所のポイントには近寄らぬようにの。ミイラ取りがミイラになったでは、笑い話にもならんからのう」
 「・・・そうするよ。とりあえず桜咲さんと高音先輩とは別行動する事に」
 「「違うと言ってるでしょうが!」」
 全力でシンジの後頭部を叩いた2人の威圧感に、ネギと小太郎が慌てて飛び退る。
 「これこれ、話を戻すぞい。本当に危険なのは最終日じゃが、それでも今の段階からそれなりに影響は出ておるんじゃ。生徒には悪いが、この六ヶ所で告白が起きないよう、生徒を見張って貰うのが、今回の仕事じゃよ」
 (・・・あわわ、凄い事聞いちゃったです・・・)
 「誰かいます!」
 愛衣の警告に、緊張が走る。同時に神多良木とシンジが同じ方向をみて、顔を強張らせた。
 だが一瞬だけ早く、神多良木が指をパチンと鳴らすと、カマイタチが発生してさよの方向へと飛び―さよの真横に浮いていた偵察機械を木っ端微塵に砕き落とした。
 「・・・近衛君、君は他の物に反応したように感じたのだが、どうかな?」
 「正解です。相坂さん!間違えて狙われない内に、降りておいで!」
 「は、はい~怖かったです~殺されるかと思っちゃいました~」
 半分泣きながら姿を現したさよに、一同は声も無い。そのままさよはシンジの傍に降りてくると『怖かったです~』としゃくり上げている。
 「と、とりあえず誤射がなくてよかったわい」
 「そ、そうですね」
 冷や汗を垂らしながら相槌を打ったのは、さよの素生を知っているタカミチである。
 「学園長。念の為に追います。高音君と佐倉君は手伝ってくれ」
 「こ、これ。ガンドルフィーニ君」
 近右衛門の制止にも関わらず、ガンドルフィーニは高音達を連れてその場を後にした。
 「やれやれ、仕方ないのう。ではパトロールについては、シフト制で当たって貰う。では宜しく頼むぞい。以上、解散」
 その言葉と同時に、人払いの結界が解除される。同時に広場に人影が戻り始めた。
 関係者も人混みに紛れて散っていく中、さよを宥めていたシンジが、ハッと顔を上げる。
 「旦那、どうした?」
 「・・・陰陽師の勘って奴かな。何か嫌な予感がしたんだ。方角は南西、メインストリートの方だな・・・気になる事があるから、ちょっと手伝ってくれる?」
 「ええ、良いですよ。行きましょうか」
 広場へ姿を現した和美にさよを預けると、シンジは、ネギや小太郎、刹那とともに移動を始めた。

 学園祭の前日と言う事で、朝だと言うのに人通りは非常に多い。そんな人混みの中を掻き分けるように、シンジ達は走って移動していた。
 「シンジさん、何があると言うんですか!?」
 「分からないんだよ。ただ妙に不安を感じるんだ!」
 とは言え、ここまで一緒に来て離脱する訳にもいかないネギ達は、後を追いかける。幸い、一行の中では身体能力的には劣るシンジの速さなので、追いつくのは難しい事ではなかった。
 やがてシンジが足を止める。
 「ど、どうしたんですか!?」
 「ネギ先生!」
 刹那の警告の声に、小太郎が咄嗟にネギの襟首を掴んで引き寄せる。グエッという呻き声を残す代わりに、ネギが今までいた場所に人影が降ってきた。
 「だ、大丈夫ですか?・・・って、超さん!?」
 「あはは、ネギ坊主にシンジサンだたカ。丁度良かた、助けてくれないカ?悪い魔法使いに追われているネ」
 「・・・分かりました!とりあえず、この場を離れましょう!」
 超を連れて、その場から移動を開始する。一度路地裏へ逃げると、そこから屋根伝いに逃走を開始した。
 「でも超さん!どうして貴方が魔法使いの事を知っているんですか!?」
 「超家の御先祖様の1人に、有名な魔法使いがいたからヨ。もとも私には、その素質は受け継がれなかたネ」
 やがて姿を見せる追跡者の集団。全身、黒のローブに真っ白な仮面を着けた5体ほどの追手である。だが更にネギ達を挟み込むかのように、ネギの前方からも数体の追手が姿を見せた。
 「影の中から!?これは西洋魔術、それも影魔法!」
 「急々如律令!」
 ヒュッと音を立てて符が飛ぶ。都合3枚の符が影に張り付くと同時に、その姿はまるで空気へ溶け込むかのように姿を消した。
 「影魔法の使い手と言ったら、この学園には2人しかいない筈だ!」
 「だ、誰ですか?」
 「エヴァンジェリンさんと高音先輩だよ!」
 ポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ出すシンジ。だが相手は電源を切っているのか、すぐにシンジは電話を仕舞ってしまった。
 「多分、追手はガンドルフィーニ先生達だろうな。さっき飛び出して行っただろ?」
 「「「あ!」」」
 一斉に声を上げるネギ達。
 「なあ、姉ちゃん。さっき広場で壊された機械、あれって姉ちゃんだったのか?」
 「あはは。実はそうネ」
 「それが原因ですか!」
 心配して損した、とでも言うように刹那がガックリと肩を落とす。自業自得の一面が出てきたのだから、脱力するのも仕方ないかもしれなかった。
 「まずはガンドルフィーニ先生と話してみます」
 ネギの言葉に頷く刹那。その傍らで、シンジは超が身につけていたコートに視線を向けていた。

 「問題児要注意生徒の超鈴音を、何故君が庇うんだい?」
 しばらくして姿を現したガンドルフィーニは、当然の質問をした。
 「問題児?」
 「そうだよ。彼女は魔法の存在を知り、好奇心から首を突っ込んでいるのだ。君のクラスの朝倉君と同じように、警戒対象の1人なんだよ」
 ネギの後ろで超がアハハと笑う。その間に、シンジは愛衣とこれまでの経緯について情報を交換し合っていた。
 「事情は分かりました。でも僕は超さんの担任として、彼女を庇う義務があります!生徒が襲われていたら、助けるのは当然の事です!」
 「何?超鈴音の担任?君が?・・・なるほど、そう言う事だったのか。だとすると、君は彼女について何も聞かされていないんだね?」
 ズイッと近寄るガンドルフィーニ。
 「我々魔法使いは、現代社会と平和裡に共存する為に幾つかのルールを設けている。その1つに魔法の隠匿性がある事は、君も知っているね?」
 「そ、それは知ってますけど・・・」
 「超君にはある事情から多少のリークは許されている。だがそれでも越えてはならない一線があるのだ。その一線を、彼女は再三の警告を無視して踏み越えてきている。そして今回は、侵入不可能な会合の場を科学技術を駆使して覗き見た。これはもう、犯罪と言うべき物。もはや見逃す事はできないんだよ」
 超が両側から、高音の影法師にグイッと拘束される。
 「超さんをどうするつもりですか!?」
 「魔法使いに関する記憶を消させて貰う事になると思います」
 「そんな!」
 高音の言葉に憤慨するネギ。そんなネギを窘めるように、ガンドルフィーニが口を開いた。
 「彼女は危険人物なんだよ。それにあの凶悪犯エヴァンジェリンにも力を貸しているんだ。油断はできない」
 「エヴァンジェリンさんは、そんなに悪い人じゃ!」
 「ネギ先生。貴方こそ彼女の心配をしている余裕があるのですか?神楽坂さん、近衛さん、古さん、朝倉さん、宮崎さん、綾瀬さん、と6名もこちらの世界へ引きずり込んでいます。この男も早乙女さんを引きずりこんでいますが、貴方はそれと比較すると、あまりにも迂闊が過ぎると思いますよ?」
 シンジを指差しながら主張する高音に、言葉もないネギ。肩に乗っていたカモが『こりゃあ分が悪いぜ』と小さく呟く。
 「さ、いいね?超君は連れて行くよ」
 「・・・いえ、3-Aの生徒に勝手に手を出さないで下さい!僕の生徒を勝手に凶悪犯とか決めつけないで下さい!超さんは僕の生徒なんです!僕に全てを任せて下さい!」
 ネギの主張に、シンジ以外が軽い驚きで目を丸くする。そんな中、シンジはただ1人、面白そうに笑っていた。
 「何が可笑しいのかね?近衛君」
 「いやいや、ネギ君も教師として成長してきたなあ、と思ったら嬉しくて。とは言え、ネギ君の分が悪いのは事実です」
 う、と呻くネギ。その頭を、シンジが久しぶりにグシャグシャと撫で回す。
 「だからここは交渉ネゴシエートといこうと思いましてね。言葉は悪いですが、司法取引でも意味は通じると思います」
 「・・・何を考えている?」
 「これですよ」
 シンジが超の着ていたコートをガンドルフィーニに渡す。
 「佐倉さんから追跡の経過を聞きました。超さんは魔法使いにも有効なステルス迷彩を、科学技術で再現していたようですね。それも光学迷彩なんて、とんでもない技術力です。僕の知る限り、現代科学技術では未だに光学迷彩は理屈だけ。試作段階にすら辿り着いていないというのにね」
 (もし光学迷彩があったら、リツコさんがエヴァへ流用しなかった筈が無いし)
 NERVの科学技術を思い出すシンジ。実際、世界最先端の技術力を誇るNERVにすら光学迷彩は存在していなかったのだから、世界中探しても存在する筈が無いのである。
 「・・・まあ、確かにそうだが」
 「そうですよ。光学迷彩なんて、未だにSF世界の領域です。ステルス戦闘機と呼ばれる物ですら、レーダーを誤魔化すのが限界。光を屈折させて姿その物を消すなんて事は、どこの軍隊や研究機関でも不可能なんです。それを個人レベルで開発なんて、文字通り、彼女は天才ですよ」
 「彼女の頭脳が優れている事は我々も理解している。だがそれだけでは、取引とはならんぞ?」
 「ええ、ここからが本番です。僕はね、このステルス迷彩を世界樹防衛戦に役立てたいと考えているんですよ」
 その言葉に、虚を突かれたのはガンドルフィーニ達であった。
 「僕が世界樹防衛網を構築しているのは、みんなが知っています。でもそこに光学迷彩を身につけた魔法使いが奇襲部隊として加われば・・・」
 「なるほど、そう言う事か」
 「ただし、この光学迷彩の有用性を証明する必要があります。ですが、その証明手段も用意できます。そう、今回の告白防止作戦でね」
 全員が同時に『そうか!』と声を上げた。
 「光学迷彩を着こんだ魔法使いに、告白を防止させるつもりか!」
 「そうです。至近距離から眠りの魔法なり、即効性の睡眠薬なりを使えば、より確実に任務を遂行できます。何より魔法の隠匿性について、心配する必要もありません。試しに1着譲って貰って、試験をしてみるのはどうでしょうか?多分、お爺ちゃんならこの取引に乗ると思いますよ」
 「なるほど、確かに考える価値はあるな。だがこれは私1人で判断できる物ではない。当面の処置として、超君は担任であるネギ君に預ける。その後、学園長と相談の上で、結果を伝えるとしよう。それで良いかね?」
 「は、はい!」
 ネギの嬉しそうな返事に、ガンドルフィーニは苦笑すると踵を返した。
 「宜しいのですか?」
 「感情的に納得できた訳ではないが、彼の言う取引に大きな価値があるのは事実だ。ここは学園長の判断を仰ぐ事にする」
 そう言うと、ガンドルフィーニ達はその場から立ち去った。
 その後ろ姿に、ネギが『ふう』と安堵の溜息を吐く。
 「何でえ、あいつ。教師なんてどこ行ってもエラそーなんばっかやな」
 「まあ、あちらも仕事ですから」
 小太郎の愚痴に、刹那が軽く受け流す様に応じる。
 「いやいや、本当に助かたネ」
 「お礼を言うならネギ君にね。ネギ君に助ける気が無かったら、口出しするつもりは無かったんだから」
 「感謝するヨ、ネギ坊主。お礼に、これをあげるネ」

 「それで、これを貰った、って訳?」
 アスナが手にした物は、一見するとただの懐中時計だった。だが時計盤があるべき所には、複雑奇怪なデザインが記されているばかりである。一応、時間を示すらしい数字もあるので、時計である事には間違いないだろうという推測はできた。問題なのは、動いていないという事実である。
 「あとで詳しい使い方を教えてくれるとは言っていたんですが」
 「ふうん・・・でもまあ超さんの発明は怪しいから気をつけなさいよ」
 その言葉に、アスナの傍にいた木乃香と刹那が笑う。超は天才だが、その頭脳に比例するかのように、トラブルメイカーとしての度合いも、それなりに高いからである。
 「あ、いたいた!ネギ君、前夜祭始まっちゃうよ!」
 「あ、はい!今行きます・・・あれ?シンジさんは?」
 「それが後で合流するって連絡が来てね。急のお仕事が入ったんだってさ」
 ハルナの言葉に『大変だなあ』と呟くネギである。そこへ亜子が叫んだ。
 「みんな、アレ見て!世界樹が光ってる!」
 「すごーい!いつもは最終日にならないと光らないのに!」
 「22年に1度って、アレは本物かもね!盛り上がってきたよ!」
 「いよいよ麻帆良祭の始まりだ!」

時間は少し遡り、和美・千雨side―
 前夜祭までの僅かな時間。千雨に呼び出された和美は、彼女の部屋へとやってきていた。ちなみにさよは、他の少女達とともに前夜祭会場へと向かっている。
 「よう、呼び出して悪かったな」
 「良いって、こっちだって色々と頼んでいるしね。それで何か分かった訳?」
 「ああ、実は気になる情報があってな。私のサイトの常連に、AIDAってハンドルネームの奴がいるんだよ。こいつが第3新東京市の奴でな、色々探ってみたんだ。そしたら、こいつ寮監と同じ年齢らしいんだよ。それでな、何か情報が無いかと思って、こいつがやってるとこにお邪魔したんだ」
 千雨が軽やかにキーボードを叩いて行く。やがて画面が切り替わり、ミリタリーオタクらしいホームページへと画面が変わる。
 「いいか?このページだ」
 「・・・何これ、幾つか穴があるじゃん!」
 「削除されているんだよ!本人に聞いてみたら『公的権力に削除された』って言いやがったんだ。それでな、気になって見落としが無いか調べてみたんだ」
 マウスで動いたカーソルが、幾つかの写真をクリックしていく。どこにでもある、普通の中学の授業風景である。
 ジャージを着た少年が、おさげの少女に叱られている光景。
 温和そうな少年が、紅茶色の髪の少女にヘッドロックをかけられている光景。
 そんな中にあった1枚の写真。それはバンドの写真だった。
 「・・・ちょっとまって、これって!」
 「そうだ、間違いない。あの時、寮監と話していた女はボーカルだったな?間違いなくこの女だろうぜ。顔がそっくりだ」
 写真の中には、1人の少女がマイクを手に、3人の少年を後ろに控えて熱唱していた。
 「あの寮監はバンドを組んでいたんだろう?となると、この3人の中に寮監がいるってことだ。この眼鏡をかけた奴は、このブログの奴だから除外していい」
 「・・・そうだね、わざわざ『←俺』って書いてあるし」
 「結論から言っちまうと、こっちの頼りなさそうなのが寮監だ。それは間違いないんだが、ここで本題だ。寮監が写っている他の写真をより分けておいたから、お前に見て欲しいんだよ」
 「なるほど、じゃあ見させてもらうよ」
 次々にマウスをクリックしていく和美。だがその手が、ピタッと止まった。
 「この子、綾波さん!?」
 「・・・それって寮監の初恋の相手か?本当は妹だったとか聞いた覚えがあるんだが」
 「シンジさんから聞いた訳?」
 「まあな・・・」
 写真の中では、シンジがレイとアスカに挟まれながら、調理実習を行っていた。レイはジャガイモの剥き方を、シンジに教えて貰っている。その光景を、アスカが隣からコメカミを引き攣らせながら睨みつけている光景であった。
 「・・・料理が得意って時点で、確定だね。それにしても、仲良さそうだね・・・」
 「それは同感だ。まあこの3人は、よく一緒につるんでいたらしくてな、かなりの写真が残っていたな。どういう奴らなのかは、AIDAの書き込みを見れば、良く分かるぜ」
 そこには3人についてのケンスケの感想が書かれていた。レイは無口無表情だが、シンジにだけは笑顔を見せる事。シンジは頼りなく見えるが、何度転んでも起き上がって来るような強さを持っている事。アスカは勝気だが、こと恋愛に関しては素直になれず、いつもシンジと喧嘩ばかりしている事。そんな事がつらつら書かれ、最後に『いつまでも、この幸せな時間が続いて欲しかった』と記されていた。
 「・・・そうか・・・綾波さんは死んでしまったから」
 「そう言う事だろうな。そこで、だ。朝倉、お前に訊ねたい事がある。お前はこの綾波っていう青い髪の女について、どこまで知っている?それ次第で、話すべきかどうかを決めるつもりだ。正直に言いな」
 いつになく真剣な千雨に、和美は躊躇ないがらも口を開いた。
 「・・・シンジさんのお父さんが進めていた狂った実験の副産物。そう聞いたよ」
 「そうか、お前も聞いていたのか。なら話しても問題無いだろうな」
 千雨が写真データをクリックしながら、話を続ける。
 「こんな所に有る訳ないとは思ったんだが、狂った実験って奴を連想させるような写真を捜してみたのさ。そしたら、1枚だけ気になる写真があったんだよ」
 画面に映し出されたのは、赤いプラグスーツを来たアスカとシンジが、タラップを降りてきている写真であった。シンジは恥ずかしそうに胸元を隠している。
 「・・・これのどこが?」
 「このウェットスーツもそうなんだがな、問題なのはこの2人がいる場所だ。いいか、この2人がいるのはUN―国連の海軍が保有するオーバー・ザ・レインボウっていう名前の戦争用の空母なんだよ」
 「戦争!?」
 画面に食い入るように飛びついて来た和美に見せつけるかのように、何枚かの写真を拡大していく。それらを全て見比べる事で、和美は千雨の言っている事が正しいと理解できた。
 「それもただの空母じゃない、旗艦なんだ。そんな物にただの中学生が乗れると思うか?しかもだ、この写真を見ろ。これは横須賀港に到着した後、AIDAが撮った写真だ。分かるか、この部分が壊されているんだ。まるで、たった今戦場から帰ってきました、と言わんばかりにな。いいか、旗艦ってのは、将棋で言えば王将だ。そんな王将に傷がつくなんて、戦争以外であり得ると思うか?」
 「・・・あり得ないね。でも国連軍が出て行くほどの戦争なんて、2年前には無かった筈だ。それにこの傷痕、まるで何か押しつけられたように壊れているね。これが事故なら炎とかで焙られて汚れていそうだけど、そんな様子も無い」
 「そう言う事だ。間違いなく、この空母で何かがあったんだよ。それで、だ。確か寮監の死んだ彼女は、少年兵だったんだよな?」
 その言葉に、和美の顔が青褪めていく。
 「そうだよ、マナって名前の子で、戦自の少年兵だったって聞いた。チウ、まさかアンタ・・・」
 「多分、考えている事は同じだと思うぜ。あの寮監も少年兵だったとしたら?汎用人型決戦兵器、専属パイロット。そしてアングラで書きこまれていた巨大生命体の噂。全て1つに繋がっちまうんだよ」
 「・・・サードチルドレン・・・」
 ボソッと呟く和美。その言葉に、千雨が眉を顰めた。
 「・・・そういえば、そんな言葉があったな。詳しい事は分かるか?」
 「シンジさんの昔の呼び名らしいんだ。詳しい事は分からないけどさ、NERVってとこでそう呼ばれていたらしいんだよ」
 「サードチルドレン、直訳すると3番目の子供か・・・青い髪の女は実験の副産物、こっちの紅茶色の髪の女は、寮監と同じスーツを着て空母から下りてきている。機密に関与しているという共通点を持ち、更に一緒に行動していた子供達。数はちょうど3人で合うな?」
 室内に、重苦しい空気が立ち込めた。

同時刻、学園長室―
 超の司法取引を認める決断を下した近右衛門は、1人きりの時間を思索で潰していた。そこへ電話のベルが鳴る。
 「もしもし、こちら学園長室じゃが」
 『お義父さん、詠春です。実は相談したい事があるのです。シンジの事で』
 「ふむ、例のヘルマンという悪魔絡みの事件じゃな?儂の方でも調べておるんじゃが、ガードが堅くてのう」
 『実は、長瀬氏からいくつか情報を提供していただいたのです。代わりにこちらも幾つか条件を飲まされましたがね』
 「ほう?それは重要そうじゃのう」
 『ですが、電話では盗聴の可能性があります。直接訪問しようと思いますので、6日の夕方にでも時間を空けておいて戴けませんか?』
 「分かったわい。では16時頃、待っておるからの」
 チンと音を立てて置かれる受話器。その受話器を眺めながら、近右衛門は大きな溜息を吐いていた。

超・シンジside―
 麻帆良祭実行委員会の飛行船。その上に超・聡美・茶々丸・真名・シンジの姿があった。
 「超さん、好奇心猫を殺すという言葉を知ってる?」
 「にゃはははは、アレは私のミスだたヨ。そう苛めないで欲しいネ」
 「まあ良いけどね。それで今回の計画だけど」
 うむ、と頷いた超が、早速説明を始める。
 「第一段階は、麻帆良武道会を利用した魔法実在に関する布石打ち。これにより魔法や気が存在するかもという疑惑を一般人に持たせるヨ。第二段階は学園祭最終日に、世界樹を利用した全世界への強制認識魔法を発動し、それを更に後押しする。そして最終段階として、世界の混乱を最小限に収める為に行動するネ」
 「大筋は問題ないと思うよ。けど、保険はかけておいた方が良いだろうな」
 「ん?何か気になるカ?」
 「カシオペアをネギ君に渡していただろ?アレを使って、時間を遡ってリターンマッチを挑んでくる可能性だって、絶対にあり得ないとは言い切れない。違うかな?」
 シンジの言葉に、超がニヤリと笑う。
 「アレには限定条件付きの細工を施してあるネ。ネギ坊主達がエヴァンジェリンの別荘を活動拠点とする限り、私達の勝ちは揺ぎ無いヨ。もとも、ネギ坊主を味方に引き入れる事が出来れば、それが最高だがネ」
 「・・・ネギ先生は仲間になってくれそうですか?」
 「微妙な所ね。確かにネギ坊主は良い奴ヨ。茶々丸やハカセ、シンジサンの報告、それと自分で直接接触して、実感したネ。シンジさんがネギ坊主を依怙贔屓する理由が、何となく分かたヨ」
 超の感想に、聡美がクスッと笑う。
 「・・・どうしても不安が拭いきれないカ?」
 「まあね。だから僕は、ちょっと考えている事を実行するつもりだよ」
 シンジが話した『保険』の内容に、超が面白そうに眼を見張った。
 「うむ、そういう事なら問題ないヨ。もともとシンジさんには、ネギ坊主達のスパイ役を務めてもらう予定でいたからネ。シンジさんは、保険として動いて欲しいヨ」
 「ありがとう、何かあったら念話を送って」



To be continued...
(2012.04.28 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は麻帆良祭前日譚という話に仕立て上げてみました。ネギ達の知らない裏側で、超とシンジによって作り上げられていく策謀。それに気づく事無く、魔法教師や魔法生徒達は動き続けるという感じです。楽しんでいただければ、幸いです。
 話は変わって次回です。
 次回は告白防止作戦に焦点を当てた話になります。
 告白防止作戦に駆り出されたネギとシンジ。だが事実を知らないのどかによって、ネギは世界樹の魔力に取り込まれてしまう。
 のどかを狙って暴走を開始したネギを取り押さえるべく、シンジは高音やアスナ達と共同戦線を張る事になるのだが・・・
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回もよろしくお願い致します。



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