正反対の兄弟

第三十三話

presented by 紫雲様


6月4日、麻帆良祭初日―
 「うわあ、凄い人ですねえ!」
 ネギが驚くのも当然である。世界でも有数の規模を誇る麻帆良学園都市。その全校合同イベントともなれば、生徒数だけでも尋常な数ではないのに、更にそこへ一般来場者も加わるのである。それだけの人が集まれば、もはや学園祭ではなく麻帆良祭と名付けられているのにも納得がいった。
 「3日間の延べ入場者数は40万人。それが3日間昼夜を問わず乱痴気騒ぎなのです。盛り上がるのも当然なのです」
 飲んだら髪の毛が銀色になってしまいそうな『学祭限定アクア・ウィタエ』という名のジュースを飲みながら、夕映が丁寧に説明する。
 「学園内は仮装OKだから、歩いているだけでも楽しいよん♪」
 そういったハルナ達は、蝙蝠のカチューシャを頭に着けた女吸血鬼のような仮装をしている。これは3-Aのお化け屋敷の宣伝も兼ねているからである。
 「更に麻帆良祭の経済効果も馬鹿にはできません。家族連れを中心とした来客者は年々増加の一途を辿り、一説によれば僅か1日で2億6千万ものお金が動くそうです」
 「におく!?」
 「中には3日で数千万を稼ぐサークルもあります。この代表格の1つが超包子ですね。去年の売上高は、学祭長者番付の中でも上位に食い込んでいますから」
 もはや何も言えないシンジとネギである。これを学園祭と表現したら、世の中の学園祭の大半は、子供のお祭り扱いされかねないほどであった。
 「ネギ先生、これパンフレットです。使って下さい」
 「あ、ありがとうございます。のどかさん。でも見れば見るほど、何とかランドって感じですね」
 「確かになあ・・・これで麻帆良祭全体のマスコットキャラクターがいたら、立派な一大レジャーランドだよ」
 その感想には、同意するしかないネギである。
 「さて、それじゃあ僕も仕事に出てくるよ」
 「ええ!?行っちゃうんですか!?」
 「さすがに仕事をサボる訳にはいかないからね。お給料にも響いちゃうし」
 冗談めかしたシンジの言葉にクスッと笑う少女達である。
 「みんなも楽しんでおいで。それじゃあ、また後で」

 麻帆良祭告白防止作戦。シンジの担当は初日の午前中と、2日目の夜間、最終日の夜間の3回という事もあり、シンジは早速パトロールに出かけた。
 幾らなんでも初日の朝から告白は無いだろうと考えていたのだが、それは甘い考えである事に気付くまで、それほど時間は必要としなかった。
 「・・・なんでこんなにいるんだよ・・・」
 人形使いの技を利用して、範囲外へ誘導しながら、内心で溜息を吐く。これなら眠り薬を使った方が、よっぽど楽そうだよなあと考えるが、後の祭りである。超のステルス迷彩服作戦は他の人間がやっているので、シンジには回ってこなかったのである。
 「近衛君、調子はどうだい?」
 「今日の釣果は10匹程です」
 「おやおや、それは随分と大漁だね」
 今回の相棒役は弐集院である。腕の中には幼稚園児の愛娘が、ヒシッと甘えるようにしがみ付いていた。
 「先生の方はいかがですか?」
 「似たようなものだよ。眠って貰って、貧血という理由づけで救護室搬送さ」
 「やっぱり、そんなもんですよね」
 弐集院から手渡された紅茶を、お礼を言いながら受け取るシンジ。微かな甘みで一服しながらも、周辺へ注意を払うのを忘れはしない。
 「またか」
 シンジがスッと右手を振るう。すると女性が被っていた帽子が、風に吹かれたようにフワッと舞い上がる。慌てて追いかけて行くが、帽子の落下地点は効果範囲外。
 その手際を見た弐集院が『ほう?』と感心したように目を見張った。
 「凄いじゃないか、いつの間に糸使いを?」
 「修学旅行から帰って来てから、退屈を持て余している御姫様に教わったんです。あとはひたすら練習ですよ。今は茶々ゼロやネギ君相手に練習ですね」
 「なるほど、高畑先生が言っていた別荘か。それなら納得できるよ」
 ウンウンと頷く弐集院に『頭の固い先生には内緒にしといて下さいね』と釘を刺すシンジ。同僚であるガンドルフィーニやシャークティーを思い出し、弐集院が小さく笑い声を上げる。
 「そうしておくよ。でもあの人達の事、あまり嫌わないであげてよ。ある程度の組織になれば、柔軟な考えだけじゃ運営できない。時には常識に固執する役割の人も必要になるんだからさ。状況に応じるのは必要な事だけど、敢えてそれを無視してでも、強行突破の必要がある時もあるんだからさ」
 「・・・そういう物なんですか?」
 「ここらへんは経験しないと理解できないだろうね。柔軟な考えというのは、良く言えば臨機応変、悪く言えば意見がコロコロ変わる、って事。常識に固執するというのは、良く言えば規律的、悪く言えば頑固者って事。どちらにも長所があれば短所もある。そう考えれば、何となく理解できるんじゃないかな?」
 (・・・冬月副司令やリツコさんは、規律に拘ってたよなあ。洞木さんもそういうタイプだったし。確かにミサトさんやトウジみたいなタイプだけで、組織が成り立つ訳が無いよなあ)
 顎に手をあてて考えていたシンジが、納得したように頷いた。
 「良く分かりましたよ。そう考えてみれば、組織には必要な役割なんですね」
 「お目付役がいないと暴走するって事だからね。3-Aはその代表格だよ」
 「なるほど、身近すぎて良い例に気付きませんでした」
 「何を言ってるのさ、君はどちらかというとお目付役じゃないか。確かに君は臨機応変に動けるけど、傍から見ていると真面目な時は立派にお目付役だよ」
 笑いながら返す弐集院に、何の反論もできないシンジである。基本的にシンジ自身が、自分はネギの補佐役に徹しよう、兄代わりになろうと考えて動いているのだから、お目付役になるのは当然であった。
 「さて、それじゃあ休憩は終わりにしようか」
 「ですね、お仕事再開といきましょうか」

 パトロールの引き継ぎを終わらせた後、思いがけない2人組の姿にシンジは眼を疑った。ネギの方はウサギの着ぐるみを、刹那はお臍が丸見えになっているウサギのコスプレ姿である。
 「あれは、ネギ君と桜咲さんじゃないか?ホラーハウスに行く筈だったんじゃあ」
 思わず駆け寄るシンジ。その姿に向こうも気付いたのか、手を振ってきた。
 「どうしたのさ、ホラーハウスへ行くんじゃなかったの?」
 「そうだ!ネギ先生、シンジさんに相談してみてはどうでしょう?」
 「そ、そうですね!実は・・・」
 超から渡された懐中時計が、じつはタイムマシンであった事。自分達は初日2回目のネギと刹那である事などをネギは説明した。
 「・・・信じられませんか?」
 「いや、信じるよ。ネギ君がウソを吐く理由なんてないしね」
 「・・・随分とアッサリ信じるんですね?それに驚いていないみたいですし」
 若干、首を傾げながら刹那が疑惑を口にする。良く考えてみれば、時間遡航なんて信じる方がおかしいのだから、当然である。
 内心で『しまったなあ、超さんとの繋がりに気づかれないようにしないと』と考えながらシンジが口を開く。
 「まあ僕にも色々あったからね。ところで話は変わるけど、タイムマシンが科学技術で再現できるか?って真面目に研究している人達がいる事は知っているかな?」
 「話ぐらいでしたら、聞いた事があります。1950年ぐらいに、数学者のクルト・ゲーテル博士が理論を提唱して以来、多くの人達が研究するようになったんですよね?」
 「そ、そうなんですか!?」
 唖然とする刹那。
 「はい。大真面目に研究しているんですよ。その理論の中で、一番実現に近いのが速度を利用したタイムトラベルです」
 「結論から言うと、まず宇宙船を作る。その宇宙船で光速に近付けば未来へと飛び、光速を超えれば過去に飛ぶ事が出来るという考えなんだ。ただ間抜けな事に、速度って言うのは光速に近付くほど、速度が上がりにくくなるという特性を持っていてね。莫大なエネルギーを費やしても、宇宙船が光速になる事はないというのが、今の物理学常識なんだ。だから未来へは飛べるかもしれないけど、過去へは飛べないんだよ」
 「それじゃあ、意味が無いじゃないですか!」
 「そう言う事。だから他の方法―ワームホール理論や、宇宙の紐理論を活用したのかなと思ったんだけど」
 ネギから手渡されたカシオペアを眺めるシンジ。
 「旦那、何か分かるかい?」
 「・・・多分、動力源は外部供給方式だろうね。動力源を内部に入れるのは、安全性と必要とされるエネルギーの莫大さを想像すれば、却下できるよ」
 「さすがだな、超が言っていたが、それの動力は魔力だってよ」
 「科学と魔法のハイブリッドか。そうか、何でそれに気付かなかったんだろうな」
 カシオペアをネギに返したシンジに、刹那が『どういう事ですか?』と返す。
 「茶々丸さんだよ。あの子の動力は魔力だ」
 「「「あ」」」
 「超さんの技術力なら、科学と魔法の融合は可能なんだ。それなら科学で突破できない壁を、魔法で突破すれば良い。僕達には無理でも、超さんなら可能なんだね」
 改めて目の前のカシオペアの非常識さに、ジッと凝視するネギと刹那である。
 「シンジさん、私は、あまりこれに頼らない方が良いと思うのですが・・・」
 「その気持ちは分かるけど、超さんが安全性を確かめもせずに渡すとは思えないんだよね。でも、意外に何回か使ったら自壊装置が働く仕掛けとかがあったりして」
 「おおい!旦那、怖い事言わないでくれよ!」
 カモの叫びを、シンジは笑いながら受け流すと、午後の予定を消化するために、その場を後にした。

 約束していた双子姉妹と楓が所属する散歩部のイベントをこなした後、シンジは美空が所属する陸上部の屋台で焼きそばを食べながら、彼女と話をしていた。
 その最中、視界の片隅をよぎった見覚えのある姿に気づく。
 「どうしたの?」
 「いや、ちょっと気になる姿があってね。焼きそば美味しかったよ、御馳走様」
 焼きそばを食べ終えると、シンジは人混みを縫うようにして移動を開始した。すると5分と経たない内に、目当ての人物を捕捉する事に成功した。
 「みんなして出歯亀かい?」
 「うお!驚かさないでよ!」
 相変わらず朝と同じ仮装のままのハルナが、隣にいた夕映とともにビクッと反応した。セーラー服姿の刹那と、頭にカモを乗せたアスナ、魔法使い姿の木乃香も同じように反応する。
 「お兄ちゃん、見つかっちゃうから座ってな!」
 「はいはい。ところで、誰がネギ君をプロデュースしたの?」
 「ウチや。かわええやろ?」
 ネギからのどかとのデートの為に着飾りたいという相談を受けた木乃香は、全力を費やしていたのである。その為に費やされた時間は約2時間。木乃香の気合いの入り方が良く分かる。
 互いに顔を赤く染めながらお喋りをしている2人の姿に、ハルナが口を開いた。
 「あの2人、初々しいよねえ」
 「割とお似合いだよねえ」
 「そうそう、アスナに訊きたい事があるんだよ。ズバリ、ネギ君ってのどかに脈はあるの?」
 突然の問いかけに、アスナが『へ?』と間の抜けた声を上げる。
 「いんちょやまき絵の例を挙げるまでもなく、ネギ君はモテモテでしょ?でも一番重要なのは、ネギ君本人の気持ちな訳だ」
 「それは・・・そうね」
 「つまり、ネギ君の本命は誰か?って訊いてんのよ。吐けコラ」
 「だから何で私に訊くのよ!」
 好奇心丸出しのダークハルナの出現に、アスナが目尻から涙を噴き出しつつ猛抗議する。しかしハルナの後ろには、やはり好奇心に駆られた夕映と刹那が、答えを急かすかのようにジッとアスナを見つめていた。
 「だってアスナ、ネギ君の保護者だし、あやしいリストの上位者だし」
 「違うわよ!私は怪しくないし、第一、保護者と言うならシンジさんの方でしょうが!」
 シンジに集まる複数の視線。だがシンジは笑いながら返した。
 「悪いけど、教えるつもりはないからね」
 「ええ、どうして!?」
 「ネギ君は真剣に自分の気持ちと向かい合う為に、相談してきたからだよ。その心を踏み躙るような真似は、したくないからね」
 シンジの真面目な対応に、少女達は納得したように頷いた。
 「まあ、そう言う事なら仕方ないでしょうね。ところで、あの2人なのですが、幾ら本好きとは言え、1時間半も古本屋に入り浸りはどうかと思うんですが」
 「ナチュラルに話をしとるのは、ポイント高いんやけどな」
 「・・・いや、ダメね。甘すぎるわ」
 ハルナの目がキュピーンと光る。
「あの2人ちょっと奥手すぎよ。ネギ君は10歳だから仕方ないにしても、のどかの奥手っぷりは何とかしてあげないと」
 「・・・何を考えているですか?」
 「ちょっと背中を押してあげようかなと思ってね」
 そのままコソコソと古本屋の中へ姿を消すハルナ。そのまま彼女は、2人に気付かれない位置へと移動し、のどかとネギの前にソッと何かの本を置いて行く。そして2人に気付かれない様に、ハルナはシンジ達のいる場所へと帰還を始めた。
 一体、何をやっていたんだろう?とシンジ達が首を傾げる。そんなシンジ達の目の前で、急にのどかが顔を赤くして、ワタワタと慌てだした。
 「ど、どうしたんですか?のどかさん」
 「い、いえ何でも無いです!それよりネギ先生こそ、何の本を読んでいるんですか?」
 「実はこの本が開いたまま置かれていまして、フレンチキスの事を日本ではディープキスと言うんですね」
 ネギの発言に、物陰に隠れて見守っていたシンジ達が一斉に噴き出した。同時にのどかも悲鳴を上げながら慌てだす。
 「こ、子供がこんなの読んじゃいけませーん!」
 「はわわ、すいませーん!」
 ネギから本を取り上げようとして、正面衝突するネギとのどか。そのままのどかはネギを押し倒し、更なる悲鳴が上がる。そんな光景に笑っていたハルナに対して、アスナが呆れたように声をかけた。
 「何やってんのよ、アンタ」
 「いや、健全な2人をどうにかエロイ方向へ誘導できないかと」
 「しなくていいです!」
 咄嗟にツッコム刹那。シンジと夕映は頭痛を感じて頭を抱え、木乃香は『ハルナ、ネギ君には刺激強すぎるえ~』と窘めている。
 「でもさあ、あの2人じゃいつまで経っても進展しないわよ?」
 「それは仕方ないですよ。ネギ先生の実年齢を考えるべきです」
 「・・・さすがにネギ君には、まだ時期尚早じゃないか?」
 『そうかなあ?』とあくまでも積極策に拘るハルナ。そこへ、古本屋が妙に騒がしくなり、全員が一斉にそちらへ視線を向けた。
 「あれは高音先輩と佐倉さんじゃないか。そうか、パトロールか」
 シンジがその事に気付いた瞬間、突然、ネギがのどかを御姫様抱っこしたまま古本屋から離脱した。
 突然の出来事に、シンジが立ち上がる。
 「高音先輩、何があったんですか?」
 「貴方ですか!ちょうど良いですから、手伝って下さい!あのままではミイラ取りがミイラになりかねません!」
 「あの女の子、数値が危険区域に入っていたんです!」
 それが何を意味するのか、理解できないシンジや刹那ではない。ハルナの作戦は一段階段を上るどころか、一足飛びに駆け上がる結果を生んでしまったのである。
 「仕方ないな、とりあえずネギ君を追いかけよう」

 全員でネギとのどかが飛び去った方向へと走り出す。校舎の屋上にそれらしい姿をチラッと見てとった一同は、そこへと急行した。
 シンジの発案で急遽、包囲作戦が実行される。高音、佐倉、シンジ、刹那、アスナは魔力や気で身体能力を強化しつつ、周囲から同時に包囲。木乃香とハルナと夕映は階段を駆け上って屋上へと向かった。
 しかし僅かに遅く、世界樹の発光量が上昇していると言う連絡が、高音の元に飛び込んでくる。
 「しまった!」
 「仕方ない、介入します!」
 階段を塞ぐ役のハルナ達から連絡は来ていなかったが、シンジ達は強制介入に踏み切った。すると、そこにはのどかに顔を近づけようとする、目をトロンとさせたネギの姿がある。
 「こらこら!本屋ちゃんに何やってんのよ!」
 顔を赤らめながら、ハマノツルギを叩きつけるアスナ。その一撃を、ネギはヒョイッと躱わす。
 「様子がおかしいですよ!やはり世界樹の魔力でしょうか?」
 「だとは思うが、兄貴の様子がおかしくねえか?告白とか、そういう感じじゃねえように思うんだが、嬢ちゃん、兄貴に何を言ったんだ?」
 カモの問いかけに、のどかが顔を赤くして俯く。モジモジしながら、何かをボソボソと呟いた。
 「み、宮崎さん、何を言ったんですか!?」
 「そ、そんなの恥ずかしくて言えませーん!」
 「刹那さん、どいて貰えませんか?」
 いつの間にか近づいていたネギに、のどかを連れて慌てて飛び退る刹那。
 「刹那さん、邪魔するんですか?でしたら実力行使で」
 言うと同時に、放たれた右の掌打を刹那が紙一重で躱わす。だがそこから左の崩拳、右の肘打ち、鉄山靠と流れるように繋がる技に、刹那は何とか耐え凌ぎながらも、僅かな間にここまで成長したネギに、状況を忘れて感嘆の視線を送った。
 「高音先輩!」
 「ええ、分かってます!魔法の射手・戒めの風矢サギタ・マギカ・アエール・カプトゥーラエ!」
 咄嗟に高音が束縛の魔法を放ち、それにタイミングを合わせてシンジが糸を放つ。だがネギは、逃げようともせずに呟いた。
 「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。吹け一陣の風フレットウヌス・ウエンテ風花風塵乱舞フランスサルタテイオー・プルウエレア
 ゴウッと音を立てて吹いた強風に煽られて、魔法の矢も糸もネギという狙いを外され、刹那ものどかから離れてしまう。階段を駆け上がって屋上に姿を現した3人も、ちょうど吹いてきた強風に、反射的に目を覆っていた。
 「うふふ❤のどかさーん❤」
 「正気に戻りなさいよ!ネギ!それと本屋ちゃん!ネギに何をお願いしたのよ!?」
 「・・・そ、その・・・大人のキスを・・・」
 その言葉に固まる少女達。一方でネギの目がキュピーンと妖しく輝く。
 「こうなったら人海戦術だ!先輩、影法師を出来る限り呼び出して下さい!佐倉さんは隙をついて戒めの風矢を!」
 その言葉と同時に、高音が影法師を最大の17体召喚。四方八方からネギへ襲いかからせる。だがその攻撃を、ネギは魔力で強化した身体能力と中国拳法を武器に、一撃必殺で次々に沈めて行く。
 「練習の時とは比較にならないな」
 糸を繰り出しながらシンジが呟く。人形使いの技と破術だけで何とかしようと試みるが、そこへネギが右手に持った初心者用の杖を高音と佐倉に向けた。
 「風花武装解除フランス・エクサルマテイオー
 ブワッと吹く一陣の風。同時に全ての衣服を失った高音と佐倉が、悲鳴を上げながらその場に蹲る。
 「ネギ、アンタいい加減にしなさいよ!」
 「アスナさんも邪魔するんですか?」
 「本屋ちゃんにキスしたかったら、私にキスしてから行きなさい!」
 遂にキレたアスナの叫びに、世界樹がボウッと光を発する。同時に、ネギ以外の全員が凍りついた。
 「・・・分かりました。ではまずアスナさんからで」
 「え?あれ?いや、今の間違い。訂正。私を倒してから行きなさい、ね?」
 「はい。つまりキス=倒すという事ですね」
 身の危険を感じたアスナが、のどかとともに屋上を逃げ回り始める。その一方で、事態の収束を諦めたシンジは、上着とシャツを脱ぐと高音と愛衣に手渡していた。
 「今、思ったんだけどさ。これって告白じゃないよね」
 「・・・そうですわね」
 「放置しといてよくない?」
 目の前ではキャーキャー走りまわるアスナとのどか、追いかけるネギ、何とか足止めしようとする刹那、傍観者となっているハルナ達がいた。
 傍目に見れば、子供の悪ふざけである。
 「あの2人、ネギ君の仮契約相手だし、もう一度キスするぐらい、何も問題は無いと思うんだけど」
 「身も蓋もない表現ですが、確かにその通りかもしれません」
 「・・・お姉さま。それじゃあ、私達は何で裸にされないといけなかったんでしょうか」
 グスグスと泣きながら上着を羽織る愛衣の言葉に、シンジも高音もかける言葉がない。
 「まあ野良犬に噛まれたと思って諦めなよ」
 「フォローになっていません!」
 珍しく激怒している愛衣に、シンジも黙るしかない。そんな彼らの前で、事態は変化を見せていた。
 ネギの足止めをしようと割り込んだ刹那。だが無理な体勢だった所に、容赦のないネギの全力の一撃が襲い掛かる。
 それを助けようとアスナが刹那に体当たりを敢行。吹き飛ばされた刹那は助かったが、その場に転んだアスナに、ネギが覆いかぶさる。
 「げ!?」
 ガシッと音を立てて、ネギの両手がアスナの顔を挟み込む。
 「ちょ、ネギ待っ・・・ふぐ!?むぐうううう!?むーーー!むーーーー!」
 ドンドンとネギの胸板をアスナが叩くが、ネギはビクともしない。周囲にいた少女達がその濃厚なキスシーンに顔を赤らめる中、暴れていたアスナの全身から力が抜け、その手がクテッと地面へ落ちた。
 「・・・おお、何とまあ濃厚な・・・」
 「ひゃあああ、ネギ君すごいわあ」
 そんな感想の呟きが漏れる中、ネギの体から世界樹の魔力が抜けていく。それに伴い、ネギの目に理性の光が戻りだした。
 「あ、あれ?みなさん、僕は一体・・・?」
 キョトンとするネギ。顔を赤らめたまま、無言の少女達。特にのどかに至っては、目の前でネギとアスナの濃厚なキスシーンを見せつけられて、ショックで気を失っている。そこへゴゴゴゴゴと音を立てて、アスナが立ち上がった。
 「このキス・ターミネーターがあああああ!」
 「ひいいいいっ!?」
 アスナのハマノツルギは、いつものハリセンバージョンではなく、刃を持った大剣状態になっていた。まるでアスナの怒りを象徴するかのように。
 「くたばれ、このエロバカネギ坊主!」
 「ぎゃぴいいっ!」
 アスナによる制裁の後、頭頂部に巨大なタンコブを作ったネギは、自分が世界樹の魔力に操られていた事を教えられ、服を吹き飛ばされた高音と愛衣にひたすら謝罪していた。
 「まあ、今回の件は幾つかの偶然が重なった不幸という側面があるのは事実です。しかし、貴方に任務の重要性に対する自覚があれば、こうはならなかった筈です!」
 お説教モードにはいる高音。それをシンジが『まあまあ』と宥めすかす。
 「先輩が怒る気持ちは分かるけどさ、それは的外れなお説教だと思いますよ?」
 「何故ですか!」
 「恋愛感情を未だに理解できない、自覚もできていない子供に、自分がその対象になる事を自覚しろって、そりゃあ無理な話ですよ。ネギ君はまだ10歳ですよ?好意=友達としての好きというレベルが当たり前なんですから」
 反論できずに、高音が押し黙る。一方でネギはと言えば、目尻に涙を浮かべながらひたすら頭を下げて謝罪を繰り返していた。
 「まあ、今回は見逃しますが、次は無いと思って下さい!」
 罪悪感を感じたのか、高音が矛を収める。これで一先ずは落ち着いたかと安堵した、その時だった。
 「ところでさあ、アスナ。感想は?」
 「・・・感想って?」
 「いやさっきの濃厚な」
 「思い出させるなあああ!」
 ハルナの首を締めながら、絶叫するアスナ。その光景を木乃香達が笑って眺める。
 「それにしても、積極的やったなあ」
 「木乃香の言う通りです」
 「だから忘れさせろと言ってるでしょう!?」
 矛先を夕映達に変えるアスナ。
 「ハルナも、あれぐらいお兄ちゃんが積極的やったらなあ」
 「そうだねえ、せめて1度ぐらいシンジさんから濃厚なキスをしてほしいんだけど。気絶しちゃうぐらい凄い、大人のキスを」 
 「「「「「「あ」」」」」」
 ボウッと再び光る世界樹。少女達の視線が、一斉に同じ人物へと向けられた。
 「・・・濃厚なキス・・気絶しちゃうぐらい凄い・・・大人のキスを・・・」
 「パルうううう!アンタ学習しろおおお!」
 「ええ!?今度は私いいいいい!?」
 絶叫するハルナ。その間にシンジがハルナに近付き、その肩をガシッと掴む。
 「・・・早乙女さん・・・全て僕に任せて・・・ミサトさん直伝の大人のキスを・・・」
 ((((((ミサトさんって誰!?))))))
 内心で、一斉にツッコム少女達。だがその疑問を口に出すよりも早く、目の前で繰り広げられた光景に、疑問は遥か彼方に吹っ飛んだ。
 「ちょ、ちょっと!むぐうううう@&$%*㍑〒☈・・・」
 「「「「「「おお・・・」」」」」」
 先ほどのネギとアスナを超える時間の長さに、少女達は固唾を飲んでその光景を見守る。 そしてピチャピチャと鼓膜を叩く水の音。それを聴覚が捉える度に、少女達の顔が茹蛸の様に真っ赤に染まっていく。
 ただネギだけは刺激が強いと判断され、木乃香によって目を手で覆われていた。
 「・・・先ほど、パルは気絶するほど、と言っていたですよ」
 「・・・お姉さま、放っておいて帰りませんか?これは事故です、他人に迷惑のかからない事故です」
 「・・・そうね、今の内に予備の制服に着替えて、ここへ戻ってきます。そうすれば服を返す事ができますから」
 「分かりました、私達はここで待っていますので」
 シンジに抱き締められながら、バタバタと腕を振るハルナを尻目に、淡々と打ち合わせは進んだ。

 結局ハルナが気絶したのは、高音達が戻ってきて10分が経過した後だった。

 気絶したハルナを背中に背負ったシンジは、夕映とともに夜の学園内を歩いていた。ネギはのどかとともにデートの続きを行い、他のメンバーはその覗き見の為に、2人をコッソリと尾行している最中である。
 「しかし、世界樹の力とは凄い物なのですね」
 「それについては同感。抵抗する間も無かったよ」
 シンジにしてみれば、まさか使徒である自分にまで効果があるとは欠片ほどにも思っておらず、今回は完全に油断していたと反省するばかりである。
 「・・・ところで、シンジさんはハルナの事をどう思っているです?」
 「おでこちゃんが訊きたいのは、一般論じゃなくて恋愛に限定しての質問でしょ?」
 「そうです。今のシンジさんの態度は、客観的に見て優柔不断だと思うのです。恋人にするつもりがないのであれば、突き離すべきではないですか?」
 「それは分かっているんだけどね」
 近くにあったベンチに、ハルナを座らせるシンジ。夕映に面倒を見て貰っている間に、近くの自販機からジュースを2本買ってくる。
 1本を夕映に手渡すと、シンジはハルナを夕映と挟みあうようにベンチへ座った。
 「・・・結局、僕は優柔不断なんだろうね。最後の最後で決断ができないんだよ。僕にしてみれば、3-Aのメンバーは妹、ネギ君は弟みたいな存在だ。だから、どうしても傷つけたくない、って思っちゃうんだよ。そうすると、突き離せなくなってしまうんだ。自分がいかに心が弱いか、痛感させられるよ」
 「それが分かっているなら、猶の事、心を鬼にするべきだと思うです」
 「その通りだよ。何一つとして反論できないね」
 自嘲するようにシンジが嘲笑う。
 「おでこちゃん、1つ頼みたい事があるんだ。早乙女さんの為にね」
 「・・・まずは話を聞くです。それを受け入れるかどうかは、その後で決めるです」
 「ありがとう。話は単純だよ。僕が麻帆良から消えたら、早乙女さんを支えてあげて欲しいんだ」
 ギョッと目を見開く夕映。シンジの言葉を理解できないほど、夕映は決して頭の回転が鈍くは無い。
 「何故です!何故、ここから去るなんて言うですか!」
 「・・・この前の事件だよ。あのローレライと名乗った女を覚えてるだろ?仮にだよ、もしおでこちゃんがローレライの立場だとして、どうしても僕を殺したいとする。でもローレライでは僕には勝てないし、あの女の陣営にも僕に勝てる人材がいないとする。こういう場合、どうやって僕を殺そうとする?」
 「それは力による正攻法がダメなら、暗殺や謀略で・・・まさか、そう言う事なのですか!?」
 思わず夕映が立ち上がろうとしたが、ハルナを起こしてしまいかねない事に気が付き、慌てて座りなおした。
 「僕がアイツの立場なら、人質を取るね。そして僕には君達を見捨てる事は出来ない。となれば末路は1つだよ。僕1人が殺されるだけならまだしも、人質も確実に始末される。だから姿を消す必要があるんだ」
 「ま、待つですよ!だったら、こちらも対抗すれば良いではないですか!学園長に事情を打ち明ければ、きっと力になってくれるですよ!」
 「それは無理なんだよ。SEELEはそんな生易しい組織じゃないんだ。関東魔法協会程度の組織で、太刀打ちは出来ないよ。空中分解した組織とは言え、相手は紀元前から生き続けてきた組織だ。それも近代になってからは、政・財・軍の3つの世界を裏から自在に操ってきた、最悪の秘密結社。それが更に『魔法』という力までも手に入れたんだ。たかが20名程度の魔法使い如きで何とかできる程奴らは甘くないんだよ」
 シンジの言葉に、夕映は言葉が出てこなかった。夕映にしてみれば、SEELEと呼ばれる組織は妄想の産物としか思えない存在である。だが現にローレライはSEELEの一員である事を口にしているし、シンジも実在を認めている。ならば、どれだけ疑わしくても、その存在は認めざるを得なかった。
 「僕はね、今でも覚えているんだ。SEELEの老人どもの指示で、戦略自衛隊の特殊部隊が攻めてきた時の事をね。火炎放射器で生きながらにして焼き殺される人達の悲鳴。命乞いしても躊躇い無く脳天に銃弾を撃ち込まれた人達の叫び。恋人の死体を泣きながら引きずる女性の背後から叩き込まれる銃弾。そして僕の頭に拳銃を突きつけて『すまんな、坊主』と言いながら引き金を躊躇い無く引こうとした大人の事をね」
 「そ、そんな大事件、私は知らないですよ!」
 「それはそうさ。だって無かった事にしたからね」
 さも当然のようにシンジが口にした言葉に、夕映は今度こそ言葉を失った。戦略自衛隊が出動した事件は、確かに2年前に何度かあった事は夕映もニュースや新聞で目にした事があるので知ってはいた。だがそのどこにも、シンジが口にしたような事件は含まれていなかったのである。
 (そんな・・・そんな大事件を揉み消す事が出来るほどだと言うのですか?どんな政治工作を行えば、そんな真似が出来ると・・・)
 夕映はショックで呆然としたまま、シンジを見つめる事しか出来なかった。だからこそ気づかなかった。シンジの言葉が、夕映の考え通りであれば、微妙にずれていた事に。
 「さすがに2年前程の力を、奴らが持っていないのは僕も認めるよ。でもあくまでも相対的に見て減少しているにすぎない。賛同者からの提供や、隠し持っている資産は国家予算に匹敵する。SEELEが隠し持つ政治家の醜聞を利用すれば、今でも脅して言う事を聞かせる事ぐらいはやれるだろう。資金援助でテロリストや傭兵を利用すれば、武力も補う事が出来る。奴らはそういう集まりなんだよ」
 「だ、だったら尚更!」
 「それが不可能なんだ。例えば、完全武装した傭兵やテロリストが1000名規模で麻帆良を襲撃してきたと仮定する。たかが20名程度の魔法使いでどうやって防ぐのさ?相手は殺しのプロ、それも完全武装だ。そしてこちらは魔法隠匿の義務があるが故に、生徒を守るために、堂々と魔法を使う事は出来ないんだよ?そんな状態で、本当に1人の犠牲者も出さないまま、君達を守れると思うかい?」
 夕映の顔から、一気に血の気が失われていく。シンジの仮定は、例えで収まらない可能性が高い事を、はっきりと理解してしまったからである。
 「だから、そうならない為に僕は動かなければいけないんだ。おでこちゃん、僕はね、ここに来られて本当に幸せだよ。本当に心の底から、そう考えているんだ。だから誰も死なせたくない。この幸せな世界を守りたいんだ。その為の布石も既に打っている。君達がSEELEの毒牙にかからない様にする為の布石をね」
 「シンジさん・・・」
 「この事を早乙女さんに言えば、彼女は間違いなく僕についてこようとする。でもね、そんな事は受け入れられないんだ。僕はね、こんな僕の事を好きになってくれた女の子を、巻き込みたくないんだよ。この幸せな小さな世界で、いつまでも笑っていて欲しい。そしていつかは大人になって、自分のやりたい夢を実現させて欲しいんだ」
 ハルナの頭に、シンジがそっと手を伸ばす。
 「だから僕は姿を消す。みんなに黙って、ここから立ち去る。恨まれても構わない、悲しまれても躊躇わない。その心の傷は、きっと時間が癒してくれるから。でも早乙女さんが泣き叫ぶ姿を想像できるんだ。だから、その時に支えてあげて欲しいんだよ」
 「・・・分かったです。でも1つだけ教えて下さい。いつ、姿を消すつもりですか?」
 「・・・麻帆良祭が終わるまでは、いるつもりだよ」
 それだけ言うと、シンジはベンチから立ち上がった。そのまま夕映が呼び止めるのにも耳を貸さずに、闇の中へと消えて行く。
 だから最後まで気づかなかった。
 ハルナの目尻に、光る物が浮かんでいた事に。

 闇の中を、シンジは1人で歩いていた。そこへかけられた声に、シンジは思わず足を止めて、そちらに視線を向けた。
 「シンジサン、覚悟は決またみたいネ?」
 「元から覚悟はしていたよ、ローレライを逃がしてしまった時からね。ただ僕に無かったのは、ここから姿を消すと言う事実を伝える勇気だった。それだけだよ」
 「・・・シンジサンは1人じゃないネ。SEELEは私にとても敵ヨ。私達で、みんなを守りきてみせるネ」
 小さく頷くシンジ。
 「シンジサン。1つ言ておきたい事があるネ。どうして私が、未来で貴方の情報を調べたと思う?」
 「・・・さあ、何でだろうね・・・」
 「・・・未来は、SEELEの行動の結果、滅亡したからヨ」
 その言葉に、シンジが顔を跳ね上げた。
 「私の知ている歴史を話すネ。今から40年後、魔法世界で量産型エヴァンゲリオンを作る事に成功したSEELEは、こちらの世界へ戦争を仕掛けて、全世界を武力制圧する事に成功したヨ。それに対して魔法世界は、量産型エヴァンゲリオンが出撃した直後に、ゲートを全て破壊して世界の繋がりを途絶。自分達だけ助かろうとしたヨ。そしてSEELEに実効支配されたこちらの世界には、更なる不幸が待ち受けていたネ」
 「・・・何があったんだ?」
 「9体の量産型エヴァンゲリオンはSEELEの制御化を離れて、その本能の赴くままに破壊をまき散らした。SEELEは飼い犬に手を噛まれるどころか、最初に噛み殺されたネ。そして残された全人類も、量産型エヴァンゲリオンの前に手を打つ事も出来ず、為すがままにされるばかり。私がこの時代へ飛ぶ直前の世界人口は、もう5桁を切ていたヨ」
 「それで、僕を調べたのか。でもNERVは何をしていたんだ?僕がいなくても、アスカがいるじゃないか」
 シンジの言葉に、超が首を左右に振ってみせた。
 「セカンドチルドレンは、15歳で6月6日に自殺していたネ。そしてNERVは何ら有効な手を打つ事も出来ずに、最初に量産型エヴァンゲリオンの標的となて、滅ぼされているヨ。そしてサードチルドレン、つまりシンジサンも自殺していたネ。だから私は過去へ飛んだヨ。最悪の未来を回避する為に」
 「・・・そうだったのか・・・」
 「シンジサンが自殺しようとしている事は、私も気付く事が出来たヨ。だから、それを何とかしようとしたネ。ハルナとくつけようとしたのも、恋人ができれば前向きに生きてくれるんじゃないかと思たからヨ」
 超の言葉に、シンジが僅かに顔を顰めた。だがそれをすぐに消し去ると、超に続けるように無言で促した。
 「でも無理にくつける必要は無くなたヨ。シンジさんは自分の意思でSEELE壊滅の為に動きだそうとしているからネ。そして私の目的は、世界崩壊を防ぐ事。ならば最初の要因たるSEELEを滅ぼすという目的は、私にとても望むべきものヨ」
 「・・・そうだね、SEELEは確実に滅ぼす必要がある。でも、その前にやらないといけない事があるんだ」
 「任せるネ。主催者権限を利用して、シンジサンが望む舞台を作り上げるヨ」
 超の言葉に、シンジがコクンと頷いてみせる。
 「最後に、兄らしい事をしてあげないとね。僕はネギ君が大人になるまで守ってあげると言う誓いを守れそうにない。だから、せめて出来る事をしてあげないと」
 「・・・では行くネ。もうすぐ予選が始まる時間ヨ」
 そう言うと、超とシンジは姿を消した。

龍宮神社―
 ネギ達一行は、途中で合流した小太郎とともに、麻帆良武道会予選に参加する為、龍宮神社へとやってきていた。
 「それにしても凄い人やなあ。知ってるか、ネギ。予選参加者は160名もおるそうや」
 「160!?そんなにいるの!?」
 「そりゃまあ、賞金が賞金やからなあ」
 小太郎が手にしたチラシ。そこには、優勝賞金1千万という文字が記されていた。
 『皆様、ようこそ麻帆良武道会へ!』
 聞き覚えのある声に、ネギ達が一斉にそちらへ目を向ける。そこにはレースクイーンのような服を着た和美が、マイクを手に叫んでいた。
 『優勝賞金1千万円!伝統ある大会優勝の栄誉とこの賞金!見事、その手に掴んで下さい!』
 一斉に『うおー!』と歓声が沸き起こる。
 『それでは、今大会の主催者より、開会の挨拶を。学園人気No.1屋台超包子オーナー、超鈴音さん、どうぞ!』
 「「「「「「超さん!?」」」」」」
 『私が、この大会を買収して復活させた理由はただ1つ。表の世界、裏の世界を問わず、真の最強を見たいネ。そもそもこの大会は、25年前までは裏の世界の者達が力を競う、伝統的な大会だたヨ。しかし記録機材の発達と普及により、使い手たちは技の使用を自粛。それに伴い、大会その物も形骸化し、規模も縮小の一途を辿たネ』
 知られざる大会の歴史に、参加希望者達の間にざわめきが広がっていく。
 『今大会を復活させるに当たり、会場たる龍宮神社では完全な電子的措置により、携帯カメラを含む一切の記録機器は使用できなくするネ。そしてこの御時世、映像記録が無ければ、何が起ころうとも誰も信用はしないヨ!故に、思う存分、その技を振るて貰いたいネ!』
 更に広がっていくざわめきの声。その中にはやる気を見せ始めた、使い手達も含まれている。
 『最後にルールを説明するネ!ルールはたた2つ。1つ目は火薬を用いた飛び道具及び刃物の禁止!もう1つは呪文詠唱の禁止!その2点を守れば、いかなる技を使おうとも許されるネ!』
 超の爆弾発言に、ネギや刹那が驚きで目を丸くして言葉を無くした。
 『では、これより予選大会の参加者を受け付けるネ!参加希望者は本殿前の参加受付コーナーに向かい、予選ブロクの籤を引いて貰うヨ。1ブロク当たり20名のバトルロイヤル、最終的に生き残った2人を本戦参加者とするネ!』
 その言葉に、観客達から一斉に咆哮が上がった。

予選会場―
 「・・・どういう風の吹きまわしですか?アルビレオさん」
 「ふふ、今はクウネル・サンダースと呼んで戴きたいですね。まあ用件は単純な物ですよ。友と交わした約束を果たしたい、ただそれだけです」
 予選ブロックCグループ。その中に地底図書室の主アルビレオ・イマことクウネル・サンダースとシンジは立っていた。
 「貴方こそ、どうしてここに?賞金など、貴方には必要ないでしょう?」
 「・・・ネギ君の兄として、試練を課す為です。乗り越えるべき壁としてね」
 「なるほど、私と同じ理由でしたか。では、本戦途中で当たらないよう祈りますよ」
 そう呟くと、アルビレオは人混みの中へと紛れ込んだ、同時にシンジが、襟元へ着けた『超包子』の刻印が入った、小型通信機に囁く。
 (そう言う事らしい。調整は頼むよ)
 (分かたネ。そちらは任せるヨ)
 『それでは、只今よりCブロック予選を開始します!それでは始め!』
 同時に始まるバトルロイヤル。シンジ目がけて襲いかかってきた筋肉質の男は、大きく振り被ったハンマーパンチを放ってきた。が、次の瞬間、まるでミサイルのように参加者を3名ほど巻き込みながら場外へと吹き飛んだ。
 『おおっと!いきなりCブロックで4人が場外アウトだ!』
 気で全身を強化したシンジは、力任せに蹴っただけである。そこには技量も何も無い。ただ蹴り飛ばしただけ。だが、それほどの力を秘めていた。
 「骨折ぐらいは勘弁してよ。僕は素人だから、手加減はできないんだ」
 そう呟くと、シンジは集団の中へと飛び込んだ。

本戦組み合わせ―
 第1試合:佐倉愛衣vs村上小太郎
 第2試合:大豪院ポチvsクウネル・サンダース
 第3試合:長瀬楓vs中村達也
 第4試合:龍宮真名vs古菲
 第5試合:ネギ・スプリングフィールドvsタカミチ・T・高畑
 第6試合:近衛シンジvs高音・D・グッドマン
 第7試合:神楽坂明日菜vs桜咲刹那
 第8試合:エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルvs山下慶一



To be continued...
(2012.05.05 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は告白防止作戦が行われる中、シンジが麻帆良に別れを告げる為、心残りを夕映に託すという話にしました。
 託された側の夕映にしてみれば迷惑極まりない話でしょうが、まあシンジにしてみれば他に頼める者がいないんですよねw夕映の未来に幸あれ、という感じです。
 話は変わって次回です。
 次回は麻帆良武闘会前編。ネギとタカミチがぶつかり、シンジと高音がぶつかる。そんな戦いの中、シンジは高音を傷つけない様に戦おうとするが・・・という感じの話になります。
 それでは、また次回もよろしくお願いいたします。



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