正反対の兄弟

第三十八話

presented by 紫雲様


午前9時。図書室―
 「・・・これで終わりや。ハルナ、お兄ちゃん任せてええ?」
 「うん。シンジさんは私が看ておくから」
 航時機カシオペアでの6月6日への強制転移は、結果として成功した。転移先が飛行船が浮かんでいるほど上空で下手をすれば地面に叩きつけられていた所を、ネギが咄嗟に放った風の魔法で間一髪救われると言うアクシデントこそあったものの、結果として全員無事に帰還する事ができた。
 ただ転移前にワイバーンを食い止めようとして重傷を負ったシンジの治療の為、木乃香が1日1回しか使えない東風の檜扇を使って左腕と鉤爪の傷を癒していた。これにはシンジが『自分には自己治癒があるから血止めだけで良い。腕も半日あれば生えてくるから』と言ったのだが、全員から総反対を食らってしまい、楓と古とアスナに腕力で無理矢理押さえこまれて、治療を受けるというハプニングがあった。
 そのおかげで傷は治ったものの、気を利かせた木乃香が『しばらく安静にしててや。作戦立てるだけなら、寝ててもできるやろ』とハルナに後の事を一任。結果、シンジはハルナの膝枕の元、ベンチで横になっていた。
 一方、ネギもまた横になっていた。こちらは航時機カシオペアの使用により、1週間を一気に飛んでしまった為か、魔力を大量放出してしまい、ソファーに横になってダウンしているのである。こちらはアスナとのどかが面倒を看ていた。
 「とりあえず、作戦を立てようか」
 「それなんだがな、兄貴がタカミチから聞いた話を纏めたメモがあるんだ。超の作戦概要が書かれているんで、まずこれを説明させて貰うぜ」
 カモがバサッと音を立ててメモを開く。
 「まず今日の午後7時までに、超は2500体のロボと6体の巨大な生体兵器(?)を利用して、6ヶ所の魔力溜りを占拠。直径3kmの巨大魔法陣を作り、全世界に対する強制認識魔法を発動させたそうだ」
 「2500体のロボって、あれかしら?武道会の時に、高畑先生が超さんに捕まっちゃったもんだから、高音先輩達と助けに行ったのよ。その時に、訳の分からないロボット軍団が大量に出てきたんだけど」
 「その可能性は高いだろうな。あとで外見と特徴を教えてくれよ、姐さん」
 カモの言葉に、アスナが頷く。
 「旦那。俺っちが思うに、今回は拠点防衛作戦が良いと思うんだが、どうだ?」
 「防衛については、それで良いだろうね。戦略的に更に突き詰めるなら、本命の防衛ポイント―一番守り易く、一番攻められにくい場所に最大戦力を配置。残り5か所は2500体のロボを削りきるポイントとして考えるべきだと思う」
 「うわ、犠牲前提かよ。さすがに俺っちはそこまで考えなかったぜ」
 「僕の考え方が良くも悪くも合理的すぎるだけだよ。でもまあ超さんは、こちらの命を奪ってくる訳じゃない。だから犠牲と言っても、死傷者はでないだろうね」
 確かにその通りなのだが、冷徹な計算を行ったシンジに、少女達が複雑な視線を向ける。
 「まあ、防衛については更に後で煮詰めるとして、今度は攻撃の作戦だ。まずゆえっち」
 「この全世界規模の強制認識魔法ですが、幾つか制約があります。まず発動には数十分の複雑な儀式と、術者の呪文詠唱が必要不可欠です。更に巨大魔法であるが故に、天井などの無い、開けた場所であるという条件もあります。加えて術者―恐らく超さんになりますが、発動の数十分前から巨大魔法陣のどこかに姿を現します」
 「以上がゆえっちの世界図絵から分かった情報だ。これを基に作戦を練ると、まず防衛作戦でどこか1ヶ所を守りきって魔法発動を防いでいる間に、別働隊が超を探して捕らえる、という概要になる訳だ。どうでい!?」
 考え込む少女達。だが他に作戦も無いのでは否定する事も出来ないし、何よりそれ以上の策は無かった。だが―
 「いや、ダメだ。その作戦には致命的な穴がある。それを埋めないと、失敗するよ」
 「旦那?」
 「防衛ポイント1ヶ所に、約400体の機械人形と、それを上回るであろう生体兵器が1体攻めてくる。神楽坂さん、君が高畑先生を助けに行った際に接触したロボット。どれぐらい強かったか教えてくれる?」
 シンジの言葉に、アスナがウーンと唸る。
 「あいつら機械だから、私のハリセンが通じないのよ。咸卦法使って全力でぶっ叩いて一撃で破壊。佐倉さんの炎の魔法は、表面は焦がせたけど破壊までは行かなかった。あと高畑先生の大砲みたいなパンチは、纏めて何体か倒してたわよ。あと連中のビーム攻撃くらうと、服とか脱げちゃうのよ。佐倉さんのアーティファクトみたいに」
 「佐倉さんのアーティファクト?」
 「箒みたいのなんだけどね、4人ぐらい纏めて服を脱がされちゃったわ」
 アスナの言葉に、図書館探検部4人娘が恥ずかしそうに頷く。
 「広範囲武装解除能力ってとこか・・・ま、いいや。とりあえず敵の強さは大体分かったよ。おかげで守りきれないって事が断言できる」
 「ど、どうして!?」
 「咸卦法使った神楽坂さんと同レベルの破壊力を持った魔法関係者なんて、そう何人もいないからだよ。魔法教師では高畑先生、刀子先生、神多良木先生、ガンドルフィーニ先生、シスター・シャークティー、ネギ君の6人。魔法生徒だと長瀬さん、桜咲さん、小太郎君、高音先輩ぐらいか。古さんは総合力でみれば神楽坂さんを上回るけど、一撃の破壊力勝負では、咸卦法を使った神楽坂さんの方が上だ。早乙女さんは将来的には上回る可能性はあるけど、現時点では少し厳しいだろう。龍宮さんは超さんに雇われているから論外。エヴァンジェリンさんは高みの見物する気だからこれも論外。お爺ちゃんについては総大将を最前線に引っ張り出す訳にはいかないから論外。そう考えると10人しかいないんだよね。そこから更に別働隊を出すとなると」
 「確かに旦那の言う通りだな。圧倒的に戦力不足か」
 もともと麻帆良学園には、魔法関係者はあまりいないのである。世界樹防衛線に参加可能な実力者であれば、50名いるかどうか。実力的に上はタカミチやエヴァンジェリンのような英雄級もいるのだが、中には見習い卒業レベルの魔法生徒も存在している。決して戦力的に厚い訳ではない。
 「だから、これを何とかする方法を考える必要があるんだ。それさえクリアできれば、この作戦は成り立つんだ」
 「それなら、僕に考えがあります」
 ソファーから身を起こしたネギが、口にした案。その内容に、少女達はおろか、シンジすらも言葉を失った。だがネギの策が有効なのは間違いない。故に、少女達は手分けして行動に移った。

アスナ・古side―
 麻帆良祭のスポンサーでもある雪広財閥を動かす為、あやかとの交渉を成功させた2人は、ネギ達がいる図書室へ向かおうとしていた。
 そんな時、見覚えのある姿を見つけ、アスナは赤い布を振られた闘牛の如く、そちらに向かって突撃していく。
 「朝倉ああああ!」
 「うお!?一体何!?」
 「何じゃない!アンタ、何で超さんに協力してんのよ!こっちは大変だったんだからね!」
 アスナに詰め寄られた和美はタジタジ、憑いていたさよはアスナの剣幕に恐怖を感じて和美の背中へ隠れようとする。
 「アンタねえ、シンジさんとの約束破ってバラすんじゃないわよ!とんでもない事になってんだからね!」
 「・・・へ?何があったのさ?」
 そこでアスナから告げられた『魔法関係者、全員オコジョの刑』に、和美が『ゲ』と顔色を変える。
 「そりゃ、マズイねえ」
 「でしょ?分かったら罰として、私達の方も手伝いなさーい!」
 「ええ!?折角、昨日頑張ったのにい!」
 和美の悲痛な叫び声が、抜けるような青空に木霊した。

木乃香・刹那side―
 孫娘からの報告内容に、近右衛門は眼を丸くしていた。
 「ふむ・・・葛葉君、君はどう思うね?」
 「にわかには信じられませんが、御嬢様と刹那がここまで言うのです。まずはネットの方をもう一度、調べ直すつもりです」
 「しかし、この報告が本当なら、この超という娘、気骨があるのう」
 ふぉっふぉっふぉ、と笑う近右衛門を、刀子が『冗談ではありません』とピシャッと叱る。
 「報告は分かったぞい。後は儂らで何とかしよう」
 「おおっと、ちょっと待った。アンタ等に任せてもダメな事は、歴史が証明済みなんだ。それに旦那も、関東魔法協会だけでは作戦失敗は確実だって、太鼓判を押しているぜ?どうしても成功させたいなら、そこにいる神鳴流の姉さんと同レベルの実力者を、最低30人連れてこい、って言ってたぜ」
 「ほう?シンジがそう言っておったのか」
 「おう。それぐらいないと、相手の物量作戦には負けるってよ。相手は超が作り上げた機械人形。その戦闘力の高さについては、報告が上がってる筈だ」
 カモの言葉に、ふむ、と考え直す近右衛門。
 「そこでだ。こいつを用意して貰いてえんだ。質が無理なら、数と相性で攻めるべきだからな」
 「これは・・・しかし、こんな特殊な魔法具となるとのう」
 「何、こちらにも独自の情報源があってね。本国のクラウナダ異界国境魔法騎士団の第17倉庫に大量に死蔵されている事は分かっているんだ。転移魔法で空輸すれば、夕方までにはギリギリ間に合う筈」
 近右衛門が顎鬚を擦りながら、考え込む。
 「アンタが本国相手に、その程度の交渉ができる力がある事も知っている。これを最低1000セット、出来れば2500セット頼みたい」
 「むう、確かに可能じゃが・・・」
 「どうしてもダメだと言うなら、これを読んでくれ。旦那がこれをアンタに読ませれば絶対に動くと断言していたからな」
 カモが1通の封筒を差し出す。その中身を読み進める内に、近右衛門の顔色が見る見る青褪めていく。
 「お、おい、爺さん。どうした?」
 「・・・これの中身、お主達は聞いておるかの?」
 ブンブンと首を振る木乃香達。そんな彼女達の眼の前で、近右衛門は手紙を折り畳むと来客者用の灰皿を手に取り、その上で手紙を燃やし始めた。
 「お爺ちゃん!?」
 「これで良いんじゃよ。とにかく魔法具については2500セット用意しておこう。すぐに取りかからせる。刀子君、すまんが本国との連絡を繋げておいてくれるかの?」
 「分かりました、では失礼します」
 バタンと音を立ててドアが閉まる。全員が退室し、1人となった近右衛門は静かに呟いた。
 「・・・本国上層部にSEELEが手を伸ばしているじゃと?じゃが、確かに否定しきれない部分はあるのう。完全なる世界コズモエンテレケイアという前例もあるしのう・・・」
 詠春がシンジの事で相談に来るまで、あと数時間。もう少し早い時間で約束しておけばよかったのう、と後悔する近右衛門であった。

午後1時、シンジside―
 強制休憩を終えたシンジは、ハルナとともにエヴァンジェリンのログハウスへ戻って来た。全員が常に2人以上で行動しているのは『超による奇襲』を防ぐ為である。
 シンジは超の仲間なのでその可能性はあり得ないのだが、それでもこの提案を拒否する事は出来ない。その為、ハルナとともに行動していた。
 「シンジか、どうした?」
 「アベルを引き取りに来ました。今は茶々ゼロが見てるんですか?」
 「そうだ。地下にいるからな、連れて行きたければ行って来い」
 「はい、そうします。あと、トイレ貸してもらえませんか?」
 超との仮契約カードをハルナに見られない様に取り出すシンジに、エヴァンジェリンは『廊下の突き当たりだ』と返す。更にエヴァンジェリンは『早乙女、シンジが戻ってくるまで茶に付き合え』と言ってソファーに無理矢理座らせた。
 「私?」
 「他に誰がいる。さっさと座れ」
 そんな会話が続く中、シンジはトイレへ入ると、超との仮契約カードを取り出した。
 「・・・念話テレパティア・・・マスター、聞こえる?」
 ≪うむ、聞こえるヨ。用件に入ろうカ、状況説明を頼むネ≫
 シンジが未来において、最良の結果を飛び越えた最悪の事態を迎えた説明と、その原因の推測について説明すると、超が呻き声を上げた。
 ≪SEELEがメガロ・メセンブリア上層部にまで手を伸ばしていたかもしれないとは、確かに予想しておいて然るべきだたネ≫
 「こちらもお爺ちゃんには伝えておいた。本国上層部にSEELEが手を伸ばしているってね。少しはお爺ちゃんも、警戒して動いてくれると思う」
 ≪うむ。あの人にも働いて貰わなければ困るネ。それで、今後の方針だが聞かせて貰えるカ?我が参謀殿≫
 超の言葉に苦笑しながらも、シンジが考えた修正案を出していく。それに対して、超も自らの戦力についての説明を行った。
 ≪確かにこちらの戦力は機械だが、動力は外部供給の魔力ネ。その為攻撃も魔法と同じと言えるヨ。シンジさんの破術で無効化は可能ネ≫
 「それは助かるな。足手まといにならずにすむよ」
 道化じみたシンジの言葉に、超がクスッと笑う。
 ≪作戦修正案については了解したネ。茶々丸や真名達には私から説明しておくヨ。その上で、こちらもそれに応じて動いていく事にするネ。それとそちらの策がそう動くのであれば、こちらの地上部隊は少し多めに出すヨ。彼らの戦果が高ければ高いほど、SEELEは学園長達を排斥しづらくなるネ≫
 「バランスは頼むよ。ベストはこちらの辛勝だからね」
 ≪うむ、任せるネ。それとシンジサンの玩具も用意はしてあるヨ。頼まれた通りにネ。では幸運を祈るヨ。念話を切るネ≫
 念話が切れた事を確認すると、シンジはトイレから別荘へと向かった。

 アベルを回収後、シンジ達は寮監室へと向かった。今度は武道会で着ていた狩衣への着替えと、符を補充する為である。
 準備を整え終えたシンジだったが、机の中からハサミを取り出すと、おもむろに前髪へ当てて無造作に切り落とした。
 「シンジさん!?」
 「上手く切れないなあ・・・まあ、いいか、適当で」
 「良くない!理由は分かんないけど、私がやってあげるから動かないで!」
 シンジを椅子に座らせると、ハルナが前髪を綺麗に切り揃えていく。そんなハルナの胸中に、麻帆良祭初日の夜に聞いた話が思い出された。
 「・・・シンジさん。本当に行っちゃうの?ここからいなくなっちゃうの?私、聞いてたんだ、一昨日の話」
 「そっか、眠っていなかったんだね・・・そうだね、ウソを吐いても仕方ないか。そうだよ、僕は姿を消すつもりだ。もうこれ以上、ここにはいられないからね」
 3-Aを、ひいては麻帆良を守る為に、シンジはこの地を去るのだから。
 「私も一緒に行きたい。シンジさんと一緒にいられるなら、漫画家の夢を捨てたって良いから!だから!」
 「ダメだよ。僕は早乙女さんを人殺しにしたくないんだから」
 ハルナの両目に、熱い物が浮かんでくる。
 「僕がこの地を去ってから始めるのは戦争なんだ。文字通りの命の奪い合いなんだよ。僕は早乙女さんをそんな世界へ連れて行きたくないんだ。殺さなければ殺される、そんな異常極まりない世界にはね」
 「だったらシンジさんは!?」
 「僕はもう手遅れなんだよ。戦争と言う世界の中で生きて、大義名分の為にカヲル君をこの手で殺して、マナを目の前で助けられずに焼き殺されて、レイの命と引き換えに助けられ、アスカには会わせる顔が無い。もう戻れないんだよ」
 幾つかの名前にはハルナも心当たりがあった。だがアスカという名前だけは、全く心当たりが無かった。
 それに気付いたのか、シンジが口を開いた。
 「戦争の後で、僕の恋人になってくれた子だよ。確かに僕はアスカを好きだった。それは事実だ。でも半月と持たなかったけどね」
 「ど、どうして?」
 「・・・アスカはドイツに家と家族があった。でもアスカはそこへは帰りたくなかったんだ。それで思いついたのが、僕と恋人になる事で、日本へ居続ける事だった。本当は僕の事なんて、何とも思ってなかったんだよ。僕はその事を、彼女が口にしたのを聞いた。でも僕はそれだけの仕打ちを受けても仕方ないと思った」
 息を飲むハルナ。
 「当時、僕の保護者を務めていたミサトさんも、僕を政治的思惑の下に利用する事しか考えていなかった。ミサトさんの相棒役だったリツコさんも、同じ事しか考えていなかった。その事を、僕は聞いてしまったんだ。本人が喋っているのをね。居たくも無い戦場からやっと解放されたと思っていたのに。それから僕はNERVを飛び出した。麻帆良へ来る5か月前の事だよ」
 「辛かったんだね、シンジさん」
 「・・・そうだね。うん、確かに辛かったな。僕はあの一件まで、みんなの事を信じていたから。あのまま第3新東京市で楽しく暮らして、大人になればいつかはアスカと結婚するのかもしれないとすら考えた事もあった。でも、僕に向けられた感情は偽りだったんだ・・・うん、早乙女さんの言う通りだよ。僕は辛かったんだ。戦いを通して得られた絆が、偽りだった事が辛かったんだ」
 シンジの目が窓の外へと向けられる。そこには学園祭を楽しもうとする子供達が溢れていた。
 「それでも、この麻帆良は違ったよ。君達に会えて、僕は本当に幸せだよ。1年には届かなかったけど、それでもこの場所と時間を守りたいと思うほどに幸せな世界だった」
 「・・・いつ、去るんですか?」
 「今日、この地を去るよ。だから終夜祭には出られないと思う。ごめんね」
 抱きついて嗚咽を上げてきたハルナに、シンジは謝る事しかできない。連れていく訳にはいかないのだから、当然である。
 「・・・嫌・・・行っちゃ・・・嫌だよ・・・」
 無言のまま、シンジはハルナを抱きしめてあげる事しかできなかった。

超side―
 作戦開始までまだ時間があると言う事で、超は最後の気晴らしに学園内を歩いていた。そんな中、離れた所に見覚えのある人影を見つけた。
 狩衣姿のシンジとハルナ。2人は再集合するまでの僅かな時間を使って、最後のデートをしていたのである。
 (・・・邪魔をするのは野暮というものネ)
 そっと立ち去ろうとする超。そこに聞き逃せない声が飛び込んできた。
 「碇君?」
 ハッと顔を上げる超。彼女のすぐ近くには、そばかすが特徴的な少女が、呆然とした顔で立っていたのである。
 彼女はすぐにシンジ達を追いかけようとしたのだが、人混みに遮られて辿り着く事が出来ない。何度も『碇君!』と叫ぶが、周囲の騒音に掻き消されてしまう。
 「お姉サン、ちょっと良いカ?」
 「ご、ごめんなさい。私、時間が」
 「シンジサンの知り合いだと言うなら、つき合て欲しいネ。私は超鈴音。シンジサンとは友人ヨ」
 ハッと目を見開く少女。
 「名前は?」
 「洞木、洞木ヒカリ。碇君が中2の時のクラスメートなの」
 「なるほど、では1つ年上カ。ではヒカリサンと呼ばせて貰うネ。少し、お茶でもしながら話をしたいのだが、良いかナ?」
 遂に手に入れた手掛かりに、ヒカリは即座に首を縦に振った。

超包子―
 茶々丸と聡美の支援を受けた超は、ヒカリとともに超包子の従業員室へと移動していた。
 「すまないネ。さすがに社長である私が、私用でお店の席を使う訳にはいかないのでネ」
 「社長!?」
 「うむ。うちの名物は肉まんネ・・・おお、ありがとう五月」
 ペコッと頭を下げる五月。どう見ても中学生なので、ヒカリは困惑するばかりである。
 「まあ、難しく考える事は無いネ。まずは食べて、一息吐くと良いヨ。うちの肉まんは、シンジサンも気にいているからネ」
 「碇君が?」
 そっと手を伸ばすヒカリ。一口齧るなり『美味しい!』と声を上げる。
 「喜んで貰えて嬉しいネ。隣のカラフルな蜜豆は、うちの人気商品の1つヨ。考えたのはシンジサンだがネ」
 その言葉に、スプーンをつけるヒカリ。だが予想に反したレモンの酸っぱさと、果物の甘さという組み合わせは、ヒカリの好みに合う物だった。
 「サッパリした味ね、くどくなくて美味しいわ」
 「みんなそう言てくれるネ。おかげでうちは商売繁盛ヨ」
 ニコニコと笑う超。だがヒカリは食事を中断すると、超に目を向けた。
 「・・・教えて欲しいの、超さん。碇君は、どうして麻帆良に?」
 「この学園を、シンジサンの保護者の義父が経営しているからヨ。まあシンジサン自身も、この麻帆良の事を気にいているけどネ。昼間は教師の補佐役兼、学生寮の寮監と厨房の主任料理人を務めているヨ」
 「そうだったの・・・超さん、何とかして直接話ができないかしら?私は親友を、アスカを助けたいの!」
 アスカと言う名前に、超がピクンと反応する。
 「まずは詳しい事情を聞かせて貰いたいネ。私はシンジサンから第3新東京市での顛末を聞いているが、そのアスカサンという人については、あまり話を聞いた記憶が無いネ」
 「良いわ、私が知っている事を全て話すから」
 ヒカリの説明を聞くに従い、超の目が驚きで大きく開かれていく。
 「全部、誤解なの!葛城さんも、赤木さんも、碇君を必死になって捜してるの!アスカは今も肌身離さず持ち歩いているわ。15歳の誕生日にあげる筈だったプレゼントを、ずっと持ち歩いているの!碇君は誕生日を祝われた事がないから、アタシが祝ってあげるんだってずっと楽しみにしてたのよ、アスカは!それなのに、今日で碇君は16歳になっちゃうし」
 「事情は分かたネ。だが会わせるのは難しいヨ」
 「どうして!?」
 「シンジサンは、今晩8時に麻帆良から姿を消すつもりでいるネ」
 絶句するヒカリ。やっと手に入れた手掛かりが消えようとしている事に気付き、慌てて時計に視線を向ける。
 現在時刻は午後5時。残り3時間。
 「シンジサンは命を狙われているネ。その巻き添えを出さない為に、この地を去ろうとしているヨ。命を狙ているのはSEELEと呼ばれる者達ネ。私は力を貸す事はできぬが、あなたはあなたが思うように動けば良いとおもうネ。ヒカリサン個人は、信じて良い人だと思うヨ」
 「・・・ありがとう!電話、かけさせて貰うわね」
 「うむ。ここは防音もしかりしてある。気にせずかけると良いネ」

NERV本部―
 「シンジを見つけた!?」
 発令所に響いたアスカの叫びに、全員が視線を集めた。ミサト、リツコ、マコト、シゲル、マヤ、そして発令所に勤務している一般職員すらもがアスカを注視していた。
 「場所は!?埼玉の麻帆良学園都市?そこの中等部の学生寮で寮監をしている?それと今の保護者が、学園長と義理の親子?」
 アスカの声に、マヤがMAGIを操っていく。やがて正面モニターに、近右衛門と詠春の顔写真が浮かび上がった。
 「それで・・・夜8時を過ぎたら、シンジがいなくなる!?どうして・・・SEELEに命を狙われている!?それに生徒を巻き込みたくないから、姿を消そうとしているの!?」
 アスカの悲鳴に愕然として顔を見合わせるミサトとリツコ。マコトはかつての上位組織SEELEの情報について、シゲルやマヤと協力して情報を集め出した。
 「うん、すぐに向かうわ!連絡、ありがとう!」
 携帯を切るアスカ。それにミサトが頷く。
 「リツコ!本部を貴女に任せるわ!私とアスカはすぐに麻帆良学園都市へ向かうから!それからできる限りの情報を集めて、私の端末へ送っておいて!」
 「任せなさい!シンジ君の事、頼むわよ!」

ネギside―
 少女達は呆気に取られて声も無かった。原因は前髪を切り落としたシンジである。
 「うーん、やっぱり似合わないかな?」
 ブンブンと首を振る少女達。
 「つーか、どうして前髪切る気になったんだよ」
 「さすがに今回は、失敗したら後が無いからね。個人的な事情は置いておくよ」
 「そうか・・・早乙女の奴、胃に穴が開くんじゃねえか?」
 千雨の台詞に、ウンウンと頷く少女達。自覚のないシンジは、首を傾げるばかりである。
 「まあ、私としてはこの手でシンジさんの断髪式行えたから、それはそれで満足してるけどね」
 「断髪式って、力士じゃねえんだぞ?まあいい。それより、情報交換と行こうか」
 互いに情報を交換し合う一行。防衛作戦はネギの案を基に学園サイドが行う為、ネギ達一行が別働隊を担当する事で話は決まった。
 「よし、じゃあ後は時間を待つだけだね。木乃香は万が一の負傷者救護の為に、後方で待機を。長谷川さんには電脳戦を。他のメンバー全員で、強襲を仕掛ける。そんな所か」
 「なあ、ちょっと良いか?いくらなんでも、こんなちゃちなノーパソじゃあ、電脳戦なんて無理だぜ」
 「おお、ちうっち。それこそ問題はねえぜ」
 ニヤッと笑うカモ。その笑顔に『まさかテメエ』と千雨が呻き声を上げる。
 「いいかい、千雨ちゃん!視野を広げるんだ!世界ファンタジー化の危機だよ!今の私達に必要なのは、力だよ!」
 断言するハルナに、千雨は反論する言葉が無い。すでにその足元では、カモが魔法陣を描いて『さあ、やっちまえ』と煙草を吹かして千雨を待っている。
 「あー・・・僕達は外に出てるから、終わったら呼んでね」
 「あ、ちょ、待てや、おい!」
 パタンと閉まるドア。
 その5分後、ドアを開けた千雨の手には1枚のカードが握られていたそうである。

関東魔法協会side―
 「全世界強制認識魔法・・・そんな事が可能なのか・・・」
 「侮っていたな・・・学園長、この情報はどこから?」
 「情報源はどうでもよろしい。まずはこの計画を止める事が最優先じゃ」
 急遽、招集された魔法先生と魔法生徒達は、突然の事態に互いに顔を見合せながら、囁き合っていた。
 だが近右衛門の判断で、普段は麻帆良に顔を出していない者達も、緊急招集と言う形でこの場に来ていた。彼らは普段は麻帆良ではなく、関東魔法協会の地方支部に勤務していたり、麻帆良学園とは関係ない仕事に就いていたりしていた為に、シンジとは接点が無かったのである。その為、シンジは彼らの存在を知らず、関東魔法協会の戦力は、普段、世界樹防衛戦に駆り出されているメンバーだけだと思い込んでいた。
 「まず、本国からの応援は間に合わない事が確定しておる。故に、今回の一般生徒を動員した作戦を行う事になった。勿論、安全措置は十分に講じるがの」
 「確かにこの祭りの中、人目を避けて2500体の戦闘機械を相手にするなど不可能ですからね。それならばいっそ当事者として参加させてしまえ、という訳ですか。しかしまた、思い切りましたねえ。火星ロボ軍団VS学園防衛魔法騎士団ですか。これはとんでもないお祭り騒ぎになるでしょうね、生徒達にとっては」
 「他に方法は無いんでな。これについては割り切って考えて貰いたい」
 近右衛門の言葉に、全員が頷いた。中には渋々という者もいたが、他に案が無い以上、採るべき道は1つである。
 「ところで、この6体の巨大生体兵器というのは、何でしょうか?」
 「どうやら学園地下に石化封印されていた、無名の鬼神を科学の力で支配下に置いたもののようです。これが出てきたら、一般生徒達は下がらせた方が良いでしょう」
 「しかし、この地には学園結界があります。高位の魔物・妖怪の類は動けない筈だが、どうするつもりだろうな・・・」
 「その疑問はもっともじゃが、儂らはこの地を守る義務がある。故に、最悪の事態を想定して動かねばならん。だからこそ希望的観測は捨て、全員が一丸となって今回の事態解決に当たって貰いたい。6ヶ所の防衛拠点のどこを担当して貰うかは、これより行う作戦会議で発表する。良いな?」
 「「「「「「はい!」」」」」」

作戦会議終了後―
 学園長室で椅子に座っていた近右衛門は、ドアをノックする音に顔を上げた。
 「開いとるよ」
 「失礼します、久しぶりですね、お義父さん」
 「久しぶりじゃのお、婿殿。今立てこんでおるでの、そちらのソファーに座っとくれ。お客人もな」
 やって来たのはアポイントを取り付けていた詠春を筆頭に、京都の事件の主犯である天ヶ崎千草と、楓の父、長瀬剣であった。
 「・・・フン」
 「失礼」
 関東魔法協会を親の仇と思っている千草は鼻を鳴らして、近右衛門とは眼を合わそうともしない。そんな千草に代わって剣が非礼を詫びた。
 「儂は気にしとらんでな、長瀬殿が詫びる必要はないわい。それより婿殿、シンジの事で相談があると言っておったな。何があったと言うんじゃ?」
 詠春が4人分の緑茶を用意すると、早速話を切り出した。
 「こちらの千草が、シンジの師である事はお義父さんも御存知ですよね」
 「うむ。京都の一件については、報告を受けておるからの」
 「実は、その事なのです。修学旅行の最後の日。彼女は正式に処分が決まるまでの間は、禁固処分扱いとして地下牢に閉じ込められておりました。私はシンジが麻帆良へ戻る前に話をさせたいと思い、シンジをそこへ向かわせたのです。そこで、彼女が気になる事を聞いた、というのです」
 近右衛門が、ふむ、と千草へ目を向ける。
 千草は最初は話したくないようだったが、詠春に小声で諭されると、ついには観念したように口を開いた。
 「あの馬鹿弟子は・・・悲劇を無くす為に、近衛シンジではなく碇シンジとして戦うと言うとったわ・・・」
 「・・・碇シンジとして、じゃと?」
 「その言い方が気になったのです。何故、碇としてなのか、と。その解決のヒントを、こちらの長瀬氏が提供してくれました」
 近右衛門が、剣に目を向ける。剣は頷くと、すぐに話を切り出した。
 「まずこれから話す事は他言無用にお願いしたい。事は碇家最後の生き残りである、あの少年の過去に関わる事なのだ。同時に歴史の闇へ葬られた、第3新東京市での戦争に関係した事でもある。故に、沈黙を約していただきたい」
 「分かった。その約束、近衛家の当主として守ると誓おう」
 「では、話そう」
 剣の口から語られた、使徒戦役に纏わる真実を聞き終えた近右衛門の顔は、蒼白に変じていた。
 「・・・以上が私の知る真実です。私は娘に、あの少年の護衛を命じました。なぜならあの少年は、あまりにも変わりすぎていたからです」
 そこで窓の外からドパパパパパパン!という爆発音が聞こえてきた。
 「失礼。お義父さん、今のは?あれは花火ではありませんよね?」
 「うむ。実はこちらで大事件が起きているのじゃよ」
 シンジの話を中断して、状況説明に入る近右衛門。魔法暴露という緊急事態に、3人とも驚きで眼を見開いた。
 「長瀬殿」
 「うむ。話はその事件が解決してからの方が宜しいでしょうな。学園長殿、迷惑でなければ、我等も助力したいのだが。魔法の公然化は、甲賀忍びにとっても関西呪術協会にとっても、都合の悪い事ですからな」
 「ありがたい。是非とも頼む。婿殿、太刀を貸そう。ついてきてくれるかの?」
 「ええ、分かりました」

麻帆良湖湖岸―
 時刻は午後5時半。イベント開始までまだ1時間、しかも防衛ポイントではない場所に、イベント参加者が群れをなしていた。
 「ねえ、何で防衛ポイントじゃないの?」
 「ネットによれば、ここの湖岸から敵が侵攻開始するって情報が流れてるからだよ」
 「バンバンぶっ殺して、賞金ゲットだよ~」
 チア部3人娘もまた、ネットの情報を頼りに湖岸へと来ていたのである。だが生徒達の間に、ざわめきが広がっていく。
 そちらに目を向けた桜子は、驚きで目を丸くした。
 いきなり湖の中から、ロボットの集団が横一列で大量に出現すれば、驚くのは当然である。しかも開始時間前の出現なのだから、当然であった。
 「ええ、まだ開始前だよ!?」
 この時、情報管理室で観測したロボットの数は、合計2500体。防衛ポイントを襲う筈の2500体とは別の戦力なので、超側の戦力は単純に2倍に増えていた。
 戦闘のロボット達から、一斉に閃光が放たれ、光を浴びた者達から悲鳴が上がった。
 「脱げビームだ!」
 「おお、まさに脱げビーム!」
 「ちょっとお!」
 目尻から涙を噴き出しつつ、胸を隠すのに必死な円。周囲では少女達を中心に、悲鳴が上がりだした。

拠点防衛ポイントの1つ、世界樹前広場―
 「緊急事態です!開始の鐘を待たずに、火星ロボ軍団が奇襲をかけてきました!既に麻帆良湖湖岸では、戦端が開かれているようです!」
 魔法使い姿での和美の実況に、イベントに参加していたアキラや裕奈達が『よくやるねえ』と呆れたように笑いだす。
 ちなみに和美の実況は、麻帆良学園内全域に設置された巨大ディスプレイを通じて流されているので、全てのポイントで奇襲攻撃を把握した。
 「では、ゲームスタート!」
 リンゴーンと鳴る鐘の音。やがて5分と経たない内に、世界樹前広場にも異様なジャンプ力を活かして超の機械人形が襲撃を仕掛けはじめる。
 「来た来た来たああ!」
 「「「「「「敵を撃てヤクレートウル!」」」」」」
 生徒達による一斉掃射が始まった。

15分後―
 (ちょっとちょっと、いきなりここが落ちそうなんですけど)
 自分がいる世界樹前広場が、一番攻め込まれている状況に、和美は背中に冷や汗を流していた。彼女は今回の一件が、本当はイベントではない事を知っているので、負けたら最悪の事態を迎えてしまう事をしっかり理解しているのである。
 最前線では裕奈達が奮闘しているが、想像以上に敵の攻勢が激しく、前線を支えるのがやっとという状況であった。
 そんな敵陣真っ只中に、突如、爆発が生じた。さらに爆発を中心に、周囲にいた機械人形達が一瞬で破壊されていく。
 「うわ~すごいですね~」
 さよの感想に『全くだ』と内心で頷きながら、和美はマイクに向かって叫んだ。
 「皆さん、お待たせしました!こちらもヒーローユニットの登場です!彼らと協力しながら、高得点をゲットして世界樹を防衛して下さい!」
 敵の指揮系統に混乱が起き始めた隙を突いて、生徒達が盛り返していく。
 「ヒーローユニットにはそれぞれ特徴があります。直接攻撃型、補助型、防御型、特殊型の4タイプが存在しています!彼らの特徴をいち早く理解し、戦況を有利に進めて下さい!なおヒーローユニットには、学園教師の方と生徒達の中からイベント実行委員会が依頼して、協力をお願いしております!」
 和美の実況に『俺そっちの方が良かったなあ』『お前、賞金いらねえのかよ』と呑気な会話があちこちで漏れていく。
 「ここで各防衛ポイントのヒーローユニットの紹介に入ります。まず世界樹前広場。こちらには麻帆良武道会本戦出場者の中から、メイド中学生対決で大会を盛り上げた、女子中等部3-A神楽坂明日菜さん、桜咲刹那さんに協力をお願いしております!」
 和美の実況に『おお、あの子達か!』と歓声が上がりだす。
 士気が高揚したのを確認し、これなら何とかなりそうだなと安堵しつつ、和美は他の防衛拠点の説明に入った。

麻帆良湖湖岸―
 防衛拠点から外れた最前線は、戦線が崩れ始めていた。何せ本当なら400体を相手にすればいいのに、ここだけは2500体も戦力が集まっているのだから、戦線が崩壊するのは当然である。
 それでも生徒達は必死になって戦線を構築し直しつつ、砲火を交えていた。
その時だった。
 麻帆良湖の上空に、巨大モニターが浮かび上がる。この状況に驚いたのは生徒達であった。
 『麻帆良湖湖岸で奮闘中の皆さん!只今そちらへヒーローユニットが2人向かっております!到着まであと1分ですので、何とか持ちこたえて下さい!』
 援軍の報告に、敗戦ムードが漂い始めていた生徒達の間から『みんな、持ちこたえろ!』と歓声が上がっていく。
 同時に、生徒達の頭上を轟音とともに何かが飛んで、機械人形の集団を直線状に薙ぎ倒した。
 「うお!?何だあ!?」
 更にその後を、剣を手にした女性のような影が追いかけ、機械人形相手に剣撃を開始する。
 「誰が来たの!?」
 美砂が辺りをキョロキョロ見回す。そんな美砂の横で『前だよ前!』と円が声をあげた。
 湖岸の最前線には、狩衣に烏帽子の男と、見覚えのあるクラスメートがスケッチブックを手に立っていたのである。
 『麻帆良湖湖岸のヒーローユニットの紹介です!麻帆良武道会本戦ベスト8、人形使いの近衛シンジさん、及び一般生徒から抽選で選ばれた女子中等部3-A早乙女ハルナさんの援軍です!2人とも特殊タイプですので、どれだけ早く特徴を掴むかで戦況が変化します!皆さん、頑張って下さい!』
 実況終了と同時に、シンジの周辺にいた機械人形の内、5体ほどが向きを変えて、味方に対して攻撃を開始する。武装解除の光を浴びせられた機械人形達が、次々に武器を落としていく光景に、生徒達から歓声が上がった。
 「よっしゃあ!攻めかかれえ!」
 誰かが叫んだ声に、一斉に生徒達から『おお!』と声が上がる。だがチア部3人娘はそれどころではなかった。
 何故なら、湖上空のモニターに映っていたシンジが、素顔を晒していたからである。
 「・・・あれ、近衛さん?」
 「ちょ、マジ?」
 「つーか、中性的な美形って反則じゃない?早乙女の奴、大穴引き当てたなあ」
 最前線でシンジの横でゴーレムを呼びだしているハルナを見ながら、3人はお互いに顔を見合わせると苦笑し合った。

情報管理室―
 今回の作戦と、進行していく状況を確認しながら、明石は安堵の溜息を吐いていた。オペレーター役の夏目からは『撃破数が1000突破』という連絡が入り、超の戦力の内、2割が無力化できた事を理解したからである。
 (しかし、この作戦が無かったら、と思うとゾッとするな。学園長は明言されていなかったが、この作戦、考え出したのはあの2人かな?)
 20年前の英雄の忘れ形見である赤毛の少年と、かつての知人の忘れ形見である黒髪の少年を思い出す明石。2人ともエヴァンジェリンに師事している事は、魔法関係者の間では公然の秘密となっていた。
 ガンドルフィーニ達一部の者達は不愉快そうだったが、明石の考えは違う。
 (あの闇の福音に、弟子に取りたいと思わせるほどのモノを、彼らが持っていた、と言う事だろうな)
 そんな事を考えていると、突如、情報管理室全体に警報音が鳴り響いた。
 「どうした!すぐに報告を!」
 「学園警備システムメインコンピューターが何者かのハッキングを受けています!既にサブシステムはダウン!学園結界の出力20%ダウンしました!」
 「防壁展開、急げ!」
 明石もまた、コンソールに飛びついてキーボードを叩きだす。
 「防壁、突破されました!」
 「17式電子精霊群第3から第8群まで解凍!」
 「・・・ダメです!解凍を妨害されています!」
 楽観的なムードから、一転した緊迫感に緊張が走る。
 「明石教授!防衛システム中枢へのアクセスコード、下8桁まで掌握されました!もうコード変更できません!いえ、下12桁まで掌握されました!学園結界が落ちます!」

世界樹前広場―
 「全ての学園魔法騎士団に緊急連絡!つい先程、火星ロボサイドに援軍が確認されました!全高30mを超える巨大ロボが出現します!倒せば高得点が入りますので、皆さん、気合いを入れて頑張って下さい!」
 「「「「「「全高30m!?」」」」」」
 和美の実況に、弾丸をリロードに戻っていた裕奈達が、モニターに目を向ける。そこには麻帆良湖から姿を現した、巨大ロボが姿を見せていた。
 「何、あれ!?」
 「すごいなあ・・・あれってCGなのかな?」
 呆れたようにモニターを見つめる裕奈達。同時にモニターの中では、巨大ロボがビームの溜めに入っていた。
 「ひょっとして、特大の脱げビーム?」
 「そ、それは嫌だなあ」
 タラーッと冷や汗を流すアキラ。その視線の先では、巨大ロボが特大ビームを発射し―途中で爆裂四散していく。
 「ヒーローユニットの中には、特大ビームを防ぐ能力を持つ者がおります!防御タイプと特殊タイプの一部が可能です!皆さん、頑張って下さい!」
 和美の実況とモニターの光景に、女生徒の一部から『麻帆良湖に行けば良かった』と残念がる声が上がる。確かにペナルティとはいえ、裸にされるのはゴメンなのだろう。
 ちなみに特大脱げビームを防げるのは、シンジ以外には瀬流彦とシスター・シャークティーしかいなかったりする。
 「ええい!脱がされる前に破壊してやればいいのよ!」
 「そうだな、行こうか」
 裕奈とアキラは頷きあうと、やはりリロードし終えた亜子や双子姉妹とともに最前線へと駆け戻った。

アスカ・ミサトside―
 NERV専用機のVTOLに搭乗した2人は、一路、麻帆良学園都市へと向かっていた。
 時間はまもなく夕方6時。シンジが去るタイムリミットまで残り2時間となっていた。
 そんな時に、VTOLを操縦していたパイロットから『本部より通信が入っております』というアナウンスが入る。
 「ありがとう、よし、これね」
 交信用のスイッチを入れるミサト。多少荒い画像ではあったものの、リツコの姿が画面に映った。
 『ミサト、そちらへデータを送ったわ。確認をお願い。それからSEELEについてだけどやはり上層部であった委員会メンバーは全滅しているわ。恐らく残党ね』
 「全く、さっさと諦めてくれれば良いのにねえ」
 『それについては同感よ。ただ1つだけ気になる情報を見つけたの。シンジ君の現在の保護者が、これから向かう麻帆良学園都市の学園長を務める近衛近右衛門氏と義理の親子―正確には娘婿なのだけど、どうしてシンジ君を養子にしたのかについて調べたの』
 それには興味を引かれたのか、ミサトもアスカも画面を覗き込んだ。
 『近右衛門氏の亡き奥様は、旧姓を碇。その女性には妹がいたの。その妹さんが産んだ1人娘が、ユイという名前だったのよ』
 「・・・それって、まさか!?」
 『そうよ。間違いなくユイ博士の事よ。更にユイさんは、幼い頃から近衛家に出入りしていた事も分かったわ。その上、近衛家と碇家は、度々婚姻関係を結んでいるの。その血の繋がりを見れば、もはや同族と言っても良いほどよ。間違いなく、近右衛門氏はシンジ君の素生について把握していると思った方が良いわ』
 その真実に2人が目を丸くする。
 『近衛家は藤原北家に遡る事のできる、名門中の名門の家系よ。その影響力は、現代においても計り知れないわ。くれぐれも、相手の機嫌を損ねない様に動いてね』
 「・・・はあ、シンちゃんにあの藤原道長や中臣鎌足の血が流れているなんて、誰も想像できないでしょうねえ・・・」
 『それについては同感ね。一応、こちらから副司令として、近右衛門氏に対して訪問の連絡と挨拶はしておくから』
 「ええ、ありがとう。それじゃあ」
 ピッと音を立てて切られる通信。その隣で、アスカが頭に?マークを浮かべていた事に気付き、ミサトが苦笑した。
 「簡単に言うとね、シンちゃんのお世話をしている近衛家っていうのは、日本ではとんでもなく古い家柄の家だって事。そのおかげで政治的・経済的影響力も凄いのよ」
 「なるほど、そういう事か」
 「近衛家といえば、日本の貴族の中でも1・2を争うほど有名な家だからね。悪い意味でプライドの高い人じゃないと良いんだけど」
 そう呟くと、ミサトは麻帆良の方向をジッと見つめていた。

近右衛門side―
 詠春達を送り出した近右衛門は、学園長室へと戻って来ていた。手ずからお茶を淹れて一息ついていると、机上の電話が鳴りだす。
 珍しく外線のランプが点灯している事に驚きながらも、近右衛門は受話器を取り上げた。
 「もしもし、こちら麻帆良学園学園長室じゃが」
 『初めまして。私、赤木リツコと言う者です。近衛近右衛門氏でいらっしゃいますか?』
 「うむ。確かに近右衛門は儂じゃが」
 『失礼致しました。突然の電話と言う非礼をお許し下さい。私は第3新東京市に本拠地を置く、国際連合非公開組織特務機関NERVにおいて副司令の職を務める者です』
 その言葉に、近右衛門の眉がピクンと跳ね上がる。
 「ふむ。儂にはとんと心当たりのない組織じゃが、そのNERVがどんな御用件かの?」
 『時間が無いので、こちらとしては腹の探り合いをするつもりはありません。単刀直入に話をさせて戴きたいのですが、宜しいでしょうか?』
 「まあ単刀直入に話をしたいと言うのであれば、儂は構わんよ」
 『ありがとうございます。実は、現在そちらへ我が組織の総司令を務める葛城ミサト准将が向かっております。そのアポイントを取る為に、電話連絡をさせていただきました』
 リツコの言葉に、近右衛門の顔に呆れたような表情が浮かぶ。
 「押しかけてくる最中にアポイントとは、些かやり方を間違えておらんかの?」
 『非礼は重々承知の上です。ですが時間が無いのです。既に残り2時間を切っている以上、最早、選択肢は残されていないのです』
 「2時間?それはどういう意味じゃ?」
 『近右衛門氏の娘婿、詠春氏の養子、シンジ君の事です。私達はあの子が失踪して以来、ずっと捜し続けてきました。ところが、今晩8時にあの子が麻帆良の地を立ち去ると言う情報が手に入ったのです』
 「何じゃと!?」
 思わず立ち上がる近右衛門。湯呑が倒れ、お茶が机の上を流れていく。
 『その原因はSEELEと呼ばれる世界規模の秘密結社にあります。SEELEはシンジ君の命を狙っており、あの子はそれに麻帆良学園の生徒達が巻き込まれる事を防ぎたくて、立ち去るつもりだと言うのです』
 (・・・シンジ、お主は・・・)
 『私達としては、あの子を不幸にさせたくありません。近右衛門氏が御存知かどうかは分かりませんが、私達NERVはあの子に非人道的な対応をしてきました。それは事実であり、大義名分があろうとも言い訳はできません。ですが、だからこそ私達は、子供達にその分、幸せになって欲しいのです。その為にも、あの子をSEELEに殺させる訳にはいかないのです』
 非人道的、大義名分。この2つは剣から聞いた使徒戦役の事なのだろうと、近右衛門は当たりをつけた。
 『今更NERVに帰ってこい、等と言うつもりはありません。あの子が麻帆良で幸せを築いているのであれば、私達はそれで構わないのです。ですが、子供にだけはチャンスを与えて欲しいのです』
 「・・・それはどういう意味かのう?」
 『あの子にはアスカと言う恋人がいました。ですがシンジ君は、アスカに裏切られたと誤解して、NERVから姿を消してしまっているのです。その誤解を解くチャンスを、アスカに与えて戴きたいのです。未だに1年前にあげる筈だった誕生日プレゼントを、今も持ち続けているアスカに・・・』
 近右衛門としては溜息を吐かざるを得なかった。ここで断るのは可能だが、シンジの失踪の原因が誤解にあったとするのなら、その誤解は解くべきだからである。なによりアスカと言う少女が、1年間も誕生日プレゼントを持ち続けているという話には、近右衛門も心を打たれる物があった。
 「話は分かった、訪問を認めよう」
 『ありがとうございます!予定では夜の7時にはそちらへ到着する手筈になっております!』
 「うむ。女子中等部の学園長室で待っていると伝えて貰いたい」
 『はい、必ず伝えます!それでは、失礼致します!』
 ガチャンと置かれる受話器。だが近右衛門の顔は決して明るくは無かった。
 「・・・シンジ・・・どうして相談してくれなんだ・・・どうしてそこまでして、自分を追い詰めるんじゃ・・・」



To be continued...
(2012.06.09 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は決戦直前の最後の一時、というイメージです。超との全面対決が迫る中、準備を整えるネギ達。そんなネギ達を踊らせようとするシンジと超。遂にシンジを捕捉したミサトとアスカ。シンジを守ろうとする詠春達。それぞれの思惑が交差する・・・ように書けていたら成功ですw難しいですよ、思惑が入り乱れるというのはw
 話は変わって次回です。
 遂に麻帆良の地に降り立ったアスカ。シンジに会う為走り続ける彼女だったが、シンジは上空4000mの決戦の舞台に立っていた。そして超の従者として、ネギ達を裏切ったシンジの姿に、少女達は言葉を無くす。
 ネギを超に任せて、困惑し或いは怒る仲間達全てを相手取るシンジ。まるで実の兄弟の様に触れ合い、実の兄妹の様に接した仲間達がぶつかり合う。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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