正反対の兄弟

第三十九話

presented by 紫雲様


午後6時半、アスナ・刹那side―
 機械人形の集団を撃破していた2人は、タカミチ・弐集院を中心とする魔法関係者達と合流して超の機械人形の中でも最高クラスの戦闘力を誇る6体の鬼神の殲滅に当たっていた。
 「頭は壊しちゃダメだよ、恐らく頭部に制御装置があるからね」
 そう言いながら咸卦法で強化した豪殺居合拳を叩きつけて、鬼神の四肢を粉砕していくタカミチである。その破壊力の大きさに、途中から合流した美空が『私の出る幕は無いやね~』と呑気に言った時だった。
 タカミチが勘に従って明後日の方向へ居合拳の衝撃波を放つ。同時に少し先で、奇妙な音とともに空間が歪んだ。
 「高畑君!?」
 「狙撃です!気をつけて!」
 「例の特殊弾という奴か!」
 弐集院の指示に従い、魔法障壁を展開する魔法関係者達。だが特殊弾は障壁の有無など関係なく、次々に呑みこんでいく。
 「封印処理中止!物陰に避難しろ!射手は反対側か、どうする?」
 だがそれでも次々に呑みこまれていく光景に、弐集院は自分の目を疑う。そんな中、美空を庇ったココネまでもが特殊弾に呑みこまれてしまった。
 その時、弐集院は斜め向かいの尖塔が、微かに弾けたのを捉えた。
 「跳弾か!?」
 その叫びを最後に、弐集院も特殊弾に呑みこまれた。その光景に歯噛みしたタカミチが、何とか物陰に隠れていたアスナの下へと瞬動術で移動する。
 「今のは強制転移魔法だ!しかし、飛ばしても精々3kmだぞ?そんな事をして、何の意味が?」
 「その通りネ。この状況で3km飛ばしても、何の意味も無い。だが―」
 思わず声が聞こえてきた方向へ顔を向けるアスナ達。
 「それが3kmではなく、3時間先だったらどうカナ?」
 慌てて武器を構える刹那とアスナ。だがタカミチは超の言葉に『3時間先?』と不思議そうな声を上げる。
 「しかし、この大胆な作戦には驚いたヨ。まさかここまで思いきった手を打ってくるとはネ。この作戦の立案者はネギ坊主か?それともシンジサンか?」
 「そんな事は関係ないでしょ!アンタは今から私達がぶっ倒してやるんだから!」
 「ふふ、元気が良いネ、明日菜サン。だが今の私に対抗できる可能性があるのは、ネギ坊主だけヨ?」
 その言葉とともに、超の姿がフッと消える。次の瞬間、電撃を帯びた拳の一撃をまともに食らい、アスナが崩れ落ちた。
 「私は魔法ではなく科学の使い手ヨ。魔法無効化能力者では、私は止められないネ」
 「貴様ア!」
 刹那が攻撃を仕掛ける。だが超の姿はやはり消えてしまい、消えると同時に刹那の背後に超が姿を現した。
 「昨夜の二の舞ネ、刹那サン」

同時刻、真名side―
 (・・・超から連絡変更も無い・・・やるか)
 超遠距離射撃による攻撃で、無防備に立っていた外部からの援軍を次々に特殊弾の餌食にしていく真名。その最中に、突如、狙いを指揮官役を務めていたガンドルフィーニへ切り替える。
 ガンドルフィーニは経験豊富な魔法使いらしく、即座に銃を抜いて応戦。だが至近距離で弾丸同士がぶつかり合い、特殊弾の力場へ呑みこまれていく。
 「行くか」
 転移魔法符を使用し、遠距離移動を行う真名。出現ポイントは神多良木の後ろ。超経由でシンジから齎された情報によれば『確実に無力化させておきたい、油断できない人物』という評価だった事を思い出しながら、彼女はハンドガンから特殊弾を撃ちだした。
 神多良木は力場に呑みこまれながらも、カマイタチで迎撃を図る。そのカマイタチは真名の右手に握られていたハンドガンの銃口を切断していた。その迎撃の反応速度の速さに、真名も眼を見張る。
 だが、神多良木はそれだけに止まらなかった。
 「逃げろ!葛葉!こいつはヤバイ!」
 「チッ!」
 逃がしてなるものかと真名がハンドガンを改めて構えなおす。しかしその時には、葛葉は何が危険なのか理解できないながらも、仲間である神多良木の言葉を信じて、その場から既に撤退していた。
 「1人逃がしたか・・・だがまあ良いだろう。一番、厄介なのは片づけたしな」
 そう呟くと、真名は次の仕事場へと向かいだした。

タカミチside―
 「驚いたネ・・・圧倒的な能力差がありながらここまで粘るとは・・・踏んで来た場数の違いと言うことカナ?」
 気絶したアスナと刹那を足元に見ながら、超は余裕たっぷりにタカミチへ話しかけた。一方のタカミチはと言えば、超の能力を見切れず、どこから奇襲攻撃がくるのかという精神的な疲労を募らせるあまり、肩で息をし始めていた。
 「・・・君は理解しているのか?君の作戦を実行すれば、相応の混乱が世界を覆ってしまうんだぞ?」
 「勿論、承知ネ。だがこの方法が、もっとも混乱とリスクが少ない。それに今後10数年の混乱に伴って起こるであろう政治的軍事的に致命的な不測の事態については私が直接監視し調整する。その為の技術と財力は用意したネ」
 自信タップリに断言する超。けれどもタカミチには、超を認める事はできなかった。
 「しかし、それは危険なやり方であり、考え方だ。そういった考えを持った者に、成功者はいない。まして世界の管理など・・・」
 「私の管理は、精々10数年ヨ。私はうまくやる。それに、貴方は実感している筈だ。私のような方法以外で、世界から争いを無くす方法は無い、と言う事を」
 図星をさされたタカミチの内心に、動揺が走る。
 「正直な事を教えてあげるネ。世界の管理は大義名分。私の真の目的は別にあるヨ」
 「・・・何だと?」
 「それは秘密結社SEELEを打倒する事ネ。遥か昔から、魔法使いが『旧世界』と呼んできた、この世界全てを裏から実効支配してきた秘密結社。奴らを壊滅させる事こそが、私の真の目的であり、復讐ヨ」
 目を丸くするタカミチ。タカミチもSEELEの名前ぐらいは聞いた事があった。だがここでその名前を聞く事になるとは思わなかったのである。
 「高畑先生。貴方に問いたいネ。仮にSEELEがテロリストを1000名規模でこの麻帆良の地へ乗り込ませてきたら、貴方は生徒達を守り切れるカ?いや、関東魔法協会は生徒達を守りきれるのカ?『魔法を人前で使ってはならない』という制約の下でネ」
 「それは・・・不可能だ・・・だが、そんな事は!」
 「どうして無いと言いきれるネ?私はその可能性は非常に高いと考えているヨ。理由は幾つかあるが、貴方には貴方が理解しやすい情報を与えてあげるネ。関東魔法協会の本国であるメガロ・メセンブリア。この上層部―下手をすれば首脳部にSEELEが手を伸ばしているネ」
 今度こそ、タカミチは言葉を失った。
 「この2人は返してあげるネ。答えが出たら、また私の前に来ると良いヨ。味方になてくれるのであれば、私は貴方を同志として迎えよウ。しかし敵となるのであれば、今度こそ容赦はしないネ。タイムリミットは・・・そうだな7時半ぐらいになるだろうナ。その時までに答えを決めておくネ」
 そう告げると、超は悠然と踵を返して、その場から立ち去った。

ネギside―
 魔力の大量消費による昏睡から目覚めたネギは、千雨以外のメンバーを引き連れて学園内を疾走していた。
 千雨は学園結界の再起動の為の電脳戦に忙しく、ネギに同行するのは不可能。その為、千雨は留守番組となったのである。
 物陰に隠れながら、走っていくネギ達。その途中、やはり同じように物陰へ隠れていたシスター・シャークティーに遭遇した。
 「シスター!」
 「貴方ですか!大変な事になりました!魔法先生の大半が、超鈴音の特殊弾の餌食となって無力化されました!彼女達の弾丸は、障壁ごと力場へ呑みこみます!」
 そんなネギの目の前で、シャークティーがその力場へ呑みこまれた。
 「狙撃でござる!」
 咄嗟に楓がネギを物陰へ引っ張りこむ。
 「兄貴!今の力場は!」
 「・・・うん、間違いない。あの力の気配、まるで航時機カシオペアだよ」
 「厄介だな、遠くへ飛ばされるだけなら戻って来られるが、さすがに時間を超えるのは」
 ネギがゴクッと唾を飲み込む。そんなネギ達の視界に、目を疑うような光景が広がりだした。

世界樹前広場―
 「さー、大変な事になってきました!圧倒的な火力差を前に、世界樹前広場が敵の手に落ちようとしております!さあ、どうする!?学園防衛魔法騎士団!」
 和美も攻撃されてはたまらないので、他の生徒たち同様に、物陰へ隠れながら実況を続けていた。そんな時だった。
 ≪フフハハハハハハ!苦戦しているようネ、魔法使いの諸君!≫
 「何あれ!?でかい超りん!?」
 「巨大ホログラム映像か・・・」
 「え?何で超りんが!?」
 困惑する裕奈達。だがその疑問に答える事無く、全長200m近い超のホログラムは、学園全体に声を届けていた。
 ≪私がこの火星ロボ軍団の首領にして悪のラスボス超鈴音ネ。前半の君達の快進撃は見事だたヨ。やられても復活ありのルールは、有能な君達には少し優しかたようダ。そこで新ルールを用意したヨ≫
 超の右手が、一発のライフル弾を取り出した。
 ≪この銃弾に当たると、即失格。おまけに工学部の秘密の新技術により、当たた瞬間に負け犬部屋へ強制搬送。今夜一晩寝てて貰うネ≫
 生徒達から一斉に『げえ!』という悲鳴が上がる。
 ≪ゲーム失格よりも、今夜一晩強制就寝ですごすのは、大変なペナルティだと思うが、どうネ?でも君達にも朗報があるヨ。最終的にこのイベントで勝利できれば、強制就寝は解除。負け犬部屋からも解放されるネ≫
 その説明に、生徒達から『つまり、勝てばいいんだよな?』とお互いに囁き合う声が漏れだす。
 ≪だが!君達の頼みの綱、ヒーローユニト達は既に私の部下がほぼ始末したヨ!さあ、君達の力で我が火星ロボの進行を食い止める事ができるかナ!?≫
 超の左右に映像が映りだす。そこに映し出されているのは、各防衛拠点の光景だった。
 世界樹前広場以外は戦闘が終了し、ロボ達が占拠し終えて警戒態勢に入っている事が、一目で判断できた。
 ≪では、諸君の健闘を祈る!・・・ちなみに今回のロボ軍団は、全て麻帆大工学部と『超包子』の提供ネ。『世界全てに肉まんを』超包子をよろしくネ≫
 突然のCMに、生徒達から『オイオイ』と一斉にツッコミがはいる。
 そんなツッコミを掻き消すかのように、和美が声を張り上げた。
 「さあ!ついに現れました、悪のラスボス超鈴音!今イベントの共同出資者である超鈴音さんが自らラスボス役を買って出てくれました!彼女はゲーム中、エリア内のどこかに潜んでいます!発見した方にはボーナスポイントと特別報奨金もプレゼントします!更にこの捜索イベントに限り!一般の見学者の方も参加できます!」
 和美の背後に、WANTEDと書かれた超の指名手配書が浮かび上がる。
 「更に皆さんに朗報です!麻帆良湖湖岸での遭遇戦ですが、只今、終了したとの連絡が入りました!生き残った学園防衛魔法騎士団約150名が援軍としてこちらへ向かっています!」
 援軍の報告に『うおおおおおお!』と歓声が上がりだす。
 「さあ、皆さん!負ける訳にはいきません!張り切って戦いましょう!」

時は少し遡り、ミサト・アスカside―
 麻帆良に近づいたは良いものの、前方に姿を現した巨大な超の立体映像に、2人は言葉を失っていた。
 「・・・何・・・あれ・・・」
 『総司令、只今、麻帆良学園都市から着陸の許可が下りました。これより着陸態勢に入ります。尚、目の前のホログラムは、学園祭のイベントの一環なので、気にしないで戴きたい、という連絡が入っております』
 「・・・どういう学園祭のイベントなのよ・・・」
 ミサトがぼやくのも無理は無い。何せ超の台詞は学園中に響いているのである。当然の如く、ミサトやアスカにも聞こえていた。
 「・・・話から推測する限り、学園内サバイバルゲームって感じみたいね」
 「しかも火星からのロボットって・・・思いっきりB級映画みたいだわ」
 やがてVTOLは女子中等部の前に、虎の子ロープで臨時設置された着陸スペースに舞い降りた。
 突然の軍用機の着陸に、周囲にいた者達は、眼を丸くするばかりである。
 周囲の視線の中、VTOLから降り立つミサトとアスカ。そんな時だった。
 「アスカ!」
 「ヒカリ!?」
 周囲の人垣から、ヒカリが飛び出してくる。それを慌てて麻帆良の職員が止めようとしたが、ミサトに『彼女は問題ありません』と言われると素直に通した。
 「碇君を見つけたの!あの訳の分かんないサバイバルゲームに参加してるの!」
 「それで、今はどこにいるの!?」
 「さっきまでは麻帆良湖湖岸にいたわ。でも今は世界樹前広場へ移動中みたいで」
 学園内を流れる映像に、砲火を交える世界樹前広場が映っていた。
 「地図は?」
 「はい、これ!」
 ヒカリが用意していたパンフレットには、世界樹前広場と、女子中等部と、麻帆良湖湖岸が赤色でマーキングされていた。
 「ありがとう、ヒカリ!」
 「いいのよ、アスカ。それより頑張ってね、もう1時間しかないから!」
 「うん!ミサト、行ってくる!」
 そう言うとアスカは後ろを振りかえる事無く、世界樹前広場目指して駆けだした。

真名side―
 遮蔽物として電車に隠れたネギ達。その中で夕映が『敵は時間を稼げば勝てるのです。ここで立ち止まっていては、私達の敗北が決定します』と言ったのに対して、真名は『その通りだよ、綾瀬』と語りかけた。
 『龍宮隊長!?』
 「そこには通信機が設置してある。怒鳴らなくても聞こえるよ」
 『どうして、どうして超さんに協力をするんですか!?お金で雇われたからですか!?』
 ネギの叫びに、真名は笑いながら答えた。
 「実は今回は違うのさ。私は超の志に共感して、彼女の計画に協力しているのさ。私は私の信念に従って行動している。故に、君達に対しても何ら恥じる事は無い」
 『・・・龍宮隊長』
 『待つです。龍宮さん、貴女に1つだけ訊きたい事があるのです』
 横から割り込んできた声に、思わず真名は引き金から指を離した。
 『超さんが変えようとしている不幸な未来。それは地球、或いは人類の存亡と言った究極的な事態に関係しているのでしょうか?』
 「・・・そうだと言ったらどうするつもりだ?綾瀬」
 通信機の向こう側では、夕映が言葉を無くしたらしく、思わず口籠っていた。
 「まあ、最初はそうだったらしいがな。何せ、世界人口が5桁を切るほどまでに減ったというのだから、世界的な危機であるのは間違いないだろう。だがそちらはもう、解決の目処がついたと言っていたよ。だから今は個人的思惑の下に奴は動いている。個人的な感情の為にな」
 『・・・そうだったですか、ありがとうございます』
 「別にかまわんさ。超も『遠慮なく攻めてくればいい、正面から弾き返してやるネ』と言っていた。お前達が気に病む事は、どこにも無いさ・・・お喋りは終わりだ、そろそろ始めようか」
 ターン!と音を立てて、スナイパーライフルから特殊弾が放たれる。弾丸は狙いを誤ることなく、ネギのいた路面電車に命中。電車ごとネギを未来へ飛ばそうとする。
 勝利を確信する真名。だがスコープの中には、一緒に飛ばされた筈のネギ・古・夕映・のどかの姿があった。
 (・・・どういう事だ?)
 思いがけない事態に、次弾を放つ事も忘れて真名が呆気にとられる。その間にネギ達は先へ進み、楓だけがスコープの中に立っていた。
 「・・・面白い、私とやるつもりか、楓」
 真名の目が、妖しく輝きだした。

ネギside―
 「お待ちなさい、ネギ君」
 路上を駆けるネギ達は、突然の呼びかけに思わず足を止めた。
 「あなたはクウネルさん!?」
 「はい、そうです。これを返しておこうと思いましてね」
 クウネルが差し出してきた、見覚えのある杖に、ネギが目を丸くした。
 「どうして、これをクウネルさんが!?」
 「私が地底図書室の主だからです。それとこちらも。ネギ君、頑張るんですよ」
 それだけを言うと、クウネルはスッと姿を消した。現れた時同様、物音1つ立てない、静かな退場である。
 そしてネギの手には愛用してきた杖と、一枚の通行証だけが残されていた。
 「・・・はい!クウネルさん、ありがとうございます!」
 手に馴染んだ杖を手に、ネギは少女達に頷くと、再び走りだした。

午後7時12分、世界樹前広場―
 (強制認識魔法発動まで、残り30分を切ったか、もう時間がないよ!)
 和美の判断で、一般人も参加し始めた超鈴音捜索イベント。だが未だに超鈴音発見の連絡は入ってこない。直径30mの魔法陣の上で待っているという追加情報も流したのだが、それでも超は発見されていなかった。
 最後の砦となった世界樹前広場には、麻帆良湖湖岸からの援軍が到着し、更に砲火が激しくなっていた。
 超サイドも他の5つの拠点の防衛戦力を回してきたのか、いつまで経っても敵戦力が減る気配が無い。その上、他の拠点にいた鬼神までもが姿を現した。
 「でかいのが来たぞ!」
 「敵を撃てヤクレートウル!」
 再び始まる一斉砲火。だが鬼神は足を止める気配が無い。最前線で戦っていた裕奈達の顔に陰りが忍び寄りだした頃、裕奈達の頭上を轟音が駆け抜けた。
 轟音の正体は雷を纏った竜巻。竜巻は鬼神に命中すると、上半身と下半身を真っ二つに引き千切った。
 「うおおおおお!?何だあ!?」
 「学園防衛魔法騎士団に緊急連絡!最後のヒーローユニット、噂の子供先生ネギ・スプリングフィールドの登場です!」
 一斉に上がる歓声。同時に和美の下に、遂に待ち望んでいた情報が届けられた。
 「超鈴音、発見の報告がはいりました!何と彼女は世界樹の上空4000m地点の飛行船の真上に立っている事が確認されました!」
 『何じゃそりゃあ!』『見つけられる訳ねえだろう!?』と一斉に叫び声が上がる。だが上を向けば、確かにうっすらと光を放つ飛行物体を見る事ができた。
 同時に世界樹前広場のモニターにも、飛行船の上に立つ超鈴音の姿が映し出される。
 「では、これより最終戦のルール発表に移ります!まず戦場が大きく2つに分けられますが、その両方で勝利しなければ学園防衛魔法騎士団の敗北が決定となります!まずはこの世界樹前広場!こちらは学園防衛魔法騎士団の担当となります!残り敵戦力500体を全て倒して、この広場を守り抜いて下さい!そしてもう1つは生き残ったヒーローユニットvs悪のラスボス超鈴音のガチバトル!このイベントにシナリオは用意していない、との事!超鈴音も負けるつもりは全く無い、と言っています!」
 『絶対死守しろお!』『子供先生、がんばれー!』と至る所から声が上がる。
 その歓声に送られるかのように、ネギが杖に乗って上空4000m地点目指して飛び立っていく。その後を追うかのように、生き残っていた魔法関係者達の内、飛行能力を持つ者達が上空へと駆け上がっていった。

楓side―
 真名に超長距離瞬動術『縮地无彊』で接近した楓だったが、改めて真名の手強さに目を見張っていた。
 「やはり、強いでござるな、真名殿は」
 「それはこちらの台詞だよ、楓」
 そんな中、学園中に流されている和美の実況と、流されている映像から、遂に戦局が最終局面へ移った事を2人は知った。
 「どうやらネギ坊主は、超殿の元へ辿り着けそうでござるな」
 「ああ、そうだな。私もお前の足止めができたよ。十分すぎる成果だ」
 その言葉に、驚いたのは楓だった。
 「どういう意味でござるか?」
 「私の目的―正確には役目になるんだが、それはネギ先生達の戦力を少しでも削る事だった。肝心のネギ先生は失敗したが、代わりにお前を足止めできたのだから十分さ。楓、先ほどの超長距離瞬動術は、日に2度も使えまい」
 図星をさされた楓が口籠る。そのまま無言でくないを構えるが、真名は役目を果たしたとばかりに気楽に構えていた。
 「全く、恐ろしい人だよ。まさか、この最終局面にまでバレずに辿り着くなんて・・・」
 「真名殿?何を言いたいでござるか?」
 「獅子身中の虫、って事さ。今更慌てようとも、楓、お前には何もできない。お前達は超を甘く見過ぎた。超一派は、私と聡美と茶々丸だけではない。もう1人仲間がいたという事だ。お前達の中に潜んでな」
 その言葉に、楓が驚きで両目を限界まで開いた。
 「スパイ!?だがそんなことは!」
 「あるのさ、それが。超が作戦失敗の時の保険として、単独行動を許すだけの能力を持った奴がいるだろう?お前達の中にな!」
 「まさか、シンジ殿!?」
 愕然とする楓。そこへ真名が特殊弾の銃撃を雨霰と降り注ぐ。それを必死で躱わしながら、楓が叫んだ。
 「どういう事でござるか!シンジ殿はネギ坊主を弟のように思っているでござるよ!3-Aのメンバーを、妹のように思っているでござるよ!?」
 「だからさ!アイツはお前達を守りたいのさ!その為に、悪の側に与したんだよ!」

上空4000m地点―
 「やと来たか、ネギ坊主。もしかしたらこのまま時間切れかと思って、ヒヤヒヤしたネ」
 魔法陣の上で、悠然と佇む超。その更に奥では、強制認識魔法発動の為、聡美が目を閉じて呪文の詠唱を行っていた。
 「それにしても、思たより残たネ」
 グルッと魔法関係者達を見直す超。そこにはタカミチ、刹那、アスナ、刀子、小太郎、高音、愛衣、瀬流彦、美空、シンジ、ハルナがそれぞれ飛行手段を確保して、姿を見せていた。
 「ネギ坊主。最後に問うネ。世界を救う為に、悪にならないカ?」
 ネギはしばらく考えた上で、口を開いた。
 「僕には、正解なんて分かりません。超さんの言い分に、一理ある事が理解できるからです。おかげで、さっき夕映さんに引っ叩かれちゃいました」
 「フフ、そうだろうネ。彼女は宮崎サンの親友だから」
 「ハイ、その通りです。でもそのおかげで、僕は答えを得る事が出来たんです。僕は、僕達自身の日常の為に、悪を行う。それから逃れる事は出来ないのだ、と。だから僕はあなたを否定できないけど、あなたに協力できないんです!」
 ネギの答えに、超は真剣に頷く。
 「高畑先生はどうか?協力する意思はあるかナ?」
 「君から伝えられた情報。確かに恐るべき事実だったよ。だが協力は出来ない。他の方法でこの麻帆良を守る。それが僕の結論だ」
 「・・・そうか。ならばその道を進むがよいネ。私達は私達の道を歩ませて貰うヨ」
 超が1枚のカードを取り出す。裏の模様しか見えなかったが、ネギ達はそのカードの正体に気がついた。
 「「「「「「仮契約カードパクティオーカード!?」」」」」」
 「その通りネ。私は1人ではないヨ。頼りになる同志がいるネ。召喚エウオケム・ウオース鈴音の従者ミニストラ・リンシェンリリンリリン!」
 超の真横に現れる魔法陣。同時にネギ達一行の中から、魔力の気配が立ち上がった。
 思わず視線を向けるが、すでに魔法陣が残っているばかり。そこにいた筈の人影は、どこにも見えない。
 いや、見つける事は出来た。誰も信じたくなかっただけで。
 「いや、私の目論見が甘かたネ。まさかここまで彼らが残るとは思わなかたヨ」
 「別に問題は無いよ。マスターはネギ君だけを相手にすれば良い。他のメンバーは全員纏めて僕が相手をする。それより反重力アンチ・グラビティフィールドは?」
 「そちらは問題無いネ。気絶してもちゃんと受け止めてくれるヨ」
 ネギやハルナ、刹那やアスナが、信じたくないと言わんばかりに顔を歪める。刀子や高音は歯軋りをする。それ以外のメンバーは呆然としていた。
 「どうして、どうしてですか!?シンジさん!?」
 「こうしなければ、麻帆良を守る事ができないから。最初はもっともらしい大義名分もあったけど、今は麻帆良を守りたい。ただそれだけだよ」
 その言葉に、タカミチは自分と逆の選択肢を選び取ったシンジに声をかけた。
 「君はSEELEが来た時、僕達では守りきれないと判断したんだな?」
 「当然です。僕はSEELEの実力を知っていますから。SEELEの命令を受けた戦略自衛隊が攻めてきた時、無抵抗のまま殺されていく人達の姿を見てきました。火炎放射機で問答無用で焼き殺される人達の断末魔の叫びを!命乞いをしているのに、それを無視して頭部に銃弾を叩きこまれる人達の姿を!あんな光景を麻帆良で再現させる訳にはいかないんですよ!」
 初めて目の当たりにした、悲しみの表情を浮かべるシンジに、タカミチはおろか、その場にいた者達全てが言葉を失った。
 「高畑先生。僕は貴方に問いたい。貴方にとって大切なのは、正義の魔法使いとしての建前なんですか?それとも貴方を先生と慕う3-Aの生徒達なんですか?」
 「そんな事は言うまでもない。勿論、あの子達に決まっているよ」
 「嘘だ!だったら、何で貴方はそちらに立っている!」
弾劾するシンジ。その声には、誰にも分かる程の怒りが宿っていた。
「僕はね、貴方を信じていたんですよ。あの子達を助ける為なら、自らを犠牲にする覚悟ぐらいは持っているんだと。僕の知る汚い大人達と、貴方は違うんだと信じていたんです。でも、それは誤りだった。貴方はあの子達よりも、魔法が暴露される事を防ぐ方が大切だと考えた!」
「シンジ君?」
「所詮、貴方も汚い大人の1人だったんだ。子供を犠牲にするのが、自らの権利だと考える、父さん達と同じ汚く醜い大人だったんだ!」
怒りを超え、その瞳に憎悪の炎を宿らせるシンジ。その『敵対』の意思を秘めた視線の強さに、タカミチは反論する事も忘れて、シンジを見つめる事しか出来なかった。
 「綺麗事で守れるほどSEELEは甘くない!魔法をバラさずに戦えるほど、奴らは弱くない!麻帆良に住む人達全てを、魔法を使わずに守るなんて不可能だ!現実は、そんなに甘くは無い!力無き子供を大人が守らないと言うのなら、僕が代わりに守る!その為なら、僕は喜んで悪の烙印を押されよう!史上最悪の魔法使いとして歴史に名を刻まれる事になったとしても、僕はあの子達を守り抜いてみせる!」
 「・・・シンジサン、もう良いネ。シンジサンの苦しみは、体験した者にしか分からないヨ。でも、例え世界全ての人間がシンジサンの行動を認めなくても、私だけはシンジサンの行動を認めるネ。みんなを守りたいという想い。その想いに間違いなどありはしないのだカラ」
 超の瞳に浮かぶ同情の想い。それは未来世界において、SEELEと量産型エヴァンゲリオンによって引き起こされた現実という苦しみを経験してきた超だからこそ、共感出来たのかもしれなかった。
「ここから先は、力で想いを貫くネ」
 「・・・うん」
 シンジの顔から感情が消え、代わりに冷酷と言って良いほどの理性が支配していく。
 「さあ、始めようか。ネギ君だけは超さんが良いと言っているから通してあげるけど、他は全て僕が相手だ。ここで全滅させて貰うよ」
 ネギが泣きたくなるのを堪えながら、シンジの横を通りすぎていく。そんなネギの頭にポンと手を置きながら、シンジはネギへ何度も見せた笑顔を贈った。
 「立場上、応援は出来ないけど、頑張りなよ」
 それだけ言うと、シンジはネギから視線を外し、魔法関係者達に対峙した。

世界樹前広場―
 シンジの裏切りという予想外の光景に、和美はパニックに陥った。
 (ど、どういうこと!?こんなの聞いてないよ!?)
 空中に浮かぶモニターを見ながら、言葉を失う和美。そんな和美の背後から、さよが小さくはあるがハッキリした声をかける。
 「あの~超さんから連絡が来ているみたいです~」
 その言葉に、慌ててメールを開く和美。そこ書かれていた内容に、和美は自棄になって叫び声を上げた。
 「ここで突発イベントの発生です!麻帆良最強頭脳、超鈴音による一世一代の仕掛け!なんと麻帆良随一の策略家近衛シンジを裏切らせた!」
 『何いいいいい!?』『ここでお約束かよ!』と一斉に上がる悲鳴。
 「超鈴音からの伝言です!人形使いは悪役にこそ相応しい。悪く思わないで欲しいネ。By超鈴音、との事です。同時に最終戦のルールが変わります!」
 和美の叫びに、生徒達がざわめきだす。
 「本来はヒーローユニットvs超鈴音でしたが、これが変更!超鈴音vsネギ・スプリングフィールドのタイマンガチバトルに変更です!同時進行で人形使い近衛シンジvs他ヒーローユニット全員となります!そして勝者が、もう片方へ援護に向かう事が可能となりました!」
 『うおおおおおお!?』と上がる歓声。特に3-Aメンバーからは『やっぱり悪党だあ!』『そこまで盛り上げなくて良いって!賞金無くなっちゃうよお!』と楽しそうな声が上がりだした。
 
 世界樹前広場を目指して走るアスカ。その途中に設置されたモニターに映ったシンジの顔に、彼女は思わず足を止めてしまった。
 彼女が知っているシンジは、自信なさげに俯いていたり、ゴメンと謝ったり、楽しそうに料理をしていたり、褒められると照れくさそうに笑っていたりした。
 だがモニターの中のシンジは違った。
 凍りつくように冷たい目をしたシンジ。それはレイのような無表情なのではなく、実父ゲンドウのような冷酷さを秘めた瞳であった。
 「・・・違う・・・こんなのシンジじゃないよ・・・お願いだから、戻ってよ・・・」
 アスカは泣きたくなるのを堪えると、再び走りだした。

電脳世界、千雨side―
 「バカな!ここで裏切りだと!?」
 茶々丸と学園結界の再起動を賭けて、アーティファクトによる電脳戦を繰り広げていた千雨は、思わず絶叫した。
 「悪党悪党言ってやがったが、マジで悪党だったのかよ!」
 『それについては訂正を求めます。千雨さん』
 電脳世界の中に、突如、敵である茶々丸の声が聞こえてきた。その声色は、ロボットとは思えないほどに、悲しみに満ちていた。
 『お二人とも、麻帆良での生活は幸せだったと言っていました。出来る事ならば、このままこの小さな楽園で暮らしていきたい、そう言っていました』
 「だったらどうして!?」
 『この麻帆良が武力侵攻を受けてしまう可能性が高いからです』
 一瞬だけ、千雨の手が止まった。だが慌てて電脳戦へと戻る。
 『近衛さんは命を狙われています。ですが、敵はどうあがこうとも、近衛さんと正面からぶつかって勝てないのです。ならばどうするか?答えは1つ、人質を取る事です』
 「それが、今回の件とどう繋がるって言うんだ・・・」
 『敵は世界規模の秘密結社。その気になれば完全武装した兵士を1000人単位で麻帆良へ送り込むぐらい容易い勢力なのです。そんな者達が攻めてきた時、どうやって麻帆良を守るのですか?魔法使いは魔法を人前で使ってはならないという不文律があるのに』
 やっと千雨は状況を理解した。と言うよりも、シンジが裏切らざるをえなかった訳を。
 『魔法を使えない魔法使いなど、戦いにおいては役立たずです。そんな者達に、麻帆良の生徒―つまり貴女達を守れると、本気で思いますか?』
 「無理だな」
 『その通りです。だから、お二人は決めたのです。自らが悪となる事で、貴女達を守ろうと。そして―』
 茶々丸から告げられた2人の覚悟に、千雨は2人が本当に麻帆良での生活を大事に思っていた事を嫌でも理解するしかなかった。

詠春side―
 シンジの裏切りという行為をモニターで見ていた3人は、シンジを止めようとすぐに行動へ移った。
 千草の作り出した飛行できる式神に乗り、戦場である4000m上空へと飛び立つ。
 「長瀬殿!シンジの思惑ですが、予想はつきますか!?」
 「・・・私の予想が当たっていれば、彼は人柱になるつもりでしょう」
 「何でや!?何でそんな事をしなければならないんや!」
 絶叫する千草。それに対し、剣は顔を左右に振った。
 「私の知る碇シンジは、自分に価値を見出していない少年だった。自分は必要ない人間だと考える少年だった。そんな少年が行動をしたとなれば、それは自分自身に価値を見出す事が出来た時だと思う」
 「・・・確かに、一理ありますね」
 「今の魔法が公然化されようとしている状況と、彼の行動を考えれば、結果として彼は魔法世界において魔法を暴露した希代の犯罪者として追われる事になる。それは歴史に名を刻まれるほどの罪。これを人柱と言わずして、何と言うと?」
 剣の言葉に、千草が歯噛みする。拳を硬く握りしめ、ただひたすらに『馬鹿弟子が』と呟き続けた。
 
シンジside―
 何も無い空間から放たれた1発の銃弾。高音を狙って放たれたそれは、代わりに高音を突き飛ばした愛衣が被弾する事になった。
 「愛衣!」
 「良かった、お姉さまが無事で」
 特殊弾の力場に呑みこまれて姿を消す愛衣。その光景に高音が怒りとともに牙をむく。
 「近衛シンジ!良くも愛衣を!」
 「・・・冷静になった方が良いんじゃないの?計算通り、銃弾から高音先輩を庇って佐倉さんが消えてくれた今、こちらの勝ちはほぼ確定となったんだから」
 その言葉に、全員が耳を疑った。どう考えても愛衣よりも、タカミチや刀子の方が圧倒的に強いからである。ハッキリ言えば、愛衣は攻撃能力をほとんど持たない瀬流彦や美空に次いで弱いとすら言えた。
 「貴方達は戦闘に価値観を置きすぎなんですよ。僕が一番恐れたのは彼女のアーティファクトですからね」
 「あの子のアーティファクト?たかが武装解除のアーティファクトのどこが」
 「「「「「「武装解除!」」」」」」
 高音以外の全員が、同時に声を上げた。
 「そうです。広範囲武装解除による特殊弾の喪失。これほど怖い攻撃が、僕にあると思うんですか?」
 今更になって、愛衣のシンジに対する優位性に気がつく高音達。更に言えば、シンジは糸や符と、媒体を必要とする戦闘方法を多用する。そう言う意味では、武装解除がもっとも有効な相手とも言えた。
 「さあ、始めましょうか。戦術プログラム双子座の陣を基本作戦に、射手座の陣による後方支援!かかれ!」
 同時に、光学迷彩を解除した、茶々丸そっくりの戦闘人形が空を飛んで高音達に襲い掛かる。その攻め方は統一された意思の下に動いており、前衛は常に2体1で挟み込むように攻撃を仕掛け、後方からスナイパー役の茶々丸達が隙を狙って弾丸を撃ち込もうと待機していた。
 対する刀子達も迎撃に入るが、1つの意思の下に統率された機械人形を前に、苦戦を余儀なくされる。
 そんな中、攻められる事も無くフリーだったのはハルナと、意外な事にタカミチだった。
 「何故、僕をフリーにしたんだい?早乙女さんなら、まだ理解できるが」
 泣きそうなハルナ。だがシンジはすまなそうな視線をハルナへ向けた。
 「・・・貴方をフリーにしたのは、実戦経験の豊富さが怖いからです。茶々丸シリーズでは、恐らく1分と持たないでしょう。だから、僕の最強の相棒でお相手します」
 言い終えると同時に、シンジの狩衣の袖がバタバタと動き出す。その異様な光景に、タカミチがポケットへ手を入れて戦闘態勢を整える。
 「出ておいで、アベル」
 瞬間、袖口から紫の影が飛び出した。咄嗟に居合拳で迎撃に入るタカミチ。だが、その攻撃を気にする事無く、影はタカミチに肉薄する。
 影が放つ無数の拳撃。それをタカミチも迎撃するが、間合いが近すぎてタカミチにしてみればやりにくい距離であった。何より、敵が小さくすばしっこいので、長身のタカミチでは戦いにくいと言う相性の悪さもあった。
 「アベル、一度戻っておいで。挨拶はしないとね」
 影がスッとシンジの肩に戻る。その姿を、全員が目にした。
 紫を基調とした、小さな鬼―
 「この子はアベル。言っておくけど、この大きさでも潜在能力は修学旅行で戦ったリョウメンスクナを上回るからね」
 シンジの言葉に、刹那・アスナ・小太郎の3人が目を剥いた。ちょうど超とやり合っていたネギも、聞き逃す事の出来ない言葉に、シンジへと顔を向けた。
 「リョウメンスクナの細胞片を、僕の血液を栄養源として培養。ここまで育て上げたんです。甘く見ていると、怪我程度ではすみませんよ?」
 再びアベルが高速移動でタカミチに襲い掛かる。タカミチも迎撃に入るが、どうしても小回りが違う為に、攻撃の回転速度でジリジリと追い詰められだした。

聡美side―
 飛行船の上で呪文詠唱しながら、聡美はネギと超を見つめていた。
 「リョウメン・・・スクナ・・・」
 ネギの口から、信じられないと言わんばかりの声が漏れる。そんなネギに、超が笑いながら声をかけた。
 「今のは事実ヨ。シンジさんに頼まれて私が作たからネ。それよりネギ坊主、そろそろこちらも始めるヨ?このまま魔法が暴露されても良いなら、いつまでもあちらを見ていてくれて構わないガ」
 慌てて向き直るネギ。だがファーストアタックはネギの背後へいつの間にか回り込んでいた超だった。
 特殊弾を指に挟んだ右の拳がネギの頭部目がけて放たれ―逆に超の背後へ回り込んでいたネギが右肘を超の脇腹に叩き込んで吹き飛ばす。
 一瞬で飛行船の反対側まで吹き飛ばされる超。だが吹き飛んでいた筈の超が、いつの間にかネギの背後へ現れ、特殊弾をネギに命中させた。
 「やった!」
 既に呪文詠唱を終え、あとは超の出番を待つだけとなった聡美が、思わず声を上げる。特殊弾―次元跳躍弾の力場に囚われたが最後、脱出は不可能。
 しかし超の真横に現れたネギが崩拳で超に攻撃。その一撃を超が受け流す。やがて聡美の目には、複数の超とネギが縦横無尽に空中を飛びまわる姿が見えた。
 そして一際強い電撃がスパークし、2人は互いに距離を取って飛び退いていた。
 「・・・まさか、この短期間でここまで航時機カシオペアを使いこなすとは・・・さすがは私の御先祖様ネ」
 「航時機カシオペアを戦闘に利用しようとすれば、考えつく事です。回避不能の一撃を喰らっても、その瞬間に別時間へ跳躍すればどんな攻撃でも回避できます。さらにほぼ同時間・同空間への超高速連続時間跳躍を行う事で、疑似的に時間を止めたような効果を得られる事も確認できました」
 「そ、そんな!?口で言うほど簡単な物ではありませんよ!?」
 聡美が悲鳴のような絶叫を上げる。
 「直接戦闘において、航時機カシオペアを有効利用するには、ナノ秒以下の精密操作と跳躍後の時空間の正確な事象予測が不可欠です!」
 (私達ですら、2年以上の間、膨大なシュミレーションを取り続けて、やっと実用化にこぎつけたと言うのに、たかが3日程度で実用するなんて!)
 「葉加瀬の言う通りネ。現に私の航時機カシオペアも最高性能の人工知能で制御しているヨ。どんな手品を使たネ?」
 その言葉に、ネギが航時機カシオペアを取り出した。その航時機カシオペアには、歌の様な物を歌っている小さい精霊がくっついていた。
 「それは?」
 「魔法使いなら誰でも最初に習う『小物を動かす魔法』『占いの魔法』それを司る精霊ですよ」
 「・・・そんな方法があたとは驚きネ・・・どうして思いついた?」
 「シンジさんです。シンジさんは航時機カシオペアを見た時『科学で超えられない壁を、魔法で超えた』と評価していました。そこから思いついたんですよ」
 これには聡美は言葉も無かった。シンジにしてみれば、超に対する最大級の賛辞であり、他意が無かったのは間違いない。だがその言葉が、結果としてネギを航時機カシオペア使いにしてしまったのである。
 心のどこかでシンジに対して湧いてきた怒りを鎮めながら、聡美が超へ視線を向ける。だが超は面白そうに笑うばかりだった。
 
小太郎side―
 「ホンマ、やりにくい兄ちゃんやなあ!」
 影分身で一気に5体に増え、挟み打ちをしてきた茶々丸シリーズを粉砕してのけた小太郎は、まず後方部隊からの切り崩しにかかった。
 だがシンジはタカミチとアベルの戦闘に注意を払いながらも戦術プログラムの変更を指示。『蠍座の陣』とシンジが呟くと同時に、後方射撃部隊だった5体の茶々丸は、4体が前衛を務めて1体が狙い打つタイミングを見計らうと言う作戦に変更してきた。
 おかげで後方から切り崩そうと考えた小太郎の思惑は外れてしまい、こうして苦境に立たされているのである。
 「男らしゅう、出てこんかい!」
 自棄になって叫ぶが、シンジは挑発に乗る事も無く、常に戦場に目を光らせて状況に応じて茶々丸シリーズに指示を飛ばしている。その冷静さは、かつて京都でチームを組んでいた白髪の少年―フェイト・アーウェンルクスを小太郎に思い出させた。
 だが小太郎の影分身は決して無駄ではなかった。
 と言うのも、後方からの射撃がなくなったおかげで、まず刀子の余裕が出来たからである。しばらくの剣撃の末に、自分を挟み撃ちにしていた茶々丸を切り崩すと、即座に近くで戦っていた刹那の援護に入る。
 「小太郎君!少しだけ持ち堪えなさい!」
 「分かった!はようしてくれや!」
 瞬く間に崩壊していく茶々丸シリーズの戦線。だがシンジは慌てる事無く、落ち着いて状況を見ている。
 (・・・あの兄ちゃん、何で焦らへんのや?何か隠し玉でもあるんか?)
 やがて逆転する戦線。刹那とアスナが小太郎を解放し、刀子がタカミチの援護にはいった所で、やっとシンジが口を開いた。
 「アベル。早乙女さんを守ってあげて。巻き込まれないようにね」
 アベルの両眼がギンッと輝く。そのままアベルはハルナを守るかのように立ちはだかった。

超side―
 超は笑っていた。心の底から、楽しそうに笑っていた。
 「何が・・・何が楽しいんですか!航時機カシオペアによる優位性が崩れた今、超さんに勝ち目はありません!」
 「笑うのは当然ネ、ネギ坊主。何をそんなに焦ているヨ?」
 虚を突かれたネギの背後に、超が転移する。
 「フフ、あと3回。そんなところカ」
 慌てて飛び退るネギ。1週間という時間跳躍による負担が大きかったのか、ネギの航時機カシオペアには、異常が生じていたのである。
 「確かに、貴女の言う通りかもしれない。でも1撃を当てる事が出来れば、十分です」
 「そうか。ならばもう1度だけ、最後に問おう。私の同志になるつもりはないカ?悪を行い、世界に対して僅かばかりの正義を為そう。シンジさんのように」
 ギュッと目を瞑るネギ。
 「隙アリ」
 転移でネギの背後へ回る超。特殊弾をネギに叩き込む。だがその先端はネギを捉える事は無かった。
 代わりに超の背後に、衝撃が走る。
 (今の場所は、マズイ!)
 転移して逆襲に転じる超。だがネギは疑似時間停止を利用して、超の航時機カシオペアが埋め込まれている場所へ、雷華崩拳を叩き込んでいた。

シンジside―
 人形使いが最強の人形を手放す。この事態に困惑していたのはタカミチ達である。彼らは全く、シンジの思惑を読めなかった。
 そんな時だった。
 「「シンジ!」」
 背後からの声に、全員がそちらへ視線を向けた。
 「「「詠春様(さん)!?」」」
 そこにいたのは、鳥の式神の上に立っている詠春・千草・剣の3人だった。詠春と剣は式神が無くても空中で体勢を維持できるらしく、何の躊躇いも無く一歩を踏み出してくる。
 「もう止めや!何でいつも、お前だけが犠牲になるんや!」
 「・・・そういう運命なんですよ」
 「この馬鹿弟子が!ちゃんと事情を説明せんかい!」
 明らかに怒っている千草に、刹那達は『何故彼女がここに?』という問いかけをする事も出来ずに、成り行きを見守るしかなかった。
 「・・・全部、僕の愚かさが原因なんです。だからこれは、当然の帰結なんです」
 「愚かさ、やと?」
 「はい。例え、他人という存在が自分を傷つけても良い。それでも他人という存在を望む。そんな綺麗事を盲目的に実践してしまった、愚かな僕に与えられた罰なんですよ」
 シンジが何を言っているのか、何を言いたいのか、誰も理解できない。そんな中、シンジは仮契約カードを取り出し『来れアデアット』と呟いた。
 一瞬だけ光に包まれるシンジ。その中から現れたシンジの姿に、剣だけが鋭い叫び声を上げた。
 「プラグスーツ!?」
 「そうか、剣さんは知っていたんですよね。第3で僕の護衛に関する報告を受けていたんですから。確かにこれはプラグスーツです。もっとも張りぼても同然ですが」
 シンジが右手に石を持ったまま、言葉を続ける。
 「剣さん。貴方は知っていますよね?僕が、いや、僕達チルドレンが、どんな存在と戦っていたのかを。大人の都合で、どんな存在と強制的に戦わせられていたのかを」
 「・・・君は、憎んでいるのか?NERVを・・・」
 「意外に思うかもしれませんが、僕は憎んではいません。ただNERVとは縁を切りたいだけ。二度と交わりたくないだけです」
 シンジが持っていた石を胸部に近づける。すると石は、音も無く静かに胸部へ沈みこんだ。
 「これは僕の2つ目のアーティファクト『賢者の石』です。効果はあらゆる物体を、本来の状態へと戻す事」
 その言葉に反応したのは詠春だった。
 「止めなさい!シンジ!その力はあまりにも危険すぎます!」
 「・・・覚悟は決めています。僕は・・・もう1度だけ、世界の生贄になります」
 シンジの頭上に、ヘルマン戦で現れた光の輪が静かに現れる。瞳の色は赤に変じ、背中からは2対4枚の葉脈状の翼が姿を見せた。
 初めて使徒としてのシンジの姿を目撃したタカミチや詠春、剣や千草達は呆気に取られるばかりで身動き1つできない。
 そしてヘルマンとの戦いで使徒としてのシンジの姿を目撃した少女達は、当時の怒り狂ったシンジの姿を思い出し、やはり身動き1つとれずにいた。
 ≪・・・改めて名乗らせて貰います・・・僕は『殺戮』を司る18番目の使徒リリン。かつてこの世界を滅ぼし、再創造した神。そして超鈴音を主と仰ぐ従者ミニステル・マギ・・・≫
 暴風が吹きすさび、雷鳴が天を疾る。その異様な光景に、シンジと対峙していた者達は、言葉を失っていた。
 ≪本日、現時刻をもって、僕とマスターはSEELEに対して宣戦布告します≫



To be continued...
(2012.06.16 初版)


(あとがき)

 紫雲です、今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 先に一言言っておきますが、私は別にアンチ・タカミチではありません。シンジの台詞的にアンチっぽく感じられても仕方ありませんがwまあタカミチの立場を考えれば、超に与さず何とか他の方法を、と考えるのも仕方ないかとは思いますが。
 それからリリンの司る物が『殺戮』という設定についてですが、正反対の兄弟独自の設定です。
 これはシンジの自分自身に対する皮肉です。結果的に自分が何をやらかしてしまったのか、という事を自覚しているから、という事ですね。それにしても自虐的ですな・・・
 話は変わって次回です。
 18番目の使徒リリンの姿を現したシンジ。対するタカミチ達は、その圧倒的な戦力差を前に、次々に戦場から退場を余儀なくされていく。
 一方、超とネギも激戦を繰り広げ、互いに一歩も譲ろうとはしない。
 そんな中、シンジを止めようとするアスカは、和美の手助けの下、戦場へ向かおうとする。だが、そこで見た光景に強い衝撃を受ける。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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