正反対の兄弟

第四十一話

presented by 紫雲様


 死を目前にしたシンジの遺言。それは記憶の追体験だった。体験するのはネギ・ハルナ・超・アスナ・木乃香・刹那・夕映・古・のどか・美空・小太郎・高音、以上12名の子供達と、タカミチ・詠春・千草・剣・刀子ら5名の大人達。これに先導役としてエヴァンジェリンが参加。五月は聡美達と連絡を取る為に、記憶の追体験は辞退していた。
 「最初に言っておくよ。みんなが見る事になる記憶には、僕以外の記憶―他人や世界の記憶もある。あまり混乱しないようにね」
 「それはどういう意味だ?」
 「2015年の僕の記憶に答えはあります。その記憶へ辿り着けば、理解できますよ」
 目を瞑るシンジ。その額にエヴァンジェリンが手を載せる。
 「全員手を繋げ。始めるぞ」

2002年、南極―
 物々しい、厳重な施設。その中を、武器を手にした男達が歩いていた。
 ≪今、居る場所は南極の隔離施設。今見ているのは、僕の記憶ではなく、世界の記憶です。セカンド・インパクトが起きて、1年半が経過した頃。ここに僕に関わってくる人がいるから、少し寄り道させて貰います≫
厳重かつ、頑丈な治療室と言う名の牢獄。その中に、アスナ達と同年代と思われる、黒髪の少女が体育座りのまま俯いていた。
 『・・・葛城博士の御息女か・・・言語喪失と聞いたが?』
 『はい、その通りです。目の前で父である葛城博士を失ったショックによる自閉症で喋れなくなったというのが、医師による診察結果です』
 『回復の目処は?』
 『医師が言うには、専門のカウンセラーに任せたいと・・・』
 パタンと閉まる覗き窓。だが最後まで、少女は反応しなかった。
 ≪この女の子は葛城ミサト。後に僕の保護者となる人で、同時にセカンド・インパクトを南極で目撃した、唯一の生き残りなんだ≫
 「そ、それは本当なのですか!?」
 ≪ええ、事実です。父親である葛城博士が、自分の命と引き換えに救命艇で逃がしたおかげで、ミサトさんは死なずにすんだんです。セカンド・インパクトの真相―大質量隕石の落下などではなく、南極で眠りについていた第1使徒アダムの調査によって、アダムが覚醒。その余波であの大災害が起きた一部始終を、ミサトさんはその目で目撃したんです≫
 歴史を覆す真実に、一同は声も無い。セカンド・インパクトを境に、世界人口は30億人も減少している事を考えれば、この真実はあまりにも大きな衝撃だった。
 そもそもシンジの言う事が事実であれば、天災ではなく人災だったと言う事になるのだから驚くのも当然である。
 ≪次へ飛びます。今度は母さんの死の真相です≫

2003年、人工進化研究所ゲヒルン―
 『おい、碇。どうして子供がここにいる』
 50代ぐらいに見える知的な初老の男に、アスナが何やらショックを受けたようにゆらめく。その姿に夕映が『あの歳でも良いのですか?』とツッコんでいた。
 ≪ここにいる人達を紹介しておくよ。今、苦情を言ったのが冬月さん。僕の父さんの腹心で、母さんの大学時代の恩師だよ。それと、向こうに座っているサングラスの人が、僕の父さん≫
 一斉に顔を向ける一同。ゲンドウを知っている剣や詠春は例外として、他の者達は一斉に引き攣ったような叫びを上げた。
 「「「「「「ウソ!?」」」」」」
 ≪いや、事実なんだけどね≫
 「ちょっと待てい!どうみても似てないだろうが!あれはヤクザだ!」
 激しくツッコムエヴァンジェリン。だがシンジに『きっと母さんの遺伝子が頑張ったんだよ』と返されると、3-Aメンバーを中心にして、顔を赤らめて言葉を引っ込めてしまう。
 ≪ウソだと思うなら、詠春さんに訊いてみなよ≫
 「・・・信じられないでしょうが、これは事実です。更に言うなら、ユイさんは駆け落ち同然の大恋愛の末に、彼と結婚しているのですよ」
 どよめく一同。新たに浮き彫りになった碇ユイの真実に、互いに顔を見合わせる。
 「あのユイが駆け落ちだと!?」
 「ええ。ユイさんは日本有数の財閥の1人娘、ゲンドウさんは孤児院育ちの捨て子とあれば、ご両親が認めないのは仕方なかったでしょうね。例えゲンドウさんが、優秀な頭脳を持っていたとしても」
 言葉も無い一同。そこへシンジが『続けるよ』と声をかける。
 ≪次にファイルを持っている赤紫の髪の人。この人は赤木ナオコ博士。東方の三賢者の1人で生体コンピューターの生みの親と言われてる人だよ≫
 「その人なら知ってる!前に朝倉から聞いた事があるわ!」
 ≪この頃は、冬月さんとこの赤木博士が父さんの腹心だったんだよ。まあ赤木博士に関しては、それだけじゃなかったみたいだけどね。それから、当時の僕≫
 ナオコに無邪気に笑いかけていた幼いシンジは、その小さい足でトテトテと走り出した。その足が向かった先は総ガラス張りの壁があり、向こう側を見る事が出来た。
 だがその先にあった物を見た時、タカミチが思わず声を上げた。
 「これは、アベルか!?だが大きさが全然違うぞ!」
 ≪アベルのモデルはこれです。汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン初号機。2015年に僕が操る事になる機体。そしてこの日は、母さんが命を落とす日であり、初号機の起動実験を行う日です≫
 いきなりの巨大ロボットの出現に、一同は声も無い。そこへユイの声が聞こえてきた。
 『ごめんなさい、冬月先生。どうしても、シンジに見ていて欲しかったんです。この子に希望を見せてあげる為に、私は試験パイロットに志願したのですから』
 ユイの柔らかい声に、冬月が苦言を呑みこむ。
 『それでは起動実験を開始します。碇所長、宜しいですか?』
 『ああ、始めてくれ』
 やがて始まる起動試験。途中までは順調その物だった。だが、事態は急変する。
 『エヴァからの精神汚染が始まりました!シンクロ率の上昇が止まりません!』
 『第6から14までのバイパスを切断!強制停止させろ!』
 『ダメです!止まりません!シンクロ率が200%を突破しました!』
 急に戦場のような慌ただしさに支配される管制室。その光景に、アスナ達は何が起きたのかと目を丸くする。
 『お父さん!お母さんは!?』
 『大丈夫だ、シンジ。お母さんは必ず助ける・・・強制停止コードを打ちこめ!責任は俺が取る!早くしろ!』
 不安そうなシンジを、ゲンドウが抱き上げる。その顔は父親の物だった。だが―
 『は、はい!・・・ダメです、止まりません!シンクロ率300%を突破しました!』
 『何だと!?』
 シンジを床に下ろすと、ゲンドウもまたコンソールに飛びつく。ナオコに劣らぬキータッチで、次々に操作を指示して行く。
 『何故だ!何故、止まらん!』
 『・・・あなた・・・きこえる?』
 『ユイ!絶対に助ける!だから諦めるな!』
 『・・・ありがとう・・・シンジを・・・お願い・・・します・・・』
 ピーっという警告音が、部屋中に響いた。
 『・・・シンクロ率400%突破・・・奥様は・・・エヴァに取りこまれました・・・』
 『ユイーーーー!』
 ゲンドウが絶叫すると同時に、幼いシンジが不安に負けて、ついに泣きだした。
 ≪これが全ての発端なんだよ・・・≫
 「・・・これがユイ殿の死亡事故の真実なのか・・・」
 ≪そうです。でも父さんはどうしても母さんを諦める事が出来なかった≫
 場面が1月後へ切り替わる。シンジの姿だけが消え、他の3人だけが部屋の中にいた。
 『・・・これより、ユイのサルベージ計画を始める』
 ゲンドウの開始の合図に、頷くナオコ。やがて始まるサルベージ計画。
 『・・・エントリープラグの中に、心音を確認しました。ですが、これは・・・』
 モニターに映るプラグ内部の映像。そこにいたのは、青い髪の赤子だった。
 『・・・遺伝子情報を調査した結果、この子供は奥様の遺伝子情報を持っています。ですが、ほんの僅か、0.21%ほど他の遺伝子である事が確認できました』
 「ちょっと待ってよ!シンジさん!この子、まさか!」
 ≪早乙女さんの答えでほぼ正解だよ。この子は後に、綾波レイと名付けられる事になるんだ。母さんの遺伝子を受け継ぎ、父さんの実験の副産物として生まれた命。正真正銘、僕の妹なんだよ≫
 だがそんなシンジの感傷を切り捨てるかのように、目の前の光景は続いていく。
 『直ちにこの子供を収容。その後、もう一度、サルベージ計画をやり直す』
 『・・・分かりました。ですが機密保持の観点から、あの子は私達3人で収容すべきだと思いますが』
 『その意見を採用する。冬月、赤木博士、行くぞ』
 部屋を後にする3人。無人となった部屋に、シンジの声だけが響いた。
 ≪この後、サルベージ計画は30回以上行われた。でも母さんはサルベージされず、何度やってもレイしか出てこなかった。そして父さんは遂に、最後の良心をSEELEに売り渡したんだよ≫

同年、駅のホーム―
光景が駅のホームに切り替わる。そこに幼い子供の泣き声が響いていた。
『お父さん!行っちゃヤダ!お父さん!』
『シンジ。私も1人で生きてきたのだ。お前も1人で生きていけ』
その言葉に、一同が『は?』と頭に?マークを浮かべる。
そんな一同の前で、ゲンドウは背中を向けると足早に駅から立ち去った。
「な、何が起きてるんですか?」
≪これは、僕が父さんに捨てられた時の記憶だよ≫
簡潔極まりない答えに、ネギ達が絶句した。詠春や剣、千草らはその顔に怒りすら浮かべている。
まさかゲンドウが、こうもアッサリとシンジを捨てるとは、想像していなかったのだ。
≪この後、僕は父さんの弟―叔父夫婦に引き取られた。そして父さんは、母さんを取り返す為に、これから10年に渡る計画に着手する事になるんだ。レイを駒とし、SEELEを欺いてね≫
シンジの声には、何の感情も籠っていない。ただ事実をありのままに伝えるだけだった。
≪少し時間を飛ばすよ。次は2007年、第2東京大学の光景だよ≫

2007年、第2東京大学カフェテラス―
 丸いテーブルに3人の人影が座っていた。内、女性2人は向かい合って座り、残る男1人は片方の女性に腕を組まれて隣に座っている。
 『本当に、呆れて声も出ないわね。1週間学校へ出てこないと思ったら、まさか男の家へ2人で閉じこもっていたなんて』
 『アハハハハ、ごみん、リツコ』
 『仲が良いんだな、君達は』
 このカップルが1週間何をやっていたのか気付いた少女達が、顔を赤らめる。
 「シンジさん、どうしてこんな会話を聞かせられないといけない訳?」
 ≪この3人が、僕に関係してくるからだよ。長い黒髪の女の人、いるでしょ?その人が南極で見たミサトさんだよ≫
 「「「「「「ええ!?」」」」」」
 ≪本当だよ。で、真向かいに座っている金髪の女性は赤木リツコさん。大学に入ってからできた、ミサトさんの親友。同時に、東方の三賢者の1人、赤木ナオコ博士の娘にあたる人だよ≫
 次々に出てくる主要人物達に、一同は声も無い。
 ≪最後にミサトさんと腕を組んでる人。名前は加持リョウジ。僕が兄と慕った人だよ≫
 「加持!?そういえば、見覚えが・・・いや、間違いない。確かに加持リョウジだ!」
 ≪剣さんなら知っていてもおかしくないですよね。NERV特殊監査部に所属しながら、内閣調査室と、SEELEを天秤にかけてセカンド・インパクトの真相を追い求めたトリプルスパイですから≫
 トリプルスパイという言葉に、一同が言葉を失う。最初は色恋話としか思えなかった内容が、一気にきな臭くなったからである。
 ≪ミサトさんは、使徒への復讐という生き甲斐を見つけて、自閉症から立ち直った。そして軍に入る事を目指して、この大学へ進学したんです。リツコさんは、母親であり、東方の三賢者と呼ばれた赤木博士を超える為に、この大学へ進みました。そして加持さんは、この当時からスパイとなる事を決めていました。目的はセカンド・インパクトの真相を知る事。その為の準備として、大学で勉強しつつ、セカンド・インパクトの唯一の生き残りであるミサトさんに近付いたんです。ただ加持さんにとって予想外だったのは、ミサトさんを本当に愛してしまった事だった・・・≫
 シンジの言葉に、剣が顔を伏せる。彼だけは、加持がその後、どんな末路を辿ったのかを知っていたから。
≪次は2010年の人工進化研究所ゲヒルン。MAGIが完成した翌日に起きた、赤木ナオコ博士の自殺の真相です≫

2010年、人工進化研究所ゲヒルン―
 完成したMAGIを見下ろしながら、ナオコは娘であるリツコと、久しぶりのお喋りを楽しんでいた。
 やがてリツコがその場から離れ、ナオコが1人になった。そこへ青い髪の少女が、ヌイグルミを抱いて近寄った。
 『あら?レイちゃん、どうしたの?』
 ジッとナオコを見るレイ。その赤い瞳は、どこか寒気を感じさせる物があった。
 『・・・ババア』
 『まあ、そんな言葉を使っちゃダメじゃない!碇司令にお説教して貰わないと』
 『碇司令が言ってたもの。婆さんは用済み。婆さんはいらない。婆さんは・・・』
 目の前で始まった突然の事態に、ネギ達は目を丸くする。一体、何が起きているのかも分からない。
 ただ分かったのは、幼いレイの言葉に逆上したナオコが『ユイ!ゲンドウさんは私の物なのよ!』と叫びながら、レイを絞め殺そうとする姿だった。
 「これは・・・」
 ≪赤木博士は、父さんの腹心であると同時に、愛人でもあったんです。赤木博士は本気で父さんを愛していた。でも父さんは違った。父さんにとって、赤木博士は都合の良い駒でしか無かった。MAGIを完成させる為の役目しか期待していなかった。そしてMAGIが完成したこの日、父さんは赤木博士を追い詰める策略を実行に移した≫
 やがて幼いレイが、カクンと首を傾けた。窒息ではなく、頸骨の骨折。そして冷静になるにつれて、自分が犯した罪を理解して行くナオコ。やがて彼女は、衝動にかられて―
 目の前で展開された光景に、子供達は一斉に顔を背けた。あまりにも悲惨極まりないナオコの最後を、見ていられなかったのである。
 ≪この日、赤木ナオコ博士は自殺として処理されました。でもレイは違った≫
 場面が切り替わる。目の前には紫の初号機、そしてその隣には黄色の零号機があった。
 ≪この黄色の単眼の機体はエヴァンゲリオン零号機。初号機の前に開発された試作型だよ≫
 「ここで・・・何が起きるんですか?」
 ≪あそこを見てごらん≫
 シンジの言葉に、ネギ達が一斉に顔を向ける。そこには零号機のエントリープラグの傍に立つゲンドウと冬月がいた。
 『・・・これで良い。冬月、準備はできているな』
 『用が済めば捨てる、か。今のお前を見たら、ユイ君がどう言うかな・・・』
 『そのユイを取り戻す為だ。他がどうなろうと、関係ない』
 まだかろうじて生きているレイを、零号機へ搭乗させる。
 『レイをも人身御供とするか。あれでもユイ君の分身だぞ?』
 『だからどうした。ユイでなければ意味は無い』
 断言するゲンドウの冷酷さに、子供達が顔を青褪めさせていく。この後、何が起こるのかを薄々察してしまったからだった。
 『さあ、零号機を起動させる。これでレイは零号機のコアとなる。これで我々は、稼働可能なエヴァを2体、手中に収めた。冬月、計画を次の段階へ移すぞ。まずは2人目のレイを起こす。セントラルドグマの準備はできているな?』
 『・・・ああ、できているよ』
 ≪この日、1人目の綾波レイは零号機に取り込まれて死んだ。代わりに目覚めた2人目の綾波レイが、僕と深くかかわって来る事になるんだよ≫
 ケージから出ていくゲンドウと冬月。その後ろ姿を見送ったハルナが、恐る恐る問いかけた。
 「そういえば、どうして綾波さんって1人なの?他の綾波さんは、どうして姿を見せないの?」
 ≪綾波はね、常に1人しか目を覚まさないんだ。綾波レイという肉体は複数あるけど、その中に宿る事のできる魂は1つだけ。それが理由で、他の綾波レイは眠りについているんだ。この遥か地下深くに設置された施設の中でね≫
 あまりにも衝撃的な事実に、のどかが遂に口を手で押さえて蹲る。
 ≪宮崎さん、辛いかい?≫
 「だ、大丈夫です」
 ≪ダメだと思ったら、素直に言うんだよ。エヴァンジェリンさんに接続を解除して貰うからね≫
 コクコクと頷くのどか。そんなのどかに、夕映とハルナ、木乃香達が近寄って励まし始める。
 ≪この後人工進化研究所ゲヒルンは、国際連合非公開組織特務機関NERVへと名を変えました。赤木ナオコ博士の後任には、リツコさんが抜擢されました・・・ここからしばらくは、気持ち悪いような光景はないから安心して下さい。これから2015年までは僕個人の記憶になるから≫

 父・ゲンドウに捨てられたシンジは、叔父夫婦の下に引き取られていた。
 周囲から浴びせられる心無い声が、幼いシンジの心を切り刻んでいく。『妻殺しの男の息子』という罵声もあれば、『可哀想な子ねえ』と正面切って憐れまれる事もあった。
だが一番酷かったのは、シンジが送っていた生活環境だった。その酷さに詠春と剣は怒りのあまり握りしめた拳から血を滴らせていた。
 「こんな・・・こんな事が!」
 シンジが生活していたのは、庭の片隅に建てられたプレハブ小屋だった。名目上は、勉強部屋と言う説明だったが、叔父夫婦がシンジを母屋へ入れたくないという気持ちはすぐり理解できた。
 毎日、食事時になると運ばれてくる食事。だがその運ばれてくる食事も、シンジが成長するに従って運ばれる回数は減り、やがてシンジは自分で調理する事を覚えだした。
 叔父夫婦が子供を連れて外へ遊びに行く。そんな時、シンジは必ず留守番だった。既に『自分はいらない子供』と諦め始めていたシンジは、素直にそれを承諾。ずっと素直に留守番をしていた。
 叔父夫婦の生活は、徐々に派手になっていく。それはシンジの養育費が資金源となっている事は、誰の目にも明らかだった。叔父夫婦はその事を指摘された事を機に、シンジにチェロを習わせるようになった。しっかり教育してますよ、というアピールの為である。
 シンジはそれを承諾し、何の目的も、楽しみも見出さずに、まるで機械のようにチェロを習う。
 その事に違和感を持つ者達は当然いたが、その姿はシンジの前からいつのまにか遠ざけられていく。
 「シンジ。どうしてですか?どうして貴方を助けようとした者達は、姿を消してしまったのですか?」
 ≪全て、父さんの指示です。父さんは、僕の自我を意図的に壊したかったんですよ。自分の目的の為に。そして父さんの思惑通り、僕は人との繋がりを絶ち、内向的な性格となっていきました。誰にも心を開かず、世界には自分1人。そうでありながら、心のどこかで記憶にない母さんに救いを求める。そんな性格に≫
 言葉を失う詠春と剣。剣はこの当時、ゲンドウの護衛として動いていた。だからシンジの状況を把握していなかったのだが、まさかこのような生活を送っていたとは想像だにしなかったのである。
 やがて切り替わる光景。心配をかければ迎えに来てくれるかも。そんな思いを抱いて自転車を泥棒したシンジ。だが迎えに来たのは叔父夫婦だった。金なら幾らでもあるんだから、泥棒なんてするなという一言に、幼いシンジはますます心を閉ざしていく。
 『・・・僕は、いらない子供なんだ・・・』
 シンジに与えられたプレハブ小屋。その中で布団にくるまって泣きじゃくるシンジの声に、啜り泣く嗚咽が重なった。

2012年―
 再び切り替わる光景。そこは無数の墓碑が整然と並べられた異様な光景だった。
 ≪ここはセカンド・インパクトで亡くなった人達が眠る墓地。年に1度、ここにある母さんのお墓の前でだけ、僕は父さんと会う事ができた。でも≫
 父を求めるシンジ。だがゲンドウは、あくまでもシンジを突き離す。その態度と言葉に、シンジは墓地から走り去った。
 ≪この時をきっかけに、僕は父さんとの墓参りを拒否するようになった。それが3年続いたある日、僕の下に手紙が届いたんです≫

2015年、第3新東京市―
 ≪この日、僕は第3新東京市に来ました。父さんから届いた手紙を持って。今度こそ、父さんと一緒に暮らせると信じて≫
 14歳になったシンジは、今のシンジに似た面影があった。だがネギ達の知るシンジとは雰囲気が違いすぎ、詠春達が知るシンジとは似た雰囲気を持っていた。
 『今度こそ、父さんと一緒に暮らせるんだよね』
 届いた手紙を開くシンジ。そこに書かれていたのは『来い』という一言だけ。普通なら疑ってしかるべきだが、当時のシンジにはそれだけの判断能力は無かった。
 ただ純粋に、ゲンドウを求めていたからである。
 『けど、迎えに来る人、いつになったら来るんだろう?』
 無人の駅前で、シンジはキョロキョロと辺りを見回すばかりである。
 「そういえば、どうしてこんなに人がいないんですか?第3新東京市って、人がたくさんいるんですよね?」
 ≪その答えはすぐに分かるよ。僕が父さんに呼ばれた理由でもあるから≫
 やがてズシン、ズシンと聞こえてくる音に、シンジが不安そうに周囲を見回す。次の瞬間、山の陰から巨大な物体が姿を現した。
 「「「「「「な!?」」」」」」
 ≪あれは水を司る第3使徒サキエル。白き月のアダムに連なる存在。そして人類と使徒との生存戦争の開始を告げる存在≫
 戦略自衛隊の戦闘機が、サキエルに攻撃を開始する。だが銃弾もミサイルも、全く効果が無い。それどころかサキエルの光のパイルに貫かれて、爆裂四散するほどである。
 やがてその内の1機が煙をたなびかせながら、シンジのいる方向へと落ちてくる、思わず顔を覆ったシンジの前に、青いルノーが飛び込んでくるのと、爆炎がシンジを呑みこもうとしたのはほぼ同じタイミングだった。
 『お待たせ、シンジ君!早く乗って!』
 「この人は、さっきの」
 ≪そう、ミサトさんだよ。使徒への復讐の為に戦自にいたミサトさんは、NERVへ引き抜かれていたんだ。そして、僕を迎えに来たんだよ・・・使徒への復讐を果たす為にね≫
 どこか冷たいシンジの言葉が、静かに響いた。

 黒の水着の上に白衣を羽織ったリツコと合流したミサトとシンジは、ケージへと連行された。そこに待っていた物を見たネギ達は、驚きで顔を強張らせた。
 「これは、シンジさんのお母さんを取り込んだ!」
 ≪そうだよ、エヴァンゲリオン初号機だ≫
 父・ゲンドウから初号機に乗り、サキエルと戦うように命じられたシンジは、当然のように反発した。
 14歳と言う年齢であり、軍事訓練等欠片も受けた事のない子供。化け物と無理矢理戦わせられるのだから、シンジが怯えるのも無理は無い。それが普通の子供の反応だからである。
 だがゲンドウは違った。シンジに見切りをつけると、レイを運んで来たのである。
 『レイ、予備が使えなくなった。やれ』
 『・・・はい』
 顔や体、至る所に包帯を巻いた少女が、ストレッチャーから痛みを堪えて起き上がる。
 「ちょ、ちょっと待ちなさい!まさか!」
 ≪先輩の想像通りだよ。この時、レイは外傷以外にも、内臓の一部を破裂させて、絶対安静の状態だったんだ。それでもレイは父さんの指示に従おうとした。何故なら、レイは父さんの言う事を欠片ほどにも疑う事無く、受け入れるように教育されていたから。いや洗脳と言っても良いかもしれないね≫
 策略家としてのシンジを、少女達は冷たい人間だと思った事がある。だが、ゲンドウのそれはシンジのそれを遥かに上回っていた。
 レイの行動を見ていられなくなり、木乃香が詠春にしがみ付く。そんな愛娘を励ます様に抱きながら、詠春は目の前の光景を見続けた。
 サキエルの攻撃に、揺れるケージ。大地震のような揺れに、シンジ目がけて鉄骨が落下する。そんな鉄骨からシンジを救ったのは、初号機だった。
 『初号機が動いた!?いや、彼を守ったのね!・・・いけるわ!』
 呟くミサト。その視線の先では、苦しみ続けるレイを、シンジが抱き起していた。その手には、レイの鮮血がベットリと付着している。
 『乗ります!僕が乗ります!』
 ≪こうして始まったんだよ、僕の戦争がね・・・≫

初号機、エントリープラグ内部―
 初号機へ搭乗したシンジは、操作方法だけを口頭で伝えられると、そのまま戦場へと送り出された。射出口を通じて、一気に外へと射出される。
 この光景に驚いたのは、超であった。
 「ちょっと待つネ!いくらなんでも操作方法をレクチャーしただけで単独で放り出すなんて・・・」
 ≪それも全て父さんの思惑の内なんだ。ハッキリ言っておくよ。父さんはね、最初から僕で使徒に勝つつもりはなかったんだ。父さんが期待していたのは、僕が初号機に乗る。ただそれだけの事なんだよ≫
 シンジの言葉の意味を理解できずに、首を傾げる一同。
 ≪見ていれば分かるよ。それとエヴァンジェリンさん、ここから先、絶対に僕の記憶―特に痛覚とみんなが同調しないようにして下さい。下手をすれば死にますから≫
 「・・・ふん、任せておけ」
 オフィスビルを超える大きさのサキエルを前に、地上へ射出された初号機が、一歩踏み出す。その光景に、エントリープラグ内部に『動いた!』という発令所の歓声が聞こえてきた。
 「おい、待て!何で『動いた』なのだ!?NERVは動作試験もせずに、お前を乗せたのか!?」
 ≪そうですよ。本来なら、初号機はレイが乗る筈だったんですけどね。まあ、初号機は僕なら動かせる事を、父さんは知っていたんです。その理由は、その内分かります≫
 だが初号機は3歩目でバランスを崩して倒れ込んだ。同時に、シンジが顔を押さえて『イタタタ』と声を出す。
 その事に、何人かが疑問を持つが、それを問うよりも早く、事態は進行していた。いつの間にか初号機へ近寄っていたサキエルが、初号機を掴んで持ち上げたのである。
 右手で顔を、左手で初号機の右腕を掴む。やがてサキエルの左手に力が込められ、ベキッ!という音ともに、照合機の右腕が粉砕。同時にシンジの悲鳴が響いた。
 『落ち着いて!シンジ君!それは貴方の腕じゃないわ!』
 『シンクロ率を下げて!』
 「・・・兄ちゃん、一体、何があったんや?どうしてロボットの腕が砕かれて、兄ちゃんが痛がってるんや?」
 小太郎の質問は、全員の質問でもあった。
 ≪エヴァはシンクロシステムという方法で動いている。これは考えただけで、ロボットが動くんだ。例えば相手を殴ろうと思えば、エヴァはその通りに動いてくれるんだよ。アベルにも、このシンクロシステムを採用しているんだけどね≫
 「そんな便利な物があるんか」
 ≪ただ、デメリットもあってね。一番厄介なのは、エヴァが傷を負うと、それに応じた痛みがフィードバックされるんだよ≫
 その言葉に、ネギ達が互いに顔を見合わせる。記憶の中のシンジは、砕かれた部分と同じ場所を押さえて、痛みを堪えていた。
 「とんでもない欠陥品じゃないですか!」
 ≪父さんにしてみれば、痛みのフィードバックにも理由があったんだけどね。だから欠陥品じゃないんだよ≫
 サキエルは初号機の左目に光のパイルを連続して撃ち込みだした。同時にシンジが左目を押さえて、絶叫を上げ始める。
 実際に傷を負っていないとはいえ、痛みは本物である。それは時間を飛ぶ前に、弐集院の娘による幻覚を経験した者達には理解できた。
 今、記憶の中のシンジは、眼球を抉られる痛みを感じているのだと。
 やがて限界を超えた初号機の後頭部から、パイルの先端がつき出る。そのまま100m以上吹き飛ばされた初号機は、ビルに磔状態となった。
 抜かれるパイル。ガクンと首を落とす初号機。やがて左目と後頭部から、同時に血液が凄まじい勢いで噴出し始める。
 『パイロットの様子は!』
 『・・・ダメです!反応ありません!心音不明!脳波も不明です!』
 『シンクロ率、最低起動ラインを割りました!』
 発令所から聞こえてくる悲鳴じみた報告に、エヴァンジェリンが『こいつらは馬鹿の集まりなのか?』と当然の疑問を口にした。
 「どう考えても、素人中学生1人に任せて良い物ではない事ぐらい、理解できんのか。そもそもトップは、何を考えてこんな愚かな決断をした?」
 ≪その通りなんだけど、NERVは父さんのワンマン体制の組織だからね。父さんの真の目的に添わないのであれば、例え使徒迎撃に必要な事であっても却下される。目的に沿うのであれば、愚かな行為でも容認される。そして今回は後者だった。その為に、父さんはわざと僕の招集を遅らせたんだよ・・・その理由、これから始まるよ≫
 崩れ落ちていた初号機が、ビクッと震える。そのままの体勢から、初号機は筋力に物を言わせて、空中で前方回転しながら踵落としをサキエルに決めた。
 さらにサキエルを足場にするかのように、初号機は後ろへ飛び退る。
 『何!何が起きてるの!・・・まさか、暴走!?』
 そこから初号機が、体勢を崩していたサキエル目がけて突撃する。その突撃を、サキエルはATフィールドで食い止める。
 『ATフィールド!やはり使徒も持っていたのね!』
 しかし初号機は、その場で一瞬にして砕かれた右腕を復元すると、サキエルの展開したATフィールドに手をかけ、こじ開け始めた。
 『まさか、ATフィールドを浸食しているの!?』
 やがて布でも引き千切るかのように、サキエルのATフィールドが引き裂かれる。そこへ更に畳みかけようとした初号機目がけて、サキエルが至近距離から顔面目がけて加粒子砲を叩き込み、大爆発を引き起こした。
 爆煙に包まれる初号機。だが煙の中から現れた初号機は、全くの無傷だった。
 初号機の両眼が不気味に輝く。まるで獲物を見つけた狩人の様に。
 そのまま初号機はサキエルを兵装ビルへ叩きつけてマウントポジションを取ると、サキエルのコアの周りに生えていた、牙状の物体を圧し折り、それを武器にコアの破壊へ取りかかる。
 やがてサキエルが苦悶するかのように悲鳴を上げる。同時に、まるで軟体動物のように体を柔らかくすると、自らの体で初号機の上半身を包み込んだ。そして大爆発を引き起こした。
 「まさか、今のは自爆か!?」
 ≪そうです。初号機に勝てない事を悟ったサキエルは、自爆したんですよ≫
 炎の中から『ガション、ガション』と音を立てて、初号機が歩いてくる。やがてその頭部を覆っていた装甲が、遂に自重に耐えきれなくなって落下した。
 同時に、潰されていた左目が一瞬にして再生し、元通りの左目を取り戻す。
 その視線が、手近なビルの窓ガラスに映る。そして、意識を取り戻していたシンジの悲鳴が再び響いた。

 ≪これが僕の初陣です。更に言うなら、サキエルに頭部を貫かれた時の衝撃で、少しの間死んでいたみたいですけどね≫
 「・・・シンジ、1つ教えろ。使徒とは、どのような存在なのだ?」
 ≪・・・この宇宙に初めて現れた知的生命体は、この宇宙全てに命の種を撒きました。その内の2つが、この地球に辿り着いたんです。その内の1つが白き月のアダム―使徒の祖といえる存在です。そしてアダムの子である使徒と人類は互いに相争う関係にある。この地球での生存を賭けてね≫
 どこか辛そうなシンジの口調に、エヴァンジェリンはそれ以上の追及を止めざるを得なかった。
 ≪次に行きますね≫

 市立第壱中学校。そこに通う事になったシンジは孤立していた。人との付き合い方を学ばずに生きてきたシンジは、どうしてもクラスへ馴染めなかったのである。
 そんな中、ある事がきっかけでシンジはエヴァのパイロットである事を自らバラしてしまった。
 「おい、NERVも馬鹿だが、貴様も馬鹿だな」
 ≪自分の事ながら、図星すぎて何も反論できないね。今にして思えば、警備上の事を考えれば、確かに口にしちゃいけなかったって分かるよ。でも父さんやミサトさんから守秘義務の説明とか受けてなかったからね、素直に答えちゃったんだ。実際、アスカなんかもっと凄い事やってのけたしね≫
 「アスカ?」
 ≪もう少し後で出てくる弐号機のパイロットだよ≫
 頭を抱えるエヴァンジェリン。NERVは一体何を考えているんだ、とブツブツ呟いている。
 そんな中、校舎の裏に呼び出されたシンジは、ジャージの少年に殴られていた。
 『転校生!ワイはどうしてもお前を殴らにゃいかんのや!』
 『悪いな。前の戦闘でこいつの妹さんが巻き込まれて怪我しちまってるんだよ』
 『もっと上手に操らんかい!』
 去り際に、もう一発シンジを殴るトウジ。その後2人は去り、入れ替わるようにレイが姿を見せた。
≪さっきのジャージを着ていたのが鈴原トウジ。後ろにいるのが相田ケンスケ。この後で僕にとっては初めての友達になるんだけど、この頃はとにかく嫌われててね』
 「待つですよ!シンジさんは初めて乗ったばかりです!それなのに、今の言い草は!」
 ≪人類の命運を賭けたロボットに全くの初心者を放り込むなんて非常識、誰が信じる?誰だって、あのロボットには熟練のパイロットが乗ってる筈だ、そう考えるのが当たり前だよ≫
 仕方ないよ、とばかりに笑うシンジ。やがて記憶の中のシンジは、レイから『非常招集』と告げられて、戦場へと向かった。
 ≪次は昼を司る第4使徒シャムシエルだよ≫
 空を飛行するシャムシエル。そのコアの部分が虫の足のようにワシャワシャ動いている姿に、のどかが『さ、触りたくないなあ』と声を上げる。
 そんな感想をよそに、シャムシエルと単独戦闘を行う初号機。ミサトの指示通りパレットライフルを連射するが、煙に視界が包まれた事にミサトが叱責の声を上げる。
 「・・・この女、自分が指示した武器の特性を把握しておらんのか?」
 ≪多分、そうだよ。ミサトさんは白兵戦は相当な技量があるよ。気や魔力を使いさえしなければ、詠春さんと互角にやり合えるぐらいには強いんだよ。ただあくまでも個人戦闘技術であって、戦車や戦闘機といった物については不得手なんだと思う。劣化ウラン弾は戦車ぐらいしか使っていないからね≫
 「書類上のスペックだけで性能を判断したという所か。実際に使った事が無いから、この粉塵を予想できなかった、と」
 ≪そうだと思うよ。戦術指揮については、まだ2戦目だから仕方無いよ。そもそも、能力が千変万化する使徒との戦闘マニュアルなんて存在してないんだから。敢えて言うなら臨機応変に、これしかないからね≫
 パレットライフルを光の鞭で切り裂かれた初号機は、防戦に追い込まれていく。やがて初号機は足を絡め取られ、空中へ投げ飛ばされた。
 落下した初号機を、シンジは起こそうとする。だがそのすぐ脇に、見覚えのある2人がいた事にすぐ気がついた。
 「・・・何で、この2人が戦場にいるネ?」
 ≪好奇心、猫を殺す。この言葉を実践しちゃったんだよ≫
 頭を抱える超。そんな中、ミサトの指示でシンジは2人をプラグに搭乗させる。
 ミサトから出る撤退の指示。だがシンジは咆哮とともにシャムシエルへ突撃した。
 「おいそこの馬鹿!貴様もあの女も何を考えているんだ!敵の前で無防備に撤退しろという命令を出すあの女も馬鹿だが、万歳突撃する貴様も馬鹿だぞ!」
 ≪この時は、もう何が何だか分かんなかったんだよ。もう無我夢中で。目の前の使徒を倒せば楽になれるんだ、としか考えていなかったからね≫
 胴体に光の鞭を突きさされながらも、逆にコアへプログナイフを叩き込む初号機。耐久力と稼働時間の勝負は、僅差で稼働時間の勝利だった。
 ≪この後、僕は家出したんだ。でも父さんの部下に見つかって本部へ連行された。そこで初号機から降りる事を伝えて、第2新東京市へ帰る事になったんだよ。もしトウジが追いかけて来なかったら、僕はそのまま帰っていただろうね≫
 トウジとケンスケと一緒に笑いあうシンジ。そこへミサトが迎えに来て、一同は駅を後にした。
 ≪次にいきますね≫

 定期的に行われるシンクロテスト。そんなテストの最中、シンジはレイが笑顔を見せながら、ゲンドウと会話をする光景を目にした。
 ≪この一件から、僕は綾波レイという女の子に興味を持つようになった。最初は、どうして父さんは、綾波ばかり見てるんだ、って嫉妬していたんだけどね≫
 そんな中、鳴り響く警戒音。新たな使徒の襲来に、緊張が走る。
 モニターには、正八面体の青い物体が浮いていた。
 「何だ、これは!?これが生き物なのか!?」
 ≪これが雷を司る第5使徒ラミエル。こう見えても、遺伝子レベルでは他の使徒と同じみたいなんだけどね≫
 「こんなの、生き物とは言いませんよ」
 刹那の感想に、少女達がウンウンと頷く。そんな中、シンジに出撃の指示が下った。だが地上へ射出された初号機を、ラミエルの雷が待ちうけていた。
 加粒子砲を胸部に被弾する初号機。エントリープラグの中まで高温に晒されて、シンジの絶叫が響く。
 「こ、この女は・・・」
 ≪こう言う性格だから、父さんにとっては都合が良かったんだけどね。それはともかくとして、これで僕は2回目の死を迎える事になるんだ≫
 拘束具の爆破で難はのがれた物の、シンジはショック死を起こしていた。すぐに救命措置が行われて、一命を取り留める。
 やがて記憶は、ヤシマ作戦の出撃前に移っていた。
 『綾波、どうして綾波はエヴァに乗るの?』
 『私には、他に何も無いもの・・・貴方は死なないわ、私が守るもの・・・さよなら』
 その言葉にレイもまた、ゲンドウの被害者である事実を、一同は突きつけられた。
 やがて始まるヤシマ作戦。日本全ての電力を集めて行われた、超々遠距離からの射撃合戦は、零号機の捨て身の防御もあって、かろうじて初号機が勝利を拾った。
 加粒子砲を浴びた零号機に駆け寄るシンジ。高熱を堪えながら、エントリープラグを開けて中へ飛び込む。
 シンジの呼びかけに、レイが目を覚ます。
 『自分には何も無いなんて、そんな寂しい事言うなよ・・・』
 『・・・泣いてるの?』
 『綾波が・・・綾波が無事だったから嬉しいんだよ!』
 その言葉に、レイが笑顔を見せる。その笑顔に、一同は言葉が無かった。
 ≪この時から、本当に少しずつだけど、レイに変化が現れていったんだと思う。父さんが気付くのは、もっと後だけどね。とりあえず次へ行くよ≫

 シンジは初号機に乗せられ、空輸されていた。その途中、マコトから状況の説明を受けていく。
 だがその内容を聞いていた大人達は、あまりの情けなさに顔を覆っていた。
 「虚栄心から対抗ロボットを作ったは良いが、制御できずに暴走。更に原子炉爆発の可能性とは・・・」
 ≪あとから知りましたけど、裏では凄かったみたいですよ。このジェットアローン計画は日本政府が全面バックアップしていたそうですが、事件発生を聞くなり全員で責任のたらい回し。中には自分は関係ないとばかりに、ゴルフを続けていた閣僚もいたそうですからね≫
 「そいつの名前を教えてくれ。私が責任を持って処理しておく」
 本当に頭にきているのか、剣が物騒極まりない事を口にする。
 ≪まあ、そんな人ですから、他の件で簡単にボロを出したみたいですけどね。それはともかく、僕は初号機で暴走するジェットアローンを止める為に、旧・東京まで空輸されたんですよ≫
 合流したシンジは初号機の掌に、耐放射能装備を身につけたミサトを乗せて走りだす。
 「おい、この女、まさか?」
 ≪はい、生身で中へ乗り込んで止める、というのが作戦でした。ただこの一件の顛末を見ていれば分かるんですけど、父さんがどれだけ悪党なのか理解できますよ≫
 ジェットアローンの中へ飛び込み、しばらく経った頃、ジェットアローンは動きを止めて、中からミサトが出てきた。
 『・・・パスワードの変更。時間とともに停止する仕掛け。最初から、用意されていたのね・・・』
 「おい、まさか全て、貴様の父親の策謀だったのか!?」
 ≪その通りです。リツコさんに命じて、全てお膳立てしていたんですよ。この事件をきっかけにジェットアローン計画は中断。反NERV勢力は注ぎ込んでいた資金を無駄使いしたも同然でした。その結果、反NERV勢力は発言権を弱めていったんです≫
 「そういう話を聞いていると、いかにも親子だなあ、と思うのは私だけアルか?」
 ボソッと呟く古。回りは頷いて良いものかどうか判断に迷っている。確かに策謀家な所は共通しているが、シンジとゲンドウではその策謀が自分の為か、他人の為かという大きな違いがあるのだから。
 ≪まあ、僕の策略家としての素質は、間違いなく父さん譲りだろうね。第3にいた頃は自分にそんな才能があったなんて、全く気付かなかったけど。それはともかく、次に行くよ≫

オーバー・ザ・レインボウ―
 場所は太平洋上。ドイツから輸送されてきた弐号機とそのパイロットを受け取る為に、ミサトはシンジ達とともにUN海軍の旗艦へとお邪魔していた。
 『アタシがセカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレーよ!』
 いきなりの勝気な少女の台詞に、言葉も無い少女達。
 『アンタがサード?ふうん、冴えないわねえ・・・あ、加持さん!』
 『相変わらずだな、葛城』
 『げ、加持。何でアンタがここにいんのよ』
 当事者間で始まる会話。その会話から、加持とミサトが同棲関係にあったが、既に別れている事、アスカが加持に好意を持っている事が感じられたりした。
 そんな中、アスカは弐号機の所へシンジを引っ張っていく。そこで朗々と弐号機の自慢を始めた。
 「・・・貴様、いや、この女も馬鹿なのか?」
 ≪そう言われちゃうと困るんだけど・・・僕やレイが、意図的に性格を歪められているのは、もう理解しているよね?≫
 その言葉に、エヴァンジェリンがうむ、と頷く。
 ≪アスカもそうだったんだよ。僕が周囲の状況から内向的な性格になったのに対して、アスカは似たような状況から攻撃的な性格になったんだ。常に自分に注目して欲しい、自分は1番でなければならない。その為なら、どんな努力も惜しまなかった。実際、12の時にはドイツの大学を卒業しているし、軍隊格闘術の技術もズバ抜けているからね≫
 「その割には、妙にシンジさんを意識してない?この人」
 ≪アスカは4歳の頃から、エヴァの搭乗訓練を行ってきた。そのプライドがあるんだよ。だって素人の僕がサキエル・シャムシエルを、レイと共同でラミエルを撃破しているでしょ?面白くないのは当然だよ≫
 アスナが『そんな物なのかなあ』と呟く。そして光景は、ガギエルの襲撃シーンに移った。
 甲板から見える、次々に戦艦を撃破して行くガギエルの巨体と速度に、一同が呆気にとられる。
 「体当たりで戦艦が真っ二つに・・・」
 「これはラカンと良い勝負ですねえ」
 タカミチの感想に、詠春が切り返す。その言葉に『ラカンって誰だろう?』と思いつつも、シンジは続けた。
 ≪あれが魚を司る第6使徒ガギエル≫
 その言葉と同時に、記憶の中のシンジはアスカとともに弐号機を起動させた。その操縦技術の高さに、エヴァがほう?と感心したような声を出す。
 ≪僕達3人の中では、アスカは操縦技術と白兵戦が一番だったよ。射撃と冷静さではレイが一番だった≫
 「ふうん、シンジさんは?」
 ≪僕?ATフィールドの強さとシンクロ率の高さかな。アスカはフェンサー、レイはスナイパー、僕は・・・バーサーカー?≫
 的確な答えを見つけられなかったシンジが、何度も初号機を暴走させた事を思い出して、自分を狂戦士と表現する。
 「兄ちゃんが狂戦士かい!」
 ≪いや、他に何と言って良いのか分かんなくて≫
 その間にも、記憶のシンジはガギエルをミサトが立案した作戦の海域へと誘導していた。
 『開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け開け』
 弐号機の4つの目が、ギン!と輝く。同時に弐号機がガギエルの口をこじ開け、そこに戦艦2隻による零距離射撃が展開された。
 そして記憶は一転して、NERVの総司令室へと光景が切り替わる。冬月は加持をねぎらい、ゲンドウは到着が遅かった事に釘をさすが、加持はサラリと躱わすとトランクケースを開いて見せた。
 中に入っていたのは、胎児のような物が入ったガラスケースである。
 『硬化ベークライトで固めてはおりますが、既にここまで復元しております。これが?』
 『そうだ。人類補完計画の要。南極で発見された第1使徒、アダムだよ』
 ゲンドウの発言に、タカミチと詠春、剣が『何だと!?』と驚きの声をあげる。
 ≪事実です。セカンド・インパクトが起きた日、葛城博士は自分の命と引き換えに、アダムを卵の状態にまで還元する事に成功していました。そして冬月さんがミサトさんを南極で見た日、父さんは国連の使節団の一員という名目で同じ船で南極入りし、卵にまで還元されたアダムを回収していたんです。そして回収されたアダムは、父さんからSEELEの手に渡りました。それから14年経ち、人類補完計画の要として、父さんの下へ戻って来たんです≫



To be continued...
(2012.06.30 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は回想編です。ただキリの良い所で切ることが出来ず、結果としてガギエル戦で強制的にぶった切る事に・・・変な終わり方で申し訳ありません。でも続けると、カヲル君まで続いてしまうんですよ。流石に長くなりすぎるので、今回はご容赦下さい。
 話は変わって次回です。
 次回は回想編中編となります。イスラフェル戦~首チョンパまでの話になりますw原作同様の流れである為、オリジナル要素と言えばネギまメンバーのチャチャいれぐらいですが、どうかお付き合いください。
 麻帆良編終了まで残り2話。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで