第四十二話
presented by 紫雲様
2015年、第3新東京市―
≪次の使徒は音楽を司る第7使徒イスラフェル。この使徒を僕とアスカで撃退しようとしたんだけど、見事に失敗したんだ≫
「何だと?」
ピクンと反応するエヴァンジェリン。記憶の中の初号機と弐号機は、分裂したイスラフェルに対抗できずにノックアウト。N2爆雷で足止めという展開を迎えていた。
「シンジ。先ほどの戦いで、貴方は幾つもの能力を使っていましたね?そしてこのイスラフェルという使徒は、分裂してみせました。もしや」
≪正解です。僕の能力は、全て僕達が戦ってきた使徒の能力なんです。イスラフェルからは分裂状態での相互補完を受け継ぎました。そして2つのコアを同時撃破するという条件を満たす為に、ミサトさんの立てた作戦がユニゾン作戦≫
音楽に合わせて練習するシンジとアスカ。最初の酷さに、記憶を見ていた少女達から失笑が漏れる。
「ダ、ダメよ笑っちゃあ・・・」
「だ、だって」
≪別に笑ってくれても良いって。確かに最初は酷かったんだからさ≫
やがてミサトの指示でレイと変わるなり、見事にユニゾンを成功させるシンジ。その結果に、感情に任せて飛び出していくアスカ。
『アタシは自分の為に戦う!惣流・アスカ・ラングレーという存在を認めさせる為に、アタシはエヴァに乗っているのよ!』
そんなアスカとの言葉のやり取りを通して、シンジは徐々にアスカとのユニゾンを成功させていく。
そして最終日夜の光景にシーンとなる少女達。だがネギに関しては木乃香とアスナが、小太郎に関しては刀子が目を両手で覆っていた。
≪・・・言い訳になるかもしれないけど、未遂だからね≫
「・・・というか、何で貴様は行動しなかった。このヘタレが」
≪寝言でママなんて言われたら、正気に戻るって≫
やがて翌日の本番。流れる音楽にのった見事な攻防の果てに、2つのコアの同時撃破を成功させ、イスラフェルを完全撃破する。その光景に、少女達から拍手が上がる。
だが、続いて始まった口論には苦笑するばかりである。
≪次の使徒に行きますね≫
浅間山―
溶岩の中で発見されたサンダルフォン捕獲の為、初号機と弐号機は浅間山へとやってきた。煮えたぎる溶岩という光景に、夕映がかつて聞いた話を思い出す。
「ひょっとして、以前、話してくれた溶岩素潜りの話は・・・」
≪うん、この後だよ。見てれば分かるから≫
D型装備を身につけて溶岩の中へ潜る弐号機。やがてサンダルフォンは捕獲したが、孵化すると同時に、弐号機へ襲いかかった。
≪これが胎児を司る第8使徒サンダルフォン。こんな環境下でも生きていける使徒を見ると、使徒がどれだけ規格外か分かるでしょ?≫
これにはエヴァンジェリンを含めた全員が頷いた。そもそも1000m以上の圧力に加えて1000℃を超える温度にも平気というその身体能力は、異常極まりない。
やがてアスカが冷却材を用いて撃破に成功したが、命綱であるパイプが千切れ、落下を始める。その光景に少女達が悲鳴を上げたが、そこへシンジの操る初号機が現れた事には言葉を失っていた。
『・・・馬鹿なんだから・・・』
「確かに、全くもって馬鹿だな。貴様、本当にアレと同一人物なのか?」
≪・・・とりあえず次へ行くよ。初めて、3人での共同作戦を行った戦いにね≫
NERV本部―
停電を起こしたNERV本部を、移動するシンジ達。いきなりの状況に、一同は首を傾げるばかりである。
≪これね、原因は日本政府なんだよ。いずれNERVを実力行使で占拠する為に、戦自が中心になって停電騒ぎを起こしたんだ。復旧ルートから施設の構造を把握する目的でね≫
「・・・何とまあ馬鹿な事を考えるもんだな」
≪そしたらそこへ使徒が襲撃してきてね。大騒ぎになっちゃんたんだよ≫
怒りで全身を震わせる剣。確かに剣が怒るのも、無理は無いかもしれない。
そして記憶の中では、ちょうどルートを間違えたアスカの前に、マトリエルが姿を見せた所だった。
≪今のが雨を司る第9使徒マトリエル≫
停電により大半の機能を殺されながらも、使徒迎撃にその身を捧げる者達は、必死で迎撃の準備を整えていく。やがてシンジ達も辿り着き、3機のエヴァンゲリオンは迎撃に出た。
『いい?アタシがディフェンス、ファーストがサポート、シンジがオフェンスよ』
『分かったわ』
『うん』
『行くわよ!』
役割分担を決め、迎撃に出る3人。やがて見事なコンビネーションで、マトリエルは撃破された。
「仲、良いですね」
ポツリとハルナが呟く。それにはシンジも素直に同意する。
≪そうだね・・・ところで、次だけど今度は使徒じゃないんだ≫
「じゃあ、今度は何なのですか?」
≪戦自絡みだよ、以前話したマナの事件だからね≫
その言葉に、マナの存在を知る少女達が凍りついた。
市立第壱中学校―
転校生としてやってきた少女、霧島マナ。その明るい笑顔は、以前、ヘルマン戦でローレライが見せた偽物とは似て非なる物だった。
『本日私、霧島マナはシンジ君にこの服を見せる為に着てきました!』
どことなくおどけた調子のマナに、シンジも心を開いていく。やがてデートをして更に仲が深まっていく2人。だがその幸せな空間は、問答無用に引き裂かれる。
マナが戦自のスパイである事がバレ、逃走した少年兵への人質として使われる。その光景には、一斉に怒りの声が上がった。
特に激怒したのは、刀子である。
「これが日本政府の、戦自のやり方ですか!子供をこんな目に遭わせるなんて!」
≪・・・この程度で怒っていたら、この先、見る事ができませんよ?刀子先生≫
急にシンジの口調が冷たくなる。
≪大人に良いように扱われる子供の末路、良く見て下さい。特にネギ君には、自分の身を守る為にも、最後まで見て欲しいんだ≫
その言葉に、ネギがコクンと頷く。
シンジの手により、鉄格子から逃げ出したマナ。だが戦自は、脱走した少年兵であるムサシとリーの2人を、新兵器諸共処分する事を画策する。
同時にゲンドウはNERVとして不干渉を決定。少年兵を見殺しにする事を決断する。
そんな中、幼馴染である2人を救う為に行動するマナ。ミサトの機転により、シンジ達もエヴァで救助作戦に乗り出す。だが現実は過酷だった。
投下されるN2爆雷。マナを救いだそうと、必死に初号機を駆るシンジ。だが作戦限界ラインを超えた場所に、マナはいた。
辿りついてもバッテリーは0で、犬死するだけ。その状況下で、シンジは初号機その物を盾にして、マナを庇おうと更に走ろうとする。
そんな初号機を止めたのは、アスカが操る弐号機だった。
『アンタが死んでどうすんのよ!』
『離せ!離してよ!マナが、マナが!』
炸裂するN2の炎。その結末に、一同は声も無かった。ただ記憶の中のシンジの嗚咽だけが、静かに聞こえる。
その日の夜、マナを失い傷心のまま床に就くシンジ。そこへアスカが姿を見せる。
『・・・アタシが・・・アタシが代わりに・・・』
そっとシンジを背後から抱きしめるアスカ。だが―
『止めてよ・・・マナの・・・マナの代わりなんていないんだ・・・』
アスカを拒絶するシンジ。その対応に、アスカは無言のまま部屋を飛び出した。
≪・・・これが僕とマナの最後だよ。こんな最後は、ネギ君に迎えて欲しくないんだ≫
「・・・はい・・・良く、覚えておきます」
≪そうして貰えれば、僕も記憶を見せた甲斐があるよ。それじゃあ、次へ行こうか≫
第3新東京市―
衛星軌道上に浮かぶ巨大な使徒。その姿に、一同は唖然とした。
≪これが空を司る第10使徒サハクイエル≫
「・・・何ですか?この見ている方が脱力するような外見は」
≪それを僕に訊かれても困るんだけどね。でもこいつの攻撃は最悪だよ。なにせ、日本列島が関東・北陸・中部辺りが根こそぎ消し飛ぶ質量兵器だからね≫
シンジの言葉に、お互いに顔を見合わせる一同。何せ、麻帆良も含まれているのだから驚くのは当然である。
「そ、そんなとんでもない使徒を、どうやって倒したんですか?」
≪3機のエヴァで受け止めて、ナイフでグサ。そういう作戦だったね≫
「・・・馬鹿もそこまで行くと、呆れて何も言えんな」
そんなエヴァンジェリンの前で、3機のエヴァによる作戦が実施されていた。最初に落下ポイントに辿り着いた初号機がサハクイエルを受け止めるが、一瞬にして、四肢が衝撃で破裂して、鮮血を噴き出す。
『ぐああああああっ!』
『弐号機パイロット、早く!』
『分かってるわよ!シンジ、もうちょっと頑張りなさいよ!』
やがて駆けつける零号機と弐号機。零号機がATフィールドを中和した所へ、弐号機がプログナイフを突きさして、トドメをさす。
そして作戦終了後、南極へ向かっていたゲンドウから褒められるシンジ。生まれて初めての経験に、シンジの顔に驚きが浮かぶ。
その後、ミサトの奢りによる屋台のラーメンを食べながら、シンジが呟いた。
『僕は・・・父さんに褒められたくて、エヴァに乗っているのかもしれない』
『・・・アンタ、馬鹿ね・・・』
そんなアスカの声は、いつになく優しさに満ちていた。
≪この時、僕は嬉しかったんだ。生まれて初めて父さんが褒めてくれたから・・・だからこそ、僕は考えてしまった。父さんと分かり合えるかもしれない、なんて・・・次へ行くよ≫
NERV本部発令所―
激しい警報がなる中、リツコとマヤが必死に動いていた。
目の前では、MAGIによる本部自爆決議が進んでいる。
≪次の使徒は恐怖を司る第11使徒イロウル。カビのような微生物の状態で、施設の資材に紛れて入りこんできた。そして最終的にMAGIへ侵入して、本部を自爆させようとしたんだよ≫
「カビ?カビってあのパンとかミカンとかに生えてくるカビの事?」
≪そうだよ。最初は誰も気にしていなくてね。全くの不意打ちだった。何せサハクイエルの巨大さを考えれば、次はカビが来るなんて、誰も想像できないよ≫
目の前では、進化促進プログラムによる自滅を目的とした計画が進んでいた。
「シンジさん、良かったらMAGIの説明をお願いできないカ?」
≪いいよ、MAGIはカスパー、メルキオール、バルタザールの3機による多数決によって答えを出すんだ。更に3機とも、人格OSを与えられている為に人間固有の『閃き』というべき物も持っている。だから自分で答えを出すだけでなく、更に一歩踏み込んだ答えを出してくる事もありえるんだ。ただ必要な情報は、与えてあげないといけないんだけどね。人格OS自体は、開発者である赤木ナオコ博士の物が使われている。カスパーは女としての、メルキオールは科学者としての、バルタザールは母親としての思考パターンを持たせる事で、多角的な問題の捉え方、別思考による解決の仕方を考えるようにしたみたいだね≫
「ふむ、なかなか興味深い仕組みネ」
納得したように頷く超。そんな中、記憶の中ではプログラムの成功による歓声が沸き起こっていた。
「・・・おい、ちょっと待て。この間、貴様達はどこにいたのだ?」
≪実験用エントリープラグに乗せられたまま地底湖へ放り出されていた頃かな≫
「ほう?見せてみろ」
何ら悪びれることなく命じるエヴァンジェリン。そこへシンジが記憶の光景を変えた。
「「「「「「!」」」」」」
≪この時の実験は、3人とも裸で受けていたんだよ。いやまさか、エヴァンジェリンさんから僕のフルヌードを見たいと言う要望が出てくるとは思わなかったな≫
「誰もそんな事言っとらんわ、たわけ!」
顔を真っ赤にして猛抗議するエヴァンジェリン。少女達は恥ずかしそうに、顔を俯けていた。
≪冗談はこれぐらいにしておくよ。実はこの時、もう1つ重要な事があってね≫
この騒動の中、加持は自分の真実に近づく為にセントラルドグマへの侵入を試みていた。そこへミサトが現れ、加持はミサトともに中へと入る。
『司令もリッちゃんも、君に隠し事をしている。それが・・・これさ!』
そこに現れた、赤い十字架に張り付けとなった白い巨人。その姿にミサトが口を開いた。
『これは・・・あの時の・・・』
『そうだ。セカンド・インパクトの発端。全ての始まり。第1使徒アダムだ』
『第1使徒アダムがここに?・・・どうやら一筋縄ではいかないみたいね』
≪この白い巨人が、使徒の狙いなんだよ≫
「少し待て。アダムと言うのは以前に見た、あの胎児のような物だろう?それがここまで巨大に成長したのか?」
エヴァンジェリンの疑問に、シンジは苦笑して応えた。
≪やっぱり凄いですね、エヴァンジェリンさん。今の時点で僕が言えるのは、この巨人を、僕が『白い巨人』と表現したよ、と言う事だけです≫
首を傾げる少女達。だがその言葉の意味に何人かが気付いた。
「ククッ、そう言う事か。つまり、あの加持と言う男も踊らされていたのだな?」
≪そうなりますね。この事は、もう少し後で分かります。では次へ行きましょうか≫
市立第壱中学校―
学校へ転校してきた山岸マユミの姿に、ネギと少女達から声が上がった。
≪そう、今度は山岸さんが関わって来るんだ≫
物静かで内向的な性格が災いして、周囲と打ち解けられないマユミ。その原因は、あまりにも頻繁な転校による物だった。『友達を作っても、すぐに別れないといけないから』そんな思いが、マユミを孤独へと追い込んでいた。
母親は実の父親に殺され、両親の代わりに育ててくれたのが今の養父。養父はマユミを慈しんでいたが、マユミは養父に心を開けずにいた。
そんな中、マユミとシンジはお互いが似ている事に気づいて、互いに意識しあうようになる。そしてある一件がキッカケとなり、マユミはシンジ・トウジ・ケンスケらに誘われて文化祭でのバンドにボーカルとして誘われた。
転校してきて以来、初めての楽しい時間に、マユミに笑顔が浮かぶ事が多くなる。だが運命は彼女を放っておかなかった。
彼女の転校と同時に、第3新東京市では使徒と思しき存在が、現れては消えるという事態を繰り返していたのである。そしてその原因が、マユミの体内に巣食っていた使徒の仕業であると判明したのである。
混乱と恐怖に絶望した彼女は、思い余ってビルから身を投げて自殺を図る。その光景に少女達から悲鳴が上がった。
だが間一髪で、シンジの操る初号機がマユミを受け止める事に成功。同時にマユミの道連れを拒んだ使徒も体外へ逃げ出しており、そのまま殲滅される事になった。
この後、養父と和解したマユミは、再び転校する事になる。心の中で、シンジに1つの事を誓って。
(今度会う時は、今は幸せだよ、って言えるようになるから)
≪今にして思えば、この時が最後だったんだよ≫
シンジの言葉に、ハルナが『何が?』と返す。
≪僕・レイ・アスカの歯車が上手に回っていた最後の時。次の使徒から、歯車はかみ合わなくなっていくんだ≫
NERV本部―
定期的に行われるシンクロテスト。その結果、ついにシンジがアスカを上回ると言う結果が発生した。
この結果に、シンジは少しだけ自信を持つ。同時にアスカはロッカーで激しく八つ当たりを始めた。
突然の展開に、一同は困惑気味である。
≪アスカはね、4歳の頃からエヴァの訓練を続けてきたんだよ。10年に及ぶ結果が、この当時のシンクロ率だったんだ。それが初号機へ搭乗して、半年に満たない僕に追い越されてしまった。そのせいで、積み重ねてきた努力が無駄だった、という烙印を押されたように感じてしまったんだよ≫
「で、でもアスカさんは他の事でシンジさんを上回っているんでしょう!?」
≪それではアスカが納得できないんだよ。アスカだって自分を天才と言っているけど、万能じゃない事はちゃんと理解している。でもどうしても譲れない物があるんだ。それがエヴァ。特にエヴァの強さを引きだすシンクロ率なんだ≫
記憶の中では、アスカが悔しさのあまり、遂に自分を責め出していた。
≪シンクロっていうのはね、単にエヴァを操る為じゃないんだ。シンクロ率が上がるほど、エヴァは思った通りに動いてくれて、痛みのフィードバックも激しくなる。だけどそれだけじゃない。シンクロすればするほど、エヴァの能力をより強く引き出す事ができるようになるんだ。その一例が、シンクロ率の上昇によるエヴァの身体能力の上昇と、ATフィールドの強化なんだよ≫
悔し涙を流すアスカ。そんな少女の姿に、一同は何も言えなくなる。
やがて姿を現す、次の使徒。第3新東京市に突然現れた、ゼブラ模様の球体。
≪これが夜を司る第12使徒レリエル≫
シンジに憎しみの感情を抱きだしたアスカが、シンジを挑発。やがて口論に発展し、シンジが先陣を切る事になる。だがレリエルの能力―ディラックの海に捕まり、初号機は消失。弐号機と零号機に撤退の指示が入る。
『ま、まだ『まって!まだ碇君が!』』
自分の言葉を遮って、シンジの救出を口にしたレイの姿に、アスカが言葉を無くす。
だが救出作戦の段階となると話は変わった。
1人の時は自分の非を認める事が出来たのだが、他人の前だとどうしてもアスカは見栄を張ってしまう。その結果、アスカはシンジを責め、自分は悪くないとレイの前で自己主張した。それをレイに咎められ逆上したアスカと、シンジを心配するレイとの間に小さな亀裂が生まれる。
「・・・本当にガキだな、貴様達は」
≪全くもって否定できないよ。ただ僕達3人は意図的に人格形成を失敗させられている事を忘れないでね。3人とも他人とのコミュニケーションは特に苦手なんだよ。レイは無関心、僕は逃避、アスカは支配っていうのが、他人に対する基本的な付き合い方だったんだから≫
やがて始まるシンジの犠牲を前提とした初号機救出作戦。現存する全てのN2爆雷投下によるレリエルへの攻撃。だが同時にレリエルに異変が起こりだす。
そしてレリエルを内側から引き裂き、咆哮を上げる初号機。その姿に、アスカが初めてエヴァンゲリオンという存在に恐怖を覚える。そしてそれは、その光景を見ていた者達も似た部分があった。
エヴァンゲリオンとは何なのか?そんな疑問が浮かんできたのである。
≪エヴァの正体については、その内分かるよ。それでここからだけど、かなり長い間、残酷なシーンが続くからね。心の準備は良いかな?≫
シンジの言葉に、一同は頷いた。
市立第壱中学校―
アメリカで作られたエヴァンゲリオン参号機。そのパイロットに選ばれたのは、シンジの友人、トウジだった。
『その代わり、妹をNERVで治療してやって下さい』
『分かったわ』
トウジはサキエル戦以来、ずっと入院していた妹の治療と引き換えに、参号機への搭乗を決めた。そしてその情報は、当の本人であるトウジからレイへと告げられる。
『センセには心配かけたくないから、黙っていてくれんか?』
一方、アスカは加持の所へ遊びに行き、その情報を偶然に目撃。参号機パイロットが誰なのかを理解する事になる。
ヒカリはトウジに食べて貰う為に、一生懸命お弁当を作る。その後、トウジを待ち受ける運命を知らずに。そしてシンジだけがトウジが参号機のパイロットになった事を知らされずに。
そして参号機起動実験は失敗した。
緊急招集がかかり、シンジ達はエヴァで出撃した。やがて夕陽の中に現れたのは、漆黒のエヴァンゲリオン。
「ど、どういう事ですか?どうして参号機が・・・」
『現時点をもってエヴァンゲリオン参号機を破棄。対象を第13使徒として認める』
ゲンドウの言葉に、全員が凍りついた。
≪・・・そうなんだよ。霰を司る第13使徒バルディエル。その正体は粘菌状の使徒でね、参号機と物理的融合を果たしていた。それだけじゃない、バルディエルはトウジを人質に取ってきたんだ≫
中に乗っているのがトウジである事を知っているアスカとレイは、どうしても戦う事が出来ない。その隙を突かれて、一瞬で無力化されてしまう。
そして残るは初号機1機。だがシンジはどうしてもテストパイロットを見殺しできずに防戦一方へと追い込まれていく。
『どうした、シンジ。何故、戦わん』
『だって、参号機には誰かが乗ってるんだよ!』
『お前が死ぬぞ』
『・・・良いよ、誰かを殺すより、よっぽどマシだよ!』
そんなシンジの言葉に、ゲンドウが舌打ちして決定を下す。
『ダミープラグを起動しろ。今のパイロットよりは役に立つ』
同時に初号機のシンクロが切断され、エントリープラグに仕掛けられていたダミープラグが起動する。
やがてシンジの制御化を離れて、意図的に暴走を開始する初号機。その怪力で、参号機を引き千切っていく。
『やめて!やめてよ!父さん、もう止めてよ!』
目の前の光景に耐え切れず、絶叫するシンジ。やがて初号機は参号機のエントリープラグを引きぬき―
「・・・まさか!」
LCLを噴き出しながらひしゃげる初号機。そして動きを止める。
目の前の惨劇を止める事ができなかったシンジの嗚咽がプラグに響く。そこへ聞こえてくるパイロット生存の報告。
一縷の期待に、シンジが顔を上げる。だがモニターに映っていた友人の顔に、シンジが絶叫した。
≪これがバルディエル戦の顛末だよ。今にして思えば、もっと上手いやり方はあったんだけどね・・・≫
「あの子供、トウジと言ったか、あの子供はどうなったんや?」
≪左足を切断する代わりに、一命は取り留めました。ですが参号機は破棄され、トウジもフォースチルドレンから外されました≫
シンジの言葉に、一同は言葉も無い。だがエヴァンジェリンだけは違った。
「シンジよ、別にお前の父親に味方する訳ではないが、どうしてお前は他人を殺してでも自分が生き残ろうとしないのだ?今回の件については、私はお前の父親がどんな思惑を持っていたのであれ、結果に対しては認めるぞ?」
≪エヴァンジェリンさんならそう言うと思いましたよ。ただ僕はね、自分に価値を見出していなかった。生きなければならない理由を持っていなかった。確かに死ぬのは怖かったです。それは認めます。でも他人を殺してまで、自分に生きる価値があるとは思えなかったんですよ≫
「そんな物は自分で探すべき物なのだがな、まあいい。次を見せてもらおうか」
NERV本部―
トウジの一件直後、シンジはNERVに対して反乱を起こした。本部の物理的破壊というシンジの暴挙に、一同は声も無く、記憶の中の怒り狂ったシンジを見ていた。
『内蔵電源残り1分半。これだけあれば本部の半分は破壊できるよ!』
だがゲンドウの指示による遠隔操作により、シンジは強制的に気絶させられ捕縛された。そして気がついたシンジは、5重の手錠を施された状態でゲンドウの前に連行されていく。
「これは幾らなんでもやりすぎじゃないか!?」
≪あの父さんに常識なんて通じませんよ。父さんを動かすには、母さんを持ちだすしかないんですから≫
やがてゲンドウの前で、シンジはハッキリと宣言した。
『僕はもうエヴァには乗りません。ここにもいたくありません』
『そうか。では去れ』
『はい、失礼します』
父・ゲンドウとの交流を、シンジは自らの意思で絶ち切っていた。
『・・・また、逃げるのか?』
その言葉には応えずに、シンジは父の前から去る。やがてシンジの為に用意された『政府特別専用列車』が駅のホームへ入って来た時だった。
使徒の襲来を告げる警報音。
反射的に本部へ向かおうとしたシンジだったが、自分はもうパイロットではない事を思い出し、一般人用の避難シェルターに避難した。
一方、その頃アスカは使徒撃退の為に待ち伏せ作戦を実行していた。
『シンジなんかいなくたって、アタシがやってやるんだから!』
やがて姿を現すゼルエル。ありったけの火器で集中砲火を仕掛けるが、ゼルエルには何のダメージも与えられない。それどころかゼルエルは、ATフィールドすら使っていなかった。
≪あれが力を司る第14使徒ゼルエル。最強と言われる使徒だよ≫
「・・・確かに、あの防御力は凄まじい物があるな・・・ん?何がおかしい?」
≪いや、エヴァンジェリンさんもNERVのみんなと同じ失敗をしているな、と思ったら可笑しくてね。ゼルエルは確かに強い。でも実は、そんなに評価するほどじゃないんだよ。硬さだけならサンダルフォンの方が上だし、破壊力ならサハクイエルの方が上だからね。それなのに、ここまでアスカの攻撃が通じない理由。それは銃火器に頼っているのが原因なんだ≫
意外な言葉に、エヴァンジェリンは言葉を返せない。
≪詠春さん、どうして神鳴流は銃を使わないんですか?神鳴流の技術で身体を強化すれば、子供でもデザートイーグルぐらい使えるでしょう?熟練者が使えば、戦艦に搭載するようなマシンガンを使うことだってできるのに、それはなぜですか?≫
「・・・単に剣士としての誇りと言ってしまえばそれまでですが、現実的な理由もあります。銃火器は簡単に強さを手に入れられるが、破壊力に限界があります。火薬に見合った量までしか、攻撃力を上げる事ができません」
≪そうでしょうね。NERVはその事に気づいていなかったんです。特に軍人出身である作戦部がエヴァの装備を提案していた為に、一般的な戦争概念に従って銃火器による遠距離からの攻撃に重点を置いていました。接近戦武器となると、ナイフ以外には薙刀と斧しかなかったぐらいですからね。確かに人間相手なら、遠距離戦は正解です。でも使徒は違う。使徒を相手にするなら、逆に接近戦を主体にするべきだった≫
その説明に剣がなるほど、と頷く。
「確かに弐号機の使っている銃火器は強力だ。だがエヴァンゲリオンの力を考慮すれば、もっと強力な火器でもおかしくは無い。問題なのは、そんな物を作っても、銃火器の方が耐えられないという事か」
≪そう言う事です。それなのに中途半端な銃火器を無駄に作って、それを頼りにしてしまった。それがNERVの戦略的失敗要因です。ハッキリ言えば、銃火器でトドメを刺した敵なんて、ラミエルとガギエルだけです。しかもそのどちらもが一撃必殺の大砲なんですよ。他は白兵戦用の武器でした。極端な話、銃火器は煙幕代わりと割り切って、弐号機に斧を5本ぐらい持たせて突撃させれば、ゼルエルは倒せたと思いますよ≫
記憶の中のアスカは、ゼルエルの防御力の高さに焦りを感じ始める。やがて弐号機の攻撃が中断した所で、ゼルエルが反撃を開始。一瞬にして弐号機の両腕を切断した。
攻撃手段を奪われたアスカが、自棄になって突撃を開始。そこへゼルエルがカウンターを放って、弐号機の首を切断した。
≪本来のアスカなら、あの程度の攻撃は躱わす事が出来た。でもそれが出来ないほど、動揺してしまったんです。銃火器が通じないショックで≫
再び変わる光景。避難所へ避難していたシンジの前で轟音が響く。目の前にはゼルエルに斬り飛ばされた弐号機の頭部があった。
他の避難民同様に、別の避難所へ逃げようとするシンジ。そんなシンジは、戦闘の最中に、スイカへ水やりをする加持の姿を見つけていた。
『シンジ君か、物を育てるってのは良いものだぞ?今まで見えなかった事が見えてくる』
『加持さん!今は戦闘中ですよ!?』
『ま、葛城の胸の中も良いが、死ぬ時はここって決めてたんでな』
水やりを中断した加持が、シンジに目を向けた。
『実はスパイ が公になってね、戦闘配置に俺の居場所は無くなったのさ。以来、こうして水を撒いてる』
そこへ、零号機が出現した。バルディエル戦で片腕を失った零号機は、小脇にN2と刻印された爆弾を抱えていた。
『綾波!?腕も治ってないのに無茶だ!』
だがレイは突撃する。ここでゼルエルを倒して、二度とシンジが戦場へ戻らなくても良いようにする為に。
初めて危険を察したゼルエルが、ATフィールドで防御に入る。対する零号機もATフィールドを中和して、コアにN2をねじ込もうとする。
だがゼルエルはATフィールドを中和されながらも、紙一重の差でコアをカバー。N2のコアへの直撃を防ぐと同時に、零号機の頭部を切断。大地に沈めてみせた。
『使徒が、ここの地下に眠る第1使徒アダムと接触すると、サード・インパクトが起こると言われている。それを防ぐ為にNERVは作られた』
その言葉に、シンジは加持へ目を向けた。
『シンジ君。俺にはここで水を撒く事しかできない。だが君には、君にしかできない事がある筈だ。後で、後悔しないようにな』
その言葉に、覚悟を決めたシンジが走りだす。
一方、初号機をダミープラグで動かそうとしていたゲンドウだったが、初号機がダミープログラムを受け入れない事に、焦りを感じていた。
『・・・ダミーを拒絶すると言うのか・・・』
『乗せて下さい!』
その言葉に、ゲンドウがケージへ顔を向ける。
『何故、ここにいる』
『僕は・・・僕は!エヴァンゲリオン初号機のパイロット!碇シンジです!』
その頃、本部発令所にはゼルエルが姿を見せていた。発令所の天井にまで届くゼルエルが、加粒子砲の発射態勢に入ったことにミサト達が死を覚悟する。
そこへ初号機が横殴りに乱入。一撃でゼルエルを吹き飛ばして更に追撃態勢に入る。
対するゼルエルは零距離からの加粒子砲で初号機の左腕を切断。戦いを見届けようとするゲンドウの右半身が、初号機の血液で真紅に染められる。
だがシンジは怯まない。痛みに堪えながら、咆哮とともにゼルエルを射出口に叩きつけて、外へと一緒に弾き飛ばされる。
そのまま空中に舞い上がった初号機は、ゼルエルを掴むとマウントポジションをとって一方的な攻撃を開始し始めた。ゼルエルに対する怒りと恐怖で狂気に陥ったシンジは、無我夢中で攻撃し続ける。
だから気づかなった。内蔵電源が0になった事に。
窮地を逃れたゼルエルは、反撃を開始する。そこへミサト達が駆けつけ、そのタイミングでゼルエルの加粒子砲が初号機の腹部にあった装甲を破壊した、そこにあった赤い球体に、一同は気づいた。
「あれは、使徒にもあった・・・」
≪そう、あれは使徒が持っているコアです。使徒にとっては急所であり、もっとも重要な器官なんです。そしてコアは、エヴァにもあるんです≫
ゼルエルの攻撃が続く中、記憶の中のシンジは必死でインダクションレバーを動かし続けていた。
『動いてよ!今動かなきゃみんな死んじゃうんだ!もうそんなの嫌なんだよ!だから、動いてよ!』
ドックン、と世界が揺れる。同時にエントリープラグが真紅に染まっていく。
「おい、何が起こったのだ」
≪その質問に答える前に、何故シンクロシステムの欠点―痛みというフィードバックを直さなかったのか?それについて答える必要があります。パイロットに過剰な負担を負わせるフィードバックは欠点以外の何物でも無い。でも、このフィードバックはエヴァの操縦に必要な物だったんです。そして、それこそが父さんが僕にエヴァの操縦訓練を行わせなかった理由でもあるんです≫
シンジの言葉に、一同が目を丸くする。
≪訓練不足とフィードバック。それは欠点であり、更には実戦において致命的な敗因となりえます。でもエヴァ―正確には父さんの思惑の下にある初号機と僕に関しては、例外だったんです。何故なら、初号機には僕の母さんが眠っているから≫
「それはどういう意味なんだ?」
≪分かりませんか?もし母さんが眠りに就いていたとしても、耳元で実の息子である僕が、死の恐怖と激痛のあまり泣き叫んだとしたら、母さんが目を覚ますとは思いませんか?そして、その結果がこれです≫
沈黙していた初号機が再起動を果たした。ゼルエルの両腕を掴むと全力で引き寄せ、更に全力で蹴り返す事でゼルエルの両腕を引き千切る。更にその腕を左肩へ押し付ける事で、初号機は自らの腕を復元してみせた。
『まさか、暴走!?』
『そんな!初号機の内蔵電源は0なのよ!?』
『・・・大変です!初号機のシンクロ率が400%を超えています!』
マヤの叫びに、全員が言葉を失った。それが意味する所を、全員が把握したのである。
「シンジ!お前は・・・」
≪師匠の予想通りです。僕は初号機に取り込まれてしまったんですよ。目を覚ました母さんが、僕を守る為にね≫
逆襲を開始する初号機。咆哮とともにATフィールドを武器として使ってゼルエルに致命の一撃を与えた初号機は、四つん這いのままゼルエルへと近づいた。そして、ゼルエルを食らいだす。
その生々しい光景に、記憶の中のマヤ同様、のどかや木乃香らが口を押さえる。詠春やタカミチ、剣や刀子らも、この光景には驚愕したのか、呆気に取られていた。
「シンジ!エヴァンゲリオンとは、一体、何なのだ!」
≪その内分かるよ。NERV―父さんの隠している真相とともにね≫
初号機へ取りこまれたシンジ。そのサルベージ計画が進む中、NERVとは違う暗闇の中で、やはり会議が行われていた。
その出席者の顔ぶれに、剣が『まさか』と呟く。彼らは2年前に突如失踪した、政・財界や、裏世界のVIPであった。
≪ここにいる老人達が、SEELEの支配者、通称『委員会』と呼ばれる者達だよ≫
その言葉に、タカミチと詠春が激しく反応した。SEELEの名を知っている者達も、驚きで体を強張らせる。
「この人達のせいで、シンジさんは!」
≪落ち着きなよ。この老人どもは、2年前―使徒戦役の後で死んでいるんだ。1人残らずね。それより、彼らの話を聞いた方がいいよ≫
その言葉に、一同が耳を澄ます。
『本来、エヴァに生まれいずる筈のない、S2機関。まさかかような方法で、自らに取り込むとは・・・』
『S2機関を持つエヴァ。それは具象化された神と同じ。我々に具象化された神などいらんよ』
『この修正、容易ではありませんな』
『碇ゲンドウ。あの男に力を与え過ぎたのでは?』
『・・・いや、あの男でなければ、ここまで計画を進める事は出来なかった。ここは鈴に動いて貰うとしよう』
そこで光景が一変。今度はNERVの司令室。司令室には3人の男が集まっていた。ゲンドウ、冬月、加持である。
『今回の件は、我々にとっても予想外だよ』
『その通りだ。本来、エヴァにはS2機関は登載されてはいけないのだからな。初号機はこのまま凍結処分とする』
『・・・宜しいのですか?御子息を取り込まれたままですが』
SEELEの監視役としての立場に立った加持に、ゲンドウと冬月が応じる。そのゲンドウの言い草に一同から怒りの声が上がりだした。
≪この頃から、父さんはSEELEと袂を分かつ事を実行し始めたんだ。SEELEの目的である、人類補完計画を悪用して、自分の目的を果たす為にね≫
「・・・シンジさん、その人類補完計画って何ですか?」
≪表向きはセカンド・インパクトからの復興という名目だった。でも勿論、本当の所は違う。真の目的は、この老人達が死を怖がって不老不死を手に入れようとしていた計画なんだよ≫
その言葉に、即座にエヴァンジェリンが『最悪の馬鹿どもだな』と斬って捨てる。
≪その為に、この老人達は全人類を犠牲にしようとしたんだ≫
「「「「「「はあ!?」」」」」」
≪事実だよ。まあ詳しい事は、使徒を全部倒した後で分かるから≫
やがてサルベージ計画が進む中、シンジは初号機の中で母親ユイの記憶を垣間見ていた。その中で、自分がユイに望まれて生まれてきた事、ゲンドウも幼いシンジに無類の愛情を注いでいた事を知った。
そして、知る事になる。自分の名前に纏わる真実を。
『男の子だったらシンジ、女の子だったらレイと名付ける』
その言葉に、何故レイがレイと名付けられたのか、その理由を一同は理解した。ユイの娘であるからこそ、レイはレイと名付けられた事に。
暖かく、居心地の良い場所。だがシンジは帰還を望んだ。そして、シンジは初号機の中から、再び現世へと帰還した。
シンジが帰還して間もない頃、NERV本部では騒ぎが起きていた。副司令である冬月の失踪事件である。
容疑者として挙げられたのは加持。同時に共犯者として名前を挙げられたのが、加持とよりを戻していたミサトだった。
SEELEにおいて尋問を受ける冬月。だが冬月は、ユイとの思い出を支えに、知らぬ存ぜぬの一点張りを通す。そこへ助けに来たのが、冬月を攫った加持だった。
『この行動は、君の命取りになるぞ?』
『俺は俺なりの真実に近づきたいんですよ。そしてNERVが一番真実に近いと思ったんです』
冬月の帰還の知らせに、ミサトは解放された。だが加持には最後の時が待ち受けていた。
人気のない施設の片隅。そこで紫煙を燻らせながら、加持は待っていた。自分の始末をつけに来る者を。
『よう、遅かったじゃないか』
その言葉を最後に、加持は30年と言う人生に終止符を打った。
その日、ミサトは留守電に吹き込まれていた、加持の言葉を聞いて泣き続けた。
『真実は君とともにある。もしもう一度会えたら、8年前に言えなかった台詞を言うよ。じゃあな』
もう二度と、加持がプロポーズに来る事はないのだと理解してしまったから。
≪この時、ミサトさんは加持さんから託された情報の断片を元に、行動を開始しました。でもその行動が、僕やアスカを精神的に追い詰めていく事になるんです≫
「何故ですか?」
≪ミサトさんは視野が狭いタイプなので、思い込んだら一直線なんです。この時も、加持さんの復讐を果たそうと、行動し続けた。結果として家へ帰ってくる事も減ってしまい、精神的に追い詰められたアスカの世話を僕に任せるようになったんです。そしてその事が、ますますアスカを追い詰めていくんです≫
シンジの帰還後、アスカは周囲との壁を築くようになった。その一方で、シンジを素直に心配していたレイは、シンジとの距離を縮めていく。シンジもまたレイとの時間を大切にするようなった。
そんなある日、再び使徒の襲撃が起きた。
衛星軌道上に現れた光の鳥である。
≪あれが鳥を司る第15使徒アラエル≫
ミサトの指示により、前衛をレイ、後衛をアスカという布陣で臨むミサト。ゼルエル戦以降、シンクロ率が下がり続けているアスカの状況を考えれば、必要な処置だった。
だがアスカは反発し、自らが前衛に立つ。
『これでダメなら、パイロットの交代もやむなしよ?』
リツコの警告に、ミサトが頷く。そしてアスカが弐号機へ命じてポジトロンライフルを発射した。
だが距離がありすぎて、アラエルのATフィールドを破るまでには至らない。それどころかアラエルの精神攻撃により、アスカが手痛いしっぺ返しを食らう事になる。
『見ないで!私の心を覗かないで!』
『まさか、使徒は人の心に興味を持っていると言うの!?』
アスカのトラウマが剥き出しになる。弐号機起動実験のパイロットを務めた母キョウコは、ユイ同様初号機へ取りこまれた。そしてサルベージは成功したものの、帰還したキョウコの記憶から、アスカの事は消えていた。
人形をアスカと思って可愛がるキョウコ。そんな母の姿に、アスカは自分を見て貰おうと必死で頑張る。
そして4歳のある日、アスカは弐号機のパイロットに選出された事を報告しようと、母の下へ喜び勇んで駆けだした。だがアスカを待っていた物は、過酷な現実だった。
娘と思っていた人形は、首を捩じ切られ、綿がはみ出ていた。そしてキョウコ自身は、天井から物言わぬ状態となってぶら下がっていた。
凍りつく幼いアスカ。その悲惨な過去に、一同は言葉を無くした。
更に幼いアスカは、悲惨な現実を目撃する。父は母の主治医と不倫関係にあり、その現場を目撃してしまった。更にこの時、父はキョウコを見捨てて乗り換えていた事を。
最愛の母を失い、最愛の父に裏切られたアスカの心は、決定的に歪みだした。
そんな過去を強制的に思い出させられたアスカは、弐号機の中で啜り泣いていた。まるで幼子のように丸まって、無心に母へ助けを求める。
その状況に、凍結中の初号機へ搭乗していたシンジは、必死に出撃許可を求め続けた。だがゲンドウからは出撃の許可が下りない。
そして遂に、レイがセントラルドグマからロンギヌスの槍を持ちだし、アラエルを撃墜してみせた。
戦闘後、心の傷を暴かれたアスカは、遂に心を閉ざしてしまった。かつては気になっていたシンジに対しても、ハッキリと拒絶の意思を示すようになった。
≪これがアラエル戦の顛末だよ≫
「・・・アスカさんも可哀想な人ですね」
のどかの言葉に、一同が頷く。ただハルナだけは、シンジのアスカに対する言い分を聞いていた為に、素直に頷く事が出来ないでいた。
≪じゃあ、次へ行くよ。僕達3人の致命的な決裂を引き起こした戦いにね≫
エレベーターの中、2人きりのレイとアスカ。そんな状態で、レイが口を開いた。
『エヴァは心を開かなければ動かないわ』
そのレイの忠告に、ビンタで応えるアスカ。もはや亀裂は修復の効かない、末期症状を呈していた。
そこへ現れる、空中に浮かぶ光の輪。クルクルと回転し続けるそれに、シンジが口を開いた。
≪これが子宮を司る第16使徒アルミサエル≫
この使徒に対峙する為、再び、弐号機と零号機が出撃した。しかしアスカは起動に必要な最低シンクロを割っており、動かす事すらできない。それに対するゲンドウの見解は、弐号機を敵の攻撃を逸らす的として使う事だった。
その冷酷すぎる判断に、誰もが声を失う。だが弐号機は、どれだけアスカが動かそうとしても、全く動かない。
その為、ミサトが作戦を練り直そうとしたが、そこでアルミサエルが動き出した。
襲い掛かってくるアルミサエルを、零号機は掴むと、その胴体にスナイパーライフルの銃口を突きつけて、零距離射撃を行った。だがアルミサエルには効果が見られず、それどころか、零号機との物理的融合を行いだす。
≪これがアルミサエルの能力。対象物を浸食し、融合しようとする能力≫
この事態に、ゲンドウの判断で初号機の凍結が解除。弐号機が格納されるのと入れ違いに、初号機が出撃する。
『アタシの時には、出さなかったくせに』
弐号機の中で、アスカがそう呟いた事も知らぬまま、シンジはレイを助けようと初号機を走らせる。
そしてこの時、レイはアルミサエルの思惑を理解すると同時に、自分に心が芽生えていた事を知った。アルミサエルを通して自分の心と向かい合ったレイは、自分がシンジを求めている事に気付いたのである。
更にアルミサエルの目的は、最終的に人間と融合する事で、人の心を理解しようとしている事も。
そこへ現れた初号機に、アルミサエルが注意を向ける。
『碇君はやらせない』
シンジを助けるべく、レイがATフィールドを反転させ、無理矢理アルミサエルを零号機へ閉じ込める。同時に最後の手段に出た。
『まさか、自爆する気!?』
『レイ!』
発令所からの悲鳴に、記憶を見ていた一同もレイの行動を理解して言葉を失う。だがレイは躊躇わなかった。
『碇君は私が守るもの』
零号機を中心に大爆発が起こる。目の前で何が起きたのか、シンジは理解できなかった。だが徐々に現状を把握していくと、叫び声をあげた。
『綾波いっ!』
そして零号機の自爆により、第3新東京市は壊滅的な被害を受け、都市機能を失ってしまった。
レイの戦死に、ショックを受けたシンジ。だが翌朝、『レイ生存』の連絡が入って来た。
喜び勇んで病院へ駆けつけるシンジ。だがレイの反応はそっけない物だった。
『私、あなたを助けたの?』
『綾波、覚えてないの?』
『違うわ、知らないの。私、3人目だから』
更にそこへ、リツコからシンジに連絡が入った。呼びだされた先はセントラルドグマ。そしてそこで待っていたリツコ、この機を狙っていたミサトとともに中へと入る。
現れた白い巨人。ロンギヌスの槍を抜かれた巨人は更に成長を果たし、両足が生えていた。その事に、ミサトは気付いたが敢えて口には出さなかった。
『見せたい物はこっちよ、ついてきて』
そこにあったのは、巨大な水槽と無数の綾波レイの肉体だった。
『綾波・・・レイ?』
その言葉に、レイの器が反応。一斉にシンジを見て『ウフフ』と笑いだす。
『そうよ、これら全てが綾波レイという子の部品。そしてダミーシステムの素』
「これが・・・これが人間のやる事なの!?」
≪父さんは、母さん以外がどうなろうが知った事じゃなかったんだよ≫
リツコの口から語られる、レイの真実。そこでシンジは、初号機のテストパイロットを務めた母ユイのサルベージ計画の際に、ユイの代わりに現れた存在である事、初号機とユイの遺伝子を併せ持つという事実を知る事になる。
更にエヴァンゲリオンが第1使徒アダムをコピーして作られた事。それ故にロボットではなく、人造人間と呼ばれている事。
そしてリツコはゲンドウの腹心であり、愛人であった事を告白すると、リモコンを取り出してスイッチを押した。
『あの人の為なら、どんな屈辱にも耐えられた!でも、私はレイの身代わりに使われたのよ!だから壊すの、憎いから!』
崩壊していく綾波レイの器。その光景に、少女達の中に口を手で押さえる者が現れる。
≪大丈夫?少し、休もうか?≫
「い、いえ、大丈夫です。ちょっと驚いただけです」
夕映の気丈な言葉に、他の者達も頷いて見せる。
≪・・・リツコさんは表沙汰に出来ない事も色々やってきた。全ては父さんを愛していたからなんだよ。でも父さんは、リツコさんにはもう利用価値が無いと判断して、SEELEへの人身御供に使ったんだ。本当はレイが呼ばれる筈だったんだけど、レイは調子が悪いから代理で、という口実でね。その事実をリツコさんは当のSEELEから知らされたんだ≫
シンジの説明に、刀子や千草、高音が露骨にゲンドウに対する怒りを露わにする。そんな3人の前で、リツコはただ泣いていた。
『いっそ、殺して。楽になれるから・・・』
『・・・馬鹿よ、アンタ・・・』
≪この後、リツコさんはこの事件の責任を問われて、独房に閉じ込められた≫
レイの真実。アスカの失踪。第3新東京市の壊滅による友人達の疎開。加持の死亡。リツコの独房入り。そしてミサトは加持の情報を元に動いていた為、シンジは1人の時間を過ごすようになっていた。
そんなある日、夕焼けに照らされた湖で、シンジは鼻歌を耳にした。そこにいたのは、銀色の髪に赤い瞳を持つ少年。
『歌は良いねえ。リリンが生み出した文化の極みだよ。そうは思わないかい?碇シンジ君』
『君は?』
『僕は渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供フィフスチルドレンさ。失礼だが、君はもう少し自分の価値と言う物を良く理解した方が良いと思うよ』
少年の名乗った名前に、ハルナが『この人が!?』と叫び声をあげた。
≪そうだよ。彼が僕にとって唯一無二の親友だよ≫
同時に『親友』という単語にネギ達も反応する。
≪詳しい事は見ていれば分かるよ≫
本部では早速カヲルと弐号機との間でのシンクロテストが行われた。そこで弐号機と難なくシンクロするカヲルの姿に、疑問を持つミサト。そして得た『自由にシンクロ率を調整できる』という結論をもって、ミサトは独房のリツコを尋ねる。帰ってきた答えは『最後のシシャ』という答えだった。
一方、シンジとカヲルはお互いに気が合い、一緒に行動をしていた。ともにお風呂へ入り、同じ部屋で寝る。そしてカヲルがポツリと呟いた。
『君は好意に値するよ』
『カヲル君?』
『好きって事さ』
ストレートな表現に、シンジが顔を赤らめる。
『僕は、君に出会う為に生まれてきたのかもしれないね』
その言葉に、一斉に歓声とも悲鳴ともつかない声が上がりだした。タカミチや詠春、剣は気まずそうに視線を逸らす。ネギと小太郎は頭に?マークを浮かべてキョトンとしていた。
≪・・・まあ何を考えているかはおおよそ察しがつくけどね・・・それはともかく、どうして葛葉先生や師匠まで反応しているんですか?≫
「い、いやちょっとな・・・」
「こちらの事は気にしないで下さい」
≪・・・そっちも落ち着くように。特に早乙女さん、少しは僕の事を信用してくれても良いんじゃないの?≫
「いやあ、まさかマジ物のBLを見る事になるとは思わなかったんで。しかもシンジさんのボーナスカット付きで。ほらほら、みんな喜んでるよ?」
「パルと一緒にしないで!私にそんなBLなんて趣味はねえっすよ!」
顔を赤らめながら猛抗議する美空。アスナやエヴァンジェリン、高音もそれに追随する。
「そうなの?あの2人、絵になるじゃん?」
その言葉に口籠る4人。シンジが母に似た女顔な為、違和感が無いのが非常に怖い。
≪これ以上は脱線するから、先へ進むよ?≫
強制的に光景を変えるシンジ。そこはケージだった。弐号機を前に、カヲルが呟く。
『そろそろ始めようか。行くよ、リリンの僕』
同時に弐号機の4眼がギンッ!と輝く、同時に本部全てに警報が鳴り響いた。
発令所ではマヤを中心に、事態の対応に動き出す。
『パターンブルー、使徒です!映像、映ります!』
正面モニターに映ったのは、メインシャフトをゆっくりと落下していく弐号機。そしてその前に浮かぶカヲル。
『どういう事ですか!説明して下さい!』
初号機での追撃を命じられたシンジが怒声をあげる。
『使徒よ、あの子は使徒なの。早急に撃退しなさい』
ミサトの命令に、シンジが追撃に入る。やがて弐号機の姿を捉えたシンジは、弐号機へ組みついた。
『裏切ったな!僕の心を裏切ったな!』
だがシンジの叫び応える事無く、カヲルはセントラルドグマを目指す。そしてシンジも弐号機に邪魔されながら追撃する。
「まさか・・・使徒が人間のフリをして?」
≪・・・正確にはね、フリなんかじゃなかったんだよ。カヲル君は自由意思を司る第17使徒タブリス。だけどカヲル君は純粋な使徒ではなかったんだ。SEELEの老人達の思惑によって生み出された、第1使徒アダムの魂を人間に組み込んで作られた、人造の使徒だったんだよ≫
カヲルの素生に目を丸くする一同。同時に発令所では、本部自爆の準備が進められていた。
『パターンブルーがヘブンズ・ドアを越えたら、本部を自爆させるわ。みんな、悪いけど地獄の底まで付き合ってちょうだい』
覚悟を決めていた発令所職員達は、1人も逃げ出さずにミサトと運命を共にする事を承諾する。それは人類を守る為に戦ってきたからこそ、決断できた事だった。だが―
『セントラルドグマに巨大なATフィールドを感知!使徒の反応、消失しました!』
『チッ!これじゃあ自爆できない!あとはシンジ君に任せるしか・・・』
そしてセントラルドグマでは、弐号機に足止めをさせていたカヲルが、磔になった白い巨人と面会を果たしていた。
『やっと会えた、アダム・・・いや、これはアダムじゃない・・・これはリリス!?そうか、そう言う事か、リリン!』
首を傾げるアスナと古。だがエヴァンジェリンは予想が当たったとばかりに笑いだした。
「道理で貴様はアダムと言わずに白い巨人と断言した筈だ!だがどういう事なのか、詳しい説明ぐらいはしてもらうぞ?」
≪では順番に説明しますね。まずセカンド・インパクトが南極で起きた前日、父さんは葛城調査隊から離れて日本へ緊急帰国しました。これはSEELEによりセカンド・インパクトが起こると分かっていた事も理由の1つですが、実はもう1つ目的がありました。それはアダムのサンプル―遺伝子情報を持ちかえり、エヴァの開発を始める為でした≫
その言葉に、エヴァンジェリンが面白そうに笑う。
≪2000年9月13日にセカンド・インパクトが発生。その混乱の最中、2001年に人工進化研究所ゲヒルンが創設されました。ここが作られた目的は、赤木ナオコ博士によるMAGIと、父さんと母さんによるエヴァの開発、そしてこの土地に眠っていたリリスを利用する為だったんです。そしてエヴァの開発は父さんの持ち帰ったアダムの遺伝子データを基に、急ピッチで始まりました。そして何体かの失敗作を生み出しつつも、完成したのが零号機になります≫
記憶の光景が一度中断され、単眼の零号機が姿を見せる。
≪そして2002年。使徒の祖である白き月のアダムは、南極で父さんに回収されて、SEELEへと運ばれた。そして冬月さんを仲間に加えた父さん達は、零号機の開発データを基に、リリスを利用した初号機の開発に取り掛かります。同時期、ドイツでは第1使徒アダムを利用して、零号機の開発データを基に、弐号機の開発が始まりました≫
その説明に、アスナ達が頷く。
≪重要なのは、まずエヴァの建造目的。これはまず、使徒を撃破する為に必要でした。ですが、使徒がどこに現れるか分からないのをどうやって倒せば良いのか?そもそもエヴァは外部電源を必要とする為に、遠出はできません。基本的には拠点防衛兵器なんです。高畑先生だったら、この状況でどうしますか?≫
「そうだな・・・ぼくだったらどうにかして誘き寄せて迎撃するな」
≪父さん達も同じ事を考えたんです。使徒とアダムが接触すると、サード・インパクトが起こる。そうなると万が一の事態を考えれば、アダムを囮にする訳には行きません。そうなると代わりの囮が必要になります。そこで目を付けられたのが、黒き月のリリス―白き月のアダムと同格の存在でした≫
その言葉に、全員が『ああ!』と声を上げた。実際、カヲルは至近距離に近づくまで、リリスをアダムと誤認していたのだから。
≪そしてもう1つ重要な点があります。それは父さん達が、何で初号機をリリスから作り出したのか?という点です。零号機はアダムから作っているのだから、初号機もアダムを基本ベースとした方が、楽に作れる筈なんです≫
「・・・確かに、シンジさんが言う通りですよ。と言う事は、リリスでなければならない理由があった、という事ですね?」
≪おでこちゃんの言う通りだよ。まだ母さんが生きていた頃、父さんと母さんは僕の未来を守ろうとしていた。同時にSEELEが進める人類補完計画の存在も知っていて、最終的に人類は全滅する事も知っていた。父さんは色々理由をつけて先延ばしにしていたようだけど、セカンド・インパクトが起きると、もう止められない事を理解した。そこで目をつけたのがリリスだった≫
記憶の光景が、零号機から磔となった白い巨人へ切り替わる。
≪エヴァは人類補完計画に必要な部品であり、使徒迎撃に必要な戦力。そこで父さん達は初号機をリリスから作る事を思いついた。アダムとリリスに連なる者達は、互いに争う定めにある。使徒にしろ、他のエヴァにしろ、どちらもアダムに連なる存在です。そして使徒の時はエヴァ同士で肩を並べて戦っても、人類補完計画を力づくで阻止しようとすれば、SEELEが全てのエヴァを投入して邪魔をしにくるのは分かっていた。ならば同じ質―アダム製の初号機で戦うよりも、違う質―リリス製の初号機に勝機を見出すべきだと判断した≫
同じ質の物同士でぶつかれば、数が勝敗を分ける。それは当然のことである。だが質が違えば、数の劣勢を補える可能性が出てくる。
≪更に人類補完計画は最終的には人類を全滅させる事を目的としている。だからアダム製のエヴァの方が、SEELEにとっては都合が良い。だから未来を守りたい父さんと母さんにしてみれば、アダムと敵対するリリスの方が良かったんです。藁をもすがると言ってしまえばそれまでですが、人間が操る物として考えるなら、リリスの方が相性は良いだろうと考えた≫
「・・・質問があるです。アダムが敵だと言うのは理解できました。その為に、敵の敵は味方的な理論でリリスを利用しようとしたのも理解できました。ですがリリスもまた使徒なのですよね?何故、人間と相性が良いと考えたのですか?」
≪そうだね、その点も説明してあげるよ≫
夕映の問いかけに、シンジは説明を始めた。
≪まず重要なのは、どうしてこの土地―第3新東京市にリリスが眠っていたのか、という点です。この宇宙に初めて生まれた知的生命体である第1始祖民族によって蒔かれた命の種は、地球に2つ落下した。1つは南極に落ち、使徒の祖となった白き月のアダム。そしてもう1つは、かつて箱根と呼ばれた第3新東京市に落下していた黒き月のリリス。そしてリリスこそが、人類の祖なんです。つまり、このNERV本部のある大地下空洞ジオフロントこそが黒き月と呼ばれた人類発祥の地。そして初号機はリリスの複製品 ―神様のコピーなんです≫
「「「「「「ええ!?」」」」」」
≪更に言うなら、レイは第2使徒リリスのコピーである初号機の娘です。つまりレイは、人類の祖となった第2使徒リリスの娘でもあるんです。そして僕はゼルエル戦で初号機へ取りこまれた。その際、僕という存在を構成する材料と言うべき物は、サルベージの失敗によって全て流れ落ちてしまった。でも、僕は体を取り戻して、現世に帰還しています。これの意味が分かりますか?≫
シンジの言葉に考え込む一同。だが超が顔をあげた。
「リリスは人間の御先祖様。そして初号機はリリスのクローン。つまりシンジサンの体は、リリスの情報―正確には初号機の体を材料にして現世へ帰還したのではないかナ?恐らくは、初号機に眠る碇ユイ博士の意思によて作られた体に、初号機に取り込まれていた碇シンジという存在の魂を込められて」
≪正解だよ。超さんの言う通りだよ≫
「確かに、シンジサンが彼女を妹と呼ぶ理由が分かたヨ。今のシンジサンの体は、間違いなくあのレイと言う女の子と同じ、初号機と碇ユイの子供ネ」
愕然とする一同。
≪まあ、この後でSEELEの老人どもが馬鹿な事をしなければ、僕はただの人間として使徒として目覚める事無く一生を終えられたんだろうけどね。それはともかく、カヲル君の方に戻らせて貰うよ≫
セントラルドグマでは、カヲルがシンジの来訪を待っていた。やがてそこへ、弐号機を倒した初号機が姿を見せる。
初号機が、宙に浮いているカヲルを掴む。だがカヲルは抵抗する事無く微笑んでいた。
『僕達使徒とリリンは、どちらかが滅びなければならない。それは自然の摂理なんだよ』
『何を・・・言っているのさ・・・』
『遺言だよ』
その簡潔極まりない言葉に、初号機の中のシンジは動きを止めてしまった。その間にカヲルは、セントラルドグマの遥か上でカヲルと初号機を見ていた、レイの姿を捉える。
そんなレイに笑顔を送ると、カヲルは再びシンジへ目を向けた。
『さあ、殺してくれ。僕より君の方が生きるに相応しい』
使徒迎撃の任務と、親友との板挟みに苦しむシンジ。あまりにも重苦しい時間が流れ続ける。
そして、初号機の左手がカヲルの顔を隠す。完全に顔が隠れても尚、カヲルはシンジに微笑んでいた。親友が生きるという選択肢を選んだ事を喜んで。そして―
一斉に子供達が顔を背けた。大人達はシンジの決断に、顔を歪ませた。
落下していく物体。それは波紋を起こして、LCLの中に沈んだ。
≪こうして僕は、大義名分の為にカヲル君を殺したんです。自分の意思で、大切な親友を殺めたんです。今でも僕の右手には、フィードバックしてきた感触が残っていて、一度たりとも忘れた事はありません。右手に伝わって来たカヲル君の体温も、筋肉の弾力も、骨の硬さも・・・そして潰れていく感触と、指の間を滴っていく血液の生温かさと≫
「もういいよ!シンジさん、それ以上自分を責めないで!」
≪良いんだよ、早乙女さん。僕は自分の罪深さぐらいは自覚しているから。こうして、僕は全ての使徒を迎撃したんです。マナを助けられず、トウジを見殺しにし、加持さんを失い、アスカを傷つけ、レイに助けられ、カヲル君を殺す事で、やっと終わったんです。いや、終わった筈だったんです≫
シンジの記憶が切り替わる。そこにはモノリスの姿を見せるSEELEと、ゲンドウと冬月の姿があった。
≪大人の都合で、僕はまた戦場に連れ戻されたんだ!SEELEの老人どもと、父さんの歪んだ望みの為に!≫
To be continued...
(2012.07.08 初版)
(2012.07.14 改訂一版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
まずは捕捉から。
マナとマユミのタイミングについてですが、すっかり忘れていた為、適当にぶち込んでしまいましたwこの点については、どうか多目に見てやって下さい。
次に弱点であるフィードバックの必要性についてですが、これは自分で考えた設定です。他SS等では改良忘れ、公式では特に見解無しです(私の調査不足でなければ、ですが)。それを踏まえた上でゲンドウの性格を考慮した結果、フィードバックに意味を持たせてみました。それなりに筋は通ると思います。
話は変わって次回です。
シンジの罪と心の傷。大人達の思惑と行動。NERV本部攻防戦という真実。更には全てが終わった後のシンジの決断と行動に、少女達は泣き崩れる。
全てを告白し終えたシンジは安らかな気持ちで死を受け入れようとする。だがそこに姿を現したアスカによって、全てが誤解であった事を理解したシンジは、自らの愚かさに後悔する。
しかし決断は済まされた後。時計の針は進める事は出来ても、戻す事は叶わない。
アスカは自らを苛み、弟妹達は無力さを悔み、大人達は救えぬ事に怒る。
他人を信じる―自らの名に込められた想い。それを裏切った事を悔みながら、シンジは後悔しながら死を迎える・・・
麻帆良編最終話。次回も宜しくお願い致します。
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