正反対の兄弟

第四十六話

presented by 紫雲様


魔法世界、アリアドネー―
 この日、アリアドネー魔法騎士団候補学校総長セラスは、いつものように日課の書類仕事をこなしていた。20年前の大戦時には騎士団リーダーとして勇猛果敢に戦った彼女であるが、今は後進の育成の為に、その身を捧げる日々を送っている。
 そして今日も、いつも通りの日課をこなす筈であった。
 「セラス総長、申し訳ありません。お客様です」
 そんな声とともに部屋に入って来たのは、彼女の秘書である。
 「私にお客?そんな予定は入っていなかった筈よね?」
 「はい。その通りです。本日はどのような方からもアポイントは受けておりません。ただ、その方はアポイントは取っている、と言われているのです」
 首を傾げるセラス。心当たりが無いのだから、どうしようもない。
 「一体、誰?」
 「ゲンドウ、と名乗っております。20年前、そう伝えれば思い出してくれる、と」
 その秘書の言葉に、セラスが目を限界まで大きく開いた。
 「待ちなさい!確かにゲンドウ、そう名乗ったのね?」
 「はい。ひょっとしてお知り合いですか?旧世界の人間らしい容貌をした、黒髪の男性ですが」
 「・・・そうね、まずは話を聞く事にします。その方を第1応接室へ御案内するように。私は先に応接室で待っています。あと周囲には誰も近づけないように、良いですね?」
 一礼すると、秘書はセラスをおいて訪問客への対応に向かう。その姿が扉の向こう側へ消えた所で、セラスは机の中に仕舞われていた1枚の写真を取り出した。
 赤い翼アラルブラ―ナギ・スプリングフィールドを中心とする英雄達。だが最後まで表に出ようとしなかった2人の事を、セラスは良く知っていた。
 『何故、表に出ないのか?』
 常に裏方として動いていた男と少女。そんな2人に、若き日のセラスは問いかけた事がある。2人の功績は、ナギ達に劣るものではなかったし、何より2人はへラス帝国―言いかえれば亜人の勢力圏に住んでおり、ラカンと並んで、亜人達にとっての英雄と言いかえる事すら可能だったからである。
 『私達は誰かに褒められたい訳ではない。守るべき者を守る為に戦うだけだ』
 その言葉が、セラスとゲンドウと名乗る男が初めて交わした会話であった。そして大戦終結後、ある騒動の後にナギが旧世界へと渡った頃、2人は再びセラス達、魔法世界に残った者達の前に姿を見せた。
 『今から18年後、僕達は再び君達の前に現れる。その時、君達の力を貸してほしい』
 ゲンドウの頼みに、セラス達はすぐに頷いた。それだけの信頼を、ゲンドウは勝ち得ていたのである。
 そして月日が経ち、その約束を忘れていたセラスの前に、約束通りゲンドウが現れた。
 「・・・約束は守らないとね。今度は私達が力になる番だもの」
 写真を仕舞うと、セラスは応接間へと向かった。

メガロ・メセンブリア―
 ほとんどお客もいない、寂れた酒場。そんな店に、不似合いな客が姿を見せていた。
 「よう、マスター。まだくたばっていなかったみてえだな?」
 「ハッ!てめえこそ元老院議員になんてなっちまってどうする気だよ!かつての鬼教官は権力の犬になっちまったか?」
 笑いながら悪口の応酬を繰り広げる2人。2人はリカードが艦長どころか駆け出しの兵士だった頃からの付き合いである。大戦を経て主席外交官という要職についたリカードは思うように時間が取れず、こうして久しぶりの再会となったのである。
 「それで、俺を呼びだした緊急の用件ってのは何だ?」
 「手紙を預かっているぜ、ゲンドウからな」
 その言葉に、リカードがガタンと音を立てて立ち上がった。
 「何だと!?」
 「ああ、俺も驚いたぜ。ゲンドウの奴、20年前と全く変わって無かったぜ」
 スッと差し出される1通の手紙。それを受け取ったリカードは手紙に目を通すと、灰皿を引きよせて手紙に火を点けた。
 「・・・で、どうする気だ?」
 「そんなの決まってるだろう。勿論、あいつの力になるさ」
 「そうか・・・なら景気づけに一杯やっていきな。昔は戦の前に、必ず引っ掛けただろ?」
 その言葉にリカードはニヤリと笑うと、差し出されたウィスキーを一息でグイッと飲み干してみせた。

旧オスティア領―
 オスティア総督という地位に就き、日々激務に勤しんでいたクルト。そしていつも通りの時間に仕事を終え、執務室で体の筋を伸ばしてリラックスしていた所に、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
 「誰だ?」
 「随分と変わったね、クルト」
 ドアを開けた人物の姿に、クルトが『貴方は!』と叫ぶ。
 「クルト、落ち着かないとダメだよ?ほら、これでも食べて」
 突き出された紙袋。そこから漂ってくる香りに、クルトのお腹が素直な反応をみせた。
 「それは僕の手作りだよ。普段から忙しいんだ、外食ばかりしてるんだろ?」
 「・・・ええ、その通りです。ですが、今日は差し入れを持ってくる事が目的と言う訳ではないんでしょう?ゲンドウさん」
 「勿論、そうだよ。20年前の約束、その為に力を貸して貰いたい」
 その言葉に、クルトがピクッと反応する。
 「やはり、その気にはなれないかい?」
 「はい。正直、私は未だに納得できていません。何故、アリカ様だけが名誉を失わねばならなかったのか。私は、どうしても納得できないんですよ!」
 「クルト、君は本当に優しい子だね。20年前とちっとも変わってない」
 どこか嬉しそうなゲンドウの言葉に、クルトがムッと顔を顰める。
 「確かにアリカ王女の受けた苦しみは大きかった。それは事実だし、ナギに2年間も我慢させた僕が責められるのは当然だよ。けど、その判断は間違っていないと、僕は思っている。何故か分かるかい?」
 「・・・その時しかタイミングが無かった、そう言いたいのでしょう?」
 「違うね。単に助けるだけなら、すぐに助けられたよ。あの当時、アリカ王女を責めた連中を皆殺しにする覚悟と実力ぐらい、僕達にはあったからね」
 「だったら何故!」
 気色ばむクルト。そんなクルトを諭すかのように、ゲンドウが口を開いた。
 「アリカ王女に死んで貰う為だ。そして1人の女性アリカとして、幸福な時間を送って欲しかった。ナギの伴侶として、そしてやがては子供を産んで母親となる。そんな小さな幸せを過ごして欲しかった。その為には誰もが『アリカ王女は死んだ』という認識を持って貰う必要があったんだよ」
 「で、ですが、それではアリカ様の名誉はどうなるのですか!」
 「全てを手にする事はできない。何かを手にするなら、何かを捨てなければならない。それが世の真理と言う奴だ。王女のままでいてみろ、彼女は名誉を守れたかもしれん。だが幸福とは言えんかっただろうな。それは君の方が理解できるんじゃないのか?黄昏の姫御子の伝説は、君も知っているだろう?」
 グッと口籠るクルト。
 「黄昏の姫御子―アスナ王女。あの少女と同じ運命が、アリカ王女の子供に襲いかかってみろ。あの気丈なアリカ王女の事だ。間違いなく、自分の子供を国の為に・・・」
 「それは・・・そうですが・・・」
 「・・・まあ、君が納得できないのは無理も無いだろうね。仕事中に済まなかった、僕はこの辺で失礼させて貰うよ」
 急に席を立ったゲンドウの態度に『私の力を借りに来たんじゃないんですか!?』とクルトが声を張り上げる。
 「僕だって鬼じゃないからね、無理強いするつもりはないんだよ。それに、結局君は自ら動く事になるからね。それじゃあ、また」
 そのまま呼びとめる声を無視するかのように、ゲンドウは扉の向こう側へと姿を消した。
 遠ざかる足音。その音に、クルトは小さく呟いた。
 「・・・貴方こそ、何も変わっていませんね・・・」
 かつて謀略の師と仰いだゲンドウが置いていった紙袋に手を伸ばす。中に入っていたのは、地鳥の照り焼きと野菜を挟んだサンドイッチだった。
 そして中には1枚の紙片も入っていた。そこには『面倒くさくても自炊はしなさい』とだけ書かれている。
 クルトは、元は戦災孤児である。タカミチがガトウという養い親を得たように、クルトはゲンドウを養い親としていた。
 そしてゲンドウの謀略家としての姿、裏方に徹する姿を見続ける内に、自分もゲンドウのような才智を身につければ、いつかは恩返しができるかもと考えて、弟子入りを志願したのである。
 だがゲンドウはそれを拒否。代わりに与えたのは、家事全般に関する技術だった。
 当時のクルトはそれに不満を持ち、自らを高める為にとにかく技術を盗む事に時間を費やした。結果として、クルトはゲンドウから謀略の術を、詠春から神鳴流剣術を盗む事に成功している。そして根負けした詠春は、クルトを正式に弟子と認めて、自分の持つ全てをクルトに伝授した。
 だがクルト自身はよく理解していた。未だ、謀略家としての自分はゲンドウに及んでいない事を。
 『僕だって鬼じゃないからね、無理強いするつもりはないんだよ。それに、結局君は自ら動く事になるからね』
 その言葉が脳裏を駆け巡る。
 (・・・ゲンドウさん、貴方は最初から私が動くとは考えていなかったんですね?でも、それなら策で私を動かせば良い。そう考えた。そして私が動かざるを得ないとすれば・・・)
 その答えに気付いたからこそ、クルトは自分とゲンドウとの差を理解せざるを得なかった。

自由都市グラニクス周辺にあるオアシスの遺跡―
 立ち寄る者もいないオアシスの遺跡。そこがジャック・ラカンの隠れ家(本人的には別荘と言い張っている)である。その隠れ家で、ラカンは古い知り合いを待っていた。
 「よお、久しぶりだな」
 「ええ、相変わらず元気そうで何よりです。簡単ですが、肴でも作りましょう。それでも食べながら、話をするという事で」
 「分かってんじゃねえか。美味いのを頼むぜ」
 手慣れた手つきで4品ほど作りあげる。その香りに『おお!』と歓声を上げながらラカンは早速手を伸ばした。
 「久しぶりに食ったが、相変わらずうめえなあ」
 「そう言って貰えると作った甲斐がありますよ」
 昔話に花を咲かせつつ、料理も酒もハイペースでお腹の中に収めていくラカン。そんなラカンが、急に真剣な顔を作った。
 「それで、用件についてだが」
 「手紙の内容通りです。20年前の約束、それを果たしていただきたい。それが結果として、ナギやアリカ王女の為にもなります。同時に、ガトウの為にもね」
 弱い所を突かれたラカンが、珍しく口籠る。3人の名には、それだけの重みがあった。
 「とは言え、僕も無理にとは言いません。ラカンさん、貴方が自分の目で確かめれば良い。そしてジャック・ラカンとして少しぐらい力を貸しても良いと考えれば、その時に動いて下されば十分です」
 「・・・おいおい、もし俺様の眼がねに叶わなかったらどうすんだよ」
 「そんな事はありえませんよ。その点は僕が保証します」
 赤き翼アラルブラメンバーは、基本的に楽観的・即断即決的な行動が主であった。楽観的なメンバーはナギとラカンぐらいしかいなかったが、この2人はあまりにも強烈すぎる個性とリーダーシップの持ち主であり、他のメンバーが幾ら慎重でも全体としてみれば即断即決で動いてしまう事が多かったのである。そんな一行の行動方針に『慎重』という方向修正をかける事が出来たのは、唯一ゲンドウだけであった。特にゲンドウの慎重さといえば異常な物があり、常に2重3重の策を用意するほどの徹底ぶりである。
 大戦時、あまりの慎重ぶりに悪戯心が湧いたラカンが、ゲンドウの慎重さを揶揄した事が1度だけあった。それに対してゲンドウは当然のように応えた。
 『敵の中に、無名だった頃のジャック・ラカンがいないとは、誰にも断言できない。私と同等の謀略家がいないとは誰にも断言できない。だから私は最悪を考えて動くのだ』
 その言葉に、ラカンは素直に自分の言葉を謝罪し、以後はゲンドウの策に異論を挟むような事もしなくなった。それだけの信頼感を、ラカンはゲンドウに抱いたのである。
 そのゲンドウがここまで買っている。その事実に、ラカンは久しぶりに心が高揚してくるのを感じた。
 
7月下旬、麻帆良学園中等部―
 夏休みに入って数日が過ぎた頃、アスナ・木乃香・刹那の3人は近右衛門に学園長室へと呼びだされていた。
 「英国文化研究倶楽部、のう?もっとも研究するのは、英国文化だけではないようじゃがな、ふぉっふぉっふぉ」
 「・・・その・・・ダメでしょうか?」
 「まあ可愛い子には旅をさせろと言うからのう」
 ポンと認可印を押す近右衛門。その瞬間、アスナと木乃香から歓声が上がる。
 その姿に顎鬚を撫でながら、近右衛門は口を開いた。
 「まあ落ち着くんじゃ。代わりと言っては何じゃが、お主らに頼みたい事があるんじゃよ」
 「学園長?」
 「何、大した事ではないんじゃがの。お主らはイギリスへ行くつもりじゃろう?そして儂は、イギリスに何があるかも重々承知しておる」
 近右衛門の言葉に、刹那が真剣に頷く。その雰囲気に、アスナや木乃香も喜びを押さえて話に耳を傾けた。
 「儂が心配しておるのは、シンジが暴走しかねない事じゃ」
 「お兄ちゃんが暴走するってどういう事や?」
 「あれはストレスを内に抱え込んで、限界まで貯め込むと爆発させるタイプじゃ。普段はお主らの纏め役としての義務感があるから大丈夫じゃろうが、世の中、何があるか分からんからのう。念の為、という奴じゃよ」
 その言葉に、麻帆良祭の一件を思い出す少女達。そして何の躊躇いも無く、コクコクと頷いてみせる。
 「確かに否定できない事実ではありますね・・・」
 「で、でもシンジさん、もう使徒の力は無いんでしょう?攻撃手段と言っても人形使いだけなら・・・」
 「アスナ、知らへんの?お兄ちゃんの義手、ロケットパンチ撃てるんや」
 ギョッと木乃香を見るアスナ。刹那も近右衛門も、その言葉には意表を突かれたのか言葉を失っていた。
 「赤木博士と聡美ちゃんが、お兄ちゃんの義手を作っとるのは知っとるやろ?ただの義手じゃつまらへん言うて、色々改造しとるらしいんよ。お兄ちゃんもタダで義手を作ってもろうとるから、あまり強う言えへんらしくて・・・」
 「・・・木乃香、それは本当の事かの?」
 「この前付け替えて貰うた3代目の義手はロケットパンチやったで。エヴァちゃんの別荘で見せてもろうたから間違いあらへん。4代目の義手はドリルが飛ぶようにする言うて、聡美ちゃん笑うとったしな」
 頭を抱える近右衛門。刹那は虚ろな笑い声を上げ、アスナは引き攣った笑顔を浮かべている。
 「あのロケットパンチ凄かったえ。岩にぶつかった瞬間、ドッカーン!って爆発起こしたからなあ」
 「爆発?良く壊れなかったわねえ」
 「何でもエヴァの装甲板を外装に利用しとったらしいえ。赤木博士が『N2の直撃を至近距離で受けても、エヴァで踏んでも壊れない義手』を目指したらしいんや」
 そんなN2に耐える義手を作った所で、本人が耐えられなければ意味は無い。その事をリツコと聡美はすっかり失念しているらしかった。
 「このちゃん。そこまで戦闘に特化した義手では、繊細な動きは出来ないんですよね?」
 「そこはお兄ちゃんがクリアしたんや。お兄ちゃん、人形使いやろ?左肩の断面に糸を埋め込んで、動きを補助できるようにしてもろうた言うとったえ。これで左手でもキャベツの千切りができるって喜んどったわ」
 「キャ、キャベツの千切りですか?」
 確かに戦闘重視の荒んだ言葉を聞かされるよりはマシである。だが最先端技術の粋を尽くしたロケットパンチが可能な義手を『キャベツの千切り』に使えるからと喜ばれては、開発者の2人も心穏やかではいられない筈である。
 「全く、あの2人は何を考えておるんじゃ・・・まあ良い、それについては儂の方から2人へ言っておくわい。シンジを改造されてしまってはたまらんからのう」
 リツコと聡美のマッドぶりを思い出し、近右衛門のジョークをジョークとして受け取れない少女達であった。

校舎屋上―
 夏の日差しがサンサンと照りつける屋上。そこで大きな声で点呼を取る子供達の姿があった。
 「これでお前らのネギま部(仮)は正式に認可された!麻帆良学園の正式倶楽部として認可があると言う事は、今後の情報収集や国内・海外活動において多大なアドバンテージを得る事になるだろう!これで満足か?ガキども!満足なら返事をせんかあ!」
 「「「「「「ハイ!」」」」」」
 一斉に声を上げる子供達。ただシンジ・アスカ・千雨・茶々丸の4人だけは後ろの方から苦笑しながら眺めていた。
 麻帆良祭が終了して、既に1月半。ネギの父親捜索という目標の下、子供達は確実に強くなっていた。その筆頭がアスナである。
 ネギま部(仮)部長就任の為にエヴァンジェリンから課せられた『1週間極寒冬山サバイバルテスト』を意地で乗り越え、更にはエヴァンジェリンから対魔法使い戦闘を、刹那から対戦士戦闘の訓練を受けた事により、アスナは名実ともに部長に相応しい実力を身につけるに至ったのである。
 そんなアスナと同様に、急速なレベルアップを果たしたのが古とアスカ、シンジの3人である。
 もともと腕の立つ古とアスカは『気』を習得した事により、急激に強さを増していた。特にアスカはアーティファクトを手に入れた事もあり、今では刹那相手に本気で互角の勝負を行えるほどである。
 同時に、別方向に能力を伸ばしていたのがシンジであった。師である千草からは幾つかの術を、同時に完全記憶を活かして聡美からは茶々丸のメンテナンス方法を習得し、別の意味でネギま部(仮)の生命線へと成長していた。特にシンジの場合、戦闘用人形である茶々丸セイバー(フル武装バージョン)がいざという時には茶々丸の予備ボディともなるので、茶々丸が遠出するには必要不可欠な人材でもあったりする。
 そんなメンバーを見ながら、エヴァンジェリンが口を開いた。
 「坊や。確か出発は12日だったな?あと2週間、無理をすればまだ3・4ヶ月の修業は可能だな?」
 「え?」
 「まあ、どうせ首都を訪れるだけなのだから、問題など起こらんだろうがな」
 腕を組みながら、ワイワイと騒ぐアスナ達を見るエヴァンジェリン。
 「はい。僕もいきなり父さんの情報が手に入るとは思っていません。今回はちょっとした情報収集と・・・遠出をしても付近の観光地巡りぐらいですから」
 「だろうな。どちらかと言うと、今回暴走しかねないのはシンジの方だ。万が一、あれが暴走したら、速攻で取り押さえろ。アイツの弱点は速攻。策を練る間も与えずに制圧する事だからな」
 「・・・SEELEですか。魔法世界にいるらしいですね」
 ネギの言葉に、ウムと頷くエヴァンジェリン。
 「ジジイから報告が来ている。魔法世界―特にメガロ・メセンブリア上層部にSEELEの手が伸びていると言う確実な情報が手に入ったそうだからな。今はジジイ達が上層部弾劾の為の準備をしている所だ」
 「・・・なあ、1つ訊いていいか?どうしてそんな確実な情報が分かったんだ?」
 突然の千雨の質問。だがエヴァンジェリンは気を悪くする事もなく、面白そうに応えてみせた。
 「所詮は相互利益の関係という奴さ。シンジの宣戦布告とあの一連の騒動。当然の如くメガロ・メセンブリア上層部に流れた。だがこちらに処罰の話は来ていない。これの意味が理解できるか?」
 「・・・そうだな、上が握り潰したって所か?」
 「正解だ。ならばその理由は?」
 「・・・SEELEがどんな組織だったのか。それがバレると向こうのお偉いさん達も芋づる式に挙げられるからだろ?」
 千雨の答えに、エヴァンジェリンが満足そうに頷いた。
 「その通りだ。おかげで心当たりのある連中は『巻き添えを食らいたくない』とばかりに護衛を大量に雇い始めているそうだ」
 「そいつら馬鹿か!?そんな事すれば、自分は奴らと繋がってると公言してるような物じゃねーか!」
 「それだけ死にたくない、と言う事だろうよ。世の中、馬鹿が多いと言う事さ」
 日傘をクルクル回しながら、エヴァンジェリンがシンジへ視線を向ける。その先にはアスカとハルナ、木乃香と刹那の4人に抱きつかれているシンジの姿があった。
 「ま、それはそれとして、だ。茶々丸」
 「はい、準備はできております」
 メイド服姿の茶々丸がスッと前に出る。そしてメンバー1人1人に白い翼状のバッチを手渡しだした。
 「これは餞別だ」
 お揃いのバッジを前に、更にテンションを上げる少女達。
 「みんな!イギリスへ行きたいかあ!?」
 「「「「「「おお!」」」」」」
 「何が何でも行きたいかあ!?」
 「「「「「「おお!」」」」」」
 そんな騒がしい光景の中、走り去る足音をエヴァンジェリンの耳は捉えていた。そしてニヤリと不気味な笑顔を浮かべた。

中等部女子寮、食堂― 
 「それで、詳しい事を聞かせていただけるのでしょうね?」
 不機嫌そうなあやかの言葉に、この場に招集された双子姉妹がウンウンと同調するかのように頷いていた。
 あやかが不機嫌な理由。それはアスナがネギま部(仮)を設立し、イギリスへ行くという計画を立てていたからである。彼女にしてみればこれだけでも腹立たしいのに、アスナはさらにあやかに『ネギの父親の捜索』という頼みごとまでしていた。まるで蚊帳の外に置かれて利用されたような状況だったのだから、機嫌が悪くなるのも無理は無かった。
 そして食堂には、連絡を受けて集まった少女達が勢揃いしている。あやかと双子姉妹に加えて、美砂・円・桜子のチア部3人娘、アキラ・裕奈・まき絵・亜子の運動部4人娘の合計10人である。もっともアキラだけはネギま部(仮)への参加というよりは、暴走を止めるお目付役的な雰囲気が強かったのだが。
 「今日は偶然にも夏祭りの日。チャンスと言う物は全員に平等であるべきだと思ってな。これと同じバッジを、奴らも持っている。それを持ってくれば、追加で参加を認めてやろう」
 その言葉に、少女達の目がキラーンと輝く。
 「茶々丸」
 「はい。こちらが部員のメンバー表になります」
 スッと差し出されたメンバー表を受け取り、互いに争い合うかのように目を通し始める少女達である。
 「・・・部長がアスナ、副部長がパル、書記が木乃香、肉まん大臣が古菲・・・肉まん大臣って何!?」
 「驚くのはそっちじゃないって!書記護衛が桜咲さん、情報担当が朝倉とさよちゃん、経理担当がシンジさん、一般部員として長瀬さん、本屋ちゃん、ゆえ吉、コタロー君、それからアスカさんか」
 「麻帆良武道会の猛者様達が半分占めてるんだけど?狙うなら本屋ちゃん、ゆえ吉、木乃香、アスカさんと言ったところかな?」
 喧々諤々の論争を始める少女達。その姿に面白くなってきたぞと、エヴァンジェリンはほくそ笑んでいた。

運動部4人娘vsのどか・夕映―
 建物の陰から、浴衣姿の4人は獲物を物色していた。そして最初に目をつけたのが、料理人姿の五月と歩いていた、チャイナドレスの古菲である。その左肩には、4人が狙うバッジが輝いていた。
 「確かにバッジつけてるね・・・しかし、くーちゃんはガチだからなあ」
 「スルーするんだ?」
 「木乃香の場合、隣には桜咲さん。パルとアスカさんの場合、隣にはシンジさん。となると、選択肢は1つだ」
 裕奈の目がキラーンと光る。その目は、浴衣姿で仲良く歩く2人の姿を捉えていた。
 「図書館の2人!?」
 「フフフフフ、あれが私達のターゲットだ!」
 「えー!?」
 眼を吊り上げて悪役笑いを浮かべる裕奈。
 「でも一番おとなしそうな2人を狙うなんて卑怯ちゃう?」
 「最も弱き場所から叩くは兵法の基本!確実にイギリスへ行くにはやむを得ないと言えよう!」
 ジャキッと音を立てて、麻帆良祭最終日に配られた銃を構える裕奈。まき絵は乗り気、亜子とアキラは消極的賛成といった感じである。
 「でもさあ、さすがに顔が割れていると躊躇いと言うか気まずいものが・・・」
 「む。確かに・・・ならば!」
 近くの夜店に駆けこんで、お面を買うと裕奈はそれを被りながらのどかと夕映の前に躍り出た。
 「ようよう姉ちゃん!良いバッジ持ってんじゃねえか!怪我したくなかったら、さっさとそれをよこしな!」
 精一杯ドスの効いた低い声を出しているのだが、お面の横からはみ出ている、あまりにも特徴的なサイドポニーが全てを物語っていた。
 「何してるですか?裕奈さん」
 「何い!?何故バレた!さすがゆえ吉!」
 ズドドドドドッ!と音を立てながらまき絵と亜子が走り寄る。そしてまき絵のドロップキックが、見事に裕奈を吹き飛ばした。
 「い、一体、何が?」
 「いやいや気にしないで!それより、2人ともかわええバッジしとるなあ!」
 「そうそう、ちょっとだけ貸してくれない!?」
 異様な迫力で詰め寄る亜子とまき絵。更には復活した裕奈も加わり、ますます迫力が増していく。
 この異様な雰囲気に気付かないほど、夕映は頭の回転が鈍くは無い。すぐに級友達がおかしい事に気がついた。
 「ダメです。渡す訳にはいきません」
 「ええー!?何でよ!?」
 「何でも何も怪しすぎです。何か裏があるでしょう」
 シーンと静まり返る少女達。だが裕奈が一足早く動いた。
 「ええい!ひっ捕らえいっ!」
 「な、何をするですか!?」
 「悪いねお2人さん!かくなるうえは実力行使だ!」
 のどかの背後からアキラが、夕映の背後から亜子が羽交い絞めに入る。しかし夕映は袖から練習用の魔法の杖を取り出すと、咄嗟に閃光を発して目くらましを仕掛けた。
 『キャッ!』という声とともに拘束が緩む。その瞬間、夕映はのどかの手を引っ張りながら走りだした。
 「逃げるです!」
 「逃がすか!敵を撃てヤクレー・トウル!」
 パシュパシュパシュと光が放たれ、小さな爆発が起こる。その攻撃に足を止めた2人に向けて、まき絵がリボンを放つ。
 だが夕映は油断していなかった。
 「大気の精よ息づく風よエレメンタ・アエリアーリア・ウエンティ・スピランテース疾く来りて我が敵より我を守れキトー・アデウンテース・アブ・イニミーキス・メイス・メー・デーフェンダント風陣結界リーメス・アエリアーリス!」
 まき絵のリボンが弾かれる。そこへ畳みかけるように風による眼潰しをしかけた夕映は、追いかけるどころではなくなった裕奈達を置いてのどかとともに走り去った。
 やがてしばらく走った所で、夕映はやっと足を止めた。
 「一体、裕奈達どうしたんだろう?」
 「・・・このバッジを貰ってすぐに、この騒ぎです。もしかしたら、エヴァンジェリンさんによるテストなのかもしれません」
 「テスト?」
 「そうです。恐らく、このバッジを無くしたら強制退部になると考えるのが妥当でしょうね」
 驚きのあまり、言葉を失うのどか。だがそんなのどかを落ちつけるかのように、夕映は対抗策を口に出した。
 「大丈夫です。のどかの力があれば、この危機は切り抜けられるですよ。今こそ、修業の成果を見せる時です」
 「う、うん!『いどの絵日記デイアーリア・エーユス簡易小型版4分冊ミノーラ・クウアツドルプラ来れアデアット!」
 のどかの前に、手帳サイズのいどの絵日記が4冊分浮かび上がる。そこには4人の考えている事が全て書きだされていた。
 「これで4人の考えがリアルタイムで追えるよ」
 「流石です、のどか!では逃げ切りましょう!」

双子姉妹vs楓―
 出店が並ぶ、龍宮神社の境内を浴衣姿の3人は仲良く歩いていた。中央には楓、その両脇を風香と史伽が歩いている。
 手には綿あめを持ち『お祭り楽しいねえ』と言いながら、いつも通りの自分を演じる双子達。狙いは楓の左胸に止められているバッジである。
 一方の楓はと言えば、やはりこちらも夏祭りを楽しみきれずにいた。もっとも、それは双子を気にしているのではなく、今後、魔法世界へ赴くにあたって、どれだけ修業を積めば良いのかという悩みである。
 剣からの『シンジの護衛』という任務は、未だに解かれてはいない。寧ろシンジの素生と、今後の行動方針を知って以来、剣からは厳命という形での指示が下されたほどである。
 それに異論など無い楓だったが、敵の力量が読めないという不安が、楓の心に不安の波を起こしていた。
 シンジの読み通りなら、SEELEには魔法使いとして高い実力を持つ者はいない。あくまでも政治的・経済的に強力な組織ではあるが、英雄クラスの個人戦闘能力を持つ者はいないのである。だからその点に不安を感じた事は無い。
 問題なのは、SEELEがその点を魔法世界の住人に補わせている事である。それは京都で遭遇したという、白髪の少年を思い出させた。
 (・・・フェイト・アーウェンルクス・・・)
 京都ではシンジの命を奪いかけた実力者。年齢的にはネギと同年齢のように見えるが、その実力は桁違いである。
 一瞬とは言え、交戦したエヴァンジェリンに言わせれば、魔法使いとしては英雄クラスと言って良い実力者という評価が、フェイトの実力を物語っている。
 『シンジと互角に近い最大魔力放出量と、刀子と互角に近い白兵戦技能、更には咸卦法と互角に近い身体能力を併せ持つ万能タイプ。そして石化という一撃必殺の攻撃手段を持っている、坊やにとっては最悪の敵』
 それがフェイトに対するエヴァンジェリンの評価である。更には小太郎からフェイトが京都での襲撃チームの中で参謀役を務めていた事も聞かされ、楓はフェイトの危険度を更に上方修正させていた。
 (全く、次から次へと問題続出でござるな)
 無意識の内に楓の歩くスピードが遅くなる。そこへタイミング悪く双子姉妹はバッジ奪取の為に飛びかかっていた。
 「「え?」」
 楓の眼前で、互いに頭をぶつけあった双子が崩れ落ちていく。
 「・・・何をやっているでござるか?2人とも」
 眼を回した2人には、それに応える余裕は全く無かった。

ハルナ・古・アスカvsチア部3人娘―
 円・美砂・桜子の3人は、自分達ではバッジを奪取できないと考え、他人を利用しようと目論んだ。そして古打倒を掲げる武道サークルを中心に、作戦を展開させる事には成功したのである。しかし、彼女達にとって想定外のアスカやハルナ達の実力が、その目論見を吹き飛ばしていた。
 ハルナは落書帝国で呼びだした魔人を中心に迎撃、古はハルナの背中を守る様に陣取って確実に倒していく。そこへ攻撃を得意とするアスカが、得意の足技をメインに次々蹴り倒していくのである。
 「えええええ!?くーちゃんはともかくとして、アスカさんのあの強さは何!?」
 「つーか、パルの後ろにいるにーちゃんは誰!?」
 この作戦の為に、参加を志願した猛者は約40名。だが10分と持たずに、お面を被った精鋭達は大地に倒れ伏していた。
 「あのねえ、アスカは僕より強いんだから。あの人達ぐらいで勝てる訳ないでしょ」
 後ろから聞こえてきた声に、ビクウッと身を竦ませる3人娘。ゆっくり振り返ると、そこにはやはり浴衣姿のシンジ―ただし赤い首輪にリード付き―が立っていた。
 「お、驚かせないでよ!」
 「それはこっちの台詞だよ。いきなり襲い掛かってくるって、何を考えてるのさ」
 言葉も無い3人。だがその時、シンジの浴衣に付けられているバッジに気がついた。
 「そのバッジが欲しいのよ!」
 「これを?」
 コクコクと頷く3人。シンジの浴衣には、白いバッジが安全ピンで止められていた。その数は、偶然にも3つある。
 「良いけど。はい」
 「「「へ?」」」
 「あんまり悪さしちゃダメだよ」
 そのままシンジは3人をおいてアスカ達に合流。アスカにリードで引かれながら、シンジはハルナや古菲達とともに出店巡りへと向かってしまった。
 「・・・手に入っちゃったねえ・・・」
 「・・・うん。これなら最初から頼んでおけば良かったね・・・」
 「・・・そうだねえ。でもバッジは手に入った訳だし・・・」
 3人娘は互いに顔を見合わせると、勝利の笑みを浮かべて、歓声を上げながら走りだした。

アスナvsあやか―
 チア部3人娘以外は全員奪取に失敗したと言う報告に、あやかは苛立ちを募らせていた。そして遂に、彼女自身もバッジ奪取に向けて動き出したのである。
 狙いは彼女がライバルと認める、1人の少女。
 「アスナさあああああん!勝負ですわあああああ!」
 眼の色を変えて爆走してくるあやかに、アスナが驚きで体を硬直させる。だが積んできた鍛錬の賜物か、アスナはあやかをいとも簡単に投げ飛ばしていた。
 「だ、大丈夫!?」
 反射的にとは言え、自分がやった事に罪悪感を覚えるアスナ。そんなアスナの態度に、『自分は相手にされていない』と感じて、あやかは歯噛みして悔しがる。
 (ならば、本気でいかせていただきます!)
 半身の構えから、一気にアスナの懐へ飛び込むと同時に、顎へ掌打を叩き込む。
 (天地分断掌!脳震盪を起こされては、いくらアスナさんと言えども!)
 だがアスナは倒れ際に、あやかの右腕に足を絡めると、そのままあやかを道連れにする。折角脳震盪を起こしても、自分まで身動きを封じられては全く意味が無い。
 じたばた足掻くあやかだったが、結局はアスナの前に敗北を喫する事になってしまった。
 「酷いですわああ!アスナさんは武芸においてはライバルだと思っていたのに!」
 「あー・・・いや私今、特殊な訓練受けてるからさあ・・・」
 (隙アリ!)
 一瞬の隙を突いてあやかがバッジに手を伸ばす。だがその手をアスナは払いのけると同時に、再度、あやかを盛大に投げ飛ばしていた。
 「ちょっと、何なのよ、いいんちょ!」
 「良いからそのバッジをお渡しなさい!」
 その言葉に、やっと状況を飲み込むアスナ。彼女と一緒に行動していた刹那と木乃香もあやかの思惑を理解して『そう言う事か』とばかりに頷いていた。
 「ずるいですわ!ネギ先生と旅行へ行くなんて!しかもネギ先生の故郷という事は、ご家族に認められるという事!それはネギ先生の伴侶も同然!」
 「人を勝手にショタ扱いするな!」
 そこへ騒ぎを聞きつけた夕映とのどか、2人を追っていた運動部4人娘、更にはシンジからバッジを貰ったチア部3人娘も姿を見せた。
 「何でですの!貴女達だけ不公平ですわ!」
 「「「そーだそーだ」」」
 あやかの憤懣に、裕奈・まき絵・亜子が賛同する。これにはアスナも言葉が無い。
 どう説明した物かと悩んでいる所へ、静かな声が割って入った。
 「別に不公平じゃないでしょ。ちゃんとエヴァジェリンさんからチャンスを与えられているじゃないか」
 「シンジさん!?」
 「僕の言っている事は間違っているかい?ちゃんとチャンスを与えられて、でも君達は失敗した。ただそれだけの事だよ。与えられたチャンスを物にできなかったのは、君達自身の実力不足が原因なんだからね」
 「そ、それは・・・そうですが・・・」
 あやかが急に口籠る。確かにシンジが言う通り、彼女達にもチャンスは与えられていた。それもネギま部(仮)メンバーには内緒という有利な条件付きで。これで負けて尚、不公平と口に出してしまった事の意味に、あやかは気付いたのである。
 裕奈達も不満はあるようだが、それでもシンジの言い分には理解できる物があったのか、渋々と矛を収める。対照的にニコニコと上機嫌なのがチア部3人娘であった。
 「ごめんね、いいんちょ。代わり私らが行ってくるからさ」
 ヒラヒラとバッジを見せつける美砂。円や桜子も舌の先をチョロッと出して、笑顔を見せる。
 「うう・・・貴女達いいい・・・」
 「・・・なあなあ、3人ともそのバッジ誰から手に入れたん?」
 無言でシンジを指差す3人。恨めしそうな少女達の視線も突き刺さるが、その時、夕映がふと気付いたように口を開いた。
 「シンジさん。シンジさんはバッジを複数貰っていたのですか?」
 「まさか。貰ったのは1つだけに決まってるでしょ」
 視線がチア部3人娘に向く。
 「・・・ひょっとして、偽物ですか?」
 「そうだよ。そのバッジを作ったのは葉加瀬さんでね、外装だけ同じものをダミーとして作って貰ったんだよ。そんな事をしちゃいけないなんてルールは、どこにも無かったからね」
 ニッコリ笑ってのけたシンジに、複雑な視線が突き刺さる。
 「勿論、本物は隠してあるよ。持ち歩かないといけないなんてルールも無かったからね。万が一、落としちゃった時の事を考えれば、持ち歩くなんて愚かな事だよ」
 美砂・桜子・円が一斉にバッジを地面に叩きつけて悔しがる。裕奈とまき絵が『敗者の集いへようこそ~』とわざとらしく手招きして、火に油を注ぐ。
 「シンジさんが悪党なの忘れてたあああああ!」
 「卑怯者おおおおお!」
 「いや、負け犬の遠吠えが心地良いねえ」
 わざとらしく笑ってみせるシンジの態度に、周囲から呆れたような視線が注がれる。木乃香以外の全員が『この悪党が!』と無言の内に語っていた。
 「・・・ところで、本物はどこに隠したですか?」
 「アベルが持ってるよ。護衛者として茶々ゼロつき」
 最悪の隠し場所に、言葉も無い夕映である。どう足掻こうと、バッジの奪取は不可能だという事が分かったからである。
 「この対応は、さすがにエヴァンジェリンさんも予想できなかったでしょうね」
 刹那の言葉に、アスナが頷いていた。



To be continued...
(2012.08.04 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は久しぶりに悪党シンジの登場となりました。最近は犬と化したシンジや、シリアスなシンジがメインだった為、新鮮な感覚でした。
 それと今回の前半部分においては、京都編のナギの隠れ家で詠春が口にした赤き翼アラルブラ最後の2人ラストメンバーの1人ゲンドウが登場しております。重要キーパーソンではありますが、本格登場はもう少し後になりますので、しばらくお待ち下さい。
 話は変わって次回です。
 次回は暴走爆弾娘ことアーニャの登場となります。ネギの後を追いかけてイギリスから遥々やって来た少女。日本という異国、更には魔法使いとしても特殊な環境下で生活するネギの姿にカルチャーショックを受ける事に。
 そんな感じの話になります。
 それではまた次回も宜しくお願い致します。



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