第五十九話
presented by 紫雲様
超鈴音一行の拠点―
超との思いがけない再会を果たしたシンジは、改めて超にアスカを紹介すると、超に誘われるがままにアジトへと足を向けた。
どこにでもある廃墟の1つ。その地下へと通じる狭い入口を潜りぬける。潜りぬけた先は、入口からは想像もつかないほどに大きく、かつハイテク機器に占領された一室であった。
中には超の仲間と思しき人影が、忙しそうに働いている。そんな彼らは超に目礼だけすると、自らの役割を果たす為に一心不乱に仕事へと戻る。そんな光景を何度か繰り返した後、超は少し小さめの部屋へとシンジとアスカを連れ込んだ。
「すまないネ。ハッキリ言てしまえば、あまり贅沢は出来ない状況ネ。正直、水ぐらいしか出してやれないのだが、良いかナ?」
「十分だよ。それよりお互いに情報交換をしたい。超さん、君も僕達に対して訊きたい事がある筈だ」
「話が早くて助かるヨ。ではお言葉に甘えさせて頂くネ。私は麻帆良祭が終わった後、この世界へ戻って来たヨ。シンジサンから譲られたミストルティンを手土産にネ。ただ実用化に至るには、致命的な問題があたヨ」
「致命的な問題?」
「ミストルティンにはATフィールドを無効化する能力が無かたネ。初めて屠た量産型は、奇襲攻撃だた事もあて倒す事が出来たヨ。そういう意味では、ミストルティンの有効性は証明されたと言ても良いネ」
超が何も無い空中に指先を伸ばすと、そこにミストルティンで死を迎えた量産型の映像が浮かび上がった。
「ただ甘かたのは、量産型の情報共有能力だたネ。奴らはミストルティンの能力を把握すると、私達の攻撃をATフィールドで必ず防ぐようになたヨ。そしてミストルティンにはATフィールドを突破する力が無かたネ」
「そういう事か、神殺しの武器ではあるけど、ロンギヌスほどには・・・」
「そういう事ネ。故に、今はミストルティンを改良する為に研究中ヨ。あれからかなりの月日が経ているが、まだまだ見通しは立ていないネ。もとも量産型も、警戒しているのか今までに比べれば、かなり動きは鈍くなてきてはいるのが唯一の救いヨ」
超の指先が何も無い虚空を手早く動く。すると活動をしている量産型の映像が映りだした。
「これは人工衛星を通じて監視している量産型の現状ネ。動いているのは5体。これらを何とかしなければ、人類の復興はあり得ないと言て良いネ」
「・・・現状についてはおおまかだけど理解したよ。それじゃあ、今度はこちらの番かな」
シンジが麻帆良祭が終わってからの出来事を説明して行く。フェイトによって20年前に飛ばされ、紅き翼 の最後の2人 になったという流れには超も驚いたように目を見開いた。
「・・・こちらの現状としては、こんなとこかな。まあ時間転移の儀式で、超さんと再会出来るとは思わなかったけどね」
「うむ、シンジサンの状況は良く理解出来たヨ。私にも時間転移の技術はあるネ。それを使えば、今度こそ2人を元の時代へ送り返してあげられるヨ」
「本当なの!?」
アスカの反応に、超がうむ、と頷く。
「ただ、その為には量産型を何とかしないといけないネ。私の時は量産型は油断していたヨ。だが今度はそうもいかないネ」
「・・・ミストルティン、か」
「そう言う事ネ。外で延々と作業をしていたら、確実に量産型は『自分達を殺す為の準備をしている』と判断するのは間違いないヨ。現に、私達は1体倒しているのだからネ」
超の筋の通った言い分に、アスカも頷かざるを得ない。
「ミストルティンでトドメを刺せるのは間違いない。となるとATフィールド突破の為の技術や戦術が必要になる。アスカ、君は僕よりもNERVにいた期間は長いだろう?何か知らないかな?試作兵器とか、研究案とかでも良いんだけど」
「あのミサトが考える事よ?エヴァが無ければN2使えば良いじゃない、ってノリだったからね」
「父さんも、エヴァ以外での使徒殲滅は全く考えていなかったからなあ。そうなると戦自絡みの方が可能性は高いかな?エヴァ抜きでの使徒殲滅を考えていたみたいだしね」
「ああ、報告書で読んだわよ。確かJAだったわね。でもあれは無理よ。放射能まき散らすのが関の山よ」
アスカの容赦の無い評価に、シンジも苦笑いするばかりである。JAのお粗末さに関しては、シンジ自身が当事者として関わっていたのだから、否定出来なかった。
「ただ、ラミエル戦で使った自走陽電子砲。あれって戦自の物だよ?エネルギーを考えると使用は難しいけど、エヴァ以外での殲滅は不可能じゃあないんだよね」
「ふむ、戦自というのは考えていなかたネ。こちらでも一応、調べてみるカ・・・聞こえるかナ、情報部。例の件だが、戦自の研究班の情報を調べてもらいたいネ」
早速、動き出す超。部屋に備え付けられていた内線を通じて、指示を出す。
「ねえ、ちょっと良いかしら?情報部って、これから外へ出て調査に行く訳?」
「それを専門にしている者もいるが、今回は電脳世界経由ネ。未だに生きている回線を通じて情報を頂いてくるヨ」
「・・・ひょっとして、インターネットが生きているの?」
シンジの質問に、超が当然とばかりに頷いてみせる。
「量産型の破壊を免れた有線回線、衛星を利用した無線回線。少数ではあるが、どちらもまだ健在ネ」
「・・・もしかしたらMAGIも生きているのかな?」
「それは、無いとは言い切れないネ。何か心当たりでもあるカ?」
「リツコさんがATフィールドについて調査をしていなかったとは思えないんだよ。アスカなら知ってるでしょ?リツコさんの好奇心の強さは」
シンジの言葉に、一も二も無く頷くアスカ。一部の職員の間では、リツコはマッドとまで呼ばれた科学者である。それだけ有能という事なのだが、有能な科学者の必須条件は好奇心の強さというのが事実である。
「実戦の中で集められた情報を基に、リツコさんが基礎概念だけでも対抗武器を考えていた可能性は十分に考えられる」
「それでMAGIって訳ね」
「そういう事。第3新東京市のMAGIが残っていれば、ATフィールド突破の為のヒントが見つかるかもしれない」
2人の言葉に、超が笑みを浮かべる。まだ可能性ではあるが、問題解決の光明が見えてきたのだから、希望を持つのは当然と言えた。
「第3新東京市には直接向かわねばならないネ。今晩中に準備を整えて、早速明日にでも向かうヨ」
翌日―
破壊された町並みを後にしながら、3人は第3新東京市へと向かっていた。超が拠点としていたのは、破壊以前は第2新東京市と呼ばれていた旧・長野県松本市であった。
超が移動の足として用意したのはジープである。頑丈性と耐久性を併せ持ち、なおかつ軍にいた経験のあるアスカも運転出来るという理由から選ばれていた。
そのジープには当面の必需品が乗せられ、更には量産型の動向結果を教えてくれる無線仕様の機材も準備されている。考え得る限りの準備をした3人は、拠点の住人達に見送られながら出発した。
道は存在しているが、それでも破壊の余波により快適に運転とはいかない。当初の目算では到着まで4日を見込んでいた超だったが、それは意外な事にシンジによって短縮される事になった。
というのも、シンジは竜鱗に包まれた義手を身につけていたからである。
当然だが、これはリツコが作った義手では無い。
フェイトの策略によって過去へ飛ばされたシンジは、数日の内に義手がバッテリー切れを起こすと言う状況に見舞われたのである。
仕方なく義手を諦めたシンジだったが、ここで状況が好転した。
シンジとアスカが今後の方針について相談していた所、2人がいた村を凶暴な黒竜が襲って来たのである。
戦いに巻き込まれた2人は、もっとも凶暴と言われる黒竜相手に戦闘を余儀なくされたのである。だがシンジの破術と人形使い、アスカの万夫不当の能力は黒竜を弾き返すだけの力を秘めていたのである。結果としてシンジは茶々丸セイバーを失うという被害を受けながらも、かろうじて黒竜を討伐。村を守る事に成功した。
そこへ声をかけたのが、その村で隠遁生活を送っていた人形師である。
彼は村を守ってくれた恩返しにと自らの技量を振るい、黒竜を材料とした義手を作成。更には破壊された茶々丸セイバーを流用する事により、後にシンジが自らの偽装を兼ねたゲンドウそっくりの人形も手掛けたのである。
そんな黒竜を材料とした義手は、破格の能力を幾つか秘めていた。竜鱗の防御力の高さは言うまでも無いが、この義手は黒竜の筋力をも再現していたのである。
その筋力は格闘技術の無いシンジにしてみれば、全く活用出来ない無用の長物だったのだが、相手が動く事の無い瓦礫の塊となれば話は別である。
黒竜の破壊力を発揮して、瓦礫を木っ端微塵に粉砕するシンジ。こうして道を確保した一行は、予定よりも2日早く第3新東京市へと到達する事になった。
旧・第3新東京市―
そこは何も無い廃墟と化していた。
かつての迎撃都市の面影は、何処にも無い。ただ風が吹きすさび、廃墟を塒とする野犬達の遠吠えが、寂しく聞こえるだけである。
「これが、第3新東京市?」
「そうネ。量産型エヴァンゲリオンによって破壊されたのが西暦2057年。それから数十年経てるヨ。再建や調査の話が出なかた訳では無いが、量産型の目撃報告が多く報告されているエリアだからネ」
超が手慣れたハンドル捌きで、ジープを廃墟と化した建物の一番奥へと走らせる。そしてシンジとアスカにジープの上に偽装シートをかけさせる間に、彼女自身はアジトから持ってきた大きな箒を利用して、ジープの轍を消し始めた。
「超さん、こっちは終わったよ」
「こちらも偽装は終わったネ。では量産型がやって来る前に、NERV本部へと向かうヨ」
廃墟と化した第3新東京市。だが土地勘のあるシンジやアスカにしてみれば、NERV本部へ向かうのは難しい事ではなかった。
本部へ直接通じている電車の線路を見つけると、そこをひたすら歩きだす。やがてジオフロントが見えてくると、今度はシンジが作り出した鳥の式神に乗って本部へと舞い降りた。
「それにしても、式神って便利よねえ」
「まあ便利と言えば便利だけど、結構、脆いから火とか点けないでね?」
「そんな自殺願望は持ち合わせてないわよ!」
かつてカードリーダーを使っていた入口から中に入る3人。だが先頭を歩いていたアスカの肩を、シンジが乱暴に後ろに引いた。
「な、何よ!」
「・・・おかしい、2人とも気をつけて。本部、まだ生きてるよ」
その言葉に、アスカと超の顔が強張る。2人の視線は、シンジの視線の先へと注がれた。そこには赤いランプのついた監視カメラが3人を捉えていたのである。
「まさか、生存者がいる?」
「可能性は無いとは言い切れないネ。念の為、用心して進むヨ」
アスカは方天画戟を、シンジは右手に糸を、超は全身に軽く気を循環させながら、本部の奥へと足を踏み入れた。
旧NERV本部内部―
必要最低限の電力だけで維持されているNERV本部。かつて量産型の襲撃により破壊された施設ではあるが、完全に死んだ訳では無かった。
だが量産型の目撃多発地帯である為に、ここに近寄ろうとする者達はいない。だが、この日は違っていた。
3人の若い男女の姿を、本部に残された数少ない監視カメラが捉えていたのである。
1人は戦闘用特殊スーツに身を包んだ、20歳前後の美女。
1人は私服と言って良いほどに軽装でありながら、不釣り合いな方天画戟を手にした美少女。
1人は狩衣という時代錯誤な衣装を纏い、異形の左腕を晒している美少年である。
送られてくる映像に、監視者は言葉を失った。あり得ない筈の光景に言葉を失ったまま、画面を食い入るように見つめる。
やがて自分の見間違いでは無い事を悟ると、監視者はモニターから視線を外し、そのまま監視ルームから姿を消した。
シンジside―
破壊の跡が生々しい本部の通路。だが至る所に行く手を邪魔する硬化ベークライトが一行の行く手を遮る。
最初はシンジの義手で破壊していたのだが、破壊にも時間がかかる事を理解した一行はルートを変更。かつてマトリエル戦の際に利用した、緊急避難ルートから通風孔を利用して本部への侵入を図ったのである。
『仮に生存者が生きていて、罠を仕掛けていたとする。でも生存者にとって、敵は量産型エヴァだ。通風孔とかに罠を仕掛けても意味が無い。だから、逆に安全だと思う』
シンジの提案に同意したアスカと超は、通風孔を移動した。狭く埃だらけではあるが、罠の恐怖に怯えるよりは遥かにマシである。
先頭をシンジが進み、その数メートル先を式神のネズミが先行偵察を行う。次にアスカが続き、最後尾を超が警戒しながら続いた。
小声で会話をしながら、発令所を目指す3人。やがてシンジが先行させていたネズミがキーキーと鳴いた。
「どうしたの?」
「ダクトが壊れていて、先へ進めないんだ。アスカ、マトリエルの時にダクトを壊した事があっただろ?あの場所だよ」
ピンとくるアスカ。シンジの言葉通りなら、ダクトの下はエヴァの待機施設である。そこからなら発令所は、目と鼻の先であった。
暗闇に包まれた待機施設。危険は承知の上で、ライトを取り出そうとした時だった。
パッパッパと照明がついて、施設全体が明るく輝く。咄嗟に警戒するシンジ達だったが、穏やかな声が鼓膜を叩いた。
「危害を加えるつもりはないから降りてきてくれないかな?」
柔らかな男性の声。視線の先にいたのは、眼鏡をかけ、車椅子に座っている老人である。
「・・・分かりました、そちらへ飛びおります」
自分達に危害を加えるつもりは無い。そう判断したシンジが飛び降りる。続いてアスカ、超の順番に飛び降りた。
3人の前にいる老人は、一言でいえば異形の老人であった。上半身には機械を埋め込み、両足は膝から下が無い。そして機械が意味する物を、超は正確に見抜いた。
「それは延命の為の生命維持装置カ・・・」
「そうだ。いつかここに来る人に、希望を託す為だけに生きてきた。NERV最後の生き残りとしてね・・・でも、死んだ筈の2人が来るのは、予想外だったよ。常識で考えれば、ソックリさんなんだろうけど・・・」
「・・・いえ、僕らは正真正銘、本人です。エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、サードチルドレン碇シンジです」
「ドイツ支部所属、弐号機専属パイロット、惣流=アスカ=ラングレーよ。あとはファーストと馬鹿ジャージがいれば、チルドレンで同窓会が開けたんだけどね」
その言葉に、老人は満足そうに頷いた。目の前の2人が生きている理由、若いままの理由は老人には分からない。だが2人が本物である事は理解出来た。何故なら、老人の記憶にある口調、口癖に一致していたからである。
「本当に久しぶりだよ、まさか自殺した筈のお前達に再会出来るなんて、夢にも思わなかった。これで最後の任務を果たせるよ」
「・・・アンタ、アタシ達の事を知っている訳?」
「ああ。俺にしてみれば115年振りの再会だよ。俺だよ、相田ケンスケだよ」
老人の名乗りに、アスカの絶叫が轟いた。
「そうか、お前達は俺が知っている碇や惣流じゃないんだな」
車椅子をシンジに押して貰いながら、ケンスケは納得したように頷いた。これまでにシンジとアスカが経験してきた過去は、ケンスケにとっては理解の範疇外ではある。だがタイムスリップしたとなれば、2人が若々しいままである事も、生きている事も納得は出来た。
「確かにそうだけど、本質的には同じだよ。違うとすれば、僕もアスカも魔法使いの仲間入りしている事ぐらいかな。まあ大した違いじゃないけどね」
「十分に大した違いだと思うぜ?それに、その左腕は何だよ?」
黒竜の義手を見ながら、ケンスケが呆れたようにシンジを見る。対するシンジはと言えば、苦笑するしかない。だが隠す様な相手でも無い為、シンジは素直に喋った。
「お前達も大変な思いをしてきたんだな」
「ケンスケほどじゃないさ。それにしても、ケンスケこそ大変な事になってるじゃないか。しかも130歳なんだろ?機械の助けがあるとは言え、良く生きていられたね」
「・・・俺さ、大学を卒業してからNERVに入ったんだよ。お前達が守った世界を、せめて守り続けようと思ってな。それからずっとNERVで働いて、もうすぐ定年と言う所でSEELEが攻めてきた」
ケンスケの口から紡がれた事実に、シンジ達は言葉を失った。かつての級友達は量産型の暴走に巻き込まれ、命を落としていた。それはトウジやヒカリも例外ではない。皮肉な事に、襲撃の際に本部最下層で働いていたケンスケを始めとする数人だけが、かろうじて難を逃れたのである。
「技術指導員として来ていた伊吹博士がいなかったら、俺は死んでいただろうな。あの人が医療の知識も持っていたから、俺は足を失っても死なずに済んだんだよ」
「マヤが、マヤが生きてるの!?」
「いや、もう亡くなったよ。元々、精神的には強くない人だったからな。旦那の青葉さんが目の前で死んだのが、堪えていたんだろう」
本部で生き残ったのは、僅かに数名。彼らは最後の希望を未来へ託す為に、NERVの全データを死守し続けてきたのである。
「MAGIは量産型に破壊された。だが奴らが来る数年前から、MAGIのデータは最下層に設置されたMAGIⅡへとバックアップされ続けてきたんだ。それをお前達に託すのが、俺の仕事なんだよ」
唯一、生き残っていたエレベーターを利用して最下層―かつてのセントラルドグマへと4人は進む。
「正直、エヴァが無い限り勝ち目は無い。それでも、良いのか?」
「問題無いよ。僕達はエヴァに頼らずATフィールドを突破する方法を調べているんだ。それさえ分かれば、量産型は殲滅できる」
「・・・分かった。全てのデータを持ち運ぶのは無理があるからな。必要な情報を持って行ってくれ」
ケンスケがコンソールに指を走らせる。やがて軽快な音とともに、小さなモニターに情報リストが映し出された。
「ATフィールドと量産型について。それだけで良いのか?」
「ダミープラグとロンギヌスについても情報が欲しいんだ。それと・・・綾波に関する情報がある筈だから、それも頼むよ」
「綾波?・・・まあいいさ、お前の事だ。理由があるんだろうし」
情報の譲渡が終わった後、ケンスケが満足そうに背筋を伸ばす。
「やっと無料ボランティアの任務が終わったぜ。缶詰レーション漬けの生活ともオサラバだ。これで俺もアイツの所へ逝けるってもんだ」
「アイツ?」
「かみさんだよ、一応結婚はしてたんだよ」
「アンタが結婚!?ミリタリーおたくのアンタと!?どんな物好きよ!」
よほど衝撃だったのか、アスカが悲鳴を上げる。そんな彼女に苦笑しながら、ケンスケが口を開いた。
「そう言うなよ、それにお前達と全く無関係って訳じゃないんだ」
「アタシ達と?それってアタシ達が知ってる人?」
「ああ、よく知ってるよ。マナだよ、霧島マナだ」
想像外の名前に、2人が絶句する。一方、マナと直接会った事のない超が、確認するように問いかけた。
「霧島マナというのは、戦自のスパイを引き受けた少女の事かナ?シンジさんから教えてもらったが、彼女は仲間とともに死んだと聞いていたのだが」
「マナは生きていたんだよ。仲間と共に処理される所を、加持さんに救われたそうだ。表向きは死んだ事にして、追跡を振り切ったと聞いている。そのまま第3から離れていたそうだが、10年振りに戻ってきた所を再会してな」
死んだと思っていたマナが生きていたという報せは、シンジに喜びを齎した。そんなシンジに、アスカが『良かったわね』とばかりに肩を叩く。
「ありがとう・・・加持さん・・・」
「・・・お前に会えれば、アイツも喜んだだろうな。ま、良い土産話が出来たってところか」
ピッと音を立てて、MAGIⅡから一枚のディスクが出てくる。それを専用のケースに仕舞うと、ケンスケはシンジに差し出した。
「これで俺の仕事は終わりだ。やっと休む事が出来るぜ」
「ケンスケ」
「それ以上は言うなよ。俺だって馬鹿じゃない。1人で歩く事も出来ない俺には、この世界で生きていくのは難し過ぎるんだよ」
車椅子を操作し、ケンスケが3人に背中を向ける。
「最後を迎える場所は、アイツが眠っている所と決めているんだ。だから、ここでサヨナラだ。お前達に会えて、本当に嬉しかったよ」
「ケンスケ!」
「・・・残っている物資は、お前達が好きなように使ってくれ。じゃあな、シンジ、惣流。お前らは幸せになれよ」
まるでシンジの声を振り切るかのように、ケンスケは静かにその場から立ち去る。その背中を追いかけようとするシンジを、後ろから強い力を込めてアスカが引き止めた。
「シンジ。アンタが相田の事を見捨てられない気持ちは、アタシにも分かる。でもね、今のアンタの優しさは、相田にとっては苦痛なのよ」
「アスカ!」
「・・・相田の苦しみを分かってあげて。アイツは・・・もう休みたいのよ・・・」
シンジが歯軋りしながら、拳を握りしめる。ケンスケの苦しみは、シンジにとっては決して他人事では無かったからである。
かつて『死』という安らぎを手に入れようとしたからこそ、アスカの言葉の意味をシンジは良く理解出来た。
「シンジサン、彼女の言う通りネ。私達では彼を救う事は出来ないヨ・・・」
「・・・ゴメン・・・ケンスケ、助けてあげられなくてゴメン・・・」
今回の目的である情報の入手。更に本部にあった貴重な物資をジープへと詰み込んだ一行が、拠点へ帰ろうとした時だった。
「超さん、アスカ。悪いけど、先に戻っていてくれないかな?」
「どうしたネ?」
「ちょっと思いついた事があってね。このまま僕は、麻帆良まで足を伸ばしてこようと思うんだ」
シンジの思いがけない提案に、目を丸くする超とアスカ。当然の如く、2人はその理由を尋ねた。
「保険だよ。科学的アプローチによるミストルティンの有効活用が失敗した時の保険として、僕は魔法的アプローチからのミストルティンの有効活用を模索したいんだ。その為に、麻帆良まで足を伸ばしたいんだよ」
「それは構わないが、移動手段はどうするネ?」
「式神を使うから、問題無いよ。1週間もすれば、第2まで帰って来る事は出来るからね」
「ふむ、アスカサンはどう思うネ?」
水を向けられたアスカはと言えば、少し考えた後で軽く頷いた。
「良いんじゃない?アタシも考えている事があるから、それをやりたいのよ。幸い、材料はここに残っていたからね。MAGIⅡを使えば、かなり早く完成させられると思うの。アタシの目算では、1週間後には第2へ帰る事が出来るわ」
本部倉庫の奥に眠っていた物を思い出し、アスカが自信たっぷりに宣言する。そんな2人に、超が面白そうに頷いてみせた。
「分かたネ。2人の成果を楽しみにさせて貰うヨ」
「任せなさいって!それじゃあ1週間後に会いましょう!」
「うん、それじゃあ1週間後に第2で!」
3人は頷くと、それぞれの目的を果たそうと動き出した。
麻帆良学園跡地―
式神で移動を続けたシンジは、麻帆良の地に辿り着いた。しかし麻帆良の象徴というべき世界樹は失われ、その無残な姿を晒したままである。周辺にもまともな建造物はおろか、人影一つない荒れ果てた廃墟と化していた。
「・・・いや、物想いに耽っている暇は無いんだ。やる事をやらないと」
そのままシンジは、図書館島を目指した。図書館島も破壊を免れる事は出来なかったらしく、かつての面影はどこにも無い。
そんな図書館島の一画にある、魔法関係者専用エレベーターを目指すシンジ。エレベーターもやはり破壊されていたが、地下へと通じる穴がポッカリと口を開けていた。
真っ暗な闇の中を、式神に命じて下降していくシンジ。螺旋階段も乗り越え、かつて『幻の地底図書室』と呼ばれたエリアに到達する。
地底図書室は破壊を免れたらしく、シンジの記憶にあるのと同じ光景のままであった。しかしシンジは立ち止まる事無く、人払いの結界を超えた先にあるアルビレオの居住区を一目散に目指す。
「・・・この分だと、門番のワイバーンは健在だろうな・・・よし」
自分そっくりの式神を作り、囮として先行させるシンジ。しばらく歩いた後、遠くからバッサバッサという聞き覚えのある音が聞こえてきた。
すぐさま式神に命じて、違う方向へと全力疾走させる。するとワイバーンは、それに釣られたのか式神の後を追いかけだした。
(・・・今だ!)
ワイバーンの隙を突いて、移動するシンジ。しばらく走った後、シンジは誰にも邪魔される事無く、目的地であるアルビレオの住処へと辿り着く事が出来た。
「・・・アルビレオさん、生きていれば良いんだけど」
扉を開き、中へと入る。中は記憶にあるままであった。
この分なら生きていそうだ。そう考えた矢先の事であった。
「魔法の射手 !連弾・闇の29矢 !」
咄嗟に振り向いたシンジの視界を埋め尽くすかのように、闇の矢が襲い掛かってくる。突然の奇襲攻撃に、シンジは後ろへ飛び退きながら義手を盾代わりに己の身を庇った。
次々に命中する闇の矢。だがシンジの義手は、魔法世界でも最強生物として知られている竜種。それも黒竜を材料とした一品である。そこへシンジ自身が気を込めた為、元々の防御力の高さもあり、闇の矢は掠り傷すら与えられなかった。
「侵入者、それは竜種を材料にした義手だな?泥棒風情の割に、また良い物を身につけているようだな?」
「泥棒じゃありませんよ、僕は。僕はここの主、アルビレオさんに助力を求めに来ただけですから。それより、何で貴女がここにいるんですか?結界が消えた今、貴女は自由の筈だ。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」
「・・・私の事を知っているとはな。侵入者、お前は何者だ?」
「僕は近衛シンジ。信じられないかもしれませんが、近衛詠春の養子に当たる者です。同時に、人形使いの後継者でもあります」
幼い外見のままのエヴァンジェリンが、訝しげに眉を顰める。
「信じられないのも無理は無いでしょうね。貴女には僕を弟子に取った記憶は無い筈ですから。今の貴女にとって弟子はネギ君1人でしょうし」
「何者だ、貴様?」
「詳しい事を話します。中に入っても良いですか?」
シンジの言葉に、エヴァンジェリンは鼻を鳴らすと中へ入れと顎をしゃくった。
シンジの説明に、コトンと音を立ててティーカップを置くと、エヴァンジェリンは面白そうに頷いてみせた。
「・・・歴史の分岐点という奴か・・・この世界に本来いた筈のお前は自殺している。だが自殺しなかったお前は、詠春の養子となり、更には私から人形使いの技術を受け継いだ、という訳だな?」
「ええ、その通りです。超さんと手を組んで関東魔法協会相手に戦争を仕掛けました。結果は失敗に終わりましたが、お爺ちゃんや詠春さん、高畑先生達には大迷惑をかけてしまいましたよ。神楽坂さんがいなかったら、関東魔法協会側は壊滅していたでしょうね」
「クハハハハハ!それは良い!連中には良い薬だったろうよ!」
上機嫌になったエヴァンジェリンのティーカップに、メイド姿の茶々丸が近寄って紅茶を淹れる。この茶々丸にはシンジとの関わりが無い為、シンジに対してはどことなく事務的な雰囲気を纏わせていた。
「それで、お前はこれからどうするつもりなのだ?」
「勿論、量産型エヴァンゲリオンを潰します。その為に、超さんと行動を共にしているんですからね」
「ほう?超鈴音が生きているのか?アイツは、この時代の人間だったのか」
「はい。今は20代半ばでしたね。かなりの美人に成長していましたよ」
シンジの言葉に、エヴァンジェリンが目を細めて懐かしそうに過去を思い出す。それは茶々丸も同様であり、自分の生みの親が同じ時代を生きている事に顔を綻ばせた。
「僕からも訊ねたい事があります。アルビレオさんは、ここにいないんですか?」
「ああ、奴はかなり前にここから姿を消してしまったよ。その後、私と茶々丸はここに住居を移したという訳だ。そういえば、お前は奴に助力を求めに来た、と言っていたな?」
「はい。『気と魔力の合一 』咸卦法に関する情報が欲しいんです。できれば習得に利用できる資料があると嬉しいんですが」
考え込むエヴァンジェリン。だがすぐに顔を上げて口を開いた。
「お前が咸卦法を習得するのか?」
「いえ、僕じゃありません。僕の従者 であるアスカに習得させたいんです。アスカは気の使い手ですが、そこへ僕が契約執行をかければ魔力という形で彼女に僕の力が供給されます。つまり、アスカは気と魔力を併せ持つ事になる」
「なるほどな、そういう考えか。咸卦法の破壊力であれば、確かに量産型エヴァンゲリオンのATフィールドを破る可能性は高いだろうな」
顎に手をやりながら、ニヤリと笑うエヴァンジェリン。ソファーに背中を預けたまま、茶々丸に目を向ける。
「茶々丸。私達がここに住居を移してから、どれぐらいだ?」
「70年と2ヶ月11日になります、マスター」
「そうか、このまま穴倉生活を続けるのも芸が無いな・・・シンジ、光栄に思え。私も量産型の殲滅に力を貸してやろう」
量産型エヴァンゲリオンの殲滅と言う大仕事に、血を滾らせるエヴァンジェリン。久しぶりに生き生きとした主の笑みに、茶々丸も相好を崩す。
「でしたら、あの別荘も持っていけませんか?あれが有れば、時間を節約出来て便利なんですよね」
「良かろう。茶々丸、別荘に必要な荷物を放り込んで、移動できるようにしておけ」
「分かりました、マスター」
準備の為に席を外す茶々丸。茶々丸が立ち去ったのを確認した上で、エヴァンジェリンは真剣な顔を作り、シンジに目を向けた。
「シンジ。お前はどうするのだ?武器が無いのだろう?」
「ええ、茶々丸セイバーはもう無いですし、アベルは元の時代ですからね。でも、僕にはこれがありますから」
パンパンと義手を叩くシンジ。
「1度だけしか使えない奥の手ですが、量産型1体ぐらいなら何とか出来ますよ」
「面白い、人形使いの後継、その実力を見せて貰うとするか」
1週間後―
拠点でミストルティンの有効活用の為の研究を行っていた超は、同僚から拠点に接近している飛行物体についての連絡を受けて、思わず顔を上げていた。
「ふむ、恐らくはシンジサンだろうナ。気分転換を兼ねて、出迎えに行くとするカ」
入口へと向かう超。外に出ると、そこには鳥の式神に乗ったシンジと、見覚えのある2つの人影があった。
「まさか!」
「元気そうじゃないか、超鈴音?大きくはなったようだが、一目で分かったぞ」
「お久しぶりです、超」
かつての級友と、娘との再会に超が顔を綻ばせる。
「生きていたのカ・・・」
「ずっと地底図書室に引っ込んでいたからな。シンジが来なければ、そのまま隠遁生活を続けていた所だよ」
「だが、ここに来たと言う事は・・・」
「退屈な生活には飽きてきたんでな。久方ぶりに体を動かしたくなった」
犬歯を見せてニヤリと笑うエヴァンジェリンとは対照的に、茶々丸は無言でコクッと頷く。そんな対照的な主従を前に、超はわざとらしく道を開ける。
「歓迎するネ。ようこそ、人類最後の砦へ」
「ああ、楽しませて貰うぞ?」
中へ入ろうとするエヴァンジェリン。だがその足がピタッと止め、背後を振りかえった。
「どうかしたのカ?」
「ああ、何かが近づいてくる。これはかなり速いな、4足の生き物か?」
「マスター、こちらで観測致します・・・観測終了。およそ2分で到着します。あと形状から判断する限り、馬であると思われます」
「馬だと!?」
思いがけない返答に、エヴァンジェリンが目を丸くする。シンジと超も、互いに顔を見合わせて首を傾げるばかりである。
やがて、誰の耳にもはっきりと分かるほど、特徴的な『パカラパカラ』という音が聞こえてきた。そして馬の姿が視界に飛び込んできた時、全員が言葉を失った。
その馬は全身を真紅の装甲に包んでいた。体も大きく、地面から頭まで2mはある巨馬である。その大きさに見合うだけの筋肉が、全身についている事は容易に想像できた。
そんな馬から、ヒラリと舞い降りる人影。
「ただいま、シンジ、超さん。それからそちらは、エヴァンジェリンさんに茶々丸さんだったわね。貴女達にしてみれば、初めて会うんでしょうけどね」
「・・・アスカ、この馬、どうしたの?」
「作ったのよ!本部にはエヴァの補修用人工筋肉と弐号機の装甲板が保存されていた。それにMAGIⅡまであったのよ?オートバランサーや人工知能プログラムは作るしか無かったけど、ギリギリ間に合ったわ!」
そんなアスカの背後では、馬が口元からシューッと白い蒸気の様なものを噴き出している。明らかに、自然の生物ではないと一目で分かる。
「赤兎と名付けたわ。長距離通常走行速度は時速300km、瞬間最大速度は500km。動力源はバッテリーによる充電方式。アタシしか乗りこなせない、最強の相棒よ!」
「・・・そんな新幹線クラスの馬に、生身で乗りたいという人はアスカ以外いないと思うな」
シンジの発言に、全員が一斉に頷いてみせた。
1ヶ月後、EVANGELINE’S RESORT―
「ハアッ!」
1ヶ月に及ぶ修業の間に、アスカは咸卦法を完全に物にしていた。シンジによる契約執行が前提条件となっている点を考えれば、不完全と評すべきかもしれない。だが生み出される力は、尋常ではない力をアスカに与えていた。
「魔法の射手 !連弾・闇の29矢 !」
「甘い!」
方天画戟を振るって、一息で魔法の射手全てを薙ぎ払うアスカ。だがその間に、影への転移魔法を利用したエヴァンジェリンが、アスカの背後から襲いかかる。
「断罪の剣 」
エヴァンジェリンの右腕に生じた光の刃が、アスカの背中に振り下ろされる。だがアスカは背後を見る事無く、方天画戟を背中に回して一撃を受け流しつつ、遠心力がたっぷりとのった後ろ回し蹴りでエヴァンジェリンに一撃を叩き込もうとする。
それを更に間合いを詰める事で、蹴りの威力を殺しながら、方天画戟の間合いを外すエヴァンジェリン。それに対してアスカは『上等!』と叫びながら拳による零距離戦での迎撃を図る。
そこへガンガンガン!という金属音が響いた。
「2人ともご飯が出来たよ!」
「OK!」
「ほう?今日はお前が作ったのか、どれ、期待させて貰うぞ?」
茶々丸は生みの親である超の手伝いの為に席を外しており、食事当番はシンジとなったのである。
湯気の立つ食事の数々に、アスカが『美味しそうね、いただきまーす!』と早速食卓に着く。その横に『ええい、またんか!』と叫びながらエヴァンジェリンが席に着いた。
「おかわりもあるから安心してね」
2人の食べる―と言うよりも喰らう―光景に、シンジが苦笑しながら自分も席に着いて食事を摂る。
「そういえば、シンジよ。お前の研究についてだが目処は立ったのか?」
「ミストルティンの魔法的アプローチについては、咸卦法ぐらいですね。他は戦術的にどうやってATフィールドを無効化するか、ですよ。そちらも幾つか基本戦術は考えてありますがね」
「ふん。ではお前は何を研究しておったのだ?」
エヴァンジェリンの問い掛けに、シンジはポケットから瓶を取り出した。中に入っているのは、黒い丸薬である。
「回復薬です。やっと出来たのですが、問題は保存がきかない事です。材料が材料なので、精々1日持てば良いでしょうが、1粒服用すれば魔力も気も回復してくれます」
「ほう?それは便利だな。だがここに、そんな物に使える材料等あったか?」
「いえ、材料は僕です」
右腕を持ち上げてみせるシンジ。その上腕に巻かれた包帯に、エヴァンジェリンとアスカが同時に噴いた。
「ア、アンタ馬鹿ア!?」
「この戯け!私は食人趣味 等持ち合わせておらんぞ!」
「・・・吸血鬼であるエヴァンジェリンさんにそこまで言われる理由が分からないんですが」
心底不思議そうなシンジに、2人が額を押さえながら同時に溜息を吐く。
「切り取っても治癒の札を使えば、明日には治ってます。問題なんて無いじゃないですか」
「アンタねえ!こっちの精神的安定を考えなさいよ!アンタを食べて喜ぶ趣味なんて持ち合わせていないわよ!」
激昂したアスカが、口からご飯粒を飛ばしながら力説する。その行動にエヴァンジェリンは顔を顰めはしたが、心情的には理解出来る為、敢えて口を挟まなかった。
「そりゃあまあ、不味いかもしれないけど、日本には『良薬口に苦し』という諺が」
「この馬鹿!誰が味を気にしてると言ったのよ!」
テーブルに身を乗り出し、シンジの胸倉を掴んでガクガク揺さぶるアスカ。一方のエヴァンジェリンはと言えば、何を言っても無駄と諦めたのか、ハンバーグを切り分ける事に専念し始めた。
「それはそうと、超の研究については何か聞いているか?」
「・・・戦自については、実現可能な兵器案が2つあった。今はその準備の真っ最中。あとはミストルティンを量産中って所かな」
本来なら利用可能な案は1つしか無かったのだが、人間ではない茶々丸の合流により、実行可能なプランが増えたのは超達にとって嬉しい誤算であった。
「ただ本命の実現については、念の為に陽動を仕掛けるつもりなんだよ」
「陽動?」
「そうだよ。でもこちらの手の内―特に奥の手については見せる訳にはいかない。目的は、あくまでも時間稼ぎだからね。奥の手を見せて、対抗策を用意されるのも不味い」
ふむ、と頷くエヴァンジェリン。
「食事が終わったら、早速、陽動作戦を始めるよ。2人の役割についても、そこで説明するから」
作戦会議室―
この拠点に身を顰める者は、かなりの数に上る。その中でも、上層部と言って良いメンバー達とシンジ・アスカ・エヴァンジェリン・茶々丸が集合していた。
そして彼らの前には、白衣姿の超がスクリーンを前に作戦を説明している。
「・・・以上のデータから、量産型エヴァンゲリオンは巡回と言て良いコースに従て動いている事が推測できるネ。そして5日後、量産型は今回の作戦の要である、この場所から最大限に離れるヨ。一番近い量産型でも、銚子沖から関東平野を抜けて来るコースネ。故に、この日を作戦第1段階である陽動作戦の実行日としたヨ」
グルッと見回すが、誰からも反対案が出ない事に、超が満足そうに頷く。
「陽動部隊については、シンジサン、アスカサンに頼みたいネ。同時に支援役としてエヴァンジェリンに動いて貰いたいヨ。本命は私と茶々丸の作戦になるネ。私達が目的地まで辿り着く事が出来れば、作戦成功ヨ」
「超。詳しい説明をしろ」
「まずシンジサン達には、旧・甲府にある戦自の廃棄された基地に行て貰うネ。そこのN2ミサイルが生き残ている事は、調査の結果分かているヨ。そこで銚子沖を飛行中の量産型エヴァンゲリオン目がけて、N2を撃ち込んで貰うネ。だが、これはあくまでも陽動に過ぎない事を忘れないで欲しいネ。エヴァンジェリンはシンジサン達を転移魔法で撤退させる事が役目ヨ」
頷くエヴァンジェリン。彼女の気性からすれば派手な陽動こそ望みだったが、転移魔法を使えるのは彼女1人しかいない為、無言で頷くしか無かった。
「その間に、茶々丸の飛行ユニットで衛星軌道上まで移動。戦自の衛星を改造して、衛星砲を作り上げるネ。これの完成には、約2週間はかかるヨ。同時に必要な資材も、半端な量では済まないネ。だが、この問題についても解決はしたヨ。エヴァンジェリンの別荘を使えば、大量の資材を最小限の荷物で運搬可能。大気圏外活動についても、茶々丸シリーズを起こしてあげれば可能ネ」
「お姉さま達は眠っているだけですから、全く問題はありません」
「衛星砲が完成したら、私達は茶々丸の飛行ユニットを利用して帰還するネ。以上が作戦概要になるが、何か質問は?」
互いに顔を見合わせながら囁き合う幹部達。だが反対意見は出てこない。シンジやアスカ達も、反対する事無く頷いてみせた。
「みんな。今まで、私達は量産型に弄ばれるだけだたヨ。ミストルティンという切り札を手に入れても、それを活用しきれなかたネ。それは事実、認めざるを得ない事。だが、流れは変わりつつあるのも事実ヨ」
超の視線が、シンジへと向けられる。
「時間の流れを乗り越えて、かつての使徒戦役の英雄であるセカンドチルドレンとサードチルドレンが合流してくれたネ。加えて最強の魔法使いであるダーク・エヴァンジェリンすらも力を貸してくれるヨ。我々の戦力は、これ以上に無いほどに高まり、強化されているネ。この作戦、必ず成功させてみせるヨ!」
超の檄に、全員から一斉に歓声が沸き起こる。
「では、これより作戦を開始するネ!各自、作戦に従て行動開始!」
5日後、旧・甲府市―
超の作戦に従い、シンジ達は甲府にある戦自基地の跡地へと来ていた。N2ミサイル発射装置のメンテナンスも、超の指示を受けた工作班によって行われており、理屈の上では問題無く動くようになっている。そして作戦決行の1時間前には、ここから離れていた。
基地内にはシンジ・アスカ・エヴァンジェリンが、作戦開始決行時刻が来る時をジッと待ち受けている。
そこへ超に預けた式神を通じて、連絡が飛び込んできた。
「・・・よし、超さんの準備は出来たそうだよ。作戦は予定通り、5分後に開始する」
「OK。海上を飛行中の量産型については、既にロックオンは済んでるわ。いつでもいけるわよ!」
「まずは量産型のATフィールドとやらの性能を、見せて貰おうか」
三者三様の言葉を口にしながら、急ごしらえのモニターに視線を向ける。やがてモニターの隅に現れた数字が0になると同時に、アスカがスイッチを押した。
「いっけえええええっ!」
轟音とともに発射されるN2弾道ミサイル。続いて、きっかり10秒間隔で2発目3発目と発射されていく。
モニターの中では、ミサイルの接近に気付いた量産型がATフィールドで攻撃を防いだ所だった。同時にミサイルの火力の大きさに、エヴァンジェリンが『思ったより硬いな』と呟く。
爆炎に包まれる量産型。だが10秒間隔で発射されるミサイルが順次、量産型を捉えて滅ぼそうとする。その炎をATフィールドで防ぎながら、量産型はミサイルが飛んでくる方向―甲府へと進路を変更していた。
「よし!第1段階は成功だ!あとは超さん達が大気圏外にまで辿り着くまで、量産型の注意を引きつけるよ!」
「分かってる!さあ、どんどん行くわよ!」
1発ずつ発射されるN2ミサイル。だが、突如モニターから甲高い警告音が鳴り響いた。
「何!?」
「これは・・・発射台に異常が発生している!」
「どうするの!?このままじゃ」
アスカの言葉に、シンジは頷いてみせた。
「・・・大丈夫。作戦失敗の時も想定して、ちゃんと準備はしてあるから。まずこちらは山岳戦で勝負を仕掛ける。相手に姿を見られない事を、念頭においてね。それから作戦内容は・・・」
シンジの説明に2人は頷くと、すぐに行動を起こした。
15発のN2ミサイルをATフィールドで防ぎきった量産型エヴァンゲリオンは、上空を飛行しながら発射地点を目指していた。やがてシンジ達がいた基地が見えてきた事で、減速し始める。
そこへドゴン!という音が響き、バランスを崩した量産型はズシャアアアアア!という音とともに山間部に墜落した。原因は、飛行中の脚部に起きた爆発である。
量産型は尋常ではない自己再生能力を持つが、装甲板を持たない故に防御力は無きに等しい。故に、爆発のダメージを軽減できなかった。
右の太股部分が半分削れ、動けなくなる量産型。だが自己再生能力を用いて傷を癒すと、早速自身を攻撃してきた相手を捜そうと、山の中を歩きだす。
そこへ左足に立て続けに小さい爆発が生じて、再び倒れ込む量産型。真後ろからの攻撃であった事を理解して、再生の間、背後を警戒するが続く攻撃はやってこなかった。
傷を癒し、立ちあがる量産型。手にしていた大剣状態のレプリカ・ロンギヌスを振るって山肌を薙ぎ払うが、飛び散るのは樹と土のみである。
そこへ再び生じる爆発音。再度、右足を攻撃され、自重に負けて倒れる。複数の伏兵の存在を理解した量産型は、体を小さくしたまま警戒態勢を取り続けた。
思惑通りに量産型が警戒態勢に入った事に気付いたシンジは、作戦通り合流地点へと向かっていた。
式神に乗って移動すると、そこには赤兎に騎乗したままのアスカと、エヴァンジェリンが一足先に到着してシンジを待っていた。
「上手くいったね」
「量産型の弱点って所かしらね。ATフィールドは1枚しか張れない。基本、視界内にしか張れない。装甲板を持たない為に、ATフィールド無しではまともにダメージを受けてしまう」
「確かに、あの再生能力は尋常ではない。だが、やり様によっては制圧出来なくも無い事が、図らずも実証された訳だ。この意味は大きいぞ?」
シンジの立てた作戦は、至極簡単な物であった。常に量産型の背後から攻撃を仕掛けて、足を破壊して転ばせる事。ただそれだけである。その為の武器としてシンジとアスカが使ったのは、基地に置かれていたパンツァーファウスト3である。2人がこれを選んだ理由は3つ。
1つ目に訓練不十分な兵士でも扱えるように、単純な操作方法である事。
2つ目に弾頭その物にロケットモーターや安定翼が着いており、速度が出る事。
3つ目にアスカは幼い頃からセカンドチルドレンとして軍事訓練を受けており、各種兵器についても一通りの扱いは習熟している。シンジもNERV時代にエヴァンゲリオン専用兵器の1つであるバズーカを練習した事があったからである。そしてエヴァンゲリオン専用バズーカは、パンツァーファウスト3に酷似した使い方であった。
と言うのも、さすがにNERV作戦部も、もとは一般人であるシンジに複雑難解な使い方の兵器を渡した所で使いこなせないだろうと判断出来たからである。加えてパンツァーファウスト3は、戦自がまだ自衛隊という名前であった頃から110mm個人携帯戦車弾という別名で採用されており、戦自出身者であるミサトや日向にしても、評価の高い兵器であった。
そこで『便利な物は使わなきゃ損よね』というミサトの意見が通り、エヴァンゲリオン専用バズーカは、パンツァーファウスト3に酷似した操作方法となっていたのである。
「それにしても、エヴァンジェリンさんも流石ですね。無詠唱・魔法の射手 だけで、片足を奪ったんですから」
「呪いさえなければ、遅れは取らんよ。ところでシンジ、超から連絡はあったか?」
「ええ、ありました。無事に衛星へ辿り着いたそうです。すぐに改造を始めると連絡がありましたよ」
その言葉に、満足そうに頷くエヴァンジェリン。
「では、私達も戻るとするか。2週間後の決戦に向けて、成さねばならぬ事は山ほどあるだろう」
コクッと頷いたシンジとアスカに笑いかけると、エヴァンジェリンは転移魔法を用いて拠点へと帰還した。
シンジ達が立ち去ってからしばらく経った頃、警戒態勢にあった量産型エヴァンゲリオンはゆっくりと立ち上がった。
襲撃を受けても対応できるように、慎重に基地へと近づいていく。だがどれだけ近づいても迎撃は来る事が無く、1発の被弾も無く基地へと到着した。
大剣を振り被り、次々に基地を破壊していく量産型エヴァンゲリオン。やがて完全に廃墟となった所で、別の量産型エヴァンゲリオンが空から舞い降りてきた。
それに肩を叩かれると、破壊活動に夢中になっていた量産型が、まるで落ち着きを取り戻したかのように動きを止める。そしてプシューッという音とともに、エントリープラグが外へ出てきた。
その中から出てきたのは、蒼銀の髪に赤い瞳をした少女である、その容貌は綾波レイと呼ばれた少女に酷似していたが、レイとは違い、吊り目をした強気な印象を受けた。
「やられたわ!すっかり手玉に取られた!悔しいわね!」
「こらこら、落ち着きなよ。頭に血を昇らせるから、手玉に取られるんだからね」
そんな少女を宥めたのは、銀髪に赤い瞳―渚カヲルにそっくりの少年である。こちらが手綱を取る役なのか、何処となく年長の印象を受ける。
「カヲル!貴方は許せる訳!?碇君を自殺させた、この世界の住人を!」
「・・・許せる訳が無いよ。彼は僕にとって、たった1人の友達だった。使徒であった僕が心を許し、僕の死を悼んでくれた、ただ1人の友達だったんだ。そんな彼を自殺させたこの世界を、僕が許す事が出来ると本気で思っているのかい?レイ」
歯軋りするカヲル、拳を握りしめて怒りを堪えるレイ。2人の脳裏に浮かぶのは、どことなく気弱な笑みを浮かべる、1人の少年である。
「でもね、レイ。油断だけはしちゃいけないよ。君の量産型の戦闘データを検証したが、敵はエヴァの弱点を突いてきている」
「弱点?どうしてそんな事が分かるのよ!」
「ATフィールドは、量産型では十分に使いこなせない。かつて弐号機がATフィールドを刃として使った様に、応用的な使い方は量産型には出来ないんだ。これに載っているのは、所詮は汎用コアでしかないからね。そして敵は、量産型がATフィールドを使いこなせない事を理解した上で、徹底的に死角からの攻撃に拘っているんだ」
カヲルの言葉に、レイが顔を上げる。その言葉の真意に気付いたからであった。
「NERV―いえ、作戦部や技術部にいたメンバーが生き延びていたと言うの?」
「可能性が無いとは言い切れないだろう。年齢的にきつくはあるが、100歳なら決して不可能ではない。何も200まで生きろと言っている訳じゃないんだからね」
「カヲル、量産型を第3に2体呼びましょう。NERV本部を再捜索し直すべきよ!もし生存者がいたと言うのであれば、放っておく訳にはいかないわ!」
「僕もその意見に賛成だ。すぐにでも向かうとしよう」
第3新東京市跡地―
ダミープラグ搭載型の量産型エヴァンゲリオンを呼び寄せる間、レイとカヲルは量産型に乗ったまま第3新東京市全体を探索していた。
その最中、レイは視界の片隅に何かが光った事に気がついて、そちらへと注意を向けた。
『レイ、どうかしたのかい?』
「何かが光ったのよ。念の為に調べるわ」
そちらへと機体を向かわせるレイ。光った物の正体は、墓石に載せられた1つのペンダントであった。そして墓石の前には、車椅子に乗ったままの腐乱死体が拳銃を握ったまま静かに風に吹かれていた。
「・・・さしずめ、死後1ヵ月という所かしらね?カヲルはどう思う?」
『同感だ。それより重要なのは、この車椅子の人物の素生だよ。この服は間違いなくNERVの制服だ。関係者なのは間違いない。そして墓石の前で自殺していると言う事は・・・』
「墓石の主が、身内と言う事ね?了解したわ、まずは墓石を調べ・・・」
レイの言葉が、墓石に刻まれた名前に凍りついた。
『どうしたんだ?レイ』
「相田・・・マナ・・・旧姓・・・霧島・・・2001年―2050年・・・」
レイの脳裏によぎるのは、かつて自分にとって大切な絆であった少年である。その少年が全てを擲ってでも救おうとした少女―霧島マナの名前を、レイは記憶の彼方から引きずりだした。
『どうしたんだい?』
「・・・この墓石に眠っているのは、碇君の恋人だった女の子なのよ」
『シンジ君の!?』
思いがけない事実に、カヲルが驚きの言葉を上げる。その一方で、レイは腐乱死体へと目を向けた。
「・・・貴方だったのね。ずっと生きていたのね、相田君。恐らくは、NERV最後の生き残りとして、ずっと1人で・・・」
孤独。その辛さを、今のレイは理解している。だからこそ、シンジの友人であったケンスケが、長い時間を1人で戦ってきた辛さにレイは共感する事が出来た。
「延命装置をつけてまで、ずっと戦っていたのね。貴方にとっての希望を信じて・・・」
レイは背後で見守っているカヲルに連絡を入れた。
「カヲル。先に本部へ行っていて。私は相田君を埋葬してから、本部へ向かうわ」
『・・・知り合いなのかい?』
「そうよ。碇君の友達なのよ、彼は。せめて、この墓石の隣に埋葬してあげたいのよ」
『それなら、僕も手伝おう。シンジ君の友達なのであれば、理由はそれで十分だ』
埋葬を終えた2人は、NERV本部の捜索に手をつけた。そこで気がついたのは、未だに本部に電気がきていると言う事実である。
『本部は生きている、そういう事か?』
「少なくとも電源が生きているのは間違いないわね。確か予備電源は地下にある筈。第2発令所からでも確認は出来る筈よ」
量産型から降りて、内部に入り込む2人。記憶を頼りに第2発令所に辿り着いたレイとカヲルは、本部の間取り図を呼びだした。
「・・・やはり予備電源が生きているわね。地熱を利用した発電設備か・・・」
「電気を利用しているのは、セントラルドグマのようだね。だがリリスも、君のスペアを保存していた培養槽も無い筈だ。一体、何の為にこれほどの電力を使っていると言うんだ・・・」
首を傾げながら、最下層を目指す2人。だがその答えは、すぐに目の前に現れた。かつてリリスを磔にしていた場所にあったのは、見覚えのある巨大コンピューターだったからである。
「これはMAGI!?」
「多分、そうだろうね・・・レイ、まずはMAGIの中身を調べよう。その上で、最近取り出された情報について調査するんだ」
時間をかけて調査していく2人。やがてMAGIが抱えていた情報が、オリジナルと寸分違わない事に、すぐ気がついた。
「これはバックアップみたいね」
「僕もその意見に賛成だ。ところで、面白い物を見つけたよ。1ヶ月前からのMAGIの利用状況についてだ。理由は分からないが、君の情報が引き出されているよ」
「私の情報?」
目を丸くするレイ。彼女自身が調べると、確かにカヲルの言う通り、量産型エヴァンゲリオンやATフィールドの情報等と一緒に、綾波レイの情報が持ち出されている事がハッキリと記録に残っていた。
「それだけじゃない。かなりの物資も持ち出されている。しかも、ここにしばらく留まっていたようだね。毎日のように情報を引き出し、MAGIに仕事をさせていた形跡が残っている。エヴァの補修用の人工筋肉、弐号機の装甲板、か・・・」
「この設計図から判断すると、馬でも作っていたのかしら?」
「多分、そうだろうね。けど、何で馬なんだ?」
首を傾げるカヲルとレイ。だがどれだけ考えても、答えは頭に浮かんでは来ない。そんな中、カヲルがふと思い出したように口を開いた。
「シンジ君の友達と接触した相手は、ここで情報を引き出し、しばらくここに留まっていた者で間違いないだろう。そうすると、何か映像が残っているかもしれない。警備カメラの記録を探すんだ!」
2人がコンソールに飛びついて、指を走らせる。やがて正面モニターに、映像が映った。
1人は長い黒髪の、20歳前後の女性。
1人は紅茶色の髪をポニーテールに纏め、方天画戟を手にした10代後半の少女。
1人は中性的な容貌に、異形の左腕が特徴的な10代後半の少年。
その光景に、2人は凍りついた。
「これはシンジ君か!?だが、この左腕は何だ?」
「カヲル、こっちは弐号機パイロットよ!顔立ちがソックリよ!」
「・・・どういう事だ?シンジ君達は自殺したんじゃなかったのか?」
慌てて記録を検索し始める2人。だがシンジもアスカも、自殺という公式記録がMAGIには残されていた。
「・・・この2人は何者だ?シンジ君達の子孫なのか?それともクローンか?」
「分からないわ。一体、何が起こっているというの・・・」
衛星軌道上―
かつて戦自が打ち上げた偵察用人工衛星。それを魔力を動力源とした衛星砲へと作り替える為に、超は茶々丸とともに大気圏外にまで移動してきていた。
真空と宇宙線が支配する宇宙空間を、茶々丸シリーズが手足となって超の指示通りに動いていく。
「・・・超、ただいまマスターから連絡が入りました」
「エヴァンジェリンは何と言ていたネ?」
「時間稼ぎには成功。小さいトラブルはあったが、作戦は被害0で終了したとの事です」
その報告に、超がモニターから眼を離して満足そうに頷いてみせる。
「ですが、問題も発生しております。量産型エヴァンゲリオン4機が、NERV本部跡地に集結しているとの事です」
「奴らがNERV本部へ?何故?シンジサンがミスをした結果とも思えないヨ」
考え込む超。だがすぐに顔を上げてみせた。
「今は放ておいて良いネ。NERV本部には貴重な情報はあるが、今の私達にとて絶対に必要な物ではないヨ。戦略的優先順位としては、下位に属するネ」
「了解致しました。ところで作業工程についてですが、現在、デブリの回避作業の為に予定より進捗が3%程遅れておりますが、どう致しますか?」
「それは仕方ないネ。だが2週間という時間は、トラブルによる遅れを考慮した時間でもあるヨ。気にしないで作業を進めて欲しいネ」
「分かりました。では私もお姉様達の支援に入ります」
ペコリと頭を下げる茶々丸。離れていく足音を聞きながら、超がフーッと溜息を吐く。
「・・・まだ安堵するのは早いネ。ここからが本番ではないカ。さあ、気合いを入れ直して仕事に励むネ」
半月後―
衛星砲への改造を終えた超と茶々丸は、無事に拠点へ帰還する事に成功していた。同時にそれは、全ての準備が整え終わった事を意味していた。
To be continued...
(2012.11.10 初版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
今回はレイとカヲルの再登場ですが、予想出来た方はいらっしゃったでしょうか?まあ学園祭編の最終話でカヲルとレイの推測としてクローン体の暴走という推測を話に出していますが、私としては珍しくストレートな展開だと思ってますw
それからレイとカヲルですが、支離滅裂な印象を受けるかもしれません。何せ『シンジを殺した世界なんて許せない!』と言っておきながら『ケンスケはシンジの友達から埋葬してあげよう』ですからねwこれは私的には矛盾していません。勘の良い方なら気づくでしょが、この2人は良く言えば自分に素直、悪く言えば子供な価値観しか持っていないからです。だからシンジという存在を判断基準にしてしまっている為に、こんな矛盾した言動を取っています。まあまともな情操教育を受けていない子供じゃ仕方ないでしょうが。
話は変わって次回です。
次回は未来編後編となります。
量産型エヴァンゲリオン打倒の為、乾坤一擲の作戦に打って出るシンジ達。だが量産型と相対した時、シンジとアスカは忘れられない存在に巡り合う。
脳裏に浮かぶのは、託された遺言―死による解放。
そんな感じの話になります。
それではまた次回も宜しくお願い致します。
作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、または
まで