正反対の兄弟

第六十一話

presented by 紫雲様


ヘラス帝国バウンティハンターギルド―
 その日も、バウンティハンターギルドは荒くれ者達が昼間から騒いでいた。そんな空間に、シンジ達は久しぶりに姿を見せた。それと同時に喧騒がピタッと止む。
 考えてみれば当然である。今のシンジはゲンドウ人形ではなく、本来の姿である中性的な容貌の狩衣姿。アスカは幼女ではなく、方天画戟を手にした美少女。そして超は20歳前後の美女なのだから、周囲から視線が集まるのも当然であった。
 「・・・何だい?仕事の依頼か?」
 カウンターから声をかけたのは、頭に白い物が混ざり始めた、ギルドの情報部部長を務めるカインであった。
 その変化した容貌に、シンジとアスカは18年という時間を感じざるを得ない。
 「依頼と言えば依頼ですね。セシリアさんはお元気ですか?」
 「ギルド長の知り合いか?」
 「そんな所です。あの人に預けたままの貯金を、少し下ろそうと思って立ち寄りました。ゲンドウが来たと伝えて下さい」
 一瞬、カインが沈黙する。グラスを磨く手を止めて首を傾げる。そしてカウンターから身を乗り出して、マジマジとシンジを凝視した。
 「あの強面のガキか?」
 「そう思うのも仕方ないですけどね。僕がゲンドウ本人です。正確には、カインさんが知っているゲンドウは、中から僕が操っていた人形なんですよ」
 「アタシも久しぶりに、セシリアに会いたいの!それで、いないの!?」
 「・・・ちょっと待て!お前、まさかキョウコなのか!?」
 目を丸くするカイン。だがセシリアは皇帝マイクロフトに呼び出しを受けており、不在であった。
 「・・・と言う訳なんだ。夜には戻ってくるとは思うんだがな」
 「それなら都合が良いわ!シンジ、行くわよ!」
 「はいはい、それじゃあカインさん。また後で」
 そう言うと、シンジはアスカに引きずられるようにギルドの外へと姿を消した。
 
ヘラス帝国皇帝執務室―
 この日、執務室には皇帝であるマイクロフト、第1皇女カミュ、近衛騎士団長キリル、第3皇女テオドラ、バウンティハンターギルドヘラス帝国支部長セシリアが顔を並べていた。事実上、ヘラス帝国の最高会議と言って良い密談だったのだが、そこへドアをノックするよりも早く、血相を変えた侍従長が飛び込んできた。
 「へ、陛下!」
 「どうした、侍従長。そんなに慌てて」
 「ク、クーデターです!現在、近衛騎士団が足止めをしておりますが、突破されるのは時間の問題でございます!」
 侍従長の報告に、全員が咄嗟に席を立ち、部屋の外へと飛び出る。全員腕に覚えがある事もあり、逃げると言う選択肢は頭の中には無かった。
 廊下を駆け抜けた彼らは、中庭で呻き声を上げる近衛騎士の集団という姿に目を丸くする。そんな騎士達の中央に、3人の人影が立っていた。
 「・・・まさか!」
 「お久しぶりです、陛下。18年前の約束を果たしに、伺わせて頂きました」
 「宰相殿か!」
 キリルの叫びに、遠巻きに眺めていた宮廷の住人が言葉を無くす。現在、空位となっている宰相の地位にある者は、伝説的な強面の持ち主だったからである。そんな宰相と呼ばれた人物が、中性的な少年とあっては驚くのも無理は無かった。
 「間違いない!シンジじゃ!アスカじゃ!」
満面の笑みを浮かべながら、シンジとアスカに飛びつく影があった。その正体は、美しく成長したテオドラである。成長期である彼女は目を見張るほどに変貌を遂げていた。
 「宰相殿、それにアスカ殿。無事で良かった、心配したのですぞ?」
 互いの無事に喜びながら、声をかけあう一同。その光景に、周囲は言葉も無い。
 「セシリアも元気そうね!ただいま!」
 「貴女も相変わらず元気ね。ところで、そちらの娘さんはどなたなのかしら?紹介して頂けるかしら?」
 「私は超鈴音というネ。宜しく頼むヨ。バウンティハンターギルドヘラス帝国支部長セシリア殿」
 超の自己紹介に、セシリアは息を飲んだ後、お腹を押さえて笑いだす。その姿にマイクロフトが近寄り『大丈夫か?』と声をかけた。
 「・・・ごめんなさいね、マイク。あまりにも予想外すぎて、我慢できなかったのよ。シンジに超鈴音・・・そういう事だったのね?」
 「おい、セシリア。何を1人で納得していると言うのだ?」
 「数ヶ月前、旧世界で魔法を暴露しようとした者達がいたのよ。構成メンバーは僅か5名、恐ろしいのは構成メンバー全員が年端もいかない子供達だった。そしてAAA悠久の風のタカミチ・T・高畑を有する関東魔法協会は、サムライマスターの直接援護を受けたにも関わらず壊滅寸前にまで追い込まれたの」
 マイクロフトはおろか、カミュやキリル、テオドラが言葉を無くす。そんな大事件が起きていた事を彼らは知らなかったが、タカミチの名前は彼らも良く知っていた。
 「子供達のリーダーを務めた者の名前は、科学と炎の魔法を操る14歳の少女超鈴音。そして参謀を務めていたのが近衛シンジと名乗る16歳の少年だってね」
 「・・・近衛・・・シンジ?」
 一同の視線がシンジに集まる。その視線に苦笑しながら、シンジは口を開いた。
 「改めて自己紹介させて頂きます。僕は近衛シンジ、サムライマスター近衛詠春の養子です。同時に不死の魔法使いマガ・ノスフェラトゥダーク・エヴァンジェリンから人形使いの業を継承した人形使いの後継であり、時間転移により18年前にこの国でゲンドウと名乗っていた者です」
 シンジの口から飛び出した2つの爆弾に、一同は声も無い。剣士であり戦士であるマイクやキリルにしてみれば、サムライマスター近衛詠春は一度は手合わせを願いたいと望む相手である。
 そしてカミュやテオドラにしてみれば、不死の魔法使いマガ・ノスフェラトゥダーク・エヴァンジェリンの名は、御伽噺に出てくる魔王の様な存在であった。
 「全く、あまり驚かせないで頂戴。それはともかく、詳しい事情は聞かせて貰えるんでしょうね?」
 「はい、こちらこそ協力をお願いしたいのです。全て話しますよ」
 
 ネギ達と同じ時間軸へと帰還してきたシンジ達は、ネギ達を陰からサポートする為に忙しい日々を送っていた。
 ネギ一行が世界中に飛び散ってしまう事は既に分かっていた為、手広く捜査する事を求められたシンジは、すぐに戦友へ連絡を取ったのである。
 アリアドネー魔法騎士団、メガロ・メセンブリア、ヘラス帝国、バウンティハンターギルド各支部。その情報収集能力を利用してネギ達を捜索するのは、実の所、非常に簡単であった。
 何せ、ネギ達はゲートポート爆破事件の犯人として魔法世界中に指名手配されている身なのである。組織として動き出せば、見つけ出すのは容易い事でもあった。
 アリアドネーでは記憶を失った夕映を保護し、生徒として迎え入れたという報告が。
バウンティハンターギルドでは、賞金首と思って襲撃を仕掛けたものの、返り討ちにあったという報告からアスナと刹那の生存の報告が。更に黒竜撃退の賞金を渡したという情報から楓と木乃香の生存の報告が。
戦友ラカンの報告から弟子にしたネギと、ネギに同行していた小太郎、茶々丸、千雨、アキラ、夏美、亜子、和美、さよの生存の報告が。
メガロ・メセンブリアからは連合の領域内において、数々の犯罪集団を単身で壊滅させている中国拳法の使い手が報奨金を受け取っていたという報告から古の生存が。
加えてヘラス帝国の領域内において、かつてアリカ王女やテオドラ皇女が使った飛空艇が購入されたという情報から、ハルナの生存も確認されていた。
そんな報告書をシンジの肩越しに眺めていたアスカは、クスッと笑った。
「あの子達、バイタリティあるわよね」
「それについては同感だよ。アーニャちゃん、明石さん、佐々木さん、宮崎さんはまだ未確認だけど、4人については無事である事を祈るしかないか」
 現在、シンジが活動の拠点としているのはオスティアの宿屋である。ラカンからネギが拳闘大会に出ている事を聞かされ、遠くから無事を確認する事を目的にしつつ、裏でラカンと情報交換する為にオスティアへ足を伸ばしていた。
 「ところでシンジサン、調査は構わないがそろそろ時間ではないのカ?」
 「あ、もうこんな時間だったのか。それじゃあ行こうか」
 ガタッと席を立つ3人。
 この日は祭典の真っ只中という事もあり、街中には軍服を着込んだ帝国や連合の軍人達の姿もチラホラと垣間見る事が出来る。シンジも本来ならそうなる立場ではあるのだが、表向きは帰還した事を隠しておきたい為に、帝国宰相の地位は空位のままである。
 ちなみに、シンジ(ゲンドウ)帰還のニュースは外部へ漏れてはいない。何故、外部へ漏れていないかと言うと、皇帝であるマイクロフトが皇帝命令により緘口令を敷いた事、更にはシンジがサムライマスターの養子であり、不死の魔法使いマガ・ノスフェラトゥの後継という事実に怖気ついたというのが理由だったりする。
 そんな背景事情もあり、シンジは完全なる世界コズモ・エンテレケイアに帰還を悟られる事無く、自由気ままに活動する事が出来た。
 そんな折、セラスから頼み事を受けたシンジは、その約束を果たす為にアリアドネー魔法騎士団の宿泊施設へと顔を出したのである。
 施設は歴史を感じさせる、5階建ての建物であり、入口には門番と思しき者達がハルバードを手に立っていた。
 「こんにちは。こちらの団長を務めるセラスさんに呼ばれた、シンジという者です。取り次いで頂けないでしょうか?」
 「お話は聞いております、どうぞこちらへ」
 団員の案内の下、シンジ達3人が連れてこられたのは練武場である。そこにはセラスを筆頭に、数名の団員と候補生達が集まっていた。
 「来てくれてありがとう」
 「別に良いですよ、こちらも色々とお世話になっていますからね。ところで、今日の用件なのですが」
 「ええ、貴方達は実戦経験が豊富でしょう?バウンティハンターギルドにおいて最強と呼ばれていたんだから」
 セラスの言葉に、団員達がざわめく。確かにシンジは戦闘とは無縁の外見、アスカや超は勝気ではあるが、戦闘のプロには見えないのだから、驚くのも無理は無かった。
 「では、私は遠慮しておくヨ。ゆくり見物させて貰うネ」
 悪戯じみた笑顔で、ニッコリと笑う超。一方でアスカはやる気満々である。方天画戟こそ呼び出してないが、呼び出せば本物の実戦となるのは間違いなかった。
 「やれやれ、また面倒臭い事を・・・僕は近衛シンジと言います」
 「アタシは惣流・アスカ・ラングレー!こいつの仮契約相手パートナーよ、よろしくね!」
 「みんな、言っておくけど彼らは貴女達全員を束にしたより強いから、全力で挑みなさい。2人はあのサムライマスターの直弟子。特にシンジは最凶の賞金首と言われている闇の福音の弟子でもあるわ。外見に騙されると、痛い目に遭うわよ?」
 ざわめきがピタッとやみ、鋭い視線がシンジに注がれる。
 「今のは他言無用でお願いします。あの人の所へ賞金首が殺到したら、不機嫌極まりなくなりますから。それじゃあ、始めましょうか」

夕映side―
 アリアドネー騎士団から今回の式典護衛の為にやって来たのは、候補生から選ばれた夕映達以外にも存在する。それが候補生では無く、戦乙女騎士団正騎士である、夕映の先輩達である。
 その実力は高く、個々の戦闘技術レベルは勿論の事、集団戦闘における能力の高さは他組織の追随を決して許さない。それだけの実力を彼女達は持っていた。だが、その先輩達が4人小隊で勝負を挑んだにも関わらず、敗北したのである。
 最初の小隊は正攻法で挑んできた。後衛2人が魔法で援護をしつつ、前衛2人がアスカを挟撃するという戦術を採って来たのである。だが後衛が放った魔法は、シンジの破術によって無効化されていた。そして挟撃されたアスカは、神速の踏み込みによる一撃必殺の攻撃で1人をノックアウト。返す一撃で更に1人をノックアウト。この展開に、残る後衛2人は素直に降参した。
 次の小隊は戦術を変更してきた。後衛1人の支援の下、3人がかりでアスカを潰しに来たのである。だがシンジ達は慌てる事無く対応していた。
 シンジは術を無効化しつつ、自らも前に出て1人を引き付けて時間を稼いだのである。この間に残る2人はアスカの各個撃破の餌食となり、結果、降参を余儀なくされた。
 その結果に対して3組目は後衛を置かず、2人チームを2つ作って、それぞれがアスカとシンジを挟撃してきた。しかしこの作戦も失敗に終わっていた。2組目の相手を引きつける事に徹したシンジの戦い方から、シンジが弱いのではと思いこんだ為である。
 舐めてかかってきた2人組を、シンジは身体強化を限界まで行い、油断できない素人としての実力を発揮して時間を稼ぐ。その間にアスカが2人を倒し切り、シンジを攻撃していた2人を無力化してみせたのであった。
 この3つの戦いを見ながら、夕映は唸り声をあげていた。
 「どうかしたの?」
 「・・・あの男の人、どこか見覚えがある気がするのですよ・・・」
 「ひょっとして知り合いなのかな?後で訊いてみる?」
 コレットの提案に頷く夕映。そんな夕映が顔を上げた時、ちょうどシンジと視線が絡みあう。
 ニコッと笑うシンジに、夕映の頬に赤みが差す。その反応に、コレットがキラーンと目を光らせた。
 「うおおおおお!?ユエ、まさか!」
 「コ、コレット!?何を勘違いしているですか!」
 慌てふためく夕映と、興奮するコレット。そんな2人を取り囲むかのように、エミリィとデュ、フォンが一瞬で位置取りする。
 「何々?ユエ、一目惚れかニャ?」
 「・・・あのユエに男の影が・・・」
 「ユエさん、少々、不謹慎ではありませんか?」
 「3人とも何を訳の分からない事を言っているですか!」
 ガーッと噴火する夕映。当然の如く、その行動は周囲の注目を浴びていた。
 シーンとなる練武場。セラスは口を隠して笑いを堪えている。アスカは呆れたように夕映を眺めている。シンジは仕方ないなあとばかりに苦笑していた。
 「あ、あの!これは・・・」
 「落ちつきなよ、おでこちゃん」
 「誰がおでこちゃんですか!」
 コンプレックスを刺激され、再びガーッと怒る夕映。その反応に、今度はコレット達候補生組が笑いを堪えるのに必死である。
 「おでこちゃんはおでこちゃんでしょ。僕は前からそう呼んでたから、問題ないでしょ」
 「私はそんな渾名で呼ばれた事なんて!・・・え?」
 「おいで、セラスさんから事情は聞いているよ。どれだけ頑張ったのか、見せてごらん」
 夕映の脳裏に、微かに走る痛み。だが夕映は、目の前の少年が自分と過去に関わりがある事だけは、即座に理解していた。
 「・・・分かったです、行くですよ。装剣メー・アルメット!」
 完全な実戦装備を整えた夕映を、コレット達が笑いを止めて慌てて止めに入る。だが、その体はピクリとも動かない。
 「な、何で!?」
 「これは、体が動かない!?」
 「ごめんね、君達。僕はおでこちゃんがどれだけ成長したかを知りたいんだ。邪魔をしないと約束してくれれば、すぐに糸から解放してあげるよ」
 シンジの言葉に、いつのまにか体中に糸が繋がっている事に気が付き、愕然とするコレット達。
 「貴女達、良く覚えておきなさい。その糸こそが、最凶の賞金首である闇の福音直伝の人形使いの業なのよ?」
 セラスの言葉に、候補生はおろか正騎士達も言葉を無くす。誰一人として、シンジが放った糸に気付く事が出来なかったからである。
 「全力でおいで。例え今のおでこちゃんがどれだけ強くなっていたとしても、まだ僕の足元にも及ばない。だから、遠慮はいらないよ」
 「・・・それなら、行くですよ!」
 長剣を振りかぶりつつ、突撃する夕映。大上段から振り下ろされた一撃を、シンジはスウェーバックの要領で躱わす。そこへ夕映がニヤリと笑いながら呟いた。
 「風花武装解除フランス・エクサルマティオー!」
 (糸を使ってくると分かっていれば、対応は容易いですよ!)
 夕映の顔に、してやったりとばかりに笑みが浮かぶ。だが肝心要の魔法は、シンジに届く事無く一枚の符によって阻まれる。
 「無効化の術式ですか!?」
 「正解、憶えておくと良いよ。僕に魔法は通じないからね」
 「それなら!」
 魔力を自分の体に通して、身体強化を図る夕映。その間、シンジは面白そうに笑いながら夕映が準備を整えるのを待っていた。
 「これでも喰らうですよ!」
 今までに倍するスピードの踏み込みを見せる夕映。大上段からの切り落としではなく、小さい一撃を複数組み合わせた手数の多さで勝負を仕掛ける。
 その攻撃を速度に頼って躱わしていくシンジ。元々、武術の嗜みの無いシンジには、紙一重で躱わすという考えが無い。出来るのは、スペックで相手を上回る事だけである。
 その事に夕映も気付き、連撃を仕掛けながら作戦を練り始める。
 (・・・これで、どうですか!)
 右手一本の袈裟がけの斬撃。それを囮に左拳による本命の拳打を放つ夕映。夕映の思惑通り、斬撃のフェイントにかかったシンジは、拳打を避ける事は出来なかった。
 まるで吸い込まれるように鳩尾に突き刺さる拳打。だが拳に返って来たのは、まるで鉄骨でも殴りつけたかのような反動である。
 「な、何ですか!?今のは!」
 ジーンと痺れる左手に、目を丸くする夕映。そんな夕映を前に、シンジは笑いながら応えた。
 「ただの身体強化だよ。魔法は無効化、格闘戦では僕の身体強化を貫けない。ここからどう反撃に出るのか見せてごらん。おでこちゃんになら出来る筈だよ?」
 「来れアデアット!」
 アーティファクト『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』を呼びだす夕映。現れたアーティファクトに、初めて夕映が従者ミニステル・マギであった事を知った者達が息を飲む。
 「正解。敵を知り、己を知らば、百戦危うからず。情報を制する者こそが、本当の意味での勝利者足り得る。君はその点において、圧倒的に有利なアドバンテージを持っているんだ。その長所を忘れてはいけないよ?」
 「貴方は、私の『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』の能力を知っているのですね?もしや、貴方は」
 「さあ、次のステップに進もうか」
 身体強化したままだったシンジが、技術も何も無い素人の攻撃で襲い掛かる。当たったら一撃KOな破壊力を秘めた攻撃を必死で躱わしながら、情報を集める夕映。
 (・・・無効化の術式の正体は破術。一度に消せるのは1つの魔法のみ。魔法の射手の様な複数の攻撃に対しては相性が悪く、符を使わねばならず、燃費も悪いのが弱点ですか!)
 「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!風の精霊11人ウンデキム・スピリトウス・アエリアーレス縛鎖となりてウインクルム・フアクテイ敵を捕まえろイニミクム・カプテント魔法の射手サギタマギカ戒めの風矢アエール・カプトウーラエ!」
 11本の束縛の矢が、シンジ目がけて襲い掛かる。
 「破術の弱点は同時多方面攻撃ですよ!これなら防ぐ事は不可能です!」
 「その答えでは50点だよ。こういう方法もあるんだからね」
 シンジの右手が動き、まるで自分自身を取り囲むかのように糸を展開する。その糸に触れた束縛の矢は、全て掻き消された。
 予想外の展開に言葉も無い夕映である。
 「今のは破術と人形使いを組み合わせた対魔法防御戦術―流水だよ。消費する気も馬鹿にならないから、使えるのは後にも先にも僕1人だけだろうね」
 「な、何でですか!破術は符が必須の筈です!私の『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』に、誤った情報が載っているなんてあり得ないですよ!」
 「それが君のアーティファクトの弱点だ。確かにおでこちゃんの『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』は強力だけど、それはあくまでも魔法世界のコンピューターネットワーク―まほネットに載っている情報しか調べる事は出来ない。裏を返せば、まほネットに載っていない情報では調査なんて不可能なんだよ」
 「で、でもそれはおかしいですよ!魔法世界に存在しない魔法なんてある訳が無いです!」
 「僕の魔法は陰陽術。旧世界の日本―それも京都と呼ばれる一部の地域にぐらいしか残っていない魔法なんだ。魔法世界の立場からすれば、そんな異世界のマイナーな魔法の例外的事項まで調べて登録なんて思いつきもしなかっただろうね。精々、詠春さん関連として基本的な所しか押えていなかったんだと思うよ?」
 笑いながら、懐から短刀を取り出すシンジ。
 「これは僕が師匠から頂いた短刀。君は知らないだろうけど、これを使っても破術は使用出来るんだ。こういうサンプルがあったからこそ、術式を改良出来たんだけどね」
 振り返ったシンジに対して、サムズアップで応える超。未来世界から帰還して約2ヶ月。この間、時間を持て余していた超がシンジから相談を受けて、作り上げた作品である。
 「この天才の頭脳に不可能は無いネ!」
 「とまあ、そういう訳。分かった?」
 既存の情報を上回る事実に、夕映は言葉も無い。
 「さて、それじゃあ再開しようか」
 シンジが右手を振りかぶって糸を放つ。それに気付いた夕映は、全力でその場から飛び退いて、牽制代わりに魔法の射手を放つ。
 その攻撃をシンジが足を止めて、流水で受け流している間に夕映は目まぐるしく頭を回転させる。
 (魔法は効かない、格闘戦も通用しない。この状況で勝ち目があるとすれば、これしかないですよ!)
 「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!雷撃武器強化コンフィルマーティオー・フルミナーンス!」
 夕映の右手に握られた長剣が、青白い火花をスパークさせる。それが意味する所に、誰もが気付いた。
 「ユエ!それはダメだよ!」
 「喰らうですよ!」
 長剣の切っ先をシンジに向けて、一点突破を図る夕映。破術よりも早く、相手を貫く。それが夕映の導き出した結論。
 対するシンジはそれを避ける事も無く、正面から受け止める。長剣の切っ先が脇腹を貫いた感触に、夕映がハッと正気に戻った。
 「わ・・・私・・・」
 「正解だよ、おでこちゃん。臨機応変はどんな状況下においても正解だけど、時には力技も必要だ」
 ボン!と音を立てて人型の紙にシンジが姿を変える。その展開に、全員が呆気に取られた。
 「まさか、身代わりの術式ですか!」
 「正解。でも第3ステップには進めなかったか。ま、しょうがないか」
 背後から聞こえてきた声に、慌てて振り向く夕映。だがその喉元に、鈍く光る短刀が突きつけられていた。
 「戦場では常に冷静クールに。生き延びたいなら、それが大原則だ。ましてや指揮官や参謀であれば、なおさらだよ?」
 短刀を収めたシンジを前に、夕映の張り詰めていた緊張の糸が切れて崩れかける。それをシンジが咄嗟に抱きとめる。
 「よくここまで頑張ったね、おでこちゃん。本当に強くなったよ」
 「・・・貴方は・・・貴方は私の・・・」
 「僕は君の主じゃないよ。まあファーストキスの相手ではあるし、君のお爺ちゃんは、僕をおでこちゃんと結婚させたかったみたいだけどね」
 シーンとなる練武場。数秒の静寂が支配する中、夕映が羞恥で顔を赤く染めていく。
 「ななな、何を言っているですか!」
 「ん?証拠の写真ならあるんだけど、見てみる?」
 ビシッと音を立てて固まる夕映。そんな所へ、コレット達候補生組が立ちあがった。
 「「「「「見せて下さい!」」」」」
 「はい、これ」
 「ちょ、ちょっと!?」
 一斉に群がった少女達。その写真の内容を知る超とアスカは、肩を竦めて笑うばかりで助け船は全く出そうとしない。
 「や、止めるですよ!見るなですよ!」
 「ここにいる小さいのが3歳の僕。それで頬っぺたにキスしてるのが、2歳だった頃のおでこちゃんだよ。それからこの人がおでこちゃんのお爺ちゃんで、僕の後ろにいるのが僕の母さんなんだ。ちなみにおでこちゃんのお爺ちゃんが、僕の母さんの先生なんだよね」
 写真を覗き込んだ5人が、クスクスと笑いだす。その視線の先にいるのは、顔を真っ赤に染め上げ、ワタワタと慌てている少女である。
 「これを見て貰えば分かるんだけど、おでこの成長具合に魅力を感じるんだよね」
 「何を訳の分からない事を言っているですか!いい加減にするですよ!」
 「いやあ本気なんだけど」
 実際に夕映を背後からハグして、更に肩に顎を乗せ、おでこを撫でるシンジ。対する夕映はその腕を全力で押しのけようとする。その姿に、全員が抑えきれなくなったようにお腹を押さえて笑いだした。
 「無駄に気を使って腕力を底上げするなです!」
 夕映の怒声は、蒼い空に吸い込まれるようにして消えた。

 腕試しを終えたシンジ達は、小休止を取りながら雑談に応じていた。そんな最中に夕映が緊張しながら、コレットに付き添われてシンジの元へと歩み寄っていく。
 「あの、教えて欲しい事があるですよ。貴方は私の事を知っているですよね?」
 「僕が知っているのは、ここ1年ほどのおでこちゃんだけどね。どこにいて、どんな友達がいて、どんな生活を送っていたのか。確かに僕は知っている。でも、今は教えるつもりはないんだ」
 「どうしてですか?」
 「このままアリアドネーで過ごすのも、悪い事ではないからね。全てが終わったら、迎えに来てあげるよ。だから、今はここで過ごせば良い。セラスさんにも、おでこちゃんの事は頼んであるからね」
 その返答に、夕映は言葉も無い。確かに夕映は、今の環境に安らぎと充実感を感じているのは事実だからである。それを満喫できるのだから、何処にも文句を言う筋合いは無いと言えた。
 「でも、どうしても気になると言うのであれば、行動すれば良い。おでこちゃんの持つ仮契約カード。それが手掛かりになってくれるから」
 「・・・ネギ・スプリングフィールド・・・」
 「そうだよ。あの子も魔法世界へ来ているからね。ただ、1つだけ忠告しておく事があるんだ。もし、自ら動くなら覚悟だけは決めておくんだよ?これから進む世界は、こういう世界だからね」
 言い終えると同時に、シンジの雰囲気がガラッと変わる。笑みは消え、代わりに氷の様な冷酷さが顔を支配していく。瞳の色が鮮血の様な真紅の光を放ち、同時に全身から殺気が放たれ始めた。
 「しっかりと覚えておくんだ、綾瀬夕映。君が進もうとする世界の片鱗を。この道を歩む限り、避けては通れぬ存在がある事を」
 夕映だけではない。コレットやエミリィ達候補生組は、初めて浴びた本物の殺気に体を強張らせる。正騎士達も、シンジがこれだけの殺気を隠していた事に、愕然としていた。
 「・・・それでも・・・それでも、私は・・・自分の意思で歩く道を決めるですよ!」
 「なら、強くなるんだよ。僕が言えるのは、それだけだからね」
 殺気を消したシンジの瞳が、元の色へと戻る。緊張から解き放たれた候補生組が、安堵のあまり溜息を吐いた。
 「それじゃあ、また会おう。セラスさん、この子の事、頼みますね」
 そう言うと、シンジはアスカと超を連れて、宿泊施設を後にした。

 宿泊施設を後にした3人は、次の用事を済ませる為に場所を移動していた。向かった先は、ある裏通りに建てられていた1軒の酒場である。
 ギイッと音を立てながら中へ入ると、既に待っていた人影が振り向いた。
 「よお、遅かったじゃねえか。嬢ちゃんも元気そうで何よりだ」
 「アンタこそ、相変わらず筋肉ダルマね!」
 互いに小突きあいながら、無事を喜ぶアスカとラカン。その一方で、もう1人の待ち人であったリカードが、グラスに注いでいた酒を一息で飲み干しながら手を振ってみせる。
 「昼間からお酒ですか?2人とも、相変わらずですね。肴でも作りましょうか」
 「お、そいつはいいな。マスターから厨房の中は好きなように使ってくれと言われてるから、頼んだぜ」
 さすがに空腹を覚えていたのか、リカードが反応する。そんなリカードを前に、ラカンとリカードには肴を、自分達用に簡単な食事を整えていく。
 用意された物を食べながら雑談に興じる5人。だがその話題は、徐々にきな臭い物へと変わっていく。
 「・・・そうですか。ネギ君はエヴァンジェリンさんの技法に手を伸ばしたんですか」
 「ああ『闇の魔法マギア・エレベア』って言うんだがな、早い話が攻撃魔法を取り込む事によるドーピングだ。あの坊主、闇と相性が良過ぎんだよな」
 「闇の魔法ねえ、何と言うか、あまりにも悪役っぽいネーミングセンスだわ」
 アスカの感想に、笑うしかない一同。確かに闇と言った時点で、善良なイメージを持つ者は皆無としか言えないからである。
 「だが、あれは坊主にとって必要な物だ。俺様の見た所、完全なる世界コズモエンテレケイアはかつてほどの勢力は無いが、厄介さでは上回っているぞ?」
 「ふうん、それは面白そうな情報ネ。詳しい事を聞かせて貰いたいネ、千の刃殿?」
 「完全なる世界コズモエンテレケイアではなく、フェイト・アーウェンルクス個人に忠誠を誓う連中と交戦したが、やりにくいんだよ。義理がたい上に、年端もいかない嬢ちゃんが相手だからな。殺すのは寝覚めが悪いんだ」
 ヤレヤレと肩を竦めるラカン。その考えに共感したのか、リカードも重々しく頷く。
 「・・・それについては問題ありません。最悪、汚れ役が必要になれば僕がやります。だから2人の心配は不要です」
 「おい、お前!」
 「分かってますよ、僕だって好き好んで誰かを殺したい訳じゃない。相手が子供であれば尚更です。でも、最悪の事態だけは考えておかなきゃいけない。それが、僕の役目なんですからね。ネギ君に人殺しなんて烙印を背負わせる訳にはいかないんですよ」
 黙り込むラカンとリカード。かつての大戦の裏事情を知る2人は、シンジがヘラス帝国軍部の暴走を食い止める為に、暗殺者の真似事をやってのけた事実を知っていた。状況を改善する為に、非合法な手段を採っていた事も知っていた。だからこそ、シンジがそれだけの覚悟を持っている事も十分に理解できてしまったのである。
 「・・・やれやれ、相変わらずだな、お前は。何にも変わっちゃいねえ。お前は悲観的すぎんだよ」
 「楽観的に考えるのは、他のメンバーに任せていますから。それに兄としては、弟妹を守ってあげたいだけです。その為なら、どれだけの傷を負おうが構わない。覚悟は決めています」
 「・・・そう悲観的になるものじゃないよ」
 ギイッと音を立てて、新たな影が姿を見せる。スーツ姿の男性と、拳法着のような服を纏った、長身の女性。その姿に、ガタンッと音を立ててシンジが立ちあがった。
 「高畑先生・・・」
 「久しぶりだね、シンジ君。いや、ゲンドウさんと言うべきかな?まさか紅き翼アラルブラの参謀役だったゲンドウさんが、時間転移したシンジ君だったなんて。教えられた時には驚いたよ」
 煙草を口に咥えながら、椅子に座るタカミチ。その横に座った真名が、面白そうに口を開いた。
 「久しぶり、と言うべきかな?シンジさんとアスカさんにしてみれば、3年振りらしいじゃないか。それに、まさか超と再会出来るとは思わなかったよ」
 「ふふ、真名はちとも変わらないネ」
 美しく成長したかつての盟友と、旧交を温める真名。二度と会えなかった筈が再会できたのだから、喜ぶのも当然である。
 「あとは茶々丸と聡美、五月がいれば関東魔法協会を壊滅に追い込んだ超一派が勢揃いするネ」
 「おいおい、勘弁してくれよな」
 苦笑するタカミチに、シンジも苦笑いするしかない。
 「そういえばSEELEについては、何か情報はありますか?」
 「連中と手を組んでいる事以外は、正直な所、サッパリだよ。まるで穴に潜ったモグラのように、全く動きが見えないんだ」
 「・・・リカードさん。最近の魔法世界の景気はどうですか?エヴァを1体作るには、旧世界の国が1つ傾いてもおかしくないぐらいの予算が必要でした。仮にSEELEがエヴァを作っているとすれば、その数が1体である筈がない。間違いなく複数作っている筈です」
 「シンジの言う通りよ。物資の流通も、金の流れにも異常が生じている筈。恐らくは小国を中心に、その皺寄せが来ている筈よ?」
 アスカの言葉に、眉を顰めるリカード。その表情に、シンジとアスカは互いの予想が的を射ていた事に確信を持つ。
 「間違いなさそうだね、奴らは量産型エヴァンゲリオンを開発している。間違いなく戦線へ投入してくるだろうね」
 「対抗策としては量産型ミストルティンを用意しておく事ぐらいカ」
 「そうだね、その準備は超さんにお願いするよ」
 うむ、と頷く超。
 「面白くなてきたネ。今度こそ、元凶である奴らに落とし前をつけてやるヨ!」
 「ああ、綾波とカヲル君を弄んでくれたんだ。僕もタダでは済ますつもりはない。徹底的に相手をしてやろう。二度とふざけた真似が出来ない様になるまでね」
 全身から滲み出た気が、粘性の炎のようにシンジの体を取り巻いていく。そんな好戦的なシンジの態度に、酒を飲んでいたラカンが面白そうにニヤリと笑った。
 「それで、お前はこれからどう動くつもりだ?坊主と合流する訳じゃないんだろ?」
 「ええ、連中についての情報を集めます。恐らくSEELEは完全なる世界コズモエンテレケイアを時間稼ぎの為の駒としてしか見ていないでしょうから。ですから、僕の代わりにネギ君達の事をお願いします」
 「ま、それが妥当な所か・・・そういえば、1つ伝えておく事があったぜ。坊主の探していた嬢ちゃんが5名合流したそうだ。心を読む嬢ちゃんと、飛空艇を持った嬢ちゃんと、中国拳法の嬢ちゃん、それからウェイトレスをしていた一般人の嬢ちゃんが2人らしいが、心当たりはあるか?」
 ラカンの問い掛けに、頷くシンジ。その背中をアスカが景気づけのようにパン!と叩く。
 「シンジ、良かったわね!」
 「うん・・・ありがとう、アスカ」

夕映side―
 チャプンと音を立てて、鼻の下までお湯に沈む夕映。そのまま口からブクブクと息を吐き出しながら、彼女は自分の身に起きた事を振りかえっていた。
 (・・・近衛シンジ・・・)
 自分の過去を知っている少年。そのやり取りから、本来は温厚な性格なのだという事は彼女にも想像出来た。同時に、今の自分では想像できないレベルでの殺し合いと言う名の実戦を経験している事も。
 「ユーエー!」
 「キャッ!?」
 後ろへ回り込んだコレットに胸を鷲掴みにされて、夕映が悲鳴を上げる。後ろを振り向くと、そこには妙に目をキラキラさせたコレットが待ち構えていた。
 「ユエってば、男がいたなんて知らなかったよ!」
 「何を言っているですか!」
 「何をって、昼間の男の人!」
 キャーキャー騒ぎだす夕映とコレット。そこへデュとフォンが加入して、ますます事態は混沌と化して行く。そんな4人を付き人であるベアトリクスを連れたエミリィが呆れたように溜息を吐きながら仲裁に入った。
 「貴女達、その辺りで止めておきなさい」
 「え~!?委員長は興味ないの?あのユエに男がいたのに!」
 「だから男じゃないです!」
 「興味が無いと言えば嘘になりますが、あの方が本当の事を言っていたとは断言できません。あの写真に写っていた子供にはユエさんの面影はありましたが・・・」
 あくまでも慎重なエミリィ。そんなエミリィの肩越しに、付き人であるベアトリクスが真剣に呟く。
 「・・・ユエさん。貴女が今後どのような選択肢を取るにしろ、情報を集めておいて損は無いと思うのです。幸い、あのシンジと名乗った方はヒントを置いていかれました。まずはそこから調べてみるのが良いと思います」
 「来れアデアット
 『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』が姿を現す。
 「まずはあの人の事を調べるです。近衛シンジ・・・」
 表示される情報。だがそこに記載されていた情報の内容に、ユエ達は凍りついた。闇の福音の弟子なのはまだ良い。問題なのは、シンジが仕出かした実績である。
 「たった5人?たった5人で関東魔法協会を壊滅寸前にまで追い込んだ?そんな事が可能なのですか?」
 「関東魔法協会といえば、メガロ・メセンブリアが旧世界の日本に置いている下部組織です。ですがそこにはAAA悠久の風のタカミチ・T・高畑が在籍している筈ですが・・・しかもこれによれば、この戦いにおいて関東魔法協会側は高畑氏以外にも、あのサムライマスターまで参戦していますわ・・・」
 「どど、どんな事したら、英雄相手に追い詰めるなんて真似が出来るニャ!?」
 言葉も無い少女達。続いて映し出されたのは使徒としての姿を現し、圧倒的な戦力差で暴れているシンジである。
 加粒子砲や光の槍はまだ良い。だがイスラフェルの相互補完能力や、レリエルの虚数空間を利用した人外の戦術には、言葉を失った。
 「人間ではないのでしょうか?この人は」
 「・・・旧世界で起こった使徒戦役の英雄。汎用人形決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン初号機専属パイロット、サードチルドレン。更に倒した使徒の力を継承している事が、麻帆良攻防戦において確認済み。人間から使徒へと変じたものと推測される。現在はゲートポート爆破事件に巻き込まれて、仮契約相手であるセカンドチルドレン共々、生死不明。遺体は見つかっていないが、生存はほぼ絶望視されている・・・」
 「・・・ですが、あの人は生きていたです。つまり、死んでいなかったという事になるですよ」
 夕映の言葉に頷く一同。そんな中、コレットが『世界図絵オルビス・センスアリウム・ビクトゥス』に書かれていた事に気がついた。
 「・・・備考:秘密結社SEELEへの激しい憎悪を確認・・・SEELE?」
 「ユエさん、SEELEという組織についても調査をお願いできますか?」
 「任せるですよ・・・出たですが、これはトンデモナイ組織ですね。旧世界において2000年近く前から存在している秘密結社とは。現在、組織は空中分解を起こして、僅かな残党だけが完全なる世界コズモ・エンテレケイアと手を組んで活動中・・・」
 次々に明るみになる真実に、少女達が顔を青褪めさせる。シンジが敵に回している者達の厄介さに、今更ながらに気付いたからである。
 「・・・あの人がユエさんをアリアドネーに預けておきたいと思うのは当然です。これほどの存在が敵とあっては、おちおち同行なんてさせられませんわ。私が同じ立場であれば、やはり預けたままにしておくでしょうね」
 「私も御嬢様の意見に賛成です。ですがあの人の話から推測するに、そう遠くない内にSEELEと激突するつもりでいるのは間違いないでしょう。ユエさんがどんな選択肢を選ぶにしろ、時間はあまり残っていないでしょう」
 「ユエ・・・」
 不安に揺れる仲間達の視線が、夕映へと注がれる。
 「・・・私の道は私が決めるですよ。誰かに決めて貰うような物ではないです。私の人生は、私の物なのですから!」



To be continued...
(2012.11.24 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回からは魔法世界へ舞台を移しますが、相変わらず舞台裏で動いております・・・ネギ達の心配を余所にw悪いお兄ちゃんですねえ。まあ仕方ないと言えば仕方ないんですけどね。
話は変わって次回です。
ネギ・小太郎とラカン・カゲタロウによる武闘会決勝戦。ネギの成長を見届けたシンジは、ネギ達の前には姿を見せず、更なる手を打っていく。大戦を潜り抜けたシンジは、それが何を意味するのかを自覚しながら。
それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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