第六十八話
presented by 紫雲様
夏美のアーティファクト『孤独な黒子 』により隠密化し、夕映の有線型魔力感知精霊を先行させる。それによりアスナの異能無効化能力の限界ラインまで近付く。そこへ茶々丸の『空飛び猫 』による奇襲・囮攻撃を仕掛け、更に小太郎が追撃。その間に手分けしてアスナと最後の鍵 を奪取。その後、鍵の力により転移して脱出する。それが少女達の立てた作戦だった。
この作戦はフェイトの意地の反撃による石化針によって、裕奈・さよ・ベアトリクスという犠牲を出しながらも、かろうじて成功した。石化した3名は楓の『天狗之隠蓑』に収納し、何とかのどかの持つ造物主の掟 によって脱出を果たした。だがドゥナミスの用意していた保険を前に、作戦は木っ端微塵に崩壊させられた。
ドゥナミスの保険。それはフェイトの兄弟にあたるアーウェンルクスシリーズの存在。
小太郎達儀式急襲組に対しては風のアーウェンルクスであるクウィントゥムを。
ハルナ達脱出路確保組に対しては火のアーウェンルクスであるクアルトゥムを。
木乃香達待機組に対しては水のアーウェンルクスであるセクストゥムを用意していたのである。
この事態に、少女達は精一杯の行動をしてみせた。
儀式急襲組はアスナと最後の鍵 を守る為に、小太郎と楓が足止めになるという犠牲を払いながら撤退を開始する。だがクウィントゥムの実力を前に、2人は僅かな時間しか足止めを行う事しか出来なかった。それでも、その僅かな時間を利用して少女達は少しでもネギの元へ戻ろうと必死で足を動かしていた。
脱出路確保組はクアルトゥムの炎魔法を前に、手も足も出なかった。と言うのも、最初に一行の中で最大火力を誇る茶々丸が下半身を吹き飛ばされ、迎撃火力がいなくなってしまったからである。護衛役として残っていた高音は影使いとして高い能力を有するが、基本的には接近戦防御型であり、クアルトゥムを相手取るには実力不足であった。
この状況を打破する為にハルナが選んだのは、パル様号による逃走である。クアルトゥムは狩りの様な遊び感覚を持っていた事が功を奏し、ジョニーが操るフライ・マンタ号という犠牲を出しながらもかろうじて逃走劇を成立させていた。
しかし待機組には逃げ道が無かった。ネギを動かせない以上、逃げだす事は不可能だからである。その上、セクストゥムによってドゥナミスが復活してしまったのだから、最早目も当てられない状況であった。
この事態に、古がいち早く思考を切り替えてセクストゥムに襲い掛かった。だがセクストゥムは圧倒的な魔力を使い、水の牢獄へと古を閉じ込めてしまった。
???―
雪の降る夜の草原。その地平線の先には、燃え盛る街並みが見える。そんな場所にネギ・スプリングフィールドはいた。
『ガキにしちゃあ十分にやったよ。これ以上やれば、良くて化け物。悪けりゃ死ぬ。ここで止めても誰もお前を責めたりしねえ。だが、本当にそれで良いのか?ネギ』
草原の中に転がる岩。そこに腰かけたネギは、目は虚ろ。全身は闇の魔法 の侵食を示すように黒く染まりきっている。
「頭に霞がかかったみたいに、何も思いだせない・・・でも、しなければいけない事がある。それだけは思いだせるんです・・・」
その呟きに応えるかのように、ネギの背後に複数の人影が現れる。
『スポットライトを浴びた主役なら、降りちゃあいけねえ舞台ってのがあらあな』
『お前にゃあ、強くなったらぶん殴るとのたまった宿敵がいたんじゃないのか?』
『身命を賭してでも、守ると誓った仲間がいたよなあ?』
『そして、お前には追い続け、求め続けた仲間がいたんじゃなかったか?』
ネギの瞳に、徐々に気力が戻りだす。それに同調するかのように、夜の草原は明るい昼の草原へと切り替わっていく。
ネギの背後。そこにいたのはトサカ、ラカン、エヴァンジェリン、そしてナギ―
「父・・・さん?」
『俺の跡を継いで、俺を超えるって話になってるみてえだな?』
「そ、それは!」
カーッと顔を赤く染め上げるネギ。そんなネギの背後で、エヴァンジェリンがクックックと笑い声を上げる。
『ぼーや。ナギが歩まなかった、貴様にしか歩めない道がある。灰色の道を行け』
「・・・泥にまみれても尚、前へと進む者であれ・・・こういう事だったんですか?」
『お前の近くには、似たような馬鹿がいただろうに・・・往け、我が弟子よ』
トサカが歩み寄り、ネギの背中を景気づけの様にパーンッと叩く。説教するタイプでは無いトサカらしい励ましに、ネギは笑顔で返す。
更にそこへラカンが声をかけた。
『行ってきな、一人前。テメエの大切な仲間を、全て守って来い!』
「はい!行ってきます!」
待機組―
セクストゥムの水魔法によって、少女達は水の立方体に閉じ込められていた。あとは氷漬けにするばかり。その段階で、セクストゥムの腕を掴む者がいた。
掴んだ者は全身が真っ白の少年だった。全身のひび割れが徐々に大きくなる中、巨大な魔力が放たれ、セクストゥムを無力化してしまう。
弾け飛ぶ水魔法。牢獄から解放された少女達が目にしたのは、本来の姿を取り戻した頼りになる少年である。
「ば、馬鹿な!水のアーウェンルクスを一撃だと!?いや、それよりも魔素に魂魄まで侵された状態から復帰する等!」
「みなさん、もう大丈夫です。ここは僕が」
余裕の態度のネギに、服を消し飛ばされたセクストゥムが顔を赤らめながら攻撃しようとして、不自然に動きを止める。その視線は肩越しに背後へ向けられていた。
「主よ!裏切るか!」
「主?それって墓所の主って奴か?」
「貴方は・・・ゲートポートでアベルと戦っていた魔法使い!」
ネギの叫びに、墓所の主がニヤッと笑う。
「私は元々、お前達の同志になった覚えは無い。それに、その少年には貴君らの計画に代わる案が有ると言うではないか。ならば、私はその計画にこの世界の未来を賭けたくなったのだよ」
「馬鹿な!正気で言っているのか!」
「無論、正気だ。少年よ、彼も動いている、ボヤボヤしていると先を越されてしまうぞ?往け、我が末裔よ」
脱出路確保組―
クアルトゥムは遊んでいた。まるで猫が獲物をいたぶる様に、喜悦に顔を歪ませながら鬼ごっこを楽しんでいたのである。
歯噛みする少女達だが、対抗策が無い為に逃げ惑う事しか出来ない。そこへクアルトゥムが巨大な炎の巨人を召喚してみせた。
「炎帝召喚・・・さあ、魂が燃え尽きない程度に焙ってやろうか」
振り下ろされる炎の一撃。だがその一撃はパル様号には届かず、寸前で食い止められていた。
パル様号を守ったのは、小さな鬼神―アベルである。
「GRWWWWWW」
「ほお?これは人形か、どれ相手をしてやろうか」
炎の巨人が拳を叩きつける。だがその拳が届くよりも早くアベルは飛び上がり、自分の拳を巨人の腕に叩きつけて狙いを逸らしていた。
反撃とばかりに無数の乱打を放つアベル。その拳の一撃に、巨人がよろめきながらも炎のブレスでアベルを焼き殺そうとする。
逃げようとしたアベルだったが、その動きが不自然に止まる。そして避けるどころか、敢えて炎のブレスをその身で受け止めた。
「アベル!」
「ハーハッハッハ!これはいい!随分とまあ、主思いの人形じゃないか!船を壊されない為に、自らを犠牲にするか!」
クアルトゥムの声に、少女達はハッと気がついた。丁度、巨人とアベルの直線状にパル様号は存在しており、アベルが避ければ炎のブレスはパル様号を直撃していたのである。
全身を炎に包まれながらも、アベルは炎の中から姿を見せた。紫の装甲の至る所が黒く煤け、ブスブスと煙を上げている。だが受けた傷は瞬く間に癒えて、その両の瞳に宿る戦意に衰えは見られなかった。
「これは予想以上の潜在能力だな。面白い、その再生能力がどこまで保つか、試してやろう」
「やめてえええええ!アベル、お願いだからもう止めて!」
ハルナの叫びが響く中、それでもアベルは退こうとはしなかった。主の『お願い』を果たす為に、その身を犠牲にしてでも守りぬこうとする。
そこへ雷光が走り、クアルトゥムごと巨人を弾き飛ばす。
「何!?」
「アベル!大丈夫?」
姿を現したネギに、アベルが唸り声で応える。
「アベル、ここは僕に任せて。代わりにハルナさん達を守って」
コクッと頷くと、パル様号へアベルが帰還する。そんなアベルを見送ったネギだったが、甲板に上半身だけで転がっている茶々丸の姿に気付いた。
茶々丸は笑っていた。ネギの無事を喜ぶかの様に。
「・・・お前がやったのか?茶々丸さんを、あんな目に・・・」
「人形を壊して、何が悪い?」
「お前かああああ!」
雷速瞬動により一瞬で至近距離に踏み込むネギ。全力で放った掌手の一撃が、クアルトゥムの腹部へと突きささる。
激痛を堪えながら反撃に出るクアルトゥム。炎を纏わせた拳をネギ目がけて放つが、ネギは中国武術の技量を活かして紙一重で躱わしてみせる。
同時にガラ空きになった背後に、全力を込めた肘打ちを叩き込む。メキメキという嫌な音とともに、クアルトゥムの口の端から赤い物が糸を引く。
「茶々丸さんも!この世界の人達も!全て君達の好きなようにはさせない!」
体勢を崩したクアルトゥムに雷の力を込めた拳を叩きつけるネギ。その一撃により、上半身と下半身を引き千切られたクアルトゥムは、信じられないとばかりに目を見開いたまま遥か地上へと落下した。
急襲組side―
気絶したのどかを背負った夕映は、最後の鍵 を手にした夏美、未だに目を覚ます気配すらないアスナを背負ったまき絵とともに走り続けていた。
和美は渡鴉の人見 を利用した茶々丸の空飛び猫 に最後のチャンスを賭けて足止めを行おうとしたが、この時すでに茶々丸はクウィントゥムによって破壊されており、和美の呼びかけに応じる事は出来なかった。
結果、和美は足止めすら行う事も出来ず、クウィントゥムは夕映達の前に姿を現したのである。
「いやあ、まさにクライマックスだねえ、まさか魔法世界へ来てラスボスとガチで戦うとは思わなかったよ!」
「そうですか?私は割とシックリきているですが?」
粉砕する棍棒 を構えながら、まき絵が良い事を思いついたとばかりに笑みを浮かべた。
「全部終わったら、どっか遊びに行こうよ!夕映ちゃんの新しい友達も一緒にさ!」
「それは良いですね。コレットもビーさんも、委員長もきっと喜ぶですよ」
「うん、きっと楽しいよ」
少女達が武器を構える。その視線の先には、クウィントゥムが姿を見せていた。
「行くです!」
突撃する少女達。だが圧倒的な実力差を前に、一瞬で無力化されてしまう。やがてクウィントゥムは、アスナを奪還する為に夏美の前に姿を見せた。
恐怖でガタガタ震える夏美。ユックリと手を上げるクウィントゥム。
だがクウィントゥムが動くよりも早く、真横からの一撃によってクウィントゥム自身が吹き飛ぶ方が早かった。
「何故、邪魔をする。血迷ったか、テルティウム」
「・・・僕にも良く分からない・・・けど、ポッとでの君達に僕の舞台を奪われるのは癪に障る」
「そうか、ならば君を欠陥品として処理しよう」
激突するフェイトとクウィントゥム。しかし、速度という点においてはネギの様に雷化できるクウィントゥムに圧倒的なアドバンテージが存在した。
良いように四方八方から攻撃を浴びせられるフェイト。
「主より世界の守護者として莫大な魔力と戦闘力を与えられながら、同型の僕に反撃すら出来ない体たらく。やはり君は欠陥品だよ」
身動きもままならないほどに痛めつけた所で、クウィントゥムは自身の切り札たる一撃『轟き渡る雷の神槍 』を放つ。
必勝を確信して放たれた一撃。だがその一撃を、フェイトは素手で掴み取っていた。
「馬鹿な!あれを受け止めただと?ならば!」
電光の早さで間合いを詰めるクウィントゥム。だがその攻撃に対して、フェイトはカウンターの一撃を当てていた。
見事に顎を捉えた一撃は、クウィントゥムの脳を激しく揺さぶり脳震盪を引き起こさせ、まともに立つ事すら不可能な状態へと追い込んでしまう。
「ジャック・ラカン・・・君の拳には、彼ほどの重さが無い・・・何故だ?何故、君の拳はこんなにも軽い?世界救済と言う大義名分があると言うのに・・・」
「何を訳の分からない事を!」
「そうだ、確かに僕は分からない・・・彼の拳は、何であんなに重かったのか・・・そしてプリームムの死の意味も・・・何で彼は笑って逝ったんだ?使命も果たせなかったと言うのに」
突き出した中段突きが、クウィントゥムを捉える。そこに込められた破壊力の大きさに、クウィントゥムが左半身を吹き飛ばされた。
驚愕に言葉を失うクウィントゥム。
「分からない・・・やはり僕は欠陥品なのか?それとも、僕の知らない答えが存在しているというのか・・・」
チラッと夏美に目を向けるフェイト。そこには、戦闘の最中に気絶から眼を覚ましたのどかも立っていた。
「さて、鍵とお姫様は頂いていくよ。計画は僕の手で完遂させて貰うからね」
アスナと最後の鍵を取り戻したフェイトは、のどかと夏美を連れて儀式の場へと戻ってきた。
『空飛び猫 』の砲撃の余波で気絶していた調を起こし、再度、儀式にとりかかる。そこへグオングオンというエンジン音が聞こえてくる。
目を向けると、そこには煤だらけになったパル様号が、甲板にネギを乗せて姿を見せていた。
「フェイト・・・」
ネギが儀式上の中央へと飛び降りる。雷化を解除した状態で、ネギは何の恐れも抱かずにフェイトの懐に歩み寄った。
無言のまま、フェイトが全力の一撃をネギへ叩きこむ。だがネギは頬を殴られながらも平然としていた。
そして頬に渦巻いた魔力の巨大さに、フェイトがニヤッと笑う。
「そう言う事か・・・」
「アスナさん達を返してもらうぞ!フェイト・アーウェンルクス!」
「調さん、儀式を進めておいて」
雷化せずにフェイトと殴り合いを始めるネギ。それが意味する物に、千雨とカモだけが気付いた。
「確かに闇の魔法 を自分の物にしたのかもしれねえ、でもそれは・・・」
「常に自然状態で闇の魔法 を維持しているって事だ」
「つまり、もう先生はエヴァンジェリンと同じで、人間以外の存在に・・・」
正解に辿り着いた千雨とカモの前で、ネギは人間以外の存在になった事を示すかのように、莫大な魔力を使い魔法を放つ。
「魔法の射手 !連弾・光の1001矢 !」
「基本攻撃魔法とは言え、ここまでくれば大魔法だよ!」
人外の破壊力を持つ基本攻撃魔法を躱わしながら、石化の視線と石化の雲で反撃に転じるフェイト。それを躱わしながら、雷の暴風を叩き込むネギ。その余波で、パル様号が激しく揺さぶられた。
時は少し遡って、調side―
ゴガア!という音とともに、ネギとフェイトが全く同時に、相手の顔面へと拳を叩きこむ。その音が開始の合図となったかのように、両軍が行動を起こす。
とは言え、どちらの陣営にもネギとフェイトの争いに加われるほどの実力者は存在していない。結果、アスナの争奪戦へと切り替わっていく。
調は儀式を進める為に、アスナを抱えて元の場所へと連れて行こうとする。それを邪魔しようと、のどかと夏美が進路上に立ちはだかった。
「だ、だめです!いかせません!」
「邪魔をするというのなら!」
アーティファクト『狂気の堤琴 』による音波攻撃を手加減抜きで放つ調。その危険を察知したのどかが夏美を突き飛ばす様にして攻撃を躱わす。すると、今までのどか達が立っていた場所を、見えない音波が木っ端微塵に粉砕した。
目的地まで障害物が無くなった調は、これ幸いと全力疾走を試みる。だがパル様号に残っていたメンバーの中で、もっとも戦闘慣れしている高音が阻止に入った。
「行かせません!黒衣の夜想曲 !」
高音の操る影人形が、無数の影槍を雨霰とばかりに降り注がせる。その攻撃を魔法障壁で防ぎながら、救憐唱 で反撃に転じようとする。
「そうはいかないもんね!」
ところが、要たるアーティファクトは一瞬にして姿を消す。原因は美空。彼女は己のアーティファクトを利用して、最高速で接近してすれ違いざまに調のアーティファクトを奪ったのである。
「奪われたのなら、奪い返せば良いだけです。去れ !」
「げ」
消えるアーティファクト。即座に呼び直す調。しかし、反撃させてなるものかとばかりに、高音が今まで以上に苛烈な攻撃を放つ。
その攻撃を障壁で防ぎながら、調は樹木を呼び出した。そして樹木の結界でアスナを包むと、力技で強行突破を図る。
アスナを傷つける訳にはいかないネギ陣営は、調に対して更に苛烈な攻撃を展開する。砕かれる障壁。だが調は最後の意地とばかりに、影槍をその身で受け続けながら、歯を食い縛って樹木を操り続ける。
「神々に祝福されて生まれた人間には、絶対に負けられない!」
かつて一族全てを殺された惨劇を思い出し、全ての力を樹木を操る事に注ぎ込む調。その覚悟に、樹木は今まで以上の速度でアスナを運ぼうとする。
それを止めようとコレットと萌衣が飛び込んで、魔法障壁を展開する。だが障壁は少しの拮抗の後、食い止められずに突破を許す。
「そんな!」
所定の位置にまで運ばれるアスナ。更にその周りを、無数の樹木が覆い隠していく。
その結果に、全身がズタボロになりながらも、調は笑みを浮かべた。
「樹霊結界を施しました・・・これで姫御子は・・・」
勝利を確信した調は、その意識を手放した。
旧世界、麻帆良学園side―
ネギとフェイトが激突した頃、麻帆良学園では大騒動が起こっていた。
本来なら22年に1度しか発光しない世界樹の発光現象。昼間はそれほどでもなかったが、夜が近づくにつれ相対的に発光現象は強くなり、麻帆良の住人全てが目にする事になったからである。
それはウェールズから帰って来た3-Aメンバーや、麻帆良で留守番をしていたエヴァンジェリンも同様であった。
特にエヴァンジェリンは世界中を通して漏れ出る魔力の大きさに、冗談抜きで危険を感じ取っていた。
「あれが爆発したら、私は廃墟暮らし確定だぞ?」
「コッチカラジャ手ノダシヨーガネーシナ❤」
「全く、師匠の危機に我が弟子は何をやってるのか・・・」
フウッと溜息を吐くエヴァンジェリン。その背後に静かに降り立つ影が1つ。
「先生はよくやっておられます。彼の手は、かつての父の背に届かんとしています」
「貴様・・・何故、それが分かる?」
「姉がかの地にいます。私は姉の目を通して、あちらの様子を知る事が出来るのです」
ザジの言葉に『便利な物だな』と呆れ気味に呟くエヴァンジェリン。
「まあ、旅に出した甲斐はあったというべきか・・・ん?」
世界中から漏れ出る魔力が空間を歪め、魔法世界の様子を映し出す。そこに現れたのは激突する2人の少年。
その姿にエヴァンジェリンが思わず目を見開いた。
「あれは闇の魔法 ではないか!」
「ソレッテ確カ御主人が弱ッチイ頃ニ世話ニナッテタ奴ダヨナ?」
「確かに、この短期間であそこまで強くなるにはそれしかないが・・・そうか、あの筋肉ダルマの仕業か!」
「ソウイエバ賭ケニ負ケテ取ラレテイタモンナ」
唸り声を上げながら、口元を隠して考え込むエヴァンジェリン。目の前では雷速瞬動で光速の連撃を叩きこむネギの姿があった。
「嬉しくないのですか?弟子が自分の業を継いでくれたというのに。しかも想い人の息子」
「ええい!喋り出した途端、ウザくなったな貴様は!」
「やっぱり嬉しい」
「その口を閉じろ!今すぐだ!」
顔を赤らめながら、視線を戻すエヴァンジェリン。だがその顔はすぐに真剣な物へと切り替わる。
「ぼーや・・・それのリスクは理解しているのか?お前は吸血鬼の真祖ではないのだぞ?」
「きゅーけつきのしんそ、って何ですかあ!?」
聞き覚えのある声に、振り向くエヴァンジェリン。そこにいたのは3-Aのマスコットと言っても過言ではない、悪戯好きな双子姉妹である。
「な、何でお前らがここにいる!?」
「エヴァちゃんが呼んだんじゃない。ほら、みんなも」
双子姉妹が示した通り、そこにはウェールズへ向かい、ネギの後を追いかけなかったメンバーが勢揃いしていた。彼女達は世界樹の発光現象に興奮して、さながら祭りの様に盛り上がっている。
「エヴァちゃんエヴァちゃん、あのお空の何ですかあ!?」
「今、下じゃあれの正体について賭けが始まってるんだよ!一番人気は工学部の最新3D技術の突発デモンストレーション!」
「僕の予想は宇宙人の母船!」
「・・・相変わらずだな、ウチの生徒は・・・」
毒気を抜かれるエヴァンジェリン。そのすぐ横で、望遠鏡を覗き込んでいた千鶴が声を上げた。
「あら、本当にネギ先生が見えますわ」
「何故、お前達がそれを知っている?」
「今、学園総出で観測してるんだけど、学際で有名になった子供先生が見えるって話題沸騰中なんだよ」
「・・・あなどれんな、学生ども」
美砂の言葉に、最早、言葉も無い。そんなエヴァンジェリンを余所に、周囲では少女達が我先にとばかりに望遠鏡を覗き込み、ネギの姿を一目見ようと騒ぎだす。
そんな中から、唯一、厳しい表情をしたあやかが静かにエヴァンジェリンへと近寄った。
「それで、事情は説明して頂けるのでしょうね?エヴァンジェリンさん。いえ、闇の福音とお呼びした方が宜しいかしら?」
「・・・!雪広あやか、貴様、どこでそれを聞いた?」
「雪広の調査能力を甘く見ないで下さい・・・まあ、無理にお聞きしませんが」
小さく舌打ちするエヴァンジェリン。腕組みは解かないまま、厳しい視線を世界樹越しに見える弟子の闘いの場へ向け直す。
そんなエヴァンジェリンから眼を離すと、あやかがパンパンと手を叩く。
「さあ、皆さん!作戦3Aを開始しますわよ!あそこで何が起こっているにせよ、ただ事ではないのは間違いありません!そしてネギ先生達がいらっしゃる以上、3-Aクラスメイト全員でネギ先生をサポートするのです!」
「「「「「「おお!」」」」」」
少女達が手分けして動き出す。その様子に、ザジがクスッと笑った。
「相変わらずですね、我がクラスメイトは。ところで、止めなくて宜しいのですか?」
「・・・ま、クラスメイトのよしみだ。多少の事態なら私がどうにかしてやるさ」
「そういう事なら、私にも協力出来る事がありそうね」
どこかで聞いた事がある声に、振り向く少女達。そこにいたのは、白衣を着こんだリツコであった。
「赤木博士!」
「聡美さん、私も手伝わせて貰うわよ。半分使わせて貰うわね」
手持ちのノートパソコンを取り付けて、観測を始めるリツコ。そんなリツコに、エヴァンジェリンが問いかけた。
「お前は確か、シンジの昔の仲間だった女だな?どうしてここにいる?第3新東京市へ帰ったのではなかったのか?」
「呼び出されたのよ。2年前に死んだ筈の総司令にね・・・それより、用心した方が良いわよ?このデータ、以前、類似した物を見た事があるわ。これはレリエルの虚数空間に似ているデータよ」
「確かシンジが『異次元空間を操作する』とか言っていたな。と言う事は・・・そうか!」
それが意味する所に気付いたエヴァンジェリンが、咄嗟に視線を向け直す。そこには天から落下してくる召喚魔の姿が見受けられた。
「ザジ!ここは任せるぞ!世界が近づきすぎたせいで、こちらに具現化するとは!ジジイどもは一体何をしているというのだ!」
少女達を置いて、茶々ゼロとともに移動するエヴァンジェリン。やがて、近右衛門を筆頭に、太刀を手にしたスーツ姿の詠春と、笑顔にローブ姿のアルビレオ、ライフルと拳銃を手にしたミサトや符を手にした千草に気がついた。
「詠春?どうしてお前がここにいる?」
「旧友に頼み事をされましてね。貴女やアルと一緒に、麻帆良で臨戦態勢を整えてほしいと頼まれていたんですよ」
「キティ、久しぶりに全力で戦って貰いますよ?相手は完全なる世界 ですからね」
その言葉に『ソイツハイーヤ、ケケケケケ』とナイフを手にして笑い声を上げる茶々ゼロ。だがエヴァンジェリンはそれには構わず怪訝そうに尋ねた。
「誰が頼んだというのだ?」
「紅き翼 の作戦参謀ゲンドウ殿です。確か貴女とは面識が無い筈ですから、知らなくても無理はないでしょう。ヘラス帝国の宰相を務める男ですよ」
「ふん、どうやら切れる男らしいな・・・まあ、お前らはいい。だが、そっちの女は戦力になるのか?」
値踏みするようにミサトを見るエヴァンジェリン。対するミサトはと言えば『宜しくねん♪』と気軽に返してくる。
「彼女については儂がサポートしておくわい。龍宮君が使っておるのと同じ銃弾もあるしの。千草君は西の若手の中では随一の実力者じゃ。こちらの魔法先生ぐらいには期待してもよかろうて」
「・・・ウチの馬鹿弟子が帰って来る為の場所やしな。個人的な感情は我慢しといたるわ」
そんな千草の肩を、ミサトがポンポンと叩く。
「千草さん、シンちゃんのお師匠様だったわよね?ツンデレな女教師と子犬系の弟兼生徒なんてシチュエーションに負けて手え出しちゃダメよ?もし出すなら、まずは私に許可を取る様にしてねん♪」
「何でそうなるんや!」
顔を赤らめながらガーッと吠える千草を、ケラケラ笑いながらミサトが受け流す。そんなボケ漫才に、アルがクスクス笑う。
「まあ冗談はこれぐらいにして、まずはあの召喚魔を何とかしましょう。生徒達に被害が出るかもと思いましたが、どうやらそれは無いようですし」
アルの視線の先。そこには召喚魔の攻撃によって全裸にされた生徒達や魔法先生達が悲鳴を上げて身体を隠していた。
「・・・何ですか?あのストリップショーは?」
「どうやら、奴らは『人間』に対しては直接危害を加える事は出来ないようじゃの。その設定が生きている限り、直接の被害は無いじゃろう。じゃが武装解除の攻撃を喰らえばあの通りじゃ。決して油断だけはせんようにの」
「分かりました。ところで、あいつら学園の中央部を目指してませんか?全員揃って、世界樹を目指しているように見えるのですが」
ミサトの言う通り、召喚魔達は建物を薙ぎ倒しながら最短距離で世界樹を目指していた。
混乱が広がり始める学園都市。すると、突然あやかの巨大CGが街中に現れた。
『お騒がせしております!こちら麻帆良学園イベント実行委員会です!ようこそ!夏休み最終日突発イベントへ!学園祭で好評を頂いた学園全体イベントが、再び戻ってきました!』
突然の展開に生徒達から歓声が上がりだす。
『今回のイベントは学園祭の続編!世界樹防衛が任務になります!皆様には世界樹を目指す敵達を撃退して頂きます!撃墜数に応じてポイントが与えられ、上位入賞者様には豪華景品がプレゼントされます!学園生徒の皆さま、振るってご参加下さい!』
至る所から歓声とともに砲火が上がりだす。同時に『敵を撃て 』の光を浴びた召喚魔達が一体、また一体と消滅し始めて行く。
「ふうむ、雪広の娘がやりおるわい」
「あれは大分、真実に近づいているぞ。ただぼーやの為だけにな」
「今はそれでも構わん。おかげで生徒達が混乱せずにすんどるのだからな・・・聞こえるかの?これより指示を送る。召喚魔の撃退は生徒達に任せるのじゃ。魔法先生達は建造物の破壊や、それによる二次被害から生徒達を守る事を優先して動いて貰いたい」
魔法による念話で、魔法先生全てに指示を送る近右衛門。それに従って魔法先生達の動きが変わった事を察知し、詠春がフウと安堵の溜息を吐く。
「ところで、ジジイ。吐いて貰うぞ?あの世界樹の下に何がある?奴らは、何を狙って動いていると言うのだ?」
「・・・事態が事態です。全て話してしまっても宜しいでしょう、近衛学園長?大丈夫、彼女はもうかつての闇の魔王ではありません。ネギ君達のおかげで、彼女は丸くなりました」
「しかし、アル!」
「今の彼女はクラスメイトと仲良くしたいのに、素直になれないちょっと小生意気な女子中学生です」
「丸すぎるわ!」
怒声を上げるエヴァンジェリン。だが近右衛門も詠春も、それには納得してしまい反論する気が完全に消え失せていた。
「時にキティ。貴女もかつては普通の少女でした。そんな貴女を変えてしまった人物について、何か知っていますか?」
「知るか!大方、不死の秘宝にでも嵌った頭の悪い魔法使いだろうよ!もう殺した相手だし、600年も前の事だ。最早、何の興味も無いわ!」
エヴァンジェリンの素生について、千草は詠春経由で説明を受けていたので特に何も驚きはしなかったが、ミサトは何も知らない為『600年?』と首を傾げていた。そんなミサトに千草がコソコソと耳打ちして説明すると、納得したように頷いた。
「驚かんのやな?」
「まあねえ。使徒に比べれば吸血鬼なんて可愛いものよ?言葉が通じるだけマシじゃない」
「・・・そう言われればそうなんやけどな」
しかし『使徒に比べれば可愛い』と評価されたエヴァンジェリンにしてみれば複雑な所である。本来、可愛いという言葉はプラス要素のある言葉だが『使徒に比べれば』と付けられた時点で喜ぶ者は皆無であるのは間違いない。
「まあ、彼女達についてはおいておきましょう。それより、本題に戻ります。貴女を変えてしまった人物がまだ生きていて、あの世界樹の下にいるとしたら、どうしますか?」
「・・・何だと?」
思わずアルを凝視するエヴァンジェリン。その目は笑っていなかった。それどころか殺意すら籠るほどである。
「おかしいではないか。もともと不死なら、私を使って不死の研究をする必要が無い。矛盾しているではないか!」
「確かにその通りです。しかし『不死』ではなく『不滅』だったとしたら?我々は20年前に討伐に失敗し、10年前に1人の英雄の犠牲によってかろうじて封印しました」
「・・・まさか!」
真実に辿り着いたエヴァンジェリンが両目を限界まで見開いた。
「世界樹の下には完全なる世界 の盟主、始まりの魔法使い『造物主 』が眠っているのですよ」
魔法世界side―
ネギとフェイトが激突する中、夕映は全身を激痛に苛まれながら意識を取り戻した。
(身体が動かない、これは雷系の麻痺ですね・・・良かった、これなら予想の範囲内ですよ・・・用意しておいた遅延呪文が使えるです・・・解放 !麻痺解呪 !)
バシッという音とともに麻痺から解放される夕映。すぐに隣に転がされていたまき絵も同じように解呪を行う。
「あれ?随分と寂れた天国だねえ?」
「死んではいないですよ。やはり奴らは我々を殺す事は出来ないようです・・・ん?これは!」
夕映が見つけた物。それは一枚のぼろ布であった。
「それって楓ちんの『天狗之隠蓑』だよ!」
「これは確か夏美さんが持っていた筈です!彼女はどこに!」
そこへ聞こえてくる魔法戦闘の爆音に、ハッと顔を上げる。
「これは雷が空気を切り裂く音です、恐らく片方はネギさんです!行くですよ!」
走りだす夕映。その後を『待ってよお』とまき絵が追いかける。だがすぐに2人は足を止めざるを得なかった。何故なら、和美が床に転がされていたからである。
「朝倉さん!しっかりして下さい!すぐに治すですよ!」
小さい魔法陣を幾つか展開して、解呪に取りかかる夕映。そんな夕映の姿に、まき絵がボソッと呟く。
「ゆえちゃん、頑張ったんだねえ・・・それでネギ君とシンジさん、どちらが本命?」
「解呪 るっ!?ぴぎゃああああああ!」
舌を噛んだ夕映が泣きながら飛び上がる。思いがけない展開に慌てるまき絵だったが、いち早く冷静になった夕映は、治癒魔法を自分にかけて事無きを得た。
「ごめんごめん、ゆえちゃん」
「それより、一体、今のはどういう意味ですか!」
「だってゆえちゃん見てたらバレバレだもん」
むぐうと奇妙な呻き声を上げる夕映。
「えっとね、2人ともライバル多いよ?シンジさんの場合はパルとアスカさんが大本命でしょ?刹那さんは対抗馬だし、さよちゃんや木乃香は仲良いし、美空ちゃんや双子ちゃんは狙ってるよねえ。楓ちんも良い雰囲気だし、龍宮さんは素直になれないって感じだし」
「そ、そうなのですか?」
「ネギ君の場合は本屋ちゃんが大本命でしょ?一番最初に告白しちゃったし。委員長はネギ君大好きだし、アーニャちゃんは幼馴染と見せかけて結構ヤバい。アスナは良く分かんないけど好きなのは絶対。くーへと茶々丸さんは最近怪しいし、千雨ちゃんは何だかんだで一番ヤバいんじゃないかな?あとエヴァちゃんもかなり怪しいよねえ」
「ななななな、なるほど。そんなにたくさんいるですか」
顔を真っ赤に染め上げる夕映。
「そうそう、それと私、この前ネギ君に告りました」
「そ、そうですか・・・ええええええ!?」
絶叫する夕映。目は点になり、言葉を失ってしまっている。
「やれやれ、こんな時でも恋バナとはね」
「朝倉さん!」
「女の子としては大切な事だけど、これを乗り越えなきゃ全部オジャンだよ?」
ふらつく和美を支えながら走りだす少女達。そのまま外へ出ると、そこには床に倒れ伏した小太郎と、近くに片膝を着いて肩で息をする楓がいた。
「楓ちん!」
「無事でござったか!」
「それでネギ君は?」
和美の言葉に、視線を向ける楓。その先では激しい雷は轟音とともに降り注ぎ続けている。
「あそこで戦っているでござるよ。相手はフェイト・アーウェンルクスでござる」
「はあ、やっぱりネギ君だったのか。それにしても動きが早過ぎるよ」
突然、聞こえてきた声に警戒する少女達。その中で一番最初に気付いたのは、楓であった。その視線は瓦礫の山の上にチョコンと座っている白狐に向けられていた。
「・・・ひょっとしてシンジ殿でござるか?」
「そうだよ。式神を飛ばして先行偵察していたんだよ。それにしても、どうして君達がこんなに早くここに来ているのさ?ここへの侵入情報なんて、君達は持っていなかった筈だけど」
「協力者から得た情報のおかげでござるよ」
白狐がフウと溜息を吐いてみせる。
「敵陣営の生き残りについて、何か知っている事はあるかな?」
「・・・刹那殿は月詠と戦っている筈でござる。拙者を倒した風のアーウェンルクスについては、その後の事は知らぬでござる」
「私達を襲ったのも、その風のアーウェンルクスで間違いないですよ!クウィントゥムと名乗っていたです!」
「クウィントゥム?ラテン語で5を意味する言葉だね、間違いなくアーウェンルクスシリーズだな。全く、アイツの仕業か」
白狐の機嫌が目に見えて悪くなった事に、疑問を感じる少女達。
「シンジ殿。何かあったでござるか?シンジ殿が20年前に飛ばされて、紅き翼 の一員となった事は拙者達も知っているでござるよ」
「・・・プリームム・アーウェンルクス。光の魔法を操る、1 と名付けられたアーウェンルクスシリーズのプロトタイプとして生を受けた少年がいた。彼と僕は敵味方に分かれたけど、僕にとっては友人であり、その最期を看取ってあげたんだ」
「そうだったでござるか。シンジ殿も苦労してきたでござるな」
シンミリした空気の中、白狐が瓦礫から飛び降りる。そのまま少女達へと近寄った。
「どうせ帰る気は無いんでしょう?この子も連れて行ってあげて欲しい。一撃ぐらいなら相殺できるからね」
「了解したでござる。リーダー、済まぬが飛行術で小太郎とまき絵殿を頼むでござるよ。まき絵殿はシンジ殿を連れて行って欲しいでござる」
「う、うん!任せて頂戴!」
白狐を抱えあげると、まき絵は真剣な表情で頷いてみせた。
ハルナside―
ネギを送り届けたハルナは、ネギとフェイトの決戦による魔力の余波で揺さぶられるパル様号を必死になって操っていた。
巨大な岩石を舞いあがるトンデモナイ空間を生き延びる事が出来たのは、茶々丸のサポートとアベルの迎撃があったからこそである。
だがその操縦にも限界はある。ネギとフェイトの決戦の場に、ドゥナミス達から逃れてきた木乃香達を始めとする仲間が姿を見せた頃、ハルナのサポートに徹していた茶々丸が冷静に報告を上げた。
「このままでは空間を越えて旧世界へと飛んでしまいます。ですがその前に、両側から迫って来る浮遊石によってパル様号本体が圧壊する確率は72%あります」
「チッ!『来れ 』真・炎の魔人 DX!ダブルインパクト!」
両側から襲い来る浮遊石を、ハルナが呼び出した1対の巨人が迎撃粉砕する。
「艇長!前方に巨大な浮遊石が!」
「全砲門開け!降魔魚雷全弾発射!続いて精霊砲発射!」
立て続けに起こる爆発。更にそこへ巨大なエネルギー砲が突き刺さり、浮遊石は爆音とともに木っ端微塵に粉砕される。
「異界境界へ突撃します!」
ギシギシと軋むパル様号。周囲を浮遊石に囲まれ、絶体絶命に追い込まれる。
「これはマズイか?」
「艇長!後方より浮遊石が接近!」
「それなら、もう一度!」
切り札である1対の巨人を、再度描き直すハルナ。だがそれよりも早く、岩石は木っ端微塵に砕かれた。
「艇長!甲板にいたアベルさんが迎撃してくれた模様です!」
「よっしゃあ、助かった!」
パルが叫ぶと同時に、機体の軋みが急に静まる。
「艇長!旧世界へ渡りました!場所は・・・麻帆良学園都市です!」
「マジ!?」
「ですが片翼の損傷が激しく飛行体勢を維持出来ません!これより不時着に入ります!」
ズガガガガガ!という轟音とともにアスファルトを砕きながら不時着するパル様号。不時着の衝撃に顔を顰めながら、ハルナは茶々丸に目を向けた。
「茶々丸さん!すぐにハカセ呼んでくるからね!」
「了解です」
クアルトゥムの襲撃で下半身を破壊されていた茶々丸を残し、外へ飛び出すハルナ。そんな彼女が目にしたのは、パル様号を呆然と見上げるクラスメート達である。
「み・・・みんなーーーー!」
甲板から飛び降りるハルナ。そして一番近くにいた円に抱きつく。
「ちょ、ちょっと!?」
「いいねいいね!このフツー顔も!角も猫耳も生えていない一般人顔も!まさかクギミーのフツー顔でこんなに感動するなんて!」
「・・・クギミー言うな!それから馬鹿にされている事も良く分かった」
全力でハルナの脳天に拳を落とす円。そこへ聡美が工具箱を手に姿を見せる。
「早乙女さん!茶々丸は!?緊急信号をキャッチしたんだけど!」
「操縦室にいるよ!行ってあげて!」
その言葉に、パル様号の中へと飛び込んでいく聡美。そんな彼女を見送った所で、少女達の中からあやかが前に出てくる。
「ハルナさん、詳しい事情を聞かせて貰いますわよ?貴女達がどこへ行っていたのか。この船が何なのかを」
この質問から逃げられない事を理解してしまったハルナは、どうやって切り抜けようかと内心で頭を抱え込んでしまった。
更に最悪な事に、今までパル様号を守り続けてきたアベルが姿を見せる。その凶悪な面構えに、少女達が一斉に言葉を失った。
「あ、アベル!出てきちゃダメだったら!」
「何?あの鬼みたいなの、パルの知り合い?」
ヤベ、と失言に気付いたハルナだったが、時すでに遅しである。全員の視線が、自分に注がれている事を理解せざるを得ない。
小さく溜息を吐くと、ハルナは近寄って来たアベルを優しく抱きあげた。
「・・・この子はアベル。私を守ってくれている、ボディーガードみたいな子だよ。元々はシンジさんの人形なんだけどね」
そこへパル様号の不時着に気付いたミサトや近右衛門達が姿を見せる。何が起こっているのか大よそ想像していた近右衛門達は驚かなかったが、ミサトは違っていた。
「初号機!?どうして初号機がここに!?」
「「「「「「しょごうき?」」」」」」
一斉に首を傾げる少女達。最早、収拾がつかない状況である。
「早乙女さん、だったわね?どうして貴女が初号機を?」
「えっと、これはシンジさんが使う人形でして・・・」
「質問質問!しょごうきって何ですかあ!?」
元気の良い質問をしたのは風香である。事、ここに至ってミサトも自分の失言に気付いた。NERVは使徒戦役を非公開としており、緘口令を敷いている。それをNERV最高責任者であるミサトがボロを出したのだから、フォローのしようが無い。
しかし、楽観的な思考のミサトはすぐに気持ちを切り替えた。どうせここまで大騒ぎになれば、最早隠しよう等ない事に気付いたからである。
「・・・初号機というのは通称よ。正確には汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン。そのテストタイプ。シンジ君だけがコントロール可能な、人類最強の守護者よ。でも、シンジ君がこれを作ったと言うの?」
「材料を調達したのはシンジさんで、作ったのは超さんだって聞いた事が有ります」
「超りんが作ったの!?納得!」
風香の叫びに、一斉に頷く少女達。その光景に『超りんって何なのよ?』と首を傾げるミサトである。
「まあ詳しい事情は後で聞かせて貰うとして、肝心のシンジはどうしたんじゃ?」
「それが、向こうではぐれちゃって・・・詳しい事は良く分からないんだけど、シンジさん、敵の罠にかかってアスカさんと一緒に20年前に飛ばされちゃったんです。今のシンジさんはゲンドウっていう偽名で動いているんです」
「「ゲンドウ!?」」
予想外の名前に声を失う詠春とミサト。事、ここに至り詠春はかつての仲間の正体に、ミサトは手紙の送り主の正体に気がついた。
「お義父さん!アル!」
「うむ、分かっておるわい。シンジが動いておるのに、儂らが傍観しておる訳にはゆかんだろうよ」
「幸か不幸か、向こうと繋がっていますしね」
互いに頷きあう詠春達。
「葛城君!天ヶ崎君!すまないが君達はこの子達の事を頼む!儂らは向こうへ行ってくるからの!」
「・・・ま、しゃあないわな。馬鹿弟子の帰って来る場所やし、一肌脱いだるわ。任せとき・・・ところで嬢ちゃん、シンジは20年前に飛ばされたんやろ?と言う事は、今のシンジは16歳+20年で36歳と言う事か?」
いつのまにか弟子が年上になってしまったと思い、複雑な千草。もう1人のミサトはと言えば『36歳のシンちゃんねえ、想像もつかないわ』と独り言を呟いている。
「それが違うんです。時間転移の儀式で無理矢理こっちへ戻って来たんで、今は19歳だって聞いてます」
「19歳?となると、貴女と7つ違いって事ね?」
「ミサト。喧嘩なら買うたるで?」
バチバチと火花を散らす美女2人。そんな光景に近右衛門達は肩を竦めると、無言で魔法世界目指して移動を開始した。
To be continued...
(2013.01.13 初版)
(あとがき)
紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
今回、やっとシンジが(仮)合流しました。だってまだ本人合流してないしwあとはアダルトサイドが、ついにゲンドウの正体を把握します。それにしてもミサト、いきなりウッカリ噛ましてますwそれで良いのか秘密組織総司令wまあNERVの存在自体は公に認められてはいるんですけどね。
話は変わって次回です。
ネギとフェイトの決戦。その勝負はかろうじてネギに軍配が上がる。
だがそこに姿を現したデュナミスによって2人は攻撃され、少女達も窮地へと追い込まれる。
そんなネギ達を救おうと姿を現す英雄達。そして2つの陣営が刃を交える中、遂にシンジ達が姿を現す。
そんな感じの話になります。
それでは、また次回も宜しくお願い致します。
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