正反対の兄弟

第六十九話

presented by 紫雲様


時は少し遡って魔法世界side―
 激突するネギとフェイト。ネギが無数の雷を天から降り注げば、対するフェイトはマグマを呼び出して雷を呑みこもうとする。その自然の猛威と言うべき現象をいとも容易く扱いながら戦う2人。だが互いの意地を賭けた勝負でありながら、2人の顔には僅かな笑みが浮かんでいた。
 そしてネギの拳を鳩尾に喰らいながら、フェイトは意地を張ってネギのこめかみ目がけて回し蹴りを放つ。互いの一撃で開く距離。
 しかしネギはすぐに雷速瞬動で間合いを詰めて突きを放つ。その一撃を正面から受け止めながら、フェイトは賞賛の言葉を口にした。
 「見事だ!本当に見事だよ!今の一撃はジャック・ラカンに匹敵する!」
 「君こそ、ラカンさんですら対応しきれなかった雷速近接格闘に対応してるじゃないか!信じられないよ!」
 「フフ・・・ハハハハハ!地を裂く爆流カタラクタ・クアエ・ディーウィディト・テッラム!」
 ネギの足下が爆ぜて、マグマがネギを呑みこもうとする。
 「何がおかしいんだ、フェイト!」
 「君こそ笑みがもれていたよ、ネギ君!ようやく分かった!これこそが―楽しむという事なんだろう!」
 互いの顔に拳を入れながら、吹き飛びあう2人。だが常人なら頭部どころか全身が消し飛ぶほどの破壊力を持った一撃すらも、今の2人にとっては致命傷とはなりえない。
 「君は今、僕の力を超えつつある!それは闇の力!まさしく我が主と同じ力だ!だが、その代償の大きさを理解しているのかい?」
 「・・・どんな力だろうと、使い尽くして君を止める!だけど、絶対に君を殺したりはしない!それが僕の意地だ!」
 そう断言したネギの身体が、不自然に強張る。その変化に気付いたフェイトが後ろへ振り向き、納得したように頷いた。
 「これは予想外だったな。まさかゲートの向こうと繋がってしまうなんて・・・だが、それも今はいい!世界の命運はこの戦いで決まる!今はこの戦いが全てだ!」
 全魔力を身体強化に継ぎこむフェイト。元々フェイトは地属性であり、その長所は身体能力が優れている点にある。そのフェイトが全魔力を注ぎ込んだ身体強化なのだから、その増幅された能力は異常と言うべきであった。
 それを理解したからこそ、ネギもまた限界を超えて身体強化を施して対抗する。
 互いの拳が応酬し、魔力の余波が周囲に撒き散らされる。だが決定的な差が、2人には存在していた。
 それはスピード。どれだけ身体を強化した所で、人である限り光の速度は超えられない。それは純然たる事実であり、フェイトもまたその束縛からは逃げられなかった。
 だがネギは違う。闇の魔法マギア・エレベアにより雷化したネギは、雷光それ自身。その速度は人の軛を軽く凌駕する。
 背後に回り込んでくるネギの気配だけを頼りに迎撃するフェイトだが、やがて限界が訪れた。
 ネギの一撃がフェイトを捉えて、苦悶の呻き声を漏らさせる。同時にネギの口からも、闇の侵食による苦悶の呻き声が漏れ出た。
 「・・・終わりが見えてきたね、ネギ君。次で終わりにしようか」
 瓦礫を押しのけながら立ち上がるフェイト。その身体から放たれる魔力は、明らかに減衰し、同時に身体の至る所にひび割れが生じていた。
 「ただ、その前に聞きたい事がある。君の言う代案とやらを、聞いてみたい」
 「・・・どうしたのさ?代案には聞く耳持たないんじゃなかったのか?」
 「そうだったな。聞いた所で意味は無いか。今の発言は取り消そう、忘れてくれ」
 最期の一撃に全ての魔力を込めるフェイト。対するネギもまた、それに対抗して魔力をその身に漲らせていく。
 「「おおおおおお!」」
 2人の選んだ攻撃方法は、全く同じ選択肢。互いの顔面を狙った、正面からの拳の一撃である。
 まともに一撃を喰らい合い、崩れ落ちる2人。しかし、2人ともに片膝を突きながらも意地だけで大地に倒れる事を拒み続けた。
 「クク、まさか僕が負けるとはね・・・」
 「フェイト、アスナさんは返して貰うよ。でも、君を殺しはしないし世界だって守りぬいてみせる!」
 「・・・好きにすれば良いさ。もう僕には、君を止める力なんて残っていな」
 その瞬間、フェイトの背後から放たれた一条の閃光がフェイトごとネギを貫いた。
 倒れるネギとフェイト。同時に戦いを見守っていた少女達の口から悲鳴が上がる。
 「な、何が・・・」
 顔だけ上げるネギ。その視線が捉えたのは、最後の鍵グレート・グランド・マスターキーを手にしたデュナミスであった。
 「テルティウム、貴様、裏切るつもりか!」
 怒声を上げるデュナミス。だがフェイトはそれに応じる様子も無く、ただ納得した様に呟いた。
 「・・・ようやく分かった・・・プリームム、君の気持ちが・・・」
 最早、顔を上げる力も残されていないフェイトを前に、ネギが怒りを込めてデュナミスを睨みつける。
「デュナミス!」
 「計画は我が手で完遂する!だが英雄の子よ、この際、貴様も取り除いておこうか!」
 最後の鍵グレート・グランド・マスターキーを発動させるデュナミス。その背後に無数の魔法陣が現れると同時に、死んだ筈のアーウェンルクスシリーズや、かつての幹部達が姿を現した。
 「これで終わりだ!」
 絶望的なまでの戦力差に、さすがのネギも歯噛みするしかない。だが、落ちついた声が響いた。
 「ネギ君、よくここまで成長したものですね」
 「ネギ君、加勢させて貰いますよ」
 「まさかここまで成長するとは思わなかったぞい」
 「ぼーや、力を貸してやる。そこで休んでいろ」
 「これも何かの縁。助太刀させて頂く」
 フワリと静かに降り立ったのはアルビレオ、詠春、近右衛門、エヴァンジェリン、剣の5人。だが紛れも無く英雄と呼ぶに相応しいだけの実力を身につけた5人であった。
 「たかが5人に何が出来ると言うのだ!過去の英雄よ!」
 「なるほど。ならば活きの良い若いのを呼びましょうか」
 アルの両脇に魔法陣が描かれる。同時に姿を現すタカミチとクルト。
 「ネギ君、遅れてすまない」
 「ここから先は私達が相手をします」
 2人もまた、英雄と呼ばれるに相応しいだけの実力の持ち主である。だがそれでも人数差を否む事は出来ない。
 「確かに人数は増えたようだが、それでも7人ではないか!」
 「そういう事ですか・・・やれやれ、彼にも困ったものですねえ」
 「ほっほっほ、それでは始めるとしようかのう?」

真名side―
 ダンダンダンダンダンッ!
 愛銃デザートイーグルから無数の弾丸を発射する真名。その攻撃を魔法障壁によって凌ぎながら、背後に浮かぶ女性の顔から光線を放って迎撃に転じるポヨ。墓守人の宮殿の中でも、下層に位置する場所で戦闘が行われていた為に、どれだけ派手に戦闘しようとも流れ弾に巻き込まれる者はいなかった。
 「雷光剣!」
 「ざーんーくーうーせーん」
 技と技のぶつかり合いによって生まれた衝撃波に、互いに吹き飛ぶ刹那と月詠。月詠の手には漆黒の妖刀ひなが、そして刹那の手にはアーティファクト『神武不殺』が握られている。
 「先輩、やりますな~それにしても、そのアーティファクトはケッタイな代物ですな~」
 月詠が微かに眉を顰める。先程から延々と致命の一撃を叩きこみ続けているのだが、刹那の操る1対のサイによる鉄壁の防御を崩す事が出来なかったからである。
 「この神武不殺で受け止めた攻撃は、その攻撃力を半分以下にまで減衰させられる。例え闇に魅入られ、妖刀に認められたとしても、攻撃力が半分扱いになっては私の防御を上回る事等不可能だ。そして!」
 小太刀2刀流を駆使していた頃の月詠を上回る回転速度で、攻撃を仕掛ける刹那。対する月詠はひなを手にする分、懐に潜り込まれて苦戦を強いられる。
 「小太刀を捨てたお前に、この速度を凌げるか!?」
 「うふふ、面白い、面白いわ~まさかウチが攻め込まれるなんて~」
 そこへ轟音とともに落下してくる影。咄嗟に飛び退いた月詠と刹那だったが、その影の正体に気付いて攻撃の手を緩めていた。
 「刹那!」
 「龍宮か!」
 刹那は白い翼を、真名は半魔族としての姿を表に出していたが、その事をお互いに詮索したりはしなかった。そんな事よりも、重要な事があったからである。
 目の前に存在する強敵。それを打ち破る事こそが、2人にとっての最も重要な事柄だからである。
 目線で互いの意思を確認し、タッグ戦に切り替えようとする刹那と真名。そんな時だった。
 「もう良い、止めておけ。これ以上の戦闘には意味が無い」
 「・・・墓所の主よ、何故止めるポヨ?」
 「私はあの少年に賭ける事にしたのだ。故に、最早少年に敵対する理由が無くなってしまった」
 ローブ姿の墓所の主のすぐ横には、不満そうなセクストゥムや調、暦や環らがつき従っていた。
 「この娘達も、とりあえずは休戦に従うそうだ」
 「・・・まあ良いさ。休戦だと言うのなら、こちらは構わない」
 「私もです。問題はそちらだが・・・」
 刹那の言いたい事を理解したポヨは、戦意が無い事を示すかのように背後に浮かぶ女性の顔を消してみせた。そして最後に残った月詠は、意外な事に妖刀ひなを鞘に納めた。
 「ウチも休戦してあげますわ~このまま決着つけるんもええけど、お互いに強くなってから決着つけるんも楽しそうやしなあ~」
 「では休戦と言う事で、一時預かりとさせて貰うぞ?」
 
3-Aside-
 激突する2つの陣営。倒れ伏したネギとフェイト。その光景を前に千雨が動き出した。彼女に与えられたアーティファクト『力の王杓』を使い、リライトの仕組みの解明を始めたのである。
 「・・・そう言う事かよ、それなら・・・おい、てめえら!ボケっとしてんじゃねえ!神楽坂を助けるぞ!」
 「ど、どういう事や?千雨ちゃん」
 「いいか、リライトの発動には神楽坂が必要な訳じゃない!本当に必要なのは黄昏の姫御子としてのアスナなんだ!私達が知っている神楽坂は、黄昏の姫御子に上書きされた後天的な人格なんだよ!それを取り戻させてやれば、リライトは神楽坂自身の意思で止める事が可能なんだ!」
 千雨の言葉は衝撃的な事実であったが、少女達に希望を取り戻させるのに十分な事実でもあった。
 「これから神楽坂に呼びかけるんだ!私のアーティファクトを使えば、電脳世界経由で神楽坂に直接呼びかける事が出来る!」
 「みんな!アスナを助けるんや!」
 『おお!』という掛声とともに千雨を先頭に神楽坂に呼びかけ始める少女達。だが千雨の顔色は明るくなりはしなかった。
 「クソッ!神楽坂の人格奪還率が30%を超えねえ!人数が足りねえのかよ!」
 「それなら、私に任せて下さい」
 聞き覚えのある声に、振り向く少女達。そこには何もない空中から、ザジが姿を現したところだった。
 「みんなを連れてきましたよ」
 続いてドサドサドサッという音とともに、姿を現すハルナや茶々丸、聡美を始めとした3-Aメンバー達。しかし魔法とは無関係な少女達は、事態を把握できずに困惑するばかりである。
 何せ事前説明も無く異界へ召喚された上に、飛んだ先ではド派手な魔法決戦が繰り広げられているのだから驚くのも当然である。更にその中に、自分達のクラスメートや副担任が混じっているとなれば尚更である。その上、足元には石化した裕奈やさよが転がっているとなれば、驚かない方がおかしい。
 「ちょ、裕奈!それにさよちゃんが何で石に!?」
 石化した裕奈達の姿に驚く少女達。だがその裕奈達も徐々に元の姿へと戻っていく。やがて完全に石化が解除された裕奈は、お腹にさよを乗せたままムックリ起き上がった。
 「あれ?」
 「「「「「「えええええええ!?」」」」」」
 「・・・そうか、フェイトの野郎・・・」
 裕奈達の石化解除がフェイトの仕業である事に気付いたカモが、微かに見えてきた勝利に気付き、ググッと拳を握りこむ。
 「良く分からねえが、助かったぜ!おい、てめえらも力を貸せ!神楽坂を取り返すんだ!」
 「ああ!アスナじゃん!」
 「アスナさんに何があったんですの!?」
 「詳しい説明は後だ!今は神楽坂に呼びかけるんだよ!」
 いつになく焦った千雨の檄に、訳が分からないながらもアスナへ呼びかける少女達。更にそこへ特徴的な声が聞こえてきた。
 「待たせたでござる。アスナ殿に呼びかければ良いのでござるな?」
 「ああ、そうだ!時間がねえ、早くしてくれ!」
 「そうか。ならば私達も手伝わせて貰おうか」
 千雨の肩に手を置きながら、真名と刹那が姿を見せる。
 少女達全員が千雨を先頭に集まり、アスナへと呼びかけ始める。そのタイミングで、まき絵に抱かれていた白狐がいきなり前へと飛び出した。
 何が起こったのかと目を見張るまき絵。次の瞬間、少女達目がけて放たれていた魔法攻撃と白狐が激突。魔法は消滅する代わりに、白狐は木っ端微塵に消し飛んでしまった。
 「シンジさん!」
 「チッ、失敗したか。まあいい」
 デュナミスの呼び出したセクンドゥムが、全身に魔力を漲らせながら魔法の詠唱に取りかかる。絶体絶命の危機に千雨達は顔色を変える。大人達も少女達を助けたいのだが、人数差で押し込まれてしまい、どうしても助けに行く事が出来ない。
 「雷の暴風ヨウウィス・テンペスタース・フルグリエンス
 ゴウッという轟音とともに放たれる雷の嵐は、少女達の悲鳴をかき消し―そして、投げ込まれた1枚の紙を巻き込むなり、瞬時に消し飛ばされた。
 「今の術式は!」
 「燃える天空ウーラニア・フロゴーシス
 死をもたらす火線がセクンドゥムに突き刺さる。反射的に張った魔法障壁のおかげで直撃だけは避けられたが、それでも後退せざるを得なかった。
 「今のは炎系最上位魔法!何者だ!」
 「やれやれ、ようやく辿り着いたかと思えば、どうしてみんながいるネ?」
 少女達の中にフワッと降り立つ長身の美女に目を丸くする少女達。全身に施された呪紋回路を全開にした美女は、本能的に畏怖を感じさせる。だが少女達には、どことなく見覚えのある面影と、聞き覚えのある声色と口調の持ち主であった。
 「・・・まさか、超りん!?」
 「おお、風香ではないカ!相変わらず元気そうで何よりネ!」
 「「「「「「ええー!?」」」」」」
 驚愕の叫びをあげる少女達。美女の正体を知ったネギも、これには驚いたのか声すら出せなかった。
 「久しぶり、御先祖様。随分とボロボロだが、大丈夫カ?」
 「超・・・さん?その姿は?」
 「ふむ、今の私は21歳の超鈴音ネ。ネギ坊主達の危機を教えられて、未来世界から助けにきたヨ・・グッ!」
 一際大きな激痛に、片膝を着く超。慌てて千鶴が肩を貸そうとする。
 「超さん、まさかその呪紋回路、出力を上げたんですか!」
 「正解ネ。だがもう使う必要は無いヨ。私の役目はアスナサンへの呼びかけを手伝う事だからネ」
 静かに消えていく呪紋。だがそこへ怒声が響く。
 「魔法の射手サギタ・マギカ雷の97矢セリエス・フルグラーリス!」
 意図的に射線を湾曲させ、四方八方から取り囲む様に攻撃を放つセクンドゥム。だが致命の一撃を、超はニヤリと笑ってみせた。
 「馬鹿な男ネ、誰が私にネギ坊主達の危機を教えたと思てるカ」
 「対魔法広域防御戦術・五月雨」
 少女達を取り囲むかのように、光の糸が縦横無尽に走る。その光に触れると同時に、魔法の矢は呆気なく消滅した。
 「全く、度し難いほど愚かな男だな」
 妙にドスの利いた低い声に、一同の視線が集まる。そこに立っていたのはサングラスに黒スーツ姿の強面の男と、10歳ぐらいに見える少女であった。
 「「「「「「ヤクザだあああああ!」」」」」」
 一斉に悲鳴を上げる少女達。同時に超がプッと小さく笑う。
 「「「「「「ゲンドウ!」」」」」」
 怒声を上げる完全なる世界のメンバー達。
 「・・・誰だ、お前達は?私の知る限り完全なる世界コズモ・エンテレケイアに、お前達の様に、自らの職責も満足に果たす事が出来ない様な無知蒙昧かつ大言壮語しか出来ない無能はいなかったと思ったが?」
 『ブチッ』と音を立ててデュナミス達の血管が怒りで切れる音が響く。そんな展開に少女達が『うわあ』と呆れたように声を上げた。
 「やれやれ、口の悪さは相変わらずですねえ・・・ところで、そろそろ本当の姿を見せてあげても宜しいのではありませんか?ヘラス帝国宰相ゲンドウ殿?」
 アルの言葉に肩を竦めるゲンドウ。剣と詠春、近右衛門は複雑な顔をし、タカミチやクルトは苦笑するばかりである。
 ボンっと音を立てて煙に包まれるゲンドウとキョウコ。その煙が晴れた後には、狩衣姿の中性的な容貌の少年と、指をバキバキと鳴らしながら獰猛な笑みを浮かべる紅茶色の髪の毛の少女が立っていた。
 「・・・ふむ。19歳になったと聞いていたが、相変わらず母親似だな、お前は。ところでお前は本当に本物なのか?」
 「偽物が貴女の業を受け継いでいると思うんですか、キティ?頭の中まで仔猫キティになってしまうなんて。それはそれで可愛らしいとは思いますが、アルビレオさんもそうは思いませんか?」
 「全くですよ、キティ。仔猫のような愛らしさを発揮するのは構いませんが、さすがに頭の中身まで仔猫キティになってはいけませんねえ」
 「よおし、良い度胸だ貴様ら。そこを動くな。この場で絶対零度の永久氷壁の中に氷漬けにしてくれるわ!」
 バチバチ音を鳴らしながら魔力を右手に集中させるエヴァンジェリン。その姿に『間違いなく本物だ』と確信するネギ一行である。
 そんな中、少女達の中から飛び出した人影が、シンジに勢いよく抱きついた。
 「「シンジさん!」」
 「心配かけてゴメンね、ハルナ、刹那。けど、話は後だ。今は神楽坂さんを助けなきゃいけないから」
 真剣なシンジの口調に、2人が慌てて離れる。
 「みんなは神楽坂さんに呼びかけを続けて!あいつらの攻撃は全て僕達で防ぐ!」

SEELEside―
 シンジとアスカの出現に、墓所の居住区に隠れ住んでいたSEELEメンバー達は狼狽を隠しきれなかった。
 何せ隠れ家の目と鼻の先に、死んだと思われていた最大の敵が突然姿を現したのだから驚くのは当然である。
 「ローレライ!量産型の準備状況は!」
 「現在、準備中です!」
 「全てをダミープラグにはするな!2機は人形を乗せておけ!」
 「は、はい!」
 駆けていく少女から目を離すと、老人はバイザー越しに儀式場での戦闘光景を睨みつづけていた。

シンジside―
 少女達の盾になるべく、矢面に立つシンジ。その横にはアスカが並び、2人とも気を全身に漲らせて敵陣営を睨みつけた。
 「詳しい話は後です。今はあいつらを殲滅しましょう」
 シンジの放った式神が、ネギとフェイトを足元にまで運んでくる。2人の傷に顔を顰めたが、すぐに気を取り直して治癒の符を張り付けて応急手当を施していく。
 「そこで待っていて。動かなければこれ以上、悪化はしない筈だから」
 自作の丸薬を2人の口の中に放り込むシンジ。その影響を受けたネギとフェイトの魔力が瞬時に回復。その効果の高さに、2人揃って目を丸くする。
 「今は治療に専念して完全回復させて。この後で2人の力が必要になるから」
 デュナミス達を睨みつけるシンジ。その肩に、ハルナの元を離れたアベルが静かに降り立つ。
 「ハッ!たかが2人の援軍ではないか!それで何が出来るというのだ!」
 「お前達を殲滅する事なら出来る。それだけだ」
 怒りを増幅され、更に顔を紅潮させるデュナミス達。
 「見せてやる。人形使いの後継、近衛シンジの戦いを!出番だぞ、ヘルマン!」
 一際巨大な力がシンジの左腕に集まる。更に人体構造を無視した動きをしながら、左腕がどんどん膨張しながらドサッと地面に落ちる。
 その異様な光景に息を呑む少女達。だが驚きはここからが本番だった。
 腕は不気味に蠢きながら、段々と形を変えて、やがて人間の姿へと変わっていく。
 「ふふ、この時が来るのを待ちかねましたぞ、我が主よ。ネギ君に小太郎君、久しぶりだね。それから気の強いお嬢さんも、元気そうで何よりだ」
 「あなたは!」
 「「ヘルマン伯爵!?」」
 千鶴とネギ、小太郎の叫び声が重なる。そんな3人に苦笑しながらヘルマンはわざとらしく、デュナミス達にお辞儀をしてみせる。
 「伯爵級悪魔ヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン。主従の契約に従い、貴殿らに敵対させて頂く」
 「ハッ!たかが伯爵級悪魔如きに何が出来るか!」
 「そうかな?」
 ゴウッと音を立てて魔力を全開にするヘルマン。そこから放たれる魔力の強大さは、伯爵級を遙かに凌駕する物であった。
 「この数ヶ月間、私は尽きる事を知らない、主の芳醇な気を飽く事無く食らい続けてきた。今の私は侯爵級どころか公爵級に匹敵するぞ?」
 ヘルマンの自信を裏付けるだけの魔力は、間違いなく英雄クラスと言えるだけの強大さである。
 「続いて、主として命じる!アベル!シャムシエルの力を解放しろ!」
 「GWOOOOOOO!」
 咆哮とともにアベルの両眼が真紅に輝き、頭上に光の輪が静かに姿を現す。更に両手首から、光の鞭が姿を現した。
 「並びに主として命じる!来い!茶々丸セイバー!」
 シンジの指輪から放たれた光線が、地面に魔法陣を描く。その魔法陣の上に姿を現した茶々丸セイバーがシンジの糸の支配下に入り命を吹き込まれて戦闘態勢に入った。
 「ラスト!契約執行シス・メア・パルス600秒ペル・セスケンティー・セクンダース近衛シンジの従者ミニストラ・コノエシンジ惣流・アスカ・ラングレーソウリュウ・アスカ・ラングレー!」
 ゴウッと音を立てて魔力に包まれるアスカ。同時にアスカは気と魔力を練り上げて1つに昇華させていく。
 その技法に、目を丸くしたのは詠春とタカミチであった。
 「「感卦法!?」」
 「そうよ!未来世界のエヴァンジェリン相手に磨いてきた究極技法!アンタら相手なら思う存分叩きつけてあげられるわ!遺書を書く時間も、神様に懺悔する時間もあげないわよ?アタシはシンジみたいに甘くないからね!来れアデアット!」
 アスカの右手に方天画戟が姿を現す。更に機甲馬『赤兎』が横に現れ、その背にアスカがヒラリと飛び乗った。
ブオンと振りかぶった方天画戟が衝撃破を生んで、大地を切り裂く。その威力は間違いなく、感卦法でなければ生み出せない破壊力であった。
「見せてあげる。三国最強の武将呂布の業と、究極技法『感卦法』の恐ろしさをね!」
 魔族のヘルマン。鬼神の体に使徒の因子を受け継いだアベル。未来世界の技術によって作られた機械人形の茶々丸セイバー。人の究極に達したアスカ。
 その実力の高さに気づいた完全なる世界コズモ・エンテレケイアメンバーの顔に、険しさが浮かびだす。
 「さあ、始めようか?お前達の好む圧倒的な暴力で、完膚なきまでに粉砕してやる!」
 その声が始まりの合図となったかのように、戦闘の幕が切って落とされた。

3-Aメンバーside―
 目の前で繰り広げられる激戦に、少女達は言葉を失っていた。
 確かに魔法や気が飛び交う戦いは、魔法世界の危険を潜り抜けてきた少女達にしてみれば、珍しい物ではない。
 事実、タカミチや詠春、クルト達の実力の高さには納得できる物があったからである。
 問題だったのは、アベル・アスカ・ヘルマンであった。
 アベルは障壁を切り裂いてしまっていた。無残に切り裂かれた障壁の裂け目から、小柄なアベルが高速で飛びこんで斬撃の鞭を縦横無尽に閃かせる。これには相手をしたア
ーウェンルクスシリーズの1体が瞬殺され、雷化による高速での戦闘を可能とするクウィントゥムが相手をして、何とか持ち堪えている状況であった。
 アスカの場合は、アベルが可愛く見えるほどの凶悪さで暴れ回っていた。感卦法の破壊力に任せて、力で障壁を粉砕していく。
 本来なら軽トラックの衝突程度ではビクともしないほどの防御性能を持つ障壁なのだが、今のアスカの破壊力はそれすらも役に立たない。更に障壁を破壊した所へ、赤兎の蹄とアスカの方天画戟が阿吽の呼吸で襲いかかってくる。
 このアスカを食い止める相手がいないと判断したデュナミスが、即座に造物主の掟を発動。魔法世界最強種であるヘラス帝国の守護神・竜樹を再生させて召喚。支配下に入った竜をアスカにぶつける。
 それに対し、赤兎の時速500kmという速度に物を言わせて懐へ飛び込んでいくアスカ。一方の竜樹は炎のブレスで迎撃しようとするが、その下を搔い潜るかのようにアスカは赤兎を疾走させる。
 閃く方天画戟。感卦法によって限界まで強化された一撃を、竜樹は全身に漲らせた魔力による身体強化と、竜鱗による防御力で正面から食い止める。
 量産型エヴァンゲリオンですら破壊せしめた一撃を、正面から食い止めた敵の強さに、アスカが面白そうに笑みを浮かべた。
 『上等!』と叫んで更に方天画戟を閃かせる。対する竜樹も鉤爪や尻尾を使って反撃に転じ、その一撃をアスカは時に受け流し、或いは赤兎を操って軽々と回避していた。
 「アスカさんって、あんなに強かったん?」
 「いや、違うで。あの姉ちゃんは麻帆良にいた頃は憶えていなかった感卦法を使うとる。はぐれた後で、よっぽど修行積んだんやろな」
 「それもそうでござるが、あんな方法で感卦法を使えたでござるか。あの方法で可能ならば、拙者や古菲殿、刹那殿でも使う事が出来るかもしれないでござるよ」
 単騎で竜樹と互角の戦いを演じるアスカ。やがてその視線は、楓と小太郎を一蹴してみせたクウィントゥムへと向けられる。
 シャムシエルの力を発揮したアベルは、雷化したクウィントゥム相手に互角以上の戦いを演じている。対するクウィントゥムは雷化による機動性能を頼りに勝負を仕掛ける。丁度、ネギとフェイトの立ち位置を逆にした戦いである。
 その戦いの結果はネギの辛勝。ならば結果も同じになる筈だが、アベルはフェイトが持ち得ない物を持っていた。
 「雷の暴風ヨウウィス・テンペスタース・フルグリエンス!」
 至近距離から放たれる無詠唱の一撃。だがその一撃は、アベルの咆哮とともに展開された真紅の障壁―ATフィールドによって全て遮断されてしまう。
 「あれはATフィールドアルね?アベルも使えたアルか?」
 「いや、使えなかたネ。けどシャムシエルと1つになた事で使う事が出来るようになていたと考えられるヨ。あれを突破するなら、ネギ坊主の巨神殺しの槍や、感卦法の一点集中攻撃クラスの破壊力が必要ネ」
 「あの小ささと素早さに加えて、絶対防御を誇るATフィールド持ちですか?そんなの相手にするだけ時間の無駄です。使徒は速さとは無縁だったからこそ、ATフィールドにも隙を突く余裕があったと言うのに」
 夕映の感想に、同感とばかりにのどかが頷く。その一方で、シンジもまた茶々丸セイバーを操りつつ、ヘルマンとともに暴れていた。
 ヘルマンは魔族の姿を現して、石化の光線を縦横無尽に放って手当たり次第に攻撃していく。対する完全なる世界コズモ・エンテレケイアメンバーも魔法障壁で防ごうとしたが、1人が石化した所で諦めるしかなかった。
 と言うのも、魔法障壁を張っても意味がないのである。
 ヘルマンの石化を防ごうとしても、シンジが破術を放って無効化してしまう為、障壁を張って耐える事が出来ない。更にヘルマン自身もシンジの傍から離れようとせず、シンジの身を守る事を第一としている為、シンジを狙い撃つのも難しい状況である。
 「あのヘルマンさん、強い人だったのねえ」
 「ちづ姉!何ノンビリしてんの!?攫われた事、忘れちゃったの?」
 それでもホホホホホと笑う千鶴に、夏美は言葉も無い。そこへ怒声が響いた。
 「てめえら呑気に観戦なんかしてんじゃねえ!神楽坂を助ける事に集中しろ!」
 慌てて視線を戻す少女達。その眼を瞑り、一心不乱にアスナに呼びかける。
 「・・・来た来た来たあああああ!」
 眩い光を放ち始める力の王杓。その光がアスナへぶつかり、同時にアスナがウッスラと目を開く。
 「よっしゃあ!成功だ!」
 歓声を上げる少女達。互いにハイタッチで喜び合う中、楓と古が手早くアスナを回収する。
 「馬鹿な!黄昏の姫御子が!?」
 「余所見とは随分と余裕ですね?斬魔剣!」
 詠春の魔を断つ一撃が、デュナミスへと襲いかかる。それを躱わしたデュナミスが造物主の掟を発動。倒されたアーウェウンルクスシリーズを再び戦場へと呼び直す。
 「まだだ!貴様らが何度倒そうとも、こちらの戦力は無限!消耗戦に引きずり込んでくれるわ!」
 チッと舌打ちしながら詠春が攻撃目標を変更。造物主の掟の破壊へと狙いを変える。
 「無限に湧き出る戦力か、ちょうど良い!お前達、時間を稼げ!私が一掃してくれる!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」
 エヴァンジェリンの詠唱が始まる。それを止めようと炎を纏ったクアルトゥムが襲いかかるが、その一撃をシンジの指示を受けたヘルマンが正面から食い止める。
 「邪魔をするな!」
 「はっはっは。何をそんなに慌てているのかね?少しは戦いを楽しみたまえ!」
 炎と闇が激突し、爆裂四散する。そんなヘルマンの行動にデュナミスが指示を飛ばす。
 「奴を狙え!今がチャンスだ!」
 ヘルマンという護衛を手離したシンジに、アーウェンルクスシリーズの数体が同時に襲撃を仕掛ける。
 対するシンジは正面から向かえ討とうとはしなかった。とにかく茶々丸セイバーを盾代りに使いながら、時間稼ぎに徹し続ける。
 それでも数発の攻撃を被弾したシンジであったが、そこへグオッという轟音とともに灼熱の一撃がアーウェンルクスシリーズを真横から捉えて吹き飛ばした。
 「シンジさん、大丈夫!?」
 「ありがとうハルナ。助かったよ」
 気による身体強化で耐えていたシンジが、パンパンと埃を叩き落とす。その背後には炎の巨人を具現化させたハルナがいた。
 「助太刀致します!」
 「手助けするでござるよ」
 「ええ、私は弱いですが、それでも出来る事があるですよ」
 木乃香との契約により手に入れたアーティファクト『剣の神・建御雷』を手にした刹那と、巨大十字手裏剣を構えた楓と、完全武装状態の夕映が駆け付ける。更に回復に専念していたネギ達を守ろうと、古とのどかが駆け寄った。
 しかし、それでもなおアーウェンルクスシリーズが優勢なのは事実である。それほどまでに個々の戦闘能力においては差がありすぎた。
 それを見越して追撃を仕掛けるアーウェンルクスシリーズ。だがそんな彼らを、真横からの一撃が軽々と吹き飛ばす。
 「ありがとうございます、シンジさん。おかげで完全に回復しました!」
 「・・・借りができたからね、今は休戦にしておいてあげるよ」
 雷化状態のネギと、魔力を漲らせたフェイトが立ち上がる。
 「テルティウム!」
 「言っておくけど、僕はあの御方を裏切るつもりはない。だが、これ以上あなた達に力を貸したくはない。プリームムの死を汚すあなた達にはね」
 「人形の分際で生意気を抜かすな!造られた偽りの命如きに、何の権利があって・・・」
 ゾクッと背筋に感じた寒気に、慌てて振り向くデュナミス。それはその場にいた者達全てが感じていた。
 「・・・造られた命には自由など無い。そう言いたい訳か?お前は」
 シンジの髪の毛が、放出され始めた気の余波を受けて舞い上がり出す。同時にシンジの瞳が焦げ茶色から真紅へと変わり出す。
 「造られた命で何が悪い!お前こそフザけた事を口にするなあ!」
 激怒したシンジの姿に、言葉を無くすネギ達。そんなネギを置き去りに、怒りに駆られたシンジが正面からドゥナミスに殴りかかる。
 人形使いが人形を使わずに最前線に飛び出てくるという事態に、一番驚いたのはデュナミス自身である。咄嗟に闇の鎧で防ごうとしたが、怒りで限界を超えて全身を強化したシンジの一撃を顔面に食らい、苦悶の声とともに大地へ叩きつけられる。
 しかしシンジの方もタダでは済まなかった。殴りかかった右手は限界を超えて強化された一撃の代償であるかのように、指の骨が砕けて、肉を食い破って露出している。
 ところが、シンジはまるで痛みなど感じていないかの様に、怒りの形相で追撃を仕掛けていた。マウントポジションを取ると、壊れた右手でデュナミスを何度も殴りつけ、その度にデュナミスの口から上がる苦悶の声がか細くなっていく。
 そのままトドメを刺そうとしたシンジだったが、その手を背後から掴み止められた。
 「馬鹿!アンタが前に出てきてどうすんのよ!ファーストの事は分かるけど、落ち着きなさい!」
 竜樹を全力で吹き飛ばして無理やり距離を作ったアスカが、シンジのフォローに回っていたのである。その行動に、シンジがハッと正気に戻った。
 「ご、ごめん、アスカ」
 「謝るぐらいなら挽回しなさい!まあ、アンタにとってのトラウマなんだから、激怒するのも仕方ないけどね。ファーストはアンタにとっては初恋の相手だったんだし」
 ブオンと方天画戟を振りながら、戦意を高揚させるアスカ。そのままシンジを左手で抱えて一時離脱を図ろうとするが、その行く手をアーウェンルクスシリーズが遮る。
 チッと舌打ちするアスカ。だがそのアーウェンルクスシリーズに、背後からネギとフェイトが襲いかかり、敵の防衛ラインに穴を作った。
 「今の内に行って下さい!」
 「ダンケ!」
 赤兎を駆って、少女達の元へと舞い戻るアスカ。そこへ木乃香が駆け寄った。
 「お兄ちゃん!すぐに治すからな!治癒クーラ!」
 光に包まれると同時に、シンジの右手が元の姿を取り戻していく。やがて治療を終えたシンジであったが、右手を試すように何度か握ったり開いたりするが、その顔は決して明るくはなかった。
 「お兄ちゃん?」
 「・・・いや、大丈夫だよ。それより戻らないと」
 「シンジサン、嘘は良くないネ。本当は治ていないのではないカ?幾ら木乃香の魔力が膨大でも、治癒の術その物は初歩の術に過ぎないネ。恐らく、痛みで人形を操るどころではない筈ヨ?」
 図星を刺されたシンジが、顔を俯ける。だがすぐに顔をあげた。
 「大丈夫だよ、これぐらいなら我慢できるから」
 「お兄ちゃん!後遺症が残ったらどうする気や!ウチのアーティファクトを使えばええやんか!」
 「ダメだ!それは誰かが瀕死の重傷を負った時の切り札なんだから!」
 グッと押し黙る木乃香。その眼は、今にも泣きそうに複雑な光を湛えている。そんな木乃香を慰めるように、シンジが木乃香の頭を撫でた時だった。
 「では、私が茶々丸セイバーの代わりを務めさせて頂きます」
 「「「茶々丸さん!?」」」
 「先ほどは不覚を取りましたが、今度は大丈夫です」
 聡美が用意した幼女系ボディに変わった茶々丸が、ジャコッと音を立ててライフル弾を装填しながら姿を見せた。
 「ハカセ、行ってまいります」
 「気をつけるんだよ、茶々丸!」
 「了解しました。リミッター解除します、高速機動戦闘モードに移ります」
 バーニアを吹かしながら、人間の領域を超えた速度での射撃戦を展開する茶々丸。対するアーウェンルクスシリーズも魔法障壁で耐え凌ごうとするが、茶々丸は高速で飛びまわりながら弾丸を叩きこみ続ける。
 だが決定打とはなりえない状況に、茶々丸も歯噛みせざるを得ない。
 「火力が足りません、これでは敵を制圧するのは・・・」
 「任せなさい!」
 赤兎を駆るアスカが方天画戟を振りかぶりながら敵陣中央へと突撃する。
 「でりゃああああああ!」
ブオンと言う轟音とともに遠心力をタップリと乗せた一撃がアーウェンルクスシリーズの内の1体を文字通り吹き飛ばして、石の壁へと叩きつける。敵陣中央で派手に暴れまわるアスカに、アーウェンルクスシリーズも周囲を囲んで制圧しようとするが、アスカの高すぎる戦闘力を前に手を出しあぐねる。
そこへアスカに吹き飛ばされていた竜樹が、再び前線へと舞い戻ってくる。混沌とし始めた戦局であったが、雷を纏った氷が次々にアーウェウンルクスシリーズ達を飲み込みだした。
終わりなく白き九天アぺラントス・レウコス・ウラノス。この魔法は人形を無力化する為だけに作った独自魔法だ!永遠に再生し続ける氷の中で、己の愚かさを後悔するが良い!」
高笑いするエヴァンジェリン。一方のアーウェンルクスシリーズ達は必死になって逃げ惑うが、氷の追撃速度はそれを上回った。
竜樹もデュナミス達も氷に閉じ込められ、最後の1人となったセクンドゥムが絶叫しながら氷に呑まれる。
「あーはっはっは!意識だけは残しておいてやったぞ!永遠に氷の中で己の愚かさを悔い続けるが良いわ!」
「・・・闇の福音殿。攻撃をするのは構わないが、我々まで巻き込む様な攻撃は勘弁して貰いたいのだがね?」
氷の侵食を何とか振り切ったヘルマンに、氷をATフィールドで堪え切ったアベルが頷いてみせる。
「むう・・・すまなかったな、アベル。別にヘルマンはどーでも良いのだが、アベルを閉じ込めるのは私にとっても本意では無いのだ」
エヴァンジェリンの謝罪に、素直にコクンと頷くアベル。だが『どーでも良い』と評されたヘルマンは複雑極まりない表情であった。
「さて、それより問題はこれからだな。まずは魔法世界を元に戻さねばならぬ訳だが」
振り向いたエヴァンジェリンの顔が凍りつく。その視線の先に気付いた者達も、同じように凍りついた。
「我が娘よ、随分と成長したものだな」
そこにいたのは、特徴的なローブ姿の人物である。だがそのローブには、嫌と言うほどに見覚えのあるメンバーが揃っていた。
「貴様あああああ!」
「「「「「造物主ライフメイカー!」」」」」
一斉に攻撃に転じる英雄達。詠春とクルトは太刀を、タカミチは豪殺居合拳を、アルビレオと近右衛門、エヴァンジェリンは得意とする攻撃魔法を展開する。
しかし、それらの攻撃はただの1つも造物主には届く事は無かった。全ての攻撃は吹き散らされ、或いは躱わされていた。それどころかカウンターの一撃により、6人全てが苦悶の声を漏らしながら大地に膝を着く。
その眼にも止まらぬカウンターに、造物主ライフメイカーという存在を知らなかったが故に、襲い掛からなかった剣が目を丸くしていた。
「・・・おや?ひょっとしてテルティウムかな?私の知っているテルティウムとは随分と雰囲気が違うけど、テルティウムだろう?」
「・・・我が主マスター・・・」
「ふむ、どうやら君もプリームムの様に大切な事に気づいたようだね。人形では無く、1つの命として生きて行く事を」
主の出現に、言葉を無くすフェイト。そんなフェイトから視線を外すと、造物主ライフメイカーはシンジへと顔を向けた。
「その膨大な気・・・間違いない、ゲンドウだね?」
「・・・18年振り、と言った所かな。それにしても、貴方も随分と変わったみたいだけどね?いつから赤毛になったのかな?」
「ふふ、相変わらず目端が利く男で楽しいよ。そうだな、改めて自己紹介させて貰おうか」
バサッと音を立ててフードを外す造物主ライフメイカー。そこに現れた顔に、数名が息を呑む。
赤い髪の毛をした若々しい青年。かつて英雄を束ねた、1人の男。
「ナギ!」
「父さん!」
エヴァンジェリンとネギの叫びが木霊する。その瞬間、造物主ライフメイカーが頭を押さえて姿を揺らめかせた。
「まさか、その姿は幻像か!」
「・・・幻なのは間違いねーよ。久しぶりだな、てめえら」
顔を上げるナギ。その目に宿った覇気は、確かに共に旅をした者達全ての記憶にある輝きを放っていた。
「いいか、良く聞け。ネギ、俺を殺しに来い!俺が奴を押さえて話をしていられるのも僅かな間だけだ。幸い、俺の体は麻帆良の地下に封印されたまま。せいぜい、こうして幻を飛ばす事ができるだけだ。だから、今の内に全てを終わらせるんだ!場所はアルの野郎が知っている!」
「父さん!」
「エヴァ、約束を守ってやれなくてすまねえ。悪いが呪いの解呪はネギにやって貰ってくれ。今のネギなら、その程度の力は有る筈だからな」
「この馬鹿者が!誰がお前の遺言を聞きたいと言ったか!戯けた事をぬかすな!」
目を吊り上げたエヴァンジェリンに、ナギが苦笑いを返す。そしてその視線は、シンジとアスカへ向けられた。
「久しぶりだな、ゲンドウ、キョウコ。随分、姿が変わっちまったな。悪いが、昔の誼って事で、俺のガキを頼む」
「ふざけんじゃないわよ!そんな自分の身体も持たない半端幽霊なんか、ぶん殴って弾き飛ばしてやんなさいよ!」
「・・・少しだけ我慢して。必ず解放するから」
その言葉を聞き終えたかのように、スーッと姿を消していくナギ。やがてその姿は完全に消えてしまった。
やるせない空気が漂う空間。そんな空気を吹き飛ばすかのように、一際明るい声が響く。
「今はこの世界を何とかしましょう!アスナさん!」
「分かってるわ、ネギ」
ハマノツルギを手に、今まで自分が封じられていた魔法陣へと戻っていくアスナ。そして朗々とした声で詠唱を始めていく。
その詠唱が進むにつれて、世界中で失われた命が戻り始める。それを証明するかの様に夕映達の前に消滅した筈のエミリィが姿を取り戻した。
「あ、あら?」
「「委員長!」」
「お嬢様!」
夕映・コレット・ベアトリクスに抱きつかれて困惑するエミリィ。その光景に周囲も安堵の溜息を吐き、アスナもそれを見て世界再生の速度を更に増していく。
次に姿を取り戻したのはラカンである。姿を取り戻すなり、ネギに抱きつかれ、詠春に手荒な祝福を受けて豪快に笑った。
徐々に癒されていく世界。
そして全てを再生し終えた時だった。
突如、耳をつんざく様な轟音が全員の鼓膜を叩いた。
「何だ!」
轟音のした方へ顔を向ける一同。轟音は儀式場となった場所からは、かなり離れた所から聞こえてきていた。それを証明するかのように、巨大な土埃が立ち込めている。
その土埃の中から姿を見せた物体に、数名が言葉を無くした。
目のない真っ白な表面の巨人。不気味に裂けた口。生理的嫌悪を催す姿。
「「量産型エヴァンゲリオン!」」
シンジとアスカが同時に叫ぶ。目の前に現れた巨人は、確かにかつて交戦した敵と同じ姿であった。



To be continued...
(2013.01.19 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回で組織としての完全なる世界コズモ・エンテレケイアは壊滅しました。しかしここまで到達するのに時間がかかった事かかった事。しかも書いていて思ったんですが、ラカンの立ち位置をアスカが奪った為にラカン影薄!という状況ですw明らかに私の構成ミスですね。
 話は変わって次回です。
 遂に姿を現した量産型エヴァンゲリオン。この最悪の敵を倒す為、シンジは初号機の奪還を、アスカはネギ達とともに時間稼ぎに入る。
 未来世界で量産型エヴァンゲリオンを倒した2人だからこそ、立案できた策。だが2人は気づいていなかった。一度は崩壊したSEELEの用意周到さと、その悪意ある牙がシンジへと向けられている事を。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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