正反対の兄弟

第七十四話

presented by 紫雲様


 シンジが計画した魔法世界救済計画。この計画は大筋において、大半の者達に受け入れられる物であったが、やはり魔法の存在を暴露するという一点においては、関東魔法協会を中心として物議を醸した。
 だがここで魔法の存在を暴露しなければ、魔法世界は魔力枯渇によって、再び危機に追い込まれてしまう。それに魔法世界の住人達にしてみれば、その度に新天地を求めて強制的に移住させられるのは、感情的に納得出来る物ではない。
 その結果として、魔法暴露反対派も渋々とではあるが賛同せざるを得なかった。
 そして、運命の日が訪れた。
 2017年12月1日。
 後にサード・インパクトとして歴史に刻み込まれる事になる日の事である。

第3新東京市―
 この日、全世界からメディアが第3新東京市に来ていた。目的はNERVにより『使徒戦役及び魔法世界の存在についての説明』というテーマで事実説明を行う、という通達が世界中にあったからである。
 そして彼らが通されたのは、既に使われなくなって久しい兵装ビルの群れ。かつて使徒戦役において使われた物であるという証拠として、久しぶりに陽の目を見る事になった。
そしてNERV関係者以外は誰も見た者がいないジオ・フロント―今までは地上部分にあるマスコミ用の建物で対応していた―に案内され、そこに未だに残る使徒戦役の傷跡という現実に言葉を失っていた。
次に彼らを待ち受けていたのは、唯一、NERVに残った汎用人型決戦兵器人造人間エヴァンゲリオン初号機である。今はシンジによってアベルと呼ばれる初号機は、ケージの中で静かに時を過ごしており―時折、シンジがアベルと話す為だけに乗っている―その姿を各国メディアが無数のフラッシュをたいて写真に収めていた。
最後に彼らはもう一度、ジオ・フロントへと戻された後、そこに臨時に設置された特設会場へと案内された。これはNERV創設の際、メディアを集めるという考えがゲンドウに無かった為、メディアへの説明用の部屋が無かったからである。その為、苦肉の策としてこのような事態になったのであった。
そして各国メディアや、世界中の政・経済界の要人、更には宗教指導者達すらを前に、2代目NERV総司令葛城ミサトが姿を見せた。
「本日は、お忙しい中、足を運んで下さりありがとうございます。私は国際連合特務機関NERVにおいて総司令を務める葛城ミサト准将です。それでは、早速ではありますが今回のテーマについて話をさせて頂きます。質問事項については、時間を取って随時対応させて頂きますので、その点をご了承お願い致します。それではまず、使徒戦役についての情報からです」

麻帆良学園―
 NERVによる情報公開。この世界史に残る放送を見る為、学園は教育機関として休校という扱いをしていた。
 そして3-Aメンバー達は、寮監臨時代行の葛葉刀子とともに女子寮の食堂でテレビに釘付けとなっていたのである。
 2000年9月13日に起きたセカンド・インパクトの説明。だがそれは虚偽であり、実際にはSEELEと呼ばれる、古来から暗躍してきた秘密結社による計画の1つという人災であった事。その目的は南極に眠る第1使徒アダムと呼ばれる存在への接触を図る事にあった事。更にはSEELEの計画の1つとして作られたのがNERVの始まりであった事。NERVの目的はやがて来る使徒戦役において、使徒を迎撃する役目であった事。そしてこのジオ・フロントには第2使徒リリスと呼ばれる人類の祖が眠っており、そのリリスを模して造られたのが、エヴァンゲリオン初号機である事・・・
 いきなりのぶっ飛んだ事実説明に、麻帆良中等部女子寮では早速、知恵熱によって頭から煙を出す少女が現れた。
 「おい!古菲とまき絵の奴が倒れてるぞ!」
 「濡れタオル持ってきたよ!」
 「アスナ、しっかりしてや~」
 別の意味で阿鼻叫喚な少女達の姿に、臨時の寮監を任された刀子は眉間を押えながら、唸り声をあげてしまう。
 (よくもまあ、あの子はこの子達をコントロールできたものね・・・一体、どうやった訳?)
 今はテレビの向こう側にいるであろう少年を思い浮かべて、刀子が溜息を吐く。
 「あ!みんな、テレビ見て!シンジさんが出てる!」
 円の言葉に、一斉に注目が集まる。そこには使徒戦役当時―14歳の頃のシンジが映っていた。しかも画面下には『エヴァンゲリオン初号機専属パイロット・碇シンジ』とご丁寧に字幕表示までされている。
 「うわあ、これが3年前のシンジさんなの?喧嘩、弱そうだね」
 桜子の遠慮のない言葉に、頷く少女達。シンジの記憶を共有した者達は、その理由を知っているが、下手に口に出す訳にはいかずに沈黙するしかない。
 「お!今度はアスカさんだ!こっちは弐号機だったんだね」
 今と同じく、勝気な少女が映る。だが次に映った蒼銀の髪の少女と、その字幕に書かれた綾波レイという名前に、少女達は凍りついた。
 「この子が・・・シンジさんの・・・」
 魔法世界でのSEELEとの最終決戦。そこで繰り広げられた激戦の中、綾波レイと呼ばれる少女がシンジにとってどんな存在であったのか。その真実は3-Aメンバー達も知る事になっていたからである。
 「・・・綺麗だけど、儚い感じの子ね。こんな子まで、戦場に立っていたのね」
 千鶴の視線は、続いて映し出された使徒戦へ注がれていた。
 そして使徒の猛攻により、エヴァが傷を負う度に少女達から悲鳴が上がる。
 「エヴァって傷つくと、痛みがフィードバックするとは聞いとったけど、さすがにこれはなあ・・・」
 「小太郎君、それってどういう事!」
 シンジの記憶を共有した小太郎は、エヴァンゲリオンの真実を知っていた。そして真実を知らない少女達にしてみれば、到底、聞き流せるものではなかった。
 小太郎の説明に、少女達の顔は瞬く間に蒼白に変わっていく。
 サキエル戦では左腕骨折と左目貫通。シャムシエル戦では脇腹貫通。ラミエル戦では荷粒子砲の直撃。ガギエル戦では巨大な牙による刺し傷。そのどれもが、少女達から言葉を失わせるに十分な物があった。
 そんな重い空気が軽くなったのは、イスラフェル戦である。
 ユニゾン作戦による阿吽の呼吸によるイスラフェル撃破。更には直後のシンジとアスカによる年相応な口喧嘩が流れたのである。これには少女達も唖然とした後、お腹を押さえて笑い出すしかなかった。
 「これ作ったのは誰!?確かに笑っちゃうけどさ!」
 「ていうか、アスカさん確信犯じゃない!キスしてもらおうと、わざと寝床を間違えたって事でしょ!?」
 「あっはっは、最高よ最高!お姉さん応援しちゃう!」
 チア部3人娘の遠慮の無い言葉に、少女達はヒイヒイ言いながら必死になって頷く。ちなみに口喧嘩シーンを入れたのは、ミサトの独断であったのは彼女だけの秘密である。
 続いて溶岩内に潜むサンダルフォン戦。アスカを助ける為に溶岩の中へ耐熱装備も無しに飛び込んだシンジの行動に、少女達から歓声が上がった。
 「・・・知ってはいたけどよ、あの不気味寮監、溶岩の熱さをずっと体感していたって事だよなあ。よく我慢できたもんだぜ」
 「これはアスカさんが惚れ込むのも無理はないですよね」
 千雨と聡美の会話に、周囲も頷くしかない。
 そしてマトリエル戦が始まったが、これは停電騒動と重なっていた為、戦闘シーン自体が存在せず、字幕と蜂の巣になって崩れ落ちたマトリエルの残骸だけが映し出される。
 次に大気圏外から落ちてくるサハクイエル戦。MAGIの乗っ取りによる本部自爆を目論んだイロウルとの電脳戦。全てを呑みこむレリエル戦。エヴァ参号機を乗っ取ったバルディエル戦と次々に進む。
 そして最強の使徒ゼルエル戦において、一蹴された弐号機と零号機の姿に少女達は言葉を失う。そして出撃した初号機によって、ゼルエルは本部から押し出され―暴走を開始する。
 「これは、あの時の初号機だにゃな~」
 「・・・それにしても圧倒的なまでの戦力差だな」
 裕奈の道化じみた発言に対して、真名が真剣に映像から戦力差を推測してマジぼけで返す。
 やがてアラエル戦による弐号機の離脱、サハクイエル戦でのレイによる零号機の自爆、そしてタブリス―フィフス・チルドレン渚カヲルによるセントラルドグマ侵入と初号機による撃退成功という結果表示に、少女達は首を傾げた。
 「・・・これって、どういう事なのかな?」
 「これが近衛さんのトラウマです。アスカさんを助けられず、綾波さんが自分を守って命を落とし、人類全てと親友を天秤にかけて親友を殺した罪。それを近衛さんは、ずっと背負ってきたんですよ」
 亜子の問いに応えたのはあやかだった。そしてハルナや刹那、木乃香や夕映達は、僅かに目を伏せて頷く事しかできなかった。
 『以上が、2015年に第3新東京市で起きた使徒戦役に纏わる、証拠映像です。この使徒戦役終了後、SEELEは自らの悲願である人類補完計画を実行に移そうとしましたが、計画は失敗に終わりました。2代目総司令となった私は、彼らを政治的に攻撃し、SEELEは歴史の裏舞台からも姿を消しました。それでは、この時点までにおける質問を受け付ける時間を取ります』
 ミサトの発言と同時に、メディアを中心に一斉に質問が始まる。それに当たり障りのない答えを返す中、重要な質問が投じられた。
 その問いかけをしたのは、メディア関係者ではなかった。
 世界でも最も大きな勢力を誇る、一大宗教のトップである。
 『葛城司令に質問したい事があります。何故、子供達の個人情報を表に出したのですか?その意味が理解出来ないほど、貴女が愚かであるとは思えないのです。宜しければ、私の質問に応えて頂きたい』
 『はい。それは次の説明―魔法世界と呼ばれる存在についての説明に、深く関わってくる為です。この説明を行うに当たり、子供達を表に出さざるを得ない事情がありました。これについては子供達にも了承を頂いています』
 『・・・分かりました。まずは説明を聞かせて頂いた上で、判断する事に致しましょう』
 『ご協力、感謝致します。では30分の休憩を挟んだ上で、次の説明に移らせて頂きます』

第3新東京市、鈴原家―
 この日、シンジの友人であるトウジの家には来客がいた。
 トウジの恋人であるヒカリと、その姉妹であるコダマとノゾミ。更にトウジの妹。
 そしてトウジの友人であるケンスケと、先日、第3新東京市へ戻ってきたばかりのマナの姿があった。
 「それにしても、使徒とエヴァンゲリオンの情報を公開するなんて、思い切った事をしたもんだな、ミサトさんは。父さん、仕事が急に増えて目を丸くしてたよ」
 「ケンスケんとこは、親父さんは情報管理部だった言うとったな。そりゃあ、仕事増えるんも仕方ないわ」
 「2人とも。静かにして。次が始まるわよ」
 ヒカリの言葉に、静かになる一同。続いて舞台に出てきたのは、スーツ姿の詠春である。
 『お初にお目にかかります。私は近衛詠春。古来より京都の地を中心に、一般の方がオカルトと分類される事象の解決を図ってきた、関西呪術協会の長を務めるものです。日本の歴史に詳しい方にとっては、陰陽寮の流れを汲む組織と判断して下されば間違いありません。これより、NERV司令葛城准将に代わって、私が司会を務めます。どうか、まずはご清聴をお願い申し上げます』
 一礼する詠春。その姿に、トウジが胡散臭そうな視線を向ける。
 『2016年の春の事です。私は京都の山中において、1人の少年に出会いました。彼は世界に絶望し、その体は弱り果て、自殺を試みた形跡がありました。私はその少年を連れ帰り、私の養子としました。何故なら、その少年には私の良く知る人物の面影があったからです。その人物の名は碇ユイ博士。そう、先ほど使徒戦役の最中、エヴァンゲリオン初号機を操っていた碇シンジの母親に当たる人物です』
 いきなりの爆弾発言に、トウジ達は言葉も無い。まさかシンジの名前が、いきなり出てくるとは思わなかったからである。
 「・・・そうか!確かシンジの奴、名字が近衛に変わってたな!」
 「そうやな。ケンスケの言う通りや!」
 「それじゃあ、今は近衛シンジって事?ケンスケ」
 マナの質問に、頷くケンスケ。
 『私はシンジがユイ博士の子供である事に、すぐに気付きました。だがシンジは私では救えない程の闇を、その心に宿してしまっていた。同時にシンジは1000年以上に及ぶ陰陽師の歴史においても、間違いなく5本の指に入るほどの天賦の才を持っていました。私は彼を陰陽師として鍛えました。そしてシンジもまた、私の期待に応えてくれた。だが、ある事情によりシンジは関西呪術協会を追放される事になり、私は義理の父が長を務める関東魔法協会へシンジを委ねました』
 「追放やと?シンジの奴、何ぞやらかしたんか?」
 「シンジの奴が、そう問題を起こすとは思えないんだがな」
 2人が首を傾げる間も、詠春の独白は続いた。
 『関東魔法協会に籍を移したシンジは、そこで新たな仲間を得ました。その1人がネギ・スプリングフィールド。私にとっても、ネギ君は戦友の忘れ形見でした。そして2人は兄弟の様に仲良くなり、多くの事件を解決しました。ただ、その絆をもってしても、シンジの闇を祓う事は出来ず、遂に事件が起きました。2017年6月6日、埼玉県麻帆良学園の麻帆良学園祭において起こった事件です』
 その瞬間『あ!』と声を上げるヒカリ。
 「ヒカリ、貴女何か知ってるの?」
 「知ってるも何も、私、その場にいたのよ」
 続いて、映し出された映像に彼らは言葉を失った。
 式神の背に乗り、SEELEの攻撃から麻帆良を守りたい、その為に悪の魔法使いへの道を進むという決断を叫びつつ、かつての仲間と刃を交えるシンジ。その傍らでは、ネギと超がカシオペアを使って激戦を繰り広げる。そして遂に、18番目の使徒リリンとしての姿を現すシンジ。SEELEへの宣戦布告と同時に、神としか表現できない圧倒的な戦力差で魔法使い達をあしらう姿に、誰もが言葉をなくす。
 『シンジはかつて倒した使徒の力を受け継ぎ、不死の存在へと変じていました。しかし、その力を無効化する者がいました』
 最強無敵状態のシンジへ、ハマノツルギを振り下ろすアスナ。そこへ割り込むハルナと、切り裂かれるATフィールド。そして地上へと落下していくシンジ。更に、超とともに地上へ落下していくネギ。
 説明会場に沸き起こる悲鳴の嵐。
 『結果から言えば、彼らは無事でした。ただ1人シンジという例外を除いて。シンジは最後の戦いの最中に受けた一撃により、全ての使徒の力と左腕を失い命すら失いかけた。そんなシンジを救ったのが、かつての弐号機パイロットであるアスカ君と、シンジの中で魂だけとなって眠りについていた綾波レイと渚カヲルの2人です。そして2人の犠牲によって、シンジは普通の人間としてやり直すチャンスを手に入れる事が出来ました。ただシンジには、再び戦場へ戻らなければならない理由が出来ました。それが2人の遺言―SEELE残党の壊滅と、実験材料とされている自らのクローン体の破壊依頼―死による解放でした』
 ざわめきが収まらない説明会場。その動揺の大きさは、テレビ画面に釘付けとなっているトウジ達も同じだった。
 「まさか、センセが言うとったんは、この事だったんか!」
 「何か知ってるの?鈴原」
 「前にセンセが帰ってきた時があったやろ?その時に、少しだけ話してくれた事があったんや。綾波の願いを叶えないといけない、言うとったわ」
 綾波レイと渚カヲルの犠牲。その重さ故に、シンジは変わらざるをえなかった。その事実を改めて理解したトウジが、悔しげに拳を畳へ叩きつける。
 『SEELE残党は魔法世界に潜伏していました。そしてSEELE残党に力を貸していたのが、魔法世界の最大テロ組織である完全なる世界コズモ・エンテレケイアでした。彼らを壊滅させる為、まずは情報収集の一環として、シンジはネギ君達とともに魔法世界へ渡りました。だがそこでトラブルが起きた。完全なる世界コズモ・エンテレケイアは彼らにとっての目的達成の為に、その下準備として魔法世界とこちらの世界を繋ぐゲートを破壊しようとしていた。その結果、遭遇戦が起こりました。ゲートは破壊され、シンジとアスカ君の2人は、敵の用意していた特殊な魔法により、強制時間転移をさせられた。いつの時代へ辿り着くかも不明な、完全なランダム時間転移です』
 時間転移。その言葉に特大のざわめきが起こる。
 『2人が飛ばされたのは、今よりも20年前の魔法世界。そこは魔法世界の住人達が大戦と呼ぶ事になる、魔法世界全てを巻き込んだ大戦争の直前だったそうです。そこで2人は自分達が過去へ飛ばされた事を理解し、全てを解決する為に一計を案じた。それが大戦を解決した、若かった頃の私達―紅の翼アラルブラの仲間になる事でした。シンジはゲンドウという偽名を、アスカ君はキョウコという偽名を名乗り、賞金稼ぎとなって実戦で戦闘技術を磨き続け、20年後にネギ君達の力となる為の準備をした。結果、シンジは魔法世界最大の版図を誇るヘラス帝国の宰相に、アスカ君は帝国第3皇女テオドラ殿下の専属護衛を務めるまでに成長しました。更には紅の翼アラルブラの参謀と後方支援役、加えて完全なる世界コズモ・エンテレケイアへのスパイ役も務め、現役だった頃の私達にとって、掛け替えのない戦友となった』
 最早、脳の処理が追いつかないのか、テレビを見ているトウジ達は首を傾げるばかりである。
 『大戦は終わり、魔法世界には平穏が訪れました。その2年後、全ての後始末を終えたシンジは、私に1通の手紙を送ってきました。その内容は2016年に、京都の山中で自殺を図っている少年を救ってほしい、という物。当時はその意味がよく理解出来ませんでしたが、それはシンジ自身を助けてほしいという依頼であった事が今なら理解出来ます。その後シンジとアスカ君はヘラス帝国の支援を受け、時間転移の魔法儀式を行い2017年に舞い戻ろうとした。しかしながら儀式はアクシデントに見舞われ、2130年の日本へと辿り着いた。そこはSEELE残党が蜂起した結果により、全てが崩壊した世界だったそうです。そこで世界を崩壊に導く原因を解決し、未来世界の助力を受けて、1人の仲間を加えてゲート破壊事件の2ヶ月前に辿り着きました。そしてネギ君達を影から支援する為、自分達が舞い戻ってきた事を知らせる事無く、魔法世界で活動し続けていた。そして魔法世界では、完全なる世界コズモ・エンテレケイアがSEELE残党とともに蜂起しました』
 映し出された映像は、オスティアの舞踏会で起きた事件である。次々に抹消されていく幻想の住人達。その一方的な殺戮劇に、トウジやケンスケは怒りで体を震わせる。
 『完全なる世界コズモ・エンテレケイアを止める為、ネギ君達白き翼アラ・アルバは戦った。そして最終決戦において、白き翼アラ・アルバとともに、私達紅の翼アラルブラメンバーも肩を並べました。その中には、シンジやアスカ君の姿もありました。結果、完全なる世界コズモ・エンテレケイアは壊滅した。だがSEELE残党は残り、その牙を剥いてきました』
 量産型エヴァンゲリオンと英雄達の激突する光景が映し出される。量産型1体を前に、英雄達は力の大半を費やした。そこへ量産型の第2陣が襲撃し、敗北の色が濃くなっていく。
 しかし、量産型の優勢もそこまでだった。
 シンジの操るエヴァンゲリオン初号機―アベルが参戦。戦局を引っくり返して、次々に量産型を殲滅していく。
 やがてキールが操る最後の量産型エヴァンゲリオンをロンギヌスの槍で殲滅させた所で映像は終わった。
 『以上が、魔法世界で起きた2度に渡る大戦と、子供達の経験してきた真実の歴史です。これについて、何かご質問のある方がいましたら、どうぞ遠慮なくご質問をお願い致します』
 詠春の言葉に、チラホラと質問が向けられる。ただ中には『魔法』という存在その物について疑念を口に出す者もいた。
 『疑念を持たれるのは当然の事です。では私が修めた魔法―正確には陰陽術の1つをご覧に入れましょう。葛城准将、お願いしたものはありますね?』
 『ええ。ちゃんと用意してあります。こちらはいつでも構いません』
 そういってミサトが取り出したのは、愛用しているグロックである。その銃口を、躊躇いなく詠春へと向ける。
 会場中をどよめきと悲鳴が支配する中、鈴原家においてもトウジが叫んでいた。
 「ミサトさん、ほんまに撃つ気か!」
 コダマが慌ててノゾミの両目を隠す。ヒカリはトウジの背中に、不安そうにしがみつく。
 次の瞬間、ガオンッという轟音が響き、銃口の前に立っていた詠春の胸部から、赤い噴水が噴出した。
 絶叫と悲鳴、怒号が会場中に溢れる。だが―
 ボンッという音とともに、詠春が人形へと姿を変える。紙で作られた人形の中央には、焼け焦げた黒い穴がポツンと開き、ヒラヒラと宙を舞う。
 目の前で起きた現実に、聴衆はポカンとするばかりであった。
 『ただ今見せたのは、式神と呼ばれる術です。正確には、先ほどまで司会を務めていた私は、本物の私が作り上げた偽者の私なのです』
 そう説明しながら、舞台袖から出てくる詠春。その体には、銃で撃たれた痕跡は、どこにも見受けられなかった。
 「何やねん、あのおっさん!」
 「・・・つまり、さっきまで演説していたのは、あのオジサンの偽者だったって事か?でも、あの偽者は人間じゃあないんだよな?じゃあ、マジで魔法?シンジの親父さん、とんでもねえな」
 トウジとケンスケが呆れた様に画面を見つめる傍らで、ヒカリ達は呆然として言葉も無いままである。
 『以上で、私の司会による、秘匿されてきた魔法の存在と、こちらの世界との関わりに関する説明を終了させて頂きます。これより30分の休憩の後、次の説明に移らせていただきます』
 退場する詠春とミサト。その姿が舞台袖に消えてなお、会場にいた者は誰1人として席を立とうとはしなかった。

30分後、ジオフロント特設会場―
 次の司会がステージに姿を現しても、会場からは何も反応が無かった。それほどまでに詠春による魔法の実証は、衝撃が大きかったのである。
 だがそれも、狩衣姿の司会進行役が名乗るまでの事だった。
 『初めまして。僕は近衛シンジ。旧姓は碇。かつてエヴァンゲリオン初号機専属パイロットを務め、現在はヘラス帝国の宰相とテラ・フォーミングプロジェクトの最高責任者を務める者です。ここからは僕が司会を務めます』
 会場は無反応だった。だが時が経つにつれて、徐々にざわめきが広がっていく。やがてシャッター音が少しずつ聞こえ出すと、ついには光の嵐が会場中に溢れだした。
 そんな中、シンジは魔法世界の現状と、世界崩壊の原因である魔力枯渇。更にはテラ・フォーミングプロジェクトによる、魔法世界の住人達の火星避難計画を説明した。
 『以上が、テラ・フォーミングプロジェクトの目的になります。何か質問のある方がいらっしゃいましたら、遠慮なくお願いします。ただし、質問事項はテラ・フォーミングプロジェクトのみに限定させて下さい。そうしないと、いつまで経っても質問が止みそうにありませんから』
 冗談めかした口調のシンジに、小さな笑い声が漏れる。やがて投げかけられた質問に対して、シンジはよどみなく答えを返した。
 そんな中、最前列に座っていた1人の男が発言した。
 「君の意見は分かった。だが、魔法世界を救う必要があるのかね?そもそも、ここに集まった者達は、誰も魔法世界に行った事が無い。つまり絵空事としか思えん。先程までの映像や魔法の実証も、科学技術で十分に再現できる。敢えて言わせて貰うなら、大掛かりな詐欺としか思えん」
 『確かに、貴方がそう思われるのも無理はありませんね』
 「分って頂けて何よりだ。である以上、我が国はテラ・フォーミングプロジェクトの出資は全面拒否させて貰う」
 ふんぞり返って発言する、大国の代表の姿に、周囲に緊張が走る。そしてシンジが沈黙を保つ中、徐々に賛同する者達が現れた。
 その声が大きくなる中、シンジは敢えて発言せずにいた。ただその顔は、妙にニコニコしていた事に、冷静に状況を見据えていた者達だけが気づく。
 『では、テラ・フォーミングプロジェクトに反対の方の意見は、ありがたく受け止めておきましょう。ですが、計画は実行します。そもそも、この計画は貴方達に無理に出資して貰おう等とは、最初から考えていませんでした。ですから、貴方達の出資拒絶は喜んで受け取ります』
 シーンとなる会場。シンジの発言に、計画反対派は『このガキは何を言ってるんだ?』とばかりに呆れた様な視線を向けていた。
 『既に出資者は十分にいるんです。魔法世界の住人達にとっては、生きるか死ぬかの瀬戸際ですからね。彼らが最大の出資者です。加えて日本の企業家や、彼らを通じて紹介を頂いた方々からも、内々に出資をして頂き、既に資金面は準備が完了しています。どこの企業なのかは言う事は出来ませんが。ですから、資金面については問題ありません』
 「では、火星の土地を独り占めする気か!」
 『そんな事はしません。そもそも、火星は魔法世界の民の為に準備するんですからね。だから旧世界―こちらの世界の住人には、土地を分け与える様な事はしません。経済活動の一環として、土地の売買を魔法世界の住人と行う事は自由ですけどね。だから、僕は別の見返りを用意したんですよ。そう、魔法世界との提携による、魔法世界の科学技術の供与という見返りをね』
 ガタガタガタンと音を立てて、十数名が立ち上がった。その顔は怒りで赤く染め上げている者もいれば、絶好の投資機会を失った事に後悔して蒼白にする者もいた。
 『利益という物は、物質的な物だけを指す訳ではありません。技術と言う名の、利益を生み出す存在その物も十分に利益と言えます。何より魔法世界の技術がこちらの世界にフィードバックされれば、間違いなく多くの方が恩恵を受けるでしょう。具体的な例を挙げてみましょうか?例えば治癒魔法。これが病院にフィードバックされれば、交通事故等の突発的な死亡は激減するでしょう。だから僕は、技術提携以外の見返りは、出資者の方に対して一切約束しませんでした。彼らも僕の思惑を察して下さり、それ以外の見返りは求めてきませんでした』
 会場の所々から漏れる失笑。明らかに年下―それも戸籍上は16歳のシンジに、大国の全権代表が完全に手玉に取られたのだから、役者が違ったとしか言えなかった。
 『そして、こちらの世界にも貧困や戦争に苦しむ方がいるのは事実です。だからこそ2つの世界の交流の一環として、魔法使い達を派遣させて頂きます。具体例としては、赤十字に治癒魔法の使い手の派遣を計画中です。これ以外にも色々と計画中ですが、他については随時発表していきます。もし要望等があれば、忌憚なく仰って下さい』
 この発言に、セカンド・インパクトの影響から未だに抜け出せない国々の代表者が、積極的な意見を述べていく。それに対してシンジは、どんな魔法の使い手であれば対応できそうかをその場で考え、すぐに対応出来そうな問題であれば、その場で確約してみせた。
 この対応は、あらかじめシンジが魔法世界サイドと事前に打ち合わせしていた内容であった為、約束しても独断専行にはならない。その為、シンジも自信を持って約束していた。そしてその姿に、会場全体が盛り上がりを見せた、その時だった。
 宗教関係者の列席者の1人が、スッと立ち上がる。
 その行動に、シンジを含めた全員の注意が向いた時だった。
 何かがぶつかるような鈍い音、その音の発生源へ目を向ける一同。
 そこには、いつの間にかシンジの傍らで方典画戟を突き出していた、赤いスーツ姿のアスカの姿があった。そして方典画戟からカランと音を立てて金属の塊―銃弾が床へと落ちる。
 「ふん、遠距離からの狙撃如きでアタシの目を誤魔化せるとでも思ってんの!バッカじゃない!?」
 『ありがとうアスカ。守ってくれて』
 「別に大した事じゃないわよ。あの筋肉ダルマの一撃に比べれば蚊に刺されたようなものじゃない!」
 ノンビリ会話する2人。だが目の前で起きた事が意味する所を察した者達から、怒号が起こった。目の前で暗殺が行われようとしたのだから、当然である。
 だが狙われた当の本人は、どこ吹く風とばかりにニコニコ笑うばかり。それどころか、駆け寄ろうとしたSPを制するほどの余裕を見せていた。
 『ヘルマン。僕を狙った人、見つけているね?生け捕りにしてくれるかな?』
 「・・・主命、受諾いたしました。それでは行って参ります、我が主よ」
 シンジの左腕に擬態していたヘルマンが、ロマンスグレーの初老の老人姿へと変じ、銃弾の飛んできた方角へと空を駆けていく。その異様な光景に、会場中が騒然となった。
 『さて、僕からも質問したい事があります。理由は何となく予想がついていますけど、一応尋ねます。何で僕を狙ったんですか?』
 シンジの視線の先。そこには銃撃の直前に立ち上がった人物―唯一の神を崇める宗教関係者の1人―がいた。
 「・・・当然だ。お前は神の使徒を殺めた大罪人。その罪が許されると思っているのか!」
 『ええ、思っています』
 弾劾の言葉を、何の躊躇いもなく切り返された男が、口をパクパクさせる。まさか悩む顔1つ見せずに、気軽に返されるとは、男は欠片ほどにも想像していなかった。
 『そうそう、1つだけ言っておきますね。貴方達は僕達が倒してきた使徒が神の使い―天使だと考えているようですが、それは明らかな誤りです。そもそも貴方達は、どうして使徒=天使と考えたんですか?天使の名前を持っていたからですか?』
 「・・・当然だろう!現に、唯一の神にお仕えする方々の名前を、あの存在は持っていたではないか!」
 『それが間違いなんです。使徒には名前などありません。使徒に固有の名前を付けたのはSEELEなんですよ。だから使徒は本来、名無しの権兵衛さんなんです』
 シンジの発言に会場中が耳をそばだてる。メディア関係者もシャッターを切るのを止めて、固唾をのんで見守った。
 『SEELEは自分達が唯一の存在―神と呼ばれる存在になる事を目論んでいました。そんな彼らにしてみれば、使徒に神の使いである天使の名前を付けて、それを倒す事に歪んだ快感を覚えたんですよ。神の使いを殺した自分達は、神と同等の存在となる資格があるんだ、ってね。事実、SEELEが所持していた裏・死海文書には使徒の名前は出てこない。あるのは何番目の使徒、という表記だけでした。だから、貴方の正義は全くの的外れなんですよ』
 「う、うるさい!この大罪人が!」
 男は懐から銃を取り出し、シンジへと狙いをつける。
 「くたばれ!」
 近くにいた法王のSPが取り押さえようとしたが、それよりも早く男の銃口が火を噴く。同時に会場の他の場所からも、複数の銃撃が行われた。が―
 「無駄ですえ~神鳴流に飛び道具は通じまへんえ~」
 妙に間延びした声とともに現れたのは、良家のお嬢様スタイルの月詠であった。両手に握られた1対の小太刀を振るい、アスカとともに全ての銃弾を防いでしまう。
 『月詠さん、その人達も生け捕りにしてあげて。SEELEの協力者だから』
 「ええ~斬っちゃダメなんですか~?」
 『月詠さんが斬る程の価値は無いでしょ?どうせなら、もっと強い人が良いんじゃないんですか?今度、危険な仕事を回しますから』
 「ん~そうどすな~分かりましたえ~」
 言い終えるなり、狙撃手から放たれる銃撃を切り落としながら間合いを詰め、首筋に峰を反した一撃を放って気絶させていく。僅か10秒程の攻防の間に、彼女は合計3人の狙撃手を生け捕りにしてしまった。
 「捕まえましたえ~」
 『ありがとう、月詠さん。悪いけど、ミサトさんに引き渡しておいてくれるかな?ヘルマンも戻ってきてくれたしね』
 「分かりましたえ~ほな、行ってきますわ~」
丁度戻ってきたヘルマンと一緒に、月詠は狙撃手の足を掴んでズルズルとミサトが控えている場所へと連行する。
 どうみても中学生ぐらいにしか見えない月詠の異様な言動と、ヘルマンという明らかな人外の存在に、周囲は凍りついたままであった。
 そんな中、聴衆の中から意を決した1人が、当たり前の行動を取った。
 「申し訳ありません。先程の2人は一体・・・」
 『僕の護衛です。月詠さんは自分が死にかける程の強敵との戦闘を求める戦闘狂。ヘルマンは僕が召喚し、契約を交わした伯爵級悪魔です。2人とも真摯に仕事に取り組んでくれるので、とても助かっています』
 「そ、それは問題があるのでは!?言い換えれば無差別殺戮を起こしかねない殺人狂、もう片方は正真正銘の悪魔なのでしょう!?周りに被害が出たら、どうするつもりなのだ!」
 当然と言えば当然の発言に、周囲から僅かではあるが同意する者がチラホラと出る。だがシンジは慌てる事無く冷静に対応した。
 『その時は僕が全責任を取るだけです。部下の責任は上司の責任。どこの組織でも、当然の理屈です。ですが、問題が起こる事はありません。僕も年単位で修羅場を潜ってきた身です。清濁併せ呑む覚悟と実力ぐらいは身に着けています。例え性格的に問題を抱えていようが、実力者であれば僕がコントロールして結果へ繋げます。そしてあの2人も、それは承知しています。やりすぎれば、どうなるかをね』
 シンジの発言に、騒然となる会場。だが目の前の16歳になる筈の少年が、見た目通りの子供ではない事だけは、十分すぎるほどに理解出来た。
 『ですから、その点については問題ありません。手綱はしっかりと取りますから。ただ宗教関係者の方には不愉快な話であったのは認めますけどね。ただし、1つだけ言わせて貰えば、悪魔―正確には魔族と呼ばれる知的生命体―には様々な種類がいるという現実だけは理解して頂きたいのです。例えば残酷で凶悪な奴もいれば、ヘルマンの様に僕の話に理解を示して理性的に対応してくれる者もいる。更には戦いを嫌う温厚な者もいれば、人類の文化・芸術を愛する者もいる。結局彼らは人間という種と、ほとんど変わらないんですよ?』
 「そうは言われるが、君の発言が私達の安全を約束する訳ではないだろう!」
『それは当然です。でも、この世界に絶対安全な国がありますか?どれだけ法整備を進めようが、どれだけインフラを充実させようが、どれだけ教育を充実させようが、この世界から犯罪が消える事は無い。それを理解出来ないのは、自分がされたら嫌な事は他人にしてはならない、という人としての道徳理念を純粋に信じる事が出来る子供だけです』
発言者はシンジの揚げ足を取ろうという思惑があったのだが、それを現実的な視点から切り返され、二の句を告げなかった。
『良いですか?僕に言わせれば、同じ人間同士で既得権益という名前の利益争いや、主義主張の相違を理由に、同じ哺乳類霊長目ヒト科ホモサピエンス同士で、戦争と言う共食いをする人類の方が、善悪二元論における絶対悪―神に見捨てられた悪魔の様に感じますけどね。言語と言う名前の意思疎通の道具、譲歩と言う交渉技術がこの世界にはある。それなのに武器や兵器に手を伸ばして、安易に戦争という最悪の手段で自分の意見だけを一方的に押し付けて、解決した気になるのが権力者の常識だと僕は思っています。これは人類補完計画等と言う、不老不死を手に入れようなんていう、権力者の誇大妄想の生贄となった立場からの意見です。是非とも、全ての人達に真剣に考えて頂きたいですね。綺麗事と現実のギャップについて』
「シンジの言う通りよ。アタシもシンジも大人の都合で戦争の道具になったわ。それだけじゃない。アンタ達権力者が既得権益を守る為に、NERVの足を引っ張っていた事だって知っている。アタシ達が怒っていないと思っていたら大間違いよ!」
 シンジの強烈極まりない皮肉とアスカの怒りに、出席者の何割かが顔を俯けて言葉を失う。
 『ですが、どれだけ僕達が言葉を尽くそうとも、全ての人達が僕達に共感する事はありえません。1割が理解してくれれば、御の字だとすら思ってます。だから、残りの人達の為の対策も講じています』
 「そ、それはどういう意味なのかね?」
 『僕はテラ・フォーミングプロジェクトが本格的に始動したら、地球を離れて火星へ引っ越すつもりです。そして計画が終わったら、新たな計画―木星への進出計画を稼働させて、死ぬまで最前線に立ち続けるつもりでいます。そして力を持つ者達にしてみれば、平和な地球よりは、波乱万丈なフロンティアでの活動を望むでしょう。だから地球に住み続けていれば、今までと同じ生活を送れるでしょう』
 シーンと静まり返る列席者達。彼らにはシンジが何を言いたいのか、全く理解出来ずにいた。
 そんな中、静かに立ち上がったのがミサトにチルドレンの情報守秘義務について尋ねた法王だった。
 「・・・君達は戸籍上、まだ16歳だと聞いている。まだ遊びたい盛りの君達が、そこまでの考えを持ってしまったのは、私達大人が愚か者だったせいなのかね?力に怯える者達を安心させる為、住み慣れた故郷を捨て、未開の領域に居を移す。それがどれほど辛い事なのか、私には想像する事しか出来ない。そう考えた時、私は思ったのだ。私達は、君達に見切りをつけられてしまったのではないか?と・・・とても残念な事だとは思うが・・・」
 『そうは思っていません。本当にそう考えていれば、人類すべてをエヴァ初号機で全滅させてから、魔法世界を救っています。そうしないのは、別の理由―目的があったからです』
 「別の理由?もし良かったら、それについて教えて貰えないだろうか?」
 『宇宙の果てを見てみたい。それが研究者としての母の望みでした。今の僕は使徒ではなく、ただの人間です。だから僕が生きている内に、人間がどれだけの事を為し得るかを見届け、母への土産話にしたかっただけです。ご理解頂けましたか?』
 「・・・ありがとう。そして1人の大人として、君と君の母君に謝罪をさせて頂こう。申し訳なかった。せめて大人達の欲望の犠牲となる者を減らす為、私も活動させて頂く」
 謝罪してみせた法王の言動に、周囲がざわめきだす。だがその言葉に続くかの様に、少数ではあるものの、謝罪の言葉を口にする者達が出てきた。
 それに一通り対応した所で、シンジは再び口を開いた。
 『それでは、これでテラ・フォーミングプロジェクトについての説明を終了させて頂きます』
 深々と一礼するシンジ。そんな彼に対して、拍手が鳴りやむにはかなりの時間が必要だった。

麻帆良中等部女子寮―
 12月24日、クリスマスイブの日。麻帆良中等部女子寮には、久々にフルメンバーが集まっていた。
 旧世界―人類への交渉窓口を務めたシンジと、その護衛責任者を務めたアスカ。更にはヘルマンや月詠と言ったメンバー。
 魔法世界への交渉窓口を務めたのはネギ。ネギの場合は現地在住の協力者や後援者―墓所の主やポヨ、クルトや造物主達―がいた為、この日、ネギは単身で女子寮へと戻っていた。ただし、ラカンだけは移民計画用の新たな体を手に入れて、早速、お試しがてらこの場へと出席していた。
 関東魔法協会からは魔法生徒や魔法教師達。関西呪術協会からは千草と詠春。更にはNERVからお祭り騒ぎ大好きなミサトが本部から脱走という形で、ペンペンやレイ、カヲルとともに姿を見せていた。
 特にレイとカヲルは女子寮においても人気があり、少女達から手ずからお菓子を食べさせてもらい笑顔を振りまいていた。ちなみに一番2人に構っていたのが双子姉妹と千鶴であり、その光景に『お母さんと4人姉弟』というタイトルが脳内で付けられた事は言うまでもない。
 この日、行われたのはクリスマスパーティー。テラ・フォーミングプロジェクトという新たな課題で忙しいながらも、魔法に関係するトラブルに一区切りがついたという事で、その慰労会も兼ねた集まりだった。
 皆がワイワイガヤガヤと騒ぐ中、マイクのスイッチの入る音が食堂に響く。
 『みんな、ちょっとだけ時間を良いかな?実は来月―つまり3学期からなんだけど、麻帆良女子高等部への進学も視野に入れた上で、転入生が来る事になりました。ただ家庭の事情という奴で、彼女は今日からここで生活を開始する事になります。その子が到着しましたので、これから紹介を行います』
 シンジの発言に盛大な拍手と歓声が沸き起こる。それが一段落した所で、食堂に新たな人影が入ってきた。
 『はい、自己紹介をお願いします』
 『えっと・・・私はリィナ・葛城と言います。実はつい先日まで、体が弱くて普通の生活が出来ませんでした。しかし新しい治療のおかげで完治し、こうして学校へ通う事が出来る様になりました。これから、宜しくお願い致します!』
 ウオーッと上がる歓声に、引きつり気味の笑みを浮かべるリィナ。
 リィナ・葛城。その前身はヘラス帝国皇帝第2皇女リィナである。彼女は完全なる世界コズモ・エンテレケイアに与した罪により、表向きは病死扱い。罰として皇家から除名処分を受けた上で、移植技術の確立まで20年に及ぶ人工冬眠処置を受けていた。
 だがラカンと同じ移民計画用の体によって彼女の虚弱体質は回復。体調も完全に回復し、こうして学校へ通う事も出来る様になったのである。
 その顔には、かつての暗さは微塵も感じられない。彼女にしてみれば、家族と離れ離れになるのは辛い事。ただ、やっと手に入れた未来への希望は、その辛さを補って余りある物であった。
 そして現在、彼女はヘラス帝国皇帝マイクロフトから後見人として指名を受けたシンジの頼みにより、葛城ミサトを戸籍上の保護者として、麻帆良学園に入学したのである。
 ちなみに余談であるが、彼女は『母』となってくれた葛城ミサトが住む葛城邸にも顔を出したいとミサトにおねだりしており、ミサトもそれを承諾している事実は、まだ当事者以外は誰も知らなかったりする。
 そんな近い未来の惨劇を知る事も無く、シンジ達は年相応にはしゃいでいた。
 だが楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
 やがて時計の針は夜8時を回り、楽しいパーティーは終了。各自、好きな様に二次会を始める事となった。
 そして、事件は起きた―

翌朝、寮監室―
 二日酔いに痛む頭を押さえて呻き声を上げながら、シンジは体を起こした。
 早朝の寒い冷気が、裸の上半身を刺してくる。その感覚にシンジが『寒いなあ』と首を傾げた時だった。
 「グーテンモーゲン、シンジ」
 「グ、グーテンモーゲン、アスカ・・・ん?アスカ?」
 思わず声が聞こえてきた方向へ顔を向けるシンジ。そこには、シンジの首に手を回してニッコリ笑うアスカの笑顔があった。
 「うーん、やっぱり寒いわね。でもシンジは暖かいわね」
 シンジの意識が、ゆっくりと目覚めていく。シンジの視線は、やがてアスカの大きく成長した、双丘を捉えた。
 更に下がっていく視線。やがて上半身はおろか、下半身すらも裸である事に気づいてしまう。
 「・・・ア、アスカ?」
 「ふふ、どうしたの?あ・な・た?」
 「@&$%*㍑〒☈!?」
 声にならない悲鳴を上げるシンジ。その瞬間、シンジは自分も裸であった事に気づいた。
 それだけではない。
 立ち上がろうとした瞬間、右腕にしがみ付く存在にも気づいたのである。シンジの右腕にしがみ付いていたのは、顔を真っ赤に染めたハルナであり、こちらもアスカと互角の双丘を曝け出していた。
 「お、おはようございます・・・その、昨日の事は忘れません・・・ずっと宝物にします」
 自分が何をやらかしたのか。それに気付いたシンジだったが、彼の受難はそれだけにとどまらなかった。
 昨夜引っ張り出した来客用の布団がモゾモゾと動く。そこから顔を出したのは5人。
 「おはようネ、シンジさん」
 「おはようでござる。それにしても恥ずかしいでござるな」
 「・・・おはようございますです・・・うう、恥ずかしいです・・・」
 「おはようなあ、お兄ちゃん♪昨日は凄かったえ」
 「こ、このちゃん。もう少しオブラートに・・・お、おはようございます!あの、もう少し一緒にいさせて下さい・・・」
 超・楓・夕映・木乃香・刹那である。彼女達は揃いも揃って、全員、裸であった。
 呆然とするシンジ。そんなシンジの背後から、新たな腕が回される。
 「全くこの馬鹿弟子は。少しは女の扱いという物を覚えんかい」
 「し、師匠おおおおおおっ!?」
 やはり丸裸の千草に悲鳴に近い叫び声を上げるシンジ。酔ってしまって理性は飛んでしまっていても、完全記憶は健在だったらしく、昨夜の事は全て思い出す事が出来た。結果、自分がいたしてしまった事を思い出し、慌てて掛布団をめくった。
 そこには、少女達の人数と同じだけの赤い染みが出来ていた。
 「「「「「「「責任、取ってくれるよね?」」」」」」」
 少女達を前に呆然となるシンジ。その光景に千草がクスクスと笑う。だが受難はそれだけに止まらない。
 シンジが上げた悲鳴を聞きつけて、寮監室へと雪崩れ込んでくる少女達。眠っていた所を叩き起こされたせいか、カラフルなパジャマ姿の集団である。
 そんな少女達は、室内を一瞥した後『キャーッ!』と歓声を上げた。
 「シンジさん、マジ!?みんな食べちゃったの!?」
 「アスカさんが勝気系、ハルナがオタク系、超さんがマッド系、木乃香が妹系、桜咲さんが侍少女、楓が忍者、ゆえ吉が幼馴染、千草さんが先生。見事にバラバラな属性ね」
 「あっはっは、グランドスラム達成っスよ!つーか、8つも港を作っちゃったっスね!こりゃあ、面白い事になりそうだねえ」
 ニヤニヤ笑いながら、囃し立てる少女達。だがシンジはよっぽど衝撃が大きかったのか、完全に凍りついたままである。
 そんな凍りついた時間の中、騒動は更に大きくなっていく。人伝に話を聞いたらしい、高畑・刀子・近右衛門・ミサト・詠春・レイ・カヲルも顔を出す。
 だがいち早く立ち直ると、即座に行動へと移った。
 「ふぉっふぉっふぉ。シンジ、勿論、責任は取ってくれるのじゃろう?婿殿も木乃香の婿がシンジであれば文句はなかろう?」
 「ええ、それはまあ願っても無い事ですが」
 「シンちゃん、外道っぷりでもお父さんを超えちゃったわねえ・・・もうアスカと結婚しちゃいなさいよ」
 「ミサトお母さん、シンジお兄ちゃん結婚するの?」
 「結婚するの?お母さんまだなのに?」
 無邪気な言葉のロンギヌスに、崩れ落ちるミサト。そんなミサトに部屋の中から千草が呆れた様な視線を送る。
 「シンジ君。貴方も若いのですから、この行動に対して責めるつもりはありません。1人の男として責任を取るのであれば、私は何も言うつもりはありません。出来れば、妹弟子でもある刹那を選んであげてほしいものですが」
 「4人とも落ち着いてください。シンジ君が固まってますよ?まあ、でも4人がいう事にも一理はあるんだが・・・なあ、シンジ君。どうするつもりだい?誰を選んでも、必ず問題は残ると思うんだが・・・」
 大粒の冷や汗を流すタカミチの言う通りである。周囲が固唾を飲んで見守る中、シンジはゴソゴソと枕元を手探りで探して携帯電話をかけた。
 「・・・もしもし、はい私です・・・はい、1つお願いしたい事が・・・はい、私の物で登録をお願いいたします・・・」
 シンジが一体、誰と話しているのかを知る者はいない。シンジと付き合いの長いアスカですらも、首を傾げていた。
 「それともう1つお願いしたい事が・・・はい、よんどころない事情で妻を8人・・・いえ、8人で合っています。間違いありません・・・そんな大爆笑しないで下さい、お願いですから・・・はい、仰る通りです・・・はい、よろしくお願いいたします、ありがとうございました」
 プチッと切れる電話。そのまま頭を掻きながら、シンジは告げた。
 「えっと・・・全員に責任取ります。その許可は頂きました!」
 「・・・シンジ?アンタまさか・・・」
 「陛下にお願いして、ヘラス帝国の戸籍を作りました。その上で、皇帝の認可という形式で、特別に重婚を許可して貰いました」
 シーンと静まり返る寮監室。
 「お爺ちゃん、詠春さん、木乃香と刹那は貰ってきます!あとお墓にもお参りして、木乃香のお母さんと刹那のご両親にお嫁さんにする報告してこないと。師匠もご両親は亡くなってるから、墓前に報告してきます。おでこちゃんとハルナのご両親は健在だから許可貰ってこないといけないな。超さんは問題ないな。楓さんは剣さんに報告へ行かないと。ああ!アスカのご両親はドイツか!ちょっと遠いけど挨拶行ってこないといけないな・・・」
 「シ、シンジ?アンタ、マジ?本気で全員奥さんにしちゃう訳?」
 「本気だよ。こうなった以上、本気で責任取るから!勿論、みんなの意思が最優先だから、それが嫌だと言うのなら無理に付き合せはしないよ。ただ僕としては、一緒にいてくれると、とても嬉しい。僕だってみんなの事が好きだからね」
 シンジの言葉に、顔を赤らめながら俯く8人。
 「し、仕方無いわね!アタシ達もお酒飲んでたとは言え責任はある訳だし、特別に許してあげるわよ!」
 「そ、そうですね。私も許してあげます。だから責任は取って下さいね」
 「私には断る家族もいないネ。少し嫉妬は感じるが、まあ我慢できない程ではないカ」
 「あはは、ウチもええで。でもそうなると、お兄ちゃん呼ぶんはおかしいかな?」
 「・・・これ以上増やさない、それだけは約束をお願いします」
 「全くでござるな。さすがに9人目は遠慮したいでござる」
 「・・・まあお嫁にいけなくされた以上、責任は取って貰わないといけないですから」
 「ウチも構わへんで。どうせ西には犯罪者であるウチを嫁にしようなんて物好きもおらへんしな。このままどっかの誰かさんみたいにお局様なんてゴメンや」
 8人ともにシンジの提案を受け入れる。その直後、早朝から女子寮中に歓声が響いた。
 「まあ、結婚式は全員が3年後―木乃香達が高等部卒業後、という事で良いじゃろう。ご両親も納得するには時間が必要じゃろうしなあ」
 顎鬚を撫でながら、近右衛門が口を開いた。

 だが彼らは知らない。

 中等部の卒業式直前になっても、8人共に女の子の日が来ないという現実に直面する事に。



To be continued...
(2013.02.23 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さりありがとうございます。
 結果的にシンジ君両手に花どころか、ハーレム状態です。と言うか内5名が現役中学生の幼妻妊娠状態ってヤバすぎでしょw世界的に有名人になった直後にとんでもねえ大スキャンダルと言った所です。まあ、そうならない為に皇帝の勅許を利用しちゃう訳ですけどね。
 ちなみにハーレムエンド自体は最初から構想の1つとして考えてはいました。そうじゃなきゃあヒロイン3人も用意しないですし。まあここまで増えちゃうとは思ってなかったですけどね。特に楓と木乃香w
 話は変わって裏設定になりますが、レイとカヲルについてです。レイはリツコの養女となり赤木レイ、カヲルはミサトの養子となって葛城カヲルとして戸籍上登録される事になります。ただ現時点においてはNERV全体での預かり、という形式です。それにしてもカヲル君の将来が不安ですねえ。リィナともども葛城家で生きて行けるんでしょうか?もっとも数年後には、リツコに教育されたレイが、ランドセル背負って世話焼きに葛城家へ顔を出しそうですがw
 次回ですがエピローグになります。
 エピローグですが、最後の伏線を回収する事になります。実はこのエピローグ、ハーレム化の理由も兼ねてます。つまり、どうしてアスカ達が共謀して、シンジを酔わせて襲っちゃったかのかwと言う内容になります。なにせ73話ではシンジにキスした後、正々堂々勝負!みたいな流れだった訳ですから、明らかに矛盾してます。なので、その説明と言った所です。
 それでは、正反対の兄弟エピローグも宜しくお願い致します。



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