第九章
presented by 紫雲様
発令所―
爆炎に包まれるラミエル。MAGIの推測通りならば、ミサイルを撃ち続ける間は、ATフィールドを張り続けなければならず、加粒子砲は撃てない。そのはずだった。
「使徒を中心にした高エネルギー反応、なお増大中!」
「まさか!自分のフィールドを貫いて、攻撃してくるつもりか!」
「攻撃目標は双子山、陽電子砲と推測されます!」
「作業員の撤退を急がせろ!時間がないぞ!」
ウィリスの怒声が発令所に響く。
「陽電子砲、充填率98%!発射まで残り30秒!」
「初号機射出10秒前、零号機15秒前!」
陽電子砲の発射と、ラミエルの加粒子砲、どちらが早いのか、戦いを見守る大人達が固唾を飲む。
「初号機、射出!」
「続いて、零号機射出!」
「陽電子砲、撃ちます!」
双子山から伸びる光の奔流。同時にラミエルからも光の奔流が、爆炎を貫いて撃ちだされた。
2筋の光線は、互いに干渉しあいながら、目的を外しあう。陽電子砲は第3新東京市の郊外へと突き刺さり、大爆発を起こす。加粒子砲は双子山の麓に突き刺さり、同じく大爆発を起こした。
2つの爆音が鼓膜を叩き、同時に起きた震動が発令所を激しく揺らす。
「使徒、高エネルギー反応!対象は、初号機です!」
「零号機、ATフィールド中和開始!」
「陽電子砲、2発目は撃てません!変換機が全て破壊されました!」
攻撃の一手を潰された発令所に、不安が広がっていく。
「何を呆けているか!兵装ビル、2機を支援に入れ!」
「りょ、了解です!」
兵装ビルから放たれたミサイルが、次々とラミエルに降り注ぐ。その煙の下で、零号機が両手でミストルティンを振りかぶる。
全力の一撃は、ボーリングの半ばまで食い込んだ。だが完全に断ち割る事はできなかった。
「シンジ君は、やらせない!」
再度、振りかぶる零号機。だがそれよりも早く、ラミエルの加粒子砲が初号機に襲いかかった。
一瞬で初号機まで到達する光の奔流。
「リミッター解除開始、フィールド全開!」
エーテライトにより、ATフィールドの出力を限界まで上げるシンジ。それを左手にのみ集中させる。初号機は落下していたところを加粒子砲に飲み込まれそうになったが、左手に集中させたATフィールドを加粒子砲に叩きつける。
爆裂する光の束。その余波で初号機の左腕が、肘関節から消し飛んだ。
「まだだ!僕の役目はここからだ!」
路上に降り立つ初号機。即座に右手に握ったタスラムを振りかぶる。
「いっけえええええっ!」
轟音とともに投擲される金属塊。材質の9割は鉛、先端をタングステンで覆った、エヴァ専用のジャベリンである。
その巨大な金属塊が、音速を超えた速度でラミエルに襲いかかる。
己の死を感じたラミエルは、手持ちの出力全てを加粒子砲に注ぎ込み、即座に発射。光の束が、タスラムへと襲いかかる。
加粒子砲と正面衝突するタスラム。一瞬にして先端から砕け散っていくが、死なばもろともとばかりに加粒子砲もまた、その威力を減少させる。
「えい!」
がらあきとなった真下で、零号機がミストルティンを振りかぶる。今度こそ、ボーリングは断ち割られた。
その勢いのままに、零号機は下から真上へとミストルティンを振り上げる。
激しく揺れるラミエル。その体の下半分が零号機の一撃で木端微塵に砕け散った。
ミストルティンを捨て、腰部にくくり付けられたN2に手を伸ばす零号機。即座にラミエルへと投げつける。
特殊改造を施されていたN2は、ラミエルのコア至近で爆発。その無慈悲なまでの破壊の力を、思う存分荒れ狂わせた。
「やったか!?」
「高エネルギー反応!目標は零号機!」
「零号機、逃げろ!」
己の死を予感したラミエルは、最後の力を振り絞り、自らを進化させていた。ラミエルが選んだのは、エネルギー源であるコアからの、加粒子砲の直接射撃。つまりコアそのものを加粒子砲の発射装置へと進化させたのである。
ATフィールドを中和させ、ミストルティンを手放し、至近距離でN2を投擲した姿勢の零号機に、かわすすべなど無い。光の奔流が、零号機を完全に飲みつくす。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
発令所に、初号機のエントリープラグに、レイの悲鳴が響きわたる。
「兵装ビルは!」
「ダメです!戦闘の余波で、周辺に稼働できるものが残っていません!」
「しょ、初号機が!」
伊吹三尉の言葉に、発令所の注目が集まる。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
レイの悲鳴に、シンジの理性が弾け飛んだ。
「綾波ーーーっ!」
初号機の右手に集まるATフィールド。だがその色はオレンジではなく、漆黒。
ブンッと音をたてて振り下ろされる初号機の右腕。漆黒のATフィールドは、零号機とラミエルの間に飛び込み、加粒子砲を全て食い止める。
「うおおおおおおおっ!」
兄から学んだ、一瞬にして敵の懐へ飛び込む、古流武術の技法―縮地―を初号機をもって再現するシンジ。その速度はシャムシエル戦で見せた踏み込みを上回った。
音速を超えたことによる衝撃波を撒き散らしながら、初号機は突撃。その速度を威力へ変えるかのように、右拳を剥き出しとなったラミエルのコアに叩きつける。
零号機が無力化していたため、ラミエルは咄嗟にATフィールドを発生。初号機の攻撃を食い止めようとする。だが初号機の破壊力は、ラミエルのATフィールドを僅かな抵抗すらも許さずに、一瞬にして粉砕せしめた。
唯一無二のエネルギー源を砕かれ、沈黙するラミエル。その直後、初号機が移動の際に起こした衝撃波により、体そのものを砕かれた。
空母オーバー・ザ・レインボウ―
「終わったな、作戦は成功か」
加持が緊張感から解かれ、煙草を加える。手慣れた仕草で点火すると、通信室に紫煙をくゆらせた。
「初期の作戦内容とは多少違ったけど、とりあえずは勝ったわね」
「それはしょうがないさ。作戦なんて机上の理論だ。想定外のアクシデントなんて当たりまえ。重要なのは、アクシデントをフォローし、目的を達することだ」
「そうね、でも十分楽しめたわ。会える日が楽しみね」
自分に割り当てられた居室へ立ち去る明日香。だがその顔は厳しいものである。
(・・・新しい武装は別に問題じゃない。作戦が違う事だって、十分ありえる。初号機と馬鹿シンジの潜在能力が桁外れなのもゼルエル戦で理解していた。でも、初号機が最後に使った、あの黒いATフィールドは一体、何なの?馬鹿シンジが、あんなの使った事なんて、見たことないけど・・・)
明日香の心に、生じた疑念。それに答える事ができるものは、今の彼女の傍にはいなかった。
第3新東京市、NERV本部直上―
砕け散ったラミエル。その代わりにラミエルがいた場所には、正面装甲の大半を融解させた零号機が、無残な姿を晒している。
その光景に、シンジは戦いの前に交わしたレイとの会話を思い出していた。
『シンジ君、あなたは何で戦うの?』
『・・・守りたいもののため。そのために、僕は戦っている。』
『守りたいものなら、私にもあるの。私は、シンジ君を守りたい。スミレさんを守りたい』
『僕も綾波を守るよ。でも、お願いだから一つだけ約束して』
『何?』
『死なないで。綾波レイという女の子は、この世に一人しかいないんだ。代わりなんて存在しないんだ。君が死んだら、僕は悲しくて泣く。あんな思いは、もうゴメンだ。だから、必ず生きてまた会おう』
『・・・うん・・・』
(綾波!絶対に死ぬな!死んでも、君には代わりなんていないんだ!僕はもう、綾波が自爆した時と同じ思いなんて、二度と嫌だ!)
零号機に、シンジが操る初号機が駆け寄る。零号機のエントリープラグを抜き出すと、シンジもまたエントリープラグから抜け出した。
ラミエルの加粒子砲により、ハッチは尋常でない高温になっていた。
「綾波!」
死徒の怪力を使い、ハッチをこじあける。同時に噴き出る蒸気化したLCL。
中へ飛び込むシンジ。そこには、全身を弛緩させたレイがいた。
「綾波、大丈夫か!」
「・・・シンジくん?」
「今、外へ出してあげるからね」
レイを抱き上げ、外へと出るシンジ。作戦開始前はまだ暗かったのだが、もう東の空には太陽が昇り始めていた。
「ご苦労さま、綾波。疲れたでしょ、傍にいるから、眠っていてもいいよ」
シンジの言葉に、レイは静かに首を振る。
「シンジ君、このままじゃダメ?太陽、見ていたいの」
「いいよ、でも辛かったら教えてね」
(いつか、綾波に言える時が来るんだろうか。僕が戦うもう一つの理由、3rdインパクトという真実、綾波とアスカを犠牲にしてしまったことへの贖罪を・・・)
静かに姿を見せる太陽の光は、二人の子供を祝福するかのように、優しく包みこんだ。
To be continued...
(2010.01.31 初版)
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