第二十九章
presented by 紫雲様
NERV本部発令所―
「状況は!?」
「先ほど、富士の電波観測所から正体不明の飛行物体の情報がありました。確認したところパターンブルーが検出されました!」
「すぐに松代の三佐に連絡!シンジ君と初号機を急行させて!それから兵装ビルのスタンバイ!UNの偵察攻撃もすぐに要請して!」
「了解!」
ミサトの指示に従い、オペレーターが慌ただしく動いていく。
「市民の避難状況は!」
「現在、30%完了。敵の進行速度が変わらなければ、90%は避難完了できます」
「ダメよ、完全に避難を終了させて!人手が足りないのなら、保安部も使いなさい!」
マヤが保安部に連絡を取り、緊急出動を要請する。
「飛鳥とレイは?」
「現在、ケージへ移動中です!」
「そのままエヴァの中で待機させて。基本は弐号機が前衛、零号機が後衛よ。弐号機はクロノスとポジトロンライフルを持たせて!零号機は特殊ポジトロンライフルの装備でいくわよ!」
ケージ―
「やれやれ、いきなり実戦とはねえ。まあ、いいわ。出たとこ勝負よ!」
「・・・アタシの割には、考えなしなのね、アンタ」
「何ですって?」
「・・・どっちもどっち・・・」
「「うるさい!」」
戦闘前の緊迫した雰囲気を、ぶち壊すような漫才劇に、整備班の緊張が程良く解れる。
「そうだ!一つ頼みたいんだけど、これから来る使徒、アタシにやらせてくんない?」
「勝算があるの?」
「そんなもん知らないわよ!単にリベンジしたいだけ、傷つけられたプライドは、10倍にして返してやるのよ!」
「・・・私は構わないわ。もともと弐号機が前衛だから。でも後方支援はさせてもらうわ。この戦い、あなただけの物じゃないのだから」
「いいわ、じゃあコントロールはアンタに任せるわ」
二人の少女がエヴァに乗り込む。弐号機にはクロノス―弐号機専用シックルが装備されていた。総重量20tを超える巨大な両手鎌。その重さは初号機のミストルティンを上回っている。
零号機が装備しているのは、縦に銃口が2つ並んだ、ポジトロンライフルである。通常は陽電子を放つのだが、零号機専用のポジトロンライフルのみ、専用特殊実弾兵器―グングニルとの使い分けができるようになっていた。
「さあ、いくわよ!シンジが戻ってくる前に、使徒を倒してみせるんだから!」
発令所―
「UNの攻撃、まったく効きません!」
「偵察用特殊ミサイル、敵ATフィールドに阻まれました!敵ATフィールド、最低でもランクAです!」
「兵装ビル、スタンバイ完了!いつでもいけます!」
「使徒が市内に侵入と同時に、攻撃開始よ!」
使徒―ゼルエルはミサイルの嵐を全てATフィールドで食い止めていた。飛行速度は遅いが、それでも、その移動が止まる事は無い。
第3新東京市まで、あと僅か。ゼルエルの姿が目視できるほどの距離で、ゼルエルは移動を止めた。
ゼルエルの両目と思しき部分が、一瞬、光る。その直後、本部を今まで経験したことのない規模の揺れが襲った。
「被害報告!」
「先ほどの使徒の攻撃により、第18装甲板まで貫通しました!」
「18ある特殊装甲を、一瞬で!?」
「MAGI、計算終了しました!敵ATフィールドはランクA、先ほどの攻撃はランクS、攻撃の種類は加粒子砲と推測、ただし連射はできないものと思われます」
ミサトの脳が目まぐるしく回転を始める。
「エヴァ2機に連絡。ジオフロント内で迎撃を開始します!下手に外へ出して、加粒子砲で狙い撃ちされたら負けよ!」
「了解」
「奴がジオフロントに顔を出したところで、一斉に攻撃開始!最初は射撃による遠距離攻撃、その後、飛鳥は隙を見て近接戦に持ち込むのよ!」
ジオフロント―
「さあ、いよいよね。準備は良いわね?」
「ええ、いいわ」
「ATフィールドはアタシが張ってあげるから、アンタは思う存分、戦いなさい」
弐号機と零号機が、ポジトロンライフルを構える。地上から聞こえてくる爆発音は、ゆっくりとではあるが、徐々に近づいてくる。
『二人とも、奴が来るわよ。いいわね?』
発令所でカウントをとるマヤの声が、エントリープラグへ伝えられる。
ゴクッと唾を呑みこむ明日香。狙いを定めるべく、出現ポイントへ照準を合わせるレイ。
『今よ!』
ミサトの声と同時に、ポジトロンライフルが火を吹いた。
「いっけえええ!」
「これ以上、進ませない・・・」
2本の陽電子が、ゼルエルへと突き刺さる。ゼルエルの移動が止まり、攻撃を堪える姿勢にはいった。
「レイ!援護、よろしく!」
クロノスを構えて、弐号機が走りだす。高シンクロ率に物を言わせて一瞬で距離を縮める弐号機。
飛鳥が即座にゼルエルのATフィールドを中和。続いて明日香がクロノスを真横に振りぬく。
総重量20tに及ぶ巨大な破壊兵器は、ゼルエルの片腕をもぎ取り、さらに胴体部分を半分ほど引き裂いた。
いける、そう判断し、再び明日香がクロノスを構え、
「危ない!」
飛鳥が咄嗟にコントロールを奪い、弐号機を横へ転がさせる。その直後、弐号機がいた場所へ加粒子砲が直撃。大爆発を引き起こした。
「何やってんのよ、アンタは!もっと慎重になりなさい!」
「悪かったわね!」
「弐号機、伏せて!」
ATフィールドを中和されたままのゼルエルに、零号機のポジトロンライフルが再び襲いかかる。放たれた陽電子は、そのままゼルエルの胴体部分に命中、大爆発を起こす。
レイは無言のまま、次弾の準備に入る。だが連続しての射撃は、エネルギー不足を警告していた。充填完了まで、20秒―
ゼルエルは爆炎の中。レイはそれを確認すると、実弾射撃へと変更した。
特殊ポジトロンライフル専用実弾兵器―グングニル。たった一発だけ装填されている、零号機最強の切り札。
「明日香!私が撃ったら、追撃して」
レイがグングニルを発射する。青白い蛇のような電気を纏わせた、徹甲弾を上回る貫通力を秘めた弾丸は、ゼルエルの表面装甲に見事に食い込み、次の瞬間、眩いばかりの大爆発を引き起こした。
グングニル―ウィリスによって使用を禁じられた、劣化ウランを用いた特殊弾丸。本来劣化ウランは、タングステンを上回る、地上最高の貫通力を持っている。その特性は、劣化ウランの持つ自己先鋭化現象―目標の装甲に侵徹する過程において、先端が先鋭化しながら侵攻する―により、タングステンに比べて貫通力が10%ほど上回る。この貫通力の高さと、銃口の中で電気によって更に加速された初期速度を利用して、ATフィールドを破った上で、今度は弾丸内部に眠っている第2の牙、N2が炸裂する事になる。この際に撒き散らされた劣化ウランによる粉塵は、N2の高熱により一気に焼却される。
そして今回は、弐号機がATフィールドを中和していたため、グングニルはゼルエルのN2すら食い止める装甲を食い破り、内部からN2の破壊の炎を撒き散らしたのである。
この小型ゲイボルグというべき一撃に、ゼルエルは苦悶の悲鳴を漏らした。
チャンスとみた弐号機が、クロノスを振りかぶる。
「でええええええい!」
振りぬかれた大鎌は、先ほどとは逆方向からゼルエルを引き裂いた。
「畳みかけるわよ!」
明日香が大鎌を再度振りかぶり、飛鳥がATフィールドの中和と敵への警戒を担当し、レイが充填の終了したポジトロンライフルを再び構える。
大鎌に脳天から真っ二つにされ、胴体に陽電子の槍を突き刺され、動きが鈍くなるゼルエル。
「とどめ!」
「いけ!」
「いける!」
3人の少女がゼルエルの終わりを確信した。その時、悪夢が襲いかかった。
トドメの大鎌が、ガシン!と音を立てて、ゼルエルに止められていた。
「な、何が!何が起こったの!」
「明日香、よけて!」
レイの叫びに、飛鳥の方が反応する。弐号機が立っていた場所を、今度はゼルエルの両腕が一瞬にして刃物へ変じて、大地を切り裂いていた。
『気をつけて!そいつ、最後の力を振り絞って、機能増幅を果たしたわ!MAGIによれば、基礎能力の上昇、つまり表面装甲と、火力をパワーアップさせたのよ!ランク的には両方SSと推測してるわ!』
「ちっ、この反則使徒が!」
次から次へと襲いかかる、両腕の攻撃を必死でかわす明日香。だが徐々に追い詰められていく。レイも援護に入りたいのはやまやまだが、肝心のポジトロンライフルは充填が終わらなければ撃てない。だからと言って予備のパレットライフルでは、注意を引く事すらできなかった。
「飛鳥!しばらく、アンタに操縦渡すわ。アタシも切り札をきるからね!」
「いいわ、アタシに任せなさい!」
コントロールを飛鳥に渡した明日香は、ATフィールドの中和を中止。その結果、ゼルエルの前に再び赤い壁が生じる。
「ママ!力を貸して!」
明日香の言葉が、弐号機から更なる力を引き出す。理論限界値を超えたシンクロ率を維持しながら、明日香はかつて経験した、戦自との攻防戦を思い出していた。
「ATフィールドは心の壁。飛鳥、よく見ておきなさい!こういう使い方もあるんだからね!」
弐号機から、ATフィールドが刃となってゼルエルへ放たれる。最強の矛と盾の勝負は、矛の勝利に終わった。
一瞬にして、ATフィールドを切り裂かれるゼルエル。その体から、真紅の血液を大量に迸らせる。
「すごい・・・」
「まだよ!このまま畳みかける!」
2発目、3発目と放たれるATフィールドの刃は、確実にゼルエルの命を削った。ゼルエルも必死になって反撃を試みるが、一度傾いた戦いの流れは止まらなかった。
ATフィールドを攻撃に使う以上、弐号機は無防備となる。飛鳥の操縦能力をもってしても、何発かは避けきれない攻撃があった。だがそれらの攻撃は、全てレイが零号機のATフィールドを弐号機へ張ることで阻止していた。
「これで、終わりよ!」
最後となる赤い刃が、コアを二つに立ち割る。その直後、レイの放った陽電子の槍が突き刺さり、大爆発を起こした。
爆炎が収まった後には、完全に活動を停止したゼルエルが転がっていた。
「ふう、やっと終わったわね」
エントリープラグ内部に、発令所の歓声が届いた。
「レイ、右手を上にあげて」
レイが明日香に言われた通り、零号機の手をあげる。そこで弐号機がハイタッチをする。
「やったわね、レイ!」
「・・・そうね・・・」
「ウンウン、アタシ達だって、絶対に強いわよ!シンジの足手まといなんかにはならないわ!」
『・・・聞こえるか?僕の声が聞こえるか?』
新たに聞こえてきた通信。その声は、とても聞きたかった声。
「シンジ!やったわよ!」
「馬鹿シンジ!遅い!こっちは終わったわよ!」
「おかえり、シンジ君」
背部から生やした翼で高速飛行しながら帰還した初号機を、3人の少女は笑顔とともに出迎えた。
第14使徒、ゼルエル撃破―
To be continued...
(2010.04.03 初版)
(あとがき)
毎度お読み下さりありがとうございます。紫雲です。
今回はバルディエルとゼルエルの二本立てとなりました。まあ分量が少なかったというのが本音なのですが(笑)
実の所、私個人の趣味として、守られてばかりの女の子というのは、ヒロインとしては好きじゃないと言うのがありまして、堕天使の帰還を書くにあたって、レイやアスカも、シンジがいなくても戦えるようなヒロインにしたいなあ、というのがありました。
そんな考えがあったせいでしょうか?
最強の筈のゼルエルが・・・初号機無しで殲滅。最後に死に様は牛の丸焼きを連想してしまいました(笑)
哀れなゼルエル君に哀悼の念を捧げます。
ちなみにバルディエルとゼルエルの出現時間のタイムラグについては、ご都合主義と言う事でお願いします。
ところで次回ですが、アラエル戦の都合により、アラエル戦第1話と、番外編2の2本立てとなります。何でこうなるかと言うと、アラエル戦第1話のところでいったん間を開けると、その後の展開が気になるから(笑)何でそうなるかについては、アラエル戦第1話を読んで確認をお願いします。特にLRS好きな方はご期待・・・していいんだろうか?書いてから心配になってきた(笑)
それぞれの裏タイトルですが、まずアラエル戦は『男の戦い―レイ』。シンジとレイの関係に注目です。本来ならアラエルはアスカなんですが、アルミサエルと立ち位置を逆にしてみました。
番外編裏タイトルは『死徒27祖(やつら、と読ます)が街へやってきた』。市立第1中学校2年A組で巻き起こる、死徒27祖の父兄参観会のドタバタコメディです。
それでは、またよろしくお願いいたします。
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