第三十五章
presented by 紫雲様
NERV本部作戦部ブリーフィングルーム―
最近、ミサトと日向が中心となって、対人迎撃作戦を練る部屋と化しているブリーフィングルームであったが、今日は様子が違っていた。
室内にいるのはウィリス、シンジ、アスカ、レイの4名である。
議題は次にくる第16使徒、アルミサエルへの対策。
「まず、どういう使徒なんだ?」
「形状は空に浮かんだロープというか、蛇というか、ミミズというか、まあそんな感じの使徒です」
「・・・蛇ィ?」
アスカが嫌そうに顔を顰める。
「あくまで形状だけだから。肝心の能力だけど、これが厄介でね、接触したものと融合する能力なんだよ。例え相手がエヴァであっても、アルミサエルは融合してしまうんだ」
「ゲ、最悪じゃない」
「防御力もかなり高い。ATフィールドは、体の形状維持に使っていると思う。多分、体の表面を包み込むようにね。そのせいで防御力が高かったのかな、スナイパーライフルの零距離射撃も通じなかったんだ」
接近すれば融合されてアウト。攻撃しても弾かれる。
「よく、そんなの倒せたわね」
「倒したのは僕じゃない。レイなんだよ」
シンジは悲しそうに呟いた。
「レイは融合してきたアルミサエルを、ATフィールドを利用して、無理矢理力技で零号機の内部へ固定させた。その直後に零号機を自爆させた」
レイが激しい動揺を浮かべるが、シンジに優しく抱きしめられると、落ち着きを取り戻した。
「今度は、レイにそんな真似はさせたりしない。今の僕なら、確実にアルミサエルを倒す事が出来るから」
「・・・うん。私も零号機を・・・レナを失いたくない・・・」
「分かってる、必ず倒す」
どことなく良い雰囲気のシンジとレイ。それを見たアスカがウーと唸り声を上げる。
「それはともかく、准尉はどんな作戦を立てたんだ?」
「わざと初号機に融合させます。使徒は人の心に興味を持っている。それはアラエル戦で証明されています。融合してくれば、必ずアルミサエルは僕に接触してくるでしょう。そうなれば、心の強さが勝負を決める。今の僕には負けられない理由があるから、絶対に勝ちますよ」
「やれやれ、せめて作戦を立ててやりたいんだが・・・」
今回ばかりは、ウィリスの出番はなさそうであった。
SEELE―
「ロンギヌスの槍だが、こちらで確認したところ、どうも月面にまで飛んだようだ」
「月面だと!?」
「零号機のシンクロ率の高さが、我らにとって裏目にでたようだ」
「六分儀は、一体、何をしていたのだ」
「記録を確認する限り、零号機パイロットの独断のようだな。初号機と弐号機を助けるには、ロンギヌスしかないと判断し、即座にドグマへ降りている」
「その初号機と弐号機パイロットの様子はどうなのだ?」
「両方健在だ。特に弐号機パイロットはレリエル戦以降、分裂症を発症していたが、現在は完治しているようだ。これでは人類補完計画に必要な、欠けた自我の持ち主を確保できんぞ」
「六分儀め、子供一人満足に壊せんとはな・・・」
「その六分儀だが、現在は療養中。先日、本部で起きたテロの怪我の治療だそうだ」
「それは正しい情報なのか?いくら対人警備を削っているとはいえ、そこまで脆くはないだろう?」
「そうだろうな、個人的に調べてみたが、六分儀は現在、軟禁中のようだ。どうしてそうなったのかまでは不明だ」
「潜っていた者達は、全滅。これではこちらも動きが取れん」
「六分儀につけていた鈴はどうなった?奴から情報は来てないのか?」
「奴め、こちらの接触を断ちきっているのだ。我らとの関わりを掴まれては危険だと考えたのか、それとも我らを裏切るのか、そのどちらなのかまでは不明だがな」
「・・・残る使徒はあと2体。我らにとって幸いなのは、資金的な猶予がある点だ。こればかりはエヴァを上手く扱った、初号機パイロットに感謝せねばならんな」
「それでは?」
「そうだ、当初の予定では量産型は9機だった。だが約束の日までにもう5機は完成させる事が出来るだろう。それと念のために、量産型の製作施設については、今後通信網を繋げることを禁止させろ。物理的に分けるのだ。万が一、施設の場所が漏れて、破壊工作などされてはたまらんからな」
NERV本部発令所―
突如、発令所に警報が鳴り響いた。
,MAGIの反応はパターンブルー、使徒の出現を示している。
「総員第1種戦闘配置!」
ウィリスの指示に従い、各部署へ緊急連絡が走る。
「目標は現在、大涌谷方面上空にて旋回中!」
「市民の避難は、1時間後に完了予定です」
「UN偵察部隊、攻撃を開始します!」
「葛城二尉はどうした!」
「先ほど、二尉から緊急連絡がありました。芦ノ湖近辺から、こちらへ向かっているとのことです!」
発令所に張りつめる緊張。残る使徒の数が2体だと分かってはいるが、それでも使徒の戦闘力の高さを考えると、やはり楽観視はできないでいた。
「エヴァの状況は!」
「パイロット3名、搭乗完了しました。現在はケージで待機中です!」
「よし。まずは出来る限り情報を集めるぞ」
融合する使徒相手に策を立てる事は出来なかったが、それでも的確な支援をしようと考え、ウィリスは出来る限りの情報を集めた。
ケージ―
『分かった情報について伝える。今回の使徒だが、表面にATフィールドを張り巡らせている、とMAGIは推測している。表面の防御能力はランクA以上だ。相手の攻撃方法は不明。偵察部隊にも一切、反撃はしてこなかった。おそらく、ブリュンスタッド特務准尉の言う通り、融合が攻撃手段だと思われる』
「三佐、ではシンジの作戦通りに行くのですか?」
『そうだ。今回は初号機のワントップでいく。零号機と弐号機は、後方からの支援が担当となる。今回は、弐号機もポジトロンライフルを装備。リーパーはお休みだ』
「「了解」」
レイとシンジの声が重なった事に、アスカは僅かな苛立ちを感じていた。
第3新東京市―
「2人とも、準備は良い?」
「いいわ」
「・・・こっちも、オッケーよ」
初号機がプログナイフを構え、未だにリング状のアルミサエルに対峙する。
「いくぞ!」
疾走する初号機に対峙するかのように、アルミサエルはリング状の形態から、1本のロープのような形態へ姿を変え、まるで蛇が鎌首を擡げるかのような戦闘態勢を取る。
それには構わず、初号機が突撃する。狙いはわざと融合させる事だから、全く防御は考えていない。
アルミサエルも反応した。ただし標的は初号機ではなかった。
「きゃあああああ!」
アルミサエルは初号機の脇を擦り抜けるかのように高速で移動すると、初号機の後方にいた弐号機へ接触を試みた。
咄嗟にATフィールドを張り、防ごうとするアスカ。だがアルミサエルは弐号機のATフィールドをいとも容易く貫くと、弐号機の鳩尾を貫通。そのまま弐号機との融合に取り掛かった。
「「アスカ!」」
零号機がポジトロンライフルで零距離射撃を行えば、初号機はアルミサエルの体を直接掴んでプログナイフを突きたてようとする。
「クソッ!何で弐号機を標的に・・・」
シンジが呟いている間にも、弐号機はドンドン融合されていく。
「アスカ!絶対に助けてみせるから!」
弐号機エントリープラグ内部―
アルミサエルの融合が始まると同時に、弐号機の通信機能は途絶していた。だが今のアスカは、その事に気づく余裕すらもなかった。
アルミサエルの融合は、アスカに副次的効果をもたらしていた。かつて綾波レイが感じたのと同じ、快楽と呼ぶべき効果。
(フザケンジャないわよ!こんな事で、この惣流=アスカ=ラングレー様が、くたばるとでも思ってんの!?)
使徒への怒りを糧に、必死の反抗を続けるアスカ。
「アタシとママの中に、入ってくるなあ!」
アスカの意識は、その言葉を最後に弾けた。
???―
「ここは?私、使徒と戦ってた筈なのに・・・」
アスカは何もない、ただ真っ白な空間に、一人ポツンと立っていた。
キョロキョロと辺りを見回す。いつの間にか、アスカが学校で見かける、教室のドアが表れていた。
怪しいとは思いつつも、他に行くあては無い。彼女は覚悟を決めると、ドアを開けた。
そこに広がっていたのは、2−Aの教室だった。時間は放課後らしく、夕日に照らされた教室内に、人影は2人しか残っていない。
「シンジ。それに、レイ?」
2人は寄り添って座っていた。
「何で、アンタ達がここにいんのよ!」
「アスカ?何で君こそここに?」
「そうよ、アスカ。邪魔しないで」
レイの言葉を聞き、シンジが蒼銀の髪の毛を、そっと抱き寄せる。
「僕はレイがいれば良いんだ。だから心配しないで」
「・・・うん・・・」
目の前で繰り広げられる2人の姿を見たアスカの心に、暗い衝動が沸き起こってきた。
発令所―
「大変です!弐号機シンクロ率が起動数値限界まで低下!生体反応も同じく低下!ATフィールドも消えています!」
「まずい!兵装ビルスタンバイ!使徒の注意を少しでも」
『待って下さい!』
発令所に届いた少年の声。正面モニターに映ったその姿に、大きなどよめきが広がる。
全身に緑色の雷光を纏わせた少年は、はっきりと告げた。
『今からアスカの精神世界へ飛び込みます。攻撃はしないで下さい!』
To be continued...
(2010.05.01 初版)
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