碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第六話

presented by 紫雲様


洛陽炎上後―
 漢王朝を崩壊させ、洛陽へと拠点を移す事を宣言した袁紹は、新たに袁王朝の設立を宣言し、袁王朝の名の下に大陸全土を支配下に置く事を宣言。河北から連れてきた兵達を中核とした皇帝軍の遠征を開始する。
 幽州の太守公孫瓚は、袁紹に下る事を良しとせず徹底抗戦を選択。だが袁紹軍の物量による先制攻撃と、異民族の奇襲によって、公孫瓚は奮戦するも戦場の中で消息不明になってしまう。結果、幽州は袁紹の手に落ちた。
 後顧の憂いを無くした袁紹は、次の標的へと狙いを定める。
 文醜を大将に、田豊を軍師とした5万の遠征軍は平原太守袁術の軍勢を一蹴した余勢をかって徐州に侵攻。陶謙軍との戦闘を開始する。だが陶謙軍は奮戦し、一進一退の攻防を繰り広げながら、今に至るまで膠着状態が続いている。
 顔良を大将に、沮受を軍師とした8万の遠征軍は、許昌を拠点に宛へと進行。盧植軍との戦闘を開始する。盧植は背後の荊州太守劉表と相互不可侵同盟を結び、全戦力を対・袁紹軍へと向ける事で戦線を維持。これにより拮抗状態を作り出す事に成功していた。
 袁紹軍軍師李儒率いる皇帝軍本体は、長安へ進行する為に函谷関へと進撃を開始。総兵力は5万と少なめだが、洛陽から次々に援軍が来る為、兵の少なさはそれほど問題とはならなかったのである。
 函谷関には長安へ拠点を移した董卓軍が張遼を大将として防衛戦を開始。だが戦線の状況について報告を受けた董卓陣営は、背後に控える馬騰軍と相互不可侵同盟を結ぶと同時に、漢王朝に刃を向けた袁紹を逆賊として非難し、涼州連合軍を結成。病にかかった馬騰は、不穏な動きを見せだした五胡対策として本国へ残るも、長女馬超・一族の馬岱らに精兵3万を預けて援軍に駆け付けさせた。
 これにより函谷関は3年に渡る攻防戦を開始する事になる。
 中央が乱れる中、地方でも大きな変化が起こりつつあった。
 会稽に本拠地を移した孫堅軍は、漢王朝が滅ぶと同時に呉の民に反乱を起こさせて、父祖伝来の地を奪還。更に全戦力を結集して、江東最大の都市・建業を占拠。同時に徐州の陶謙軍と相互不可侵同盟を結び、袁紹軍の圧力を躱す間に南方への進軍を開始。交州にまでその勢力を拡大させる事に成功するも、孫堅自身が病の為に他界。長女・孫策が後を継ぐ事になる。
 桂陽に本拠地を移した曹操軍は、やはり漢王朝が滅ぶと同時に荊州南四郡全てを完全に制圧。更に防御が手薄であった江夏へ進軍。対する劉表は援軍を江夏へ送るが、それを見越していた曹操軍の奇策が的中。実は江夏への進軍は囮だったのである。
 全戦力を結集して襄陽へ奇襲をかけた曹操軍は、武人の少ない荊州軍を圧倒。漢王朝崩壊から1年を待たずして、荊州は曹操の支配下に落ちる事になる。
 直後、曹操は力を蓄える為に侵攻を一時止める。それは盧植軍が劉表の支援を受けられなくなった事でいずれは滅びると判断したからである。そこで宛に隣接する新野の城を改築。防衛線に特化した最前線の城砦へと改修し、片腕である夏候淵を大将として赴任。対・袁紹への準備を着々と進めていく。
 永安へ本拠地を移した劉備軍は、漢王朝崩壊と同時に、軍師・諸葛亮と鳳統の進言を受けて蜀の成都を目指して進軍を開始。太守・劉焉は若い頃は名君と言われながらも、中央から離れている分、時が経つにつれて野心を増大。反感を持つ土地の諸豪族を殺した事が原因となり、蜀の地には不穏の空気が立ち込めていたのである。
 豪族たちの支持を取り付けた劉備軍は『劉焉は倒しても命はとらない』と言う公約を宣言。これにより蜀に仕えていた武の筆頭である黄忠を初めとした厳顔や魏延達が、文の筆頭である法正を筆頭とした張松らが劉備に下り、やはり漢王朝崩壊から1年を待たずして蜀の地は劉備の支配下になったのである。
 蜀を制圧した劉備軍は、漢王朝復興を掲げて漢中へ進軍。守る者もいなかった漢中はロクな抵抗も無いままに劉備の支配下に。だが劉備の戦略はここで強制停止となってしまう。
 洛陽へ向かうには長安を攻めねばならず、それは涼州連合との全面戦争開始となる。更に涼州連合は、袁紹を逆臣呼ばわりしている。それは考え方が同じ者同士で戦端を開くという愚かな事態を意味している。
 かと言って宛へ攻め込む事も出来ない。宛は劉備の師である盧植が治める地。仮に評判を気にせず取ったとしても、袁紹と曹操に挟まれる事は誰の目にも明らかである。
 この点を考慮した劉備は黄忠・鳳統を使者として涼州連合へ派遣。涼州・蜀連合軍を結成し、函谷関での防衛戦に参加する事になった。

曹操陣営―
 「久しぶりね、まさか貴女とここで出会うなんて思わなかったわ」
 「それはこちらも同じだ」
 宛の太守・盧植からの使者に軽い驚きを覚えた華琳。と言うのも、使者は消息不明の公孫瓚―白蓮だったからである。
 「それで、用件を聞きましょうか。多分、同盟だとは思うけど」
 「いや、違う。宛を譲る、との事だ」
 軽いざわめき。だが華琳は目を瞑り、その思惑を図ろうとする。
 「・・・どういう風の吹き回しかしら?」
 「先生が仰るには、十分に義理は果たしたそうだ。そもそも先生が宛の太守に赴任したのは、曹操殿が荊州を地盤として戦力を整える為の時間稼ぎを目的として頼まれた事が理由だと聞かされている。中央を制圧した袁紹に対抗する為に、な」
 「今、何と言ったの?まるで全てが仕組まれていた様に聞こえるのだけれど」
 「まるでも何も、言った事全てがそのままの意味さ。私も驚いて口が塞がらなかったよ。まさか追放された袁紹が勢力を回復させて漢王朝に終止符を打つ事まで、織り込み済みの絵図面が描かれていたなんてな。漢王朝の崩壊を防ぐ事は叶わない、ならば新たな王朝を樹立させ、民が平穏に暮らせる世の中にしてくれる事を期待する。それが今回の一連の舞台裏事情って奴だ」
 思わず玉座から立ち上がる華琳。軍師を務める桂花・凛・風ですら、そこまでの絵図面を描き上げた未知の人物に対して、驚愕を隠し通す事は叶わなかった。
 「・・・先生が仰っていた。彼は反董卓同盟の一件において黒幕を暴く事が叶わなかった。故に次善の策として、今回の絵図面を描き上げ、先生に協力を申し込んだってな」
 「誰なのかしら?そこまで絵図面を描いてみせた鬼才は?」
 「少帝陛下侍従聞シンジ」
 かつて曹操達に敗北を味あわせた董卓軍軍師の名前に、痛い目に遭った桂花が露骨に顔を顰める。
 「・・・すまない。発言しても良いか?」
 「ん?一刀、どうしたの?」
 「いや、ちょっと気になってな。そいつの名は反董卓同盟の後で初めて聞いたんだが、何で今まで表に出てこなかったのか気になってな。確かに戦に関わるのが嫌、腐敗した権力闘争に巻き込まれたくない、と言う理由で隠遁する奴はいる。でも評価だけはされているだろう?良い例が劉備のとこの伏龍・鳳雛だ。だが聞シンジ。彼は反董卓同盟まで噂すら聞いた事が無かった」
 「馬騰殿から聞いたが、どうも異国の出身らしくてな。旅の途中にあったのを、劉協殿下に見初められた事が発端だそうだ」
 「異国ね、なるほど、確かに異国かもしれんな」
 何か納得出来た様に呟く一刀。そんな一刀を眺めながら、華琳が口を開く。
 「・・・申し出を受けると盧植殿に伝えて貰えるかしら?希望するなら、貴女ともども荊州へ来て貰っても構わないけど」
 「その申し出は有り難いのだが、既に先約があってな。幽州で私を助けてくれた御仁の力になると決めているのだ。だから貴女の力にはなれない。先生も桃香の事が心配らしくてな、桃香の父親代わりにあの子の行く末を見届けたいと仰っておられた」
 「そう、そういう理由があるのなら仕方ないわね。残念だけど諦めましょう。使者の役目、ご苦労だったわ。10日以内に宛へと向かわせて頂くわね」
 「こちらも宛の引き継ぎには全面的に協力させて頂く。いつでもお越し頂きたい。それでは私も失礼させて頂く」
 一礼して謁見の間から出ていく白蓮。その背中から華琳が視線を一刀へと向ける。
 「一刀、何に気付いたのか教えなさい」
 「董卓軍にいた『天の御使い』の正体だ。恐らく聞シンジの事だろうな」
 「・・・何故、そう思ったのか聞かせて貰えるかしら?」
 「まず違和感を持ったのは『シンジ』という名前。この名前は俺の故郷では、珍しくない普通の名前なんだ。次に彼が董卓―と言うよりも漢王朝に入った理由。お姫様に見初められた、と言う事だがこれが問題だ」
 一刀の確認に、素直に頷く華琳。
 「幾らお姫様が我儘言ったからと言って、そうスンナリ皇帝陛下の侍従になんてなれるか?華琳、もしお前が皇帝陛下の身の回りの人間だったら、どうする?」
 「反対するのが当然でしょうね。素性の怪しい男を近づけるなんて、臣下としては看過出来る訳が無い。けど、もしそれを覆し得る事実があったとすれば・・・」
 「俺がお前にあった時みたいに、天の国の衣装を着て倒れていた、とかな。それなら話は別だろう?それにこの仮定が事実なら、聞シンジがそれまで全くの無名であった事にも説明がつく」
 フンと鼻を鳴らす華琳。
 「それから火薬の知識だ。俺は火薬についてはロクな知識が無いから作れないが、彼は火薬を自作して戦場へ投入していた。後は汜水関での挑発。袁紹に対しての挑発文の後に絵が描いてあったのを覚えているか?」
 「・・・不快だけど、よく覚えているわよ」
 「あれな、顔文字って言って俺の故郷のちょっとしたお遊びなんだ。文字や記号を組み合わせて絵として、感情を表現する様な物なんだけど、あれはこの国には絶対に存在しないんだよ。以上が俺が聞シンジを天の御使いと判断した根拠だ」
 ざわめきのおさまらない謁見の間。だがそれを華琳はパンパンと手を叩いて静まらせる。
 「確かに興味深い話だったわ。出来れば私の所で動いて貰いたくはあったけど、どちらにしろ彼は洛陽炎上の際に死んだ可能性が高いわ。他人の絵図面に踊らされるのは癪ではあるけど、ここからは私が私の意思で絵図面を描き上げる」
 「華琳様?」
 「凛!護衛として春蘭と兵1万を預ける!すぐに宛へ赴き、かの地を支配下に置きなさい。盧植殿には最上の敬意を払い、決して無礼の無い様に!」
 「「は!」」

長安―
 涼州連合・蜀同盟の拠点。そこに選ばれたのは、董卓こと月が居城をおいている長安である。
 人口としては大陸最大―月による洛陽統治下の善政を覚えていた民が、洛陽炎上の際に逃げてきて人口が急増した―の都市。そして東にある函谷関という鉄壁の守りを持つ。
 そこに涼州連合盟主董卓こと月と、蜀の太守劉備こと桃花が姿を見せていた。
 「久しぶりに会ったけど、月ちゃん大きくなったね。洛陽にいた頃は可愛いお人形さんってイメージがあったけど、今は綺麗なご令嬢って感じがするな」
 「は、恥ずかしいですからその様な事は仰らないで下さい」
 お茶を飲みながら歓談する2人。そこへ近寄る影。
 「はわわ~桃香様~」
 「朱里ちゃん、どうしたの?」
 「成都から早馬でしゅ!宛の太守盧植将軍がいらっしゃったそうでしゅ!宛を曹操殿に譲ってきた、そう仰られているそうでしゅ!」
 思わず立ち上がる桃香。
 「先生は無事なのね?・・・そう、それなら良いわ。先生が無事なら、それで十分よ。成都へは『先生、ゆっくり骨休めして下さい』そう伝えてくれる?」
 「分かりましたでしゅ!」
 「そうだ!少しお待ち下さい。実は桃香さん達に御引き合わせしたい方がいるのです」
 侍女に耳打ちする月。すると侍女は『少々お待ち下さいませ』と奥へと姿を消す。
 誰が来るのか?そんな事を考えながら、お茶を飲みつつ件の人物がやってくるのを待つ桃香と朱里。やがてノックの後にギイッと音を立てて戸が開く。
 「よ、月。呼ばれたからやって来たぜ」
 「鍛錬中の所、申し訳ありません。こちらへどうぞ。確か翠さんは桃花さんの事は」
 「反董卓同盟の時に、何度か見かけたぐらいかな。私は馬超。太守馬騰の名代として函谷関防衛戦に参加しているんだ、よろしくな」
 「私は蜀の劉備玄徳です。真名は桃香。これから肩を並べて戦うのですから、気軽に桃花とお呼び下さい。それで引き合わせたい方と言うのは・・・」
 「ああ、すまない。いきなり真名を許されるなんて思ってなかったんだ。私の事は翠と呼んでくれ。それから本命の用事についてなんだが、それはこいつらさ。ほら、お前達も久しぶりだろ?」
 翠の影から出て来る影が2つ。だがその顔を見た瞬間、桃香と朱里は慌てて礼を取ろうとし―
 「桃香。ここにいるのは姓名は劉封、真名は叶と言うただの皇族の傍系に過ぎん。これからはそう扱ってくれると嬉しい」
 「姉上の申す通りだ。私の姓名は劉禅、真名は望。これからはそう呼んでほしい」
 「2人とも、張遼将軍や私から槍術を習っていてな。結構、筋が良いんだぜ?」
 「・・・無事で・・・無事で良かった・・・陛下・・・殿下・・・」
 死んだと思われていた2人の姿に、喜びのあまり涙する桃香。
 「・・・御二人が無事なのは分かりました。ですが聞侍従殿は?」
 「袁紹軍が攻めてきた際、シンジは私達を逃がす為に時間稼ぎをしておったのだ。私達も残りたかったのだが、シンジの命令を受けた近衛兵を振り解けなくてな。炎の中に残ったシンジがどうなったかは・・・」
 「姉上。聞は約束を違えるような男ではございません。それに聞はあの方の弟子なのですよ?」
 「そうね。ありがとう」
 姉弟は3年の間に、すっかり見違えるような成長を遂げていた。
 ボーイッシュだった叶は、髪を伸ばして背中まで垂らしていた。体格も出る所は出るようになり、一人称も僕から私へと変え、女性らしさを全面に押し出す様になったのである。胸の大きさもかなり有り、桃香同様皇族の血筋故なのかと邪推する者もいたりする。
 病弱だった望は、健康面の不安も改善されたのか、血色の良さが特に目につく。姉ともども槍術をならっているが、どちらかといえば戦よりも政に対して適正が高いらしく、長安の政策に対して詠の指導を受けながら日々勉強の毎日である。
 「そういえば、朱里さん。先生からの返事はありましたか?」
 「それが未だに・・・使者が無事であれば、返答する為の資料探しが終わっていないからだと思うのでしゅ」
 「そうでしたか。その答えを見つけられない限り、函谷関で防衛し続けるしかないのですが」
 溜息を吐く月。問題は函谷関へ押し寄せる、無尽蔵なまでの袁紹軍である。
 どれだけ撃退しようが雲霞の如く押し寄せる集団。全てを撃退し終えた場所には、何故か遺体は1つも無い。幻だったかと思えば、味方の受けた損害は現実以外の何者でもない。
 これに答えられそうな人物は洛陽炎上後消息不明。詠やねねですら答えを出しあぐねていた現状打破の為に思いついたのが、朱里や雛里の師である水鏡であった。
 「ついに尻尾を見せたのです。十常待の反乱から今に至るまで、一連の事件の黒幕が。絶対にこの機を逃がす訳にはいきません」
 「そうだね。みんなを不幸にするような人を見逃す訳にはいかないから」

時は少し遡り、孫策陣営―
 満月が中天に差し掛かる真夜中。孫呉の覇王として名高い孫策伯符こと雪蓮は、まどろみから目を覚ました。
 隣には恋人である大喬がスヤスヤと寝息を立てている。
 だが雪蓮の直感は、警戒を訴え続けていた。
 「何者だ。姿を見せろ」
 南海覇王を手にしながら、布団から身を起こそうとする雪蓮。丁度掛布団がハラリと落ち、豊かな双丘が姿を見せる。
 「起きずとも結構。男の前でその様な姿を晒すのは、女人にとって恥の筈」
 「だからと言って、恥の為に殺されろとでもいう訳?暗殺者さん」
 「それについては謝罪を。こちらは貴女を害するつもりは無い。単に話をしにきただけだ。とは言え、こちらが一方的に姿を見せないのも問題だ。月明かりの下へ移動したいのだが許しを貰えるかな?」
 「そうね。ご自慢の顔を拝見させて頂くわ」
 喉の渇きを覚えたのか、雪蓮が手近にあった酒瓶をグイッと呷る。
 「・・・アンタ、ふざけてる訳?」
 「生憎と大真面目だ。仮面を着けているのは理由あってのこと。それより本題に入らせて頂きたい。孫呉の覇王孫策伯符。私を雇って貰いたい」
 「・・・は?」
 言葉も無い雪蓮。目の前の男は、まるで烈火の如き怒りを表すかのような仮面を着用している。そのおかげで表情は把握できないが、それでも空いた部分から覗く口元が若干笑っている事を把握し、ストレスを若干募らせる。
 「却下ね。名前も実力も無い奴、それも顔すら見せない奴なんてお断りよ」
 「まあ、当然だな。実力についてだが、武についてはここまで忍び込んだ事で見当は付けて貰いたい。智については徐州を手土産としよう」
 「生憎ね。徐州なんていらな」
 「嘘を吐くな。徐州との同盟はあくまでも南方制圧の間の事。荊州の曹操相手に戦端を開けば喜ぶのは中央の袁紹のみ。かと言って徐州を滅ぼせば、同盟国を滅ぼした、という悪評がお前の名声に傷をつける。故にお前は覇道を停止せざるを得なくなっている。今は力を蓄える時、そう言い触らしながらな」
 チッと舌打ちする雪蓮。孫呉が行動出来なくなっている事実は、軍師周瑜を初めとする呉の上層部しか知らない、頭の痛い問題だからである。
 「これは取引だ。お前は徐州を名声に傷をつける事無く手に入れる。私は孫呉の客将となり、孫呉の覇道にしばらくの間は力を貸す」
 「・・・取引になっていないわよ。貴方に利が無いじゃない」
 「利は有る。約束を果たす、と言う利がな。お前にとってはどうでも良い事だが、私にとっては命を懸けるに値する約束だ」
 互いに視線を絡み合わせる覇王と侵入者。やがて雪蓮がフッと視線を緩める。
 「良いわ。徐州を手に入れる事が出来るのであれば、貴方を客将として迎える事を約束する。文書は必要かしら?」
 「いらん。約束を違えるようであれば、覇王を自称するだけの屑だったと判断するまで。そうなれば曹操にでも私を売り込みに行くだけだ」
 「ふうん。曹操よりは買ってくれている訳だ・・・分かったわ。それから名前ぐらいは教えなさい。不審者さんなんて呼び辛くて仕方ないわ」
 「姓は司馬、名を懿、字を仲達」
 「・・・司馬八達・・・そうか、洛陽・・・」
 「では明日。昼過ぎに正式に訪問させて頂く。その時、徐州を手渡そう」
 スッと気配が消える。同時に雪蓮が天井を見上げた。
 「明命?遅いわよ?」
 「でしたら私を威圧しないで下さい。雪蓮様、ご自分がお喋りしたいから、私が出てこないように威圧していたのに・・・」
 「ごめんごめん。で、貴女から見て司馬仲達の実力は?」
 「細作としては私に劣ります。武については祭様や思春様に届かないでしょう。智については、私には何とも・・・」
 「そうね、私と同じ見立てだわ。ただ司馬八達は文官として名を馳せている秀才揃い。本領は智にあると見た方が良いわね・・・ご苦労様、明命。今日は体を休めなさい。明日から、あの男を見張って貰うから」
 消えていく気配。それを察しながら横になると、雪蓮は明日の謁見を想像し、久しぶりに楽しめるかもと胸に期待しつつ目を閉じる事にした。



To be continued...
(2014.12.06 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回から第2部開始となります。第1部終了から3年後の大陸の情勢説明がメインとなる話だった為、ストーリー進行はほとんど進んでいません。メインとなる呉についても同様ですw
 話は変わって次回ですが、徐州攻防戦がメインの話となります。
 呉に仕える取引材料として徐州移譲の話を取り付けていた仲達は、お目付け役として派遣された祭とともに徐州へ向かい、徐州に攻め入っている袁紹軍を追い払う事に。その地で2人を待っていたのは、仲達に命を救われた少女達であった。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



作者(紫雲様)へのご意見、ご感想は、メール または 感想掲示板 まで