碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第七話

presented by 紫雲様


昼過ぎ、建業―
 孫呉が本拠地とする、江東最大の都市建業。その謁見の間に、孫家に仕える重臣達が、誰1人欠ける事無く勢揃いしていた。
 と言うのも、登城するなり雪蓮の伝言を聞く事になったからである。
 『今日から1人、孫家に仕える奴が増えるから。あ、これ私の勘だけど、とんでもなく癖の強い奴だから気を付けてね~』
 こんな伝言を受けた家来達にしてみれば、いい迷惑である。何せ彼女達の使える主の直感は、どんな天才軍師よりも頼りになるほどの正確さを誇る事は過去の実例が証明しているのだから。故に血の気の多い者は帯剣状態で姿を見せている。一般常識として非常時でない限り、主がいる場所へ武装して姿を見せる事は許されない。だがそこは豪胆さに定評のある雪蓮。彼女は上機嫌に笑いながら謁見の間へ入る許可を出していた。
 一方、筆頭軍師を務める冥琳は、朝から頭痛の種を増やされて不機嫌極まり状態である。寝所に忍び込まれた、という状況説明に『何でお前は見張りを呼ばないんだ、この馬鹿雪蓮!』と朝一番の雷を落とした所からも、彼女のストレスゲージの溜り具合が伺えた。
 「それで策殿。件の輩についてですが」
 「名は司馬懿。司馬懿仲達。真名は聞いてないから知らない。徐州を手土産に持ってくるから、しばらく雇ってくれ、だってさ。呉が大きくなったら出てくから、みたいな事言ってたから、忠誠心は期待するだけ無駄ね」
 「全く。酔狂にも程がございます。忠誠心なくて何が主従ですか」
 「だってさ、徐州手土産は魅力じゃない?それに本人は『忠誠なんて期待するな』と言ってるんだから、こっちだってそれ相応の対応をすれば良いだけでしょ。それに断ったら曹操の所へ行く、なんて正面切って言われちゃったらねえ」
 雪蓮の言葉に顔を顰める思春。とは言え、他のメンバーも程度の違いこそあれ、不機嫌と言う意味では大差が無いのも事実である。
 そこへ待ちかねていた兵士からの連絡が入った。
 「只今、司馬懿様が御登城なされました!」
 待ちかねた客人の来訪に、全員が襟を正す。
 やがて案内されて姿を見せた異形の男に、全員が言葉を無くす。
 身の丈はこの場にいる誰よりも高く、短く切り揃えた頭髪の下には、烈火の如き怒りの表情の仮面。仮面の下から覗く目は、強い意思を感じさせる。そして身に纏う衣服は、明らかに新調したばかりの儀礼服である。
 「お待たせした。我が名は司馬仲達。まずはこちらをご確認頂きたい」
 予め用意していた盆に乗っている書類一式を差し出す仲達。それを受け取った冥琳の顔が、一瞬にして強張った。
 「まさか、本物か!?」
 「陶謙殿は全てご了承されている。後は事務的な引き継ぎをするだけだ。だがそれがあれば、大義名分としては十分だろう」
 そこにあったのは、徐州太守の印綬と、陶謙自ら認めた文であった。
 「だがノロノロしていれば、陶謙殿といえども城を守りきれん。私も陶謙殿に義理があるのでな、一足先に徐州へ向かい、袁紹軍を追い払ってくる」
 「貴方ねえ、もう少し体面と言う物を考えなさいよ。一応、形だけでも忠誠誓う物でしょうが」
 「私に忠誠など期待する方が間違っている。では徐州で」
 踵を返し謁見の間から退室しようとする仲達。その前へ怒り心頭の思春が立ち塞がる。
 「貴様、無礼にも程があろうが!この場で討ち取ってくれる!」
 「思春!」
 「ほう?さすがは元・湖賊。自らの主が交わした口約束を踏み躙ってまで喧嘩を売るとは、呉の品位も地に落ちた物だな」
 ビシイッと音を立てて空気が凍りつく。まさか全員勢揃いの場所で、正面切って喧嘩を売る馬鹿がいるとは、誰も想像した事がなかった。
 「お待ち下さい!思春様!」
 「何故止める、亞莎!」
 「その人、私と同じ暗器使いです!」
 咄嗟に距離を取る思春。怒りのあまり、無造作に距離を詰めていたのだから当然である。暗器使いは射程が全くの不明。どの距離が得意とする間合いなのか、一見しただけでは分からないのだから。
 「思春、止めなさい!その男と私は取引をしたの。そして徐州という商品を渡された以上、私には彼に対して『客将』という対価を払わねばならないわ。商品だけ受け取って、対価を払わない。そんな泥棒みたいな真似をすれば、私から覇王の資格が失われてしまうわ」
 「グ・・・承知致しました」
 「では失礼させて頂」
 「まあ待て。のう策殿、儂も同行させて貰って宜しいかな?」
 「祭!?」
 孫呉の宿将・祭の発言に雪蓮が思わず玉座から立ち上がる。
 「何、ちと興味を覚えたのでな。それに策殿もこやつに見張りを付けるつもりじゃろう?ならば儂が見張りを兼ねて同行しようと思ってな」
 「祭?一体、どうした訳?」
 「先ほど、袁紹軍を追い払うと申したでしょう。実際にこやつの力量を見定めたくなったのですよ。口先だけか、それとも本物か」

翌々日、徐州に近い田舎町―
 「それで、これからどうするつもりじゃ?」
 「ここで人と落ち合う。話はそれからだ」
 酒を飲む祭の前で、魚料理を味わう仲達。その骨の取り方に『こやつ神経質じゃのう』と場違いな感想を抱く祭である。
 そんな時だった。
 「あ、いたいた。姫様、いましたよ~」
 「おお、ここにおったのか。これ仲達!食事よりも妾に・・・ってお主は黄蓋ではないか!?何故仲達と一緒におるのじゃ!」
 「む?まさか袁術、か?」
 店に入ってきたのは平原陥落後、消息不明となっている元・宛の太守袁術―真名美羽―と、その片腕兼お守役である張勲―真名七乃―である。
 「来たか。早くこちらへ座れ。まずは腹ごしらえ」
 「仲達さん?その慇懃無礼な言葉使いは止めましょうよ~私と姫様との仲じゃないですか~」
 「・・・ああ・・・ん・・・ごめんな、2人とも。芝居の気分が抜けてなかった。ほら、空いてるから。とりあえずすぐ出来る物で良いかな?店主!適当に2人分お願いします!」
 突如口調が変わる仲達。同時に身に纏う雰囲気も変わった事で、美羽達の顔にも笑みが浮かぶ。
 平原陥落から3年。美羽達も3年の間に成長を遂げていた。
 美羽は未だに顔こそ子供っぽさが前面に出ていたが、全体的に少し大人びた雰囲気を醸し出すようになっていた。身の丈こそ変わらないが、それでも女性らしい体つきに変化を遂げている。何よりも違うのは、我儘お姫様という雰囲気が、かなり薄まっている点である。
 七乃は3年前よりも拳半分は身の丈が大きくなっていた。この3年の間に色々とあったらしく、腕には戦傷と思しき古傷が幾らか見受けられる。そして何よりも違うのは、美羽命という雰囲気の中に、母性を連想させる美羽を思う厳しさが感じられる点であった。
 「のう仲達。妾達の前でぐらい、その仮面を取るのじゃ」
 「ん、そうだな」
 素直に仮面を取る仲達。そこから出てきた、少年のあどけなさが若干残る顔立ちに、祭が呆れた様に呟いた。
 「お主、何の為に仮面をつけておるのじゃ。その顔を表に出してみろ。少なくとも、ウブな亞莎や明命辺りはアッサリ陥落するぞ?」
 「仮面はスイッチ―性格の切替の為の自己暗示みたいな物ですから。僕はいずれ呉を出る身。ならば下手に感情移入されない方が良いでしょう。もし誰かが僕と、男と女の関係になったらどうなるか?敢えて言うまでも無いでしょう」
 「その時はお主が呉へ骨を埋めれば良いだけじゃ。それより、儂も聞きたい事がある。何故ここに袁術達がおるのじゃ?」
 ジッと視線を美羽に向ける祭。孫呉の主従は美羽達に対して思う所がある為、そう良い感情は持てないらしい。
 「黄蓋将軍。2人は僕の仲間だ。害しようというのであれば、今すぐお帰り頂きますよ?」
 「慌てるでないわ、こわっぱ。単に気になっただけよ。3年の間に何が起きたのかをな」
 グイッと酒を呷る祭。
 「妾達は仲達に救われたのじゃ。平原を麗羽に奪われてから、妾達は何も持たずに逃げ出す事しか出来なんだ。七乃が必死に妾を賊共から守ってくれたが、やはり無理がたたったのじゃろう。高熱を出して倒れてしまった。そこを救ってくれたのが仲達なのじゃ」
 「仲達さん、凄いんですよ。病気の治療とかも出来る人だったので、薬を処方して治療してくれたんですから」
 「・・・2人とも。あれは病気じゃない。単に栄養失調と過労が原因の体調不良だ。食事を摂って安静にしていれば治る。薬についても単なる滋養強壮だと言っているだろう」
 「それでも感謝しておるのじゃ。あの時、妾達に味方してくれたのは仲達だけじゃったからのう」
 運ばれてきた料理に『おお!』と歓声を挙げる美羽。『城にいた頃は、もっと豪華な食事であったろうに。庶民の料理にここまで喜ぶとは』と内心で美羽の変わり様に驚愕する祭である。
 「うう、美味しいのじゃ。あったかい料理は久しぶりなのじゃ~」
 「しばらく干し肉と水だけでしたからね~美羽様、あとで蜂蜜水もあげちゃいますね?」
 「おお、本当かや!?やっぱり七乃は優しいのう~」
 (・・・こういう所はかわっておらんのか。やはり根っこは袁術のままじゃな)
 驚きを返せ!と内心でツッコム祭。そんな祭であったが、近づいてくる気配と足音を聞き逃すようなヘマはしない。
 「何者じゃ?」
 「ああ、そっちの男に用があってね。仲達、約束通り来たぞ。白馬隊生き残り1000騎、司馬仲達に味方する」
 「ありがとう、公孫瓚将軍」
 「言い難いだろう、白蓮で良い」
 今度こそ、祭は驚愕した。袁紹と対峙して以来、消息不明の幽州太守公孫瓚がこの場に姿を現したからである。
 「盧植将軍は、やはり蜀へ?」
 「ああ。桃香を見守りたいってさ」
 「それが良いだろうね。ほら、座って。腹ごしらえ兼作戦会議と行こうか。店主!もう1人前料理追加で!あとお酒と適当なつまみも!」
 丸テーブルに陣取るのは5人。内2人が太守の地位にあった者である。ある意味、驚愕すべき光景なのだが―
 「隙ありなのじゃ!」
 「おい美羽!人の料理を取るな!七乃。もっと躾をしっかりしろよ!」
 「ああ、やんちゃな美羽様も可愛いですわ~それはそうと嫌いなお野菜も食べましょうね~」
 「七乃~人参は嫌いなのじゃ~白蓮に献上するのじゃ」
 「自分で食え!この我儘娘!」
 『何この光景』と困惑する祭。そんな中、腹ごしらえが済んだ所で、改めて自己紹介しあう一同である。
 「それで、今後の予定だが仲達?」
 「七乃?」
 「はいはい。情報収集は完璧ですよ。細作さんからの報告によれば、袁紹軍は徐州の城から一里程度離れた、見晴らしの良い平原に陣を張っています。袁紹軍もすっかり油断しているみたいですね。3年の間に徐州侵攻作戦は何度か行われていますが、今回だけは夜襲されていませんし。仲達さんが陶謙さんにお願いした甲斐がありましたね~」
 「だね。今回の作戦の胆は白蓮さんだ。白馬隊の実力、思う存分発揮して貰うよ」
 名高い白馬隊とは言え、騎兵1000騎だけで5万の兵に対峙するのは不可能。だからこそ策が必要となる。そして仲達の策の成就には、1人1人が精鋭である白馬隊と、それを束ねる白蓮の実力が必要であった。
 作戦の流れを説明する仲達。その内容に美羽は『悪どいのじゃ~』と、七乃は『効果覿面でしょうねえ~』と、白蓮は『私がいなかったらどうやって実行するつもりだったんだ』と呆れた様に返す。
 「策の決行は今晩。月が中天に差し掛かる頃に実行する。陶謙殿に細作を送って平原に火が点いたら全軍で強襲を仕掛ける様に連絡を頼みます」
 「はいはい、私にお任せ下さいな~」
 「その後で美羽とともに手勢へ銅鑼を持たせて待機。白蓮さんに合わせて気勢を上げさせて下さい。兵の少なさを誤魔化す、大事な役目ですからね。まともな勝負では勝ち目などありませんから」
 「うむ。妾に任せるのじゃ~」
 料理をパクつきながら、満足そうに頷く美羽。
 「それで黄蓋将軍はどうします?白馬隊に混じって参加しますか?」
 「ふむ。ただ見物するだけでは芸が無いからのう・・・折角じゃし、参加させて貰うとするか」
 「分かりました。では決行までは、自由としましょう。白蓮さん、糧食ですが炊事をする訳にもいかないでしょうから、干飯と酒を用意しておきました。兵に摂らせてあげて下さい。終わったら御馳走しますから。それから七乃さん、細作に命じてこう言う物を作らせて下さい」
 何やら書かれた紙を手渡す仲達。それを読んでいく内に七乃が『酷い策ですね~文醜さん達可哀そう~』と笑いながら返した。

深夜―
 徐州城から一里離れた場所にある文醜の軍勢。一応見張りは数名いるが、全員ウツラウツラと船を漕いでいる。
 そんな光景を遠巻きに見ながら、白蓮がヤレヤレと肩を竦める。
 「よし。全員、馬に布を噛ませ、蹄には布袋を被せ終わっているな?ではこれより策通りに動く。ギリギリまで近づき、一気に包囲網を完成させるぞ」
 極力音を立てずに、それでもなるべく早く平原を疾走させる白蓮。その後ろに続く弓を携えた騎馬隊は、文字通り縦1列となっている。そして文醜軍まで30メートル近くまで寄った所で、急に右に折れる白蓮。
 同時に放たれる火矢。そして白蓮は文醜本陣とはあくまでも着かず離れずの距離を保ちながら、文醜軍を中心点とするように円状に駆け抜ける。その後に白馬隊が続きならば次々に火矢を放ち続ける。
 この事態には、さすがに油断し続けていた見張りも気づき『敵襲!』と叫ぶも、兵士達が動き出すには時間が足りなさすぎた。完全に油断して、鎧も着けずに熟睡していたのだから当然である。
 そこへ次々と撃ちこまれていく火矢。白蓮は円状に走っている為、火矢による延焼は瞬く間に広がっていく。
 この事態に兵達は混乱の真っ只中になった。何せ目を覚ましてみれば、自分が寝ている天幕が燃えていれば、慌てるのは至極当然の事である。
 「落ち着かんか、馬鹿者!敵は寡兵だ!騙されるな!」
 当然の事だが、火矢には火が点いている。それが夜空を飛んで来れば、とても目立つのは当たり前である。その本数をざっと見る事で、飛んでくる矢の本数がそれほど多くない事を察したからこその判断であった。
 同時に文醜―真名猪々子は消火よりも兵の混乱収拾を最優先とし、逆に燃え盛る天幕を灯り代わりに迎撃戦の準備に入ろうとする。
 「お前達!敵は闇に紛れて姿こそ見えんが、それこそ奴らの思う壺だ!敵は少数!一気に包囲網を食い破るぞ!」
 5万の兵が混乱する中、周りの精鋭だけを手早く迎撃部隊として再編制。同時に奇声を挙げつつ逆襲に転じ―ようとした所で闇の中から若干遅れて銅鑼の音と咆哮が沸き起こる。
 「増援か!いや、このまま食い破る!全軍続けえええ!」
 月明かりに照らし出された敵兵の姿は、文醜の勘通り動いてはいるが少数に見えた。それに気分を良くしつつ、混乱して右往左往する自軍兵士を突っ切って突撃を指示する猪々子。
 そして、平原に響き渡る無数の悲鳴。
 「どうした!」
 「将軍、罠です!平原に何か撒かれております!それを踏んだ兵士達が!」
 それこそが仲達が七乃の細作に作らせた罠。中央を120°ぐらいに折り曲げた釘を2本、互いに絡ませて中央を紐で縛った物。いわゆる忍者が使ったマキビシである。それを七乃の細作達が夜闇に紛れて平原へとばら撒いたのであった。ただ釘だと1/2の確率でしか刺さらない為、その分は数を多くする事でカバーしている。
 ただし歩兵はこれで無力化出来るが、これは騎馬兵には通用しない。
 だからこそ、猪々子はすぐに騎馬兵を中心とした部隊への再編成を試みる。
 しかしそれこそが罠。騎馬隊の再編成―そもそも燃え盛る炎の中で、馬を捜してくる事が難題である事は誰にでも分かる―にかかる時間。それこそが仲達が最も欲した物。
 同時に徐州城の城門が開き、この時を待ち続けていた陶謙軍が全軍を率いて突撃を敢行する。
 ここに3年に渡る徐州攻防戦の幕が下りる事が決まったのであった。

建業―
 「以上が徐州攻防戦の顛末じゃよ」
 「祭殿。貴女の目から見て、彼の実力は?」
 「超一流になれない一流止まりと言う所か。智では冥琳や穏に、武では儂や思春に勝てんじゃろうて。だがそれ以外の部分でなら、今挙げた者達に勝てるじゃろう。何でも平均に熟すからこそ厄介じゃな」
 祭の報告は、呉の上層部を唸らせる物があった。
 「政に関しても、十分一流じゃ。こちらへ戻る前にあ奴は戦後処理を熟していたが、それなりに見られる物じゃった。確かに公孫瓚将軍や張勲、陶謙殿の手助けがあったとは言え、内政担当の文官として地方を任せても良いぐらいじゃった」
 「やれやれ。袁術を手なづけていただけでも驚いたけど、ホント勿体ないわねえ。いずれ出てくと明言されちゃってるし。ホントどうしたもんかしら?何か良い案無いかな?」
 「アレの恋人でも呉に出来れば流れは変わるかもしれんがの」
 「そりゃそうかもしれないけどねえ。脈はありそう?」
 「無くはないじゃろうな。あの慇懃無礼な態度にしても、芝居じゃと分かったしの。仮面を着ける事で、性格を切り替えておるらしい」
 肩を竦めてみせる祭。それを聞いた雪蓮が『何でまたそんな面倒臭い事をしてるんだか』と呆れた様に返す。
 「孫呉の女と仲良くなったら、後で問題を引き起こす事になるからだ、そんな事を言っておったな。要はわざと嫌われようとしておるという事じゃろう」
 「嫌われてまで呉に来なくても良いと思うんだけど・・・で、祭の目から見て性格面はどうだった?」
 「お人好しと言うか優しい男じゃ。袁術との邂逅も、行き倒れていた奴らを助けたのが切っ掛けらしいしのう。しかもあの我儘姫を、後方支援とは言え戦場に立たせるまでに成長させたのだから、余程目をかけたんじゃろうて」
 「おお?祭にしては高評価じゃない?惚れちゃった?」
 「そうじゃのう。今度、閨に誘ってみるかのう?」
 祭の爆弾発言に、わざとらしく歓声を上げる雪蓮。周囲で話を聞いていた女性陣は、年若い明命や亞莎を中心に顔を赤らめる。
 「それとな策殿。アレにはウブな女子を近づけぬようにな。明命や亞莎は言うまでもないが、蓮花様や小蓮様もじゃ」
 「何かあった訳?女タラシとか?」
 「袁術がベッタリ甘えるのも当然じゃ。素の性格が良いのもそうじゃが、顔立ちも中々じゃった」
 「まさか素顔見てきたの!?」
 予想外の収穫に、大袈裟に驚く雪蓮。
 「うむ。幼さが残っておったが、そこが何とも良かったのう。何というか年上から見れば理想的な弟や仔犬を連想させるような顔立ちじゃった。逆に年下である袁術にしてみれば優しく凛々しいお兄ちゃんといった所かの」
 「・・・やっば。ちょっと見たくなっちゃうじゃない・・・って客将じゃ命令出来ないじゃない!しまった!何で私は客将なんて認めちゃったのよ!」
 「落ち着け雪蓮。話が脱線してるぞ」
 頭痛を堪える様に、コメカミをグリグリする冥琳。豪快な祭の笑い声が響いていた。

徐州城―
 「やれやれ、やっと終わったか」
 戦後処理に必要な決済を終えて、フウと息を吐くシンジ。その近くでは処理を手伝っていた陶謙が、手ずから茶を淹れながら笑っていた。
 「だが、やはり仕事は早いですな」
 「そんな事は有りませんよ。若造をおだてないで下さい。ところで、陶謙殿はこれからどうされるおつもりですか?」
 「・・・正直申して、盧植のように隠居も考えはしたのですが、自分だけ乱世に背を向ける、と言うのもどうかと思いましてな。かといって私の様な老人がでしゃばるのも、あまり上策とは申せませぬ。故に後進の指導と、後方支援に当たろうかと考えております」
 「それなら私からも孫策殿に口添えさせて頂きましょう」
 鼻を擽るお茶の香りに、微かに笑みを浮かべる仲達。そんな仲達に、陶謙が小さいながらもハッキリと囁く。
 「・・・貴方様も、早くお戻りになられる事が出来れば宜しいですな。本来なら、貴方様はあの御方の傍にいるべきなのですから」
 「仕方ありませんよ。それが彼女の願いだったのですから」
 「そうですな、失礼な事を申し上げました。そういえば、ふと思ったのですが、袁術殿です。袁術殿は貴方様の事を『仲達』と呼んでおりましたが、彼女は貴方様の素性を知らないのですか?」
 「いえ、知ってますよ。ただ彼女はあの通り幼い部分がありますからね。理由があるから『仲達』と呼んでくれ、と頼めば頷いてくれますよ。白蓮さんや、お付の七乃には、事情は説明してありますから、それとなく助け舟も出してくれますしね」
 グイッとお茶を呷ると、湯気の立つ2杯目を注ぐ。少々肌寒い夜更けに、お茶の熱さは何よりの褒美であった。
 「・・・どうやら心配の必要はなさそうですな。良いお仲間に恵まれたようで、何よりです。さて、では私はそろそろ休ませて頂きます。仲達殿、いや、聞殿も早めにお休みになって下さい」
 それだけ言うと、陶謙は静かに執務室から出ていく。その背中から視線を外し、月を見上げる少年の顔には、まるで懐かしい光景を思い出しているかのように、柔らかい表情が浮かんでいた。



孫呉陣営データ 
司馬懿仲達:正体は碇シンジこと、少帝陛下侍従聞シンジ。外見年齢19歳のまま変わらず。
統率:C 武力:C 知力:C 政治:C
特殊能力:仙界の知識⇒仙界で得た知識を活用できる状況であれば、能力に+1~+2の追加修正を得られる。
特殊能力:宝貝⇒双鞭。(武力に+1の追加修正)ただし1本は洛陽炎上の際に紛失し、修正が無くなっている。
特殊能力:医療知識⇒医療全般に関する知識。怪我人の手当等に効果を発揮。

孫策伯符:真名は雪蓮。現・呉王。
統率:A 武力:A 知力:C 政治:C
特殊能力:直感⇒理屈を無視して正解に至る野生の直感。特に勝負事になると、発動率が上昇する。
特殊能力:血塗れの狂戦士⇒殺し合いにおいて、武力に+1の修正。ただし戦場の雰囲気に酔ってしまい、歯止めが利かなくなる。

周瑜公瑾:真名は冥琳。孫呉の筆頭軍師。
統率:A 武力:B 知力:A 政治:A
特殊能力:船戦の天才⇒水上戦において、統率に+1の追加修正を得られる。
特殊能力:断金⇒雪蓮の為ならば、あらゆる判定に+1の追加修正が加わる。しかし雪蓮と命運を伴にしなければならない。

陸遜伯言:真名は穏。やや困った所のある、ノンビリ系軍師。
統率:B 武力:B 知力:A 政治:B
特殊能力:軍才⇒統率に+1の修正。
特殊能力:鋭い視点⇒敵の計略を見破り易くなる。計略の対抗判定の際、知力に+1の追加修正。

黄蓋公覆:真名は祭。孫呉の宿将。
統率:B 武力:B 知力:C 政治:C
特殊能力:孫呉の宿将⇒孫呉の兵を率いる限り、統率に+1の追加修正。
特殊能力:弓の達人⇒弓の判定において、武力に+1の追加修正。

甘寧興覇:真名は思春。クール系姉御肌。
統率:B 武力:A 知力:C 政治:D
特殊能力:水神の子⇒水上戦において、武力に+1の追加修正。
特殊能力:護り手⇒思春に護衛される限り、守られる人物は怪我1つ負わない。

孫権仲謀:真名は蓮華。雪蓮の妹。
統率:B 武力:C 知力:B 政治:A
特殊能力:守成の姫⇒あらゆる防衛戦において、統率に+1の追加修正
特殊能力:名君⇒生産性のある仕事、事務的な処理において、滞りなく物事を進めることが出来る(判定無し自動成功扱い)

周泰幼平:真名は明命。孫呉の諜報担当、猫命
統率:C 武力:B 知力:B 政治:C
特殊能力:密偵⇒諜報活動において、あらゆる判定が自動成功(ただし相手がそれを見破る判定に成功した結果、彼女の事に気付いたりする事はある)
特殊能力:迅速なる一撃⇒捨て身の一撃。ダメージ2倍、ただし防御行動不可になる。

呂蒙子明:真名は亞莎。暗器の使い手にして、軍師見習い。
統率:C 武力:C 知力:C 政治:C
特殊能力:未来の大軍師⇒判定にクリティカル成功すると、能力値が永続的に+1される。上限はA。
特殊能力:暗器⇒1対1の勝負かつ初撃に限り、絶対命中かつダメージ1.5倍。

公孫瓚:真名は白蓮。白馬長刺の異名を持つ。
統率:B 武力:B 知力:C 政治:C
特殊能力:白馬長刺⇒騎馬戦の際、統率と武力に+1の追加修正。また彼女が率いる騎馬隊は混乱することは無い。
特殊能力:平々凡々⇒目立った成果はないが、致命的な失敗もない。あらゆる判定において、クリティカル・ファンブルともに確率が0になる。

袁術公路:真名は美羽。精神的に幼い一面のある少女。
統率:D 武力:D 知力:D 政治:D
特殊能力:医者の卵⇒応急処置を行える。回復判定において、若干の追加修正。

張勲(史実においても字は不明):真名は七乃。美羽命な保護者。
統率:C 武力:C 知力:B 政治:C
特殊能力:諜報集団⇒部下の諜報をさせる事が出来る。判定は必要だが、諜報活動を行うのは部下の為、失敗しても彼女に被害が及ぶことは無い。



To be continued...
(2015.01.03 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回は仲達一味の紹介と、徐州攻防戦がメインとなります。すっかり存在感の無かった3名の少女達を同行者に、仲達は乱世を駆け抜ける事になります。
 また指摘のあった通り、仲達は彼でございますw今作では正体を隠すつもりは無かったので、洛陽で見つかった『炭化した腕』の存在については強調しませんでした。とは言え、前作と同じネタなので、気づいた方は多かったのではと思います。
 話は変わって次回です。
 袁王朝への対抗の為、本格的な侵攻を開始し始める孫呉。その手始めとして、呉は荊州を支配する曹魏と同盟を結ぶ事に。
 その同盟締結の最中に、仲達を中心に事件が起こる。
 そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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