碇シンジの合法ロリルートへの道 (not18禁)

第八話

presented by 紫雲様


荊州・襄陽―
 「久しぶりね、曹孟徳」
 「全くだわ、孫伯符。反董卓同盟以来、という所かしら。孫文台、残念だったわね」
 「自分が思うが儘に生きた人よ。最期は笑っていたわ」
 徐州陥落から3ヶ月後。荊州・襄陽において曹操陣営と孫策陣営の同盟締結の顔合わせが行われていた。
 条件は袁紹を倒すまで、1年更新の相互不可侵同盟を結ぶ、と言う物である。
 何故そうなったかと言うと、洛陽は袁紹が都としている土地ではあるが、人口が少なく―大半の住人は月達のいる長安へ逃げ出している―占領する価値が無い為である。加えて漢王朝の皇帝の血筋がいる訳でも無い為、無理をして占領する意味も無かった。
 極端な話、函谷関と虎牢関の両方を封鎖して、兵糧攻めを仕掛ければ確実に陥落させる事も可能である。
 『函谷関は董卓を旗頭とする涼州連合と、劉備を旗頭とする蜀が対袁紹戦における最前線として占領中。ならばその機に乗じて、我々が虎牢関を占拠。後はゆるゆると領地を刈り取りつつ、時が来るのを待てばよい』
 対袁紹戦における華琳の言い分に、雪蓮もまた頷いてみせたのである。
 そう、2人とも袁紹など敵とは思ってはいない。
 互いに互いこそが最後に争う敵手だと認めているのである。
 それは2人ともが覇王であるから。
 だからこそ重要なのは、対袁紹戦の間に、どれだけ人口が集中している中央部を領地として組み込むか、である。
 曹操は襄陽と宛、孫策は建業と徐州。互いに人口の多い都市を所有してはいるが、それでも中央部の許昌や陳留と言った都市は税収も高く、国を運営していくにはとても魅力的なのである。
 だが問題は袁紹の手にしている物量。軍資金・兵糧・兵士。どれをとっても袁紹は2人の上を行くのが現実。伊達に2人に先んじて、中央部や北部を支配下に置いている訳ではない。
 「孟徳。我々が同時に進撃を開始し、袁紹軍の矛先を分けつつ攻め入るのは構わない。袁紹ならばこちらの思惑通りに動くだろう。だが」
 「・・・軍師・李儒。袁紹を炊きつけ、皇帝に据えた懐刀。正直、中々の切れ者よ。洛陽炎上もコイツの仕業らしいわね。ここ3年に渡って涼州連合と戦い続けていると聞いているが、それこそがおかしすぎる。どう考えても軍が保つ筈がないのに、現実として3年に渡り持久戦を繰り広げている。一体、どんな方法を用いているのか」
 「うちの軍師もこれについてはお手上げ状態だわ。どれだけ考えても、保つ筈がないの一点張り。正直、私も同感なのよねえ」
 華琳の誇る軍師。荀彧、郭嘉、程昱。孫策の誇る周瑜、陸遜。彼女達の頭脳を以てしても、この難題だけは解く事が叶わなかったのである。
 「・・・そういえば、まだ聞いていない奴がいたっけ」
 「貴女のとこに、あの2人以外に優秀な軍師がいたかしら?」
 「優秀と言えば優秀ね。少なくとも司馬仲達を名乗るだけの実力はあるわ」
 ピクンと反応する華琳。その名は彼女自らスカウトを行いながらも、洛陽炎上以来消息不明となったまま音信不通状態だからである。
 「ふうん。貴女の所へ行ったんだ」
 「違う違う。言ったでしょ、司馬仲達を名乗るだけの実力はある、って」
 「偽名?それにしては司馬八達を名乗るなんて、よっぽど自信があるのね」
 その話を聞きながら、謁見の間に整列する1人として立っていた一刀は、驚愕しつつ華琳の会話を聞く事しか出来ないでいた。
 (・・・司馬仲達、あの諸葛亮のライバルじゃないか!だがどうしてだ?以前は司馬仲達なんていなかったのに、これはどういう事だ?俺の知る歴史とは違いすぎるが、その違いが人物にも影響を与えているのか?)
 「じゃあ、貴重な意見を聞いてみましょうか。連れてきているのでしょう?」
 「控室にいるから呼べば来るだろうけど・・・」
 「あら?強気な貴女らしくないわね」
 「・・・1つだけ。アイツが何を言おうがキレないでよ?私が言うのも何だけど、慇懃無礼とか傲岸不遜とか傍若無人って言葉はアイツの為にある言葉だから」
 どれだけ問題児なのかと謁見の間がざわめく中、孫呉の人間だけは頭痛を堪える様に顔を顰めたり、苦笑いするばかりである。
 「ふうん、随分とまあ手を焼いているみたいね」
 「私は困ってないわよ。困っているのは私以外だから」
 「申し上げます。ただ今、呉の司馬仲達様をお連れ致しました」
 そこに姿を見せたのは、相変わらず漆黒の衣装を着込み、仮面を着けた巨漢である。明らかにこの場の誰よりも大きな男の登場に、魏のメンバーに緊張が走る。
 「それで、伯符殿。私の様な問題児をこの様な公式の場に呼び出すとは正気か?曹操との同盟締結が木端微塵に砕け散るぞ?それで覇王を自称できるのか?」
 「ふふ、確かに問題児だわ。私の傍にはいない、新しい性格の持ち主ね・・・司馬仲達、お前の知識を試したい。準備は良いか?」
 「断る。そんな事に付き合わねばならぬ義務はない」
 いきなりの爆弾発言に凍りつく謁見の間。雪蓮や穏は『あーあ、だから言わんこっちゃないのに』と呆れ顔。冥琳は無言のままコメカミを揉み解す事に忙しい。
 「き、貴様!華琳様の問いかけを断るとは何様のつもりだ!」
 「私は魏の狗でも呉の狗でもない。曹孟徳に媚を売る趣味も無いのだよ。分かってくれたかな?魏の狗よ」
 「ふ、ふざけるなあああああ!」
 しょっぱなからの大暴言の嵐に、速攻でキレる春蘭。愛用する七星餓狼を抜き放ちつつ大上段に振り下ろす。
 だがその切っ先が振り下ろされるよりも早く、懐へ飛び込む仲達。その判断力と身のこなしの鋭さに、少し離れた所から見ていた一刀は目を丸くした。
 (・・・アイツ、春蘭の懐へ飛び込んだだと!?幾ら怒りで警戒心が疎かになっていたとは言え、春蘭相手にあんな真似、秋蘭でもやれるか?)
 「私が剣を持っていなくて良かったな?」
 わざとらしく喉元を撫でる仲達。
 「仲達。ここは呉では無いのよ。からかうのもその程度にしておきなさい」
 「だったら私に問題を起こさせるような隙を作る悪癖を止めろ。そもそも私は凡人に過ぎん。かの『魏武の大剣』と呼ばれる夏候惇将軍と正々堂々戦える程の実力は無いのだぞ。今だってわざと挑発してやらなければ、飛び込む程の隙など見出せん」
 「それが自覚できているなら、何でわざとからかうのよ」
 「それが私だからだ」
 明後日の方向へ突き抜けすぎた凸凹主従に、冥琳が胃を押え、穏は笑う事しか出来ない。幾らなんでも他国の王を前に繰り広げる会話ではないからである。
 「ふふ・・・面白い、面白いわね貴方。王を前に、そんな下らない事でも己を貫くなんて普通はしないわよ?命が惜しくない訳?」
 「殺されるのを待ち受ける程愚かでは無い。そうなればさっさと逃げ出すだけだ」
 「恥も外聞も無く逃げ出す、か。ホント面白いわ」
 華琳の長所でもあり短所でもある『人材収集癖』が顔を覗かせる。それに気付いた桂花が遠回しに止めようとするが、そんな事を聞く華琳ではない。
 「仲達。私と伯符は今後の戦略方針を決める為に、袁紹の手の内を少しでも探りたい。その1つとして袁紹軍の補給の問題が上がっているのよ」
 「そんな物は簡単だ。どうせあの袁紹の事だ。民の負担など考えもせずに、極端なまでの重税を課しているのだろう。さしずめ男は全て徴兵、女に農作業とか無茶な事を言っていても不思議は無かろう」
 「確かにね。そこまでは推測出来ているわ。問題はそれ以外。例えば3年に渡り戦いつづけられる程、兵士を揃えられるのか?っていう点よ」
 「不可能ではないだろうな。後の事を考えなければ、と言う但し書き付きだが」
 「・・・あり得るわね。あの麗羽なら確かにやりそうだわ」
 頭痛を堪える様に顔を顰める華琳。対峙する雪蓮も、反董卓同盟での袁紹の『華麗に進軍』を思い出したのか否定できないでいた。
 「話がそれだけなら、控室に戻らせて頂く。では失礼」
 「ちょっと待ってくれ」
 人垣の中から姿を見せる一刀。聖フランチェスカの制服姿は、謁見の間で非常に浮いて見えた。
 「噂に聞く天の御使い殿か」
 「北郷一刀だ。1つだけ訊きたい事がある。応えてくれないか?」
 「何を訊きたい?」
 「司馬仲達。貴方の正体、その仮面の下の素顔だ。俺の予想が当たっていれば、貴方は華琳や孫策さんと顔見知りの人間じゃないかと思ってな。単に2人が気づいていないだけで」
 一刀の言葉に、思わず頬杖を止める華琳。雪蓮も意外過ぎる指摘に声も無い。
 「それにさ、孫策さんが来る為に護衛の兵を引き連れていただろう?あの中に見覚えのある部隊がいたよ。白馬隊がな」
 「まさか幽州で公孫瓚を助けた相手と言うのは!」
 「華琳の想像通りだろうよ。仁君と名高い劉備の姉弟子であり、親友である公孫瓚。彼女が言っていただろう?借りを返す、と。今の孫策軍において、公孫瓚が滅ぼされた頃、幽州にいた可能性のある武将は?そんな奴、消去法で考えて行けば1人しかいないだろうさ」
 孫呉の者は、一刀の推測が正しい事を知っている。現に公孫瓚は仲達の片腕として名を馳せているのだから。
 「断る。私が何者であろうとも、御使い殿の要望に従う謂れは無い」
 「確かにそうかもしれない。だが今後、2つの陣営が同盟を組んで戦う以上、極力相手の事を知っておきたいと思うのは当然だ。万が一、という事も無い訳じゃないからな。この乱世では」
 「ならば四六時中、無駄な警戒を続けていろ。そもそも私は伯符殿に忠誠を誓った覚えすら無い。さあ、好きなだけ疑うが良い。もしかしたら謀反を起こした挙句に、伯符殿ごと、曹操殿すら刈り取るかもしれんぞ?」
 敢えて問題発言を行う事で切り込んだ一刀であったが、仲達は一刀の思惑を上回る切り返しを放って言葉で捻じ伏せる。また仲達の忠誠度0発言は、華琳への高い忠誠で知られる曹操陣営に言葉にならない衝撃を与えていた。
 「では伯符殿。失礼させて貰うぞ」
 「あ、そうだ。どうせアンタ暇でしょ?折角だからさ、適当に市場で材料見繕って、何か酒の肴になるような物作ってよ。出来れば私好みの地酒もあればとっても嬉しいわ❤」
 「ふむ。ならば精々美味い物でも作ってやろう・・・豚になるぐらい美味い物をな」
 最早主と言うか女性にかける言葉では無い。寧ろ無礼討ち確実な大暴言である。だが雪蓮はいつもの事とばかりに上機嫌で笑うばかりである。
 そのまま立ち去る仲達。それに手を振って送り出す雪蓮。忠誠等存在しない関係であるにも関わらず、何故か信頼関係が構築されているようにも見える。
 仲達にとっては暴言程度で雪蓮が怒る事は無い、と。
 雪蓮にとっては仲達は言うだけで謀反を起こす気など更々無い、と。
 「楽しみだわ~前に穏から聞いて以来、ずっとアイツの料理食べたくて仕方なかったのよねえ♪ねえ、孟徳。貴女も一緒にどう?」
 「フッ、ここで逃げては覇王の名が廃ると言う物よ。面白い、同席させて貰おうじゃない。だがただ同席するだけでは芸が無いわね・・・ふむ、久しぶりに・・・桂花!秋蘭!伯符殿御一行を客室へご案内しなさい。それから春蘭、一刀。2人は私に着いて来なさい」
 「「は!」」

市場―
 「・・・何故、ここにいる」
 「料理の材料を買う為に決まってるじゃない」
 襄陽は荊州最大の都市。人が集まるのは当然であり、同時に市場も巨大な物となる。それは数多くの品物が揃うと同時に、その道の達人にとっては実力を振う機会を与えらえる事になる。
 そんな市場の一角で、仲達と華琳は同時に同じ大根に手を伸ばした所であった。
 華琳はいつもの恰好では目立ちすぎる為、お忍びとばかりに町娘風の地味な服を着込んでいる。その背後に控える春蘭と一刀も町人と同じ格好をしていた。
 一方の仲達は愛用するピンクのフリルが付いた前掛け。
 (こいつ、どこまでゴーイング・マイ・ウェイなんだよ!)
 内心で激しくツッコむ一刀である。
 「やるな、曹孟徳。この大根の良さを見抜くとは、覇王の名は伊達では無いな」
 「貴方もね。大言壮語は自信あっての事。ますます興味を惹かれるわ」
 バチバチと火花を散らす両雄。そんな主に春蘭は『華琳様あ・・・』と陶酔し、一方の一刀は『何でだ、何で誰も止めないんだ!秋蘭!桂花!風!凛!』と絶叫する始末である。
 「まあ良い。これは譲ろう。ところで主菜は何にする?互いに被ってしまっては、興ざめだろう」
 「そうね。私は肉を使うわ」
 「承知。ならば私は魚を使おう」
 『酒と魚は相性が良いしな』と自己完結する仲達。何気に酒豪揃いの孫策陣営の事を見越しているのかもしれない。
 「鮮魚はあちらの方か。では失礼させて貰う」
 「期待しているわよ、司馬仲達」
 華琳と別れ、鮮魚が立ち並ぶ一角へと足を向ける。水揚げされた魚を品定めする、ピンクの前掛けを付けた仮面の巨漢―まるでどこかの仮面のメイドガイである―に、幼い子供達を護ろうと大人達が気色ばむ中、仲達は己が満足しうる獲物を求めてひたすらに市場をさ迷い歩く。
 やがてその足がピタッと止まる。
 「店主。この魚は何匹ほどある?」
 「へ、へえ。20匹程ですが」
 「よし、全て買おう。後で受け取りに来る。その間に血抜きを済ませておいてくれ。これは手付だ」
 そのまま振り返る事無く、次の獲物を求めて彷徨いだす仲達。その背中に『ま、毎度ありい!』と言う声がかかるが、足を止める気配は微塵も無い。
 そして野菜や果物等を次々に物色。そして最後に最初の鮮魚店へと戻り、魚を受け取って城へと戻ろうとし―
 「き、貴様何者だ!?ここは曹孟徳様の居城だぞ!」
 「曲者だ!誰か応援を!」
 材料を調達してご満悦な仲達は、不審者として槍を突き付けられ、牢獄へと強制連行の憂き目に遭っていた。
 そして雪蓮もまた、仲達の料理を口に出来ず、悔し涙を流しつつ華琳の料理に舌鼓を打っていたそうである。

翌々日―
 仲達の失踪に、襄陽城では上も下も大騒ぎになっていた。そんな中、一刀配下の三羽烏と呼ばれる凪・真桜・沙和の3人が街中で聞き込みを続ける中『仮面を着けた黒い服にピンクの前掛けの怪しい男が兵隊に捕まった』と言う重要証言を入手。慌てて地下牢へと向かった3人は、折角入手した極上の食材を腐らせてしまった仲達を発見。当の仲達は牢の中で、ストレス解消代わりに雪蓮に頼まれていた酒をチビチビやっていたのである。
 仲達は一応は孫策陣営の副軍師的立ち位置の人物。ハッキリ言えばVIPなのである。本人にその自覚があるかないかは別として。
 そんな立場の人間を、一般兵士が職務とは言え、誤解から牢獄へぶち込んだのである。
 『申し訳ありませんでしたあ!』と頭を下げる3人。別に3人が悪い訳ではないのだが、招いた側の失態であるのは事実である為、頭を下げる以外に採るべき手段も礼儀も無い。
 「とりあえず、ここから出して貰おうか。後は風呂。臭くてかなわん」
 確かに2日も牢に居れば臭いのは当然である。特に牢は排泄物を壺に貯めこむ方式である為、悪臭は当たり前なのだから。そしてそんな悪臭を漂わせながら謁見の間へ連れていく事等出来る訳も無い。
 そして彼女達は知らないが、仲達は風呂好きの清潔に拘る男である。こんな状況に耐えられる訳が無い。
 「凪!すぐに浴場へご案内してあげて。私は華琳様へご報告に上がるわ。沙和は仲達様を逮捕した兵士達が慌てないように落ち着かせて」
 役割を果たす為にかけ去る2人。そんな中、凪が客用の浴場へと連れて行く。
 本来は決まった時間でなければ利用できないが、今回は幾らなんでも例外である。
 「仲達様、服の替えを持ってきておきますので先に」
 凍りつく凪。2人がいるのは更衣室なのだが、余程耐え切れなかったのか、既に上半身裸状態の仲達がいたからである。
 「この籠と手拭いを借りるぞ」
 首に手拭いをかけ、そのまま両手を腰へと持っていき―同時に走り去る凪。奇声を上げながら走り去るその姿は、間違いなく子供が見たら指を指す類の物である。
 「何だ?まあいい、とにかく入るか」
 幸い、一刀の提案で作られた石鹸が常備されていた為、仲達は無事に悪臭を取り終える事が出来たそうである。

 「報告は聞いたわ。それにしても似合わないわねえ」
 仲達は現在、服を城の侍女が洗濯中の為、いつもの黒装束ではない。一応、替えはあるのだが、勝手に持ち主の服を部屋に入って引っ張り出す訳にもいかず、急遽町で適当な衣服を調達してきたのである。
 ただ人選に問題があった。
 対袁紹戦の為に討論していた軍師陣。その1人である風が気分転換に買いに行ってくると主張。それに穏も同調し、2人の覇王が自慢する軍師2人の競演となったのである。
 結果、買ってきた物は風と穏がそれぞれ纏っている服に酷似した装束であった。
 そんな物を着せようとする2人のセンスに対して、仲達は怒る素振りも見せず、風が選んだ服を纏ったのである。
 パステルカラーのような、薄い水色の服。それもペロペロキャンディー付きで。
 「私に似合わないのは百も承知している」
 「いや、最高だわ仲達!アンタこれからその恰好で登城しなさい!」
 「断固として拒否する。強制するなら寝所に侵入して寝首を掻いてやるぞ」
 若干、申し訳ない雰囲気の華琳の前で、豪快に笑っているのは雪蓮。周囲は程度の差こそあれ、笑いを堪えるのに必死である。
 服はまだいい。ただキャンディーがとてつもない爆発力を誇っているだけである。
 「それにしても酷いです、仲達さん。折角、私がお揃いの服を買ってきたのに」
 「さすがにミニスカートは遠慮させて貰う。程昱殿の選んだ服は、まだ裾が長いだけマシだからな」
 「だからと言って、それを平気で着てしまうアンタが凄すぎるよ」
 「何だ、御使い殿。遠慮することは無い。貴殿も伯言殿が選んだ服を着れば良いのだ。魏の重臣諸君、いまこそ曹孟徳の名の下に、その智と力を結集させるべきだと愚考するのだがね。曹操陣営と孫策陣営の友好を深める為に。その為の贄には私と御使い殿がなろうではないか」
 最悪の自爆戦術に、脱兎の如く逃げ出す一刀。その後を穏から服を奪った三羽烏が追いかけ、更に流琉と季衣が、最後に役萬3姉妹が続く。彼女達が走り去った後には、鼻血を噴く天才軍師と、首筋をトントン叩く元凶その一が残されていた。
 「他人事だと思っているからつけこまれるのだ」
 「だからそんな恰好で皮肉を言わないで頂戴よ!」
 「では伯符殿。詫び代わりに少しだけだが目に癒しを」
 「止めんか2人とも」
 ワザとらしく裾を捲ろうとする仲達に対して、さすがに止めに入る冥琳。だが周囲の反応は様々である。
 顔を真っ赤に染めている猫耳軍師。わざとらしく咳払いしつつ、横目にチラ見しているクールな美女。隣に立つ隻眼の美女は『出来ればあれを華琳様に着せて』と危ない事を口にしている。
 「やれやれ。これでも幼き頃には紅顔の美少年と言われた身。女装には自信があったのだが。かの断金の御眼鏡には叶わなかったらしい」
 「やあねえ、冥琳ったら。少しは綺麗な者を見て、目を癒してあげないと」
 「違う!いい加減真面目にやれい!」
 困ったちゃん全開バージョンの親友へ、遂に落雷が落ちる。そんな苦労人冥琳の姿に、思わず同情する玉座の覇王。
 「仕方あるまい。ならば少し真面目に話をするとしようか。今後の戦略方針についてだが、当面の目的地が汜水関。その為の障害物として存在するのが顔良・文醜の両将軍であり、その拠点となっている許昌だ。私としてはこれらの軍を野戦で撃滅して許昌を掌握。後に汜水関を攻めるのが有効かと考える。人選は後に回すとして、覇王ご自慢の王佐の才のご意見を拝聴したいのだが」
 「そうね。大筋はそれで問題ないわ。ただ野戦の勝負となると、許昌と宛の間は平野だから障害物も無く、動員できる兵士の数が少ない我々に不利な勝負となる。この点はどのように対応をするつもりなのか、私も存念が聞きたいわね」
 「それについてだが、1つ奇策を考えてみた。幸い、2つの陣営の智謀と呼ぶべき者達が勢揃いしている。我が策の粗探しをお願いしたい」
 そう前置きした上で、語られる仲達の策。問題となるのは、本当に実行可能かどうかという点であった。
 「それについては問題ない。罠と言っても複雑な物では無い。更に、今回の様な騎馬を主力とする袁紹軍だからこそ有効な罠だ。罠の設置も4半刻とはいらんしな」
 「だが戦場で睨みあってからでは遅いだろう」
 「ならば釣ってやればよい。幸い、有力な人選に心当たりがあるのでな。夏侯妙才殿ならば、我が策成就の為の囮役としては十分だ。許昌に運ばれる食料。それに奇襲を仕掛けて食料を奪いつつ、敵の目を引くにはな」
 「でしたら風は、山賊のフリをさせるべきだと思うのです。黄色い布を巻かせて、黄巾賊の残党のフリをさせるのですよ。そうすれば顔良か文醜のどちらかが討伐に向けられる筈。出来れば袁家の良心というべき顔良を釣りたい所ですね」
 「領地内に賊が出没して、食糧を奪われた。体面を守る為にも、袁紹軍は軍を割かざるを得ませんね。それに、例え袁紹が皇帝命令で止めたとしても、顔良ならば出て来るでしょう。文醜ならば唯唯諾諾と従うでしょうが、顔良は袁紹よりも視野が広く判断もまともだ。ここで見逃したら、また食料を狙われるだけ、と言う判断も出来る筈です」
 「どちらにしろ、2人の内、どちらかは罠に飛び込む、と言う訳だな」
 「でしたら、仲達殿の罠を更に推し進めて欲張ってみる事を提案します。まず夏侯淵将軍が賊のフリをして敵を釣ります。この際、将軍は全軍騎馬隊で出撃するのです。そうなれば、敵も『賊を逃がすな!』と騎馬隊中心で出撃するでしょう。そのまま仲達殿の騎馬殺しの罠へ誘導して殲滅。その際、わざと攻撃の手を緩めて逃亡兵を許昌へ逃がします。当然、留守を預かる将軍は救出の為に軍を動かすでしょう。そこに至るまでの時間を利用して再準備を行い、その後に両陣営の総力をもって包囲殲滅を図るのです」
 「良い案だと思います。出来れば地の利を味方につけたい所ですね。崖に挟まれた狭隘な場所があれば文句無しですが」
 「そうだな。高い所から一方的に矢で射つつ、1つだけ逃げ道を用意しておく事を進める。そうなれば敵は抵抗よりも逃走を選ぶ。そこを背後から攻め立てれば、こちらの被害も軽度で済ませる事が可能だ」
 大陸でも10指に入る軍師。その内6名による合同殲滅作戦が練り上げられていく。
 「あーあ。顔良や文醜、死ななけりゃ良いけど。孟徳、貴女本当にあのまま進めさせちゃって良い訳?」
 「それで死ぬならその程度という事よ。覇王の配下としては、器が足りなかった、ただそれだけね」



To be continued...
(2015.02.07 初版)


(あとがき)

 紫雲です。今回もお読み下さり、ありがとうございます。
 今回から曹魏のメンバーが合流し、曹孫連合軍という舞台で話が進む事になります。相手は袁紹軍な訳ですが・・・どう考えても人材面に問題がw考えてみると、袁紹軍ってどうしてあんなに部下が少ないのか不思議で仕方ないです(特に光栄三国志遊んでると、つくづく思いますw)
 あと曹操軍のメンバーの能力値については次回に回します。理由は、リアルが忙しくて時間が足りないから。職場はインフルエンザで回転ストップ寸前wwwもっとも一番問題なのは、元凶である社長。インフルエンザで出勤すんな、迷惑だwww
 話は変わって次回です。
 次回は曹孫連合軍VS袁紹軍の第1ラウンドになります。許昌から出撃してきた猪々子を、囮役を務める秋蘭と迎撃役を務める仲達達が待ち受ける事に。軍師陣の編み出した策通りに事態は推移していくのだが・・・そんな感じの話になります。
 それでは、また次回も宜しくお願い致します。



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